(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】キャップ及び容器
(51)【国際特許分類】
B65D 47/06 20060101AFI20231204BHJP
B65D 43/02 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
B65D47/06 400
B65D43/02 200
(21)【出願番号】P 2021063274
(22)【出願日】2021-04-02
(62)【分割の表示】P 2016231734の分割
【原出願日】2016-11-29
【審査請求日】2021-04-02
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000223193
【氏名又は名称】東罐興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松永 翔太
(72)【発明者】
【氏名】外室 乃樹
【合議体】
【審判長】井上 茂夫
【審判官】西堀 宏之
【審判官】藤井 眞吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-62779(JP,A)
【文献】特開昭57-133854(JP,A)
【文献】米国特許第5467896(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D47/06, B65D43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塑性流体を内容物とする容器の開口部に装着されるキャップ本体と、
前記キャップ本体に形成され、内部に、前記開口部から注出された前記内容物をそれぞれ案内し合流させて吐出させる、断面積の異なる2つの独立した流路を有する注出部と、
前記キャップ本体の前記注出部の形成面の端部に設けられたヒンジ部を介して前記キャップ本体に開閉可能に連結されたカバーキャップと
を具備し、
前記2つの流路は、前記注出部の内部空間を2つに仕切る前記突出方向に平行な仕切り板によって形成され、前記注出部の内部の前記ヒンジ部側に設けられ第1の断面積を有する第1の流路と、前記注出部の内部の前記ヒンジ部とは反対側に設けられ前記第1の断面積よりも大きい第2の断面積を有する第2の流路からなり、
前記第1の流路及び前記第2の流路は、前記内容物の吐出時において、前記第1の流路が上側、前記第2の流路が下側とな
り、合流した前記内容物に上向きの力を発生させるように形成される
キャップ。
【請求項2】
塑性流体を内容物として充填可能な容器本体と、
前記容器本体の端面に形成され、内部に、前記容器本体から注出された前記内容物をそれぞれ案内し合流させて吐出させる、断面積の異なる2つの独立した流路を有する注出部と、
前記注出部の形成面の端部に設けられたヒンジ部を介して前記容器本体に開閉可能に連結されたカバーキャップと
を具備し、
前記2つの流路は、前記注出部の内部空間を2つに仕切る前記突出方向に平行な仕切り板によって形成され、前記注出部の内部の前記ヒンジ部側に設けられ第1の断面積を有する第1の流路と、前記注出部の内部の前記ヒンジ部とは反対側に設けられ前記第1の断面積よりも大きい第2の断面積を有する第2の流路からなり、
前記第1の流路及び前記第2の流路は、前記内容物の吐出時において、前記第1の流路が上側、前記第2の流路が下側とな
り、合流した前記内容物に上向きの力を発生させるように形成される
容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばマヨネーズ等の塑性流体を内容物とする容器に装着される、ノズルを有するキャップ、及び上記キャップまたはノズルを有する容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、マヨネーズ等の塑性流体を内容物とする容器に装着されるキャップとして、キャップに突出形成されたノズルを有するものが知られている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、ノズルの先端部の構造を、ノズル吐出口の流路の先端に先端延長部を設け、例えば万年筆のペン先のように、ノズル壁内面の周方向の一部分を先細状にして先方に延長させることによって、液体内容物の吐出時にノズル吐出口付近に付着する残留液のうち表面張力によって上の壁内面に付着する分を下の壁内面に付着する分よりも多くし、下の壁内面から下に滴下する分を少なくして、液だれの発生を防止することを意図したサックバックノズルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術を用いても、マヨネーズ等の粘度が高い粘稠な流体を横向きに吐出した場合には、ノズル口やのノズルの上側部分または下側部分にマヨネーズの残留液が付着してしまう。
【0006】
また、上記特許文献1に記載の技術のようにノズルの先端角度が大きくなると、ノズルの高さ及び蓋ノズルの高さ、並びに蓋の高さが大きくなってしまい、単位重量が増加することで、コストがアップしてしまう。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、容器の内容物である塑性流体の吐出時における注出部への付着を、コストアップを最小限に抑えながら防止することが可能なキャップ及びキャップ付容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るキャップは、キャップ本体と注出部とを有する。上記キャップ本体は、塑性流体を内容物とする容器の開口部に装着される。上記注出口は、上記キャップ本体に形成され、内部に、上記内容物をそれぞれ案内し合流させて吐出させる、断面積の異なる少なくとも2つの流路を有する。
【0009】
この構成により、注出部の内部に断面積の異なる少なくとも2つの流路を有することで、各流路内における流体が合流して吐出されるときに流速差が発生するため、当該流速差によって、速く流れが遅い流れにつられる力が発生し、注出部の先端部で流体が巻き込まれる力が抑制される。これにより、容器の内容物である塑性流体の吐出時における注出部への付着を防止することができる。また上記構成によれば、注出部の内部に複数の流路を設けるだけで、注出部の高さを過剰に大きく設計する必要がないため、コストアップを最小限に抑えることもできる。ここで、注出部は、典型的にはキャップ本体から突出形成されたノズル(筒状体)であるが、ノズルに限られず、キャップ本体には吐出口のみ露出し、キャップ本体の内部に上記各流路を有するものであってもよい。また、上記流路は、注出部内の下端から上端に亘って設けられる必要は無く、少なくとも吐出方向において注出部内の一部に設けられていればよい。また、塑性流体とは、例えばマヨネーズ、ケチャップ、マーガリン、練り歯磨き、シャンプー、リンス、塗料等であるが、これらに限られない。
【0010】
上記2つの流路の断面積比は1:2以上であってもよい。
【0011】
これにより、各流路における流体に1:2以上の流速差が発生することで、内容物の吐出時における注出部への付着をより防止することができる。
【0012】
上記注出部は、上記キャップ本体に突出形成されていてもよい。この場合、上記注出部の、上記内容物が吐出される吐出口は、上記突出方向に垂直な面に対して0°~25°傾斜した吐出面を有してもよい。
【0013】
これにより、注出部の開口端部の吐出面を傾斜させながらも、その傾斜角を25°以下とすることで、コストアップを最小限に抑えながら、吐出時の各流路の流速差を発生させることで、吐出時に注出部の下側に付着するのをより防止することができる。
【0014】
上記2つの流路は、上記注出部の内部空間を仕切る上記突出方向に平行な仕切り板によって形成されてもよい。
【0015】
これにより、単に注出部内部に仕切り板を設けるだけで、注出部内部を2分割して2つの流路を形成することができる。ここで、仕切り板は、注出部内部を完全に2つの空間に分割する必要は無く、流路が2つに仕切られていない部分(例えば仕切り板に形成されたスリット部)が存在していてもよい。
【0016】
上記キャップは、上記キャップ本体の上記注出部の形成面の端部に設けられたヒンジ部を介して上記キャップ本体に開閉可能に連結されたカバーキャップをさらに有してもよい。この場合上記2つの流路は、上記ノズルの内部の上記ヒンジ部側に設けられ第1の断面積を有する第1の流路と、上記ノズルの内部の上記ヒンジ部とは反対側に設けられ上記第1の断面積よりも大きい第2の断面積を有する第2の流路からなってもよい。
【0017】
これにより、ユーザは、カバーキャップを開けてヒンジ部を上にした状態で内容物を吐出するのが通常と考えられるところ、その状態において、断面積が小さい方の流路が上側になるように2つの流路を形成することで、上側の流路の速度が遅くなり、吐出時に内容物が上側につられる力が発生するため、内容物が重力により注出部の下側に巻き込まれる力によって付着してしまうのを、より防止することができる。
【0018】
本発明の他の形態に係る容器は、容器本体と注出部とを有する。上記容器本体は、塑性流体を内容物として充填可能である。上記注出部は、上記容器本体の端面に形成され、内部に、上記容器本体から注出された上記内容物をそれぞれ案内し合流させて吐出させる、断面積の異なる少なくとも2つの流路を有する。
【0019】
これにより容器は、その端面に(一体的に)形成された注出部の内部に、断面積の異なる少なくとも2つの流路を有することで、各流路内における流体が合流して吐出されるときに流速差が発生するため、当該流速差によって、速い流れが遅い流れにつられる力が発生し、注出部の先端部で流体が巻き込まれる力が抑制される。これにより、容器の内容物である塑性流体の吐出時における注出部への付着を防止することができる。また上記構成によれば、注出部の内部に複数の流路を設けるだけで、注出部の高さを過剰に大きく設計する必要がないため、コストアップを最小限に抑えることもできる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、容器の内容物である塑性流体の吐出時における注出部への付着を、コストアップを最小限に抑えながら防止することができる。しかし、当該効果は本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る容器の正面視方向の断面図である。
【
図2】
図1に示した容器のうちキャップの詳細を従来のキャップと比較して示した断面図である。
【
図4】従来のキャップのノズルにおいてマヨネーズ等の粘稠流体がノズル先端に付着してしまう原因を説明するための図である。
【
図5】従来のキャップのノズルにおいてマヨネーズ等の粘稠流体がノズル先端に付着してしまう原因を説明するための図である。
【
図6】断面が円形でない管路の流速を算出するための概念を説明した図である。
【
図7】断面が円形でない管路の流速を算出するための概念を説明した図である。
【
図8】断面が円形でない管路の流速を算出するための概念を説明した図である。
【
図9】本発明の実施形態に係るキャップのノズルが有する2つの流路間の流速差の計算結果を示した図である。
【
図10】本発明の実施形態に係るキャップのノズルが有する2つの流路を通るマヨネーズの挙動を説明するための図である。
【
図11】
図10で示したマヨネーズの挙動の原理を説明するための図である。
【
図12】本発明の実施形態に係るマヨネーズ容器のノズルについて行った押出試験における3段階の押込速度について説明した図である。
【
図13】上記押出試験中のマヨネーズの挙動を示した図である。
【
図15】従来のノズルにおいて内容物が付着する様子を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0023】
[容器の概要]
図1は、本発明の一実施形態に係る容器の正面視方向の断面図である。また
図2は、
図1に示したマヨネーズ容器のうちキャップの詳細(
図2A)を従来のキャップ(
図2B)と比較して示した断面図である。また
図3は、
図2Aに示したキャップの略式平面図である。
【0024】
図1に示すように、本実施形態に係る容器100は、ボトル状の容器本体20と、容器本体20に装着されたキャップ10とを有する。
【0025】
容器本体20は、その内部に、例えば粘稠な内容物(塑性流体;図示せず)が収容されるものである。塑性流体とは、例えばマヨネーズ、ケチャップ、マーガリン、練り歯磨き、シャンプー、リンス、塗料等であるが、これらに限られない。本実施形態では、内容物はマヨネーズとする。
【0026】
容器本体20は、上部に筒状の首部21を有しており、当該首部21の下方には、外側に湾曲した肩部22を有し、肩部22はその下方で胴部23に連なり、胴部23の下端は底部24で閉じられている。
【0027】
図1に示すように、首部21の上端は開放されており、この首部21を通ってマヨネーズが注出される。
【0028】
首部21の外周面には、キャップ10を螺子締結するための螺条21bが形成されており、当該螺条21bとキャップ10の内面に形成された螺条1aとが係合し、キャップ10の内側天面とボトル天面とが係合することで、キャップ10が容器本体20に固定される。
【0029】
キャップ10は、容器本体20の首部21に螺子固定されるキャップ本体1と、キャップ本体1にヒンジ部7を介して連結されたカバーキャップ3とから形成されている。
【0030】
キャップ本体1は、天板1bと筒状の側壁とからなり、側壁の内面には、前述した容器本体20の首部21の外面に設けられている螺条21bと螺子係合する螺条1aが形成されている。
【0031】
また、天板1bのほぼ中央部分には、ノズル2が突出形成されている。このノズル2は、容器100の内容物であるマヨネーズを注出する際の注出路となるものであり、中空であり、その内部は、マヨネーズが収容される容器本体20の内部空間に通じている。
【0032】
また、カバーキャップ3は、上記キャップ本体1の、上記ノズル2の形成面である天板1bの端部に設けられたヒンジ部7を介して、上記キャップ本体1に開閉可能に連結されている。
図1乃至
図3では、キャップ10が開いた状態が示されている。
【0033】
図1乃至
図3に示すように、カバーキャップ3は、閉じられた際に、キャップ本体1の上部を覆うような形状に形成されている。カバーキャップ3の天面には、上記ノズル2の上部を覆うことが可能なノズルカバー6が形成されており、カバーキャップ3は、閉じられた際に、キャップ本体1の全体を覆うとともに、ノズルカバー6によりノズル2を覆うことが可能となっている。
【0034】
[ノズルの構成詳細]
図2A及び
図3に示すように、ノズル2は、
図2Bに示した従来のキャップCにおけるノズルNと異なり、その内部に、ノズルの内部空間を仕切る、ノズル2の突出方向(各
図Y方向)に平行な仕切り板5を有する。
【0035】
ノズル2の内径は例えば4.0mmであり、仕切り板の厚さは、例えば0.5mmであるが、これらに限られない。また仕切り板5の各
図Y方向の長さは、例えば、ノズル2の吐出口から、ノズル2の形状が筒状から円錐状に変化する位置の近傍まで(例えば、2.5mm~3.5mm程度)とされるが、これに限られない。
【0036】
当該仕切り板5は、各
図X方向において、ノズル2の中心からずれた位置に設けられており、これにより、ノズル2の内部には、断面半月状の断面積の異なる2つの流路(第1流路11及び第2流路12)が形成される。
【0037】
当該第1流路11及び第2流路12は、容器本体20の首部21(開口部21a)から注出された内容物であるマヨネーズをそれぞれ案内し、吐出口4において合流させて吐出させる。
【0038】
この2つの流路において、第1流路11は、ノズル2内部のヒンジ部7側に設けられており、第2流路は、ノズル2内部のヒンジ部7とは反対側に設けられており、第1流路11の断面積は第2流路12の断面積よりも小さい。第1流路11と第2流路12の断面積比は、好ましくは、1:2以上とされる。
【0039】
詳細は後述するが、本実施形態においては、ノズル2は、上記第1流路11及び第2流路12の断面積の違いにより、各流路を流れるマヨネーズが合流して吐出されるときに流速差を発生させ、それによりマヨネーズが吐出時にノズル2の先端に付着(残留)してしまうのを防止している。
【0040】
また、上記ノズル2の吐出口4は、
図2に示すように、ノズル2の突出方向(Y方向)に垂直な面(X平面)に対して、第1流路11側が第2流路12側よりも突出するように傾斜していてもよい。この傾斜角度θは、例えば20°とされるが、これに限られず、後述するように、例えば0°~25°のいずれの角度にも設定可能である。
【0041】
[従来技術の問題点]
ここで、従来のマヨネーズ等の粘稠流体を内容物とする容器のキャップのノズルにおいて、吐出時にノズル先端部に内容物が付着(残留)してしまう原因について説明する。
図4,
図5及び
図15は、当該原因について説明するための図である。
【0042】
図4に示すように、上記原因の1つとして、重力及びノズル2表面に対する内容物のぬれ性が高い(ぬれやすい)ことにより、吐出口Oからの吐出時に、同図黒矢印で示すように、内容物MがノズルNの先端部に巻き込もうとすることが挙げられる。
【0043】
すなわち、同図に示すように、ノズルNの下側において、内容物Mのぬれ性により、吐出口O近傍に内容物Mが付着し、重力に押されてさらに吐出口O近傍に付着していくことで、吐出口Oに巻き込むような付着現象(巻き込み現象)が発生しやすくなる。
【0044】
また、もう1つの原因として、マヨネーズのような粘稠流体は塑性流体であり、外力を加えない限り流動しないため、内容物の吐出後の液切れ時の形状で残るという特徴が挙げられる。
【0045】
すなわち、
図5Aに示すように、内容物Mは押出時に、自重によって、吐出口Oの近傍で垂れている途中で液切れする。
【0046】
続いて、
図5Bに示すように、内容物Mは、塑性流体のため、ノズルNの吐出口Oの近傍に液切れしたままの状態で残り、後から押し出された内容物Mによって押し出される。
【0047】
そして、
図5Cに示すように内容物Mは、その後から押し出された内容物Mによってさらに押し出され、自重によって垂れて、液切れしたままの形状で吐出口Oに接近する。
【0048】
また、
図15Aは、吐出口Oの傾斜角度が20°、
図15Bは当該傾斜角度が40°である従来のノズルNにおける内容物Mの吐出状態をそれぞれ示している。同
図AのノズルNにおいては吐出口Oの下側において内容物Mの上記巻き込み現象が発生していることが分かる。また、同
図Bのような傾斜角度が大きいノズルNにおいては、内容物Mが低温で、かつ吐出速度が速い等の条件下では、上記重力の影響が相対的に低くなり、傾斜した吐出口Oの先端にあたる、吐出口Oの上側において内容物Mの巻き込み現象が発生していることが分かる。
【0049】
以上が、従来のノズルにおける内容物の付着原因と考えられる。
【0050】
そこで、本実施形態では、上述のように、ノズル2の内部を断面積の異なる第1流路11及び第2流路12に分割し、両流路間で流速差を発生させることで、上記内容物の吐出時におけるノズル2への付着を防止している。
【0051】
[ノズルの第1流路及び第2流路の流速]
ここで、上記第1流路11及び第2流路12における内容物の流速について説明する。
図6~
図8は、第1流路11及び第2流路12の流速を算出するための概念を示した図である。
【0052】
上述のように、第1流路11及び第2流路12は、いずれも断面が半月状であり、円管ではない。このように断面が円形でない管路は、
図6に示すように、流路の等価直径を求めることにより円管と同様に扱うことができる。
【0053】
すなわち、半月状のように断面が円形でない管路のぬれ縁長さをL、断面積をSとすると、その等価直径Deは、De=4×S/Lと表すことができる。
【0054】
そこで、本発明者等は、本実施形態における第1流路11及び第2流路12を、
図7に示すように、2つの円管11'及び12'とみなして、両流路の流速差を計算した。
【0055】
ここで、流速は、以下に示す通り、流量を管断面積で除した値であり、流量が同じであれば、管径の2乗に反比例する。
V=Q/(πx2/4)(ここで、Vは流速、Qは流量、xは管径、πx2/4は断面積を示す。)
【0056】
そして、管の流量は、管径の4乗に比例する(ハーゲン・ポアズイユの法則により)。したがって、管の分岐での流量は、管径比の4乗倍に比例すると言える。
【0057】
そうすると、2つの流路のうち小径の流路の管径をa、大径の流路の管径をbとすると、
図8Aに示すように、例えばb=2aの場合、大径の流路の流量Q
bは、小径の流路の流量Q
aの16倍となる。
【0058】
そして、
図8Bに示すように、両流路の管径比をnとし、上記流量比を基に流速比を計算すると、大径の流路の流速Vbと、小径の流路の流速Vaとの流速比は、管径比nの2乗倍に比例することが分かる。
【0059】
また、
図8Cに示すように、
図8Bにおける断面積の比を計算すると、大径の流路の断面積と、小径の流路の断面積との断面積比は、流速比と同様に管径比nの2乗倍に比例することが分かり、2つの流路における断面積比は、2つの流路における流速比と置き換えることができる。(Rは管断面積を示す。)
【0060】
図9は、上記算出した流速比の関係を基に、ノズル2において、第1流路11及び第2流路12の断面積比(ノズル2の中心から仕切り板5の中心までの距離)を変更して、両流路の流速差を計算した結果を示した図である。仕切り板5はノズル2の中心から第1流路11側へ移動させている。
【0061】
同図において、「上側」と示されているのが第1流路11に相当し、「下側」と示されているのが第2流路12に相当する。
【0062】
同図に示すように、計算上、両流路の断面積比が大きくなるのに応じて、両流路の速度比も大きくなると言える。
【0063】
[ノズルの内容物付着防止効果]
以上の議論を前提に、本実施形態に係る容器100のノズル2における、内容物Mの付着防止効果について説明する。
図10は、本実施形態に係るキャップ10のノズル2が有する2つの流路を通るマヨネーズの挙動を説明するための図である。また
図11は、
図10で示したマヨネーズの挙動の原理を説明するための図である。
【0064】
図10に示すように、ノズル2内が、仕切り板5によって、断面積の異なる第1流路11(断面積小)と第2流路12(断面積大)とに分割されていることにより、両流路におけるマヨネーズMの吐出時の流量及び流速は、第1流路11よりも第2流路12の方が大きくなる。
【0065】
これにより、ノズル2が同図の姿勢となるような状態(第1流路11が上側、第2流路12が下側)でマヨネーズMが吐出される場合、各流路から、第1吐出口11aと第2吐出口12aを介して吐出されたマヨネーズMが合流する際、上記流速差によって、第2吐出口12aにおける速い流れが、第1吐出口11aにおける遅い流れにつられて、上向きの力(同図矢印F1)が発生する。
【0066】
これにより、上記
図4で説明したような従来のノズルNの先端部における巻き込み現象(
図10の矢印F2)の発生が抑制され、マヨネーズMは、同図矢印F3で示すような、ノズル2の吐出口からより遠ざかった位置へ進む。
【0067】
ここで、上記上向きの力(矢印F1)についてより詳細に説明する。
【0068】
図11の上側の図で示すように、第1流路11及び第2流路12を流れるマヨネーズMの合流前には、その断面積の差によって、各流路において同図の矢印の長さで示す(短い矢印の方が流速が遅く、長い矢印の方が流速が速い)ような流速差が生じている。
【0069】
そして、同図の下側の図で示すように、第1流路11の第1吐出口11a及び第2流路12の第2吐出口12aから吐出されて両流路のマヨネーズMが合流する際には、第2吐出口12aから吐出されたマヨネーズMのうち、第1吐出口11aに近い上側部分の流れ(同
図M2)が、第1流路11の遅い流れにつられて流速が落ち、逆に第1吐出口11aから吐出荒れたマヨネーズMのうち、第2吐出口12aに近い下側の部分の流れ(同
図M1)は、第2流路12の速い流れにつられて流速が上がる。
【0070】
これにより全体としては、第1吐出口11a側程、マヨネーズMの流速は遅くなり、その結果、上述した上向きの力F1が発生すると考えられる。これは、上述したように、マヨネーズMのような粘性流体は互いの影響を受けやすく、つられやすいためであると考えられる。
【0071】
このように、第1流路11と第2流路12の断面積を異ならせることによって、両流路の流速差によって、各流路からマヨネーズMが吐出されて合流した際に上記上向きの力を発生させ、マヨネーズMが各吐出口近傍に巻き込まれるように付着してしまう現象が発生するのを防止することができる。
【0072】
[付着防止効果の検証試験]
本発明者等は、以上説明したノズル2の付着防止効果について検証するための試験を実施した。
【0073】
当該試験においては、ボトル100を90度傾けた状態で固定して上から押込み、押出(横出し)し、10秒間でのマヨネーズMの連続押出時の巻込み状態を確認した。
【0074】
この場合のマヨネーズMの吐出量は、ユーザの使用時の個人差を考慮して、下記3段階で行った。
・低速… 1.02g/10sec (マヨネーズを少し付けるとき)
・中速… 2.79g/10sec (マヨネーズを普通にかけるとき)
・高速… 6.90g/10sec (マヨネーズを大量にかけるとき)
【0075】
また、押出試験機としては、ストログラフを用い、以下の条件で試験を行った。
・押込速度:
‐低速( 1.0mm/min)
‐中速( 5.0mm/min)
‐高速(10.0mm/min)
・押込治具径:φ30mm
・マヨネーズ保存条件:23℃-50%(低速用)、5℃(高速用)
・試験環境温度:23℃-50%
【0076】
また、第1流路11と第2流路12の断面積比(各流路を等価直径の円管とみなした場合の断面積比))を、1:1、1:2、2:1、1:4の4パターンに変更し、ノズル2の吐出口4の傾斜角度を、0°、5°、10°、20°、25°、30°に変更した12の実施例にて試験を実施した。さらに、比較例として、従来のノズル(2つの流路を有さない)について、吐出口Oの傾斜角度を0°、20°、30°、40°に変更して試験も行った。
【0077】
図12は、上記押出試験における3段階の押込速度によるマヨネーズMの吐出状態の違いについて説明した図である。
【0078】
同
図Aが低速(1.02g/10sec)吐出時、同
図Bが中速(2.79g/10sec)吐出時、同
図Cが高速(6.90g/10sec)吐出時における吐出状態を示す。
【0079】
また
図13は、上記押出試験中のマヨネーズMの挙動を、側面方向から示した図である。同
図Aが23℃で保存したマヨネーズMを低速(1.02g/10sec;1.0mm/min)で吐出した状態、同
図Mが5℃で保存したマヨネーズMを高速(6.90g/10sec;10.0mm/min)で吐出した状態をそれぞれ示す。
【0080】
【0081】
同図に示すように、第1流路11と第2流路12の断面積比を1:2または1:4とし、ノズル2の吐出口4の傾斜角度を0°~25°とした実施例1、2、3、4、5、8、9、10においては、ノズル2の第1流路11の吐出口11aの上側においても第2流路12の吐出口12aの下側においても、上述の巻き込み現象の発生を抑制することができた。
【0082】
一方、第1流路11と第2流路12の断面積比を1:1または2:1とし、吐出口4の傾斜角度を20°とした場合(実施例6・7)には、第2吐出口12aの下側において巻き込み現象が発生した。また、吐出口4の傾斜角度を30°として、第1流路11と第2流路12の断面積比を2:1とした場合(実施例11)には第2吐出口12aの下側において巻き込み現象が発生し、両流路の断面積比を1:2とした場合(実施例12)には第1吐出口11aの上側において巻き込み現象が発生した。さらに、従来のノズルを用いた比較例においては、吐出口Oの傾斜角度を30°とした場合のみ、吐出口の上側においても下側においても良好な結果が得られた。
【0083】
以上の結果から、第1流路11と第2流路12の断面積比を1:2以上とし、吐出口4の傾斜角度を0°~25°とすることで、ノズル2の上側においても下側においても上記巻き込み現象の発生が抑えられることが実証された。
【0084】
また、本実施形態では吐出口4の傾斜角度を、コストアップを伴う30°まで大きくしてしまうと、両流路の断面積比を異ならせても良好な結果は得られず、従来のノズル2においては、吐出口Oの傾斜角度を、コストアップを伴う30°まで大きくしないと上記巻き込み現象の発生を抑えることができないことも確認された。
【0085】
[まとめ]
以上説明したように、本実施形態によれば、容器100のキャップ10が、ノズル2の内部に断面積の異なる2つの流路を有することで、各流路内における内容物である塑性流体(マヨネーズ)が合流して吐出されるときに流速差が発生するため、当該流速差によって、速い流れが遅い流れにつられる力が発生し、ノズルの先端部で流体が巻き込まれる力が抑制される。これにより、容器100の内容物である塑性流体の吐出時におけるノズル2の先端への付着を防止することができる。また、ノズル2の内部に2つの流路を設けるだけで、ノズル2の高さ(吐出口4の傾斜角度による)を過剰に大きく設計する必要がないため、コストアップを最小限に抑えることもできる。また、ノズル2の吐出口4の傾斜角度を0°~25°に設定することで、低温・高速で吐出した時に起こるノズル2の上側への付着も抑制することができる。
【0086】
また、ユーザは、カバーキャップ3を開けてヒンジ部7を上にした状態で内容物を吐出するのが通常と考えられるところ、その状態において、断面積が小さい方の第1流路11が上側になるように2つの流路を形成することで、上側の第1流路11の速度が遅くなり、第2流路12から吐出された内容物が上側につられる力が発生するため、内容物が重力によりノズル2の下側に巻き込まれる力によって付着してしまうのを、より防止することができる。
【0087】
また、ノズル2の突出方向(Y方向)に垂直な面(X平面)に対して、第1流路11側が第2流路12側よりも突出するように傾斜させ、その傾斜角度を0°~25°とすることで、ノズル及びカバーキャップの高さの増加に伴う単位重量の増加によるコストアップを最小限に抑えながら、吐出時に特にノズル2の下側における内容物の付着をより防止することができる。
【0088】
[変形例]
本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更され得る。
【0089】
上述の実施形態においては、容器100の内容物である塑性流体としてマヨネーズが示されたが、内容物たり得る塑性流体はこれに限られず、例えばケチャップ、マーガリン、練り歯磨き、シャンプー、リンス、塗料等であってもよい。
【0090】
上述の実施形態において、ノズル2内に設けられる流路の数は2つ(第1流路11及び第2流路12)の場合が示された。しかし、ノズル2内に設けられる流路の数は2つに限られず、3つ以上であってもよい。この場合、例えば仕切り板5が平行に複数枚設けられてもよいし、仕切り板5が断面格子状となるように垂直に組み合わされてもよい。またこの場合、各流路のうち少なくとも2つの流路の断面積が異なっていてもよいし、全ての流路の断面積が異なっていてもよく、また上側(ヒンジ部7に近い方)の流路ほど断面積が小さくなるように、各流路の断面積が段階的に設計されてもよい。
【0091】
また、各流路は、仕切り板5のような板状部材によって仕切られることで形成されるものでなくてもよく、例えば内容物の吐出方向に平行な複数の孔が射出成型等によって形成されてもよい。
【0092】
また、上述の実施形態において、ノズル2としては、円筒形状のものが示された。しかし、ノズル2は円筒形状でなくてもよく、角筒(四角筒、5角筒、6角筒、8角筒等)でもよい。その場合、ノズルの断面は正多角形であってもよいし、正多角形でなくてもよい。この場合、第1流路11及び第2流路12は、ノズル内部が上記仕切り板5のような少なくとも1つの板状部材によって仕切られることで形成されてもよいし、複数の孔が形成されることで形成されてもよい。したがって、この場合の第1流路11及び第2流路12の断面は、上記実施形態で示したような半月状ではなく多角形状になり得る。この場合も、2つの流路の断面積比は異なり、好ましくは1:2以上とされる。
【0093】
上述の実施形態において、各流路は、ノズル2の吐出方向における全長のうち、吐出口4を含む一部に設けられたが、ノズル2の吐出方向における全長に亘って設けられてもよい。
【0094】
また、上述の実施形態において、各流路は、仕切り板5によって、ノズル2の内部空間が断面方向において完全に2分割されることで形成されていたが、各流路は、完全に分離した複数の流路である必要は無く、異なる流路として機能し得る限り、一部に仕切られていない部分が存在していてもよい。例えば、上記仕切り板5の中心部分に、ノズル2の吐出方向と平行な溝(スリット)が形成され、上記仕切り板5が、ノズル2の内面から内側に突出する2枚の仕切り板として形成されてもよい。
【0095】
本発明者等は、上述の実施形態における仕切り板5に、0.5mm幅と1.0mm幅の2パターンの溝を形成してそれぞれ上記
図9で示した試験を行ったが、どちらの場合でも、その試験結果は、上記
図9で示した結果と差異は見られなかった。したがって、各流路が完全に仕切られていない場合でも、上述した巻き込み現象の防止という本発明の効果を得ることができ、また上記のように溝を形成した場合には、断面半月状の2つの金型ではなく、断面H状の1つの金型で2つの流路を形成することができることから、金型の強度も向上させることができるというメリットも得られる。
【0096】
上述の実施形態では、容器100の内容物の注出部として、キャップ10に突出形成されたノズル2が示されたが、注出部は、キャップ10に突出形成されていなくてもよい。すなわち、キャップ10の天板1bに吐出口4が形成され、当該吐出口4からキャップ10の内側にかけて上記第1流路11及び第2流路12(及び仕切り板5)が形成されていてもよい。
【0097】
上述の実施形態では、容器本体20と、ノズル2を有するキャップ10とに分離可能な容器100について説明した。しかし、容器本体の開口部にはキャップが設けられず、注出部が、容器本体の端面に一体的に形成されていてもよい。この場合、抽出部は、ノズルであってもよいし、容器本体の端面から突出せずに容器本体内部にかけて形成された流路であってもよい。またこの場合、ノズルにはカバーが設けられてもよいし、設けられなくてもよい。このような抽出部一体型の容器においても、抽出部内部に断面積の異なる複数の流路が形成されることで、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0098】
1…キャップ本体
1b…天板
2…ノズル
3…カバーキャップ
4…吐出口
5…仕切り板
6…ノズルカバー
7…ヒンジ部
10…キャップ
11…第1流路
11a…第1吐出口
12…第2流路
12a…第2吐出口
20…容器本体
21…首部
21a…開口部
100…容器
M…内容物(マヨネーズ)