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特許7395540電池の劣化判定方法、電池の劣化判定装置、電池の管理システム、電池搭載機器、及び、電池の劣化判定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】電池の劣化判定方法、電池の劣化判定装置、電池の管理システム、電池搭載機器、及び、電池の劣化判定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20231204BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20231204BHJP
   G01R 31/388 20190101ALI20231204BHJP
   G01R 31/3828 20190101ALI20231204BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20231204BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20231204BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20231204BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/389
G01R31/388
G01R31/3828
G01R31/367
H01M10/48 P
H01M10/42 P
H02J7/00 Q
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021092258
(22)【出願日】2021-06-01
(65)【公開番号】P2022184419
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】八木 亮介
(72)【発明者】
【氏名】金井 佑太
(72)【発明者】
【氏名】吉永 典裕
(72)【発明者】
【氏名】内古閑 修一
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-204149(JP,A)
【文献】国際公開第2015/045015(WO,A1)
【文献】特開2019-132655(JP,A)
【文献】特開2015-184146(JP,A)
【文献】国際公開第2013/105140(WO,A1)
【文献】特開2022-085385(JP,A)
【文献】特開2015-228325(JP,A)
【文献】特開2013-214372(JP,A)
【文献】特開2008-241246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/36-31/44、
31/32-31/36、
H02J 7/00-7/12、
7/34-7/36、
H01M 10/42-10/48、
4/00-4/62、
B60L 1/00-3/12、
7/00-13/00、
15/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
判定対象となる電池の劣化に関して判定する劣化判定方法であって、
前記電池の正極及び負極の少なくとも一方である対象電極に関して、第1の電流での前記電池の充電時における前記対象電極の電位と前記第1の電流より大きい第2の電流での前記電池の充電時における前記対象電極の電位との差、及び、前記第2の電流での前記充電時における前記対象電極のインピーダンスに基づいて、前記第1の電流での前記充電時における前記対象電極でのリチウムの濃度分布と前記第2の電流での前記充電時における前記対象電極でのリチウムの濃度分布との差を補正する補正係数を推定することを含む、劣化判定方法。
【請求項2】
前記補正係数の推定において、
前記第2の電流と前記第1の電流との差分値に前記第2の電流での前記充電時における前記対象電極の前記インピーダンスを乗算した乗算値を算出し、
算出した前記乗算値を前記第1の電流での前記充電時に対する前記第2の電流での前記充電時における前記対象電極での過電圧として、前記第2の電流での前記充電時における前記対象電極の電位である第1の電位から前記過電圧の要素を取除いた第2の電位を算出し、
前記第1の電流での前記充電時における充電量に対する前記対象電極の電位の関係を示す電位曲線において、前記第1の電位と前記充電量が同一となる電位を第3の電位として算出し、
前記第2の電位と前記第3の電位との差、及び、前記第1の電流での前記充電時における前記対象電極の電位に対する前記対象電極での前記リチウムの濃度の関係に基づいて、前記補正係数を算出する、
請求項1に記載の劣化判定方法。
【請求項3】
前記対象電極として前記電池の前記正極に関して前記補正係数を算出する場合は、下記式(A-1)によって、前記第1の電位から前記第2の電位を算出し、
前記対象電極として前記電池の前記負極に関して前記補正係数を算出する場合は、下記式(A-2)によって、前記第1の電位から前記第2の電位を算出する、
請求項2に記載の劣化判定方法。
【数1】
ここで、V2は、前記正極の前記第1の電位を表す。R2は、前記第2の電流での前記充電時における前記正極の前記インピーダンスを表す。V2´は、前記正極の前記第2の電位を表す。V2は、前記負極の前記第1の電位を表す。Rは、前記第2の電流での前記充電時における前記負極の前記インピーダンスを表す。V2´は、前記負極の前記第2の電位を表す。I1は、第1の電流を表す。I2は、第2の電流を表す。
【請求項4】
前記第2の電流での前記充電時における前記対象電極の前記インピーダンス、及び、推定した前記補正係数に基づいて、前記電池の内部状態を推定することをさらに含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の劣化判定方法。
【請求項5】
前記電池の内部状態の前記推定において、
前記対象電極として前記電池の前記正極に関して前記補正係数を推定した場合は、前記第2の電流での前記充電時における前記正極の前記インピーダンス、前記正極についての前記補正係数、及び、下記式(B-1)を用いてフィッティング計算を行うことにより、前記正極について容量及び前記リチウムの濃度を算出し、
前記対象電極として前記電池の前記負極に関して前記補正係数を推定した場合は、前記第2の電流での前記充電時における前記負極の前記インピーダンス、前記負極についての前記補正係数、及び、下記式(B-2)を用いてフィッティング計算を行うことにより、前記負極について容量及び前記リチウムの濃度を算出する、
請求項4に記載の劣化判定方法。
【数2】
ここで、R2は、前記正極の前記インピーダンスを表す。wは、前記正極の前記容量を表す。Cは、前記正極での前記リチウムの前記濃度を表す。Cc,maxは、前記正極の満充電状態における前記正極での前記リチウムの前記濃度を表す。ΔCは、前記正極についての前記補正係数を表す。R2は、前記負極の前記インピーダンスを表す。wは、前記負極の前記容量を表す。Cは、前記負極での前記リチウムの前記濃度を表す。Ca,maxは、前記負極の満充電状態における前記負極での前記リチウムの前記濃度を表す。ΔCは、前記負極についての前記補正係数を表す。kは、バトラーフォルマー式に基づく定数を表す。
【請求項6】
前記第1の電流での前記充電時における前記対象電極のインピーダンスを用いたフィッティング計算によって前記電池の内部状態を推定することにより、前記第1の電流での前記充電時における充電量に対する前記対象電極の電位の関係を示す電位曲線を推定することと、
前記第1の電流での前記充電時における前記対象電極の前記電位曲線、及び、前記第2の電流での前記充電時における前記対象電極の前記インピーダンスに基づいて、前記第2の電流での充電時における前記対象電極の電位を推定することと、
をさらに含む、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の劣化判定方法。
【請求項7】
前記第1の電流での前記充電時において、第1の基準電流値を中心として周期的に電流値が変化する電流波形で、前記電池に電流を供給することと、
前記第2の電流での前記充電時において、前記第1の基準電流値より大きい第2の基準電流値を中心として周期的に電流値が変化する電流波形で、前記電池に電流を供給することと、
をさらに含む、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の劣化判定方法。
【請求項8】
判定対象となる電池の劣化に関して判定する劣化判定装置であって、
前記電池の正極及び負極の少なくとも一方である対象電極に関して、第1の電流での前記電池の充電時における前記対象電極の電位と前記第1の電流より大きい第2の電流での前記電池の充電時における前記対象電極の電位との差、及び、前記第2の電流での前記充電時における前記対象電極のインピーダンスに基づいて、前記第1の電流での前記充電時における前記対象電極でのリチウムの濃度分布と前記第2の電流での前記充電時における前記対象電極でのリチウムの濃度分布との差を補正する補正係数を推定するプロセッサを具備する、劣化判定装置。
【請求項9】
請求項8に記載の劣化判定装置と、
前記劣化判定装置によって前記劣化に関する判定が行われる前記電池と、
を具備する前記電池の管理システム。
【請求項10】
請求項8に記載の劣化判定装置と、
前記劣化判定装置によって前記劣化に関する判定が行われる前記電池と、
を具備する電池搭載機器。
【請求項11】
判定対象となる電池の劣化に関して判定する劣化判定プログラムであって、コンピュータに、
前記電池の正極及び負極の少なくとも一方である対象電極に関して、第1の電流での前記電池の充電時における前記対象電極の電位と前記第1の電流より大きい第2の電流での前記電池の充電時における前記対象電極の電位との差、及び、前記第2の電流での前記充電時における前記対象電極のインピーダンスに基づいて、前記第1の電流での前記充電時における前記対象電極でのリチウムの濃度分布と前記第2の電流での前記充電時における前記対象電極でのリチウムの濃度分布との差を補正する補正係数を推定させる、劣化判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電池の劣化判定方法、電池の劣化判定装置、電池の管理システム、電池搭載機器、及び、電池の劣化判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池等の電池について、電池の電流及び電圧等の計測値を含む計測データに基づいて、電池の内部状態を推定し、内部状態の推定結果等に基づいて、電池の劣化の判定を行っている。このような判定では、判定対象となる電池の内部状態の推定において、電池の正極活物質の容量である正極の容量、電池の負極活物質の容量である負極の容量、及び、電池のインピーダンス(内部抵抗)等を、電池の内部状態を示す内部状態パラメータとして推定する。そして、推定した電池の内部状態パラメータに基づいて、電池の劣化の度合い及び劣化速度等が判定される。
【0003】
二次電池等の電池では、比較的高い充電レートで電池が急速に充電されている状態において、電池の内部状態を推定することが求められている。例えば、高い充電レートの充電電流に交流を重畳させた電流波形で電流を電池に供給することにより、複数の周波数のそれぞれにおける電池のインピーダンスを計測可能となる。ただし、リチウムイオン二次電池等では、高い充電レートで急速に充電されると、正極及び負極の少なくとも一方において、リチウムイオンの拡散が充電における律速となる。このため、二次電池等の電池を急速に充電すると、正極及び負極の少なくとも一方においてリチウムの濃度が不均一になり、正極及び負極の少なくとも一方におけるリチウムの濃度分布が非定常的になる。電池の劣化の判定では、電池の急速な充電等によって正極及び負極の少なくとも一方でのリチウムの濃度が不均一な状態でも、リチウムの濃度が不均一になることに起因する影響を適切に補正し、電池の内部状態が推定可能になることが、求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-132655号公報
【文献】国際公開2017/047192号公報
【文献】特開2020-109367号公報
【文献】特開2012-251806号公報
【文献】特開2015-184146号公報
【文献】特開2015-190918号公報
【文献】特開2018-91716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、正極及び負極の少なくとも一方でのリチウムの濃度が不均一な状態でも、リチウムの濃度が不均一になることに起因する影響を適切に補正し、電池の内部状態を推定可能にする電池の劣化判定方法、電池の劣化判定装置、電池の管理システム、電池搭載機器、及び、電池の劣化判定プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態では、判定対象となる電池の劣化に関して判定する劣化判定方法が提供される。劣化判定方法では、電池の正極及び負極の少なくとも一方である対象電極に関して、第1の電流での電池の充電時における対象電極の電位と第1の電流より大きい第2の電流での電池の充電時における対象電極の電位との差、及び、第2の電流での充電時における対象電極のインピーダンスに基づいて、第1の電流での充電時における対象電極でのリチウムの濃度分布と第2の電流での充電時における対象電極でのリチウムの濃度分布との差を補正する補正係数を推定する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第1の実施形態に係る電池の管理システムを示す概略図である。
図2図2は、第1の実施形態に係る電池のインピーダンスの計測において電池に流す電流の一例を示す概略図である。
図3図3は、第1の実施形態に係る電池のインピーダンスの周波数特性、及び、電池の正極及び負極のそれぞれのインピーダンスの周波数特性の一例を示す概略図である。
図4図4は、電池の内部状態を示す内部状態パラメータについて説明する概略図である。
図5図5は、第1の実施形態において、第1の電流での充電時における正極でのリチウムの濃度分と第2の電流での充電時における正極でのリチウムの濃度分布との差を補正する補正係数、及び、第1の電流での充電時における負極でのリチウムの濃度分布と第2の電流での充電時における負極でのリチウムの濃度分布との差を補正する補正係数を推定する処理を説明する概略図である。
図6図6は、第1の実施形態に係る劣化判定装置によって行われる、第1の電流での充電時の処理を示すフローチャートである。
図7図7は、第1の実施形態に係る劣化判定装置によって行われる、第2の電流での充電時の処理を示すフローチャートである。
図8図8は、検証における3つの試験体のそれぞれについての1Cの充電時に対する容量維持率の算出結果を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
【0009】
(第1の実施形態)
まず、実施形態の一例として、第1の実施形態について説明する。図1は、第1の実施形態に係る電池の管理システムを示す概略図である。図1に示すように、管理システム1は、電池搭載機器2及び劣化判定装置3を備える。電池搭載機器2には、電池5、計測回路6及び電池管理部(BMU:battery management unit)7が搭載される。電池搭載機器2としては、電力系統用の大型蓄電装置、スマートフォン、車両、定置用電源装置、ロボット及びドローン等が挙げられ、電池搭載機器2となる車両としては、鉄道用車両、電気バス、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車及び電動バイク等が、挙げられる。
【0010】
電池5は、例えば、リチウムイオン二次電池等の二次電池である。電池5は、単セル(単電池)から形成されてもよく、複数の単セルを電気的に接続することにより形成される電池モジュール又はセルブロックであってもよい。電池5が複数の単セルから形成される場合、電池5において、複数の単セルが電気的に直列に接続されてもよく、複数の単セルが電気的に並列に接続されてもよい。また、電池5において、複数の単セルが直列に接続される直列接続構造、及び、複数の単セルが並列に接続される並列接続構造の両方が形成されてもよい。また、電池5は、複数の電池モジュールが電気的に接続される電池ストリング、電池アレイ及び蓄電池のいずれかであってもよい。
【0011】
計測回路6は、電池5を充電又は放電している状態等において、電池5に関連するパラメータを検出及び計測する。計測回路6では、1回の電池5の充電又は放電等において、所定のタイミングで定期的にパラメータの検出及び計測が行われる。すなわち、計測回路6は、1回の電池5の充電又は放電等において、複数の計測時点のそれぞれで電池5に関連するパラメータを計測し、電池5に関連するパラメータを、複数回計測する。電池5に関連するパラメータには、電池5を流れる電流、電池5の電圧、及び、電池5の温度等が含まれる。このため、計測回路6には、電流を計測する電流計、電圧を計測する電圧計、及び、温度を計測する温度センサ等が含まれる。
【0012】
電池管理部7は、電池5の充電及び放電を制御する等して、電池5を管理する処理装置(コンピュータ)を構成し、プロセッサ及び記憶媒体を備える。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、マイコン、FPGA(Field Programmable Gate Array)及びDSP(Digital Signal Processor)等のいずれかを含む。記憶媒体には、メモリ等の主記憶装置に加え、補助記憶装置が含まれ得る。記憶媒体としては、磁気ディスク、光ディスク(CD-ROM、CD-R、DVD等)、光磁気ディスク(MO等)、及び、半導体メモリ等が挙げられる。電池管理部7では、プロセッサ及び記憶媒体のそれぞれは、1つであってもよく、複数であってもよい。電池管理部7では、プロセッサは、記憶媒体等に記憶されるプログラム等を実行することにより、処理を行う。また、電池管理部7では、プロセッサによって実行されるプログラムは、インターネット等のネットワークを介して接続されたコンピュータ(サーバ)、又は、クラウド環境のサーバ等に格納されてもよい。この場合、プロセッサは、ネットワーク経由でプログラムをダウンロードする。
【0013】
劣化判定装置3は、電池5に関する情報に基づいて、電池5の劣化に関して判定する。このため、電池5は、劣化判定装置3による劣化の判定における判定対象となる。本実施形態では、劣化判定装置3は、電池搭載機器2の外部に設けられる。劣化判定装置3は、送受信部11、インピーダンス計測部12、内部状態推定部13、補正係数演算部15及びデータ記憶部16を備える。劣化判定装置3は、例えば、電池管理部7とネットワークを介して通信可能なサーバである。この場合、劣化判定装置3は、電池管理部7と同様に、プロセッサ及び記憶媒体を備える。そして、送受信部11、インピーダンス計測部12、内部状態推定部13及び補正係数演算部15は、劣化判定装置3のプロセッサ等によって行われる処理の一部を実施し、劣化判定装置3の記憶媒体が、データ記憶部16として機能する。
【0014】
なお、ある一例では、劣化判定装置3は、クラウド環境に構成されるクラウドサーバであてもよい。クラウド環境のインフラは、仮想CPU等の仮想プロセッサ及びクラウドメモリによって、構成される。このため、劣化判定装置3がクラウドサーバである場合、仮想プロセッサによって行われる処理の一部を、送受信部11、インピーダンス計測部12、内部状態推定部13及び補正係数演算部15が実施する。そして、クラウドメモリが、データ記憶部16として機能する。
【0015】
なお、データ記憶部16は、電池管理部7及び劣化判定装置3とは別のコンピュータに設けられてもよい。この場合、劣化判定装置3は、データ記憶部16等が設けられるコンピュータに、ネットワークを介して接続される。また、劣化判定装置3が、電池搭載機器2に搭載されてもよい。この場合、劣化判定装置3は、電池搭載機器2に搭載される処理装置等から構成される。また、劣化判定装置3が電池搭載機器2に搭載される場合、電池搭載機器2に搭載される1つの処理装置等が、後述する劣化判定装置3の処理を行うとともに、電池5の充電及び放電の制御等の電池管理部7の処理を行ってもよい。以下、劣化判定装置3の処理について説明する。
【0016】
送受信部11は、ネットワークを介して、劣化判定装置3以外の処理装置等と通信する。送受信部11は、例えば、電池5に関連する前述のパラメータの計測回路6での計測結果を含む計測データを、電池管理部7から受信する。計測データは、計測回路6での計測結果等に基づいて、電池管理部7等によって生成される。計測データは、複数の計測時点(複数回の計測)のそれぞれにおける電池5に関連するパラメータの計測値を含む。また、計測データは、電池5に関連するパラメータの時間変化(時間履歴)を含む。したがって、計測データには、電池5の電流の時間変化(時間履歴)、電池5の電圧の時間変化(時間履歴)、及び、電池5の温度の時間変化(時間履歴)等が含まれる。送受信部11は、受信した計測データを、データ記憶部16に書込む。
【0017】
電池管理部7及び劣化判定装置3のプロセッサの少なくとも一方は、電池5に関連するパラメータの計測回路6での計測結果等に基づいて、電池5の充電量及びSOC(state of charge)の少なくとも一方を推定してもよい。そして、劣化判定装置3は、電池5の充電量及びSOCいずれかの推定値、及び、電池5の充電量及びSOCのいずれかの推定値の時間変化(時間履歴)を、前述の計測データに含まれるデータとして、取得してもよい。また、計測データには、推定された電池5の充電量及びSOCのいずれかに対する計測された電池5に関連する前述のパラメータの関係を示すデータが、含まれてもよい。この場合、例えば、推定された電池5の充電量及びSOCのいずれかに対する計測された電池5の電圧の関係を示すデータが、計測データに含まれる。
【0018】
電池5のリアルタイムの充電量は、充電又は放電の開始時等の電池5の充電量、及び、電池5の電流の時間変化に基づいて、算出可能である。この場合、電流の時間変化に基づいて、充電又は放電の開始時からの電池5の電流の電流積算値が算出される。そして、充電又は放電の開始時等の電池5の充電量、及び、算出された電流積算値に基づいて、電池5の充電量が算出される。
【0019】
また、電池5のSOCは、例えば、電池5の電圧に基づいて、規定される。電池5では、電圧について、下限電圧Vmin及び上限電圧Vmaxが規定される。電池5の電圧に基づいて電池5のSOCを規定する場合は、正極及び負極等のそれぞれでのリチウムの濃度が定常的又は準定常的な状態での電池5の電圧変化に基づいて、電池5のSOCが規定される。ある一例では、正極及び負極等のそれぞれでのリチウムの濃度が定常的又は準定常的になる所定の充電条件での電池5の電圧変化に基づいて、電池5のSOCが規定される。この場合、前述の所定の充電条件での電池5の電圧が下限電圧Vminになる状態をSOCが0%の状態とし、所定の充電条件での電池5の電圧が上限電圧Vmaxになる状態をSOCが100%の状態とする。
【0020】
そして、SOCが0%の状態からSOCが100%の状態までの電池5の充電容量が、電池5の電池容量となる。電池5のリアルタイムのSOCは、SOCが0%の状態の充電量を基準(ゼロ)とする電池5のリアルタイムの充電量の、電池5の電池容量に対する比率である。したがって、電池5のSOCは、電池容量及び電池5の充電量に基づいて、算出可能である。別のある一例では、所定の充電条件での電池5の電圧変化の代わりに、正極及び負極等のそれぞれでのリチウムの濃度が定常的な状態での電池5の電圧変化である電池5の開回路電圧(OCV:open circuit voltage)の変化に基づいて、電池5のSOCが規定されてもよい。充電又は放電を停止してから一定時間経過後は、リチウムの濃度が定常的な状態になる。このため、この時の開回路電圧をSOCと結びつけることにより、開回路電圧に基づいてSOCが規定される。
【0021】
インピーダンス計測部12は、送受信部11が受信した計測データ等に基づいて、判定対象となる電池5のインピーダンスを計測する。インピーダンス計測部12による電池5のインピーダンスの計測においては、電池管理部7等は、所定の電流変動幅(2×ΔImax)で定期的に変化する電流変動成分ΔIを基準電流値Irefの電流に重畳させた電流波形の電流(Iref+ΔI)を、電池5に供給する。このため、電池5のインピーダンスの計測では、基準電流値Irefを中心として所定の電流変動幅(2×ΔImax)で周期的に電流値が変化する電流波形の電流が、充電電流として電池5に供給される。ここで、基準電流値Irefは、電池5に供給される電流の時間平均値に相当し、電流変動幅(2×ΔImax)は、周期的に電流値が変化する電流変動成分ΔIのピーク-ピーク値に相当する。
【0022】
図2は、第1の実施形態に係る電池のインピーダンスの計測において電池に流す電流の一例を示す概略図である。図2では、横軸は時間tを示し、縦軸は電流Iを示す。図2の一例では、基準電流値Irefの電流に電流変動幅(2×ΔImax)で周期的に変化する電流変動成分ΔI(t)が重畳され、基準電流値Irefを中心として周期的に電流値が変化する電流波形の電流(Iref+ΔI(t))が、充電電流として電池5に供給される。電流(Iref+ΔI(t))は、充電電流の時間変化の軌跡である。また、電池5の電池容量に対する基準電流値Irefの比率が、電池5の充電レートとして規定される。また、電池5の充電開始から充電終了まで、電流(Iref+ΔI(t))が継続して電池5に供給されることが、好ましい。ただし、電池5の充電開始から充電終了までの間において、瞬時的に、電池5への電流の供給を停止したり、基準電流値Irefより小さい電流値に電池5への電流を低減させたりしてもよい。この場合、電池へ供給される電流を停止及び低減している間は、電池5のインピーダンスを計測しない。また、図2の一例では、電流波形が正弦波(sin波)であるが、電流波形は、三角波及び鋸波等の正弦波以外の電流波形であってもよい。
【0023】
計測回路6は、前述の電流(Iref+ΔI(t))を電池5に供給している状態等の、周期的に電流値が変化する電流波形で電池5に電流を供給している状態において、電池5の電流及び電圧のそれぞれを、複数の計測時点で計測する。そして、劣化判定装置3の送受信部11は、周期的に電流値が変化する電流波形の充電電流で電池5を充電している状態での電池5の電流及び電圧のそれぞれの計測結果等を、前述の計測データとして、受信する。周期的に電流値が変化する電流波形で電池5に電流を供給している状態での電池5の電流及び電圧のそれぞれの計測結果には、複数の計測時点のそれぞれでの電池5の電流及び電圧のそれぞれの計測値、及び、電池5の電流及び電圧のそれぞれの時間変化(時間履歴)等が、含まれる。
【0024】
インピーダンス計測部12は、送受信部11が受信した計測結果に基づいて、電池5のインピーダンスの周波数特性を算出する。したがって、周期的に電流値が変化する前述の電流波形で電池5に電流を流すことにより、電池5のインピーダンスの周波数特性が計測される。ある一例では、インピーダンス計測部12は、電池5の電流の時間変化に基づいて、電池5の電流の周期的な変化におけるピーク-ピーク値(変動幅)を算出し、電池5の電圧の時間変化に基づいて、電池5の電圧の周期的な変化におけるピーク-ピーク値(変動幅)を算出する。そして、インピーダンス計測部12は、電流のピーク-ピーク値に対する電圧のピーク-ピーク値の比率から、電池5のインピーダンスを算出する。そして、互いに対して周波数が異なる複数の電流波形で、前述のように電池5のインピーダンスを算出することにより、電池5のインピーダンスの周波数特性が計測される。
【0025】
また、別のある一例では、基準周波数の電流波形で電池に電流を流し、電池5の電流及び電圧のそれぞれの時間変化が、計測データとして取得される。そして、インピーダンス計測部12は、電池5の電流及び電圧のそれぞれの時間変化をフーリエ変換する等して、電池5の電流及び電圧のそれぞれの周波数特性として、電池5の電流及び電圧のそれぞれの周波数スペクトル等を算出する。算出された電池5の電流及び電圧のそれぞれの周波数スペクトルでは、前述の基準周波数の成分に加え、基準周波数の整数倍の成分が示される。そして、インピーダンス計測部12は、電池5の電流及び電圧のそれぞれの周波数特性に基づいて、電池5の電流の時間変化の自己相関関数、及び、電池5の電流の時間変化と電池5の電圧の時間変化との相互相関関数を算出する。そして、インピーダンス計測部12は、自己相関関数及び相互相関関数を用いて、電池5のインピーダンスの周波数特性を算出する。電池5のインピーダンスの周波数特性は、例えば、相互相関関数を自己相関関数で除算することにより、算出する。
【0026】
インピーダンス計測部12は、電池5のインピーダンスの周波数特性の計測結果として、例えば、インピーダンスの複素インピーダンスプロット(Cole-Coleプロット)を取得する。複素インピーダンスプロットでは、複数の周波数のそれぞれについて、電池5のインピーダンスが示される。そして、複素インピーダンスプロットでは、複数の周波数のそれぞれについて、電池5のインピーダンスの実数成分(抵抗成分)及び虚数成分(容量成分)が示される。なお、周期的に電流値が変化する電流波形で電池に電流を流すことにより電池のインピーダンスの周波数特性を計測する方法、及び、電池のインピーダンスの周波数特性の計測結果である複素インピーダンスプロット等は、特許文献1(特開2019-132655号公報)及び特許文献2(国際公開2017/047192号公報)に示される。本実施形態では、特許文献1及び特許文献2のいずれかと同様にして、電池5のインピーダンスの周波数特性が計測されてもよい。
【0027】
インピーダンス計測部12は、電池5のインピーダンスの周波数特性等を含む電池5のインピーダンスについての計測結果に基づいて、電池5の正極及び負極のそれぞれのインピーダンスを算出する。ここで、電池5のインピーダンスとしては、正極及び負極のそれぞれのインピーダンス、及び、セパレータの抵抗等が、含まれる。そして、正極及び負極のそれぞれでは、インピーダンスとして、オーミック抵抗、反応抵抗及び拡散抵抗等が、含まれる。正極及び負極のそれぞれでは、オーミック抵抗は、電極(集電体及び活物質含有層)の電気抵抗を含み、反応抵抗は、電極の界面での電荷移動に対する抵抗、及び、電極の表面に形成される被膜による抵抗を含み、拡散抵抗は、活物質におけるリチウムイオン等のイオンの拡散に対する抵抗を含む。
【0028】
データ記憶部16には、電池5の正極、負極及びセパレータについての等価回路モデルが記憶され、等価回路モデルでは、正極のオーミック抵抗、正極の反応抵抗、正極の拡散抵抗、負極のオーミック抵抗、負極の反応抵抗、負極の拡散抵抗及びセパレータの抵抗等のそれぞれと周波数との関係が、示される。すなわち、等価回路モデルでは、前述した抵抗のそれぞれの周波数特性が示される。なお、前述した抵抗のそれぞれの周波数特性は、電池5の温度及び充電量(SOC)のそれぞれに対応して変化する。このため、等価回路モデルでは、抵抗のそれぞれの周波数特性は、互いに対して異なる複数の温度ごとに設定され、互いに対して異なる複数の充電量(SOC)ごとに設定される。
【0029】
インピーダンス計測部12は、電池5のインピーダンスの周波数特性についての計測結果、及び、等価回路モデルでの抵抗のそれぞれの周波数特性を用いて、フィッティング計算を行う。この際、正極のオーミック抵抗、正極の反応抵抗、正極の拡散抵抗、負極のオーミック抵抗、負極の反応抵抗、負極の拡散抵抗及びセパレータの抵抗等を変数としてフィッティング計算を行い、変数を算出する。そして、インピーダンス計測部12は、フィッティング計算によって算出された正極のオーミック抵抗、正極の反応抵抗及び正極の拡散抵抗から、正極のインピーダンスを算出する。また、インピーダンス計測部12は、フィッティング計算によって算出された負極のオーミック抵抗、負極の反応抵抗及び負極の拡散抵抗から、負極のインピーダンスを算出する。これにより、正極及び負極のそれぞれのインピーダンスが計測される。
【0030】
本実施形態では、前述のように、インピーダンス計測部12は、電池5のインピーダンスの周波数特性の計測結果、及び、等価回路モデルを用いて、正極及び負極のそれぞれのインピーダンスを算出する。このため、本実施形態では、電池5の正極及び負極のそれぞれのインピーダンスについて、周波数特性が算出及び計測される。すなわち、電池5のインピーダンスの周波数特性から、正極のインピーダンスの周波数特性、及び、負極のインピーダンスの周波数特性が、分離される。インピーダンス計測部12は、正極及び負極のそれぞれのインピーダンスの周波数特性の計測結果として、例えば、前述したインピーダンスの複素インピーダンスプロット(Cole-Coleプロット)を取得する。インピーダンス計測部12は、電池5のインピーダンスについての計測結果、及び、正極及び負極のそれぞれのインピーダンスについての計測結果を、データ記憶部16に書込む。
【0031】
図3は、第1の実施形態に係る電池のインピーダンスの周波数特性、及び、電池の正極及び負極のそれぞれのインピーダンスの周波数特性の一例を示す概略図である。図3では、インピーダンスの周波数特性が複素インピーダンスプロットで示される。また、図3では、横軸がインピーダンスの実数成分(抵抗成分)ZReを示し、縦軸がインピーダンスの虚数成分(容量成分)ZImを示す。そして、図3では、電池5のインピーダンスの周波数特性Z、電池5の正極のインピーダンスの周波数特性Z、及び、電池5の負極のインピーダンスの周波数特性Zが示される。図3の一例では、電池5のインピーダンスの周波数特性Zから、正極のインピーダンスの周波数特性Z、及び、負極のインピーダンスの周波数特性Zが、分離される。
【0032】
なお、電池5の正極、負極及びセパレータについての等価回路モデルは、特許文献1及び特許文献2に示される。インピーダンス計測部12は、電池5のインピーダンスの周波数特性についての計測結果、及び、特許文献1及び特許文献2に示される等価回路モデルのいずれかを用いてフィッティング計算を行うことにより、前述した抵抗のそれぞれを算出してもよい。この場合も、フィッティング計算によって算出された正極のオーミック抵抗、正極の反応抵抗及び正極の拡散抵抗を用いて、正極のインピーダンスが算出され、フィッティング計算によって算出された負極のオーミック抵抗、負極の反応抵抗及び負極の拡散抵抗を用いて、負極のインピーダンスが算出される。また、特許文献1及び特許文献2では、複素インピーダンスプロットにおいてオーミック抵抗、反応抵抗及び拡散抵抗のそれぞれに対応する部分が、示される。
【0033】
前述の電流(Iref+ΔI(t))によって電池5を充電している状態では、インピーダンス計測部12は、互いに対して異なる複数の充電量(SOC)ごとに、電池5のインピーダンスの周波数特性について前述の複素インピーダンスプロットを生成し、電池5のインピーダンスを計測する。そして、インピーダンス計測部12は、電池5のインピーダンスを計測した複数の充電量(SOC)ごとに、正極及び負極のそれぞれのインピーダンスの周波数特性について前述の複素インピーダンスプロットを生成し、正極及び負極のそれぞれのインピーダンスを計測する。
【0034】
また、インピーダンス計測部12は、第1の電流の供給によって電池5を充電している状態、及び、第1の電流より大きい第2の電流の供給によって電池5を充電している状態のそれぞれにおいて、前述のようにして、電池5のインピーダンスを計測し、正極及び負極のそれぞれのインピーダンスを計測する。ここで、第1の電流での電池5の充電時には、前述の基準電流値が第1の基準電流値(第1の平均電流値)I1refに設定され、第1の基準電流値I1refを中心として周期的に電流値が変化する電流波形で、電池5に電流が供給される。したがって、第1の電流での充電時には、定期的に変化する電流変動成分ΔIを第1の基準電流値I1refの電流に重畳させた電流波形の電流(I1ref+ΔI)が、電池5に供給される。一方、第2の電流での電池5の充電時には、前述の基準電流値が第1の基準電流値I1refより大きい第2の基準電流値(第2の平均電流値)I2refに設定され、第2の基準電流値I2refを中心として周期的に電流値が変化する電流波形で、電池5に電流が供給される。したがって、第2の電流での充電時には、定期的に変化する電流変動成分ΔIを第2の基準電流値I2refの電流に重畳させた電流波形の電流(I2ref+ΔI)が、電池5に供給される。
【0035】
また、ある一例では、第1の電流の電流波形及び第2の電流の電流波形において、電流変動成分ΔIの電流変動幅(2×ΔImax)は、互いに対して同一又は略同一の大きさになる。そして、第1の電流及び第2の電流のそれぞれの電流波形の電流変動幅(2×ΔImax)は、第1の基準電流値I1refと第2の基準電流値I2refとの差分値に比べて、小さい。第1の電流の第1の基準電流値I1refは、充電レートに換算して0.5C以下であり、0.3C以下であることが好ましい。このため、第1の電流での充電時では、電池5は、低い充電レートで充電される。一方、第2の電流の第2の基準電流値は、I2refは、充電レートに換算して1C以上であり、3C以上であることが好ましい。このため、第2の電流での充電時では、電池5は、高い充電レートで急速に充電される。
【0036】
インピーダンス計測部12は、第1の電流での充電時及び第2の電流での充電時のそれぞれにおいて、互いに対して異なる複数の充電量(SOC)ごとに、電池5のインピーダンス、及び、正極及び負極のそれぞれのインピーダンスを計測する。低い充電レートで電池5が充電される第1の電流での充電時では、インピーダンス計測部12は、SOC換算で3%~5%の間隔ごとに、電池5のインピーダンスの計測、及び、正極及び負極のそれぞれのインピーダンスの計測を実施する。一方、高い充電レートで電池5が充電される第2の電流での充電時では、インピーダンス計測部12は、SOC換算で10%~20%の間隔ごとに、電池5のインピーダンスの計測、及び、正極及び負極のそれぞれのインピーダンスの計測を実施することが好ましい。第2の電流の充電時におけるインピーダンスの、計測では、インピーダンスを計測する複数の充電量(SOC)の間隔を大きくすることにより、複素インピーダンスプロット等の電池5のインピーダンスの周波数特性の計測へのノイズの影響が、抑制される。
【0037】
内部状態推定部13は、第1の電流での充電時に複数の充電量のそれぞれで計測された電池5のインピーダンス、及び、第1の電流での充電時に複数の充電量のそれぞれで計測された正極及び負極のそれぞれのインピーダンスを、取得する。内部状態推定部13は、第1の電流での充電時における複数の充電量のそれぞれでの正極及び負極のそれぞれのインピーダンスの計測結果に基づいて、電池5の内部状態を推定する。ここで、第1の電流での電池5の充電時には、電池5が前述のように低い充電レートで充電されるため、正極及び負極のそれぞれにおいて、リチウムイオンが適切に拡散する。また、電池5の内部での発熱が抑制され、電池5の内部では、温度分布は均一又は略均一となる。このため、第1の電流での充電時では、正極及び負極のそれぞれにおいて、活物質粒子のそれぞれでのリチウムの濃度が均一又は略均一になり、正極及び負極のそれぞれでのリチウムの濃度が均一又は略均一になる。したがって、第1の電流での充電時には、正極及び負極のそれぞれにおけるリチウムの濃度分布が、定常的又は準定常的になる。ここで、リチウムの濃度分布とは、正極又は負極におけるリチウムの濃度ムラを示すパラメータであり、例えば、正極又は負極において活物質の電解液表面と接する界面でのリチウムの濃度と活物質の中心部でのリチウムの濃度との差とする。活物質の界面でのリチウムの濃度と活物質の中心部でのリチウムの濃度との差の単位は、例えば(mol/m)となる。
【0038】
内部状態推定部13は、電池5の内部状態パラメータを推定することにより、電池5の内部状態を推定する。電池5の内部状態パラメータとしては、正極活物質の容量に相当する正極の容量(反応面積)、及び、負極活物質の容量に相当する負極の容量(反応面積)等が、挙げられる。また、内部状態パラメータは、正極の初期充電量、及び、負極の初期充電量を含み、前述した電池5のインピーダンス(内部抵抗)、及び、正極及び負極のそれぞれのインピーダンスを含んでもよい。また、正極の初期充電量と負極の初期充電量とのずれである運用窓シフト(SOW:Shift of Operation Window)が、電池5の内部状態パラメータに含まれる。また、内部状態パラメータは、正極のリチウムの濃度及び負極のリチウムの濃度を含み、正極の利用可能な電位範囲及び負極の利用可能な電位範囲を含む。
【0039】
図4は、電池の内部状態を示す内部状態パラメータについて説明する概略図である。図4では、横軸に充電量を示し、縦軸に電位を示す。正極の容量及び負極の容量等の内部状態パラメータは、正極及び負極のそれぞれでのリチウムの濃度分布が定常的又は準定常的な状態での正極の電位変化及び負極の電位変化に基づいて、規定される。ある一例では、正極及び負極等のそれぞれでのリチウムの濃度分布が定常的又は準定常的になる所定の充電条件での正極及び負極の電位変化に基づいて、内部状態パラメータが規定され、例えば、前述した第1の電流(第1の基準電流値I1ref)での電池5の充電時における正極及び負極の電位変化に基づいて、内部状態パラメータが規定される。図4では、正極及び負極のそれぞれでのリチウムの濃度分布が定常的又は準定常的な状態での正極の電位変化及び負極の電位変化が、示される。
【0040】
図4に示すように、電池5では、前述の所定の充電条件での正極の電位について、下限電位Vcmin及び上限電位Vcmaxが規定され、正極の電位は、充電量が大きくなるにつれて、高くなる。また、正極では、正極の電位が下限電位Vcminになる状態での充電量が正極の初期充電量となり、正極の電位が上限電位Vcmaxになる状態での充電量が正極の上限充電量となる。そして、正極が初期充電量から上限充電量になるまでの充電量が、電池5の正極の容量wとなる。また、電池5では、前述の所定の充電条件での負極の電位について、下限電位Vamin及び上限電位Vamaxが規定され、負極の電位は、充電量が大きくなるにつれて、低くなる。また、負極では、負極の電位が上限電位Vamaxになる状態での充電量が負極の初期充電量となり、負極の電位が下限電位Vaminになる状態での充電量が負極の上限充電量となる。そして、負極が初期充電量から上限充電量になるまでの充電量が、電池5の負極の容量wとなる。
【0041】
また、図4では、内部状態パラメータの1つである前述したSOWが示されるとともに、電池の電池特性の1つである前述の電池容量weffが示される。電池容量weffは、前述のように、所定の充電条件において電池5の電圧が下限電圧Vminから上限電圧Vmaxになるまでの充電量に相当する。また、所定の充電条件での正極の電位において、下限電圧Vminに対応する電位と上限電圧Vmaxに対応する電位との間の範囲が、正極の利用可能な電位範囲ΔVとなる。そして、所定の充電条件での負極の電位において、下限電圧Vminに対応する電位と上限電圧Vmaxに対応する電位との間の範囲が、負極の利用可能な電位範囲ΔVとなる。また、正極及び負極のそれぞれのリチウムの濃度は、電池5の充電量(SOC)に対応して変化する。以下、充電量Yにおける正極のリチウムの濃度をCc,Yとし、充電量Yにおける負極のリチウムの濃度をCa,Yとする。そして、正極の満充電状態、すなわち、正極の上限充電量における正極のリチウムの濃度をCc,maxとし、負極の満充電状態、すなわち、負極の上限充電量における負極のリチウムの濃度をCa,maxとする。
【0042】
ここで、電池5では、使用によって電池5が劣化すると、正極の容量及び負極の容量が低下する。また、電池5が劣化すると、充電量Yにおける正極のリチウムの濃度Cc,Y、及び、充電量Yにおける負極のリチウムの濃度Ca,Y等が、電池5の使用開始時等に対して変化する。また、電池5が劣化すると、正極及び負極のそれぞれの初期充電量、SOW、及び、正極及び負極のそれぞれの利用可能な電位範囲等も、使用開始時等に対して変化する。このため、電池5の使用においては、電池5の内部状態を定期的かつ適切に推定することが、重要となる。
【0043】
なお、別のある一例では、前述した所定の充電条件での正極及び負極の電位変化の代わりに、正極及び負極のそれぞれでのリチウムの濃度分布が定常的な状態での正極及び負極の電位変化である正極及び負極の開回路電位(OCP:open circuit potential)の変化に基づいて、前述の内部状態パラメータが規定されてもよい。ただし、第1の電流での充電時等の正極及び負極のそれぞれでのリチウムの濃度分布が定常的又は準定常的な状態では、正極の電位変化は、正極の開回路電位の変化とほとんど差異がなく、負極の電位変化は、負極の開回路電位の変化とほとんど差異がない。以下の説明では、正極及び負極のそれぞれでのリチウムの濃度分布が定常的又は準定常的な状態である第1の電流での充電時の正極及び負極の電位変化に基づいて、前述の内部状態パラメータが規定されるものとする。
【0044】
また、電池5の充電時には、バトラーフォルマー式に基づいて、正極を流れる電流Iは、式(1-A)のように表され、負極を流れる電流Iは、式(1-B)のように表される。式(1-A)では、前述した正極の容量w、正極の活物質の電解液との界面におけるリチウムの濃度Cc,s、及び、正極の満充電状態における正極のリチウムの濃度Cc,maxが示され、式(1-B)では、前述した負極の容量w、負極の活物質の電解液との界面におけるリチウムの濃度Ca,s、及び、負極の満充電状態における負極のリチウムの濃度Ca,maxが示される。また、式(1-A)においてηは、正極における開回路電位に対する過電圧を示し、式(1-B)においてηは、負極における開回路電位に対する過電圧を示す。また、式(1-A)及び式(1-B)において、Cは電解液の濃度を、βは反応乗数を、kはバトラーフォルマー式に基づく定数を示す。ここで、式(1-A)は正極の活物質表面と電解液との界面反応であるが、正極の活物質表面(活物質の電解液との界面)でのリチウム濃度Cc,sが正極の平均リチウム濃度Cと同一又は略同一とみなされる定常又は準定常状態の場合、式(1-A)は、式(1-C)のように表現可能である。同様に、式(1-B)は負極の活物質表面と電解液との界面反応であるが、負極の活物質表面(活物質の電解液との界面)でのリチウム濃度Ca,sが負極の平均リチウム濃度Cと同一又は略同一とみなされる定常又は準定常状態の場合、式(1―B)は、式(1-D)のように表現可能である。
【0045】
【数1】
【0046】
第1の電流での電池5の充電時等の正極及び負極のそれぞれでのリチウムの濃度分布が定常的又は準定常的な状態では、充電量Yにおける正極のインピーダンスRc,Yは、式(1-C)を用いて、式(2-A)のように表すことが可能である。同様に、前述の定常的又は準定常的な状態では、充電量Yにおける負極のインピーダンスRa,Yは、式(1-D)を用いて、式(2-B)のように表すことが可能である。式(2-A)及び式(2-B)より、正極及び負極のそれぞれでは、容量(反応面積)が減少するほど、インピーダンスが上昇する。また、正極及び負極のそれぞれでは、リチウムの濃度が減少するほど、インピーダンスが上昇する。
【0047】
【数2】
【0048】
内部状態推定部13は、電池5の内部状態の推定において、第1の電流での充電時における正極のインピーダンスR1の計測結果、及び、前述の式(2-A)で示す正極における容量w及びリチウムの濃度Cに対するインピーダンスRの関係を用いて、フィッティング計算を行う。すなわち、式(2-A)の算出結果を正極のインピーダンスR1の計測結果に当てはめるフィッティング計算が、行われる。この際、正極における容量w及びリチウムの濃度Cを変数としてフィッティング計算を行い、変数を算出する。これにより、正極における容量w及びリチウムの濃度Cが、内部状態パラメータとして推定される。
【0049】
また、内部状態推定部13は、電池5の内部状態の推定において、第1の電流での充電時における負極のインピーダンスR1の計測結果、及び、前述の式(2-B)で示す負極における容量w及びリチウムの濃度Cに対するインピーダンスRの関係を用いて、フィッティング計算を行う。すなわち、式(2-B)の算出結果を負極のインピーダンスR1の計測結果に当てはめるフィッティング計算が、行われる。この際、負極における容量w及びリチウムの濃度Cを変数としてフィッティング計算を行い、変数を算出する。これにより、負極における容量w及びリチウムの濃度Cが、内部状態パラメータとして推定される。
【0050】
前述のように、第1の電流での充電時等の正極でのリチウムの濃度分布が定常的又は準定常的な状態では、正極の活物質表面でのリチウムの濃度は、正極の活物質内の平均リチウム濃度と、同一又は略同一となる。このため、式(2-A)を用いたフィッティング計算によって、正極における容量w及びリチウムの濃度Cが、適切に推定される。そして、負極でのリチウムの濃度分布が定常的又は準定常的な状態にでは、負極の活物質表面でのリチウムの濃度は、負極の活物質内の平均リチウム濃度と、同一又は略同一となる。このため、式(2-B)を用いたフィッティング計算によって、負極における容量w及びリチウムの濃度Cが、適切に推定される。
【0051】
データ記憶部16には、正極の充電量及びリチウムイオンの濃度Cを少なくとも用いて前述の定常的又は準定常的な状態での正極の電位Vを算出するデータが、記憶される。定常的又は準定常的な状態での正極の電位Vを算出する前述のデータは、第1の電流での充電時等の定常的又は準定常的な状態での正極の電位Vに対する正極のリチウムの濃度Cの関係を示すデータに、相当する。内部状態推定部13は、推定した正極のリチウムの濃度C、及び、定常的又は準定常的な状態での正極の電位Vを算出する前述のデータを少なくとも用いて、第1の電流での充電時における正極の電位V1を算出する。これにより、第1の電流での充電時における充電量に対する正極の電位V1の関係を示す電位曲線が、推定される。
【0052】
また、データ記憶部16には、負極の充電量及びリチウムイオンの濃度Cを少なくとも用いて前述の定常的又は準定常的な状態での負極の電位Vを算出するデータが、記憶される。定常的又は準定常的な状態での負極の電位Vを算出する前述のデータは、第1の電流での充電時等の定常的又は準定常的な状態での負極の電位Vに対する負極のリチウムの濃度Cの関係を示すデータに、相当する。内部状態推定部13は、推定した負極のリチウムの濃度C、及び、定常的又は準定常的な状態での負極の電位Vを算出する前述のデータを少なくとも用いて、第1の電流での充電時における負極の電位V1を算出する。これにより、第1の電流での充電時における充電量に対する負極の電位V1の関係を示す電位曲線が、推定される。
【0053】
前述のように第1の電流での充電時等の定常的又は準定常的な状態での正極及び負極のそれぞれの電位曲線を推定することにより、内部状態推定部13は、推定した電位曲線を用いて、正極及び負極のそれぞれの初期充電量、及び、SOWを内部状態パラメータとして推定可能になる。また、内部状態推定部13は、前述のようにして推定した内部状態パラメータ、及び、第1の電流での充電時における電池5の電圧の変化等に基づいて、電池5の電池容量weffを推定する。そして、内部状態推定部13は、推定した電池容量weff、及び、第1の電流での充電時における正極の電位曲線等に基づいて、正極の利用可能な電位範囲ΔVを内部状態パラメータとして推定する。同様に、内部状態推定部13は、推定した電池容量weff、及び、第1の電流での充電時における負極の電位曲線等に基づいて、負極の利用可能な電位範囲ΔVを内部状態パラメータとして推定する。内部状態推定部13は、第1の電流での充電時に推定した電池5の内部状態についての推定結果を、データ記憶部16に書込み、データ記憶部16に保存する。
【0054】
また、本実施形態では、内部状態推定部13及び補正係数演算部15の処理によって、第2の電流での充電時における正極及び負極のそれぞれのインピーダンスに基づいて、電池5の内部状態を推定可能である。ただし、第2の電流での電池5の充電時には、電池5が前述のように高い充電レートで急速に充電されるため、正極及び負極の少なくとも一方において、リチウムイオンの拡散が充電における律速となる。このため、第2の電流での充電時では、正極及び負極の少なくとも一方において、活物質粒子のそれぞれでのリチウムの濃度が不均一になり、正極及び負極の少なくとも一方において、活物質表面でのリチウムの濃度と活物質内部の平均リチウム濃度とに、差が生じる。例えば、高い充電レートでの急速充電では、正極及び負極の少なくとも一方において、活物質粒子の表面のリチウムの濃度が、活物質粒子の内部のリチウムの濃度に比べて、高くなる。
【0055】
したがって、第2の電流での充電時には、正極及び負極の少なくとも一方におけるリチウムの濃度分布が非定常的になる。すなわち、第2の電流での充電時では、第1の電流での充電時等の正極及び負極のそれぞれにおけるリチウムの濃度分布が定常的又は準定常的な状態に対して、正極及び負極の少なくとも一方でのリチウムの濃度分布が異なる。なお、負極活物質としてチタン酸リチウムが用いられる電池等では、高い充電レートでの充電時において、少なくとも負極で、リチウムの濃度分布が拡大し、非定常になる傾向にある。一方、負極活物質として炭素質物が用いられる電池等では、高い充電レートでの充電時において、少なくとも正極で、リチウムの濃度分布が拡大し、非定常になる傾向にある。
【0056】
正極においてリチウムの濃度が不均一な状態、すなわち、正極におけるリチウムの濃度分布が非定常的な状態では、式(1-A)は、式(1-C)と等価ではない。したがって、式(2-A)を用いた前述のフィッティング計算によっては、正極の容量w及びリチウムの濃度Cが適切な値に算出されない。このため、正極におけるリチウムの濃度分布が非定常的な状態での正極のインピーダンスRに基づいて電池5の内部状態を推定する場合は、正極でのリチウムの濃度が不均一になることに起因する影響(正極でリチウムイオンの拡散が律速となることに起因する影響)を補正して、活物質の電解液との界面での濃度情報から活物質の内部の平均的な濃度情報を推定する必要がある。すなわち、正極でのリチウムの濃度分布についての非定常的な要素を補正して、内部状態を推定する必要がある。
【0057】
同様に、負極においてリチウムの濃度が不均一な状態、すなわち、負極におけるリチウムの濃度分布が非定常的な状態では、式(1-B)は、式(1-D)と等価ではない。したがって、式(2-B)を用いた前述のフィッティング計算によっては、負極の容量w及びリチウムの濃度Cが適切な値に算出されない。このため、負極におけるリチウムの濃度分布が非定常的な状態での負極のインピーダンスRに基づいて電池5の内部状態を推定する場合は、負極でのリチウムの濃度が不均一になることに起因する影響(負極でリチウムイオンの拡散が律速となることに起因する影響)を補正して、活物質の電解液との界面での濃度情報から活物質の内部の平均的な能動情報を推定する必要がある。すなわち、負極でのリチウムの濃度分布についての非定常的な要素を補正して、内部状態を推定する必要がある。
【0058】
本実施形態では、補正係数演算部15は、第2の電流での充電時に複数の充電量のそれぞれで計測された電池5のインピーダンス、及び、第2の電流での充電時に複数の充電量のそれぞれで計測された正極及び負極のそれぞれのインピーダンスを、取得する。また、補正係数演算部15は、内部状態推定部13の推定結果として、第1の電流での充電時における充電量に対する正極及び負極のそれぞれの電位の関係、すなわち、第1の電流での充電時における正極及び負極のそれぞれの電位曲線を取得する。また、補正係数演算部15は、第1の電流での充電時における電池5の電圧V1の計測結果、及び、第2の電流での充電時における電池5の電圧V2の計測結果を取得する。
【0059】
正極でリチウムの濃度が不均一になることに起因する影響を補正する場合は、補正係数演算部15は、第1の電流での充電時における正極の電位曲線、及び、第2の電流での充電時における正極のインピーダンスR2及び負極のインピーダンスR2に基づいて、第2の電流での充電時における正極の電位曲線を推定する。すなわち、補正係数演算部15は、第2の電流での充電時に関して、複数の充電量(SOC)のそれぞれにおける正極の電位を、推定する。この際、インピーダンスR2,R2、電圧V1,V2、及び、第1の電流での充電時における正極の電位V1を用いて、式(3-A)によって、第2の電流での充電時における正極の電位V2が算出される。第2の電流での充電時における正極の電位曲線では、第2の電流での充電時における充電量に対する正極の電位の関係が、示される。
【0060】
また、負極でリチウムの濃度が不均一になることに起因する影響を補正する場合は、補正係数演算部15は、第1の電流での充電時における負極の電位曲線、及び、第2の電流での充電時における正極のインピーダンスR2及び負極のインピーダンスR2に基づいて、第2の電流での充電時における負極の電位曲線を推定する。すなわち、補正係数演算部15は、第2の電流での充電時に関して、複数の充電量(SOC)のそれぞれにおける負極の電位を、推定する。この際、インピーダンスR2,R2、電圧V1,V2、及び、第1の電流での充電時における負極の電位V1を用いて、式(3-B)によって、第2の電流での充電時における負極の電位V2が算出される。第2の電流での充電時における負極の電位曲線では、第2の電流での充電時における充電量に対する負極の電位の関係が、示される。
【0061】
【数3】
【0062】
補正係数演算部15は、第1の電流での充電時における正極の電位(前述の電位曲線)と第2の電流での充電時との間における正極の電位(前述の電位曲線)との差、及び、第2の電流での充電時における正極のインピーダンスR2に基づいて、定常的又は準定常的な状態である第1の電流での充電時における正極(対象電極)でのリチウムの濃度と非定常的な状態である第2の電流での充電時における正極(対象電極)でのリチウムの濃度分布との差を補正する。この際、補正係数演算部15は、第1の電流での充電時における正極でのリチウムの濃度分布と第2の電流での充電時における正極でのリチウムの濃度分布との差を補正するパラメータとして、補正係数ΔCを推定する。補正係数ΔCは、第2の電流での充電時において正極(対象電極)でリチウムの濃度が不均一になることに起因する影響、すなわち、第2の電流での充電時において正極でリチウムイオンの拡散が律速となることに起因する影響を補正するパラメータである。
【0063】
また、補正係数演算部15は、第1の電流での充電時における負極の電位(前述の電位曲線)と第2の電流での充電時における負極の電位(前述の電位曲線)との差、及び、第2の電流での充電時における負極のインピーダンスR2に基づいて、定常的又は準定常的な状態である第1の電流での充電時における負極(対象電極)でのリチウムの濃度分布と非定常的な状態である第2の電流での充電時における負極(対象電極)でのリチウムの濃度分布との差を補正する。この際、補正係数演算部15は、第1の電流での充電時における負極でのリチウムの濃度分布と第2の電流での充電時における負極でのリチウムの濃度分布との差を補正するパラメータとして、補正係数ΔCを推定する。補正係数ΔCは、第2の電流での充電時において負極(対象電極)でリチウムの濃度が不均一になることに起因する影響、すなわち、第2の電流での充電時において負極でリチウムイオンの拡散が律速となることに起因する影響を補正するパラメータである。補正係数ΔC,ΔCは、第2の電流での充電時においてインピーダンスR2,R2を計測した複数の充電量ごとに、推定される。
【0064】
図5は、第1の実施形態において、第1の電流での充電時における正極でのリチウムの濃度分布と第2の電流での充電時における正極でのリチウムの濃度分布との差を補正する補正係数、及び、第1の電流での充電時における負極でのリチウムの濃度分布と第2の電流での充電時における負極でのリチウムの濃度分布との差を補正する補正係数を推定する処理を説明する概略図である。図5では、横軸に充電量を示し、縦軸に電位を示す。また、図5では、第1の電流での充電時における正極及び負極の電位曲線が実線で示され、第2の電流での充電時における正極及び負極の電位曲線が破線で示される。
【0065】
正極についての補正係数ΔCを推定する場合は、補正係数演算部15は、第2の電流での充電時において正極のインピーダンスR2を計測した複数の充電量ごとに、第2の電流と第1の電流との差分値(I2-I1)に第2の電流での充電時における正極のインピーダンスR2を乗算した乗算値(R2×(I2-I1))を算出する。そして、補正係数演算部15は、算出した乗算値(R2×(I2-I1))を第1の電流での充電時に対する第2の電流での充電時における正極での過電圧とし、第2の電流での充電時における正極の電位(第1の電位)V2から前述の過電圧の要素を取除いた電位(第2の電位)V2´を算出する。正極において前述の過電圧の要素を取除いた電位V2´は、式(4-A)を用いて算出される。なお、図5では、第2の電流での充電において充電量Yで正極の電位Vc,Y2となり(点γ2参照)、電位Vc,Y2から前述の過電圧の要素(Rc,Y2×(I2-I1))を取除くことにより、電位Vc,Y2´となる(点γ2´参照)。
【0066】
また、負極についての補正係数ΔCを推定する場合は、補正係数演算部15は、第2の電流での充電時において負極のインピーダンスR2を計測した複数の充電量ごとに、第2の電流と第1の電流との差分値(I2-I1)に第2の電流での充電時における負極のインピーダンスR2を乗算した乗算値(R2×(I2-I1))を算出する。そして、補正係数演算部15は、算出した乗算値(R2×(I2-I1))を第1の電流での充電時に対する第2の電流での充電時における負極での過電圧とし、第2の電流での充電時における負極の電位(第1の電位)V2から前述の過電圧の要素を取除いた電位(第2の電位)V2´を算出する。負極において前述の過電圧の要素を取除いた電位V2´は、式(4-B)を用いて算出される。なお、図5では、第2の電流での充電において充電量Yで負極の電位Va,Y2となり(点α2参照)、電位Va,Y2から前述の過電圧の要素(Ra,Y2×(I2-I1))を取除くことにより、電位Va,Y2´となる(点α2´参照)。
【0067】
【数4】
【0068】
そして、正極についての補正係数ΔCを推定する場合は、補正係数演算部15は、第2の電流での充電時において正極のインピーダンスR2を計測した複数の充電量ごとに、第1の電流での充電時における正極の電位曲線において、電位(第1の電位)V2と充電量が同一となる電位(第3の電位)V1を算出する。図5の一例では、第1の電流での充電時における正極の電位曲線において電位Vc,Y1で(点γ1参照)、電位Vc,Y2と同一の充電量Yになる。そして、補正係数演算部15は、電位(第2の電位)V2´と電位(第3の電位)V1との差、及び、第1の電流での充電時(定常的又は準定常的な状態)での正極の電位に対する正極のリチウムの濃度Cの関係を示す前述のデータに基づいて、正極についての補正係数ΔCを算出する。正極についての補正係数ΔCは、第1の電流での充電時における電位(第2の電位)V2´での正極のリチウムの濃度と電位(第3の電位)V1での正極のリチウムの濃度との差分値に、相当する。図5の一例では、点γ2´での正極のリチウムの濃度と点γ1での正極のリチウムの濃度との差分値が、充電量Yにおける正極についての補正係数ΔCc,Yとなる。
【0069】
また、負極についての補正係数ΔCを推定する場合は、補正係数演算部15は、第2の電流での充電時において負極のインピーダンスR2を計測した複数の充電量ごとに、第1の電流での充電時における負極の電位曲線において、電位(第1の電位)V2と充電量が同一となる電位(第3の電位)V1を算出する。図5の一例では、第1の電流での充電時における負極の電位曲線において電位Va,Y1で(点α1参照)、電位Va,Y2と同一の充電量Yになる。そして、補正係数演算部15は、電位(第2の電位)Va,Y2´と電位(第3の電位)V1との差、及び、第1の電流での充電時(定常的又は準定常的な状態)での負極の電位に対する負極のリチウムの濃度Cの関係を示す前述のデータに基づいて、負極についての補正係数ΔCを算出する。負極についての補正係数ΔCは、第1の電流での充電時における電位(第2の電位)V2´での負極のリチウムの濃度と電位(第3の電位)V1での負極のリチウムの濃度との差分値に相当する。図5の一例では、点α2´での負極のリチウムの濃度と点α1での正極のリチウムの濃度との差分値が、充電量Yにおける負極についての補正係数ΔCa,Yとなる。
【0070】
前述のようにして補正係数演算部15は、第2の電流での充電時にインピーダンスR2,R2を計測した複数の充電量のそれぞれについて、前述した補正係数ΔC,ΔCを推定する。そして、補正係数演算部15は、補正係数ΔC,ΔCについての推定結果をデータ記憶部16に書込み、推定した補正係数ΔC,ΔCをデータ記憶部16に保存する。
【0071】
第2の電流での充電時における電池5の内部状態の推定では、内部状態推定部13は、第2の電流での充電時に複数の充電量のそれぞれで計測された正極及び負極のそれぞれのインピーダンス、及び、補正係数演算部15での前述の補正係数ΔC,ΔCについての推定結果を、取得する。そして、内部状態推定部13は、第2の電流での充電時における正極及び負極のインピーダンス、及び、推定された補正係数ΔC,ΔCに基づいて、電池5の内部状態を推定する。第2の電流での充電時における電池5の内部状態の推定でも、内部状態推定部13は、内部状態パラメータとして、正極の容量w、正極のリチウムの濃度C、負極の容量w、及び、負極のリチウムの濃度Cを推定する。
【0072】
ここで、第2の電流での充電によって正極におけるリチウムの濃度分布が非定常的になる場合は、式(2-A)を用いた前述のフィッティング計算では、正極の容量w及びリチウムの濃度Cが適切な値に算出されない。このため、第2の電流での充電時における電池5の内部状態の推定では、式(2-A)の代わりに、式(5-A)及び式(5―B)が用いられる。そして、内部状態推定部13は、第2の電流での充電時における正極のインピーダンスR2の計測結果、正極でのリチウムの濃度分布について補正係数ΔCの推定結果、及び、式(5-A)及び式(5-B)で示す正極における容量w、リチウムの濃度C及び正極での補正係数ΔCに対するインピーダンスRの関係を用いて、フィッティング計算を行う。すなわち、式(5-A)及び式(5-B)に推定された補正係数ΔCを代入して演算した算出結果を正極のインピーダンスR2の計測結果に当てはめるフィッティング計算が、行われる。この際、正極における容量w及びリチウムの濃度Cを変数としてフィッティング計算を行い、変数を算出する。これにより、正極における容量w及びリチウムの濃度Cが、内部状態パラメータとして推定される。
【0073】
なお、式(5-B)を式(5-A)に代入することにより、式(5-C)のようになる。したがって、第2の電流での充電時における電池5の内部状態の推定では、内部状態推定部13は、式(5-C)で示す関係を用いてフィッティング計算を行うことにより、正極における容量w及びリチウムの濃度Cを推定する。また、式(5-A)及び式(5-B)においてC´c,Yは、充電量Yにおける正極でのリチウムの濃度についての補正係数ΔCc,Yによる補正前の仮値である。仮値C´c,Yは、リチウムの濃度が不均一な非定常的な状態の正極において、リチウムの濃度が比較的高い領域でのリチウムの濃度に相当する。例えば、仮値C´c,Yは、非定常的な状態の正極において、活物質の表面でのリチウムの濃度に相当する。この場合、補正係数ΔCは、定常的又は準定常的な状態での正極の活物質の表面におけるリチウムの濃度と非定常的な状態での正極の活物質の表面におけるリチウムの濃度との差分に相当する。また、式(5-C)で示す関係を用いたフィッティング計算による正極における容量w及びリチウムの濃度Cの推定では、電解液の濃度Cの分布の影響は無視する。ここで、高い充電レートでの急速な充電が可能な温度環境、すなわち、室温~高温の温度範囲では、電解液でのリチウム拡散係数は、正極及び負極のそれぞれの活物質でのリチウム拡散係数より、桁数が大きくなる。このため、高い充電レートでの急速な充電では、電解液の濃度分布より正極及び負極のいずれかの活物質におけるリチウムの濃度分布が、支配的になり、電解液の濃度を無視可能となる。
【0074】
【数5】
【0075】
また、第2の電流での充電によって負極におけるリチウムの濃度分布が非定常的になる場合は、式(2-B)を用いた前述のフィッティング計算では、負極の容量w及びリチウムの濃度Cが適切な値に算出されない。このため、第2の電流での充電時における電池5の内部状態の推定では、式(2-B)の代わりに、式(6-A)及び式(6―B)が用いられる。そして、内部状態推定部13は、第2の電流での充電時における負極のインピーダンスR2の計測結果、負極でのリチウムの濃度分布について補正係数ΔCの推定結果、及び、式(6-A)及び式(6-B)で示す負極における容量w、リチウムの濃度C及び負極での補正係数ΔCに対するインピーダンスRの関係を用いて、フィッティング計算を行う。すなわち、式(6-A)及び式(6-B)に推定された補正係数ΔCを代入して演算した算出結果を負極のインピーダンスR2の計測結果に当てはめるフィッティング計算が、行われる。この際、負極における容量w及びリチウムの濃度Cを変数としてフィッティング計算を行い、変数を算出する。これにより、負極における容量w及びリチウムの濃度Cが、内部状態パラメータとして推定される。
【0076】
なお、式(6-B)を式(6-A)に代入することにより、式(6-C)のようになる。したがって、第2の電流での充電時における電池5の内部状態の推定では、内部状態推定部13は、式(6-C)で示す関係を用いてフィッティング計算を行うことにより、負極における容量w及びリチウムの濃度Cを推定する。また、式(6-A)及び式(6-B)においてC´a,Yは、充電量Yにおける負極でのリチウムの濃度についての補正係数ΔCa,Yによる補正前の仮値である。仮値C´a,Yは、リチウムの濃度が不均一な非定常的な状態の負極において、リチウムの濃度が比較的高い領域でのリチウムの濃度に相当する。例えば、仮値C´a,Yは、非定常的な状態の正極において、活物質の表面でのリチウムの濃度に相当する。この場合、補正係数ΔCは、定常的又は準定常的な状態での負極の活物質の表面におけるリチウムの濃度と非定常的な状態での負極の活物質の表面におけるリチウムの濃度との差分に相当する。また、式(6-C)で示す関係を用いたフィッティング計算による負極における容量w及びリチウムの濃度Cの推定では、電解液の濃度Cの分布の影響は前述のように無視する。
【0077】
【数6】
【0078】
本実施形態では、第2の電流での充電等によって正極でのリチウムの濃度分布が非定常的になっても、定常的又は準定常的な状態(例えば第1の電流での充電時)における正極でのリチウムの濃度分と非定常的な状態(例えば第2の電流での充電時)における正極でのリチウムの濃度分布との差が、補正係数ΔCによって補正される。このため、正極でのリチウムの濃度分布が非定常的な状態でも、補正係数ΔC及び式(5-C)を用いた前述のフィッティング計算を行うことにより、正極における容量w及びリチウムの濃度Cの推定において、正極でリチウムの濃度が不均一になることに起因する影響が適切に補正され、容量w及びリチウムの濃度Cが適切に推定される。
【0079】
また、本実施形態では、第2の電流での充電等によって負極でのリチウムの濃度分布が非定常的になっても、定常的又は準定常的な状態における負極でのリチウムの濃度分布と非定常的な状態における負極でのリチウムの濃度分布との差が、補正係数ΔCによって補正される。このため、負極でのリチウムの濃度分布が非定常的な状態でも、補正係数ΔC及び式(6-C)を用いた前述のフィッティング計算を行うことにより、負極における容量w及びリチウムの濃度Cの推定において、負極でリチウムの濃度が不均一になることに起因する影響が適切に補正され、容量w及びリチウムの濃度Cが適切に推定される。
【0080】
第2の電流での充電時において容量w,w及びリチウムの濃度C,Cを前述のように推定すると、内部状態推定部13は、第1の電流での充電時での推定と同様にして、定常的又は準定常的な状態での正極の電位Vの電位曲線(充電量に対する電位変化)、及び、定常的又は準定常的な状態での負極の電位Vの電位曲線(充電量に対する電位変化)を推定する。また、内部状態推定部13は、第1の電流での充電時での推定と同様にして、正極及び負極のそれぞれの初期充電量、及び、SOWを内部状態パラメータとして推定可能になり、正極の利用可能な電位範囲ΔV、及び、負極の利用可能な電位範囲ΔVを推定可能になる。内部状態推定部13は、第2の電流での充電時に推定した電池5の内部状態についての推定結果を、データ記憶部16に書込み、データ記憶部16に保存する。
【0081】
また、正極についての補正係数ΔCの算出では、前述のように、第1の電流での充電において推定した第1の電流での充電時における(定常的又は準定常的な状態における)正極の電位Vの電位変化に基づいて、行われる。そして、負極についての補正係数ΔCの算出では、前述のように、第1の電流での充電において推定した第1の電流での充電時における(定常的又は準定常的な状態における)負極の電位Vの電位変化に基づいて、行われる。このため、補正係数ΔCの算出に用いる正極の電位曲線、及び、補正係数ΔCの算出に用いる負極の電位曲線としては、推定時から現時点までの経過時間が短いものを用いたほうが、補正係数のそれぞれがより適切な値に推定される。
【0082】
本実施形態では、第2の電流での充電時において、前述のように正極及び負極のそれぞれのインピーダンスを計測すると、劣化判定装置3のプロセッサ等は、第1の電流での充電による電池5の内部状態の前回(直近)の推定から経過時間を、取得する。そして、取得した経過時間が所定の時間以内の場合は、補正係数演算部15は、前述の補正係数ΔC,ΔCの少なくとも一方を算出し、内部状態推定部13は、前述したように、容量w,w及びリチウムの濃度C,Cを含む電池5の内部状態を推定する。
【0083】
一方、取得した経過時間が所定の時間を超えている場合は、劣化判定装置3のプロセッサ等は、第2の電流での充電時において正極及び負極のそれぞれのインピーダンスを計測した後、前述の補正係数ΔC,ΔCを算出することなく、第2の電流での充電を終了する。そして、劣化判定装置3のプロセッサ等は、第1の電流で電池5を充電させ、第1の電流で充電している状態において、前述のように、正極及び負極のそれぞれのインピーダンスを計測し、電池5の内部状態を推定する。これにより、第1の電流での充電時における(定常的又は準定常的な状態における)正極及び負極の電位変化についての推定結果が、更新される。そして、次回以降の第2の電流での充電による電池5の内部状態の推定では、第1の電流での充電時における正極及び負極の電位変化として、更新された推定結果を用いて、前述のように補正係数ΔC,ΔCを算出する。
【0084】
図6は、第1の実施形態に係る劣化判定装置によって行われる、第1の電流での充電時の処理を示すフローチャートである。図6の処理は、第1の電流で電池5を充電している状態において、劣化判定装置3のプロセッサ等によって行われる。図6の処理を開始すると、劣化判定装置3のプロセッサ等は、前述の第1の電流を電池5へ供給させ、電池5を充電する(S60)。そして、劣化判定装置3のプロセッサ等は、第1の電流での充電時における電池5の電圧及び電圧の時間変化を計測させ、電池5の電圧についての計測結果を取得する(S61)。そして、インピーダンス計測部12は、前述したようにして、第1の電流での充電時における電池5の正極及び負極のそれぞれのインピーダンスを計測する(S62)。
【0085】
そして、内部状態推定部13は、式(2-A)を用いた前述のフィッティング計算、及び、式(2-B)を用いた前述のフィッティング計算等によって、正極及び負極のそれぞれについて、容量及びリチウムの濃度を推定する(S63)。そして、内部状態推定部13は、正極及び負極のそれぞれでの容量及びリチウムの濃度の推定結果に基づいて、第1の電流での充電時(定常的又は準定常的な状態)における正極及び負極のそれぞれの電位を、前述のようにして推定する(S64)。これにより、第1の電流での充電時等の定常的又は準定常的な状態における正極及び負極の電位変化が、推定される。そして、内部状態推定部13は、正極及び負極の電位変化の推定結果等に基づいて、正極及び負極のそれぞれの利用可能な電位範囲を含む内部状態を、前述のようにして推定する(S65)。そして、劣化判定装置3のプロセッサ等は、電池5の充電を終了させ(S66)、内部状態等についての推定結果を保存する(S67)。
【0086】
図7は、第1の実施形態に係る劣化判定装置によって行われる、第2の電流での充電時の処理を示すフローチャートである。図7の処理は、第2の電流で電池5を充電している状態において、劣化判定装置3のプロセッサ等によって行われる。図7の処理を開始すると、劣化判定装置3のプロセッサ等は、前述の第2の電流を電池5へ供給させ、電池5を充電する(S70)。そして、劣化判定装置3のプロセッサ等は、第1の電流での充電時における電池5の電圧及び電圧の時間変化を計測させ、電池5の電圧についての計測結果を取得する(S71)。そして、インピーダンス計測部12は、前述したようにして、第2の電流での充電時における電池5の正極及び負極のそれぞれのインピーダンスを計測する(S72)。
【0087】
そして、劣化判定装置3のプロセッサ等は、第1の電流での充電による電池5の内部状態の前回(直近)の推定から経過時間を取得し、取得した経過時間が所定の時間以内であるか否かを判定する(S73)。前述の経過時間が所定の時間を超えている場合は(S73-No)、劣化判定装置3のプロセッサ等は、電池5の充電を終了させ(S78)、正極及び負極のインピーダンスの計測結果等を含む推定結果を保存する(S79)。この場合、劣化判定装置3のプロセッサ等は、前述した第1の電流での充電時の処理を実行し、第1の電流での充電時における(定常的又は準定常的な状態における)正極及び負極の電位(電位変化)についての推定結果を、更新する。
【0088】
一方、前述の経過時間が所定の時間以内である場合は(S73-Yes)、補正係数演算部15は、第1の電流での充電時における正極及び負極の電位(電位変化)、及び、第2の電流での充電時での正極及び負極のインピーダンスの計測結果に基づいて、第2の電流での充電時における正極及び負極の電位(電位変化)を前述のようにして推定する(S74)。そして、補正係数演算部15は、第1の電流での充電時及び第2の電流での充電時のそれぞれにおける正極及び負極の電位についての推定結果等に基づいて、正極及び負極の少なくとも一方について前述の補正係数を算出する(S75)。この際、補正係数演算部15は、前述した式(4-A)等を用いて正極についての補正係数ΔCを算出し、前述した式(4-B)等を用いて負極についての補正係数ΔCを算出する。
【0089】
そして、内部状態推定部13は、正極についての補正係数ΔC及び式(5-C)を用いた前述のフィッティング計算、及び、負極についての補正係数ΔC及び式(6-C)を用いた前述のフィッティング計算等によって、正極及び負極のそれぞれについて、容量及びリチウムの濃度を推定する(S76)。そして、内部状態推定部13は、正極及び負極のそれぞれでの容量及びリチウムの濃度の推定結果に基づいて、定常的又は準定常的な状態における正極及び負極のそれぞれの電池を前述のようにして推定するとともに、正極及び負極のそれぞれの利用可能な電位範囲等を前述のようにして推定する(S77)。そして、劣化判定装置3のプロセッサ等は、電池5の充電を終了させ(S78)、内部状態等についての推定結果を保存する(S79)。
【0090】
前述のように本実施形態では、第2の電流での充電時等の高い充電レートでの充電において、正極及び負極のそれぞれのインピーダンスが計測される。そして、劣化判定装置3のプロセッサ等は、正極及び負極の少なくとも一方である対象電極に関して、第1の電流での充電時(定常的又は準定常的な状態)における対象電極の電位と第2の電流での充電時(非定常的な状態)における対象電極の電位との差、及び、第2の電流での充電時における対象電極のインピーダンスに基づいて、第1の電流での充電時における対象電極でのリチウムの濃度分布と第2の電流での充電時における対象電極でのリチウムの濃度分布との差を補正する補正係数を推定する。このため、電池5の急速な充電等によって正極及び負極の少なくとも一方でのリチウムの濃度が不均一な状態でも、リチウムの濃度が不均一になることに起因する影響を、補正係数によって適切に補正可能となる。
【0091】
また、正極及び負極のそれぞれについて前述の補正係数が算出されることにより、第2の電流での充電時等の電池5が高い充電レートで急速に充電されている状態でも、補正係数を用いた前述の演算等によって、電池5の内部状態が適切に推定可能になる。これにより、電池5が急速に充電されている状態でも、正極及び負極のそれぞれの容量及びリチウムの濃度等が適切に推定され、電池5の内部状態パラメータが適切に推定される。
【0092】
電池5が急速に充電されている状態でも電池5の内部状態が適切に推定されることにより、電池5をさらに安全に使用可能となる。例えば、電池5が急速に充電されている状態においても負極の容量を適切に推定可能になるため、負極の容量の低下を適切に予測可能になり、負極の容量の低下に起因する電池5の過充電等が、有効に防止される。また、電池5が急速充電されている状態においても正極の容量を適切に推定可能になるため、正極の容量の低下を適切に予測可能になり、正極の容量の低下に起因する電池5の過放電等が、有効に防止される。また、電池5が急速充電されている状態においても正極でのリチウムの濃度を適切に推定可能になるため、正極でのリチウムの濃度の増加を適切に予測可能になり、正極でのリチウムの濃度の増加に起因する副反応等が、有効に抑制される。副反応等が有効に抑制されることにより、電池5の劣化が加速すること等が、有効に防止される。
【0093】
なお、第2の電流での充電時では、正極及び負極の一方についてのみ、前述した補正係数が算出されてもよい。すなわち、正極及び負極の少なくとも一方である対象電極について前述した補正係数が算出され、第2の電流での充電時等の高い充電レートでの急速な電池5の充電において、補正係数を用いて、前述のように電池5の内部状態が推定されればよい。
【0094】
(実施形態に関連する検証)
また、実施形態に関連する以下の検証を行った。検証では、試験体A,B,Cのそれぞれについて、1Cの充電レートでの充電時の満充電容量を計測するとともに、3C以上の複数の充電レートのそれぞれでの充電時の満充電容量を計測した。そして、計測結果に基づいて、試験体A~Cのそれぞれについて、1Cでの充電時に対する3C以上の複数の充電レートのそれぞれでの充電時の容量維持率を算出した。
【0095】
ここで、試験体Aとしては、正極及び負極を備える電池セルを用いた。試験体Aでは、正極活物質としてリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を、負極活物質としてチタン酸リチウムを用いた。また、試験体Aでは、正極及び負極のそれぞれにおいて活物質含有層を厚くすることにより、正極及び負極のそれぞれの電極の厚みを40μm~50μmとした。試験体Bは、試験体Aの電池セルの正極のみから形成した。また、試験体Bでは、試験体Aに比べて正極の活物質含有層を薄くし、正極の厚みを10μmとした。試験体Cは、試験体Aの電池セルの負極のみから形成した。また、試験体Cでは、試験体Aに比べて負極の活物質含有層を薄くし、負極の厚みを10μmとした。
【0096】
図8は、検証における3つの試験体のそれぞれについての1Cの充電時に対する容量維持率の算出結果を示す概略図である。図8では、横軸に、充電レートをCレートで示し、縦軸に、1Cでの充電時に対する容量維持率をパーセント表示で示す。また、図8では、電池セルである試験体Aについての容量維持率を実線で示し、正極のみの試験体Bについての容量維持率を三角のプロットで示し、負極のみの試験体Cについての容量維持率を丸のプロットで示す。
【0097】
図8に示すように、試験体Aでは、充電レートと増加するにつれて、容量維持率が線形的に減少した。また、電池セルである試験体Aでは、充電レートに対する容量維持率の関係が、負極のみの試験体Cと同様の傾向を示した。そして、試験体A及び試験体Cでは、負極の活物質含有層の厚みが互いに対して異なるが、試験体A及び試験体Cでは、充電レートに対する容量維持率の関係が、同様の傾向になった。このことから、試験体Aと同様の活物質から形成される電池セル、すなわち、負極活物質としてチタン酸リチウムを用いられる電池セルでは、高い充電レートでの充電時において、負極においてリチウムの濃度が不均一になることに起因する影響が大きくなることが、立証された。すなわち、負極活物質としてチタン酸リチウムを用いられる電池セルでは、高い充電レートでの充電時において、負極活物質における不均一なリチウムの濃度分布の影響が大きくなることが、立証された。
【0098】
また、試験体Aでは、充電レートが高いほど容量維持率の減少幅が大きくなる傾向等はなく、充電レートの増加に伴って容量維持率が線形的に減少した。また、前述のように、互いに対して厚みが異なる試験体A,Cであっても、充電レートに対する容量維持率の関係が、同様の傾向になった。このため、試験体Aと同様の活物質から形成される電池セルでは、高い充電レートでの充電時において、電池における電解液の濃度の分布に起因する影響が小さいことが、立証された。
【0099】
また、正極のみの試験体Bでは、電池セルである試験体A及び負極のみの試験体Cのそれぞれに比べて、充電レートの増加に伴う容量維持率の減少幅が小さかった。このため、試験体Aと同様の活物質から形成される電池セルでは、高い充電レートでの充電時において、正極におけるリチウムの濃度の分布に起因する影響が小さいことが、立証された。
【0100】
以上の検証から、試験体Aと同様の活物質から形成される電池セルの内部状態を適切に推定するためには、少なくとも負極について前述した補正係数ΔCを推定することが必要となる。そして、推定した補正係数ΔC、及び、前述した式(6-C)を用いてフィッティング計算を行う等して、電池セルの内部状態を推定することが必要になる。
【0101】
前述の少なくとも一つの実施形態又は実施例では、電池の正極及び負極の少なくとも一方である対象電極に関して、第1の電流での電池の充電時における対象電極の電位と第1の電流より大きい第2の電流での電池の充電時における対象電極の電位との差、及び、第2の電流での充電時における対象電極のインピーダンスに基づいて、第1の電流での充電時における対象電極でのリチウムの濃度分布第2の電流での充電時における対象電極でのリチウムの濃度分布との差を補正する補正係数を推定する。これにより、正極及び負極の少なくとも一方でのリチウムの濃度が不均一な状態でも、リチウムの濃度が不均一になることに起因する影響を適切に補正し、電池の内部状態が推定可能にする電池の劣化判定方法、電池の劣化判定装置、電池の管理システム、電池搭載機器、及び、電池の劣化判定プログラムを提供することができる。
【0102】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0103】
1…管理システム、2…電池搭載機器、3…劣化判定装置、5…電池、6…計測回路、7…電池管理部、11…送受信部、12…インピーダンス計測部、13…内部状態推定部、15…補正係数演算部、16データ記憶部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8