(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】シャンパン調金属効果顔料
(51)【国際特許分類】
C09C 1/40 20060101AFI20231204BHJP
C09C 3/06 20060101ALI20231204BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
C09C1/40
C09C3/06
C09D17/00
(21)【出願番号】P 2021509220
(86)(22)【出願日】2019-07-25
(86)【国際出願番号】 EP2019070095
(87)【国際公開番号】W WO2020038684
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-05-25
(32)【優先日】2018-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516030812
【氏名又は名称】シュレンク メタリック ピグメンツ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビンダー イヴォンヌ
(72)【発明者】
【氏名】フーバー アーダルベルト
(72)【発明者】
【氏名】グレイザー ダニエル
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0194946(US,A1)
【文献】特表2018-514611(JP,A)
【文献】特表2016-536406(JP,A)
【文献】特表2007-511655(JP,A)
【文献】特表2015-518910(JP,A)
【文献】国際公開第2017/001393(WO,A1)
【文献】特開2015-178556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/40
C09C 3/06
C09D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆アルミニウム基板プレートレットに基づく金属効果顔料であって、
該アルミニウム基板プレートレットは、5nm~35nmの厚みを有し、単層構造を有し、10nm未満のAl
2O
3自然不動態化層によって包囲されており、
該アルミニウム基板プレートレットは、10nm~100nmの層厚を有する少なくとも1つのSiO
2被膜Aによって被覆されており、該SiO
2被膜Aを有する前記基板プレートレットを被覆し、5nm~45nmの層厚を有する更なるFe
2O
3塗工被膜Bを有しており、かつ、7%以下の着色度でΔE45
°≦
3に対して、彩度(S
uv)が0.2~0.3の範囲であり、色相角(h
uv)値が50~65の範囲であり、フロップ/アルマンインデックス値が26超であり、Gdiff(粒状性)値が6以下であることを特徴とする、金属効果顔料。
【請求項2】
前記アルミニウム基板プレートレットが、15nm~25nmの厚みを有する、請求項1に記載の金属効果顔料。
【請求項3】
前記SiO
2被膜Aが、20nm~80nmの層厚を有する、請求項1又は2に記載の金属効果顔料。
【請求項4】
前記Fe
2O
3被膜Bが、10nm~45nmの層厚を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属効果顔料。
【請求項5】
前記酸化鉄層が、Al
2O
3若しくはTiO
2から選ばれる金属酸化物の一方又は両方を、前記層Bに対して0重量%超~20重量%の割合で含む混合層である、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属効果顔料。
【請求項6】
次いで前記被膜Bを被覆する外層C、特に、任意で、下層のFe
2O
3にも侵入し得る、1nm~30nm厚のSiO
2層を更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の金属効果顔料。
【請求項7】
前記層B、又は前記層Cが存在する場合には該層Cに対して、有機表面改質又は有機/無機表面改質が適用されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の金属効果顔料。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の金属効果顔料を製造する方法であって、
事前に準備したアルミニウム基板プレートレットに、ゾル-ゲルプロセスによって湿式化学的に前記SiO
2層Aを塗工することと、
続いて、1以上の鉄(III)塩を湿式化学析出させることよって、前記Fe
2O
3層Bを塗工し、続いてか焼することと、
を含む、方法。
【請求項9】
次いで前記被膜Bを被覆する更なる外層C、特に、任意で、下層のFe
2O
3にも侵入し得る、1nm~30nm厚のSiO
2層を塗工することを更に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記層B、又は前記層Cが存在する場合には該層Cに対して、有機表面改質又は有機/無機表面改質を適用することを更に含む、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
カラー塗料、印刷インク、液状インク、プラスチック、ガラス、セラミック製品、及び装飾用化粧品、特に、マニキュア液、リップグロス、アイシャドウ、口紅、シャンプー、及び/又はパウダーの配合物としての、請求項1~7のいずれか一項に記載の金属効果顔料の使用であって、該金属効果顔料は、単独で、又は有機顔料及び/又は無機顔料との混合物として使用し得る、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い隠蔽力を備え、酸化鉄薄層を有する、シャンパン色調を作り出すための金属効果顔料に関する。
【背景技術】
【0002】
現在のところ、(ΔE45°≦3に対する)高い隠蔽力と、50~65の範囲の色相角(huv)を有する黄褐色調(シャンパン調)と、0.2~0.3の範囲の彩度(Suv)とを有する同等な金属効果顔料又はパール光沢顔料は知られていない。Eckart GmbH社のALOXAL(商標)、又はMerck社のIriodin 9602等の、現在市販されている類似の色調を有する顔料は、例えば、隠蔽力が場合により不十分であり、及び/又は、色調及び色彩度値が大幅に逸脱している。
【0003】
特許文献1には、VMPプロセスで得られるAl薄基板プレートレットに基づく金属効果顔料であって、高い隠蔽力を備え、着色層としてFe2O3を有する金属効果顔料が開示されている。特許文献2には、少なくとも1つの金属酸化物層を有するアルミニウム系金属効果顔料が開示されている。特許文献3には、鉄効果顔料とアルミニウム効果顔料との混合物の製造が開示されている。特許文献4には、1つ以上の不動態化層と、アルミニウムドープ酸化鉄層とを備えたアルミニウムコア又はアルミニウム合金コアからなる非磁化性効果顔料が開示されている。特許文献5には、着色効果顔料を製造する方法、及び化粧品におけるその使用が開示されている。これらの着色効果顔料は、Alコアの湿式化学酸化によって生成される着色層、及び/又は、少なくとも1つの着色顔料を含む少なくとも1つの金属酸化物層を備えた効果顔料によって包囲されたアルミニウム含有コアからなる。特許文献6には、金属(銀、金、銅、アルミニウム、亜鉛、チタン、及びそれらの合金)に基づく化粧品に使用される効果顔料であって、ゾル-ゲルプロセスによる湿式化学法で、更なる金属酸化物層によって被覆された効果顔料が開示されている。特許文献7には、アルミニウムコア又はアルミニウム合金コアと、このアルミニウムコア又はアルミニウム合金コアを被覆する酸化アルミニウム含有層又は酸化アルミニウム/水酸化アルミニウム含有層とを有する効果顔料であって、該酸化アルミニウム含有層又は酸化アルミニウム/水酸化アルミニウム含有層が、プレートレット形状のアルミニウム顔料又はアルミニウム合金顔料の湿式化学酸化によって得られ得る効果顔料が開示されている。ここで、アルミニウムコア又はアルミニウム合金コア中の金属アルミニウムの量は、顔料の総重量に対して、90重量%以下であり、酸化したアルミニウム顔料又はアルミニウム合金顔料は、1.95超の屈折率を有する高屈折率金属カルコゲナイド層を少なくとも1つ有し、高屈折率金属カルコゲナイド層と、被覆酸化アルミニウム含有層又は酸化アルミニウム/水酸化アルミニウム含有層との間に混合層が形成されている。特許文献8には、非金属基板に基づく多層パール光沢顔料が開示されている。特許文献9には、非金属基板に基づく多層効果顔料が開示されている。特許文献10には、金属酸化物層で被覆されたプレートレット形状のアルミニウム基板に基づく着色顔料であって、金属酸化物層中に着色顔料を有する着色顔料が開示されている。非特許文献1には、第2章-着色アルミニウム顔料の第III部-特殊アルミニウム顔料(70頁~76頁)において、「シャンパン色」の外観を有する酸化アルミニウム顔料(商品名:ALOXAL(商標))の製造、及び着色顔料と組み合わせたその使用が発表されている。これと同様に、特許文献11では、アルミニウムプレートレットの湿式化学酸化による着色効果顔料の製造が開示されている。
【0004】
特許文献12及び特許文献13には、金属効果顔料又はパール光沢顔料が記載されているが、(ΔE45°≦3に対して)50~65の範囲の色相角(huv)の黄褐色調(シャンパン調)を有し、0.2~0.3の範囲の彩度(Suv)も有するものは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】欧州特許第2999752号
【文献】国際公開第2013/175339号
【文献】欧州特許第2303969号
【文献】国際公開第2015/040537号
【文献】国際公開第2007/093334号
【文献】カナダ特許第2,496,126号
【文献】米国特許第7,828,890号
【文献】欧州特許出願公開第0950693号
【文献】国際公開第2011/085780号
【文献】国際公開第96/22336号
【文献】独国特許出願公開第19520312号
【文献】欧州特許出願公開第3345974号
【文献】欧州特許出願公開第3081601号
【非特許文献】
【0006】
【文献】専門書「金属効果顔料(Metalleffekt-Pigmente)」(第2改訂版、Peter Wissling他著、Vincentz出版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって、本発明は、(ΔE45°≦3に対して)高い隠蔽力を備え、50~65の範囲の色相角(huv)の黄褐色調(シャンパン調)を有し、0.2~0.3の範囲の彩度(Suv)も有する金属効果顔料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、特許請求の範囲において特徴付けられる実施の形態によって達成される。
【0009】
より詳細には、被覆アルミニウム基板プレートレットに基づく金属効果顔料であって、該アルミニウム基板プレートレットは、5nm~35nm、好ましくは15nm~25nmの厚みを有し、単層構造を有し、10nm未満、典型的には2nm~5nm、通常は2nm~3nmのAl2O3「自然」不動態化層、すなわち、別途のプロセス工程によって塗工されたものではなく、製造プロセスに由来する不動態化層によって包囲されており、該アルミニウム基板プレートレットは、10nm~100nm、好ましくは20nm~80nmの層厚を有する少なくとも1つのSiO2被膜Aによって被覆されており、SiO2被膜Aを有する基板プレートレットを被覆し、5nm~45nm、好ましくは10nm~45nm、より好ましくは20nm~45nm、特に20nm~40nmの層厚を有する更なるFe2O3塗工被膜Bを有しており、かつ、7%以下の着色度(pigmentation)でΔE45≦3、特に7%未満の着色度でΔE45°≦1に対して、彩度(Suv)が0.2~0.3の範囲であり、色相角(huv)値が50~65の範囲であり、フロップ/アルマンインデックス(flop/Alman Index)値が26超であり、Gdiff(粒状性)値が6以下であることを特徴とする、金属効果顔料が提供される。
【0010】
次いで被膜Bを被覆する更なる外層C、例えば、任意で、下層のFe2O3にも侵入し得る、1nm~30nm厚のSiO2層を、任意で追加的に提供することができる。そして、層B、又はかかる層Cが存在する場合には層Cに対して、有機表面改質又は有機/無機表面改質を適用することができる。
【0011】
実際の不動態化層であると見なすことができるSiO2層Aは、ゾル-ゲルプロセスによって湿式化学的に塗工される。層Bは、析出反応によって湿式化学的に塗工されたFe2O3からなり、5nm~45nm、好ましくは10nm~45nm、より好ましくは20nm~45nm、特に20nm~40nmの層厚を有する。この酸化鉄層は、Al2O3若しくはTiO2から選ばれる金属酸化物の一方又は両方を、層Bに対して0重量%超~20重量%の割合(総割合)で含む混合層とすることもできる。
【0012】
アルミニウム基板プレートレットは、多結晶質であり、5nm~35nm、好ましくは15nm~25nmの平均厚みを有する。各基板プレートレットが、極めて均一な厚みを有することが好ましいが、製造プロセスに起因して、プレートレット内で厚みにばらつきが存在する場合がある。このばらつきは、そのプレートレットの平均厚みに対して、好ましくは±25%を超えるべきではなく、より好ましくは最大で±10%である。ここで、平均厚みは、最大厚みと最小厚みとの数値平均である。最小層厚と最大層厚は、被覆基板プレートレットの、透過型電子顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(TEM及びSEM)に基づく測定によって求められる。
【0013】
使用するアルミニウムプレートレットは、真空金属化顔料(VMP)として知られているものであることが好ましい。VMPは、金属化フィルムからアルミニウムを剥離することによって得ることができる。VMPにおいて注目すべきは、基板プレートレットの厚みが特に小さいことと、反射率の高い特に滑らかな表面を有することである。本発明の文脈において、プレートレット又はフレークとは、厚み/長さの比が少なくとも1:100、好ましくは1:100超であるものを指す。
【0014】
ここで、被膜の「厚み」又はアルミニウム基板プレートレットの「厚み」へのいかなる言及も、関連する点で何か別の定義がされていない限り、指定された平均厚みを指すと理解されるものとする。
【0015】
アルミニウム基板プレートレットは、単層構造を有する。この文脈での単相とは、基板プレートレット内のミクロ構造は変化し得るが、基板プレートレットが、割れ目、層、又は介在物のない単一の自己完結型ユニットからなることを意味する。アルミニウム基板プレートレットは、構造が均質であることが好ましく、これは、プレートレット内に濃度勾配がないことを意味する。特に、アルミニウム基板プレートレットは、層状構造を有さず(別途のプロセス工程によって塗工されたものではなく、製造プロセスに由来するAl2O3「自然」不動態化層は、この文脈では無視する)、プレートレット内には粒子が分布しない。特に、基板プレートレットは、例えば基板プレートレットに好適な材料からなるシェルと、例えば酸化ケイ素等の異なる材料からなるコアとを有するコアシェル構造を有するものではない。これとは対照的に、基板プレートレットの一部に、より複雑な非単相構造を形成するのは、より困難で、時間と費用のかかる製造プロセスとなるだろう。
【0016】
以降のセクションにおける百分率の数値は、特に指示のない限り、重量%として読むものとする。
【0017】
ΔE45°≦1で(隠蔽)ナイフ被覆する場合、本発明の金属効果顔料は、0.2~0.3の範囲の彩度(Suv)値、50~65の範囲の色相角(huv)値、26超のフロップ/アルマンインデックス値、及び6以下のGdiff(粒状性)値を示す。本発明の金属効果顔料が非常に良好な隠蔽力を有することは、ここでΔE45°≦1で定義されたナイフ塗工隠蔽被膜に対して、7%以下の着色度が必要であることから明らかである。特に、7%の着色度に対するΔE45°の値は、3.0未満である。対応する隠蔽力及びフロップを備えたこの種の色調は、金属効果顔料と、有機顔料及び/又は無機顔料との混合物では達成することができない。さらに、顔料混合物は、色調設定の再現に関する精度がより低い。
【0018】
アルミニウム顔料に基づく顔料混合物とは対照的に、本発明の金属効果顔料は可燃性ではないため、例えば輸送上、危険物として分類する必要はない。
【0019】
これとは異なり、例えば、市販の顔料Merck Iriodin 9602の比較例(noninventive example)では、着色度が高レベルであっても、ΔE45°隠蔽力についての上述の値を達成することができない。ΔE45°<3の値を有する隠蔽力は、着色度が20%と非常に高くても達成できない(ここでのΔE45は5.1)。ΔE45°≦1となるナイフ塗工隠蔽被膜は、着色度が30%を超えるまで、算術的に予測することはできない。
【0020】
シャンパン調を模倣するために、市販の顔料Iriodin 9602を、着色度20%で、黄色顔料Helio Beit UN210(4.5%;使用する顔料の乾燥質量に対する、黄色顔料の初期質量(特に特徴付けない場合))と混合すると、この混合物によるΔE45°隠蔽力の値は、本発明の金属効果顔料によって達成される範囲より高い領域となり、ここでは、着色度が大幅に高くなることを考慮する必要がある。この混合物の彩度値は、本発明の金属効果顔料によって達成される0.2~0.3の範囲内であるが、この種の組成物では、本発明の金属効果顔料によって達成される色相角(huv)、又は定義されたフロップ値を達成することはできない(ここでは、黄色ペーストの添加によって、純粋な顔料に比べて隠蔽力が高まっているが、フロップ/アルマンインデックスが損なわれている)。
【0021】
本発明の顔料の領域の色調を得るために、Schlenk Metallic Pigments GmbH社から「Alustar 10200」の名称で市販されている銀貨顔料を、着色度4%で、Helio Beit Pigmentpasten GmbH社から市販されている黄色顔料(Helio Beit UN120)4.5%(使用する顔料の乾燥質量に対する、黄色顔料の初期質量(特に特徴付けのない場合))と混合することもできる。両方の場合について、このようにして得られた混合物のΔE45°隠蔽力は、実際、本発明の金属効果顔料によって達成される範囲内である。混合物のフロップおよびGdiffは、同様に、本発明の金属効果顔料の範囲内である。しかしながら、彩度(Suv)値が約0.5であり、色相角(huv)値が約70であるため、本発明の金属効果顔料の範囲を達成することできない。
【0022】
上述の混合物中の黄色顔料の割合を4.5%から10%に増加すると、本発明の金属効果顔料の色相角(huv)の範囲を満たすことは確かに可能となるが、これにより、彩度がより高くなり、本発明の金属効果顔料の範囲から大幅に外れる。
【0023】
非常に高い隠蔽力を備えた50~65の範囲の色相角(huv)と、0.2~0.3の範囲の彩度(Suv)とを有する黄褐色シャンパン調は、パール光沢顔料及び/又は金属効果顔料を互いに混合した混合物によるこの組み合わせ、又はカーボンブラック若しくは染料の添加では生成できない。ほぼ同じ色調であっても、フロップが異なることもある。隠蔽力を向上させるために、カーボンブラックの添加が必要となることが多い。
【0024】
例えば銀貨に基づく銀色顔料と、有機染料、例えば有機黄色顔料との混合物は、以下のような不利点を更に有する:UV安定性及び温度安定性がより低く、追加の混合手順が必要となり、場合によっては、安定剤又は乳化剤を添加する必要がある。よりUV安定性の高い無機(黄色)顔料を備えたAl顔料の着色では、対応する酸化鉄層を備えたAl顔料の対応する明度は達成されない(有機顔料の光化学的分解に関する文献:Lisa Ghelardi, Ilaria Degano, Maria Perla Colombini, Joy Mazurek, Michael Schilling, Herant Khanjian, Tom Learner, A multi-analytical study on the photochemical degradation of synthetic organic pigments, Dyes and Pigments, Volume 123, 2015, pages 396-403)。
【0025】
金色アルミニウム顔料(以下の顔料構造を有する顔料21 YY(Schlenk Metallic Pigments GmbH社のZenexo Goldenshine 21 YY)を例示的に選択した:基板が、層厚約25nmのDecomet(VMPアルミニウムプレートレット)であり、その上に約60nmのSiO2層、最後に約100nmのFe2O3層、及び約10nmの更なるSiO2被膜を有する)と、カーボンブラック、TiO2、又はパール光沢顔料(ここの例では、Merck社のIriodin 119 Polar White)とを混合することによって、0.2~0.3の範囲の彩度(Suv)を有する望ましい色調を達成することもできない。これらの配合では、良好な隠蔽力と良好なフロップが得られるが、対応する配合では上述の彩度(Suv)値を達成することはできない。
【0026】
隠蔽力は、塗料混合物の着色度を変化させ、所定の湿潤膜厚でナイフ塗工隠蔽被膜に必要な着色度を確認することによって決定される。ここで、着色度(%)とは、溶媒系ニトロセルロース/ポリシクロヘキサノン/ポリアクリルワニス(SC約10%)中の塗料混合物の総質量に対する、純粋な顔料の質量割合を指す。着色度の決定では、Zehnter社のフィルム塗工装置を用いて、TQC社の白/黒カードに湿潤膜厚38μmで少なくとも4つの異なる着色度で塗工し、乾燥後、Byk社のByk-mac I装置を用いてΔE45°を記録する。得られたΔE45°値に曲線を当てはめ、ΔE45°=1となる着色度の値を確認する。所定の湿潤膜厚38μmでΔE45°≦1となる場合、その層を隠蔽層として定義する。この値を達成するために必要な着色度が低いほど、隠蔽力は高くなる。
【0027】
一般的に言えば、プレートレットの平均最大直径は約2μm~200μm、特に約5μm~100μmである。本発明の顔料(Al基板+SiO2+Fe2O3層)のd50は、通常、15μm~30μmである。本明細書中、d50値は、特に指示のない限り、Quixel湿式分散機を備えたSympatec Helos装置を使用して決定する。
【0028】
通常、被覆基板プレートレットの表面の一部を被覆すれば、光沢顔料を得るのに十分である。例えば、プレートレットの上側及び/又は下側のみを被覆して、側面(複数の場合もある)を残してもよい。しかしながら、本発明によると、任意で不動態化した基板プレートレットの側面を含む表面全体を、被膜A及び被膜Bで被覆する。そのため、基板プレートレットは被膜A及び被膜Bによって完全に被覆される。これにより、本発明の顔料の光学特性が向上し、被覆基板プレートレットの機械化学的堅牢性が高まる。
【0029】
本発明の金属光沢顔料を製造する方法は、アルミニウム基板プレートレット、通常は不動態化したアルミニウム基板プレートレットを準備する工程と、事前に準備したそのようなアルミニウム基板プレートレットの1つに、ゾル-ゲルプロセスによって湿式化学的にSiO2層Aを塗工する工程と、続いて、1以上の鉄(III)塩を湿式化学析出させることよって、Fe2O3層Bを塗工し、続いてか焼する工程とを含む。
【0030】
被膜Aを生成するために、有機ラジカルが酸素原子を介して金属に結合した有機ケイ素化合物を、基板プレートレットの存在下で加水分解するのが有効である。有機ケイ素化合物の好ましい例としては、テトラエトキシシラン(テトラエチルオルトシリケート、TEOS)が挙げられる。加水分解は、触媒として、塩基、例えば、KOH、NaOH、Ca(OH)2、若しくはNH3、又は酸、例えば、リン酸、及び酢酸等の有機酸の存在下で行うことが好ましい。少なくとも加水分解に化学量論的に必要な量の水を存在させる必要があるが、その量の2倍~100倍、特に5倍~20倍とすることが好ましい。一般的な慣行としては、使用する水の量に基づいて、25重量%の濃度を有する塩基水溶液、例えば、KOH、NaOH、Ca(OH)2、又はNH3を、1体積%~40体積%、好ましくは1体積%~10体積%で添加する。温度状況については、反応混合物を40℃~80℃、好ましくは50℃~70℃で、1時間~12時間、好ましくは2時間~8時間加熱することが有利であることが分かっている。
【0031】
プロセスに関して、基板プレートレットの被膜Aによる被覆は、以下のように達成するのが有効である:
アルミニウム基板プレートレット、有機溶媒、水、及び触媒を導入し、その後、加水分解用のシリコン化合物を、純粋な物質として、又は溶液、例えば、30体積%~70体積%、好ましくは40体積%~60体積%の濃度を有する有機溶媒溶液として、予熱した反応混合物に添加する。或いは、シリコン化合物を高温で連続的に計量導入してもよく、その場合、水及び塩基水溶液は最初に導入してもよいし、又は同様に連続的に計量導入してもよい。被覆終了後、反応混合物を室温まで冷却する。
【0032】
被覆手順中の凝集を防止するために、懸濁液に対して、ポンピング、激しい攪拌、又は超音波作用等の強い機械的応力を与えてもよい。
【0033】
被覆工程を、任意で、1回以上繰り返してもよい。母液が乳白色の外観を有する場合は、更なる被覆を行う前に、交換するのが賢明である。
【0034】
被膜Aで被覆されたアルミニウム基板プレートレットは、濾過、有機溶媒、好ましくは溶媒としても一般的に使用されるアルコールによる洗浄、及びそれに続く乾燥(典型的には、20℃~200℃で2時間~24時間)による簡易な方法で単離することができる。
【0035】
層Bは、塩化鉄(III)及び硫酸鉄(III)等の鉄(III)塩を加水分解し、続いて、得られた水酸化物含有層をか焼により酸化物層へ変換することによって、塗工することができる。加熱は、250℃~550℃の温度で5分~360分の間行うことが好ましく、300℃~450℃で30分~120分の間行うことが好ましい。
【0036】
酸化鉄層を、Al2O3若しくはTiO2から選ばれる金属酸化物の一方又は両方を、層Bに対して0重量%~20重量%の割合(総割合)で含む混合層として意図する場合、鉄(III)塩に加えて、例えば、AlCl3及び/又はTiOCl2を、Al2O3及びTiO2各々の前駆体化合物として、使用することができる。
【0037】
本発明の製造方法を用いると、被覆基板プレートレットを、簡易な方法で大量に再現性良く製造することができる。高い品質(均質なフィルム状)を有する個々の被膜によって、完全に被覆された顔料粒子が得られる。
【0038】
本発明の金属効果顔料は、毒物学的/微生物学的によくないものでなければ、化粧品において有利に使用することができる。ここでは、主に、マニキュア液、リップグロス、アイシャドウ、口紅といった幅広い用途が可能である。更に可能な用途としては、例えば、シャンプー及びパウダーが挙げられる。
【0039】
効果を高めるために、本発明の顔料を、有機染料又は無機染料と混合することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明の金属効果顔料の通常の層構造を示す図である(原寸に比例していない)。
【
図2】本発明の金属効果顔料、すなわち、本発明の顔料(顔料構造:基板が、層厚約25nmのDecomet(VMPアルミニウムプレートレット)であり、その上に約60nmのSiO
2層、及び最後に約45nmのFe
2O
3層を有しており、例えば更なるSiO
2被膜等の更なる被膜は有さず、表面改質されていない)のSEM断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下の例によって、本発明を更に説明するが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
本発明の顔料は、Decomet(VMPアルミニウム)を基板とし、本発明の範囲内の層厚を有するSiO2を層Aとし、本発明の範囲内の層厚を有するFe2O3を層Bとするものである。
【0043】
実施例
(1)約1.6%のAl2O3を含む本発明の顔料
(2)本発明の顔料
(3)約6%のTiO2を含む本発明の顔料
(4)約1.6%のAl2O3を含む本発明の顔料+SiO2(層C、算術厚み16.5nm)
(5)約1.6%のAl2O3を含む本発明の顔料+SiO2(層C、算術厚み26.5nm)
【0044】
比較例
(6)4.5%の黄色顔料Helio Beit UN 210を含むMerck Iriodin 9602
(7)Merck Iriodin 9602
(8)4%の黄色顔料Helio Beit UN 210を含むAlustar 10200
(9)10%の黄色顔料Helio Beit UN 210を含むAlustar 10200
(10)顔料21 YY(Schlenk Metallic Pigments GmbH社のZenexo GoldenShine)
(11)1%のHelio Beitカーボンブラック(カーボンブラック分散液)を含む顔料21 YY
(12)10%のIriodin 119を含む顔料21 YY
(13)20%のIriodin 119を含む顔料21 YY
(14)50%のIriodin 119を含む顔料21 YY
(15)1.5%のTiO2を含む顔料21 YY
【0045】
実施例の製造
まず、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)を使用したゾル-ゲル法によって、AlプレートレットをSiO2で被覆した(例えば、国際公開第2015/014484号参照)。
【0046】
続いて、15gのアルミニウム含量に相当する量の懸濁液を2L容のビーカーに入れる。懸濁液は、900gまで水道水で構成されている。合成開始時に、わずかに酸性化を行う。次いで、FeCl3溶液の添加を開始し、アルカリ性溶液、例えば、KOH、NaOH、Ca(OH)2、又はNH3の添加により、pHを一定に保つ。合成終了時に、攪拌しながらpHを上昇させる。続いて、沈降後、得られた顔料を濾過により分離し、乾燥させ、続いてか焼する。
【0047】
上述の実施例及び比較例における層厚及び色彩データを、以下の表に示す。
【0048】