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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】化学分析装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/22 20060101AFI20231204BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20231204BHJP
   H01J 49/00 20060101ALI20231204BHJP
   H01J 49/26 20060101ALI20231204BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
G01N1/22 J
G01N27/62 F
H01J49/00 310
H01J49/26
H01J49/04 270
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021513371
(86)(22)【出願日】2019-05-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 US2019031328
(87)【国際公開番号】W WO2019217560
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】62/668,493
(32)【優先日】2018-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520435429
【氏名又は名称】インフィコン インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ケネス シー.ライト
(72)【発明者】
【氏名】ジェイミー エル.ウィンフィールド
(72)【発明者】
【氏名】ピーター サンタリーロ
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-538564(JP,A)
【文献】国際公開第2018/037491(WO,A1)
【文献】特開2016-156834(JP,A)
【文献】特表2007-535097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
G01N 27/60-27/70
G01N 27/92
H01J 40/00-49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の化学分析のための装置において、
前記装置は、
前記装置の内部チャンバを有するハウジングと、
試料を前記内部チャンバに導くための前記ハウジングの入口と、
前記内部チャンバ内で部分的真空を形成するように前記ハウジングに接続されているポンプと、
前記試料の異なる成分に対する反応時間が異なる複数の膜であって、第1の膜及び第2の膜を備える複数の膜と、
前記複数の膜との相互作用後に前記試料の異なる成分を検出するための検出器とを備え、
前記第1の膜と前記第2の膜とは、前記試料の流路によってつながっており、
前記ハウジングの前記入口は、前記試料を前記複数の膜へ導き、
前記検出器は、予備的な結果を判定するために前記試料が前記複数の膜のうちの第1の膜と相互作用した後と、最終的な結果を判定するために前記試料が前記複数の膜のうちの第2の膜と相互作用した後に、前記内部チャンバの中で分析物を連続的に検出するように構成されている、試料の化学分析のための装置。
【請求項2】
前記検出器は質量分析計を備え、イオン源が前記内部チャンバ内に配置される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記複数の膜の少なくとも1つの膜は、前記入口と前記内部チャンバとの間に配置された平坦な部分を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記複数の膜が第3の膜を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記複数の膜が、前記試料に逐次的に露出される、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記複数の膜が、並行して前記試料に露出される、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記複数の膜が、特定の質量電荷比を有する複数の成分に対して異なる反応時間を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記装置は、前記異なる成分の異なる反応時間を促進するための加熱要素をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記異なる成分が異なる分子を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記検出器は、前記試料が前記複数の膜のうちの第1の膜と相互作用した後に、前記試料の第1の検出を実行して予備的な結果を判定し、前記予備的な結果が結果の可能性を示す場合には、前記試料が前記複数の膜のうちの第2の膜と相互作用した後に、前記試料の第2の検出を実行して最終的な結果を判定する、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記第1の膜及び前記第2の膜のうちの少なくとも1つが管状部分を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記装置は、前記第1の膜から前記第2の膜への流路に沿ってバルブを備え、
前記バルブは、前記試料の分離を促進するために一定期間の後に前記試料の前記複数の膜への流れを停止させるように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記第1の膜は、前記第2の膜とは異なる組成、異なる厚さ、又は、異なる形状を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記装置は、前記複数の膜のうちの少なくとも1つの膜の近傍に配置された少なくとも1つの加熱要素であって、前記少なくとも1つの加熱要素は、前記異なる成分の異なる反応時間を促進するように前記複数の膜のうちの少なくとも1つの膜を加熱するように構成される、少なくとも1つの加熱要素を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項15】
試料の化学分析のための方法において、前記方法は、
試料の異なる成分に対して異なる反応時間を有する複数の膜へ試料を導くステップと、
前記試料の分離を促進するために一定期間の後に前記試料の前記複数の膜への流れを停止させるステップと、
前記複数の膜の異なる反応時間のために前記試料の前記異なる成分を分離させるステップと、
前記複数の膜で分離させた後に気体の異なる成分を検出するステップとを備え、
前記複数の膜へ試料を導くステップは、第1の時間において前記複数の膜のうちの第1の膜に前記試料を導き、前記第1の時間後に第2の時間において前記複数の膜のうちの第2の膜に前記試料を導くステップを備え、
前記方法は、前記第1の時間において前記複数の膜のうちの前記第1の膜に前記試料を導いた後に予備的な結果を検出するステップと、前記予備的な結果が結果の可能性を示す場合には、前記第2の時間において前記複数の膜のうちの前記第2の膜に前記試料を導いた後に最終的な結果を検出するステップをさらに備える、試料の化学分析のための方法。
【請求項16】
前記試料の異なる成分を分離させるステップが、前記試料の流れを開始させるステップと前記試料の流れを停止させるステップをさらに備える、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記複数の膜へ試料を導くステップは、同時に前記複数の膜に前記試料を導くステップを備える、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
試料の化学分析のための方法において、前記方法は、
試料の異なる成分に対して異なる反応時間を有する複数の膜へ試料を導くステップと、
前記試料の分離を促進するために一定期間の後に前記試料の前記複数の膜への流れを停止させるステップと、
前記複数の膜の異なる反応時間のために前記試料の前記異なる成分を分離させるステップと、
前記複数の膜で分離させた後に気体の異なる成分を検出するステップとを備え、
前記方法は、予備的な結果を判定するために前記試料が前記複数の膜のうちの第1の膜と相互作用した後と、最終的な結果を判定するために前記試料が前記複数の膜のうちの第2の膜と相互作用した後に、内部チャンバの中で分析物を連続的に検出するステップをさらに備える、試料の化学分析のための方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2018年5月8日出願の米国仮特許出願第62/668,493号について優先権を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0002】
本出願は、一般に、化学分析器などの分析システムに関し、特に、迅速反応質量分析技術に関する。
【背景技術】
【0003】
従来の化学分析装置の限界の1つは、固定設備を必要とするため、空港、ビルなどの監視区域に存在する可能性のある潜在的に危険な化学物質を迅速に評価できるようにするために、現場で容易に展開できないことである。従来の技術の別の限界は、技術が完全に完了するのにかなりの時間を要する単一のプロセス(monolithic process)で生じるため、分析を迅速に行うことができないことである。従来の技術のさらなる限界は、例えば、質量分析の下で分析されるとき、特定の異なる分子が同じプロファイルを有し、かつ互いに容易に区別されず、特定の標的分子についてスクリーニング又はモニタリングするときに潜在的な誤検出をもたらすという事実に関する。
【発明の概要】
【0004】
本発明の化学分析の方法及び装置を示す。本発明の一態様では、試料の化学分析のための装置は、ハウジングと入口とポンプと複数の膜と少なくとも1つの検出器とを備える。ハウジングは、装置の内部チャンバを備える。ハウジングの入口は、試料を内部チャンバに導く。ポンプは、内部チャンバ内に部分的真空を形成するようにハウジングに接続されている。複数の膜は、試料の異なる成分に対して異なる反応時間を有する。複数の膜は、少なくとも第1の膜及び第2の膜を備える。第1の膜及び第2の膜のうちの少なくとも1つの膜は、管状部分を備える。複数の膜は、試料の異なる成分に対して異なる反応時間を有する。検出器は、複数の膜との相互作用後に試料の異なる成分を検出するためのものである。
【0005】
本発明の別の態様では、試料の化学分析のための方法が提供される。第1のステップは、試料の異なる成分に対する異なる反応時間を有する複数の膜に試料を導くステップを備える。第2のステップは、複数の膜の異なる反応時間によって試料の異なる成分を分離させるステップを備える。第3のステップは、複数の膜で分離させた後、気体の異なる成分を検出するステップを備える。
【0006】
本発明のさらなる態様では、試料の化学分析のための装置は、ハウジングと入口とポンプと複数の膜と少なくとも1つの検出器と少なくとも1つの加熱要素とを備える。チャンバは試料を受け取るためのものである。複数の膜は、試料の異なる成分に対して異なる反応時間を有する。複数の膜は、少なくとも部分的にチャンバ内に配置される。検出器は、チャンバ内において、複数の膜との相互作用の後に試料の異なる成分を検出するために配置される。検出器は、質量分析計を備える。少なくとも1つの加熱要素は、複数の膜のうちの少なくとも1つの膜の近傍に配置される。少なくとも1つの加熱要素は、異なる成分の異なる反応時間を促進するために、複数の膜のうちの少なくとも1つの膜を加熱するように構成される。
【0007】
上記の実施形態は、単に例示的なものである。他の実施態様は、開示された主題の範囲内である。
【0008】
発明の特徴が理解できるように、発明の詳細な説明は、特定の実施例を参照して行うことができ、そのいくつかは添付図面に図示されている。しかしながら、図面は、本発明の特定の実施例のみを図示しており、従って、開示された主題の技術的範囲については、他の実施例をも包含するため、その技術的範囲を限定するものとは考えられるべきでないことに留意されたい。図面は必ずしも縮尺通りではなく、一般に本発明の特定の実施形態の特徴を示すことに重点が置かれている。図面では、種々の図を通して類似の部品を示すために同様の数字が使用されている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本明細書に記載される態様による、例示的システムの模式図である。
図2図2は、本明細書に記載される態様による、例示的システムの模式図である。
図3A図3Aは、本明細書に記載される態様による、化学物質を分析するための例示的方法のフローチャートである。
図3B図3Bは、本明細書に記載される態様による、化学物質を分析するための例示的方法のフローチャートである。
図3C図3Cは、本明細書に記載される態様による、化学物質を分析するための例示的方法のフローチャートである。
図3D図3Dは、本明細書に記載される態様による、化学物質を分析するための例示的方法のフローチャートである。
図3E図3Eは、本明細書に記載される態様による、化学物質を分析するための例示的方法のフローチャートである。
図4図4は、本明細書に記載される態様による、膜アセンブリの図である。
図5図5は、本明細書に記載される態様による、2つの膜アセンブリの図である。
図6図6は、本明細書に記載される態様による、膜アセンブリの図である。
図7図7は、本明細書に記載される態様による、化学分析器の出力のグラフである。
図8図8は、本明細書に記載される態様による、化学分析器の出力のグラフである。
図9図9は、本明細書に記載される態様による、化学分析器の出力のグラフである。
図10A図10Aは、本明細書に記載される態様による、化学分析器の出力のグラフである。
図10B図10Bは、本明細書に記載される態様による、化学分析器の出力のグラフである。
図11A図11Aは、本明細書に記載される態様による、化学分析器の出力のグラフである。
図11B図11Bは、本明細書に記載される態様による、化学分析器の出力のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
開示された主題の実施形態は、化学分析のための技術を提供する。他の実施態様は、開示された主題の範囲内である。
【0011】
本発明は、部分的に、空気中に10億分の一又は1兆分の一濃度で存在する、化学兵器などの潜在的に危険な気体又は揮発性有機化合物を迅速に検出する技術及びシステムを提供する。当然、本技術は、化学兵器の検出に限定されず、有害化学物質を伴う工業的及び他の用途で使用され得る。例えば、VX神経ガス、サリン、ホスゲン、マスタードガス、塩素、シアン化物化合物などは、本明細書に記載の技術を用いて迅速に検出され得る全ての対象の化学物質である。
【0012】
本出願人は、特定の膜が異なる分子との相互作用の時間が異なることを発見し、化学分析器が1つ以上の上記の特定の膜を備えるように構成されている場合、異なる分子はある程度の時間の分離で膜を通過することができる。この時間的分離は一般に完全ではないが、膜によって十分な分離がもたらされ、その結果、質量分析又は他の検出器技術を用いて、気体の成分を10億又は1兆分の一の濃度まで迅速に識別することができる。以下に説明するいくつかの例では、膜との物理的分離は、分析技術と組み合わせで使用することができる。
【0013】
一般に、本明細書において一態様で提供される、試料の化学分析のための装置は、ハウジングと入口とポンプと複数の膜と少なくとも1つの検出器とを備える。ハウジングは、装置の内部チャンバを備える。ハウジングの入口は、試料を内部チャンバに導く。ポンプは、内部チャンバ内に部分的真空を形成するようにハウジングに接続されている。複数の膜は、試料の異なる成分に対して異なる反応時間を有する。複数の膜は、少なくとも第1の膜及び第2の膜を備える。第1の膜及び第2の膜のうちの少なくとも1つは、管状部分を備える。複数の膜は、試料の異なる成分に対して異なる反応時間を有する。検出器は、複数の膜との相互作用後に試料の異なる成分を検出するためのものである。一実施形態では、検出器は、質量分析計を備える。別の実施形態では、装置は、試料を複数の膜に導くためのチャンバをさらに備える。
【0014】
例示的な実施形態において、複数の膜は、逐次的に試料に露出される。別の実施形態において、複数の膜は、並行して試料に露出される。なおさらなる実施形態において、複数の膜は、特定の質量電荷比を有する複数の成分に対して異なる反応時間を有する。
【0015】
一実施形態では、装置は、異なる成分の異なる反応時間を促進するために、加熱要素をさらに備える。別の実施形態では、異なる成分は、異なる分子を備える。さらなる実施形態では、検出器は、予備的な結果を判定するために、複数の膜のうちの第1の膜と相互作用した後に試料の第1の検出を実行し、予備的な結果が結果の可能性を示す場合には、複数の膜のうちの第2の膜と相互作用した後に試料の第2の検出を実行し、最終的な結果を判定するように構成される。
【0016】
特定の実施では、装置は、ワンドなどの手持ち式構造体を備え、ワンドは、チャンバ、膜、検出器、加熱要素、バッテリ、マイクロコントローラなどを備える。このような場合、ワンドの入口により、(例えば、ワンドを空気中で波動又は保持することによって収集される)試料の第1の分析が可能となり、この第1の分析は、迅速に行われる。この例では、第1の分析で有害分子などの特定の分子の存在が除外される場合がある。この場合、分析は完了である。しかしながら、第1の分析は、ある分子の潜在的な存在を示すことができ、次いで、第2の分析は、入口(又は別の入口)によって待たされ、空気が分析前により長い時間を要する第2の膜と相互作用することを可能にする。このような2段階(又は、一般化するとn段階)の分析は、手持ち式の化学分析装置の操作者が、領域又は標的を迅速にスクリーニングするのを容易にすることができる。
【0017】
別の態様では、試料の化学分析のための方法が提供される。第1のステップは、試料の異なる成分に対する異なる反応時間を有する複数の膜に試料を導くステップを備える。第2のステップは、複数の膜の異なる反応時間で試料の異なる成分を分離させるステップを備える。第3のステップは、複数の膜で分離させた後に気体の異なる成分を検出するステップを備える。
【0018】
本方法の一実施形態では、試料の異なる成分を分離させるステップは、試料の流れを開始させるステップ及び停止させるステップを備える。別の実施形態では、試料を導くステップは、第1の時間において複数の膜のうちの第1の膜に試料を導くステップと、第1の時間の後に第2の時間において複数の膜のうちの第2の膜に試料を導くステップとを備える。さらなる実施形態において、本方法は、さらに、第1の時間において複数の膜の第1の膜に試料を導いた後に予備的な結果を検出するステップを備え、予備的な結果が結果の可能性を示す場合には、第2の時間において複数の膜の第2の膜に試料を導いた後に最終的な結果を検出するステップを備える。一例として、試料は、同時に又は逐次的に複数の膜に導かれうる。
【0019】
さらなる態様では、試料の化学分析のための装置は、ハウジングと入口とポンプと複数の膜と少なくとも1つの検出器と少なくとも1つの加熱要素とを備える。チャンバは試料を受け取るためのものである。複数の膜は、試料の異なる成分に対して異なる反応時間を有する。複数の膜は、少なくとも部分的にチャンバ内に配置される。検出器は、チャンバ内に配置され、複数の膜との相互作用の後に試料の異なる成分を検出するために配置される。検出器は、質量分析計を備える。少なくとも1つの加熱要素は、複数の膜のうちの少なくとも1つの近傍に配置される。少なくとも1つの加熱要素は、異なる成分の異なる反応時間を促進するために、複数の膜のうちの少なくとも1つの膜を加熱するように構成される。異なる例では、複数の膜は、逐次的又は並行して試料に露出される。実施される時、複数の膜は、特定の質量電荷比を有する複数の成分に対して異なる反応時間を有しうる。
【0020】
図1は、膜アセンブリ60が、ハウジングの入口側に配置されたイオン源82を備える化学分析器ハウジング84の入口に配置されたシステムを概略的に示す。ハウジング84の内部は、例えばポンプによって真空にすることができる。イオン源は、電子(e-)の流れを生成するためのフィラメント(図示せず)又は他の手段を備え、これらの手段は、試料気体83と共にイオン化容積又はチャンバに注入される。試料気体は、化学分析器ハウジング84の入口30において膜アセンブリ60を通過する分析物を含む。試料気体83の流入分子との電子による衝撃によって、四重極質量フィルタなどの質量分析計質量フィルタ86に加速される正イオン85の形成を生成する。質量分析計質量フィルタ86では、質量が、ハウジング84の入口30とは反対側の端部に配置される、電子増倍管又はファラデーカップを有するイオン検出器81などのセンサによって検出するために走査される。
【0021】
種々の態様において、異なるバルブを膜アセンブリ61の内部又は近傍に配置して、分析物を含む試料気体83、又は、分析物を含む混合物又は組成物を膜アセンブリ60に適用できるようにすることができる。この気体の供給は、物質を膜60に向けて押すために正圧をかけるか、又は物質を膜60にわたって引っ張るために負圧をかけるようになっているポンプを備えうる。
【0022】
一例では、気体83の対象となる分析物は、バルクガス(例えば、空気)又は液体(例えば、水)よりも膜60に溶解性のある非極性分子である物質である。したがって、気体83は、元の試料よりもはるかに高い分析物の濃度を有する。
【0023】
例として、「Dow Corning(商標)」「Silastic(商標)」のQ7-4750の生物医学/医薬等級の白金硬化シリコーン物質を膜として使用することができる。
【0024】
例として、異なる分子に対して異なる透過速度を有する異なる膜を、個々に又は組み合わせて使用することができる。複数の膜を使用することによって、別の物質と比較して1つの物質を使用することでより良好な分離が達成され得る。さらに、本明細書に記載されるシステムの多重膜実施形態において、第1の膜物質を通る速度は、第2の膜物質を通る速度と比較することができる。このような場合、2つの異なる膜を通過する際の相対的な速度差が分子の明確化に役立ち、分子を他の化学物質からのバックグラウンドノイズから分離させることができる。
【0025】
分離のための一つの目標は、膜への新しい試料の流れを停止させることであることに留意されたい。流れを停止させた後、存在する気体が、膜の組成、厚さ、及び物理的幾何学に依存し得る、それ自体の速度で1つ以上の膜を通過する。一方、試料の流れが停止されなければ、膜に到着した新しい試料は、膜を通って流れ続けるだけであり、時間的な分離は達成されないであろう。
【0026】
多くのスキームでPDMS膜物質を使用し、非極性分子は迅速にPDMS膜物質を通過し、極性分子は通過しない。
【0027】
図1を参照すると、膜60はチャンバを通過する管であり、これは、例えば、低圧で送られる。試料用ポンプは、キャリア流体の流れを管を通して引き出し、キャリア流体は、分析物を輸送する。このシステムは、有利には、多くの汚染物質を管の入口で捕捉することを可能にし、その結果、分析物が入口の下流側の管の部分を通って流れうる。一部の分析物は、膜60を通って真空チャンバに入り、検出器81によって検出される。代表的な検出器としては、(例えば、飛行時間、四重極質量センサ、イオントラップ、又は、磁場型の)質量分析計、光イオン化検出器、(例えば、蛍光、吸光度測定、又はラマン散乱を検出するための)光学検出器、金属酸化物センサ、及び、水晶振動子マイクロバランスが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかのセンシング技術では、チャンバのハウジング内に真空を採用しており、採用していないものもある。ハウジング84の内部の大気組成及び圧力は、検出されるべき分析物と検出器の動作に基づいて選択することができる。種々の態様では、MIMSシステムは連続プロセスモニタリング(CPM)における検出ユニットとして使用される。システムは、入口の代わりに、監視されるべきプロセスにおけるチャンバ又は装置に取り付けられる。膜は、チャンバ又は装置内の流体(例えば、気体)に直接的に露出される。
【0028】
膜60を加熱するために、ヒータ83を配置することができる。例えば、ヒータ83は、LED又はダイオードレーザからの(例えば、赤外線)光子を膜60に照射することができる。これによって、膜によって優先的に吸収される波長を採取し、非接触でそうすることによって、膜のみを加熱することができる。(膜と直接的な接触する熱質量がない)急速な加熱・冷却を行うことができる。ダイオード又は他の放射線源は、真空システム又はチャンバ内に配置することができる。任意の数の放射線源、例えば、比較的に強力な1つの放射線源、又は、比較的に強力でない多くの放射線源を使用することができる。特に、利点として、複数の膜を使用することで、誤検出の事象の数を直接的に減らし、同時に、所与の領域を通過させるのに必要な総検出時間を減らすことである。
【0029】
次に図2を参照しつつ、2つの膜システム200を説明する。図示されるように、第1の薄膜261及び第2の膜260は、システム200内に展開されている。一例では、バルブ(図示せず)を膜261から膜260への流路に沿って展開することができ、その結果、一度に1つの膜のみが試料に露出される。他の例では、両方の膜が同時に試料と流体連通しうる。図2の例では、任意の第2の入口30’が鎖線で示されており、これによって、この鎖線によれば、試料を両方の膜260及び261に並行して導くことが可能であろう。この代替の実施形態は、入口が最初に試料を薄膜260に導いて次に試料を薄膜261に導く直列配列ではなく、試料を両薄膜へ並行して導くのを容易にするであろう。
【0030】
他の例としては、ポンプ及び/又はバルブのシステムを介して接続される3つ、4つ、5つ、又はそれ以上の異なる膜が挙げられ得る。これらの膜は、異なる化学組成及び厚さを有してもよく、異なる化学物質の分離を助けるように設計されうる。これらの膜は、連続的であってもよく、又は、試料入口と並列としうる。これらの膜は、膜261などの平坦な薄膜とし、又は、膜260などの管状の膜としうる。動作概要としては、図1又は図2のいずれかに記載されたシステムは、大気を吸気するためのワンドを有する携帯型の試験セット内で展開されうる。このような場合、ワンドは、大気試料を膜に搬送するための吸入ポートを備えうる。当業者であれば、1つ又は複数のバルブ及び/又はポンプをシステム内に展開し、気体が膜の1つ又は複数に衝突できるようにしうることを容易に理解するであろう。
【0031】
図3A~3Eは、本明細書に記載される態様による、化学物質を分析するための例示的方法のフローチャートである。図3Aを参照すると、方法300Aは、図1で説明した単一の膜システムを使用する。方法300Aが開始した後、ブロック304において、混合物が膜に連続的に適用される。混合物は、例えば、分離のための複数の化学成分を含みうる。次に、ブロック306において、質量分析計などの検出器は、チャンバ内の分析物を測定する。例えば、通常の大気化合物を超えるものが存在しないと仮定すると、システムは、さらなる分析が不要であると判断することができ、ブロック308では分離を開始せず、ブロック318では、試料気体中の分析物を判定し、ブロック320では、ブロック304に戻ることによって測定を継続する。
【0032】
図3Aの別の例では、ブロック308において、試料気体が膜に連続的に適用されている間の予備測定に基づいて、方法300Aは、分離が必要であると判断することができる。例えば、いくつかの揮発性有機化合物の存在を示すのに十分な信号が検出され得る。ブロック308において分離が必要とされると、ブロック310において、試料の膜への流れは、例えば、バルブを使用して停止させられる。ブロック310で試料の流れを停止させることにより、何れの試料も、システム内に既に存在し、膜は、1秒以上の期間にわたって、膜を通過して、検出器に至ることができる。
【0033】
さらなる例では、ブロック312において、方法300Aは、試料を加熱することが望ましいと判断することができる。例えば、ブロック306における予備測定は、膜の加熱によってさらに時間的分離がされ得る、いくつかの対象の分析物の見込まれる存在を示し得る。次に、ブロック314において、試料及び/又は膜に熱が加えられる。他の実施形態では、ブロック312とブロック314を逆にすることができ、試料の流れが停止させられる前に加えられる熱は、試料中の分析物の分離を補助するために膜をどの程度速く加熱することができるかに依存しうることに留意されたい。
【0034】
図3Aの方法300Aを参照すると、ブロック316において、検出器は、チャンバ内の分析物を測定しうる。以下にさらに詳細に説明するように、この測定ステップは、(場合によっては、加熱されるか、又は非加熱のいずれかの)膜によって引き起こされる時間的分離の利益を有する。したがって、ブロック318では、分析物の判定が可能であり、及び/又は、分離を伴わない場合よりもより正確になり得る。
【0035】
図3Bは、第1の(例えば、代替の)膜261(図2)並びに膜260(図2)を有する、図2のシステム200を使用する方法300Bを示す。このような場合、方法300Bのブロック330では、試料混合物が代替薄膜261に適用される。例えば、膜261は、膜260と同じ組成(又は異なる組成でさえ)のより薄い膜であり得、したがって、混合物のより少ない全体的な時間的分離を可能にし得るが、はるかに速い速度としうる。次いで、ブロック332では、分析物はチャンバ内で測定され、薄膜261は、気体の化学組成を99%の信頼度で判定するのに十分な分解能を提供できない可能性があるが、薄膜260の使用を開始させるのに十分な情報が存在するであろう。そのような場合、ブロック334では、方法はブロック308に進み、本方法は、図3Aに関して前述したように、ブロック310~320に続く。特に、迅速反応検出モードの間、システムは、より薄い膜261を使用して、ブロック330~334を連続的にループし、さらなる作用が必要であることの表示を探すことができる。例えば、システムは、何もないことを示す低音量のビープ音を発するワンド内に配置されうる。そのような場合、(ブロック332において)特定の化学物質の可能性が検出されると直ちに、ワンドは、そのスポットにワンドを保持すべきであること、及び、その方法が分離及び分析を開始していることを示す、より大きなビープ音を利用者に発することができる。
【0036】
図3Cを参照すると、方法300Cのさらに別の実施形態は、方法300A(図3A)又は方法300B(図3B)に関して上述したように、開始してブロック304~308に進むが、ブロック308における分離の必要性の判定において異なる。図示の実施形態では、方法300Cは、ブロック340において、次いで、ブロック340において使用されるいくつかの異なる分離膜のうちのどれかを判定する。次いで、バルブ及び/又はポンプを使用して、方法300Cは、ブロック342において、気体試料混合物を選択された又は選ばれた膜に適用する。例えば、ブロック306で実施される初期の予備的分析に基づいて、システムは、ありうる化学成分をより小さなサブセットに絞り込み、次いで、ありうるサブセットを、それらの化学成分の分離により適しておりかつ加熱を可能にすることができるか又は可能でない特定の膜にマッピングすることができる。続いて、方法300Cは、方法300A(図A)又は方法300B(図B)に関して上述したように、ブロック312~320に進む。
【0037】
別の例では、図3Dは、開始して、次いで、ブロック350において、試料気体混合物を代替センサに適用する、方法300Dを開示する。例えば、代替センサは、異なる質量分析計であってもよく、又は、イオン移動度分光計であってもよく、又は、気体又は流体中に存在する化学種を判定するための任意の他の分析センサとしうる。説明として、前述したように、本明細書に開示される多段式のシステムは、後続のより正確な検出器を開始させるための初期試験又は予備試験を可能にする。有利には、異なる検出器の組合せにより、より迅速な全体的検出が可能になる。次に、方法300Dは、ブロック352において、代替センサからの信号を分析し、ブロック334に進んで分離を開始させ、方法300B(図3B)に関して上述したように、ブロック304~320に進む。
【0038】
自動化化学分析の異なる実施において、図3Eは、ブロック360で所定の分離の予定を決める方法300Eを示す。例えば、方法300Eは、ブロック362において、試験が数秒、分又は時間ごとに開始させられる状態で、大気環境又は試験環境を定期的にサンプリングしうる。その後、方法300Eは、方法300A(図3A)、方法300B(図3B)、方法300C(図3C)、又は方法300D(図3D)のいずれかに関して記載されるように、ステップ304~320を進む。
【0039】
図4は、フランジ410と管の形態の膜420とを備える膜アセンブリの画の図である。膜420は、入口430においてフランジ410を通っている。本開示全体を通して「入口」という用語の使用は、入口430を通る流れの方向を制限せず、入口430は、流体を膜420内に受け入れることができ、又は、流体を膜420から出すことができる。膜420は、図示のようにループ状に、又は、直線状に、又は、別の構成で配置することができる。
【0040】
図5は、異なる膜420、520を使用する2つの膜アセンブリの画の図である。それぞれが、フランジ410、510及び入口430、530を有する。
【0041】
図6は、フランジ610を備える膜アセンブリの画の図である。フランジを通して、6つの入口530が配置され、そのうちの1つは管に接続され、4つは蓋で覆われている。図示のように、入口530は、異なるサイズとしうる。6つの入口530は、例えば、3つの異なる膜管(例えば、管420、520、図5)を支持することができる。入口530の直径と膜520の直径は、同じである必要はない。種々の態様では、フランジ、膜、又は、フランジのアセンブリ、及び、1つ又は複数の膜は、ライン交換可能ユニット(LRU)である。すなわち、修理のためにシステムを工場に送り返すことなく、それらを交換することができる。
【0042】
図7は、化学分析器(例えば、図2のシステム200)の出力の経時的なグラフ700であり、一般的な用語で挙動を説明するために単一の分析物で図2のシステム200を使用する実験結果を実証する。図7の例では、ブロック710において、例えばループ状膜に試料が適用される。次に、ブロック720において、試料の流れが停止させられる。図から分かるように、ブロック720で流れが停止させられた後、試料信号は、試料が膜から出現する時に立ち上がり始め、ピークに達し、再び低下する。次に、ブロック730において、試料は、薄膜261(図2)及びループ状膜260(図2)の両方に適用される。すぐに信号が立ち上がる。続いて、ブロック740で流れが停止させられ、分析物が膜から溶出し、信号がピーク701まで上昇するにつれて、遅延反応が存在し、次いで、信号が減衰する。
【0043】
図8は、2つの化学化合物が適用される、化学分析器(例えば、図2のシステム200)の出力の経時的なグラフ800である。トルエンが曲線801で示され、リン酸トリエチル(TEP)が曲線802で示されている。ブロック810では、両方ともシステム200に適用され続ける。トルエンは膜をより速く通過するので、急な山形が見られる。次に、ブロック820において、流れは停止させられる。さて、ブロック830では、TEP信号は、膜から出る時に立ち上がり、トルエン信号が低下する。
【0044】
図9は、2つの化学化合物が適用される、化学分析器(例えば、図2のシステム200)の出力の経時的なグラフである。ブロック910では、トルエン(100万分の16.4)とサリチル酸メチル(100万分の1.4)の二成分混合物がシステム200に流れ込む。曲線901はトルエン信号を示し、曲線902はメチルサリチル酸信号を示す。図から分かるように、トルエン信号が急速に上昇し、ブロック920で検出を見込むことができる。時刻t0までにトルエン信号は減少する。ブロック930において、試料の流れは停止させられる。時間t1までにトルエン信号は減少し、時間t2にメチルサリチル酸信号はピークを示す。
【0045】
次に、図10A~11Bを使用して、時間的分離を分析アプローチ(例えば、アルゴリズム)と組み合わせて、混合気体中に存在する化学物質のより正確な識別を達成できることを示す。
【0046】
本明細書に記載される技術によって解決される別の問題を実証するために、図10Aは、3つの化学化合物が適用される、化学分析器(例えば、図2のシステム200)の出力の経時的な理想化された概念のグラフ100Aである。この概念のグラフ100Aにおいて、理想化された検出は、化合物A、B及びCがそれぞれ信号101、102及び103で特徴付けられることが明らかとなる。当然、単一の信号(例えば、圧力)が測定されている場合には、これらの3つの別個の信号101~103は明確ではなく、代わりに1つの信号に合併されることになる。図10Bは、図10Aの例を示しており、ここでは、信号は全て合併されている。グラフ100Bでは、化合物A、B及びCが結合して単一の信号104を生じる。本明細書に記載される技術は、この課題を解決し、図10Bの結合された信号104の絡まりを解いて(de-convolute)、図10Aの個々の信号101~103を明らかにすることを可能にする。
【0047】
図11A~11Bは、図10A~10Bと同様に、質量分析計の出力のグラフであり、Y軸は信号強度を示し、X軸は単位電荷あたりの質量を原子質量単位(m/z、単位amu)で示す。図11Aは、対象となる一例の化学物質Aのプロファイル110Aを示す。この例では、化学物質Aは、線111の30%、線112の12%、線113の25%、線114の10%からなる測定値を特徴とする。
【0048】
しかしながら、化学物質Aが化学物質A、B及びCの混合物中に存在する場合、質量分析計の出力は、図2のシステム200を通して送られ、上述のようにその膜を用いて分離された後、図11Bに示されるようなプロファイル110Bを示すことができる。このような場合、更なる分析的分離又はアルゴリズム的分離は、以下のように展開することができる。プロファイル110Bでは、化学物質Aについてのプロファイル110Aに記載されている線111~114に加えて、線115及び線116も同様に存在する。さらに、異なる線111~116の相対的な信号強度は、異なる化合物によるものとしうる。例えば、図11Bでは、線115は化学物質Cのみを示し、線111は化学物質AとCの組合せを示し、線112は化学物質AとBの組合せを示し、線116は化学物質BとCの組合せを示し、線113は化学物質Aのみを示し、線114は化学物質Cのみを示し、線117は化学物質Bのみを示す。
【0049】
分離に対するアルゴリズム的アプローチは以下の通りである。質量分析計から収集されたデータは、典型的には、時間にわたる繰り返し走査から成り、ここで、各走査は、質量対電荷m/zの強度の配列である。分光計は、濃度が連続的に変化する分子片に露出されると、(例えば、図11A~11Bに記載されるように)m/zの強度値の2次元マトリックスを生成する。化合物同定アルゴリズムは、このマトリックスを検査し、特定の標的化学物質の有無を判定する。このタスクは、通常、抽出と検索の2つのサブタスクに分割される。
【0050】
第1のサブタスクでは、データストリームから比較的純粋なスペクトルを抽出する。抽出(デコンボリューション(deconvolution)とも呼ばれる)は、いくつかの異なる分子が同時に分光器に存在する可能性がある場合に必要である。濃度が異なる速度で増加しているものもあれば、減少しているものもあり、比較的安定した背景の一部であるものもある。混合物中の各分子は、そのm/zの特徴において固有の成分を有し得るが、それらは、また、重複するm/z成分を有し得る。抽出で、別々の分子に対応する関連するm/z強度のグループを正しく識別することを意図する。AMDISでどのように抽出を実施するかについては、[Stein 1999]を参照されたい。他のアプローチの例は[Liang 1992]、[Hanato 1992]に記載されている。
【0051】
第2のサブタスクでは、生のデータマトリックスから比較的純粋なスペクトルが抽出され、各未知の抽出されたスペクトルは、既知の参照スペクトルのセット(ライブラリ)と比較される。抽出されたスペクトルは、通常、基準ライブラリ内で正確な一致がないため、未知のスペクトルとライブラリ内の各候補の間で類似度メトリックが計算され、基準スペクトルを最も一致する順にランク付けすることができる。NISTでどのようにライブラリ検索を実施するかについての詳細は[Stein 1994]を参照。
【0052】
本出願では、抽出(又は、デコンボリューション)に対する潜在的に新規なアプローチについて述べる。AMDISによって使用されるような既存のアプローチは、化合物がガスクロマトグラフカラムからどのようにして質量分析計に入るかのコンシステンシーを利用する。GC-MSでは、イオン強度は、高さ、幅、面積、テーリング(tailing)などの測定可能な特性を有するピーク形状に従って、経時的に変化する。しかし、複雑なバックグラウンドが存在するMIMSシステムを通して分光器に入る化合物は、これらの予測可能なピークパターンには従わない。我々のアプローチ(質量/電荷相関クラスタリングに対して仮に「mzcc」と呼ぶ)は、いかなる特定のパターンに従うための強度の変化にも依存しない。
【0053】
アルゴリズム「mzcc」への入力は、3回以上の走査のシーケンスであり、各走査は一連のm/z比の強度を含む。通常、3回以上の走査でより良い結果が得られる。これらの走査の各々は、それらの時間にわたる相対値を比較できるように、同じ質量を測定しなければならない。このアルゴリズムは、例えば、3つのステップを有する。
【0054】
ステップ1では、「境界選択」は、分析する時間間隔を選択する。リアルタイム検出の用途では、これは、通常、利用可能な最近の走査であるため、アルゴリズムは、その分析で考慮すべき時間内に何回の走査を戻すかを単純に決定する必要がある。
【0055】
ステップ2では、「相関測度」は、選択された時間間隔にわたって、各質量と各他の質量の間のピアソン積率相関係数などを計算する。この計算の結果から、各イオンに対する時間の経過に伴う強度の変化が、各他のイオンとどの程度強く相関するかが明らかになる。
【0056】
ステップ3では、「クラスタリング」が、教師なし機械学習のクラスタリングアルゴリズムを使用して、最も密接に関連するものにイオンをグループ化する。この目的に使用できる多くの異なるクラスタリングアルゴリズム、例えば、階層的クラスタリングが存在する。
【0057】
上記の3つのステップは、それぞれ、結果を最適化するために、様々な方法で調整できる。
【0058】
ステップ1では、バックグラウンドの化合物と比較して、標的化合物の存在がどのくらい速く変化すると予想されるかをアルゴリズムは考慮しなければならない。進化する因子分析などの技術が、比較的ノイズの多い又はより安定した領域を識別して分析境界を選択するために使用することができる。経時的に収集されたデータのスキュー調整(Deskewing)は、その後のステップがm/z強度の同時測定の推定値に依存するので重要である。
【0059】
ステップ2では、検討中の質量の数を減らすために、閾値を結果に適用することができる。また、より高い質量の相対的重要度を計量するのに役立つ場合があり、より高い質量よりも低い質量同士の間のより堅い相関を必要とする場合もある。ステップ3で使用した距離メトリックへの相関測度の変換は、結果に影響する場合がある。オプションには、(1-C)又はsqrt(1-C)又はlog(C)又は(1/C)-1の使用が含まれる。
【0060】
ステップ3では、クラスタリングアルゴリズムの選択、並びに、最小クラスタサイズ、要素間の最小距離などのアルゴリズムへのパラメータが、結果に重大な影響を与える可能性がある。ある場合には、単一の質量が、同時に発生する複数の化合物中に存在しうる。例えば、mz127は六フッ化硫黄及びリン酸トリエチル中に存在するが、一方の化合物は濃度が増加し、他方は濃度が減少している可能性がある。この場合、mz127は、他の化合物のいずれかに存在する他の質量とうまく相関しないであろう。「ソフトクラスタリング(soft clustering)」(各要素が必ずしも単一のクラスタにのみ割り当てられるとは限らない)などの技術が役立つ場合がある。また、標的化合物の知識でクラスタリングアルゴリズムに影響を与えることも可能である。
【0061】
以下に挙げる参考文献は、参照により本明細書にその全体を組み込む。
【0062】
Stein氏の1999年の著書である、1999年米国質量分析学会誌、GC/MSデータ、Stephen E.Stein氏によるスペクトル抽出と化合物同定の統合方法。
【0063】
Liang氏の1992年の著書である、推測に基づく進化する潜在的な予測、二方向多成分データの解像、Olav M.Kvalheim氏及びYi Zeng Liang氏の1992年の著書である、分析化学。
【0064】
1992年のHanato氏の著書である、L.W.,Aleme、H.G.,Pedroso、M.P.,Sabin、G.P.,Poppi、R.J.,& Augusto,F(2012)。複雑な試料における分析分離を強化するためのガスクロマトグラフィーと組み合わせた多変量曲線分解能、レビュー。分析化学の公式記録、731頁、11~23行。
【0065】
請求項が、複数の要素を参照して「のうちの少なくとも1つ(at least one of)」と記載する場合において、記載した複数の要素のうちの少なくとも1つ以上を意味するものであり、各要素の少なくとも1つに限定されるものではない。例えば、「A要素とB要素とC要素のうちの少なくとも1つ」は、A要素単独、又は、B要素単独、もしくは、C要素単独、あるいはそれらの任意の組合せを示すものである。「A要素とB要素とC要素のうちの少なくとも1つ」は、A要素のうちの少なくとも1つ、B要素のうちの少なくとも1つ、要素Cのうちの少なくとも1つに限定されるものではない。
【0066】
本明細書の記載は、最良の態様を含む発明を開示し、如何なる当業者も、如何なる装置又はシステムを製作及び使用し、如何なる組み込まれている方法も実行することを含む、発明を実施することを可能にするために例を使用している。発明の、特許を受けることができる範囲は、請求項により定義され、当業者に想到する他の例も含むことができる。そのような他の例は、請求項の文字通りの言葉とは異ならない構造要素を有している場合、又は、請求項の文字通りに言葉とわずかな差しかない等価な構造要素を含んでいる場合は、請求項の範囲であることが意図されている。
【0067】
当業者には理解されるように、本発明の態様は、システム、方法、又はコンピュータプログラム製品として具現化され得る。従って、本発明の態様は、完全にハードウェアの実施形態、(ファームウェア、常駐ソフトウェア、マイクロコードなどを含む)完全にソフトウェアの実施形態、又は、本明細書では全て一般に「サービス」、「回路(circuit)」、「電気回路(circuitry)」、「モジュール」、及び/又は、「システム」と呼ぶことができる、ソフトウェア及びハードウェアの態様を組み合わせた実施形態を取ることができる。さらに、本発明の態様は、その上に具現化されたコンピュータ読み取り可能プログラムコードを有する1つ又は複数のコンピュータ可読媒体内に具現化されたコンピュータプログラム製品の形態をとることができる。
【0068】
1つ又は複数のコンピュータ可読媒体の任意の組合せを利用することができる。コンピュータ可読媒体は、コンピュータ可読信号媒体又はコンピュータ可読記憶媒体としうる。コンピュータ可読記憶媒体は、例えば、これに限定されないが、電子、磁気、光学、電磁気、赤外線、又は半導体システム、装置、又は、器具、又は前述の任意の適切な組み合わせとしうる。コンピュータ可読記憶媒体のより具体的な例(非網羅的なリスト)は、1つ以上の細線、携帯用コンピュータディスケット、ハードディスク、ランダムアクセスメモリ、読出し専用メモリ、消去可能プログラマブル読出し専用メモリ、光ファイバ、携帯用コンパクトディスク読出し専用メモリ、光記憶装置、磁気記憶装置、又は前述の任意の適切な組み合わせを有する電気的接続を備える。本明細書では、コンピュータ可読記憶媒体は、命令実行システム、器具、又は装置によって、又はそれに関連して使用するためのプログラムを備える、又はそれを記憶することができる、任意の有形媒体としうる。
【0069】
コンピュータ可読媒体上に具現化されたプログラムコード及び/又は実行可能命令は、ワイヤレス、有線、光ファイバケーブル、RF等を含むがこれらに限定されない任意の適切な媒体、又は前述の任意の適切な組み合わせを用いて送信することができる。
【0070】
本発明の態様に対する動作を実行するためのコンピュータプログラムコードは、Java(登録商標)、Smalltalk、C++等のオブジェクト指向プログラミング言語、及び「C」プログラミング言語又は類似のプログラミング言語等の従来の手続き型プログラミング言語を含む、1つ以上のプログラミング言語の任意の組合せで書くことができる。プログラムコードは、利用者のコンピュータ(装置)上で、一部は利用者のコンピュータ上で、一部はスタンドアロン型のソフトウェア・パッケージとして、一部は利用者のコンピュータ上で、一部はリモート・コンピュータ上で、全体的にリモート・コンピュータ又はサーバ上で実行されうる。後者では、遠隔コンピュータは、ローカルエリアネットワーク(LAN)又は広域ネットワーク(WAN)を備える任意のタイプのネットワークを介して利用者のコンピュータに接続されてもよく、又は(例えば、インターネットサービスプロバイダを使用してインターネットを介して)外部コンピュータに接続されうる。
【0071】
本発明の態様は、本発明の実施形態による方法、装置(システム)、及びコンピュータプログラム製品のフローチャート図及び/又はブロック図を参照して、本明細書に記載される。フローチャート図及び/又はブロック図の各ブロック、及びフローチャート図及び/又はブロック図におけるブロックの組合せは、コンピュータプログラム命令によって実現され得ることが理解されよう。これらのコンピュータプログラム命令は、汎目的コンピュータ、特殊目的コンピュータ、又は他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサに供給されて、コンピュータ又は他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサを介して実行される命令が、フローチャート及び/又はブロック図ブロック又はブロック図に指定された機能/動作を実行するための手段を作成するように、機械を製造することができる。
【0072】
また、これらのコンピュータプログラム命令は、コンピュータ可読媒体内に記憶された命令が、フローチャート及び/又はブロック図及び/又はブロック図ブロックに指定された機能/行為を実施する命令を備える製造物品を生成するように、コンピュータ、他のプログラム可能なデータ処理装置、又は他の装置を特定の方法で機能させることができるコンピュータ可読媒体内に記憶することができる。
【0073】
また、コンピュータプログラム命令は、コンピュータ、他のプログラム可能なデータ処理装置、又は他の装置にロードして、一連の動作ステップをコンピュータ、他のプログラム可能な装置、又は他の装置に実行させて、コンピュータ又は他のプログラム可能な装置上で実行する命令が、フローチャート及び/又はブロック図ブロック又はブロック図で指定された機能/動作を実行するためのプロセスを提供するように、コンピュータ実施プロセスを生成しうる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B