(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】イリノテカンリポソーム製剤とその製造及び応用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4745 20060101AFI20231204BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20231204BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20231204BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
A61K31/4745
A61K9/127
A61K47/20
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2021522421
(86)(22)【出願日】2019-10-11
(86)【国際出願番号】 CN2019110542
(87)【国際公開番号】W WO2020093836
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2021-06-23
(31)【優先権主張番号】201811305299.6
(32)【優先日】2018-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519053739
【氏名又は名称】杭州高田生物医薬有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】魏 暁慧
(72)【発明者】
【氏名】姜 炳奇
【審査官】篭島 福太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-508313(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0004219(US,A1)
【文献】特表2016-518340(JP,A)
【文献】国際公開第2006/038526(WO,A1)
【文献】Journal of Controlled Release,2006年,Vol.110,pp.378-386
【文献】International Journal of Pharmaceutics,2016年,Vol.512,pp.75-86
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4745
A61K 9/127
A61K 47/20
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イリノテカンリポソームを含むイリノテカンリポソーム製剤であって、イリノテカンとリポソーム担体、及びリポソーム膜内に位置する内水相とリポソーム膜外に位置する外水相を含み、前記イリノテカンは前記内水相中に封入されており、前記リポソーム膜内の内水相と膜外の外水相の間にはスルホン酸塩勾配が存在し、
前記リポソーム膜内の内水相のスルホン酸塩濃度が外水相よりも高く、
前記スルホン酸塩は
ジスルホン酸塩であり、前記ジスルホン酸塩は、エタンジスルホン酸アンモニウム、プロパンジスルホン酸アンモニウム、エタンジスルホン酸トリエチルアミン、及びプロパンジスルホン酸トリエチルアミンのうちの1種又は複数種から選択され
、前記内水相はスルホン酸塩水溶液を含み、前記外水相は生理的等張液であり、
前記内水相中のイリノテカンのカチオンとスルホン酸塩のアニオンにより不溶性塩が形成される、ことを特徴とするイリノテカンリポソーム製剤。
【請求項2】
a.前記リポソームの内水相のpH値は4.0~9.0であり、
b.前記イリノテカンリポソーム製剤におけるイリノテカンの濃度は0.1mg/ml以上であ
る、
との特徴のうちの1又は複数を更に含むことを特徴とする請求項1に記載のイリノテカンリポソーム製剤。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のイリノテカンリポソーム製剤の製造方法であって、
前記方法は能動的薬物担持法であり、前記能動的薬物担持法は、
(1)内水相と外水相がいずれもスルホン酸塩水溶液を含有するブランクリポソームを調製し、
前記スルホン酸塩は、
ジスルホン酸塩を含み、
前記ジスルホン酸塩は、エタンジスルホン酸アンモニウム、プロパンジスルホン酸アンモニウム、エタンジスルホン酸トリエチルアミン、及びプロパンジスルホン酸トリエチルアミンのうちの1種又は複数種から選択される、
(2)内水相がスルホン酸塩水溶液を含有し、外水相が生理的等張液を含有するブランクリポソームを調製することで、ブランクリポソームの内外水相にスルホン酸塩濃度勾配を
形成し、前記リポソーム膜内の内水相のスルホン酸塩濃度が外水相よりも高く、
(3)ステップ(2)で得たブランクリポソームとイリノテカン可溶性塩水溶液を混合し、インキュベートしたあと、遊離イリノテカン可溶性塩を除去することで、イリノテカンリポソームを取得する、
とのステップを含むことを特徴とする製造方法。
【請求項4】
a.ステップ(1)及びステップ(2)において、前記スルホン酸塩水溶液中のスルホン酸塩の濃度は100~800mMであり、
b.ステップ(1)及びステップ(2)において、前記スルホン酸塩水溶液のpH値は4.0~9.0であり、
c.ステップ(1)及びステップ(2)において、前記スルホン酸塩水溶液中のスルホン酸基イオンの濃度は50~800mMであり、
d.ステップ(1)及びステップ(2)において、前記スルホン酸塩水溶液中のカチオンの濃度は50~800mMであり、
e.ステップ(2)において、前記生理的等張液は、5%(w/v)グルコース水溶液、10%(w/v)ショ糖水溶液、又は0.9%(w/v)塩化ナトリウム水溶液から選択可能であり、
f.ステップ(2)において、前記外水相のpHは4.0~9.0であり、
g.ステップ(3)において、ブランクリポソームとイリノテカン可溶性塩水溶液を混合時、薬物/リポソームモル比は0.1以上であり、
h.ステップ(3)において、前記イリノテカン可溶性塩は塩酸イリノテカンから選択する、
との特徴のうちの1又は複数を更に含むことを特徴とする請求項
3に記載のイリノテカンリポソーム製剤の製造方法。
【請求項5】
直腸癌、肺癌、乳癌又は膵臓癌の腫瘍治療薬の製造における請求項1
又は2に記載のイリノテカンリポソーム製剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ薬物送達の技術分野に属し、具体的には、イリノテカンリポソーム製剤とその製造及び応用に関する。
【背景技術】
【0002】
イリノテカン(irinotecan,CPT-11)は、カンプトテシンの半合成誘導体であり、転移性結腸癌治療のための有効薬物である。カンプトテシンはトポイソメラーゼIと特異的に結合可能である。トポイソメラーゼIは可逆的な1本鎖切断を誘発することで、DNAの2本鎖構造を分離させるが、イリノテカン及びその活性代謝物SN-38は、トポイソメラーゼI-DNA複合体と結合することで、切断された1本鎖の再接続を阻止し得る。これまでの研究によれば、イリノテカンの細胞毒性作用は、DNAの合成過程において、複製酵素とトポイソメラーゼI-DNA-イリノテカン(或いは、SN-38)の三者複合体が相互に作用して、DNAの2本鎖が切断されることに起因する。
【0003】
現在すでに上市しているイリノテカン製品には、塩酸イリノテカン注射液、凍結乾燥粉末注射剤及びリポソーム注射剤がある。このうち、塩酸イリノテカンはイリノテカンの塩酸塩であり、良好な水溶性を有している。塩酸イリノテカン注射液を静脈投与すると、アルカリ性に傾いた生理的環境において、遊離イリノテカンのラクトン環が容易に開くことでカルボン酸塩形式が形成される。これにより、活性が失われる結果、薬物の治療効果が低下する。また、塩酸イリノテカンの粉末注射剤は毒性及び副作用が大きく、主には、好中球の減少や遅延性下痢として現れる。
【0004】
2015年10月、FDAは、イリノテカンリポソーム薬物であるオニバイド(Onivyde)の末期膵臓癌治療への適用を承認した。オニバイドは、ショ糖オクタ硫酸エステル(
図1a)のトリエチルアミン塩を内水相とし、リポソームの内外水相間におけるトリエチルアミン勾配を利用してイリノテカンをリポソームの内水相に内包している。これにより、イリノテカン-ショ糖オクタ硫酸エステル塩を形成し、体内での徐放効果を達成している(非特許文献1)。しかし、オニバイドの場合、リポソームによる薬物担持に必要な重要補助剤であるショ糖オクタ硫酸エステルトリエチルアミンは原料が高価なだけでなく、調製が複雑である。まず、イオン交換樹脂を用いてスクロースオクタ硫酸NAをショ糖オクタ硫酸エステルに変換してから、トリエチルアミンで滴定して、ショ糖オクタ硫酸エステルトリエチルアミン塩に調製する必要がある。このほか、ショ糖オクタ硫酸エステルが成長因子に類似した活性を持つ可能性があるとの報告もされている(非特許文献2)。
【0005】
現在、中国国内で開示されている塩酸イリノテカン又はイリノテカンリポソームの特許では、使用される薬物担持勾配が、硫酸アンモニウム勾配(例えば、特許文献1「イリノテカン又は塩酸イリノテカンリポソーム及びその調製方法」)と、プロトン濃度勾配法(例えば、特許文献2「イリノテカン製剤」)に集中している。しかし、硫酸アンモニウム勾配とプロトン濃度勾配を利用して調製されるイリノテカン又は塩酸イリノテカンリポソームは、効果的に徐放を実現することが不可能である。例えば、硫酸アンモニウム勾配法を用いて調製されるイリノテカンリポソーム(特許文献3)は、ラット体内における薬物半減期が8.90時間である。
【0006】
従って、より容易に得られるその他のタイプのアンモニウム塩又はトリエチルアミン塩に基づく能動的薬物担持勾配を発展させて、イリノテカンリポソームの調製に適用するとともに、良好な体内徐放効果を達成することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】中国特許第103120645B号明細書
【文献】中国特許第1960729B号明細書
【文献】中国特許第105796495A号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】Drummond,D.C.等,Development of a highly active nanoliposomal irinotecan using a novel intraliposomal stabilization strategy[J].Cancer Research,2006,66(6),3271-3277.
【文献】邱永峰等、ショ糖オクタ硫酸エステルの応用総括、「医薬衛生(引用版)」、2017年第5巻、286頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術に存在する課題を解消するために、本発明は、イリノテカンリポソーム製剤とその製造及び応用を提供し、従来技術の課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的及び関連するその他の目的を実現するために、本発明は、第一の局面において、イリノテカンリポソームを含有するイリノテカンリポソーム製剤を提供する。前記イリノテカンリポソームは、イリノテカンとリポソーム担体、及びリポソーム膜内に位置する内水相とリポソーム膜外に位置する外水相を含む。前記イリノテカンは前記内水相中に封入されており、前記リポソーム膜内の内水相と膜外の外水相の間にはスルホン酸塩勾配が存在する。
【0011】
本発明の一実施例において、前記リポソームは単層リポソームである。
【0012】
本発明の一実施例において、前記リポソームの粒径の範囲は30~200nmである。
【0013】
本発明の一実施例において、前記リポソームの粒径の範囲は50~120nmである。
【0014】
本発明の一実施例において、前記リポソームの粒径の範囲は90~110nmである。
【0015】
本発明の一実施例において、前記リポソームのD95は200nm以下である。D95とは、前記リポソームを小さいものから大きいものへと累積した場合の分布パーセンテージが95%に達したときに対応する粒径値である。即ち、前記リポソームのうち、粒径がD95よりも小さいリポソームの粒子数は前記リポソームの総粒子数の95%を占めている。
【0016】
本発明の一実施例において、前記リポソームのD95は120nm以下である。D95とは、前記リポソームを小さいものから大きいものへと累積した場合の分布パーセンテージが95%に達したときに対応する粒径値である。即ち、前記リポソームのうち、粒径がD95よりも小さいリポソームの粒子数は前記リポソームの総粒子数の95%を占めている。
【0017】
本発明の一実施例において、前記リポソームのD95は110nm以下である。D95
とは、前記リポソームを小さいものから大きいものへと累積した場合の分布パーセンテージが95%に達したときに対応する粒径値である。即ち、前記リポソームのうち、粒径がD95よりも小さいリポソームの粒子数は前記リポソームの総粒子数の95%を占めている。
【0018】
本発明の一実施例において、前記内水相はスルホン酸塩水溶液を含み、前記外水相は生理的等張液である。
【0019】
本発明の一実施例において、前記内水相中のイリノテカンのカチオンとスルホン酸塩のアニオンにより不溶性塩が形成される。
【0020】
本発明の一実施例において、前記スルホン酸塩は、モノスルホン酸塩及び/又はジスルホン酸塩から選択する。
【0021】
本発明の一実施例において、モノスルホン酸塩は、メタンスルホン酸アンモニウム、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸アンモニウム、メタンスルホン酸トリエチルアミン、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸トリエチルアミンのうちの1種又は複数種から選択可能である。
【0022】
本発明の一実施例において、ジスルホン酸塩は、エタンジスルホン酸アンモニウム、プロパンジスルホン酸アンモニウム、エタンジスルホン酸トリエチルアミン、プロパンジスルホン酸トリエチルアミンのうちの1種又は複数種から選択可能である。
【0023】
本発明の一実施例において、前記リポソームの内水相中のモノスルホン酸基イオンの濃度は100~800mMである。
【0024】
本発明の一実施例において、前記リポソームの内水相中のモノスルホン酸基イオンの濃度は200~700mMである。
【0025】
本発明の一実施例において、前記リポソームの内水相中のジスルホン酸基イオンの濃度は50~500mMである。
【0026】
本発明の一実施例において、前記リポソームの内水相中のジスルホン酸基イオンの濃度は100~400mMである。
【0027】
本発明の一実施例において、前記生理的等張液は、5%(w/v)グルコース水溶液、10%(w/v)ショ糖水溶液、又は0.9%(w/v)塩化ナトリウム水溶液から選択される。
【0028】
本発明の一実施例において、前記リポソームの内水相のpH値は4.0~9.0である。
【0029】
本発明の一実施例において、前記リポソームの内水相のpH値は4.5~8.0である。
【0030】
本発明の一実施例では、前記イリノテカンリポソーム製剤における前記イリノテカンの濃度は0.86mg/ml以上である。
【0031】
本発明の一実施例において、前記イリノテカンと前記リポソームとの薬物/リポソームモル比は0.1以上である。
【0032】
本発明の一実施例において、前記リポソームの成分には、リン脂質、コレステロール及びポリエチレングリコール化リン脂質が含まれる。
【0033】
本発明の一実施例において、前記ポリエチレングリコール化リン脂質におけるポリエチレングリコールの分子量は50~10000である。
【0034】
本発明の一実施例において、前記ポリエチレングリコール化リン脂質におけるポリエチレングリコールの分子量は2000である。
【0035】
本発明の一実施例において、前記リン脂質、前記コレステロール及び前記ポリエチレングリコール化リン脂質のモル比は、(30~80):(0.1~40):(0.1~30)である。
【0036】
本発明の一実施例において、前記リン脂質、前記コレステロール及び前記ポリエチレングリコール化リン脂質のモル比は55:40:5である。
【0037】
本発明の一実施例において、前記リポソームの外水相は質量濃度10%のショ糖溶液である。
【0038】
本発明は、第2の局面において、イリノテカンリポソーム製剤の製造方法を提供する。前記方法は能動的薬物担持法である。前記能動的薬物担持法は、以下のステップを含む。
【0039】
(1)内水相と外水相がいずれもスルホン酸塩水溶液を含有するブランクリポソームを調製する。
【0040】
(2)内水相がスルホン酸塩水溶液を含有し、外水相が生理的等張液を含有するブランクリポソームを調製することで、ブランクリポソームの内外水相にスルホン酸塩濃度勾配を形成する。
【0041】
(3)ステップ(2)で得たブランクリポソームとイリノテカン可溶性塩水溶液を混合し、インキュベートしたあと、遊離イリノテカン可溶性塩を除去することで、イリノテカンリポソームを取得する。
【0042】
本発明の一実施例において、前記スルホン酸塩は、モノスルホン酸塩及び/又はジスルホン酸塩から選択する。
【0043】
本発明の一実施例において、モノスルホン酸塩は、メタンスルホン酸アンモニウム、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸アンモニウム、メタンスルホン酸トリエチルアミン、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸トリエチルアミンのうちの1種又は複数種から選択可能である。
【0044】
本発明の一実施例において、ジスルホン酸塩は、エタンジスルホン酸アンモニウム、プロパンジスルホン酸アンモニウム、エタンジスルホン酸トリエチルアミン、プロパンジスルホン酸トリエチルアミンのうちの1種又は複数種から選択可能である。
【0045】
本発明の一実施例では、ステップ(1)及びステップ(2)において、前記スルホン酸塩水溶液中のスルホン酸塩の濃度は50~800mMである。
【0046】
ステップ(1)及びステップ(2)において、前記スルホン酸塩水溶液中のカチオンの
濃度は50~800mMである。
【0047】
本発明の一実施例では、ステップ(1)及びステップ(2)において、前記スルホン酸塩水溶液のpH値は4.0~9.0である。
【0048】
本発明の一実施例では、ステップ(1)及びステップ(2)において、前記スルホン酸塩水溶液のpH値は4.5~8.0である。
【0049】
本発明の一実施例では、ステップ(1)及びステップ(2)において、モノスルホン酸塩を選択する場合には、前記スルホン酸塩水溶液中のスルホン酸基イオンの濃度を100~800mMとする。
【0050】
更に、ステップ(1)及びステップ(2)において、モノスルホン酸塩を選択する場合には、前記スルホン酸塩水溶液中のスルホン酸基イオンの濃度を200~700mMとする。
【0051】
本発明の一実施例において、ジスルホン酸塩を選択する場合には、ステップ(1)及びステップ(2)において、前記スルホン酸塩水溶液中のカチオンの濃度を50~500mMとする。
【0052】
更に、二価のスルホン酸塩を選択する場合には、ステップ(1)及びステップ(2)において、前記スルホン酸塩水溶液中のカチオンの濃度を100~400mMとする。
【0053】
本発明の一実施例では、ステップ(2)において、前記生理的等張液は、5%(w/v)グルコース水溶液、10%(w/v)ショ糖水溶液、又は0.9%(w/v)塩化ナトリウム水溶液から選択可能である。
【0054】
本発明の一実施例では、ステップ(2)において、前記リポソームの内水相のpH値は4.0~9.0である。
【0055】
更に、ステップ(2)において、前記リポソームの内水相のpH値は4.5~8.0である。
【0056】
本発明の一実施例では、ステップ(3)において、薬物/リポソームモル比は0.1以上である。
【0057】
本発明の一実施例では、ステップ(3)において、前記イリノテカン可溶性塩は塩酸イリノテカンから選択する。
【0058】
本発明は、直腸癌、肺癌、乳癌又は膵臓癌の腫瘍治療薬の製造における上記イリノテカンリポソームの用途を提供する。
【0059】
本発明の一実施例では、前記用途において、イリノテカンリポソーム製剤は、より多くのイリノテカンを活性ラクトン環形式で血液循環に存在させ、腫瘍部位に到達させてSN-38に転換することが可能なため、抗腫瘍効果が更に改善される。
【発明の効果】
【0060】
本発明は、以下の有益な効果を有する。
【0061】
本発明で提供するイリノテカンリポソーム製剤は、原料の入手しやすさを改善し、製剤
コストを低減するとともに、より容易にイリノテカンの安定的な搭載を実現しており、封入率が高く、保持安定性に優れるとの利点を有する。且つ、当該製剤は明らかな徐放性を有しており、塩酸イリノテカンの体内における安定性及び有効性を保証するのに有利なため、薬物の治療効果が向上する。本発明で記載するイリノテカンリポソームは体内半減期が長く、バイオアベイラビリティが高い。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1A】
図1Aは、モノスルホン酸(左:メタンスルホン酸、右:4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸)の化学構造である。
【
図1B】
図1Bは、ジスルホン酸(左:エタンジスルホン酸、右:プロパンジスルホン酸)の化学構造である。
【
図2】
図2は、塩酸イリノテカン水溶液のUV標準曲線である。
【
図3】
図3は、3つの異なる投入薬物/リポソーム比(それぞれ、0.1、0.3、0.5)の場合に、異なる勾配で調製したイリノテカンリポソームの封入率を表す。
【
図4】
図4は、異なるスルホン酸塩溶液を内水相とするイリノテカンリポソームの疑似血漿内における累積放出速度を示す図である(TEA:トリエチルアミン、MS:メタンスルホン酸、HBS:4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸、EDS:エタンジスルホン酸、PDS:プロパンジスルホン酸)。
【
図5】
図5は、異なるスルホン酸塩勾配、トリエチルアミンスルファチド勾配、及び硫酸アンモニウム勾配で調製したイリノテカンリポソームの示差走査熱量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
本発明の発明者は、膨大な探求及び実験の結果、リポソームの内水相中におけるスルホン酸塩のアニオンは、イリノテカンのカチオンと不溶性塩を形成することで、イリノテカンをリポソームの内水相中に安定的に封入可能であることを見出し、これに基づき本発明を完成させた。
【0064】
本発明のイリノテカンリポソーム製剤はイリノテカンリポソームを含み、前記イリノテカンリポソームはイリノテカン及びリポソーム担体を含む。
【0065】
前記リポソームは、二分子層構造をなすリポソーム膜を有している。前記リポソーム膜は生体膜に類似している。
【0066】
前記リポソームの担体材料にはリン脂質とコレステロールが含まれている。本発明では、リポソームの担体材料及び含有量については特に制限せず、安定的で漏れのない二分子層構造をなすリポソーム膜を形成可能であればよい。これらはいずれも当業者が知り得る知識の範囲内である。
【0067】
本発明の実施例では、前記リン脂質として水素添加大豆リン脂質(HSPC)及びジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール(DSPE-PEG)を選択する場合を列挙しているが、これに限らない。
【0068】
前記DSPE-PEGのうち、PEGの分子量の範囲は50~10000とすればよい。例えば、前記DSPE-PEGのうち、PEGの分子量は2000である。
【0069】
HSPC、CHOL(コレステロール)、DSPE-PEGのモル比の範囲は、(30~80):(0.1~40):(0.1~30)とすればよい。例えば、HSPC、CHOL、DSPE-PEGのモル比の範囲は55:40:5とすればよい。
【0070】
前記イリノテカンリポソーム製剤は、更に、リポソーム膜内に位置する内水相と、リポソーム膜外に位置する外水相を含む。前記イリノテカンは前記内水相中に封入される。
【0071】
前記リポソーム膜内の内水相と膜外の外水相の間にはスルホン酸塩勾配が存在する。
【0072】
前記アンモニウム塩勾配とは、アンモニウム塩の濃度勾配及びpHの差が存在することを言う。
【0073】
前記トリエチルアミン塩勾配とは、トリエチルアミン塩の濃度勾配及びpHの差が存在することを言う。
【0074】
前記内水相はスルホン酸塩水溶液であり、前記イリノテカンのカチオンと前記スルホン酸基が不溶性塩を形成することで、イリノテカンが前記内水相中に封入される。また、前記外水相は生理的等張液である。
【0075】
前記生理的等張液は、5%(w/v)グルコース水溶液、10%(w/v)ショ糖水溶液、又は0.9%(w/v)塩化ナトリウム水溶液から選択される。
【0076】
%(w/w)は質量パーセント濃度を意味する。つまり、溶液100g中に含有される溶質の質量を意味する。
【0077】
%(w/v)は質量/体積パーセント濃度を意味する。つまり、溶液100ml中に含有される溶質の質量を意味する。
【0078】
前記イリノテカンリポソーム製剤は、注射投与製剤としてもよい。
【0079】
前記注射投与製剤は、皮下注射剤形、静脈注射剤形、筋肉注射剤形、又は骨盤注射剤形から選択可能である。
【0080】
前記スルホン酸塩のカチオンは、アンモニウムイオン、トリエチルアミンイオンから選択可能である。
【0081】
前記スルホン酸塩は、モノスルホン酸塩及び/又はジスルホン酸塩から選択可能である。このうち、モノスルホン酸塩は、メタンスルホン酸アンモニウム、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸アンモニウム、メタンスルホン酸トリエチルアミン、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸トリエチルアミンのうちの1種又は複数種から選択可能である。また、ジスルホン酸塩は、エタンジスルホン酸アンモニウム、プロパンジスルホン酸アンモニウム、エタンジスルホン酸トリエチルアミン、プロパンジスルホン酸トリエチルアミンのうちの1種又は複数種から選択可能である。
【0082】
前記内水相のpHは4.0~9.0とすればよく、更には、4.5~8.0とすればよい。
【0083】
モノスルホン酸塩を選択する場合には、前記内水相中のスルホン酸基イオンの濃度を100~800mMとすればく、更には、200~700mMとすればよい。
【0084】
ジスルホン酸塩を選択する場合には、前記内水相中のスルホン酸基イオンの濃度を50~500mMとすればよく、更には、100~400mMとすればよい。
【0085】
前記内水相中のイリノテカンの濃度は、0.1mg/ml以上とすればよい。
【0086】
本発明で記載するイリノテカンリポソーム製剤の製造方法は、以下のステップを含む。
【0087】
(1)内水相と外水相がいずれもスルホン酸塩水溶液を含有するブランクリポソームを調製する。
【0088】
(2)内水相がスルホン酸塩水溶液を含有し、外水相が生理的等張液を含有するブランクリポソームを調製することで、ブランクリポソームの内外水相にスルホン酸塩濃度勾配を形成する。
【0089】
(3)ステップ(2)で得たブランクリポソームとイリノテカン可溶性塩水溶液を混合し、インキュベートしたあと、遊離イリノテカン可溶性塩を除去することで、イリノテカンリポソームを取得する。
【0090】
前記スルホン酸塩は、モノスルホン酸塩及び/又はジスルホン酸塩から選択する。
【0091】
モノスルホン酸塩は、メタンスルホン酸アンモニウム、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸アンモニウム、メタンスルホン酸トリエチルアミン、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸トリエチルアミンのうちの1種又は複数種から選択可能である。
【0092】
ジスルホン酸塩は、エタンジスルホン酸アンモニウム、プロパンジスルホン酸アンモニウム、エタンジスルホン酸トリエチルアミン、プロパンジスルホン酸トリエチルアミンのうちの1種又は複数種から選択可能である。
【0093】
ステップ(1)及びステップ(2)において、モノスルホン酸塩を選択する場合には、前記スルホン酸塩水溶液中のスルホン酸基イオンの濃度を100~800mMとする。
【0094】
更に、ステップ(1)及びステップ(2)において、モノスルホン酸塩を選択する場合には、前記スルホン酸塩水溶液中のスルホン酸基イオンの濃度を200~700mMとする。
【0095】
ジスルホン酸塩を選択する場合には、ステップ(1)及びステップ(2)において、前記スルホン酸塩水溶液中のカチオンの濃度を50~500mMとする。
【0096】
更に、二価のスルホン酸塩を選択する場合には、ステップ(1)及びステップ(2)において、前記スルホン酸塩水溶液中のカチオンの濃度を100~400mMとする。
【0097】
ステップ(1)及びステップ(2)において、前記スルホン酸塩水溶液のpH値は4.0~9.0とすればよく、更には、4.5~8.0とすればよい。
【0098】
ステップ(2)において、前記生理的等張液は、5%(w/v)グルコース水溶液、10%(w/v)ショ糖水溶液、又は0.9%(w/v)塩化ナトリウム水溶液から選択可能である。
【0099】
本発明の一実施例では、ステップ(2)において、前記外水相のpHを4.0~9.0とし、更には、5.0~8.0とすればよい。
【0100】
本発明の一実施例では、ステップ(3)において、薬物/リポソーム比(即ち、イリノテカンとリポソームのモル比)は0.1以上とすればよい。更に、薬物/リポソーム比は0.15以上とすればよい。更に、薬物/リポソーム比は0.20以上とすればよい。更
に、薬物/リポソーム比は0.25以上とすればよい。更に、薬物/リポソーム比は0.3以上とすればよい。更に、薬物/リポソーム比は0.5以上とすればよい。更に、0.1~0.15としてもよく、0.1~0.2としてもよく、0.1~0.25としてもよく、0.1~0.3としてもよく、0.15~0.3としてもよく、0.3~0.5としてもよく、0.2~0.5としてもよい。
【0101】
本発明の一実施例では、ステップ(3)において、前記イリノテカン可溶性塩は塩酸イリノテカンから選択する。
【0102】
前記イリノテカン可溶性塩水溶液中のイリノテカンの濃度は10mg/ml以上とすればよい。また、イリノテカンの濃度は12mg/ml以上とすればよい。また、イリノテカンの濃度は15mg/ml以上とすればよい。例えば、10mg/ml、12mg/ml、15mg/mlとすればよい。また、10~12mg/mlとしてもよく、12~15mg/mlとしてもよく、10~15mg/mlとしてもよい。
【0103】
本発明では、能動的薬物担持の原理を利用する。即ち、リポソームの内外水相間にはスルホン酸塩イオン勾配が存在している。外水相中の塩酸イリノテカンには部分的な電離が発生するが、非解離形式のイリノテカンは受動的に拡散するようにしてリポソームの内水相中に進入し、内水相中のアンモニウムイオン又はトリエチルアミンイオンの電離により発生した水素イオンと結合することで、イリノテカンイオンを形成する。これがスルホン酸基とともに結晶又は無定形の不溶性塩を形成することで、イリノテカンがリポソームの内水相中に封入される。また、リポソームの内水相中におけるアンモニウムイオンの電離により発生したアンモニアガス、或いは、トリエチルアミンイオンの電離により発生したトリエチルアミンが絶えずリポソームの内水相から逃げることで、リポソームの内水相中の水素イオンの濃度が維持される。これにより、外水相中のほぼ全てのイリノテカンがリポソームの内水相に封入されるまで、リポソームの内水相中のイリノテカン分子は絶えず水素イオンと結合を続けてイリノテカンカチオンを形成し、スルホン酸基とともに沈殿物を形成する。当該リポソームは薬物担持量が多く、安定性に優れ、且つ際立った徐放効果を有している。
【0104】
イリノテカンリポソーム製剤の用途
【0105】
イリノテカンは、水溶性カンプトテシンの半合成誘導体であり、直腸癌、肺癌、乳癌及び膵臓癌を含む腫瘍の治療に適用可能である。
【0106】
本発明で記載するイリノテカンリポソーム製剤は、より多くのイリノテカンを活性ラクトン環形式で血液循環に存在させ、腫瘍部位に到達させてSN-38に転換することが可能なため、抗腫瘍効果が更に改善される。また、本発明で記載するイリノテカンリポソームは体内半減期が長く、バイオアベイラビリティに優れている。
【0107】
本発明の具体的実施形態について更に記載する前に、本発明の保護の範囲は後述する特定の具体的実施方案に限らないと解釈すべきである。更に、本発明の実施例で使用する用語は特定の具体的実施方案を記載するためのものであって、本発明の保護の範囲を制限するものではないと解釈すべきである。また、本発明の明細書及び特許請求の範囲では、別途明示しない限り、「1つ」、「一の」及び「この」といった単数形には複数形も含まれる。
【0108】
実施例で数値範囲を提示している場合には、本発明において別途説明がない限り、各数値範囲の2つの端点及び2つの端点間の任意の数値をいずれも選択可能であると解釈すべきである。また、別途定義しない限り、本発明で使用するあらゆる技術・科学用語は、当
業者により一般的に理解される意味と等しい。また、実施例で使用される具体的方法、デバイス、材料のほかに、当業者による従来技術の理解及び本発明の記載に基づいて、本発明の実施例における上記の方法、デバイス、材料と類似又は同等の従来技術における任意の方法、デバイス及び材料を用いて本発明を実現してもよい。
【0109】
別途説明がない限り、本発明で開示する実験方法、検出方法、調製方法には、当該分野において一般的な薬剤学、薬物分析学、薬物化学、分析化学、分子生物学、生化学、及び関連分野における一般技術を用いる。これらの技術については、従来の文献で十分に説明されている。
【実施例1】
【0110】
塩酸イリノテカンの測定方法
本実施例では、塩酸イリノテカンの標準曲線を作成した。具体的には、下記の通りであった。
【0111】
紫外線(ultraviolet,UV)測定分析法を用いた。測定器をTECAN Infinite(登録商標)200 PROとし、測定波長を369nm、測定温度を24℃とした。また、測定用のマイクロプレートをCorning(登録商標)
96 well plates,UV-transparentとし、測定体積を200μlとした。
【0112】
2.5001mgの塩酸イリノテカンを精密に計量し、25mlのメスフラスコで溶解して濃度0.1000mg/mlの塩酸イリノテカン水溶液を取得した。次に、塩酸イリノテカン水溶液を超純水と混合し、段階的に希釈することで、濃度5μg/ml、6.25μg/ml、7.5μg/ml、10μg/ml、12.5μg/ml、15μg/ml、20μg/ml及び25μg/mlの塩酸イリノテカン標準溶液を取得した。UV法で上記濃度の塩酸イリノテカン標準溶液を測定したところ、測定結果は表1に示す通りとなった。
【表1】
【0113】
表1に示した結果に基づき標準曲線を作成し、回収率について考察した。検量線(working curve)は
図2に示す通りとなった。塩酸イリノテカン水溶液のUV標
準曲線は、Y=0.0262X+0.0105(n=8)、R
2=0.9991、回収率は95~105%であり、標準曲線のあてはめが良好であった。
【実施例2】
【0114】
メタンスルホン酸アンモニウムを内水相とするイリノテカンリポソームの調製及びキャラクタリゼーション
本実施例で使用したリン脂質は、いずれもドイツのリポイド(Lipoid)社から購入した。具体的には、水素添加大豆リン脂質(HSPC、分子量783.8)、ポリエチレングリコール化リン脂質(具体的には、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール2000(DSPE-PEG2000))、コレステロール(CHOL、分子量386.7)を購入した。また、使用した塩酸イリノテカンはアラジン(Aladdin)社から購入し、使用したメタンスルホン酸はシグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich)社から購入した。また、使用したアンモニア水はアラジン社から購入した。
【0115】
説明すべき点として、後述の実施例で使用したリン脂質はいずれもリポイド社から購入した水素添加大豆リン脂質であり、使用したポリエチレングリコール化リン脂質は、いずれもリポイド社から購入したジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコールであり、使用したコレステロールはいずれもリポイド社のコレステロールであり、使用した塩酸イリノテカンはいずれもアラジン社から購入したものであった。
【0116】
2.1 イリノテカンリポソームの調製
具体的な調製過程は下記の通りであった。
【0117】
ステップ(1):479.9mgの水素添加大豆リン脂質、160.9mgのコレステロール、及び160.8mgのジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール2000を精密に計量し、適量のエタノールを加えて十分に溶解及び混合することで、脂質のエタノール混合溶液を取得した。
【0118】
ステップ(2):2.131mlのメタンスルホン酸溶液を精密に計量し、pH4.0~6.0となるまでアンモニア水で滴定してから、再蒸留水(ddH2O)で50mlまで定容することで、pHが4.0~6.0である650mMのメタンスルホン酸アンモニウム緩衝液を取得した。
【0119】
ステップ(3):ステップ(1)で取得した脂質のエタノール混合溶液にpHが4.0~6.0である650mMのメタンスルホン酸アンモニウム緩衝液を10ml添加し、70℃のウォーターバスに入れて30分間攪拌した。これにより、リポソームを十分に水和させて、比較的均一なリポソーム懸濁液を取得した。
【0120】
ステップ(4):リポソーム押出機(liposome extruder)を用い、ステップ(3)で取得したリポソーム懸濁液を孔径の異なるポリカーボネートフィルムから順に10回ずつ押し出すことで、最終的に粒径100nm且つ粒径分布が均一なブランクリポソームを取得した。
【0121】
ステップ(5):ステップ(4)で調製したリポソームを分画分子量が10000の透析袋に投入し、10%ショ糖水溶液を透析液として、4℃で一晩透析した。サンプルと透析液の体積比は1:1000とした。透析期間中は透析液を3回交換し、リポソームの外水相中のメタンスルホン酸アンモニウムを完全に除去することで、10%のショ糖からな
る外水相、メタンスルホン酸アンモニウム溶液からなる内水相、及びリン脂質二分子層で構成されるブランクリポソームを取得した。リポソームの内外水相は、一定のpH及びメタンスルホン酸アンモニウム濃度勾配を有していた。具体的に、ブランクリポソームの内水相は650mMのメタンスルホン酸アンモニウム水溶液(pH4.0~6.0)、ブランクリポソームの外水相は質量分率10%のショ糖水溶液であった。
【0122】
ステップ(6):ステップ(5)で取得した内水相がメタンスルホン酸アンモニウム溶液であるブランクリポソーム懸濁液と、濃度10mg/mlの塩酸イリノテカン水溶液を体積比1:1で混合し、50~60℃で10~30分間インキュベートすることで、内水相にイリノテカンを含有するリポソームを取得した。
【0123】
2.2 イリノテカンリポソームのキャラクタリゼーション
2.2.1 イリノテカンリポソームの粒径測定
本実施例で調製したイリノテカンリポソームをddH2Oで50倍希釈し、ゼータサイザー(Zetasizer)ZS90(マルバーン社、イギリス)を利用して粒径を分析した。具体的な結果は表3に示す通りとなった。表3から明らかなように、薬物担持後のリポソームの粒径はいずれも100nm程度、粒度分布(PDI)はいずれも0.1未満であった。また、薬物担持前のブランクリポソームについても、粒径はいずれも100nm程度、粒度分布(PDI)はいずれも0.1未満であった。
【0124】
2.2.2 イリノテカンリポソームの封入率の測定
調製したイリノテカンリポソームに適量のダウエックス(Dowex)樹脂(シグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich)社)を添加し、十分に振蕩して未封入のイリノテカンを吸着した。そして、これを静置したあとに上清を200ul採取し、UV測定分析法(実施例1)を用いて、樹脂添加前後におけるリポソーム中のイリノテカン含有量を測定した。
【0125】
イリノテカンリポソームの封入率(EE)は、下記式により算出した。
【数1】
【0126】
式中のM
interは、遊離薬物を樹脂で吸着したあとのリポソーム製剤中のイリノテカン含有量である。即ち、リポソームに封入されたイリノテカンの含有量である。M
totalは、樹脂で吸着する前のイリノテカンリポソーム製剤中のイリノテカンの含有量である。即ち、イリノテカンの投入量である。結果は表2に示す通りであった。表2から明らかなように、本方法で調製したイリノテカンリポソームの封入率は良好であり、高い薬物/リポソーム比で薬物担持を実現可能であった。
【表2】
【実施例3】
【0127】
メタンスルホン酸トリエチルアミン溶液を内水相とするイリノテカンリポソームの調製及びキャラクタリゼーション
本実施例で使用したメタンスルホン酸はシグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich)社から購入した。また、使用したトリエチルアミンはシノファーム(SINOPHARM)から購入した。
【0128】
2.131mlのメタンスルホン酸溶液を精密に計量し、pH4.0~6.0となるまでトリエチルアミンで滴定してから、再蒸留水(ddH2O)で50mlまで定容することで、pHが4.0~6.0である650mMのメタンスルホン酸トリエチルアミン緩衝液を取得した。
【0129】
次に、イリノテカンリポソームを調製した。具体的な調製過程については実施例2を参照する。ただし、実施例2との違いとして、ステップ(3)では、ステップ(1)で取得した脂質のエタノール溶液にメタンスルホン酸アンモニウム緩衝液を添加するのではなく、pHが4.0~6.0である650mMのメタンスルホン酸トリエチルアミン緩衝液を10ml添加した。
【0130】
イリノテカンリポソームのキャリブレーション方法については実施例2を参照する。結果は表3に示す通りであった。表3から明らかなように、実施例3で調製したイリノテカンリポソームの封入率は約70%程度であった。実施例2の結果と比較すると、メタンスルホン酸トリエチルアミンをリポソームの内水相とした場合には、封入率がやや低下した。このことは、能動的薬物担持におけるアンモニウム塩イオン濃度勾配の寄与がトリエチルアミンイオン濃度勾配よりも優れていることを意味する。
【表3】
【実施例4】
【0131】
4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸アンモニウム溶液を内水相とするイリノテカンリポ
ソームの調製及びキャラクタリゼーション
本実施例で使用した4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸はマックリン(Macklin)社から購入した。また、使用したアンモニア水はアラジン社から購入した。
【0132】
6.513mlの4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸溶液を精密に計量し、pH4.0~6.0となるまでアンモニア水で滴定してから、再蒸留水(ddH2O)で50mlまで定容することで、pHが4.0~6.0である650mMの4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸アンモニウム緩衝液を取得した。
【0133】
次に、イリノテカンリポソームを調製した。具体的な調製過程については実施例2を参照する。ただし、実施例2との違いとして、ステップ(3)では、ステップ(1)で取得した脂質のエタノール溶液にメタンスルホン酸アンモニウム緩衝液を添加するのではなく、濃度が650mMの4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸アンモニウム緩衝液(pH4.0~6.0)を10ml添加した。
【0134】
イリノテカンリポソームのキャリブレーション方法については実施例2を参照する。結果は表4に示す通りであった。表4から明らかなように、実施例4で調製したイリノテカンリポソームの封入率は良好であった。
【表4】
【実施例5】
【0135】
4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸トリエチルアミン溶液を内水相とするイリノテカンリポソームの調製及びキャラクタリゼーション
本実施例で使用した4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸トリエチルアミンはマックリン(Macklin)社から購入した。また、使用したトリエチルアミンはシノファームから購入した。
【0136】
6.513mlの4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸溶液を精密に計量し、pH4.0~6.0となるまでトリエチルアミンで滴定してから、再蒸留水(ddH2O)で50mlまで定容することで、pHが4.0~6.0である650mMの4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸トリエチルアミン緩衝液を取得した。
【0137】
次に、イリノテカンリポソームを調製した。具体的な調製過程については実施例2を参照する。ただし、実施例2との違いとして、ステップ(2)では、ステップ(1)で取得した脂質のエタノール溶液にメタンスルホン酸アンモニウム緩衝液を添加するのではなく、pHが4.0~6.0である650mMの4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸トリエチルアミン緩衝液を10ml添加した。
【0138】
イリノテカンリポソームのキャリブレーション方法については実施例2を参照する。結果は表5に示す通りであった。表5から明らかなように、実施例5で調製したイリノテカ
ンリポソームの封入率は良好であった。
【表5】
【0139】
実施例2、3、4、5における4種類の内水相の成分がイリノテカンリポソームの薬物担持能力に及ぼす影響は
図3に示す通りであった。
【実施例6】
【0140】
エタンジスルホン酸アンモニウム溶液を内水相とするイリノテカンリポソームの調製及びキャラクタリゼーション
本実施例で使用したエタンジスルホン酸は、アルファ・エイサー(Alfa Aesar)社から購入した。また、使用したアンモニア水はアラジン社から購入した。
【0141】
3.1538mgのエタンジスルホン酸水和物を精密に計量し、再蒸留水(ddH2O)に溶解してから、アンモニア水でpH4.0~6.0となるまで滴定した。そして、再蒸留水で50mlまで定容することで、pHが4.0~6.0である325mMのエタンジスルホン酸アンモニウム緩衝液を取得した。
次に、イリノテカンリポソームを調製した。具体的な調製過程については実施例2を参照する。ただし、実施例2との違いとして、ステップ(2)では、ステップ(1)で取得した脂質のエタノール溶液にメタンスルホン酸アンモニウム緩衝液を添加するのではなく、pHが4.0~6.0である325mMのエタンジスルホン酸アンモニウム緩衝液を10ml添加した。
【0142】
イリノテカンリポソームのキャリブレーション方法については実施例2を参照する。結果は表6に示す通りであった。表6から明らかなように、実施例6で調製したイリノテカンリポソームの封入率は良好であった。
【表6】
【実施例7】
【0143】
エタンジスルホン酸トリエチルアミン溶液を内水相とするイリノテカンリポソームの調
製及びキャラクタリゼーション
本実施例で使用したエタンジスルホン酸は、アルファ・エイサー(Alfa Aesar)社から購入した。また、使用したトリエチルアミンはシノファームから購入した。
【0144】
3.1535mgのエタンジスルホン酸水和物を精密に計量し、再蒸留水(ddH2O)に溶解してから、トリエチルアミンでpH4.0~6.0となるまで滴定した。そして、再蒸留水で50mlまで定容することで、pHが4.0~6.0である325mMのエタンジスルホン酸トリエチルアミン緩衝液を取得した。
【0145】
次に、イリノテカンリポソームを調製した。具体的な調製過程については実施例2を参照する。ただし、実施例2との違いとして、ステップ(2)では、ステップ(1)で取得した脂質のエタノール溶液にメタンスルホン酸アンモニウム緩衝液を添加するのではなく、pHが4.0~6.0である325mMのエタンジスルホン酸トリエチルアミン緩衝液を10ml添加した。
【0146】
イリノテカンリポソームのキャリブレーション方法については実施例2を参照する。結果は表7に示す通りであった。表7から明らかなように、実施例7で調製したイリノテカンリポソームの封入率は良好であった。
【表7】
【実施例8】
【0147】
プロパンジスルホン酸アンモニウム溶液を内水相とするイリノテカンリポソームの調製及びキャラクタリゼーション
本実施例で使用したプロパンジスルホン酸は、アルファ・エイサー(Alfa Aesar)社から購入した。また、使用したアンモニア水はアラジン社から購入した。
【0148】
4.741mlのプロパンジスルホン酸溶液を精密に計量し、pH4.0~6.0となるまでアンモニア水で滴定してから、再蒸留水(ddH2O)で50mlまで定容することで、pHが4.0~6.0である325mMのプロパンジスルホン酸アンモニウム緩衝液を取得した。
【0149】
次に、イリノテカンリポソームを調製した。具体的な調製過程については実施例2を参照する。ただし、実施例2との違いとして、ステップ(2)では、ステップ(1)で取得した脂質のエタノール溶液にメタンスルホン酸アンモニウム緩衝液を添加するのではなく、pHが4.0~6.0である325mMのプロパンジスルホン酸アンモニウム緩衝液を10ml添加した。
【0150】
イリノテカンリポソームのキャリブレーション方法については実施例2を参照する。結果は表8に示す通りであった。表8から明らかなように、実施例8で調製したイリノテカンリポソームの封入率は良好であった。
【表8】
【実施例9】
【0151】
プロパンジスルホン酸トリエチルアミン溶液を内水相とするイリノテカンリポソームの調製及びキャラクタリゼーション
本実施例で使用したプロパンジスルホン酸は、アルファ・エイサー(Alfa Aesar)社から購入した。また、使用したトリエチルアミンはシノファームから購入した。
【0152】
4.735mlの4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸溶液を精密に計量し、pH4.0~6.0となるまでトリエチルアミンで滴定してから、再蒸留水(ddH2O)で50mlまで定容することで、pHが4.0~6.0である325mMのプロパンジスルホン酸トリエチルアミン緩衝液を取得した。
【0153】
次に、イリノテカンリポソームを調製した。具体的な調製過程については実施例2を参照する。ただし、実施例2との違いとして、ステップ(2)では、ステップ(1)で取得した脂質のエタノール溶液にメタンスルホン酸アンモニウム緩衝液を添加するのではなく、pHが4.0~6.0である325mMのプロパンジスルホン酸トリエチルアミン緩衝液を10ml添加した。
【0154】
また、イリノテカンリポソームのキャリブレーション方法については実施例2を参照する。結果は表9に示す通りであった。表9から明らかなように、実施例9で調製したイリノテカンリポソームの封入率は良好であった。
【表9】
【0155】
実施例2~9における8種類のスルホン酸塩勾配がイリノテカンリポソームの封入率に及ぼす影響は
図3に示す通りであった。
【実施例10】
【0156】
異なるスルホン酸塩を内水相とするイリノテカンリポソームのin vitro放出研
究
薬物/リポソーム比が異なると、リポソームの内水相中の薬物濃度が異なることから、薬物とスルホン酸基イオンにより形成される不溶性塩が異なる構造を有する可能性が高くなり、これにより異なる薬物放出速度を有する可能性が生じる。そこで、異なるスルホン酸塩(アンモニウム塩及びトリエチルアミン塩を含む)を内水相として調製したイリノテカンリポソームのin vitro放出速度を比較するために、本実施例では、in vitro放出研究を行うイリノテカンリポソームはいずれも同じ薬物/リポソーム比(0.3)を有していた。また、薬物担持濃度はいずれも2.58mg/ml、脂質濃度はいずれも8.91mg/mlとした。
【0157】
in vitro放出研究に用いたウシ血清アルブミン(BSA)は、生工生物工程(上海)股▲分▼有限公司から購入した。また、ダウエックス樹脂はシグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich)社から購入した。
【0158】
イリノテカンリポソームのin vitro放出実験の具体的な過程は次の通りであった。
【0159】
ステップ(1):4.0152gのウシ血清アルブミン(BSA)粉末を精密に計量し、100mlのアルブミン生理食塩水に溶解することで、40mg/mlのアルブミン生理食塩水溶液を配合した(タンパク質濃度は50%血漿中のタンパク質濃度に相当した)。
【0160】
ステップ(2):実施例2~9における異なるモノスルホン酸塩溶液又はジスルホン酸塩(pH4.0~6.0)溶液を内水相として調製したイリノテカンリポソームを取得した。なお、脂質濃度は8.91mg/ml、薬物/リポソーム比(薬物と脂質のモル比)はいずれも0.3であった。
【0161】
ステップ(3):40mg/mlのアルブミン生理食塩水溶液でリポソームを80倍希釈した。次に、十分な量のダウエックス樹脂を添加して遊離薬物を吸着し、シンク条件を形成してから、37℃、100rpmの振蕩器(THZ-C恒温振蕩器、中国)で振蕩した。続いて、異なるタイミング(0時間、1時間、3時間、6時間、9時間及び24時間)でサンプリングし、静置したあとに上清を採取した。そして、リポソームに封入されたイリノテカンの含有量をUV法で測定し、タイミング別にイリノテカンの累積放出速度を算出した。
【0162】
また、比較として、本発明では、市販のオニバイドの説明書に基づき、ショ糖オクタ硫酸エステルトリエチルアミンを内水相とするイリノテカンリポソームを自作した。当該イリノテカンリポソームは、脂質濃度が8.91mg/ml、薬物/リポソーム比が0.3であった。また、pHが4.0~6.0である325mMの硫酸アンモニウムを内水相とするイリノテカンリポソームを自作した。当該イリノテカンリポソームは、脂質濃度が8.91mg/ml、薬物/リポソーム比が0.3であった。そして、上記の方法に基づき、ショ糖オクタ硫酸エステルトリエチルアミン及び硫酸アンモニウムを内水相とするイリノテカンリポソームについて、アルブミン生理食塩水中におけるin vitro放出速度を並行して測定するとともに、本発明で提案するイリノテカンリポソーム製剤の放出速度と比較した。
【0163】
各群のイリノテカンリポソームのin vitro累積放出曲線は
図4に示す通りであった。
図4から明らかなように、メタンスルホン酸アンモニウム、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸アンモニウム、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸トリエチルアミン、エタンジスルホン酸アンモニウム、エタンジスルホン酸トリエチルアミン、プロパンジスルホ
ン酸アンモニウム、及びプロパンジスルホン酸トリエチルアミン溶液を内水相とするリポソームのイリノテカンは、アルブミン生理食塩水溶液中においていずれも良好なin vitro徐放効果を有していた。また、24時間累積放出パーセンテージで見ると、メタンスルホン酸アンモニウム群は10.03%、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸アンモニウム群は11.35%、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸トリエチルアミン群は10.32%、エタンジスルホン酸アンモニウム群は1.03%、エタンジスルホン酸トリエチルアミン群は3.49%、プロパンジスルホン酸アンモニウム群は2.31%、プロパンジスルホン酸トリエチルアミン群は1.96%であった。且つ、並行して測定したショ糖オクタ硫酸エステルトリエチルアミン群の24時間累積放出パーセンテージは8.91%、硫酸アンモニウム群については15.34%に達していた。当該in vitro放出研究の結果より、モノスルホン酸塩及びジスルホン酸塩を内水相としたイリノテカンリポソームの放出速度は、硫酸アンモニウムを内水相としたリポソームの放出速度よりも明らかに遅くなることがわかった。
【実施例11】
【0164】
イリノテカンスルホン酸塩の融点測定
本実施例で使用したメタンスルホン酸及びヒドロキシベンゼンスルホン酸は、シグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich)社から購入した。
【0165】
融点は化合物の内部構造の規則性を反映し得る。塩の融点が高いほど、その分子配列は規則的である可能性が高い。例えば、結晶の融点は無定形のものよりも高いことが多い。リポソームの内水相中で異なるスルホン酸塩とイリノテカンにより形成される可能性のある構造について考察するために、本実施例では、塩酸イリノテカンとスルホン酸塩溶液を直接混合する方式でイリノテカンスルホン酸塩を形成し、各塩の融点を測定した。
【0166】
具体的な過程は下記の通りであった。
【0167】
(1)2.131mlのメタンスルホン酸溶液を精密に計量し、2.431mlのアンモニア水を添加してから、再蒸留水(ddH2O)で50mlまで定容することで、濃度650mMのメタンスルホン酸アンモニウム水溶液を取得した。次に、50.6mgの塩酸イリノテカンを精密に計量し、650mMのメタンスルホン酸アンモニウム水溶液1ml中に添加して均等に振蕩した。
【0168】
(2)2.131mlのメタンスルホン酸溶液を精密に計量し、4.572mlのトリエチルアミンを添加してから、再蒸留水(ddH2O)で50mlまで定容することで、濃度650mMのメタンスルホン酸トリエチルアミン水溶液を取得した。次に、50.6mgの塩酸イリノテカンを精密に計量し、650mMのメタンスルホン酸トリエチルアミン水溶液1ml中に添加して均等に振蕩した。
【0169】
(3)6.513mlの4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸溶液を精密に計量し、2.432mlのアンモニア水を添加してから、再蒸留水(ddH2O)で50mlまで定容することで、濃度650mMのヒドロキシベンゼンスルホン酸アンモニウム水溶液を取得した。次に、50.6mgの塩酸イリノテカンを精密に計量し、650mMのヒドロキシベンゼンスルホン酸アンモニウム水溶液1ml中に添加して均等に振蕩した。
【0170】
(4)6.513mlの4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸溶液を精密に計量し、5.866mlのトリエチルアミンを添加してから、再蒸留水(ddH2O)で50mlまで定容することで、濃度650mMのヒドロキシベンゼンスルホン酸トリエチルアミン水溶液を取得した。次に、50.6mgの塩酸イリノテカンを精密に計量し、650mMのヒ
ドロキシベンゼンスルホン酸トリエチルアミン水溶液1ml中に添加して均等に振蕩した。
【0171】
上記の塩酸イリノテカンとスルホン酸塩溶液の懸濁液をオイルバスで加熱し、融点を測定した。結果は表10に示す通りであった。
【表10】
【0172】
表10から明らかなように、各イリノテカンスルホン酸塩の融点温度は86~99℃の間であった。融点の実験結果を後述するDSC実験の結果と組み合わせて分析したところ、これらのスルホン酸塩溶液をリポソームの内水相とした場合には、リポソームの内水相中のイリノテカンイオンとともに結晶形又は無定形構造の不溶性塩が形成されることで、イリノテカンの安定的な封入が達成されるとともに、イリノテカンリポソームの保持安定性が向上することがわかった。
【実施例12】
【0173】
イリノテカンリポソームの高分解能DSCによるキャラクタリゼーション
研究の結果、リポソームの内水相中にナノ結晶が形成されることで、リポソーム製剤の保持安定性の向上に有利となり、薬物放出速度を緩和できることがわかっている(Wei,X.等,Cardinal role of intraliposome doxorubicin-sulfate nanorod crystal in doxil
properties and performance[J].ACS Omega
2018,3(3),2508-2517)。
【0174】
モノスルホン酸塩及びジスルホン酸塩がリポソームの内水相中でイリノテカンとともに形成する塩の微細構造について考察するために、実施例11の融点測定をベースに、実施例2~9で調製したイリノテカンリポソームの熱力学挙動を高分解能DSCにより検討した。また、自作したショ糖オクタ硫酸エステルトリエチルアミン及び硫酸アンモニウムを内水相とするイリノテカンリポソームと比較した。DSCキャラクタリゼーションを行う全てのイリノテカンリポソームのサンプルは、いずれも投入薬物/リポソーム比を0.3、脂質濃度を8.9mg/ml、平均粒径を100nmとした。且つ、PDIは0.1よりも小さかった。
【0175】
本実施例で使用した示差走査熱量測定計(DSC)は、米国GE社のキャピラリーDSC(Capillary DSC)であった。また、走査温度は10~120℃、走査速度は1度/分であった。
【0176】
具体的な過程は下記の通りであった。
【0177】
実施例2~9における異なるスルホン酸塩溶液を内水相として調製したイリノテカンリ
ポソームを取得し、0.22umの濾過膜で濾過したあと、手動でキャピラリーDSCのサンプルセルに投入した(約200ul)。また、10%ショ糖溶液を対照とした。これらを加熱及び走査して、熱力学チャートを記録した。取得した熱力学チャートは、文献の方法(Wei,X.等,Insights into composition/structure/function relationships of doxil(登録商標)gained from “high-sensitivity” differential scanning calorimetry[J].Eur J Pharm Biopharm 2016,104,260-270)に基づき処理し、各リポソームに封入されたイリノテカンのモル濃度に基づいて熱力学パラメータを算出した。結果は
図5に示す通りであった。各群の塩酸イリノテカンリポソームの主な熱力学パラメータは表11に示す通りとなった。
【表11】
【0178】
DSC実験の結果より、イリノテカンリポソームの内水相中のスルホン酸塩は薬物とともに比較的規則的な構造を形成し、比較的高い融点を有することがわかった。このような形態は、薬物の安定的な封入や製剤の徐放にとって有利である。実施例10におけるin
vitro放出結果と組み合わせると、メタンスルホン酸アンモニウム、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸アンモニウム、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸トリエチルアミン溶液及び4群のジスルホン酸塩溶液を内水相とするイリノテカンリポソームは、比較的
良好なin vitro徐放効果を有していた。
実施例12
【0179】
本発明では、更に、実施例2及び実施例6を参照して、その他の種類のイリノテカンリポソームを調製するとともに、キャラクタリゼーションを行った。
【0180】
タイプ1:実施例2のイリノテカンリポソームの調製方法とは、以下の点において異なっていた。即ち、ステップ(2)では、メタンスルホン酸アンモニウム溶液を取得してpHを調整し、pHが9.0である800mMのメタンスルホン酸アンモニウム緩衝液を調製した。また、ステップ(4)では、粒径サイズが200nmのブランクリポソームを取得し、ステップ(5)では、濃度15mg/mlの塩酸イリノテカン水溶液と混合した。そのほかの点については同様であった。
【0181】
タイプ2:実施例2のイリノテカンリポソームの調製方法とは、以下の点において異なっていた。即ち、ステップ(2)では、メタンスルホン酸アンモニウム溶液を取得してpHを調整し、pHが4.5である100mMのメタンスルホン酸アンモニウム緩衝液を調製した。また、ステップ(4)では、粒径サイズが30nmのブランクリポソームを取得し、ステップ(5)では、濃度10mg/mlの塩酸イリノテカン水溶液と混合した。そのほかの点については同様であった。
【0182】
タイプ3:実施例2のイリノテカンリポソームの調製方法とは、以下の点において異なっていた。即ち、ステップ(2)では、メタンスルホン酸アンモニウム溶液を取得してpHを調整し、pHが5.0である200mMのメタンスルホン酸アンモニウム緩衝液を調製した。また、ステップ(4)では、粒径サイズが50nmのブランクリポソームを取得し、ステップ(5)では、濃度13mg/mlの塩酸イリノテカン水溶液と混合した。そのほかの点については同様であった。
【0183】
タイプ4:実施例2のイリノテカンリポソームの調製方法とは、以下の点において異なっていた。即ち、ステップ(2)では、メタンスルホン酸アンモニウム溶液を取得してpHを調整し、pHが8.0である700mMのメタンスルホン酸アンモニウム緩衝液を調製した。また、ステップ(4)では、粒径サイズが120nmのブランクリポソームを取得し、ステップ(5)では、濃度14mg/mlの塩酸イリノテカン水溶液と混合した。そのほかの点については同様であった。
【0184】
タイプ5:実施例6のイリノテカンリポソームの調製方法とは、以下の点において異なっていた。即ち、ステップ(2)では、エタンジスルホン酸水和物溶液を取得してpHを調整し、pHが6.0である500mMのエタンジスルホン酸アンモニウム緩衝液を調製した。また、ステップ(4)では、粒径サイズが90nmのブランクリポソームを取得し、ステップ(5)では、濃度14mg/mlの塩酸イリノテカン水溶液と混合した。そのほかの点については同様であった。
【0185】
タイプ6:実施例6のイリノテカンリポソームの調製方法とは、以下の点において異なっていた。即ち、ステップ(2)では、エタンジスルホン酸水和物溶液を取得してpHを調整し、pHが4.0である50mMのエタンジスルホン酸アンモニウム緩衝液を調製した。また、ステップ(4)では、粒径サイズが110nmのブランクリポソームを取得し、ステップ(5)では、濃度12mg/mlの塩酸イリノテカン水溶液と混合した。そのほかの点については同様であった。
【0186】
タイプ7:実施例6のイリノテカンリポソームの調製方法とは、以下の点において異な
っていた。即ち、ステップ(2)では、エタンジスルホン酸水和物溶液を取得してpHを調整し、pHが4.5である100mMのエタンジスルホン酸アンモニウム緩衝液を調製した。また、ステップ(4)では、粒径サイズが80nmのブランクリポソームを取得し、ステップ(5)では、濃度13mg/mlの塩酸イリノテカン水溶液と混合した。そのほかの点については同様であった。
【0187】
タイプ8:実施例6のイリノテカンリポソームの調製方法とは、以下の点において異なっていた。即ち、ステップ(2)では、エタンジスルホン酸水和物溶液を取得してpHを調整し、pHが7.5である400mMのエタンジスルホン酸アンモニウム緩衝液を調製した。また、ステップ(4)では、粒径サイズが150nmのブランクリポソームを取得し、ステップ(5)では、濃度13mg/mlの塩酸イリノテカン水溶液と混合した。そのほかの点については同様であった。
【0188】
上記の実施例は本発明の原理と効果を例示的に説明したものにすぎず、本発明を制限するものではない。本技術を熟知する者であれば、本発明の精神及び範囲を逸脱しないことを前提に、上記の実施例を補足又は変形することが可能である。従って、当業者が本発明に開示される精神及び技術的思想から逸脱することなく遂行するあらゆる等価の補足又は変形もまた本発明の特許請求の範囲に含まれる。