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特許7395595優れたスケール密着性を有する高強度熱間圧延鋼及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】優れたスケール密着性を有する高強度熱間圧延鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20231204BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20231204BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20231204BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/00 301A
C22C38/58
C21D9/46 T
C21D8/02 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021541330
(86)(22)【出願日】2019-09-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 IB2019058125
(87)【国際公開番号】W WO2020065549
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-05-19
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2018/057384
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディアス・ゴンサレス,エバ
(72)【発明者】
【氏名】ブラッケ,リーベン
(72)【発明者】
【氏名】ワーテルスコート,トム
(72)【発明者】
【氏名】デストリッケル,ヨースト
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-207339(JP,A)
【文献】特開2013-237101(JP,A)
【文献】特開平06-073504(JP,A)
【文献】特開2012-021192(JP,A)
【文献】国際公開第2017/183133(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/018741(WO,A1)
【文献】特開平11-043724(JP,A)
【文献】特開2011-089166(JP,A)
【文献】特開2008-248384(JP,A)
【文献】特開2007-039811(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0283901(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103103458(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1888120(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 9/46
C21D 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延鋼材であって、重量パーセントで、
0.06%≦炭素≦0.18%
0.01%≦ニッケル≦0.6%
0.001%≦銅≦2%
0.001%≦クロム≦2%
0.001%≦ケイ素≦0.8%
0%≦窒素≦0.008%
0%≦リン≦0.03%
0%≦硫黄≦0.03%
0.001%≦モリブデン≦0.5%
0.001%≦ニオブ≦0.1%
0.001%≦バナジウム≦0.5%
0.001%≦チタン≦0.1%
を含み、以下の任意元素の1つ以上を含むことができ、
0.2%≦マンガン≦2%
0.005%≦アルミニウム≦0.1%
0%≦ホウ素≦0.003%
0%≦カルシウム≦0.01%
0%≦マグネシウム≦0.010%
組成の残余は鉄及び加工によって生じる不可避の不純物から構成される組成を有し、そのような鋼材は面積分率において、フェライトが少なくとも25%である少なくとも50%のマグネタイト及びフェライトの総量、0%~50%のウスタイト、0%~10%のヘマタイトを含む三次スケール層を有し、このようなスケール層は5ミクロン~40ミクロンの間の厚さを有する、熱間圧延鋼材。
【請求項2】
前記組成が、0.01%~0.5%のケイ素を含む、請求項1に記載の熱間圧延鋼材。
【請求項3】
前記組成が、0.1%~0.3%のニッケルを含む、請求項1又は2に記載の熱間圧延鋼材。
【請求項4】
前記組成が、0.1%~0.5%の銅を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼材。
【請求項5】
前記組成が、0.01~0.3%のクロムを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼材。
【請求項6】
マグネタイト及びフェライトの総量が80%以上であり、マグネタイトの割合が30%より高い、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼材。
【請求項7】
ウスタイトの含有率が45%以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼材。
【請求項8】
NBN EN ISO 6270-2に従って測定した赤錆の割合が20%以下であり、スケール密着性が80%以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼材。
【請求項9】
NBN EN ISO 6270-2に従って測定した赤錆の割合が15%以下であり、スケール清浄度が80%以上である、請求項8に記載の熱間圧延鋼材。
【請求項10】
以下の連続ステップ
- 請求項1~5のいずれか一項に記載の組成を有する鋼を鋳造して半製品を提供するステップ、
- 該半製品を1000℃~1280℃の間の温度に再加熱するステップ、
- 該半製品を熱間圧延仕上げ温度が840℃を超える完全にオーステナイトの範囲で圧延し、厚さが2mm~20mmの間の熱間圧延鋼板を得るステップ、
- 該熱間圧延鋼板を2~30℃/秒の冷却速度で650℃以下の巻取り温度まで冷却し、該熱間圧延鋼板を巻き取るステップ、
- 該熱間圧延鋼板を2℃/秒未満の冷却速度で室温まで冷却し、熱間圧延鋼材を得るステップ、
を含み、
得られる鋼材は面積分率において、フェライトが少なくとも25%である少なくとも50%のマグネタイト及びフェライトの総量、0%~50%のウスタイト、0%~10%のヘマタイトを含む三次スケール層を有し、このようなスケール層は5ミクロン~40ミクロンの間の厚さを有する、圧延鋼材の製造方法。
【請求項11】
巻取り温度が550℃~650℃の間である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
熱間圧延後の冷却速度が、2℃/秒~15℃/秒の間である、請求項1011のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
巻取り後の冷却速度が、0.0001℃/秒~1℃/秒の間である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
巻取り後の冷却速度が、0.0001℃/秒~0.5℃/秒の間である、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーン、トラック及び他のブルドーザーのような大型の産業用機械装置の製造に使用するのに適した、優れたスケール密着性を有する熱間圧延製品に関する。特に、本発明は、耐食性とともに優れたスケール密着性を有し、それを製造する方法を有する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延鋼は、クレーン、トラック及びブルドーザーの部品などの建設及び重産業用機械装置のための鋼部品の製造に使用されている。しかし、近年、作業環境の過酷化が進んでいるのと同様に、地球環境保全の観点から二酸化炭素排出量への注目が高まっており、クレーン及びトラックなどのこれらの機械装置が特に耐食性の観点から過酷な作業環境に耐えつつ、工業規格のとおりに効率的に作業を行うことが求められており、その結果耐食性及び許容される機械的特性を有する鋼の開発が義務付けられている。
【0003】
工業規格に対応しつつ、過酷な作業環境に対応できる十分な耐食性を有する鋼の開発のために鋭意研究開発を行ってきた。
【0004】
このため、厳しい環境基準を遵守しながら、過酷な産業環境における機械的特性と有用性との間の良好なバランスを提供するために、三次スケールを有する熱間圧延鋼が開発された。このような三次スケールは、一旦二次スケールが除去されると、粗圧延後、ホットミル加工中に形成される。再加熱炉での圧延温度までの鋼の加熱中に形成されるスケールは、一次スケールとして知られている。
【0005】
JP2014-031537号は、質量%で、C:0.01~0.4%、Si:0.001~2.0%、Mn:0.01~3.0%、P:0.05%以下、S:0.05%以下、Al:0.3%以下、N:0.01%以下を含み、残余は不可避の不純物を有するFeである熱間圧延鋼板を開示しており、鋼板の表面に形成された20μmというスケールの厚さ、80%以上という圧延方向におけるフェライト及びスケールとの接触長に対する鋼板のフェライト及びマグネタイトとの接触長の比、3μm以下というマグネタイトの平均粒径を有し、本熱間圧延製品は400~450℃の間90分以上という保持時間を有し、これは非常にエネルギー集約的であり、さらにこれはスケール密着性に有害な多量のヘマタイトを有する。
【0006】
JP2004-346416号では、特にMn含有量の多い鋼材であっても、再現性良く確実に密着性が向上したスケール付き熱間圧延鋼板を開示している。この熱間圧延鋼板は表面にスケール層(これはマグネタイトを含み、体積分率で0.3%以下のMnFe及び体積分率で1.0%以下の(Fe,Mn)Oを含む)を有し、400MPa以下の残留圧縮応力を有する。しかし、MnFeの存在はマグネタイト含有量が高い場合でもスケール密着性を低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-031537号公報
【文献】特開2004-346416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、上記の公報に照らして、本発明の目的は、以下を同時に有する優れたスケール密着性を有する熱間圧延鋼材を入手可能にすることである。
- 20%未満の赤錆(dust)という耐食性の改善
- 反射率60%以上のスケール密着性
- 反射率65%以上の表面清浄度
【0009】
好ましくは、このような鋼は、成形、特に圧延への良好な適性、並びに良好な溶接性及び切断性を有する。
【0010】
本発明の他の目的は、製造パラメータのいくつかの小さな変動に対して過度に敏感ではない一方で、従来の工業用途に適合するこれらの製品の製造方法を利用可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による鋼は、詳細に説明する特定の組成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
炭素は本発明の鋼中に0.06~0.18%の間で存在する。一定の引張強さを確保するために炭素が存在する。しかし、炭素が0.06%未満の場合、このような含有効果は不十分である。一方、炭素が0.18%を超えると、母材及び溶接熱影響部の靭性は低下し、溶接性が著しく低下する。したがって、炭素の含有率は0.06~0.18%に制限される。
【0013】
ニッケルは本発明の鋼中に0.01~0.6%の間で存在する。ニッケルは、鋼基材の靭性及び焼入性を向上させる機能を有する。しかし、ニッケルは密着性スケールの形成にも重要な役割を果たしており、スケールの密着に最低0.01%のニッケルが必要となるが、ニッケルの含有率が0.6%を超えると、経済効率が低下する。ニッケル含有率の好ましい範囲は0.01~0.3%の間である。
【0014】
銅は本発明の鋼中に0.001~2%の間で存在する。銅は、鋼基板に対して固溶硬化及び析出硬化により強度を向上させる機能を有する。銅はスケール形成に大きな影響を持つため、鋼表面に最小量のスケールを確保し、スケール密着性を付与するためには、最低0.005%の銅が必要である。しかし、銅の含有率が2%を超えると、鋼ビレットの加熱時又は溶接時に、高温の加工で割れが発生する傾向がある。したがって、銅を添加する場合は、その含有率は2%以下に制限される。銅含有率は0.001~0.5%の間で存在することが好ましい。
【0015】
クロムは本発明の鋼中に0.001%~2%の間で存在する。クロムは強度及び靭性を向上させる機能を有し、高温強度特性の付与に優れている。したがって、鋼材の強度を上げようとする場合には、クロムが積極的に添加され、特に0.01%以上のクロムを加えて、鋼基材の引張強さの特性を得ることが好ましい。クロムはウスタイトへの固定効果があるため、特にウスタイトへのスケールの密着に有利である。しかし、クロム含有率が2%を超えると、溶解性が低下する。したがって、クロムを添加する場合は、その含有率は2%以下に制限される。本発明におけるクロムの好ましい範囲は0.01%~0.3%の間である。
【0016】
ケイ素は本発明の鋼中に0.001~0.8%の間で存在する。ケイ素は製鋼段階の脱酸化剤として、また強度を向上させるための元素として含有される。しかし、ケイ素が0.01%未満の場合、このような含有効果は不十分である。一方、ケイ素が0.8%より多いと、スケールの均一性に影響を及ぼす鉄かんらん石の生成が増加する。ケイ素は好ましくは0.01~0.5%の間、より好ましくは0.01~0.4%の間であることができる。
【0017】
窒素は本発明の鋼中に0%~0.008%の間で存在する。窒素は、チタンなど窒化物を形成することによって組織を微細化し、よって母材及び溶接熱影響部の靭性を向上させるので添加される。窒素を0.0005%未満で添加すると、組織を微細化する効果が十分に得られず、一方窒素を、0.008%を超えて添加すると、溶存窒素量が増加するため、母材及び溶接熱影響部の靭性が低下する。したがって、窒素の好ましい含有率は0.0005~0.008%に制限される。
【0018】
リン及び硫黄の各々は不純物元素であり、0.03%まで存在することができ、この量を超えると、安定した母材及び安定した溶接接合を得ることができない。したがって、リン及び硫黄の各含有率は0.03%以下に制限される。しかし、硫黄については、0.0004%≦S≦0.0025%とすることが好ましく、リンについては、好ましい範囲は0%~0.02%の間である。
【0019】
モリブデンは本発明の鋼中に0.001~0.5%の間で存在する。モリブデンは、スケールの耐食性及び鋼の強度を向上させる機能を有し、加えて、スケール密着性を向上させる。モリブデンを、0.5%を超えて添加すると、経済効率が低下する。したがって、モリブデンを添加する場合、その含有率は0.001~0.3%に制限される。
【0020】
ニオブは、マイクロ合金化元素として強度を高めると共に、炭化物、窒化物、又は炭窒化物を形成することにより拡散性水素を捕捉し、耐遅れ破壊特性を向上させる。ニオブを0.001%未満で添加すると、このような効果は不十分であり、一方ニオブを、0.1%を超えて添加すると、溶接熱影響部の靭性が低下する。したがって、ニオブを添加する場合には、その含有率は0.001~0.1%に制限される。
【0021】
バナジウムは、炭化物、窒化物、又は炭窒化物を形成することによって拡散性水素を捕捉することにより、マイクロ合金化元素として鋼の強度を高める。バナジウムを0.001%未満で添加すると、このような効果は不十分であり、バナジウムを、0.5%を超えて添加すると、溶接熱影響部の靭性が低下する。したがって、バナジウムを添加する場合は、その含有率は0.001~0.5%に制限される。バナジウムの好ましい範囲は0.001~0.3%の間である。
【0022】
チタンは、本発明の鋼中に0.001~0.1%の間で存在する。本発明の鋼に強度を付与するための窒化物用チタン。しかし、チタンを0.001%未満添加した場合には、このような効果は不十分であり、一方チタンを、0.1%を超えて添加した場合には、鋼の靭性が低下する。したがって、チタンを添加する場合には、その含有率は0.001~0.1%に制限される。
【0023】
一定の引張強さを確保するためにマンガンが含まれる。しかし、マンガンが0.2%未満の場合には、このような含有効果は不十分である。一方、マンガンが2%を超える場合、溶接性が著しく低下する。本発明のマンガン含有率は、ウスタイトの形成及びスケール中でのその安定化を助け、それによりスケール密着性を向上させる。しかし、マンガンの含有率が2%を超えると、MnFeが生成し、これはスケール密着性に有害であるため、本発明のマンガンの好ましい範囲は0.2%~1.8%であり、より好ましくは0.5%~1.5%の間である。
【0024】
アルミニウムは、本発明の任意の元素であり、0.005%~0.1%の間で存在し得る。脱酸化剤としてアルミニウムが添加され、さらに本発明の鋼の微細化に影響を及ぼす。しかし、アルミニウムが0.005%未満の場合には、このような含有効果は不十分である。一方、アルミニウムを、0.1%を超えて含有すると、鋼の表面清浄度及び表面品質が低下する。したがって、アルミニウムの含有率は0.005~0.1%に制限される。
【0025】
ホウ素は、本発明の鋼の任意の元素であり、0%~0.003%の間で鋼中に存在する。ホウ素には、焼入性を向上させる機能がある。しかし、ホウ素の含有率が0.003%を超えると、靭性が低下する。そのため、ホウ素を添加する場合は、その含有率は0.003%以下に制限される。
【0026】
カルシウムは任意の元素であり、硫化物をベースとする包含物の制御に使用される。しかし、カルシウムを、0.01%を超えて添加すると、清浄度の低下を招く。したがって、カルシウムを添加する場合には、その含有率は0.01%以下に制限される。
【0027】
マグネシウムは任意の元素であり、鋼の溶接性向上のために使用され、0.010%の量に制限される。
【0028】
本発明のスケールは、巻取り中及び450℃までの巻取り後の冷却中と同様に、熱間圧延後の冷却中に鋼ストリップ表面で発達し、5ミクロン~40ミクロンの間の厚さを有する3次スケールである。スケールはフェライト及びマグネタイトを含み、任意にヘマタイト及びウスタイトを含むことができる。本発明の理解を通して考えるために、全ての構成成分の特別な機能及び意義を本明細書で明記する。
【0029】
初期には、仕上げ圧延後に利用可能な酸素が豊富に存在するためにウスタイトの酸化物層が形成され、ウスタイトは鋼基材に隣接して生じるが、一方、ヘマタイト層は、それより上に生じる。しかし、巻取り後、酸素への接近は制限されるので、ウスタイトは消費され、鉄と反応して2つの異なる酸化物層を形成する。すなわち、
- 鋼基材に隣接する、フェライトを分散させたマグネタイト層、及び
- そのすぐ上のウスタイト酸化物層が形成される。
【0030】
このスケールの厚さ及び組成を制御することにより、目標とする機械的特性及び使用特性が達成され得る。本発明のスケールは、面積分率で50%を超えるマグネタイト及びフェライトの総量、0%及び50%のウスタイト、並びに最大10%のヘマタイトを含む。
【0031】
マグネタイト及びフェライトは50%以上の量で累積的に三次スケールに存在する。好ましい実施形態では、マグネタイト及びフェライトの累積量は70%以上であり、マグネタイトの含有率は30%より多い。マグネタイト酸化物スケール層は鋼基材に隣接して形成され、450℃の温度までの巻取り中に生じる。このマグネタイト層では、フェライトが分散し、これらの粒子の存在によりマグネタイト層がスケールに密着性を付与する。フェライトは、本発明の三次スケール中に少なくとも25%存在する。フェライトはBCC構造を有し、その硬さは一般に75BHN~95BHNの間である。フェライトはマグネタイト層に分散され、スケール密着性を付与する。マグネタイトへのウスタイトの分解過程でフェライトが生じる。というのもこの反応中鋼基材の鉄が酸素不足のためウスタイトと反応し、マグネタイト及びフェライトを形成するからである。
【0032】
ウスタイトは、本発明のスケールにおいて0%~50%の間で存在することができる。ウスタイトはFeOという式を有する最も柔らかい、鉄に富む酸化物相である。ウスタイトは、モーススケールで5~5.5の硬さを有する等軸六八面体(hexoctahedral)結晶系を有し、一方、ウスタイトは、高温で延性であるため、溶接及び切断操作中に助けとなるが、より低い温度では、非常に硬く、安定であり、それは、耐食性と同様に耐摩耗性を本発明の酸化物層に付与する。50%を超えるウスタイトの存在は、本発明のスケールの密着性及び耐食特性を劣化させる。
【0033】
ヘマタイトは、本発明のスケールにおいて0%~10%の量で存在することができる。この成分は、存在する場合、一般にスケールの最上層を構成する。ヘマタイトは本発明の構成成分として意図されているわけではないが、処理パラメータにより構成成分となり得る。ヘマタイトは10%までは影響を与えないが、10%を超えると本発明のスケールの密着性に有害である。
【0034】
本発明の鋼材は、任意の適切な方法によって製造することができる。しかし、以下に記載する方法を用いるのが好ましい。
【0035】
半完成品の鋳造は、インゴットの形態で行うか、薄いスラブ又は薄いストリップの形態で行うことができる。すなわち、厚さは、スラブの場合の約220mmから、細いストリップ又はスラブの場合の数十ミリメートルまでの範囲である。
【0036】
簡略化を目的として、以下の記述では半製品としてスラブに焦点を当てる。上記の化学組成を有するスラブは連続鋳造により製造され、本発明の製造方法に従ってさらに処理するために提供される。ここで、スラブは連続鋳造中に高温で使用することができるか、又はまず室温まで冷却した後、再加熱することができる。
【0037】
熱間圧延されるスラブの温度はAc3点を超え、少なくとも1000℃以上であることが好ましく、1280℃を下回っていなければならない。ここで言及する温度は、スラブの全ての点がオーステナイト範囲に達することを保証するために規定される。スラブの温度が1000℃より低い場合、圧延機に過大な荷重がかかり、さらに圧延中に鋼の温度がフェライト変態温度まで低下することがある。したがって、圧延が完全なオーステナイト域にあることを保証するために、再加熱は1000℃を超えて行われなければならない。さらに、熱間圧延中に再結晶するこれらの結晶粒の能力を低下させる粗いフェライト結晶粒をもたらすオーステナイト結晶粒の好ましくない成長を避けるために、温度は1280℃を超えてはならない。また、1280℃を超える温度は、熱間圧延中に有害な厚い層の酸化物が形成されるリスクを高める。
【0038】
仕上げ圧延温度は800℃を上回らなければならず、好ましくは840℃を超えなければならない。熱間圧延に供される鋼が完全なオーステナイト域で圧延され、仕上げ圧延の出口で温度が十分に高く、適切なスケール形成を有し、また最小スケール厚さが5ミクロンであることを保証するためには、800℃を超える仕上げ圧延温度を有することが必要である。熱間圧延後の熱間圧延鋼板の最終厚さは2mm~20mmの間である。
【0039】
次いで、この方法で得られた熱間圧延鋼板を冷却速度2℃/秒及び30℃/秒で650℃以下の巻取り温度まで冷却し、本発明のスケールの必要な構成成分を得る。スケール成分及び厚さの両方でスケール形成の低下を避けるために、冷却速度は30℃/秒を超えてはならない。巻取り温度は、650℃を超えてしまうと、スケール層の粗さ及び延性などの他の機械的特性に有害であるのと同様に、スケールの密着性を悪化させる酸素に富む酸化物が過剰に生成するリスクとなる可能性があるため、その温度を下回っていなければならない。本発明の熱間圧延鋼板の好ましい巻取り温度は550℃~650℃の間であり、熱間圧延後の好ましい冷却速度範囲は2~15℃/秒である。
【0040】
続いて、熱間圧延鋼板を、好ましくは10℃/秒以下の冷却速度で室温まで冷却させて、450℃~550℃の間の温度で、分散した鉄を有するマグネタイト層が限られた酸素中で形成されてウスタイトから変態することを可能にするための時間を提供する。
【0041】
その後、熱間圧延鋼材を2℃/秒未満の冷却速度で室温まで冷却し、好ましくは巻取り後の冷却速度は0.0001℃/秒~1℃/秒の間であり、より好ましくは巻取り後の冷却速度は0.0001℃/s~0.5℃/秒である。これらのゆっくりした冷却速度は、熱間圧延鋼材を閉鎖区域又は覆った状態で冷却することによって巻取られた熱間圧延鋼材を維持することによって達成される。冷却後、熱間圧延鋼材が室温に達したら、スケール密着性に優れた高強度鋼板が得られる。
【実施例
【0042】
以下の試験、実施例、象徴的に表した例示及び表は、本質的に非制限的であり、例示のみの目的で考慮されなければならず、本発明の有利な特徴を表示し、広範な実験の後に発明者によって選択された工程パラメータの意義を解き明かし、さらに本発明の鋼によって達成され得る特性を確立する。
【0043】
試験試料の鋼板組成を表1にまとめ、ここでは、それぞれ表2にまとめた工程パラメータに従って鋼板を製造する。表3は得られた三次スケールの微量成分を示し、表4は使用特性の評価結果を示す。
【0044】
<表1-鋼組成>
表1は、本発明によって規定される工程パラメータに準拠している種々の鋼材組成物上で密着性スケールが形成され得るという事実を示すためにのみ、本明細書に含める。これらの鋼組成物は、単に例示的な例であるため、本質的に網羅的なものとして扱ってはならない。
【0045】
表1は、重量パーセントで表された組成を有する鋼を示す。
【0046】
【表1】
【0047】
<表2-工程パラメータ>
本明細書の表2は、表1の鋼試料について実施された工程パラメータを詳述している。
【0048】
【表2】
【0049】
<表3-密着性スケールの微量成分>
表3は、本発明の密着性スケール及び参考の密着性スケールの両方の微量成分組成を決定するために、走査型電子顕微鏡のような異なる顕微鏡において、規格に従って実施された試験の結果を示す。
【0050】
結果は面積パーセントで規定されており、全ての発明例が規定された範囲内の微量成分を有することが観察された。
【0051】
【表3】
【0052】
<表4-機械的特性>
表4は、本発明スケールの使用特性を例示する。スケール密着性及びスケールの清浄度はスコッチテストで試験し、このテストでは、錆(dust)及びはがれたスケールを集めるテープを表面に貼って表面の清浄度を測定する。次にこのテープを白い紙の上に置き、反射率又は白さを測定する。密着性を測定するために、粘着テープを引張試験片の全長に貼付する。この試験片を引張試験機でつかみ、伸び0.2%まで伸ばす。次に、ストリップを注意深く取り除き、表面清浄度評価の場合のように反射率を測定する白い紙に貼り付ける。
【0053】
これの耐食性を評価するために、500時間の間NBN EN ISO 6270-2に従った一定湿度試験を行った。この試験後、画像解析ソフトウェアを用いて、表面に存在する赤錆の割合を評価した。
【0054】
本規格に従って実施した種々の機械的試験の結果をここに表にまとめる。
【0055】
【表4】
【0056】
実施例は、本発明による熱間圧延鋼板が、その特別な組成及び本発明の三次スケールの微量成分の結果、全ての目標とする特性を示すことを示す。