(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】人肌模型キット
(51)【国際特許分類】
G09F 5/00 20060101AFI20231204BHJP
G09B 25/00 20060101ALI20231204BHJP
A45D 44/00 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
G09F5/00 Z
G09B25/00 Z
A45D44/00 Z
(21)【出願番号】P 2021550992
(86)(22)【出願日】2019-10-08
(86)【国際出願番号】 JP2019039719
(87)【国際公開番号】W WO2021070269
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-08-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)刊行物等 Proceedings in IEEE World Haptics Conference 2019, WPI.10(USB) IEEE (Institute of Electrical and Electronics Engineers) IEEE World Haptics Conference 2019(開催日:令和1年7月11日)にて公開 (2)公開者 荒川 尚美 岡本 正吾(3)頒布日 令和1年7月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(72)【発明者】
【氏名】北村 尚美
(72)【発明者】
【氏名】岡本 正吾
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3113876(JP,U)
【文献】特開平08-224217(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0059529(US,A1)
【文献】特開2005-002516(JP,A)
【文献】特開2005-335235(JP,A)
【文献】特開2011-252248(JP,A)
【文献】特開平09-056468(JP,A)
【文献】特開2016-152833(JP,A)
【文献】特開2006-290745(JP,A)
【文献】特開2004-117851(JP,A)
【文献】特開2006-154633(JP,A)
【文献】特開2001-255827(JP,A)
【文献】特開2018-083005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09F 5/00 - 5/04
A45D 44/00 - 44/22
A61B 5/00 - 5/398
G09B 25/00 - 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に対して水平方向の柔らかさを評価するための、人肌を模した人肌模型を複数備える人肌模型キットであって、
前記複数の人肌模型が同一の基層を備え、
前記人肌模型の少なくとも一つが前記基層の表面上に設けられた表面層を備え、且つ
全ての前記人肌模型の表面における摩擦係数が互いに異な
り、
前記人肌模型の基層は、ウレタン系高分子又はシリコーンで形成されており、
前記表面層は粉末を含有しており、該粉末の種類、含有率及び形状の少なくともいずれか一つが異なることによって摩擦係数が異なるように形成される、
人肌模型キット。
【請求項2】
前記表面層は、化粧料層として形成される、請求項1に記載の人肌模型キット。
【請求項3】
前記表面層は、フィルム状である、請求項1又は2に記載の人肌模型キット。
【請求項4】
各人肌模型の摩擦係数に関連する表示が各人肌模型と並んで配置される、請求項1~3のいずれか一つに記載の人肌模型キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、人肌模型キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、店頭で化粧品が販売されるときに化粧品の使用前後における肌の状態の変化を分かり易くするために、人肌模型キットを用いることが提案されている。具体的には、スキンケア商品(化粧水、乳液、美容液、保湿クリーム、マスク、美容オイルなど)を使用する前の素肌の状態を模した人肌模型と、スキンケア商品を2週間から1ヶ月程度使用した後の肌の状態を模した人肌模型とをセットにして人肌模型キットを作成し、この人肌模型キットを用いて店頭にて販売員が商品説明を行うことが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、人肌を指で押したり人肌に沿って指を滑らせたりしたときに感知される人肌の柔らかさは、粘弾性に関する物性(例えば、縦弾性係数、横弾性係数、等)に応じて変化する。その一方で、人肌を触ったときに感知される人肌の柔らかさは、粘弾性に関する物性以外の物性の影響は受けないと考えられてきた。
【0005】
ところが、本願の発明者らの鋭意研究により、人肌の粘弾性に関する物性値が全く同一であっても、その表面の摩擦係数が異なると、その人肌に沿って指を滑らせたときに感知される柔らかさが異なることが判明した。したがって、人肌の表面に塗布する化粧品(ファンデーション、下地クリームなど)の摩擦係数を変えると、その人肌に沿って指を滑らせたときに感知される柔らかさも変化する。したがって、このような化粧品を選択する際には、このようにして感知される自分の肌の柔らかさが最適になるように、その化粧品の摩擦係数を考慮することが必要になる。
【0006】
しかしながら、化粧品の摩擦係数が異なるとその化粧品が塗布された人肌の柔らかさが異なって感じられることを販売員が言葉で説明しても、顧客には十分伝わらない可能性がある。
【0007】
上記課題に鑑みて、本開示の目的は、肌に触れたときに感知される柔らかさが肌表面の摩擦係数の違いに応じて変化することを体感することができる人肌模型キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の要旨は以下のとおりである。
【0009】
(1)人肌を模した人肌模型を複数備える人肌模型キットであって、前記複数の人肌模型が同一の基層を備え、前記人肌模型の少なくとも一つが前記基層の表面上に設けられた表面層を備え、且つ全ての前記人肌模型の表面における摩擦係数が互いに異なる、人肌模型キット。
(2)前記表面層は、粉末を含有している、上記(1)に記載の人肌模型キット。
(3)前記表面層は、化粧料層として形成される、上記(1)又は(2)に記載の人肌模型キット。
(4)前記表面層は、フィルム状である、上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の人肌模型キット。
(5)前記人肌模型の基層は、ウレタン系高分子又はシリコーンで形成されている、上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の人肌模型キット。
(6)各人肌模型の摩擦係数に関連する表示が各人肌模型と並んで配置される、上記(1)~(5)のいずれか一つに記載の人肌模型キット。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、肌に触れたときに感知される柔らかさが肌表面の摩擦係数の違いに応じて変化することを体感することができる人肌模型キットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、一つの実施形態に係る人肌模型キットの概略的な斜視図である。
【
図2】
図2は、一つの実施形態に係る人肌模型キットの概略的な側面図である。
【
図3】
図3は、基層の構成を概略的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、一つの変形例に係る人肌模型キットの概略的な斜視図である。
【
図5】
図5は、一つの変形例に係る人肌模型キットの概略的な側面図である。
【
図6】
図6は、実験する際に用意したサンプルを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
【0013】
<人肌模型キットの構成>
図1は、一つの実施形態に係る人肌模型キット1の概略的な斜視図である。
図2は、一つの実施形態に係る人肌模型キット1の概略的な側面図である。人肌模型キット1は、例えば、店頭において化粧品の商品説明を行う際に、商品の使用による肌の触感の違いを顧客に体感してもらうために用いられる。
図1及び
図2に示したように、人肌模型キット1は、支持板10と、支持板10上に設けられた複数の人肌模型20、30とを備える。本実施形態では、人肌模型キット1には、第1人肌模型20と第2人肌模型30との二つの人肌模型が設けられる。なお、本実施形態では、人肌模型キット1は支持板10を備えているが、支持板10の代わりにシリコーン等の可撓性を有するシートが用いられてもよい。或いは、人肌模型キット1は支持板10を備えていなくてもよい。この場合、複数の人肌模型は、例えば、机上に配置して用いられる。
【0014】
支持板10は、厚紙又はポリエチレンやポリスチレン等の樹脂で形成される。本実施形態では、支持板10は、凹凸の無い板として形成される。しかしながら、支持板10は、その上面に、配置される人肌模型20、30の数と同数だけ凹部を有するように形成されてもよい。この場合、各凹部は、人肌模型20、30の底面形状と相補的な形状を有する。
【0015】
また、支持板10には、各人肌模型20、30に近接して、各人肌模型20、30と並んで、対応する人肌模型20、30の性質(特に、本実施形態では人肌模型20、30の表面の摩擦係数)に関する表示12、13が設けられる。
図1に示した例では、第1人肌模型20に近接して第1人肌模型20の性質に関する「摩擦:大」との文字が記載され、第2人肌模型30に近接して第2人肌模型30の性質に関する「摩擦:小」との文字が記載される。なお、支持板10に設けられる表示は、各人肌模型20、30の性質に関する表示であれば、数値や図表等、他の態様の表示であってもよい。したがって、支持板10に設けられる表示は、後述する表面層を形成する材料の原料名や製品名等を含んでもよい。
【0016】
人肌模型20、30は、
図2に示したように、それぞれ基層21、31及び表面層22、32を備える。具体的には、第1人肌模型20が第1基層21及び第1表面層22を備え、第2人肌模型30が第2基層31及び第2表面層32を備える。本実施形態では、基層21、31は、円筒状に形成され、その一方の端面(底面)が支持板10の上面に接着される。また、基層21、31の反対側の端面(上面)上には表面層22、32が設けられる。なお、支持板10に設けられた凹部に人肌模型20、30が嵌め込まれる場合には、基層21、31は支持板10に接着されなくてもよい。
【0017】
図3は、基層21、31の構成を概略的に示す断面図である。基層21、31は、人肌(皮膚)を模して形成された層であり、その厚さが2~200mm、2~100mm、2~50mm、又は2~10mmになるように形成される。本実施形態では、全ての人肌模型20、30に同一の基層が用いられる。
図3に示したように、本実施形態では、基層21、31は、人肌と同様に積層構造を有しており、表皮層51と内部層52とを備える。表皮層51は、人肌の角層及び表皮を模して形成され、内部層52は人肌の真皮及び皮下組織を模して形成される。内部層52の一方の端面(底面)が支持板10上に接着され、他方の端面(上面)上に表皮層51が設けられる。
【0018】
本実施形態では、表皮層51はウレタン系高分子、例えば、乾式用ウレタン系高分子(すなわち、一液型ウレタン系高分子又は二液型ウレタン系高分子)を主成分として形成される。特に、表皮層51は、一液型ウレタン系高分子を主成分として形成されるのが好ましい。一液型ウレタンとしては、ラッカー型、湿気硬化型、ブロックイソシアネート硬化型のいずれの型のウレタンも用いることができる。この一液型ウレタン高分子は、溶剤、具体的にはメチルエチルケトン、酢酸エチル、ジオキサン、トルエン、イソプロピルアルコール、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン等を必要に応じて適宜組み合わせた有機溶剤中に溶解して用いることができる。また、表皮層51は、ウレタンの他に、必要に応じて、発泡剤、界面活性剤、難燃剤、充填剤、顔材、安定剤、離型剤、触媒等の成分を含んでいてもよい。
【0019】
なお、二液型ウレタンとしては、例えば、イソシアネートとポリオールを主反応させて形成されるウレタンを用いることができる。イソシアネートとしては、例えばポリメリックMDI、ピトリレンジイソシアネートTODIやジフェニルメタンジイソシアネートMDI、ジアニシジンイソシアネートDADL、パラフェニレンジイソソアネートPPDI等が挙げられる。また、ポリオールとしては、例えばポリプロピレングリコールPPG、ポリテトラメチレンエーテルグリコールPTMG、ポリマーポリオール等のポリエーテル系;ポリ炭酸エステル、アジペート系ポリオール、ポリカプロラクトン系ポリオール、ポリカーボネートポリオール等のエステル系;その他ポリブタジエンポリオール、アクリルポリオール等が挙げられる。
【0020】
表皮層51は、その厚さが5μm~8mm、5μm~5mm、5μm~3mm、又は5μm~1mmとなるように形成される。また、表皮層51の上面(内部層52側とは反対側の表面)には、人肌の表面に形成されるキメを模して、溝が形成されてもよい。具体的には、表皮層51の上面には、キメの三角形の辺に相当する溝の長さが5μm~2mm、5μm~500μm、5μm~300μm、又は5μm~100μmであり、且つ溝の深さが10μm~3mm、5μm~500μm、5μm~300μm、又は5μm~100μmであるように溝が形成されてもよい。また、表皮層51の上面に形成される凹凸は必ずしもキメの三角形を模した溝でなくてもよい。したがって、例えば、表皮層51の上面には、ブラスト加工された金型を用いてシボ加工を行うことで、凹凸形状が形成されてもよい。
【0021】
内部層52は、ウレタン系高分子、例えば、上述したような乾式用ウレタン系高分子(すなわち、一液型ウレタン系高分子又は二液型ウレタン系高分子)を主成分として形成される。また、内部層52は、乾式発泡型のウレタン系高分子を主成分として形成されてもよい。
【0022】
上述したように、表皮層51は人肌(皮膚)の角層及び表皮を模して形成され且つ内部層52は真皮又は皮下組織を模して形成されているため、内部層52は、表皮層51よりも柔軟性が高くなるように形成される。なお、表皮層51が角層のみを模して形成され、内部層52が表皮、真皮及び皮下組織を模して形成されてもよい。或いは、表皮層51が角層、表皮及び真皮を模して形成され、内部層52が皮下組織を模して形成されてもよい。
【0023】
なお、本実施形態では、表皮層51及び内部層52共にウレタン系高分子を主成分として形成されている。しかしながら、表皮層51及び内部層52は、人肌を模して形成することができれば、シリコーン等、他の材料で形成されてもよい。また、本実施形態では、表皮層51の上面にキメを模した溝が形成されるが、斯かる溝は形成されていなくてもよい。
【0024】
また、本実施形態では、基層21、31は、表皮層51及び内部層52の2つの層を有するように構成されているが、1つの層だけを有するように構成されてもよいし、3つ以上の層を有するように構成されてもよい。
【0025】
表面層22、32は、化粧品に含まれる粉末を含むことができる。表面層22、32は、例えば、化粧品で用いられる顔料(体質顔料、白色顔料、着色顔料、等)の粉末、特に球状粉末を含む。これら顔料は、具体的には、酸化亜鉛、酸化チタン、マイカ、酸化鉄、窒化ホウ素、セリサイト、カオリン、シリカ、タルク等のうち少なくとも何れか一つを含む。また、表面層22、32は、粉末に加えて粉末を分散させる基材を含んでいてもよい。具体的には、基材は、油分、ろう、保湿剤、界面活性剤、シリコーンのうちの少なくともいずれか一つを含む。
【0026】
また、第1表面層22と第2表面層32とは、その摩擦係数が異なるように形成される。特に、本実施形態では、第1表面層22の摩擦係数が第2表面層32の摩擦係数よりも大きくなるように形成される。
【0027】
これら表面層22、32は、表面層22、32間で粉末材料の種類や、各粉末材料の含有率や、各粉末材料の形状を変えることによって、互いに摩擦係数が異なっている。例えば、第1表面層22及び第2表面層32が共に酸化チタンを主成分とする場合、第1表面層22の酸化チタン粉末の粒径が第2表面層32の酸化チタン粉末の粒径よりも大きくなるように酸化チタン粉末が形成される。
【0028】
なお、本実施形態では、表面層22、32は、化粧品に含まれる粉末の層として形成することができる。しかしながら、表面層22、32の少なくとも一方は、一般的には化粧品に含まれない粉末の層として形成されてもよい。
【0029】
表面層22、32は、化粧料層、例えばメーキャップ剤層又はスキンケア剤層として形成されてもよい。化粧料層は上述した粉末を含む層であってもよい。また、化粧料層は、上述した粉末を含まない層であってもよく、この場合、化粧料層は、油分、ろう、保湿剤、界面活性剤、シリコーンのうちの少なくともいずれか一つを含む。
【0030】
また、表面層22、32は、フィルム状に形成されてもよい。このように表面層22、32をフィルム状にすると、顧客の指が人肌模型20、30の表面に触れても、粉末のように表面層22、32の一部が指によってこすり取られてしまうことが防止される。ただし、いずれの場合であっても、表面層22、32は、その摩擦係数が互いに異なるように形成されることが必要である。
【0031】
なお、支持板10の表示12、13は、これら表面層22、32の性質を表すように設けられる。本実施形態では、第2表面層32に比べて第1表面層22の摩擦係数が大きいことから、第1表面層22を備えた第1人肌模型20に近接して「摩擦:大」との文字が支持板10上に記載され、第2表面層32を備えた第2人肌模型30に近接して「摩擦:小」との文字が支持板10上に記載される。
【0032】
<変形例>
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
図4は、上記実施形態の一つの変形例に係る人肌模型キット1の、
図1と同様な概略的な斜視図である。
図5は、本変形例に係る人肌模型キット1の、
図2と同様な概略的な側面図である。
【0033】
図4及び
図5に示したように、本変形例では、人肌模型キット1は、第1人肌模型20、第2人肌模型30及び第3人肌模型40の三つの人肌模型を備える。第1人肌模型20及び第2人肌模型30は、上記実施形態と同様にそれぞれ基層21、31及び表面層22、32を備える。一方、第3人肌模型40は、表面層を備えておらず、基層41のみを備える。したがって、第1人肌模型20及び第2人肌模型30はその上面が表面層22、32によって形成されているのに対して、第3人肌模型40はその上面が基層41によって形成されている。本変形例においても、全ての人肌模型20、30、40において同一の基層が用いられる。
【0034】
本変形例では、第1表面層22は基層41よりも(すなわち、ウレタン系高分子よりも)摩擦係数が高くなるように形成される。一方、第2表面層32は基層41よりも摩擦係数が低くなるように形成される。
【0035】
また、本変形例では、第1表面層22、基層41、第2表面層32の順に摩擦係数が小さくなることから、第1人肌模型20に近接して「摩擦:大」との文字が、第3人肌模型40に近接して「摩擦:中」との文字が、第2人肌模型30に近接して「摩擦:小」との文字が支持板10上に記載される。また、第3人肌模型40には表面層が設けられていないことから、第3人肌模型40に近接して「塗布なし」との文字が支持板10上に記載される。
【0036】
なお、第1表面層22及び第2表面層32は共にその摩擦係数が基層41(ウレタン系高分子)よりも大きくなるように形成されてもよい。同様に、第1表面層22及び第2表面層32は共にその摩擦係数が基層41(ウレタン系高分子)よりも小さくなるように形成されてもよい。
【0037】
また、人肌模型キット1は、表面層及び基層を備える人肌模型を三つ以上備えるように構成されてもよい。同様に、人肌模型キットは、表面層及び基層を備える人肌模型を一つ又は三つ以上備え且つ基層のみを備える人肌模型を一つ備えるように構成されてもよい。ただし、いずれの場合であっても人肌模型は同一の基層を備えると共に人肌模型の表面における摩擦係数は互いに異なることが必要である。換言すると、本実施形態及びその変形例では、複数の人型模型は同一の基層を備え、人肌模型の少なくとも一つは、基層の表面上に設けられた表面層を備え、且つ全ての人肌模型の表面おける摩擦係数が、互いに異なっている。
【0038】
また、人肌模型キット1は、支持板10に記載された文字を隠すことができる遮蔽部材を備えていてもよい。遮蔽部材は、例えば、文字を隠した状態と隠していない状態との間で摺動する摺動部材や揺動部材として構成されていてもよい。このような遮蔽部材を設けることで、顧客は、摩擦係数に関する表示を見ずに、すなわち先入観を持たずに人肌模型に触れることができる。
【0039】
<効果>
人肌に触れたときに感知される肌の柔らかさは、基本的に粘弾性に関する物性に応じて変化する。ところが、人肌の粘弾性に関する物性値が全く同一であっても、その表面の摩擦係数が異なると、その人肌に沿って指を滑らせたときに感知される柔らかさが異なることが判明した。以下では、実験結果を用いてこのように言える理由について説明する。
【0040】
まず、
図6に示したように、人型模型の5つのサンプルA~Eを用意し、これらサンプルをシリコーンシート上にランダムに並べて配置した。サンプルA、B、D、Eは表面層及び基層を備える。一方、サンプルCは、表面層を備えず、基層のみを備える。サンプルA、B、D、Eの表面層は、下記の表に示した材料で形成した。そして、サンプルA~Eは、下記の表に示したように、その摩擦係数がサンプルAからサンプルEに向かって徐々に大きくなるように形成した。
【表1】
【0041】
このように形成されたサンプルA~Eの表面を日本人の女性30人(20~69歳)に触ってもらい、そのときに指で感知される感覚を回答してもらった。具体的には、サンプルA~Eの表面上を指が滑るように(すなわち表面に対して平行な方向に指が移動するように)指で表面に触れたときに、サンプルA~Eのうち柔らかいと感じた順番及び摩擦を感じた順番を回答してもらった。加えて、サンプルA~Eの表面を指で押すように(すなわち、表面に対して垂直な方向に指が移動するように)指で表面に触れたときに、サンプルA~Eのうち柔らかいと感じた順番を回答してもらった。
【0042】
図7は、上述した実験の実験結果を示す図である。
図7は、サンプルA~Eに対して被験者の感覚(水平方向の柔らかさ、摩擦、垂直方向の柔らかさ)の順位付けをまとめた図である。図中に線で示した領域は、その領域内の順位を回答した人数が少ない領域、図中に矩形で示した領域は、その領域内の順位を回答した人数が多い領域をそれぞれ示している。また、図中のバツ印は、そのサンプルの平均順位を示している。
【0043】
図7(A)は、各サンプルの水平方向の柔らかさの順位を示した図である。
図7(A)からは、サンプルAを水平方向に柔らかいと感じた被験者が多かったのに対して、サンプルEを水平方向に硬いと感じた被験者が多かったことがわかる。また、水平方向の柔らかさについては、平均すると、被験者はサンプルAからサンプルEに向かって徐々に硬く感じていることがわかる。
【0044】
図7(B)は、各サンプルの摩擦の大きさの順位を示した図である。
図7(B)からは、サンプルAを摩擦が小さいと感じた被験者が多かったのに対して、サンプルEを摩擦が大きいと感じた被験者が多かったことがわかる。また、摩擦の大きさについては、平均すると、被験者はサンプルAからサンプルEに向かって徐々に大きくなると感じていることがわかる。この結果は、上記の表に示したサンプル間の摩擦係数の大きさの関係に一致する。
【0045】
図7(C)は、各サンプルの垂直方向の柔らかさの順位を示した図である。
図7(C)からは、サンプルA~Eの間で垂直方向の柔らかさの順位がばらけていることがわかる。また、垂直方向の柔らかさについては、平均すると、被験者はサンプルA~Eの間で大きな差が無いと感じていることがわかる。
【0046】
ここで、上述したように、サンプルA~Eの表面の摩擦係数はサンプルAからサンプルEに向かって徐々に大きくなるように形成されている。したがって、
図7(A)からは、表面の摩擦係数が大きくなるにつれて、その表面に触れた人は水平方向の柔らかさについて徐々に硬く感じるようになることがわかる。また、
図7(C)からは、その表面の摩擦係数が変化しても、表面に触れた人は垂直方向の柔らかさについて変化を感じないことがわかる。したがって、この結果から、肌の表面の摩擦抵抗が変化すると、実際にはその肌の柔らかさは変化していないにも関わらず、人が触れたときに感知される柔らかさは変化することがわかる。
【0047】
しかしながら、肌の表面の摩擦抵抗が変化すると触れたときに感知される柔らかさが変化すること、すなわち化粧品を変えると触れたときに感知される柔らかさが変化することは、販売員が口頭で説明しても顧客には伝わりにくい。
【0048】
これに対して、上述した実施形態に係る人肌模型キットによれば、全ての人肌模型の表面における摩擦係数が互いに異なるように、人肌模型に表面層が設けられる。したがって、この人肌模型キットを用いれば、肌の表面の摩擦抵抗が変化すると、肌に触れたときに感知される肌の柔らかさが肌表面の摩擦係数の違いに応じて変化することを顧客が体感することができるようになる。
【0049】
以上、本発明に係る好適な実施形態を説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載内で様々な修正及び変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0050】
1 人肌模型キット
10 支持板
20 第1人肌模型
21 第1基層
22 第1表面層
30 第2人肌模型
31 第2基層
32 第2表面層
51 表皮層
52 内部層