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特許7395636皮膚たるみ改善剤及びそのスクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】皮膚たるみ改善剤及びそのスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20231204BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20231204BHJP
   A61K 36/53 20060101ALI20231204BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/08
A61K36/53
A61P17/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022052033
(22)【出願日】2022-03-28
(62)【分割の表示】P 2018172060の分割
【原出願日】2018-09-14
(65)【公開番号】P2022101560
(43)【公開日】2022-07-06
【審査請求日】2022-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2018068271
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】森田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】森田 哲史
(72)【発明者】
【氏名】松ヶ下 かおり
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-250921(JP,A)
【文献】特開2015-160843(JP,A)
【文献】特開2011-225550(JP,A)
【文献】特開2018-043949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 36/53
A61P 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クミスクチン抽出物を有効成分として含有する重力に起因する表皮ケラチノサイトの細胞鳥瞰面積変化抑制
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚たるみ改善剤及びそのスクリーニング方法に関する。より詳細には、重力負荷による表皮ケラチノサイトの形状変化の制御作用等を有する皮膚たるみ改善剤、及び当該制御作用等指標として皮膚たるみ改善剤をスクリーニングする方法、に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚のたるみ、特に顔面のたるみは、第一印象に大きな影響を与えるため、予防や改善への期待は高く、高い有用性を示す皮膚たるみ改善剤の提供が期待されている。
【0003】
従来、皮膚のたるみ改善を企図する皮膚外用剤に関しては、加齢や紫外線などによる真皮細胞外マトリックス成分の減少や変性、皮下脂肪の減少などが主な原因と考えられ、対象とする成分それぞれの産生担当細胞を標的とする目的成分の生成促進や、関連する酵素の活性制御等の機能の付与が試みられてきたが、利用者の満足いくレベルのたるみ改善効果が得られているとは言い難かった。その要因のひとつとして、有効成分が機能を発揮する部位が皮膚の深部であり、単に外用するだけでは、必要とされる部位まで有効成分が十分に到達しないことが考えられる。
【0004】
例えば、幹細胞由来成長因子産生促進剤によって、たるみを含む皮膚障害を予防、改善または治療することができることが開示されている(特許文献1、2、3)。該発明では幹細胞由来成長因子産生促進剤を用いて培養した幹細胞から得られる幹細胞培養物または該培養物より単離した成長因子の利用も開示されているが、皮膚に外用して幹細胞に作用させようとすると少なくとも表皮基底層の深度には到達させる必要があり、より皮膚表層近傍に作用対象が存在する方が、皮膚外用剤にとって有用性を発揮しやすいことは言うまでもない。
【0005】
また、汗腺の萎縮による真皮の空洞化が皮膚のたるみと関連することも報告されている(非特文献1)。該報告は、空洞化真皮における汗腺の萎縮における、汗腺細胞の加齢による萎縮と、汗腺のMMP-1分泌による真皮層分解という皮膚深部における変化に着目したものであり、やはり、皮膚外用剤として働きかけるには、より皮膚表層近傍に存在する因子を対象とするほうが、高い作用を期待できる。
【0006】
皮膚支帯の加齢による衰えと顔のたるみとの関連も報告されているが(特許文献4)、皮膚支帯の存在部位は皮下脂肪層であって真皮よりも深く、やはり、皮膚外用剤として働きかけるにはより皮膚表層近傍に存在する因子を対象とするほうが、高い作用を期待できる。
【0007】
皮膚表層近傍を作用の対象とする方法として、たるみを含む皮膚の変化に対する表皮ケラチノサイトの増殖促進によるものが多数開示されている(特許文献5、6、7)。これらの発明は、加齢に伴う表皮の菲薄化、それに伴う表皮弾性の低下に対応する発明と考えられ、部分的な観点で、例えばキメの乱れや毛穴の変形などとして観察されるようなたるみには対応できるが、先述のような真皮や皮下脂肪層など、皮膚深部の変化によって生じる皮膚組織全体の下垂に対応するには不十分であった。
【0008】
一方、重力が表皮ケラチノサイトに与える影響に着目したたるみ改善剤やその探索方法については全く知られていなかった。
【0009】
細胞に加わる伸展や圧迫などの機械的刺激に対する細胞の応答機構として、Stretch Activated Channel (SAチャネル)の関与が知られている。SAチャネルは細胞膜の伸展に応じて活性化されるイオンチャネルで、血管内皮細胞では、SAチャネルの活性化に引き続く、細胞内カルシウムイオン濃度の上昇、カルシウム・カルモジュリン依存性脱リン酸化酵素カルシニューリンの活性化、脱リン酸化によるsrcキナーゼの活性化、細胞接着に関与するタンパクであるパキシリン、接着斑キナーゼ、Casのチロシンリン酸化を介して細胞骨格と接着斑の再編成により、機械的刺激に対応する細胞のリモデリングが行われていることが報告されている。また、SAチャネルの活性化に続く情報伝達の経路は、SAチャネルの阻害剤であるガドリニウムによりブロックされることから、SAチャネルの下流にあることが確認されている(非特許文献2)。しかし、重力が表皮ケラチノサイトに影響を与えるに際するSAチャネルの関与は検討されたことはなかった。
【0010】
上記の問題を解決するには、より皮膚外用剤の作用が発揮されやすい皮膚表層近傍で、皮膚組織全体の下垂発生に関与する現象を特定し、それを指標としたたるみ改善剤の探索を可能にする方法が求められていた。
【0011】
クミスクチンに関して言えば、クミスクチン抽出物を含むTie2活性用組成物(特許文献8)、シソ科ネコノヒゲの抽出物からなるマトリックスメタロプロテアーゼ-2阻害剤(特許文献9)が知られているが、それぞれ、血管内皮細胞、線維芽細胞をターゲットとするものであり、クミスクチン抽出物が表皮ケラチノサイトの重力による変化に作用することは全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2015-20995
【文献】特開2015-20996
【文献】特開2015-20997
【文献】特開2017-218429
【文献】特開2017-75118
【文献】特開2011-116672
【文献】特開2010-155835
【文献】特開2018-43949
【文献】特開2013-203667
【非特許文献】
【0013】
【文献】Tomonobu Ezure,The Sweat Gland as a Breakthrough Target for Anti-Aging Skin Care - Discovery of Novel Skin Aging Mechanism: “Dermal Cavitation”, IFSCC 2016 Congress ORLANDO FLORIDA
【文献】曽我部正博, 機械刺激による細胞の形づくり-機械刺激の受容から応答へのシグナルフロー-, 生物物理 40(1): 31-7, 2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、皮膚外用剤の作用が発揮されやすい皮膚表層近傍におけるたるみ発生に関与する現象を指標とした皮膚たるみ改善剤の探索を可能にする方法及びその効果に優れた皮膚たるみ改善剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、鋭意研究した結果、以下の工程を経ることで、重力に起因した皮膚たるみを改善する物質の探索を可能にする方法を提供するに至った。
〔1〕第1発明としては、
表皮ケラチノサイトに人為的に重力を負荷し、
該負荷に起因する
表皮ケラチノサイトの形状変化、
表皮ケラチノサイトの細胞形状変化制御物質の状態変化、
のうち、少なくとも一つ以上を指標とする
皮膚たるみ改善剤のスクリーニング方法。
〔2〕第2発明としては、
人為的に重力を負荷した表皮ケラチノサイトを用いて、
被験物質の
表皮ケラチノサイトの形状変化抑制効果、
表皮ケラチノサイトの形状変化の回復効果、
表皮ケラチノサイトの細胞形状変化制御物質の状態変化促進効果
表皮ケラチノサイトの細胞形状変化制御物質の状態変化回復効果
のうち、少なくとも一つ以上を評価する工程を含む
皮膚たるみ改善剤のスクリーニング方法。
〔3〕第3発明としては、
下記の工程を含むことを特徴とする、皮膚たるみ改善剤をスクリーニングする方法。
(1) 表皮ケラチノサイトを培養する工程
(2) 表皮ケラチノサイトを被験物質共存下培養する工程
(3) 表皮ケラチノサイトに人為的に重力を負荷する工程
(4) 被験物質共存の場合と非共存の場合の表皮ケラチノサイトを比較したときに、
下記(a)から(c)のいずれかに該当する被験物質をたるみ改善作用を有すると判断する工程
(a)人為的な重力負荷を行っていない表皮ケラチノサイトとの比較により認識される重力の負荷による表皮ケラチノサイトの形状変化の程度が、被験物質非共存の場合に比較して小さい被験物質
(b)人為的な重力負荷を行っていない表皮ケラチノサイトとの比較により認識される重力の負荷による表皮ケラチノサイトの形状変化からの回復度が、被験物質非共存の場合に比較して大きい被験物質
(c)人為的な重力負荷を行っていない表皮ケラチノサイトとの比較により認識される重力の負荷による表皮ケラチノサイトの機械刺激応答の程度が、被験物質非共存の場合に比較して大きい被験物質
〔4〕第4発明としては、第1乃至第3発明のいずれかに記載のスクリーニング方法により選択される皮膚たるみ改善剤。
〔5〕第5発明としては、第4発明における皮膚たるみ改善剤を含むことを特徴とする皮膚外用剤。
〔6〕第6発明としては、クミスクチン抽出物を含有する皮膚たるみ改善剤。
〔7〕第7発明としては、クミスクチン抽出物を含有する皮膚たるみ改善皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、作用が発揮されやすい皮膚たるみ改善剤の探索が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】顔角層鳥瞰細胞面積の年齢・部位による違い
図2】顔角層鳥瞰細胞面積とたるみの程度の関係
図3】重力負荷による表皮ケラチノサイトの形状変化
図4】重力負荷による表皮ケラチノサイトの鳥瞰細胞面積変化の回復度の年齢による違い
図5】重力負荷による表皮ケラチノサイトの形状変化に対するカルシウムチャネルの関与
図6】重力負荷による表皮ケラチノサイトの形状の変化を指標としたスクリーニング結果
図7】重力負荷による表皮ケラチノサイトの形状の変化を指標としたスクリーニング結果(クミスクチン抽出物、ショウガ根抽出物)
図8】人での効果確認試験(a)クミスクチン抽出物配合美容液使用時のたるみ改善度 (b) クミスクチン抽出物非配合美容液使用時のたるみ改善度
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、たるみによる顔の変化が顕著な顔の下側で角層鳥瞰面積が増大しているとの知見に基づき、該現象に重力の関与があるのではないかという仮説の下、鋭意検討した結果、培養細胞に人為的に重力負荷を加えると、細胞形状に変化が生じ、若齢細胞は重力に起因する変化からの回復能力が優れる一方、老齢細胞は回復能力に劣ることを発見した。本発明は当該知見に基づくものであり、重力による細胞の形状変化を抑制、或いは当該変化後の回復を高めること等ができれば、重力に起因するたるみを改善できるとの結論に達し、本発明の完成に至った。以下に詳細を述べる。
【0019】
本発明で用いられる表皮ケラチノサイトは、特に限定されない。学術研究用に分譲されている不死化細胞であるHaCaTや、正常細胞として市販品されているEpidercell Human Epidermal Keratinocyte(クラボウ社)やHEK(東洋紡社)等の他、同意が得られたドナーから採取・単離したもの等や、3次元的に再構築された培養皮膚モデルも使用することができ、培地はそれぞれの細胞が正常に培養できれば特に限定されないが、文献や販売会社がそれぞれの細胞種に対して推奨している培地が好ましい。正常細胞の場合、試験に用いるこれらの細胞は継代数が1~3までが増殖活性が高いため好ましいが、それ以降のものでも良好な増殖が見られる場合は使用できる。
【0020】
本発明で言う重力の負荷とは、人為的な重力を負すことにより細胞にかかる負荷を意味する。具体的には細胞そのものに加速度を加え、細胞そのものがその質量と加速度を掛け合わせた大きさの力を細胞自身にかけている状態にすることを指し、細胞に物体を載せるなど、物体の質量と重力加速度を掛け合わせた大きさの、いわゆる圧力を細胞にかけることや、伸縮性のある細胞接着面を持つ培養容器に細胞を培養し、底面を伸縮させて圧縮あるいは伸展させることとは異なる。
【0021】
本発明の人為的な重力の負荷を与える方法は、細胞生存率に大きな影響を与えない方法であれば特に限定されない。重力負荷の大きさは特に限定されないが、目的に応じて適宜制御できることが好ましい。
例えば、航空機等の高速の移動装置の加速を利用する方法を用いることができる。本方法は、費用面・技術面で容易ではないことと、通常推奨される細胞培養環境を維持するのが難しいため、より重力負荷の影響を明確に評価できる重力負荷方法として、遠心力を利用した方法が挙げられる。遠心力は、市販の遠心分離器や、培養や振とうを目的として市販されているローテーターの使用によって得られ、いずれかの装置に細胞を培養した培養容器を固定し、その際の回転半径と回転数の調整により、負荷される重力の強さは適宜調整できるので好ましい。
【0022】
本発明において、遠心力を利用した人為的な重力の負荷を行った場合に、0Gとは、無重力を意味するのではなく、遠心力を負荷しない場合の状態を意味し、1.6Gや2.0Gは、回転半径と回転数の調整により、それぞれの数値の大きさで負荷される重力の強さを指す。具体的には、相対遠心加速度と回転半径、一分あたりの回転数の2乗の積で求められる。
尚、本発明では人為的な重力の負荷をかけない場合とは、通常の状態で培養等を行うことをさす。つまり、0Gと同義である。
【0023】
本発明でいう細胞形状とは、細胞の外形を指すが、1つ1つの細胞の形状だけでなく、複数の細胞を群として把握して細胞群全体の形状を観察される細胞数で除することで、個々の細胞形状と捉えることも可能である。また、鳥瞰(平面視)した際の形状だけでなく、側面視、或いはその両方であっても良い。
【0024】
本発明の人為的な重力の負荷により表皮ケラチノサイトに現れる細胞形状を評価する方法は特に限定されない。例えば、表皮ケラチノサイトの鳥瞰像にて、鳥瞰される細胞の面積を観察することによって評価することができる。顕微鏡での観察を容易にするために、細胞の観察に一般的に用いられる染料や蛍光色素によって表皮ケラチノサイトを染色しても良い。鳥瞰細胞面積の測定方法は、重力負荷前後での変化が評価できればどのような方法によっても構わないが、例えば、面積に数段階のグレードを設定し、顕微鏡で観察される視野内の個々の細胞のグレード、あるいは任意に個数を決めてランダムに選抜された細胞のグレードを平均化したものを当該細胞試料の面積指標としたり、適当な画像解析ソフトによって細胞の輪郭を指定し、楕円に近似して得られる長径と短径から面積を算出する、あるいは、輪郭内のピクセル数を計測するなどの方法で鳥瞰細胞面積を測定して、その平均値を当該細胞試料の面積指標としたり、任意の視野内の細胞の個数を計数し、適当な画像解析ソフトによって視野内の細胞により占有面積を測定して、面積を個数で除することで当該細胞試料の面積指標としたりすることができる。
側面視の場合は、共焦点顕微鏡などによって、深さ方向に複数枚の画像を取得し、各画像から再構築された細胞像を画像上で割断して細胞切断面像を作製することで評価することができる。側面視される細胞形状の測定方法は、重力負荷前後での変化が評価できればどのような方法によっても構わないが、例えば、細胞の厚みに数段階のグレードを設定し、顕微鏡で観察される視野内の個々の細胞のグレード、あるいは任意に個数を決めてランダムに選抜された細胞のグレードを平均化したものを当該細胞試料の厚み指標としたり、適当な画像解析ソフトによって細胞の輪郭を指定し、楕円に近似して得られる長径を当該細胞の大きさの指標としたり、短径を厚み指標としたりすることができる。
【0025】
本発明の人為的な重力の負荷により表皮ケラチノサイトに表れる細胞形状変化制御物質は特に限定されない。例えば、機械刺激応答に関与する物質を指標とすることができる。機械刺激応答に関与する物質としては、例えば、TRPV4などの公知の機械刺激受容チャネルや、カルシウムイオン、パキシリン、接着斑キナーゼ、Cas、srcキナーゼ、カルシニューリン、アクチンなどの細胞骨格を構成する物質、インテグリンなどの細胞接着に関連する物質などが挙げられるが、現在機械刺激応答に関与する物質の大部分が明らかにされているとは言えず、今後見出される機械刺激応答関与物質もその機能に応じて人為的な重力の負荷により表皮ケラチノサイトに表れる細胞形状変化制御物質の状態変化の指標となりうる。
【0026】
本発明の人為的な重力の負荷により表皮ケラチノサイトに現れる細胞形状変化制御物質の状態変化とは、物質の量的変化、分布変化、質的変化、構造的変化等を含み、これらの単独の変化、複合的変化を含む概念である。具体的には、表皮ケラチノサイトの細胞形状変化制御物質の量や局在、リン酸化の程度を観察したり測定したりすることによって評価される。例えば、顕微鏡での観察を可能にするために、染料や蛍光色素、抗体染色によって細胞形状変化制御物質や細胞変化制御物質の変化が導く結果の方を可視化して観察し、点状に分散して存在するものについては、染色された対象の個数を計測して細胞形状変化制御物質の量に関する指標としたり、染色の程度に数段階のグレードを設定し、顕微鏡で観察される視野内の個々の細胞のグレード、あるいは任意に個数を決めてランダムに選抜された細胞のグレードを平均化したものを当該細胞試料の細胞形状変化制御物質の量に関する指標としたり、適当な画像解析ソフトによって染色強度を測定して別途計測した細胞数で除し、その平均値を当該細胞試料の細胞形状変化制御物質の量に関する指標としたり、対象物に結合した色素を溶解して溶液の色素濃度を測定する方法が望ましい。
【0027】
本発明の人為的な重力の負荷により表皮ケラチノサイトに現れる細胞形状変化における抑制効果、回復効果、細胞形状変化制御物質の状態変化における促進効果、回復効果は、例えば、前述の方法で計測された各指標の重力負荷前後での差、該変化からの回復度は重力負荷終了直後と任意の時間が経過した後の各指標の差、あるいは各指標の重力負荷前後での差に対する重力負荷終了直後と任意の時間が経過した後の各指標の差の割合等で評価することができる。任意の時間とは特に限定されないが、細胞形状変化に関して言えば例えば、重力負荷終了後3-48時間が好ましく、6-30時間がより好ましい。3時間に満たないと重力負荷終了直後との差が小さく、指標の差に対するばらつきの割合が大きい場合が多く、48時間より長時間経過すると、細胞の自発的な回復が進行して被験物質共存下および非共存下での差が小さく、被験物質の作用を評価しがたいことがある。また、細胞形状変化制御物質の状態変化に関して言えば、重力負荷終了直後0―24時間が好ましく、0-6時間がより好ましい。6時間より長時間経過すると、細胞の重力応答が終了して被験物質共存下および非共存下での差が小さく、被験物質の作用を評価しがたいことがある。
【0028】
本発明の被験物質は、特に制限されない。動植物由来エキス、菌類の培養物またはこれらの酵素処理物、化合物またはその誘導体等であっても被験物質として用いることができ、液状の他、粉末状、ジェル状、シート状等であっても差し支えない。溶解することによって発現する作用を試験するに際し、そのままでは培地あるいは細胞に対する添加用溶液に溶解しない場合は、界面活性剤等の可溶化剤を適宜使用することにより溶解させることで被験物質として用いることが出来る。さらに、被験物質の各原体からの抽出方法も特に限定されない。添加濃度については、試験期間中、細胞の生育が妨げられなければ、どの濃度でも問題ない。
【0029】
本発明の被験物質共存下とは、試験対象の細胞と被験物質を共存させることができればどのような状態も含むが、例えば、単層培養細胞を用いた試験においては培地中に被験物質を存在させることができ、3次元的に再構築された培養皮膚モデルを用いた試験においては、培地に溶解させたり、該培養皮膚モデルへの影響が小さい溶媒に被験物質を溶解した添加用溶液を調製し、角層側から適用したりすることもできる。皮膚たるみ改善剤をスクリーニングする方法内での順序としては、表皮ケラチノサイトに人為的に重力を負荷する工程の前に被験物質の共存・非共存下の培養を行っても良いし、表皮ケラチノサイトに人為的に重力を負荷する工程の途中や終了後に被験物質の共存・非共存下の培養を行っても良い。
【0030】
本発明の被験物質非共存下とは、試験対象の細胞と被験物質を共存させていなければどのような状態も含むが、例えば、単層培養細胞を用いた試験においては培地中に被験物質を存在させる被験物質共存下との比較対象として、被験物質を存在させないことの他、被験物質と同重量あるいは同体積の被験物質溶解に用いた溶媒を共存させることや、比較対象物質を共存させることができる。
【0031】
本発明のクミスクチンは、シソ科(Lamiaceae)オルトシホン属のOrthosiphon aristatus Miq.で、日本では他にネコノヒゲ、インドネシアでクミスクチン(kumis kucing)、アメリカでcat’s whickersと呼ばれる植物である。使用部位は特に限定されず、それぞれの葉、茎、花、根、種子等或いは、全草を生のまま或いは乾燥したものを用いて抽出することが出来る。
【0032】
本発明のクミスクチン抽出物の抽出溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール等の低級1価アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の液状多価アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;酢酸エチルなどのアルキルエステル;ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素;ジエチルエーテル等のエーテル類;ジクロルメタン、クロロホルム等のハロゲン化アルカン等の1種または2種以上を用いることが出来る。就中、水、エチルアルコール、1,3-ブチレングリコールの1種または2種以上の混合溶媒が特に好適である。
【0033】
本発明のクミスクチン抽出物は抽出された溶液のまま用いても良いが、さらに必要により濾過や精製等の処理をして、濃縮、粉末化したものを適宜使い分けて用いることが出来る。
【0034】
本発明の皮膚たるみ改善皮膚外用剤におけるクミスクチン抽出物の含有量は、特に限定されないが、たとえば、溶媒を含まない乾燥質量に換算して、0.0001~3質量%が好ましく、0.001~1質量%がより好ましい。
【0035】
以下、本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例
【0036】
―顔角層形状の年齢・部位による違い測定試験―
皮膚外用剤の作用が発揮されやすい皮膚表層近傍におけるたるみ発生に関与する現象を明らかにするため、年齢と部位による顔角層形状の違いを測定した。まず、女性19名に依頼して洗顔後、10-15分間安静にした。その後、角層採取用テープを用いて額と下頬部から角層を採取した。テープの角層粘着部をエタノールに10分間浸漬後、10-30分間風乾し、角層染色液(ナフトールブルーブラック 0.1g、酢酸ナトリウム0.82g、酢酸 9g、蒸留水 残部)に30分間浸漬した。30分間流水にて洗浄後一晩風乾した。撮影機能付き顕微鏡(BZ-X700,KEYENCE, 20倍)にて上記処理後の角層画像を取得し、プリントアウトした画像上で細胞の輪郭を強調後、スキャナー(Docucenter-V C4476,富士ゼロックス)で取り込み、画像解析ソフト (Fiji, open source)上で細胞の輪郭を抽出後輪郭内の面積を計測した。測定の結果を図1に示す。図中の横軸は被験者の年齢層を示す(例:20’sは20歳代を意味する)。
【0037】
図1より、額に対して下頬部の角層の鳥瞰面積が加齢に伴って大きくなることが示され、たるみによる顔の変化が顕著な顔の下側で角層鳥瞰面積が増大していることが初めてわかった。顔は、顔面頭蓋と呼ばれる骨の上に筋肉が接着し、その上をさらに皮膚が覆うことで形成されている。顔の変形が生じた場合、必ずしも皮膚表面積の増大を必要とするわけではないが、骨や筋肉のような位置の移動が生じにくい硬い組織にところどころで接着した皮膚の表面積の増大は、必ず顔の変形につながる。実際に、顔写真の解析によって見出された年代別の顔の特徴として、額では顕著な下垂は認められないが、下顎部で皮膚の下垂が見られ、同時に顔の下半分の面積の増大が認められることが報告されている。したがって、本実験で明らかになった顔の下側における角層鳥瞰面積の加齢による増大は、皮膚表面積の増大およびたるみの増悪に関与していると考えられた。
【0038】
―顔角層形状と顔たるみの程度の関係評価試験―
上述の顔の下側における角層鳥瞰面積の加齢による増大が顔のたるみの程度と関係しているか確認するため、顔角層形状とたるみの程度の測定を行った。まず、女性23名に依頼して洗顔後、10-15分間安静にした。その後、角層採取用テープを用いて額と下頬部から角層を採取した。その後、試験参加者の頬に、座位かつ、前方を見つめた状態で、口角から水平外側に、目尻から垂直に下ろした交差点に小円形シール(直径5mm)を貼り付け、座位・仰臥位の2つの姿勢で写真を撮影し、シールの移動距離を計測し、この距離を顔のたるみの程度の指標とした。角層鳥瞰面積は、〔0036〕と同様の方法で染色・画像取得後、画像解析ソフト (ImageJ, open source)で細胞の占有領域を抽出後、抽出された領域内の面積を計測し、目視で計測した同領域内の細胞数で除して、各参加者の角層鳥瞰面積指標とした。
【0039】
図2より、額あるいは顔の下側の角層鳥瞰面積と顔のたるみの程度の関係を観察したところ、額の角層鳥瞰面積と顔のたるみの程度との間には相関関係が認められなかったのに対し、顔の下側の角層鳥瞰面積と顔のたるみの程度との間に明らかな正の相関関係が認められ、顔の下側の角層鳥瞰面積の増加が顔のたるみの程度の増加と関連していることが本実験によって初めて明らかになった。上記の実験により、発明者らは、顔の下側における角層鳥瞰面積の加齢による増大は、たるみの増悪に関与していることを明らかにし、この現象が、たるみ改善剤の探索にあたって、皮膚外用剤の作用が発揮されやすい皮膚表層近傍におけるたるみ発生に関与する指標であることを見出した。
【0040】
-重力負荷による表皮ケラチノサイトの形状変化観察試験-
表皮ケラチノサイトの形状変化に対する重力負荷の影響を検討するため、表皮ケラチノサイトに人為的に重力を負荷し、その後の細胞形状の変化を観察した。まず、新生児をドナーとするヒト正常表皮ケラチノサイト (P1, KURABO) を1.5×10cells/mLの密度で培地 (Humedia-KG-2, KURABO) に分散し、24well plate (True Line)に500μLずつ播種した。37℃、5%CO下で2日間インキュベートした後、培地を除き、新しい培地 750μLを加え、インキュベータ内に設置したターンテーブル上で、各図に示すG(1.6あるいは2.0G)が負荷される回転半径となる位置にプレートを粘着し、100rpmで24時間回転した。プレートから培地を除き、マイルドホルム (10NM, Wako) 1mLを添加して室温下で15分間固定後、固定液を除去してPBS(-)で洗浄した。その後、0.5体積%のTriton X-100 PBS(-)溶液 1mLを添加して室温下、15分間静置した。再びPBS(-)にて洗浄後、1%BSA PBS(-)溶液に溶解した2.5%のAlexa Fluor 488 Phalloidin(Thermo Fisher Scientific)溶液を添加し、室温下、20分間静置して染色した。PBS(-)で洗浄後、蛍光顕微鏡 (BZ-X700, KEYENCE) にて観察を行い、細胞画像を取得した。得られた画像を図3に示す。
【0041】
図3に示すように、重力の負荷は鳥瞰面積の大きい表皮ケラチノサイトを増加させた。この結果から、表皮ケラチノサイトの細胞形状に重力負荷が影響することが確認された。顔のたるみは、地球の引力の方向に向かって皮膚が下降することである。本実験の結果から、上述の顔の下側における角層鳥瞰面積の増大は、表皮ケラチノサイトに重力が加わることで生じた細胞鳥瞰面積の増大を経て、皮膚表面積の増大およびたるみの増悪に関与していると考えられた。
【0042】
-重力負荷による鳥瞰細胞面積変化の回復度の年齢による違い測定試験-
顔角層形状の年齢による違いに対する重力負荷の影響を検討するため、年齢の異なるドナーから採取された表皮ケラチノサイトに人為的に重力を負荷し、重力負荷によって生じた鳥瞰細胞面積変化からの回復度のドナー年齢による違いを測定した。まず、新生児をドナーとするヒト正常表皮ケラチノサイト (P1, KURABO) と62才のヒトをドナーとするヒト正常表皮ケラチノサイト (P4, KAC) をそれぞれ1.5×10cells/mLの密度で培地 (Humedia-KG-2, KURABO) に分散し、24well plate (True Line)に500μLずつ播種した。37℃、5%CO下で2日間インキュベートした後、培地を除き、新しい培地 750μLを加え、インキュベータ内に設置したターンテーブル上で、図に示すG(2.0G)が負荷される回転半径となる位置にプレートを粘着し、100rpmで24時間回転した。重力負荷停止直後の細胞面積測定用には、この回転の停止直後にプレートから培地を除き、マイルドホルム (10NM, Wako) 1mLを添加して室温下で15分間固定後、固定液を除去してPBS(-)で洗浄した。重力負荷停止24時間後の細胞面積測定用には、回転の停止から24時間後に同様の工程を経て細胞を固定した。この際、重力負荷を行わない試料もそれぞれ同じタイミングで処置しておいた。固定後、0.5体積%のTriton X-100 PBS(-)溶液 1mLを添加して室温下、15分間静置した。再びPBS(-)にて洗浄後、1%BSA PBS(-)溶液に溶解した2.5%のAlexa Fluor 488 Phalloidin(Thermo Fisher Scientific)溶液を添加し、室温下、20分間静置して染色した。PBS(-)で洗浄後、蛍光顕微鏡 (BZ-X700, KEYENCE) にて観察を行い、細胞画像を取得した。得られた画像は、プリントアウトして細胞の輪郭を強調後、スキャナー(Docucenter-V C4476,富士ゼロックス)で取り込み、画像解析ソフト (ImageJ, open source)上で細胞の輪郭を抽出後輪郭内の面積を計測した。重力負荷による変化からの回復度は、重力負荷終了直後と24時間経過した後と一致するタイミングでの重力負荷を行わなかった試料の細胞面積の差に対する重力負荷終了直後と24時間経過した後の細胞面積の減少度として算出した。ここで算出に利用した細胞面積の変化の相対値を図4に示す。
【0043】
図4で示した数値から得られた重力負荷による鳥瞰細胞面積変化の回復度は、新生児をドナーとする表皮ケラチノサイトで73%、62才のヒトをドナーとする表皮ケラチノサイトで-3%であった。この結果から、新生児をドナーとする表皮ケラチノサイトでは、重力負荷によって増大した鳥瞰細胞面積がやがて回復していくのに対して、62才のヒトをドナーとする表皮ケラチノサイトでは、該面積の増大が進行し、加齢により重力負荷による鳥瞰細胞面積変化からの回復度が低下することが明らかになった。本実験の結果から、上述した顔の下側における角層鳥瞰面積の加齢による増大は、表皮ケラチノサイトに重力が加わることで生じた細胞鳥瞰面積の増大からの加齢による回復度低下を経て、加齢により生じる皮膚表面積の増大およびたるみの増悪に関与していると考えられた。
【0044】
-カルシウムチャネル阻害下における重力負荷が表皮ケラチノサイトの形状変化に与える影響の評価試験-
重力負荷による表皮ケラチノサイトの形状変化に対するカルシウムチャネルの関与を確認するため、カルシウムチャネルの阻害剤として知られるガドリニウムを添加した状態で表皮ケラチノサイトに人為的に重力を負荷し、鳥瞰細胞面積変化を測定した。まず、表皮ケラチノサイトHaCaTを5×10cells/mLの密度で10%のFBS(biocera)を含む培地 (DMEM, Life technologies) に分散し、24well plate (True Line)に500μLずつ播種した。37℃、5%CO下で一晩インキュベートした後、ガドリニウム添加区にはGdCl 3mmol/Lを125μL、ガドリニウム非添加区には蒸留水 125μLを加え、インキュベータ内に設置したターンテーブル上で、2Gが負荷される回転半径となる位置にプレートを粘着し、100rpmで24時間回転した。その後、プレート内をPBS(-)にて洗浄し、マイルドホルム (10NM, Wako) 500μLを添加して室温下で一晩固定後、固定液を除去してPBS(-)で洗浄した。その後0.05%アミドブラック 10B (Wako)溶液 100μLを添加して室温下で30分間染色後、水道水で洗浄して染色を終了した。乾燥後、撮影機能付き顕微鏡(BZ-X700,KEYENCE)にて細胞画像を取得し、画像解析ソフト(ImageJ, open source)で細胞の占有領域を抽出後、抽出された領域内の面積を計測し、目視で計測した同領域内の細胞数で除して、各条件における細胞鳥瞰面積指標とした。図5に試験の結果を示す。図中、G(+)は重力負荷あり、G(-)は重力負荷なし、Gdはガドリニウム添加あり、Waterは、ガドリニウムの代わりに水を添加したことを意味する。
【0045】
図5に示したように、ガドリニウム添加区では、ガドリニウム非添加区よりも、重力負荷による細胞鳥瞰面積の増大が顕著であった。ガドリニウムは、カルシウムチャネルの阻害剤であることから、重力負荷による細胞鳥瞰面積の増大に対し、カルシウムチャネルを介した細胞形状変化制御機構が関与していることが初めて示された。これにより、カルシウムチャネルの活性化度や、それに続く細胞形状変化制御シグナル伝達経路上の各物質の活性化度が、皮膚たるみ改善剤をスクリーニングする上での指標として、利用できることが示された。
【0046】
-重力負荷による表皮ケラチノサイトの形状の変化を指標としたスクリーニング例-
上記の研究結果に基づき、発明者らは、表皮ケラチノサイトを用い、人為的な重力の負荷により表皮ケラチノサイトに現れる細胞形状変化を指標とし、被験物質共存下での表皮ケラチノサイトにおける変化と被験物質非共存下での表皮ケラチノサイトにおける変化を比較することで、皮膚たるみ改善剤をスクリーニングする方法を確立した。表皮ケラチノサイトとしてHaCaTを用い、5×10cells/mLの密度で培地 (10%FBS含有DMEM, GIBCO) に分散し、96well plate (True Line)に100μLずつ播種した。37℃、5%CO下で24時間インキュベートした後、培地を除き、新しい培地 100μLを加え、被験物質を添加した。被験物質としては、被験物質である植物(植物1~4)の乾燥重量に対して10倍量の水を加え、4時間60℃に加熱して抽出し、滅菌濾過したものを、抽出物中の乾燥残分が100ppmになるように使用した。その後、インキュベータ内に設置したターンテーブル上で、各図に示すGが負荷される回転半径となる位置にプレートを粘着し、100rpmで24時間回転した。プレートから培地を除き、マイルドホルム (10NM, Wako) 100μLを添加して室温下で一晩固定後、固定液を除去してPBS(-)で洗浄した。その後0.05%アミドブラック 10B (Wako)溶液 100μLを添加して室温下で30分間染色後、水道水で洗浄して染色を終了した。乾燥後、撮影機能付き顕微鏡(BZ-X700,KEYENCE)にて細胞画像を取得し、画像解析ソフト (ImageJ, open source)で細胞の占有領域を抽出後、抽出された領域内の面積を計測し、目視で計測した同領域内の細胞数で除して、各被験物質の細胞鳥瞰面積指標とした。その後〔数1〕により、細胞面積変化抑制度を算出した。図6にスクリーニングの結果例を示す。細胞面積変化抑制度の高い植物1は、重力によるたる改善効果が高い候補物質として選択できる。改善効果の期待できる物質の選択は、所望の効果の程度により任意に設定できるが、概ねの目安として、細胞面積変化抑制度が40%を超える程度が好ましい。
【0047】
【数1】
【0048】
-重力負荷による表皮ケラチノサイトの細胞形状変化制御物質の状態変化を指標としたスクリーニング例-
上記の研究結果に基づき、発明者らは、表皮ケラチノサイトを用い、人為的な重力の負荷により表皮ケラチノサイトに現れる細胞形状変化物質の状態変化を指標とし、被験物質共存下での表皮ケラチノサイトにおける変化と被験物質非共存下での表皮ケラチノサイトにおける変化を比較することで、皮膚たるみ改善剤をスクリーニングする方法を確立した。本実験では、細胞形状変化物質の状態変化を指標とするスクリーニングを実施した。本実験における細胞形状変化物質の状態変化は、重力負荷による表皮ケラチノサイト内カルシウムイオン濃度の上昇であり、〔0009〕に示した通り、機械的刺激に対応する細胞のリモデリングの上流に位置する変化である。〔0044〕にて、該指標の変化の抑制が重力負荷による細胞鳥瞰面積の増大を促進することが確認されているため、重力負荷による表皮ケラチノサイト内カルシウムイオン濃度の上昇の促進は、重力負荷による細胞鳥瞰面積の増大の抑制につながる。
表皮ケラチノサイトとしてHaCaTを用い、2.5×10cells/mLの密度で培地 (10%FBS含有DMEM, GIBCO) に分散し、96well plate (True Line)に100μLずつ播種した。37℃、5%CO下で24時間インキュベートした後、被験物質を添加して、さらに24時間インキュベートした。被験物質としては、図6に示した各被験物質である植物(植物1~4)素材の乾燥重量に対して10倍量の水を加え、4時間60℃に加熱して抽出し、滅菌濾過したものを、抽出物中の乾燥残分が100ppmになるように使用した。培地を除き、PBS(-)で3回洗浄した後、カルシウム蛍光プローブを含有する溶液A 100μLを添加して37℃、5%CO下で1時間インキュベートした。溶液Aを除き、PBS(-)で3回洗浄した後、37℃に温めた溶液B 100μLを添加し、その後、インキュベータ内に設置したターンテーブル上で、2Gが負荷される回転半径となる位置にプレートを粘着し、100rpmで20分間回転した。回転停止直後、マイクロプレートリーダー(infinite F200PRO,TECAN)にて蛍光強度を取得し(励起波長485nm,蛍光波長535nm)、各被験物質の細胞形状変化物質の状態変化指標とした。その後〔数2〕により、細胞形状変化物質変化度を算出した。細胞形状変化物質の状態変化促進度の高い被験物質は、重力によるたる改善効果が高い候補物質として選択した。
溶液A、溶液Bの組成は表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【数2】
【0051】
-重力負荷によって生じる表皮ケラチノサイトの細胞面積変化の抑制による皮膚たるみ改善作用(具体例)―
〔0048〕と同様のスクリーニング方法において、被験物質として粗く粉砕した状態のクミスクチンの葉および茎の混合物あるいは粉末のショウガの根の乾燥質量に対して10倍量の水を加え、4時間60℃に加熱して抽出し、滅菌濾過したものを、抽出物中の乾燥残分が100ppmになるように使用した。クミスクチン抽出物およびショウガ抽出物による細胞面積変化抑制度を〔図7〕に示す。
【0052】
図7に示すように、クミスクチン抽出物は、重力に起因する細胞面積の変化を抑制する効果が非常に高かったが、ショウガ根抽出物には細胞面積の変化を抑制する効果は見られなかった。このことから、クミスクチン抽出物には、重力に起因する皮膚のたるみを改善することが期待された。
【0053】
―人でのたるみ改善試験―
前記細胞試験で用いたクミスクチン抽出物を2%配合した美容液を調製し、50~60代の18名の女性による2ヶ月間の実使用試験を行い、たるみ改善度を測定した。クミスクチン抽出物を水に置き換えた美容液を比較例とした。美容液の処方を表2に示す。製法は常法に従った。
【0054】
【表2】
【0055】
たるみ改善度は、特開平10-43141号の方法に順じて行った。座位と仰臥位で撮影した試験参加者の顔写真を重ね合わせ、事前に頬部に貼付しておいた直径5mm程度の円形のマークの両写真間での移動距離(変位)を指標(たるみ量)として測定し、美容液の使用前後を比較することにより、たるみ改善度を評価した。クミスクチン抽出物を含有する美容液の使用によるたるみ改善度の測定結果を図8に示す。
【0056】
図8に示したとおり、クミスクチン抽出物を含有する美容液の使用により、皮膚のたるみは有意に改善され、本発明のスクリーニング方法により見出される物質が皮膚たるみ改善皮膚外用剤として有用であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、本発明は、皮膚外用剤の作用が発揮されやすい皮膚表層近傍におけるたるみ発生に関与する現象を指標としたたるみ改善剤の探索を可能にする方法および該方法により選択される皮膚たるみ改善剤および該皮膚たるみ改善剤を含むことを特徴とする皮膚外用剤が提供される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8