(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】ヒアルロニダーゼ阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/49 20060101AFI20231204BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20231204BHJP
A61K 31/343 20060101ALI20231204BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231204BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231204BHJP
C07D 307/77 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
A61K8/49
A61Q19/00
A61K31/343
A61P17/00
A61P43/00 111
C07D307/77
(21)【出願番号】P 2022052324
(22)【出願日】2022-03-28
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健成
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2015-0019563(KR,A)
【文献】特開2002-322018(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0010483(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0139222(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第111150684(CN,A)
【文献】特開平01-128933(JP,A)
【文献】特開2010-270062(JP,A)
【文献】特開2008-285420(JP,A)
【文献】国際公開第2008/093678(WO,A1)
【文献】特開平10-053532(JP,A)
【文献】特開2014-097000(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0091311(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00- 90/00
A61K 31/33- 33/44
A61K 36/00- 36/9068
A61K 31/00- 31/327
A61P 1/00- 43/00
C07D 307/00-307/94
A23L 2/00- 2/84
A23L 5/40- 5/49
A23L 31/00- 33/29
CAplus/REGISTRY(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩から選ばれる1つ以上の化合物を有効成分として含有するヒアルロニダーゼ阻害剤。
【化1】
(式中、R
1はH又はOHを、R
2はCH
3、CH
2OH、COOH、COOCH
3又はOHを、R
3はCH
3又はOHを、R
4はCH
3又はCH
2OHを、及びR
5はH又はSO
3Hをそれぞれ表し、破線を含む結合は単結合又は二重結合を表す。ただし、R
2が結合する炭素が二重結合を有する場合、R
2は存在しない。)
【請求項2】
前記式(I)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩が、タンシノンIIA、クリプトタンシノン、タンシノンI、ジヒドロタンシノンI、タンシノンIIAスルホン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1つ以上である請求項1に記載のヒアルロニダーゼ阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロニダーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、皮膚真皮中の細胞外マトリックスに存在するグリコサミノグリカンの1種であり、皮膚の水分保持に関与している。しかしながら、皮膚中のヒアルロン酸量は、老化や光老化により減少し、それが皮膚の乾燥、弾力性の低下、シワの増加等を引き起こす。
【0003】
一方、ヒアルロニダーゼはヒアルロン酸を加水分解する酵素である。ヒアルロニダーゼの活性を抑制することは、ヒアルロン酸の分解を抑えることにつながるため、ヒアルロン酸量の維持に寄与することができる。そのため、ヒアルロニダーゼ阻害剤は、保湿能の保持や、シワの防止への効果が期待できる。
【0004】
これまでにヒアルロニダーゼ阻害剤として、インドメタシンやアスピリン等が知られている。しかしながら、インドメタシン及びアスピリンは局所使用で発疹や痒み等の副作用の問題があった。そのため、安全性の観点から天然物由来のヒアルロニダーゼ阻害剤が望まれている。これまでに、天然物由来のヒアルロニダーゼ阻害剤としてロズマリン酸が報告されているが、その効果は十分ではなかった(特許文献1)。
【0005】
タンシノン類は、生薬の一種である丹参に含まれることが知られている化合物群であり、タンシノンIIA、クリプトタンシノン、タンシノンI、ジヒドロタンシノンIなどが含まれる。丹参は、シソ科植物タンジン(Salvia miltiorrhiza)の根を乾燥させたものであり、心血管疾患の治療薬として用いられている。また、タンシノン類のいくつかには抗炎症作用や免疫調節作用が知られている(特許文献2、非特許文献1)。しかしながら、タンシノン類がヒアルロニダーゼ阻害活性を示すことは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-067251号公報
【文献】特表2009-523730号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Chen Z, Xu H. Evid Based Complement Alternat Med 2014; 2014: 267976.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、優れたヒアルロニダーゼ阻害活性を有し、かつ安全性が高いヒアルロニダーゼ阻害剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するため、本発明者は鋭意研究を行った結果、天然物由来であるタンシノン類に優れたヒアルロニダーゼ阻害作用を見出した。
【0010】
即ち本発明は、次の発明を好適に含む。
(1)下記式(I)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩から選ばれる1つ以上の化合物を有効成分として含有するヒアルロニダーゼ阻害剤を提供するものである。
【化1】
(式中、R
1はH又はOHを、R
2はCH
3、CH
2OH、COOH、COOCH
3又はOHを、R
3はCH
3又はOHを、R
4はCH
3又はCH
2OHを、及びR
5はH又はSO
3Hをそれぞれ表し、破線を含む結合は単結合又は二重結合を表す。ただし、R
2が結合する炭素が二重結合を有する場合、R
2は存在しない。)
(2)前記式(I)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩が、タンシノンIIA、クリプトタンシノン、タンシノンI、ジヒドロタンシノンI、タンシノンIIAスルホン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1つ以上である上記(1)に記載のヒアルロニダーゼ阻害剤。
(3)タンジン(Salvia miltiorrhiza)、サルビア・ブレヤナ(Salvia bulleyana)、サルビア・カンパヌラタ(Salvia campanulata)、サルビア・カスタネア(Salvia castanea)、サルビア・ディギタロイデス(Salvia digitaloides)、サルビア・エバンシアナ(Salvia evansiana)、サルビア・フラバ(Salvia flava)、サルビア・マキシモウィッチアーナ(Salvia maximowicziana)、サルビア・オメイアナ(Salvia omeiana)、サルビア・パウキフローラ(Salvia pauciflora)、サルビア・プラッティ(Salvia prattii)、サルビア・プルツェワルスキー(Salvia przewalskii)、サルビア・ロボロフスキー(Salvia roborowskii)、サルビア・ウムブラティカ(Salvia umbratica)、サルビア・ボウレヤナ(Salvia bowleyana)、サルビア・シンプリシフォリア(Salvia simplicifolia)、Salvia dabieshanensis、Salvia meiliensis、サルビア・プリオニティス(Salvia prionitis)、Salvia paramiltiorrhiza、サルビア・プレクトラントイデス(Salvia plectranthoides)、サルビア・ユンナネンシス(Salvia yunnanensis)、Salvia sinica、サルビア・トリジュガ(Salvia trijuga)、Salvia vastaの抽出物から選ばれる1つ以上を有効成分とするヒアルロニダーゼ阻害剤。
(4)(1)~(3)のいずれかに記載のヒアルロニダーゼ阻害剤を含有する、皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ヒアルロニダーゼを阻害することでヒアルロン酸の分解が抑制され、保湿能の保持やシワの防止が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤とは、ヒアルロニダーゼによるヒアルロン酸の分解、消化、断片化等を減少させる効果を有する剤である。
【0013】
本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤は、下記式(I)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩から選ばれる1つ以上の化合物を有効成分として含有するものである。
【0014】
【0015】
式中、R1はH又はOHを表し、好ましくはHである。R2はCH3、CH2OH、COOH、COOCH3又はOHを表し、好ましくはCH3である。R3はCH3又はOHを表し、好ましくはCH3である。R4はCH3又はCH2OHを表し、好ましくはCH3である。R5はH又はSO3Hを表し、好ましくはHである。破線を含む結合は単結合又は二重結合を表す。ただし、R2が結合する炭素が二重結合を有する場合、R2は存在しない。なお、特に置換基の明示がない場合は水素が結合していることを表す。
【0016】
式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩には、ラセミ体の他に、光学活性体、立体異性体、回転異性体などの異性体も含まれる。式(I)で表される化合物が1つ以上の不斉炭素原子を有する光学異性体である場合、式(I)で表される化合物は、各不斉炭素原子における立体配置がR配置またはS配置のいずれの立体配置であってもよい。また、いずれの光学異性体も本発明に含まれ、それらの光学異性体の混合物も含まれる。さらに、光学活性体の混合物において、各光学異性体からなるラセミ体も本発明の範囲に含まれる。
【0017】
式(I)で表される化合物の薬理学的に許容される塩としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基における塩、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属との塩;カルシウム及びマグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩;アルミニウム塩;アンモニウム塩;並びにトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、tert-ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジシクロヘキシルアミン及びN,N’-ジベンジルエチレンジアミンなどの含窒素有機塩基との塩などを挙げることができる。
【0018】
上記の式(I)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩は、例えば、タンシノンIIA(化学式2)、クリプトタンシノン(化学式3)、タンシノンI(化学式4)、ジヒドロタンシノンI(化学式5)、タンシノンIIAスルホン酸ナトリウム(化学式6)、ヒドロキシタンシノンIIA(化学式7)、3-ヒドロキシタンシノン(化学式8)、タンシノンIIB(化学式9)、タンシノン酸メチル(化学式10)、ジヒドロノルタンシノン酸メチル(化学式11)、タンシンジオールA(化学式12)、タンシンジオールB(化学式13)、タンシンジオールC(化学式14)、プルツワキノンA(化学式15)、プルツワキノンB(化学式16)、プルツワキノンC(化学式17)が挙げられる。これらのうち好ましくは、タンシノンIIA、クリプトタンシノン、タンシノンI、ジヒドロタンシノンI、タンシノンIIAスルホン酸ナトリウムから選択される。
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
本発明において好ましい第一の化合物は、R1がH、R2がCH3、R3がCH3、R4がCH3、R5がH、五員環中の破線を含む結合が二重結合、六員環中の破線を含む結合が二つとも単結合である、タンシノンIIA(化学式2)である。
【0036】
本発明において好ましい第二の化合物は、R1がH、R2がCH3、R3がCH3、R4がCH3、R5がH、五員環中の破線を含む結合が単結合、六員環中の破線を含む結合が二つとも単結合である、クリプトタンシノン(化学式3)である。
【0037】
本発明において好ましい第三の化合物は、R1がH、R2が存在せず、R3がCH3、R4がCH3、R5がH、五員環中の破線を含む結合が二重結合、六員環中の破線を含む結合が二つとも二重結合である、タンシノンI(化学式4)である。
【0038】
本発明において好ましい第四の化合物は、R1がH、R2が存在せず、R3がCH3、R4がCH3、R5がH、五員環中の破線を含む結合が単結合、六員環中の破線を含む結合が二つとも二重結合である、ジヒドロタンシノンI(化学式5)である。
【0039】
本発明において好ましい第五の化合物は、R1がH、R2がCH3、R3がCH3、R4がCH3、R5がSO3Hのナトリウム塩、五員環中の破線を含む結合が二重結合、六員環中の破線を含む結合が二つとも単結合である、タンシノンIIAスルホン酸ナトリウム(化学式6)である。
【0040】
本発明の式(I)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩は、o-キノン骨格を有する化合物であり、このような化合物は、o-キノン上の2つのカルボニル基において、ヒアルロニダーゼにおける活性部位付近のアミノ酸残基の側鎖と水素結合しやすいと考えられ、その結果、高いヒアルロニダーゼ阻害作用が得られやすいと考えられる。
【0041】
また、本発明の式(I)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩は、キノンがベンゼン環とフラン環又はジヒドロフラン環と縮環構造をとっており、それによって生体内タンパク質におけるチオールなどの求核部位との反応性が下がることで望まない副反応が抑えられると考えられ、その結果、置換基を有していないキノンと比べて安全性が高まると考えられる。また、ヒアルロニダーゼ阻害剤として知られるインドメタシンのマウスにおける半致死量(LD50)は、15.2mg/kg(Vet. arhiv. 2008, 78, 167-178.)であるのに対し、例えば、本発明のタンシノンIIA、タンジン抽出物の半数致死量(LD50)はそれぞれ、25.807g/kg(Med. Res. Rev. 2007, 27, 133-148.)、25.8g/kg(Sci. Rep. 2017, 7, 4709.)である。すなわち、本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤は従来のヒアルロニダーゼ阻害剤と比べて安全性が高い。
【0042】
式(I)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩は、有機化学的手法によって合成することもできる。有機化学的手法は特に限定されないが、例えば、J. Am. Chem. Soc. 1989, 111, 1522-1524頁に記載されているような方法を用いて合成することができる。また、式(I)で表される化合物のうち、例えば、タンシノンIIA、クリプトタンシノン、タンシノンI、ジヒドロタンシノンI、タンシノンIIB、タンシンジオールA、タンシンジオールB、タンシンジオールC、プルツワキノンA等は、これらの化合物を含有する植物、例えばシソ科植物のタンジン(Salvia miltiorrhiza)等の植物から抽出することができ、特に好適にはこれらの植物の根から抽出することができる。また、タンシノンIIA、クリプトタンシノン、タンシノンI、ジヒドロタンシノンI、タンシノンIIAスルホン酸ナトリウム等は試薬として購入することができる。
【0043】
本発明のタンジン(Salvia miltiorrhiza)、サルビア・ブレヤナ(Salvia bulleyana)、サルビア・カンパヌラタ(Salvia campanulata)、サルビア・カスタネア(Salvia castanea)、サルビア・ディギタロイデス(Salvia digitaloides)、サルビア・エバンシアナ(Salvia evansiana)、サルビア・フラバ(Salvia flava)、サルビア・マキシモウィッチアーナ(Salvia maximowicziana)、サルビア・オメイアナ(Salvia omeiana)、サルビア・パウキフローラ(Salvia pauciflora)、サルビア・プラッティ(Salvia prattii)、サルビア・プルツェワルスキー(Salvia przewalskii)、サルビア・ロボロフスキー(Salvia roborowskii)、サルビア・ウムブラティカ(Salvia umbratica)、サルビア・ボウレヤナ(Salvia bowleyana)、サルビア・シンプリシフォリア(Salvia simplicifolia)、Salvia dabieshanensis、Salvia meiliensis、サルビア・プリオニティス(Salvia prionitis)、Salvia paramiltiorrhiza、サルビア・プレクトラントイデス(Salvia plectranthoides)、サルビア・ユンナネンシス(Salvia yunnanensis)、Salvia sinica、サルビア・トリジュガ(Salvia trijuga)、Salvia vastaは、中国に自生する植物である。流通品として栽培品種も存在するが、いずれであっても利用できる。上記植物には、含有成分として、タンシノンIIA、タンシノンI、クリプトタンノシン、タンシノンIIBなど、式(I)で表される化合物が含まれることが知られている(Chin. Herb. Med. 2013, 5, 164-181.)。使用する部位は特に限定されない。例えば、花弁、子実、茎、葉、根又は全草を用いることができる。特に根は、タンシノン類を多く含み、また、タンジン等の根は生薬丹参に用いられる部位であることから好ましい。
【0044】
本発明の抽出物としては、植物の各種部位を未乾燥のまま又は乾燥させた後そのままに、あるいは、破砕又は粉砕後に搾取して使用することができる。さらに、これらを溶媒で抽出して得られるエキスや、該エキスから抽出溶媒を蒸発又は凍結乾燥して得られる不揮発分を使用することができる。
【0045】
ここで用いられる抽出溶媒としては、特に限定はされないが例えば、メチルアルコール、エチルアルコール等の低級1価アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の液状多価アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;酢酸エチル等のアルキルエステル;ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素;ジエチルエーテル等のエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化アルカン等の1種または2種以上を用いることができる。低級1価アルコール、液状多価アルコールを抽出溶媒として含む2種以上の溶媒を用いる場合は、溶媒の1種として水を用いることができる。好ましくは、エチルアルコール、またはエチルアルコールと水との混合溶媒である。抽出物をエキスとして使用する場合の溶媒としては、エチルアルコール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、またはそれらと水との混合溶媒が好ましい。
【0046】
ここで用いられる抽出方法としては、特に限定されない。例えば乾燥したものであれば重量比で1~1000倍量、好ましくは10~100倍量の溶媒を用い、常温抽出の場合には、0℃以上、更に好ましくは20℃~40℃で1時間以上、特に1~7日間行うのが好ましい。また、60~100℃で1時間、加熱抽出しても良い。また、10℃以下の抽出溶媒が凍結しない程度の温度で、1時間以上、特に1~7日間抽出を行なっても良い。
【0047】
本発明の抽出物中の、式(I)で表される化合物の総量は特に限定されないが、抽出物乾燥固形分量に換算して0.001質量%~100質量%含むことが好ましい。
【0048】
上記の如く得られた抽出物は、必要に応じて活性炭又は活性白土、スチレン-ジビニルベンゼン系合成吸着剤(HP-20:三菱化成社製)やオクタデシルシラン処理シリカ(Chromatorex ODS:富士シリシア化学製)等により精製することができ、濃縮、粉末化したものを適宜使い分けて用いることが出来る。配合量は目的に応じ、乾燥固形分量に換算して0.001質量%~100質量%を任意に使用することができる。好ましい配合量としては、0.01質量%~10質量%、更に好ましい配合量としては、0.025質量%~5質量%である。
【0049】
本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤は、式(I)に示した化合物及びその薬理学的に許容される塩から選択される1つ以上、本発明の抽出物のみからなるものでも、これらの混合物であってもよい。
【0050】
本発明で言う「有効成分として含有する」とは、剤中に効果成分として含んでいることである。配合量(含有量)は、前記有効成分の種類及びその組合せ並びにその使用目的、実施態様、使用形態・使用回数等々に応じて変動させることができるので、特に限定されない。原則的には、有効量存在すればよいことになるが、一般的には使用に供されるヒアルロニダーゼ阻害剤の最終組成物として、式(I)に示した化合物及びその薬理学的に許容される塩の総量に換算して、0.001質量%~100質量%、好ましくは0.01質量%~10質量%、更に好ましくは0.025質量%~5質量%である。さらにまた、この発明にかかる有効成分は1種類でも作用効果を発揮することができるが、2種類以上の有効成分を適宜組み合わせて利用することより、優れた相乗効果を奏することができる。もとより、この発明にかかる有効成分は、公知のヒアルロニダーゼ阻害剤と併用することにより優れた相乗効果を奏することもできる。
【0051】
本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤には、上記成分の他に、本発明の効果を妨げない範囲で任意成分、すなわち、上記必須成分以外の、水性成分、油剤、粉体、皮膜形成剤、界面活性剤、油溶性ゲル化剤、有機変性粘土鉱物、樹脂、着色剤、紫外線吸収剤、防腐剤、抗菌剤、香料、酸化防止剤、pH調整剤、キレート剤、各種効果成分等を配合することができる。
【0052】
本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤は、他の成分との併用により種々の剤型とすることもできる。具体的には、液状、ゲル状、ペースト状、クリーム状、固形状、シート状等、種々の剤型にて実施することができる。
【0053】
本発明の皮膚外用剤は、上記ヒアルロニダーゼ阻害剤を含有するものであり、化粧品、医薬品、医薬部外品として用いることができる。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに説明する。なお、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0055】
(化合物)
タンシノンIIA、クリプトタンシノン、ジヒドロタンシノンIは東京化成工業株式会社から、インドメタシン(化学式18)、ロズマリン酸(化学式19)、アラントイン(化学式20)、デキサメタゾン(化学式21)、2-メチル-1,4-ナフトキノン(化学式22)は富士フイルム和光純薬株式会社から、コルチゾン(化学式23)はSigma-Aldrichから、タンシノンIIAスルホン酸ナトリウムはMedChemExpressからそれぞれ購入した。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
(試料溶液の調製)
タンシノンIIA、クリプトタンシノン、ジヒドロタンシノンI、タンシノンIIAスルホン酸ナトリウム、インドメタシン、ロズマリン酸、アラントイン、コルチゾン、デキサメタゾン、2-メチル-1,4-ナフトキノンをそれぞれ5000ppmとなるようにジメチルスルホキシドに溶解し、試料溶液を調製した。さらに、インドメタシンを15000ppm、ロズマリン酸を20000ppmとなるようにジメチルスルホキシドに溶解し、試料溶液を調製した。
【0063】
(タンジン抽出物溶液の調製)
乾燥し、刻んだタンジンの根20gに対し、99.5%(v/v)エタノール200mLを加え、23℃で24時間浸漬し抽出した。ろ過後、溶媒を留去し、タンジン抽出物を90mg得た。得られたタンジン抽出物を10000ppmとなるようにジメチルスルホキシドに溶解し、試料溶液を調製した。
【0064】
(ヒアルロニダーゼ活性阻害試験)
ヒアルロニダーゼ活性阻害試験は、未分解のヒアルロン酸が酸性アルブミン溶液中で沈殿する反応を利用して、沈殿ヒアルロン酸量からヒアルロニダーゼ活性阻害を調べる、Molecules 2015, 20, 16723-16740頁に記載された方法を一部改変して行った。具体的には、0.05mg/mLウシ精巣由来ヒアルロニダーゼ(Type I-S、400-1000units/mg、Sigma社製)溶液(77mM塩化ナトリウム及び0.01%ウシ血清アルブミンを含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH6.9)90μLに各試料溶液10μLを加え、10分間37℃でプレインキュベートした。この混合溶液に、鶏冠由来の0.4mg/mLヒアルロン酸ナトリウム(和光純薬社製)溶液100μL(300mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH5.3)を加え、30分間、37℃でインキュベートした。0.1%ウシ血清アルブミンからなる酸性アルブミン溶液(24mM酢酸ナトリウム、79mM 酢酸、pH3.75)1mLを加え、10分間室温で放置後、マイクロプレートリーダーを用いて波長595nmにおける吸光度を測定した(N=3)。ヒアルロニダーゼ活性阻害率は以下の式を用いて算出した。結果を表1に示す。なお、表中括弧内の濃度は、試料溶液調製時の濃度を表す。
【0065】
【0066】
【0067】
タンシノンIIA、クリプトタンシノン、ジヒドロタンシノンI、タンシノンIIAスルホン酸ナトリウムは、従来知られているヒアルロニダーゼ阻害剤であるインドメタシン、ロズマリン酸よりも高いヒアルロニダーゼ阻害作用を示した(実施例1~4、比較例1、3)。また、タンシノン類を含有することが知られているタンジン抽出物も、インドメタシン、ロズマリン酸より低い濃度において、より高いヒアルロニダーゼ阻害作用を示した(実施例5、比較例2、4)。一方、抗炎症作用が知られているアラントイン、コルチゾン、デキサメタゾンはヒアルロニダーゼ阻害作用を示さなかった(比較例5~7)。また、o-キノンの異性体であるp-キノンを骨格として有する2-メチル-1,4-ナフトキノンはヒアルロニダーゼ阻害作用を示さなかった(比較例8)。本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤は、従来のヒアルロニダーゼ阻害剤であるインドメタシンと比べて、より低濃度でより高いヒアルロニダーゼ阻害作用を示すため、上述した半数致死量(LD50)を考慮すると、より安全性が高く使用することができる。
【0068】
以下、本発明に係るヒアルロニダーゼ阻害剤の処方例を示す。なお、含有量は質量%である。製法は、常法による。なお、処方は代表例であり、これに限定されない。また、処方例中のタンジン抽出物の濃度は乾燥残分としての濃度である。
【0069】
処方例1:化粧水 (質量%)
タンシノンIIAスルホン酸ナトリウム 0.05
ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(20E.O.) 1.5
1,3-ブチレングリコール 4.5
グリセリン 3.0
エタノール 2.0
ヒアルロン酸ナトリウム(1%水溶液) 5.0
エデト酸三ナトリウム 0.1
防腐剤 適量
pH調整剤 適量
精製水 残部
合計 100.0
【0070】
処方例2:クリーム (質量%)
タンジン抽出物 0.1
ステアリルアルコール 6.0
ステアリン酸 2.0
ワセリン 4.0
スクワラン 9.0
オクチルドデカノール 10.0
1,3-ブチレングリコール 6.0
グリセリン 4.0
POE(20)セチルアルコールエーテル 3.0
モノステアリン酸グリセリン 2.0
酸化防止剤 適量
防腐剤 適量
精製水 残部
合計 100.0
【0071】
処方例3:ファンデーション (質量%)
クリプトタンシノン 0.03
タルク 5.0
セリサイト 8.0
酸化チタン 5.0
色顔料 適量
モノイソステアリン酸ポリグリセリル 3.0
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 1.5
イソノナン酸イソトリデシル 10.0
1,3-ブチレングリコール 5.0
酸化防止剤 適量
防腐剤 適量
精製水 残部
合計 100.0
【0072】
処方例4:サンスクリーン (質量%)
タンシノンIIA 0.02
ジヒドロタンシノンI 0.02
酸化チタン 10.0
酸化亜鉛 10.0
PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン 1.5
ラウリルPEG9-ポリジメチルシロキシエチルジメチコン 1.5
シクロペンタシロキサン 20.0
ジメチコン 10.0
(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー 0.5
セチルジメチコン 0.2
グリチルレチン酸エステル 0.0
メチルグルセス-20 1.0
1,3-ブチレングリコール 10.0
塩化ナトリウム 適量
酸化防止剤 適量
防腐剤 適量
精製水 残部
合計 100.0
【0073】
処方例5:軟膏 (質量%)
ジヒドロタンシノンI 0.1
レゾルシン 0.5
パラジメチルアミノ安息香酸オクチル 4.0
ブチルメトキシベンゾイルメタン 4.0
ステアリルアルコール 18.0
モクロウ 20.0
グリセリンモノステアリン酸エステル 0.3
ワセリン 33.0
香料 適量
防腐剤・酸化防止剤 適量
精製水 残部
合計 100.0
【0074】
処方例6:錠剤 (質量%)
タンシノンIIAスルホン酸ナトリウム 5.0
卵殻カルシウム 10.0
乳糖 20.0
澱粉 7.0
デキストリン 8.0
硬化油 5.0
セルロース 残部
合計 100.0
【0075】
処方例7:栄養ドリンク (質量%)
タンシノンIIAスルホン酸ナトリウム 1.0
タウリン 3.0
塩酸塩 0.02
チアミン硫化物 0.01
リボフラビン 0.003
無水カフェイン 0.05
精製白糖 5.0
D-ソルビトール液 2.0
クエン酸無水物 0.2
香料 適量
精製水 残部
合計 100.0
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、ヒアルロニダーゼ阻害効果により、ヒアルロン酸の分解が抑制され、保湿能の保持やシワの防止が期待できる。