(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】インタラクティブジェスチャ及び他の手段を用いたウェアラブル経皮的電気神経刺激器の無ボタン制御装置及び方法
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20231204BHJP
【FI】
A61N1/36
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022148537
(22)【出願日】2022-09-16
(62)【分割の表示】P 2019571033の分割
【原出願日】2018-06-22
【審査請求日】2022-10-13
(32)【優先日】2017-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506335938
【氏名又は名称】ニューロメトリックス・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フェレー,トーマス シー.
(72)【発明者】
【氏名】ゴザニ,シャイ ナチュム
(72)【発明者】
【氏名】コン,シュエン
【審査官】槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-515463(JP,A)
【文献】特表2014-533525(JP,A)
【文献】特表2016-515428(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0296935(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0100107(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0379045(US,A1)
【文献】特表2014-500687(JP,A)
【文献】特許第7145176(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクティブモード、待機モード及び省電力モードのうちのいずれか1つのモードで動作する、ユーザの経皮的電気神経刺激のための装置であって、
少なくとも1つの神経を電気的に刺激する刺激器と、
刺激器筐体と、
前記ユーザによって持ち上げられることによる動きである、前記刺激器筐体の遷移モーションを監視するモニタと、
前記モニタによって監視される遷移モーションを解析し、前記刺激器筐体の遷移モーションが発生したか否かを判定するアナライザと、
前記刺激器、前記モニタ、及び前記アナライザのうちの少なくとも1つを前記待機モードと前記省電力モードとの間で自動的に遷移させるコントローラとを備え、
前記アクティブモードは、前記装置が前記ユーザに電気刺激を送達するモードであり、前記待機モードは、前記装置が前記電気刺激の送達を開始する準備ができているモードであり、前記省電力モードは、前記装置が前記待機モードに遷移する準備ができているモードであり、
前記モニタは、前記刺激器筐体に機械的に連結された少なくとも1つの加速度計を使用して、3次元空間の少なくとも1つの軸に沿った加速度に関連する加速度信号を提供し、
前記アナライザは、前記加速度信号が振幅閾値を超えて、前記加速度信号が前記振幅閾値を超えている状態が継続時間閾値以上継続していることを検出した場合に、前記遷移モーションが発生したと判定し、
前記コントローラは、前記刺激器筐体の遷移モーションを検出した直後に、前記刺激器、前記モニタ、及び前記アナライザのうちの少なくとも1つを前記省電力モードから前記待機モードに遷移させ、前記刺激器筐体の遷移モーションが所定の期間検出されない場合、前記刺激器、前記モニタ、及び前記アナライザのうちの少なくとも1つを前記待機モードから前記省電力モードに遷移させ、
前記省電力モードは、前記待機モードで利用可能な前記刺激器の機能としての皮膚上状態の検出、及び、前記モニタの機能としての特定の動きパターンの検出のサブセットをサポートし、前記省電力モードにおいてバッテリ電力を節約する装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、前記アナライザは、加速度計測定値のサンプル間の差の絶対値を前記振幅閾値と比較することによって、前記刺激器筐体の遷移モーションを解
析する装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の装置において、前記刺激器が前記省電力モードであるとき、前記刺激器が電源から切断される、装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の装置において、前記モニタは、前記モニタが前記省電力モードであるとき、加速度計測定値を50ヘルツでサンプリングするか、あるいは、前記モニタは、前記省電力モード及び待機モードで、それぞれ第1及び第2のサンプリングレートで加速度計測定値をサンプリングし、前記第2のサンプリングレートは、前記第1のサンプリングレートより高く、1.5から5倍高い装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の装置において、前記アナライザは、前記アナライザが前記省電力モードであるとき、前記刺激器筐体の遷移モーションを判定することに限定される装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の装置において、前記刺激器が前記待機モードであるとき、前記刺激器が電源に接続される、装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の装置において、前記モニタは、前記モニタが前記待機モードであるとき、加速度計測定値を100ヘルツでサンプリングする装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の装置において、前記アナライザは、前記アナライザが前記待機モードであるとき、1つ以上のユーザジェスチャを、前記刺激器筐体の遷移モーションを判定することに加えて、判定するようにプログラムされている装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包括的には、電極によってユーザの無傷の皮膚を経て電流を送達することにより疼痛の症状を緩和する経皮的電気神経刺激(Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation:TENS)デバイスに関する。より具体的には、本発明は、機械式アクチュエータ(例えば、物理的な押しボタン、ノブ、ダイヤル、スイッチ、スライド、レバー、又はユーザが通常は手動で(例えば、ユーザの手又は指によって)物理的に(例えば、ある位置から別の位置に)移動させるその他の制御要素)を必要とすることなくTENSデバイスの動作を制御するための装置および方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
経皮的電気神経刺激(TENS)は、感覚神経線維を活性化することを目的とする、ユーザの皮膚の無傷の表面を横切る電気(すなわち、電気刺激)の送達である。TENS治療の最も一般的な用途は、慢性疼痛の緩和等の鎮痛である。TENS治療の他の用途には、以下に限定されるものではないが、レストレスレッグス症候群の症状の軽減、夜間の筋肉痙攣の軽減、及び全身性掻痒症の軽減が含まれる。
【0003】
従来のTENSでは、電極は、疼痛領域の内部、隣接、又は近位の皮膚上に配置される。固定部位高周波TENSでは、電極は、広範囲の鎮痛をもたらす解剖学的及び生理学的に最適な領域(例えば、ユーザの上ふくらはぎ)に配置される。電気回路が、特定の特性を有する刺激パルスを生成する。患者の皮膚に配置された一対以上の電極は、電気パルスを伝達し、これによって、その下にある神経を刺激して疼痛を緩和する。
【0004】
感覚神経刺激によって疼痛が緩和されるとする概念モデルは、1965年にMelzackとWallによって提案されている。これらの理論によれば、感覚神経(Aβ線維)の活性化が脊髄の「疼痛ゲート」を閉じ、侵害受容求心性神経(C線維及びAδ線維)が疼痛の信号を脳に伝達することを阻害する。過去20年間に、疼痛ゲートの根底にあると考えられる解剖学的経路及び分子機構が同定されてきた。感覚神経刺激(例えば、TENS)は、脳幹の中脳に位置する水道周囲灰白質(periaqueductal gray:PAG)と、髄質部分に位置する吻側延髄腹内側部(rostroventral medial medulla:RVM)とから主に構成される下行性疼痛抑制系を活性化する。PAGは、RVMへの神経投射を有し、RVMは、上行性痛覚シグナル伝達を阻害する脊髄後角への拡散した両側性投射を有する。
【0005】
TENSは、通常、短い離散パルスで送達され、各パルスは、通常、持続時間が数百マイクロ秒であり、周波数は、約10Hzから約150Hzの間であり、ユーザの身体上に配置されたヒドロゲル電極を介して送達される。TENSは、刺激パルスの振幅及び形状(これが結合されてパルス電荷が確立される。)、パルスの周波数及びパターン、治療セッションの期間、及び治療セッション間の間隔を含む多数の電気的パラメータによって特徴付けられる。これらのパラメータの全ては、治療用量と相関する。例えば、振幅が大きくなり、パルスが長くなる(すなわち、パルス電荷が大きくなる)と用量が増加し、治療セッションが短いと用量が減少する。臨床試験では、パルス電荷及び治療期間が治療用量に最も大きな影響を及ぼすことが示唆されている。
【0006】
TENSデバイスに対するユーザ制御は、通常、電気刺激を調節する電子回路に直接配線された機械的アクチュエータによって行われる。これらのアクチュエータは、通常、押しボタン及び/又はダイヤルである。最大限の疼痛緩和(すなわち、痛覚鈍麻)を達成するために、TENSは、適切な刺激強度で実施する必要がある。感覚閾値以下の強度は、臨床的に有効ではない。至適治療強度は、しばしば、「強くて快適な」と記述される。ほとんどのTENSデバイスは、通常、ユーザによる手動強度制御(アナログ強度ノブ又はデジタル強度制御押しボタンを含む)に基づく刺激強度の設定に依存する。
【0007】
TENS刺激による疼痛緩和は、通常、刺激開始から15分以内に始まり、刺激期間(これは「治療セッション」とも呼ばれる。)終了後に最長1時間持続する。通常、各治療セッションは、30~60分間行われる。最大限の疼痛緩和(すなわち、痛覚鈍麻)を維持するために、TENS治療セッションは、通常、定期的に開始する必要がある。
【0008】
近年、着用可能なTENSデバイス(例えば、マサチューセッツ州ウォルサムのNeuroMetrix,Inc.社のSENSUS(登録商標)及びQuell(登録商標)TENSデバイス)が導入されており、このデバイスは、睡眠中を含む長期間、ユーザの体に装着されることが意図されている。衣服の下で快適に着用できるようにするためには、そのようなデバイスは、嵩張らない必要がある。したがって、これらのデバイスは、機械的アクチュエータ(例えば、押しボタン)を有さない方が有利である。更に、押しボタンが大きくないと、衣服の下で押しボタンを見つけて作動させることが困難である。しかしながら、押しボタンを大きくすると、デバイスのサイズ、厚さ、及び製造の複雑さが増し、これによってデバイスのウェアラブル性が低下する。これらの欠点は、他の機械的アクチュエータにも共通である。更に、押しボタン及び他の機械的アクチュエータは、ユーザが眠っているとき等に偶発的に作動しやすい。
【0009】
スマートフォン又は他のモバイル「アプリ」を使用して、ブルートゥース(登録商標)又は他の(例えば、同様の)無線通信プロトコル、特に近距離プロトコルを介して、TENSデバイスの動作を無線で制御できる。このために、TENSデバイスは、スマートフォンアプリとアクティブな通信リンクを維持し、スマートフォンアプリからの制御コマンドに応答し、TENSデバイスとアプリの間で情報を交換する必要がある。TENSデバイスとスマートフォンアプリとの間の連続したアクティブな通信リンクを維持することは、バッテリ電力消費の点で高コストであり、このため、再充電を頻繁に行う必要があり、ユーザにとって不便である。
【0010】
装着性と快適性を改善するために、携帯TENSデバイスは、総体積が小さく、嵩張らない必要がある。このような体積に関する要求のため、TENSデバイス内に収容される再充電可能バッテリの物理的サイズには上限がある。バッテリの容量は、通常、バッテリのサイズにある程度比例するため、このようなウェアラブルTENSデバイスでは、TENSデバイスに電力を供給するバッテリの容量が制限される。バッテリ寿命を延ばすためには、TENSデバイスが使用されていないときにTENSデバイスをアクティブ状態から省電力状態に遷移させ、TENSデバイスが使用されるときにTENSデバイスをアクティブ状態に戻るように遷移させる必要があり、これを直観的で信頼できる手法で行う必要がある。
【0011】
[発明のサマリー]
本発明は、機械的アクチュエータ(例えば、押しボタン、スイッチ、ダイヤル等)の使用を必要としない新規なTENSデバイスの提供及び使用を含む。TENSデバイスの状態(アクティブ状態及び省電力状態)及び動作は、意図的なジェスチャ及び他の手段によって制御される。本発明の好ましい一形態では、TENSデバイスに3軸加速度計が組み込まれ、ユーザのハンドジェスチャ(タップ、フリック、及びシェイク等)によって引き起こされるTENSデバイスのモーション及び向きを測定し、これに基づいて装置の状態(アクティブ状態及び省電力状態)及び動作を変更する。
【0012】
無線接続を介してTENSデバイスの状態及び動作を制御するために他の制御手段を提供してもよく、これには、RFID(無線周波数識別タグ)及び他の同様の近距離通信デバイス(ブルートゥース対応のスマートフォン、スマートウォッチ、その他のポータブル/モバイルデバイスで動作するアプリを含む)又はここに記載する他の制御手段が含まれる。身体装着制御手段/コントローラについては、通常、これらは、ここに説明するように、ユーザの手の上又は近く(例えば、手首に)に装着され、TENSデバイス100とインタラクトし、特に刺激器ユニット/筐体111とインタラクトして、動作を制御するために使用される。
【0013】
更なるデバイス制御スキームは、ユーザの皮膚上にデバイスを配置したときの治療の自動開始と、TENSデバイスによって感知された全体的な動きに基づく省電力モードへの遷移及び省電力モードからの遷移とを含む。
【0014】
本発明の1つの好ましい形態では、ユーザにおける経皮的電気神経刺激のための装置が提供され、この装置は、
少なくとも1つの神経を電気的に刺激する刺激器と、
刺激器筐体と、
刺激器筐体の遷移モーションを監視するモニタと、
モニタによって監視される遷移モーションを解析し、刺激器筐体の遷移モーションが発生したか否かを判定するアナライザと、
刺激器、モニタ、及びアナライザのうちの少なくとも1つを待機モードと省電力モードとの間で自動的に遷移させるコントローラとを備え、
省電力モードは、待機モードで利用可能な刺激器及びモニタの機能のサブセットをサポートし、省電力モードにおいてバッテリ電力を節約する。
【0015】
本発明の別の好ましい形態では、ユーザにおける経皮的電気神経刺激のための装置が提供され、この装置は、
少なくとも1つの神経を電気的に刺激する刺激器と、
少なくとも1つの神経の電気刺激のために刺激器に接続可能な一対の電極と、
刺激器に電気的に接続され、一対の電極とユーザの身体との間のインピーダンスを監視し、一対の電極の皮膚上状態を判定する皮膚上検出器(on-skin detector)と、
刺激器を待機モードとアクティブモードとの間で自動的に遷移させるコントローラとを備え、
刺激器は、アクティブモードにおいてユーザに電気刺激を送達する。
【0016】
本発明の別の好ましい形態では、ユーザにおける経皮的電気神経刺激のための装置が提供され、この装置は、
少なくとも1つの神経を電気的に刺激する刺激器と、
刺激器筐体と、
刺激器筐体の遷移モーションを監視するモニタと、
モニタに対するユーザの手の近接を示すためのリモートコントローラと、
モニタによって監視される遷移モーションを解析し、刺激器筐体の遷移モーションがユーザによる意図的なハンドジェスチャによって引き起こされたか否かを判定するアナライザと、
意図的なハンドジェスチャに応答して、刺激器の動作を自動的に変更するコントローラとを備え、
リモートコントローラによって示される近接によって、アナライザの動作が変更される。
【0017】
本発明の別の好ましい形態では、機械的アクチュエータ又はボタンを用いずに経皮的電気神経刺激を制御する方法が提供され、この方法は、
ユーザの経皮的電気神経刺激のための装置を準備するステップを有し、この装置は、
少なくとも1つの神経を電気的に刺激する刺激器と、
刺激器筐体と、
刺激器筐体の遷移モーションを監視するモニタと、
モニタによって監視される遷移モーションを解析するアナライザと、
刺激器、モニタ、及びアナライザのうちの少なくとも1つを待機モードと省電力モードとの間で自動的に遷移させるコントローラとを備え、
省電力モードは、待機モードで利用可能な刺激器及びモニタの機能のサブセットをサポートし、省電力モードにおいてバッテリ電力を節約し、
この方法は、更に、モニタからの測定に基づいて、遷移モーションの存在を判定するステップと、
刺激器、モニタ、及びアナライザのうちの少なくとも1つを待機モードと省電力モードとの間で遷移させるステップとを有する。
【0018】
本発明の別の好ましい形態では、機械的アクチュエータ又はボタンを用いずに経皮的電気神経刺激を制御する方法が提供され、この方法は、
ユーザの経皮的電気神経刺激のための装置を準備するステップを有し、この装置は、
少なくとも1つの神経を電気的に刺激する刺激器と、
少なくとも1つの神経の電気刺激のために刺激器に接続可能な一対の電極と、
刺激器に電気的に接続され、一対の電極の皮膚上状態を監視する皮膚上検出器と、
刺激器を待機モードとアクティブモードとの間で自動的に遷移させるコントローラとを備え、
この方法は、更に、一対の電極の皮膚上状態を判定するステップと、
刺激器を待機モードとアクティブモードとの間で遷移させるステップとを有する。
【0019】
本発明の別の好ましい形態では、機械的アクチュエータ又はボタンを用いずに経皮的電気神経刺激を制御する方法が提供され、この方法は、
ユーザの経皮的電気神経刺激のための装置を準備するステップを有し、この装置は、
少なくとも1つの神経を電気的に刺激する刺激器と、
刺激器筐体と、
刺激器筐体の遷移モーションを監視するモニタと、
モニタに対するユーザの手の近接を示すためのリモートコントローラと、
モニタによって監視される遷移モーションを解析し、刺激器の遷移モーションがユーザによる意図的なハンドジェスチャによって引き起こされたか否かを判定するアナライザと、
意図的なハンドジェスチャに応答して、刺激器の動作を自動的に変更するコントローラとを備え、
この方法は、更に、リモートコントローラからの近接情報に基づいて、アナライザの動作を変更するステップと、
モニタからの測定値に基づいて、ユーザによる意図的なハンドジェスチャの存在を判定するステップと、
意図的なジェスチャに基づいて、刺激器の動作を制御するステップとを有する。
【0020】
本発明の別の好ましい形態では、ユーザにおける経皮的電気神経刺激のための装置が提供され、この装置は、
少なくとも1つの神経を電気的に刺激する刺激器と、
刺激器筐体と、
刺激器筐体の遷移モーションを監視するモニタと、
モニタによって監視される遷移モーションを解析し、刺激器筐体の遷移モーションがユーザによる意図的なジェスチャによって引き起こされたか否かを判定するアナライザと、
意図的なジェスチャに応答して、刺激器の動作を自動的に変更するコントローラとを備える。
【0021】
本発明の別の好ましい形態では、機械的アクチュエータ又はボタンを用いずに経皮的電気神経刺激を制御する方法が提供され、この方法は、
ユーザの経皮的電気神経刺激のための装置を準備するステップを有し、この装置は、
少なくとも1つの神経を電気的に刺激する刺激器と、
刺激器筐体と、
刺激器筐体の遷移モーションを監視するモニタと、
モニタによって監視される遷移モーションを解析し、刺激器の遷移モーションがユーザによる意図的なジェスチャによって引き起こされたか否かを判定するアナライザと、
意図的なジェスチャに応答して、刺激器の動作を自動的に変更するコントローラとを備え、
この方法は、更に、モニタからの測定値に基づいて、ユーザによる意図的なハンドジェスチャの存在を判定するステップと、
意図的なハンドジェスチャに基づいて、刺激器の動作を制御するステップとを有する。
【0022】
本発明は、更に、好ましい実施形態、添付の図面、及び特許請求の範囲を参照することによって開示される他の態様及び特徴を提供する。更に、本発明は、その任意の態様と、他の態様の任意の1つ以上の態様及び/又は特徴との組合せを提供する。
【0023】
本発明のこれら及び他の目的、態様、及び特徴は、同様の部分に同様の符号が付された以下の添付の図面を参照する本発明の好ましい実施形態の詳細な説明によって、より完全に開示され又は明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明に基づいて形成され、ユーザの上ふくらはぎに装着された新規なTENSデバイスを、新規なTENSデバイスに組み込まれた加速度計の座標系と共に示す概略図である。
【
図2】
図2は、
図1の新規なTENSデバイスをより詳細に示す概略図である。
【
図3】
図3は、
図1及び
図2の新規なTENSデバイスの電極アレイを示す概略図である。
【
図4】
図4は、ジェスチャ検出及びモーション検出用のプロセッサ(パルススクリーナ、パルスアナライザ、及び遷移モーション検出器を含む)を含む
図1~
図3の新規なTENSデバイスの概略図である。
【
図5】
図5は、
図1~
図4の新規なTENSデバイスの刺激器によって生成される刺激パルス列を示す概略図である。
【
図6】
図6は、
図1~
図5に示す新規なTENSデバイスの種々の動作モード(省電力、待機、アクティブ)及び動作モード間の遷移を示す概略図である。
【
図7】
図7は、
図1~
図6に示す新規なTENSデバイスの皮膚上検出システムを、新規なTENSデバイスがユーザの皮膚に接触し及び皮膚から離れた際の等価回路と共に示す概略図である。
【
図8】
図8は、新規なTENSデバイスに組み込まれた加速度計のX軸、Y軸、及びZ軸からの加速度計データ波形の一例を、デバイスの遷移モーションを検出するための加速度計データから得られた追加の波形と共に示す概略図である。
【
図9】
図9は、タップ、ダブルタップ、フリックアップ、及びフリックダウンに関連するイベントを反映する加速度計データ波形を有する、新規なTENSデバイスに組み込まれた加速度計のX軸、Y軸、及びZ軸からの例示的な波形を示す概略図である。
【
図10】
図10は、潜在的なパルスイベントとしてパルススクリーナによって識別される加速度計データ波形セグメントを有する、新規なTENSデバイスに組み込まれた加速度計のZ軸からの例示的な波形を示す概略図である。
【
図11】
図11は、加速度計データ波形がタップに関連している場合の、新規なTENSデバイスに組み込まれた加速度計のZ軸からの例示的な波形を示す概略図である。
【
図12】
図12は、加速度計データ波形が歩行活動に関連している場合の、新規なTENSデバイスに組み込まれた加速度計のZ軸からの例示的な波形を示す概略図である。
【
図13】
図13は、加速度計のZ軸からの例示的な波形及び遷移活動を評価するための活動カウンタを示す概略図である。
【
図14】
図14は、遷移モーションイベントを使用して、意図的なユーザジェスチャを表す「真」加速パルスイベントと、通常の身体の動きを表す「偽」パルスイベントとを区別するための処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[TENSデバイス概要]
本発明は、ユーザの上ふくらはぎ(又は他の解剖学的位置)上に配置されるように設計された刺激器と、ユーザの上ふくらはぎ(又は他の解剖学的位置)内の少なくとも1つの神経に電気刺激を提供するように設計された予め構成された電極アレイとを備える新規なTENSデバイスの提供及び使用を含む。本発明の主要な特徴は、新規なTENSデバイスが、TENSデバイスの動作を制御するための機械的アクチュエータ(例えば、押しボタン、スイッチ、ダイヤル等)を含まないことである。
【0026】
具体的には、
図1には、本発明に基づいて形成された新規なTENSデバイス100が示されており、この新規なTENSデバイス100は、ユーザの上ふくらはぎ140に装着されている。ユーザは、TENSデバイス100を片脚又は両脚(1つを交代で又は同時に)に装着してもよく、あるいは、ユーザの片脚(又は両方の脚)に装着されたTENSデバイス100とは別に又はこれに加えて、TENSデバイス100を身体の別の領域に装着してもよい。
【0027】
図2は、TENSデバイス100をより詳細に示している。TENSデバイス100は、好ましくは、刺激器110、ストラップ130、及び電極アレイ300(刺激器110に適切に接続されたカソード電極及びアノード電極を含む。)の3個の主要な構成要素を含む。本発明の好ましい形態では、刺激器筐体111は、TENS刺激回路と、1以上のユーザインタフェース要素101(例えば、LED)とを収容する。
図2には、刺激器筐体111の前面111a及び背面111bの両方が示されている。使用時には、背面111bは、内側でユーザの体表面(例えば、ふくらはぎ)に面し、反対側の前面111aは、体表面とは逆の外側を向く。ストラップ130は、刺激器110の刺激器筐体111を受容するためのポケット112を含む。また、TENSデバイス100は、加速度計132(
図2及び
図4参照)を備える。加速度計132は、好ましくは、MEMSデジタル加速度計マイクロチップ(例えば、Freescale社MMA8451Q)の形態であり、(i)刺激器筐体111へのタップ等のユーザジェスチャ、(ii)ユーザの脚及び体の向き、及び(iii)デバイスがユーザの皮膚上に配置されたときのユーザの脚及び体のモーションを検出するためのものである。なお、加速度計132は、刺激器筐体111の内部に配置してもよく、外部に配置してもよい。また、加速度計132は、TENSデバイスがユーザの身体上に配置されていないとき、TENSデバイスのモーション及び向きを監視する。また、TENSデバイス100は、ジャイロスコープ133(
図4)、振動モータ134(
図4)、リアルタイムクロック135(
図4)、温度センサ137(
図2及び
図4)、及びストラップテンションゲージ138(
図2及び
図4)を備える。なお、ジャイロスコープ133、温度センサ137、及び/又は振動モータ134は、刺激器筐体111の内部に配置してもよく、外部に配置してもよい。
【0028】
また、本発明の好ましい一形態では、刺激器筐体111は、TENS刺激回路及び他の回路に電力を供給するためのバッテリ(図示せず)、並びにTENSデバイス100がリモートコントローラ180(例えば、スマートフォンやRFIDタグ等の携帯型電子デバイス(
図2参照))と無線通信することを可能にするための無線通信の技術において周知の無線リンクモジュール185(
図4)等の他の補助要素を収容する。
【0029】
本発明の別の形態では、TENSデバイス100は、例えば、身体への適合性を向上させるため及び/又は回路及び電池構成要素をより均等に分配することによってユーザの快適性を改善するために、複数の刺激器筐体111を備えることができる。
【0030】
また、本発明の更に別の形態では、フレキシブル回路基板を使用して、TENS刺激回路及び他の回路をユーザの脚部の周囲により均一に分散させ、これによってデバイスの厚さを低減する。
【0031】
更に
図2に示すように、ユーザインタフェース要素101は、刺激状態を示し、ユーザに他のフィードバックを提供するために、LEDを含むことが好ましい。
図2には単一のLEDを示しているが、ユーザインタフェース要素101は、異なる色を有する複数のLEDを含むことができる。追加のユーザインタフェース要素(例えば、LCDディスプレイ、ビープ音発生器又は音声出力を介した音声フィードバック、振動素子等の触覚デバイス、適切な「アプリ」を実行するスマートフォン等)も想到され、これらも本発明の範囲に含まれる。
【0032】
本発明の好ましい一形態では、
図1に示すように、TENSデバイス100は、ユーザの上ふくらはぎ140に装着されるように構成されるが、TENSデバイス100は、他の解剖学的位置に装着してもよく又は複数のTENSデバイス100を様々な解剖学的位置に装着してもよいことは明らかである。TENSデバイス100(前述の刺激器110、電極アレイ300、及びストラップ130を備える。)は、デバイスを上ふくらはぎ(又は他の解剖学的位置)に対して適所に配置し、次にストラップ130を締め付けることによって、ユーザの上ふくらはぎ140(又は他の解剖学的位置)に固定される。より具体的には、本発明の好ましい一形態では、電極アレイ300は、ユーザの脚(又は他の解剖学的位置)上のTENSデバイス100の特定の回転位置にかかわらず、ユーザの適切な解剖学的構造に適切な電気刺激を加えるように寸法決めされ、構成される。
【0033】
図3は、電極アレイ300の好ましい一形態の概略図である。電極アレイ300は、好ましくは、4個の個別電極302、304、306、308を備え、各個別電極は、同一又は同様のサイズ(すなわち、同一又は同様のサイズの表面積)を有する。電極302、304、306、308は、好ましくは対として接続され、電極304及び電極306(TENSデバイス100のカソードを表す)が(例えば、コネクタ305を介して)互いに電気的に接続され、電極302及び電極308(TENSデバイス100のアノードを表す)が(例えば、コネクタ307を介して)互いに電気的に接続される。なお、電極302、304、306、308は、好ましくは、ユーザの脚(又は他の解剖学的位置)上のTENSデバイス100の回転位置にかかわらず(したがって、電極アレイ300の回転位置にかかわらず)、適切な皮膚被覆率を確実にするために、適切に寸法決めされ、対として接続される。なお、電極302、304、306、308は、インタリーブ方式で接続するのではなく、2つの内側電極304、306が互いに接続され、2つの外側電極302、308が互いに接続されるように接続される。この電極接続パターンにより、2つの外側電極302、308が不用意に接触した場合に、カソードからアノードに直接流れる刺激電流の電気的短絡が生じないことが保証される(すなわち、この電極接続パターンにより、治療TENS電流が常にユーザの組織を通って流れることが保証される)。
【0034】
電流(すなわち、組織への治療的電気刺激のための電流)は、刺激器110上でそれぞれ相補的コネクタ210、212(
図2及び
図4)と電気的及び機械的に嵌合するコネクタ310、312(
図3)によって電極対304、306及び電極対302、308に供給される。これに関して、ストラップポケット112は、刺激器筐体111がポケット112内に配置された後に、この接続を可能にする開口(コネクタ210、212と整合する開口)を含む。刺激器110は、それぞれコネクタ310、312を介して電極304、306及び電極302、308を通過する電流を生成する。
【0035】
本発明の好ましい一形態では、電極302、304、306、308の皮膚接触導電性材料は、電極302、304、306、308に「組み込まれる」ヒドロゲル材料である。電極上のヒドロゲル材料は、電極302、304、306、308とユーザの皮膚(すなわち、刺激されるべき知覚神経が存在するユーザの身体の部分の内部、これに隣接した部分、又はこれに近接した部分)との間の界面として機能する。乾燥電極及び非接触刺激電極等の他のタイプの電極も想到され、これらも本発明の範囲に含まれる。
【0036】
図4は、TENSデバイス100の概略図であり、特に、TENSデバイス100とユーザとの間の電流の流れを示している。
図4に概略的に示すように、定電流源410からの刺激電流415は、アノード電極420(このアノード電極420は、上記電極302、308を含む。)を介して、ユーザの組織430(例えば、ユーザの上ふくらはぎ)に流れる。アノード電極420は、導電性バッキング(銀ハッチ(silver hatch))442及びヒドロゲル444を含む。電流は、ユーザの組織430を通過し、カソード電極432(このカソード電極432は、電極304、306を含む。)を通って定電流源410に戻る。また、カソード電極432も導電性バッキング442及びヒドロゲル444を含む。定電流源410は、好ましくは、TENS治療の分野で周知の種類の適切な二相性波形(すなわち、二相性刺激パルス)を提供する。なお、この点に関して、「アノード」電極及び「カソード」電極といった呼称は、二相性波形に関しては、純粋に表記上のものである(すなわち、二相性刺激パルスが二相性TENS刺激の第2相においてその極性を反転した場合、電流は、「カソード」電極432を介してユーザの体に流入し「アノード」電極420を介してユーザの体から流出する)。
【0037】
図5は、TENS治療セッション中に刺激器110によって提供されるパルス列480、及び2つの個別の二相性パルスの波形490を示す概略図であり、ここでは、個々の二相性パルスのそれぞれは、第1相491及び第2相492を含む。本発明の一形態では、各パルス波形は、二相性パルスの2つの位相491、492に亘って電荷を平衡させ、皮膚刺激及び潜在的な皮膚損傷をもたらす可能性がある電極アレイ300の電極下のイオン泳動蓄積を防止する。本発明の別の形態では、個々のパルスは、二相性パルスの2つの位相に亘って不平衡であるが、電荷平衡は、複数の隣接する二相性パルスに亘って達成される。治療セッション482の期間を通して、固定の又はランダムに変化する周波数のパルスが印加される。刺激の強度(すなわち、刺激器110によって送達される電流の振幅493)は、以下で更に詳細に説明するように、ユーザ入力に応答して、及び習慣を補償するように調節される。
【0038】
Neurometrix社及びShai N.Gozaniらによって2012年11月15日に米国特許出願第13/678,221号として出願され、2015年2月3日に米国特許第8,948,876号として発行され、参照により本願に援用される、発明の名称「APPARATUS AND METHOD FOR RELIEVING PAIN USING TRANSCUTANEOUS ELECTRICAL NERVE STIMULATION」(代理人整理番号NEURO-5960)は、TENSデバイスのセットアップ時にユーザの電気触覚知覚閾値に従って、ユーザがTENS治療刺激強度を個人用に設定できる装置及び方法を開示している。また、前述の米国特許第8,948,876号は、ユーザによる最初の手動開始後に追加の治療セッションを自動的に再開する装置及び方法を開示している。
【0039】
NeuroMetrix,Inc.及びShai Gozaniらによって2014年3月31日に米国特許出願第14/230,648号として出願され、2016年10月25日に米国特許第9,474,898号として発行され、参照により本願に援用される発明の名称、「DETECTING CUTANEOUS ELECTRODE PEELING USING ELECTRODE-SKIN IMPEDANCE」(代理人整理番号NEURO-64)は、ユーザが眠っている夜間にTENS治療を安全に送達することを可能にする装置及び方法が開示されている。これらの方法及び装置により、ユーザは、24時間/日を含む長期間、TENSデバイスを装着できる。
【0040】
概日リズム又は他の時間的に変化するリズムの効果によって、TENS刺激の有効性が軽減されることがあるため、日中及び夜間を通してユーザに一貫して快適で効果的な疼痛緩和を送達するためには、一定のTENS刺激レベルを提供することが適切ではない場合もある。TENS刺激の有効性に影響を及ぼすパラメータとしては、以下に限定されるものではないが、刺激パルス振幅493(
図5)及びパルス幅494(
図5)、パルス周波数495(
図5)、並びに治療セッション期間482(
図5)等が含まれる。例えば、以下に限定されるものではないが、振幅を大きくし及びパルスを長くすると(すなわち、パルス電荷を大きくすると)、ユーザに送達される刺激(すなわち、刺激「用量」)が増加し、治療セッションを短くすると、ユーザに送達される刺激(すなわち、刺激「用量」)が減少する。臨床研究では、パルス電荷(すなわち、パルス振幅及びパルス幅)及び治療セッション持続時間が、ユーザに送達される治療刺激(すなわち、治療刺激「用量」)に最も影響することが示唆されている。
【0041】
日中も夜間もTENSデバイスが疼痛を軽減するという利点をユーザが十分に享受するために、TENSデバイスは、良好な装着性のために嵩張らず、使いやすさのために操作が簡単で直感的であり、携帯性のために長いバッテリ持続時間を有することが求められる。
【0042】
押しボタン及びダイヤル等の機械的アクチュエータは、TENSデバイスの物理的寸法を増加させる。更に、押しボタン又はダイヤルが大きくなければ、衣服の下で押しボタン又はダイヤルを見つけて作動させることが困難になる。しかしながら、押しボタン又はダイヤルを大きくすると、デバイスの寸法が大きくなり、厚さが増し、及び製造が複雑になり、このために、装着性が低下する。更に、押しボタン及び他の機械的アクチュエータは、ユーザが眠っているとき等、偶発的に作動しやすい。したがって、本発明では、TENSデバイスから機械的アクチュエータ(押しボタン、ダイヤル等)を排除する。
【0043】
直感的で簡単な操作により、TENSデバイスの操作性が向上する。フリック、シェイク、タップ等のユーザジェスチャは、ユーザがTENSデバイスとインタラクトするための直感的な手法である。本発明は、搭載された加速度計からの信号を処理し、ユーザジェスチャを正確に解釈する装置及び方法を開示する。
【0044】
充電から次の充電までのバッテリ持続時間の延長は、あらゆる携帯機器、特に、日中及び夜間を通して疼痛を緩和するために必要とされるTENSデバイスにとって望ましい特徴である。しかしながら、TENSデバイスは、総体積を小さくし、嵩張らなくする必要があるため、TENSデバイス内に内蔵される再充電可能なバッテリのサイズは制限され、バッテリ容量は、通常、このバッテリサイズに影響を受ける。したがって、TENSデバイスに電力を供給するバッテリの容量には限界がある。本発明は、TENSデバイスが使用されていないとき、TENSデバイスをアクティブ状態から省電力状態に遷移させ、次にTENSデバイスが使用されるときにTENSデバイスをアクティブ状態に遷移させて戻すことによって、TENSデバイスの電力消費を効率的に管理するための装置及び方法を、いずれも直感的かつ信頼性のある態様において開示する。
【0045】
[TENSデバイス動作モード]
本発明の好ましい一形態では、TENSデバイス100は、次の3つのモード(
図6参照)のうちの1つで動作する。
【0046】
(i)TENSデバイス100がユーザに電気刺激を送達し、リモートコントローラ180とのアクティブな通信リンクを維持するアクティブモード176。
【0047】
(ii)TENSデバイス100が電気刺激の送達を開始する準備ができ、リモートコントローラ180とのアクティブな通信リンクを維持する待機モード174。
【0048】
(iii)TENSデバイス100が特定のイベントトリガによって待機モードに遷移する準備ができている省電力モード172。なお、待機モードは、(アクティブモード176よりは消費電力が少ないが)省電力モードよりも最大10倍多くの電力を消費するため、TENSデバイス100は、可能な限り省電力モードに留まることが有利である。
【0049】
省電力モード172では、TENSデバイス100は、TENSデバイス100の全体的な動きを検出するためにアクティブにされている加速度計132の回路を除く、全ての回路をオフにする。単純なモーション検出アルゴリズムを実行する加速度計回路(例えば、絶対値が閾値を超える加速度信号が測定されたときに動きを検出する閾値検出器)は、動き検出のためにほとんど電力を必要としない。加速度計132によって動きが検出されると、加速度計132の回路は、プロセッサ515に信号を送る(
図4)。プロセッサ515は、信号を受信すると、TENSデバイス100に対して、無線リンクモジュール185及び皮膚上検出モジュール(on-skin detection module)265をオンにすることによって、待機モードに入るように命令する。本発明の好ましい形態では、加速度計132の回路は、特定の動きパターンを検出するのではなく、なんらかの動きを検出することが目的である限り、TENSデバイスの任意の動きに関連する加速度を測定するために50ヘルツのサンプリング速度で動作する。加速度計132の回路をより低いサンプリング速度で動作させることにより、加速度計回路の電力消費を低減できる。
【0050】
待機モードでは、TENSデバイス100は、無線リンクモジュール185、皮膚上検出器265、及び加速度計132を起動する。所定の時間窓内に「適格イベント(qualified event)」が発生しない場合、プロセッサ515は、TENSデバイス100を省電力モードに戻す。本発明の一形態では、所定の時間窓は、5分である。「適格イベント」は、リモートコントローラ180との間の通信、加速度計132によって検出された特定の動きパターン(例えば、タップ、シェイク、フリック等)、及び皮膚上状態の検出を含む。適格イベントの判定については、後で詳しく説明する。本発明の好ましい形態では、プロセッサ515は、皮膚上状態が検出されてから(すなわち、皮膚上状態フラグ(on-skin condition flag)が偽から真に変化してから)所定の期間の遅延後に治療セッションを開始することにより、TENSデバイス100を待機モードからアクティブモードに変更する。例えば、所定の期間の遅延は、以下に限定されるものではないが、20秒であってもよい。本発明の別の形態では、TENSデバイス100は、皮膚上状態が検出されている限り(すなわち、皮膚上状態フラグが真である限り)待機モードを維持し、治療セッションを開始するためには、追加のコマンドが必要である。
【0051】
アクティブモードでは、TENSデバイス100は、所定の期間、ユーザに電気刺激を与え、その後待機モードに戻る。本発明の好ましい形態では、プロセッサ515は、TENSデバイス100がアクティブモードから待機モードに入るとタイマを開始し、次に、TENSデバイス100がユーザの皮膚上にあり続ける場合(すなわち、TENSデバイス100の皮膚上状態が真のままである場合)、設定された時間間隔で次の治療セッションを自動的に開始する。
【0052】
アクティブモードにおいてTENSデバイス100の皮膚上状態が偽になると、プロセッサ515は、自動的に電気刺激を停止し、TENSデバイスを待機モードに戻す。
【0053】
なお、プロセッサ515は、当技術分野で周知の種類の汎用マイクロプロセッサ(CPU)であってもよく、ここに開示する機能、例えば、ジェスチャ認識機能(下記参照)、タップ及びフリック(パルス)検出器機能(下記参照)、パルススクリーナ機能(下記参照)、パルスアナライザ機能(下記参照)、及び遷移モーション検出器機能(下記参照)を提供するために適切にプログラミングされる。
【0054】
[皮膚上検出器]
本発明の好ましい一形態では、TENSデバイス100は、皮膚上検出器265(
図4)を備え、TENSデバイス100がユーザの皮膚上に正しく装着されていることを確認する。
【0055】
より具体的には、刺激器110は、TENSデバイスがユーザに固定された後、所定の遅延期間(例えば、20秒)が経過すると、電気刺激治療セッションを自動的に開始する。本発明の好ましい形態では、皮膚上検出器265(
図4)を使用して、TENSデバイス100がユーザの皮膚上に固定的に配置されているか及びいつ配置されたかを判定する。
【0056】
本発明の好ましい形態では、
図7に示すように、皮膚上検出器265は、TENSデバイス100に組み込まれている。具体的には、本発明の好ましい一形態では、スイッチ220を閉じることによって、20ボルトの電圧が電圧源204からTENS刺激器110のアノード端子212に印加される。TENSデバイスがユーザの皮膚上にある場合、アノード電極420とカソード電極432との間に位置するユーザ組織430は、閉回路を形成し、抵抗器208及び抵抗器206によって形成される分圧回路に電圧を印加する。より詳細には、TENSデバイス100がユーザの皮膚上にある場合、実世界システムは、
図7に示す等価回路260によって表され、この等価回路260により、分圧器抵抗器206、208を介して、アノード電圧V
a204を感知できる。増幅器207から測定されるカソード電圧は、TENSデバイス100がユーザの皮膚に固定されると、ゼロではなく、アノード電圧204に近くなる。一方、TENSデバイス100がユーザの皮膚に固定されていない場合、実世界システムは、等価回路270(
図7)によって表され、増幅器207からのカソード電圧はゼロになる。TENSデバイス100がユーザの皮膚上にあると皮膚上検出器265が判定した場合、皮膚上状態は、真であるとみなされ、TENSデバイス100がユーザの皮膚上にないと皮膚上検出器265が判定した場合、皮膚上状態は、偽であるとみなされる。TENSデバイス100の皮膚上状態は、フラグを設定することによって容易に記録できる。
【0057】
皮膚上検出器265は、以下のように使用することが好ましい。
【0058】
TENSデバイス100の電極アレイ300がユーザの皮膚から部分的又は完全に離れた又は離れていることを皮膚上検出器265が示す場合、TENSデバイス100は、TENS治療の適用を停止し、TENSデバイス100のプロセッサ515は、TENSデバイス100の動作をアクティブモードから待機モードに遷移させる。
【0059】
TENSデバイス100が待機モードであり、TENSデバイスが皮膚上にないと皮膚上検出器265が判定した場合、TENSデバイスは、TENS治療を開始できない。したがって、プロセッサ515は、TENS治療に関連するジェスチャ、例えば、治療を開始及び停止するためのジェスチャ、及び治療強度を調整するためのジェスチャ(下記参照)等について、ユーザジェスチャの検出を無効にする。プロセッサ515によって検出するジェスチャの集合をより小さくすることの利点は、以下を含む。(1)候補ジェスチャが少なくなるため検出精度が向上する。(2)加速度計132の回路を低消費電力モードで動作させてバッテリ消費を節約できる。パターン分類の分野では、分類候補の数を減らせば、(加速度計の信号からの)同じ特徴集合を使用して、より正確な分類結果(すなわち、所与の信号に関連する特徴があるターゲットユーザジェスチャに属する)が得られることが知られている。本発明の好ましい一形態では、TENSデバイス100が皮膚上にない場合、候補ジェスチャを2つの候補に減らすことができる:すなわち、ジェスチャがまったくないか、又はTENSデバイスとの何らかのインタラクション(すなわち、ジェスチャ)があるか、である。この場合、加速度計信号は、はるかに低いサンプリング周波数でサンプリングでき、加速度計132の回路では、何らかの全体的な動きを検出するためのより単純な分類アルゴリズムを実行できる。サンプリング周波数を低くし及びアルゴリズムを単純化することによって、加速度計132の回路による電力消費を低減でき、したがって、バッテリ寿命をより長くできる。
【0060】
ジェスチャの識別及び分類のための装置及び方法については、以下でより詳細に説明する。
【0061】
[加速度計データサンプリング]
本発明の好ましい一形態では、TENSデバイス100の筐体111には、MEMSベースの3軸加速度計132が機械的に結合される。加速度計132の出力は、モーション及びジェスチャアルゴリズムを実行するマイクロコントローラ(すなわち、プロセッサ515)と電気的に接続されている。
【0062】
プロセッサ515上で実行されるジェスチャアルゴリズムは、ハンドジェスチャ(すなわち、TENSデバイスの筐体111との手のインタラクション)を高い信頼度で識別する。これらのハンドジェスチャは、TENSデバイスの筐体へのタップ、TENSデバイスへのダブルタップ(指定された時間窓630内の2つの連続したタップ、
図9)、及びTENSデバイスの上下へのフリックを含む。本開示に基づき、他の更なるハンドジェスチャも当業者にとっては明らかであり、他の更なるハンドジェスチャも本開示に含まれる。
【0063】
本発明の好ましい一形態では、TENSデバイスがアクティブモード又は待機モードであり、ユーザの皮膚上に配置されている(すなわち、皮膚上状態が真であるため、TENSデバイスが皮膚上にあると考えられる)場合、TENSデバイス100は、加速度計132のサンプリングレートを400ヘルツに設定するが、異なるサンプリングレートを使用することもできる。TENSデバイスが待機モードであり、ユーザの皮膚上にない(すなわち、皮膚上状態が偽であるため、TENSデバイスが皮膚から外れていると考えられる)場合、加速度計132は、より低いレート(例えば、100ヘルツ)でサンプリングを行うように設定される。TENSデバイス100の皮膚上又は皮膚外の状態の判定は、本明細書で詳細に説明するように、皮膚上検出器265によって行われる。TENSデバイス100が省電力モードであるとき、加速度計132のサンプリングレートは、更に低いレート(例えば、50ヘルツ)に設定され、電力消費が更に低減される。
【0064】
[デバイスモーション検出器]
本発明の好ましい一形態では、加速度計132は、3軸(X、Y、Z方向-
図1参照)の全てからから50ヘルツでサンプリングされる。サンプリングされたデータのセグメントを
図8に示す。このサンプリングデータは、まず、TENSデバイスを平坦な表面上に置き、次に、時刻601において、穏やかに拾い上げることによって収集した。トレース602、603、604は、それぞれX方向、Y方向、Z方向からの加速度計データである。トレース605は、以下に定義するように、隣接するサンプルの(3軸に亘る)絶対変化の合計である。
【0065】
【数1】
ここで、A
j(t)は、時刻tにおけるj軸からの加速度計サンプル値である。デバイスモーションは、簡単な閾値検出器によって検出できる。
【0066】
S(t)>MTh
ここで、MThは、固定閾値606である。本発明の別の形態では、差分の絶対値の合計が差分の二乗で置き換えられる。本発明の更に別の形態では、加速度計の1つの軸からのデータのみが考慮される。本発明の更に別の形態では、閾値606は、検出されたモーションイベントを引き起こさなかった以前のサンプルの平均として設定される。
【0067】
何らかのデバイスモーションが検出されると、TENSデバイス100のプロセッサ515は、TENSデバイスのモードを省電力モードから待機モードに遷移させる。TENSデバイスが待機モードであるが皮膚上ではない場合、カウントダウンタイマが切れる前にユーザからの操作が検出されなければ、TENSデバイスは、省電力モードに戻る。ユーザからのインタラクションは、接続されたリモートコントローラ180からのコマンド又は治療を開始するためのジェスチャの認識を含むことができる。本発明の一形態では、カウントダウンタイマを5分に設定する。TENSデバイスがすでに待機モードになっている場合、デバイスモーションが検出されると、カウントダウンタイマがリセットされ、待機モードから省電力モードへの遷移を遅らせる。
【0068】
[ジェスチャ認識]
本発明の好ましい一形態では、TENSデバイス100の動作の制御は、以下の表に示すような意図的なジェスチャを使用して行われる。タップジェスチャは、TENSデバイスの筐体111に迅速な衝撃を与えることであり、通常、筐体111の前面11aに対して(ポケット112内にある場合には、ストラップを介して)、及び/又は通常、ユーザの手の1以上の指によって行われるが、ユーザは、手で持った物体(例えば、鉛筆やペン)でデバイスをタップしてもよい。フリックジェスチャは、デバイス(筐体111)を短く(小さい距離で)素早く上下に動かすことである。なお、様々なジェスチャは、コンテキストに依存し、例えば、待機モードでのタップは、アクティブモードでのタップとは、異なる動作変化をもたらすことができる。
【0069】
【0070】
以上のようなコンテキストベース(又はモードベース)のTENSデバイス動作のジェスチャ制御は、直感的であり、学習しやすいという利点がある。ほとんどのアクションは、単純なタップによって開始され、刺激の強度は、フリックによって制御され、ここで方向(上下)は、強度の変化に関連付けられている(すなわち、アップフリックは、刺激強度の増加に関連付けられ、ダウンフリックは、刺激強度の低減に関連付けられている)。例えば、TENSデバイスが待機モードであるが、ユーザの皮膚上にない場合、タップは、その状態では、治療又は較正を行うことができないため、バッテリチェックコマンドとして解釈される。TENSデバイスが待機モードで皮膚上の場合、ダブルタップによってデバイスは較正プロセスに入る。較正プロセスでは、電気刺激が自動的に上昇してゆき、タップは、ユーザが刺激感覚を知覚したという指示になり、これにより、較正用の刺激上昇が停止する。較正プロセスが完了すると、TENSデバイスは、待機モードに戻る。TENSデバイスが待機モードであり、皮膚上にある場合、タップによって治療刺激が開始される(TENSデバイスは、アクティブモードになる)。TENSデバイスがユーザの皮膚上にあり、デバイスがアクティブモードである(すなわち、電気刺激が発生している)場合、同じタップジェスチャによって、治療刺激が停止され、デバイスが待機モードに戻る。
【0071】
本発明の別の形態では、TENSデバイスの筐体111にジャイロスコープ133が機械的に接続される。下肢の動きパターンは、ジャイロスコープ133を使用して監視され、及びTENSデバイスへの制御入力として「解読」される。例えば、以下に限定されるものではないが、TENSデバイスを下腿に装着し、椅子に座り、足を床に静止させているユーザは、容易にかつ目立たないように、下肢を外側-内側方向(左右)に揺らすことができる。ジャイロスコープ133は、特定の時間窓(例えば、1秒)内に発生するパターン及び脚の揺れの回数を検出し、このパターンをTENS制御入力として使用できる。例えば、ジャイロスコープ133によって検出される単一の脚揺れは、加速度計132によって検出されるシングルタップと等価であると解釈できる。TENSデバイスの動作モード(例えば、省電力モード、待機モード、アクティブモード)によって、単一の脚揺れの動きの解釈を異ならせてもよく、例えば、TENSデバイスが待機モードであり皮膚上状態の場合、脚の揺れによって刺激を開始させてもよく、TENSデバイスが電気刺激を送達するアクティブモードである場合、脚の揺れによって刺激を停止させてもよい。同様に、所与の期間(例えば、1秒)内の一往復の前後の脚の揺れをダブルタップと同等として扱ってもよい。連続した前後の脚の揺れを検出し、そのような検出結果をTENSデバイスに対する異なる制御コマンドとして扱ってもよい。
【0072】
本発明の別の形態では、ジャイロスコープ133及び加速度計132から受信したデータの組み合わせを使用して、ジェスチャ及び脚の動きの組み合わせを検出し、TENSデバイス100の動作をボタンなしで制御する。
【0073】
[タップ及びフリック(パルス)検出器]
本発明の好ましい一形態では、400ヘルツでサンプリングされた加速度計データを解析して、タップ又はフリック(ここでは、このようなタップ又はフリックを集合的にパルスと呼ぶ。)に対応する特定の波形形態を検出する。ここに説明するように、分離間隔が特定の範囲内にある時間窓630(
図9)に相当する2つのタップは、独立したジェスチャであるダブルタップとして分類できる。
【0074】
図9は、ユーザの上ふくらはぎに固定的に巻かれたTENSデバイスの筐体に機械的に接続された加速度計のX軸、Y軸、Z軸からのサンプル波形を示している。グループ610は、シングルタップジェスチャに対応し、特徴611は、X軸からの加速度計データであり、特徴612は、Y軸からの加速度計データであり、特徴613は、Z軸からの加速度計データである。グループ615は、ダブルタップジェスチャに対応し、特徴616は、X軸からの加速度計データであり、特徴617は、Y軸からの加速度計データであり、特徴618は、Z軸からの加速度計データである。グループ620は、フリックアップジェスチャに対応し、特徴621は、X軸からの加速度計データであり、特徴622は、Y軸からの加速度計データであり、特徴623は、Z軸からの加速度計データである。グループ625は、フリックダウンジェスチャに対応し、特徴626は、X軸からの加速度計データであり、特徴627は、Y軸からの加速度計データであり、特徴628は、Z軸からの加速度計データである。なお、フリックアップ及びフリックダウンの加速度計データは、最初の強いピークの極性を調べることによって識別でき、正のピークは、フリックアップジェスチャを示し、負のピークは、フリックダウンジェスチャを示す。
【0075】
タップ又はフリックに関連する波形の形態は、非常に類似している。タップとフリックの両方に対する加速度計信号は、非常に類似した波形構造を共有するため、検出アルゴリズム(すなわち、パルス検出器)を使用して、タップとフリックの両方を検出できる。タップイベントに関連する加速度計信号の拡大図を
図10に示す(641及び642参照)。このような類似にもかかわらず、タップとフリックの間には幾つかの弁別的な特徴がある。タップは、フリックよりも波形の大きさが大きく、フリックの方がタップよりも活動の持続時間が長い。本発明の好ましい一形態では、1つのパルス検出器を使用して一組のパラメータ(すなわち、より短いパルス持続時間及びより大きいパルス振幅)によりタップを検出し、同じパルス検出器を使用して異なる組のパラメータ(すなわち、より長いパルス持続時間及びより小さい振幅)によりフリックを検出する。本発明の別の形態では、タップ検出のために専用検出器を使用し、フリック検出のために別の専用検出器を使用する。
【0076】
本発明の好ましい一形態では、デバイスが皮膚上にある場合(すなわち、
図1に示すように上側のふくらはぎ上に配置されている場合)、ユーザは、TENSデバイスをZ軸方向に(すなわち、皮膚に垂直に、すなわち、皮膚表面に向けられた筐体前面11a上に)タップする尤度がより高いため、タップジェスチャ検出のためにZ軸からの加速度計データを使用する。同様に、デバイスが皮膚上にある場合(すなわち、
図1に示すように、上ふくらはぎ上に配置されている場合)、ユーザは、TENSデバイスをY軸方向に上下にフリックする(図示しないが、筐体111の下側(ユーザの足側)が上方にフリックされ、又は筐体111の上側(ユーザの頭側)が下方にフリックされる)尤度がより高いため、フリックジェスチャ検出のためにY軸からの加速度計データを使用する。本発明の別の好ましい形態では、3つの全ての軸からの加速度計データをパルス(タップジェスチャ及びフリックジェスチャ)検出に使用し、いずれかの軸からの波形形態がパルス波形テンプレートに適合したときにパルスを検出し、これによってパルス検出感度を高める。本発明の別の好ましい形態では、3つの全ての軸からの加速度計データをパルス(タップジェスチャとフリックジェスチャ)検出のために使用し、3つの全ての軸からの波形形態がパルス波形テンプレートに適合したときにパルスを検出し、これによってパルス検出の特定可能性を向上させる。
【0077】
[パルススクリーナ]
本発明の1つの好ましい形態では、ハイパスフィルタリングにより静重力が除外された加速度計データをパルススクリーナによってスクリーニングし、候補波形セグメントにフラグを立てる。指定された軸からの波形の、絶対値が閾値を超えた後、所定の時間窓内で閾値に収まるものは、いかなる波形も、その波形セグメントがパルスである可能性があることを示すフラグをトリガする。フラグをトリガする幾つかのサンプル波形セグメントを
図10に示す。波形641、642は、有効タップに関連付けられ、波形643、644は、有効タップに関連付けられない。次に、パルスアナライザ(下記参照)がパルススクリーナによってフラグ付けされた波形セグメントを解析し、フラグ付けされた波形セグメントを有効なパルスとして確認又は除外する。本発明の別の形態では、パルスアナライザが全ての波形セグメントを解析し、有効なパルスの存在を判定する。
【0078】
[パルスアナライザ]
本発明の好ましい形態では、3軸加速度計132は、各軸方向について400Hzのレートで生の加速度測定データを出力する(すなわち、加速度計132は、X軸方向について毎秒400回の加速度測定値、Y軸方向について毎秒400回の加速度測定値、及びZ軸方向について毎秒400回の加速度測定値を報告し、合計で毎秒1200回分の測定値を出力する)。本発明の好ましい形態では、加速度「パルス」イベント、すなわち、ユーザによるTENSデバイス100上での意図的なジェスチャ(例えば、タップ、スラップ、フリック等)の検出のために、Z軸からの加速度データAz(t)のみを解析する(以下、Z軸を「主軸」とも呼ぶ)。本発明の別の形態では、加速度「パルス」イベントを検出するために、3つの軸のそれぞれからの加速度データが独立して解析される。本発明の更に別の形態では、3方向全てからの加速度データを、以下のように定義される瞬間加速度A(t)に組み合わせる。
【0079】
【数2】
そして、この瞬間加速度信号を解析して、加速度「パルス」イベントを検出する。
【0080】
タップ又は同様のユーザジェスチャによって生成される加速パルスイベント(ここでは、単に「パルス」とも呼ぶ)の定義上の特徴は、加速が閾値(すなわち、正又は負の加速閾値)を超え、指定された期間(すなわち、持続時間閾値)内にその閾値以下に戻ることである。加速度データは、最初にハイパスフィルタ処理され、これにより重力の定数効果が除去される。本発明の好ましい形態では、ハイパスフィルタのカットオフ周波数を2Hzに設定して、加速度計データの他の使用範囲を許容しながら重力の影響を除去する。
【0081】
図11は、加速度計によって測定される「真」タップイベント(すなわち、タップ等の意図的なユーザジェスチャによって生成されるイベント)についてのA
z(t)のサンプルトレース701を示している。ここでは、このような「真」タップイベントを「真」加速パルスイベントとも呼ぶ。加速度波形701は、ゼロ付近から開始する。時点703において、波形701が正の閾値712又は負の閾値702のいずれか(
図11に示す例では、負の閾値702)を横切ると、タイマが始動する。時点704において、波形701が再び同じ閾値702を横切ると、タイマは、停止する。タイマ値(すなわち、時点704と時点703との間の時間差708)が所定の持続時間閾値未満である場合、時点704においてパルス(加速パルスイベントとも呼ぶ。)が検出されたとみなされる。
【0082】
真タップイベント(すなわち、意図的なユーザジェスチャを反映したイベント)の場合、パルスは、通常、主軸に沿って(すなわち、Z軸に沿って)、最も大きく、よりステレオタイプ化される。この結果、本発明の好ましい形態では、パルス検出は、Z軸のみで有効とし、これにより、真パルスイベントの検出精度が向上し、「偽」パルスイベント(すなわち、意図的なユーザジェスチャを反映していないイベント)が制限される。本発明の別の形態では、パルス検出は、3つの軸の全てで行われる。各軸についての対応する閾値は、TENSデバイス100の構成に応じて異なっていてもよい。本発明の一形態では、対象とする全ての軸方向のパルス検出が肯定的である場合にのみ、パルス検出結果が肯定的であるとみなされる(すなわち、パルスが検出されたとみなされる)。本発明の別の形態では、検討対象のいずれかの軸方向のパルス検出が肯定的である場合、パルス検出結果が肯定的であるとみなされる。本発明の更に別の形態では、検討対象の軸の過半数についてのパルス検出結果が肯定的である場合、パルス検出結果が肯定的であるとみなされる。
【0083】
ユーザがTENSデバイスとインタラクトする手法に応じて、パルスの正又は負のピーク(加速トレース波形)のいずれかがより大きくなり、検出閾値702又は検出閾値712を横切る。本発明の好ましい形態では、正の閾値712又は負の閾値702のいずれかを横切り、指定された期間内に戻ることは、パルスイベントの検出を構成するとみなされる。換言すれば、閾値712と閾値702との間にある加速度ピークは、パルスイベントを構成せず、閾値712と閾値702とが一緒になって非パルス帯を効果的に形成する。ゼロより大きいが指定された持続時間よりも短い持続時間の間に加速度トレース波形701が非パルス帯の外側に一時的に出ると、パルスイベントが検出される。本発明の好ましい一形態では、両方の閾値(すなわち、閾値702及び閾値712)が同じ大きさ又は絶対値を有していてもよい。本発明の別の形態では、正の閾値712は、負の閾値702よりも(絶対値が)大きくてもよく、これにより、パルス波形をパルスイベントとして認識するために、より大きい正のピークを効果的に要求できる。本発明の更に別の形態では、正の閾値712は、可能な最大測定加速度値を超える非常に大きな数に設定される。正の閾値712をこのような非常に大きな数に設定することにより、パルス検出器515は、正のパルスピークを効果的に無視し、パルスイベントを構成するためには、パルス波形が負の極性(すなわち、振幅が閾値702を横切る負のピーク)を有することが必要となる。
【0084】
したがって、パルス検出器(プロセッサ515によって実行されるアルゴリズム)は、振幅の正負の閾値(標準重力加速度g単位で測定される)及び継続時間の閾値(時間単位ミリ秒(msec)で測定される)という2つの主要なパラメータを有するパルス検出アルゴリズムを利用する。本発明の好ましい形態では、振幅閾値及び持続時間閾値は、経験的に(例えば、集団研究から)導出される固定値である。1つの集団研究に基づいて、パラメータは、次のように設定される。正の振幅閾値:+1g、負の振幅閾値:-1g、継続時間の閾値:15ミリ秒。本発明の別の形態では、振幅閾値及び持続時間閾値は、個々のユーザの行動に適合される。例えば、より弱いパルス波形の後に常により強いパルス波形が続く場合(すなわち、より弱いパルス波形が閾値702を僅かに超えず、より強いパルス波形が閾値702を超える場合)、閾値702(絶対値)を低減することによって、パルス検出器515がより弱いタップを「真」加速パルスイベント(ユーザの意図的なジェスチャ)として正しく認識することを可能にしてもよい。異なる軸における閾値の適応及び区別のためにも同様のプロセスを使用できる。上述のように、同じプロセッサ515を使用して、より低い振幅閾値(例えば、>0.3g)及び25msと75msとの間の持続時間範囲を有するフリックパルスを検出できる。
【0085】
図12は、歩行によって引き起こされる「偽」パルスイベントの例を示している。より詳細には、この例では、加速度波形731は、時刻733で正の閾値742を横切り、時刻734で正の閾値742未満に戻る。
図11に示すような「真」加速パルスイベント(「真」加速パルスイベントが発生する前に加速トレースが0の近くに留まるイベント)とは異なり、
図12の「偽」パルスイベントでは、時刻733の前の加速度波形731は、一貫してゼロからずれており、これは、歩行のような日常的なユーザの振る舞いの間に典型的に観察される。また、
図12は、前述のパルス閾値732及びパルス閾値742よりもはるかに小さい、遷移モーション閾値と呼ばれる第2の閾値(735及び745)の組も示している。閾値735と閾値745との間の加速度値は、非遷移モーション領域755を構成する。「偽」加速パルスイベントは、パルス検出に先立って、これらのより小さい閾値735及び閾値745(すなわち、非遷移モーション領域755の外側)を超える加速を有する傾向があり、この事実を用いて(下記参照)、
図12のトレース731が「真」加速パルスイベントとして分類されることを防止する。
【0086】
[遷移モーション検出器]
TENSデバイス100のプロセッサ515は、歩行等の間の遷移モーションを検出するための遷移モーション検出器を含む。遷移モーションの定義上の特徴は、ハイパスフィルタリングされた加速度波形が振幅閾値を超え、少なくともしばらくの間、その振幅閾値を超えたままであることである。より詳細には、
図13は、歩行等の間の遷移モーションに対応する加速度波形761のセグメントを示している。加速度波形761が遷移モーション閾値768より上又は遷移モーション閾値762より下にあるとき、カウンタ763は、トレース761に沿って採取される時間サンプル毎にインクリメントされ、この他の場合、カウンタ763は、デクリメントされる。換言すれば、加速度波形761の波形サンプルが、閾値762及び閾値768によって画定される非遷移モーション領域769の外側に留まっている場合、サンプル時間毎にカウンタ763が1ずつインクリメントされ、この他の場合、すなわち、各波形サンプルが非遷移モーション領域769内にある場合、カウンタ763が1つずつデクリメントされる。カウンタ763の値は、0と特定のカウンタ閾値764(例えば、
図13の例示的なカウンタ閾値6)との間に制限される。時間カウンタ値763が閾値カウンタ値764に等しくなると、(例えば、プロセッサ515のマイクロプロセッサ内で)フラグがセットされ、遷移モーションの発生が示される。適切な遷移モーション閾値762及び閾値768、並びに適切なカウンタ閾値764によって、プロセッサ515の遷移モーション検出器によって利用される遷移モーション検出アルゴリズムは、歩行及び他の日常的な活動によるユーザの身体の動きを検出できる。本発明の好ましい形態では、遷移モーションイベントの検出を最大化するために、3つの軸の全てについて遷移モーション検出を有効にする(すなわち、3つの軸全てについて、加速度が検出され、加速度データが利用される)。本発明の別の形態では、プロセッサ515の遷移モーション検出器の性能を最適化することが見出された軸方向に対してのみ遷移モーション検出を有効にする。
【0087】
プロセッサ515の遷移モーション検出器が使用する遷移モーション検出アルゴリズムは、振幅の正負それぞれの閾値(g単位で測定される)、及び継続時間の閾値(ミリ秒単位で測定される)という、3つの主なパラメータを利用する。本発明の好ましい形態では、持続時間閾値は、離散的にサンプリングされた波形についての等価な離散的サンプルカウンタ値に変換される。本発明の好ましい形態では、正及び負の振幅閾値、及びカウンタ閾値は、(例えば集団研究から)実験的に導出される固定値である。1つの集団研究に基づいて、パラメータは、好ましくは、以下のように設定される。正の振幅閾値:+0.0625g、負の振幅閾値:-0.0625g、持続時間の閾値:15ミリ秒(これは、400Hzでサンプリングした波形のカウンタ閾値6に相当する)。本発明の別の形態では、正及び負の振幅閾値、及びカウンタ閾値は、個々のユーザの行動に適合される。
【0088】
[遷移モーション検出器とパルスアナライザの統合:パルス検出器]
ユーザがTENSデバイス100を意図的にタップすると、加速パルスイベント(又は「パルスイベント」)が生成され、これは、プロセッサ515のパルス検出器によって使用される前述のパルス検出アルゴリズムによって容易に識別される(すなわち、加速パルスイベントの信頼できる検出を保証するために、パルス検出器は、高い感度を有するように設計される)。しかしながら、ジェスチャ制御が実用的な価値を有するためには、パルスイベントは、ユーザによって開始された実際のタップイベントに対応しなければならず、すなわち、システム全体が高い特定可能性を有する必要がある。歩行のような遷移モーションは「偽」パルスイベントをもたらす可能性があるが、これらの「偽」パルスイベントは、「真」パルスイベント(すなわち、意図的なユーザジェスチャを反映したイベント)に対する感度を低下させることなく、識別され、除外される必要がある。「偽」パルスイベントの根本的な原因は、遷移身体モーション(transient body motion)であるため、本発明は、歩行及び他の日常的な身体の動きによる遷移モーションを検出し、遷移モーションに時間的に近接するパルスイベントを拒絶する。換言すれば、プロセッサ515のパルス検出器のパルス検出アルゴリズムは、意図的なユーザジェスチャ(例えば、TENSデバイス100上のユーザによるタップ)によって引き起こされる「真」パルスイベントを見逃さずに検出できるように高い感度を有する必要があるが、TENSデバイスは、歩行及び他の日常的な身体の動きによって引き起こされる「偽」パルスイベントを識別し、意図的なユーザジェスチャとは無関係であるとして、このような「偽」パルスイベントを拒絶できる必要もある。
【0089】
遷移モーション及び加速パルスイベントの時間的近接は、実際のユーザジェスチャ(例えば、TENSデバイス100のタップ)に対応する「真」加速パルスイベントと、歩行及び他の日常的な身体の動きによる遷移モーションによって引き起こされる「偽」加速パルスイベントとを識別するための信頼できる判断材料となる。本発明の重要な態様は、このような時間的近接の認識及び判定である。
【0090】
パルスイベントは、10~20ミリ秒持続する鋭い初期偏向を有し、続いて50~100ミリ秒持続する減衰振動を有する。したがって、「真」パルスイベント(すなわち、意図的なユーザジェスチャを反映したイベント)も、「真」パルスイベントの直後に遷移モーションイベントを生成する。したがって、本発明の好ましい形態では、「真」パルスイベントと「偽」パルスイベントとを区別する目的で、パルスイベントの直後の遷移モーションイベントを無視する。一方、パルスイベントから時間的に離れている遷移モーションイベントは、「真」パルスイベントと「偽」パルスイベントとを区別するために使用される。
【0091】
詳しくは、本発明のこの態様の好ましい形態のフローチャートを
図14に示す。各軸(A
x(t),A
y(t),A
z(t))から取得された加速度データ(ブロック780)は、プロセッサ515の遷移モーション検出アルゴリズムによって個別に処理され(ブロック784)、これにより、上述のように遷移モーションが検出される。検出された遷移モーションイベントは、各軸(B
x,B
y,B
z)のバッファに格納される(ブロック786)。バッファの内容は、直近の期間(例えば、直近の150ミリ秒間)に検出されたイベントのみを含むように更新される。バッファのいずれかが「真」である場合(すなわち、検出された遷移モーションイベントを反映する場合)、プロセッサ515は、遷移モーションフラグMを「真」に設定し(ブロック788)、この他の場合、遷移モーションフラグMを「偽」に設定する。
【0092】
主軸方向(Az(t))からの加速度データ780は、プロセッサ515のパルス検出器アルゴリズムによって処理される(ブロック782)。この現時点でのパルス検出結果Pと、遷移モーション検出結果(フラグMによって要約される)の履歴とが、プロセッサ515によって解析される(ブロック790)。パルスが検出されたとき(すなわち、パルス検出フラグPが「真」であるとき)、遷移モーションがない場合(すなわち、遷移モーションフラグMが「偽」の場合、)、プロセッサ515は、そのパルスイベントを、意図的なユーザジェスチャを反映する「真」パルスイベントとして受理し(ブロック792)、この他の場合、プロセッサ515は、そのパルスイベントを「偽」パルスイベントとして拒絶する(ブロック794)。
【0093】
遷移モーションと加速パルスイベントの時間的近接は、実際のユーザジェスチャ(例えばTENSデバイス100のタップ)に対応する「真」加速パルスイベントと、歩行及び他の日常的な身体の動きによる遷移モーションによって引き起こされる「偽」加速パルスイベントとを識別するための判断材料となる。「真」加速パルスイベントと「偽」加速パルスイベントとを区別する際に要求される、遷移モーションイベントと加速パルスイベントとの間の時間的近接の度合いは、バッファの持続時間(ブロック786)によって設定される。
【0094】
本発明の好ましい形態では、バッファの持続時間(ブロック786)は、デバイスを装着しているユーザから取得したデータに基づいて、最適化手順によって判定される。
【0095】
この最適化における1つの重要な因子は、次の通りである。物理法則、特に運動学の法則によって、相対的に静止している状態から別の相対的に静止している状態への物体の線形変位は、ある方向(動きの開始)の加速度と、これに続く反対方向(動きの停止)の加速度を含む。
図11に示すようなパルスからの加速度計データは、この物理的理解と一致する2つの顕著なピーク720及びピーク730を示す。400Hzのサンプルレートは、これらのピークを捕捉するのに十分高速であるが、パルス波形の異なる例は、異なる相対的ピークサイズを有し、これは、加速度計サンプルと、実際の物理的ピークとの時間的整合がランダムであることによる影響であると推定される。
図11では、負のピーク720の後に、より大きい正のピーク730が続いている。負のピーク720は、負の閾値702を横切り、この負のピークに基づいて、時刻703においてパルスが検出される。しかしながら、パルス波形701の全体的な形状及び負の閾値702によっては、第1のピーク720によってパルスが検出されないこともある。第2のピーク730のサイズ及び正の閾値712のサイズによっては、第2のピークでパルスが検出されることもある。このような場合、第1のピーク720によってパルスが検出されなかったとしても、このピークは、遷移モーション検出閾値762(
図13)を横切っていることがあり、加速度プロファイル及び遷移モーション持続時間閾値に基づいて、遷移モーションが検出されることがある。したがって、本発明の好ましい形態では、遷移モーションバッファ786は、検出されたパルスの直前の間隔(0~50ミリ秒)を除外する時間間隔を範囲とする。本発明の好ましい形態では、これらのバッファは、検出されたパルスの前の50~150ミリ秒の時間間隔をカバーする。これらのパラメータの他の値も想到されており、これらも本発明の範囲に含まれる。
【0096】
[リモートコントローラ]
TENSデバイス100は、例えば、無線通信プロトコル、好ましくは、近距離及び/又は無線周波数(例えば、ブルートゥース、RFID、及びNFC)を介してTENSデバイス100と通信可能なリモートコントローラ180(例えば、無線リンクモジュール185)によって制御してもよい。このようなリモートコントローラの例としては、ブルートゥース対応のスマートフォン又は(例えば、手首に着用される)スマートウォッチ、無線周波数識別(radio frequency identification:RFID)又は近距離無線通信(near-field communication:NFC)タグを備えたリング(指輪)、RFID又はNFCタグを備えたブレスレット又はリストバンド等の上で動作するアプリが挙げられる。TENSデバイス100の動作は、リモートコントローラ180からTENSデバイスへの安全な無線リンクを介してTENSデバイス100に送信されるコマンドによって直接制御できる。また、リモートコントローラ180は、TENSデバイス100を制御するための他のスキームを補足するように、又はTENSデバイス100を制御するための他のスキーム、例えば前述のジェスチャ制御を修正するように機能できる。例えば、以下に限定されるものではないが、TENSデバイス100は、RFIDリング又はブレスレットがTENSデバイスの近くで検出された場合、タップジェスチャが検出されやすくなるように(すなわち、閾値パラメータを緩和するように)構成してもよい。
【0097】
[無線周波数識別(RFID)タグ]
無線周波数識別(RFID)は、電磁場を使用して、電子的に保存された情報を近くのRFIDリーダにリモート送信する。一般的に、受動型及び能動型の2種類のRFIDタグが利用可能である。受動型RFIDタグは、近くのRFIDリーダの探査電波からエネルギを取得し、そのエネルギを使用して、RFIDタグからRFIDリーダに信号を送信する。能動型RFIDタグは、記憶された情報を最大数百メートル送信するためのローカル電源(例えば、電池)を有する。
【0098】
本発明の1つの好ましい形態において、受動型RFIDタグは、ユーザの指に装着されるリングに埋め込まれる。RFIDリーダは、TENSデバイスに埋め込まれる。RFIDリング(すなわち、リモートコントローラ180)をTENSデバイスの近くに配置すると、RFIDリーダとRFIDタグは、適切なセキュリティ情報を交換する。RFIDタグが検証されて、このRFIDタグ(すなわち、ユーザの指に装着されたリング)からの情報がTENSデバイスに向けられたものであると判定された後、RFIDリング(すなわち、リモートコントローラ180)からの情報がTENSデバイス100に送信される。この送信は、TENSデバイス100の無線リンクモジュール185によって受信され、次にTENSデバイス100によって解釈される。
【0099】
本発明の好ましい一形態では、RFIDリング(すなわち、リモートコントローラ180)からの情報を使用して、TENSデバイスが待機モード174にあり、皮膚上状態が「真」であるときに治療を開始する。同様に、RFIDリングからの情報は、TENSデバイスがアクティブモード176(すなわち、治療刺激パルスをユーザに送達するモード)であるときに、治療を停止(すなわち、電気刺激を停止)するためにも使用される。
【0100】
本発明の別の好ましい形態では、検証されたRFIDリングが存在することにより、プロセッサ515のパルス検出器の動作が変更され、ユーザジェスチャに対するTENSデバイスの応答性が向上する(
図6参照)。上述したように、身体の動き(例えば、歩行)によって加速度計がジェスチャの波形に類似した波形を生成することがあるため、遷移モーションを使用して、プロセッサ515のパルスアナライザによって検出された特定のパルスをブロックする。しかしながら、RFIDリング(すなわち、リモートコントローラ180)がTENSデバイス100の近くで検出された場合、加速度計によって感知されたパルス状のモーションは、実際にユーザが意図したジェスチャによって生成されたものである尤度が高まる。したがって、プロセッサ515は、RFIDリングの存在によって、遷移モーションのために有効なパルスを拒絶する尤度を減少させるように構成でき、これにより、RFIDリングが装着された手がTENSデバイスの近くで検出されたときに、意図的なユーザジェスチャに対するTENSデバイスの応答性を向上させる。
【0101】
RFIDリングは、プロセッサ515のパルスアナライザを個々のジェスチャパターンにカスタマイズしてその性能を向上させるために使用できる。例えば、以下に限定されるものではないが、各個人のダブルタップのペース(すなわち、ダブルタップを意図する2つのタップ間の時間遅延、
図9の630)は異なる。同様に、タップジェスチャを実行するために各ユーザが使用する力の量も異なる場合がある。初期的には、プロセッサ515のパルスアナライザは、ダブルタップ遅延630、及び加速度計信号閾値702、712を、大多数のユーザに対して最適化された閾値に設定してもよい。機械学習の分野では、訓練データの品質が学習速度を決定することはよく知られている。換言すれば、既存の分類規則をより積極的に修正するためには、ほとんど又は全く雑音のない高品質の訓練データを使用するべきであり、一方、低品質(高雑音)の訓練データによって既存の分類規則を修正することは、慎重に行うべきである。RFIDリングの存在は、トレーニングデータ品質が良好であることを示唆するため、プロセッサ515のパルスアナライザは、より少ないトレーニングサンプルでユーザの特定のジェスチャパターンに適合させることができる。複数のユーザが同じTENSデバイスを共有する場合、各ユーザの固有のRFIDリングは、どのユーザがTENSデバイスとインタラクトしようとしているかのインジケータとして機能する。この結果、プロセッサ515のパルスアナライザは、検出されたRFIDリングに基づいて、ユーザ毎にカスタマイズできる。パルスアナライザのカスタマイズは、単にパラメータの更新の形式で行ってもよく、加速度計波形の解析の手法を変更する形式で行ってもよい。
【0102】
RFIDリングは、プロセッサ515のパルスアナライザの動作をカスタマイズするために使用できるだけではなく、TENSデバイスの他の態様をカスタマイズするためにも使用できる。更なる例として、以下に限定されるものではないが、各個人は、刺激強度(刺激パルス振幅493)及び刺激パルスパターン(例えば、パルス周波数495、治療セッション期間482、及び隣接する治療セッション間の間隔)を含む、それぞれの好ましいTENS治療プロファイルを有する。TENSデバイスは、複数の治療プロファイルを格納でき、TENSユーザを識別するために必要な情報がユーザのRFIDリングから検出されると、個人に特有のプロファイルをコントローラ452にロードできる。他のカスタマイズ方式の例として、RFIDリング(又は他のRFIDタグ)がユーザのベッドの近くに位置することによって、(昼と夜で刺激の好みが異なる場合)TENSデバイスを夜間治療プロファイルに自動的に遷移させてもよい。
【0103】
本発明の別の形態では、受動型RFIDタグが、TENSユーザによって着用されるブレスレット、又はユーザが携帯するキーチェーン等に埋め込まれる。また、ユーザの家(又は職場)の入口にRFIDタグを設置して、屋内(活動的でない又は夜間)の治療プロファイルと屋外(より活動的又は昼間の)の治療プロファイルとの間でユーザのTENS治療プロファイルを切り替えてもよい。
【0104】
[動作例]
本発明の好ましい一形態では、TENSデバイス100は、刺激器110と、刺激器の筐体111を保持するためのポケット112を有するストラップ130と、コネクタ210、212を介して刺激器に(電気的及び機械的に)接続された電極アレイ300とを備える。ジェスチャ検出及びモーション検出のためのプロセッサ515は、好ましくは、刺激器110の筐体111内に配置される。ストラップ130は、TENSデバイスがユーザの上ふくらはぎ140上に固定的に配置できるようにし、これにより、電気刺激パルスを用いて疼痛緩和治療を提供できる。
【0105】
TENSデバイス100が皮膚上に配置されない場合、TENSデバイス(より具体的には、刺激器筐体111)は、通常、机の上等の静止表面上に配置される。TENSデバイス100が、設定された期間(例えば、5分)内に動き及びリモートコントローラ180との間のアクティブな通信を検出しない場合、TENSデバイスは、(まだ省電力モード172になっていない場合)自動的に省電力モード172に入る。省電力モードでは、加速度計132は、50ヘルツでサンプリングしたデータに基づいて全体的な動きのみを検出する低電力モードで動作する。また、省電力モードでは、消費電力を節約するために、無線リンクモジュール185もオフにされる。
【0106】
ユーザがTENSデバイスを使用する準備ができると、ユーザは、まず、TENSデバイス100を持ち上げる。プロセッサ515は、デバイスモーションを検出し、TENSデバイスを待機モード174に遷移させる。この待機モードでは、TENSデバイスは、無線リンクモジュール185をオンにして、1つ以上のリモートコントローラ180との通信を確立又は再確立できるようにする。刺激器筐体(ユーザ入力512としての動作、
図4参照)に対するシングルタップは、バッテリチェックジェスチャコマンドとして機能する。TENSデバイスは、このバッテリチェックジェスチャコマンドを認識すると、ユーザインタフェース要素101を介して(例えば、LEDを作動させることによって)バッテリレベルをユーザに表示する。
【0107】
無線リンクモジュール185を介してスマートフォンアプリ(リモートコントローラ180上で実行される)を使用して、TENSデバイスの動作を制御し、例えば、デバイス設定及びユーザの好みをカスタマイズできる。同様に、RFIDタグ(例えば、RFIDリングの形式)を使用して、ユーザがRFIDリングをTENSデバイスに近づけたときに、そのユーザのための適切なデバイス設定をロードするようにTENSデバイスをトリガしてもよい。RFIDタグは、ユーザ又はユーザの介護者によって予めプログラムできる。
【0108】
TENSデバイスが待機モードであるとき、TENSデバイスは、皮膚上検出モジュール265も有効にする。皮膚上検出に必要な電圧設定は、通常、(TENSデバイスがアクティブモードであり、治療刺激が必要な場合に必要とされる100ボルトではなく)20ボルトのみでよい。皮膚上検出モジュール265は、TENSデバイスが皮膚上に配置されると、皮膚上状態を「真」に設定する。皮膚上状態が真になる前に、加速度計のサンプリングレートを(省電力モードの50ヘルツから)100ヘルツに高めて、全体的なユーザジェスチャを検出できるようにする(但し、この時点では、有効なユーザジェスチャが制限されているため、サンプリングレートをアクティブモードの400ヘルツにまで高める必要はない)。皮膚上ステータスが「真」ではなく、ユーザからこれ以上のアクション(認識されたジェスチャ、リモートコントローラからのアクティブな通信、デバイスモーション等)が5分間検出されない場合、TENSデバイスは、自動的に省電力モードに戻る。
【0109】
TENSデバイスが待機モードであるときに皮膚上ステータスが真に設定されると、皮膚上ステータスが偽に変更されるか、又はTENSデバイスがアクティブモード176に遷移するまで、TENSデバイスは、待機モード174に留まる。待機モードからアクティブモードへの遷移は、リモートコントローラ180(例えば、スマートフォン上で動作するアプリ)からのコマンドによって又はプロセッサ515によって認識されるジェスチャによってトリガしてもよい。デフォルト状態では、プロセッサ515は、高い特定可能性を保証できるように「治療開始」ジェスチャ(シングルタップ)を認識するためのパラメータを設定し、すなわち、真に意図されたジェスチャのみが認識され、歩行などの他の活動が間違ってタップ等に分類される可能性を最小化する。意図せずにTENS治療が開始されると、ユーザを驚かす可能性があるため、望ましくない。しかしながら、認識されたRFIDリングが、ジェスチャらしき加速度計データが記録されたときに近くにある場合、リングの近接は、ユーザが(RFIDリングを装着した)自らの手をTENSデバイスに近づけ、TENSデバイスとインタラクトすることを意図していることを示す信頼性の高い指標であるため、プロセッサ515は、「より積極的に」そのジェスチャの動きをシングルタップとして認識してもよい。
【0110】
シングルタップに代えて、ユーザは、TENSデバイスが皮膚上にあるときに、ダブルタップジェスチャを使用して較正プロセスを開始できる。較正プロセスの間、刺激強度は、電気触覚閾値以下の強度から徐々に上昇する。ユーザは、シングルタップを使用して、電気刺激の感覚を引き起こすのに十分な強さまで刺激強度が上昇したときに、TENSデバイスに感覚閾値を指示できる。ユーザが(ユーザジェスチャタップによって)電気刺激の感覚を引き起こすのに十分な強さまで刺激強度が上昇したことを指示すると、強度上昇が停止される。
【0111】
プロセッサ515が0.3秒から0.6秒の間の時間遅延を有する2つのシングルタップを認識するようにプログラムされていると仮定すると、このユーザからの以前に認識された全ての二重タップが0.3から0.4秒の間の時間遅延を有する場合、プロセッサ515は、その二重タップ時間遅延範囲を0.25から0.45秒に更新して、そのジェスチャ認識精度を更に改善できる。
【0112】
アクティブモードでは、TENSデバイス100は、ユーザの電気触覚閾値(治療刺激強度)に比例する強度で電流パルスを送達する。ユーザが刺激強度を調節することを望む場合もある。この調節は、スマートフォンアプリ等のリモートコントローラ180によって行ってもよい。また、予めプログラムされたRFIDタグを使用して同様の調節を行ってもよく、例えば、ユーザは、1つのRFIDタグをTENSデバイスに近づけて刺激強度を上昇させ、別のタグを使用して刺激強度を減少させてもよい。
【0113】
フリックアップ又はフリックダウン等のジェスチャを用いて刺激強度を制御してもよい。プロセッサ515は、Z軸加速度計データからシングルタップを検出し、Y軸データからフリックアップ又はフリックダウンを検出するように構成することが好ましい。
図9に示すように、タップジェスチャに関連する波形は、フリックに関連する波形の振幅及び持続時間の特徴よりも大きい振幅及び短い持続時間を有する。プロセッサ515は、同じ分類アルゴリズムを使用して、タップジェスチャ及びフリックジェスチャを識別できる。振幅と継続時間の特徴に基づいて、タップとフリックを互いに区別できる。フリックが識別されると、その加速度計波形セグメントの最初のピークの方向を使用して、そのフリックが(最初のピークが正である)フリックアップであるか(最初のピークが負である)フリックダウンであるかを判定する。次に、プロセッサ515は、コントローラ452に適切なコマンドを送り、これに従って刺激強度を調整する。ユーザが進行中の治療セッションを停止したい場合、ユーザは、TENSデバイスを単にタップするだけでよい。アクティブモード下でシングルタップが認識されると、プロセッサ515は、停止コマンドをコントローラ452に送信し、更なる刺激を停止する。そして、TENSデバイスは、待機モードに戻る。
【0114】
また、皮膚上検出モジュール265は、TENSデバイスがアクティブモードであるとき、身体抵抗器208の抵抗(より一般化して言えば、電極-皮膚界面のインピーダンス)を算出することによって、電極アレイ300とユーザの皮膚との間の界面を監視する。抵抗値が著しく増加すると(例えば、初期値の2倍になると)、電極-皮膚界面の品質が著しく劣化したと考えられる。このとき、皮膚上検出モジュール265は、コントローラ452に信号を送信して電気刺激を停止させ、電極-皮膚接触面積の減少による不快な刺激感覚を回避する。電気刺激を停止することによっても、TENSデバイスは、アクティブモードから待機モードに遷移する。
【0115】
本発明の別の好ましい形態では、TENSデバイス100が皮膚上に配置された後、治療セッションを開始するためのユーザジェスチャ(例えば、シングルタップ)を待つ代わりに、TENSデバイスは、デバイスの皮膚上状態が「真」に変化したときに、自動的に治療セッションを開始してもよい。ユーザがTENSデバイスを身体に装着した場合、ユーザは、疼痛緩和を求めていると仮定するのが妥当である。この直感的な仮定は、治療刺激を自動的に開始するために利用できる。より具体的には、本発明のある特定の形態では、TENSデバイスをユーザの上ふくらはぎに配置すると、デバイスは、皮膚上状態が真に設定された20秒後に刺激を自動的に開始する。同様に、TENSデバイスをユーザの身体から取り外すことは、ユーザがその時点で疼痛緩和を求めていないことを示唆し、したがって、TENSデバイスは、待機モードで5分間待機してから省電力モードに入るのではなく、自動的に省電力モードに入ることができ、これにより、バッテリ寿命を更に最適化できる。
【0116】
上記の開示では、刺激器筐体111がストラップ130のポケット112内にない場合でも、多くの意味での動作及び制御が起こり得ると考えられるが、TENSデバイス100は、完全に組み立てられた状態で使用されることが意図されていることは言うまでもない。例えば、刺激器ユニットが何らかの理由で独立して収納された場合でも、これを移動させると、当然、ここに説明した何らかの動作が生じる可能性がある。もちろん、必要であれば、刺激器ユニットがポケット112内にあることを判定する特徴を含ませ、これを追加の監視特徴として使用してもよい。
【0117】
また、本発明のTENSデバイスを上ふくらはぎとは異なる解剖学的位置に使用する場合、ストラップを他の解剖学的位置により適した他の装着構造に置き換えることができることも明らかである。
【0118】
なお、閾値のための時間単位及びサンプリングレート等の特定のパラメータへの言及は、例示的であることは明らかである。
【0119】
図11及び
図13のそれぞれにおいて、特徴705、706、「ラッチ」、765、766、及び767については、ここでは意図的に説明しておらず、これらの図は、これらの符号が存在しないものとして解釈される。
【0120】
なお、図面を参照して詳細に説明した、特定のパラメータ及び特性を含む実施形態は、例示的なものにすぎない。
【0121】
[好ましい実施形態の変形例]
当業者は、本発明の性質を説明するために本明細書で説明し及び図示した詳細、材料、工程及び部品の配置を様々に変更できるが、このような変更は、本発明の原理及び範囲内に含まれることは明らかである。