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特許7395712アクチュエータの製造方法及びアクチュエータ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】アクチュエータの製造方法及びアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/18 20060101AFI20231204BHJP
   F16H 1/06 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
F16H55/18
F16H1/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022507189
(86)(22)【出願日】2021-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2021009058
(87)【国際公開番号】W WO2021182414
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2020040365
(32)【優先日】2020-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】310021766
【氏名又は名称】株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】香田 祐太
(72)【発明者】
【氏名】外川 圭司
(72)【発明者】
【氏名】大澤 洋
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-191998(JP,A)
【文献】特開平11-62759(JP,A)
【文献】実開昭62-74167(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/18
F16H 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ギアとシザーズギアと第2ギアとを有している減速機構を有し、第1ギアのギア歯とシザーズギアのギア歯とが第2ギアのギア歯に係合しているアクチュエータの製造方法であって、
前記シザーズギアと前記第1ギアとを軸方向で組み合わせ、且つ前記シザーズギアを回転方向に付勢する弾性部材を前記シザーズギアと前記第1ギアとに取り付ける工程と、
前記弾性部材の力に抗して前記第1ギアの前記ギア歯の角度位置と前記シザーズギアの前記ギア歯の角度位置とを一致させている状態で前記第1ギアの角度位置と前記シザーズギアの角度位置とを固定部材で固定する位置固定工程と、
前記固定部材によって角度位置が固定されている前記第1ギア及び前記シザーズギア、並びに前記第2ギアをギアケースに収容し、前記第1ギアの前記ギア歯と前記シザーズギアの前記ギア歯とに前記第2ギアの前記ギア歯を係合せるギア収容工程と、
前記第1ギアの前記角度位置と前記シザーズギアの前記角度位置との前記固定部材による固定を、前記ギアケースに形成された開口を利用して解除する固定解除工程と
を含むアクチュエータの製造方法。
【請求項2】
前記位置固定工程において、前記第1ギアと前記シザーズギアとに前記固定部材を軸方向で差し込み、これらの前記角度位置を固定する
請求項1に記載されるアクチュエータの製造方法。
【請求項3】
前記位置固定工程において、前記第1ギアに形成された嵌合穴の角度位置と前記シザーズギアに形成された嵌合穴の角度位置とを一致させ、前記第1ギアに形成された嵌合穴と前記シザーズギアに形成された嵌合穴とに前記固定部材を差し込み、前記第1ギアの角度位置と前記シザーズギアの角度位置とを固定し、
前記固定解除工程において、前記第1ギアに形成された嵌合穴と前記シザーズギアに形成された嵌合穴とから前記固定部材を抜く
請求項1に記載されるアクチュエータの製造方法。
【請求項4】
前記固定部材を外した後に、前記ギアケースの前記開口を覆う部材を前記ギアケースに取り付ける
請求項1に記載されるアクチュエータの製造方法。
【請求項5】
減速機構と、
前記減速機構を収容しているギアケースと、を含み、
前記減速機構は、
ギア歯を有している第1ギアと、
前記第1ギアと軸方向で組み合わされ、ギア歯を有しているシザーズギアと、
前記第1ギアの前記ギア歯と前記シザーズギアの前記ギア歯とに噛み合うギア歯を有している第2ギアと、
前記第1ギアと前記シザーズギアとに取り付けられ、前記シザーズギアを回転方向に付勢している弾性部材と
を有し、
前記第1ギアは嵌合部を有し、
前記シザーズギアは嵌合部を有し、
前記第1ギアの前記嵌合部の角度位置と前記シザーズギアの前記嵌合部の角度位置が一致しているとき、前記第1ギアの前記ギア歯の角度位置と前記シザーズギアの前記ギア歯の角度位置は一致しており、
前記第1ギアの前記嵌合部と前記シザーズギアの前記嵌合部とを露出させることができる開口が前記ギアケースに形成されている
アクチュエータ。
【請求項6】
前記第1ギアの前記嵌合部と前記シザーズギアの前記嵌合部のうち少なくとも一方は、前記少なくとも一方の前記嵌合部が形成されているギアを軸方向に貫通する穴である
請求項5に記載されるアクチュエータ。
【請求項7】
前記第1ギアの前記嵌合部と前記シザーズギアの前記嵌合部と前記ギアケースの前記開口は軸方向で並ぶことができる
請求項5に記載されるアクチュエータ。
【請求項8】
回転中心線から前記第1ギアの前記嵌合部までの距離と、前記回転中心線から前記シザーズギアの前記嵌合部までの距離と、前記回転中心線から前記ギアケースの前記開口までの距離は同じである
請求項7に記載されるアクチュエータ。
【請求項9】
前記ギアケースの前記開口を覆う部材をさらに有している
請求項5に記載されるアクチュエータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はアクチュエータとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二足歩行が可能なロボットや四足歩行が可能なロボットが開発されている(例えば、特許文献1)。ロボットは、体の各部を動かすための複数のアクチュエータを有している。アクチュエータとしては、電動モータと、複数のギアによって構成され、電動モータから受けた回転を減速する減速機構とを有しているものがある。2つのギアのギア歯の隙間(すなわち、バックラッシュ)は、騒音や、振動の原因になる。そこで、バックラッシュを無くすためのシザーズギアが一方のギア(第1ギアと称する)に取り付けられることがある。第1ギアとシザーズギアは軸方向で組み合わされ、第1ギアに対してシザーズギアがばねによって回転方向に付勢される。他方のギア(第2ギアと称する)のギア歯は、第1ギアのギア歯とシザーズギアのギア歯とに挟まれる。この構造によると、第1ギアのギア歯と第2ギアのギア歯との間の隙間が無くなり、騒音や振動が抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-117858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ばねがシザーズギアを付勢しているので、第1ギアのギア歯の角度位置とシザーズギアのギア歯の角度位置は一致していない。そのため、アクチュエータの製造過程において、第2ギアのギア歯を第1ギアのギア歯とシザーズギアのギア歯とに係合させて、それらをギアケースに収容する作業が繁雑となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示で提案する製造方法は、第1ギアとシザーズギアと第2ギアとを有している減速機構を有し、前記第1ギアのギア歯と前記シザーズギアのギア歯とが前記第2ギアのギア歯に係合しているアクチュエータの製造方法である。前記製造方法は、前記シザーズギアと前記第1ギアとを軸方向で組み合わせ、且つ前記シザーズギアを回転方向に付勢する弾性部材を前記シザーズギアと前記第1ギアとに取り付ける工程と、前記弾性部材の力に抗して前記第1ギアの前記ギア歯の角度位置と前記シザーズギアの前記ギア歯の角度位置とを一致させている状態で前記第1ギアの角度位置と前記シザーズギアの角度位置とを固定部材で固定する位置固定工程と、前記固定部材によって角度位置が固定されている前記第1ギア及び前記シザーズギア、並びに前記第2ギアをギアケースに収容し、前記第1ギアの前記ギア歯と前記シザーズギアの前記ギア歯とに前記第2ギアのギア歯を係合せるギア収容工程と、前記第1ギアの前記角度位置と前記シザーズギアの前記角度位置との前記固定部材による固定を、前記ギアケースに形成された開口を利用して解除する固定解除工程とを含む。この方法によると、減速機構を構成する複数のギアをギアケースに収容する作業を容易化できる。
【0006】
本開示で提案するアクチュエータは、減速機構と、前記減速機構を収容しているギアケースとを含む。前記減速機構は、ギア歯を有している第1ギアと、前記第1ギアと軸方向で組み合わされ、ギア歯を有しているシザーズギアと、前記第1ギアの前記ギア歯と前記シザーズギアの前記ギア歯とに噛み合うギア歯を有している第2ギアと、前記第1ギアと前記シザーズギアとに取り付けられ、前記シザーズギアを回転方向に付勢している弾性部材とを有している。前記第1ギアは嵌合部を有し、前記シザーズギアは嵌合部を有している。前記第1ギアの前記嵌合部の角度位置と前記シザーズギアの前記嵌合部の角度位置が一致しているとき、前記第1ギアの前記ギア歯の角度位置と前記シザーズギアの前記ギア歯の角度位置は一致している。前記第1ギアの前記嵌合部と前記シザーズギアの前記嵌合部とを露出させる開口が前記ギアケースに形成されている。この構造によると、上述した製造方法が可能となるので、減速機構を構成する複数のギアをギアケースに収容する作業を容易化できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示で提案するアクチュエータの斜視図である。
図2】アクチュエータの分解斜視図である。
図3A】アクチュエータを構成している電動モータ及び減速機構の平面図である。
図3B】アクチュエータを構成している電動モータ及び減速機構を軸方向に臨む図である。
図4】第1ギアとシザーズとねじりばねの分解斜視図である。
図5】製造方法を説明するための図であり、第1ギアを第1ジグに取り付ける様子を示している。
図6A】製造方法を説明するための図であり、第1ギアにシザーズギアを合体させる様子を示している。
図6B】ねじりばねが初期状態にあるときに第1ギアとシザーズギアとを軸方向に臨む図であり、第1ギアの角度位置とシザーズギアの角度位置とがずれている様子を示している。
図7A】製造方法(位置固定工程)を説明するための図であり、第2ジグを使用してシザーズギアを回転させる様子を示している。
図7B】製造方法(位置固定工程)を説明するための図であり、第2ジグを使用してシザーズギアを回転させる様子を示している。
図8A】製造方法(位置固定工程)を説明するための図であり、第1ギアの角度位置とシザーズの角度位置とが一致している状態で、それらを軸方向に臨む図である。
図8B図8AのVIIIb-VIIIb線で示す切断面で得られる断面図である。
図9A】製造方法(ギア収容工程)を説明するための図であり、第1ケース部材に第1ギアとシザーズギアと第2ギアとを収容する様子を示している。
図9B】製造方法(ギア収容工程)を説明するための図であり、固定ピンが第1ケース部材から突出している様子を示している。
図9C】製造方法(ギア収容工程)を説明するための図であり、第1ケース部材と第2ケース部材とを合体させる様子を示している。
図10】製造方法を説明するための図であり、固定ピンを取り外し、ベアリングを装着する様子を示している。
図11】本開示で提案するアクチュエータが適用可能なロボットの例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。本明細書では、実施形態の一例として、図1等で示すアクチュエータ1とその製造方法について説明する。以下では、アクチュエータ1の動力源である電動モータ2の回転軸に沿った方向を軸方向(図1等において矢印Zが示す方向)と称する。
【0009】
[全体]
図1で示すように、アクチュエータ1は、電動モータ2と、減速機構10と、ギアケース20とを有している。電動モータ2は、例えばDCモータやステッピングモータであるが、他の種類のモータであってもよい。ギアケース20は減速機構10(図2参照)を収容している。ギアケース20は、例えば軸方向において互いに組み合わされる第1ケース部材21Aと第2ケース部材21Bとを有している。減速機構10は複数のギアと出力部18とを有し、電動モータ2から受けた回転を減速して出力部18に伝える。ギアケース20は出力部18を軸方向に露出させる開口21aを有している。出力部18には、アクチュエータ1が搭載される装置(例えば、ロボット)が有している部品に連結される。
【0010】
[減速機構]
図3A及び図3Bで示すように、減速機構10は、例えば、第1ギア11と、シザーズギア12と、第2ギア13と、第3ギア14とを有している。各ギア11・12・13は、それらの回転方向で並んでいる複数のギア歯を有している。アクチュエータ1の例では、これらのギア11・12・13は外歯ギアであり、各ギア11・12・13の外周面にギア歯が形成されている。これらのギア11・12・13は、電動モータ2から出力部18に向けて第3ギア14、第2ギア13、第1ギア11の順で並んでいる。
【0011】
第3ギア14は大径ギア部14aと小径ギア部14bとを有し、これら2つのギア部14a・14bは支持軸15を中心として一体的に回転可能である。第2ギア13は大径ギア部13aと小径ギア部13bとを有し、これらは支持軸16を中心として一体的に回転可能である。第3ギア14の大径ギア部14aは電動モータ2の出力軸に固定されているギア2aに係合している。第3ギア14の小径ギア部14bは第2ギア13の大径ギア部13aに係合している。第2ギア13の小径ギア部13bは第1ギア11に係合している。第1ギア11と出力部18は同じ回転中心線Ax2(図4参照)上に配置され、互いに固定されている。第1ギア11と出力部18は、アクチュエータ1の例では一体的に成形されているために互いに固定されているが、螺子やボルトによって互いに固定されていてもよい。
【0012】
ギアの数やギアの配置は、アクチュエータ1の例に限られない。例えば、アクチュエータ1は第2ギア13と第3ギア14のうちの一方を有していなくてもよい。第2ギア13が無い場合、第1ギア11は第3ギア14に直接的に係合してよい。第3ギア14が無い場合、第2ギア13が電動モータ2のギア2aに直接的に係合してよい。さらに他の例では、アクチュエータ1は第2ギア13と第3ギア14の双方を有していなくてもよい。この場合、第1ギア11は電動モータ2のギア2aに直接的に係合していてよい。
【0013】
また、減速機構10は、アクチュエータ1の例では外歯ギアだけで構成されている。減速機構10は、アクチュエータ1の例とは異なり、内歯ギアを含んでもよい。また、減速機構10は、かさ歯ギアやウォームギアを含んでもよい。
【0014】
図4で示すように、シザーズギア12は第1ギア11と軸方向で組み合わされている。シザーズギア12は第1ギア11と同径を有するギアである。シザーズギア12の角度位置(回転方向での位置)と第1ギア11の角度位置(回転方向での位置)は相対的に変化できる。アクチュエータ1は、シザーズギア12を第1ギア11に対して相対的に回転方向に付勢している弾性部材を有している。アクチュエータ1においては、弾性部材の一例としてねじりばね19が利用されている。
【0015】
図3Aで示すように、第2ギア13(より具体的には、小径ギア部13b)のギア歯は、第1ギア11のギア歯とシザーズギア12のギア歯の双方に係合している。シザーズギア12は回転方向に付勢されているので、第1ギア11のギア歯と噛み合っている第2ギア13のギア歯は、第1ギア11のギア歯とシザーズギア12のギア歯とに挟まれている。これによって、互いに噛み合っている第2ギア13のギア歯と第1ギア11のギア歯との間に隙間が生じることが、抑えられている(バックラッシュの防止)。
【0016】
アクチュエータ1の例では、図4で示されるように、ねじりばね19が第1ギア11とシザーズギア12との間に配置されている。第1ギア11とシザーズギア12は、ねじりばね19を収容する凹部11c・12c(図8B参照)を有している。アクチュエータ1の例では、電動モータ2から出力部18に至る回転伝達経路において最下流に位置している第1ギア11にシザーズギア12が取り付けられている。このように、伝達するトルクが大きい最下流の第1ギア11にシザーズギア12を設けることによって、バックラッシュを効果的に低減できる。なお、シザーズギア12を設けるギアは最下流にある第1ギア11に限定されない。シザーズギア12は、例えば他の部品との位置関係の影響で、第1ギア11よりも上流のギアに設けられてもよい。
【0017】
第1ギア11とシザーズギア12とには、これらの相対的な角度位置を、アクチュエータ1の製造過程において一時的に固定するための構造が設けられている。具体的には、図4で示すように、第1ギア11に嵌合穴11eが形成され、シザーズギア12に嵌合穴12eが形成されている。また、ギアケース20(より具体的には、第1ケース部材21A)には、開口21e(図10参照)が形成されている。アクチュエータ1の製造過程において、第1ギア11の角度位置とシザーズギア12の角度位置を固定し、その後、第1ギア11の角度位置とシザーズギア12の角度位置の固定を、この開口21eを利用して解除する。嵌合穴11e・12e及び開口21eを利用した製造方法については後において詳説する。
【0018】
[ベアリング]
アクチュエータ1は、図2で示すように、第1ギア11と出力部18とを支持しているベアリング41・42を有している。ベアリング41は出力部18の外側に嵌められ、ギアケース20(より具体的には、第2ケース部材21B)の内部で保持されている。第1ギア11の軸部11aはギアケース20の外側に突出している(図10参照)。ベアリング42は、ギアケース20(第1ケース部材21A)の外側で保持され、軸部11aのギアケース20から突出している部分の外側に嵌められ、軸部11aを支持している。
【0019】
[センサアッセンブリ]
アクチュエータ1は、図2で示すように、アクチュエータ1の動作を検知するためのセンサアッセンブリ30を有している。センサアッセンブリ30は、例えば磁気式の回転センサを含む。具体的には、センサアッセンブリ30は、磁石31と、磁石31の角度位置の変化に応じた信号を出力するセンサ基板32とを有する。また、センサアッセンブリ30は、磁石31を保持し且つ第1ギア11の軸部11aと一体的に回転する磁石ホルダ33と、センサ基板32が取り付けられるセンサホルダ34とを有している。磁石ホルダ33は第1ギア11の軸部11aに連結されており、第1ギア11の軸部11aと一体的に回転する。アクチュエータ1の例では、第1ギア11の軸部11aはベアリング42の半分に嵌まり、磁石ホルダ33はベアリング42の残りの半分に嵌まる。つまり、磁石ホルダ33と第1ギア11の軸部11aはベアリング42を介して連結されている。センサホルダ34はギアケース20(より具体的には、第1ケース部材21A)に取り付けられ、磁石31とセンサ基板32とが軸方向で向き合うように、センサ基板32を支持する。なお、磁石31とセンサ基板32とで構成される回転センサは、第1ギア11より上流に配置されている、第2ギア13、第3ギア14、又は電動モータ2のギア2aに設けられてもよい。また、アクチュエータ1が有している回転センサの種類は磁気式に限られない。
【0020】
[製造方法]
シザーズギア12は回転方向に付勢されているので、シザーズギア12のギア歯の角度位置(ギア歯の位相)と第1ギア11のギア歯の角度位置(ギア歯の位相)は一致していない。このため、アクチュエータ1の製造過程においてギア11・12・13をギアケース20に収めるとき、第2ギア13のギア歯が、第1ギア11のギア歯とシザーズギア12のギア歯のうちの一方に干渉することがあり、ギア11・12をギアケース20に収める作業が繁雑となる。そこで、アクチュエータ1は、以下に説明する方法で製造される。
【0021】
図5で示すように、第1ジグ81に第1ギア11を取り付ける。上述したように、第1ギア11と出力部18は一体的に成形されている。出力部18の端面には穴18a・18b(図3B参照)が形成されている。第1ジグ81に形成された複数の突起81a・81bを出力部18の穴18a・18bに嵌め入れる。
【0022】
次に、図6Aで示すように、第1ギア11とシザーズギア12とにねじりばね19を取り付ける。アクチュエータ1の例では、第1ギア11は軸部11aを有しており、軸部11aにねじりばね19を嵌め、その後に、第1ギア11とシザーズギア12とを軸方向で組み合わせる。そして、シザーズギア12に形成された穴12bに軸部11aを嵌める。第1ギア11と第2ギア12は、それらの対向面に、軸部11aを取り囲む凹部11c・12c(図8B参照)をそれぞれ有している。ねじりばね19はこの凹部11c・12cに収まる。第1ギア11の凹部11cの内面には、ねじりばね19から回転方向の力を受ける受け部11d(図4参照)が形成されている。同様に、シザーズギア12の凹部12cの内面にも、ねじりばね19から回転方向の力を受ける受け部が形成されている。
【0023】
図6Bで示すように、ねじりばね19が初期状態(後述する固定部材82でギア11・12の位置が固定されていない状態、例えばねじりばね19に負荷が作用していない状態)にあるとき、第1ギア11のギア歯の角度位置(ギア歯の位相)と、シザーズギア12のギア歯の角度位置(ギア歯の位相)は一致していない。(図6Bにおいては、第1ギア11の隣り合う2つのギア歯T1の間にシザーズギア12のギア歯T2が位置している。)
【0024】
[位置固定工程]
次に、ねじりばね19の弾性力に抗して、第1ギア11とシザーズギア12とを相対的に回転方向に動かし、2つのギア11・12のギア歯の角度位置を一致させる。2つのギア11・12のギア歯の角度位置が一致している状態で、ギア11・12の角度位置を固定部材82(図7A参照)で固定する。この工程は、例えば以下のように行うことができる。
【0025】
第1ギア11には嵌合穴11e(図4参照)が形成され、シザーズギア12にも嵌合穴12e(図4参照)が形成されている、回転中心線Ax2から嵌合穴11eまでの距離と、回転中心線Ax2から嵌合穴12eまでの距離は同じである。嵌合穴11eの角度位置と嵌合穴12eの角度位置とが合っているとき、第1ギア11のギア歯の角度位置(位相)とシザーズギア12のギア歯の角度位置(位相)は一致している。ここで、「ギア歯の角度位置が一致している」とは、2つのギア11・12のギア歯に第2ギア13のギア歯を噛み合わせることができる程度にギア歯の角度位置が一致していることを意味する。言い換えれば、2つのギア11・12のギア歯に第2ギア13のギア歯を噛み合わせることができれば、ギア11・12のギア歯の角度位置は僅かにずれていてもよい。
【0026】
図6Bで示すように、ねじりばね19が初期状態にあるとき、嵌合穴11eの角度位置と嵌合穴12eの角度位置はずれている。ねじりばね19の弾性力に抗して、第1ギア11とシザーズギア12とを相対的に回転方向に動かし、嵌合穴11eの角度位置と嵌合穴12eの角度位置とを一致させる。例えば、図7Aで示すように、シザーズギア12の嵌合穴12e(図6A参照)に棒状の固定部材82を軸方向で差し込む。この状態では、第1ギア11の嵌合穴11eとシザーズギア12の嵌合穴12eは一致していないので、固定部材82は第1ギア11の嵌合穴11e(図6A参照)に嵌まっていない。次に、固定部材82とシザーズギア12とを第2ジグ83を使って第1ギア11に対して相対的に回転させ、嵌合穴12eの角度位置と嵌合穴11eの角度位置とを一致させる。図8Aで示すように嵌合穴12e・11eの角度位置を一致させた後に、図8Bで示すように固定部材82をさらに押し込み、第1ギア11の嵌合穴11eに固定部材82を差し込む。これにより、第1ギア11のギア歯の角度位置と、シザーズギア12のギア歯の角度位置とが一致している状態で、ギア11・12の角度位置が固定される。
【0027】
図8Bで示すように、嵌合穴11e・12eは、半径方向において、ねじりばね19の外側に形成されている。嵌合穴11e・12eのうち少なくとも一方は軸方向においてギア11・12を貫通している穴である。また、他方の嵌合穴は、軸方向においてギア11・12を貫通している穴、或いは、軸方向で凹んでいるものの貫通していない穴である。アクチュエータ1の例では、嵌合穴12eはシザーズギア12を軸方向に貫通する穴である。嵌合穴11eは第1ギア11を貫通していない穴である。2つの嵌合穴11e・12eのうち、ギアケース20に形成されている開口21e(図10参照)に近い嵌合穴は貫通穴であり、他方の嵌合穴は貫通していなくてよい。
【0028】
なお、第1ジグ81と第2ジグ83は、例えば回転中心線Ax2から半径方向に伸びている棒状である。このようなジグ81・83を利用することによって、シザーズギア12と第1ギア11とが小さい場合でも、組み立て作業者は比較的容易にそれらを相対的に回転させることができる。
【0029】
図7Aで示すように、第2ジグ83には、第1ギア11の軸部11aが嵌まり軸部11aを支持する穴83aと、固定部材82が挿入される穴83eとが形成されている。シザーズギア12には嵌合穴12eに加えて、嵌合穴12f(図4参照)が形成されている。嵌合穴12fに、第2ジグ83に形成されている突起が嵌まってもよい。これによれば、シザーズギア12と固定部材82とを、第2ジグ83を利用してスムーズに回転させることができる。
【0030】
図7Bで示すように、2本のジグ81・83が平行に配置されているときに、第1ギア11の嵌合穴11eの角度位置とシザーズギア12の嵌合穴12eの角度位置とが一致している。これによって、嵌合穴11e・12eの位置を一致させる作業を容易化できる。ジグ81・83には、マーク81c・83cが形成されてもよい。マーク81c・83の角度位置が一致しているときに、嵌合穴11e・12eの角度位置が一致するようにマーク81c・83cが形成されてよい。
【0031】
なお、第1ギア11とシザーズギア12とを相対的に回転方向に動かす方法は、ここで説明する例に限られない。例えば、ギア11・12を回転させるときに、ジグ81・83は必ずしも利用されなくてもよい。
【0032】
[ギア収容工程]
固定部材82によって第1ギア11及びシザーズギア12の位置を固定した後、図9Aで示すように、位置が固定されている第1ギア11及びシザーズギア12、並びに第2ギア13をギアケース20に収容する。具体的には、まず一方のケース部材(アクチュエータ1の例では、第1ケース部材21A)にギア11~13を収容する。このとき、第1ギア11のギア歯とシザーズギア12のギア歯とに、第2ギア13(より具体的には小径ギア部13b)のギア歯を噛み合わせる。
【0033】
図9Bで示すように、第1ケース部材21Aに、第1ケース部材21Aを軸方向で貫通している開口21eが形成されている。開口21eは、第1ギア11の嵌合穴11eとシザーズギア12の嵌合穴12eとを露出させることのできる位置に形成されている。具体的には、回転中心線Ax2と開口21eとの距離が、ギア11・12に形成されている嵌合穴11e・12eと回転中心線Ax2との距離と同じである。したがって、第1ギア11の嵌合穴11eと、シザーズギア12の嵌合穴12eと、ギアケース20の開口21eは軸方向で並ぶことができる。ギア11~13を第1ケース部材21Aに入れると、棒状の固定部材82はこの開口21eを通って第1ケース部材21Aの外側に突出する。
【0034】
また、ギア11~13を第1ケース部材21Aに入れると、第1ギア11の軸部11aは第1ケース部材21Aに形成された開口21bから突出する。第2ギア13は、第1ケース部材21Aに取り付けられている支持軸16(図9A参照)によって支持される。次に、図9Cで示すように、さらに第3ギア14を第1ケース部材21Aに収容する。第3ギア14は、第1ケース部材21Aに取り付けられている支持軸15によって支持される。また、出力部18の外側にベアリング41を嵌めた後に、第2ケース部材21Bと第1ケース部材21Aとを軸方向において合体させる。
【0035】
なお、アクチュエータ1を軸方向で見たときに、嵌合穴11e・12eのサイズと開口21eのサイズは実質的に同じであってよい。また、上述したように、回転中心線Ax2と開口21eとの距離は、ギア11・12に形成されている嵌合穴11e・12eと回転中心線Ax2との距離と同じである。「回転中心線Ax2から開口21eまでの距離が、嵌合穴11e・12eと回転中心線Ax2との距離と同じである。」及び「嵌合穴11e・12eのサイズと開口21eのサイズが実質的に同じである。」とは、開口21eの角度位置と、嵌合穴11e・12eの角度位置とを一致させたときに、固定部材82を嵌合穴11e・12e及び開口21eに差し込むことができることを意味している。固定部材82をこれらの穴11e・12e及び開口21eに差し込むことができれば、回転中心線Ax2から開口21eの中心までの距離と、嵌合穴11e・12eの中心と回転中心線Ax2との距離は僅かにずれていてもよい。同様に、固定部材82をこれらの穴11e・12e及び開口21eに差し込むことができれば、嵌合穴11e・12eのサイズと開口21eのサイズは僅かにずれていてもよい。
【0036】
[固定解除工程]
第1ケース部材21Aと第2ケース部材21Bとを合体させた後、第1ギア11の角度位置とシザーズギア12の角度位置の固定部材82による固定を、ギアケース20に形成された開口21eを利用して解除する。具体的には、図10で示すように、第1ケース部材21Aに形成された開口21eを通して、ギア11・12の嵌合穴11e・12eから固定部材82を軸方向に抜く。固定部材82が抜かれると、シザーズギア12と第1ギア11はねじりばね19の弾性力を受けて回転方向において相対的に動く。そして、シザーズギア12のギア歯と第1ギア11のギア歯は、それらの間に配置されている第2ギア13のギア歯を挟む。
【0037】
図10で示すように、固定部材82をギア11・12の嵌合穴11e・12eから取り外した後、ベアリング42を第1ケース部材21Aに装着する。第1ギア11の軸部11aは第1ケース部材21Aの開口21bから軸方向に突出しており、この突出している部分にベアリング42が嵌められる。その後、第1ケース部材21Aにセンサアッセンブリ30(図2参照)が取り付けられる。
【0038】
図10で示すように、固定部材82が通過する第1ケース部材21Aの開口21eは、軸方向で見たときに、ベアリング42と重なる位置に形成されてよい。アクチュエータ1の例では、ベアリング42を保持する凹部の底面21gに開口21eは形成されてよい。ベアリング42を第1ケース部材21Aに取り付けると、開口21eはベアリング42によって覆われる。これによって、開口21eを通して塵などがギアケース20内に入ることを防止できる。ベアリング42を第1ケース部材21Aに取り付けた後、センサアッセンブリ30も第1ケース部材21Aに取り付けられる。ベアリング42を保持する凹部と開口21eは、センサアッセンブリ30のセンサホルダ34によって密閉されてよい。このようにベアリング42やセンサホルダ34を利用して開口21eを覆うので、部品数の増加を抑えることができる。なお、開口21eを覆う部材は、ベアリング42や、センサホルダ34でなくてもよい。アクチュエータ1は、開口21eを覆う専用の部材を有してもよい。
【0039】
図10で示すように、第1ケース部材21Aにはモータ保持部21hが形成されており、このモータ保持部21hに電動モータ2を取り付ける。このとき、第1ケース部材21Aに形成された開口21iに電動モータ2のギア2aが嵌まる。これにより、アクチュエータ1が完成する。
【0040】
[まとめ]
以上説明したように、本開示で提案するアクチュエータ1の製造方法においては、シザーズギア12と第1ギア11とを軸方向で組み合わせ、且つシザーズギア12を回転方向に付勢するねじりばね19をシザーズギア12と第1ギア11とに取り付ける。次に、ねじりばね19の弾性力に抗して第1ギア11のギア歯の角度位置とシザーズギア12のギア歯の角度位置とを一致させている状態で第1ギア11の角度位置とシザーズギア12の角度位置とを固定部材82で固定する(位置固定工程)。次に、固定部材82によって角度位置が固定されている第1ギア11及びシザーズギア12、並びに第2ギア13をギアケース20に収容し、第1ギア11のギア歯とシザーズギア12のギア歯とに第2ギア13のギア歯を係合せる(ギア収容工程)。そして、第1ギア11の角度位置とシザーズギア12の角度位置との固定部材82による固定を、ギアケース20に形成された開口21eを利用して解除する。具体的には、ギアケース20の開口21eを通して、第1ギア11及びシザーズギア12の嵌合穴11e・12eから固定部材82を抜く。この方法によると、減速機構を構成する複数のギア11・12・13・14をギアケース20に収容する作業を容易化できる。
【0041】
以上説明したように、アクチュエータ1において、第1ギア11は嵌合穴11eを有し、シザーズギア12は嵌合穴12eを有している。第1ギア11の嵌合穴11eの角度位置とシザーズギア12の嵌合穴12eの角度位置が一致しているとき、第1ギア11のギア歯の角度位置とシザーズギア12のギア歯の角度位置は一致している。ギアケース20には、第1ギア11の嵌合穴11eとシザーズギア12の嵌合穴12eとを露出させることのできる開口21eが形成されている。この構造によると、上述した製造方法が可能となるので、減速機構を構成する複数のギアをギアケースに収容する作業を容易化できる。
【0042】
[変形例]
なお、本開示で提案する製造方法とアクチュエータは、アクチュエータ1の例に限られない。
【0043】
例えば、第1ギア11のギア歯と角度位置とシザーズギア12のギア歯の角度位置とを固定するための固定部材は、棒状でなくてもよい。例えば、固定部材は、第1ギア11とシザーズギア12とに半径方向において取り付け可能であってもよい。この場合、第1ギア11とシザーズギア12に対して半径方向に位置する開口がギアケース20に形成されてよい。そして、この開口を利用して固定部材を取り外してもよい。
【0044】
また、固定部材82は、必ずしもギアケース20から突出するものでなくてもよい。例えば、固定部材82はギアケース20内に収まるものであってもよい。この場合、固定部材82は、固定解除工程において、ギアケース20に形成された開口を通してギアケース20の外部に取り出されてもよい。
【0045】
[ロボット]
図11は、アクチュエータ1が適用可能なロボットの例を示す概略図である。ロボット100は二足歩行が可能なロボットであり、右脚部120Rと左脚部120Lとを有している。各脚部120R・120Lには、脚部120R・120Lを動かすための複数のアクチュエータが設けられている。各脚部120R・120Lは、例えば、足首の関節にアクチュエータ126・127を有し、膝の関節にアクチュエータ125を有し、股の関節にアクチュエータ122・123・124を有している。また、ロボット100は、右腕部130Rと左腕部130Lとを有している。各腕部130R・130Lには、脚部130R・130Lを動かすための複数のアクチュエータが設けられている。各腕部130R・130Lは、例えば、肘の関節にアクチュエータ135を有し、上腕にアクチュエータ134を有し、肩関節にアクチュエータ132・133を有している。ロボット100は、頭部140を動かすための複数のアクチュエータ142・143・144を有している。ロボット100は、胴体110を動かすための複数のアクチュエータ111・112・113を有している。ロボット100が有している複数のアクチュエータの一部又は全部に図1等を参照して説明したアクチュエータ1の構造が適用されてよい。


図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図10
図11