(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】鋼板表面処理用溶液組成物、これを用いて表面処理された鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 183/04 20060101AFI20231204BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20231204BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20231204BHJP
C09D 7/40 20180101ALI20231204BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20231204BHJP
C09D 4/02 20060101ALI20231204BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20231204BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20231204BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D7/61
C09D7/63
C09D7/40
C09D7/20
C09D4/02
C09D7/65
C09D201/00
C23C26/00 A
(21)【出願番号】P 2022532728
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 KR2020017535
(87)【国際公開番号】W WO2021112583
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-08-01
(31)【優先権主張番号】10-2019-0158976
(32)【優先日】2019-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(73)【特許権者】
【識別番号】513243815
【氏名又は名称】ノル コイル コーティングズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 チャン-フン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 ウォン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】バン、 チャン-ソク
(72)【発明者】
【氏名】コ、 ジェ-ドク
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2010-0105104(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0129996(KR,A)
【文献】国際公開第2017/163446(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/070728(WO,A1)
【文献】特開2014-173020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00 - 201/10
C23C 22/00 - 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイドシリカ15~50重量%、アルコキシシラン20~60重量%、溶剤1~40重量%、酸度調節剤0.01~1.00重量%、アクリレート系モノマー5~15重量%、シロキサン結合からなる骨格を含む密着性向上剤5~50重量%、金属キレート硬化剤0.1~3.0重量%
及び有機樹脂0.1~5.0重量%を含む鋼板表面処理用溶液組成物。
【請求項2】
前記コロイドシリカの粒子サイズは5nm~50nmである、請求項1に記載の鋼板表面処理用溶液組成物。
【請求項3】
前記アルコキシシランは3個以上のアルコキシ基を含むものであって、ビニルトリメトキシシラン(Vinyl trimethoxy silane)、ビニルトリエトキシシラン(Vinyl triethoxy silane)、ビニルトリイソプロポキシシラン(Vinyl tri-isopropoxy silane)、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(3-methacryloxypropyl trimethoxy silane)、2-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(2-Glycidyloxy propyltrimethoxy silane)、2-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン(2-Glycidyloxy propyl triethoxy silane)、2-アミノプロピルトリエトキシシラン(2-aminopropyl triethoxy silane)、2-ウレイドアルキルトリエトキシシラン(2-ureidoalkyltriethoxy silane)、テトラエトキシシラン(tetraethoxysilane)、トリエトキシフェニルシラン(Triethoxyphenylsilane)及びトリメトキシフェニルシラン(Trimethoxyphenylsilane)からなる群から選択される一つ以上のものである、請求項1に記載の鋼板表面処理用溶液組成物。
【請求項4】
前記溶剤は、メタノール、エタノール、2-プロパノール、2-メトキシプロパノール、2-ブトキシエタノール、水、ジメチルホルムアミド、ジグライム、2-アミノエタノール、1-ヘプタノール、プロピレングリコール、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ジ(プロピレングリコール)メチルエーテル(Di(propylene glycol)methyl ether)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(Diethylene Glycol monomethyl Ether)、エチレングリコールモノn-プロピルエーテル(Ethylene Glycol mono n-Propyl Ether)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(Propylene Glycol mono Methyl Ether)及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(Propylene Glycol mono Methyl Ether acetate)からなる群から選択される一つ以上のものある、請求項1に記載の鋼板表面処理用溶液組成物。
【請求項5】
前記酸度調節剤は、有機酸、無機酸またはこれらの混合酸である、請求項1に記載の鋼板表面処理用溶液組成物。
【請求項6】
前記アクリレート系モノマーは、アクリリック酸グレーシャル(Acrylic acid glacial)、メチルアクリレート(Methyl acrylate)、エチルアクリレート(Ethyl acrylate)、ブチルアクリレート(Butyl acrylate)、2-エチルヘキシルアクリレート(2-Ethylhexyl acrylate)、イソブチルアクリレート(Isobutyl acrylate)、ターシャリーブチルアクリレート(Tertiary butyl acrylate)、ターシャリーブチルメタクリレート(Tertiary butyl methacrylate)、ブタンジオールモノアクリレート(Butanediol monoacrylate)、ラウリルアクリレート(Lauryl acrylate)、ジメチルアミノエチルアクリレート(Dimethylaminoethyl acrylate)及びジヒドロジシクロペンタジエニルアクリレート(Dihydrodicyclopentadienyl acrylate)からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1に記載の鋼板表面処理用溶液組成物。
【請求項7】
前記密着性向上剤はシリコン樹脂である、請求項1に記載の鋼板表面処理用溶液組成物。
【請求項8】
前記密着性向上剤は、シリコンジオキシドの含量が20~80モル%であり、重量平均分子量が300g/mol~30,000g/molである、請求項1に記載の鋼板表面処理用溶液組成物。
【請求項9】
前記金属キレートは、アルミニウム、チタン、ジルコニウムまたは錫を含む金属キレート及びこれらの混合物からなる群から選択される一つ以上を含む、請求項1に記載の鋼板表面処理用溶液組成物。
【請求項10】
前記有機樹脂は、ポリビニルアルコール;ポリ(メタ)アクリル酸;アクリル酸とメタクリル酸の共重合体;エチレンとアクリル系単量体の共重合体;エチレンと酢酸ビニルの共重合体;及びアミノ変性フェノール樹脂、ポリエステル樹脂及びエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項
1に記載の鋼板表面処理用溶液組成物。
【請求項11】
鋼板を提供する段階;
前記鋼板に請求項1から
10のいずれか一項に記載の組成物を処理する段階;及び
前記組成物が処理された鋼板を熱処理する段階を含む、表面処理された鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記熱処理は150~550℃で行われる、請求項
11に記載の表面処理された鋼板の製造方法。
【請求項13】
鋼板;
前記鋼板上に請求項1から
10のいずれか一項に記載の組成物で形成されたコーティング層を有する、表面処理された鋼板。
【請求項14】
前記コーティング層は5~55μmの厚さである、請求項
13に記載の表面処理された鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸に対する耐食性及び鋼板に対する密着性が増加した溶液組成物、及びこれを用いて製造された鋼板、並びに上記鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、硫黄などを含む燃料を燃焼させる場合、硫黄酸化物、窒素酸化物などが発生するようになるが、硫黄酸化物や窒素酸化物などが水分と接触すると、硫酸や硝酸などの強酸が生成される。これらによって、露点以下の温度で金属などの構造物の表面に付着して腐食を促進させる露点腐食が進行する。したがって、火力発電所の熱交換器、ダクト(Duct)などの設備は、このような強酸による腐食環境に曝されるようになる。
【0003】
このような露点腐食を低下させるために、当該企業では、高価なステンレススチールやホーロー鋼板などを使用したり、相対的に低価でありながらも露点腐食に対する抵抗性の大きい耐硫酸鋼などを適用している。腐食反応は、構造体の表面で進行するが、ホーロー鋼板を除く殆どの素材は、表面に別途のコーティング層なしで使用されているのが現実である。
【0004】
このような露点腐食を防止するための技術としては、韓国特許出願番号第2013-0151739号、第2013-0145717号、第2013-0141627号、第2013-0130161号などが挙げられるが、これらは全て鋼板自体の成分調整等によって強酸に対する耐食性を向上させようとする技術であって、鋼板の表面にコーティング層を形成してこのような露点腐食を抑制しようとする技術とは異なる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、鋼板自体の成分調整ではなく、鋼板の表面にコーティングによって露点腐食を含む強酸に対する耐食性を向上させようとするものであって、溶液安定性に優れた溶液組成物を提供し、特にコーティング工程においてコーティング層の剥離が発生しないコーティング鋼板を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、コロイドシリカ15~50重量%、アルコキシシラン20~60重量%、溶剤1~40重量%、酸度調節剤0.01~1.00重量%、アクリレート系モノマー5~15重量%、シロキサン結合からなる骨格を含む密着性向上剤5~50重量%及び金属キレート硬化剤0.1~3.0重量%を含む鋼板表面処理用溶液組成物を提供する。
【0007】
本発明の他の側面は、鋼板を提供する段階;上記鋼板の少なくとも一面に本発明の溶液組成物を処理する段階;及び上記組成物が処理された鋼板を熱処理する段階を含む表面処理された鋼板の製造方法を提供する。
【0008】
本発明のさらに他の側面は、鋼板;及び上記鋼板の少なくとも一面に本発明の溶液組成物で形成されたコーティング層を有する、表面処理された鋼板を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、溶液安定性に優れた溶液組成物を提供することができ、上記溶液組成物を鋼板にコーティングさせることにより、優れた酸耐食性を有する鋼板を提供することができ、さらに、鋼板の加工工程中においても剥離が起こらず、特に被膜水洗過程においても鋼板に対するコーティング層の密着性に優れた表面処理された鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】加工密着性の評価において、密着性が不足してクロスカット、エリクセン加工及びテーピングの剥離時に、塗膜が剥がれた試片とテープ(左、比較製造例13)及び塗膜がほとんど剥がれていない試片とテープ(右、製造例4)を示す。
【
図2】耐食性の評価において、局部腐食により端が欠けた試片(左、比較製造例9)及び状態が良好な試片(右、製造例2)を示す。
【
図3】水冷密着性の評価において、水洗水により被膜剥離が起こり、汚染された水洗水(左、比較製造例15)及び被膜剥離が起こらず、清浄な水洗水(右、製造例2)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形することができ、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本発明の鋼板表面処理用溶液組成物は、コロイドシリカ、アルコキシシラン、溶剤、酸度調節剤、アクリレート系モノマー、シロキサン結合からなる骨格を含む密着性向上剤及び金属キレート硬化剤を含むことができる。
【0013】
詳細には、上記鋼板表面処理用溶液組成物は、コロイドシリカ15~50重量%、アルコキシシラン20~60重量%、溶剤1~40重量%、酸度調節剤0.01~1.00重量%、アクリレート系モノマー5~15重量%、シロキサン結合からなる骨格を含む密着性向上剤5~50重量%及び金属キレート硬化剤0.1~3.0重量%を含むことができる。さらに、上記鋼板表面処理用溶液組成物は、有機樹脂をさらに含むことができ、上記有機樹脂は0.1~5.0重量%で含まれることができる。
【0014】
本発明の鋼板表面処理用溶液組成物の製造のために、ナノ粒子のコロイドシリカに3価アルコキシシランを混合してゾルゲル反応により中間体を形成し、これにアクリレート系モノマーをさらに反応させて主樹脂を合成した後、有機樹脂を後に添加することができる。
【0015】
本発明の鋼板表面処理用溶液組成物において、上記ナノ粒子のコロイドシリカは、粒子サイズが好ましくは5nm~50nmであるものを含むことができる。上記コロイドシリカの粒子サイズが5nm未満の場合には原料コストが上昇するのに対し、塗膜の硬度が低下して、被膜の耐久性が低下するという問題があり、50nmを超える場合には、シリカ粒子の比表面積が小さくなって塗膜密着性が低下し、粒子が大きくなることによって溶液安定性が低下する可能性があるという問題がある。
【0016】
本発明の鋼板表面処理用溶液組成物において、上記ナノ粒子のコロイドシリカは、鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して15重量%~50重量%含むことができる。鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して上記ナノ粒子のコロイドシリカの含量が15重量%未満であると、アルコキシシランとの十分な結合がなされず、硬度を減少させ、耐食性を確保できない可能性がある。鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して上記ナノ粒子のコロイドシリカの含量が50重量%を超えると、シランと未結合したシリカが残存して塗膜形成を低下させる可能性があり、これにより耐食性を確保できない可能性がある。
【0017】
本発明の鋼板表面処理用溶液組成物において、上記アルコキシシランは、鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して20重量%~60重量%含むことができる。鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して上記シラン混合物が20重量%未満であると、コロイドシリカとの十分な結合がなされず、塗膜が形成されないことがあり、これにより耐食性を確保できない可能性がある。鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して上記シラン混合物が60重量%を超えると、熱分解による有機ガスが排出される可能性があり、多量のシラノールが残存して塗膜密着性が阻害され、これにより耐食性を確保できない可能性がある。
【0018】
本発明の鋼板表面処理用溶液組成物において、上記アルコキシシランの具体的な種類は特に制限されないが、好ましくは、アルコキシ基が3個以上であり、加水分解後に安定化できるシランとして、ビニルトリメトキシシラン(Vinyl trimethoxy silane)、ビニルトリエトキシシラン(Vinyl triethoxy silane)、ビニルトリイソプロポキシシラン(Vinyl tri-isopropoxy silane)、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(3-methacryloxypropyl trimethoxy silane)、2-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(2-Glycidyloxy propyltrimethoxy silane)、2-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン(2-Glycidyloxy propyl triethoxy silane)、2-アミノプロピルトリエトキシシラン(2-aminopropyl triethoxy silane)、2-ウレイドアルキルトリエトキシシラン(2-ureidoalkyltriethoxy silane)、テトラエトキシシラン(tetraethoxysilane)、トリエトキシフェニルシラン(Triethoxyphenylsilane)及びトリメトキシフェニルシラン(Trimethoxyphenylsilane)からなる群から選択される一つ以上のものを含むことができる。
【0019】
本発明の鋼板表面処理用溶液組成物において、上記溶剤は、シランの水に対する相溶性と加水分解性、溶液組成物の鋼板表面濡れ性(Wetting)、乾燥速度の調節などの役割を果たすものであって、鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して1重量%~40重量%含むことができる。鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して上記溶剤の含量が1重量%未満であると、相溶性が低下し、上記溶液組成物の貯蔵安定性(溶液の安定性)が低下し、コーティング後に耐食性を確保できない可能性がある。鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して上記溶剤の含量が40重量%を超えると、粘度が過度に低くなり、溶液の安定性が低下し、コーティング後に耐食性を確保できない可能性がある。
【0020】
本発明の鋼板表面処理用溶液組成物において、上記溶剤の具体的な種類は特に制限されないが、好ましくは、メタノール、エタノール、2-プロパノール、2-メトキシプロパノール、2-ブトキシエタノール、水、ジメチルホルムアミド、ジグライム、2-アミノエタノール、1-ヘプタノール、プロピレングリコール、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ジ(プロピレングリコール)メチルエーテル(Di(propylene glycol)methyl ether)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(Diethylene Glycol monomethyl Ether)、エチレングリコールモノn-プロピルエーテル(Ethylene Glycol mono n-Propyl Ether)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(Propylene Glycol mono Methyl Ether)及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(Propylene Glycol mono Methyl Ether acetate)からなる群から選択される一つ以上のものを含むことができる。
【0021】
本発明の鋼板表面処理用溶液組成物において、上記酸度調節剤は、シランの加水分解を助けながらシランの安定性を向上させる役割を果たすものであって、鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して0.01重量%~1.00重量%含むことができる。鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して上記酸度調節剤の含量が0.01重量%未満であると、加水分解時間が増加して全溶液組成物の溶液安定性が低下する可能性がある。鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して上記酸度調節剤の含量が1.00重量%を超えると、鋼板の腐食が発生する可能性があり、重量平均分子量の低い樹脂が多く存在するようになって溶液の安定性が低下する可能性がある。
【0022】
本発明の鋼板表面処理用溶液組成物において、上記酸度調節剤の具体的な種類は特に制限されないが、有機酸、無機酸またはこれらの混合酸を使用することができる。上記有機酸としては、例えば、酢酸、ギ酸、乳酸、グリコン酸などを使用することができ、上記無機酸としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸などを使用することができる。
【0023】
本発明の鋼板表面処理用溶液組成物において、上記アクリレート系モノマーは、コーティング時に塗膜形成及び架橋反応に寄与するものであって、鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して5重量%~15重量%含むことができる。鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して上記アクリレート系モノマーが5重量%未満であると、シリカ及び合成シラン重合体との十分な結合が形成されず、塗膜形成が低下することがあり、これにより耐食性を確保できない可能性がある。鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して上記アクリレート系モノマーが15重量%を超えると、反応していない残存モノマーにより耐水性が低下したり、耐食性が減少する可能性がある。
【0024】
本発明の鋼板表面処理用溶液組成物において、上記アクリレート系モノマーの具体的な種類は特に制限されないが、好ましくは、アクリリック酸グレーシャル(Acrylic acid glacial)、メチルアクリレート(Methyl acrylate)、エチルアクリレート(Ethyl acrylate)、ブチルアクリレート(Butyl acrylate)、2-エチルヘキシルアクリレート(2-Ethylhexyl acrylate)、イソブチルアクリレート(Isobutyl acrylate)、ターシャリーブチルアクリレート(Tertiary butyl acrylate)、ターシャリーブチルメタクリレート(Tertiary butyl methacrylate)、ブタンジオールモノアクリレート(Butanediol monoacrylate)、ラウリルアクリレート(Lauryl acrylate)、ジメチルアミノエチルアクリレート(Dimethylaminoethyl acrylate)及びジヒドロジシクロペンタジエニルアクリレート(Dihydrodicyclopentadienyl acrylate)からなる群から選択される少なくとも一つを含むことができる。
【0025】
本発明の鋼板表面処理用溶液組成物において、上記有機樹脂は、コーティングしようとする素材との付着性を向上させ、乾燥性を向上させる役割を果たすものであって、鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して0.1重量%~5.0重量%含むことができる。鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して上記有機樹脂の含量が0.1重量%未満であると、溶液組成物のコーティング時に素材との付着性が低下するか、又は乾燥が容易でないため、耐食性が確保されない可能性がある。鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して上記有機樹脂の含量が5.0重量%を超えると、耐水性が低下して塗膜剥離現象等が発生する可能性がある。
【0026】
本発明の鋼板表面処理用溶液組成物において、上記有機樹脂の具体的な種類は特に制限されないが、好ましくは、ポリビニルアルコール;ポリ(メタ)アクリル酸;アクリル酸とメタクリル酸の共重合体;及びエチレンとアクリル系単量体(例えば、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリレートなど)との共重合体;エチレンと酢酸ビニルの共重合体;ポリウレタン;アミノ変性フェノール樹脂;ポリエステル樹脂;エポキシ樹脂及びこれらが混合されたハイブリッド(Hybrid)形態からなる群から選択される少なくとも一つを含むことができる。
【0027】
本発明の鋼板表面処理用溶液組成物において、上記密着性向上剤は、鋼板に適用されたコーティング層の密着性を向上させる役割を果たすものであって、鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して5重量%~50重量%含むことができる。鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して、上記密着性向上剤の含量が5重量%未満であると、鋼板に対するコーティング層の密着性が不足し、コイルコーティング工程中に被膜剥離が発生する可能性がある。鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して上記密着性向上剤の含量が50重量%を超えると、密着性向上剤に含まれた有機成分が過剰となり、これによるガス(Fume)が発生して溶接作業性が不良となる可能性がある。
【0028】
本発明の鋼板表面処理用溶液組成物において、上記密着性向上剤は、シロキサン結合からなる骨格を含み、具体的な種類は特に制限されないが、好ましくは、シリコン樹脂であってもよい。例えば、本発明で使用されるシリコン樹脂は、RSi(OH)3の構造式を有する単量体が重合したものであってもよい(ここで、Rは任意の置換基である)。
【0029】
上記密着性向上剤は、シリコンジオキシド比率が20モル%~80モル%の範囲であるものを使用することが好ましい。上記密着性向上剤内のシリコンジオキシド比率が20モル%未満であると、溶液の貯蔵安定性が不足する可能性がある。鋼板表面処理用溶液組成物において、上記密着性向上剤内のシリコンジオキシド比率が80モル%を超えると、コーティング層の密着性が低下する可能性がある。
【0030】
また、上記密着性向上剤は、重量平均分子量が300g/mol~30,000g/molの範囲であることが好ましい。上記密着性向上剤の重量平均分子量が300g/mol未満であると、密着性が低下する可能性がある。鋼板表面処理用溶液組成物において、上記密着性向上剤の重量平均分子量が300,00g/molを超えると、残りの溶液成分との相溶性不足により溶液の貯蔵安定性が低下する可能性がある。
【0031】
上記密着性向上剤は、シロキサン結合からなる骨格を有しており、上記骨格にアルキル基等の炭素含有置換基を含むことができる。この場合、上記炭素含有置換基が溶液組成物内に流動性を提供することができ、上記溶液組成物が過酷な環境にあってもゲル化(gelation)のような現象が起こらず、溶液組成物の相溶性に優れるようになり、溶液組成物内の各成分がすべて均一に混合していることになる。
【0032】
本発明の鋼板表面処理用溶液組成物において、上記金属キレート硬化剤は、鋼板に適用されたコーティング層内の樹脂の硬化度を向上させ、水冷工程における塗膜密着性を向上させる役割を果たすものであって、鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して0.1重量%~3.0重量%含むことができる。鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して上記硬化剤の含量が0.1重量%未満であると、硬化度が不足してコーティング後の水冷工程において被膜剥離が発生する可能性がある。鋼板表面処理用溶液組成物100重量%に対して上記硬化剤の含量が3.0重量%を超えると、樹脂の過硬化により塗膜が割れやすくなり、これによって加工中にクラックが発生する可能性がある。
【0033】
本発明の鋼板表面処理用溶液組成物において、上記金属キレート硬化剤の具体的な種類は特に制限されないが、好ましくは、アルミニウム、チタン、ジルコニウム又は錫を含む金属キレート及びこれらの混合物からなる群から選択される一つ以上のものを含むことができる。例えば、アルミニウムを含む金属キレート硬化剤としては、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(n-プロピルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(イソプロピルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(n-ブチルアセトアセテート)アルミニウム、イソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトネート)アルミニウム、トリス(プロピオニルアセトネート)アルミニウム、ジイソプロポキシプロピオニルアセトネートアルミニウム、アセチルアセトネート・ビス(プロピオニルアセトネート)アルミニウム、モノエチルアセトアセテート・ビス(アセチルアセトネート)アルミニウム、アセチルアセトネートアルミニウム・ジsec-ブチレート、メチルアセトアセテートアルミニウム・ジtert-ブチレート、ビス(アセチルアセトネート)アルミニウム・モノsec-ブチレート、ジ(メチルアセトアセテート)アルミニウム・モノtert-ブチレート等を使用することができ、チタンを含む金属キレート硬化剤としては、ジイソプロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタネート、ジイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトネート)チタネート、ジn-ブトキシ・ビス(アセチルアセトネート)チタネート等を使用することができ、ジルコニウムを含む金属キレート硬化剤としては、テトラキス(アセチルアセトネート)ジルコニウム、テトラキス(n-プロピルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(エチルアセトアセテート)ジルコニウムなどを使用することができ、錫を含む金属キレート硬化剤としては、ジブチル錫ビス(アセチルアセトネート)などを使用することができる。
【0034】
さらに、本発明は、上記溶液組成物を用いた表面処理された鋼板の製造方法を提供する。詳細には、鋼板を提供する段階;上記鋼板の少なくとも一面に本発明の溶液組成物を処理する段階;及び上記組成物が処理された鋼板を熱処理する段階を含む表面処理された鋼板の製造方法を提供する。
【0035】
上記鋼板は特に制限されず、例えば、冷延鋼板を使用することができる。さらに、表面処理用溶液組成物を鋼板の表面に処理する段階は、上記溶液組成物をコーティングし、乾燥することにより行うことができる。上記コーティングは、一般的に使用されるコーティング法を適用することができるものであって、特に限定されない。例えば、ロールコーティング、スプレー、沈積、スプレースキージングまたは沈積スキージングなどの方法を適用することができ、必要に応じては、2つ以上の方法を混用することもできる。
【0036】
一方、上記熱処理は、熱風乾燥炉または誘導加熱炉の方法を適用して行うことができ、上記熱処理は素材鋼板の最終到達温度(PMT)を基準に150~550℃の温度範囲で行うことができる。上記乾燥温度がPMTを基準に150℃以上の温度に到達しないと、良好な固形のコーティング層が形成されず、液相の残留溶液が以後の工程で除去され、目標とする耐食性が確保できない可能性がある。また、上記乾燥温度がPMTを基準に550℃を超えると、コーティング層内の有機樹脂が酸化(燃焼するという意味)してコーティング層の構造が変化し、所望の耐食性が確保できない可能性がある。このため、例えば、上記熱風乾燥炉により乾燥する場合には、熱風乾燥炉の内部温度を150~550℃として乾燥することができる。
【0037】
さらに、本発明は、本発明の溶液組成物で形成されたコーティング層を有する表面処理された鋼板を提供する。詳細に、本発明は、鋼板;及び上記鋼板の少なくとも一面に本発明の溶液組成物で形成されたコーティング層を有する表面処理された鋼板を提供する。
【0038】
上記表面処理された鋼板は、乾燥後の厚さとして0.1~50μmのコーティング層の厚さを有することができる。コーティング層の厚さが0.1μm未満の場合には、被膜が十分でなく耐食性が不足するという問題があり、50μmを超える場合には、上記コーティング工程において、作業中に十分な乾燥が行われず、堅固なコーティング層が形成されない可能性があるという問題がある。
【0039】
このとき、上記コーティング層は、本発明の溶液組成物によりコーティングされ、硬化して形成されたものであって、上記コーティング層の表面の組成は、例えば、EDS(Energy Dispersice X-ray Spectormeter)で測定したとき、炭素(C)8~9重量%、酸素(O)8~9重量%、ケイ素(Si)10~15重量%、マンガン(Mn)0.5~1.5重量%、鉄(Fe)65~75重量%を含むことができるが、これに制限されず、本発明の溶液組成物に含まれる具体的な成分に応じて、上記組成は変化することができる。
【0040】
以下、具体的な実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。下記の実施例は、本発明の理解を助けるための例示に過ぎず、本発明の範囲は、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
実施例
1.鋼板表面処理用溶液組成物の製造
本発明の鋼板表面処理用溶液組成物の物性を測定するために、次のような物質を使用して溶液組成物を製造した。
【0042】
コロイドシリカとしてはLudox HAS(固形分30%、粒子サイズ12mm、W.R.Grace&Co.-Conn.)、アルコキシシランとしてはテトラエトキシシラン(tetraethoxysilane)、溶剤としてはエタノール、酸度調節剤としては酢酸を容器にそれぞれ添加して、温度が50℃を超えないように冷却させながら約5時間攪拌機を用いて攪拌させた。このとき、コロイドシリカはシランにより表面改質が起こり、アルコキシシランは加水分解される。
【0043】
その後、モノマーとしてエチルアクリレート(Ethyl acrylate)と、有機樹脂としてポリ(メタ)アクリル酸、密着性向上剤としてDC-3074(Dow Chemical Co.)をそれぞれ後に添加してさらに約24時間攪拌させた。
【0044】
上記コロイドシリカ、シラン、溶剤、酸度調節剤、アクリレート系モノマー、有機樹脂及び密着性向上剤の含量を上記表1に記載の含量のように混合して実施例1~8及び比較例1~14を製造した。
【0045】
【0046】
[溶液安定性]
製造された溶液組成物が、一定条件において溶液の安定性が維持されるか否かを確認するために、次のような実験を行った。上記実施例1~8及び比較例1~16の溶液組成物を50℃のオーブンに72時間保管して取り出した後、上記溶液組成物の状態を観察して溶液安定性を評価した。評価は以下のような基準で行い、その結果を表3に記載した。
【0047】
<溶液安定性の評価基準>
O:少量の沈殿物が発生、ゲル化(gelation)なし
△:沈殿物が発生
×:ゲル化が発生
【0048】
2.表面処理された鋼板の製造
次に、上記製造された溶液組成物を鋼板の表面にバーコーティングした後、インダクションオーブンに通過させながら熱処理を行い、上記溶液組成物の乾燥及び硬化を行い、その結果、表面処理された鋼板を得た。実施例1~8及び比較例1~16の溶液組成物を鋼板に処理するとき、熱処理温度及び形成したコーティング層の厚さを表2に示した。
【0049】
【0050】
製造された鋼板の物性を測定するために、次のような方法及び基準で、硫酸耐食性、加工密着性、加工後の硫酸耐食性、長期耐食性、溶接作業性及び水冷密着性を測定した。
【0051】
[硫酸耐食性]
上記製造例1~4及び比較製造例1~20の鋼板を直径38mmの大きさに裁断して試片を製造した後、70℃に維持される硫酸50体積%の水溶液に6時間浸漬してから試片の腐食減量を測定した。
【0052】
<硫酸耐食性の評価基準>
O:15mg/cm2/hr未満
△:15以上65mg/cm2/hr未満
×:65mg/cm2/hr以上
【0053】
[加工密着性]
上記製造例1~4及び比較製造例1~20の鋼板を150cm×75cm(横×縦)の大きさに裁断して試片を製造し、上記試片の表面をクロスカットガイド(cross cut guide)を用いて1mmの間隔でそれぞれ横縦100個のマス目を形成するように線を引いて、上記100個のマス目が形成された部分をエリクセン(Erichsen)試験機を用いて6mmの高さで押し上げ、押し上げた部位に剥離テープ(NB-1、Ichiban社(製))を付着した後、剥がしながらエリクセン部分が剥離するか否かを観察した。
【0054】
<加工密着性の評価基準>
○:表面の剥離がない場合
△:表面の剥離が100個のうち1個~3個の場合
×:表面の剥離が100個のうち3個を超えた場合
【0055】
[加工後の硫酸耐食性]
上記製造例1~4及び比較製造例1~20の鋼板を直径38mmの大きさに裁断して試片を製造し、上記試片をエリクセン(Erichsen)試験機を用いて6mmの高さに加工した後、70℃に維持される硫酸50体積%の水溶液に6時間浸漬した後、試片の腐食減量を測定した。
【0056】
<加工後の硫酸耐食性の評価基準>
O:15mg/cm2/hr未満
△:15以上25mg/cm2/hr未満
×:25mg/cm2/hr以上
【0057】
[長期耐食性]
上記製造例1~4及び比較製造例1~20の鋼板を直径38mmの大きさに裁断して試片を製造した後、70℃に維持される硫酸50vol%の水溶液に96時間浸漬してから試片の腐食減量を測定し、初期厚さに対する腐食後の試片の最も薄い厚さを測定して%で表した。
【0058】
<長期耐食性の評価基準>
O:初期厚さに対して25%以上
△:初期厚さに対して8%以上25%未満
×:初期厚さに対して8%未満
【0059】
[溶接作業性]
上記製造例1~4及び比較製造例1~20の鋼板を30cm×10cm(横×縦)の大きさに裁断して試片を製造し、ガス金属アーク溶接により溶接しながら溶接中に発生するガス(Fume)の量を観察した。
【0060】
<溶接作業性の評価基準>
O:Fumeが未発生
×:多量のFumeが発生
【0061】
[水冷密着性]
上記製造例1~4及び比較製造例1~20の鋼板をインダクションオーブンに通過させた直後、まだ熱い状態で冷却水を噴射して鋼板の表面から被膜剥離が発生する量を観察した。
【0062】
<水冷密着性の評価基準>
O:被膜剥離が未発生
×:被膜剥離が発生
【0063】
上記製造例1~4及び比較製造例1~20の鋼板に対する物性の測定結果を下記表3に記載した。
【0064】
【0065】
上記表3に示すように、実施例1~4の溶液組成物で処理された鋼板である製造例1~4の鋼板の場合、溶液安定性、硫酸耐食性、加工密着性、加工後の硫酸耐食性、長期耐食性及び溶接作業性に非常に優れていることが確認できた。さらに、コーティング及び乾燥過程で沸騰現象等の表面欠陥が発生せず、非常に良好な表面品質を確保することができた。
【0066】
しかし、比較製造例1の場合、コロイドシリカの含量が過剰に添加され、シランとの反応における残留シリカが多量残ってコーティング層の形成を妨げ、これにより硫酸耐食性と加工密着性、加工後の硫酸耐食性及び長期耐食性が著しく低下することが確認できた。
【0067】
比較製造例2の場合、コロイドシリカの含量が不足してシランとの十分な結合がなされず、コーティング層の硬度などが低下し、これにより硫酸耐食性と加工密着性、加工後の硫酸耐食性及び長期耐食性が著しく低下することが確認できた。
【0068】
比較製造例3の場合には、シランが過剰に添加され、溶液組成物の製造過程で熱分解による有機ガスが排出されることがあり、多量の残存シランによりコーティング後の硫酸耐食性、加工後の硫酸耐食性、長期耐食性が低下することが確認できた。
【0069】
比較製造例4の場合には、シランの含量が不足してシリカとの十分な結合がなされず、良好な被膜が形成できず、コーティング後の硫酸耐食性、加工後の硫酸耐食性、長期耐食性が低下することが確認できた。
【0070】
比較製造例5の場合、溶剤が不足して正常な溶液が製造されず(溶液安定性の不足)、溶液を製造してコーティングをしても比較製造例5に示すように、良好な被膜が形成できず、コーティング後の硫酸耐食性、加工密着性、加工後の硫酸耐食性、長期耐食性が低下することが確認できた。
【0071】
比較製造例6の場合には、溶剤が過度に過剰に含まれており、正常な溶液が製造されず(溶液安定性の不足)、溶液を製造してコーティングをしても比較製造例6に示すように、良好な被膜が形成できず、コーティング後の硫酸耐食性、加工後の硫酸耐食性、長期耐食性が低下することが確認できた。
【0072】
比較製造例7の場合には、酸度調節剤が過剰に添加され、シランで改質されたシリカとモノマー及び有機樹脂の有無機混合樹脂の重量平均分子量が過度に増加して溶液のゲル化(Gelation)が起こり(溶液安定性の不足)、コーティングをしても比較製造例7に示すように、硫酸耐食性、加工密着性、加工後の硫酸耐食性、長期耐食性が低下することが確認できた。
【0073】
比較製造例8の場合には、酸度調節剤の含量が不足して加水分解時間が増加するため溶液安定性が不足し、比較製造例8に示すように、コーティング時に部分的なゲル化により正常な被膜が形成できず、これにより、硫酸耐食性、加工密着性、加工後の硫酸耐食性、長期耐食性が低下することが確認できた。
【0074】
比較製造例9の場合には、モノマーが過剰に添加され、未反応モノマーの残存により硫酸耐食性、加工後の硫酸耐食性、長期耐食性が低下することが確認できた。
【0075】
比較製造例10の場合には、モノマーの含量が不足してナノシリカ及びシラン合成体との十分な結合が形成できず、硫酸耐食性、加工後の硫酸耐食性、長期耐食性が低下することが確認できた。
【0076】
比較製造例11の場合には、有機樹脂が過剰に添加され、コーティング層の硬化度を低下させ、硫酸耐食性、加工後の硫酸耐食性、長期耐食性が低下することが確認できた。
【0077】
比較製造例12の場合には、有機樹脂の含量が不足して硫酸耐食性、加工後の硫酸耐食性、長期耐食性が低下することが確認できた。
【0078】
比較製造例13の場合には、密着性向上剤の含量が不足して加工密着性、加工後の硫酸耐食性が低下することが確認できた。
【0079】
比較製造例14の場合には、密着性向上剤が過剰に添加され、長期耐食性が低下し、溶接中にガス(Fume)の大量発生により溶接作業性が低下することが確認できた。
【0080】
比較製造例15の場合には、硬化剤の含量が不足して樹脂が十分に硬化されず、水冷密着性が低下することが確認できた。
【0081】
比較製造例16の場合には、硬化剤の含量が過度に高く、樹脂の過硬化によりコーティング層が脆く(brittle)、これにより加工密着性が低下することが確認できた。
【0082】
比較製造例17の場合には、コーティング層の厚さが適正厚さを超えて溶接中にガス(Fume)の大量発生により溶接作業性が低下するだけでなく、溶接後に内部クラックが発生することが確認できた。
【0083】
比較製造例18の場合には、コーティング層が形成されず、硫酸耐食性と加工密着性が低下することが確認できた。
【0084】
比較製造例19の場合には、被膜の乾燥温度が低く、正常なコーティング層が形成できず、硫酸耐食性、加工密着性、加工後の硫酸耐食性、長期耐食性が不足することが確認できた。
【0085】
比較製造例20の場合には、被膜の乾燥温度が高すぎてコーティング層内の有機成分が炭化し、硫酸耐食性、加工密着性、加工後の硫酸耐食性、長期耐食性が低下することが確認できた。
【0086】
次に、実施例1の成分含量で溶液組成物を製造し、且つ密着性向上剤として使用されるシリコン樹脂のシリコンジオキシドのモル比率及び重量平均分子量を表4のように変化させながら溶液を製造し、溶液安定性を評価し、上記溶液を鋼板にコーティングして試片を製造したときの加工密着性を測定した。
【0087】
【0088】
上記実施例1-1~1-4及び比較例1-1~1-4の溶液組成物の溶液安定性及びこれを用いて表面処理した鋼板に対する物性の測定結果を下記表5に記載した。このとき、コーティング層の厚さ及び熱処理温度は製造例1と同様に行った。
【0089】
【0090】
上記表5に示すように、実施例1-1~1-4の場合、溶液安定性に優れ、鋼板に表面処理したときの加工密着性も非常に優れていることが確認できた。しかし、比較製造例1-1の場合には、密着性向上剤内のシリコンジオキシドのモル比率が高すぎて加工密着性が低下することが確認できた。
【0091】
比較製造例1-2の場合には、密着性向上剤内のシリコンジオキシドのモル比率が不足し、コロイドシリカとシランを用いて製造された樹脂との相溶性が不足して溶液製造後の溶液安定性が不足し、鋼板にコーティングをしても加工密着性が不足することが確認できた。
【0092】
比較製造例1-3の場合には、密着性向上剤の重量平均分子量が高すぎて残りの溶液との相溶性が不足して溶液安定性が劣り、鋼板にコーティングをしても加工密着性が不足することが確認できた。
【0093】
比較製造例1-4の場合には、密着性向上剤の重量平均分子量が低すぎてコーティング過程で相当量の密着性向上剤が溶剤と共に揮発し、コーティング鋼板の加工密着性が不足することが確認できた。
【0094】
以上のように、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から逸脱しない範囲内で多様な修正及び変形が可能であることは当技術分野における通常の知識を有する者には自明である。