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特許7395761改良型陰極アーク源、そのフィルタ、およびマクロ粒子を選別する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】改良型陰極アーク源、そのフィルタ、およびマクロ粒子を選別する方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20231204BHJP
   C23C 14/32 20060101ALI20231204BHJP
   H01J 27/08 20060101ALI20231204BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20231204BHJP
   H05H 1/48 20060101ALN20231204BHJP
【FI】
C23C14/24 F
C23C14/32 A
H01J27/08
H01J37/08
H05H1/48
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022547204
(86)(22)【出願日】2021-06-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-01
(86)【国際出願番号】 EP2021066617
(87)【国際公開番号】W WO2021255242
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-08-02
(31)【優先権主張番号】20181191.6
(32)【優先日】2020-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510302157
【氏名又は名称】ナノフィルム テクノロジーズ インターナショナル リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanofilm Technologies International Limited
【住所又は居所原語表記】28 Ayer Rajah Crescent,#02-02/03,139959 Singapore SINGAPORE
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100150326
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 知久
(72)【発明者】
【氏名】シ,シュ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ミン チュウ
(72)【発明者】
【氏名】タン,コク ホウ
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-216575(JP,A)
【文献】国際公開第2014/136314(WO,A1)
【文献】特開2005-002454(JP,A)
【文献】特表2013-540200(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0155230(US,A1)
【文献】米国特許第06027619(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01J 27/08
H01J 37/08
H05H 1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極アーク源用のフィルタであって、
2つの屈曲部を有するフィルタダクトと、
プラズマからマクロ粒子を除去するために、該フィルタダクトを通して該プラズマを導くための第1の磁場源と、
を備え、
該フィルタが、該2つの屈曲部の間において該フィルタダクトの一部を包囲して回転可能に搭載されている第2の磁場源を備え、該第2の磁場源が該フィルタダクトを包囲する該フィルタダクトの該一部にて、該フィルタダクトの軸に対して垂直な軸の周りを回転可能となる、フィルタ。
【請求項2】
陰極アーク源用のフィルタであって、
角度が90°よりも大きい屈曲部を有するフィルタダクトと、
プラズマからマクロ粒子を除去するために、該フィルタダクトを通して該プラズマを導くための第1の磁場源と、
を備え、
該フィルタが、該屈曲部の下流において該フィルタダクトの一部を包囲して回転可能に搭載されている第2の磁場源を備え、該第2の磁場源が該フィルタダクトを包囲する該フィルタダクトの該一部にて、該フィルタダクトの軸に対して垂直な軸の周りを回転可能となる、フィルタ。
【請求項3】
前記第2の磁場源が環状である、請求項1または2に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記第2の磁場源が導電性材料からなるコイルである、請求項1から3のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項5】
前記第2の磁場源が2つの軸に沿って回転可能である、請求項1から4のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項6】
前記第2の磁場源が、強度が3mTから15mTである磁場を提供する、請求項1から5のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項7】
前記第2の磁場源が、強度が前記第1の磁場源に由来する磁場の強度の20%から35%である磁場を提供する、請求項1から6のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項8】
前記2つの屈曲部が異なる平面に存在する、請求項1または請求項1に従属するいずれかの請求項に記載のフィルタ。
【請求項9】
前記第2の磁場源が、前記第2の磁場源が前記フィルタダクトを包囲する該フィルタダクトの前記一部にて、該フィルタダクトの軸に対して垂直な2つの軸の周りを独立して回転可能となるように、該フィルタダクトに搭載されている、請求項1から8のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項10】
前記フィルタダクトが、陰極アーク源と接続するための1つの導入口と、被覆チャンバと接続するための1つの放出口とを有する、請求項1からのいずれかに記載のフィルタ。
【請求項11】
前記第1の磁場源が、前記フィルタダクトの長さの50%以上に沿って該フィルタダクトに巻かれた導電性材料からなるコイルを備える、請求項1から10のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項12】
前記フィルタダクトが、放出口の端部にて実質的に円形の開口を有する円盤形状のバッフルを備え、該バッフルが、該フィルタダクトの幅にわたって延びている、請求項1から11のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項13】
基板上に被覆を蒸着させるための陰極アーク源であって、
陽極およびターゲット用の陰極ステーションと、
請求項1から12のいずれかに記載のフィルタと、
を備える、陰極アーク源。
【請求項14】
請求項13に記載の陰極アーク源を2つまたはそれ以上(例えば、2つ、4つ、または6つ)備える、陰極真空アーク蒸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、改良型フィルタード陰極真空アーク(FCVA)源に組み込まれた、改良型陰極アーク源用フィルタに関する。改良型陰極アーク源用フィルタは、従来のフィルタと比べてプラズマ輸送効率が高い。
【背景技術】
【0002】
様々な蒸着法が、基板の被覆に用いられている。典型的には、ミクロ電子工学用途や高耐久性用途などの各種用途において、薄膜蒸着層の形成に、気相蒸着技術が用いられている。
【0003】
公知の物理的気相蒸着法の一例として、陰極気相アーク蒸着法が挙げられる。この方法においては、陰極ターゲットから物質を気化させるのに、電気アークが用いられる。得られた気化物質は、被覆チャンバへと輸送され、そこで基板上において凝縮し、薄膜被覆を形成する。当該分野において、四面体非晶質炭素被覆、金属被覆、誘電被覆、およびその他の被覆の陰極アーク蒸着が知られており、高品質な薄膜の蒸着がもたらされる。
【0004】
発生したプラズマを選別するための、すなわち、気化プロセスにおいて発生したマクロ粒子を除去するための、装置および方法が知られている(これらは、一般的に、フィルタード陰極真空アーク(FCVA)装置/プロセスと称される)。典型的には、フィルタが、磁場におけるプラズマおよびマクロ粒子の移動度の違いを利用して、この2つの成分を分離する。フィルタは、しばしば1つまたはそれ以上の屈曲部または湾曲部を有するダクトを備える。フィルタダクトが湾曲しているということは(適切な磁場と組み合わせた場合)、フィルタダクトの中心に沿ってプラズマビームを誘導することができる一方、ダクトの内壁の湾曲部位においてマクロ粒子が捕集されるということを意味する。次いで、プラズマビームは、被覆対象である1つまたはそれ以上の基板を含む被覆チャンバへと続く、フィルタの放出口(開口が貫通するバッフルであってもよい)へと誘導される。
【0005】
選別装置の例としては、「二屈曲」フィルタおよび「X屈曲」フィルタが挙げられる。二屈曲フィルタおよび二屈曲フィルタを備えるFCVA装置の例は、WO96/26532(Avimo Group)に見ることができる。X屈曲フィルタおよびX屈曲フィルタを備えたFCVA装置の例は、US2013/0180845 A1(Shiら)に見ることができる。
【0006】
プラズマ効率は、通常、プラズマビームを中心に通すことによって向上する。一般的に、プラズマビームが放出口と一直線にならない場合、特にフィルタの放出口の開口と一直線にならない場合、プラズマ源において発生したプラズマのうち、被覆チャンバへと入る分が少なくなり、その結果、装置のプラズマ効率が低下する。
【0007】
この問題は、プラズマ源をいくつか備え、それゆえフィルタをいくつか備えた被覆装置において増加している。これは、異なるフィルタの磁場間での干渉が、フィルタ内部においてプラズマビームに影響を及ぼすことの結果である。
【0008】
したがって、別のフィルタード陰極アーク被覆装置、好ましくはプラズマ効率が向上したフィルタード陰極アーク被覆装置が必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、好ましくは改良型である別のアークプラズマ選別方法を提供し、先行技術における陰極アーク源における問題を克服または少なくとも改善しようとするものである。したがって、本発明の目的は、フィルタの放出口におけるプラズマビームの位置のより良い制御を可能にする、陰極真空アーク蒸着装置用の改良型フィルタを提供することである。さらなる目的は、フィルタード陰極真空アーク(FCVA)蒸着装置のプラズマ効率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
よって、本発明の第1の局面は、陰極アーク源用のフィルタを提供し、該フィルタは、
少なくとも1つの屈曲部を有するフィルタダクトと、
プラズマからマクロ粒子を除去するために、該フィルタダクトを通して該プラズマを導くための第1の磁場源と
を備え、
該装置は、該フィルタダクトの一部を包囲して回転可能に搭載されている第2の磁場源を備える。
【0011】
第2の磁場源の強度は、典型的には、第1の磁場源の強度と比較して小さく、したがって、第2の磁場源を用いて磁場をわずかにかつ局所的に調整することができ、複数のダクトを有する装置に用いられた場合には、近傍にある他のフィルタダクト内の磁場に実質的に影響を及ぼすことなく、それが包囲するフィルタダクトの磁場を調整することができる。
【0012】
本発明はまた、該フィルタを備える陰極アーク源を提供する。例えば、本発明は、また、基板に被覆を蒸着させるための陰極アーク源を提供し、該陰極アーク源は、
陽極、およびターゲット用の陰極ステーションと、
少なくとも1つの屈曲部を有するフィルタダクトを備えるフィルタと、
プラズマからマクロ粒子を除去するために、該フィルタダクトを通して該プラズマを導くための第1の磁場源と、
を備え、
該装置は、該フィルタダクトの一部を包囲して回転可能に搭載されている第2の磁場源を備える。
【0013】
本発明の装置の利点は、フィルタ内のプラズマビームを微調整し、放出口の開口の実質的に中心においてフィルタから出ていくように誘導することができるということである。これによって制御が改善され、フィルタのプラズマ効率(すなわち、フィルタから出ていくプラズマの割合)の向上が可能となる。
【0014】
本発明はまた、それぞれがダクトを有し、それゆえ本明細書に記載のフィルタを有する複数(例えば、2つまたはそれ以上、特に、2つ、4つ、または6つ)のアーク源を備える陰極アーク蒸着装置のプラズマ効率を最適化する方法を提供し、該方法は、該フィルタのプラズマ効率を最適化するために、該フィルタのそれぞれにおける該第2の磁場源の位置(例えば、回転位置)を順次調整する工程を含む。
【0015】
陰極アーク源から放射されたプラズマのビームからマクロ粒子を選別する方法も提供され、該方法は、
フィルタダクトと、該ダクトを通して該プラズマビームを誘導するための第1の磁場源とを備えるフィルタを通して該プラズマビームを導く工程、および該フィルタの放出口にて該プラズマビームの位置を調整するために、該プラズマビームに第2の磁場を印加する工程を含む。非常に適切には、該方法は、回転可能に搭載されている該フィルタダクトの一部を包囲する第2の磁場源を介して、該第2の磁場を印加する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、調整コイルが装着された「二屈曲」フィルタを有する従来のFCVA装置を備える本発明の第1の実施形態を示す。
図2図2は、調整コイルが装着された「X屈曲」フィルタを有する従来のFCVA装置を備える本発明の第2の実施形態を示す。
図3図3は、それぞれ「二屈曲」フィルタに接続された陰極アーク源を6つ有する従来のFCVA装置を備え、各「二屈曲」フィルタには調整コイルが装着されている、本発明の第3の実施形態を示す。
図4A図4Aは、本発明のさらなる実施形態による二屈曲フィルタを示す図である。
図4B図4Bは、本発明のさらなる実施形態による二屈曲フィルタを示す図である。
図5図5は、図4Aおよび図4Bに示す本発明の実施形態の第2の磁場源を示す図である。
図6A図6Aは、第2の磁場源がフィルタの放出口でのプラズマビームの位置に及ぼす影響を示す概略図である。
図6B図6Bは、第2の磁場源がフィルタの放出口でのプラズマビームの位置に及ぼす影響を示す概略図である。
図7図7は、第2の磁場源として作用するコイルを流れる電流が、フィルタの放出口でのプラズマ電流にどのように影響を及ぼすかを示すグラフである。
図8A図8Aは、陰極アーク源に装着されたフィルタの放出口に載置された紙製の円盤の写真である。図8Aにおいては、フィルタには、調整コイルが装着されていなかった。
図8B図8Bは、陰極アーク源に装着されたフィルタの放出口に載置された紙製の円盤の写真である。図8Bにおいては、フィルタには、調整コイルが装着されていた。
図9図9は、調整コイルが装着された「X屈曲」フィルタを有する従来のFCVA装置を備える本発明の第3の実施形態を示す。
図10図10は、第2の磁場源として作用するコイルを流れる電流が、基板に蒸着された物質の累積厚にどのように影響を及ぼすかを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
フィルタは、少なくとも1つの屈曲部を有するフィルタダクトを備える。いくつかの実施形態において、フィルタは、2つの屈曲部を有し、各屈曲部の角度は、一般的に90°未満であり、より一般的には60°未満である。このようなフィルタは、一般的に、「二屈曲」フィルタと称される場合がある。屈曲部が2つ存在する場合には、好ましくは、各屈曲部は異なる面に存在する。あるいは、フィルタダクトは、角度が90°よりも大きい鋭い屈曲部を1つ備えていてもよい。このようなフィルタの例として、「X屈曲」フィルタが挙げられ、典型的には45°未満である第2の屈曲部をさらに備えていてもよい。本明細書に用いられる屈曲角は、フィルタダクトを通って移動する粒子が、フィルタダクトを通過するために変更する必要がある角度のことをいう(フィルタダクトの2つの腕の間の角度ではない)。好ましくは、ダクトは1つの導入口と、1つの放出口とを有し、それゆえ、ダクトを貫通し、プラズマ/粒子が移動可能な1つの経路が存在する。
【0018】
したがって、フィルタは、二屈曲フィルタであってもよいし、X屈曲フィルタであってもよい。フィルタダクトの外径は、典型的には、15cmから30cmである。
【0019】
フィルタダクトには、フィルタダクト内の屈曲部を回るようにプラズマビームを導くための第1の磁場源が設けられている。第1の磁場源は、好ましくは、フィルタダクトの長さの大部分、または実質的にその全長に沿って、フィルタダクトに巻かれた導電性材料からなるコイルを備える。例えば、第1の磁場源は、フィルタダクトの長さの50%またはそれ以上、典型的にはその長さの75%またはそれ以上、例えばその長さの90%またはそれ以上に沿って、フィルタダクトに巻かれた導電性材料からなるコイルを備えていてもよい。
【0020】
第1の磁場源は、典型的には、15mTまたはそれ以上、例えば20mTまたはそれ以上の磁場強度(フィルタダクトの中心で測定した場合)を与える。磁場強度は、典型的には、40mTを越えず、好ましくは、35mTまたは30mTを越えない。例えば、第1の磁場源は、15mTから40mTの磁場強度を提供してもよく、好ましくは20mTから35mT、または20mTから30mTの磁場強度を提供してもよい。
【0021】
使用時、陽イオンを含有し、マクロ粒子および/または中性原子が混入しているプラズマが、陰極アーク源において発生する。マクロ粒子/中性原子の混入物を含有するプラズマビームが陰極アーク源を出て、フィルタの屈曲部を回るように導かれ、一部のマクロ粒子/中性原子がフィルタダクトの側面に衝突して、プラズマビームから除去される。被覆対象である基板に最も近いダクトの端部において、すなわちプラズマが屈曲部を通過した後、プラズマは、選別されて混入物が減少しており、残っているマクロ粒子および中性原子の密度は、ダクトの外側に向かうにつれて相対的に高くなる。陽イオンに関して、プラズマは、ダクトの中心に向かうにつれて密度が高くなる。プラズマは、混入物を実質的に含んでいなくてもよい。
【0022】
放出口にて、フィルタは、実質的に円形の開口を有する円盤形状のバッフルを備えていてもよく、これは、プラズマのみが確実にフィルタを出て被覆チャンバへと入り得る(マクロ粒子および中性原子はこうならない)ようにするのに役立つ。さらに、開口の形状は、少なくとも部分的に、フィルタダクトの断面によって規定されていてもよい。これが円形でなく楕円形である場合は、楕円形の開口または円形とは異なる開口が適切であることがある。
【0023】
円盤は、典型的には、フィルタダクトの幅にわたって延びている。円盤に衝突したマクロ粒子は、被覆チャンバへと続く開口から離れて、ダクトの側面へと戻る。使用後、この領域のダクトおよび/または円盤を洗浄することが好ましいが、大部分の選別がダクトの最初の屈曲部によって成されるので、円盤の洗浄は不要であることが多い。
【0024】
一般的に、ダクトの中心に向かうにつれてプラズマの密度が上昇するので、プラズマのごく一部のみが、円盤の作用によって遮断される。それでもなお、円盤によって遮断されるプラズマの量を最小限にするために、プラズマビームは、円盤の開口と一直線になるべきである。これを達成するため、本発明の装置は、フィルタダクトの一部を包囲して回転可能に搭載されている第2の磁場源を備える。第2の磁場の回転運動によって、ダクト内のプラズマビームの微調整が可能となる。例えば、ビームを中心に通すことが可能となる。
【0025】
第2の磁場源は、典型的には環状であり、フィルタダクトの一部を完全に包囲している。
【0026】
第2の磁場源が環状である場合、その厚さは20mmから50mmであってもよく、例えば30mmから40mmであってもよい。環状の物体の厚さ(本明細書の文脈における)とは、開口が位置する平面に対して垂直な軸に沿う物体の深さをいう。
【0027】
典型的には、第2の磁場源の内径(すなわち、環状の磁場源の中心に位置する穴の直径)は300mmから400mmであり、外径(すなわち、環状の磁場源全体の直径)は400mmから500mmである。もちろん、第2の磁場源の内径は、フィルタダクトの直径よりも大きく、その結果、第2の磁場源は、フィルタダクトの周りを回転することができる。典型的には、第2の磁場源の隙間は、2cmよりも大きく、例えば4cmよりも大きく、好ましくは6cmよりも大きい。この隙間は、フィルタダクトと第2の磁場源とを同軸に並べた場合の両者の間の距離と定義される。
【0028】
第2の磁場源は、磁場発生コイル(すなわち、銅などの導電性材料からなるコイルであり、電流を流すと磁場を発生する)の形態をとってもよいし、1つまたはそれ以上の永久磁石の形態をとってもよい。一般的に、第2の磁場源は電磁石であり、典型的には、第1の磁場源と同じ電源に接続される。第2の磁場源が1つの永久磁石または多数の永久磁石からなる場合、磁石は、フェライト磁石、アルニコ磁石、ネオジム磁石、コバルト磁石、およびこれらの組み合わせから選択されてもよい。
【0029】
第2の磁場源は、強度が20mT未満、典型的には15mT未満、好ましくは10mT未満、最も好ましくは8mT未満である第2の磁場を提供し得る。しかし、第2の磁場の強度は、典型的には、2mTより大きく、好ましくは3mTよりも大きい。例えば、第2の磁場源の強度は、2mTから20mTであってもよく、典型的には2mTから18mTであってもよく、例えば3mTから15mTであってもよく、好ましくは3mTから10mTまたは3mTから8mTであってもよい。
【0030】
第2の磁場の強度は、好ましくは、第1の磁場の強度よりも大幅に小さい。例えば、第2の磁場源は、第1の磁場の強度の15%から50%、典型的には20%から35%、例えば20%から25%の強度の磁場を与えてもよい。
【0031】
第2の磁場源がコイル(例えば、銅製であり、直径が約350mmのコイル)である場合、12Aから22A、好ましくは14Aから20Aの電流をコイルに流すことによって、適切な磁場強度を発生させることができる。
【0032】
使用時、蒸着チャンバには、それぞれが別のフィルタを有する複数のアーク源が取り付けられていてもよい。典型的には、第2の磁場源の強度が、第1の磁場源の強度と比較して小さいので、近傍にある他のフィルタダクト内の磁場に実質的に影響を及ぼすことなく、第2の磁場源を用いて、それが包囲するフィルタダクトの磁場を調整することができる。
【0033】
第2の磁場源は、フィルタの一部を包囲して搭載されている。フィルタダクトが2つの屈曲部(例えば、それぞれ90°未満の2つの屈曲部)を備える場合、第2の磁場源は、この2つの屈曲部の間に位置していてもよい。
【0034】
例えばX屈曲型のデバイスにおいて、フィルタダクトが90°よりも大きい屈曲部を備える場合、第2の磁場源は、その屈曲部の上流(すなわち、90°よりも大きい屈曲部と、陰極アーク源に接続されたフィルタダクトの導入口との間)に位置していてもよいし、その屈曲部の下流(すなわち、90°よりも大きい屈曲部と、被覆チャンバに接続されたフィルタダクトの放出口との間)に位置していてもよい。ある配置においては、フィルタダクトは、少なくとも1つの屈曲部を備え、第2の磁場源は、この少なくとも1つの屈曲部の上流(すなわち、プラズマ源寄り)に位置している。
【0035】
あるいは、フィルタダクトは、少なくとも1つの屈曲部を備え、第2の磁場源は、この少なくとも1つの屈曲部の下流に位置している。
【0036】
第2の磁場源は、回転可能な状態で、フィルタダクトの外部に搭載されている。第2の磁場源の強度を固定しつつ(第2の磁場源が永久磁石であること、または第2の磁場源がコイルである場合に定電流を用いることのいずれかによる)、第2の磁場源の位置、すなわち回転を調整することによって、フィルタ内の磁場を調整することができる。このようにフィルタ内の磁場を調整することによって、プラズマビームがフィルタから出る地点を調整することができる。
【0037】
第2の磁場源は、ブラケットによってフィルタダクトの外部に搭載されていてもよい。第2の磁場源が環状である場合、ブラケットは、環状の磁場源が、それが包囲するフィルタダクトの部位と同軸に並ぶように、磁場源を保持してもよい。
【0038】
第2の磁場源は、フィルタダクトを包囲して回転可能に搭載されている。第2の磁場源は、好ましくは、フィルタダクトにおいて第2の磁場源が包囲している一部にて、フィルタダクトの軸に対して垂直な軸の周りを回転することが可能であるように、フィルタダクトに搭載されている。好ましくは、第2の磁場源は、フィルタの放出口におけるプラズマビームの位置を鉛直方向と水平方向の両方に沿って調整することができるように、二方向に独立して回転可能である。例えば、第2の磁場源は、直交する2つの軸であって、その両方が、フィルタダクトにおいて第2の磁場源が包囲する部位において、フィルタダクトの軸に直交している、2つの軸の周りを独立して回転可能であってもよい。換言すると、第2の磁場源は、フィルタダクトにおいて第2の磁場源が包囲する部位において、フィルタダクトの軸に対して垂直な2つの軸の周りを独立して回転可能となるように、フィルタダクトに搭載されていてもよい。
【0039】
第2の磁場源は、支持環に回動可能に搭載されていてもよく、これによって、第2の磁場源の中心を通過する第1の軸の周りを、第2の磁場が回転可能となる。支持環は、第2の磁場源の中心を通過する第2の軸の周りを、支持環(および接続された第2の磁気源)が回転可能となるように、フィルタダクトに(例えば、ブラケットを介して)回動可能に搭載されていてもよい。上記の通り、好ましくは、第1の軸および第2の軸は、2つの垂直な軸に沿って第2の磁場源が回転可能となるように、互いに直交している(すなわち、垂直である)。
【0040】
フィルタのその他の任意の特徴を以下に述べる。
【0041】
上述したように、フィルタは、一般的に、放出口に開口を有する円盤状のバッフルを備える。一実施形態において、円盤は、中心に開口を有する実質的に平坦かつ円形の、綱箔からなる円盤である。一般的に、円盤は、薄くあるべきで、フィルタダクトの動作に干渉するべきではなく、また、フィルタダクトを通してプラズマを導く磁場に干渉するべきではない。典型的には、円盤の厚さは2mm未満であり、好ましくは1mm未満である。
【0042】
円盤の開口は、プラズマを通過させるためのものであり、その幅は、その地点において、フィルタダクトの内幅の10%から50%、好ましくはフィルタダクトの幅の25%から40%であってもよい。開口は、その特定の用途に応じて設計され、フィルタの位置やフィルタダクトの大きさ、被覆に含まれている材料の種類に応じて、異なる大きさが適切となる場合がある。フィルタダクトの第1の屈曲部の半径が鋭い場合、ダクトの外部へ向かうマクロ粒子の密度がより高くなる場合があるが、これは、磁気誘導場によってマクロ粒子が屈曲部を曲がることがないためであり、この場合、より小さいバッフルとより大きい開口とが適切となることがある。ビームを開口と一直線にするために、第2の磁場源の回転運動を用いてもよい。
【0043】
フィルタは、開口の開閉のために、開口に関連したシャッターを備えていてもよい。陰極アーク源の使用時に、閉位置と開位置との間でシャッターを動作させると、それぞれ、蒸着が停止および開始される。正確な時間に、素早く、蒸着を停止および開始することができる。アークが生じた直後の期間に蒸着を回避するために、最初はシャッターを閉じておき、プラズマの質が所定のレベルに達した後、または所定の時間後、開くことができる。したがって、本発明のこの特徴は、蒸着プロセスに関して改良された制御をもたらすことができる。
【0044】
シャッターは、必要に応じてフィルタダクトの外部のシャッターから延びるハンドル手段によって、手動で制御される。陰極源の制御回路と作動的に組み合わされ、アークのある所定の状態に応答してシャッターを閉じるように構成されたアクチュエータによって、シャッターを制御してもよい。このような状態の1つは、プラズマの質の低下であってもよい。あるいは、プラズマの密度の低下であってもよい。
【0045】
本発明はまた、上述したフィルタを備える陰極アーク源を提供する。
【0046】
例えば、本発明は、先に定義したような陰極アーク源を2つまたはそれ以上(例えば、2つ、4つ、または6つ)備える陰極真空アーク蒸着装置を提供する。
【0047】
さらに、本発明は、基板に被覆を蒸着するための陰極アーク源も提供し、該陰極アーク源は、
陽極、およびターゲット用の陰極ステーションと、
少なくとも1つの屈曲部を有するフィルタダクトを備えたフィルタと、
プラズマからマクロ粒子を除去するために、該フィルタダクトを通して該プラズマを導くための第1の磁場源と、
を備え、
該装置は、該フィルタダクトの一部を包囲して回転可能に搭載されている第2の磁場源を備える。
【0048】
本発明の一実施形態において、陰極アーク源は、プラズマビームの領域よりも大きい被覆領域にわたって前記プラズマビームを走査させるための第3の磁場源をさらに備える。典型的には、走査は、プラズマがフィルタダクトから出た後、フィルタダクトの下流で行われる。
【0049】
本明細書で述べたフィルタを備える陰極アーク源は、陰極アーク蒸着装置の一部を形成していてもよい。陰極アーク蒸着装置は、本明細書で述べたフィルタを備えた陰極アーク源を1つまたはそれ以上、好ましくは2つまたはそれ以上(例えば、2つ、4つ、または6つ)備えていてもよい。本明細書で述べたようなフィルタが2つまたはそれ以上存在する場合、フィルタダクトのそれぞれにおける第2の磁場源の回転構成は、独立して調整可能である。換言すると、第2の磁場源それぞれの向きは、独立して変更することができる。
【0050】
独立調整によって、システムの一部を形成する別のフィルタのプラズマ効率に影響を及ぼすことなく、各フィルタのプラズマ効率を最適化することが可能となる。独立調整によって、すべてのダクトからのプラズマビームを同時に調整することが可能となる。
【0051】
さらなる局面において、本発明は、本明細書で述べたようなフィルタを複数(例えば、2つ、4つ、または6つ)備えた陰極アーク蒸着装置のプラズマ効率を最適化する方法を提供し、該方法は、該フィルタのプラズマ効率を最適化するために、該フィルタそれぞれの第2の磁場源の回転位置を順次調整することを含む。該方法は、繰り返されてもよい。好ましくは、この方法は、各フィルタのプラズマ効率を、一度だけ最適化することを伴う。これは、第2の磁場源が比較的低い磁場を発生させ、そのため、隣接するフィルタにおいて得られた磁場に大きくは影響を及ぼさないということの結果である。
【0052】
蒸着装置は、陰極アーク源の陰極においてターゲットからの陽イオンによって1つまたは複数の基板を連続的に被覆するために、フィルタード陰極アーク源(すなわち、本明細書で述べたフィルタを備えた陰極アーク源)を用いる。
【0053】
基板は、場合によっては、FCA源から発生した放出イオンに対して加速度ポテンシャルをもたらすDCシステムまたはRFシステムによって、電気的にバイアスされている。
【0054】
本発明の装置で用いるのに特に好ましいフィルタード陰極アーク源は、同時係属のWO96/26531に説明、記載されている。
【0055】
また、本明細書において、陰極アーク源から放射されたプラズマのビームからマクロ粒子を選別する方法も提供され、該方法は、
フィルタダクトと、該ダクトを通して該プラズマビームを誘導するための第1の磁場源とを備えるフィルタを通して該プラズマビームを導く工程、および
該フィルタの放出口において該プラズマビームの位置を調整するために、該プラズマビームに第2の磁場を印加する工程を含む。
【0056】
フィルタ、フィルタダクト、ならびに第1の磁場および第2の磁場は、適切には、本明細書で述べた特徴を有する。
【実施例
【0057】
これから、本発明を以下の実施例で説明する。
【0058】
図1および図2は、調整コイルが装着された従来のフィルタード陰極真空アーク(FCVA)蒸着装置を示す。
【0059】
図1は、二屈曲フィルタが装着されたFCVA装置(100)を示す。装置(100)は、気化したターゲット物質のプラズマを発生させるために、電気アークを用いて陰極ターゲットから物質を気化させる陰極アーク源(102)を備える。プラズマは、(磁場を用いて)ビームとされ、その後、このプラズマビームは、フィルタダクト(104)を介して被覆チャンバ(106)へと誘導される。
【0060】
各フィルタード陰極アーク源は、水冷式の陽極および水冷式の陰極を有し、さらに、両屈曲部に磁気誘導場を提供するコイルを水冷する。各フィルタード陰極アーク源は、連続的に、すなわち陰極ターゲットが実質的に消費されるまで、動作することができる。
【0061】
陰極アーク源(102)は、フィルタダクト(104)を介して被覆チャンバ(106)に装着されている。フィルタダクトは、プラズマビームからマクロ粒子を選別する。図1において、フィルタダクトは、直径が約6インチ(15cm)であり、2つの異なる平面に2つの屈曲部/湾曲部(104a,104b)を有する。
【0062】
第1の屈曲部(104a)の角度は50°であり、第2の屈曲部(104b)の角度は60°である。これらの2つの屈曲部は、結果として(i)ダクトに入って最初の直線部を通過するプラズマと、(ii)3番目の直線部を通過してダクトを出るプラズマとの間の角度が90°となるように、異なる平面に存在する。
【0063】
フィルタダクト(104)は、陽イオンがダクトを通って導かれるように、ダクトの周りに巻き付けられたコイルが提供する磁気誘導場に晒される。
【0064】
フィルタダクト(104)の一部の周りには、調整コイル(108)が搭載されている。調整コイル(108)およびその二屈曲フィルタダクト(104)への搭載状態をより明確に図4Aおよび図4Bに示し、調整コイル(108)自体の構造をより詳細に図5に示す。
【0065】
調整コイル(108)は、一対の同心環(108a,108b)を備える2軸ジンバルの形態をとっている。内環(108a)は、溝/チャネルを備え、その周りに銅線からなるコイルが巻き付いている。内環は、2つの第1の回転金具(112)によって、直径に沿って反対の位置において外環(108b)に回転可能に固定されている。外環(108b)は、一対のL型ブラケット(110)に回転可能に搭載されている。一端部にて、L型ブラケット(110)は、フィルタダクト(104)の外面から垂直に突出する小板に固定されている。別端部にて、ブラケット(110)は、2つの第2の回転金具(114)によって、直径に沿って反対の位置にて外環(108b)に回転可能に接続されている。内環および外環の回転を可能にする金具(112)は、外環およびブラケットの回転を可能にする金具(114)とは(外環周りに)90°離れた位置にある。これによって、調整コイルを、2つの直交する軸周りに回転可能とすることができる。
【0066】
被覆チャンバ(106)は、適切な真空排気システムに接続された筐体を備える。従来の真空チャンバ同様、真空排気システムは、少なくとも10-6トールの真空になるまで真空チャンバの排気および真空引きを行うための適切な真空ポンプまたは真空ポンプの組み合わせと真空再生用の機械式ポンプとを含む。チャンバは、機器用の架台と、チャンバ圧やアーク電力供給、ドラムモータ電力供給、蒸着速度をモニタするためにチャンバ内およびチャンバ周りに設けられたセンサに電気的に接続された制御パネルとを備えるフレーム上に搭載されている。被覆チャンバ(106)は、軸周りに回転するように搭載されており、かつ様々な構成の基板を搭載する様に構成された円筒形の側面を有する、ケージ状のドラムをさらに備える。
【0067】
基板は、フィルタダクト(104)に接続されている被覆チャンバの導入口に向かって外側を向くドラム上に直接搭載することができる。
【0068】
ドラムは、チャンバとは電気的に絶縁されており、この装置では、操作者が、ドラムに対してDCバイアスまたはRFバイアスを印加することを選択可能である。この装置では、1000ボルトまでのバイアスを、ドラムシャフトを介してドラムに印加することが可能である。
【0069】
使用時、マクロ粒子数が少ないダイアモンドライクカーボン膜の蒸着速度を高めるために、フィルタード陰極アーク源を同時に用いることができる。この特定の実施形態の蒸着装置は、フィルタード陰極アーク源を6つ使用しているが、当業者にとっては、フィルタード陰極アーク源を1つのみ、または2つ、または2つより多く有する装置を準備することが慣例であろう。実用上の関心事は、追加のアーク源を、真空チャンバのドアに設置できるということである。
【0070】
図2は、(図1に示す「二屈曲」フィルタとは対照的に)「X屈曲」フィルタを有する従来のFCVA蒸着装置を示す。図1に示す装置(100)の場合と同様に、図2の装置(200)は、陰極アーク源(202)と被覆チャンバ(206)とを備える。陰極アーク源(202)および被覆チャンバ(206)は、屈曲部の上流(すなわち、陰極アーク源(202)寄り)に調整コイル(208)を搭載したX屈曲フィルタダクト(204)によって接続されている。
【0071】
図2のFCVA装置(200)の機能性は、図1の(100)と同じであり、フィルタダクト(104,204)の形状のみが異なる。同様に、調整コイル(208)の構造および機能は、図1の調整コイル(108)と同じである。
【0072】
図3は、複数(具体的には、6つ)の陰極アーク源(102)と、単一の被覆チャンバ(106)にすべて接続された二屈曲フィルタダクト(104)とを備えるFCVA装置を示す。各フィルタダクト(104)は、上述したような調整コイル(108)を備える。
【0073】
フィルタダクトに調整コイルを追加することによって、フィルタダクトの放出口にてプラズマビームの位置を調整できるということが見出された。プラズマビームのみが確実に被覆チャンバに入る(マクロ粒子は入らない)ようにするため、フィルタダクトは、通常、その放出口に開口/シャッターを備えているので、最大量のプラズマが確実に被覆チャンバに入る(その結果、フィルタのプラズマ効率が向上し、全体として装置のプラズマ効率が上昇する)ようにするためには、プラズマビームの中心が確実に開口/シャッターの中心と一直線になることが重要である。
【0074】
図6Aおよび図6Bは、調整コイル(308)がフィルタダクト(304)の放出口にてプラズマビーム(320)の位置に及ぼす影響を示す。図6Aおよび図6Bでは、陰極アーク源(302)においてプラズマが発生し、フィルタダクト(304)へと誘導される。フィルタダクト(304)は、その全長にわたって、フィルタダクト(304)を通るようにプラズマビーム(320)を導く誘導コイル(図示せず)に包囲されている。誘導コイルが存在するにもかかわらず、プラズマビーム(320)は、常にフィルタダクト(304)の中心部から出ていくとは限らない(図6Aの断面Aを参照)。これは、隣接するフィルタダクトからの誘導磁場が互いに干渉し合う場合がある、複数の陰極アーク源と複数のフィルタダクトとを有する(図3に示すような)蒸着装置の場合に、特にそうである。
【0075】
調整コイル(308)は、プラズマビーム(320)の出口位置を調整するのに用いることができる追加の第2の磁場を提供する。調整コイルから生じる磁場の強度は、誘導磁場の強度と比較して小さい(その強度の約1/4)ので、フィルタダクトを包囲している調整コイルから生じる磁場は、隣接するフィルタダクトの磁場には大きく影響しない。下記の表は、誘導コイルおよび調整コイルを14Aまたは20Aの電流源に接続した場合に、両コイルが発生する磁場の強度を示す。
【0076】
【表1】
【0077】
したがって、別のフィルタダクトにおける磁場に影響を及ぼすことなく(その結果、別のダクトにおけるプラズマビームの出口位置に影響を及ぼすことなく)、各フィルタダクトに対して、調整コイルおよびプラズマビームの出口位置の調整および最適化を行うことができる。
【0078】
図7は、電流の増加(および、その結果として生じる磁場強度の上昇)が、フィルタの放出口でプラズマ電流(被覆チャンバに到達したプラズマ量の目安である)に及ぼす影響を示す。示されるように、調整コイルの電流を増加させると、フィルタのプラズマ効率が向上する。
【0079】
フィルタダクトの放出口に紙製の円盤を置く場合、プラズマビームが紙を焼いて通過することで生じた穴の位置によって、プラズマビームの位置を見ることができる。図8Aは、調整コイルなしのフィルタの放出口に載置された紙製の円盤を示す。示されるように、穴(プラズマビームの位置を示す)は、中心よりも右側にある。対照的に、図8Bは、調整コイルが装着されたフィルタの放出口に載置された紙製の円盤を示し、この時、調整コイル電流は16Aである。ここでは、穴(プラズマビームの位置を示す)は、フィルタの放出口の中心にあることがわかる。
【0080】
図9は、図2とは別の「X屈曲」フィルタの配置を示す。図9は、「X屈曲」フィルタを有する従来のFCVA蒸着装置を示す。図2と同様に、図2の装置(200)は、陰極アーク源(202)と被覆チャンバ(206)とを備える。陰極アーク源(202)および被覆チャンバ(206)は、X屈曲フィルタダクト(204)によって接続されている。図2に示す装置とは対照的に、X屈曲フィルタダクト(204)は、屈曲部の下流(すなわち、被覆チャンバ(206)寄り)に調整コイル(208)を搭載している。
【0081】
上述したように、調整コイルは、被覆チャンバの導入口/フィルタダクトの放出口の中心にプラズマビームを通し、それによって、陰極アーク蒸着装置の被覆効率を向上させるのに用いられる。X屈曲フィルタを含むFCVA装置を用い、調整コイルがある場合とない場合とで4000秒間、シリコンウェハ上に四面体非晶質炭素(ta-C)を蒸着させた。ta-C被覆の厚さを17地点にわたって測定した。平均厚を下記の表に示す。
【0082】
【表2】
【0083】
フィルタを出ていくプラズマビームを、被覆される領域にわたって走査させた場合、同等の被覆均一性で被覆の厚さが同様に増加すること(約50%増加)が走査プロセスから観察された(図10参照)。
【0084】
よって、本発明は、プラズマ効率が向上した改良型陰極アーク源用フィルタを提供する。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9
図10