(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法
(51)【国際特許分類】
B60L 9/18 20060101AFI20231204BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20231204BHJP
F02D 29/02 20060101ALN20231204BHJP
F02D 29/06 20060101ALN20231204BHJP
【FI】
B60L9/18 J
B60L15/20 J
F02D29/02 311A
F02D29/02 311E
F02D29/06
(21)【出願番号】P 2022555430
(86)(22)【出願日】2021-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2021036321
(87)【国際公開番号】W WO2022075200
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2020170138
(32)【優先日】2020-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】関口 秀樹
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-049389(JP,A)
【文献】特開2007-077871(JP,A)
【文献】特開2014-148255(JP,A)
【文献】特開2009-290963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 9/18
B60L 15/20
F02D 29/02
F02D 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される制御装置であって、
前記車両は、前記車両の駆動力を生じさせる駆動装置、前記駆動装置に生じさせる駆動力を制御する駆動制御装置、および前記車両が備える車輪の回転位置に関連する情報を測定する回転センサ、を備え、
前記駆動力に関する情報を取得する駆動力情報取得部と、
前記回転センサが測定する前記回転位置に関連する情報を取得する回転情報取得部と、
前記回転位置の変化、および前記駆動力に関する情報を用いて、前記車両における段差の乗り超え状態を推定する推定部と、
前記推定部が推定する前記乗り越え状態に応じて前記駆動制御装置が制御する前記駆動力を補正する補正部と、
前記車両の速度の情報を取得する車速情報取得部とを備え、
前記補正部はさらに、前記車両が前記段差に接触する前の前記車両の速度に応じて前記駆動力を補正し、前記段差の乗り越えの前後で前記車両の速度を一定に保つ、制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置において、
前記補正部は、前記車両が前記段差に突き当たって停止していると判断すると前記駆動力を増加させ、前記車両が前記段差に乗り上げを開始したと判断すると前記駆動力を減少させる、制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の制御装置において、
前記推定部は、前記車両のタイヤが前記段差と接する接触点と、前記タイヤの中心とを結ぶ線分が鉛直方向となす角である接触角を推定し、
前記補正部は、前記接触角に基づき前記駆動力を補正する、制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の制御装置において、
前記駆動装置はロータを内蔵するモータであり、
前記回転センサは前記モータに内蔵されるロータの回転位置を測定し、
前記回転位置に関連する情報は、前記ロータの回転位置である、制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の制御装置において、
前記駆動装置はモータであり、
前記駆動力情報取得部は、前記モータに通電する電力の情報を取得し、
前記推定部は、前記電力に基づいて前記駆動力を算出する、制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の制御装置において、
前記車両は、前記車両のピッチ方向の傾きを検出する傾きセンサを備え、
前記傾きセンサが検出するピッチ方向の傾きの情報である傾斜情報を取得する傾斜情報取得部をさらに備え、
前記推定部は、前記傾斜情報を用いて前記段差の乗り越え状態を推定する、制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の制御装置において、
前記車両は、前記車両のブレーキペダルの踏込量を検出するペダル検出部をさらに備え、
前記ペダル検出部から前記踏込量の情報を取得する踏込量取得部をさらに備え、
前記補正部は、前記踏込量に応じて前記駆動力を減少させる、制御装置。
【請求項8】
車両に搭載される制御装置が実行する制御方法であって、
前記車両は、前記車両の駆動力を生じさせる駆動装置、前記駆動装置に生じさせる駆動力を制御する駆動制御装置、および前記車両が備える車輪の回転位置に関連する情報を測定する回転センサ、を備え、
前記駆動力に関する情報を取得することと、
前記回転センサが測定する前記回転位置に関連する情報を取得することと、
前記回転位置の変化、および前記駆動力に関する情報を用いて、前記車両における段差の乗り超え状態を推定することと、
前記車両の速度の情報を取得することと、
推定した前記乗り越え状態
、および前記車両が前記段差に接触する前の前記車両の速度に応じて前記駆動制御装置が制御する前記駆動力を補正することで
前記段差の乗り越えの前後で前記車両の速度を一定に保つことと、を含む制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行環境には、境界として縁石などの段差が設けられ、段差を乗り越えて駐車スペースに進行することが日常的に行われる。軽いアクセルペダルの踏み込みでは縁石を超えることが出来ない状況、たとえば駐車スペースの先に建物などがある状況などでは、運転操作によっては建物への衝突の危険性があり、縁石を乗り越え時に運転者の危険回避の心理的な要因から、なかなかアクセルを踏み込めない場合がある。人間のアクセル操作には一定の応答遅れがあるため、高アクセル開度に踏み込んで縁石を乗り越えようとすると急激な速度上昇が発生した場合、車速の上昇を検知してアクセルを離しブレーキを踏むまでの遅れで車速が上昇し、想定以上の距離を走行してしまうことがある。特許文献1には、エンジン回転数検出手段と、車速検出手段と、アクセル開度検出手段と、スロットル開度検出手段と、スロットル駆動手段と、各検出手段の出力信号からアクセル操作が行われているにも関わらず車速が実質的に零でありエンジン回転数が閾値を越えているときには部分的な高負荷状態であると認識して該スロットル開度の閾値を所定最低値から漸増させるとともに該スロットル開度が該閾値になるように該スロットル駆動手段を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とするスロットル制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている発明では、段差に乗り上げる際の挙動に改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様による制御装置は、車両に搭載される制御装置であって、前記車両は、前記車両の駆動力を生じさせる駆動装置、前記駆動装置に生じさせる駆動力を制御する駆動制御装置、および前記車両が備える車輪の回転位置に関連する情報を測定する回転センサ、を備え、前記駆動力に関する情報を取得する駆動力情報取得部と、前記回転センサが測定する前記回転位置に関連する情報を取得する回転情報取得部と、前記回転位置の変化、および前記駆動力に関する情報を用いて、前記車両における段差の乗り超え状態を推定する推定部と、前記推定部が推定する前記乗り越え状態に応じて前記駆動制御装置が制御する前記駆動力を補正する補正部と、前記車両の速度の情報を取得する車速情報取得部とを備え、前記補正部はさらに、前記車両が前記段差に接触する前の前記車両の速度に応じて前記駆動力を補正し、前記段差の乗り越えの前後で前記車両の速度を一定に保つ。
本発明の第2の態様による制御方法は、車両に搭載される制御装置が実行する制御方法であって、前記車両は、前記車両の駆動力を生じさせる駆動装置、前記駆動装置に生じさせる駆動力を制御する駆動制御装置、および前記車両が備える車輪の回転位置に関連する情報を測定する回転センサ、を備え、前記駆動力に関する情報を取得することと、前記回転センサが測定する前記回転位置に関連する情報を取得することと、前記回転位置の変化、および前記駆動力に関する情報を用いて、前記車両における段差の乗り超え状態を推定することと、前記車両の速度の情報を取得することと、推定した前記乗り越え状態、および前記車両が前記段差に接触する前の前記車両の速度に応じて前記駆動制御装置が制御する前記駆動力を補正することで前記段差の乗り越えの前後で前記車両の速度を一定に保つことと、を含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、段差への乗り上げが完了した際の駆動力を低減させ、車速の増加を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】タイヤが段差を乗り上げる際の時系列での動きを示す図
【
図4】ロータ角累積値および指令トルクの時系列変化を示す図
【
図6】制御装置の段差対応処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0008】
―第1の実施の形態―
以下、
図1~
図6を参照して、制御装置の第1の実施の形態を説明する。
【0009】
(車両の構成)
図1は、車両9の構成図である。車両9は、モータMと、ディファレンシャルギアDと、タイヤWと、インバータ29と、制御装置10と、電力センサ21と、車速センサ23と、傾きセンサ24と、ペダル検出部25とを備える。
【0010】
モータMは、インバータ29から電力の供給を受ける。モータMはロータ、ステータ、および回転センサSを備える。固定子に固定される回転センサSは、ロータの回転角度を検出してインバータ29に出力する。なお以下では、回転センサSが検出するロータの角度をロータ角θxと呼ぶ。モータMが発生させるトルクは、ディファレンシャルギアDを介してタイヤWに伝達される。ただしディファレンシャルギアDの存在により、ロータ角θxとタイヤWの回転角度との関係は様々に変化する。なお以下では、車両9が前進する際にタイヤWが回転する方向を「正方向の回転」または「プラス方向の回転」と呼ぶ。
【0011】
インバータ29は、不図示の車両制御装置および制御装置10の指令に基づきモータMに電力を供給する。具体的にはインバータ29は、モータMに供給する電力の電流や周波数を制御して、不図示の車両制御装置および制御装置10から指定された駆動力(以下、「指令トルク」と呼ぶ)をタイヤWに発生させる。なおインバータ29は、不図示のバッテリから電力の供給を受ける。不図示の車両制御装置は、車両9の乗員によるブレーキペダルやアクセルペダルの操作量、またはコンピュータの演算に基づきインバータに発生させる駆動力を指示する。
【0012】
電力センサ21は、インバータ29がモータMに通電する電力の情報を取得し、取得した電力の情報を制御装置10に出力する。電力の情報とは、たとえば電流の情報および電圧の情報、または電流と電圧の積の情報である。ただしモータMに供給する電圧が一定の場合には、電力の情報は電流の大きさを示す情報だけでもよい。
【0013】
車速センサ23は、車両9と地表との相対速度を測定するセンサである。車速センサ23は、機械式、電気式、および電子式のいずれでもよい。車速センサ23は、測定した車両9の速度の情報を制御装置10に出力する。傾きセンサ24は、車両9の傾きを測定するセンサである。傾きセンサ24は、少なくともピッチ方向の角度変化を検出する。傾きセンサ24は、測定した車両9の傾きに関する情報を制御装置10に出力する。ペダル検出部25は、車両9に備えられるアクセルペダルおよびブレーキペダルの踏込量を検出する。ペダル検出部25は、検出した踏込量の情報を不図示の車両制御装置に出力する。
【0014】
制御装置10は、たとえば電子制御装置(Electronic Control Unit)である。制御装置10は、演算部10Aおよび通信部10Bを備える。通信部10Bは、車両9に搭載される他の装置、たとえばインバータ29や電力センサ21などと通信を行う通信モジュールである。通信部10Bはたとえば、IEEE802.3などの通信規格に対応する。
【0015】
制御装置10は、通信部10Bを利用してモータMのロータの角度を検出する回転センサS、車速センサ23、傾きセンサ24、およびペダル検出部25から各種情報を取得する。制御装置10は、この情報を用いて車両9が段差に乗り上げる際のインバータ29の駆動力を補正する処理、すなわち段差対応処理を実行する。段差対応処理については、後に詳述する。
【0016】
演算部10Aは、中央演算装置であるCPU、読み出し専用の記憶装置であるROM、および読み書き可能な記憶装置であるRAMを備え、CPUがROMに格納されるプログラムをRAMに展開して実行することで後述する演算を行う。演算部は、CPU、ROM、およびRAMの組み合わせの代わりに書き換え可能な論理回路であるFPGA(Field Programmable Gate Array)や特定用途向け集積回路であるASIC(Application Specific Integrated Circuit)により実現されてもよい。また演算部は、CPU、ROM、およびRAMの組み合わせの代わりに、異なる構成の組み合わせ、たとえばCPU、ROM、RAMとFPGAの組み合わせにより実現されてもよい。
【0017】
(機能構成)
図2は、制御装置10が有する機能をブロックとして示す機能ブロック図である。制御装置10はその機能として、駆動力情報取得部11-1と、回転情報取得部11-2と、車速情報取得部11-3と、傾斜情報取得部11-4と、踏込量取得部11-5と、推定部12と、補正部13とを備える。駆動力情報取得部11-1、回転情報取得部11-2、車速情報取得部11-3、傾斜情報取得部11-4、および踏込量取得部11-5は、通信部10Bにより実現される。推定部12および補正部13は、演算部10Aにより実現される。
【0018】
駆動力情報取得部11-1は、電力センサ21からモータMに通電する電力の情報を取得する。回転情報取得部11-2は、回転センサSからモータMに内蔵されるロータの回転位置の情報を取得する。車速情報取得部11-3と、車速センサ23から車両9の車速の情報を取得する。傾斜情報取得部11-4は、傾きセンサ24から車両9の傾きの情報を取得する。踏込量取得部11-5は、ペダル検出部25からアクセルペダルおよびブレーキペダルの踏込量の情報を取得する。
【0019】
推定部12は、車両9における段差の乗り超え状態を推定する。推定する段差の乗り越え状態はたとえば、車両9が段差に突き当たって停止している状態、車両9が段差に乗り上げを開始した状態、車両9が段差に乗り上げを完了した状態、などである。補正部13は、推定部12が推定する乗り越え状態に応じてインバータ29が制御する駆動力を補正する。
【0020】
(制御の概要)
図3~
図4は、本実施の形態における制御装置10の制御の概要を示す図である。
図3は、車両9のタイヤWが段差Bを乗り上げる際の時刻t=t0~t40の時系列での動きを示している。時刻t0では、タイヤWが段差Bに近づいている。時刻t10では、タイヤWが段差Bに接して止まっており、時刻t11まで変化がない。時刻t11にはタイヤWの回転が開始し、時刻t20ではタイヤWが段差Bへの乗り上げを行っている最中である。時刻t3ではタイヤWが段差Bへの乗り上げが完了している。時刻t4ではタイヤWが段差Bの上を走行している。なお指令トルクの制御については後述する。
【0021】
図4は、ロータ角θxを累積したロータ角累積値および指令トルクの時系列変化を示す図であり、
図4に示す時刻t0~t4は
図3に示す時刻に対応する。ただし
図4には、
図3には記載していない時刻t12も記載している。
図4の上部に示すロータ角累積値は、車両9が前進してタイヤWが正方向に回転すると増加する。車両9が停止状態、すなわちタイヤWが静止している状態ではロータ角累積値は一定値である。なお
図4の上部には、時刻t11~t12におけるロータ角累積値の詳細を示している。
【0022】
時刻t0において、指令トルクはTs0、ロータ角累積値はθs0である。時刻t0から時刻t10までは、車両9は障害物に接触することなく一定の指令トルクTs0で前進し、タイヤWは正方向に回転を続けるのでロータ角累積値はθs1まで増加する。時刻t10においてタイヤWが段差Bに突き当たり車両9の移動が止まるので、ロータ角累積値はθs1のまま一定となる。タイヤWの回転が停止した時刻t10から指令トルクが増加し、時刻t11にタイヤWが再び回転を開始する。そのため時刻t11にはロータ角累積値はθs1であったが、時刻t12にはロータ角累積値はθs1+θαまで増加している。時刻t11においても指令トルクは増加を続ける。
【0023】
時刻t12に指令トルクが減少に転じる。時刻t12における指令トルクはTs1である。その後、時刻t20を含めて時刻t30まで指令トルクは減少を続け、タイヤWは回転を続ける。タイヤWが段差Bに完全に乗り上げた時刻t30において、指令トルクの減少がTs0の値で止まり、ロータ角累積値はθs3に達する。その後もタイヤWは回転を続けて、時刻t40にはロータ角累積値がθs4に達する。
【0024】
(計算式)
図5は、変数の定義および計算を説明する図である。
図5には、
図3に示した3つの時間帯におけるタイヤWと段差Bの位置関係を示している。本図では、鉛直下向きに発生する重力加速度の方向を明示するために、タイヤWに中心線を付して記載している。すなわち本図における図示上下方向の一点鎖線は鉛直方向を示す。
【0025】
本実施の形態では、タイヤWの表面であって段差Bと接触する点を接触点Cと定義する。さらに、タイヤWの中心Oと接触点Cとを結ぶ線分が、鉛直方向とのなす角を接触角φxと定義し、特に時刻t10~t11における接触角φxを初期接触角φcと定義する。接触角φxは、タイヤWが段差Bに乗り上げる過程で変化する。本実施の形態では、車両9は接触角φxを直接に測定可能なセンサは備えない。接触角φxは、後述するように推定される。初期接触角φcは、段差Bの高さとタイヤWのサイズにより決まる値であり、後述するように演算で求められる。
【0026】
ここで、車両9の重量をM、タイヤWの半径をr、重力加速度をG、車両9の転がり抵抗トルクをTrで表すと、車両9が段差Bに乗り上げる過程における必要な車軸トルクT(x)は次の式1のとおりである。
【0027】
T(x)=G×sin(φx)×M×r+Tr ・・・(式1)
【0028】
すなわち必要な車軸トルクT(x)は、重力加速度Gと、φxの正弦と、車両9の質量と、タイヤWの半径rとの積に、転がり抵抗トルクTrを加えた値となる。この式1を時刻t10~t11に適用し、初期接触角φcにおける必要な車軸トルクT(c)は、次の式2により表される。
【0029】
T(c)=G×sin(φc)×M×r+Tr ・・・(式2)
【0030】
そしてこの式2を変形することで、φcは次の式3のように表される。
【0031】
φc=Asin{ (T(c)-Tr)/ G×M×r } ・・・(式3)
【0032】
ただし式3においてAsinは逆正弦を表す。また本実施の形態において、タイヤWの回転角φと、ロータ角θxとは、係数aおよびオフセット値bを用いて次の式4の関係を有する。
【0033】
φ=a×θx+b ・・・(式4)
【0034】
オフセット値bは、ディファレンシャルギアDが動作することにより様々な値に変化するため、走行開始から目的地に到着するまでの期間において変化する。ただし短距離を直進する、たとえば段差Bの乗り上げ開始から乗り上げ完了の期間では変化がないとみなすことができる。係数aは、モータMに内蔵されるロータのサイズ、ディファレンシャルギアDにおけるギアの比率、タイヤWのサイズなどに影響される。ただしロータおよびタイヤWのサイズは既知であり、ディファレンシャルギアDのギアの比率は制御装置10がリアルタイムに情報を取得可能なステアリング操作に基づくので、係数aは既知の情報として扱うことができる。
【0035】
そのため、時刻t11における車軸トルクT(c)の値を用いて初期接触角φcを算出すれば、時刻t11におけるロータ角θxを一時的に記憶することで、新たに得られるロータ角θxを用いて接触角φxの値を算出できる。
【0036】
(フローチャート)
図6は、制御装置10の段差対応処理を示すフローチャートである。制御装置10はたとえば、車両の速度が所定値以下の場合に
図6に示す段差対応処理を実行する。まずステップS301では制御装置10は、ロータ角θxの値を読み取り、直前に読み取ったロータ角θxからの変化の有無を判断する。制御装置10は、変化があると判断する場合はステップS301に留まり、変化がないと判断する場合はステップS302に進む。なお本ステップにおける変化の有無の判断は、ロータ角θxの出力のゆれを考慮して、所定範囲内の変化は変化なしと判断してもよい。
【0037】
ステップS302では制御装置10は、指令トルクが所定の閾値トルクTthよりも大きいか否かを判断する。閾値トルクTthは、転がり抵抗トルクTr以上の値を有する。制御装置10は、指令トルクが閾値トルクTthよりも大きいと、車両9が段差Bに突き当たって停止していると判断してステップS303に進み、指令トルクが閾値トルクTth以下であると判断する場合はステップS301に戻る。なお本ステップは、車両9が駆動を開始した直後など、車両9を移動させるほどのトルクが発生していない場合に段差対応処理が開始されることを防止することを意図している。
【0038】
ステップS303では制御装置10は、このときのロータ角θxの値を停止時ロータ角θ0として保存する。なお、停止時ロータ角θ0は、
図3におけるθs1に対応する値である。続くステップS304では制御装置10は、インバータ29への駆動指令トルクを微小値ΔTだけ増加させる。
【0039】
続くステップS305では制御装置10は、ロータ角θxと、ステップS303において設定した停止時ロータ角θ0と所定値θαの和とを比較する。θαは、ゼロ以上のあらかじめ定められた値であり、
図3におけるθαと同様である。制御装置10は、θxがθ0とθαの和よりも大きいと判断する場合はタイヤWが段差Bを乗り越えるための回転を開始したと判断してステップS306に進む。制御装置10は、θxがθ0とθαの和以下であると判断する場合はステップS304に戻り指令トルクを増加させる。
【0040】
ステップS306では制御装置10は、ステップS305が肯定判断された際の指令トルクの値、すなわち段差Bを乗り越えるためにタイヤWが回転を開始した際の指令トルクの値を用いて初期接触角φcを算出する。この算出には前述の式3が用いられる。具体的には、ステップS305が肯定判断された際の指令トルクの値を式3におけるT(c)として用いる。
【0041】
続くステップS307では制御装置10は、現在のロータ角θxと、停止時ロータ角θ0と、ステップS306において算出した初期接触角φcとに基づき指令トルクを算出する。具体的には、次に示す式5のように接触角φxを算出し、これを前述の式1に代入して必要な車軸トルクを算出する。
【0042】
φx=φc-a×(θx-θ0) ・・・(式5)
【0043】
すなわち、まずθxとθ0との差分を算出し、これと式4における係数aとの積を算出する。こうして得られた積は、初期接触角φcからの変化分を表すので、初期接触角φcとの差を算出し、接触角φxが得られる。
【0044】
続くステップS308では制御装置10は、ステップS307において算出した接触角φxがゼロ以下であるか否かを判断し、ゼロ以下であると判断する場合は
図6の処理を終了し、接触角φxがゼロよりも大きいと判断する場合はステップS307に戻る。以上が
図6の説明である。
【0045】
上述した第1の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)制御装置10は、車両9に搭載される。車両9は、車両9の駆動力を生じさせる駆動装置であるモータM、モータMに生じさせる駆動力を制御する駆動制御装置であるインバータ29、および車両9が備えるタイヤWの回転位置に関連する情報を測定する回転センサS、を備える。制御装置10は、モータMが生じさせる駆動力に関する情報を取得する駆動力情報取得部11-1と、回転センサSが測定する回転位置に関連する情報を取得する回転情報取得部11-2と、回転位置の変化、および駆動力の情報を用いて、車両9における段差の乗り超え状態を推定する推定部12と、推定部12が推定する乗り越え状態に応じて駆動制御装置が制御する駆動力を補正する補正部13と、を備える。そのため、段差への乗り上げが完了した際の駆動力を低減させ、車速の増加を低減できる。
【0046】
(2)補正部13は、車両9が段差に突き当たって停止していると判断すると駆動力を増加させ(ステップS304)、車両9が段差に乗り上げを開始したと判断すると駆動力を減少させる(ステップS307)。そのため、段差への乗り上げを開始するまでは駆動力を増加させて乗り上げを開始させ、乗り上げが開始されると駆動力を減少させて、乗り上げが完了した際の駆動力を低減させることができる。
【0047】
(3)推定部12は、車両9のタイヤWが段差と接する接触点Cと、タイヤWの中心Oとを結ぶ線分が鉛直方向となす角である接触角φxが推定する(ステップS307)。補正部13は、接触角φxに基づき駆動力を補正する。そのため、接触角φxに応じた最適な駆動力とすることができる。
【0048】
(4)駆動装置はロータを内蔵するモータMである。回転センサSはモータMに内蔵されるロータの回転位置を測定する。回転位置に関連する情報は、ロータの回転位置である。そのため、安価にタイヤWの回転位置に関連する情報を取得できる。前述のとおり、ロータの回転位置とタイヤWの回転位置との相関関係は、ディファレンシャルギアDなどにより変化する。しかし、段差Bへの乗り上げ開始から乗り上げ完了までの期間であれば、両者の相関関係は既知とみなすことができる。
【0049】
(5)駆動装置はモータMである。駆動力情報取得部11-1は、モータMに通電する電力の情報を取得し、推定部12は、その電力の情報を用いてモータMが生成する駆動力を算出する。そのため制御装置10は、インバータ29から駆動力に関する情報を取得することなく、段差への乗り上げが完了した際の駆動力を低減させることができる。
【0050】
(変形例1)
車両9は、傾きセンサ24を備えなくてもよい。また制御装置10は、傾斜情報取得部11-4および踏込量取得部11-5を備えなくてもよい。また駆動力情報取得部11-1は、電力センサ21から電力の情報を取得する代わりに、インバータ29から電力の情報を取得してもよい。
【0051】
(変形例2)
上述した第1の実施の形態では、車両9はモータMを備えた。しかし車両9はモータMの代わりにエンジンを備えてもよい。この場合は、回転センサSはドライブシャフトやタイヤWの回転位置を測定する。この変形例2によれば、本発明をモータMを備えない車両にも適用できる。
【0052】
(変形例3)
補正部13は、車両9が段差に接触する前の車両9の速度に応じて駆動力を補正してもよい。この場合は、補正部13が車両9の速度を常に監視し、車両9が停止する直前の所定期間、たとえば10秒間の平均速度を算出して、その平均速度に対応する指令トルクをステップS307において加算する。
【0053】
この変形例3によれば、次の作用効果が得られる。
(6)制御装置10は、車両9の速度の情報を取得する車速情報取得部11-3を備える。補正部13は、車両9が段差に接触する前の車両9の速度に応じて駆動力を補正する。そのため制御装置10は、車両9の速度を段差Bへの乗り上げの前後で一定に保つことができる。
【0054】
(変形例4)
上述した第1の実施の形態では、車両9が停止した後に動き出した際の駆動力を用いて初期接触角φcを推定し、それ以後のロータ角θxの変化に基づき車両9の段差Bの乗り越え状態を推定した。しかし推定部12は、車両9が備える傾きセンサ22から傾斜情報を取得することで、車両9の段差Bの乗り越え状態を推定してもよい。
【0055】
この変形例4によれば、次の作用効果が得られる。
(7)車両9は、車両9のピッチ方向の傾きを検出する傾きセンサ22を備える。制御装置10は、傾きセンサ22が検出するピッチ方向の傾きの情報である傾斜情報を取得する傾斜情報取得部11-4を備える。推定部12は、傾斜情報を用いて段差の乗り越え状態を推定する。そのため制御装置10は、より確実に段差Bの乗り越え状態を推定することができる。
【0056】
(変形例5)
補正部13は、車両9の乗員によるブレーキペダルの踏込量を考慮してもよい。この場合には制御装置10は、踏込量取得部11-5から車両9のブレーキペダルの踏込量の情報を取得する。そしてステップS307において、ブレーキペダルの踏込量に応じて駆動力を減少させる。なお補正部13は、ステップS304においてもブレーキペダルの踏込量に応じて駆動力を減少させてもよい。
【0057】
この変形例5によれば、次の作用効果が得られる。
(8)車両9は、車両9のブレーキペダルの踏込量を検出するペダル検出部25を備える。制御装置10は、ペダル検出部25から踏込量の情報を取得する踏込量取得部11-5を備える。補正部13は、踏込量に応じて駆動力を減少させる。そのため制御装置10は、車両9の乗員の意思を反映して駆動力を減少させることができる。
【0058】
上述した実施の形態および変形例において、機能ブロックの構成は一例に過ぎない。別々の機能ブロックとして示したいくつかの機能構成を一体に構成してもよいし、1つの機能ブロック図で表した構成を2以上の機能に分割してもよい。また各機能ブロックが有する機能の一部を他の機能ブロックが備える構成としてもよい。
【0059】
上述した各実施の形態および変形例において、プログラムは不図示のROMに格納されるとしたが、プログラムは不揮発性の記憶領域に格納されていてもよい。また、制御装置10が不図示の入出力インタフェースを備え、必要なときに入出力インタフェースと制御装置10が利用可能な媒体を介して、他の装置からプログラムが読み込まれてもよい。ここで媒体とは、例えば入出力インタフェースに着脱可能な記憶媒体、または通信媒体、すなわち有線、無線、光などのネットワーク、または当該ネットワークを伝搬する搬送波やディジタル信号、を指す。また、プログラムにより実現される機能の一部または全部がハードウエア回路やFPGAにより実現されてもよい。
【0060】
上述した実施の形態および変形例は、それぞれ組み合わせてもよい。上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0061】
10…制御装置
10A…演算部
10B…通信部
12…推定部
13…補正部
29…インバータ
B…段差
M…モータ
S…回転センサ
W…タイヤ
ΔT…微小値
θ0…停止時ロータ角
θx…ロータ角
φc…初期接触角
φx…接触角