(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】光演算システム
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20231204BHJP
G06N 3/067 20060101ALI20231204BHJP
G03H 1/02 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
G02B5/18
G06N3/067
G03H1/02
(21)【出願番号】P 2022569707
(86)(22)【出願日】2021-08-18
(86)【国際出願番号】 JP2021030196
(87)【国際公開番号】W WO2022130691
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2020210654
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】日下 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】柏木 正浩
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/009260(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/173383(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0050391(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
G06N 3/067
G03H 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み又は屈折率が互いに独立に設定された複数のセルにより構成された光回折素子であって
、前記複数のセル
の各々は、複数のブロックに分割されており、前記複数のブロックの各々には、第1の光演算を行うように厚み又は屈折率が設定された第1のセルと、第2の光演算を行うように厚み又は屈折率が設定された第2のセルとが、少なくとも含まれている
、光回折素子
と、
前記光回折素子へと入力される信号光を生成する発光装置であって、前記光回折素子の各ブロックに対応する発光セルにより構成された発光装置と、
前記光回折素子から出力される信号光を検出する受光装置であって、前記光回折素子の各セルに対応する受光セルにより構成された受光装置と、を備えている、
ことを特徴とする光演算システム。
【請求項2】
前記光回折素子の各セルは、高さが互いに独立に設定されたピラーにより構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の
光演算システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光演算を行う光回折素子に関する。また、そのような光回折素子を備えた光演算システムに関する。
【背景技術】
【0002】
屈折率が個別に設定された複数のマイクロセルを有し、各マイクロセルを透過した光を相互に干渉させることによって、予め定められた演算を光学的に実行するように設計された光回折素子が知られている。光回折素子を用いた光学的な演算には、プロセッサを用いた電気的な演算と比べて高速且つ低消費電力であるという利点がある。特許文献1には、入力層、中間層、及び出力層を有する光ニューラルネットワークが開示されている。上述した光回折素子は、例えば、このような光ニューラルネットワークの中間層として利用することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の光回折素子は、特定の光演算を実行することしかできない。すなわち、相異なる複数の演算を光学的且つ並列的に実行する光回折素子は実現されていなかった。
【0005】
本発明の一態様は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、相異なる複数の演算を光学的かつ並列的に実行可能な光回折素子を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る光回折素子は、厚み又は屈折率が互いに独立に設定された複数のセルにより構成された光回折素子であって、前記複数のセルは、複数のブロックに分割されており、前記複数のブロックの各々には、第1の光演算を行うように厚み又は屈折率が設定された第1のセルと、第2の光演算を行うように厚み又は屈折率が設定された第2のセルとが、少なくとも含まれている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、相異なる複数の演算を光学的かつ並列的に実行可能な光回折素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る光回折素子の構成を示す平面図である。
【
図2】
図1に示す光回折素子において第1の光演算を実行する部分を示す平面図である。
【
図3】
図1に示す光回折素子において第2の光演算を実行する部分を示す平面図である。
【
図4】
図1に示す光回折素子の一部分を拡大した斜視図である。
【
図5】
図1に示す光回折素子を備えた第1の光演算システムの要部構成を示す斜視図である。
【
図6】
図1に示す光回折素子を備えた第2の光演算システムの要部構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔光回折素子の構成〕
本発明の一実施形態に係る光回折素子1の構成について、
図1~
図4を参照して説明する。
図1は、光回折素子1の平面図である。
図2は、光回折素子1において第1の光演算を行う部分を示す平面図である。
図3は、光回折素子1において第2の光演算を行う部分を示す平面図である。
図4は、光回折素子1の一部分を拡大した斜視図である。
【0010】
光回折素子1は、平板状の光回折素子であり、厚み又は屈折率が互いに独立に設定された複数のマイクロセル(特許請求の範囲における「セル」の一例)により構成されている。ここで、「マイクロセル」とは、例えば、セルサイズが10μm未満のセルのことを指す。また、「セルサイズ」とは、セルの面積の平方根のことを指す。例えば、マイクロセルの平面視形状が正方形である場合、セルサイズとは、セルの一辺の長さである。セルサイズの下限は、特に限定されないが、例えば1nmである。
【0011】
図1に例示した光回折素子1の平面視形状は、12μm×12μmの正方形である。この光回折素子1は、マトリックス状に配置された12×12個のマイクロセルCにより構成されている。各マイクロセルCの平面視形状は、1μm×1μmの正方形である。また、この光回折素子1は、マトリックス状に配置された6×6個のブロックBに分割されている。各ブロックBの平面視形状は、2μm×2μmの正方形である。各ブロックBは、マトリックス状に配置された2×2個のマイクロセルCを含んでいる。
【0012】
光回折素子1の各ブロックBがK個のマイクロセルCにより構成されている場合、光回折素子1によって、最大K個の光演算を実行することができる。ここで、Kは、2以上の任意の自然数である。
図1に例示した光回折素子1は、各ブロックBの左上に位置するマイクロセルC1を透過した光が相互に干渉することによって実現される第1の光演算と、各ブロックBの右上に位置するマイクロセルC2を透過した光が相互に干渉することによって実現される第2の光演算(第1の光演算とは異なる光演算)と、を実行する。光回折素子1において第1の光演算を行うセルC1のみを抽出して示せば、
図2のようになり、光回折素子1において第2の光演算を行うセルC2のみを注して示せば、
図3のようになる。なお、本実施形態では実行しないが、各ブロックBの左下に位置するマイクロセルC3を透過した光が相互に干渉することによって実現される第3の光演算を実行することもできるし、各ブロックBの右下に位置するマイクロセルC4を透過した光が相互に干渉することによって実現される第4の光演算を実行することもできる。なお、信号光が画像を表す場合、第1の光演算及び第2の光演算の具体例としては、例えば、畳み込み演算が挙げられる。
【0013】
光回折素子1を構成する各マイクロセルを透過する光の位相変化量をセル毎に独立に設定する方法としては、(1)マイクロセルの厚みをマイクロセル毎に独立に設定する方法と、(2)マイクロセルの屈折率をマイクロセル毎に独立に選択する方法と、が挙げられる。マイクロセルの屈折率をマイクロセル毎に独立に選択する方法の具体例としては、マイクロセルの材料をマイクロセル毎に独立に選択する方法が挙げられる。本実施形態においては、ナノインプリントにより実現可能な(1)の方法を採用している。この場合、各マイクロセルC1,C2は、
図4に示すように、正方形の底面を有する四角柱状のピラーにより構成される。また、この場合、マイクロセルを透過する光の位相変化量は、このピラーの高さに応じて決まる。すなわち、高さの高いピラーにより構成されるマイクロセルを透過する光の位相変化量は大きくなり、高さの低いピラーにより構成されるマイクロセルを透過する光の位相変化量は小さくなる。
【0014】
光回折素子1の設計は、以下のように行われる。まず、光回折素子1の各ブロックBに光が入射したときに、マイクロセルC1を透過した光が相互に干渉することにより第1の光演算が行われるよう、各ブロックBに含まれるマイクロセルC1の厚み又は屈折率を設定する。この際、各ブロックBに含まれるマイクロセルC2,C3,C4は、マスクされているものとする。次に、光回折素子1の各ブロックBに光が入射したときに、マイクロセルC2を透過した光が相互に干渉することにより第2の光演算が行われるように、各ブロックBに含まれるマイクロセルC2の厚み又は屈折率を設定する。この際、各ブロックBに含まれるマイクロセルC1,C3,C4は、マスクされているものとする。これにより、各ブロックBに光が入射したときに、第1の光演算と第2の光演算とを実行する光回折素子1を実現することができる。
【0015】
なお、各ブロックBに含まれるマイクロセルC1の厚み又は屈折率の設定は、例えば、機械学習を用いて実現することができる。この機械学習において用いられるモデルとしては、例えば、各ブロックBに入射する光の強度分布を入力とし、各ブロックBに含まれるマイクロセルC1を透過した光が相互に干渉することによって生じる光の強度分布を出力とするモデルであって、各ブロックBに含まれるマイクロセルC1の厚み又は屈折率をパラメータとして含むモデルを用いることができる。各ブロックBに含まれるマイクロセルC2の厚み又は屈折率についても、機械学習を用いて同様に実現することができる。
【0016】
〔第1の光演算システムの構成〕
光回折素子1は、異なる光演算を並列的に実行する演算素子として利用することができる。
図5は、光回折素子1を、このような演算素子として利用する光演算システム10Aの要部構成を示す斜視図である。
【0017】
光演算システム10Aは、光回折素子1の他に、発光装置2Aと、受光装置3Aと、を備えている。
【0018】
発光装置2Aは、光回折素子1へと入力される信号光を生成するための装置である。発光装置2Aは、マトリックス状に配置された複数の発光セルを有しており、例えば、2次元ディスプレイにより構成される。発光装置2Aの発光セルと光回折素子1のブロックBとは、1対1に対応している。発光装置2Aの各発光セルから出力された光は、光回折素子1の対応するブロックBに入力される。
【0019】
受光装置3Aは、光回折素子1から出力される信号光を検出するための装置である。受光装置3Aは、マトリックス状に配置された複数の受光セルを有しており、例えば、2次元イメージセンサにより構成される。受光装置3Aの受光セルと光回折素子1のブロックBとは、1対1に対応している。光回折素子1の各マイクロセルC1を透過した光は、主に光回折素子1の他のマイクロセルC1を透過した光と干渉し、受光装置3Aの各受光セルに入力される。同様に、光回折素子1の各マイクロセルC2を透過した光は、主に光回折素子1の他のマイクロセルC2を透過した光と干渉し、受光装置3Aの各受光セルに入力される。
【0020】
したがって、受光装置3Aの各受光セルが検出する信号光は、光回折素子1のマイクロセルC1を透過した光を互いに干渉させることにより得られる第1の光演算の結果と、光回折素子1のマイクロセルC2を透過した光を互いに干渉させることにより得られる第2の演算結果との和を表す。すなわち、光演算システム10Aによれば、異なる複数の光演算を行い、これらの光演算の結果の和を得ることができる。
【0021】
なお、本実施形態においては、光回折素子1から出力される信号光を直ちに受光装置3Aに入力する構成を採用しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、光回折素子1から出力される信号光の光路上に単一の又は複数の他の光回折素子を配置し、この又はこれらの光回折素子を透過した光を受光装置3Aに入力する構成を採用してもよい。この場合、光回折素子1の後段に配置される光回折素子としては、光回折素子1よりも分解能が低い(セルサイズが大きい)光回折素子を用いることが好ましい。
【0022】
〔第2の光演算システムの構成〕
光回折素子1は、異なる光演算を並列的に実行する演算素子として利用することができる。
図6は、光回折素子1を、このような演算素子として利用する光演算システム10Bの要部構成を示す斜視図である。
【0023】
光演算システム10Bは、光回折素子1の他に、発光装置2Bと、受光装置3Bと、を備えている。
【0024】
発光装置2Bは、光回折素子1へと入力される信号光を生成するための装置である。発光装置2Bは、マトリックス状に配置された複数の発光セルを有しており、例えば、2次元ディスプレイにより構成される。発光装置2Bの発光セルと光回折素子1のブロックBとは、1対1に対応している。発光装置2Bの各発光セルから出力された光は、光回折素子1の対応するブロックBに入力される。
【0025】
受光装置3Bは、光回折素子1から出力される信号光を検出するための装置である。受光装置3Bは、マトリックス状に配置された複数の受光セルを有しており、例えば、2次元イメージセンサにより構成される。受光装置3Bの受光セルと光回折素子1のマイクロセルCとは、1対1に対応している。光回折素子1の各マイクロセルC1を透過した光は、主に光回折素子1の他のマイクロセルC1を透過した光と干渉し、受光装置3Bの受光セルのうち、主にマイクロセルC1に対応する各受光セルに入力される。同様に、光回折素子1の各マイクロセルC2を透過した光は、光回折素子1の他のマイクロセルC2を透過した光と干渉し、受光装置3Bの受光セルのうち、主にマイクロセルC2に対応する各受光セルに入力される。
【0026】
したがって、受光装置3Bの受光セルのうち、マイクロセルC1に対応する各受光セルが検出する信号光は、光回折素子1のマイクロセルC1を透過した光を互いに干渉させることにより得られる第1の光演算の結果を表す。一方、受光装置3Bの受光セルのうち、マイクロセルC2に対応する各受光セルが検出する信号光は、光回折素子1のマイクロセルC2を透過した光を互いに干渉させることにより得られる第2の光演算の結果を表す。すなわち、光演算システム10Bによれば、異なる複数の光演算を行い、これらの光演算の結果をそれぞれ得ることができる。
【0027】
なお、本実施形態においては、光回折素子1から出力される信号光を直ちに受光装置3Bに入力する構成を採用しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、光回折素子1から出力される信号光の光路上に単一の又は複数の他の光回折素子を配置し、この又はこれらの光回折素子を透過した光を受光装置3Bに入力する構成を採用してもよい。この場合、光回折素子1の後段に配置される光回折素子としては、光回折素子1よりも分解能が低い(セルサイズが大きい)光回折素子を用いることが好ましい。
【0028】
(まとめ)
本発明の態様1に係る光回折素子は、厚み又は屈折率が互いに独立に設定された複数のセルにより構成された光回折素子であって、前記複数のセルは、複数のブロックに分割されており、前記複数のブロックの各々には、第1の光演算を行うように厚み又は屈折率が設定された第1のセルと、第2の光演算を行うように厚み又は屈折率が設定された第2のセルとが、少なくとも含まれている。
【0029】
上記の構成によれば、相異なる複数の演算を光学的かつ並列的に実行することができる。
【0030】
本発明の態様2に係る光回折素子においては、態様1の構成に加えて、前記光回折素子の各セルは、高さが互いに独立に設定されたピラーにより構成されている、という構成が採用がされている。
【0031】
上記の構成によれば、ナノインプリント技術等を用いて光回折素子を容易に製造することができる。
【0032】
本発明の態様3に係る光演算システムは、態様1又は態様2に係る光回折素子と、前記光回折素子へと入力される信号光を生成する発光装置であって、前記光回折素子の各ブロックに対応する発光セルにより構成された発光装置と、前記光回折素子から出力される信号光を検出する受光装置であって、前記光回折素子の各ブロックに対応する受光セルにより構成された受光装置と、を備えている。
【0033】
上記の構成によれば、相異なる複数の演算の結果の和を光学的に得ることができる。
【0034】
本発明の態様4に係る光演算システムは、態様1又は態様2に係る光回折素子と、前記光回折素子へと入力される信号光を生成する発光装置であって、前記光回折素子の各ブロックに対応する発光セルにより構成された発光装置と、前記光回折素子から出力される信号光を検出する受光装置であって、前記光回折素子の各セルに対応する受光セルにより構成された受光装置と、を備えている。
【0035】
上記の構成によれば、相異なる複数の演算の結果をそれぞれ光学的に得ることができる。
【0036】
〔付記事項〕
本発明は、上述した実施形態に限定されるものでなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、上述した実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0037】
1 光回折素子
B ブロック
C マイクロセル
10A,10B 光演算システム
2A,2B 発光装置
3A,3B 受光装置