(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】鋼製壁の溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 37/047 20060101AFI20231205BHJP
B23K 9/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
B23K37/047 501Z
B23K9/00 501B
(21)【出願番号】P 2019096795
(22)【出願日】2019-05-23
【審査請求日】2022-03-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 勇一
(72)【発明者】
【氏名】古賀 孝博
(72)【発明者】
【氏名】戀塚 正明
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-082790(JP,U)
【文献】特開昭51-024538(JP,A)
【文献】特開2010-037883(JP,A)
【文献】実開昭61-046089(JP,U)
【文献】特開昭63-137597(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0312862(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 37/047
B23K 9/00
E02D 5/00、5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
向きが異なる複数の溶接部を有する鋼製壁の溶接方法であって、
前記鋼製壁の面内方向に延びる回転軸
、及び前記回転軸を軸方向から見て該回転軸の両側に配置されたサポートによって前記鋼製壁を横に寝かした状態で支持し、該鋼製壁の上に載った作業者が前記溶接部を溶接する、
鋼製壁の溶接方法。
【請求項2】
前記回転軸を中心として前記鋼製壁を回転させ、前記溶接部を上側に向けた状態で該溶接部を溶接する、
請求項1に記載の鋼製壁の溶接方法。
【請求項3】
前記回転軸は、前記鋼製壁に着脱可能に取り付けられる、
請求項1又は請求項2に記載の鋼製壁の溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製壁の溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接ロボットによって、コラム部材と仕口パネル部材との外周溶接部を溶接する際に、コラム部材及び仕口パネル部材を回転させる鉄骨柱の溶接方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、作業者が溶接部を溶接する際には、品質や作業性等の観点から下向き溶接が望ましい。
【0005】
しかしながら、例えば、鋼製壁において、向きが異なる複数の溶接部が存在する場合、各溶接部を下向き溶接するためには、溶接部毎に鋼製壁の向きを変える必要があるため、溶接作業に手間がかかる。
【0006】
本発明は、上記の事実を考慮し、向きが異なる複数の溶接部を容易に下向き溶接することができる鋼製壁の溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様に係る鋼製壁の溶接方法は、向きが異なる複数の溶接部を有する鋼製壁の溶接方法であって、前記鋼製壁の面内方向に延びる回転軸によって該鋼製壁を支持した状態で、前記溶接部を溶接する。
【0008】
第1態様に係る鋼製壁の溶接方法によれば、複数の溶接部の向きに応じて、回転軸を中心として鋼製壁を回転させることにより、複数の溶接部を容易に下向き溶接することができる。
【0009】
第2態様に係る鋼製壁の溶接方法は、第1態様に係る鋼製壁の溶接方法において、前記回転軸を中心として前記鋼製壁を回転させ、前記溶接部を上側に向けた状態で該溶接部を溶接する。
【0010】
第2態様に係る鋼製壁の溶接方法によれば、回転軸を中心として鋼製壁を回転させ、溶接部を上側に向けた状態で溶接部を溶接する。これにより、上側を向いた溶接部を容易に下向き溶接することができる。
【0011】
第3態様に係る鋼製壁の溶接方法は、第1態様又は第2態様に係る鋼製壁の溶接方法において、前記回転軸は、前記鋼製壁に着脱可能に取り付けられる。
【0012】
第3態様に係る鋼製壁の溶接方法によれば、回転軸は、鋼製壁に着脱可能に取り付けられる。これにより、複数の溶接部の溶接後に、鋼製壁から回転軸を容易に取り外すことができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明に係る鋼製壁の溶接方法によれば、向きが異なる複数の溶接部を、容易に下向き溶接することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態に係る鋼製壁が架構の構面内に設置された状態を示す立面図(正面図)である。
【
図3】
図1に示される鋼製壁が一対の回転架台に支持された状態を示す立面図(正面図)である。
【
図4】
図3に示される鋼製壁を構成する複数の分割壁体の接合部を示す斜視図である。
【
図5】一実施形態に係る鋼製壁が平台車に載せられた状態を示す側面図である。
【
図6】回転軸及びブラケットを示す
図3の一部拡大立面図である。
【
図7】回転軸及びブラケットを示す
図6の平面図(上面図)である。
【
図8】
図5に示される鋼製壁をチェーンブロックで吊り上げた状態を示す側面図である。
【
図9】
図8に示される鋼製壁を回転架台の上に設置した状態を示す側面図である。
【
図10】
図9に示される鋼製壁を回転させ、寝かした状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、一実施形態に係る鋼製壁の溶接方法について説明する。
【0016】
(鋼製壁)
先ず、本実施形態に係る鋼製壁20の構成について説明する。
図1及び
図2には、本実施形態に係る鋼製壁20が示されている。鋼製壁20は、例えば、耐力壁や耐震壁とされている。この鋼製壁20は、架構10の構面内に配置されている。なお、架構10は、一対の柱12と、一対の柱12に架設された上下の梁14とを有している。
【0017】
鋼製壁20は、格子状体24と、複数の板状部材32とを有している。格子状体24は、複数の縦材26及び横材28を有している。複数の縦材26及び横材28は、鋼板等の金属板によって形成されている。これらの縦材26及び横材28は、溶接(隅肉溶接)によって格子状に接合されている。
【0018】
格子状体24は、縦材26及び横材28によって囲まれた複数の開口部30を有している。複数の開口部30は、矩形状に形成されている。これらの開口部30の一部には、板状部材32が設けられている。
【0019】
複数の板状部材32は、鋼板等の金属板によって、矩形の板状に形成されている。各板状部材32は、開口部30内に配置されており、その外周部が格子状体24に溶接(隅肉溶接)によって接合されている。これらの板状部材32によって、複数の開口部30の一部が塞がれている。
【0020】
複数の板状部材32は、市松模様状(千鳥状)に配列されている。つまり、格子状体24では、板状部材32が設けられた開口部30と、板状部材32が設けられていない開口部30とが、格子状体24の横幅方向(矢印W方向)及び高さ方向(矢印H方向)に交互に配列されている。なお、板状部材32の数や配置は、適宜変更である。
【0021】
格子状体24の外周面には、複数の壁側フランジ34が設けられている。複数の壁側フランジ34は、架構10の内周面に設けられた複数の架構側フランジ16に重ねられた状態で、それぞれボルト接合されている。これにより、鋼製壁20が架構10に接合されている。
【0022】
なお、架構10に対する鋼製壁20の接合構造は、ボルト接合に限らず、例えば、溶接接合でもよい。
【0023】
(鋼製壁の溶接方法)
次に、鋼製壁の溶接方法の一例について説明する。
【0024】
図3に示されるように、鋼製壁20は、運搬性や揚重性等の観点から、横幅方向に分割された複数(本実施形態では、3つ)の分割壁体22を有している。隣り合う分割壁体(分割ピース)22は、例えば、現場において溶接される。これにより、鋼製壁20が形成される。
【0025】
ここで、
図4に示されるように、隣り合う分割壁体22の接合部には、向きが異なる複数の溶接部が含まれている。具体的には、隣り合う分割壁体22のうち、一方の分割壁体22の端部(以下、「接合端部」という)には縦材26が設けられ、他方の分割壁体22の端部(以下、「接合端部」という)には、縦材が設けられていない。
【0026】
他方の分割壁体22の接合端部を形成する横材28の端部は、一方の分割壁体22の縦材26の表面26Sに突き当てられた状態で、その両面(表裏面)28A,28Bが鋼製壁20の高さ方向(矢印H方向)の両側から縦材26の表面26Sに溶接(隅肉溶接)される。また、他方の分割壁体22の接合端部を形成する板状部材32の端部は、一方の分割壁体22の縦材26の表面26Sに突き当てられた状態で、その両面(表裏面)32A,32Bが鋼製壁20の壁厚方向(矢印T方向)の両側から溶接(隅肉溶接)される。
【0027】
このように隣り合う分割壁体22の接合部では、縦材26の表面26Sに対する横材28の両面28A,28B、及び板状部材32の両面32A,32Bの溶接方向、すなわち溶接部の向きが異なっている。そのため、以下では、隣り合う分割壁体22の接合部の溶接方法を例に、本実施形態に係る鋼製壁の溶接方法について説明する。
【0028】
先ず、
図5に示されるように、平台車90の上に、複数の分割壁体22を寝かした状態で位置決めし、隣り合う分割壁体22の外周部の横材28同士を仮溶接(仮組溶接)する。これにより、仮組み状態の鋼製壁20を形成する。
【0029】
次に、仮組み状態の鋼製壁20の横幅方向の両端部に、回転軸40をそれぞれ着脱可能に取り付ける。具体的には、
図6及び
図7に示されるように、回転軸40は、軸部42と、一対のフランジ部44,46とを有している。軸部42は、円筒状に形成されている。この軸部42の軸方向の両端部には、一対のフランジ部44,46が設けられている。
【0030】
一対のフランジ部44,46は、円盤状に形成されている。この一対のフランジ部44,46は、軸部42の軸方向の両端部から鍔状に張り出している。また、一対のフランジ部44,46のうち、一方のフランジ部46には、ブラケット50が設けられている。
【0031】
図7に示されるように、ブラケット50は、互いに対向する一対の取付プレート52と、一対の取付プレート52を補強する複数の補強リブ54とを有している。この一対の取付プレート52の間には、鋼製壁20の外周面に設けられた壁側フランジ34が挿入される。この状態で、一対の取付プレート52及び壁側フランジ34を、ボルト56及びナット58によって接合する。これにより、鋼製壁20の横幅方向の端部に、鋼製壁20の面内方向に延びる回転軸40が着脱可能に取り付けられる。
【0032】
次に、
図5及び
図8に示されるように、梁等の躯体18に取り付けられたチェーンブロック92によって仮組み状態の鋼製壁20を吊り上げ、
図9に示されるように、鋼製壁20に取り付けられた一対の回転軸40を一対の回転架台60にそれぞれ支持させる。
【0033】
一対の回転架台60は、仮組み状態の鋼製壁20の横幅方向の両側に配置される。各回転架台60は、架台本体部62と、軸支持部80とを有している。架台本体部62は、一対の支柱64と、一対の支柱64を連結する上側連結材66及び下側連結材68と、一対の支柱64の転倒を防止する複数の転倒防止材70とを有している。
【0034】
図6及び
図7に示されるように、架台本体部62の上側連結材66には、回転軸40の軸部42を回転可能に支持する軸支持部80が設けられている。軸支持部80は、軸受けベース82と、一対のストッパ84とを有している。
【0035】
軸受けベース82は、板状に形成されている。また、軸受けベース82は、上側連結材66の長手方向の中央部の上面66Uに重ねられた状態で溶接等によって固定されている。この軸受けベース82によって、上側連結材66の長手方向の中央部が補強されている。
【0036】
軸受けベース82の上には、回転軸40の軸部42が載置される。この際、
図6に示されるように、回転軸40の一対のフランジ部44,46の間に、軸受けベース82及び上側連結材66が配置される。これにより、一対のフランジ部44,46によって、軸受けベース82から軸部42の脱落が抑制される。
【0037】
図7及び
図9に示されるように、軸受けベース82に対する上側連結材66の長手方向の両側には、一対のストッパ84が配置されている。一対のストッパ84は、略三角形の板状に形成されている。また、一対のストッパ84は、上側連結材66の上面66Uに立てられた状態で溶接等によって固定されている。さらに、一対のストッパ84の間に、回転軸40の軸部42が配置される。この一対のストッパ84によって、軸受けベース82から軸部42の脱落が抑制される。
【0038】
このように一対の回転架台60によって支持された仮組み状態の鋼製壁20を、一対の回転軸40を中心として回転させ、隣り合う分割壁体22の接合端部を溶接(本溶接)する。
【0039】
具体的には、例えば、
図3に示されるように、仮組み状態の鋼製壁20を立てた状態で図示しないチェーンブロック等によって固定する。これにより作業者は、一方の分割壁体22の縦材26の表面26Sに対し、他方の分割壁体22の横材28の両面28A,28B(
図4参照)の一方を下向き溶接することができる。
【0040】
また、
図3において、仮組み状態の鋼製壁20の上下を反転させることにより、作業者は、一方の分割壁体22の縦材26の表面26Sに対し、他方の分割壁体22の横材28の両面28A,28B(
図4参照)の他方を下向き溶接することができる。
【0041】
また、例えば、
図10に示されるように、仮組み状態の鋼製壁20を横に寝かした状態で、サポート86等によって固定する。これにより、作業者は、仮組み状態の鋼製壁20の上から、一方の分割壁体22の縦材26の表面26Sに対し、他方の分割壁体22の板状部材32の両面32A,32B(
図4参照)の一方を下向き溶接することができる。
【0042】
また、
図10において、仮組み状態の鋼製壁20の表裏を反転させることにより、作業者は、仮組み状態の鋼製壁20の上から、一方の分割壁体22の縦材26の表面26Sに対し、他方の分割壁体22の板状部材32の両面32A,32Bの他方を下向き溶接することができる。
【0043】
以上の手順を繰り返し、隣り合う分割壁体22の接合部を溶接(本溶接)することにより、鋼製壁20が形成される。その後、鋼製壁20は、
図1及び
図2に示されるように、架構10に構面内に設置される。
【0044】
(効果)
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0045】
本実施形態では、仮組み状態の鋼製壁20に取り付けられた一対の回転軸40を、一対の回転架台60によって回転可能に支持した状態で、隣り合う分割壁体22の溶接部を溶接(本溶接)する。そのため、隣り合う分割壁体22の溶接部の向きに応じて、仮組み状態の鋼製壁20を一対の回転軸40を中心として回転させることにより、向きが異なる複数の溶接部を下向き溶接することができる。
【0046】
より具体的には、一対の回転軸40を中心として仮組み状態の鋼製壁20を回転させ、他方の分割壁体22の接合端部を形成する横材28の両面28A,28B、及び板状部材32の両面32A,32Bの何れかを上側に向けた状態で、一方の分割壁体22の接合端部を形成する縦材26の表面26Sに溶接する。これにより、作業者は、横材28の両面28A,28B、及び板状部材32の両面32A,32Bを、縦材26の表面26Sに容易に下向き溶接することができる。したがって、隣り合う分割壁体22の接合部の溶接品質、及び意匠性を高めることができる。
【0047】
ここで、隣り合う分割壁体22の他の接合構造(比較例)として、隣り合う分割壁体22の接合端部に縦材26をそれぞれ設け、これらの縦材26の表面26Sを重ね合せた状態で溶接やボルト接合することが考えられる。しかしながら、この場合、隣り合う分割壁体22の接合部において2枚の縦材26が重なり、他の部位よりも縦材26が厚くなるため、意匠性が低下する可能性がある。
【0048】
これに対して本実施形態では、隣り合う分割壁体22の接合部において2枚の縦材26を重ね合せない。そのため、隣り合う分割壁体22の接合部の縦材26の厚みが、他の部位の縦材26よりも厚くならないため、意匠性が向上する。
【0049】
さらに、本実施形態では、一対の回転軸40は、鋼製壁20に着脱可能に取り付けられる。これにより、複数の溶接部の溶接後に、鋼製壁20から一対の回転軸40を容易に取り外すことができる。
【0050】
(変形例)
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0051】
上記実施形態に係る鋼製壁の溶接方法は、隣り合う分割壁体22の接合部に適用されている。しかしながら、上記実施形態に係る鋼製壁の溶接方法は、例えば、縦材26と横材28との溶接部に適用してもよいし、格子状体24に対する板状部材32の溶接部に適用してもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、鋼製壁20が複数の分割壁体22に分割されている。しかしながら、鋼製壁は、複数の分割壁体に分割されなくてもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、鋼製壁20に一対の回転軸40が着脱可能に取り付けられる。しかしながら、一対の回転軸40は、鋼製壁20に一体(着脱不能)に設けられてもよい。
【0054】
また、上記実施形態における回転架台60、及び回転軸40の構成は、適宜変更可能である。
【0055】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0056】
20 鋼製壁
40 回転軸