(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】建物の連結方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20231205BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
E04G23/02 J ESW
E04H9/02 301
E04H9/02 331Z
(21)【出願番号】P 2019219901
(22)【出願日】2019-12-04
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】飯野 夏輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 庸介
(72)【発明者】
【氏名】前田 周作
(72)【発明者】
【氏名】川村 聡
(72)【発明者】
【氏名】岩間 和博
(72)【発明者】
【氏名】本山 真帆
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅史
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-237130(JP,A)
【文献】特開2009-007881(JP,A)
【文献】特開2004-285691(JP,A)
【文献】特開2001-279934(JP,A)
【文献】特開2011-174298(JP,A)
【文献】特開2010-203192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/00-23/08
E04H 9/00- 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物に隣接して新築建物を構築する工程と、
前記既存建物から
免震装置又は制振装置を撤去する工程と、
前記
免震装置又は前記制振装置を撤去する前又は撤去した後に前記既存建物と前記新築建物とを連結部材で連結する工程と、
を備え、
前記連結部材は、撤去された前記免震装置、新規に用意した免震装置、撤去された前記制振装置又は新規に用意した制振装置である、
建物の連結方法。
【請求項2】
前記連結部材は、撤去された前記
免震装置又は前記制振装置とされている、請求項1に記載の建物の連結方法。
【請求項3】
撤去する前記
免震装置又は前記制振装置の数及び設置する前記連結部材の数を、それぞれパラメータとして入力する工程と、
前記パラメータに基づいて所定の地震波における前記既存建物及び前記新築建物それぞれの応答を算出する工程と、
複数の前記パラメータの組み合わせに基づいて算出された複数の応答から、撤去する前記
免震装置又は前記制振装置の数及び設置する前記連結部材の数を決定する工程と、
を備えた、
請求項1又は請求項2に記載の建物の連結方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の連結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、2つの免震構造物における上部構造体の上端部同士と下端部同士とを剛性部材で連結した隣接構造物の連結構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に示された隣接構造物の連結構造では、隣接する2つの免震構造物は剛性部材で連結されているため、地震時における建物間の相対変位である「棟間変位」を低減することができる。一方で、それぞれの免震周期が大きく異なる場合には、連結することによりいずれかの免震構造物に生じる層せん断力が大きくなる可能性がある。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、既存建物に隣接して新築建物を構築する際に、連結部材により既存建物と新築建物との棟間変位を低減することに加えて、既存建物の免震周期を調整することにより既存建物に生じる層せん断力を小さくできる建物の連結方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の建物の連結方法は、既存建物に隣接して新築建物を構築する工程と、前記既存建物から免震装置又は制振装置を撤去する工程と、前記免震装置又は制振装置を撤去する前又は撤去した後に前記既存建物と前記新築建物とを連結部材で連結する工程と、を備え、前記連結部材は、撤去された前記免震装置、新規に用意した免震装置、撤去された前記制振装置又は新規に用意した制振装置である。
【0007】
請求項1の建物の連結方法によると、既存建物と新築建物とを連結部材で連結するため、建物間距離の相対的な変位である棟間変位が小さくなる。また、既存建物からは剛性部材が撤去される。これにより、既存建物の免震周期が長周期化し、地震時に生じる加速度が小さくなる。このため既存建物に生じる層せん断力が小さくなる。
【0008】
請求項2の建物の連結方法は、請求項1に記載の建物の連結方法において、前記連結部材は、撤去された前記免震装置又は前記制振装置とされている。
【0009】
請求項2の建物の連結方法によると、既存建物から撤去された剛性部材が連結部材として再利用される。これにより、連結部材を全て新調する場合と比較して省資源化できる。
【0010】
請求項3の建物の連結方法は、請求項1又は請求項2に記載の建物の連結方法において、撤去する前記免震装置又は前記制振装置の数及び設置する前記連結部材の数を、それぞれパラメータとして入力する工程と、前記パラメータに基づいて所定の地震波における前記既存建物及び前記新築建物それぞれの応答を算出する工程と、複数の前記パラメータの組み合わせに基づいて算出された複数の応答から、撤去する前記免震装置又は前記制振装置の数及び設置する前記連結部材の数を決定する工程と、を備えている。
【0011】
請求項3の建物の連結方法によると、撤去する剛性部材の数及び設置する連結部材の数に基づいて、所定の地震波における既存建物及び新築建物それぞれの応答が算出される。そして、複数の応答算出結果から、撤去する剛性部材の数及び設置する連結部材の数が決定される。このため、既存建物及び新築建物それぞれの応答を最適化できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、連結部材により既存建物と新築建物との棟間変位を低減することに加えて、既存建物の免震周期を調整することにより既存建物に生じる層せん断力を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(A)は本発明の実施形態に係る建物の連結方法において、既存建物が構築された状態を示す立面図であり、(B)は既存建物に隣接して新築建物を構築した状態を示す立面図であり、(C)は既存建物と新築建物とを連結部材で連結した状態を示す立面図である。
【
図2】(A)はダンパー撤去台数及び連結部ダンパー設置台数に応じた既存建物と新築建物との棟間変位の算出結果を示すグラフであり、(B)はダンパー撤去台数及び連結部ダンパー設置台数に応じた既存建物の免震変位の算出結果を示すグラフである。
【
図3】(A)はダンパー撤去台数及び連結部ダンパー設置台数に応じた新築建物の非連結時に対する層せん断力倍率の算出結果を示すグラフであり、(B)はダンパー撤去台数及び連結部ダンパー設置台数に応じた既存建物の非連結時に対する層せん断力倍率の算出結果を示すグラフである。
【
図4】(A)は
図2(A)のグラフにおいて、決定したダンパー撤去台数及び連結部ダンパー設置台数を示したグラフであり、(B)は
図2(B)のグラフにおいて、決定したダンパー撤去台数及び連結部ダンパー設置台数を示したグラフである。
【
図5】(A)は
図3(A)のグラフにおいて、決定したダンパー撤去台数及び連結部ダンパー設置台数を示したグラフであり、(B)は
図3(B)のグラフにおいて、決定したダンパー撤去台数及び連結部ダンパー設置台数を示したグラフである。
【
図6】本発明の実施形態に係る建物の連結方法において、コンピュータに入力するパラメータの一例としての既存建物及び新築建物の構造条件を示す模式図である。
【
図7】は本発明の実施形態に係る建物の連結方法において、既存建物を制振建物とし、新築建物を耐震建物とした変形例を示す立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る建物の連結方法について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において構成を省略する又は異なる構成と入れ替える等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0015】
<構造物の連結方法>
本発明の実施形態における建物の連結方法は、一例として、
図1(A)~(C)に示すように、既存の免震建物20に隣接して、新築の免震建物30を構築する場合に適用される。
【0016】
具体的には、
図1(A)に示すように、地盤Gには既存建物として免震建物20が構築されている。免震建物20においては、地盤Gの上に複数の免震装置22が載置され、免震装置22の上方に上部構造体24が構築されている。また、地盤Gの上には、免震装置22に加えて、上部構造体24の荷重を支える免震装置(免震支承、不図示)が載置されている。
【0017】
なお、地盤Gと免震装置22との間には、図示しない基礎床版等が構築されている(所謂基礎免震構造)。あるいは、地盤Gと免震装置22との間には、下部構造体が構築されていてもよい(所謂中間層免震構造)。
【0018】
次に
図1(B)に示すように、免震建物20に隣接して、新築建物として免震建物30を構築する。免震建物30は、免震建物20と同様に、複数の免震装置32を備え、これらの免震装置32の上方に上部構造体34が構築されている。なお、免震建物30も、この図に示されるように基礎免震構造としてもよいし、中間層免震構造としてもよい。
【0019】
次に
図1(C)に破線で示すように、免震建物20から免震装置22の一部を撤去する。そして、この撤去した免震装置22の一部又は全てを用いて、免震建物20と免震建物30とを連結する。
【0020】
<連結部材>
上述したように、本実施形態において免震建物20と免震建物30とを連結するために用いられる「連結部材」は、免震建物20の免震装置22を「転用」したものである。
【0021】
連結部材として転用される(免震建物20から撤去される)免震装置22としては、免震建物20の上部構造体24の荷重を「支持しない」(すなわち、設計上、支持力を考慮しない)もののほか、免震建物20の上部構造体24の荷重を「支持する」ものを適用することができる。
【0022】
まず、免震建物20の上部構造体24の荷重を「支持しない」免震装置22の一例としては、「免震ダンパー」が用いられる。免震ダンパーとしては、履歴減衰型のダンパーを用いることが好適である。履歴減衰型のダンパーとしては、鋼材ダンパー(U型ダンパー、鋼棒ダンパー)及び鉛ダンパー等を用いることができる。
【0023】
また、連結部材として転用される免震ダンパーとしては、粘性減衰型のオイルダンパーや、摩擦減衰型の摩擦ダンパーを用いることもできる。
【0024】
次に、免震建物20の上部構造体24の荷重を「支持する」免震装置22の一例としては、「免震支承材」が用いられる。免震支承材としては、例えば鉛入り積層ゴムや、天然積層ゴムを用いたものが挙げられる。
【0025】
なお、免震建物20から、上部構造体24の荷重を「支持する」免震支承材を撤去した場合、代わりの免震支承材を設置する。例えば鉛入り積層ゴム(剛性が高い)で形成された免震支承材を撤去して、天然積層ゴム(剛性が低い)で形成された免震支承材を設置する。これにより、上部構造体24の荷重を支持しつつ、免震建物20の免震周期を長期化できる。
【0026】
このように、免震装置22は、「免震ダンパー」及び「免震支承材」を何れも含むものである。また、これらの「免震ダンパー」及び「免震支承材」は、本発明における「剛性部材」の一例である。このように、本発明に係る剛性部材は、地震に対して抵抗力を発揮するものであればよい。
【0027】
なお、免震建物20には、連結部材として「転用する」免震装置22に加えて、連結部材として「転用しない」免震装置を設置することもできる。連結部材として転用しない免震装置としては、上述した免震ダンパーの他、積層ゴム支承、すべり支承、転がり支承等を用いることができる。
【0028】
また、免震建物20と免震建物30とを連結する連結部材としては、必ずしも免震建物20から撤去した免震装置22を「転用」して用いる必要はない。例えば連結部材としては、「新規に」用意した免震装置を用いてもよい。この場合、連結部材は、免震装置22の撤去前及び撤去後の何れのタイミングでも設置できるため、工程計画が組み易い。
【0029】
さらに、免震建物20から撤去した免震装置22を転用しない場合、連結部材としては必ずしも免震装置を用いる必要はない。例えば免震装置に代えて、「制振装置」を用いてもよい。連結部材として用いる制振装置としては、履歴減衰型ダンパー、粘性減衰型ダンパーなどを用いることができる。
【0030】
<連結部材の設置数の決定方法>
次に、連結部材の設置数の決定方法の一例について説明する。以下の例においては、免震建物20の免震装置22としてU型ダンパーを用い、連結部材として免震装置22と同仕様のU型ダンパーを設置する。
【0031】
なお、連結部材として使用するU型ダンパーは、免震建物20から撤去して転用した免震装置22でもよいし、新規に用意したものでもよい。
【0032】
免震装置22の撤去数(以下、「ダンパー撤去台数」と称す)と、連結部材としてのU型ダンパーの設置数(以下、「連結部ダンパー設置台数」と称す)は、図示しないコンピュータを用いて計算された情報に基づいて決定される。コンピュータは、例えばCPU(Central Processing Unit:プロセッサ)、一時記憶領域としてのメモリ、不揮発性の記憶部、キーボードとマウス等の入力部、液晶ディスプレイ等の表示部、媒体読み書き装置(R/W)、通信インタフェース(I/F)部及び外部I/F部等を備えている。媒体読み書き装置は、記録媒体に書き込まれている情報の読み出し及び記録媒体への情報の書き込みを行う。
【0033】
ダンパー撤去台数及び連結部ダンパー設置台数を決定するためには、まず、設計者がコンピュータに、所定の地震波、免震建物20及び免震建物30の構造条件をパラメータとして入力する。
【0034】
次に、コンピュータが、入力されたパラメータに基づいて、ダンパー撤去台数及び連結部ダンパー設置台数に応じた免震建物20及び免震建物30それぞれの応答を算出する。
【0035】
具体的には、コンピュータは記憶部に記憶された「棟間変位計算プログラム」を読み出してメモリに展開し、棟間変位計算プログラムが有するプロセスを順次実行する。これにより、
図2(A)に示すように、ダンパー撤去台数及び連結部ダンパー設置台数に応じた応答として、免震建物20と免震建物30との棟間変位Xが算出される。
【0036】
なお、「棟間変位」とは、地震時における免震建物20と免震建物30との離間距離の変位の最大値である。すなわち、免震建物20と免震建物30とが相対的に大きく変位するとこの値は大きくなる。一方で、免震建物20と免震建物30との相対的な変位が小さいと、この値は小さくなる。換言すると、免震建物20と免震建物30とがばらばらに動けばこの値は大きくなり、同調して動けばこの値は小さくなる。
【0037】
したがって、この棟間変位Xは小さいほうが好ましい。すなわち
図2(A)に示す領域E1(棟間変位X<14)、E2(14≦X<16)、E3(16≦X<19)、E4(X≧19)に示されるように、ダンパー撤去台数及び連結部ダンパー設置台数の組み合わせは、領域E1、E2、E3、E4の順に好ましい。
【0038】
また、コンピュータは記憶部に記憶された「既存棟免震変位計算プログラム」を読み出してメモリに展開し、既存棟免震変位計算プログラムが有するプロセスを順次実行する。これにより、
図2(B)に示すように、ダンパー撤去台数及び連結部ダンパー設置台数に応じた応答として、既存棟である免震建物20の免震変位(地震時における最大変位)d(以下、「既存棟免震変位d」と称す場合がある)が算出される。
【0039】
地震時における免震建物20の安全性という観点から、この免震変位dは小さいほうが好ましい(大き過ぎなければよい。例えばd<38であればよい)。すなわち
図2(B)に示す領域F1(免震変位d<28)、F2(28≦d<30)、F3(30≦d<33)、F4(33≦d<38)に示されるように、ダンパー撤去台数及び連結部ダンパー設置台数の組み合わせは、領域F1、F2、F3、F4の順に好ましい。
【0040】
さらに、コンピュータは記憶部に記憶された「新築棟層せん断力倍率計算プログラム」を読み出してメモリに展開し、新築棟層せん断力倍率計算プログラムが有するプロセスを順次実行する。これにより、
図3(A)に示すように、ダンパー撤去台数及び連結部ダンパー設置台数に応じた応答として、新築棟である免震建物30に作用する層せん断力(地震時における最大値)の倍率C1(以下、「層せん断力倍率C1」又は「新築棟層せん断力倍率C1」と称す)が算出される。
【0041】
なお、この「倍率」とは、「免震建物20と免震建物30とを、連結部材で連結した場合において免震建物30に作用する層せん断力」の、「免震建物20と免震建物30とを連結しない場合において免震建物30に作用する層せん断力」に対する倍率のことである。
【0042】
免震建物30の耐震性という観点から、この層せん断力倍率C1は小さいほうが好ましい(大き過ぎなければよい。例えばC1<1.10であればよい)。すなわち
図3(A)に示す領域G1(層せん断力倍率C1<1.03)、G2(1.03≦C1<1.05)、G3(1.05≦C1<1.10)、G4(C1≧1.10)に示されるように、ダンパー撤去台数及び連結部ダンパー設置台数の組み合わせは、領域G1、G2、G3、G4の順に好ましい。
【0043】
なお、層せん断力倍率C1>1の場合、「免震建物20と免震建物30とを連結した場合において免震建物30に作用する層せん断力」が、「免震建物20と免震建物30とを連結しない場合において免震建物30に作用する層せん断力」より大きい。このような場合においても、層せん断力倍率C1が大き過ぎなければ(例えば上述したようにC1<1.10であれば)、新築棟である免震建物30の構造条件を調整することで、免震建物30に必要な耐震性は確保できる。
【0044】
またさらに、コンピュータは記憶部に記憶された「既存棟層せん断力倍率計算プログラム」を読み出してメモリに展開し、既存棟層せん断力倍率計算プログラムが有するプロセスを順次実行する。これにより、
図3(B)に示すように、ダンパー撤去台数及び連結部ダンパー設置台数に応じた応答として、既存棟である免震建物20に作用する層せん断力(地震時における最大値)の倍率C2(以下、「層せん断力倍率C2」又は「既存棟層せん断力倍率C2」と称す)が算出される。
【0045】
なお、この「倍率」とは、「免震建物20と免震建物30とを、連結部材で連結した場合において免震建物20に作用する層せん断力」の、「免震建物20と免震建物30とを連結しない場合において免震建物20に作用する層せん断力」に対する倍率のことである。
【0046】
免震建物20の耐震性という観点から、この層せん断力倍率C2は小さいほうが好ましい。すなわち
図3(B)に示す領域H1(層せん断力倍率C2<0.91)、H2(0.91≦C2<0.93)、H3(0.93≦C2<0.98)、H4(C2≧0.98)に示されるように、ダンパー撤去台数及び連結部ダンパー設置台数の組み合わせは、領域H1、H2、H3、H4の順に好ましい。
【0047】
以上説明したように、コンピュータは、入力されたパラメータに基づいて、ダンパー撤去台数及び連結部ダンパー設置台数に応じた免震建物20及び免震建物30それぞれの応答、すなわち、「棟間変位X」、「既存棟免震変位d」、「新築棟層せん断力倍率C1」及び「既存棟層せん断力倍率C2」を算出する。また、必要に応じて、免震建物20及び免震建物30それぞれの「加速度」や「層間変形角」を算出する。
【0048】
設計者は、「棟間変位X」、「既存棟免震変位d」、「新築棟層せん断力倍率C1」、「既存棟層せん断力倍率C2」、「加速度」及び「層間変形角」を適宜考慮に入れて、ダンパー撤去台数及び連結部ダンパー設置台数の組み合わせを決定する。
【0049】
例えば、設計者は、「既存棟免震変位d」及び「新築棟層せん断力倍率C1」をなるべく大きくしない範囲で、「棟間変位X」及び「既存棟層せん断力倍率C2」を小さくできるダンパー撤去台数及び連結部ダンパー設置台数の組み合わせを決定する。例えば設計者は、
図4(A)、(B)、
図5(A)、(B)に大きな(他の点と比較して大きな)黒丸で示すように、ダンパー撤去台数を「25」、連結部ダンパー設置台数を「5」と決定する。
【0050】
これにより、
図4(A)に示すように、「棟間変位X」は領域E1に含まれる値となる。したがって棟間変位Xが領域E2、E3、E4に含まれる値である場合と比較して棟間変位Xを小さくできる。
【0051】
また、
図4(B)に示すように、「既存棟免震変位d」は領域F3に含まれる値となる。したがって、既存棟免震変位dが領域F4に含まれる値である場合と比較して既存棟免震変位dを小さくできる(大きくなり過ぎることを抑制できる)。
【0052】
さらに、
図5(A)に示すように、「新築棟層せん断力倍率C1」は領域G3に含まれる値となる。したがって、新築棟層せん断力倍率C1が領域G4に含まれる値である場合と比較して新築棟層せん断力倍率C1を小さくできる(大きくなり過ぎることを抑制できる)。
【0053】
またさらに、「既存棟層せん断力倍率C2」は領域H1に含まれる値となる。したがって既存棟層せん断力倍率C2が領域H2、H3、H4に含まれる値である場合と比較して既存棟層せん断力倍率C2を小さくできる。
【0054】
なお、コンピュータには、上述した「所定の地震波」として、所定の地震によって免震建物20及び免震建物30が地盤から加えられる加速度を入力する。この加速度としては、例えばS波(主要動)の最大値を入力する。あるいは、経時的に変化する加速度を断続的に入力する。所定の地震波としては、例えば、1940年のエル・セントロ地震において観測された地震波、1952年のカーン・カントリー地震において観測された地震波(タフト波)、人工地震動告示ランダム02、告示神戸及び告示釧路等が挙げられる。これらの地震波は、予めコンピュータの記憶部に記憶されている。
【0055】
本実施形態においては、コンピュータは、これらの5つの地震波のうち、「棟間変位X」、「既存棟免震変位d」、「新築棟層せん断力倍率C1」及び「既存棟層せん断力倍率C2」が最大値となる地震波を採用する。すなわち、
図2~5に示された「棟間変位X」、「既存棟免震変位d」、「新築棟層せん断力倍率C1」及び「既存棟層せん断力倍率C2」の値は、上記の5つの地震波をパラメータとして入力して算出された5つの値のうちの最大値が示されている。
【0056】
また、上述した「免震建物20及び免震建物30の構造条件」とは、地震力に対する免震建物20及び免震建物30の変形特性を示す諸条件である。具体的には、免震建物20及び免震建物30それぞれの階数、免震建物20と免震建物30との連結位置、これらの建物を構成する柱及び梁から成る層剛性や各層の質量等が挙げられる。
【0057】
なお、上記のコンピュータによる免震建物20及び免震建物30それぞれの応答算出結果は、
図6に示すように、免震建物20を、地下3階地上9階建ての基礎免震建物とし、免震建物30を、地下2階地上18階建ての基礎免震建物とした場合のものを示している。また、連結部材は、免震建物20及び免震建物30それぞれの地下一階部分同士を連結している。
【0058】
<作用・効果>
本発明の実施形態に係る建物の連結方法によると、既存建物である免震建物20と新築建物である免震建物30とを連結部材(免震装置22)で連結するため、建物20、30間の相対的な変位である棟間変位が小さくなる(
図4(A)矢印N1参照)。これにより、例えば免震建物20と免震建物30とを通路で連結し、連結部にエキスパンションジョイント等を設ける場合、当該エキスパンションジョイントが処理すべきクリアランス幅が小さくなる。これによりエキスパンションジョイントの設計が容易になる。
【0059】
また、免震建物20からは剛性部材としての免震装置22が撤去される。これにより、免震建物20の免震周期が長周期化し、加速度が小さくなる。このため免震建物20における上部構造体24に生じる層せん断力が小さくなる(
図5(B)の矢印N3参照)。
【0060】
また、本発明の実施形態に係る建物の連結方法によると、免震建物20から撤去された免震装置22が連結部材として再利用される。これにより、連結部材を全て新規に用意する場合と比較して省資源化できる。
【0061】
さらに、本発明の実施形態に係る建物の連結方法によると、
図2(A)、(B)、
図3(A)、(B)に示すように、撤去する免震装置22の数及び設置する連結部材の数に基づいて、所定の地震波における免震建物20及び免震建物30それぞれの応答が算出される。そして、複数の応答算出結果から、撤去する免震装置22の数及び設置する連結部材の数が決定される。このため、
図4(A)、(B)、
図5(A)、(B)に示すように、免震建物20及び免震建物30それぞれの応答を最適化できる。
【0062】
また、上記のコンピュータによる応答計算では、免震建物20における基礎と地下3階との間の免震装置22を撤去し、免震建物20と免震建物30それぞれの地下1階同士を連結している。すなわち、免震建物20において免震装置22を撤去する位置と、免震建物20と免震建物30とを連結する位置とが、上下方向で近接している。「近接している」とは、例えば免震建物20の3層以内に納まる範囲に位置することを示す。これにより、免震建物20と免震建物30との相対的な剛性率が均一化され、立面的に良好なバランスを図ることができる。但し、免震建物20において免震装置22を撤去する位置と、免震建物20と免震建物30とを連結する位置とは、必ずしも「近接」していなくてもよい。これらが近接していなくても、本発明の効果を得ることができる。
【0063】
なお、上記実施形態においては、既存建物を免震建物20とし、新築建物を免震建物30としているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば既存建物及び新築建物の少なくとも一方を制振建物又は耐震建物としてもよい。
【0064】
一例として、
図8には、既存建物を制振建物40として、新築建物を耐震建物50とした例が示されている。この場合、制振建物40から、剛性部材としての制振装置42を撤去する。これにより、制振建物40の固有周期が長周期化し、加速度が小さくなる。このため制振建物40に生じる層せん断力が小さくなる。また、制振建物40と耐震建物50とを、連結部材で連結する。これにより、制振建物40と耐震建物50との棟間変位を低減できる。
【0065】
この連結部材としては、制振装置又は免震装置を用いる。連結部材として制振装置を用いる場合は、制振建物40から撤去した制振装置42を用いてもよいし、新規に用意してもよい。連結部材として用いる制振装置としては、履歴減衰型ダンパー、粘性減衰型ダンパーなどを用いることができる。
【0066】
このように、既存建物及び新築建物の構造形式に関わらず、これらを連結部材によって連結することで、既存建物と新築建物との棟間変位を小さくできる。また、既存建物に生じる層せん断力を小さくできる。以上説明したように、本発明は様々な態様で実施できる。
【符号の説明】
【0067】
20 免震建物(既存建物)
22 免震装置(剛性部材、連結部材)
30 免震建物(新築建物)
40 制振建物(既存建物)
42 制振装置(剛性部材)
50 耐震建物(新築建物)