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特許7395838無塩パンまたは減塩パンの製造方法および製造用添加剤、ならびに無塩パンまたは減塩パンの製造時におけるパン生地の付着の抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】無塩パンまたは減塩パンの製造方法および製造用添加剤、ならびに無塩パンまたは減塩パンの製造時におけるパン生地の付着の抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/02 20060101AFI20231205BHJP
   A21D 2/26 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
A21D2/02
A21D2/26
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019069271
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020162562
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-11-10
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100158724
【弁理士】
【氏名又は名称】竹井 増美
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 実穂
(72)【発明者】
【氏名】坂本 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】青山 博明
(72)【発明者】
【氏名】横山 典子
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-537134(JP,A)
【文献】特開2017-018007(JP,A)
【文献】特開2017-209058(JP,A)
【文献】特開平11-192052(JP,A)
【文献】特開2006-158325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食塩代替塩と、グルコースオキシダーゼとを添加することを含む、無塩パンまたは減塩パンの製造方法であって、食塩代替塩が、塩化カリウム、塩化マグネシウムおよびグルコン酸カリウムからなる群より選択される1種以上であって、その添加量が、穀物粉の全量に対して0.1重量%以上0.重量%以下であり、グルコースオキシダーゼの添加量が、穀物粉1gに対する酵素活性が0.005U~50Uとなる量である、製造方法。
【請求項2】
食塩代替塩と、グルコースオキシダーゼとを、穀物粉を含有する原材料に添加して混練することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
さらにグルコースを添加することを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
グルコースをグルコースオキシダーゼとともに添加する、請求項に記載の製造方法。
【請求項5】
グルコースの添加量が、穀物粉1gあたり0.01mg以上である、請求項またはに記載の製造方法。
【請求項6】
食塩代替塩と、グルコースオキシダーゼとを含有する、無塩パンまたは減塩パンの製造用添加剤であって、食塩代替塩が、塩化カリウム、塩化マグネシウムおよびグルコン酸カリウムからなる群より選択される1種以上であって、穀物粉の全量に対する食塩代替塩の添加量が、0.1重量%以上0.重量%以下、穀物粉1gに対するグルコースオキシダーゼの酵素活性が、0.005U~50Uとなるように添加される、添加剤。
【請求項7】
固形状の形態である、請求項に記載の添加剤。
【請求項8】
穀物粉を含有する原材料に添加される、請求項6または7に記載の添加剤。
【請求項9】
さらにグルコースを含有する、請求項のいずれか1項に記載の添加剤。
【請求項10】
穀物粉1gあたりのグルコースの添加量が、0.01mg以上となるように添加される、請求項に記載の添加剤。
【請求項11】
食塩代替塩と、グルコースオキシダーゼとを添加することを含む、無塩パンまたは減塩パンの製造時におけるパン生地の付着の抑制方法であって、食塩代替塩が、塩化カリウム、塩化マグネシウムおよびグルコン酸カリウムからなる群より選択される1種以上であって、その添加量が、穀物粉の全量に対して0.1重量%以上0.重量%以下であり、グルコースオキシダーゼの添加量が、穀物粉1gに対する酵素活性が0.005U~50Uとなる量である、抑制方法。
【請求項12】
食塩代替塩と、グルコースオキシダーゼとを、穀物粉を含有する原材料に添加して混練し、生地を調製することを含む、請求項11に記載の抑制方法。
【請求項13】
さらにグルコースを添加することを含む、請求項11または12に記載の抑制方法。
【請求項14】
グルコースをグルコースオキシダーゼとともに添加する、請求項13に記載の抑制方法。
【請求項15】
グルコースの添加量が、穀物粉1gあたり0.01mg以上である、請求項13または14に記載の抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食感が改善された無塩パンまたは減塩パンを製造する方法、および食感の改善された無塩パンまたは減塩パンを製造するための添加剤、ならびに、無塩パンまたは減塩パンの製造時において、製造用機器、器具等に対するパン生地の付着を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食塩の過剰摂取は、高血圧、脳血管障害、心疾患、胃がん、腎疾患等の疾病に罹患するリスクを高めることが知られており、世界保健機構(WHO)が食塩摂取量の低減を提唱する等、世界的に減塩が求められている。
近年、わが国において、パンの消費量は増大しているが、パンには通常0.5重量%~2.5重量%程度の食塩が添加されている。食塩は、パンにおけるグルテンの生成に関与するため、パンにおける食塩添加量を低減させると、塩味等呈味が低下するのみでなく、焼成後のパンの食感に影響を与えること、また、パン生地の製造用機器、器具等に対する付着性が増大し、パンの製造時におけるパン生地の取扱い性が悪くなることが報告されている。
【0003】
食塩の添加量を低減させた減塩食品において、食塩の代替品として塩化カリウムが利用されているが、塩化カリウムは苦味が強く、食塩添加量の低減による食感や生地物性の変化を改善するのに十分な量を添加すると、パンの呈味に好ましくない影響を与えてしまうという問題があった。
それゆえ、食塩代替品として、酢酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸、フマル酸等の有機酸のアルカリ金属塩を用いることが提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、パン、麺類、パスタ類、餃子、ワンタン等包皮食品の皮等の小麦粉を原料として用いた食品において、食感等の物性を改善するために、グルコースオキシダーゼ、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ等の酵素を用いることが提案されている。
たとえば、グルコースオキシダーゼとグルコースを含有し、生麺における経時的な褐色の斑点の生成を抑制し得る穀粉組成物(特許文献2)、グルコースオキシダーゼとα-アミラーゼを含有する製菓・製パン用改良剤(特許文献3)、アミラーゼ、グルコアミラーゼおよびグルコースオキシダーゼを添加して、テクスチャーの改良された小麦粉製品を製造する方法(特許文献4)等が開示されている。
【0005】
しかしながら、食塩代替品として有機酸のアルカリ金属塩を使用しても、パンの呈味への影響を考慮すると、通常の食塩使用量と同程度の量を用いることは難しく、無塩パンまたは減塩パンの製造において、酵素のみを添加しても、無塩パンまたは減塩パンの生地物性を十分に改善することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-238643号公報
【文献】特開平11-137196号公報
【文献】特開平9-135656号公報
【文献】特開平6-296467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、無塩パンまたは減塩パンの製造時における製造用機器、器具等に対するパン生地の付着を抑制し、かつ、焼成後の無塩パンまたは減塩パンの食感を向上させて、食感が良好で、好ましくない呈味の出現が低減された無塩パンまたは減塩パンを製造する方法、ならびに製造用添加剤を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、パンの呈味に悪影響を与えない程度の低濃度の食塩代替塩と、グルコースオキシダーゼとを添加してパン生地を調製することにより、無塩パンまたは減塩パンの製造時に生じる製造用機器、器具等に対するパン生地の付着を良好に抑制することができ、さらに、焼成後の無塩パンまたは減塩パンの食感を向上させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]食塩代替塩と、グルコースオキシダーゼとを添加することを含む、無塩パンまたは減塩パンの製造方法。
[2]食塩代替塩が、無機化合物のカリウム塩およびアルカリ土類金属塩、ならびに有機酸のカリウム塩およびアルカリ土類金属塩からなる群より選択される1種以上である、[1]に記載の製造方法。
[3]食塩代替塩が、塩化カリウム、塩化マグネシウムおよびグルコン酸カリウムからなる群より選択される1種以上である、[1]に記載の製造方法。
[4]食塩代替塩の添加量が、穀物粉の全量に対して0.5重量%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]グルコースオキシダーゼの添加量が、穀物粉1gに対する酵素活性が0.001U~500Uとなる量である、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]食塩代替塩と、グルコースオキシダーゼとを、穀物粉を含有する原材料に添加して混練することを含む、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]さらにグルコースを添加することを含む、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]グルコースをグルコースオキシダーゼとともに添加する、[7]に記載の製造方法。
[9]グルコースの添加量が、穀物粉1gあたり0.01mg以上である、[7]または[8]に記載の製造方法。
[10]食塩代替塩と、グルコースオキシダーゼとを含有する、無塩パンまたは減塩パンの製造用添加剤。
[11]食塩代替塩が、無機化合物のカリウム塩およびアルカリ土類金属塩、ならびに有機酸のカリウム塩およびアルカリ土類金属塩からなる群より選択される1種以上である、[10]に記載の添加剤。
[12]食塩代替塩が、塩化カリウム、塩化マグネシウムおよびグルコン酸カリウムからなる群より選択される1種以上である、[10]に記載の添加剤。
[13]固形状の形態である、[10]~[12]のいずれかに記載の添加剤。
[14]穀物粉を含有する原材料に添加される、[10]~[13]のいずれかに記載の添加剤。
[15]穀物粉の全量に対する食塩代替塩の添加量が、0.5重量%以下となるように添加される、[10]~[14]のいずれかに記載の添加剤。
[16]穀物粉1gに対するグルコースオキシダーゼの酵素活性が、0.001U~500Uとなるように添加される、[10]~[15]のいずれかに記載の添加剤。
[17]さらにグルコースを含有する、[10]~[16]のいずれかに記載の添加剤。
[18]穀物粉1gあたりのグルコースの添加量が、0.01mg以上となるように添加される、[17]に記載の添加剤。
[19]食塩代替塩と、グルコースオキシダーゼとを添加することを含む、無塩パンまたは減塩パンの製造時におけるパン生地の付着の抑制方法。
[20]食塩代替塩が、無機化合物のカリウム塩およびアルカリ土類金属塩、ならびに有機酸のカリウム塩およびアルカリ土類金属塩からなる群より選択される1種以上である、[19]に記載の抑制方法。
[21]食塩代替塩が、塩化カリウム、塩化マグネシウムおよびグルコン酸カリウムからなる群より選択される1種以上である、[19]に記載の抑制方法。
[22]食塩代替塩の添加量が、穀物粉の全量に対して0.5重量%以下である、[19]~[21]のいずれかに記載の抑制方法。
[23]グルコースオキシダーゼの添加量が、穀物粉1gに対する酵素活性が0.001U~500Uとなる量である、[19]~[22]のいずれかに記載の抑制方法。
[24]食塩代替塩と、グルコースオキシダーゼとを、穀物粉を含有する原材料に添加して混練し、生地を調製することを含む、[19]~[23]のいずれかに記載の抑制方法。
[25]さらにグルコースを添加することを含む、[19]~[24]のいずれかに記載の抑制方法。
[26]グルコースをグルコースオキシダーゼとともに添加する、[25]に記載の抑制方法。
[27]グルコースの添加量が、穀物粉1gあたり0.01mg以上である、[25]または[26]に記載の抑制方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、無塩パンまたは減塩パンの製造時に生じる製造用機器、器具等に対するパン生地の付着を良好に抑制することができ、パン生地の取扱い性や、パン生地の分割、成形等の作業性を向上させることができる。
さらに、本発明により、無塩パンまたは減塩パンにおける好ましくない呈味の出現を低減しつつ、焼成後の食感を向上させることができ、通常量の食塩を添加したパンに近い噛みごたえともっちり感を有する無塩パンまたは減塩パンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、試験例2において、各試料について、噛み始めたときの硬さを表わす指標として、歪率=10%における荷重値(10%歪荷重値)を測定した結果を示す図である。
図2図2は、試験例2において、各試料について、もっちり感を示す指標として、歪率=10%における荷重値(10%歪荷重値)に対する歪率=70%における荷重値(70%歪荷重値)の割合を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、無塩パンまたは減塩パンの製造方法(以下、本明細書にて「本発明の製造方法」ともいう)を提供する。
本発明の製造方法は、食塩代替塩と、グルコースオキシダーゼとを添加することを含む。
【0013】
本発明において、「無塩パン」とは、食塩を含有しないパンをいう。
本発明において、「減塩パン」とは、食塩含有量が低減されたパンであり、具体的には、食塩含有量が、通常の含有量の50%以下に低減されたパンをいう。たとえば、食パンやロールパン、コッペパンの場合であれば、穀物粉含有量に対し食塩含有量が1重量%以下に、フランスパンであれば1.2重量%以下に、クロワッサンであれば0.9重量%以下に低減されたパンをいう。
また、本発明における「パン」は、小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、麦芽粉、トウモロコシ粉、エンバク粉、米粉、片栗粉、くず粉、タピオカ粉、緑豆粉等の穀物粉を主原料として調製されるパンであれば特に限定されない。しかし、食塩がグルテンの形成に関与するため、小麦粉を主原料とするパンの製造において、食塩を添加しないことまたは食塩添加量を低減させることによる影響が最も顕著に表れるので、本発明の製造方法は、小麦粉を主原料とする無塩パンまたは減塩パンの製造に最も好ましく適用される。
【0014】
本発明において、「食塩代替塩」とは、食塩(塩化ナトリウム)の代わりに食品に添加される塩をいい、食品添加物として使用することができ、食品に塩味を付与し得るものであれば、無機塩、有機塩を問わず、特に制限されることなく用いることができる。
食塩代替塩として、好ましくは、無機化合物のカリウム塩およびアルカリ土類金属塩、ならびに有機酸のカリウム塩およびアルカリ土類金属塩を挙げることができる。
【0015】
本発明の製造方法において添加される無機化合物のカリウム塩およびアルカリ土類金属塩、ならびに有機酸のカリウム塩およびアルカリ土類金属塩としては、塩味料として、食塩の代替品として機能し得るものであれば、特に限定されることなく用いることができる。
【0016】
無機化合物のカリウム塩としては、塩化カリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム等が挙げられ、塩化カリウムが好ましく用いられる。
無機化合物のアルカリ土類金属塩としては、マグネシウム塩およびカルシウム塩が好ましく、塩化マグネシウム等が挙げられる。
有機酸のカリウム塩としては、クエン酸二水素カリウム、クエン酸三カリウム、グルコン酸カリウム、グルタミン酸カリウム、酒石酸水素カリウム、乳酸カリウム等が挙げられ、グルコン酸カリウムが好ましく用いられる。
有機酸のアルカリ土類金属塩としては、マグネシウム塩およびカルシウム塩が好ましく、クエン酸カルシウム、グルタミン酸カルシウム、グルタミン酸マグネシウム、乳酸カルシウム等が挙げられる。
無機化合物のカリウム塩およびアルカリ土類金属塩、ならびに有機酸のカリウム塩およびアルカリ土類金属塩としては、各社より提供されている市販の製品を用いることができる。
【0017】
本発明において、上記した食塩代替塩は、1種を選択して単独で用いてもよく、または2種以上を選択し、組み合わせて用いることもできる。
【0018】
本発明においては、食塩代替塩として、無機化合物のカリウム塩およびアルカリ土類金属塩、ならびに有機酸のカリウム塩およびアルカリ土類金属塩からなる群より選択される1種以上を用いることが好ましく、塩化カリウム、塩化マグネシウムおよびグルコン酸カリウムからなる群より選択される1種以上を用いることがより好ましく、塩化カリウムがさらに好ましく用いられる。
【0019】
焼成後の無塩パンまたは減塩パンにおいて、苦味、えぐ味等の好ましくない呈味が出現する可能性を考慮すると、本発明の製造方法における食塩代替塩の添加量は、穀物粉の全量に対して0.5重量%以下とすることが好ましく、0.4重量%以下とすることがより好ましい。
一方、パン生地の付着性改善効果や、焼成後の無塩パンまたは減塩パンの食感の向上効果の観点からは、食塩代替塩の添加量は、穀物粉の全量に対して0.001重量%以上とすることが好ましく、0.1重量%以上とすることがより好ましい。
【0020】
本発明の製造方法において、食塩代替塩とともに添加されるグルコースオキシダーゼは、二量体のタンパク質で、β-D-グルコースをD-グルコノ-1,5-ラクトンへ酸化する酵素である。
グルコースオキシダーゼは補酵素としてフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を用いる。グルコースオキシダーゼの酸化還元反応では、FADは最初の電子受容体として作用し、FADHへ還元される。その際、FADHは最終的な電子の受容体である酸素分子によって酸化され、酸素分子は過酸化水素に還元される。
なお、グルコースオキシダーゼの酵素活性は、グルコースを基質として、酸素存在下でグルコースオキシダーゼを作用させて過酸化水素を生成させ、生成した過酸化水素に、アミノアンチピリンおよびフェノール存在下でペルオキシダーゼを作用させることによりキノンイミン色素を生成させて、生成したキノンイミン色素が呈する色調を、波長500nmで測定して定量することができる。1分間に1μmolのグルコースを酸化するのに必要な酵素量を、1ユニット(U)と定義した。
グルコースオキシダーゼは、クロコウジカビ(Aspergillus niger)等の微生物により産生され、かかる微生物の抽出物から精製して用いることもできるが、各社より提供されている市販の製品を用いることができる。
本発明の製造方法において、グルコースオキシダーゼは、穀物粉1gに対する酵素活性が0.001U以上、好ましくは0.002U~500U、より好ましくは0.005U~50Uとなるように添加される。
【0021】
また、本発明の製造方法において、グルコースオキシダーゼの効果を促進するために、グルコースを添加することが好ましい。
グルコースは、各社より提供されている市販の製品を用いることができる。
本発明において、グルコースは、穀物粉1gあたり0.01mg以上添加することが好ましく、0.1mg以上添加することがより好ましい。
なお、グルコースの添加量は、グルコースオキシダーゼの効果を促進するために必要な量であればよく、穀物粉1gあたり5mg程度までの量でよい。
【0022】
本発明の製造方法において、食塩代替塩とグルコースオキシダーゼは、パン生地の調製に際し、無塩パンまたは減塩パンの原材料に添加してもよく、調製されたパン生地に添加してもよいが、食塩を添加せずにまたは食塩の添加量を低減させて調製したパン生地が付着性を示し、取扱い性が悪くなることから、穀物粉を含有する無塩パンまたは減塩パンの原材料に添加して、パン生地を調製することが好ましい。
また、食塩代替塩とグルコースオキシダーゼは、粉末もしくは顆粒状の形態で添加してもよく、水に溶解または分散して水溶液または水分散液として添加してもよい。あるいは、後述する無塩パンまたは減塩パンの製造用添加剤として添加することもできる。
なお、グルコースは、グルコースオキシダーゼとともに添加される。
【0023】
穀物粉等の無塩パンまたは減塩パンの原材料への食塩代替塩およびグルコースオキシダーゼの添加、混合は、縦型ミキサー等の一般的な混合機を用いて行うことができる。かかる工程における混合、撹拌の条件(温度、時間、撹拌速度等)は、無塩パンまたは減塩パンを製造する際に採用される方法(たとえば、ストレート法、中種法、冷凍生地ストレート製法等)に応じて適宜設定されるが、冷凍生地ストレート製法を採用する場合であれば、通常10℃~25℃、好ましくは12℃~23℃にて、通常1分間~10分間、好ましくは5分間~8分間、70rpm~150rpm程度の撹拌速度で行われる。
【0024】
本発明の製造方法には、パン生地の分割、成形、発酵、熟成、保存、焼成等の工程が含まれる。これらの工程は、通常パンの製造にて行われる方法および条件で行うことができる。
【0025】
本発明の製造方法により、食塩を添加せずにまたは食塩の添加量を低減させて調製したパン生地に見られる製造機器や製造器具等への付着が良好に抑制され、パン生地の取扱い性および、分割、成形等の作業性が向上する。
また、本発明の製造方法により製造された無塩パンまたは減塩パンは、好ましくない呈味の出現が低減され、噛みごたえ、もっちり感等において、通常量の食塩を添加したパンと同等の食感を有する。
【0026】
本発明はまた、無塩パンまたは減塩パンの製造用添加剤(以下、本明細書にて「本発明の添加剤」とも称する)を提供する。
本発明の添加剤は、食塩代替塩と、グルコースオキシダーゼとを含有し、さらに好ましくはグルコースを含有する。
【0027】
本発明の添加剤に含有される食塩代替塩、グルコースオキシダーゼおよびグルコースについては、本発明の製造方法において上記した通りである。
食塩代替塩およびグルコースオキシダーゼ、あるいはさらにグルコースは、これらを混合し、そのまま本発明の添加剤とすることができ、水等の溶媒に溶解または分散させ、または食品や製剤の分野で一般的に用いられる添加物を加えることもできる。
水としては、蒸留水、イオン交換水等の精製水、水道水等、食品製造用水として適合する水が用いられる。
本発明の添加剤は、粉末状、顆粒状、タブレット状等の固形状の形態、ゲル状、クリーム状等の半固形状の形態、溶液状、乳濁液状、懸濁液状、分散液状等、液状の形態とすることができる。
【0028】
上記添加物としては、賦形剤(たとえば、炭酸マグネシウム、糖類(グルコース、ラクトース、コーンスターチ等)、糖アルコール(ソルビトール、マンニトール等)等)、結合剤(たとえば、ゼラチン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、セルロースおよびその誘導体(結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)等)、崩壊剤(たとえば、クロスポビドン、ポビドン、結晶セルロース等)、滑沢剤(たとえば、タルク、ステアリン酸マグネシウム等)、増粘安定剤(たとえば、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム等)、乳化剤(たとえば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、サポニン、レシチン等)、保存料(たとえば、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、ε-ポリリシン等)、酸化防止剤(たとえば、アスコルビン酸、エリソルビン酸、カテキン等)、甘味料(たとえば、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、カンゾウ抽出物等)、酸味料(たとえば、クエン酸、酢酸、酒石酸等)、苦味料(たとえば、カフェイン、ナリンジン、ニガヨモギ抽出物等)、調味料(たとえば、砂糖、食塩、しょうゆ、みりん、味噌、L-グルタミン酸ナトリウム等)、だし類(たとえば、昆布だし、かつおだし、さばだし、煮干だし等)、エキス類(たとえば、魚介エキス、畜肉エキス、野菜エキス、海藻エキス、酵母エキス等)、着色料(たとえば、アナトー色素、ウコン色素、クチナシ色素等)、香料(たとえば、アセト酢酸エチル、アニスアルデヒド等の合成香料、香辛料抽出物、ローレル等の天然香料)等が挙げられ、本発明の特徴を損なわない範囲で、必要に応じて1種または2種以上を含有させることができ、その含有量も、かかる添加物の通常の使用量に準じて設定することができる。
【0029】
保存安定性の観点からは、本発明の添加剤は、粉末状、顆粒状、タブレット状等の固形状の形態とすることが好ましい。
また、本発明の添加剤は、使用時に、無塩パンまたは減塩パンの製造に用いられる水の一部または全部に溶解または分散して用いることもできる。
【0030】
食塩代替塩、グルコースオキシダーゼおよびグルコースは、無塩パンまたは減塩パンの原料である穀物粉に対し、それぞれ本発明の製造方法において上記した量が添加されるように、本発明の添加剤に含有される。
【0031】
本発明の添加剤は、無塩パンまたは減塩パンの製造に際し、その原材料に添加してパン生地を調製してもよく、パン生地に添加し、混合してもよい。しかし、上記したように、食塩を添加せずにまたは食塩の添加量を低減させて調製したパン生地において、好ましくない付着性が出現することから、穀物粉を含有する無塩パンまたは減塩パンの原材料に添加して、パン生地を調製することが好ましい。
本発明の添加剤は、無塩パンまたは減塩パンの原料である穀物粉に対し、食塩代替塩、グルコースオキシダーゼおよびグルコースの添加量が、それぞれ本発明の製造方法において上記した量となるように、添加される。
【0032】
無塩パンまたは減塩パンの製造に際して本発明の添加剤を添加することにより、製造機器や製造器具等へのパン生地の付着が良好に抑制され、パン生地の取扱い性および、分割、成形等の作業性が向上する。
また、本発明の添加剤を添加して調製したパン生地を焼成して得られた無塩パンまたは減塩パンは、好ましくない呈味の出現が低減され、噛みごたえ、もっちり感等の食感において、通常量の食塩を添加したパンと同等の食感を有する。
【0033】
さらに本発明は、無塩パンまたは減塩パンの製造時におけるパン生地の付着の抑制方法(以下、本明細書にて、「本発明の抑制方法」とも称する)を提供する。
本発明の抑制方法は、食塩代替塩と、グルコースオキシダーゼとを添加することを含み、好ましくは、グルコースオキシダーゼとともにさらにグルコースを添加することを含む。
【0034】
本発明の抑制方法において添加される食塩代替塩、グルコースオキシダーゼおよびグルコースについては、本発明の製造方法において上記した通りである。また、これらの添加量および添加方法についても、本発明の製造方法において上記した通りである。
【0035】
本発明の抑制方法により、食塩を添加せずにまたは食塩の添加量を低減させて調製したパン生地において見られる製造機器や製造器具等へのパン生地の付着が良好に抑制され、パン生地の取扱い性および、分割、成形等の作業性が向上する。
【実施例
【0036】
[実施例1、比較例1、2]パンの製造
表1に示す組成にて、目標品として、食塩を含有するパンを下記の通り製造した。
表1中、ショートニング以外の材料を縦型ミキサーに加え、前記ミキサーのL(低速)にて5分間、M(中速)にて6分間、およびH(高速)にて1分間混練し、ショートニングを加えてさらに、M(中速)にて3分間、M(中速)にて4.5分間、H(高速)にて1分間混捏して生地を調製した。調製した生地を番重に取り出し、10分間醗酵させた(フロアタイム)後、280gに分割し、丸形に一時成形を行った。次いで、5分間の回復時間(ベンチタイム)を取って生地を回復させた後、生地をモルダーに通して円柱状にし、その後U字型に成形して型に入れた。その状態でブラストスチーラー/ショックフリーザーで-35℃、1時間~1.5時間急速凍結し、焼成時まで-20℃で保存した。
冷凍した生地をドウコンディショナー(20℃、相対湿度=70%)にて150分間、芯温が20℃になるまで解凍し、その後ドウコンディショナー(35℃、相対湿度=75%)にて、80分間(型内の内容量の目安=8割程度)発酵させた。その後、電気式3段オーブン(下火210℃(出力レベル:最大値8)、上火210℃(出力レベル:最大値8))にて35分間焼成し、芯温が25℃前後となるように、15℃にて2時間放冷した。放冷後は、ポリエチレン製のチャック付き袋にて包装し、室温(22℃~24℃)にて3日間保存した。
【0037】
なお、表1に示す原料としては、以下に示すものを用いた。
(i)小麦粉(強力粉);「イーグル」(日本製粉株式会社)
(ii)グラニュー糖;「CIG」(伊藤忠製糖株式会社)
(iii)脱脂粉乳;「スキムミルク」(森永乳業株式会社)
(iv)食塩;「ナクル」(ナイカイ塩業株式会社)
(v)改良剤;「ジョーカー・キモ」(ピュラトスジャパン株式会社)
(vi)酵母;「オリエンタルイーストFD-1」(オリエンタル酵母工業株式会社)
(vii)ショートニング;「ファシエ」(株式会社J-オイルミルズ)
(viii)水;水道水(3℃)
【0038】
【表1】
【0039】
表1において、食塩を添加せずに、下記に示す塩化カリウム、グルコースオキシダーゼおよびグルコースを表2に示すように加えて、上記目標品と同様の方法でパンを調製した(実施例1および比較例1、2)。
(ix)塩化カリウム;「スーパーカリ」(東亜合成株式会社)
(x)グルコースオキシダーゼ;「スミチームPGO」(新日本化学株式会社)
(xi)グルコース;「C☆Dex 02402」(株式会社カーギルジャパン)
なお、表1において、食塩を添加せずに調製したパン(無塩品)を対照とした。また、添加したグルコースオキシダーゼの力価は、小麦粉1gに対し、0.24Uであった。
【0040】
【表2】
【0041】
[試験例1]パン生地の製造適性の評価
上記において、対照および目標品のパン、ならびに、実施例1および比較例1、2のパンの製造の際に調製されたパン生地を試料として、グルテン形成の状態、製造用器具への付着性、分割、成形時の作業性、および発酵状態を下記の通り評価し、総合的に製造適性を評価した。
(1)パン生地におけるグルテン形成の状態
各試料のパン生地について、開発担当者が生地の伸び、ならびに水および油脂の抱き込み方をそれぞれ観察し、グルテン形成の状態を下記評価基準に従って評価した。観察および評価は、2名により行い、協議により評価点を決した。
<評価基準>
非常に良好である;5点
良好である ;4点
普通である ;3点
やや悪い ;2点
悪い ;1点
【0042】
(2)製造用器具への付着性
各試料のパン生地をそれぞれボウルに入れ、ボウルへの付着性について、下記の評価基準に従って評価した。評価は2名のパネルにより行い、協議により評価点を決した。
<評価基準>
問題となる付着性は見られない ;5点
問題となる付着性はほとんど見られない ;4点
やや付着性は見られるが、混練等の作業は可能である ;3点
かなりの付着性が見られ、混練等の作業はかなり困難である;2点
著しい付着性が見られ、混練等の作業が非常に困難である ;1点
【0043】
(3)分割、成形時の作業性
各試料のパン生地について、分割および成形する際の作業性を、下記評価基準に従ってそれぞれ評価した。評価は、2名のパネルにより行い、協議により評価点を決した。
<評価基準>
非常に良好である;5点
良好である ;4点
普通である ;3点
やや悪い ;2点
悪い ;1点
【0044】
(4)発酵の状態
各試料のパン生地について、発酵の状態をそれぞれ観察し、下記評価基準に従って評価した。評価は、2名のパネルにより行い、協議により評価点を決した。
<評価基準>
非常に良好である;5点
良好である ;4点
普通である ;3点
やや悪い ;2点
悪い ;1点
【0045】
(5)総合的な製造適性
各試料のパン生地について、上記(1)~(4)の評価結果を踏まえ、総合的な製造適性を評価した。評価は下記評価基準に従い、2名のパネルにより行い、協議により評価点を決した。
<評価基準>
非常に良好である;5点
良好である ;4点
普通である ;3点
やや劣る ;2点
劣る ;1点
【0046】
以上の評価結果を、表3に示した。
【0047】
【表3】
【0048】
表3に示されるように、食塩を添加せずに製造した対照のパン生地では、目標品のパン生地に比べて、グルテンの形成状態が悪くなり、製造用器具への付着性、分割、成形時の作業性の悪化、および過剰な発酵が観察され、総合的な製造適性の悪化が認められた。
食塩を添加せずにグルコースオキシダーゼおよびグルコースを添加して製造した比較例1のパン生地では、グルテンの形成状態および発酵状態は改善されたものの、製造用器具への付着性および分割、成形時の作業性は十分には改善されなかった。
また、小麦粉100重量部に対し、塩化カリウムを0.2重量部添加して製造した比較例2のパン生地では、グルテンの形成状態の改善は十分ではなく、製造用器具への付着性、分割、成形時の作業性および発酵状態の改善もあまり見られず、総合的な製造適性はやや劣ると評価された。
これに対し、塩化カリウム、グルコースオキシダーゼおよびグルコースを添加して製造した実施例1のパン生地では、良好なグルテンの形成が認められ、問題となる製造用器具への付着性は見られず、分割、成形時の作業性および発酵状態も改善されており、総合的な製造適性は、非常に良好であると評価された。
【0049】
試験例1の上記結果から、本発明の製造方法により、無塩パンの製造において見られたグルテン形成の阻害や、製造用機器、器具等に対する付着性等の問題が改善され、製造適性が良好となることが示唆された。
【0050】
[試験例2]クリープメーターによる圧縮時荷重値の測定
対照、目標品ならびに実施例1および比較例1、2において製造したパンについて、圧縮時の荷重値を測定した。
測定は、クリープメーター(「RE2-33005C」、株式会社山電)を用い、焼成後のパンを厚さ約2cmに切り分けた後、2cm角となるように中心部を4か所切り出し、プラスチック製楔型冶具で圧縮して、下記に示す条件にて行い、歪率=10%および70%における荷重値と、破断荷重値、破断歪率の測定データを取得した。
(i)冶具:No.50
(ii)ロードセル:20N
(iii)格納ピッチ:0.06sec
(iv)圧縮率:99.99%
(v)速度:1mm/sec
パンを噛み始めたときの硬さの指標として、歪率=10%における荷重値(10%歪荷重値)を図1に示した。図1中の数値は、平均値±標準偏差(n=5~6)にて示した。
また、パンのもっちり感を示す指標として、歪率=10%における荷重値(10%歪荷重値)に対する歪率=70%における荷重値(70%歪荷重値)の割合(70%歪荷重/10%歪荷重)を求め、図2に示した。図2中の数値は、平均値(n=5~6)にて示した。
【0051】
図1に示されるように、実施例1で製造したパンにおける10%歪荷重値は目標品の10%歪荷重値と同程度であり、噛み始めたときの硬さが、目標品と同程度であることが示唆された。
これに対し、グルコースオキシダーゼおよびグルコースを添加して製造した比較例1のパンでは、目標品よりも10%歪荷重値が大きく、目標品に比べて、噛み始めたときの硬さが硬いことが示唆された。
【0052】
図2に示されるように、目標品のパンに比べて、食塩を添加せずに製造した対照のパンでは、70%歪荷重/10%歪荷重値が小さく、もっちり感が低下することが示唆された。
これに対し、実施例1で製造されたパンでは、目標品と同程度の70%歪荷重/10%歪荷重値を示し、目標品と同程度のもっちり感を有することが示唆された。
一方、グルコースオキシダーゼおよびグルコースを添加して製造した比較例1のパン、ならびに塩化カリウムを添加して製造した比較例2のパンでは、目標品と同程度の70%歪荷重/10%歪荷重値は得られておらず、目標品と同程度のもっちり感は得られないことが示唆された。
【0053】
[試験例3]パンの食感の官能評価
対照および目標品のパン、ならびに実施例および比較例で製造されたパンの食感(噛んだときのやわらかさ、弾力等)について、23才~42才の専門パネル6名による官能評価を行った。その結果を表4に示す。
また、パンのもっちり感について、下記の評価基準に従って、上記パネル全員の協議により決した評価を、表5に示した。
<評価基準>
もっちり感がある ;○
もっちり感があまりない;△
もっちり感がない ;×
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
表4に示されるように、食塩を添加せずに製造した対照のパンは、やわらかく、歯通りがよいものの、パサつく食感であると評価された。
これに対し、実施例1で製造したパンは、やわらかく、歯通りがよく、かつ目標品のパンのように弾力の感じられる食感であると評価された。
一方、比較例1で製造したパンは、硬い食感を有すると評価され、比較例2で製造したパンは、パサつく食感を有すると評価された。
【0057】
表5に示されるように、食塩を添加せずに製造した対照のパンについては、もっちり感がないと評価された。
これに対し、実施例1で製造したパンは、目標品と同様にもっちり感を有すると評価された。
一方、比較例1で製造したパンについては、もっちり感はあまりないと評価され、比較例2で製造したパンについては、対照のパンと同様にもっちり感がないと評価された。
【0058】
試験例2および3の上記結果から、本発明の製造方法により製造した無塩パンにおいて、通常量の食塩を添加したパンに近い噛みごたえともっちり感が得られることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上、詳述したように、本発明により、無塩パンまたは減塩パンの製造時に生じる製造用機器、器具等に対するパン生地の付着を良好に抑制することができ、パン生地の取扱い性や、分割、成形等の作業性を向上させることができる。
また、本発明により、無塩パンまたは減塩パンにおける好ましくない呈味の出現を低減しつつ、焼成後の食感を向上させることができ、通常量の食塩を添加したパンに近い噛みごたえともっちり感を有する無塩パンまたは減塩パンを提供することができる。
図1
図2