(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】積層造形用粉末および積層造形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20231205BHJP
B22F 10/14 20210101ALI20231205BHJP
B22F 10/34 20210101ALI20231205BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20231205BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231205BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20231205BHJP
C22C 1/05 20230101ALI20231205BHJP
【FI】
B22F1/00 V
B22F10/14
B22F10/34
B28B1/30
B33Y10/00
B33Y70/00
C22C1/05 A
(21)【出願番号】P 2019074052
(22)【出願日】2019-04-09
【審査請求日】2022-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】佐野 世樹
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-157217(JP,A)
【文献】特開2016-041850(JP,A)
【文献】特開2015-014043(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031279(WO,A1)
【文献】特表2003-508635(JP,A)
【文献】特開2017-127997(JP,A)
【文献】天野裕貴,シリカ系外添剤:ミクロの魔法使い,日本画像学会誌,日本,一般社団法人 日本画像学会,2008年12月10日,Vol.47, No.6,pp.527-531
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-12/90
C22C 1/04- 1/059
B28 1/30
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層造形法に用いられる積層造形用粉末であって、
体積基準に基づく累積の体積が小径側から50%のときの粒径D50を平均粒径とするとき、平均粒径が1.0μm以上15.0μm以下である金属粉末と、
表面処理が施されているセラミックス粒子を含み、平均粒径3.0nm以上100.0nm以下のセラミックス粉末と、
を含み、
前記積層造形法は、バインダージェッティング法であり、
前記表面処理が施されているセラミックス粒子は、粒子本体と、前記粒子本体の表面に付与されているビニル基、フェニル基、アクリル基またはメタクリル基と、を有し、
前記セラミックス粉末の平均粒径は、前記金属粉末の平均粒径を1としたとき、0.0005以上0.0100以下であり、
前記金属粉末に対する前記セラミックス粉末の混合比率が0.005質量%以上0.100質量%以下であることを特徴とする積層造形用粉末。
【請求項2】
積層造形法に用いられる積層造形用粉末であって、
体積基準に基づく累積の体積が小径側から10%のときの粒径をD10とし、50%のときの粒径D50を平均粒径とし、90%のときの粒径をD90とするとき、粒径D10が1.0μm以上4.1μm以下であり、平均粒径が2.3μm以上10.1μm以下であり、粒径D90が4.0μm以上27.1μm以下である金属粉末と、
平均粒径3.0nm以上15.0nm以下のセラミックス粉末と、
を含み、
前記積層造形法は、バインダージェッティング法であり、
前記セラミックス粉末の平均粒径は、前記金属粉末の平均粒径を1としたとき、0.0005以上0.0100以下であり、
前記金属粉末に対する前記セラミックス粉末の混合比率が0.005質量%以上0.050質量%以下であることを特徴とする積層造形用粉末。
【請求項3】
前記セラミックス粉末は、表面処理が施されているセラミックス粒子を含み、
前記表面処理が施されているセラミックス粒子は、粒子本体と、前記粒子本体の表面に付与されているビニル基、フェニル基
、アクリル基、メタクリル基またはアルキル基と、を有する請求項
2に記載の積層造形用粉末。
【請求項4】
前記セラミックス粉末の主材料は、酸化ケイ素である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の積層造形用粉末。
【請求項5】
前記金属粉末の構成材料は、ステンレス鋼である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の積層造形用粉末。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の積層造形用粉末を用い、バインダージェッティング法により成形体を得る工程と、
前記成形体を焼成し、焼結体を得る工程と、
を有することを特徴とする積層造形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形用粉末および積層造形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
三次元の立体物を造形する技術として、近年、金属粉末を用いた積層造形法が普及しつつある。この技術は、立体物について積層方向と直交する面で薄くスライスしたときの断面形状を計算する工程と、金属粉末を層状にならして粉末層を形成する工程と、計算により求めた形状に基づいて粉末層の一部を固化させる工程と、を有し、粉末層を形成する工程と一部を固化させる工程とを繰り返すことにより、立体物を造形する技術である。
【0003】
立体物を造形する手法としては、固化させる原理に応じて、熱溶融積層法(FDM : Fused Deposition Molding)、粉末焼結積層造形法(SLS : Selective Laser Sintering)、バインダージェッティング法等が知られている。
【0004】
特許文献1には、積層造形法に用いられる造形用粉末として、セラミックス及び/又は金属とバインダーとを含む粉末からなり、安息角が16°以上43°以下である造形用粉末が開示されている。このような粉末は、適度な流動性を有していることから、造形用粉末をブレードやローラー等を用いて移動させて粉末層を形成する際に、一定の層厚で形成することを可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、特許文献1に記載の造形用粉末では、セラミックス粉末または金属粉末を、スプレードライ法等の造粒方法で造粒したり、溶媒に溶かしたバインダーと混合したりすることで、目的とする流動性を達成している。つまり、10体積%以上という比較的多量のバインダーを添加することによって、粉末の二次形状を整え、流動性を制御しているといえる。したがって、得られた造形物を焼成する際には、二次形状を形成するために用いた多量のバインダーを除去することが必要になり、それに伴って造形物の密度が低下しやすい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の適用例に係る積層造形用粉末は、
積層造形法に用いられる積層造形用粉末であって、
体積基準に基づく累積の体積が小径側から50%のときの粒径D50を平均粒径とするとき、平均粒径が1.0μm以上15.0μm以下である金属粉末と、
表面処理が施されているセラミックス粒子を含み、平均粒径3.0nm以上100.0nm以下のセラミックス粉末と、
を含み、
前記積層造形法は、バインダージェッティング法であり、
前記表面処理が施されているセラミックス粒子は、粒子本体と、前記粒子本体の表面に付与されているビニル基、フェニル基、アクリル基またはメタクリル基と、を有し、
前記セラミックス粉末の平均粒径は、前記金属粉末の平均粒径を1としたとき、0.0005以上0.0100以下であり、
前記金属粉末に対する前記セラミックス粉末の混合比率が0.005質量%以上0.100質量%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る積層造形体の製造方法を示す工程図である。
【
図2】実施形態に係る積層造形体の製造方法を説明するための図である。
【
図3】実施形態に係る積層造形体の製造方法を説明するための図である。
【
図4】実施形態に係る積層造形体の製造方法を説明するための図である。
【
図5】実施形態に係る積層造形体の製造方法を説明するための図である。
【
図6】実施形態に係る積層造形体の製造方法を説明するための図である。
【
図7】実施形態に係る積層造形体の製造方法を説明するための図である。
【
図8】実施形態に係る積層造形体の製造方法を説明するための図である。
【
図9】実施形態に係る積層造形体の製造方法を説明するための図である。
【
図10】実施形態に係る積層造形体の製造方法を説明するための図である。
【
図11】実施形態に係る積層造形用粉末の概念を示す図である。
【
図12】表面処理が施されているセラミックス粒子の概念を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の積層造形用粉末、積層造形体および積層造形体の製造方法の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
1.積層造形体の製造方法
まず、実施形態に係る積層造形体の製造方法について説明する。
【0011】
図1は、実施形態に係る積層造形体の製造方法を示す工程図である。
図2ないし
図10は、それぞれ実施形態に係る積層造形体の製造方法を説明するための図である。
【0012】
実施形態に係る積層造形体の製造方法は、一例としてバインダージェッティング法と呼ばれる積層造形法を用いた方法であり、
図1に示すように、積層造形用粉末1を敷いて第1粉末層31を形成する工程S01と、第1粉末層31の所定領域にバインダー溶液を供給し、第1粉末層31中の粒子同士を結着させ、第1結着体41を得る工程S02と、第1結着体41を含む第1粉末層31上に、新たな積層造形用粉末1を敷いて第2粉末層32を形成する工程S03と、第2粉末層32の所定領域にバインダー溶液4を供給し、第2粉末層32中の粒子同士を結着させ、第2結着体42を得る工程S04と、を有する。そして、積層造形体の製造方法は、工程S03および工程S04を1回または2回以上繰り返すことにより、成形体5を得る工程S05と、成形体5を焼成し、焼結体である積層造形体10を得る工程S06と、を有する。
以下、各工程について順次説明する。
【0013】
[1]まず、工程S01の説明に先立ち、積層造形装置2について説明する。
積層造形装置2は、粉末貯留部211および造形部212を有する装置本体21と、粉末貯留部211に設けられた粉末供給エレベーター22と、造形部212に設けられた造形ステージ23と、装置本体21上において移動可能な設けられたコーター24および溶液供給部25と、を備えている。
【0014】
粉末貯留部211は、装置本体21に設けられ、上部が開口している凹部である。この粉末貯留部211には、積層造形用粉末1が貯留される。そして、粉末貯留部211に貯留されている積層造形用粉末1の適量が、コーター24によって造形部212へ供給されるようになっている。
【0015】
また、粉末貯留部211の底部には、粉末供給エレベーター22が配置されている。粉末供給エレベーター22は、積層造形用粉末1が載置された状態で、
図2ないし
図9中の上下方向に移動可能になっている。粉末供給エレベーター22を上方に移動させることにより、この粉末供給エレベーター22に載置されている積層造形用粉末1を押し上げ、粉末貯留部211からはみ出させることができる。これにより、はみ出した分の積層造形用粉末1を後述するようにして造形部212側へ移動させることができる。
【0016】
造形部212は、装置本体21に設けられ、上部が開口している凹部である。この造形部212には、粉末貯留部211から供給される積層造形用粉末1が層状に敷かれる。
【0017】
また、造形部212の低部には、造形ステージ23が配置されている。造形ステージ23は、積層造形用粉末1が敷かれた状態で、
図2ないし
図9中の上下方向に移動可能になっている。造形ステージ23の高さを適宜設定することにより、造形ステージ23上に敷かれる積層造形用粉末1の量を調整することができる。
【0018】
コーター24は、粉末貯留部211から造形部212にかけて
図2ないし
図9中の左右方向に移動可能に設けられている。移動に伴って積層造形用粉末1を引きずることにより、造形ステージ23上に積層造形用粉末1を層状に敷くことができる。
【0019】
溶液供給部25は、例えばインクジェットヘッドやディスペンサー等で構成され、造形部212において
図2ないし
図9中の左右方向および紙面厚さ方向に2次元的に移動可能になっている。そして、溶液供給部25は、目的とする量のバインダー溶液4を目的とする位置に供給することができる。
【0020】
次に、上述した積層造形装置2を用いた工程S01について説明する。
まず、工程S01として、造形ステージ23上に積層造形用粉末1を敷いて第1粉末層31を形成する。具体的には、
図2および
図3に示すように、コーター24を用い、粉末貯留部211に貯留している積層造形用粉末1を造形ステージ23上に引きずり、均一な厚さにならす。これにより、
図4に示す第1粉末層31を得る。この際、造形ステージ23の上面を、造形部212の上端よりもわずかに下げておくことにより、第1粉末層31の厚さを調整することができる。なお、本実施形態に係る積層造形用粉末1は、後述するように、金属粉末11の平均粒径が小さいにもかかわらず、流動性が高い粉末である。このため、充填率が高い第1粉末層31を得ることができる。
【0021】
[2]次に、工程S02として、
図5に示すように、溶液供給部25により、第1粉末層31の所望の領域にバインダー溶液4を供給する。これにより、第1粉末層31のうち、バインダー溶液4が供給された領域の粒子同士を結着させ、第1結着体41を得る。第1結着体41は、積層造形用粉末1の粒子同士をバインダーによって結着してなるものであり、自重によって壊れない程度またはそれ以上の保形性を有している。
【0022】
バインダー溶液4は、積層造形用粉末1の粒子同士を結着可能な粘着性または接着性を有している成分を有する液体であれば、特に限定されない。一例として、バインダー溶液4の溶媒としては、例えば、水、アルコール類、ケトン類、カルボン酸エステル類等が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種を含む混合液であってもよい。また、バインダー溶液4の溶質としては、例えば、脂肪酸、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル、ステアリン酸、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)等が挙げられる。
【0023】
[3]次に、工程S03として、第1結着体41を含む第1粉末層31上に、新たな積層造形用粉末1を敷いて第2粉末層32を形成する。具体的には、
図6に示すように、コーター24を用い、粉末貯留部211に貯留している積層造形用粉末1を造形ステージ23上に引きずり、均一な厚さにならす。これにより、
図7に示す第2粉末層32を得る。この際、第1粉末層31の上面および第1結着体41の上面を、それぞれ、造形部212の上端よりもわずかに下げておくことにより、第2粉末層32の厚さを調整することができる。
【0024】
[4]次に、工程S04として、
図8に示すように、溶液供給部25により、第2粉末層32の所望の領域にバインダー溶液4を供給する。これにより、第2粉末層32のうち、バインダー溶液4が供給された領域の粒子同士を結着させ、第2結着体42を得る。第2結着体42は、積層造形用粉末1の粒子同士をバインダーによって結着してなるものであり、自重によって壊れない程度またはそれ以上の保形性を有している。
【0025】
[5]次に、工程S05として、工程S03と工程S04とを1回または2回以上繰り返すことにより、第1結着体41および第2結着体42上に、第2結着体42と同様の結着体を1層または複数層積み重ねる。これにより、
図9に示すように、目的とする形状の成形体5を得る。成形体5は、第1結着体41および第2結着体42を含む結着体の集合体であり、成形体5を構成しなかった積層造形用粉末1は回収される。なお、本工程は、必要に応じて行えばよく、工程S04の段階で成形体5が得られている場合には省略されてもよい。
【0026】
[6]次に、工程S06として、成形体5を造形部212から取り出し、焼成炉等で焼成する。これにより、
図10に示すように、積層造形用粉末1の焼結体である積層造形体10を得る。
【0027】
成形体5を焼成する際には、それに先立って成形体5に脱脂処理を施すようにしてもよい。脱脂処理は、成形体5を加熱することにより、バインダーの少なくとも一部を除去する処理である。具体的には、成形体5を加熱する処理であり、加熱条件の一例は、温度100℃以上750℃以下×0.1時間以上20時間以下である。また、加熱雰囲気としては、例えば、大気雰囲気、不活性ガス雰囲気、減圧雰囲気等が挙げられる。
【0028】
また、焼成処理は、成形体5または脱脂処理された成形体5を加熱することにより、金属粉末11の粒子同士を焼結させる処理である。加熱条件の一例は、980℃以上1330℃以下×0.2時間以上7時間以下である。また、加熱雰囲気としては、例えば、大気雰囲気、不活性ガス雰囲気、減圧雰囲気等が挙げられる。
【0029】
以上のように、本実施形態に係る積層造形体の製造方法は、積層造形用粉末1を用い、積層造形法により成形体5を得る工程S05と、成形体5を焼成し、焼結体である積層造形体10を得る工程と、を有する。
【0030】
このような製造方法によれば、積層造形用粉末1として金属粉末11の平均粒径が小さいにもかかわらず、流動性の高い粉末を用いることから、積層造形用粉末1の充填率が高い成形体5を製造することができる。つまり、流動性を高めるために、多量のバインダーを用いる必要がないため、成形体5におけるバインダーの比率を低く抑えることができる。その結果、最終的に、高密度で機械的特性に優れた積層造形体10を得ることができる。
【0031】
2.積層造形用粉末
次に、実施形態に係る積層造形用粉末について説明する。
図11は、実施形態に係る積層造形用粉末の概念を示す図である。
【0032】
本実施形態に係る積層造形用粉末1は、前述したバインダージェッティング法のような各種の積層造形法に用いられる粉末であり、
図11に示すように、金属粉末11と、セラミックス粉末12と、を含む混合粉末である。このうち、金属粉末11の平均粒径は、0.5μm以上30.0μm以下である。また、セラミックス粉末12の平均粒径は、3.0nm以上100.0nm以下である。そして、金属粉末11に対するセラミックス粉末12の混合比率が0.005質量%以上0.100質量%以下である。
【0033】
このような積層造形用粉末1は、金属粉末11の平均粒径が小さいにもかかわらず、高い流動性と充填性とを有する粉末である。このため、前述した製造方法のうち、工程S01や工程S03のように、積層造形用粉末1をコーター24によって引きずる等して移動させる場合でも、目的とする量を円滑に移動させることができる。そして、積層造形用粉末1がコーター24によってならされることで形成される第1粉末層31や第2粉末層32は、粒子の充填率が高いものとなる。つまり、流動性を高めるために、多量のバインダーを用いて造粒等を行う必要がない。このため、成形体5においても、積層造形用粉末1の充填率を高めるとともに、バインダーの含有率を低下させることができる。その結果、最終的に得られる積層造形体10の高密度化を図ることができる。また、成形体5の保形性も高くなることから、積層造形体10の寸法精度を高めることもできる。
【0034】
すなわち、本実施形態に係る積層造形体10は、多量のバインダーを用いることなく、流動性および充填性に優れた積層造形用粉末1が焼結されてなる焼結体を含む。このため、積層造形体10は高密度化が図られたものとなる。なお、積層造形体10は、積層造形用粉末1の焼結体以外の部位を含んでいてもよい。例えば、積層造形体10は、本実施形態に係る積層造形用粉末1の焼結体と、積層造形用粉末1の焼結体とは異なる粉末の焼結体と、が複合化されたものであってもよい。
【0035】
積層造形用粉末1の流動性が高くなる理由の1つとして、相対的に大径である金属粉末11の粒子同士の間に、相対的に小径であるセラミックス粉末12の粒子が介在することにより、金属粉末11の粒子同士の凝集が抑制されることがある。凝集が抑制されることにより、積層造形用粉末1の流れを妨げる凝集した粒子が減少するため、積層造形用粉末1の流動性を高めることができると考えられる。また、セラミックス粉末12が相対的に小径であり、かつ、混合比率が少なく抑えられていることから、セラミックス粉末12が混合されていても金属粉末11の焼結に悪影響を及ぼしにくい。このような理由から、最終的に得られる積層造形体10の機械的強度を高めることができる。
【0036】
なお、金属粉末11の平均粒径が前記下限値を下回ると、金属粉末11の粒子同士の凝集が避けられなくなるとともに、金属粉末11の製造が困難になる。一方、金属粉末11の平均粒径が前記上限値を上回ると、金属粉末11の充填性が低下するため、最終的に得られる積層造形体10の密度を高めることが難しくなる。
【0037】
また、セラミックス粉末12の平均粒径が前記下限値を下回ると、セラミックス粉末12の製造が困難になる。一方、セラミックス粉末12の平均粒径が前記上限値を上回ると、セラミックス粉末12が金属粉末11の焼結に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0038】
さらに、セラミックス粉末12の混合比率が前記下限値を下回ると、セラミックス粉末12を添加した効果が得られなくなる。一方、セラミックス粉末12の混合比率が前記上限値を上回ると、セラミックス粉末12の相対量が多くなるため、セラミックス粉末12が金属粉末11の焼結に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0039】
なお、積層造形用粉末1には、金属粉末11およびセラミックス粉末12以外の添加物が添加されていてもよい。添加物としては、例えば、樹脂粉末、樹脂繊維、界面活性剤、滑剤等が挙げられる。さらに、不可避的に混入する不純物が含まれていてもよい。ただし、添加物の添加量および不純物の混入量は、合計で1.0質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以下であるのがより好ましい。
【0040】
また、金属粉末11の含有率は、セラミックス粉末12、添加物および不純物の残部であるが、一例として98質量%以上であるのが好ましく、99質量%以上であるのがより好ましい。これにより、最終的に得られる積層造形体10は、金属粉末11の焼結体が支配的になる。このため、金属焼結体に由来する良好な機械的特性等を有する積層造形体10が得られる。
【0041】
また、金属粉末11の平均粒径は、特に0.5μm以上15.0μm以下であるのが好ましく、1.0μm以上8.5μm以下であるのがより好ましい。
【0042】
さらに、セラミックス粉末12の平均粒径は、特に3.0nm以上15.0nm以下であるのが好ましく、5.0nm以上10.0nm以下であるのがより好ましい。
【0043】
また、セラミックス粉末12の混合比率は、0.005質量%以上0.050質量%以下であるのが好ましく、0.010質量%以上0.030質量%以下であるのがより好ましい。
【0044】
以上のような範囲を満たすことにより、積層造形用粉末1は、特に高密度で機械的特性が良好な積層造形体10を製造可能な粉末となる。
【0045】
さらに、セラミックス粉末12の平均粒径は、金属粉末11の平均粒径を1としたとき、0.0005以上0.0100以下であるのが好ましく、0.0010以上0.0050以下であるのがより好ましい。これにより、金属粉末11とセラミックス粉末12とで平均粒径のバランスを最適化することができる。その結果、最終的に得られる積層造形体10の密度を特に高めることができる。
【0046】
なお、上述した平均粒径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置を用い、体積基準に基づく累積の体積が50%のときの粒径D50のことをいう。また、セラミックス粉末12の混合比率とは、金属粉末11に対するセラミックス粉末12の質量比率のことをいう。
【0047】
金属粉末11の構成材料は、特に限定されず、焼結性を有している材料であれば、いかなる材料であってもよい。一例としては、Fe、Ni、Co、Ti等の単体、またはこれらを主成分とする合金、金属間化合物等が挙げられる。
【0048】
このうち、Fe系合金としては、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、析出硬化系ステンレス鋼のようなステンレス鋼、低炭素鋼、炭素鋼、耐熱鋼、ダイス鋼、高速度工具鋼、Fe-Ni合金、Fe-Ni-Co合金等が挙げられる。
【0049】
また、Ni系合金としては、例えば、Ni-Cr-Fe系合金、Ni-Cr-Mo系合金、Ni-Fe系合金等が挙げられる。
【0050】
さらに、Co系合金としては、例えば、Co-Cr系合金、Co-Cr-Mo系合金、Co-Al-W系合金等が挙げられる。
【0051】
また、Ti系合金としては、例えば、Tiと、Al、V、Nb、Zr、Ta、Mo等の金属元素との合金が挙げられ、具体的には、Ti-6Al-4V、Ti-6Al-7Nb等が挙げられる。
【0052】
なお、金属粉末11は、いかなる方法で製造されたものであってもよいが、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、高速回転水流アトマイズ法のようなアトマイズ法で製造された粉末であるのが好ましく、水アトマイズ法または高速回転水流アトマイズ法で製造された粉末であるのが好ましい。これらは、平均粒径が小さな粉末であっても、低コストで製造可能であるため、金属粉末11として有用である。
【0053】
また、金属粉末11は、加熱処理、プラズマ処理、オゾン処理、還元処理等の各種前処理が施されたものであってもよい。
【0054】
さらに、金属粉末11の体積基準に基づく累積の体積が小径側から10%のときの粒径をD10としたとき、粒径D10は、1.0μm以上10.0μm以下であるのが好ましい。また、累積の体積が小径側から90%のときの粒径をD90としたとき、粒径D90は、3.0μm以上50.0μm以下であるのが好ましい。
【0055】
また、セラミックス粉末12の構成材料も、特に限定されないが、一例として、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ホウ素、酸化イットリウムのような酸化物系セラミックス、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステンのような非酸化物系セラミックス等が挙げられる。
【0056】
このうち、セラミックス粉末12の主材料は、酸化ケイ素であるのが好ましい。酸化ケイ素を主材料とするセラミックス粉末12は、金属粉末11の焼結性に及ぼす影響が小さく、かつ、積層造形用粉末1の流動性を高める効果が大きい。また、粒径の揃ったセラミックス粉末12を低コストで製造しやすいという利点もある。
なお、酸化ケイ素は、一酸化ケイ素と二酸化ケイ素の双方を含む。
【0057】
また、セラミックス粉末12は、表面処理が施されていないセラミックス粒子を含んでいてもよいが、表面処理が施されているセラミックス粒子120を含むのが好ましい。これにより、セラミックス粒子120の表面を、例えば疎水性等に改質することができる。その結果、セラミックス粒子120の表面に水分が吸着しにくくなり、セラミックス粒子120同士の凝集等を抑制することができる。そして、セラミックス粒子120同士が凝集することに伴う、積層造形用粉末1の流動性の低下を抑制することができる。
【0058】
図12は、表面処理が施されているセラミックス粒子120の概念を示す断面図である。
【0059】
図12に示すセラミックス粒子120は、粒子本体121と、粒子本体121の表面に付与されている改質層122と、を有する。粒子本体121は、前述したセラミックス材料で構成されており、改質層122は、例えば前述した疎水性の他、各種の特性を付与する表面修飾基を含む層である。この表面修飾基としては、例えば、ビニル基、フェニル基、アルキル基、アクリル基、メタクリル基、トリアルキルシリル基等が挙げられる。このうち、表面修飾基としては、ビニル基、フェニル基またはアルキル基が好ましく用いられ、ビニル基が特に好ましく用いられる。粒子本体121の表面にこれらの表面修飾基を付与することにより、セラミックス粒子120同士の凝集が抑制されるため、セラミックス粒子120が金属粉末11の粒子同士の間に介在し、金属粉末11の粒子同士の凝集も抑制される。その結果、金属粉末11の平均粒径が小さい場合でも、積層造形用粉末1の流動性を高めることができる。
【0060】
なお、アルキル基の炭素原子数は、1以上6以下であるのが好ましい。また、アルキル基は、メチル基であるのがより好ましい。同様に、トリアルキルシリル基のうち、ケイ素原子に結合している3つのアルキル基の各炭素原子数は、1以上6以下であるのが好ましい。また、トリアルキルシリル基は、トリメチルシリル基であるのがより好ましい。
【0061】
また、表面修飾基を付与する方法は、セラミックスの表面を官能基で修飾する方法であれば、特に限定されない。例えば、粒子本体121を反応槽に入れ、撹拌しながら、表面修飾基を含む化合物を噴霧し、その後加熱する方法、粒子本体121を含む分散液に、表面修飾基を含む化合物を加え、加熱しながら撹拌する方法等が挙げられる。このような方法により、粒子本体121の表面に表面修飾基を含む改質層122を形成することができる。
【0062】
さらに、セラミックス粉末12は、加熱処理、プラズマ処理、オゾン処理等の各種前処理が施されたものであってもよい。
【0063】
また、本実施形態に係る積層造形用粉末1は、上述したバインダージェッティング法以外の積層造形法にも用いられる。具体的には、積層造形用粉末1を、熱溶融積層法、粉末焼結積層造形法等に用いるようにしてもよい。これらの方法では、造形部212において積層造形用粉末1にレーザーや電子線を照射して焼結させることができる。これにより、造形部212において積層造形体10を製造することができる。
【0064】
以上、本発明の積層造形用粉末、積層造形体および積層造形体の製造方法を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば本発明の積層造形用粉末は、前記実施形態に任意の成分が付加されたものであってもよい。
【実施例】
【0065】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.積層造形用粉末の製造
(実施例1)
まず、水アトマイズ法により製造されたSUS630系ステンレス鋼粉末と、酸化ケイ素粉末と、を5分間混合して積層造形用粉末を得た。なお、混合にはダルトン混合機を使用した。また、混合条件は、以下のとおりである。
【0066】
ステンレス鋼粉末の平均粒径 :3.75μm
ステンレス鋼粉末のかさ密度 :1.90g/cm3
ステンレス鋼粉末のタップ密度 :4.07g/cm3
ステンレス鋼粉末の混合比 :100質量部
酸化ケイ素粉末の平均粒径 :10nm
酸化ケイ素粉末の混合比(比率):0.020質量部(0.020質量%)
酸化ケイ素粉末の表面処理 :ビニル基修飾
【0067】
(実施例2~23)
積層造形用粉末の製造条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして積層造形用粉末を得た。
【0068】
なお、表1に示す「加熱」は、積層造形用粉末を調製した後、ドライオーブンを用い、大気雰囲気下において200℃で50時間加熱する処理を施したことを指す。
【0069】
(比較例1~6)
酸化ケイ素粉末の添加を省略した以外は、実施例1~6と同様にして積層造形用粉末を得た。
【0070】
(比較例7~9)
積層造形用粉末の製造条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして積層造形用粉末を得た。
【0071】
2.積層造形用粉末の評価
2.1 かさ密度
各実施例および各比較例で得られた積層造形用粉末について、JIS Z 2504:2012に規定の金属粉の見掛密度測定方法により、かさ密度を測定した。
【0072】
2.2 タップ密度
各実施例および各比較例で得られた積層造形用粉末について、ホソカワミクロン株式会社製、粉体特性評価装置、パウダテスタ(登録商標)PT-Xを用いて、タップ密度を測定した。なお、タップ回数は125回とした。
【0073】
2.3 安息角
各実施例および各比較例で得られた積層造形用粉末について、ホソカワミクロン株式会社製、粉体特性評価装置、パウダテスタ(登録商標)PT-Xを用いて、安息角を測定した。
【0074】
3.積層造形体の評価
各実施例および各比較例で得られた積層造形用粉末について、バインダージェッティング法による積層造形法により、50層を積層してなる成形体を作製した。バインダー溶液には、ステアリン酸エマルジョンを使用した。
【0075】
続いて、作製した成形体に脱脂処理を施して脱脂した後、焼成炉にて焼成した。焼成条件は、アルゴン雰囲気において、1300℃×3時間とした。これにより、焼結体である積層造形体を得た。
【0076】
次に、得られた積層造形体の密度を測定した。続いて、用いた金属粉末の真密度に対する測定した密度の相対値、すなわち相対密度を算出した。そして、算出した相対値を以下の評価基準に照らして評価した。
【0077】
(評価基準)
A:相対密度が99.0%以上である
B:相対密度が98.0%以上99.0%未満である
C:相対密度が97.0%以上98.0%未満である
D:相対密度が96.0%以上97.0%未満である
E:相対密度が95.0%以上96.0%未満である
F:相対密度が95.0%未満である
【0078】
【0079】
表1から明らかなように、金属粉末の平均粒径D50、セラミックス粉末の平均粒径およびセラミックス粉末の混合比をそれぞれ最適化することにより、最終的に、相対密度が高い積層造形体を製造可能であることが認められた。
【0080】
また、セラミックス粉末の粒子表面に表面修飾基を付与することにより、積層造形用粉末の充填性および流動性を高めるとともに、積層造形体の相対密度を高められることが認められた。
【0081】
以上のことから、本発明によれば、高密度の積層造形体を製造可能な積層造形用粉末を実現することができる。
【0082】
なお、SUS630系ステンレス鋼粉末に代えて、SUS304L系ステンレス鋼粉末およびSUS316L系ステンレス鋼粉末を用いて、上記と同様の評価を行ったところ、SUS630系ステンレス鋼粉末と同様の傾向が認められた。
【符号の説明】
【0083】
1…積層造形用粉末、2…積層造形装置、4…バインダー溶液、5…成形体、10…積層造形体、11…金属粉末、12…セラミックス粉末、21…装置本体、22…粉末供給エレベーター、23…造形ステージ、24…コーター、25…溶液供給部、31…第1粉末層、32…第2粉末層、41…第1結着体、42…第2結着体、120…セラミックス粒子、121…粒子本体、122…改質層、211…粉末貯留部、212…造形部、S01…工程、S02…工程、S03…工程、S04…工程、S05…工程、S06…工程