(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】接着剤組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 201/00 20060101AFI20231205BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20231205BHJP
C09J 123/22 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J11/08
C09J123/22
(21)【出願番号】P 2019100139
(22)【出願日】2019-05-29
【審査請求日】2022-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】森永 貴大
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-181168(JP,A)
【文献】特開2018-176583(JP,A)
【文献】特開2018-103482(JP,A)
【文献】特開2019-038860(JP,A)
【文献】特開2018-44097(JP,A)
【文献】特開2018-95817(JP,A)
【文献】特開2014-132072(JP,A)
【文献】特開2012-144624(JP,A)
【文献】国際公開第2018/235560(WO,A1)
【文献】特開平9-95895(JP,A)
【文献】特開2007-169416(JP,A)
【文献】国際公開第2018/235421(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C09J 1/00- 5/10
C09J 7/00- 7/50
C09J 9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材が被覆材で被覆されたコアシェル型複合粒子を含有し、
上記芯材は接着剤成分を含み、上記被覆材はセルロースナノファイバーを含み、
上記被覆材と上記接着剤成分との配合割合(被覆材の質量/接着剤成分の質量)が0.9/5~0.9/10であり、
上記セルロースナノファイバーがアニオン性官能基を有
し、
上記芯材表面積の90%以上が上記被覆材で被覆されていることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
上記アニオン性官能基がカルボキシ基であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
上記接着剤成分が、酢酸ビニル系樹脂、二トリルゴム系エラストマー、ブチルゴム系エラストマー、エポキシ系樹脂、またはアクリル系樹脂であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
上記接着剤成分が、ブチルゴム系エラストマーであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
請求項1
から請求項4のいずれか1項に記載の接着剤組成物を製造する、接着剤組成物の製造方法であって、
セルロースナノファイバー分散液を調製する工程と、
接着剤成分を含む溶液を調整する工程と、
上記セルロースナノファイバー分散液と上記接着剤成分を含む溶液とを混合しエマルションを形成する工程と、
を含むことを特徴とする接着剤組成物の製造方法。
【請求項6】
上記セルロースナノファイバー分散液は、上記セルロースナノファイバーを1質量%含み、
上記接着剤成分を含む溶液は、上記接着剤成分を50質量%~100質量%含み、
上記セルロースナノファイバー分散液と上記接着剤成分を含む溶液とを混合しエマルションを形成する工程では、上記セルロースナノファイバー分散液の配合量を90質量部とし、上記接着剤成分を含む溶液の配合量を10質量部とすることを特徴とする請求項
5に記載の接着剤組成物の製造方法。
【請求項7】
芯材
表面積の90%以上が被覆材で被覆されたコアシェル型複合粒子を含有し、
上記芯材は接着剤成分を含み、上記被覆材はセルロースナノファイバーを含む接着剤組成物を製造する、接着剤組成物の製造方法であって、
セルロースナノファイバー分散液を調製する工程と、
接着剤成分を含む溶液を調整する工程と、
上記セルロースナノファイバー分散液と上記接着剤成分を含む溶液とを混合しエマルションを形成する工程と、
を含み、
上記セルロースナノファイバーは、アニオン性官能基を有し、
上記セルロースナノファイバー分散液は、上記セルロースナノファイバーを1質量%含み、
上記接着剤成分を含む溶液は、上記接着剤成分を50質量%~100質量%含み、
上記セルロースナノファイバー分散液と上記接着剤成分を含む溶液とを混合しエマルションを形成する工程では、上記セルロースナノファイバー分散液の配合量を90質量部とし、上記接着剤成分を含む溶液の配合量を10質量部とすることを特徴とする接着剤組成物の製造方法。
【請求項8】
上記接着剤成分が、酢酸ビニル系樹脂、二トリルゴム系エラストマー、ブチルゴム系エラストマー、エポキシ系樹脂、またはアクリル系樹脂であることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の接着剤組成物の製造方法。
【請求項9】
上記接着剤成分が、ブチルゴム系エラストマーであることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の接着剤組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーを含有する接着剤組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、木材中のセルロース繊維を、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化した材料(例えばセルロースナノファイバー)を、新規な機能性材料とし利用しようとする試みが活発に行われている。
セルロースナノファイバーの活用事例の1つとして、セルロースナノファイバーを含有した樹脂組成物を接着剤として用いることが提案されている(例えば、特許文献1~3)。セルロースナノファイバーを添加する効果として、セルロースナノファイバーの結晶性に由来した接着強度の向上が期待されている。
【0003】
特許文献1では、水系のセルロースナノファイバーを同じく水系接着剤組成物に添加する技術が開示されている。特許文献2では、エポキシ系接着剤中でセルロースを解繊してセルロースナノファイバーとする技術が開示されている。ここで、特許文献1,2のセルロースナノファイバーはいずれも水系である。一方、接着剤自体は疎水性(水系接着剤であってもラテックスになっているだけで接着剤成分は疎水性である)である。このため、十分にセルロースナノファイバーが分散できない場合があった。
また、特許文献3では、ポリエーテルアミン修飾によって親油化されたセルロースナノファイバーを接着剤組成物として添加する技術が開示されている。親油化によって接着剤組成物中での分散性はある程度改善されるものの、いまだ分散性が十分でない場合があり、また、セルロースナノファイバーの製造が煩雑になるなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6361123号公報
【文献】特開2016-138220号公報
【文献】特開2018-44097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、係る事情を鑑みてなされたものであり、セルロースナノファイバーを含有する接着剤組成物であって、セルロースナノファイバーを十分に分散でき、かつ、強い接着強度を有する接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題解決のために、本発明の一態様である接着剤組成物は、芯材として接着剤成分、被覆材としてセルロースナノファイバーを含むコアシェル型複合粒子を含有する。
上記セルロースナノファイバーはアニオン性官能基を有していることが好ましく、アニオン性官能基はカルボキシ基であることがより好ましい。
また本発明の一態様である接着剤組成物の製造方法は、セルロースナノファイバー分散液を調製する工程、接着剤成分を含む溶液を調整する工程、上記セルロースナノファイバー分散液と上記接着剤成分を含む溶液を混合しエマルションを形成する工程を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、セルロースナノファイバーを含有する接着剤組成物であって、セルロースナノファイバーを十分に分散でき、かつ、強い接着強度を有する接着剤組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るコアシェル型複合粒子の断面模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る接着剤組成物の製造手順の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
ただし、以下に説明する各図において相互に対応する部分には同一符号を付し、重複部分においては後述での説明を適宜省略する。また、本実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、各部の材質、形状、構造、配置、寸法等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
<コアシェル型複合粒子>
本実施形態の接着剤組成物は、芯材が被覆材で被覆されたコアシェル型複合粒子を含有する。本実施形態で被覆とは、芯材表面積の80%以上好ましくは90%以上被覆する場合を指す。
図1はコアシェル型複合粒子の断面模式図である。芯材2として接着剤成分、被覆材としてセルロースナノファイバー(以下、CNFと称する場合もある)1を含むコアシェル型複合粒子10を含有する
本実施形態の接着剤組成物は、コアシェル型複合粒子10単独の形態、あるいは、コアシェル型複合粒子10を溶剤やバインダーなどに分散した形態をとる。
また、本実施形態の接着剤組成物の製造方法は、CNF分散液を調製する工程(第1工程)、接着剤成分を含む溶液を調整する工程(第2工程)、上記CNF分散液と上記接着剤成分を含む溶液を混合しエマルションを形成する工程(第3工程)、を含む。
【0011】
図2は、接着剤組成物の製造手順の概略図である。本実施形態の接着剤組成物の製造方法では、
図2に示すように、CNF分散液101と接着剤成分含有溶液102を混合し、第3工程において、適宜乳化処理を行うと接着剤成分含有溶液102の液滴界面にセルロースナノファイバー1が吸着したO/W型ピッカリングエマルションを形成し、コアシェル型複合粒子分散液103となる。
乳化処理の手法としては、攪拌、超音波、ホモジナイザー、マイクロリアクターなど公知の手法から選択することができる。コアシェル型複合粒子分散液103をそのまま接着剤組成物104として用いることもできるが、必要に応じて精製及び溶媒置換を行って分散媒(溶剤又はバインダー)20に分散してもよい。
【0012】
なお、ここでO/W型エマルションは、水中油滴型(Oil-in-Water)とも言われ、水を連続相とし、その中に油が油滴として分散しているものである。
本実施形態では、コアシェル型複合粒子の被覆材としてセルロースナノファイバー1を採用することで、当該セルロースファイバー1を、接着剤組成物104に均一又はほぼ均一に分散できる。このため、本実施形態の接着剤組成物を、実際に接着剤として使用し固化した場合であってもCNFが系内に均一に分散した状態を維持できる。
【0013】
<セルロースナノファイバー>
セルロースナノファイバー1は、特に限定されないが、結晶表面にアニオン性官能基を有していることが好ましい。アニオン性官能基の含有量は、セルロース1g当たり0.1mmol以上5.0mmol以下であることが好ましい。セルロースの結晶表面に導入されるアニオン性官能基の種類や導入方法は特に限定されないが、カルボキシ基やリン酸基が好ましい。セルロース結晶表面への選択的な導入のしやすさから、カルボキシ基が好ましい。
更に、セルロースナノファイバー1は、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状であることが好ましい。具体的には、セルロースナノファイバー1は、繊維状であって、数平均短軸径が1nm以上1000nm以下、数平均長軸径が50nm以上であり、かつ数平均長軸径が数平均短軸径の5倍以上であることが好ましい。また、セルロースナノファイバー1の結晶構造は、セルロースI型であることが好ましい。
【0014】
<セルロースナノファイバー分散液の製造方法(第1工程)>
次に、製造方法の第1工程に当たる、セルロースナノファイバー分散液の製造方法について説明する。具体的には、セルロース原料を溶媒中で解繊してCNF分散液を得る工程である。
【0015】
まず、各種セルロース原料を溶媒中に分散し、懸濁液とする。懸濁液中のセルロース原料の濃度としては0.1%以上10%未満が好ましい。0.1%未満であると、溶媒過多となり生産性を損なうため好ましくない。10%以上になると、セルロース原料の解繊に伴い懸濁液が急激に増粘し、均一な解繊処理が困難となるため好ましくない。懸濁液作製に用いる溶媒としては、水を50%以上含むことが好ましい。懸濁液中の水の割合が50%以下になると、後述するセルロース原料を溶媒中で解繊してセルロースナノファイバー分散液を得る工程において、セルロースナノファイバー1の分散が阻害される。また、水以外に含まれる溶媒としては親水性溶媒が好ましい。親水性溶媒については特に制限はないが、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類が好ましい。必要に応じて、セルロースや生成するセルロースナノファイバー1の分散性を向上させるために、懸濁液のpH調整を行ってもよい。pH調整に用いられるアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液などの有機アルカリなどが挙げられる。コストなどの面から水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
【0016】
続いて、懸濁液に物理的解繊処理を施して、セルロース原料を微細化する。物理的解繊処理の方法としては特に限定されないが、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突などの機械的処理が挙げられる。このような物理的解繊処理を行うことで、懸濁液中のセルロースが微細化され、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化されたセルロースの分散液を得ることができる。また、このときの物理的解繊処理の時間や回数により、得られるセルロースナノファイバー1の数平均短軸径及び数平均長軸径を調整することができる。
上記のようにして、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化されたセルロースの分散体(CNF分散液)が得られる。得られた分散体は、そのまま、又は希釈、濃縮等を行って、後述するO/W型エマルションの安定化剤として用いることができる。
【0017】
通常、セルロースナノファイバー1は、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状であるため、本実施形態の製造方法に用いるセルロースナノファイバー1としては、以下に示す範囲にある繊維形状のものが好ましい。すなわち、セルロースナノファイバー1の形状としては、繊維状であることが好ましい。また、繊維状のセルロースナノファイバー1は、短軸径において数平均短軸径が1nm以上1000nm以下であればよく、好ましくは2nm以上500nm以下であればよい。ここで、数平均短軸径が1nm未満では高結晶性の剛直なCNF繊維構造をとることができず、エマルションの安定化と、エマルションを鋳型とした重合反応とを実施することができない。一方、1000nmを超えると、エマルションを安定化させるにはサイズが大きくなり過ぎるため、得られるコアシェル型複合粒子10のサイズや形状を制御することが困難となる。また、数平均長軸径においては特に制限はないが、好ましくは数平均短軸径の5倍以上であればよい。数平均長軸径が数平均短軸径の5倍未満であると、コアシェル型複合粒子10のサイズや形状を十分に制御することができないために好ましくない。
【0018】
なお、CNF繊維の数平均短軸径は、透過型電子顕微鏡観察又は原子間力顕微鏡観察により、100本の繊維の短軸径(最小径)を測定し、その平均値として求められる。一方、CNF繊維の数平均長軸径は、透過型電子顕微鏡観察又は原子間力顕微鏡観察により、100本の繊維の長軸径(最大径)を測定し、その平均値として求められる。
【0019】
セルロースナノファイバー1の原料として用いることができるセルロースの種類や結晶構造も特に限定されない。具体的には、セルロースI型結晶からなる原料としては、例えば、木材系天然セルロースに加えて、コットンリンター、竹、麻、バガス、ケナフ、バクテリアセルロース、ホヤセルロース、バロニアセルロースといった非木材系天然セルロースを用いることができる。更には、セルロースII型結晶からなるレーヨン繊維、キュプラ繊維に代表される再生セルロースも用いることができる。材料調達の容易さから、木材系天然セルロースを原料とすることが好ましい。木材系天然セルロースとしては、特に限定されず、針葉樹パルプや広葉樹パルプ、古紙パルプ、など、一般的にセルロースナノファイバーの製造に用いられるものを用いることができる。精製及び微細化のしやすさから、針葉樹パルプが好ましい。
【0020】
更にCNF原料は化学改質されていることが好ましい。より具体的には、CNF原料の結晶表面にアニオン性官能基が導入されていることが好ましい。セルロース結晶表面にアニオン性官能基が導入されていることによって浸透圧効果でセルロース結晶間に溶媒が浸入しやすくなり、セルロース原料の微細化が進行しやすくなるためである。
セルロースの結晶表面に導入されるアニオン性官能基の種類や導入方法は、特に限定されないが、カルボキシ基やリン酸基が好ましい。セルロース結晶表面への選択的な導入のしやすさから、カルボキシ基が好ましい。
【0021】
セルロースの繊維表面にカルボキシ基を導入する方法は、特に限定されない。具体的には、例えば、高濃度アルカリ水溶液中でセルロースをモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムと反応させることによりカルボキシメチル化を行ってもよい。また、オートクレーブ中でガス化したマレイン酸やフタル酸等の無水カルボン酸系化合物とセルロースを直接反応させてカルボキシ基を導入してもよい。更には、水系の比較的温和な条件で、可能な限り構造を保ちながら、アルコール性一級炭素の酸化に対する選択性が高い、TEMPOをはじめとするN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いた手法を用いてもよい。カルボキシ基導入部位の選択性及び環境負荷低減のためにはN-オキシル化合物を用いた酸化がより好ましい。
【0022】
ここで、N-オキシル化合物としては、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシラジカル)、2,2,6,6-テトラメチル-4-ヒドロキシピペリジン-1-オキシル、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-エトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、等が挙げられる。そのなかでも、反応性が高いTEMPOが好ましい。N-オキシル化合物の使用量は、触媒としての量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して0.01~5.0質量%である。
【0023】
N-オキシル化合物を用いた酸化方法としては、例えば木材系天然セルロースを水中に分散させ、N-オキシル化合物の共存下で酸化処理する方法が挙げられる。このとき、N-オキシル化合物とともに、共酸化剤を併用することが好ましい。この場合、反応系内において、N-オキシル化合物が順次共酸化剤により酸化されてオキソアンモニウム塩が生成し、上記オキソアンモニウム塩によりセルロースが酸化される。この酸化処理によれば、温和な条件でも酸化反応が円滑に進行し、カルボキシ基の導入効率が向上する。酸化処理を温和な条件で行うと、セルロースの結晶構造を維持しやすい。
【0024】
共酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸、又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、酸化反応を推進することが可能であれば、いずれの酸化剤も用いることができる。入手の容易さや反応性から、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。上記共酸化剤の使用量は、酸化反応を促進することができる量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1~200質量%である。
【0025】
また、N-オキシル化合物及び共酸化剤とともに、臭化物及びヨウ化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を更に併用してもよい。これにより、酸化反応を円滑に進行させることができ、カルボキシ基の導入効率を改善することができる。このような化合物としては、臭化ナトリウム又は臭化リチウムが好ましく、コストや安定性から、臭化ナトリウムがより好ましい。化合物の使用量は、酸化反応を促進することができる量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1~50質量%程度である。
【0026】
酸化反応の反応温度は、4~80℃が好ましく、10~70℃がより好ましい。4℃未満であると、試薬の反応性が低下し反応時間が長くなってしまう。80℃を超えると副反応が促進して試料が低分子化して高結晶性の剛直なCNF繊維構造が崩壊し、O/W型エマルションの安定化剤として用いることができない。
また、酸化処理の反応時間は、反応温度、所望のカルボキシ基量等を考慮して適宜設定でき、特に限定されないが、通常、10分~5時間である。
【0027】
酸化反応時の反応系のpHは特に限定されないが、9~11が好ましい。pHが9以上であると反応を効率良く進めることができる。pHが11を超えると副反応が進行し、試料の分解が促進されてしまうおそれがある。また、酸化処理においては、酸化が進行するにつれて、カルボキシ基が生成することにより系内のpHが低下してしまうため、酸化処理中、反応系のpHを9~11に保つことが好ましい。反応系のpHを9~11に保つ方法としては、pHの低下に応じてアルカリ水溶液を添加する方法が挙げられる。
【0028】
アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液などの有機アルカリなどが挙げられる。コストなどの面から水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
N-オキシル化合物による酸化反応は、反応系にアルコールを添加することにより停止させることができる。このとき、反応系のpHは上記の範囲内に保つことが好ましい。
添加するアルコールとしては、反応をすばやく終了させるためメタノール、エタノール、プロパノールなどの低分子量のアルコールが好ましく、反応により生成される副産物の安全性などから、エタノールが特に好ましい。
【0029】
酸化処理後の反応液は、そのまま微細化工程に供してもよいが、N-オキシル化合物等の触媒、不純物等を除去するために、反応液に含まれる酸化セルロースを回収し、洗浄液で洗浄することが好ましい。酸化セルロースの回収は、ガラスフィルターや20μm孔径のナイロンメッシュを用いたろ過等の公知の方法により実施できる。酸化セルロースの洗浄に用いる洗浄液としては純水が好ましい。
得られたTEMPO酸化セルロースに対し解繊処理を行うと、3nmの均一な繊維幅を有するセルロースシングルナノファイバー(CSNF)が得られる。CSNFをコアシェル型複合粒子10のセルロースナノファイバー1の原料として用いると、その均一な構造に由来して、得られるO/W型エマルションの粒径も均一になりやすい。
【0030】
以上のように、本実施形態で用いられるCNFは、セルロース原料を酸化する工程と、微細化して分散液化する工程と、によって得ることができる。また、CNFに導入するカルボキシ基の含有量としては、0.1mmol/g以上5.0mmol/g以下が好ましく、0.5mmol/g以上2.0mmol/g以下がより好ましい。ここで、カルボキシ基量が0.1mmol/g未満であると、セルロースミクロフィブリル間に浸透圧効果による溶媒進入作用が働かないため、セルロースを微細化して均一に分散させることは難しい。また、5.0mmol/gを超えると化学処理に伴う副反応によりセルロースミクロフィブリルが低分子化するため、高結晶性の剛直なCNF繊維構造をとることができず、O/W型エマルションの安定化剤として用いることができない。
【0031】
<接着剤組成物>
続いて、本実施形態の接着剤組成物について説明する。ただし、本実施形態の接着剤組成物は以下に説明する実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
本実施形態に使用できる接着剤成分は、特に制限は無く、モノマーやオリゴマーであってもポリマーであっても構わない。また、これらは1種類であっても複数種類を組み合わせて使用しても構わない。
製造方法における第2工程では、接着剤成分を有機溶剤に溶解あるいは分散させることによって接着剤成分を含有する溶液を調整する。第3工程のエマルション形成工程は上記と同様に行う。エマルションを形成した後に熱処理や減圧処理など公知の方法によって乾燥させてコアシェル型複合粒子から有機溶剤を除去しても良い。
接着剤組成物の固化方法としては、化学反応により硬化するものと乾燥や溶融状態から冷却など化学反応以外で固化するものに大別される。
【0032】
(化学反応以外で固化する接着剤成分)
本実施形態に用いる化学反応以外で固化する接着剤成分としては、酢酸ビニル系、塩化ビニル系、スチレン系、アクリル系、飽和ポリエステル系などの熱可塑性樹脂接着剤の接着剤成分や、クロロプレンゴム系、ニトリルゴム系、ブチルゴム系、SBR系などの合成ゴム系エラストマーが例示される。
熱可塑性樹脂接着剤は、水揮散タイプあるいは熱溶融タイプの接着剤として使用される。水揮散タイプとして使用する場合には、第3工程までに得られたコアシェル型複合粒子をそのまま用いても良いし、遠心分離などによって精製してから水に分散させて用いても良い。熱溶融タイプとして使用する場合には、第3工程までに得られたコアシェル型複合粒子を遠心分離などによって精製、乾燥させて粉体として用いてもよいし、芯材と同じ又は別の接着剤に分散させてから使用してもよい。CNFを樹脂に混合すると分散性が悪い場合があるが、本実施形態においてはコアシェル型複合粒子の被覆材となっているため、粒子が分散するとともにCNFも均一に分散する。
【0033】
合成ゴム系エラストマーは、主に有機溶剤に分散しており有機溶剤揮散タイプの接着剤成分として使用される。有機溶剤揮散タイプとして使用する場合には、第3工程までに得られたコアシェル型複合粒子を遠心分離などによって精製してから有機溶剤に分散させて用いることができる。
【0034】
(化学反応によって固化する接着剤成分)
本実施形態に用いる化学反応によって固化する接着剤成分としては、エポキシ系、ウレタン系、不飽和ポリエステル系、アクリル系などの熱硬化性樹脂接着剤の接着剤成分が例示される。
熱硬化性樹脂接着剤の接着剤成分は、複数の成分からなり接着剤を塗布した後に硬化反応を行うことによって固化させる。
本実施形態の接着剤組成物においては、芯材として複数の接着剤成分を含有してもよいし、接着剤の1つの接着剤成分を芯材に含有させてコアシェル型複合粒子を作製し、他の接着剤成分をバインダーとしてコアシェル型複合粒子を分散させて接着剤組成物とすることもできる。後者では2液系の接着剤を1液化することが可能である。
【0035】
例えば、エポキシ系接着剤の接着剤成分を使用する場合は、アミンなどの硬化剤からなる接着剤成分を芯材としてコアシェル型複合粒子を形成し、これをエポキシオリゴマーに分散させることによって接着剤組成物とすることができる。ウレタン系接着剤の接着剤成分を使用する場合では、イソシアネートなどの硬化剤からなる接着剤成分を芯材としてコアシェル型複合粒子を形成し、これをポリオールなどのバインダーに分散することによって接着剤組成物とすることができる。アクリル系接着剤の接着剤成分を使用する場合、開始剤や硬化剤からなる接着剤成分を芯材としてコアシェル型複合粒子を形成し、これをアクリルモノマーあるいはアクリルオリゴマーなどのバインダーに分散することによって接着剤組成物とすることができる。
【0036】
本実施形態の接着剤組成物には、その用途に応じて公知の各種添加剤を含有しても良い。例えば、加水分解防止剤、着色剤、難燃剤、酸化防止剤、重合開始剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、消泡剤、レベリング剤、光安定剤(例えば、ヒンダードアミン等)、酸化防止剤、導電性付与剤、摺動性付与剤、界面活性剤、触媒、硬化促進剤、無機フィラー、有機フィラー等を挙げることができる。
【0037】
<接着剤組成物の使用>
本実施形態の接着剤組成物においては、使用する際に加圧接着を行うことが望ましい。加圧処理を行うことによってコアシェル型複合粒子が崩壊し、好適に接着効果を示す。加圧条件は使用する接着剤の種類によって選択される。
【実施例】
【0038】
以下、本実施形態を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
[製造例1]
(第1工程:セルロースナノファイバー分散液を得る工程)
(木材セルロースのTEMPO酸化)
針葉樹クラフトパルプ70gを蒸留水3500gに懸濁し、蒸留水350gにTEMPOを0.7g、臭化ナトリウムを7g溶解させた溶液を加え、20℃まで冷却した。ここに2mol/L、密度1.15g/mLの次亜塩素酸ナトリウム水溶液450gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。系内の温度は常に20℃に保ち、反応中のpHの低下は0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加することでpH10に保ち続けた。セルロースの質量に対して、水酸化ナトリウムの添加量の合計が3.50mmol/gに達した時点で、約100mLのエタノールを添加し反応を停止させた。その後、ガラスフィルターを用いて蒸留水によるろ過洗浄を繰り返し、酸化パルプを得た。
【0039】
(酸化パルプのカルボキシ基量測定)
上記TEMPO酸化で得た酸化パルプ及び再酸化パルプを固形分質量で0.1g量りとり、1%濃度で水に分散させ、塩酸を加えてpHを2.5とした。その後0.5M水酸化ナトリウム水溶液を用いた電導度滴定法により、カルボキシ基量(mmol/g)を求めた。結果は1.6mmol/gであった。
【0040】
(酸化パルプの解繊処理)
上記TEMPO酸化で得た酸化パルプ1gを99gの蒸留水に分散させ、ジューサーミキサーで30分間微細化処理し、CNF濃度1%のCNF水分散液A1を得た。CNF水分散液A1を光路長1cmの石英セルに入れ、分光光度計(島津製作所社製、「UV-3600」)を用いて分光透過スペクトルの測定を行った結果、CNF水分散液A1は高い透明性を示した。また、CNF水分散液A1に含まれるCNFの数平均短軸径は3nm、数平均長軸径は1110nmであった。更に、レオメーターを用いて定常粘弾性測定を行った結果、CNF水分散液A1はチキソトロピック性を示した。
【0041】
[実施例1]
(第2工程:接着剤成分含有溶液の調整)
酢酸ビニル樹脂(電気化学工業株式会社製、デンカサクノールSN-10)50質量部をトルエン50質量部に溶解させ接着剤成分の溶液を調製した。
(第3工程:エマルション形成)
製造例1で得たCNF水分散液A1を90質量部に第2工程で得た接着剤成分の溶液10質量部を添加した。液面上部より超音波ホモジナイザーのシャフトを挿入し、周波数24kHz、出力400Wの条件で、超音波ホモジナイザー処理を3分間行った。超音波ホモジナイザー処理後の混合液の外観は白濁した乳化液の様態であった。混合液一滴をスライドグラスに滴下し、カバーガラスで封入して光学顕微鏡で観察したところ、数μm程度のエマルション液滴が無数に生成し、O/W型エマルションとして分散安定化している様子が確認された。
【0042】
得られた分散液に対し、遠心力75,000gで5分間処理したところ、沈降物を得た。デカンテーションにより上澄みを除去して沈降物を回収し、更に孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて、純水で繰り返し洗浄した。こうして得られた精製・回収物を20%濃度で再分散させ接着剤組成物を得た。
また、得られた回収物を純水で1%濃度に調整し粒度分布計(NANOTRAC UPA-EX150、日機装株式会社)を用いて粒径を評価したところ平均粒径2.1μmであった。
厚み1mm、幅15mm、長さ50mmの鋼板を被着材として使用し、加圧下、常温、24時間の条件にて上記接着剤組成物を硬化させ、試験片を得た。
【0043】
<接着剤組成物の安定性評価>
上記接着剤組成物を20mlガラス瓶に移しとり、一晩静置した。その後、ガラス瓶中での接着剤組成物の変化の有無を確認した。
○:変化なし
×:変化あり(変化の詳細は後述する表1中に示した)
<接着強度の評価>
小型卓上試験機(島津製作所社製、EZ-LS)を用いて、上記試験片を2.5mm/min、23℃の雰囲気下にて引張せん断接着強度を測定した。
【0044】
[実施例2]
(第2工程:接着剤成分含有溶液の調整)
二トリルゴム系接着剤(スリーエム株式会社製、工業用接着剤 EC776)を接着剤成分の溶液とした。
(第3工程:エマルション形成)
製造例1で得たCNF水分散液A1を90質量部に第2工程で得た接着剤成分の溶液10質量部を添加した。液面上部より超音波ホモジナイザーのシャフトを挿入し、周波数24kHz、出力400Wの条件で、超音波ホモジナイザー処理を3分間行った。超音波ホモジナイザー処理後の混合液の外観は白濁した乳化液の様態であった。混合液一滴をスライドグラスに滴下し、カバーガラスで封入して光学顕微鏡で観察したところ、数μm程度のエマルション液滴が無数に生成し、O/W型エマルションとして分散安定化している様子が確認された。
【0045】
得られた分散液に対し、遠心力75,000gで5分間処理したところ、沈降物を得た。デカンテーションにより上澄みを除去して沈降物を回収し、更に孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて、純水、続いて、純水/MEK=80/20の溶液、MEKの順に洗浄溶媒を変更して洗浄した。こうして得られた精製・回収物を20%濃度でMEKに再分散させ接着剤組成物を得た。
また、得られた回収物を純水で1%濃度に調整し粒度分布計(NANOTRAC UPA-EX150、日機装株式会社)を用いて粒径を評価したところ平均粒径5.6μmであった。
厚み1mm、幅15mm、長さ50mmの鋼板を被着材として使用し、加圧下、常温、1時間の条件にて上記接着剤組成物を硬化させ、試験片を得た。得られた接着剤組成物及び試験片について実施例1と同様の方法で各特性の評価を実施した。
【0046】
[実施例3]
(第2工程:接着剤成分含有溶液の調整)
エポキシ樹脂硬化剤(三菱ケミカル株式会社製、jERキュアST13)を接着剤成分の溶液とした。
(第3工程:エマルション形成)
製造例1で得たCNF水分散液A1を90質量部に第2工程で得た接着剤成分の溶液10質量部を添加した。液面上部より超音波ホモジナイザーのシャフトを挿入し、周波数24kHz、出力400Wの条件で、超音波ホモジナイザー処理を3分間行った。超音波ホモジナイザー処理後の混合液の外観は白濁した乳化液の様態であった。混合液一滴をスライドグラスに滴下し、カバーガラスで封入して光学顕微鏡で観察したところ、数μm程度のエマルション液滴が無数に生成し、O/W型エマルションとして分散安定化している様子が確認された。
【0047】
得られた分散液に対し、遠心力75,000gで5分間処理したところ、沈降物を得た。デカンテーションにより上澄みを除去して沈降物を回収し、更に孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて、純水、続いて、純水/MEK=80/20の溶液、MEKの順に洗浄溶媒を変更して洗浄した。こうして得られた精製・回収物を20%濃度でMEKに再分散させた。更に得られたMEK分散液100質量部に対し、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、jER282)を40質量部添加して接着剤組成物を得た。
【0048】
また、上記で遠心処理にて得られた回収物を純水で1%濃度に調整し粒度分布計(NANOTRAC UPA-EX150、日機装株式会社)を用いて粒径を評価したところ平均粒径7.5μmであった。
厚み1mm、幅15mm、長さ50mmの鋼板を被着材として使用し、加圧下、室温、2時間の条件にて上記接着剤組成物を硬化させ、試験片を得た。得られた接着剤組成物及び試験片について実施例1と同様の方法で各特性の評価を実施した。
【0049】
[実施例4]
(第2工程:接着剤成分含有溶液の調整)
アクリル系接着剤(セメダイン株式会社製、メタルロックY610A)を接着剤成分の溶液とした。
(第3工程:エマルション形成)
製造例1で得たCNF水分散液A1を90質量部に第2工程で得た接着剤成分の溶液10質量部を添加した。液面上部より超音波ホモジナイザーのシャフトを挿入し、周波数24kHz、出力400Wの条件で、超音波ホモジナイザー処理を3分間行った。超音波ホモジナイザー処理後の混合液の外観は白濁した乳化液の様態であった。混合液一滴をスライドグラスに滴下し、カバーガラスで封入して光学顕微鏡で観察したところ、数μm程度のエマルション液滴が無数に生成し、O/W型エマルションとして分散安定化している様子が確認された。
【0050】
得られた分散液に対し、遠心力75,000gで5分間処理したところ、沈降物を得た。デカンテーションにより上澄みを除去して沈降物を回収し、更に孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて、純水、続いて、純水/MEK=80/20の溶液、MEKの順に洗浄溶媒を変更して洗浄した。こうして得られた精製・回収物を20%濃度でMEKに再分散させた。更に得られたMEK分散液100質量部に対し、アクリル系接着剤硬化剤(セメダイン株式会社製、メタルロックY610B)を20質量部添加して接着剤組成物を得た。
【0051】
また、上記で遠心処理にて得られた回収物を純水で1%濃度に調整し粒度分布計(NANOTRAC UPA-EX150、日機装株式会社)を用いて粒径を評価したところ平均粒径4.3μmであった。
厚み1mm、幅15mm、長さ50mmの鋼板を被着材として使用し、加圧下、50℃、24時間の条件にて上記接着剤組成物を硬化させ、試験片を得た。得られた接着剤組成物及び試験片について実施例1と同様の方法で各特性の評価を実施した。
【0052】
[実施例5]
(第2工程:接着剤成分含有溶液の調整)
1液型ウレタン系接着剤(コニシ株式会社製、KU928X)50質量部をトルエン50質量部に溶解させ接着剤成分の溶液を調製した。
(第3工程:エマルション形成)
製造例1で得たCNF水分散液A1を90質量部に第2工程で得た接着剤成分の溶液10質量部を添加した。液面上部より超音波ホモジナイザーのシャフトを挿入し、周波数24kHz、出力400Wの条件で、超音波ホモジナイザー処理を3分間行った。超音波ホモジナイザー処理後の混合液の外観は白濁した乳化液の様態であった。混合液一滴をスライドグラスに滴下し、カバーガラスで封入して光学顕微鏡で観察したところ、数μm程度のエマルション液滴が無数に生成し、O/W型エマルションとして分散安定化している様子が確認された。
【0053】
得られた分散液に対し、遠心力75,000gで5分間処理したところ、沈降物を得た。デカンテーションにより上澄みを除去して沈降物を回収し、更に孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて、純水で繰り返し洗浄した。こうして得られた精製・回収物を20%濃度で水に再分散させて接着剤組成物を得た。
また、上記で遠心処理にて得られた回収物を純水で1%濃度に調整し粒度分布計(NANOTRAC UPA-EX150、日機装株式会社)を用いて粒径を評価したところ平均粒径2.2μmであった。
厚み1mm、幅15mm、長さ50mmの鋼板を被着材として使用し、加圧下、50℃、3時間の条件にて上記接着剤組成物を硬化させ、試験片を得た。得られた接着剤組成物及び試験片について実施例1と同様の方法で各特性の評価を実施した。
【0054】
[比較例1]
酢酸ビニル樹脂(電気化学工業株式会社製、デンカサクノールSN-10)50質量部をトルエン50質量部に溶解させ接着剤組成物とした。
厚み1mm、幅15mm、長さ50mmの鋼板を被着材として使用し、加圧下、常温、24時間の条件にて上記接着剤組成物を硬化させ、試験片を得た。得られた接着剤組成物及び試験片について実施例1と同様の方法で各特性の評価を実施した。
【0055】
[比較例2]
二トリルゴム系接着剤(スリーエム株式会社製、工業用接着剤 EC776)を接着剤組成物とした。
厚み1mm、幅15mm、長さ50mmの鋼板を被着材として使用し、加圧下、常温、1時間の条件にて上記接着剤組成物を硬化させ、試験片を得た。得られた接着剤組成物及び試験片について実施例1と同様の方法で各特性の評価を実施した。
【0056】
[比較例3]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、jER282)100質量部とエポキシ樹脂硬化剤(三菱ケミカル株式会社製、jERキュアST13)50質量部を混合して接着剤組成物とした。
厚み1mm、幅15mm、長さ50mmの鋼板を被着材として使用し、加圧下、室温、2時間の条件にて上記接着剤組成物を硬化させ、試験片を得た。得られた接着剤組成物及び試験片について実施例1と同様の方法で各特性の評価を実施した。
【0057】
[比較例4]
アクリル系接着剤(セメダイン株式会社製、メタルロックY610A)100質量部と硬化剤(セメダイン株式会社製、メタルロックY610B)100質量部を混合して接着剤組成物とした。
厚み1mm、幅15mm、長さ50mmの鋼板を被着材として使用し、加圧下、50℃、24時間の条件にて上記接着剤組成物を硬化させ、試験片を得た。得られた接着剤組成物及び試験片について実施例1と同様の方法で各特性の評価を実施した。
【0058】
[比較例5]
1液型ウレタン系接着剤(コニシ株式会社製、KU928X)を接着剤組成物とした。
厚み1mm、幅15mm、長さ50mmの鋼板を被着材として使用し、加圧下、50℃、3時間の条件にて上記接着剤組成物を硬化させ、試験片を得た。得られた接着剤組成物及び試験片について実施例1と同様の方法で各特性の評価を実施した。
【0059】
[比較例6]
酢酸ビニル樹脂(電気化学工業株式会社製、デンカサクノールSN-10)20質量部とトルエン80質量部に溶解させた後、製造例1のCNF水分散液A1を20質量部混合し接着剤組成物とした。
厚み1mm、幅15mm、長さ50mmの鋼板を被着材として使用し、加圧下、常温、24時間の条件にて上記接着剤組成物を硬化させ、試験片を得た。得られた接着剤組成物及び試験片について実施例1と同様の方法で各特性の評価を実施した。
以上の実施例及び比較例を用いた評価結果を表1にまとめて掲載した。
【0060】
【0061】
実施例1~5は比較例1~5の接着剤単体の場合と比較して高い接着強度を示した。また、比較例3、4では接着剤組成物の安定性が悪いのに対し、実施例3、4では接着剤組成物の安定性が良好な結果となった。
また、比較例6は、CNFを被覆材とするコアシェル型複合粒子ではなく、単に接着剤とCNFを混合した場合であるが、CNFが均一に分散せず凝集物となっていた。そのため、接着強度の向上もしなかった。
【符号の説明】
【0062】
1 セルロースナノファイバー
2 芯材
10 コアシェル型複合粒子
20 分散媒(溶剤又はバインダー)
101 セルロースナノファイバー水分散液
102 接着剤成分含有溶液
103 コアシェル型複合粒子分散液
104 接着剤組成物