(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、その樹脂シート、及び金属ベース基板
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20231205BHJP
C08G 59/14 20060101ALI20231205BHJP
C08G 59/04 20060101ALI20231205BHJP
C08G 59/62 20060101ALI20231205BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20231205BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20231205BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20231205BHJP
【FI】
C08L63/00 A
C08G59/14
C08G59/04
C08G59/62
C08K3/01
B32B27/00 103
B32B7/027
(21)【出願番号】P 2019103568
(22)【出願日】2019-06-03
【審査請求日】2022-04-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】樫野 智将
(72)【発明者】
【氏名】大橋 誠司
(72)【発明者】
【氏名】賀川 美香
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-025914(JP,A)
【文献】特開2014-156531(JP,A)
【文献】特開2006-306778(JP,A)
【文献】特開2016-155946(JP,A)
【文献】特開2012-081586(JP,A)
【文献】国際公開第2013/161606(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08G
C08K
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂、フェノキシ樹脂、及び熱伝導性フィラーを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、
前記フェノキシ樹脂が、分子内にメソゲン構造を有する化合物を含み、
前記熱伝導性フィラーを含まない当該熱硬化性樹脂組成物を組成物サンプルとして準備し、前記組成物サンプルを硬化して、硬化サンプルを作製したとき、
前記硬化サンプルの厚み方向における樹脂熱伝導率が、0.27W/m・K以上3.0W/m・K以下であり、
前記硬化サンプルのガラス転移温度が、150℃以上400℃以下であり
、
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂及びフェノール誘導体からなる群から選択される一種以上を含
み、
前記フェノキシ樹脂が、3個以上のヒドロキシ基を分子内に有する多官能フェノール化合物と、2個以上のエポキシ基を分子内に有する多官能エポキシ化合物との分岐状反応化合物を含み、
前記多官能フェノール化合物および前記多官能エポキシ化合物の少なくとも一方が、分子中に前記メソゲン構造を有するものである、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
熱硬化性樹脂、フェノキシ樹脂、及び熱伝導性フィラーを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、
前記フェノキシ樹脂が、分子内にメソゲン構造を有する化合物を含み、
前記熱伝導性フィラーを含まない当該熱硬化性樹脂組成物を組成物サンプルとして準備し、前記組成物サンプルを硬化して、硬化サンプルを作製したとき、
前記硬化サンプルの厚み方向における樹脂熱伝導率が、0.27W/m・K以上3.0W/m・K以下であり、
前記硬化サンプルのガラス転移温度が、150℃以上400℃以下であり、
前記フェノキシ樹脂が、多官能フェノール化合物と多官能エポキシ化合物との反応化合物を含み、
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂及びフェノール誘導体からなる群から選択される一種以上を含み、
前記フェノキシ樹脂が、メソゲン構造含有フェノール化合物の付加重合物を含む、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
前記メソゲン構造が、下記一般式(1)で表される構造を有する、熱硬化性樹脂組成物。
-A
1-x-A
2- (1)
(上記一般式(1)中、A
1およびA
2は、各々独立して、芳香族基、縮合芳香族基、脂環基、または脂環式複素環基を表し、xは、直接結合、または-O-、-C=C-、-C≡C-、-CO-、-CO-O-、-CO-NH-、-CH=N-、-CH=N-N=CH-、-N=N-および-N(O)=N-からなる群から選択される2価の結合基を示す。)
【請求項4】
請求項
1に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
前記多官能フェノール化合物が、ポリフェノールまたはポリフェノール誘導体を含む、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
前記フェノール誘導体が、分子内にメソゲン構造を有するフェノール誘導体を含む、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
前記熱伝導性フィラーは、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素及び酸化マグネシウムから選択される少なくとも1種以上を含む、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項
6に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
前記窒化ホウ素は、鱗片状窒化ホウ素の、単分散粒子、凝集粒子またはこれらの混合物を含む、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1から
7のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
前記硬化サンプルの25℃における貯蔵弾性率が1.7GPa以上5.0GPa以下である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1から
8のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
前記硬化サンプルの5%重量減少温度(Td5)が330℃以上500℃以下である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
キャリア基材と、
前記キャリア基材上に設けられた、請求項1から
9のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層と、を備える、樹脂シート。
【請求項11】
金属基板と、
前記金属基板上に設けられた絶縁層と、
前記絶縁層上に設けられた金属層と、を備えており、
前記絶縁層が、請求項1から
9のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層、または請求項1から
9のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物で構成される、金属ベース基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、 熱硬化性樹脂組成物、その樹脂シート、及び金属ベース基板に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器等を構成する絶縁材料に対して放熱性が要求されている。絶縁材料の放熱性について様々な開発がなされてきた。この種の技術として、たとえば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、熱硬化性樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂を使用し、熱伝導性フィラーとして鱗片状または球形状の窒化ホウ素粒子を使用した熱硬化性樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、特許文献1に記載の熱伝導性樹脂組成物は、熱伝導性の熱的安定性の点で改善の余地を有することが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はさらに検討したところ、分子内にメソゲン構造を有するフェノキシ樹脂(メソゲン構造含有フェノキシ樹脂)を適切に選択することにより、熱伝導性フィラーを含まない樹脂単身の樹脂熱伝導率やガラス転移温度を高められることが見出された。
【0006】
このような知見に基づきさらに鋭意研究したところ、樹脂熱伝導率およびガラス転移温度を指針とすることにより、樹脂熱伝導率およびガラス転移温度を所定値以上とすることにより、熱硬化性樹脂組成物における熱伝導性の熱的安定性を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明によれば、
熱硬化性樹脂、フェノキシ樹脂、及び熱伝導性フィラーを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、前記フェノキシ樹脂が、分子内にメソゲン構造を有する化合物を含み、前記熱伝導性フィラーを含まない当該熱硬化性樹脂組成物を組成物サンプルとして準備し、前記組成物サンプルを硬化して、硬化サンプルを作製したとき、
前記硬化サンプルの厚み方向における樹脂熱伝導率が、0.27W/m・K以上3.0W/m・K以下であり、
前記硬化サンプルのガラス転移温度が、150℃以上400℃以下である、熱硬化性樹脂組成物が提供される。
【0008】
また本発明によれば、
キャリア基材と、
前記キャリア基材上に設けられた、上記熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層と、を備える樹脂シートが提供される。
【0009】
また本発明によれば、
金属基板と、
前記金属基板上に設けられた絶縁層と、
前記絶縁層上に設けられた金属層と、を備えており、
前記絶縁層が、上記熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層、または上記熱硬化性樹脂組成物の硬化物で構成される、金属ベース基板が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱伝導性の熱的安定性に優れた熱硬化性樹脂組成物、それを用いた樹脂シート、及び金属ベース基板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る金属ベース基板の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
【0013】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の概要を説明する。
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂、フェノキシ樹脂、及び熱伝導性フィラーを含有するものである。このフェノキシ樹脂は、分子内にメソゲン構造を有する化合物を含むものである。この熱硬化性樹脂組成物は、熱伝導性フィラーを含まない熱硬化性樹脂組成物を組成物サンプルとして準備し、組成物サンプルを硬化して、硬化サンプルを作製したとき、硬化サンプルの厚み方向における樹脂熱伝導率が、0.27W/m・K以上3.0W/m・K以下であり、硬化サンプルのガラス転移温度が、150℃以上400℃以下という物性を有するものである。
【0014】
本発明者の検討の結果、次のような知見が得られた。
熱硬化性樹脂組成物の熱伝導性の安定性について、熱伝導性フィラーを含まない樹脂単身の熱伝導率およびガラス転移温度を指針とすることにより適切に制御できることが見出された。
熱硬化性樹脂組成物が、熱硬化性樹脂、フェノキシ樹脂を含む場合、フェノキシ樹脂として、メソゲン構造含有フェノキシ樹脂を適切に選択することで、熱伝導率およびガラス転移温度を制御することが可能である。
そして、指針となる樹脂単身の樹脂熱伝導率を上記下限値以上、樹脂単身のガラス転移温度を上記下限値以上とすることで、熱硬化性樹脂組成物において、加熱処理前後の熱伝導率変化を抑制し、熱伝導性の熱的安定性を高められることが判明した。
詳細なメカニズムは不明だが、耐熱性および熱伝導性に優れた熱硬化性樹脂組成物は、高いプロセス温度に暴露後も、熱伝導性等の特性が安定的に維持できる、と考えられる。
【0015】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、電気・電子機器などの放熱絶縁材料として用いることが可能である。この放熱絶縁材料は、例えば、電子部品を搭載するための基板材料に用いることができる。
【0016】
電気・電子機器は、たとえば、通常のLED照明装置(電子部品としてLEDを備える照明装置)や電源系装置(電子部品としてパワーモジュールを備える電子装置)等を用いることができる。LEDやパワーモジュールは通常の電子部品よりも発熱量が大きくなるので、高温の環境下で動作することになり、金属ベース基板が必要になる。
【0017】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物によれば、金属ベース基板に用いることができる放熱絶縁材料を提供することができる。
【0018】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の各成分について詳述する。
【0019】
(フェノキシ樹脂)
上記熱硬化性樹脂組成物は、フェノキシ樹脂を含む。
本実施形態に係るフェノキシ樹脂は、分子内にメソゲン構造を有する化合物(メソゲン構造含有フェノキシ樹脂)を含むものである。
【0020】
上記メソゲン構造含有フェノキシ樹脂の一例として、分子内において、フェノール化合物由来の構造単位およびエポキシ化合物由来の構造単位を含み、これらの構造単位の少なくとも一方にメソゲン構造を有する化合物を含むものが挙げられる。
また上記メソゲン構造含有フェノキシ樹脂の他の例として、分子内において、メソゲン構造含有フェノール化合物由来の構造単位を含むものが挙げられる。
【0021】
上記メソゲン構造含有フェノキシ樹脂の一例は、公知の手法で製造できるが、例えば、2個以上のヒドロキシ基を分子内に有する多官能フェノール化合物と、2個以上のエポキシ基を分子内に有する多官能エポキシ化合物とを反応することにより得ることができる。
すなわち、上記フェノキシ樹脂は、多官能フェノール化合物と多官能エポキシ化合物との反応化合物を含むことができる。これらの多官能フェノール化合物および多官能エポキシ化合物のいずれか一方または両方が、メソゲン構造を有するものである。
【0022】
また上記メソゲン構造含有フェノキシ樹脂の他例は、公知の手法で製造できるが、例えば、2個以上のフェノール基を分子内に有するメソゲン構造含有フェノール化合物をエピクロロヒドリン中に付加重合反応することにより得ることができる。
すなわち、上記フェノキシ樹脂は、メソゲン構造含有フェノール化合物の付加重合物を含むことができる。
【0023】
上記フェノキシ樹脂の製造において、無溶媒下または反応溶媒の存在下に行うことができ、用いる反応溶媒としては、非プロトン性有機溶媒、例えば、メチルエチルケトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトフェノン、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、スルホラン、シクロヘキサノンなどを好適に用いることができる。反応終了後に溶媒置換などを行なうことで好適な溶媒に溶解した樹脂として得ることが可能である。また、溶媒反応で得られたフェノキシ樹脂は、蒸発器等を用いた脱溶媒処理をすることにより、溶媒を含まない固形状の樹脂とすることもできる。
【0024】
上記フェノキシ樹脂の製造に用いることのできる反応触媒としては、従来公知の重合触媒として、アルカリ金属水酸化物、第三アミン化合物、第四アンモニウム化合物、第三ホスフィン化合物、及び第四ホスホニウム化合物、イミダゾール化合物が好適に使用される。
【0025】
上記フェノキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、通常500~200,000である。好ましくは1,000~100,000であり、より好ましくは2,000~50,000である。Mwはゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値を示す。
【0026】
本実施形態において、メソゲン構造は、例えば、下記一般式(1)または一般式(2)で表される構造を有するものである。
-A1-x-A2- ・・(1)
-x-A1-x- ・・(2)
上記一般式(1)、一般式(2)中、A1およびA2は、各々独立して、芳香族基、縮合芳香族基、脂環基、または脂環式複素環基を表し、xは、各々独立して、直接結合、または-O-、-C=C-、-C≡C-、-CO-、-CO-O-、-CO-NH-、-CH=N-、-CH=N-N=CH-、-N=N-および-N(O)=N-からなる群から選択される2価の結合基を示す。
【0027】
ここで、A1、A2は各々独立して、ベンゼン環を有する炭素数6~12の炭化水素基、ナフタレン環を有する炭素数10~20の炭化水素基、ビフェニル構造を有する炭素数12~24の炭化水素基、ベンゼン環を3個以上有する炭素数12~36の炭化水素基、縮合芳香族基を有する炭素数12~36の炭化水素基、炭素数4~36の脂環式複素環基から選択されるものであることが好ましい。A1、A2は、無置換であってもよく、または置換基を有する誘導体であってもよい。
【0028】
メソゲン構造中のA1、A2の具体例としては、例えば、フェニレン、ビフェニレン、ナフチレン、アントラセニレン、シクロヘキシル、ピリジル、ピリミジル、チオフェニレン等が挙げられる。また、これらは無置換であっても良く、脂肪族炭化水素基、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基などの置換基を有する誘導体であってもよい。
【0029】
メソゲン構造中の結合基(連結基)に相当するxとしては、例えば、直接結合、または-C=C-、-C≡C-、-CO-O-、-CO-NH-、-CH=N-、-CH=N-N=CH-、-N=N-または-N(O)=N-の群から選ばれる2価の置換基が好ましい。
ここで、直接結合とは、単結合、またはメソゲン構造中のA1およびA2が互いに連結して環構造を形成することを意味する。例えば、上記一般式(1)で表される構造に、ナフタレン構造が含まれていてもよい。
【0030】
上記多官能フェノール化合物としては、例えば、下記の一般式(A)で表されるメソゲン構造含有化合物を用いることができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
【0032】
上記一般式(A)中、R1およびR3は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基を表し、R2およびR4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の鎖状もしくは環状アルキル基、フェニル基およびハロゲン原子から選択される1種を表し、aおよびcはそれぞれ1~3の整数であり、bおよびdはそれぞれ0~2の整数である。ただし、a+bおよびc+dは、それぞれ1~3のいずれかである。a+cは3以上でもよい。
【0033】
上記多官能エポキシ化合物としては、例えば、下記の一般式(B)で表されるメソゲン構造含有化合物を用いることができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
【0035】
上記一般式(B)中、R5およびR7は、それぞれ独立に、グリシジルエーテル基を表し、R6およびR8は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の鎖状もしくは環状アルキル基、フェニル基およびハロゲン原子から選択される1種を表し、eおよびgはそれぞれ1~3の整数であり、fおよびhはそれぞれ0~2の整数である。ただし、e+fおよびg+hは、それぞれ1~3のいずれかである。
【0036】
また、上記一般式(A)および一般式(B)中のRは、それぞれ、上記の-A1-x-A2-、-x-A1-x-、または-x-を表すものである。なお、上記一般式(A)中の2つのベンゼン環は互いに連結して縮合環を形成してもよい。
【0037】
上記R2、R4、R6およびR8の具体例としては、それぞれ、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、塩素原子、臭素原子等が挙げられるが、これらの中でも、特に、水素原子、またメチル基であるのが好ましい。
【0038】
上記メソゲン構造を含有する多官能エポキシ化合物としては、例えば、上記の一般式(B)で表される化合物の付加重合物を用いてもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
上記多官能フェノール化合物および上記多官能エポキシ化合物の中でも、3個以上のヒドロキシ基を分子内に有する多官能フェノール化合物、および2個以上のエポキシ基を分子内に有する多官能エポキシ化合物を用いてもよい。
すなわち、上記フェノキシ樹脂は、3個以上のヒドロキシ基を分子内に有する多官能フェノール化合物と、2個以上のエポキシ基を分子内に有する多官能エポキシ化合物との分岐状反応化合物を含むことができる。
【0040】
3個以上のヒドロキシ基を分子内に有する多官能フェノール化合物としては、例えば、ポリフェノールまたはポリフェノール誘導体を含むことができる。
上記ポリフェノールは、分子内に3個以上のフェノール性ヒドロキシ基を含有する化合物である。また、このポリフェノールは、分子内に上記メソゲン構造を備えるものが好ましい。例えば、メソゲン構造として、ビフェニル骨格、フェニルベンゾエート骨格、アゾベンゼン骨格、スチルベン骨格等を用いることができる。
なお、ポリフェノール誘導体とは、3個以上のフェノール性ヒドロキシ基およびメソゲン構造を有するポリフェノール化合物に対して、当該化合物の置換可能な位置で他の置換基に変更される化合物を含むものである。
【0041】
本実施形態において、上記分岐状反応化合物は、少なくとも3個以上のヒドロキシ基を分子内に有する多官能フェノール化合物を含む、1または2種以上の上記多官能フェノール化合物と、1または2種以上の上記多官能エポキシ樹脂とを用いて得ることができる。
【0042】
例えば、3官能フェノール化合物および2官能エポキシ化合物の組み合わせや、3官能フェノール化合物、2官能フェノール化合物および2官能エポキシ化合物の組み合わせを用いてもよい。
上記3官能フェノール化合物として、例えば、以下の化学式で表されるレスベラトロールを用いることができる。
【0043】
【0044】
上記2官能フェノール化合物として、例えば、上記R1およびR3のヒドロキシ基が、それぞれのベンゼン環のパラ位に結合したものを用いることができる。
また、上記2官能エポキシ化合物として、上記R5およびR7のグリシジルエーテル基が、それぞれのベンゼン環のパラ位に結合したものを用いることができる。
また、上記2官能フェノール化合物が縮合環としてナフタレン環を備える場合、上記R1およびR3のヒドロキシ基が、ナフタレン環の1位と4位、1位と5位、1位と6位、2位と3位、2位と6位、または2位と7位のいずれかに結合したものを用いることができる。また、上記2官能エポキシ化合物が縮合環としてナフタレン環を備える場合、上記R5およびR7のグリシジルエーテル基が、ナフタレン環の1位と4位、1位と5位、1位と6位、2位と3位、2位と6位、または2位と7位のいずれかに結合したものを用いることができる。
【0045】
上記のような3官能フェノール化合物および2官能エポキシ化合物の組み合わせや、3官能フェノール化合物、2官能フェノール化合物および2官能エポキシ化合物の組み合わせにより、上記の分岐型反応化合物(分岐型フェノキシ樹脂)を得られる。
【0046】
一方、上記多官能フェノール化合物および上記多官能エポキシ化合物の中でも、2官能フェノール化合物および2官能エポキシ化合物を用いてもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
すなわち、上記フェノキシ樹脂は、2個のヒドロキシ基を分子内に有する2官能フェノール化合物と、2個のエポキシ基を分子内に有する2官能エポキシ化合物との直鎖型反応化合物を含むことができる。
【0047】
上記2官能フェノール化合物として、上記R1およびR3のヒドロキシ基が、それぞれのベンゼン環のパラ位に結合したものを用いることができる。また、上記2官能エポキシ化合物として、上記R5およびR7のグリシジルエーテル基が、それぞれのベンゼン環のパラ位に結合したものを用いることができる。
また、上記2官能フェノール化合物が縮合環としてナフタレン環を備える場合、上記R1およびR3のヒドロキシ基が、ナフタレン環の1位と4位、1位と5位、1位と6位、2位と3位、2位と6位、または2位と7位のいずれかに結合したものを用いることができる。また、上記2官能エポキシ化合物が縮合環としてナフタレン環を備える場合、上記R5およびR7のグリシジルエーテル基が、ナフタレン環の1位と4位、1位と5位、1位と6位、2位と3位、2位と6位、または2位と7位のいずれかに結合したものを用いることができる。
このような2官能フェノール化合物および2官能エポキシ化合物を併用することにより、上記の直鎖型反応化合物(直鎖型フェノキシ樹脂)を得られる。
【0048】
上記分岐型フェノキシ樹脂及び直鎖型フェノキシ樹脂は、分子末端にエポキシ基またはヒドロキシ基、分子内部にエポキシ基またはヒドロキシ基を有することができる。末端または内部にエポキシ基を有することにより、架橋反応を形成できるため、耐熱性を高めることができる。
また、剛直かつ電子共役している直鎖型の構造単位を有することにより、放熱特性を向上させることができる。
【0049】
上記フェノキシ樹脂の含有量は、フィラーを含まない熱硬化性樹脂組成物の樹脂成分(100質量%)に対して、例えば、1質量%~70質量%、好ましくは2質量%~50質量%、より好ましくは3質量%~45質量%である。
【0050】
本明細書中、「~」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す。また、フィラーを含まない熱硬化性樹脂組成物において、「フィラー」とは、後述の熱伝導性フィラー、無機フィラーまたは有機フィラー等の通常のフィラー含む。すなわち、フィラーを含まない熱硬化性樹脂組成物は、フィラー以外の樹脂成分で構成されるものであって、樹脂成分として、例えば、熱硬化性樹脂、およびフェノキシ樹脂を含む。
【0051】
(熱硬化性樹脂)
上記熱硬化性樹脂組成物は、フェノキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂を含有する。
当該熱硬化性樹脂として、分子内にメソゲン構造(メソゲン骨格)を含有する熱硬化性化合物や、分子内にメソゲン構造を含有しない熱硬化性化合物が挙げられる。
【0052】
上記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シアネートエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ビスマレイミド樹脂、アクリル樹脂、またフェノール誘導体これらの誘導体等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、1分子内に反応性官能基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができ、その分子量や分子構造は特に限定されない。
これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
上記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂及びフェノール誘導体からなる群から選択される一種以上を含むことができる。
【0054】
上記フェノール誘導体としては、フェノール化合物を用いて合成される化合物であれば特に限定されないが、例えば、ベンゾオキサジン化合物、ノボラック樹脂、レゾール樹脂が挙げられる。
上記フェノール誘導体は、高熱伝導率の観点から、分子内にメソゲン構造を有するものが好ましい。上記フェノール誘導体は、分子内にメソゲン構造を有するフェノール化合物またはアミン化合物を用いて合成され得る。
【0055】
上記ベンゾオキサジン化合物としては、例えば、下記一般式(c1)または(c2)で表されるメソゲン構造を含有するベンゾオキサジン化合物を含むことができる。
【0056】
【0057】
上記一般式(c1)および(c2)中、中のRは、それぞれ、上述の-x-で表される結合基である。
【0058】
また、上記一般式(c1)および(c2)中、R’は、それぞれ独立して、同一または異なる、水素原子、低級アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキニル基を表す。また、一般式(c1)、(c2)中のベンゼン環は、無置換でも、脂肪族炭化水素基や芳香族炭化水素基などの置換基を有していてもよい。この他、上記ベンゾオキサジン化合物は、架橋性基や二トリルなどの極性基などの官能基を有していてもよい。
【0059】
上記熱硬化性樹脂の含有量は、フィラーを含まない熱硬化性樹脂組成物の樹脂成分(100質量%)に対して、例えば、0.1質量%以上70質量%以下が好ましく、0.5質量%以上65質量%以下がより好ましい、1質量%以上60質量%以下がさらに好ましい。上記下限値以上であると、硬化性が向上し、樹脂層を形成するのが容易となる。上記上限値以下であると、樹脂層の保存安定性がより一層向上したり、樹脂層の熱伝導性がより一層向上したりする。
【0060】
(硬化剤)
上記熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、硬化剤を含むことができる。
上記硬化剤としては、熱硬化性樹脂の種類に応じて選択され、これと反応するものであれば特に限定されない。
【0061】
硬化剤としては、フェノール樹脂系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、メルカプタン系硬化剤等を挙げることができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
上記フェノール樹脂系硬化剤としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂、アミノトリアジンノボラック樹脂、ノボラック樹脂、トリスフェニルメタン型のフェノールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物;レゾール型フェノール樹脂等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、ガラス転移温度の向上及び線膨張係数の低減の観点から、ノボラック型フェノール樹脂またはレゾール型フェノール樹脂を用いることができる。
【0063】
(硬化促進剤)
上記熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、硬化促進剤を含むことができる。
上記硬化促進剤の種類や配合量は特に限定されないが、反応速度や反応温度、保管性などの観点から、適切なものを選択することができる。
【0064】
上記硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール類、有機リン化合物、3級アミン類、フェノール化合物、有機酸等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。この中でも、耐熱性を高める観点から、イミダゾール類などの窒素原子含有化合物を用いることが好ましい。
【0065】
上記イミダゾール類としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2,4-ジエチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテート等が挙げられる。
【0066】
上記3級アミン類としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7等が挙げられる。
上記フェノール化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、ノニルフェノール、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン等が挙げられる。
上記有機酸としては、例えば、酢酸、安息香酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸等が挙げられる。
【0067】
上記硬化促進剤の含有量は、熱硬化性樹脂と硬化剤との合計100質量%に対して、0.01質量%~10質量%でもよく、0.02質量%~5質量%でもよく、0.05質量%~1.5質量%でもよい。
【0068】
(熱伝導性フィラー)
上記熱硬化性樹脂組成物は、熱伝導性フィラーを含む。
上記熱伝導性フィラーは、たとえば、20W/m・K以上の熱伝導率を有する高熱伝導性無機粒子を含むことができる。高熱伝導性無機粒子としては、例えば、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素及び酸化マグネシウムから選択される少なくとも1種以上を含むことができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
上記熱伝導性フィラーは、窒化ホウ素は、鱗片状窒化ホウ素の、単分散粒子、凝集粒子またはこれらの混合物を含むことができる。鱗片状窒化ホウ素は顆粒状に造粒されていてもよい。鱗片状窒化ホウ素の凝集粒子を用いることによって、一層に熱伝導性を高められる。凝集粒子は、焼結粒子であっても、非焼結粒子であってもよい。
【0070】
上記熱伝導性フィラーの含有量は、フィラーを含まない熱硬化性樹脂組成物の樹脂成分(100質量%)に対して、100質量%~400質量%であり、好ましくは150質量%~350質量%であり、より好ましくは200質量%~300質量%である。上記下限値以上とすることにより、熱伝導性を向上させることができる。上記上限値以下とすることにより、プロセス性の低下を抑制することができる。
【0071】
上記熱硬化性樹脂組成物は、シランカップリング剤を含むことができる。
これにより、熱硬化性樹脂組成物中における熱伝導性フィラーの相溶性を向上させることができる。カップリング剤は、熱硬化性樹脂組成物に添加してもよいし、熱伝導性フィラー表面に処理して使用してもよい。
【0072】
上記シランカップリング剤としては、例えば、エポキシ系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤、ウレイド系シランカップリング剤、カチオニック系シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤およびシリコーンオイル型カップリング剤からなる群から選択される一種以上を含むことができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
この中でも、官能基として、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ウレイド基またはヒドロキシ基の少なくとも一種以上を有するシランカップリング剤を用いることができる。また、樹脂成分との相溶性を向上させる観点から、非反応性のフェニル基を有するシランカップリング剤を用いることができる。
【0073】
上記官能基を有するシランカップリング剤の具体例としては、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。上記フェニル基を含有するシランカップリング剤としては、例えば、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリエトキシシラン、N-メチルアニリノプロピルトリメトキシシラン、N-メチルアニリノプロピルトリエトキシシラン、3-フェニルイミノプロピルトリメトキシシラン、3-フェニルイミノプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトシキシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン等が挙げられる。
【0074】
上記カップリング剤の添加量は、熱伝導性フィラー100質量%に対して、例えば、0.05質量%以上3質量%以下が好ましく、特に0.1質量%以上2質量%以下が好ましい。
【0075】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、上述した成分以外の他の成分を含むことができる。この他の成分としては、例えば、酸化防止剤、レベリング剤が挙げられる。
【0076】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の製造方法として、例えば、次のような方法がある。
上記の各成分を、溶剤中に溶解、混合、撹拌することにより樹脂ワニス(ワニス状の熱硬化性樹脂組成物)を調製することができる。この混合は、超音波分散方式、高圧衝突式分散方式、高速回転分散方式、ビーズミル方式、高速せん断分散方式、および自転公転式分散方式などの各種混合機を用いることができる。
【0077】
上記溶剤としては特に限定されないが、アセトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、酢酸エチル、
シクロヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、セルソルブ系、カルビトール系、アニソール、およびN-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0078】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の特性について説明する。
熱硬化性樹脂組成物の特性として、樹脂特性、複合化物特性の両方がある。
【0079】
樹脂特性は、次の組成物サンプルA、あるいは硬化サンプルAを用いて測定されるものである。
上記組成物サンプルAは、上記熱硬化性樹脂組成物の組成成分うち、フィラー以外の成分の混合物で構成され、フィラーを含まない熱硬化性樹脂組成物として準備される。ここで言う「フィラー」には、上述の熱伝導性フィラー、無機フィラーまたは有機フィラー等の通常のフィラーを含む。
上記硬化サンプルAは、組成物サンプルAを所定の条件で硬化したものである。
【0080】
また、複合化物特性は、次の硬化サンプルBを用いて測定されるものである。
上記硬化サンプルBは、熱伝導性フィラー等のフィラーを含有する熱硬化性樹脂組成物を組成サンプルBとして用い、その組成サンプルBを所定の条件で硬化したものである。
【0081】
上記硬化サンプルA、Bは、必要に応じて、所定寸法の試験片に加工してもよく、硬化前に所定条件でBステージ化してもよく、硬化後に所定条件で乾燥処理がなされてもよい。
【0082】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、以下の特性1,2を備えるものである。
(特性1)硬化サンプルAの厚み方向における樹脂熱伝導率の下限値は、0.27W/m・K以上、好ましくは0.28W/m・K以上、より好ましくは0.29W/m・K以上である。上記樹脂熱伝導率の上限値は、特に限定されないが、例えば、3.0W/m・K以下、好ましくは2.5W/m・K以下、より好ましくは2.0W/m・K以下でもよい。
(特性2)硬化サンプルAのガラス転移温度の下限値は、150℃以上、好ましくは190℃以上、より好ましくは200℃以上である。一方、上記ガラス転移温度の上限値は、特に限定されないが、400℃以下、好ましくは350℃以下、より好ましくは300℃以下でもよい。
【0083】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、特性1の樹脂熱伝導率を上記下限値以上とし、特性2のガラス転移温度を上記下限値以上とすることにより、加熱処理前後の熱伝導率変化を抑制し、熱伝導性の熱的安定性を高めることができる。
【0084】
上記硬化サンプルAの25℃における貯蔵弾性率は、例えば、1.7GPa~5.0GPa、好ましくは1.8GPa~4.5GPa、より好ましくは1.9GPa~4.0GPaである。下限値以上とすることにより、機械的強度に優れた金属ベース基板を実現できる。
【0085】
上記硬化サンプルAの5%重量減少温度(Td5)は、例えば、330℃~500℃、好ましくは340℃~480℃、より好ましくは350℃~450℃である。下限値以上とすることにより、耐熱性に優れた金属ベース基板を実現できる。
【0086】
上記硬化サンプルAの、40℃~60℃の範囲における平面方向(XY方向)の線膨張係数は、例えば、30ppm/℃~90ppm/℃、好ましくは35ppm/℃~80ppm/℃、より好ましくは40ppm/℃~70ppm/℃である。このような数値範囲内とすることにより、高温時の応力緩和能を高め、信頼性に優れた金属ベース基板を実現できる。
【0087】
上記硬化サンプルBの厚み方向における複合熱伝導率は、例えば、5W/m・K~50W/m・Kであり、好ましくは8W/m・K~30W/m・Kでもよい。このような数値範囲とすることにより、複合成形体の放熱特性を向上できる。
【0088】
(樹脂シート)
本実施形態の樹脂シートは、キャリア基材と、キャリア基材上に設けられた、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層と、を備えるものである。
【0089】
上記樹脂シートは、たとえばワニス状の熱硬化性樹脂組成物をキャリア基材上に塗布して得られた塗布膜(樹脂層)に対して、溶剤除去処理を行うことにより得ることができる。上記樹脂シート中の溶剤含有率が、熱硬化性樹脂組成物全体に対して10重量%以下とすることができる。たとえば80℃~200℃、1分間~30分間の条件で溶剤除去処理を行うことができる。
【0090】
また、本実施形態において、上記キャリア基材としては、例えば、高分子フィルムや金属箔などを用いることができる。当該高分子フィルムとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、シリコーンシート等の離型紙、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂などの耐熱性を有した熱可塑性樹脂シート等が挙げられる。当該金属箔としては、特に限定されないが、例えば、銅および/または銅系合金、アルミおよび/またはアルミ系合金、鉄および/または鉄系合金、銀および/または銀系合金、金および金系合金、亜鉛および亜鉛系合金、ニッケルおよびニッケル系合金、錫および錫系合金などが挙げられる。
【0091】
(樹脂基板)
本実施形態の樹脂基板は、上記熱硬化性樹脂組成物の硬化物で構成された絶縁層を備えるものである。この樹脂基板は、LED、パワーモジュールなどの電子部品を搭載するためのプリント基板の材料として用いることができる。
【0092】
(金属ベース基板)
本実施形態の金属ベース基板100について
図1に基づいて説明する。
図1は、金属ベース基板100の構成の一例を示す断面図である。
上記金属ベース基板100は、
図1に示すように、金属基板101と、金属基板101上に設けられた絶縁層102と、絶縁層102上に設けられた金属層103と、を備えることができる。この絶縁層102は、上記の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層、熱硬化性樹脂組成物の硬化物および積層板からなる群から選択される一種で構成することが可能である。これらの樹脂層、積層板のそれぞれは、金属層103の回路加工の前では、Bステージ状態の熱硬化性樹脂組成物で構成されていてもよく、回路加工の後では、それを硬化処理されてなる硬化体であってもよい。
【0093】
金属層103は絶縁層102上に設けられ、回路加工されるものである。この金属層103を構成する金属としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、鉄、錫等から選択される一種または二種以上が挙げられる。これらの中でも、金属層103は、好ましくは銅層またはアルミニウム層であり、特に好ましくは銅層である。銅またはアルミニウムを用いることで、金属層103の回路加工性を良好なものとすることができる。金属層103は、板状で入手できる金属箔を用いてもよいし、ロール状で入手できる金属箔を用いてもよい。
【0094】
金属層103の厚みの下限値は、例えば、0.01mm以上であり、好ましくは0.035mm以上であれば、高電流を要する用途に適用できる。
また、金属層103の厚みの上限値は、例えば、10.0mm以下であり、好ましくは5mm以下である。このような数値以下であれば、回路加工性を向上させることができ、また、基板全体としての薄型化を図ることができる。
【0095】
金属基板101は、金属ベース基板100に蓄積された熱を放熱する役割を有する。金属基板101は、放熱性の金属基板であれば特に限定されないが、例えば、銅基板、銅合金基板、アルミニウム基板、アルミニウム合金基板であり、銅基板またはアルミニウム基板が好ましく、銅基板がより好ましい。銅基板またはアルミニウム基板を用いることで、金属基板101の放熱性を良好なものとすることができる。
【0096】
金属基板101の厚さは、本発明の目的が損なわれない限り、適宜設定できる。
金属基板101の厚さの上限値は、例えば、20.0mm以下であり、好ましくは5.0mm以下である。この数値以下の金属ベース基板100の外形加工や切り出し加工等における加工性を向上させることができる。
また、金属基板101の厚さの下限値は、例えば、0.01mm以上であり、好ましくは0.6mm以上である。この数値以上の金属基板101を用いることで、金属ベース基板100全体としての放熱性を向上させることができる。
【0097】
本実施形態において、金属ベース基板100は、各種の基板用途に用いることが可能であるが、熱伝導性及び耐熱性に優れることから、LEDやパワーモジュールを用いるプリント基板として用いることが可能である。
金属ベース基板100は、パターンにエッチング等することによって回路加工された金属層103を有することができる。この金属ベース基板100において、最外層に不図示のソルダーレジストを形成し、露光・現像により電子部品が実装できるよう接続用電極部が露出されていてもよい。
【0098】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例】
【0099】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0100】
(熱伝導性フィラーを含有しない熱硬化性樹脂組成物の作製)
表1に示す配合割合に従い、熱硬化性樹脂、フェノキシ樹脂と、必要に応じて硬化促進剤と、を熱板上にて溶融混合し、冷却後固体であれば粉砕をし、液状であればそのまま熱硬化性樹脂組成物として使用した。
【0101】
(熱伝導性フィラーを含有する熱硬化性樹脂ワニスの作製)
表1に示す配合割合に従い、熱硬化性樹脂、フェノキシ樹脂、必要に応じて硬化促進剤と熱伝導性フィラーと溶媒を撹拌してワニス状の熱硬化性樹脂組成物を得た。
表1中、熱伝導性フィラーの含有量は、熱伝導性フィラーを含まない熱硬化性樹脂組成物の樹脂成分(100質量%)に対して、50体積%であった。
【0102】
表1に記載の各成分は以下の通り。
【0103】
(硬化促進剤)
・硬化促進剤1:フェノール樹脂(明和化成製、MEH-7500)
【0104】
(熱硬化性樹脂)
【0105】
・ベンゾオキサジン化合物1:下記の化学式で表されるベンゾオキサジン化合物(メソゲン構造なし、四国化成社製、P-d)
【化5】
【0106】
・ベンゾオキサジン化合物2:下記の化学式で表されるベンゾオキサジン化合物(メソゲン構造あり、PH-tol)
【化6】
【0107】
・エポキシ化合物1:下記の化学式で表される、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(メソゲン構造なし、固形エポキシ樹脂、DIC社製、HP-7200)
【0108】
(フェノキシ樹脂)
・直鎖型フェノキシ樹脂A:下記の化学式で表されるビスフェノールA型フェノキシ樹脂(メソゲン構造なし、三菱ケミカル社製、YP-55)
【化7】
【0109】
・分岐型フェノキシ樹脂B:下記の合成手順Aで得られる分岐型フェノキシ樹脂B
(合成手順A)
下記化学式で表されるエステル基含有ビスフェノール(2官能フェノール化合物、メソゲン構造あり、社内調製品)8.9重量部と、下記化学式で表されるテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂(2官能エポキシ化合物、メソゲン構造あり、三菱ケミカル社製、YX4000)56.5重量部と、下記化学式で表される3官能性メソゲンフェノール(3官能フェノール化合物、メソゲン構造あり、Evolva社製、レスベラトロール)6.0重量部、トリフェニルホスフィン(TPP)0.1重量部、メチルエチルケトン28.5重量部を反応器に投下し、120℃下で溶剤を除去しながら反応させた。GPCで目的の分子量となることを確認し、反応を停止させた。重量平均分子量で9300(ポリスチレン屈折率換算)の分岐型フェノキシ樹脂Bを得た。
【化8】
【化9】
【化10】
【0110】
・分岐型フェノキシ樹脂C:下記の合成手順Bで得られる分岐型フェノキシ樹脂C
(合成手順B)
上記テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂に代えて、下記化学式で表される2,6-DON変性エポキシ(2官能エポキシ化合物、メソゲン構造あり)を用いた以外は合成手順Aを用いて合成を行ない、重量平均分子量9300の分岐型フェノキシ樹脂Bを得た。
【化11】
【0111】
・分岐型フェノキシ樹脂D:下記の合成手順Cで得られる分岐型フェノキシ樹脂D
(合成手順C)
上記エステル基含有ビスフェノールに代えて、下記化学式で表される4,4’-ジヒドロキシビフェニル(2官能フェノール化合物、メソゲン構造あり、東京化成工業社製)を用い、上記テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂に代えて、ビフェニル型エポキシ樹脂とテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂の混合物(2官能エポキシ化合物の混合物、メソゲン構造あり、三菱ケミカル社製、YL6121HA)を用いた以外は合成手順Aを用いて合成を行ない、重量平均分子量9200の分岐型フェノキシ樹脂Cを得た。
【化12】
【0112】
・分岐型フェノキシ樹脂E:下記の合成手順Dで得られる分岐型フェノキシ樹脂E
(合成手順D)
上記化学式で表されるエステル基含有ビスフェノールと、上記ビフェニル型エポキシ樹脂とテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂の混合物(2官能エポキシ化合物の混合物、メソゲン構造あり、三菱ケミカル社製、YL6121HA)と、上記3官能性メソゲンフェノールを用いた以外は合成手順Aを用いて合成を行ない、重量平均分子量8000の分岐型フェノキシ樹脂D得た。
【0113】
・直鎖型フェノキシ樹脂F:下記の合成手順Eで得られる直鎖型フェノキシ樹脂F
(合成手順E)
下記化学式で表されるエステル基含有ビスフェノール(2官能フェノール化合物、メソゲン構造あり、社内調製品)22.9重量部と、下記化学式で表されるテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂(2官能エポキシ化合物、メソゲン構造あり、三菱ケミカル社製、YX4000)72.4重量部と、トリフェニルホスフィン(TPP)0.1重量部と、メチルエチルケトン4.6重量部とを反応器に投下し、120℃下で溶剤を除去しながら反応させた。GPCで目的の分子量となることを確認し、反応を停止させた。重量平均分子量で7800(ポリスチレン屈折率換算)の直鎖型フェノキシ樹脂Fを得た。
【0114】
【0115】
・直鎖型フェノキシ樹脂G:下記の合成手順Fで得られる直鎖型フェノキシ樹脂G
(合成手順F)
上記テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂に代えて、下記化学式で表される2,6-DON変性エポキシ(2官能エポキシ化合物、メソゲン構造あり)を用いた以外は合成手順Fと同様にして合成を行ない、重量平均分子量7400の直鎖型フェノキシ樹脂Bを得た。
【化15】
【0116】
・直鎖型フェノキシ樹脂H:下記の合成手順Gで得られる直鎖型フェノキシ樹脂H
(合成手順G)
上記テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂に代えて、下記化学式で表される2,7-DON変性エポキシ(2官能エポキシ化合物、メソゲン構造あり)を用いた以外は合成手順Fと同様にして合成を行ない、重量平均分子量7900の直鎖型フェノキシ樹脂Hを得た。
【0117】
【0118】
・直鎖型フェノキシ樹脂I:下記の合成手順Hで得られる直鎖型フェノキシ樹脂I
(合成手順H)
上記テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂に代えて、下記化学式で表されるテレフタリリデン型エポキシ樹脂(DGETAM、2官能エポキシ化合物、メソゲン構造あり)を用いた以外は合成手順Fと同様にして合成を行ない、重量平均分子量8900の直鎖型フェノキシ樹脂Iを得た。
【化17】
【0119】
・直鎖型フェノキシ樹脂J:下記の合成手順Iで得られる直鎖型フェノキシ樹脂J
(合成手順I)
上記エステル基含有ビスフェノールに代えて、下記化学式で表される4,4’-ジヒドロキシビフェニル(2官能フェノール化合物、メソゲン構造あり、東京化成工業社製)を用い、上記テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂に代えて、ビフェニル型エポキシ樹脂とテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂の混合物(2官能エポキシ化合物の混合物、メソゲン構造あり、三菱ケミカル社製、YL6121HA)を用いた以外は合成手順Fと同様にして合成を行ない、重量平均分子量7600の直鎖型フェノキシ樹脂Jを得た。
【化18】
【0120】
・直鎖型フェノキシ樹脂K:下記の合成手順Jで得られる直鎖型フェノキシ樹脂K
(合成手順J)
上記テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂に代えて、ビフェニル型エポキシ樹脂とテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂の混合物(2官能エポキシ化合物の混合物、メソゲン構造あり、三菱ケミカル社製、YL6121HA)を用いた以外は合成手順Fと同様にして合成を行ない、重量平均分子量8800の直鎖型フェノキシ樹脂Kを得た。
【0121】
(熱伝導性フィラー)
・熱伝導性フィラー1:下記の手順で作製された顆粒状窒化ホウ素
(顆粒状窒化ホウ素の作製手順)
市販の炭化ホウ素粉末をカーボンるつぼの中に投入し、窒素雰囲気下、2000℃、10時間の条件で窒化処理した。
次いで、得られた窒化ホウ素粉末に市販の三酸化二ホウ素粉末を加え、ブレンダ―で1時間混合した(窒化ホウ素:三酸化二ホウ素=7:3(質量比))。得られた混合物をカーボンるつぼの中に投入し、窒素雰囲気下、2000℃、10時間の条件で焼成することにより、顆粒状窒化ホウ素を得た。
【0122】
【0123】
表1中、「樹脂特性」とは、熱伝導性フィラーを含有しない熱硬化性樹脂組成物の硬化物性を意味し、「複合化物特性」とは、熱伝導性フィラーを含有する熱硬化性樹脂組成物の硬化物性を意味する。
【0124】
<樹脂特性>
得られた熱伝導性フィラーを含有しない熱硬化性樹脂組成物について、次のような評価項目に基づいて評価を実施した。評価結果は表1に示す。
【0125】
(Tg:ガラス転移温度)
得られた熱伝導性フィラーを含有しない熱硬化性樹脂組成物を100℃、30分間熱処理することにより膜厚が400μmのBステージ状の熱伝導性シートを作製した。次いで、上記熱伝導性シートを200℃、120分間熱処理して熱伝導性シート硬化物を得た。次いで、得られた硬化物のガラス転移温度(Tg)を、DMA(動的粘弾性測定)により昇温速度5℃/min、周波数1Hzの条件で測定した。
表1中、ガラス転移温度が、180℃未満の場合を△、180℃以上~200℃未満の場合を○、200℃以上の場合を◎と判断した。
【0126】
(E’:貯蔵弾性率)
得られた熱伝導性フィラーを含有しない熱硬化性樹脂組成物を100℃、30分間熱処理することにより膜厚が200μmのBステージ状の熱伝導性シートを作製した。次いで、上記熱伝導性シートを200℃、120分間熱処理して熱伝導性シート硬化物を得た。次いで、得られた硬化物の50℃での貯蔵弾性率E’を、DMA(動的粘弾性測定)により測定した。ここで、貯蔵弾性率E’は、熱伝導性シート硬化物に引張り荷重をかけて、周波数1Hz、昇温速度5~10℃/分で25℃から300℃で測定した際の、50℃での貯蔵弾性率の値である。
【0127】
(CTE:線膨張係数)
得られた熱伝導性フィラーを含有しない熱硬化性樹脂組成物を用いて、200℃、120minの硬化を行い、4mm×20mmの試験片を作製した。得られた試験片について、線膨張係数を測定した。TMA(Thermal Mechanical Analyzer)試験装置(セイコーインスツメルツ社製TMA/SS6100)を用いて、昇温速度5℃/分、荷重0.05N、引張モード、測定温度範囲30~320℃の条件で、熱機械分析(TMA)を2サイクル測定した。得られた結果から、40℃~60℃の範囲における平面方向(XY方向)の線膨張係数(CTE)の平均値を算出した。なお、線膨脹係数(ppm/℃)は、2サイクル目の値を採用した。
【0128】
(Td5:5%重量減少温度)
示差熱熱重量同時測定装置(セイコ-インスツルメンツ社製、TG/DTA6200型)を用いて、乾燥窒素気流下、昇温速度10℃/分の条件により、サンプルを、30℃から650℃まで昇温させることにより、サンプルが5%重量減少する温度(Td5)を算出した。なお、サンプルとして、得られた熱伝導性フィラーを含有しない熱硬化性樹脂組成物を、200℃、120minで加熱して硬化物を得た後、測定前に100℃で1時間の乾燥処理を施したものを用いた。
表1中、Td5が300℃以下の場合を△、Td5が300℃超~350℃以下の場合を○、Td5が350℃超の場合を◎と判断した。
【0129】
(樹脂熱伝導率)
・樹脂成形体の作製
得られた熱伝導性フィラーを含有しない熱硬化性樹脂組成物を、離型剤を塗布した金型にセットし、コンプレッション成形を220℃、15min行い、直径10mm×厚み1mmの樹脂成形物を得た。その後、オーブンにて200℃、120minの硬化を行い、樹脂成形体(熱伝導率測定用サンプル1)を得た。
・樹脂成形体の比重
比重測定は、JIS K 6911(熱硬化性プラスチック一般試験方法)に準拠して行った。試験片は、上記の複合成形体から、縦2cm×横2cm×厚み2mmに切り出したものを用いた。比重(SP)の単位をg/cm3とする。
【0130】
・樹脂成形体の比熱
得られた上記の樹脂成形体について、DSC法により比熱(Cp)を測定した。
【0131】
・樹脂成形体の熱伝導率の測定
得られた樹脂成形体から、厚み方向測定用として、直径10mm×厚み0.2mmに切り出したものを試験片とした。次に、ULVAC社製のXeフラッシュアナライザーTD-1RTVを用いて、レーザーフラッシュ法により板状の試験片の厚み方向の熱拡散係数(α)の測定を行った。測定は、大気雰囲気下、25℃の条件下で行った。結果を表1に示す。
樹脂成形体について、得られた熱拡散係数(α)、比熱(Cp)、比重(SP)の測定値から、下記式に基づいて熱伝導率を算出した。
熱伝導率[W/m・K]=α[m2/s]×Cp[J/kg・K]×Sp[g/cm3]
表1中、樹脂成形体の熱伝導率を「樹脂熱伝導率」とした。
表1中、樹脂熱伝導率が、0.27W/m・k未満の場合を△、0.27W/m・k以上~0.29W/m・k未満の場合を○、0.29W/m・k以上の場合を◎と判断した。
【0132】
<複合化物特性>
得られた熱伝導性フィラーを含有する熱硬化性樹脂組成物ワニスについて、次のような評価項目に基づいて評価を実施した。評価結果は表1に示す。
【0133】
(複合熱伝導率)
・複合成形体の作製
得られた熱伝導性フィラーを含有する熱硬化性樹脂組成物ワニスを100℃、30分間熱処理することにより膜厚が200μmのBステージ状の熱伝導性シートを作製した。次いで、上記熱伝導性シートを200℃、120分間熱処理して熱伝導性シート硬化物を得た。縦15cm×横22cm×厚み0.2mmの複合成形体(熱伝導率測定用サンプル2)を得た。
【0134】
・複合成形体の比重
比重測定は、JIS K 6911(熱硬化性プラスチック一般試験方法)に準拠して行った。試験片は、上記の複合成形体から、縦2cm×横2cm×厚み2mmに切り出したものを用いた。比重(SP)の単位をg/cm3とする。
【0135】
・複合成形体の比熱
得られた複合成形体について、DSC法により比熱(Cp)を測定した。
【0136】
・複合成形体の熱伝導率の測定
得られた複合成形体から、厚み方向測定用として、直径10mm×厚み0.2mmに切り出したものを試験片とした。次に、ULVAC社製のXeフラッシュアナライザーTD-1RTVを用いて、レーザーフラッシュ法により板状の試験片の厚み方向の熱拡散係数(α)の測定を行った。測定は、大気雰囲気下、25℃の条件下で行った。
複合成形体のそれぞれについて、得られた熱拡散係数(α)、比熱(Cp)、比重(SP)の測定値から、下記式に基づいて熱伝導率を算出した。
熱伝導率[W/m・K]=α[m2/s]×Cp[J/kg・K]×Sp[g/cm3]
表1中、複合成形体の熱伝導率を「複合熱伝導率」とした。
表1中、複合材熱伝導率が、8W/m・k未満の場合を△、8W/m・k以上~10W/m・k未満の場合を○、10W/m・k以上の場合を◎と判断した。
【0137】
(加熱処理後の熱伝導安定性)
上記<樹脂熱伝導率>と同様にして、得られた樹脂成形体を直径10mm×厚み0.2mmに切り出し、試験片を作成した。当該試験片をオーブンで260℃5分暴露した(加熱処理)。加熱処理後の試験片について、上記<樹脂熱伝導率>と同様にして、得られた熱拡散係数(α)、比熱(Cp)、比重(SP)の測定値から、上記式に基づいて熱伝導率を算出した。
この加熱処理後の樹脂熱伝導率をTC1とし、上記<樹脂熱伝導率>で得られた加熱処理前の樹脂熱伝導率をTC0としたとき、加熱処理前後における試験片(樹脂成形体)の樹脂熱伝導率の変化率ΔTCを、式((TC1-TC0)/TC0)×100から算出した。
樹脂熱伝導率の変化率ΔTCにおいて、低下が5%以下の場合を○、低下が5%超~10%以下の場合を△、低下が10%超の場合を×とした。結果を表1に示す。
【符号の説明】
【0138】
100 金属ベース基板
101 金属基板
102 絶縁層
103 金属層