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特許7395873歯切り工具の研削方法、研削装置、並びに、砥石車形状及び研削条件決定装置
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  • 特許-歯切り工具の研削方法、研削装置、並びに、砥石車形状及び研削条件決定装置 図1A
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  • 特許-歯切り工具の研削方法、研削装置、並びに、砥石車形状及び研削条件決定装置 図11
  • 特許-歯切り工具の研削方法、研削装置、並びに、砥石車形状及び研削条件決定装置 図12
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】歯切り工具の研削方法、研削装置、並びに、砥石車形状及び研削条件決定装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 3/34 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
B24B3/34
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019151171
(22)【出願日】2019-08-21
(65)【公開番号】P2021030337
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉永 克仁
(72)【発明者】
【氏名】宇野 秀昭
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-226019(JP,A)
【文献】特開2018-122425(JP,A)
【文献】国際公開第2014/034495(WO,A1)
【文献】特開昭48-086198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スカイビング加工に用いられる歯切り工具における対向する刃側面を、円盤状に形成された砥石車により同時に研削する方法であって、
前記歯切り工具の再研量と前記歯切り工具により加工される歯車の形状誤差とに基づいて、前記歯切り工具の基準諸元としての基準前逃げ角及び基準側逃げ角に対して異なる前記歯切り工具の目標諸元としての目標前逃げ角及び目標側逃げ角を決定する目標諸元決定工程と、
前記歯切り工具の製造諸元としての前逃げ角及び側逃げ角を前記目標前逃げ角及び前記目標側逃げ角からの許容値内にするために、前記歯切り工具の前記製造諸元を決定する製造諸元決定工程と、
前記歯切り工具の前記製造諸元に基づいて、前記砥石車の形状及び研削条件を決定する形状及び条件決定工程と、
前記砥石車を用いて前記研削条件により前記歯切り工具を研削する研削工程と、
を備える、歯切り工具の研削方法。
【請求項2】
前記歯切り工具の前記目標諸元は、前記歯切り工具の再研量に対する前記歯切り工具により加工される前記歯車の前記形状誤差が所定の許容値内において極値を有する諸元である、請求項1に記載の歯切り工具の研削方法。
【請求項3】
前記製造諸元決定工程は、前記目標前逃げ角、前記目標側逃げ角、前記製造諸元としての圧角、前記製造諸元としてのねじれ角、前記基準諸元としてのすくい角が所定の関係を満たすように、前記歯切り工具の前記製造諸元としての前記歯切り工具の転がり円直径、圧力角、及び、ねじれ角を決定する、請求項1又は2に記載の歯切り工具の研削方法。
【請求項4】
前記製造諸元決定工程は、前記目標前逃げ角Φ1、前記目標側逃げ角ε1、前記製造諸元としての前記圧力角α1、前記製造諸元としての前記ねじれ角β1、前記基準諸元としての前記すくい角γが前記所定の関係としての式(1A)を満たすように、前記歯切り工具の前記製造諸元としての前記歯切り工具の転がり円直径、圧力角、及び、ねじれ角を決定する、請求項3に記載の歯切り工具の研削方法。
【数1A】
【請求項5】
前記製造諸元としての前記圧力角は、前記歯切り工具の両側の刃側面のそれぞれの圧力角に基づいて決定された圧力角近似値である、請求項3又は4に記載の歯切り工具の研削方法。
【請求項6】
前記圧力角近似値α0は、式(2A)及び前記歯切り工具の左の刃側面の圧力角αL、右の刃側面の圧力角αRに基づいて決定される、請求項5に記載の歯切り工具の研削方法。
【数2A】
【請求項7】
スカイビング加工に用いられる歯切り工具における対向する刃側面を、円盤状に形成された砥石車により同時に研削する研削装置であって、
前記歯切り工具の再研量と前記歯切り工具により加工される歯車の形状誤差とに基づいて、前記歯切り工具の基準諸元としての基準前逃げ角及び基準側逃げ角に対して異なる前記歯切り工具の目標諸元としての目標前逃げ角及び目標側逃げ角を決定する目標諸元決定部と、
前記歯切り工具の製造諸元としての前逃げ角及び側逃げ角を前記目標前逃げ角及び前記目標側逃げ角からの許容値内にするために、前記歯切り工具の前記製造諸元を決定する製造諸元決定部と、
前記歯切り工具の前記製造諸元に基づいて、前記砥石車の形状及び研削条件を決定する形状及び条件決定部と、
前記砥石車を用いて前記研削条件により前記歯切り工具を研削する研削部と、
を備える、歯切り工具の研削装置。
【請求項8】
スカイビング加工に用いられる歯切り工具における対向する刃側面を、円盤状に形成された砥石車により同時に研削する研削方法において、前記砥石車の形状及び研削条件を決定する砥石車形状及び研削条件決定装置であって、
前記歯切り工具の再研量と前記歯切り工具により加工される歯車の形状誤差とに基づいて、前記歯切り工具の基準諸元としての基準前逃げ角及び基準側逃げ角に対して異なる目標前逃げ角及び目標側逃げ角を決定する目標諸元決定部と、
前記歯切り工具の製造諸元としての前逃げ角及び側逃げ角を前記目標前逃げ角及び前記目標側逃げ角からの許容値内にするために、前記歯切り工具の前記製造諸元を決定する製造諸元決定部と、
前記歯切り工具の前記製造諸元に基づいて、前記砥石車の形状及び研削条件を決定する形状及び条件決定部と、
を備える、砥石車形状及び研削条件決定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯切り工具の研削方法、研削装置、並びに、砥石車形状及び研削条件決定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯車を切削するための歯切り工具は、切削対象である歯車の形状に基づいた形状に形成されている。そして、歯切り工具の刃先面が摩耗した場合は、再研削(再研)を行って、刃の再整形を行っている(特許文献1参照)。ところで、近年、コストの面から高速切削可能な歯車加工が望まれており、スカイビング加工が知られている。特許文献2には、スカイビング加工の歯切り工具(スカイビングカッタ)において、一つの砥石車により、左右の刃側面と歯先面とを同時に研削することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4763611号公報
【文献】特開2017-226019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、歯切り工具には、前逃げ角と側逃げ角が設けられているものがある。前逃げ角とは、歯切り工具の刃先面における逃げ角である。側逃げ角とは、歯切り工具の刃側面における逃げ角である。また、前逃げ角、側逃げ角、刃直角の圧力角、すくい角、及び、基準円上のねじれ角によって、歯切り工具が設計される。
【0005】
スカイビング加工に用いる歯切り工具の再研は、歯切り工具の軸方向端面(すくい面)を研削することにより、各刃の再整形を行う。そして、歯切り工具における前逃げ角Φと側逃げ角εの関係は、歯切り工具の刃の再研可能な量を決めるパラメータとなる。
【0006】
歯切り工具の長寿命化を図るためには、歯切り工具の刃の再研量を多く確保することが求められる。また、研削能率を向上するためには、一つの砥石車により、対向する刃側面(左右の刃側面)を研削することが求められる。
【0007】
本発明は、再研量を多くとることができる歯切り工具を、一つの砥石車により、対向する刃側面を同時に研削できる歯切り工具の研削方法、並びに、砥石車形状及び研削条件決定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1.歯切り工具の研削方法)
本発明に係る歯切り工具の研削方法は、スカイビング加工に用いられる歯切り工具における対向する刃側面を、円盤状に形成された砥石車により同時に研削する方法であって、前記歯切り工具の再研量と前記歯切り工具により加工される歯車の形状誤差とに基づいて、前記歯切り工具の基準諸元としての基準前逃げ角及び基準側逃げ角に対して異なる前記歯切り工具の目標諸元としての目標前逃げ角及び目標側逃げ角を決定する目標諸元決定工程と、前記歯切り工具の製造諸元としての前逃げ角及び側逃げ角を前記目標前逃げ角及び前記目標側逃げ角からの許容値内にするために、前記歯切り工具の前記製造諸元を決定する製造諸元決定工程と、前記歯切り工具の前記製造諸元に基づいて、前記砥石車の形状及び研削条件を決定する形状及び条件決定工程と、前記砥石車を用いて前記研削条件により前記歯切り工具を研削する研削工程とを備える。
【0009】
(2.歯切り工具の研削装置)
本発明に係る歯切り工具の研削装置は、スカイビング加工に用いられる歯切り工具における対向する刃側面を、円盤状に形成された砥石車により同時に研削する研削装置であって、前記歯切り工具の再研量と前記歯切り工具により加工される歯車の形状誤差とに基づいて、前記歯切り工具の基準諸元としての基準前逃げ角及び基準側逃げ角に対して異なる前記歯切り工具の目標諸元としての目標前逃げ角及び目標側逃げ角を決定する目標諸元決定部と、前記歯切り工具の製造諸元としての前逃げ角及び側逃げ角を前記目標前逃げ角及び前記目標側逃げ角からの許容値内にするために、前記歯切り工具の前記製造諸元を決定する製造諸元決定部と、前記歯切り工具の前記製造諸元に基づいて、前記砥石車の形状及び研削条件を決定する形状及び条件決定部と、前記砥石車を用いて前記研削条件により前記歯切り工具を研削する研削部とを備える。
【0010】
(3.砥石車形状及び研削条件決定装置)
本発明に係る砥石車形状及び研削条件決定装置は、スカイビング加工に用いられる歯切り工具における対向する刃側面を、円盤状に形成された砥石車により同時に研削する研削方法において、前記砥石車の形状及び研削条件を決定する砥石車形状及び研削条件決定装置であって、前記歯切り工具の再研量と前記歯切り工具により加工される歯車の形状誤差とに基づいて、前記歯切り工具の基準諸元としての基準前逃げ角及び基準側逃げ角に対して異なる前記歯切り工具の目標諸元としての目標前逃げ角及び目標側逃げ角を決定する目標諸元決定部と、前記歯切り工具の製造諸元としての前逃げ角及び側逃げ角を前記目標前逃げ角及び前記目標側逃げ角からの許容値内にするために、前記歯切り工具の前記製造諸元を決定する製造諸元決定部と、前記歯切り工具の前記製造諸元に基づいて、前記砥石車の形状及び研削条件を決定する形状及び条件決定部とを備える。
【0011】
本発明に係る歯切り工具の研削方法、研削装置、並びに、砥石車形状及び研削条件決定装置によれば、再研量を多くとれる目標前逃げ角及び目標側逃げ角を決定し、決定した目標前逃げ角及び目標側逃げ角に基づいて、歯切り工具の製造諸元を決定している。これにより、再研量を多くとれ、一つの砥石車で少なくとも対向する刃側面を同時に研削できるスカイビング加工の歯切り工具が得られる。よって、歯車を大量生産するような現場において、歯切り工具のトータルコストの低減化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】歯切り工具を研削対象とし、砥石車を備える研削装置(研削盤)の図である。
図1B図1AのIB方向から見た図である。
図2A】歯車を切削するための歯切り工具であり、研削対象としての歯切り工具を中心軸線に直角な方向から見た図である。
図2B図2Aの歯切り工具を中心軸線方向から見た断面図である。
図3A】歯切り工具を研削するための砥石車の斜視図である。
図3B図3Aの砥石車の中心軸線に直角な方向から見た外周縁部の断面図である。
図4】切削対象としての歯車を中心軸線に直角な方向から見た図である。
図5】歯切り工具の基準諸元と目標諸元の関係を示す図である。
図6】前逃げ角及び側逃げ角を変化させたときの歯車の歯厚誤差と歯切り工具の再研量の関係を示す図である。
図7】歯切り工具の目標諸元と演算補助値と製造諸元の第一例の関係を示す図である。
図8】歯切り工具の目標諸元と演算補助値と製造諸元の第二例の関係を示す図である。
図9】歯切り工具研削装置の処理装置を示す図である。
図10】歯切り工具研削方法を説明するためのフローチャートである。
図11】歯切り工具の製造諸元の決定方法を説明するための第一のフローチャートである。
図12】歯切り工具の製造諸元の決定方法を説明するための第二のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1.歯切り工具研削装置20の構成)
図1A,Bを参照して、歯切り工具研削装置20について説明する。この歯切り工具研削装置20は、歯車1(図4参照)を切削するための歯切り工具2の刃2aの少なくとも対向する刃側面2d(図2A参照)の研削を砥石車3で行う。また、歯切り工具研削装置20は、砥石車3により、歯切り工具2の刃先面2cも同時に研削するようにしてもよい。歯切り工具研削装置20は、例えば、工具研削盤やアンギュラ研削盤などである。
【0014】
歯切り工具研削装置20は、図示しないベッド上において、研削対象である歯切り工具2を、歯切り工具2の中心軸X2周り(θ22)に回転可能に支持する主軸ユニット21を備える。さらに、歯切り工具研削装置20は、砥石車3を、砥石車3の中心軸X3周り(θ3)に回転可能に支持する砥石台22を備える。
【0015】
主軸ユニット21と砥石台22は、相対的に位置及び姿勢を変化することができるように設けられている。つまり、歯切り工具研削装置20は、主軸ユニット21と砥石台22とを相対的に位置及び姿勢を変化するための図示しない駆動装置を備える。
【0016】
詳細には、図1A及び図1Bに示すように、砥石台22は、主軸ユニット21に対して歯切り工具研削における交差角ηを調整可能(歯切り工具2の中心軸X2の平行線と砥石車3の中心軸X3とを直交させた状態から交差角ηだけ傾斜させる調整が可能)である。さらに、砥石台22は、主軸ユニット21に対して直交3軸方向に相対移動可能である。砥石台22と主軸ユニット21との交差角ηは、歯切り工具2のねじれ角β(図2Aに示す)に合わせて調整される。なお、主軸ユニット21と砥石台22とは、相対移動すればよく、主軸ユニット21が移動可能な構成としてもよい。
【0017】
歯切り工具研削装置20は、さらに、処理装置40を備える。処理装置40は、歯切り工具2の基準諸元に基づいて歯切り工具2の目標諸元を決定し、決定した目標諸元に基づいて、歯切り工具2の製造諸元を決定する。そして、処理装置40は、決定した歯切り工具2の製造諸元に基づいて、砥石車3の形状及び研削条件を決定し、決定した研削条件に基づいて砥石車3により歯切り工具2を研削する。なお、歯切り工具2についての基準諸元、目標諸元及び製造諸元については、後述する。
【0018】
また、処理装置40は、歯切り工具2の研削において、歯切り工具2の回転制御、砥石車3の回転制御、主軸ユニット21と砥石台22との相対的な位置及び姿勢の制御を行う。処理装置40は、CNC(Computer Numerical Control)装置やPLC(Programmable Logic Controller)などの組み込みシステムとすることもでき、パーソナルコンピュータやサーバなどとすることもできる。
【0019】
(2.歯切り工具2の形状)
図2A及び図2Bを参照して、歯切り工具2の形状の概要について説明する。歯切り工具2の形状は、図2A及び図2Bに示すように、中心軸X2周りの外周面に複数の刃2aを備える。歯切り工具2は、軸方向の端面にすくい角γを有するすくい面2bを備える。すくい面2bは、歯切り工具2の中心軸X2を中心としたテーパ状としてもよいし、1つの刃2a毎に異なる方向を向く面状に形成してもよい。
【0020】
また、歯切り工具2の複数の刃2aの外接円は、円錐台形状に形成される。つまり、複数の刃2aの刃先面2cは、すくい面2bに対して、前逃げ角Φを有する前逃げ面となる。従って、刃2aの一方端面から刃すじ方向(刃溝方向に等しい)に行くに従って、刃先面2cにおける歯切り工具2の中心軸X2からの距離が徐々に小さくなる。また、複数の刃2aは、刃側面2dと基準円Cとの交点、すなわちピッチ点Pにおいて、刃側面2dの接線Ltと中心軸X2と直角な半径線Lrとのなす圧力角αを有している。
【0021】
また、複数の刃2aの刃側面2dは、すくい面2bに対して、側逃げ角εを有する側逃げ面となる。さらに、複数の刃2aは、中心軸X2に対してねじれ角βを有している。ただし、歯車1の歯1aのねじれ角と、切削加工における歯車1と歯切り工具2との交差角に応じて、刃2aのねじれ角βは適宜異なる。従って、刃2aは、ねじれ角βを有しない場合も存在する。
【0022】
(3.砥石車3の形状の概要)
図3A及び図3Bを参照して、砥石車3の形状の概要について説明する。砥石車3は、図3Aに示すように、歯切り工具2を研削対象として、歯切り工具2の刃2aの対向する刃側面2dを主として研削する。砥石車3は、中心軸X3周りの円盤状に形成される。図3Bに示すように、砥石車3の外周縁部3aは、歯切り工具2の刃2aの対向する刃側面2dを同時に研削できるように、歯切り工具2の刃溝の形状に応じた形状に形成される。また、砥石車3の外周縁部3aの両端面に段差部3bを付加することで、対向する刃側面2dとともに刃先面2cも同時に研削可能となる。
【0023】
(4.歯車1の形状)
図4を参照して、歯車1の形状の概要について説明する。歯切り工具2の切削対象である歯車1の形状は、図4に示すように、中心軸X1周りの周面に複数の歯1aを備える。本実施形態においては、歯車1は、外歯車を例に挙げるが、内歯車を適用することもできる。また、図4においては、歯車1は、平歯車を例に挙げるが、はすば歯車など種々の歯車を適用することができる。
【0024】
(5.研削方法)
歯切り工具2の研削は、以下のように行われる。まず、歯切り工具2の中心軸X2の平行線と砥石車3の中心軸X3とが交差角ηを有する状態に位置決めされる。このとき、砥石車3の円盤が、歯切り工具2の刃溝方向にほぼ一致する状態となる。つまり、砥石車3は、歯切り工具2の隣り合う刃2の間、すなわち刃溝に位置決めされる。そして、歯切り工具2のねじれ角βと、歯切り工具2と砥石車3との交差角ηとは、ほぼ同一である。ただし、本例においては、後述するが、歯切り工具2の基準諸元(設計諸元)としてのねじれ角と、歯切り工具2と砥石車3との交差角ηは、異なる。
【0025】
この状態で、歯切り工具2をその中心軸X2回りに回転させ、砥石車3をその中心軸X3回りに回転させ、歯切り工具2の回転に砥石車3の移動を同期させて行われる。同期動作は、砥石車3が歯切り工具2の刃溝に合うように歯切り工具2の軸方向に相対移動すると共に、砥石車3を歯切り工具2の径方向へ相対移動させる。径方向への移動量は、歯切り工具2の前逃げ角に対応する。このようにして、砥石車3により歯切り工具2が研削される。
【0026】
(6.歯切り工具2の基準諸元と目標諸元)
歯切り工具2の基準諸元と目標諸元について、図5及び図6を参照して説明する。図5に示すように、歯切り工具2の基準諸元として、モジュールm、左右の刃側面2dの圧力角αL,αR、刃数Z、ねじれ角β、基準円直径D、外径Da、刃底円直径Df、前逃げ角Φ(基準前逃げ角)、側逃げ角ε(基準側逃げ角)、すくい角γが設定される。歯切り工具2の基準諸元のうち、モジュールm、左右の刃側面2dの圧力角αL,αR、刃数Z、ねじれ角β、基準円直径D、外径Da、刃底円直径Df、すくい角γは、歯切り工具2による加工対象である歯車1の諸元に基づいて決定される。ここで、刃側面2dは、左右のそれぞれにおいて圧力角αが異なるため、左の刃側面2dの圧力角αLをとし、右の刃側面2dの圧力角αRをとする。
【0027】
歯切り工具2の基準諸元のうち、前逃げ角Φ、側逃げ角εは、式(1)の関係に基づいて決定される。なお、式(1)において、αは、圧力角を示しており、例えば、左右の圧力角αL,αRの近似値を用いる。
【0028】
【数1】
【0029】
式(1)より得られた前逃げ角Φ及び側逃げ角εとなるように、砥石車3により歯切り工具2を研削した場合において、歯切り工具2の再研量と歯車1の歯厚誤差との関係は、図6の破線Aにて示すとおりである。歯切り工具2の再研とは、歯切り工具2の軸方向端面に位置するすくい面2bを研削することにより、各刃2aの再整形を行う処理である。図6の破線Aに示すように、歯切り工具2を再研すればするほど、歯車1の歯厚誤差が大きくなっていく。歯車1の歯厚誤差が図6の二点鎖線にて示す許容値に含まれる範囲において、上述した基本の歯切り工具2に対する再研量は、Taとなる。
【0030】
そこで、発明者らは、上記のような歯切り工具2の基準諸元とは異なる諸元とすることを検討し、再研量を多くすることができる歯切り工具2の目標諸元を決定した。ここで、歯切り工具2における前逃げ角Φと側逃げ角εの関係が、歯切り工具2の再研可能な量を決めるパラメータであることから、歯切り工具2の目標諸元として、目標前逃げ角Φ0及び目標側逃げ角ε0を決定した。目標前逃げ角Φ0及び目標側逃げ角ε0は、歯切り工具2の基準諸元における前逃げ角Φ及び側逃げ角εとは異なる値である。そのため、歯切り工具2の目標諸元は、式(1)の関係を満たさない。
【0031】
歯切り工具2の目標諸元となるように、砥石車3により歯切り工具2を研削した場合において、歯切り工具2の再研量と歯車1の歯厚誤差との関係は、図6の実線Bにて示すとおりである。歯切り工具2を再研すると、歯切り工具2の基準諸元の場合とは反対方向(図6の上側、正方向)へ歯厚誤差が大きくなっていく。しかし、その後にさらに再研量を多くすると、歯厚誤差が一旦小さくなり、次第に歯厚誤差が大きくなっていく。つまり、歯切り工具2の目標諸元は、歯切り工具2の再研量に対する歯切り工具2により加工される歯1車の歯厚誤差(形状誤差)が所定の許容値内において極値を有する諸元となる。
【0032】
歯車1の歯厚誤差が図6の二点鎖線にて示す許容値に含まれる範囲において、目標諸元からなる歯切り工具2に対する再研量は、Tbとなる。再研量Tbは、上述した基準諸元からなる歯切り工具2の再研量Taに比べると、はるかに大きな値となる。つまり、目標諸元からなる歯切り工具2は、再研量を多くとることができる工具であると言える。
【0033】
(7.目標諸元からなる歯切り工具2の研削における問題点)
歯切り工具2を砥石車3により研削する場合、歯切り工具2の諸元のうち、左右の刃側面2dの圧力角αL,αR、刃数Z、ねじれ角β、基準円直径D、すくい角γとなるように、砥石車3の形状が形成され、且つ、砥石車3と歯切り工具2との相対姿勢が決定される。そして、砥石車3を、歯切り工具2に対して、目標前逃げ角Φに沿って移動させることにより、歯切り工具2が研削される。
【0034】
ここで、上述した式(1)を満たしている基準諸元からなる歯切り工具2において、砥石車3を、歯切り工具2に対して、前逃げ角Φに沿って移動させることによって、得られる側逃げ角は、所望の側逃げ角εが得られる。しかし、式(1)を満たしていない目標諸元からなる歯切り工具2において、砥石車3を、歯切り工具2に対して、前逃げ角Φ0に沿って移動させた場合に、得られる側逃げ角は、所望の目標側逃げ角ε0は得られない。つまり、歯切り工具2の目標諸元そのものに基づいて研削条件を決定することができない。
【0035】
そこで、目標諸元からなる歯切り工具2における左右の刃側面2dを、それぞれ別々に研削することによって、所望の目標側逃げ角ε0を得ることができる。しかしながら、左右の刃側面2dのそれぞれを、別々の砥石車3によって研削するとなると、研削能率が大幅に低下する。そのため、一つの砥石車3によって、左右の刃側面2dを同時に研削することができるようにし、目標諸元からなる歯切り工具2の目標側逃げ角ε0を得ることが求められる。
【0036】
これらのことを解決するために、歯切り工具2の目標諸元に基づいて、製造上における歯切り工具2の諸元(以下、歯切り工具2の製造諸元)と称する)を別途設定する。ここで、歯切り工具2の製造諸元は、式(1)を満たすようにする。そして、歯切り工具2の製造諸元に基づいて、砥石車3の形状及び研削条件を決定する。このようにすることで、一つの砥石車3により、目標諸元からなる歯切り工具2を得ることができるようになる。
【0037】
(8.歯切り工具2の目標諸元と製造諸元)
歯切り工具2の目標諸元と製造諸元の関係について図7及び図8を参照して説明する。なお、図7には、製造諸元の第一例を示し、図8には、製造諸元の第二例を示す。
【0038】
歯切り工具2の目標諸元は、図7及び図8の左欄に示すように、モジュールm、左右の刃側面2dの圧力角αL,αR、刃数Z、ねじれ角β、基準円直径D、目標前逃げ角Φ0、目標側逃げ角ε0、すくい角γが設定される。ここで、刃側面2dは、左右のそれぞれにおいて圧力角αが異なるため、左の刃側面2dの圧力角αLをとし、右の刃側面2dの圧力角αRをとする。
【0039】
次に、図7及び図8の中央欄に示す高寿命用の歯切り工具2の近似値を決定する。ここで、歯切り工具2の加工対象である歯車1の歯面がインボリュート形状であるとする。そこで、歯切り工具2の刃側面2dがインボリュート形状であると仮定して(歯切り工具2の軸直角断面の歯形がインボリュート歯形であると仮定して)、歯切り工具2の刃形を規定する基礎円直径Db、及び、刃2aのねじれ角βから決まるリードLを近似値として決定する。基礎円直径Db及びリードLは、演算補助値として用いられる。
【0040】
基礎円直径Dbは、基準円直径Dと圧力角αとを用いて、D・cosαにより得られる。ここで、上述したように、スカイビング加工の歯切り工具2の刃側面2dは、左右で異なるため、歯切り工具2の目標諸元においては、左右の圧力角αL,αRが設定されている。そこで、本例では、2つの圧力角αL,αRから圧力角近似値α0を求め、基礎円直径Dbを基準円直径Dと圧力角近似値α0で表すことにする。演算補助値としての圧力角近似値α0は、例えば、式(2)からを求める。なお、圧力角近似値α0として、式(3)で示すように、左右の圧力角αL,αRの平均値としてもよい。
【0041】
【数2】
【0042】
【数3】
【0043】
次に、歯切り工具2の製造諸元を決定する(図7及び図8の右欄)。図7の右欄に示すように、第一例の製造諸元には、圧力角近似値α1、刃数Z、ねじれ角β1、転がり円直径D1(基準円直径に対応する)、前逃げ角Φ0、側逃げ角ε1、すくい角γ、基礎円直径Db、リードLが含まれる。
【0044】
ここで、図7の右欄に示すように、第一例の製造諸元において、刃数Z、前逃げ角Φ0、すくい角γは、歯切り工具2の目標諸元と同じ値であるため、同一符号で表す。一方、第一例の製造諸元において、圧力角近似値α1、ねじれ角β1、転がり円直径D1(基準円直径に対応する)、側逃げ角ε1は、設計諸元又は演算補助値とは異なる値である。また、第一例の製造諸元において、基礎円直径Db及びリードLは、演算補助値と同じ値である。
【0045】
また、図8の右欄に示すように、第二例の製造諸元において、刃数Z、側逃げ角ε0、すくい角γ、基礎円直径Db、リードLは、歯切り工具2の目標諸元と同じ値であるため、同一符号で表す。一方、第二例の製造諸元において、圧力角近似値α1、ねじれ角β1、転がり円直径D1(基準円直径に対応する)、前逃げ角Φ1は、目標諸元又は演算補助値とは異なる値である。また、第二例の製造諸元において、基礎円直径Db及びリードLは、演算補助値と同じ値である。なお、製造諸元における前逃げ角Φ1及び側逃げ角ε1が、目標諸元と異なる値とすることもできる。
【0046】
次に、製造諸元における圧力角近似値α1、ねじれ角β1、転がり円直径D1、側逃げ角ε1(又は、前逃げ角Φ1)の決定方法について説明する。基礎円直径Dbは、基準円直径Dと式(2)又は式(3)で求めた圧力角近似値α0を用いて、式(4)で表すことができる。さらに、本例では基礎円直径Dbが演算補助値として求めた値と製造諸元で同じ値であるため、転がり円直径D1と圧力角近似値α1を用いて、式(4)で表すことができる。
【0047】
【数4】
【0048】
そして、式(4)を変形することで、圧力角近似値α0と転がり円直径D1を用いて圧力角近似値α1を式(5)で表すことができる。また、ねじれ角β1は、リードLと転がり円直径D1を用いて式(6)で表すことができる。
【0049】
【数5】
【0050】
【数6】
【0051】
そして、式(4)を変形することで求められる式(7)で表される基準円直径Dを、転がり円直径D1の初期値として式(5)及び式(6)に代入し、圧力角近似値α1及びねじれ角β1を求める。そして、図7に示す製造諸元においては、求めた圧力角近似値α1及びねじれ角β1を式(8)に代入し、側逃げ角ε1を求める。そして、求めた側逃げ角ε1が、目標側逃げ角ε0から所定の許容値内に入るまで、転がり円直径D1を変化させて上記処理を逐次繰り返す。なお、この逐次処理は、例えば一般的なニュートン法により行う。
【0052】
【数7】
【0053】
【数8】
【0054】
そして、側逃げ角ε1が、目標側逃げ角ε0からの所定の許容値内に入ったら、その時点での製造諸元を求める。そして、求めた製造諸元に基づいて、砥石車3で歯切り工具2を研削する。なお、砥石車3の形状は、刃数Z、前逃げ角Φ0、すくい角γ、ねじれ角β1、転がり円直径D1を用いて創成図より求められる。
【0055】
また、図8に示す製造諸元においては、求めた圧力角近似値α1及びねじれ角β1を式(9)に代入し、前逃げ角Φ1を求める。そして、求めた前逃げ角Φ1が、目標前逃げ角Φ0からの所定の許容値内に入るまで、転がり円直径D1を変化させて上記処理を逐次繰り返す。なお、この逐次処理は、例えば一般的なニュートン法により行う。
【0056】
【数9】
【0057】
(9.歯切り工具研削装置20の処理装置40)
歯切り工具研削装置20の処理装置40について、図9図12を参照して説明する。図9に示すように、処理装置40は、基準諸元記憶部41、目標諸元決定部42、演算補助値算出部43、製造諸元決定部44、砥石車の形状及び研削条件決定部45、及び、研削部46を備える。
【0058】
ここで、基準諸元記憶部41、目標諸元決定部42、演算補助値算出部43、製造諸元決定部44、及び、砥石車の形状及び研削条件決定部45は、砥石車形状及び研削条件決定装置40aとして機能する。また、基準諸元記憶部41、目標諸元決定部42、演算補助値算出部43、及び、製造諸元決定部44は、製造諸元決定処理装置40bとして機能する。
【0059】
歯切り工具研削装置20の処理装置40による処理(歯切り工具2の研削方法)について、図10を参照して説明する。基準諸元記憶部41には、加工対象の歯車1の歯車諸元に基づいて決定される歯切り工具2の基準諸元が記憶される。具体的には、基準諸元記憶部41には、図5の左欄に示す歯切り工具2の基準諸元のテーブルデータが記憶される。
【0060】
目標諸元決定部42は、歯切り工具2の基準諸元を取得する(ステップS111)。目標諸元決定部42は、歯切り工具2の基準諸元及び歯切り工具2の刃2aの再研量に基づいて、歯切り工具2の目標諸元を決定する(ステップS112、目標諸元決定工程)。具体的には、目標諸元決定部42では、図5の右欄に示す目標諸元が決定される。つまり、目標諸元決定部42は、図6に示す再研量と形状誤差(歯厚誤差)との関係に基づいて、目標前逃げ角Φ0及び目標側逃げ角ε0を決定する。
【0061】
演算補助値算出部43は、演算補助値として、図7の中央欄及び図8の中央欄に示すように、圧力角近似値α0、基礎円直径Db及びリードLを算出する(ステップS113)。
【0062】
製造諸元決定部44は、歯切り工具2の目標諸元、及び、演算補助値に基づいて、歯切り工具2の製造諸元を決定する(ステップS114、製造諸元決定工程)。具体的には、製造諸元決定部44は、歯切り工具2の製造諸元としての前逃げ角Φ1及び側逃げ角ε1を目標前逃げ角Φ0及び目標側逃げ角ε0からの許容値内にするために、歯切り工具2の製造諸元としての歯切り工具2の転がり円直径D1、圧力角α1、及び、ねじれ角β1を決定する。ステップS111からS114までを、歯切り工具2の製造諸元決定処理として把握することができる(ステップS11)。
【0063】
図9に示すように、製造諸元決定部44の詳細は、転がり円直径算出部441、圧力角・ねじれ角算出部442、製造逃げ角算出部443、及び、判定部444を備える。
【0064】
ここで、製造諸元決定部44による第一の処理(歯切り工具2の製造諸元の決定方法)について、図11を参照して説明する。転がり円直径算出部441は、目標諸元決定部42で決定される目標前逃げ角Φ0及び目標側逃げ角ε0、並びに、演算補助値算出部43により算出された演算補助値に基づいて、転がり円直径D1を算出する(ステップS1141)。
【0065】
圧力角・ねじれ角算出部442は、基準諸元記憶部41に記憶される基準円直径D、転がり円直径算出部441で算出される転がり円直径D1、及び、演算補助値算出部43により算出された演算補助値に基づいて、圧力角近似値α1及びねじれ角β1を算出する(ステップS1142)。
【0066】
製造逃げ角算出部443は、基準諸元記憶部41に記憶されるすくい角γ、目標諸元決定部42で決定される目標前逃げ角Φ0、並びに、圧力角・ねじれ角算出部442で算出される圧力角近似値α1及びねじれ角β1に基づいて、側逃げ角ε1を算出する(ステップS1143)。
【0067】
判定部444は、製造逃げ角算出部443で算出される側逃げ角ε1が、目標諸元決定部42で決定される目標側逃げ角ε0の許容範囲内であるか否かを判定する(ステップS1144)。判定部444で側逃げ角ε1が目標側逃げ角ε0の許容範囲外であると判定された場合には(ステップS1144:No)、転がり円直径算出部441は、新たな転がり円直径D1を算出する(ステップS1145)。
【0068】
そして、判定部444で側逃げ角ε1が目標側逃げ角ε0の許容範囲内であると判定されるまで、ステップS1142からステップS1144までの処理を繰り返す。判定部444で側逃げ角ε1が目標側逃げ角ε0の許容範囲内であると判定された場合には(ステップS1144:Yes)、そのときの転がり円直径D1、圧力角近似値α1及びねじれ角β1を決定する(ステップS1146)。
【0069】
また、製造諸元決定部44による第二の処理(歯切り工具2の製造諸元の決定方法)について、図12を参照して説明する。なお、図11に示す処理と同じ処理は、同一ステップ番号を付す。転がり円直径算出部441は、目標諸元決定部42で決定される目標前逃げ角Φ0及び目標側逃げ角ε0、並びに、演算補助値算出部43により算出された演算補助値に基づいて、転がり円直径D1を算出する(ステップS1141)。
【0070】
圧力角・ねじれ角算出部442は、基準諸元記憶部41に記憶される基準円直径D、転がり円直径算出部441で算出される転がり円直径D1、及び、演算補助値算出部43により算出された演算補助値に基づいて、圧力角近似値α1及びねじれ角β1を算出する(ステップS1142)。
【0071】
製造逃げ角算出部443は、基準諸元記憶部41に記憶されるすくい角γ、目標諸元決定部42で決定される目標側逃げ角ε0、並びに、圧力角・ねじれ角算出部442で算出される圧力角近似値α1及びねじれ角β1に基づいて、前逃げ角Φ1を算出する(ステップS1147)。
【0072】
判定部444は、製造逃げ角算出部443で算出される前逃げ角Φ1が、目標諸元決定部42で決定される目標前逃げ角Φ0の許容範囲内(許容値内)であるか否かを判定する(ステップS1148)。判定部444で前逃げ角Φ1が目標前逃げ角Φ0の許容範囲外(許容値外)であると判定された場合には(ステップS1144:No)、転がり円直径算出部441は、新たな転がり円直径D1を算出する(ステップS1145)。
【0073】
そして、判定部444で前逃げ角Φ1が目標前逃げ角Φ0の許容範囲内(許容値内)であると判定されるまで、ステップS1142からステップS1144までの処理を繰り返す。判定部444で前逃げ角Φ1が目標前逃げ角Φ0の許容範囲内(許容値内)であると判定された場合には(ステップS1144:Yes)、そのときの転がり円直径D1、圧力角近似値α1及びねじれ角β1を決定する(ステップS1146)。
【0074】
そして、図10に示すように、砥石車の形状及び研削条件決定部45は、歯切り工具2の製造諸元に基づいて、砥石車3の形状及び研削条件を決定する(ステップS12、条件決定工程)。具体的には、砥石車3の形状及び研削条件は、歯切り工具2の製造諸元における、刃数Z、前逃げ角Φ0又は側逃げ角ε0、すくい角γ、ねじれ角β1、転がり円直径D1に基づいて決定される。
【0075】
ステップS11からS13までを、砥石車3の形状及び研削条件決定処理として把握することができる(ステップS11)。研削部46は、決定された砥石車3の形状及び研削条件に基づいて、歯切り工具2により歯車1を研削する(ステップS13、研削工程)。
【0076】
本実施形態の歯切り工具2の研削方法、研削装置20(40)、並びに、砥石車形状及び研削条件決定装置40aによれば、再研量を多くとれる目標前逃げ角Φ0及び目標側逃げ角ε0を決定し、決定した目標前逃げ角Φ0及び目標側逃げ角ε0に基づいて、歯切り工具2の製造諸元を決定している。これにより、再研量を多くとれ、一つの砥石車3で少なくとも対向する刃側面2dを同時に研削できるスカイビング加工の歯切り工具2が得られる。よって、歯車1を大量生産するような現場において、歯切り工具2のトータルコストの低減化が図れる。
【符号の説明】
【0077】
1:歯車、 1a:歯、 2:歯切り工具、 2a:刃、 3:砥石車、 20:歯切り工具研削装置、 21:主軸ユニット、 22:砥石台、 40:歯切り工具研削装置の処理装置、 41:基準諸元記憶部、 42:目標諸元決定部、 43:演算補助値算出部、 441:転がり円直径算出部、 442:圧力角・ねじれ角算出部、 443:製造逃げ角算出部、 444:判定部、 45:砥石車の形状及び研削条件決定部、 46:研削部
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12