(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】車両の前部車体構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
B62D25/20 F
(21)【出願番号】P 2019160531
(22)【出願日】2019-09-03
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【氏名又は名称】田中 三喜男
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】戎本 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】山崎 忠
(72)【発明者】
【氏名】辰田 学
(72)【発明者】
【氏名】黒田 一平
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-218538(JP,A)
【文献】特開2013-166474(JP,A)
【文献】特開2013-159290(JP,A)
【文献】国際公開第2015/055908(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2019/0256150(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102018003558(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08
B62D 25/14-29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロアパネルと、
前記フロアパネルの車幅方向外端部において前後方向に延びており、前後方向に直交する断面が閉断面に構成された、サイドシルと、
前記サイドシルの車幅方向内側において前後方向に延びており、前後方向に直交する断面が前記フロアパネルと共に閉断面に構成された、フロアフレームと、
前記サイドシルと前記フロアフレームとを車幅方向に接続しており、車幅方向に直交する断面が前記フロアパネルと共に閉断面に構成された、クロスメンバと
を備え、
前記サイドシルは、前後方向に直交する断面において車幅方向内側に位置しており上下方向に延びる内側面と頂部に位置しており車幅方向に延びる上面とを有しており、前記内側面と前記上面との間に前後方向に延びる角部が形成されており、
前記サイドシルの内側には、前後方向における前記クロスメンバが接続された位置に、前記内側面と前記角部とを補強する、補強部材が設けられており、
前記補強部材は、
前記サイドシルの内側を前後方向に区画しており、周縁部が前記内側面と前記上面とに接続されている、節部材と、
前記角部に沿って、前後方向に延びる、角部補強部材と
を有して
おり、
前記角部補強部材は、前記節部材と共に、前記サイドシルに3枚合わせで接合されている車両の前部車体構造。
【請求項2】
前記クロスメンバは、前記サイドシルの内側面を介して、前記節部材に接続されている、
請求項1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項3】
前記クロスメンバは、前記サイドシルに接続される端部が、前記サイドシルの上下方向における中心より下方に位置している、
請求項1
又は2に記載の車両の前部車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
フロアパネルと、フロアパネルの両側部において前後方向に延びるサイドシルと、サイドシルの車幅方向内側において前後方向に延びるフロアフレームと、フロアパネルの前部においてサイドシル及びフロアフレームを車幅方向に接続する第1クロスメンバと、第1クロスメンバの後方においてサイドシルとフロアフレームとを車幅方向に接続する第2クロスメンバとを備えた、車両の前部車体構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
衝突態様の1つとして、車幅方向において、車両のフロントサイドフレームよりも外側の領域において衝突物がオーバーラップする所謂スモールオーバーラップ衝突が知られている。スモールオーバーラップ衝突の場合、衝突物に入力される荷重により、当該オーバーラップ領域に配置された前輪が車体に対して相対的に後退して、該前輪からヒンジピラー及びサイドシルに衝突荷重が作用する。
【0004】
特許文献1の第1クロスメンバは、後方に向かって車幅方向内側へ傾斜した方向に延びているおり、後方に向かう衝突荷重を、車幅方向内側に位置するフロアフレームにも伝達することが企図されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先行技術に係る第1クロスメンバを荷重分散経路として機能させるためには、スモールオーバーラップ衝突時に車幅方向内側に倒れる内倒れ挙動をとるサイドシルに対して、上面近傍を支持するように第1クロスメンバを固定する必要がある。すなわち、第1クロスメンバの断面をサイドシルの上面近傍まで確保する必要があり、車体軽量化との両立を図る点で更なる工夫が必要である。
【0007】
本発明は、スモールオーバーラップ衝突における衝突荷重を、重量増大を抑制しつつ、サイドシルから第1クロスメンバに適切に分散させることができる車両の前部車体構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本願発明に係る車両の前部車体構造は、
フロアパネルと、
前記フロアパネルの車幅方向外端部において前後方向に延びており、前後方向に直交する断面が閉断面に構成された、サイドシルと、
前記サイドシルの車幅方向内側において前後方向に延びており、前後方向に直交する断面が前記フロアパネルと共に閉断面に構成された、フロアフレームと、
前記サイドシルと前記フロアフレームとを車幅方向に接続しており、車幅方向に直交する断面が前記フロアパネルと共に閉断面に構成された、クロスメンバと
を備え、
前記サイドシルは、前後方向に直交する断面において車幅方向内側に位置しており上下方向に延びる内側面と頂部に位置しており車幅方向に延びる上面とを有しており、前記内側面と前記上面との間に前後方向に延びる角部が形成されており、
前記サイドシルの内側には、前後方向における前記クロスメンバが接続された位置に、前記内側面と前記角部とを補強する、補強部材が設けられており、
前記補強部材は、
前記サイドシルの内側を前後方向に区画しており、周縁部が前記内側面と前記上面とに接続されている、節部材と、
前記角部に沿って、前後方向に延びる、角部補強部材と
を有しており、
前記角部補強部材は、前記節部材と共に、前記サイドシルに3枚合わせで接合されていることを特徴としている。
【0009】
本発明によれば、衝突時(例えばスモールオーバーラップ衝突)にサイドシルに作用する前方からの衝突荷重がクロスメンバを介して車幅方向内側に伝達される場合に、補強部材によって、サイドシルの断面変形を抑制できる。これによって、衝突荷重が、クロスメンバに効率的に伝達されると共にクロスメンバを介してフロアフレームにも伝達されるので、衝突荷重をサイドシルとクロスメンバとフロアフレームとに分散させることができる。また、クロスメンバの断面をサイドシルの上面近傍まで確保することを要しない。この結果、クロスメンバにおける重量増大を抑制しつつ、サイドシルの変形が抑制され、衝突時における車室空間の縮小を抑制しやすい。
また、節部材によってサイドシルの内側面及び上面の面外変形を抑制しつつ、角部補強部材によって角部の形状潰れを抑制しやすい。よって、衝突時においても、補強部材によって、サイドシルの断面形状を維持しやすく、衝突荷重をクロスメンバ及びフロアフレームにより一層効果的に伝達できる。
【0012】
例えば、前記クロスメンバは、前記サイドシルの内側面を介して、前記節部材に接続されていてもよい。
【0013】
本構成によれば、衝突荷重が、サイドシルから節部材を介してクロスメンバにより効果的に伝達される。
【0015】
本構成によれば、角部補強部材による補強効果と節部材による補強効果との相乗効果によって、サイドシルの断面変形をより一層抑制しやすい。
【0016】
例えば、前記クロスメンバは、前記サイドシルに接続される端部が、前記サイドシルの上下方向における中心より下方に位置していてもよい。
【0017】
本構成によれば、サイドシルは、上下方向の中心より下方においてクロスメンバに接続されており、このため接続されている下部を起点として上方が車幅方向内側へ変形する、内倒れ変形が生じやすい場合において、本発明が好適に実施される。すなわち、内倒れ変形は断面の変形を伴うが、本発明によれば、補強部材によってサイドシルの断面変形が抑制されるので、下部を起点とした内倒れ変形が生じにくい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る車両の前部車体構造によれば、スモールオーバーラップ衝突における衝突荷重を、重量増大を抑制しつつ、サイドシルから第1クロスメンバに適切に分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両の前部車体構造を示す斜視図。
【
図4】サイドシルの前端部周辺を拡大して示す側面図。
【
図6】フロアパネルの車幅方向の一方側の前部を拡大して示す平面図。
【
図8】
図6のVIII-VIII線に沿った断面図。
【
図9】第1クロスメンバの周辺を後方から見た斜視図。
【
図10】サイドシルインナの内側を前方から見た斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る車両の前部車体構造を説明する。なお、以下の説明では主に車幅方向左側の前部車体構造について説明するが、右側についても同様である。また、以下で説明される各部材は鋼板をプレス成型することによって形成することができ、それぞれ例えばスポット溶接によって接合することができる。
【0021】
[全体構成]
図1は本実施形態に係る車両1の前部車体構造を後方から見た斜視図であり、
図2は同左側面図である。
図1に示されるように、本実施形態に係る前部車体構造を備えた車両1は、車室内空間の床面を構成するフロアパネル60と、フロアパネル60の車幅方向の両側部に沿って前後方向に延びる一対のサイドシル30と、フロアパネル60の前方に配設されたダッシュパネル7とを備えている。ダッシュパネル7によって、車室内空間とエンジンルームとが前後方向に仕切られている。
【0022】
各サイドシル30は、前後方向に直交する断面において車幅方向外側に開口したハット状の断面形状を有するサイドシルインナ31と、前後方向に直交する断面において車幅方向内側に開口したハット状の断面形状を有するサイドシルアウタ40(
図2参照)とを有している。サイドシルインナ31とサイドシルアウタ40は、相互に接合されて前後方向に連続する閉断面を形成している。
【0023】
車両1は、左右のサイドシル30の各前端部から立ち上がって上下方向に延びる一対のヒンジピラー2をさらに備えている。ヒンジピラー2は、車幅方向内側に位置するヒンジピラーインナ3と、車幅方向外側に位置するヒンジピラーアウタ4(
図2参照)とを有している。ヒンジピラーインナ3は、サイドシルインナ31とサイドシルアウタ40との間に位置している。ヒンジピラーアウタ4は、サイドシルアウタ40に対して車幅方向の外側から接合されている。ダッシュパネル7は、一対のヒンジピラー2の間に架設されている。
【0024】
フロアパネル60は、車幅方向の中央部に位置するフロアトンネル68と、この両側部に位置する一対の底面部61とを有している。フロアトンネル68は、前後方向に延びている。フロアトンネル68の前後方向に直交する断面形状は、下方に開口したU字状に形成されており、底面部61に対して上方に膨出している。フロアトンネル68は、車幅方向の両縁部に底面部61よりも一段段上げされた段上げ部69を有している。
【0025】
フロアパネル60の底面部61には、前後方向に延びる左右一対のフロアフレーム50が接合されている。各フロアフレーム50は、車幅方向において、フロアトンネル68とサイドシル30との間に配置されている。言い換えれば、各フロアフレーム50は、サイドシル30よりも車幅方向の内側に配置されている。フロアフレーム50は、フロアパネル60の前端部において車幅方向に延びるトルクボックス8(
図5参照)を介して、サイドシル30の前端部に連結されている。
【0026】
底面部61の上面には、サイドシル30とフロアフレーム50との間を車幅方向に接続する第1クロスメンバ10と、サイドシル30、フロアフレーム50、及びフロアトンネル68の間を車幅方向に接続する第2クロスメンバ20及び第3クロスメンバ18とが接合されている。
【0027】
第1クロスメンバ10は、車幅方向内側に向かって後方に傾斜した方向に延びており、車幅方向外側から見て、サイドシルインナ31に接合される端部がヒンジピラー2と前後方向に重複している。第2クロスメンバ20は、第1クロスメンバ10の後方に間隔を開けて配置されている。第3クロスメンバ18は、第2クロスメンバ20の後方に間隔を開けて配置されている。
【0028】
図2に示されるように、車両1は、ヒンジピラーアウタ4の下部及びサイドシル30の前端部と、ヒンジピラー2の上部から前方に延びるエプロンレイン(不図示)の下部との間を筋交い状に連結する連結フレーム5を有している。エプロンレインは、サイドシル30の前方に位置する前輪6を揺動自在に支持するフロントサスペンション(不図示)が取り付けられるサスハウジング(不図示)を支持している。前輪6は、ホイール6aの外周部にタイヤ6bが組み付けられて構成されている。
【0029】
ヒンジピラーアウタ4は、前端部において前方に延びる前部フランジ4aと、前部フランジ4aの後端部から後方に向かって車幅方向外側に傾斜した方向に延びる傾斜壁部4bと、傾斜壁部4bの後端部からサイドシルアウタ40の車幅方向外側を後方に延びる前後壁部4cとを有している。
【0030】
連結フレーム5は、前端部において前方に延びる前部フランジ5aと、前部フランジ5aの後端部から後方に向かって車幅方向外側に傾斜した方向に延びる傾斜壁部5bと、この後端部からサイドシルアウタ前部40の車幅方向外側を後方に延びる前後壁部5cとを有している。ヒンジピラーアウタ4の前後壁部4cには、車幅方向外側から、連結フレーム5の前後壁部5cの後端部が接合されている。
【0031】
[サイドシル]
サイドシルアウタ40は、ヒンジピラー2から後方へ延びるサイドシルアウタ本体41と、この前方に位置しておりサイドシルアウタ40の前端部を構成するサイドシルアウタ前部47とに前後方向に2分割されている。サイドシルアウタ本体41は、前端部においてサイドシルアウタ前部47の後端部の内側に差し込まれて接合されている。
【0032】
図3は、
図2のIII-III線に沿った断面図であり、サイドシル30のうちサイドシルアウタ本体41が設けられた部分の前後方向に直交する断面が示されている。
図3に示されるように、サイドシルインナ31は、上下方向に延びており後述するフロアパネルフランジ65が車幅方向内側から接合される縦壁部32と、この上縁部及び下縁部それぞれから車幅方向外側に延びる上壁部33及下壁部34と、上壁部33の車幅方向外側の縁部から上方に延びる上部フランジ33aと、下壁部34の車幅方向外側の縁部から下方に延びる下部フランジ34aとを有している。
【0033】
サイドシルアウタ本体41は、上下方向に延びておりヒンジピラーアウタ4が車幅方向外側から接合される縦壁部42と、この上縁部及び下縁部それぞれから車幅方向内側に延びる上壁部43及び下壁部44と、上壁部43の車幅方向内側の縁部から上方に延びる上部フランジ43aと、下壁部44の車幅方向内側の縁部から下方に延びる下部フランジ44aとを有している。
【0034】
図4は
図2のうちサイドシルアウタ前部47の周辺を拡大して示す側面図である。なお、
図4において、ヒンジピラーアウタ4及び連結フレーム5が省略されている。
図4に示されるように、サイドシルアウタ前部47は、サイドシルアウタ本体41の断面形状に連続して前方に延びるハット状の断面形状に形成されている。
【0035】
具体的には、サイドシルアウタ前部47は、ヒンジピラーインナ3に対して車幅方向外側から接合されるフランジ部49と、フランジ部49に対して車幅方向外側に膨出している膨出部48とを有している。膨出部48は、サイドシルアウタ本体41の縦壁部42、上壁部43及び下壁部44に連続して前方に延びている。膨出部48の後半部の上部には、後方に向かって車幅方向外側に傾斜した傾斜壁部48a(
図5も参照)が凹設されている。
【0036】
フランジ部49は、サイドシルアウタ本体41の上部フランジ43a及び下部フランジ44aに連続して前方に延びる、上部フランジ49a及び下部フランジ49cを有している。
【0037】
図5は、
図2のV-V線に沿った断面図であって、サイドシル30の上部フランジ33a、43a、及び49aに沿った上下方向に垂直な断面を示している。
図5に示されるように、サイドシルインナ31は、前端部に車幅方向外側へ湾曲する湾曲部35を有しており、湾曲部35を介してハット状断面の車幅方向における断面深さが漸減して前端部において断面深さがゼロとなりハット状断面形状が終端している。サイドシルインナ31は、湾曲部35の前縁部から前方に延びる前部フランジ35aを有している。サイドシルインナ31は、周縁部において、上部フランジ33a、前部フランジ35a、及び下部フランジ34aが連続している。
【0038】
同様に、サイドシルアウタ前部47の膨出部48は、前端部に車幅方向内側へ湾曲する湾曲部45を有しており、湾曲部45を介してハット状断面の車幅方向における断面深さが漸減して前端部において断面深さがゼロとなり終端している。サイドシルアウタ前部47は、膨出部48の前縁部から前方に延びる前部フランジ49bを有している。
図4に示されるように、サイドシルアウタ前部47は、周縁部において、上部フランジ49a、前部フランジ49b、及び下部フランジ49cが連続している。
【0039】
図3及び
図5に示されるように、サイドシルインナ31とサイドシルアウタ40とは、間にヒンジピラーインナ3を挟んで車幅方向に接合されている。具体的には、サイドシルインナ31及びサイドシルアウタ本体41は、それぞれの上部フランジ33a、43aがヒンジピラーインナ3を間に挟んで3枚合わせで接合されており、それぞれの下部フランジ34a、44aがヒンジピラーインナ3を間に挟んで3枚合わせで接合されている。
【0040】
また、サイドシルインナ31及びサイドシルアウタ前部47は、それぞれの上部フランジ33a、49aがヒンジピラーインナ3を間に挟んで3枚合わせで接合されており、それぞれの前部フランジ35a、49bがヒンジピラーインナ3を間に挟んで3枚合わせで接合されており、それぞれの下部フランジ34a、49cがヒンジピラーインナ3を間に挟んで3枚合わせで接合されている。
【0041】
図5を参照して、ヒンジピラーインナ3とサイドシルアウタ前部47間の接合部のうち上部フランジ33a、49aが接合される接合部96について説明する。接合部96は、前端部から後方に延びる第1接合部96aと、第1接合部96aの後端部から車幅方向外側へ屈曲する第1屈曲部96bを介して、後方に向かって車幅方向外側へ傾斜した方向に延びる第2接合部96cと、第2接合部96cの後端部から車幅方向内側へ屈曲する第2屈曲部96dを介して、後方に延びる第3接合部96eとを有している。
【0042】
すなわち、接合部96は、後方に向かって、前後方向に平行に延びる第1接合部96aから、後方に向かって車幅方向外側へ傾斜した方向に延びる第2接合部96cを介して、前後方向に平行に延びる第3接合部96eへとオフセット量X1にて車幅方向外側へオフセットしている。
【0043】
接合部96は、ホイール6aの車幅方向の中心線L0よりも車幅方向の内側に位置している。第1接合部96aは、接合部96のうち最も車幅方向内側に位置しているので、中心線L0に対する車幅方向内側へのオフセット量X2がより大きくなっている。また、サイドシル30において、接合部96は車幅方向内側に偏って位置しており、前端部においては、サイドシル30のうちサイドシルアウタ40の占める割合がより大きい。
【0044】
第1屈曲部96bは、前後方向において、傾斜壁部48aの前側に位置しており、上部フランジ33a、49aを後方に向かって車幅方向外側へ傾斜した方向に屈曲させている。第2屈曲部96dは、前後方向において、第1屈曲部96bと傾斜壁部48aとの間に位置しており、前後方向に対して傾斜した方向に延びている上部フランジ33a、49aを前後方向に沿って延びるように後方に向かって車幅方向内側に屈曲させている。
【0045】
なお、上記説明は、ヒンジピラーインナ3とサイドシルインナ31及びサイドシルアウタ前部47との間の接合部のうち上部フランジ33a、49aが接合される接合部96について例に取って説明したが、下部フランジ34a、49cが接合される接合部についても同様であり、その説明を省略する。
【0046】
接合部96のうち、第1接合部96aに、車幅方向内側からトルクボックス8のフランジ8aが接合されており、車幅方向外側から連結フレーム5の前部フランジ5aが接合されている。接合部96のうち、第2接合部96cに、車幅方向内側からダッシュパネル7のフランジ7aが車幅方向内側から接合されている。接合部96のうち第3接合部96eに、車幅方向外側からヒンジピラーアウタ4の前部フランジ4aが接合されている。
【0047】
サイドシルアウタ前部47の湾曲部45は、連結フレーム5の傾斜壁部5bの後側に略隣接して位置している。サイドシルアウタ前部47の傾斜壁部48aは、ヒンジピラーアウタ4の傾斜壁部4bの後側に略隣接して位置している。
【0048】
ここで、サイドシル30は、車幅方向外側に位置するサイドシルアウタ40が、車幅方向内側に位置するサイドシルインナ31に比して、前後方向における座屈強度が低くなるように構成されている。例えば、本実施形態では、サイドシルアウタ40として引っ張り強度が440MPaであって厚さが1.4mmの鋼板が採用されており、サイドシルインナ31として引っ張り強度が1180MPaであって厚さが1.2mmの鋼板が採用されている。
【0049】
上述したように、サイドシル30は、前端部においてサイドシルアウタ40の占める割合が大きくなっており、且つ、座屈強度が相対的に低く設定されているので、前方から衝突荷重を受けた場合に、サイドシルインナ31よりもサイドシルアウタ40を優先的に座屈させやすくなっている。
【0050】
なお、サイドシルアウタ40のうち、前端部に位置するサイドシルアウタ前部47のみ座屈強度が低くなるように設定し、サイドシルアウタ本体41をサイドシルインナ31と同じ材料に設定してもよい。これによって、前方から衝突荷重を受けた場合に、サイドシルアウタ40のうちサイドシルアウタ前部47をより効率的に座屈させやすい。
【0051】
[フロアパネル]
図6は、左側の底面部61の前部を拡大して示す平面図である。
図6に示されるように、底面部61には、第1クロスメンバ10とサイドシル30とが接合される部分の後側に、上下方向に貫通した開口部66が形成されている。開口部66は、例えば前部車体構造を組み立てる際の基準孔として使用され、または前部車体構造を電着塗装する際に、塗料をフロアパネル60の下面から上面へ又はその逆へ供給するための塗料供給孔としても使用される。
【0052】
図7は、
図6のVII-VII線に沿った断面図である。
図7に示されるように、底面部61は、サイドシル30とフロアフレーム50との間を車幅方向に延びる第1底面部62と、第1底面部62の車幅方向内側の縁部から上方に向かって車幅方向内側に傾斜した方向に延びる縦壁部63と、縦壁部63の上縁部から車幅方向内側に延びる第2底面部64とを有している。また、第1底面部62は、車幅方向外側の縁部から上方に延びるフロアパネルフランジ65を介して、サイドシルインナ31の縦壁部32に車幅方向内側から接合されている。
【0053】
フロアパネル60の縦壁部63及び第2底面部64には、上方から上フレーム51が接合されており、下方から下フレーム55が接合されている。
【0054】
[フロアフレーム]
上フレーム51は、縦壁部63の車幅方向外側に位置しており縦壁部63に沿って延びる上フレーム縦壁部52と、この上縁部から車幅方向内側に第2底面部64に沿って延びる上フレーム上壁部53とを有している。上フレーム縦壁部52は、下縁部から車幅方向外側に延びる下部フランジ52aを有している。また、上フレーム上壁部53は車幅方向内側の縁部から車幅方向内側にさらに延びる上部フランジ53aを有している。
【0055】
下フレーム55は、第1底面部62より下方に位置しており、第2底面部64に対向する下フレーム下壁部56と、この車幅方向内側の縁部から上方に延びる下フレーム縦壁部57とを有している。下フレーム下壁部56は、車幅方向外側の縁部から車幅方向外側にさらに延びる下部フランジ56aを有している。下フレーム縦壁部57は、上縁部から車幅方向内側に延びる上部フランジ57aを有している。
【0056】
上フレーム51及び下フレーム55は、車幅方向外側の端部において、下部フランジ52a、56aの間に第1底面部62を挟んで三枚合わせで接合されている。また、上フレーム51及び下フレーム55は、車幅方向内側の端部において、上部フランジ53a、57aの間に第2底面部64を挟んで3枚合わせで接合されている。
【0057】
したがって、フロアパネル60の縦壁部63及び第2底面部64の、上面側及び下面側には、上フレーム51及び下フレーム55との間に前後方向に延びる閉断面がそれぞれ構成されている。
【0058】
[クロスメンバ]
図1及び
図6に示されるように、第1クロスメンバ10、第2クロスメンバ20、及び第3クロスメンバ18は、車幅方向に直交する断面形状において下方に開口したハット状の断面形状を有しており、それぞれフロアパネル60の底面部61との間で車幅方向に連続する閉断面を形成している。
【0059】
第1クロスメンバ10は、第1底面部62に上方から対向する上面部11と、この前縁部及び後縁部から下方に延びる前面部12及び後面部13とを有している。前面部12の下縁部には、前方に延びる前部フランジ12aが形成されている。後面部13の下縁部には、後方に延びる後部フランジ13aが形成されている。第1クロスメンバ10は、前部フランジ12a及び後部フランジ13aを介して、フロアパネル60の第1底面部62に接合されている。
【0060】
また、第1クロスメンバ10は、車幅方向外側の端部に上方に延びる外側フランジ14が形成されており、車幅方向内側の端部に上方に延びる内側フランジ15が形成されている。外側フランジ14は、上面部11、前面部12、及び後面部13の車幅方向外側の縁部に沿うように設けられている。内側フランジ15は、上面部11、前面部12、及び後面部13の車幅方向内側の縁部に沿うように設けられている。
【0061】
第1クロスメンバ10における、外側フランジ14と、内側フランジ15と、前部フランジ12aと、後部フランジ13aとは、上面部11、前面部12、及び後面部13を囲むように、全周縁に沿って連続する全周フランジとして構成されている。
【0062】
図7に示されるように、第1クロスメンバ10は、上面部11がサイドシルインナ31の縦壁部32の上下方向の中間位置よりも下方に位置している。第1クロスメンバ10は、外側フランジ14を介して、サイドシルインナ31の縦壁部32に対してこの上下方向の中心位置よりも下側に接合されている。第1クロスメンバ10は、内側フランジ15を介して、上フレーム縦壁部52に対してこの上下方向の略中心位置に接合されている。内側フランジ15と上フレーム縦壁部52との接合部に、フロアパネル60の縦壁部63を加えて3枚合わせで接合してもよい。
【0063】
図6に示されるように、第2クロスメンバ20は、第1底面部62及び第2底面部64に上方から対向する上面部21と、この前縁部及び後縁部から下方に延びる前面部22及び後面部23とを有している。前面部22の下縁部には、前方に延びる前部フランジ22aが形成されている。後面部23の下縁部には、後方に延びる後部フランジ23aが形成されている。第2クロスメンバ20は、前部フランジ22a及び後部フランジ23aを介して、フロアパネル60の第1底面部62、縦壁部63、及び第2底面部64に接合されている。
【0064】
第2クロスメンバ20は、上面部21が、車幅方向の内側においてフロアトンネル68の段上げ部69と略面一状に位置しており、車幅方向の外側においてサイドシルインナ31の縦壁部32の上下方向の中間位置よりも上方に位置している。第2クロスメンバ20は、車幅方向外側の端部において、サイドシルインナ31の縦壁部32に対してこの下端部から上下方向の中間位置よりも上側までにわたって接合されている。また、第2クロスメンバ20は、車幅方向内側の端部においてフロアトンネル68の段上げ部69に接合されている。
【0065】
第3クロスメンバ18は、第2クロスメンバ20と同様の構成を有しており、その詳細な説明を省略する。また、第2クロスメンバ20及び第3クロスメンバ18を、車幅方向に複数の部材により分割して構成してもよい。
【0066】
第2クロスメンバ20及び第3クロスメンバ18にはそれぞれ、車幅方向外側の端部においてサイドシルインナ31との間にわたって前後一対の外側ブラケット91が接合されており、車幅方向内側の端部においてフロアトンネル68との間に前後一対の内側ブラケット92がそれぞれ接合されている。前後一対の外側ブラケット91に、外側シートレール93が取り付けられており、前後一対の内側ブラケット92に内側シートレール94が取り付けられている。
【0067】
[第1底面部]
図6に示されるように、第1底面部62には、周囲が、サイドシル30、フロアフレーム50、第1クロスメンバ10、及び第2クロスメンバ20により囲まれた四角形状の閉領域80が画定されている。
【0068】
上述したように、第1クロスメンバ10は後方に向かって車幅方向内側に傾斜した方向に延びているので、閉領域80は、第1クロスメンバ10とサイドシル30とにより区画される第1角部81が鋭角に構成される一方で、第1クロスメンバ10とフロアフレーム50とにより区画される第2角部82が鈍角に構成されている。
【0069】
一方、第2クロスメンバ20は車幅方向に平行に延びているので、閉領域80は、第2クロスメンバ20とサイドシル30とにより区画される第3角部83及び第2クロスメンバとフロアフレーム50とにより区画される第4角部84が、それぞれ略直角に構成されている。
【0070】
第1角部81には、開口部66が形成されている。
図7を併せて参照して、開口部66は、穴縁部にフランジ部66aが形成されている。フランジ部66aには、蓋部材67が上方から固着されている。開口部66は、蓋部材67によって塞がれている。
【0071】
図6に示されるように、閉領域80は、前側且つ車幅方向内側に位置しており周縁部が第1クロスメンバ10とフロアフレーム50とに接合された三角形状の前方内側領域80aと、この後方且つ車幅方向外側に位置しており周縁部が第2クロスメンバ20とサイドシル30とに接合された三角形状の後方外側領域80bとを有している。
【0072】
前方内側領域80aは、三角形状の周縁部のうち2辺が第1クロスメンバ10とフロアフレーム50とに支持されて高剛性に構成されている。同様に、後方外側領域80bは、三角形状の周縁部のうち2辺が第2クロスメンバ20とサイドシル30とに支持されて高剛性に構成されている。よって、閉領域80は、それぞれ異なる部材によって支持されて剛性が高められた、前方内側領域80aと後方外側領域80bとに剛性的に二分されている。
【0073】
なお、閉領域80は、開口部66の周囲も、フランジ部66aとここに固着された蓋部材67とによって剛性が高められている。開口部66は、第1角部81において、サイドシル30よりも第1クロスメンバ10に近接して位置しており、高剛性に構成された開口部66の周囲は前方内側領域80aに含まれる。
【0074】
前方内側領域80aと後方外側領域80bとの間の境界は、仮想線L1として示されている。仮想線L1は、後方に向かって車幅方向内側に傾斜した方向に延びており、具体的には、開口部66(蓋部材67)とサイドシル30との間から第4角部84へ延びている。閉領域80に開口部66が設けられていない場合、仮想線L1は、第1角部81と第4角部84とを結ぶ対角線として構成される。
【0075】
図8を併せて参照して、閉領域80は、開口部66及びフランジ部61aを避けた位置において、下方にドーム状に膨出するように曲面状に形成された曲面部85を有している。曲面部85は、前後方向及び車幅方向の略中央部に、最も下方に位置する最下点85aを有している。
【0076】
閉領域80には、後方に向かって車幅方向外側に傾斜した方向に直線状に延びており、仮想線L1に交差するビード86が形成されている。ビード86は、複数形成されており、閉領域80のうち最下点85aを避けて位置している。複数のビード86には、閉領域80の前半部分に形成された左右一対の第1ビード86A及び第2ビード86Bと、閉領域80の後半部分に形成された左右一対の第3ビード86C及び第4ビード86Dとを含んでいる。
【0077】
ビード86は、仮想線L1に対して45度以上で交差した方向に直線状に延びるように設けられている。なお、45度以上とは、ビード86を基準として車幅方向の内側からと外側からの角度について、どちらでも45度から135度の範囲となることを指す。好ましくは、ビード86は、仮想線L1に対して略直交する方向に直線状に延びるように設けられている。本明細書においてビード86が、仮想線L1に対して略直交する方向に直線状に延びるとは、ビード86が仮想線L1に対して90度±15度で交差した方向に直線状に延びていることを意味するものとする。
【0078】
図8は、
図6のVIII-VIII線に沿った断面図であり、第1ビード86A及び第2ビード86Bを通る車幅方向に沿った断面図である。
図8に示されるように、第1ビード86A及び第2ビード86Bは、上方に膨出するように形成されている。なお、図示は省略するが、第3ビード86C及び第4ビード86Dも同様に上方に膨出するように形成されている。したがって、ビード86は、閉領域80のうち、残余の部分に比して剛性が高い高剛性部として構成されている。
【0079】
図6に示されるように、第1ビード86A及び第3ビード86Cは、車幅方向においてサイドシル30側に偏って位置するサイドシル側高剛性部として構成されている。第2ビード86B及び第4ビード86Dは、車幅方向においてフロアフレーム50側に偏って位置するフロアフレーム側高剛性部として構成されている。換言すれば、複数のビード86のそれぞれは、閉領域80の幅方向全体にわたって延びるように形成されておらず途中で終端している。
【0080】
複数のビード86は、仮想線L1の方向に見て、互いに重複して位置している。換言すれば、閉領域80は、仮想線L1の方向に見たときに、フロアフレーム50側の端部及びサイドシル30側の端部を除いて、ビード86が形成されていない部分を見通すことができない。なお、複数のビード86の1つが、他の少なくとも1つのビード86に対して重複していればよく、全ての他のビード86に対して重複している必要はない。
【0081】
複数のビード86は、仮想線L1の方向において、サイドシル側高剛性部と、フロアフレーム側高剛性部とが、交互に並んでいる。具体的には、仮想線L1の方向において、第1ビード86A、第2ビード86B、第3ビード86C、及び第4ビード86Dが、前方から順に並んでいる。
【0082】
フロアフレーム50側に偏って位置する第2ビード86Bは、車幅方向内側に位置する内側端部88を有している。内側端部88は、第1クロスメンバ10の後部フランジ13a及び上フレーム51の下部フランジ52aに対して10mm以上15mm以下の間隔を開けて位置している。換言すれば、第2ビード86Bは、第1クロスメンバ10及びフロアフレーム50に接続されておらず、閉領域80において第2角部82に近接した位置で終端している。
【0083】
サイドシル30側に偏って位置する第3ビード86Cは、車幅方向外側に位置する外側端部89を有している。外側端部89は、第2クロスメンバ20の前部フランジ22a及びフロアパネルフランジ65に対して10mm以上15mm以下の間隔を開けて位置している。換言すれば、第3ビード86Cは、第2クロスメンバ20及びサイドシル30に接続されておらず、閉領域80において第3角部83に近接した位置で終端している。
【0084】
[節部材]
図1に示されるように、サイドシルインナ31の内側には、複数の節部材70が設けられている。節部材70は、サイドシルインナ31の内側を前後方向に区画している。
図9は、第1クロスメンバ10の周辺を後方から見た斜視図であって、サイドシル30は省略されている。
図9に示されるように、複数の節部材70には、前後方向において、サイドシルインナ31に第1クロスメンバ10が接続された位置に設けられた、第1節部材71が含まれている。
【0085】
図7及び
図8を併せて参照して、サイドシルインナ31の内側には、前後方向に直交する断面においてL字状の角部補強部材77が設けられている。角部補強部材77は、サイドシルインナ31の上壁部33の下面に沿って車幅方向に延びる上壁部78と、サイドシルインナ31の縦壁部32に沿って上下方向に延びる縦壁部79とを有している。角部補強部材77は、上壁部78においてサイドシルインナ31の上壁部33に接合され、縦壁部79においてサイドシルインナ31の縦壁部32に接合されている。
【0086】
第1節部材71及び角部補強部材77は、サイドシルインナ31の縦壁部32と、縦壁部32と上壁部33との間の角部とを補強する、補強部材として構成されている。
【0087】
図6に示されるように、角部補強部材77は、サイドシルインナ31の前端部から第2クロスメンバ20を超えた位置まで前後方向に延びている。
【0088】
図10は、第1節部材71を前方且つ車幅方向外側から見た斜視図であり、ヒンジピラー2及びサイドシルアウタ40が省略されている。
図10に示されるように、第1節部材71は、前後方向に直交する方向に延びておりサイドシルインナ31の内側を前後方向に区画する縦壁部72と、この上縁部から前方に延びる上部フランジ73と、縦壁部72の車幅方向内側の縁部から前方に延びる内側フランジ74と、縦壁部72の下縁部から前方に延びる下部フランジ75と、縦壁部72の車幅方向外側の縁部から後方に延びる外側フランジ76とを有している。
【0089】
第1節部材71は、前方に延びている、上部フランジ73、内側フランジ74、及び下部フランジ75が、連続的に形成されている。縦壁部72は、周縁部から内側にオフセットした位置において後方へ凹設されたビード72aを有している。縦壁部72と外側フランジ76との間には、上下一対の三角ビード72bが凹設されている。
【0090】
図3に示されるように、第1節部材71は、上部フランジ73が、サイドシルインナ31の上壁部33及び角部補強部材77の上壁部78と3枚合わせで接合されている。第1節部材71は、下部フランジ75が、サイドシルインナ31の下壁部34に接合されている。
【0091】
第1節部材71は、内側フランジ74の上部において、角部補強部材77の縦壁部79を間に挟んでサイドシルインナ31の縦壁部32と3枚合わせで接合されている。また、第1節部材71は、内側フランジ74の下部において、サイドシルインナ31の縦壁部32を間に挟んで第1クロスメンバ10の外側フランジ14と3枚合わせで接合されており、さらにこの下側においてサイドシルインナ31の縦壁部32を間に挟んでフロアパネルフランジ65と3枚合わせで接合されている。
【0092】
また、
図7に示されるように、第1節部材71は、外側フランジ76が、ヒンジピラーインナ3に接合されている。
【0093】
なお、
図9に示されるように、角部補強部材77は、第1節部材71との接合部が、残余の部分に比して幅広に形成されている。また、
図10に示されるように、第1節部材71は、上部フランジ73、外側フランジ74、及び下部フランジ75が、サイドシルインナ31に接合される接合部73a、74a、75aが、サイドシルインナ31に接合されない非接合部73b、74b、75bに比して幅広に形成されている。これによって、第1節部材71の縦壁部72の周縁部において、上部フランジ73、外側フランジ74、及び下部フランジ75を連続的に形成することにより剛性を高めながら、重量の増大が抑制されている。
【0094】
上記実施形態に係る車両1の前部車体構造によれば、以下の効果を奏する。
【0095】
(1)フロアパネル60の閉領域80には、高剛性部としてビード86が設けられている。ビード86は仮想線L1に45°以上の角度で交差しているので、オブリーク衝突時に、フロアパネル60の閉領域80において前方内側領域80aと後方外側領域80bとの間の仮想線L1に沿って生じ得る相対変位が抑制される。さらに、衝突時に仮想線L1に沿って閉領域80に集中し得る応力が、ビード86を介して仮想線L1に交差する方向へ分散される。よって、オブリーク衝突時におけるフロアパネル60の閉領域80における亀裂が好適に抑制される。
【0096】
(2)複数のビード86によって、衝突時にフロアパネル60の閉領域80に集中し得る応力を、仮想線L1に直交する方向へより一層分散させやすい。また、複数のビード86、閉領域80の全体に渡るように設けられておらず、サイドシル30側及びフロアフレーム50側のいずれかに偏って位置するように設けられているので、複数のビード86によって、閉領域80を過度に補強することを防止できる。この結果、閉領域80の少なくとも一部に生じ得る膜振動が、複数のビード86を介して、閉領域80の全体に波及することを抑制できる。よって、複数のビード86を設けつつも、閉領域80におけるNVHの悪化を抑制できる。
【0097】
(3)フロアパネル60の閉領域80は、仮想線L1の延在方向から見てビード86がない部分を直線状に見通せる部分がないので、仮想線L1に沿った方向に亀裂が進展若しくは発生しにくい。
【0098】
(4)仮想線L1の方向において、サイドシル30側に偏って位置するビード86と、フロアフレーム50側に偏って位置するビード86とが、交互に設けられているので、衝突時にフロアパネル60の閉領域80に集中し得る応力を、仮想線L1に交差する方向に均一に分散させやすい。
【0099】
(5)複数のビード86のうち第3ビード86Cは、フロアパネル60の閉領域80のうち、車幅方向外側の後部、すなわちサイドシル30と第2クロスメンバ20とにより構成される第3角部83であって、相対的に剛性が高くなる部分で終端している。この結果、衝突時に第3ビード86Cに生じる応力集中を、フロアパネル60のうち上記相対的に剛性が高い第3角部83に分散させやすい。よって、衝突時において生じ得る応力を、閉領域80に、より好適に分散させることができる。
【0100】
(6)複数のビード86のうち第2ビード86Bは、フロアパネル60の閉領域80のうち、車幅方向内側の前部、すなわちフロアフレーム50と第1クロスメンバ10とにより構成される第2角部82であって、相対的に剛性が高くなる部分で終端している。この結果、衝突時に第2ビード86Bに生じる応力集中を、フロアパネル60のうち上記相対的に剛性が高い第2角部82に分散させやすい。よって、衝突時において生じ得る応力を、閉領域80に、より好適に分散させることができる。
【0101】
(7)複数のビード86は、閉領域80のうち、曲面状に設けられた曲面部85の最下点85aを避けた位置に、設けられている。これによって、閉領域80のうち膜振動の振幅が大きくなりやすい最下点85aにおける振動が、複数のビード86を介して、閉領域80の全体に波及することを抑制できる。よって、複数のビード86を設けつつも、閉領域80におけるNVHの悪化を抑制できる。
【0102】
(8)閉領域80のうち、車両幅方向外側の前部が、ここに形成された開口部66に蓋部材67が固着されていることによって剛性が高められている場合に、仮想線L1が適切に設定されるので、本発明を好適に実施できる。
【0103】
(9)閉領域80のうち残余の部分に比して剛性が高められた高剛性部がビード86により構成されている、これによって、ビード86を、プレス成型等によって容易に構成しやすい。高剛性部を、ビード86に代えて別部材を接合して設ける場合に比して、閉領域80の重量の増大を抑制しやすい。さらに、閉領域80の重量増大による固有振動数の低下が抑制されるので、NVHの悪化を抑制できる。
【0104】
(10)スモールオーバーラップ衝突時に、サイドシル30に作用する前方からの衝突荷重が第1クロスメンバ10を介して車幅方向内側に伝達される場合に、第1節部材71及び角部補強部材77によって、サイドシル30の断面変形を抑制できる。これによって、衝突荷重が、第1クロスメンバ10に効率的に伝達されると共に第1クロスメンバ10を介してフロアフレーム50にも伝達されるので、衝突荷重をサイドシル30と第1クロスメンバ10とフロアフレーム50とに分散させることができる。また、第1クロスメンバ10の断面をサイドシル30の上面近傍まで確保することを要しない。この結果、第1クロスメンバ10における重量増大を抑制しつつ、サイドシル30の変形が抑制され、衝突時における車室空間の縮小を抑制しやすい。
【0105】
特に、第1クロスメンバ10は、後方に向かって車幅方向内側に傾斜しているので、サイドシルに作用する前方からの衝突荷重が、車幅方向内側に伝達させやすく、この場合において、本発明をより好適に実施できる。
【0106】
(11)第1節部材71によってサイドシルインナ31の縦壁部32及び上壁部33の面外変形を抑制しつつ、角部補強部材77によってサイドシルインナ31の縦壁部32と上壁部33との間の角部の形状潰れを抑制しやすい。よって、衝突時においても、第1節部材71及び角部補強部材77によって、サイドシル30の断面形状を維持しやすく、衝突荷重を第1クロスメンバ10及びフロアフレーム50により一層効果的に伝達できる。
【0107】
(12)第1クロスメンバ10は、サイドシルインナ31の縦壁部32を介して、第1節部材71に接合されているので、衝突荷重が、サイドシルインナ31のうち第1節部材71によって断面変形が抑制されている部分を介して、第1クロスメンバ10により効果的に伝達される。
【0108】
(13)角部補強部材77は、第1節部材71と共に、サイドシルインナ31に接合されているので、角部補強部材77による補強効果と第1節部材71による補強効果との相乗効果によって、サイドシルインナ31の断面変形をより一層抑制しやすい。
【0109】
(14)サイドシルインナ31の縦壁部32は、上下方向の中心位置より下方において、第1クロスメンバ10に接続されており、このため接続されている下部を起点として上方が車幅方向内側へ変形する、内倒れ変形が生じやすい場合において、本発明が好適に実施される。すなわち、内倒れ変形はサイドシルインナ31の断面の変形を伴うが、本発明によれば、第1節部材71及び角部補強部材77によってサイドシルインナ31の断面変形が抑制されるので、下部を起点とした内倒れ変形が生じにくい。
【0110】
(15)サイドシル30は、サイドシルアウタ40がサイドシルインナ31に比して前後方向における座屈荷重が相対的に低く構成されているので、衝突時に後退する前輪6がサイドシル30に接触した際に、サイドシルアウタ40に優先的に変形を生じさせやすい。これによって、後退する前輪6を車幅方向外側へ案内しやすい。
【0111】
さらに、サイドシル30の接合部96は、ホイール6aの車幅方向の中心線L0よりも車幅方向の内側に位置しているので、後退する前輪6の車幅方向の内側部分に接合部96の前端に位置する第1接合部96aを先当てさせやすく、第1接合部96aを起点として前輪6を車幅方向の外側へ回転させやすい。これによっても、前輪6をサイドシル30に対して車幅方向の外側へ案内しやすい。
【0112】
また、接合部96のうち後方に向かって車幅方向外側へ傾斜している第2接合部96cによって、後退する前輪6を車幅方向の外側へ案内しやすい。よって、前輪6のサイドシルインナ31への接触が抑制されるので、サイドシル30のうち車室内側に位置するサイドシルインナ31の前後方向への変形が抑制される。よって、スモールオーバーラップ衝突時に、後退する前輪6がサイドシル30の車幅方向の外側へガイドされやすく、前輪6の車室空間側への侵入が抑制される。この結果、車室空間の縮小が抑制される。しかも、スモールオーバーラップ衝突時に後退する前輪を受け止めるための追加の補強部材を設けることを要しないので、部品点数の増大及び重量の増大を抑制できる。
【0113】
(16)サイドシル30の前端部は、サイドシルアウタ40が占める領域が相対的に大きく構成されているので、これによって効果的にサイドシルアウタ40に衝突荷重を伝達させてより優先的に変形を生じさせやすい。
【0114】
(17)サイドシルアウタ40は、後方に向かって車幅方向外側に傾斜する傾斜壁部48aを有しているので、傾斜壁部48aによって後退する前輪6を車幅方向の外側へさらに案内しやすい。
【0115】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0116】
例えば、上記実施形態では、複数のビード86を上方に膨出するように形成したが、下方に膨出するように形成してもよい。しかしながら、複数のビード86を上方に膨出させたほうが、閉領域80に、例えば電着塗装液が溜まりやすい窪み部が形成されることを防止することができるので好ましい。
【0117】
また、上記実施形態では、フロアパネル60の閉領域80の曲面部85を下方にドーム状に膨出するように構成した場合を例にとって説明したが、これに限らない。すなわち、曲面部85を上方にドーム状に膨出するように構成した場合にも適用することができる。この場合、曲面部85のうち最も上方に膨出した最上点を避けた位置に、複数のビード86を形成すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0118】
以上説明したように、本発明に係る車両の前部車体構造によれば、スモールオーバーラップ衝突における衝突荷重を、重量増大を抑制しつつ、サイドシルから第1クロスメンバに適切に分散させることができるので、この種の製造技術分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0119】
1 車両
2 ヒンジピラー
3 ヒンジピラーインナ
4 ヒンジピラーアウタ
6 前輪
6a ホイール
10 第1クロスメンバ
20 第2クロスメンバ
18 第3クロスメンバ
30 サイドシル
31 サイドシルインナ
40 サイドシルアウタ
41 サイドシルアウタ本体
47 サイドシルアウタ前部
50 フロアフレーム
51 上フレーム
55 下フレーム
60 フロアパネル
61 底面部
68 フロアトンネル
70 節部材
71 第1節部材
77 角部補強部材
80 閉領域
80a 前方内側領域
80b 後方外側領域
85 曲面部
85a 最下点
86 ビード
96 接合部
96a 第1接合部
96c 第2接合部