(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】三次元造形物の製造方法、および、三次元造形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 64/106 20170101AFI20231205BHJP
B29C 64/194 20170101ALI20231205BHJP
【FI】
B29C64/106
B29C64/194
(21)【出願番号】P 2019166990
(22)【出願日】2019-09-13
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】姉川 賢太
(72)【発明者】
【氏名】青▲柳▼ 大蔵
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 裕輔
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/150186(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0048970(US,A1)
【文献】特表2019-518864(JP,A)
【文献】国際公開第2018/162268(WO,A1)
【文献】特開2019-136990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステージ又は先に形成された層に向けて吐出部から樹脂を含む造形材料を吐出し、吐出された前記造形材料を前記吐出部の先端面で押し付けることにより、三次元造形物の第1部分を形成する第1工程と、
前記第1部分を、前記樹脂のガラス転移温度未満の温度まで加熱する加熱工程と、
前記加熱工程で加熱された前記第1部分に向けて前記吐出部から前記造形材料を吐出し、吐出された前記造形材料を前記先端面で押し付けて前記三次元造形物の第2部分を形成する第2工程と、を有
し、
前記第2工程における前記造形材料を前記先端面で押し付ける度合いは、前記第1工程における前記造形材料を前記先端面で押し付ける度合いよりも大きい、
三次元造形物の製造方法。
【請求項2】
ステージ又は先に形成された層に向けて吐出部から樹脂を含む造形材料を吐出し、吐出された前記造形材料を前記吐出部の先端面で押し付けることにより、三次元造形物の第1部分を形成する第1工程と、
前記第1部分を、前記樹脂のガラス転移温度未満の温度まで加熱する加熱工程と、
前記加熱工程で加熱された前記第1部分に向けて前記吐出部から前記造形材料を吐出し、吐出された前記造形材料を前記先端面で押し付けて前記三次元造形物の第2部分を形成する第2工程と、を有し、
前記加熱工程において、前記吐出部の移動方向の前方に位置し、前記吐出部とともに前記移動方向に移動する加熱部によって前記第1部分を加熱し、
前記第2工程において、前記加熱部の前記移動方向の後方に位置する前記吐出部によって、前記加熱部で加熱した前記第1部分の上に前記第2部分を形成し、
前記加熱工程は、前記加熱部で加熱された前記第1部分の温度を測定する測定工程を有し、前記測定工程で測定された温度に基づいて、前記加熱部の出力を調整し、
前記加熱部は、第1加熱部および第2加熱部を備え、
前記吐出部から近い順に、前記第2加熱部と、前記第1加熱部とが配置され、
前記測定工程において、前記第1加熱部で加熱された前記第1部分の温度を測定し、前記測定工程で測定された温度に基づいて前記第2加熱部の出力を調整し、前記第2加熱部によって前記第1部分を再加熱する、
三次元造形物の製造方法。
【請求項3】
請求項
1に記載の三次元造形物の製造方法であって、
前記加熱工程において、前記吐出部の移動方向の前方に位置し、前記吐出部とともに前記移動方向に移動する加熱部によって前記第1部分を加熱し、
前記第2工程において、前記加熱部の前記移動方向の後方に位置する前記吐出部によって、前記加熱部で加熱した前記第1部分の上に前記第2部分を形成する、三次元造形物の製造方法。
【請求項4】
請求項
3に記載の三次元造形物の製造方法であって、
前記加熱工程は、前記加熱部で加熱された前記第1部分の温度を測定する測定工程を有し、前記測定工程で測定された温度に基づいて、前記加熱部の出力を調整する、三次元造形物の製造方法。
【請求項5】
請求項
4に記載の三次元造形物の製造方法であって、
前記加熱部は、第1加熱部および第2加熱部を備え、
前記吐出部から近い順に、前記第2加熱部と、前記第1加熱部とが配置され、
前記測定工程において、前記第1加熱部で加熱された前記第1部分の温度を測定し、前記測定工程で測定された温度に基づいて前記第2加熱部の出力を調整し、前記第2加熱部によって前記第1部分を再加熱する、三次元造形物の製造方法。
【請求項6】
請求項1
から請求項5までのいずれか一項に記載の三次元造形物の製造方法であって、
前記加熱工程に先立って、前記第1工程で形成された前記第1部分に対して切削を行う切削工程を有する、三次元造形物の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項
6までのいずれか一項に記載の三次元造形物の製造方法であって、
前記加熱工程において、前記第1部分を、前記ガラス転移温度[℃]の80%以上となる温度であって、かつ、前記ガラス転移温度未満の温度まで加熱する、三次元造形物の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の三次元造形物の製造方法であって、
下記式(1)を満たすように前記三次元造形物を造形する、三次元造形物の製造方法。
(Sq×Gp)/Vt>1.0 …(1)
(Sqは前記先端面の面積であり、Gpは前記先端面と前記造形材料が吐出される領域の上面との距離であり、Vtは前記吐出部が単位移動量ごとに吐出する前記造形材料の体積である。)
【請求項9】
樹脂を含む材料を溶融して造形材料とする溶融部と、
前記造形材料をステージに向かって吐出する吐出部と、
前記吐出部と前記ステージとの相対的な位置を変化させる駆動部と、
前記ステージ上に吐出された前記造形材料を加熱する加熱部と、
前記溶融部および前記駆動部および前記加熱部を制御することによって、前記ステージ上に三次元造形物を造形する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記溶融部および前記駆動部を制御することによって、前記吐出部と前記ステージとの相対的な位置を変化させながら、前記ステージ又は先に形成された層に向けて前記吐出部から前記造形材料を吐出させ、吐出された前記造形材料を前記吐出部の先端面で押し付けて前記三次元造形物の第1部分を形成する
第1工程と、
前記溶融部および前記駆動部および前記加熱部を制御することによって、前記吐出部と前記ステージとの相対的な位置を変化させながら、前記第1部分を、前記樹脂のガラス転移温度未満の温度まで加熱する工程と、
前記溶融部および前記駆動部を制御することによって、加熱された前記第1部分に向けて前記吐出部から前記造形材料を吐出させ、吐出された前記造形材料を前記先端面で押しつけて前記三次元造形物の第2部分を形成する
第2工程と、を実行
し、
前記第2工程における前記造形材料を前記先端面で押し付ける度合いは、前記第1工程における前記造形材料を前記先端面で押し付ける度合いよりも大きい、
三次元造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は三次元造形物の製造方法、および、三次元造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元造形物の製造方法に関し、例えば、特許文献1に記載された装置では、溶融した熱可塑性の材料を、予め設定された形状データにしたがって走査する押出ノズルから基台上に押し出し、その基台上で硬化した材料の上に更に溶融した材料を積層して三次元造形物を造形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、層を積層して造形された三次元造形物の積層方向における強度は、射出成形によって造形された造形物の強度よりも低い。これは層と層との密着強度が低いためであり、特許文献1に記載の装置では、先に形成された層の上面を溶剤によって溶解させ、その上に後続層を積層することで、先に形成された層と後続層との密着強度を向上させている。しかしながら、溶剤を用いる場合、溶剤自体のコストや、溶剤を供給する機構、溶剤の貯留スペース等が必要となるため、溶剤を用いることなく層間の密着強度を向上させることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一形態によれば、三次元造形物の製造方法が提供される。三次元造形物の製造方法は、ステージ又は先に形成された層に向けて吐出部から樹脂を含む造形材料を吐出し、吐出された前記造形材料を前記吐出部の先端面で押し付けることにより、三次元造形物の第1部分を形成する第1工程と、前記第1部分を、前記樹脂のガラス転移温度未満の温度まで加熱する加熱工程と、前記加熱工程で加熱された前記第1部分に向けて前記吐出部から前記造形材料を吐出し、吐出された前記造形材料を前記先端面で押し付けて前記三次元造形物の第2部分を形成する第2工程と、を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1実施形態における三次元造形装置の概略構成を示す説明図である。
【
図2】第1実施形態における吐出ユニットの概略構成を示す説明図である。
【
図3】フラットスクリューの下面側の構成を示す概略斜視図である。
【
図4】バレルの上面側の構成を示す概略平面図である。
【
図5】第1実施形態における三次元造形物の造形処理の工程図である。
【
図8】密着強度を縦軸、第1層温度を横軸とするグラフである。
【
図9】第2実施形態における吐出ユニットの概略構成を示す説明図である。
【
図10】第2実施形態における三次元造形物の造形処理の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における三次元造形装置10の概略構成を示す説明図である。
図1には、互いに直交するX,Y,Z方向に沿った矢印が表されている。X方向およびY方向は、水平方向に沿った方向であり、Z方向は、鉛直方向に沿った方向である。他の図においても、X,Y,Z方向に沿った矢印が、適宜、表されている。
図1におけるX,Y,Z方向と、他の図におけるX,Y,Z方向とは、同じ方向を表している。
【0008】
本実施形態における三次元造形装置10は、吐出ユニット100と、切削ユニット200と、ステージ300と、駆動部400と、制御部500とを備えている。三次元造形装置10は、制御部500の制御下で、吐出ユニット100に設けられた吐出部60から、ステージ300上の造形面310に向かって造形材料を吐出させつつ、駆動部400を駆動して、吐出部60とステージ300との相対的な位置を変化させることによって、ステージ300上に造形材料を積層する。尚、吐出ユニット100およびステージ300の詳細な構成は、
図2を用いて後述する。
【0009】
また、本実施形態における三次元造形装置10は、制御部500の制御下で、切削ユニット200に取り付けられた切削工具210を回転させつつ、駆動部400を駆動して、切削工具210とステージ300との相対的な位置を変化させることによって、ステージ300上に積層された造形材料を切削する。すなわち、三次元造形装置10は、上記の造形材料の積層と造形材料の切削とを行うことによって、所望の形状の三次元造形物OBを作成する。なお、
図1には、三次元造形物OBが模式的に表されている。
【0010】
切削ユニット200は、ヘッド先端の軸に取り付けられた切削工具210を回転させて、ステージ300上に積層された造形材料の切削を行う切削装置である。切削工具210として、例えば、フラットエンドミルや、ボールエンドミルを用いることができる。切削ユニット200は、一般的な位置検出センサーによって切削工具210の先端の位置を検出し、検出結果を制御部500に送信する。制御部500は、この検出結果を用いて、後述する駆動部400によって、切削工具210と積層された造形材料との相対的な位置関係を制御して切削を行う。尚、切削ユニット200は、イオナイザー等の除電器を備えてもよい。
【0011】
駆動部400は、吐出ユニット100および切削ユニット200と、ステージ300との相対的な位置を変化させる。本実施形態では、駆動部400は、吐出ユニット100および切削ユニット200に対して、ステージ300を移動させる。なお、造形面310に対するノズル61の相対的な位置の変化を、ノズル61の移動と呼ぶこともある。また、造形面310に対するノズル61の相対位置の変化の方向を、ノズル61の移動方向と呼ぶこともある。本実施形態では、例えば、ステージ300を+X方向に移動させたことを、ノズル61を-X方向に移動させたと言い換えることもできる。また、このときのノズル61の移動方向は、-X方向である。
【0012】
本実施形態における駆動部400は、3つのモーターの駆動力によって、ステージ300をX,Y,Z方向の3軸方向に移動させる3軸ポジショナーによって構成される。各モーターは、制御部500の制御下にて駆動する。尚、駆動部400は、ステージ300を移動させる構成ではなく、ステージ300を移動させずに、吐出ユニット100および切削ユニット200を移動させる構成であってもよい。駆動部400は、吐出ユニット100および切削ユニット200と、ステージ300との両方を移動させる構成であってもよい。
【0013】
制御部500は、1以上のプロセッサーと、主記憶装置と、外部との信号の入出力を行う入出力インターフェースとを備えるコンピューターによって構成されている。本実施形態では、制御部500は、主記憶装置上に読み込んだプログラムや命令をプロセッサーが実行することによって、種々の機能を発揮する。尚、制御部500は、コンピューターではなく、複数の回路の組み合わせによって構成されてもよい。
【0014】
図2は、本実施形態における吐出ユニット100の概略構成を示す説明図である。吐出ユニット100は、材料供給部20と、溶融部30と、吐出部60と、加熱部70とを備えている。材料供給部20には、ペレットや粉末等の状態の材料が投入される。本実施形態における材料は、ペレット状のABS樹脂である。本実施形態における材料供給部20は、ホッパーによって構成されている。材料供給部20と溶融部30との間は、材料供給部20の下方に設けられた連通路22によって接続されている。材料供給部20に投入された材料は、連通路22を介して、溶融部30に供給される。
【0015】
溶融部30は、スクリューケース31と、駆動モーター32と、フラットスクリュー40と、バレル50とを備えている。溶融部30は、材料供給部20から供給された固体状態の材料の少なくとも一部を溶融して流動性を有するペースト状の造形材料にして、ノズル61に供給する。「溶融」とは、熱可塑性を有する材料が融点以上の温度に加熱されて液状になることのみならず、熱可塑性を有する材料がガラス転移点以上の温度に加熱されることにより軟化し、流動性が発現する「可塑化」をも意味する。なお、フラットスクリュー40のことを、単にスクリューと呼ぶこともある。
【0016】
スクリューケース31は、フラットスクリュー40を収容している。スクリューケース31の上面には、駆動モーター32が固定されている。駆動モーター32の回転軸は、フラットスクリュー40の上面41に接続されている。
【0017】
フラットスクリュー40は、中心軸RXに沿った方向の高さが直径よりも小さい略円柱形状を有している。フラットスクリュー40は、中心軸RXがZ方向に平行になるように、スクリューケース31内に配置されている。駆動モーター32の回転によって生じるトルクによって、フラットスクリュー40は、スクリューケース31内にて、中心軸RXを中心に回転する。
【0018】
フラットスクリュー40は、中心軸RXに沿った方向における上面41とは反対側に溝形成面48を有している。溝形成面48には、溝部42が形成されている。フラットスクリュー40の溝形成面48の詳細な形状は、
図3を用いて後述する。
【0019】
バレル50は、フラットスクリュー40の下方に設けられている。バレル50は、フラットスクリュー40の溝形成面48に対向するスクリュー対向面52を有している。バレル50には、フラットスクリュー40の溝部42に対向する位置にヒーター58が内蔵されている。ヒーター58の温度は、制御部500によって制御される。
【0020】
スクリュー対向面52の中心には、連通孔56が設けられている。連通孔56は、ノズル61に連通している。尚、バレル50のスクリュー対向面52の詳細な形状については、
図4を用いて後述する。
【0021】
吐出部60はノズル61を備えている。ノズル61には、ノズル流路65と、吐出口63とが設けられている。ノズル流路65は、溶融部30の連通孔56に連通する。吐出口63は、ノズル61の先端面62に設けられた開口部であり、ノズル流路65の連通孔56に接続されていない一端に設けられている。先端面62は、ノズル61の造形面310に向かって突出した先端部分を構成する面である。溶融部30からノズル61に供給された造形材料は、吐出口63から吐出される。本実施形態では、先端面62は、直径Dtを有する略円形状であり、吐出口63は、開口径Dnを有する略円形状である。なお、先端面62および吐出口63の形状は略円形状に限られず、例えば、正方形や、正方形以外の多角形であってもよい。また、先端面62と吐出口63とが別々の形状であってもよい。
【0022】
加熱部70は、ステージ300上に積層された造形材料を加熱する。本実施形態では、加熱部70は、造形面310に向かって赤外線を照射する赤外線ヒーターによって構成されている。加熱部70の出力は、制御部500によって制御される。
【0023】
加熱部70は、回動機構80によって支持されており、回動機構80によって回動して位置を変化させる。回動機構80は、回動駆動部81と、回動部82と、支持部83とを、有する。回動駆動部81は、吐出部60に隣接して設けられたステッピングモーターを有し、制御部500によって制御される。回動部82は、吐出部60の側面を囲むように配置された円環状のギアを有する略円筒形状の部材であり、回動駆動部81のトルクを受けて回動する。支持部83は、棒状の形状を有しており、一端を回動部82に固定され、水平方向に沿って配置されている。加熱部70は、支持部83の回動駆動部81に固定されていない他端に固定されている。
【0024】
図3は、フラットスクリュー40の下面側の構成を示す概略斜視図である。
図3には、フラットスクリュー40の中心軸RXの位置が一点鎖線で示されている。バレル50に対向するフラットスクリュー40の下面には、溝部42が設けられている。以下、フラットスクリュー40の下面のことを、「溝形成面48」と呼ぶ。
【0025】
フラットスクリュー40の溝形成面48の中央部45は、溝部42の一端が接続されている凹部として構成されている。中央部45は、バレル50の連通孔56に対向する。第1実施形態では、中央部45は、中心軸RXと交差する。
【0026】
フラットスクリュー40の溝部42は、いわゆるスクロール溝を構成する。溝部42は、中央部45から、フラットスクリュー40の外周に向かって弧を描くように渦状に延びている。溝部42は、螺旋状に延びるように構成されてもよい。溝形成面48には、溝部42の側壁部を構成し、各溝部42に沿って延びている凸条部43が設けられている。
【0027】
溝部42は、フラットスクリュー40の側面に形成された材料流入口44まで連続している。この材料流入口44は、材料供給部20の連通路22を介して供給された材料を受け入れる部分である。
【0028】
図3には、3つの溝部42と、3つの凸条部43と、を有するフラットスクリュー40の例が示されている。フラットスクリュー40に設けられる溝部42や凸条部43の数は、3つには限定されない。フラットスクリュー40には、1つの溝部42のみが設けられていてもよいし、2以上の複数の溝部42が設けられていてもよい。また、溝部42の数に合わせて任意の数の凸条部43が設けられてもよい。
【0029】
図3には、材料流入口44が3箇所に形成されているフラットスクリュー40の例が図示されている。フラットスクリュー40に設けられる材料流入口44の数は、3箇所に限定されない。フラットスクリュー40には、材料流入口44が1箇所にのみ設けられていてもよいし、2箇所以上の複数の箇所に設けられていてもよい。
【0030】
図4は、バレル50の上面側の構成を示す概略平面図である。バレル50の上面は、上述したように、フラットスクリュー40の溝形成面48に対向する。以下、バレル50の上面を、「スクリュー対向面52」と呼ぶ。スクリュー対向面は、略円形状を有する。スクリュー対向面52の中心には、造形材料をノズル61に供給するための連通孔56が形成されている。
【0031】
スクリュー対向面52には、連通孔56に接続され、連通孔56から外周に向かって渦状に延びている複数の案内溝54が形成されている。複数の案内溝54は、フラットスクリュー40の中央部45に流入した造形材料を連通孔56に導く機能を有する。
【0032】
フラットスクリュー40が回転すると、材料流入口44から供給された材料が、溝部42に誘導されて、溝部42内において加熱されながら中央部45に向かって移動する。材料は、中央部45に近づくほど、溶融し、流動性が高まっていき、造形材料へと転化する。中央部45に集められた造形材料は、中央部45で生じる内圧により連通孔56からノズル61に流出する。
【0033】
図5は、第1実施形態における三次元造形物OBの造形処理の工程図である。制御部500は、三次元造形物OBを作成するための造形用プログラムを実行して、三次元造形物OBの造形を行う。
【0034】
ステップS110のデータ取得工程にて、制御部500は、造形用データおよび切削用データを取得する。造形用データは、造形材料を吐出しながら移動するノズル61のステージ300に対する走査経路である造形パスが表されたデータである。造形用データには、造形パスの他に、ノズル61から吐出される造形材料の流量である吐出量の目標値や、フラットスクリュー40を回転させる駆動モーター32の回転数の目標値や、バレル50のヒーター58の温度の目標値等が表されている。切削用データは、造形された造形材料を切削しながら移動する切削工具210のステージ300に対する走査経路である切削パスが表されたデータである。切削パスデータには、切削パスの他に、切削工具210の回転数の目標値や、切削工具210の送り速度の目標値等も表されている。なお、制御部500は、作成する造形物の三次元形状データから、造形パスデータおよび切削パスデータを生成してもよい。その場合、三次元造形装置10は、制御部500とは別に、造形パスデータや切削パスデータを生成するコンピューター等を備えていてもよい。
【0035】
ステップS120の材料生成工程にて、制御部500は、フラットスクリュー40の回転、および、バレル50に内蔵されたヒーター58の出力を制御することによって、材料を溶融させて造形材料を生成する。なお、ステップS130以降の工程が実行されている間も、造形材料は溶融部30によって継続して生成される。
【0036】
ステップS130の第1造形工程にて、制御部500は三次元造形物OBの第1部分800を造形する。本実施形態では、第1部分800とは、第1層のことを指す。第1層とは、造形面310又は既設層の上に、造形材料を積層することによって形成される単層または複数の層である。本実施形態では、造形面310上に第1層を造形する。なお、既設層とは、ノズル61から吐出された造形材料が積層されることによって、この造形処理の実行前に既に形成された層のことを指す。ステップS130における第1層を造形する工程のことを、第1工程と呼ぶこともある。
【0037】
図6は、ステップS130における、第1部分800の造形工程を示す説明図である。
図6では、造形面310上に第1部分800を造形する途中の状態が示されている。ステップS130では、制御部500は、駆動部400を制御することによって、ノズル61を移動させながらノズル61から造形材料を吐出させつつ、吐出された造形材料を吐出部60の先端面62で押し付けることによって、第1層を造形する。なお、「押し付ける」とは、ノズル61から造形材料を吐出させながら、先端面62と造形材料が吐出される造形領域の上面との間の距離Gpを、吐出される造形材料の高さHtよりも小さくすることを指す。
図6では、造形領域は造形面310の上面の一部であり、先端面62と造形面310との間の距離Gp1を、高さHtよりも小さくする。高さHtは、造形材料を先端面62によって押し付けずに吐出させた時の造形材料の高さであり、本実施形態では開口径Dnと略等しい。すなわち、距離Gpを開口径Dnより小さくすることを、「押し付ける」と言うこともできる。なお、既設層の上に第1層を造形する場合、距離Gpは先端面62と既設層の上面との間の距離となる。
【0038】
なお、制御部500は、駆動部400を制御して、ノズル61から造形材料を吐出させているときの距離Gpを調整することによって、造形材料を先端面62で押し付ける度合いを調整することができる。なお、この「押し付ける度合い」を、潰し量と呼ぶこともある。潰し量は、距離Gpを小さくするほど大きくなる。また、第1造形工程における潰し量を第1潰し量と呼ぶこともある。潰し量の詳細については後述する。
【0039】
図5を参照して、ステップS140の第1切削工程にて、制御部500は、切削ユニット200を制御して、ステップS130で造形した第1層を切削する第1切削工程を行う。なお、本実施形態では、第1層の一部である、第1層の側面を切削する。また、第1切削工程の前に、第1層を冷却する工程が実行されてもよい。本実施形態では、第1層は時間経過によって冷えて固化する。また、第1層を切削することを要しない場合、第1切削工程を省略してもよい。
【0040】
ステップS150の加熱工程にて、制御部500は、加熱部70を制御して、第1層を加熱する。なお、この加熱工程は、後述するステップS160における第2部分の造形中も並行して行われる。本実施形態では、制御部500は、回動機構80を制御して加熱部70をノズル61の移動方向前方に位置させながら、加熱部70から第1層に向かって赤外線を照射することによって、第1層を加熱する。なお、第1層の加熱とは、第1層の一部を加熱することも含む。
【0041】
ステップS150では、第1層は、第1層を構成する造形材料に含まれる樹脂のガラス転移点Tgの、摂氏温度において80%以上、かつ、ガラス転移点Tg未満の温度まで加熱する。なお、加熱工程で第1層を加熱する温度の詳細については、後述する。なお、ガラス転移点のことを、ガラス転移温度と呼ぶこともある。
【0042】
ステップS160の第2造形工程にて、制御部500は、三次元造形物OBの第2部分810を造形する。第2部分810とは、第2層の最下層のことを指す。第2層とは、ステップS150までに造形された単層の上に、造形材料が積層されることによって形成される1層または複数の層である。すなわち、第2部分810とは、第1層の直上に、第1層に接して形成される単層である。なお、第2部分810は、第1層の一部の上に造形されてもよい。また、第2造形工程のことを、第2工程と呼ぶこともある。
【0043】
図7は、ステップS160における、第2部分の造形工程を示す説明図である。
図7では、第2部分810を第1部分800の上面に造形する途中の状態が示されている。ステップS160では、制御部500は、加熱部70と駆動部400とを制御して、ノズル61の移動方向前方に位置する加熱部70によって第1層を加熱しながら、加熱部70の移動方向後方に位置するノズル61から造形材料を吐出させつつ、吐出された造形材料を先端面62で押し付けることによって、第2部分810を造形する。第2部分810の造形工程では、第1部分800の造形工程よりも潰し量を大きくする。すなわち先端面62と第1部分800の上面との間の距離Gp2は、距離Gp1よりも小さい。なお、第2造形工程における潰し量を、第2潰し量と呼ぶこともある。
【0044】
図5を参照して、ステップS170の第3造形工程にて、制御部500は三次元造形物OBの第3部分を造形する。第3部分とは、第2層のうち、第2部分810より上の、単層または複数の層である。ステップS130では、制御部500は、駆動部400を制御することによって、ノズル61を移動させながらノズル61から造形材料を吐出させつつ、吐出された造形材料を吐出部60の先端面62で押し付けることによって、第3部分を造形する。本実施形態では、第3造形工程における第3潰し量は、第1潰し量と同じである。なお、第3潰し量が第1潰し量と異なっていてもよい。例えば、第3潰し量が第2潰し量と同じであってもよい。また、第2層が第2部分810のみによって構成される場合、ステップS170を省略してもよい。
【0045】
ステップS180の第2切削工程にて、制御部500は、切削ユニット200を制御して、ステップS160およびS170で造形した第2層を切削する第2切削工程を行う。なお、本実施形態では、第2層の一部である、第2層の積層方向の側面を切削する。また、第2切削工程の前に、第2層を冷却する工程が実行されてもよい。本実施形態では、第2層は時間経過によって冷えて固化する。なお、第2層の切削を要しない場合、ステップS180を省略してもよい。
【0046】
ステップS190にて、制御部500は、三次元造形物OBが完成したか否か判定を行う。三次元造形物OBが完成した場合、制御部500は、造形用プログラムを終了させる。三次元造形物OBが完成していない場合、制御部500は、第2層よりも上層を造形するために、ステップS150からステップS180までを繰り返し実行し、三次元造形物OBを完成させる。
【0047】
図5に示した造形処理においてノズル61から造形材料を吐出させている間、制御部500は、以下の式(1)を満たすように、駆動部400を制御して距離Gpを調整する。
(Sq×Gp)/Vt>1.0 …(1)
ここで面積Sqは先端面62の面積であり、体積Vtはノズル61の単位移動量ごとにノズル61から吐出される造形材料の体積である。上記の式(1)を満たす場合、先端面62と造形領域との間に形成される略円柱状の空間の体積より、体積Vtが大きい。そのため、ノズル61から吐出された造形材料は、水平方向において先端面62からはみ出さない。すなわち、本実施形態では、ノズル61から吐出された造形材料が先端面62によって押し付けられ、かつ、押し付けられた造形材料が水平方向において先端面62からはみ出さない状態を保ちながら、三次元造形物OBを造形する。なお、面積Sqは先端面62の直径Dtから算出される。また、体積Vtは、例えば、造形材料の高さHtと、吐出口63の開口面積から算出される。吐出口63の開口面積は吐出口63の開口径Dnから算出される。
【0048】
図8は、第1部分800と第2部分810との密着強度を縦軸、第1層温度を横軸とするグラフである。
図8のデータは、三次元造形装置10によって作成したサンプルについて、引っ張り試験を実施することによって得られた。
【0049】
図8のデータを得るために、まず、ABS樹脂ペレットを材料としてサンプルを作成した。具体的には、
図5に示した造形処理を実行することによって、第1層として、10mm×4mmの略矩形状の単層を5層積層させた層を作成し、更に、第2層として第1層の上に10mm×4mmの略矩形状の単層を5層積層させた層を作成した。サンプルの高さは49mmであった。この略矩形状の単層は、開口径1mmのノズル61から、ヒーター58によって230℃に加熱した造形材料を吐出させながら、ノズル61をX方向に沿って10mm移動させた後に、+Y方向に1mm移動させる動作を繰り返すことによって作成された。すなわち、ノズル61はX方向に沿って2往復する間、+Y方向に3mm移動した。また、ステップS150の加熱工程において、第1層を加熱する温度を変化させることによって、加熱温度の異なる複数のサンプルを作成した。第1層温度とは、ステップS150の加熱工程で加熱された後、ステップS160の第2造形工程で第2部分を形成される前の、第1層の温度である。なお、サンプルを作成する際には、
図5に示すステップS140の第1切削工程及びステップS180の第2切削工程を省略した。
【0050】
また、第2潰し量の異なるサンプルも作成した。潰し量をPとすると、潰し量Pは以下の式(2)で表される。
P=(Dn-Gp)/Dn …(2)
例えば、開口径Dnが1mmであり、距離Gpが0.7mmである場合、潰し量Pは0.3となる。今回、第2潰し量が0.3と0.7の2種類のサンプルを作成した。第1潰し量および第3潰し量は、全てのサンプルで同じ0.3とした。
【0051】
作成した各サンプルの積層方向における両端を、3mmの距離を空けて配置した治具で把持し、積層方向に沿って2mm/minの速度で、サンプルが破断するまで引っ張ることによって、引っ張り試験を行った。なお、この引っ張り試験では、いずれのサンプルにおいても、第1層と第2層との間で破断が生じた。また、
図8に示す第1部分800と第2部分810との密着強度とは、上記の引っ張り試験においてサンプルが破断した際に、サンプルに付加されていた引っ張り応力のことを指す。
【0052】
図8を参照して、ABS樹脂のガラス転移点Tgである111℃を閾値として、密着強度と第1層温度との関係が異なっている。すなわち、第1層温度がガラス転移点Tg未満のサンプルでは、第1層温度を高めるほど、密着強度は向上した。これに対して、第1層温度がガラス転移点Tg以上である場合、第1層温度を高めても、密着強度は向上しなかった。また、第1層温度がガラス転移点Tg未満である場合、第2部分810を造形する際の潰し量を大きくしたサンプルは、第2潰し量を大きくしていないサンプルよりも大きな密着強度を示した。なお、ガラス転移点Tgは、フローテスターを用いて測定された。例えば、造形に用いる材料のガラス転移点が既知である場合、その既知の値をガラス転移点として用いてもよい。
【0053】
上記の結果より、加熱工程において、15MPa以上の密着強度を得るために、第1部分800をガラス転移点の80%以上となる温度まで加熱することが望ましい。15MPaという値は、三次元造形物OBの造形中や完成後に、三次元造形物OBの収縮による層と層との剥離を発生させない強度である。この三次元造形物OBの収縮は、加熱された造形材料を積層させることによって造形された三次元造形物OBの全体や一部が、時間経過等によって冷えて固化する際に収縮することによって生じる。
【0054】
第1層の上に第2層を造形する場合、第1層と第2部分810との密着強度が第2層の収縮によって生じる応力よりも小さい場合、第1層と第2部分810とが剥離する。第2層の収縮によって生じる応力は第2層の体積収縮量に比例する。第2層の体積収縮量は第2層の体積に比例する。そのため、第2層の体積を、第2層の収縮によって生じる応力が第1層と第2部分810との密着強度よりも小さくなる値として定めることによっても、三次元造形物OBの収縮によって層間の剥離を発生させないことができる。なお、例えば、第2層の上に第3層を造形する場合であっても、上記の、第1層の上に第2層を造形する場合と同様である。
【0055】
以上で説明した本実施形態の三次元造形物OBの製造方法によれば、第1工程にてノズル61から造形材料を吐出しつつ、造形材料をノズル61の先端面62で押し付けて第1部分800を造形し、第2工程にて、加熱された第1部分800に向けて造形材料を吐出しつつ、造形材料をノズル61の先端面62で押し付けて第2部分810を造形する。そのため、溶剤を用いることなく、第1部分800を構成する単層同士の密着強度および第1部分800と第2部分810との密着強度を高め、三次元造形物OBの積層方向の強度を高めることができる。
【0056】
また、本実施形態では、加熱工程に先立って、第1工程で形成された第1部分を切削する切削工程を有する。そのため、第1部分800を切削した後に、第1部分800の上に第2部分810を造形する場合であっても、第1部分800と第2部分810との密着強度を高めることができる。
【0057】
また、本実施形態では、第2潰し量は、第1潰し量よりも大きい。これによって、第1部分800の上に第2部分810を造形する際に第1部分800と第2部分810との密着性が向上する。そのため、第1部分800と第2部分810との密着強度を高めることができる。
【0058】
また、本実施形態では、第1部分をガラス転移温度Tgの80%以上となる温度であって、ガラス転移温度Tg未満の温度まで加熱する。そのため、第1部分800と第2部分810との密着強度を、より効果的に高めることができる。
【0059】
また、本実施形態では、加熱工程において、ノズル61の移動方向前方に位置し、ノズル61とともに移動方向に移動する加熱部70によって第1部分800を加熱し、第2工程において、加熱部70の移動方向後方に位置するノズル61によって、加熱部70で加熱した第1部分800の上に第2部分810を形成する。そのため、第1部分800のうち、その上に第2部分810を形成する部分以外に熱的影響を及ぼすことを抑制し、三次元造形物OBの強度を高めることができる。
【0060】
また、本実施形態では、式(1)を満たすように三次元造形物を造形する。これによって、造形中にノズル61から吐出された造形材料が、水平方向においてノズル61の先端面62からはみ出すことを抑制できる。そのため、三次元造形物の造形精度を高めることができる。
【0061】
ここで、上述した吐出ユニット100において用いられる三次元造形物の材料について説明する。吐出ユニット100では、例えば、熱可塑性を有する材料や、金属材料、セラミック材料等の種々の材料を主材料として三次元造形物を造形することができる。ここで、「主材料」とは、三次元造形物の形状を形作っている中心となる材料を意味し、三次元造形物において50重量%以上の含有率を占める材料を意味する。上述した造形材料には、それらの主材料を単体で溶融したものや、主材料とともに含有される一部の成分が溶融してペースト状にされたものが含まれる。
【0062】
主材料として熱可塑性を有する材料を用いる場合には、溶融部30において、当該材料が可塑化することによって、造形材料が生成される。
【0063】
熱可塑性を有する材料としては、例えば、下記の熱可塑性樹脂材料を用いることができる。
<熱可塑性樹脂材料の例>
ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリアミド樹脂(PA)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、ポリ乳酸樹脂(PLA)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどの汎用エンジニアリングプラスチック、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトンなどのエンジニアリングプラスチック。
【0064】
熱可塑性を有する材料には、顔料や、金属、セラミック、その他に、ワックス、難燃剤、酸化防止剤、熱安定剤などの添加剤等が混入されていてもよい。熱可塑性を有する材料は、溶融部30において、フラットスクリュー40の回転とヒーター58の加熱によって可塑化されて溶融した状態に転化される。熱可塑性を有する材料の溶融によって生成された造形材料は、ノズル61から吐出された後、温度の低下によって硬化する。
【0065】
熱可塑性を有する材料は、そのガラス転移点以上に加熱されて完全に溶融した状態でノズル61から射出されることが望ましい。例えば、ABS樹脂を用いる場合、ノズル61からの吐出時には約200℃であることが望ましい。
【0066】
吐出ユニット100では、上述した熱可塑性を有する材料の代わりに、例えば、以下の金属材料が主材料として用いられてもよい。この場合には、下記の金属材料を粉末状にした粉末材料に、造形材料の生成の際に溶融する成分が混合されて、材料MRとして溶融部30に投入されることが望ましい。
<金属材料の例>
マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)やクロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)の単一の金属、もしくはこれらの金属を1つ以上含む合金。
<前記合金の例>
マルエージング鋼、ステンレス、コバルトクロムモリブデン、チタニウム合金、ニッケル合金、アルミニウム合金、コバルト合金、コバルトクロム合金。
【0067】
吐出ユニット100においては、上記の金属材料の代わりに、セラミック材料を主材料として用いることが可能である。セラミック材料としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどの酸化物セラミックスや、窒化アルミニウムなどの非酸化物セラミックスなどが使用可能である。主材料として、上述したような金属材料やセラミック材料を用いる場合には、造形面310に吐出された造形材料は焼結によって硬化されてもよい。
【0068】
材料供給部20に材料MRとして投入される金属材料やセラミック材料の粉末材料は、単一の金属の粉末や合金の粉末、セラミック材料の粉末を、複数種類、混合した混合材料であってもよい。また、金属材料やセラミック材料の粉末材料は、例えば、上で例示したような熱可塑性樹脂、あるいは、それ以外の熱可塑性樹脂によってコーティングされていてもよい。この場合には、溶融部30において、その熱可塑性樹脂が溶融して流動性が発現されるものとしてもよい。
【0069】
材料供給部20に材料MRとして投入される金属材料やセラミック材料の粉末材料には、例えば、以下のような溶剤を添加することもできる。溶剤は、下記の中から選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
<溶剤の例>
水;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル類;酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸iso-プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸iso-ブチル等の酢酸エステル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、エチル-n-ブチルケトン、ジイソプロピルケトン、アセチルアセトン等のケトン類;エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;テトラアルキルアンモニウムアセテート類;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド系溶剤;ピリジン、γ-ピコリン、2,6-ルチジン等のピリジン系溶剤;テトラアルキルアンモニウムアセテート(例えば、テトラブチルアンモニウムアセテート等);ブチルカルビトールアセテート等のイオン液体等。
【0070】
その他に、材料供給部20に材料MRとして投入される金属材料やセラミック材料の粉末材料には、例えば、以下のようなバインダーを添加することもできる。
<バインダーの例>
アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、セルロース系樹脂あるいはその他の合成樹脂又はPLA(ポリ乳酸)、PA(ポリアミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)あるいはその他の熱可塑性樹脂。
【0071】
B.第2実施形態:
図9は、第2実施形態における吐出ユニット100bの概略構成を示す説明図である。第2実施形態における三次元造形装置10bの、吐出ユニット100b以外の構成については、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。また、吐出ユニット100bの特に説明しない部分についても、第1実施形態の吐出ユニット100と同様の構成である。
【0072】
本実施形態の吐出ユニット100bは、加熱部70bと、測定部73とを、備える。第1実施形態の加熱部70は1つの赤外線ヒーターで構成されているのに対し、加熱部70bは、第1加熱部71および第2加熱部72を有している。第1加熱部71および第2加熱部72は、ともに赤外線ヒーターである。測定部73は、放射温度計で構成されている。なお、本実施形態のように測定部73として放射温度計を用いる場合、放射温度計で検出した値を、造形に用いる造形材料の放射率に応じて補正して、温度を測定することが好ましい。
【0073】
加熱部70bは、回動機構80の支持部83によって支持されている。また、測定部73も支持部83によって支持されている。上記の各部は、ノズル61の近くから、第2加熱部72、測定部73、第1加熱部71、の順に配置されている。なお、回動機構80の回動によって各部の位置は変化するが、ノズル61と上記の各部との間の距離は変化しない。
【0074】
図10は、第2実施形態における三次元造形物OBの造形処理の工程図である。ステップS210からステップS240までは、
図5示した造形処理のステップS110からステップS140までと同様であるため、説明を省略する。
【0075】
ステップS250の加熱工程にて、制御部500は、回動機構80を制御して加熱部70bをノズル61の移動方向前方に位置させながら、第1加熱部71を制御して、第1層を加熱する。なお、加熱部70bをノズル61の移動方向前方に位置させたとき、測定部73もノズル61の移動方向前方に位置する。
【0076】
ステップS260の測定工程にて、制御部500は、測定部73を制御して、第1層のうち、ステップS250において第1加熱部71によって加熱された部分の温度を測定する。
【0077】
ステップS270の再加熱工程にて、制御部500は、第2加熱部72を制御して、ステップS260の測定工程において測定された温度に基づいて第2加熱部72の出力を調節し、第2加熱部72によって第1層を加熱する。
【0078】
ステップS250からステップS270は、ステップS280における第2部分810の造形中も並行して行われる。これによって、ステップS280の第2造形工程において、ノズル61の移動に伴って、第1加熱部71によって第1層を加熱し、加熱された第1層の温度を測定部73によって測定し、測定部73によって測定された温度に基づいて第2加熱部72の出力を調整し、第2加熱部72によって第1部分800を再加熱することができる。なおステップS290からステップS310までは、
図5に示した造形処理のステップS170からステップS190までと同様であるため、説明を省略する。
【0079】
以上で説明した第2実施形態の三次元造形物OBの製造方法によっても、溶剤を用いることなく、第1部分800を構成する単層同士の密着強度および第1部分800と第2部分810との密着強度を高め、三次元造形物OBの積層方向の強度を高めることができる。特に、本実施形態では、三次元造形物OBの造形中に、ノズル61を移動させながら第1部分800の加熱と、温度測定と、測定された温度に基づく出力調整とを、並行して行うことができる。そのため、第1部分800と第2部分810との密着強度を高められる温度に第1部分800を加熱した状態を保ちながら、第2部分810を造形することができる。
【0080】
なお、上記ステップS270の再加熱工程にて、制御部500は、第2加熱部72ではなく、第1加熱部71を制御して、ステップS260の測定工程において測定された温度に基づいて第1加熱部71の出力を調節し、第1加熱部71によって第1層を加熱してもよい。この場合、加熱部70bは、第2加熱部72を有することなく、第1加熱部71のみを有していてもよい。更に、この場合、測定部73が、ノズル61から見て第1加熱部71よりも前方に配置されていてもよいし、吐出部60に隣接する位置に固定されていてもよい。
【0081】
C.他の実施形態:
(C-1)上記実施形態では、第2潰し量は第1潰し量よりも大きい。これに対して、第2潰し量が第1潰し量と同じであってもよい。また、第2潰し量が第1潰し量よりも小さくてもよい。
【0082】
(C-2)上記実施形態では、吐出部60の移動方向前方に位置し、吐出部60とともに移動方向に移動する加熱部70によって第1部分800を加熱している。これに対して、吐出部60の移動方向後方に位置する加熱部によって第1部分800を加熱してもよい。また、加熱部が吐出部60とともに移動しなくてもよい。例えば、ステージ300に固定された温風送風機の角度を変化させることによって、吐出部60の移動に応じて温風の送風方向を変化させてもよい。また、第1部分800の一部ではなく、全体を加熱してもよい。
【0083】
(C-3)上記実施形態では、式(1)を満たしながら、すなわち、ノズル61から吐出した造形材料が、水平方向において先端面62からはみ出さない状態を保ちながら三次元造形物OBを造形する。これに対して、三次元造形物OBの造形中、式(1)を満たしていなくてもよい。例えば、造形材料を先端面62からはみ出させながら、三次元造形物OBを目標の寸法よりも大きく作成した後、三次元造形物OBを目標の寸法まで切削してもよい。
【0084】
D.他の形態:
本開示は、上述の各実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態によって実現することができる。例えば、本開示は以下の形態として実現可能である。以下に記載する各形態中の技術的特徴に対応する上記の各実施形態中の技術的特徴は、本開示の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、本開示の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中において必須であると説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0085】
(1)本開示の第1の形態によれば、三次元造形物の製造方法が提供される。この三次元製造方法は、ステージ又は先に形成された層に向けて吐出部から樹脂を含む造形材料を吐出し、吐出された前記造形材料を前記吐出部の先端面で押し付けることにより、三次元造形物の第1部分を形成する第1工程と、前記第1部分を、前記樹脂のガラス転移温度未満の温度まで加熱する加熱工程と、前記加熱工程で加熱された前記第1部分に向けて前記吐出部から前記造形材料を吐出し、吐出された前記造形材料を前記先端面で押し付けて前記三次元造形物の第2部分を形成する第2工程と、を有する。
このような形態によれば、溶剤を用いることなく、第1部分を構成する単層同士の密着強度および第1部分と第2部分との密着強度を高め、三次元造形物の積層方向の強度を高めることができる。
【0086】
(2)上記形態の三次元造形物の製造方法において、前記加熱工程に先立って、前記第1工程で形成された前記第1部分に対して切削を行う切削工程を有していてもよい。このような形態によれば、第1部分を切削した後に、第1部分の上に第2部分を造形する場合であっても、第1部分と第2部分との密着強度を高めることができる。
【0087】
(3)上記形態の三次元造形物の製造方法において、前記第2工程における前記造形材料を前記先端面で押し付ける度合いは、前記第1工程における前記造形材料を前記先端面で押し付ける度合いよりも大きくてもよい。このような形態によれば、第1部分の上に第2部分を造形する際に第1部分と第2部分との密着性が向上する。そのため、第1部分と第2部分との密着強度を高めることができる。
【0088】
(4)上記形態の三次元造形物の製造方法において、前記加熱工程において、前記第1部分を、前記ガラス転移温度[℃]の80%以上となる温度であって、かつ、前記ガラス転移温度未満の温度まで加熱してもよい。このような形態によれば、第1部分と第2部分との密着強度を、より効果的に高めることができる。
【0089】
(5)上記形態の三次元造形物の製造方法において、前記加熱工程において、前記吐出部の移動方向前方に位置し、前記吐出部とともに前記移動方向に移動する加熱部によって前記第1部分を加熱し、前記第2工程において、前記加熱部の前記移動方向後方に位置する前記吐出部によって、前記加熱部で加熱した前記第1部分の上に前記第2部分を形成してもよい。このような形態によれば、第1部分のうち、その上に第2部分を形成する部分以外に熱的影響を及ぼすことを抑制し、三次元造形物の強度を高めることができる。
【0090】
(6)上記形態の三次元造形物の製造方法において、前記加熱工程は、前記加熱部で加熱された前記第1部分の温度を測定する測定工程を有し、前記測定工程で測定された温度に基づいて、前記加熱部の出力を調整してもよい。このような形態によれば、第1部分と第2部分との密着強度を高められる温度に第1部分を加熱した状態を保ちながら、第2部分を造形することができる。
【0091】
(7)上記形態の三次元造形物の製造方法において、前記加熱部は、第1加熱部および第2加熱部を備え、前記吐出部から近い順に、前記第1加熱部と、前記第2加熱部とが配置され、前記測定工程において、前記第1加熱部で加熱された前記第1部分の温度を測定し、前記測定工程で測定された温度に基づいて前記第2加熱部の出力を調整し、前記第2加熱部によって前記第1部分を再加熱してもよい。このような形態によれば、三次元造形物の造形中に、ノズルを移動させながら第1部分の加熱と、温度測定と、測定された温度に基づく出力調整とを、並行して行うことができる。そのため、第1部分と第2部分との密着強度を高められる温度に第1部分を加熱した状態を保ちながら、第2部分を造形することができる。
【0092】
(8)請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の三次元造形物の製造方法であって、下記式(1)を満たすように前記三次元造形物を造形してもよい。
(Sq×Gp)/Vt>1.0 …(1)
(Sqは前記先端面の面積であり、Gpは前記先端面と前記造形材料が吐出される領域の上面との距離であり、Vtは前記吐出部が単位移動量ごとに吐出する前記造形材料の体積である。)
このような形態によれば、造形中にノズルから吐出された造形材料が、水平方向においてノズルの先端面からはみ出すことを抑制できる。そのため、三次元造形物の造形精度を高めることができる。
【0093】
本開示は、上述した三次元造形物の製造方法に限らず、種々の態様で実現可能である。例えば、三次元造形装置や、三次元造形装置の制御方法、三次元造形物を造形するためのコンピュータープログラム、コンピュータープログラムを記録した一時的でない有形な記録媒体等の形態で実現することができる。
【符号の説明】
【0094】
10,10b…三次元造形装置、20…材料供給部、22…連通路、30…溶融部、31…スクリューケース、32…駆動モーター、40…フラットスクリュー、41…上面、42…溝部、43…凸条部、44…材料流入口、45…中央部、48…溝形成面、50…バレル、52…スクリュー対向面、54…案内溝、56…連通孔、58…ヒーター、60…吐出部、61…ノズル、62…先端面、63…吐出口、65…ノズル流路、70,70b…加熱部、71…第1加熱部、72…第2加熱部、73…測定部、80…回動機構、81…回動駆動部、82…回動部、83…支持部、100,100b…吐出ユニット、200…切削ユニット、210…切削工具、300…ステージ、310…造形面、400…駆動部、500…制御部、800…第1部分、810…第2部分