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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】フィルタ装置
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/64 20060101AFI20231205BHJP
   H03H 9/17 20060101ALI20231205BHJP
   H03H 9/54 20060101ALI20231205BHJP
   H03H 9/70 20060101ALI20231205BHJP
   H03H 9/72 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
H03H9/64 Z
H03H9/17 F
H03H9/54 Z
H03H9/70
H03H9/72
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019189353
(22)【出願日】2019-10-16
(65)【公開番号】P2021064897
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100126480
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 睦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 清磨
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/096245(WO,A1)
【文献】特表2008-532334(JP,A)
【文献】特開平07-264000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタチップに設けられた複数の直列腕共振子と、
前記フィルタチップに設けられた複数の並列腕共振子と、
前記複数の並列腕共振子に含まれる一部の並列腕共振子の各々に直列に接続される複数のインダクタと、
を備えるフィルタ装置であって、
前記複数の並列腕共振子のうちの反共振周波数が最大である第1並列腕共振子に、前記複数のインダクタのうちのインダクタンスが最大である第1インダクタが直列に接続され、
前記第1並列腕共振子の一端と、前記複数の並列腕共振子のうちの前記一部の並列腕共振子とは異なる他の一部の並列腕共振子に含まれる第2並列腕共振子の一端とは、前記フィルタチップの入力端子と出力端子とを結ぶ線路上の前記複数の直列腕共振子によって隔てられる複数の配線のうちの同一の配線に接続され、
前記第1並列腕共振子の他端は、前記フィルタチップの第1グランド端子に接続され、
前記第2並列腕共振子の他端は、前記フィルタチップの前記第1グランド端子とは異なる第2グランド端子に接続され、
前記第2並列腕共振子の反共振周波数は、前記他の一部の並列腕共振子のうちの前記第2並列腕共振子以外の並列腕共振子の反共振周波数の各々よりも高い、
フィルタ装置。
【請求項2】
前記他の一部の並列腕共振子は、第3並列腕共振子を含み、
前記第3並列腕共振子の一端は、前記複数の配線のうち前記第1並列腕共振子の一端及び前記第2並列腕共振子の一端が接続された配線とは異なる配線に接続され、前記第3並列腕共振子の他端は、前記フィルタチップの前記第2グランド端子に接続される、第3並列腕共振子を含む、請求項1に記載のフィルタ装置。
【請求項3】
前記複数の並列腕共振子は、
前記複数の配線のうち前記入力端子に最も近い配線に接続される第4並列腕共振子と、
前記複数の配線のうち前記出力端子に最も近い配線に接続される第5並列腕共振子と、を含む、
請求項1又は2に記載のフィルタ装置。
【請求項4】
前記他の一部の並列腕共振子のうちの前記第2並列腕共振子以外の並列腕共振子の反共振周波数の各々は、前記第2並列腕共振子の反共振周波数の約99.5%よりも高い、請求項1~3のいずれか一項に記載のフィルタ装置。
【請求項5】
前記第2並列腕共振子のピッチは、前記他の一部の並列腕共振子のうちの前記第2並列腕共振子以外の並列腕共振子の各々のピッチの約99.5%よりも大きい、請求項に記載のフィルタ装置。
【請求項6】
前記フィルタチップは、LiTaO3を含む、請求項1~のいずれか一項に記載のフィルタ装置。
【請求項7】
前記複数のインダクタは、前記フィルタチップが積層されるパターン層に設けられる、請求項1~のいずれか一項に記載のフィルタ装置。
【請求項8】
前記複数のインダクタのうちの第2インダクタの一端は、前記複数の配線のうち前記第1並列腕共振子が接続された前記配線とは異なる一の配線に一端が接続された並列腕共振子の他端に接続され、
前記複数のインダクタのうちの第3インダクタの一端は、前記複数の配線のうち前記第1並列腕共振子が接続された前記配線から前記一の配線よりも遠い配線に一端が接続された並列腕共振子の他端に接続され、
前記第1インダクタと前記第2インダクタとの間の距離は、前記第1インダクタと前記第3インダクタとの間の間隔よりも小さい、請求項1~のいずれか一項に記載のフィルタ装置。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載のフィルタ装置を備える、デュプレクサ又はマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の移動体通信機においては、端末の小型化のため、送信信号の送信及び受信信号の受信に際して共通のアンテナが用いられることがある。このようなアンテナには、送信信号と受信信号とを分けるデュプレクサが接続される。デュプレクサの一例として、固有の共振周波数及び反共振周波数を有する複数の共振子をラダー型に接続することにより、所定の周波数帯域の信号を通過させ、他の周波数帯域の信号を減衰させるラダー型フィルタ回路が利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、直列腕共振子と、並列腕共振子と、並列腕共振子に直列に接続されたインダクタと、を備えるラダー型フィルタ回路が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/088680号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ラダー型フィルタ回路の周波数特性としては、一般的に、通過帯域における入力損失は少なく、通過帯域の近傍における減衰帯域の減衰特性は急峻なものが望ましい。しかしながら、例えば、並列腕共振子にインダクタを直列に接続させると、並列腕共振子の反共振周波数は概ねそのままで共振周波数が低域側にシフトするため、通過帯域の入力損失は低減されるものの、減衰帯域の減衰特性の急峻性が損なわれる。一方、例えば、ラダー型フィルタ回路に多数の並列腕共振子を付加すると、減衰帯域の減衰特性の急峻性は向上するが、通過帯域の入力損失が大きくなる。
【0006】
本発明は、減衰帯域の減衰特性の急峻性を保ちつつ通過帯域の入力損失を低減させることが可能なフィルタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、本発明の一態様に係るフィルタ装置は、フィルタチップに設けられた複数の直列腕共振子と、フィルタチップに設けられた複数の並列腕共振子と、複数の並列腕共振子に含まれる一部の並列腕共振子の各々に直列に接続される複数のインダクタと、を備えるフィルタ装置であって、複数の並列腕共振子のうちの反共振周波数が最大である第1並列腕共振子に、複数のインダクタのうちのインダクタンスが最大である第1インダクタが直列に接続され、第1並列腕共振子の一端と、複数の並列腕共振子のうちの一部の並列腕共振子とは異なる他の一部の並列腕共振子に含まれる第2並列腕共振子の一端とは、フィルタチップの入力端子と出力端子とを結ぶ線路上の複数の直列腕共振子によって隔てられる複数の配線のうちの同一の配線に接続され、第1並列腕共振子の他端は、フィルタチップの第1グランド端子に接続され、第2並列腕共振子の他端は、フィルタチップの第1グランド端子とは異なる第2グランド端子に接続される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、減衰帯域の減衰特性の急峻性を保ちつつ通過帯域の入力損失を低減させることが可能なフィルタ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】フィルタ装置10の回路構成の一例を示す図である。
図2】フィルタチップ100の平面図の一例を示す図である。
図3A】パターン層200の第1層200Aの平面図の一例を示す図である。
図3B】パターン層200の第2層200Bの平面図の一例を示す図である。
図3C】パターン層200の第3層200Cの平面図の一例を示す図である。
図3D】パターン層200の第4層200Dの平面図の一例を示す図である。
図3E】パターン層200の第5層200Eの平面図の一例を示す図である。
図3F】パターン層200の第6層200Fの平面図の一例を示す図である。
図4A】第1実施形態及び比較例に係るフィルタ装置10における周波数特性(減衰特性)のシミュレーション結果を示すグラフである。
図4B】第1実施形態及び比較例に係るフィルタ装置10における周波数特性(減衰特性)のシミュレーション結果を示す他のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
図1は、第1実施形態に係るフィルタ装置10の回路構成の一例を示す図である。移動体通信機において無線周波数(RF:Radio Frequency)信号を送受信するための1つのアンテナが用いられる場合があるが、このような場合に、例えば、送信信号と受信信号とを分ける分波器が利用される。フィルタ装置10は、例えば、このような分波器を構成する送信信号フィルタ回路や受信信号フィルタ回路を構成してもよい。分波器は、例えば複数のフィルタ回路を備え、複数の周波数帯域の信号を分ける複合フィルタ装置であってもよい。複合フィルタ装置は、例えば、2つのフィルタ回路を複合したデュプレクサ、3つのフィルタ回路を複合したトライプレクサ、4つのフィルタ回路を複合したクアッドプレクサ、又は8つのフィルタ回路を複合したオクタプレクサなどを含む。
【0012】
図1に示すとおり、本実施形態におけるフィルタ装置10は、複数の共振子が直列及び並列に接続されたラダー型フィルタである。フィルタ装置10は、5つの直列腕共振子S1~S5と、6つの並列腕共振子P1~P6と、3つのインダクタL1~L3を備える。直列腕共振子S1~S5と、並列腕共振子P1~P6とは、フィルタチップ100に設けられる。フィルタチップ100には、更に、入力端子INと、出力端子OUTと、端子T1~T4とが設けられている。インダクタL1~L3は、パターン層200に設けられる。
【0013】
フィルタチップ100が送信信号フィルタ回路として構成される場合、入力端子INには例えば電力増幅器を含むフロントエンドモジュールから送信信号が供給され、出力端子OUTからは例えばアンテナにフィルタリングされた送信信号が供給される。また、フィルタ装置10が受信信号フィルタ回路として構成される場合、入力端子INには例えばアンテナから受信信号が供給され、出力端子OUTからは例えばフロントエンドモジュール等にフィルタリングされた受信信号が供給される。
【0014】
端子T1~T4は、それぞれ、各並列腕共振子に接続されるグランド用の端子である。ここで、端子T3は、第1グランド端子の一例である。また、端子T4は、第2グランド端子の一例である。
【0015】
入力端子INと出力端子OUTとを結ぶ線路U1において、入力端子IN側から順に、5つの直列腕共振子S1~S5が直列に接続される。6つの並列腕共振子P1~P6は、線路U1上の直列共振子S1~S5によって隔てられる複数の配線から分岐するように並列に接続される。
【0016】
並列腕共振子P4は、第4並列腕共振子の一例であって、一端が入力端子INと直列腕共振子S1との間の配線に接続され、他端が端子T1を介してインダクタL1の一端に接続される。インダクタL1の他端はグランドに接続される。並列腕共振子P6は、一端が直列腕共振子S1と直列腕共振子S2との間の配線に接続され、他端が端子T2を介してインダクタL2の一端に接続される。インダクタL2の他端はグランドに接続される。並列腕共振子P1は、第1並列腕共振子の一例であって、一端が直列腕共振子S2と直列腕共振子S3との間の配線に接続され、他端が端子T3を介してインダクタL3の一端に接続される。インダクタL3の他端はグランドに接続される。
【0017】
並列腕共振子P2は、第2並列腕共振子の一例であって、一端が直列腕共振子S2と直列腕共振子S3との間の配線に接続され、他端が端子T4を介してグランドに接続される。並列腕共振子P3は、第3並列腕共振子の一例であって、一端が直列腕共振子S3と直列腕共振子S4との間の配線に接続され、他端が端子T4を介してグランドに接続される。並列腕共振子P5は、第5並列腕共振子の一例であって、一端が直列腕共振子S4と直列腕共振子S5との間の配線に接続され、他端が端子T4を介してグランドに接続される。上述のとおり、端子T4は、並列腕共振子P2、P3、及びP5の共用となっている。
【0018】
並列腕共振子P1の反共振周波数は、フィルタ装置10が備える他の並列腕共振子P1~P6それぞれの反共振周波数の中で最大である。また、インダクタL3のインダクタンスは、フィルタ装置10が備える並列腕共振子に直列に接続されるインダクタL1~L3それぞれのインダクタンスの中で最大である。また、並列腕共振子P2の反共振周波数は、フィルタ装置10が備える、インダクタが直列に接続されない並列腕共振子P2、P3、及びP5の反共振周波数の中で最大である。
【0019】
更に、例えば、フィルタ装置が備えるインダクタが直列に接続されない並列腕共振子P3及びP5それぞれの反共振周波数は、並列腕共振子P2の反共振周波数に対して所定の割合(約99.5%、約99.0%、約98.5%、約98.0%、約95.0%、約90.0%、約85.0%、約80.0%等)よりも高いことが望ましい。換言すれば、並列腕共振子P2の櫛形電極のピッチは、並列腕共振子P3及びP5それぞれの櫛形電極のピッチに対して当該所定の割合より大きいことが望ましい。
【0020】
次に、図2を用いて、フィルタチップ100のレイアウトについて説明する。図2は、第1実施形態に係るフィルタ装置10が備えるフィルタチップ100の平面図の一例を示す図である。図2では、説明の便宜上、各端子IN、OUT、T1~T4、配線パターン、直列腕共振子S1~S5、及び並列腕共振子P1~P6それぞれは、これらの配置が明瞭となるように、適宜透過的に示されている。
【0021】
図2に示すとおり、フィルタチップ100には、上述した入力端子IN、出力端子OUT、及びグランド端子T1~T4が設けられ、これら各端子を繋ぐように配線パターンが設けられている。フィルタチップ100は、例えば、LiTaO3を含んで構成されてもよい。配線パターンの所定の位置には、直列腕共振子S1~S5、及び並列腕共振子P1~P6のそれぞれが配置されている。
【0022】
直列腕共振子S1~S5、及び並列腕共振子P1~P6のそれぞれは、例えば、弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)素子、圧電薄膜共振子、及びバルク弾性波(BAW:Bulk Acoustic Wave)素子等として構成されてもよい。例えばSAWフィルタの共振周波数frは、櫛形電極(IDT:Interdigital Transducer)のピッチをλとし、SAWフィルタを構成する圧電基板における音速をvとすると、fr=v/λ[Hz]により表される。従って、例えば櫛形電極のピッチを調整することにより、所望の共振周波数frを得ることができる。
【0023】
次に、図3A~3Fを用いて、パターン層200について説明する。フィルタ装置10は、フィルタチップ100が積層されるパターン層200を備える。パターン層200は、例えば、セラミック等の絶縁体により形成された基板に、導電性の線路パターンやビア等が形成されて構成されてもよい。パターン層200には、例えば、インダクタL1~L3が配線パターンとして形成される。
【0024】
パターン層200は、図3Aに示す第1層200Aと、図3Bに示す第2層200Bと、図3Cに示す第3層200Cと、図3Dに示す第4層200Dと、図3Eに示す第5層200Eと、図3Fに示す第6層200Fとが、順次に積層されて構成される。
【0025】
フィルタチップ100に設けられた入力端子INは、第1層200Aから第6層200Fまで設けられた配線パターンUINに接続される。また、フィルタチップ100に設けられた出力端子OUTは、第1層200Aから第6層200Fまで設けられた配線パターンUOUTに接続される。
【0026】
フィルタチップ100に設けられた端子T1は、第1層200Aから第4層200Dまで設けられた配線パターンU2に接続される。配線パターンU2は、第1層200Aから第4層200Dまでにおいて、らせん状に巻回されており、インダクタL1を構成する。
【0027】
フィルタチップ100に設けられた端子T2は、第1層200Aから第4層200Dまで設けられた配線パターンU3に接続される。配線パターンU3は、第1層200Aから第4層200Dまでにおいて、らせん状に巻回されており、インダクタL2を構成する。
【0028】
フィルタチップ100に設けられた端子T3は、第1層200Aから第4層200Dまで設けられた配線パターンU4に接続される。配線パターンU4は、第1層200Aから第4層200Dまでにおいて、らせん状に巻回されており、インダクタL3を構成する。
【0029】
配線パターンU2、U3、及びU4は、第5層200Eにおいて、配線パターンU6として統合される。第5層200Eにおける当該配線パターンU6は、第6層200Fにおける3つの端子それぞれに接続される。
【0030】
フィルタチップ100に設けられた端子T4は、上述したとおり、フィルタチップ100に設けられた並列腕共振子P2、P3、及びP5それぞれに接続される。当該端子T4は、第1層200Aから第4層200Dまで設けられた配線パターンU5に接続される。第4層200Dにおける配線パターンU5は、第5層200Eにおける配線パターンU6に接続される。
【0031】
図3Bに示すとおり、第1実施形態に係るフィルタ装置10では、インダクタL2とインダクタL3との間の間隔D23は、インダクタL1とインダクタL3との間の間隔D13よりも小さい。これにより、インダクタL1とインダクタL3との磁気的結合の度合は、インダクタL2とインダクタL3との磁気的な結合の度合よりも小さくなる。そのため、フィルタ装置10が備えるインダクタL3以外のインダクタ(インダクタL1やL2)について、入力端子INと出力端子OUTとを結ぶ線路U1上における当該インダクタが接続される配線が、インダクタL3が接続される配線から遠くなるほど、当該インダクタのインダクタL3との磁気的な結合の度合が小さくなる。したがって、フィルタ装置10において、インダクタ同士の回路的な近さの順序が、インダクタ同士の磁気的な結合の度合の大きさの順序に対応する。これにより、後述するフィルタ装置10の周波数特性が改善する。
【0032】
次に、図4A及び4Bを用いて、第1実施形態に係るフィルタ装置10の周波数特性について説明する。図4A及び4Bは、第1実施形態及び比較例に係るフィルタ装置10における周波数特性(減衰特性)のシミュレーション結果を示すグラフである。ここで、比較例に係るフィルタ装置は、並列腕共振子P1~P6のうちで反共振周波数が最大である並列腕共振子P1と、インダクタL1~L3のうちでインダクタンスが最大であるインダクタL3とが直列に接続されず、並列腕共振子P1と並列腕共振子P2とが線路U1上における同一の配線に接続されないものとする。
【0033】
本例では、3GPP規格におけるBand41帯が示されている。図4A及び4Bに示されるグラフにおいて、横軸は信号の周波数(MHz)を示し、縦軸は信号の挿入損失(S21)(dB)を示す。
【0034】
図4Aにおいて、周波数特性300,310は、それぞれ第1実施形態及び比較例の結果を10dB単位(左側の縦軸の目盛)で表したグラフであり、周波数特性320,330は、それぞれ第1実施形態及び比較例の結果を1dB単位(右側の縦軸の目盛)で表したグラフである。また、図4Bにおいて、周波数特性340、350は、それぞれ第1実施形態及び比較例の結果を表したグラフである。
【0035】
図4Aの符号E1で示すとおり、第1実施形態に係るフィルタ装置10の周波数特性では、比較例に係るフィルタ装置の周波数特性と比較して、通過帯域における入力損失が低減されている。更に、図4Aの符号E2で示すとおり、第1実施形態に係るフィルタ装置10の周波数特性では、比較例に係るフィルタ装置の周波数特性と比較して、通過帯域よりも低域側近傍における減衰帯域の減衰特性の急峻性が改善されている。
【0036】
これは、主に以下のような理由によると言える。すなわち、第1実施形態に係るフィルタ装置10では、並列腕共振子P4にはインダクタL1が、並列腕共振子P6にはインダクタL2が、並列腕共振子P1にはインダクタL3が、それぞれ直列に接続されている。そのため、並列腕共振子P4、P6、及びP1のそれぞれの反共振周波数は概ねそのままで、共振周波数が低域側にシフトする。そして、反共振周波数は概ねそのままで共振周波数が低域側にシフトすると、並列腕共振子P4、P6、及びP1の周波数特性において用いるインダクタの誘導性により共振器による容量性が低減され、不整合損失が改善される。その結果、符号E1で示すとおり、フィルタ装置10の周波数特性において通過帯域の入力損失が低減される。更に、上述したとおり、フィルタ装置10が備える並列腕共振子P1~P6のうちで並列腕共振子P1の反共振周波数が最大であり、且つこれら並列腕共振子に直列に接続されるインダクタL1~L3のうちインダクタL3のインダクタンスが最大である。したがって、並列腕共振子にインダクタを直列に接続させることによる通過帯域の入力損失低減の効果は、並列腕共振子P1とインダクタL3との直列接続による寄与が最も大きいといえる。
【0037】
また、第1実施形態に係るフィルタ装置10及び比較例に係るフィルタ装置は共に、インダクタが直列に接続されない並列腕共振子P2、P3、及びP5を備えている。これら並列腕共振子P2、P3、及びP5は、通過帯域よりも低域側近傍における減衰帯域の減衰特性の急峻性に寄与している。ここで、第1実施形態に係るフィルタ装置10では、上述したとおり並列腕共振子P2と並列腕共振子P1(第1並列腕共振子)とは線路U1上における同一の配線に接続されているが、これにより当該減衰帯域の減衰特性の急峻性がより維持されやすくなる。そのため、図4Aの符号E2に示すとおり、第1実施形態に係るフィルタ装置10では、比較例に係るフィルタ装置と比較して、通過帯域よりも低域側近傍における減衰帯域の減衰特性の急峻性が向上する。
【0038】
更に、第1実施形態に係るフィルタ装置10では、並列腕共振子P1の他端は端子T3(第1グランド端子)に接続され、並列腕共振子P2の他端は端子T3とは異なる端子T4(第2グランド端子)に接続される。このため、並列腕共振子P1の他端と並列腕共振子P2の他端とが、フィルタチップ100の外側の回路的に比較的遠い位置でグランドに接続される(本例では、パターン層200のうちの第5層200E)こととなるため、グランドに接続されることによる並列腕共振子P1及びP2への特性の影響が低減される。
【0039】
図4Bの符号E3で示すとおり、第1実施形態に係るフィルタ装置10の周波数特性では、比較例に係るフィルタ装置の周波数特性と比較して、通過帯域よりも低域側における減衰極が、より低域側(約1900~2000MHz付近)にシフトしている。これは、第1実施形態に係るフィルタ装置10が備えるインダクタL3による減衰極である。
【0040】
以上、実施形態に係るフィルタ装置について説明した。実施形態に係るフィルタ装置は、フィルタチップに設けられた複数の直列腕共振子と、フィルタチップに設けられた複数の並列腕共振子と、複数の並列腕共振子に含まれる一部の並列腕共振子の各々に直列に接続される複数のインダクタと、を備えるフィルタ装置であって、複数の並列腕共振子のうちの反共振周波数が最大である第1並列腕共振子に、複数のインダクタのうちのインダクタンスが最大である第1インダクタが直列に接続され、第1並列腕共振子の一端と、複数の並列腕共振子のうちの一部の並列腕共振子とは異なる他の一部の並列腕共振子に含まれる第2並列腕共振子の一端とは、フィルタチップの入力端子と出力端子とを結ぶ線路上の複数の直列腕共振子によって隔てられる複数の配線のうちの同一の配線に接続され、第1並列腕共振子の他端は、フィルタチップの第1グランド端子に接続され、第2並列腕共振子の他端は、フィルタチップの第1グランド端子とは異なる第2グランド端子に接続される。
【0041】
当該構成により、フィルタ装置において、減衰帯域の減衰特性の急峻性を保ちつつ通過帯域の入力損失を低減させることが可能となる。
【0042】
上述したフィルタ装置において、他の一部の並列腕共振子に含まれる第3並列腕共振子の一端は、複数の配線のうち第1並列腕共振子の一端及び第2並列腕共振子の一端が接続された配線とは異なる配線に接続され、第3並列腕共振子の他端は、フィルタチップの第2グランド端子に接続されてもよい。
【0043】
当該構成により、通過帯域よりも低域側近傍における減衰帯域の減衰特性の急峻性が向上する。
【0044】
上述したフィルタ装置において、複数の並列腕共振子は、複数の配線のうち入力端子に最も近い配線に接続される第4並列腕共振子と、複数の配線のうち出力端子に最も近い配線に接続される第5並列腕共振子とを含んでもよい。
【0045】
当該構成により、第1並列腕共振子と第1インダクタとの直列接続が、入力端子と出力端子とを結ぶ線路上における比較的中央の配線に接続される。これにより、減衰帯域の減衰特性の急峻性を保ちつつ通過帯域の入力損失を低減させる上述した効果が向上する。
【0046】
上述したフィルタ装置において、第2並列腕共振子の反共振周波数は、他の一部の並列腕共振子のうちの第2並列腕共振子以外の並列腕共振子の反共振周波数の各々よりも高くてもよい。
【0047】
当該構成により、通過帯域よりも低域側近傍における減衰帯域の減衰特性の急峻性が向上する。
【0048】
上述したフィルタ装置において、他の一部の並列腕共振子のうちの第2並列腕共振子以外の並列腕共振子の反共振周波数の各々は、第2並列腕共振子の反共振周波数の約99.5%よりも高くてもよい。
【0049】
当該構成により、通過帯域よりも低域側近傍における減衰帯域の減衰特性の急峻性が向上する。
【0050】
上述したフィルタ装置において、第2並列腕共振子のピッチは、他の一部の並列腕共振子のうちの第2並列腕共振子以外の並列腕共振子の各々のピッチの約99.5%よりも大きくてもよい。
【0051】
当該構成により、通過帯域よりも低域側近傍における減衰帯域の減衰特性の急峻性が向上する。
【0052】
上述したフィルタ装置において、フィルタチップは、LiTaO3を含んでもよい。
【0053】
当該構成により、フィルタ装置の周波数特性が向上する。
【0054】
上述したフィルタ装置において、複数のインダクタは、フィルタチップが積層されるパターン層に設けられてもよい。
【0055】
当該構成により、フィルタ装置の周波数特性が向上し、また、フィルタ装置の製造が容易になる。
【0056】
上述したフィルタ装置において、複数のインダクタのうちの第2インダクタの一端は、複数の配線のうち第1並列腕共振子が接続された配線とは異なる一の配線に一端が接続された並列腕共振子の他端に接続され、複数のインダクタのうちの第3インダクタの一端は、複数の配線のうち第1並列腕共振子が接続された配線から一の配線よりも遠い配線に一端が接続された並列腕共振子の他端に接続され、第1インダクタと第2インダクタとの間の距離は、第1インダクタと第3インダクタとの間の距離よりも小さくてもよい。
【0057】
当該構成により、フィルタ装置において、インダクタ同士の回路的な近さの順序が、インダクタ同士の磁気的な結合の度合の大きさの順序に対応する。これにより、フィルタ装置の周波数特性が向上する。
【0058】
上述したフィルタ装置、デュプレクサ又はマルチプレクサの一部を構成してもよい。
【0059】
当該構成により、周波数特性が向上した分波器を提供することが可能となる。
【0060】
以上説明した各実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更又は改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。即ち、各実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、各実施形態が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、各実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0061】
10…フィルタ装置、S1~S5…直列腕共振子、P1~P6…並列腕共振子、L1~L3…インダクタ、IN…入力端子、OUT…出力端子、T1~T4…グランド端子、100…フィルタチップ、200…パターン層
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4A
図4B