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特許7395946超音波プローブ、超音波診断装置およびバッキング材の製造方法
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  • 特許-超音波プローブ、超音波診断装置およびバッキング材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】超音波プローブ、超音波診断装置およびバッキング材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/00 20060101AFI20231205BHJP
   H04R 17/00 20060101ALI20231205BHJP
   H04R 31/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
A61B8/00
H04R17/00 330J
H04R31/00 330
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019190145
(22)【出願日】2019-10-17
(65)【公開番号】P2021062170
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 聖和
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-261840(JP,A)
【文献】特開2009-060501(JP,A)
【文献】特開2006-129965(JP,A)
【文献】特開2000-165995(JP,A)
【文献】特開2005-177479(JP,A)
【文献】特開2012-000219(JP,A)
【文献】特開2007-134767(JP,A)
【文献】特開2010-219484(JP,A)
【文献】特表2009-528783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
G01N 29/00 -29/52
H04R 1/00 - 1/46
H04R 17/00 -17/10
H04R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子と、
前記圧電素子に対して一方向側に配置された、マトリックス樹脂および熱伝導性粒子を含むバッキング材と、
を有し、
前記バッキング材の厚さ方向と水平方向の熱伝導率の比は、3以上であ
前記バッキング材の厚さ方向と水平方向の音速の比は、0.5以上1.0未満である、超音波プローブ。
【請求項2】
前記バッキング材は、前記熱伝導性粒子が凝集している領域と、凝集していない領域と、を有し、前記熱伝導性粒子は、前記バッキング材の厚さ方向に沿って配向している、請求項1に記載の超音波プローブ。
【請求項3】
前記バッキング材の厚さ方向と水平方向の音速の比は、0.6以上1.0未満である、請求項1または請求項2に記載の超音波プローブ。
【請求項4】
前記バッキング材の厚さ方向の熱伝導率は、2.0W/mk以上であり、前記バッキング材の水平方向の熱伝導率は、2.0W/mk以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の超音波プローブ。
【請求項5】
前記マトリックス樹脂のガラス転移温度(Tg)は、30℃以上200℃以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の超音波プローブ。
【請求項6】
前記バッキング材は、非熱伝導性粒子を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の超音波プローブ。
【請求項7】
前記非熱伝導性粒子は、複合粒子である、請求項6に記載の超音波プローブ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の超音波プローブを有する、超音波診断装置。
【請求項9】
超音波プローブ用のバッキング材の製造方法であって、
マトリックス樹脂の原料と、熱伝導性粒子と、非熱伝導性粒子と、を混合して混合体を作製する工程と、
前記混合体を加圧・加熱成形してバッキング材とする工程と、
を有し、
前記マトリックス樹脂の原料は、粉体の樹脂粒子を含み、
前記熱伝導性粒子は、前記バッキング材の厚さ方向に沿って配向している、バッキング材の製造方法。
【請求項10】
前記バッキング材の厚さ方向と水平方向の熱伝導率の比は、3以上である、請求項9に記載のバッキング材の製造方法。
【請求項11】
前記バッキング材の厚さ方向と水平方向の音速の比は、0.5以上1.0未満である、請求項9に記載のバッキング材の製造方法。
【請求項12】
前記マトリックス樹脂の原料は、数平均粒径が10μm以上200μm以下の粉体粒子を含む、請求項9~11のいずれか一項に記載のバッキング材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波プローブ、超音波診断装置およびバッキング材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、当該超音波診断装置に接続され、または超音波診断装置と通信可能に構成された超音波プローブを、ヒトやその他の動物などを含む被検体の体表に当てるかまたは体内へ挿入するという簡単な操作で、組織の形状および動きなどを超音波診断画像として得ることを可能とする。超音波診断装置は、安全性が高いため繰り返して検査を行うことができるという利点を有する。
【0003】
超音波プローブは、超音波を送受信する圧電素子などを内蔵する。圧電素子は、超音波診断装置からの電気信号(送信信号)を受信し、受信した送信信号を超音波信号に変換して送波し、生体内で反射された超音波を受信して電気信号(受信信号)に変換し、電気信号に変換された受信信号を超音波診断装置に送信する。
【0004】
また、超音波プローブは、圧電素子の被検体に向けられる面とは反対側に、バッキング材を有する(なお、以下、超音波プローブを構成する部材に関して、超音波照射方向を向いた面(被検体に向けられる面)を「前面」ともいい、超音波照射方向とは反対側の方向を向いた面(被検体に向けられる面とは反対側の面)を「背面」ともいう)。バッキング材は、圧電素子から背面側に送波された超音波を減衰(吸収・散乱を含む)して、上記背面側に送波された超音波がバッキング材の端面から反射することによるノイズ(アーチファクト)の発生などを抑制する。また、バッキング材は、圧電素子から背面側へ熱を放出して、圧電素子で発生した熱による、被検体と接する音響レンズの過熱などを抑制する。
【0005】
そのため、熱伝導率がより高められた種々のバッキング材が検討されている。
【0006】
たとえば、特許文献1には、超音波エネルギーを伝播させるように操作可能なトランスデューサアセンブリと、上記トランスデューサアセンブリにより生成された熱を伝達するように配置された、熱伝達デバイスを備える冷却システムと、を有する、超音波プローブが開示されている。上記熱伝達デバイスが、グラフェン系材料、または複合材を得るために樹脂等の他の成分が投入されたグラフェンを含むことにより、上記超音波プローブは、良好な熱伝導率を有するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2017-527375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者が検討したところ、特許文献1に記載のグラフェンによりバッキング材の熱伝導率を高めようとすると、グラフェンを多量にバッキング材に添加する必要があり、混合性および成型性の双方を良好な状態にすることが難しく、所望するバッキング材の熱伝導性を得ることができなかった。そして、グラフェンがバッキング材に多量に含まれていると、背面側に送波された超音波が十分に減衰されないという問題があった。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、熱伝導性が高く、かつ音響特性も良好であるバッキング材を有する超音波プローブ、上記バッキング材を有する超音波診断装置、および上記バッキング材の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の一実施形態に係る超音波プローブは、圧電素子と、前記圧電素子に対して一方向側に配置された、マトリックス樹脂および熱伝導性粒子を含むバッキング材と、を有し、前記バッキング材の厚さ方向と水平方向の熱伝導率の比は、3以上である。
【0011】
また、上記課題を解決するため、本発明の一実施形態に係る超音波診断装置は、上記超音波プローブを有する。
【0012】
また、上記課題を解決するため、本発明の一実施形態に係るバッキング材の製造方法は、超音波プローブ用のバッキング材の製造方法であって、マトリックス樹脂の原料と、熱伝導性粒子と、非熱伝導性粒子と、を混合して混合体を作製する工程と、前記混合体を加圧・加熱成形してバッキング材とする工程と、を有し、前記熱伝導性粒子は、前記バッキング材の厚さ方向に沿って配向している。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱伝導性が高く、かつ音響特性も良好であるバッキング材を有する超音波プローブ、上記バッキング材を有する超音波診断装置、および上記バッキング材の作製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の実施形態に係る超音波プローブの全体構造の一例を示す断面図である。
図2図2Aは、本発明の実施形態に係る超音波プローブのバッキング材の断面図であり、図2Bは、比較例の超音波プローブのバッキング材の断面図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る超音波プローブを備える超音波診断装置の一例を示す模式図である。
図4図4Aおよび4Bは、本発明の実施形態に係る超音波プローブの放熱効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0016】
1.超音波プローブ
図1は、本発明の実施形態に関する超音波プローブ100の全体構造の一例を示す断面図である。
【0017】
図1に示されるように、超音波プローブ100は、圧電素子110と、圧電素子110に電圧を印加するために前面側に配置された接地電極120ならびに背面側に配置された信号電極130および信号用電気端子140と、圧電素子110から前面側にこの順で配置された音響マッチング層150および音響レンズ160と、信号用電気端子140から背面側にこの順で配置されたバッキング材170と、から構成される。
【0018】
1-1.圧電素子
圧電素子110は、電圧の印加により超音波を送波する複数個の圧電体(不図示)が図1中X方向に1次元に配列されて形成される。圧電素子110の厚さは、例えば、0.05mm以上0.4mm以下とすることができる。それぞれの圧電体は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系などの圧電セラミック、マグネシウム酸ニオブ酸鉛・チタン酸鉛固溶体(PMN-PT)および亜鉛酸ニオブ酸鉛・チタン酸鉛固溶体(PZN-PT)などの圧電単結晶、ならびにこれらの材料と高分子材料を複合した複合圧電体、などにより形成される。なお、圧電素子110の音響インピーダンスの大きさは、通常、10~30MRaylsである。
【0019】
1-2.接地電極、信号電極および信号用電気端子
接地電極120は、圧電素子110の前面に配置した電極であり、信号電極130は、圧電素子110の背面に配置した電極である。接地電極120および信号電極130は、金および銀などの、蒸着、スパッタリングおよび銀の焼き付けなどの方法で形成したり、銅などの導体を絶縁性の基板に貼り付けてパターニングしたりして、形成することができる。信号用電気端子140は、信号電極130の背面側に接して配置され、信号電極130と超音波診断装置10の本体部11に配置された外部の電源などとを接続する。本実施形態では、信号電極130は、銅などの導体を絶縁性の基板に貼り付けてパターニングして形成した、フレキシブルプリント基板(FPC)である。
【0020】
1-3.音響マッチング層
音響マッチング層150は、圧電素子110と音響レンズ160との間の音響特性を整合させるための層であり、圧電素子110と音響レンズ160との概ね中間の音響インピーダンスを有する材料により構成される。本実施形態では、音響マッチング層150は、第1の音響マッチング層150a、第2の音響マッチング層150bおよび第3の音響マッチング層150cの3層からなる。
【0021】
ここで、第1の音響マッチング層150aは、音響インピーダンスが8MRayls以上20MRayls以下である、珪素、水晶、快削性セラミックス、金属を含浸したグラファイト、金属粒子を充填したグラファイト、および金属または酸化物などのフィラーを充填したエポキシ樹脂などの材料から形成される。第2の音響マッチング層150bは、音響インピーダンスが3MRayls以上8MRayls以下である、グラファイト、および金属または酸化物などのフィラーを充填したエポキシ樹脂から形成される。第3の音響マッチング層150cは、音響インピーダンスが1.9MRayls以上2.3MRayls以下である、ゴム材料を混合したプラスチック材、およびシリコーンゴムを充填した樹脂などから形成される。
【0022】
このように音響マッチング層150を多層化することで、超音波プローブの広帯域化を図れる。なお、音響マッチング層150を多層化するときは、音響レンズ160に近づくにつれて音響レンズ160の音響インピーダンスに段階的または連続的に近づくように、各層の音響インピーダンスが設定されることがより好ましい。また、多層化された音響マッチング層150の各層は、エポキシ系接着剤などの、当該技術分野で通常使用される接着剤で接着されてもよい。
【0023】
なお、音響マッチング層150の材料は上記材料に限定されず、アルミ、アルミ合金(例えばAL-Mg合金)、マグネシウム合金、マコールガラス、ガラス、溶融石英、コッパーグラファイト、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PC(ポリカーボネート)、ABC樹脂、ABS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、ナイロン(PA6、PA6-6)、PPO(ポリフェニレンオキシド)、PPS(ポリフェニレンスルフィド:ガラス繊維入りも可)、PPE(ポリフェニレンエーテル)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PAI(ポリアミドイミド)、PETP(ポリエチレンテレフタレート)、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができる。エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂に、フィラー(充填剤)として、亜鉛華、酸化チタン、シリカやアルミナ、ベンガラ、フェライト、酸化タングステン、酸化イットリビウム、硫酸バリウム、タングステン、モリブデン等を入れて成形したものが好ましい。
【0024】
1-4.音響レンズ
音響レンズ160は、生体に近い音響インピーダンスを有し、かつ生体とは異なる音速を有する、高分子材料などにより構成されており、生体と音響レンズ160との音速差による屈折を利用して圧電素子110から送波された超音波を集束して、分解能を向上させる。本実施形態では、音響レンズ160は、図中Y方向(圧電体の配列方向Xに直交する方向)に沿って延び、Z方向に凸状となる、シリンドリカル型の音響レンズである。音響レンズ160は、上記超音波をY方向に集束させて超音波プローブ100の外部に出射する。
【0025】
音響レンズ160は、公知のシリコーン系ゴム、ブタジエン系ゴム、ポリウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム等のホモポリマー、エチレンとプロピレンとを共重合させてなるエチレン-プロピレン共重合体ゴム等の共重合体ゴム等を用いることができる。これらのうち、シリコーン系ゴムおよびブタジエン系ゴムを用いることが好ましい。
【0026】
シリコーン系ゴムの例には、シリコーンゴム、フッ素シリコーンゴムが含まれる。シリコーンゴムとは、Si-O結合からなる分子骨格を有し、そのSi原子に複数の有機基が主結合したオルガノポリシロキサンをいい、通常、その主成分はメチルポリシロキサンで、全体の有機基のうち90%以上はメチル基である。メチル基に代えて水素原子、フェニル基、ビニル基、アリル基等を導入したものも使用することができる。当該シリコーンゴムは、例えば、高重合度のオルガノポリシロキサンに過酸化ベンゾイルなどの硬化剤(加硫剤)を混練し、加熱加硫し硬化させることにより得ることができる。必要に応じてシリカ、ナイロン粉末等の有機または無機充填剤、硫黄、酸化亜鉛等の加硫助剤等を添加してもよい。
【0027】
ブタジエン系ゴムの例には、ブタジエン単独またはブタジエンを主体としこれに少量のスチロールまたはアクリロニトリルが共重合した共重合体ゴムが含まれる。ブタジエンゴムとは、共役二重結合を有するブタジエンの重合により得られる合成ゴムをいう。ブタジエンゴムは、共役二重結合を有するブタジエン単独が1.4または1.2重合することにより得ることができる。ブタジエンゴムは、硫黄等により加硫させたものが使用できる。
【0028】
シリコーンゴムの市販品の例には、KE742U、KE752U、KE931U、KE941U、KE951U、KE961U、KE850U、KE555U、KE575U(いずれも信越化学工業株式会社製)、TSE221-3U、TE221-4U、TSE2233U、XE20-523-4U、TSE27-4U、TSE260-3U、TSE-260-4U(いずれもモメンティブパフォーマンスマテリアル社製)、SH35U、SH55UA、SH831U、SE6749U、SE1120USE4704U(いずれも東レ・ダウコーニング社製)が含まれる。
【0029】
1-5.バッキング材
バッキング材170は、圧電素子110を保持し、同時に、圧電素子110から背面側に送波された超音波を減衰させ、かつ圧電素子110から発せられた熱を背面側に放出する層である。バッキング材170の母材(マトリックス樹脂)には、例えば、天然ゴム、フェライトゴム、エポキシ樹脂、塩化ビニル、ポリビニルブチラール(PVB)、ABS樹脂、ポリウレタン(PUR)、ポリビニルアルコール(PVAL)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PETP)、フッ素樹脂(PTFE)ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート-ポリエチレングリコール共重合体などの熱可塑性樹脂などを用いることができる。上記母材(マトリックス樹脂)の中では、エポキシ樹脂が好ましい。
【0030】
上記エポキシ樹脂の例には、ビスフェノールAタイプ、ビスフェノールFタイプ、レゾールノボラックタイプ、フェノール変性ノボラックタイプ等のノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン構造含有タイプ、アントラセン構造含有タイプ、フルオレン構造含有タイプ等の多環芳香族型エポキシ樹脂、水添脂環型エポキシ樹脂、液晶性エポキシ樹脂、粉体エポキシ樹脂が含まれる。
【0031】
本実施形態に係るバッキング材170に含まれるマトリックス樹脂は、粉体の樹脂を原料とすることが好ましい。上記マトリックス樹脂の原料は、数平均粒径が10μm以上200μm以下の粉体粒子であることが好ましく、10μm以上100μm以下の粉体粒子であることがより好ましく、30μm以上70μm以下の粉体粒子であることがさらに好ましい。また、バッキング材170の形状は、送波された超音波を減衰することができれば、特に限定されない。
【0032】
図2Aに示されるように、本実施形態に係るバッキング材170に含まれる熱伝導性粒子は、バッキング材170の厚さ方向に沿って配向している。ここで、バッキング材の厚さ方向とは、超音波照射方向とは反対側の方向を向いた面(被検体に向けられる面とは反対側の面)を底面として、超音波照射方向を向いた面(被検体に向けられる面)に対して垂直な方向を意味する。また、配向しているとは、熱伝導性粒子が凝集して、上記バッキング材の厚さ方向に沿って並んでいることを意味する。また、凝集とは、複数の熱伝導性粒子が集まって、スジ状になっていることをいう。一方、図2Bに示される比較例の超音波プローブのバッキング材に含まれる熱伝導性粒子は、バッキング材170中に配向せずに分散している。
【0033】
また、上記樹脂の原料が粉体であると、上記粉体の樹脂を熱伝導性粒子の界面(表面)に沿って並べることができるので、成形時に加圧されたバッキング材中の熱伝導性粒子を、バッキング材の厚さ方向に沿って配向させることができる。また、上記バッキング材は上記熱伝導性粒子が凝集している領域と、凝集していない領域と、を有することができる。これにより、熱伝導性粒子の配向を向上させることができるので、バッキング材の熱伝導性を厚さ方向で30W/mkまで、横方向で6W/mkまで向上させることができる。
【0034】
また、本実施形態に係るバッキング材170の厚さ方向と水平方向の熱伝導率の比は、3以上10以下であることが好ましく、4以上5以下であることがより好ましい。バッキング材170の厚さ方向と水平方向の熱伝導率の比が3以上であると、超音波プローブ100の使用時にその内部の温度が50~60℃程度に高まったときでも、熱を被検体側と反対方向からに速やかに放熱することができる。なお、本実施形態に係るバッキング材の厚さ方向および水平方向の熱伝導率は、JIS R1611:2010に準拠したレーザーフラッシュ法で測定することができる。
【0035】
バッキング材170は、熱伝導性粒子を含有することにより、熱伝導率を高めている。
【0036】
また、本実施形態に係るバッキング材170の厚さ方向と水平方向の音速の比は、0.5以上であることが好ましく、0.6以上1.0以下であることがより好ましい。バッキング材170の厚さ方向と水平方向の音速の比が0.6以上とすることにより、異方性を抑制して、所望する熱伝導性だけでなく、所望する減衰も得ることができる。また、バッキング材170の厚さ方向と水平方向の音速の比が1.0以下とすることにより、1つの機能(例えば熱伝導性)のみが高くなるのを抑制することができる。なお、バッキング材170の厚さ方向と水平方向の音速は、JIS Z2353:2003に準拠して求めることができる。
【0037】
また、本実施形態に係るバッキング材170の減衰は、9dB/mm・MHz以上であることが好ましく、音響インピーダンスは1.5~3.0Mraylsであることが好ましい。
【0038】
1-5-1.熱伝導性粒子
熱伝導性粒子とは、熱伝導性の材料を含む粒子である。バッキング材170の熱伝導性をより高めつつ、音響特性を調整しやすくする観点から、上記熱伝導性の材料は、熱伝導率が60~5000w/mkであることが好ましく、200~3000w/mkであることがより好ましく、400~3000w/mkであることがさらに好ましい。上記範囲の熱伝導率を有する熱伝導性の材料の例には、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ベリリウム、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、グラフェン、カーボンナノチューブ、アルミニウム、金、銀、鉄および銅などが含まれる。上記熱伝導性粒子は、これらの熱伝導性の材料のうち1種類を含んでいてもよいし、2種類以上を含んでいてもよい。また、上記熱伝導性粒子は、後述する複合粒子のように、上記熱伝導性の材料以外の材料を含んでいてもよい。
【0039】
本明細書において、バッキング材170の音響特性が良好であるとは、バッキング材170による超音波の減衰率が十分に高いか、測定に適した音速を有するか、またはバッキング材170が圧電素子110からの超音波を適度に反射できる程度の音響インピーダンスを有することを意味する。なお、バッキング材170は、バッキング材170による超音波の減衰率が十分に高く、かつ、バッキング材170が圧電素子110からの超音波を適度に反射できる程度の音響インピーダンスを有することがより好ましい。
【0040】
ここで、ノイズ(アーチファクト)の発生を抑制する観点からは、上記超音波の減衰率は、より高い方が好ましい。また、上記音響インピーダンスの値は、感度をある程度は犠牲にしてもよりきれいな波形を得たい場合には高くでき、感度を高くしたい場合には低くすることができる。また、上記音響インピーダンスの値によって帯域の形状を制御することもでき、上記音響インピーダンスの値が低い場合には帯域が広くなり、上記音響インピーダンスの値が高い場合には帯域が狭くなる。
【0041】
熱伝導性粒子の配向状態を調整して、音響特性を調整しやすくする観点からは、上記熱伝導性の材料は、多層(ML)グラフェン、炭化ケイ素、およびカーボンナノチューブが好ましい。
【0042】
なお、熱伝導性粒子は、バッキング材170中での凝集が抑制されるように、その配向状態が調整されることが好ましい。これにより、バッキング材170中での熱伝導率および音響特性のばらつきを抑制し、バッキング材170の熱伝導性を高くし、かつ音響特性も良好とすることができる。
【0043】
また、バッキング材170中に含有される熱伝導性粒子の量が多いと、バッキング材170の耐久性が低下したり、バッキング材170の音響インピーダンスが好適な範囲からずれてしまったりしやすい。
【0044】
なお、熱伝導性粒子の凝集を抑制する観点からは、バッキング材170が含有する上記熱伝導性粒子の量は、より少ないことが好ましいものの、一方で、バッキング材170は、音響レンズ160の過熱を抑制できる程度の量の上記熱伝導性粒子を含有することが好ましい。具体的には、バッキング材170は、熱伝導性粒子の含有により、熱伝導率が2.0W/mk以上となっていることが好ましく、熱伝導率が4.0W/mk以上となっていることがより好ましく、熱伝導率が10.0W/mk以上となっていることがさらに好ましく、熱伝導率が20.0W/mk以上となっていることが特に好ましい。
【0045】
ただし、本発明者の知見によれば、バッキング材170が含有する熱伝導性粒子の量を単に多くするだけでは、熱伝導性粒子がより凝集しやすくなるので、バッキング材170の熱伝導率は期待するようには上昇しない。バッキング材170の熱伝導率を効率よく高めるためには、熱伝導性粒子の配向状態を調整して、熱伝導性粒子をより好適に分散させることが必要である。本発明では、マトリックス樹脂の原料を粉体の樹脂にすることにより、バッキング材に含まれる熱伝導性粒子などの粒子の排除体積効果によって、混合時に均一に分散させなくても、熱伝導性粒子を一定の間隔で配向させることができる。これにより、バッキング材の熱伝導率を厚さ方向で30W/mkまで、横方向で6W/mkまで向上させることができる。
【0046】
また、上記熱伝導性粒子の配向状態を調整しやすくする観点から、上記熱伝導性粒子の数平均粒径は、10μm以上150μm以下であることが好ましく、10μm以上100μm以下であることがより好ましい。上記熱伝導性粒子の数平均粒径が上記範囲にあると、数平均粒径がより小さい粒子を用いたときと比較して、上記熱伝導性粒子がより分散しやすくなり、上記熱伝導性粒子の配向状態がより調整されやすくなる。なお、本明細書において、粒子の数平均粒径は、レーザー式粒度分布測定機を使用して測定された値を用いる。あるいは、本明細書において、バッキング材170が含有する粒子の数平均粒径は、バッキング材170を薄く切断し、透過型電子顕微鏡により倍率100万倍程度で撮像して得られた画像を公知の画像解析ソフトによって解析して得られた値としてもよい。
【0047】
1-5-2.複合粒子
また、上記熱伝導性粒子の凝集を抑制して、その配向状態を調整しやすくする観点から、上記熱伝導性粒子は、複合粒子であってもよい。複合粒子にすることにより、エポキシ樹脂中の粒子濃度を減らすことができるので、粒子表面が上記エポキシ樹脂で被覆されやすくなることから、バッキング材170の成形時の気泡およびひびの発生を抑制し、また、ダイス時の容量変化を抑制することができる。
【0048】
上記複合粒子とは、上述した熱伝導性の材料からなる粒子が、これら以外の材料(たとえばエラストマー)と複合化された粒子である。上記複合粒子は、さらにフィラーなどを含んでいてもよい。
【0049】
上記エラストマーは、室温でゴム弾性を有する物質である。上記エラストマーは、熱硬化性エラストマーであってもよいし熱可塑性エラストマーであってもよい。
【0050】
上記熱可塑性エラストマーの例には、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリエーテルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、ポリスチレンエラストマー、ポリアクリルエラストマー、ポリジエンエラストマー、シリコーン変性ポリカーボネートエラストマー、およびフッ素共重合体エラストマーなどが含まれる。
【0051】
また、上記熱硬化性エラストマーの例には、柔軟性エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、および天然ゴムなどが含まれる。
【0052】
超音波プローブは高温ガス環境下などで殺菌されることから、上記エラストマーは、温度変化に対して変形や流動などを生じにくい熱硬化性エラストマーであることが好ましく、シリコーン樹脂であることがより好ましい。
【0053】
複合粒子は、複合粒子の材料の混合物を粉砕器によって粉砕することにより製造され得る。このとき、上記混合物をより粉砕されやすくして、複合粒子の製造をより容易にする観点や、バッキング材170の成形時に複合粒子が破損することによる気泡およびひびの発生を抑制する観点からは、上記エラストマーは、切断時の伸びが短く、硬度がより低い材料であることが好ましい。
【0054】
なお、上記複合粒子の粉砕は、常温での粉砕でもよいし、凍結粉砕でもよい。上記複合粒子の粉砕は、ターボミル、ピンミル、ハンマーミル、リンレックスミルなどの衝撃型粉砕機を用いることができる。また、凍結粉砕においては、液体窒素(約-196℃)雰囲気下で、上記複合粒子を脆化点以下に冷却した後、上記衝撃型粉砕機を用いて粉砕を行うことができる。凍結粉砕は、複合粒子に含まれる柔軟な成分(例えばシリコーン樹脂)が多い場合には、シリコーン樹脂のガラス転移温度(Tg)以下に冷却することができるため、容易に粉砕することができる。
【0055】
上記観点から、上記エラストマーは、引張破断強さが3.0MPa以下であることが好ましく、1.5MPa以下であることがより好ましい。また、上記観点から、上記エラストマーは、引張破断伸びが160%以下であることが好ましく、140%以下であることがより好ましい。上記エラストマーの引張破断強さおよび引張破断伸びは、JIS K 6251(2017年)に準じて測定して得られた値とすることができる。引張破断伸びの下限値は、特に限定されないものの、30%以上とすることができる。
【0056】
また、上記観点から、上記エラストマーは、タイプAデュロメーターにより測定される硬度が38以下であることが好ましく、32以下であることがより好ましい。上記エラストマーの硬度は、JIS K 6253-1(2012年)に準じて測定して得られた値とすることができる。
【0057】
また、粉砕時の剪断における上記エラストマーと他の材料(熱伝導性の材料およびフィラー)とが剥がれてしまうことによる、粒径の2ピーク化を抑制する観点から、上記エラストマーは、接着強度が0.3MPa以上であることが好ましく、0.5MPa以上であることがより好ましい。上記エラストマーの接着強度は、JIS K 6256-1(2013年)に準じて測定して得られた値とすることができる。
【0058】
また、上記他の材料との接着性をより高めて、上記剥がれによる粒径の2ピーク化を抑制する観点から、上記エラストマーは、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、およびアルミニウムカップリング剤などのカップリング剤を含有することが好ましい。上記エラストマーがシリコーン樹脂(特にはRTV(room temperature vulcanizing)シリコーン樹脂)であるときに、上記他の材料との接着性をさらに高める観点からは、上記カップリング剤は、分子内に二重結合を有するカップリング剤であることが好ましい。
【0059】
上記シランカップリング剤の市販品の例には、KBM-1003、KBM-1403、KBM-502、KBM-503、KBE-1003、KBE502、KBE-503、KBM-5103(いずれも信越化学工業株式会社製)などが含まれる。上記チタンカップリング剤の市販品の例には、プレンアクト55、プレンアクトTTS(いずれも味の素ファインテクノ株式会社製、「プレンアクト」は味の素株式会社の登録商標)、オルガチックスTC-100、オルガチックスTC-401、オルガチックスTC-710、オルガチックスTC-120(いずれもマツモトファインケミカル株式会社製、「オルガチックス」は同社の登録商標)などが含まれる。上記アルミニウムカップリング剤の市販品の例には、プレンアクトAL-M(味の素ファインテクノ株式会社製)などが含まれる。
【0060】
また、フィラーとの間の密度の差を大きくして、上記複合粒子による超音波の減衰率をより大きくする観点からは、上記エラストマーは、比重が1.1以下で在ることが好ましい。このようなエラストマーを、酸化タングステン(比重:7.16)や熱膨張マイクロカプセル(市販品の比重:たとえば0.03)と組み合わせることで、上記エラストマーとフィラーとの界面における超音波の散乱をより生じやすくして、上記複合粒子による超音波の減衰率をより大きくすることができる。
【0061】
上記フィラーの例には、無機粒子および中空粒子が含まれる。上記無機粒子の例には、フェライト、酸化タングステン、酸化イットリウム、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化ニッケル、酸化バリウム、酸化マンガン、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化タンタルおよびチタン酸バリウムなどが含まれる。また、上記中空粒子の例には、ガラスバルーン、中空シリカ、セノライト、フェノール樹脂マイクロバルーン、ユリア樹脂マイクロバルーンおよびポリメタクリル酸メチルバルーン、熱膨張マイクロカプセルなどが含まれる。上記フィラーは、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0062】
上記複合粒子は、公知の種々の方法により作製することができる。
【0063】
上記複合粒子である熱伝導性粒子の密度は、1.0~3.5g/cmであることが好ましく、1.5~3.0g/cmであることがより好ましい。上記複合粒子の密度が上記範囲にあると、上記複合粒子の添加量が少ない場合であっても、バッキング材の音響インピーダンスを所望の範囲に制御しやすくなる。
【0064】
上記複合粒子である熱伝導性粒子の数平均粒径は、100~500μmであることが好ましく、150~300μmであることがより好ましい。上記熱伝導性粒子の数平均粒径が上記範囲にあると、数平均粒径がより小さい粒子を用いたときと比較して、上記熱伝導性粒子がより分散しやすくなり、上記熱伝導性粒子の配向状態がより調整されやすくなる。
【0065】
1-5-3.非熱伝導性粒子
バッキング材170は、熱伝導性粒子の配向状態を調整して、音響特性を調整しやすくする観点からは、熱伝導性粒子に加えて非熱伝導性粒子を含有してもよい。特に、比較的粒径が大きい非熱伝導性粒子をバッキング材170が含有すると、非熱伝導性粒子の界面に沿って熱伝導性粒子を配向させることができる。これにより、熱伝導性粒子による熱の移動経路が形成され、熱伝導性粒子の量が少なくても、バッキング材170の熱伝導率を効率的に高めることができる。また、これにより、熱伝導性粒子の凝集が抑制され、バッキング材170の音響特性のばらつきも抑制される。また、非熱伝導性粒子の界面に沿って熱伝導性粒子を配向させることにより、熱伝導性粒子同士が凝集体を形成するのを抑制することができることから、バッキング材170の成形時の気泡およびひびの発生を抑制し、バッキング材170の耐久性を向上させ、また、ダイス時の容量変化を抑制することができる。なお、上記非熱伝導性粒子の数平均粒径は、100~350μmであることが好ましく、150~260μmであることがより好ましい。
【0066】
また、バッキング材170の音響特性を調整しやすくする観点から、非熱伝導性粒子は、複合粒子であることが好ましい。
【0067】
複合粒子である非熱伝導性粒子は、熱伝導性の材料を含まないこと以外は、上述した複合粒子である非熱伝導性粒子と同様の構成とすることができる。
【0068】
1-5-4.母材(マトリックス樹脂)
バッキング材170は、母材であるマトリックス樹脂を含有する。
【0069】
上記マトリックス樹脂は、合成ゴム、天然ゴム、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂であってもよいし、ポリエチレン、ナイロンなどの熱可塑性樹脂であってもよい。上記マトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、ナイロンであることが好ましい。
【0070】
上記エポキシ樹脂の例には、ビスフェノールA型およびビスフェノールF型などのビスフェノール型エポキシ樹脂、レゾールノボラック型およびフェノール変性ノボラック型などのノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン構造含有型、アントラセン構造含有型およびフルオレン構造含有型などの多環芳香族型エポキシ樹脂、水添脂環型エポキシ樹脂、ならびに液晶性エポキシ樹脂が含まれる。上記エポキシ樹脂は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、上記ナイロンの例には、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66が含まれる。
【0071】
上記マトリックス樹脂の原料となるエポキシ樹脂またはナイロンは、粉体粒子であることが好ましい。上記マトリックス樹脂の原料として、粉体粒子を用いることにより、バッキング材に含まれる熱伝導性粒子などの粒子の排除体積効果によって、上記粉体粒子を熱伝導性粒子の界面(表面)に沿って並べることができる。これにより、混合時に均一に分散させなくても、熱伝導性粒子を一定の間隔で配向させることができる。さらに、成形時の加圧により、熱伝導性粒子の配向を向上させることができる。これにより、バッキング材の熱伝導性を厚さ方向で30W/mkまで、横方向で6W/mkまで向上させることができる。
【0072】
また、上記マトリックス樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が30℃以上200℃以下であることが好ましく、50℃以上150℃以下であることがより好ましく、60℃以上100℃以下であることがさらに好ましい。上記熱硬化性樹脂のガラス転移温度(Tg)が80℃以上であると、超音波プローブ100の使用時にその内部の温度が50℃~60℃程度に高まったときにも、上記熱硬化性樹脂は所定の硬度を維持することができる。そのため母材が軟化してしまうことによるバッキング材170の変形を抑制することができる。また、上記熱硬化性樹脂のガラス転移温度(Tg)が200℃以下であると、バッキング材170の加工時に、その切断が容易である程度にバッキング材170を硬くし、かつ切断時に破損しない程度にバッキング材170の脆性を低くすることができる。
【0073】
なお、バッキング材170中の上記マトリックス樹脂の含有量は、バッキング材170の全体積に対して40体積%以上64体積%以下であることが好ましい。
【0074】
2.バッキング材の作製方法
バッキング材170は、上記マトリックス樹脂の原料と、上記熱伝導性樹脂と、非熱伝導性材料と、を混合して混合体を作製する工程と、上記混合体を成形する工程と、を有する方法により作製することができる。
【0075】
上記混合体は、上述したバッキング材170の構成に応じた割合で、上記マトリックス樹脂の原料、上記熱伝導性材料、上記非熱伝導性材料およびその他の添加剤を含有すればよい。
【0076】
あるいは、上記混合体は、上記マトリックス樹脂の原料と、上記熱伝導性樹脂と、上記非熱伝導性材料と、を含有する混合体であってもよい。
【0077】
あるいは、上記混合体は、粉体である上記マトリックス樹脂の原料と上記熱伝導性樹脂とを含有する混合体であってもよい。
【0078】
上記マトリックス樹脂の原料は、数平均粒径が10μm以上200μm以下の粉体粒子であることが好ましく、10μm以上100μm以下の粉体粒子であることがより好ましく、30μm以上70μm以下の粉体粒子であることがさらに好ましい。上記マトリックス樹脂の原料の数平均粒径を、添加する熱伝導性材料、複合粒子よりも小さくすることにより成形時にひびが入るのを抑制でき、上記原料を溶融させたときに、粒子間を隙間無く埋めることができる。
【0079】
また、上記マトリックス樹脂の原料が粉体であると、上記粉体の樹脂を熱伝導性粒子の界面(表面)に沿って並べることができるので、成形時に加圧されたバッキング材中の熱伝導性粒子を、バッキング材の厚さ方向に沿って配向させることができる。また、上記バッキング材は上記熱伝導性粒子が凝集している領域と、凝集していない領域と、を有することができる。これにより、熱伝導性粒子の配向を向上させることができるので、バッキング材の熱伝導性を厚さ方向で30W/mkまで、横方向で6W/mkまで向上させることができる。
【0080】
上記混合体は、上記マトリックス樹脂の原料が粉体状であるときは、十分に混合した上記混合体を型に入れて、真空に脱気しながら、厚さ方向に加圧しつつ加熱して、バッキング材170の形状に成形することができる。
【0081】
また、上記混合体は、上記マトリックス樹脂の原料が液体状であるときは、型に注入して十分に脱泡し、撹拌した後に加熱して、バッキング材170の形状に成形することができる。
【0082】
なお、上記マトリックス樹脂の原料が熱硬化性樹脂であるとき、上記混合体には硬化剤を添加することが好ましい。上記硬化剤の例には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジプロピレンジアミン、およびジエチルアミノプロピルアミンなどの鎖状脂肪族ポリアミン、N-アミノエチルピペラジン、メンセンジアミン、およびイソホロンジアミンなどの環状脂肪族ポリアミン、m-キシレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、およびジアミノジフェニルスルフォンなどの芳香族アミン、ポリアミド樹脂、ピペリジン、N,N-ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン、および2-(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの2級アミンまたは3級アミン、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、および1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウム・トリメリテートなどのイミダゾール類、液状ポリメルカプタンおよびポリスルフィド、ならびに、無水フタル酸、無水トリメリット酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、およびメチルヘキサヒドロフタル酸などの酸無水物が含まれる。硬化剤は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0083】
3.超音波診断装置
図3は、超音波プローブ100を備える超音波診断装置10の一例を示す模式図である。超音波診断装置10は、超音波プローブ100、本体部11、コネクタ部12およびディスプレイ13を備える。
【0084】
超音波プローブ100は、コネクタ部12に接続されたケーブル14を介して超音波診断装置10と接続される。
【0085】
超音波診断装置10からの電気信号(送信信号)は、ケーブル14を通じて超音波プローブ100の圧電素子110に送信される。この送信信号は、圧電素子110において超音波に変換され、生体内に送波される。送波された超音波は生体内の組織などで反射され、当該反射波の一部がまた圧電素子110に受波され電気信号(受信信号)に変換され、超音波診断装置10の本体部11に送信される。受信信号は、超音波診断装置10の本体部11において画像データに変換されディスプレイ13に表示される。
【0086】
本発明の超音波診断装置は、本発明の超音波プローブを有することから画質のよい超音波画像を生成することができる。
【実施例
【0087】
以下、本発明を以下の試験を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は以下の試験に限定されない。
【0088】
1.複合粒子の作製
以下の材料を用いて、複合粒子である非熱可塑性粒子および複合粒子である熱可塑性粒子を作製した。
【0089】
(エラストマー)
主剤1 :TSE3032(A)(モメンティブパフォーマンスマテリアルズ社製、加熱硬化型液状シリコーンゴム)
硬化剤1:TSE3032(B)(モメンティブパフォーマンスマテリアルズ社製)
主剤2 :TSE3033(A)(モメンティブパフォーマンスマテリアルズ社製、加熱硬化型液状シリコーンゴム)
硬化剤2:TSE3033(B)(モメンティブパフォーマンスマテリアルズ社製)
【0090】
(フィラー)
フィラー1:A2-WO(数平均粒径:7~12μm、株式会社アライドマテリアル社製、三酸化タングステン粉)
フィラー2:C3-WO(数平均粒径:15~20μm、株式会社アライドマテリアル社製、三酸化タングステン粉)
フィラー3:Expancel 920DE40d30(数平均粒径:35~55μm、日本フィライト株式会社製、熱膨張マイクロカプセル)
【0091】
なお、主剤1と硬化剤1とを反応させて得られるエラストマーの、JIS K 6251(2017年)に準じて測定して得られる引張破断強さは4.5MPaであり、JIS K 6251(2017年)に準じて測定して得られる引張破断伸びは210%であり、タイプAデュロメーターにより測定される硬度は35である。
【0092】
また、主剤2と硬化剤2とを反応させて得られるエラストマーの、JIS K 6251(2017年)に準じて測定して得られる引張破断強さは1.0MPaであり、JIS K 6251(2017年)に準じて測定して得られる引張破断伸びは130%であり、タイプAデュロメーターにより測定される硬度は30である。
【0093】
(熱伝導性の材料からなる粒子)
粒子1:iGrafen-α(数平均粒径:100μm、株式会社アイテック製、多層グラフェン)
【0094】
1-1.複合粒子1
100質量部の主剤1に、803質量部のフィラー1を添加し、真空混合機「ARV-310」(株式会社シンキー製)で十分に混合した。次いで、10質量部の硬化剤1を添加してよく混合し、混合物1を得た。
【0095】
混合物1を100mm×100mm×30mmの金型に投入し、真空電熱プレス機にて4.9MPa(50kg/cm)の圧力で、真空下、室温で3時間静置し、その後、50℃で3時間加熱して、ブロック1を作製した。ブロック1の密度は4.07g/cmであった。ブロック1を1cm角に切断し、常温で、カッターミル「VM-20」(槇野産業株式会社製)により粗粉砕した後、ピンミル「M-4」(株式会社奈良機械製作所製)にてスクリーン0.5mm、回転数2800rpmにて本粉砕を行い、最後に、円形振動篩機「KG-400」(株式会社西村機械製作所製、目空き212μm)でふるい、非熱伝導性粒子である複合粒子1を得た。
【0096】
複合粒子1の粒径分布は、レーザー式粒度分布測定機(LMS-30(株式会社セイシン企業製))を用い、測定用分散媒をイソプロピルアルコールとし、散乱強度の最適点を調整して、撹拌および超音波分散下で測定した。粒径を測定した結果、数平均粒径は112μmであった。
【0097】
1-2.複合粒子2
50質量部の主剤2に、365質量部のフィラー2と、0.91質量部のフィラー3とを添加し、真空混合機で十分に混合した。次いで、50質量部の硬化剤2を添加してよく混合し、混合物2を得た。
【0098】
混合物2を100mm×100mm×30mmの金型に投入し、真空電熱プレス機にて4.9MPa(50kg/cm)の圧力で、真空下、室温で3時間静置し、その後、50℃で3時間加熱して、ブロック2を作製した。ブロック2の密度は、2.29g/cmであった。ブロック2を1cm角に切断し、常温で、上記カッターミルにより粗粉砕した後、上記ピンミルにてスクリーン0.5mm、回転数2800rpmにて本粉砕を行い、最後に、上記円形振動篩機(目空き212μm)でふるい、非熱伝導性粒子である複合粒子2を得た。複合粒子1と同様にして、数平均粒径を測定した結果、数平均粒径は245μmであった。
【0099】
1-3.複合粒子3
50質量部の主剤2に、365質量部のフィラー2と、1.53質量部のフィラー3とを添加し、真空混合機で十分に混合した。次いで、50質量部の硬化剤2を添加してよく混合し、混合物3を得た。
【0100】
混合物3を100mm×100mm×30mmの金型に投入し、真空電熱プレス機にて4.9MPa(50kg/cm)の圧力で、真空下、室温で3時間静置し、その後、50℃で3時間加熱して、ブロック3を作製した。ブロック3の密度は、2.27g/cmであった。ブロック3を1cm角に切り、常温で、上記カッターミルにより粗粉砕した後、上記ピンミルにてスクリーン0.5mm、回転数2800rpmにて本粉砕を行い、最後に、上記円形振動篩機(目空き212μm)でふるい、熱伝導性粒子である複合粒子3を得た。複合粒子1と同様にして、数平均粒径を測定した結果、数平均粒径は253μmであった。
【0101】
1-4.複合粒子4
50質量部の主剤2に、153質量部のフィラー2と、3.96質量部のフィラー3とを添加し、真空混合機で十分に混合した。次いで、50質量部の硬化剤2を添加してよく混合し、混合物4を得た。
【0102】
混合物4を100mm×100mm×30mmの金型に投入し、真空電熱プレス機にて4.9MPa(50kg/cm)の圧力で、真空下、室温で3時間静置し、その後、50℃で3時間加熱して、ブロック4を作製した。ブロック4の密度は、1.40g/cmであった。ブロック4を1cm角に切り、常温で、上記カッターミルにより粗粉砕した後、上記ピンミルにてスクリーン0.5mm、回転数2800rpmにて本粉砕を行い、最後に、上記円形振動篩機(目空き212μm)でふるい、熱伝導性粒子であるの複合粒子4を得た。複合粒子1と同様にして、数平均粒径を測定した結果、数平均粒径は220μmであった。
【0103】
1-5.複合粒子5
50質量部の主剤2に、153質量部のフィラー2と、3.96質量部のフィラー3とを添加し、真空混合機で十分に混合した。次いで、50質量部の硬化剤2を添加してよく混合し、混合物5を得た。
【0104】
混合物5を100mm×100mm×30mmの金型に投入し、真空電熱プレス機にて4.9MPa(50kg/cm)の圧力で、真空下、室温で3時間静置し、その後、50℃で3時間加熱して、ブロック5を作製した。ブロック5の密度は、1.02g/cmであった。ブロック5を1cm角に切り、凍結粉砕を行い、最後に、上記円形振動篩機(目空き212μm)でふるい、熱伝導性粒子であるの複合粒子5を得た。複合粒子1と同様にして、数平均粒径を測定した結果、数平均粒径は254μmであった。
【0105】
上記凍結粉砕は、液体窒素(約-196℃)雰囲気下で、複合粒子を脆化点以下に冷却した後、ターボミル、ピンミル、ハンマーミル、リンレックスミルなどの衝撃型粉砕機を用いて粉砕を行うことができる。
【0106】
1-5.複合粒子6
100質量部の主剤2に、175質量部のフィラー2と、1.30質量部のフィラー3とを添加し、真空混合機で十分に混合した。次いで、10質量部の硬化剤2を添加してよく混合し、混合物6を得た。
【0107】
混合物6を100mm×100mm×30mmの金型に投入し、真空電熱プレス機にて4.9MPa(50kg/cm)の圧力で、真空下、室温で3時間静置し、その後、50℃で3時間加熱して、ブロック6を作製した。ブロック6の密度は、1.69g/cmであった。ブロック6を1cm角に切り、常温で、上記カッターミルにより粗粉砕した後、上記ピンミルにてスクリーン0.5mm、回転数2800rpmにて本粉砕を行い、最後に、上記円形振動篩機(目空き212μm)でふるい、熱伝導性粒子であるの複合粒子6を得た。複合粒子1と同様にして、数平均粒径を測定した結果、数平均粒径は233μmであった。
【0108】
1-5.複合粒子7
50質量部の主剤2に、365質量部のフィラー2と、1.53質量部のフィラー3と、50質量部の粒子1を添加し、真空混合機で十分に混合した。次いで、50質量部の硬化剤2を添加してよく混合し、混合物7を得た。
【0109】
混合物7を100mm×100mm×30mmの金型に投入し、真空電熱プレス機にて4.9MPa(50kg/cm)の圧力で、真空下、室温で3時間静置し、その後、50℃で3時間加熱して、ブロック7を作製した。ブロック7の密度は、2.35g/cmであった。ブロック7を1cm角に切り、常温で、上記カッターミルにより粗粉砕した後、上記ピンミルにてスクリーン0.5mm、回転数2800rpmにて本粉砕を行い、最後に、上記円形振動篩機(目空き212μm)でふるい、熱伝導性粒子であるの複合粒子7を得た。複合粒子1と同様にして、数平均粒径を測定した結果、数平均粒径は252μmであった。
【0110】
表1に、上記複合粒子1~7を構成する各成分の含有量、密度および数平均粒径を示す。
【0111】
【表1】
【0112】
2.バッキング材の作製
以下の材料を用いて、バッキング材を作製した。
【0113】
(マトリックス樹脂の原料)
主剤3 :Albidur EP2240(Evonic社製、液体エポキシ樹脂)
硬化剤3:jERキュア ST-12(三菱ケミカル株式会社製)
主剤4 :jER 828(三菱ケミカル株式会社製、液体エポキシ樹脂)
硬化剤4:jERキュア 113(三菱ケミカル株式会社製)
主剤5 :PCE-751(数平均粒径:45~50μm、ペルノックス株式会社製、粉体エポキシ樹脂)
主剤6 :F-246(数平均粒径:45μm、ソマール株式会社、粉体エポキシ樹脂)
主剤7 :リルサンファインパウダー(数平均粒径:30μm、アルケマ社製、粉体ナイロン11樹脂)
【0114】
(非熱伝導性粒子)
複合粒子1:上記作製した複合粒子1
複合粒子3:上記作製した複合粒子3
複合粒子5:上記作製した複合粒子5
【0115】
(熱伝導性粒子)
粒子1 :iGrafen-α(株式会社アイテック製、多層グラフェン)
複合粒子7:上記作製した複合粒子7
【0116】
なお、粒子1及び複合粒子7を構成する熱伝導性材料(多層グラフェン)の熱伝導率は1300W/mkである。
【0117】
また、粒子1の密度は2.2g/cmであり、複合粒子7の密度は2.35g/cmである。
【0118】
2-1.バッキング材1
76.0質量部の主剤3と、730質量部の複合粒子1と、を真空混合機で十分に混合した。さらに、24.0質量部の硬化剤3を添加して、さらに混合を行い、コンパウンドを得た。
【0119】
上記コンパウンドを100mm×100mm×30mmの金型に投入し、真空電熱プレス機「OHV-H」(王子機械株式会社製)で、9.9MPa(100kg/cm)の圧力で加圧した状態で、室温で4時間静置し、その後、80℃で3時間加熱し、バッキング材1を得た。
【0120】
2-2.バッキング材2
76.0質量部の主剤3と、97.0質量部の粒子1と、を真空混合機で十分に混合した。さらに、24.0質量部の硬化剤3を添加して、さらに混合を行い、コンパウンドを得た。
【0121】
上記コンパウンドを100mm×100mm×30mmの金型に投入し、上記真空電熱プレス機で、9.9MPa(100kg/cm)の圧力で加圧した状態で、室温で4時間静置し、その後、80℃で3時間加熱し、バッキング材2を得た。
【0122】
2-3.バッキング材3
76.0質量部の主剤4と、160.0質量部の複合粒子3と、13.8質量部の粒子1と、を真空混合機で十分に混合した。さらに、24.0質量部の硬化剤4を投入して、さらに混合を行い、コンパウンドを得た。
【0123】
上記コンパウンドを100mm×100mm×30mmの金型に投入し、上記真空電熱プレス機で、9.9MPa(100kg/cm)の圧力で加圧した状態で、室温で4時間静置し、その後、80℃で3時間加熱し、バッキング材3を得た。
【0124】
2-4.バッキング材4
75.8質量部の主剤4と、160.0質量部の複合粒子3と、35.0質量部の粒子1と、を真空混合機で十分に混合した。さらに、24.2質量部の硬化剤4を投入して、さらに混合を行い、コンパウンドを得た。
【0125】
上記コンパウンドを100mm×100mm×30mmの金型に投入し、上記真空電熱プレス機で、9.9MPa(100kg/cm)の圧力で加圧した状態で、80℃で1時間静置し、その後、150℃で3時間加熱し、バッキング材4を得た。
【0126】
2-5.バッキング材5
100質量部の主剤5と、160.0質量部の複合粒子3と、35.0質量部の粒子1と、をロッキングミキサーRM-10(愛知電機株式会社製)に投入し、回転を19rpm、揺動を11rpmにて20分混合を行い、粉体混合物を得た。
【0127】
上記粉体混合物をφ200mm×100mmの金型に投入し、上記真空電熱プレス機にて9.9MPa(100kg/cm)の圧力で加圧した状態で、150℃で4時間加熱し、バッキング材5を得た。
【0128】
2-6.バッキング材6
粒子1の添加量を35.0質量部から53.0質量部に変更した以外は、バッキング材5と同様にして、バッキング材6を得た。
【0129】
2-7.バッキング材7
100質量部の主剤5と、73.0質量部の複合粒子5と、35.0質量部の粒子1と、をロッキングミキサーRM-10(愛知電機株式会社製)に投入し、回転を19rpm、揺動を11rpmにて20分混合を行い、粉体混合物を得た。
【0130】
上記粉体混合物をφ200mm×100mmの金型に投入し、上記真空電熱プレス機にて9.9MPa(100kg/cm)の圧力で加圧した状態で、150℃で4時間加熱し、バッキング材7を得た。
【0131】
2-8.バッキング材8
100質量部の主剤6と、160.0質量部の複合粒子3と、53.0質量部の粒子1と、をロッキングミキサーRM-10(愛知電機株式会社製)に投入し、回転を19rpm、揺動を11rpmにて20分混合を行い、粉体混合物を得た。
【0132】
上記粉体混合物をφ200mm×100mmの金型に投入し、上記真空電熱プレス機にて9.9MPa(100kg/cm)の圧力で加圧した状態で、150℃で4時間加熱し、バッキング材8を得た。
【0133】
2-9.バッキング材9
100質量部の主剤7と、160.0質量部の複合粒子3と、53.0質量部の粒子1と、をロッキングミキサーRM-10(愛知電機株式会社製)に投入し、回転を19rpm、揺動を11rpmにて20分混合を行い、粉体混合物を得た。
【0134】
上記粉体混合物をφ200mm×100mmの金型に投入し、上記真空電熱プレス機にて9.9MPa(100kg/cm)の圧力で加圧した状態で、150℃で4時間加熱し、バッキング材9を得た。
【0135】
2-10.バッキング材10
100質量部の主剤5と、160.0質量部の複合粒子7と、53.0質量部の粒子1と、をロッキングミキサーRM-10(愛知電機株式会社製)に投入し、回転を19rpm、揺動を11rpmにて20分混合を行い、粉体混合物を得た。
【0136】
上記粉体混合物をφ200mm×100mmの金型に投入し、上記真空電熱プレス機にて9.9MPa(100kg/cm)の圧力で加圧した状態で、150℃で4時間加熱し、バッキング材10を得た。
【0137】
表2にバッキング材1~10を構成する各成分の含有量およびガラス転移温度(Tg)を示す。
【0138】
【表2】
【0139】
3.バッキング材の物性
上記バッキング材1~10の各物性(音響インピーダンス、減衰率、熱伝導率、音速)を、以下の方法で測定した。
【0140】
3-1.音響インピーダンス
音響インピーダンスは、JIS Z2353:2003に準拠して求めた。具体的には、シングアラウンド式音速測定装置(超音波工業株式会社製)を用いて、25℃において測定し、音響インピーダンスを以下の式(1)に従い算出した。
式(1) 音響インピーダンス(Z:Mrayls)=密度(ρ:×10kg/m)×音速(C:×10m/sec)
【0141】
3-2.減衰率
超音波の減衰率は、JIS Z2354:2012に準拠して求めた。具体的には、水槽中に25℃の水を満たし、超音波パルサ・レシーバー「JPR-10C」(ジャパンプローブ株式会社製)を用いて、水中で1MHzの超音波を発生させ、超音波がシートを透過する前と後の振幅の大きさを測定した。
【0142】
3-3.熱伝導率
熱伝導率は、JIS R1611:2010に準拠して、レーザーフラッシュ法で求めた。具体的には、バッキング材1~10(試験片の大きさ:φ10mm、t=2mm)の熱伝導率をLFA-502(京都電子工業株式会社製)にて測定を行った。
【0143】
3-4.音速
音速は、上述のJIS Z2353:2003に準拠して求めた音響インピーダンス(Z:Mrayls)の値を用いて、上記式(1)に従い算出した。
【0144】
バッキング材1~10の各物性を表3に示す。
【0145】
【表3】
【0146】
粉体の母材を含むバッキング材5~10は、液状のエポキシ樹脂を含むバッキング材1~4と比較して、高い減衰率を示すことがわかった。これは、熱伝導性粒子を複合粒子化することにより、粒子の配向を制御しやすくできたためと考えられる。これにより、熱伝導性粒子の含有量を低減した場合であっても、高い減衰率を得ることができる。ここで、バッキング材の減衰率が大きいほど、圧電体の背面側からの超音波の反射が少なくなるので、診断画像の劣化を引き起こすことを抑制できる。
【0147】
使用するマトリックス樹脂を液状のエポキシ樹脂から粉体エポキシ樹脂にすることにより、バッキング材5~10に示すような高い減衰率と、高い熱伝導性を有するバッキング材を得ることができた。バッキング材5~10は、熱伝導率が高いことから、圧電素子で発生した熱を効率よく放熱することができるので、被検体と接する音響レンズの過熱を抑制することができる。また、超音波の減衰率も大きいので、背面側に送波された超音波の反射を抑制することができることから、高画質な断層像を得ることができる。
【0148】
図4Aは、入力電圧を60Vppとしたときのバッキング材1、3および5の放熱効果を示すグラフである。図4Bは、入力電圧を100Vppとしたときのバッキング材1、3および5の放熱効果を示すグラフである。なお、図4Aおよび図4Bに示される、音響レンズの上昇温度の測定は、サーモグラフィ「FLIRC2」(フリアーシステムズ社製)を用いて測定して得られた値である。
【0149】
図4Aおよび4Bより、本発明のバッキング材を用いると、高い電圧をかけた場合であっても、音響レンズの発熱は軽減されていたことがわかる。これは、熱伝導性粒子を複合粒子化することにより、使用する熱伝導性粒子を少なくすることができるためであると考えられる。
【0150】
(バッキング材の加工性)
上記バッキング材1~10の成形性、耐久性、ダイス性を評価した。
【0151】
(成形性)
上述した方法で、直径50mm、高さ20mmに成形したバッキング材1~10を用いて評価を行った。
【0152】
(評価方法)
ワイヤーソー「CS-203」(ムサシノ電子株式会社製)により切断し、さらに精密研磨装置「MA-200」(ムサシノ電子株式会社製)で厚み10mmに研磨した、上記バッキング材1~16を光学顕微鏡および目視で観察し、気泡やひびの入り具合を確認した。なお、Bまでを合格とした。
【0153】
(評価基準)
A:気泡、ひびの発生はなく、粒子の偏りもない
B:気泡、ひびの発生は3個未満であり、粒子の偏りはない
C:気泡、ひびの発生は6個未満であり、一部の粒子の偏りが発生している
D:気泡、ひびの発生は6個以上であり、粒子の偏りが発生している
【0154】
(耐久性)
上述した方法で作製したバッキング材1~10をそれぞれ30mm×30mm×1mmの大きさに切断した。これをテスト片として、50℃のオレイン酸につけて膨潤状況の確認を行った。なお、Bまでを合格とした。
【0155】
(評価基準)
A:膨潤度が3%未満
B:膨潤度が3%以上5%未満
C:膨潤度が5%以上10%未満
D:膨潤度が10%以上
【0156】
(ダイス性)
TD形状に整合層、圧電材、フレキシブルプリント基板(FPC)、バッキング材などを接着し、20μmのブレードで50μmピッチにアスペクト比6程度(合計300μm膜厚)でダイスしたものを500個作製し、500個のうち、容量が理論値よりも変化しているものの個数を確認した。なお、C以上を合格とした。
【0157】
(評価基準)
A:3/500未満
B:10/500未満
C:200/500未満
D:200/500以上
【0158】
バッキング材1~10の成形性、耐久性、ダイス性を表4に示す。
【0159】
【表4】
【0160】
マトリックス樹脂の原料として粉体の樹脂を用いることにより、成形性、耐久性、ダイス性に優れたバッキング材を得ることができた。これは、マトリックス樹脂の原料が粉体粒子であると、バッキング材に含まれる熱伝導性粒子などの粒子のまた、混合時に均一に分散させなくても、熱伝導性粒子を一定の間隔で配向させることができるためであると考えられる。さらに、成形時の加圧により、熱伝導性粒子の配向を向上させることができるためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明の超音波プローブは、バッキング材による放熱性が高く、かつバッキング材の熱伝導性を高めたことによる画質の劣化が少ないため、より高電圧での撮像が可能となり、より高感度化した超音波装置の超音波プローブとして有用である。
【符号の説明】
【0162】
10 超音波診断装置
11 本体部
12 コネクタ部
13 ディスプレイ
14 ケーブル
100 超音波プローブ
110 圧電素子
120 接地電極
130 信号電極
140 信号用電気端子
150 音響マッチング層
150a 第1の音響マッチング層
150b 第2の音響マッチング層
150c 第3の音響マッチング層
160 音響レンズ
170 バッキング材
図1
図2
図3
図4