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特許7395983発光サイリスタ、発光素子チップ、光プリントヘッド、及び画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】発光サイリスタ、発光素子チップ、光プリントヘッド、及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/14 20100101AFI20231205BHJP
   B41J 2/447 20060101ALI20231205BHJP
   B41J 2/45 20060101ALI20231205BHJP
   H01L 29/74 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
H01L33/14
B41J2/447 101A
B41J2/45
H01L29/74 E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019210078
(22)【出願日】2019-11-21
(65)【公開番号】P2021082745
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116964
【弁理士】
【氏名又は名称】山形 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100120477
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 賢改
(74)【代理人】
【識別番号】100135921
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100083840
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 実
(72)【発明者】
【氏名】川田 寛人
(72)【発明者】
【氏名】十文字 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】谷川 兼一
(72)【発明者】
【氏名】松尾 元一郎
(72)【発明者】
【氏名】古田 裕典
【審査官】大和田 有軌
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-110230(JP,A)
【文献】特開2016-039338(JP,A)
【文献】国際公開第2019/176498(WO,A1)
【文献】特開2016-152244(JP,A)
【文献】特開2016-039317(JP,A)
【文献】特開2015-018985(JP,A)
【文献】特開2012-129388(JP,A)
【文献】特開2009-260246(JP,A)
【文献】特開2007-096160(JP,A)
【文献】特開2006-253220(JP,A)
【文献】特開2004-179368(JP,A)
【文献】米国特許第05116455(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 - 33/64
H01S 5/00 - 5/50
H01L 21/205
H01L 21/332
H01L 29/74 - 29/749
B41J 2/435- 2/465
G03G 15/04 - 15/047
H04N 1/024- 1/036
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性層を含むP型の第1半導体層と、
前記第1半導体層と隣接して形成されたN型の第2半導体層と、
前記第2半導体層と隣接して形成されたP型の第3半導体層と、
前記第3半導体層と隣接して形成されたN型の第4半導体層と、
前記第1半導体層と電気的に接続された第1の電極と、
前記第2半導体層又は前記第3半導体層と電気的に接続された第2の電極と、
前記第4半導体層と電気的に接続された第3の電極と、
を有し、
前記第1半導体層は、不純物としてCが添加されている1つ以上のC含有層として、第1のC含有層を含み、
前記第1半導体層および前記第3半導体層は、不純物としてZnが添加されている1つ以上のZn含有層を含み
前記第1半導体層は、前記Zn含有層として、第1のZn含有層と、前記第1のZn含有層とZn不純物濃度が異なる第2のZn含有層とを含み、
前記第3半導体層は、前記Zn含有層として、第3のZn含有層を含み、
前記1つ以上のZn含有層の各々の厚さ[μm]と前記Zn含有層のZn濃度[E+18cm-3]との積として得られた1つ以上の値の合計値である第1の値は、0.15[E+18μm・cm-3]以上9.21[E+18μm・cm-3]以下である
ことを特徴とする発光サイリスタ。
【請求項2】
前記1つ以上のC含有層の各々の厚さ[μm]とC濃度[E+18cm-3]との積として得られた1つ以上の値の合計値である第2の値は、17.5[E+18μm・cm-3]以上26.5[E+18μm・cm-3]以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の発光サイリスタ。
【請求項3】
前記第1のC含有層は、前記第1の電極に接続されたアノード層であり、
前記第1のZn含有層は、前記アノード層に隣接して形成され、前記アノード層のバンドギャップよりも高いバンドギャップを有する電子バリア層であり、
前記第2のZn含有層は、前記電子バリア層に隣接して形成され、前記第2半導体層に隣接する前記活性層である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の発光サイリスタ。
【請求項4】
前記第1半導体層に含まれる前記1つ以上のZn含有層は、
前記第1のC含有層に隣接して形成された前記第1のZn含有層と、
前記第1のZn含有層に隣接して形成された前記第2のZn含有層と、
前記第2のZn含有層に隣接して形成され、不純物としてZnが添加されている第のZn含有層と、
前記第のZn含有層に隣接して形成され、不純物としてZnが添加されており、前記第2半導体層に隣接する第のZn含有層と、
を有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の発光サイリスタ。
【請求項5】
前記第1のC含有層は、アノード導通層であり、
前記第1のZn含有層は、前記アノード導通層に隣接して形成され、前記第1の電極に接続されたアノードコンタクト層であり、
前記第2のZn含有層は、前記アノードコンタクト層に隣接して形成されたエッチングストップ層であり、
前記第のZn含有層は、前記エッチングストップ層に隣接して形成され、前記アノード導通層のバンドギャップよりも高いバンドギャップを有する電子バリア層であり、
前記第のZn含有層は、前記電子バリア層に隣接して形成され、前記第2半導体層に隣接する前記活性層である
ことを特徴とする請求項4に記載の発光サイリスタ。
【請求項6】
基材と、
前記基材上に配置された請求項1から5のいずれか1項に記載の発光サイリスタと、
を有することを特徴とする発光素子チップ。
【請求項7】
請求項6に記載の発光素子チップを有することを特徴とする光プリントヘッド。
【請求項8】
請求項7に記載の光プリントヘッドを有することを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光サイリスタ、発光素子チップ、光プリントヘッド、及び画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、3端子発光素子である発光サイリスタの発光量を増加させるために、1×1019cm-3以上の高濃度の不純物(ドーパント)を含有する活性層をP型エミッタ内に設ける構造を提案している。P型不純物としては、例えば、Zn(亜鉛)が使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-110230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高濃度の不純物を含有するP型半導体層を有する発光サイリスタには、信頼性が低下するという課題がある。この課題は、P型半導体層を成長させるプロセスにおいて成長炉内に残留するZn原料が、N型半導体層を成長させるプロセスにおいてN型半導体層に取り込まれてしまうことで生じると考えられる。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、発光サイリスタの信頼性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る発光サイリスタは、活性層を含むP型の第1半導体層と、前記第1半導体層と隣接して形成されたN型の第2半導体層と、前記第2半導体層と隣接して形成されたP型の第3半導体層と、前記第3半導体層と隣接して形成されたN型の第4半導体層と、前記第1半導体層と電気的に接続された第1の電極と、前記第2半導体層又は前記第3半導体層と電気的に接続された第2の電極と、前記第4半導体層と電気的に接続された第3の電極と、を有し、前記第1半導体層は、不純物としてCが添加されている1つ以上のC含有層として、第1のC含有層を含み、前記第1半導体層および前記第3半導体層は、不純物としてZnが添加されている1つ以上のZn含有層を含み前記第1半導体層は、前記Zn含有層として、第1のZn含有層と、前記第1のZn含有層とZn不純物濃度が異なる第2のZn含有層とを含み、前記第3半導体層は、前記Zn含有層として、第3のZn含有層を含み、前記1つ以上のZn含有層の各々の厚さ[μm]と前記Zn含有層のZn濃度[E+18cm-3]との積として得られた1つ以上の値の合計値である第1の値は、0.15[E+18μm・cm-3]以上9.21[E+18μm・cm-3]以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発光サイリスタの信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1の実施形態に係る発光素子チップの構造を概略的に示す平面図である。
図2】第1の実施形態に係る発光素子チップの構造を概略的に示す断面図である。
図3図2に示されるP型の第1及び第3半導体層の構成例を表1として示す図である。
図4】成長基材上に半導体薄膜を成長させる工程を示す断面図である。
図5】成長基材から成長した半導体薄膜を剥がす工程を示す断面図である。
図6】基材上に発光サイリスタの構成材料である半導体薄膜を接合した状態を示す断面図である。
図7】比較例の発光素子チップの構造を概略的に示す断面図である。
図8図7に示されるP型の第1及び第3半導体層の構成例を表2として示す図である。
図9】本発明の第2の実施形態に係る発光素子チップの構造を概略的に示す断面図である。
図10図9に示されるP型の第1及び第3半導体層の構成例を表3として示す図である。
図11】本発明の第3の実施形態に係る発光素子チップの構造を概略的に示す平面図である。
図12】第3の実施形態に係る発光素子チップの構造を概略的に示す断面図である。
図13図12に示されるP型の第1及び第3半導体層の構成例を表4として示す図である。
図14】本発明の第4の実施形態に係る発光素子チップの構造を概略的に示す斜視図である。
図15図14に示される発光素子チップを有する光プリントヘッドの構造を概略的に示す断面図である。
図16】本発明の第5の実施形態に係る画像形成装置の構造を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態に係る発光サイリスタ、発光素子チップ、光プリントヘッド、及び画像形成装置を、図面を参照しながら説明する。以下の実施の形態は、例にすぎず、本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0010】
《1》第1の実施形態
《1-1》第1の実施形態の構成
図1は、本発明の第1の実施形態に係る発光素子チップ10の構造を概略的に示す平面図である。図2は、発光素子チップ10の構造を概略的に示す断面図である。図2は、図1に示される発光素子チップ10をA1-A2-A3線で切る断面を示している。図1及び図2に示されるように、第1の実施形態に係る発光素子チップ10は、発光サイリスタの主要部である半導体薄膜100を有している。半導体薄膜100は、P型の第1半導体層1001と、第1半導体層1001と隣接して形成されたN型の第2半導体層1002と、第2半導体層1002と隣接して形成されたP型の第3半導体層1003と、第3半導体層1003と隣接して形成されたN型の第4半導体層1004とを有している。
【0011】
P型の第1半導体層1001は、不純物としてC(炭素)が添加されている複数のC含有層として、アノード層101、電子バリア層103、及び活性層104を含む。N型の第2半導体層1002は、正孔バリア層105及びN型ゲート層106を含む。P型の第3半導体層1003は、不純物としてZn(亜鉛)が添加されている1つ以上のZn含有層としてP型ゲート層107を含む。N型の第4半導体層1004は、カソード層108を含む。図2には、不純物としてCが添加されている3つのC含有層、すなわち、アノード層101、電子バリア層103、及び活性層104が示されているが、C含有層の数は、1以上であれば特に限定されない。
【0012】
アノード層101上には、アノード電極110が形成され、アノード電極110は、アノード配線113に接続されている。P型ゲート層107上には、ゲート電極111が形成されている。カソード層108上には、カソード電極112が形成され、カソード電極112上はカソード配線114に接続されている。なお、図1において、絶縁層135は図示されていない。なお、図1において、アノード接続パッド131、ゲート接続パッド132、カソード接続パッド133、外部接続パッド163は、発光サイリスタを駆動するための駆動回路を含む駆動IC部161上に形成されている。
【0013】
半導体薄膜100を構成する半導体材料は、例えば、InP(インジウム・リン)系半導体材料、AlGaAs(アルミニウム・ガリウム・ヒ素)系半導体材料、及びAlInGaP(アルミニウム・インジウム・ガリウム・ヒ素)系半導体材料などのいずれかである。
【0014】
半導体薄膜100として、AlGaAs系半導体材料を用いる場合の各半導体層の例を以下に示す。この場合、アノード層101は、P型Al0.25Ga0.75As層であり、電子バリア層103は、P型Al0.4Ga0.6As層であり、活性層104は、P型Al0.15Ga0.85As層である。正孔バリア層105は、N型Al0.4Ga0.6As層であり、N型ゲート層106は、N型Al0.15Ga0.85As層である。P型ゲート層107は、P型Al0.15Ga0.85As層である。カソード層108は、N型Al0.25Ga0.75As層である。また、アノード電極110、ゲート電極111、及びカソード電極112は、AlGaAsとオーミックコンタクトを形成することができるTi(チタン)、Pt(白金)、Au(金)、Ge(ゲルマニウム)、Ni(ニッケル)、Zn等の金属、又はそれらの合金、又はそれら金属若しくは合金の積層構造、などである。絶縁層135は、SiN(窒化シリコン)膜若しくはSiO(酸化シリコン)膜などの無機絶縁膜、又はポリイミドなどの有機絶縁膜である。なお、半導体薄膜100の構造及び組成は、上記例のものに限定されない。
【0015】
電子バリア層103及び正孔バリア層105は、アノード層101及びカソード層108よりもAl組成比が大きく、バンドギャップが高い層である。
【0016】
P型の活性層104とアノード層101との間にAl組成比が高く、バンドギャップが高い電子バリア層103を設ける理由は、電子バリア層103のバンドギャップが、P型の活性層104において電子バリア層103に向かって進む電子の障壁層として働き、活性層104における電子の閉じ込め効果を向上させることができ、活性層104内での再結合を増加させることができるからである。
【0017】
P型の活性層104とN型ゲート層106との間にAl組成比が高く、バンドギャップが高い正孔バリア層105を設ける理由は、正孔バリア層105のバンドギャップが、カソード層108のバンドギャップよりも大きい場合には、活性層104内においてカソード層108に向かって移動する正孔に対してエネルギー障壁が生じるからである。つまり、バンドギャップが高い正孔バリア層105は、正孔の通過を制限する障壁層としての機能を持つので、正孔が活性層104から抜け出てしまうことを抑制することができる。このため、活性層104における正孔の量の減少は抑制され、活性層104における正孔と電子の再結合の発生確率が高くなる。
【0018】
図3は、図2に示されるP型の半導体層である第1半導体層1001及び第3半導体層1003の構成例を表1として示す図である。図3に示されるように、アノード層101は、その厚さT101が0.9μm、Zn不純物濃度DZ101が0、C不純物濃度DC101が25[E+18cm-3]、Zn換算流量FZ101(=T101×DZ101)が0、C換算流量FC101(=T101×DC101)が22.5[E+18μm・cm-3]である。ここで、E+18は、1018を意味する。
【0019】
電子バリア層103は、その厚さT103が0.1μm、Zn不純物濃度DZ103が0、C不純物濃度DC103が10[E+18cm-3]、Zn換算流量FZ103(=T103×DZ103)が0、C換算流量FC103(=T103×DC103)が10[E+18μm・cm-3]である。
【0020】
活性層104は、その厚さT104が0.3μm、Zn不純物濃度DZ104が0、C不純物濃度DC104が10[E+18cm-3]、Zn換算流量FZ104(=T104×DZ104)が0、C換算流量FC104(=T104×DC104)が10[E+18μm・cm-3]である。
【0021】
P型ゲート層107は、その厚さT107が0.15μm、Zn不純物濃度DZ107が1[E+18cm-3]、C不純物濃度DC107が0、Zn換算流量FZ107(=T107×DZ107)が0.15[E+18μm・cm-3]、C換算流量(=T107×DC107)が0である。
【0022】
図3に示されるように、第1の実施形態に係る発光サイリスタでは、アノード層101、電子バリア層103、及び活性層104をCドープされた半導体層としている。
【0023】
また、第1の実施形態に係る発光サイリスタでは、P型ゲート層107の厚さT107[μm]とZn不純物濃度DZ107[E+18cm-3]との積である第1の値としてのZn換算流量FZ107は、0.15[E+18μm・cm-3]である。
【0024】
さらに、第1の実施形態に係る発光サイリスタでは、アノード層101、電子バリア層103、及び活性層104の各々の厚さT101、T103、T104[μm]とC不純物濃度DC101、DC103、DC104[E+18cm-3]との積として得られた値の合計値(=T101×DC101+T103×DC103+T104×DC104=22.5+1+3)である第2の値としてのC換算流量FCは、26.5[E+18μm・cm-3]である。
【0025】
図4は、成長基材(「母材基板」とも言う)であるGaAs基材上に半導体薄膜100を成長させる工程を示す断面図である。図5は、成長基材上に成長した半導体薄膜100を剥がす工程を示す断面図である。図6は、成長基材とは異なる基材上に発光サイリスタの構成材料である半導体薄膜100を接合した状態を示す断面図である。
【0026】
図4に示されるように、成長基材121上には、半導体薄膜100をエピタキシャル成長させるためのバッファ層となるGaAs層122と、半導体薄膜100を成長基材121から剥離するためのエッチング層となるAlGa1-xAs層であり、例えば、x=1の場合のAlAs層123とが備えられている。図4に示されるように、成長炉内においてエピタキシャル成長によって半導体薄膜100の各層が成長基材121側から順に形成される。なお、図4に示される半導体薄膜100は、図2に示される半導体薄膜の加工前のものである。また、半導体薄膜100の構造及び組成は、発光サイリスタに要求される特性に応じて変更可能である。
【0027】
次に、図5に示されるように、エッチング層123を選択的にエッチングすることで、半導体薄膜100を成長基材121上のGaAs層122から剥離可能にする。次に、図6に示されるように、基材の平坦化層162に、剥離された半導体薄膜100を置く。図6は、成長基材121から剥離させた半導体薄膜100を異種基板に接合した形態を示している。異種基板としては、例えば、Si基板、IC(集積回路)基板、ガラス基板、セラミック基板、プラスティック基板、金属基板、などを使用することができる。第1の実施形態では、半導体薄膜100は、発光サイリスタを駆動する駆動ICを有する駆動IC部161上に接合されている。なお、平坦化層162は、駆動IC部161と半導体薄膜100との間に設けられ別の材料であり、表面が平坦化されている。
【0028】
半導体薄膜100を平坦化層162上に接合した後、公知のフォトリソグラフィ工程及びエッチング工程等を実施することにより、図1及び図2に示される構造の発光サイリスタを形成する。
【0029】
《1-2》第1の実施形態の動作
第1の実施形態に係る発光サイリスタでは、ゲート電極111からカソード電極112へ電流を流すことにより、アノード電極110とカソード電極112間を導通させる。このとき、電子バリア層103と正孔バリア層105がそれぞれ電子と正孔の障壁となるため、活性層104内の電子濃度及び正孔濃度を増加させ、活性層において高確率で電子と正孔が再結合する。再結合により発光した光は、カソード層108上面から出射する。
【0030】
《1-3》比較例
図7は、比較例の発光素子チップ10aの構造を概略的に示す断面図である。図8は、図7に示されるP型の第1半導体層1001a及び第3半導体層1003の構成例を表2として示す図である。比較例の発光素子チップ10aは、半導体薄膜100aの第1半導体層1001aの不純物がZnである点において、第1の実施形態に係る発光素子チップ10と異なる。
【0031】
図8に示されるように、アノード層101aは、その厚さT101aが0.9μm、Zn不純物濃度DZ101aが25[E+18cm-3]、Zn換算流量FZ101a(=T101a×DZ101a)が22.5[E+18μm・cm-3]、C換算流量が0である。
【0032】
電子バリア層103aは、その厚さT103aが0.1μm、Zn不純物濃度DZ103aが20[E+18cm-3]、Zn換算流量FZ103a(=T103a×DZ103a)が2[E+18μm・cm-3]、C換算流量が0である。
【0033】
活性層104aは、その厚さT104aが0.3μm、Zn不純物濃度DZ104aが10[E+18cm-3]、Zn換算流量FZ104a(=T104a×DZ104a)が3[E+18μm・cm-3]、C換算流量が0である。
【0034】
P型ゲート層107は、その厚さT107が0.15μm、Zn不純物濃度DZ107が1[E+18cm-3]、Zn換算流量FZ107(=T107×DZ107)が0.15[E+18μm・cm-3]、C換算流量が0である。
【0035】
比較例の発光素子チップ10aでは、Zn換算流量FZの合計値は、27.65[E+18μm・cm-3]であり、C換算流量FCの合計値は、0である。
【0036】
比較例の発光素子チップ10aの各半導体層を成長させる工程では、結晶性を向上させるために全ての半導体層は同一の高温条件で成長される。図8に示されるZn換算流量は、各半導体層における厚さ[μm]と不純物濃度[E+18cm-3]の積[E+18μm・cm-3]である。比較例の発光素子チップ10aにおいて、各半導体層のZn換算流量の合計は、27.65[E+18μm・cm-3]である。本構造で複数バッチの連続成長を行うと、成長炉内に残留するZn原料が増加してN型半導体層に取り込まれるZnバックグラウンド濃度も増加していると考えられる。活性層104aの直上に成長される正孔バリア層105及びN型ゲート層106に取り込まれたZnがN型キャリアを補償することによって、キャリア濃度が低下して発光サイリスタ100aの耐圧が低下すると考えられる。
【0037】
一方、P型不純物であるZnをすべてCに置き換えた構造では、原料由来のC-H結合がP型半導体層内に一定割合で存在する。エミッタに比べて不純物濃度が低いP型ゲート層107において、このC-H結合の数が通電などによって経時的に減少すると、P型ゲート層107のキャリア濃度が増加して発光サイリスタ100aのスイッチング特性が悪化する。
【0038】
第1の実施形態に係る発光サイリスタは、第1半導体層1001が、不純物としてCが添加されている1つ以上のC含有層(101、103、104)を含み、第3半導体層1003は、不純物としてZnが添加されているZn含有層(107)を含み、Zn含有層(107)の厚さ[μm]とZn含有層(107)のZn濃度[E+18cm-3]との積である第1の値は、
(第1の条件)
0.15[E+18μm・cm-3]以上9.21[E+18μm・cm-3]以下
を満たす。なお、第1の条件の上限値9.21[E+18μm・cm-3]は、後述の第3の実施形態において説明される。このような特徴を有することによって、図4に示される半導体薄膜100の連続成長時のZnバックグラウンド濃度増加によるN型ゲート層のキャリア濃度低下と、経時的なP型ゲート層のキャリア濃度増加を抑制することで、従来よりも発光サイリスタの信頼性を向上させることができる。
【0039】
また、第1の実施形態に係る発光サイリスタは、アノード層101、電子バリア層103、活性層104の各々の厚さT101、T103、T104[μm]とC濃度D101、D103、D104[E+18cm-3]との積として得られた値の合計値である第2の値は、26.5[E+18μm・cm-3]であり、
(第2の条件)
17.5[E+18μm・cm-3]以上26.5[E+18μm・cm-3]以下
を満たす。なお、第2の条件の下限値17.5[E+18μm・cm-3]は、後述の第3の実施形態において説明される。このような特徴を有することによって、P型ゲート層107におけるC-H結合の数が通電などによって経時的に減少し、P型ゲート層107のキャリア濃度が増加して発光サイリスタ100aのスイッチング特性が悪化することを回避することができる。
【0040】
《1-4》第1の実施形態の効果
第1の実施形態では、Znバックグラウンド濃度の増加による正孔バリア層105及びN型ゲート層106のキャリア濃度の低下を抑制することができる。
【0041】
また、P型不純物の濃度は、比較例の構造と等しくすることができるため、発光サイリスタのデバイス特性は従来と同等となる。したがって、従来と同等の発光特性及び電気特性を得ながら、耐圧を良好に保つことが可能となる。
【0042】
《2》第2の実施形態
《2-1》第2の実施形態の構成
図9は、第2の実施形態に係る発光素子チップ20の構造を概略的に示す断面図である。図9は、図1に示される発光素子チップをA1-A2-A3線で切る断面に相当する。図9に示されるように、第2の実施形態に係る発光素子チップ20は、発光サイリスタの主要部である半導体薄膜200を有している。半導体薄膜200は、P型の第1半導体層2001と、第1半導体層2001と隣接して形成されたN型の第2半導体層2002と、第2半導体層2002と隣接して形成されたP型の第3半導体層2003と、第3半導体層2003と隣接して形成されたN型の第4半導体層2004とを有している。
【0043】
P型の第1半導体層2001は、不純物としてCが添加されている1つのC含有層としてアノード層201と、不純物としてZnが添加されているZn含有層である電子バリア層203と、不純物としてZnが添加されているZn含有層である活性層204とを含む。N型の第2半導体層2002は、正孔バリア層205及びN型ゲート層206を含む。P型の第3半導体層2003は、不純物としてZnが添加されている1つ以上のZn含有層としてP型ゲート層207を含む。N型の第4半導体層2004は、カソード層208を含む。図2には、不純物としてCが添加されている1つのC含有層、すなわち、アノード層201が示されているが、C含有層の数は、1以上であれば特に限定されない。
【0044】
アノード層201上には、アノード電極210が形成され、アノード電極210は、アノード配線213に接続されている。P型ゲート層207上には、ゲート電極211が形成されている。カソード層208上には、カソード電極212が形成され、カソード電極212上はカソード配線214に接続されている。なお、絶縁層235は、半導体薄膜200の電極以外の領域を覆う。
【0045】
半導体薄膜200として、AlGaAs系半導体材料を用いる場合の各半導体層の例を以下に示す。この場合、アノード層201は、P型Al0.25Ga0.75As層であり、電子バリア層203は、P型Al0.4Ga0.6As層であり、活性層204は、P型Al0.15Ga0.85As層である。正孔バリア層205は、N型Al0.4Ga0.6As層であり、N型ゲート層206は、N型Al0.15Ga0.85As層である。P型ゲート層207は、P型Al0.15Ga0.85As層である。カソード層208は、N型Al0.25Ga0.75As層である。アノード電極210、ゲート電極211、及びカソード電極212は、第1の実施形態におけるものと同様の構造を持つ。第1の実施形態では、アノード層101、電子バリア層103、及び活性層104をCドープされた半導体層で形成していたが、第2の実施形態では、アノード層201のみCドープされた半導体層である。
【0046】
図10は、図9に示されるP型の半導体層である第1半導体層2001及び第3半導体層2003の構成例を表3として示す図である。図10に示されるように、アノード層201は、その厚さT201が0.9μm、Zn不純物濃度DZ201が0、C不純物濃度DC201が25[E+18cm-3]、Zn換算流量FZ201(=T201×DZ201)が0、C換算流量FC201(=T201×DC201)が22.5[E+18μm・cm-3]である。
【0047】
電子バリア層203は、その厚さT203が0.1μm、Zn不純物濃度DZ203が10[E+18cm-3]、C不純物濃度DC203が0、Zn換算流量FZ203(=T203×DZ203)が1[E+18μm・cm-3]、C換算流量FC203(=T203×DC203)が0である。
【0048】
活性層204は、その厚さT204が0.3μm、Zn不純物濃度DZ204が10[E+18cm-3]、C不純物濃度DC204が0、Zn換算流量FZ204(=T204×DZ204)が3[E+18μm・cm-3]、C換算流量FC204(=T204×DC204)が0である。
【0049】
P型ゲート層207は、その厚さT207が0.15μm、Zn不純物濃度DZ207が1[E+18cm-3]、C不純物濃度DC207が0、Zn換算流量FZ207(=T207×DZ207)が0.15[E+18μm・cm-3]、C換算流量(=T207×DC207)が0である。
【0050】
図10に示されるように、第2の実施形態に係る発光サイリスタでは、アノード層201のみをCドープされた半導体層としている。
【0051】
また、第2の実施形態に係る発光サイリスタでは、P型ゲート層の厚さ[μm]とZn不純物濃度[E+18cm-3]との積の合計値である第1の値としてのZn換算流量は、4.15[E+18μm・cm-3](=0.15+3+1)であり、上記第1の条件を満たしている。第2の実施形態では、Zn換算流量の合計が4.15[E+18μm・cm-3]であり、比較例の構造の値の15%程度である。
【0052】
さらに、第2の実施形態に係る発光サイリスタでは、アノード層201の厚さ[μm]とC不純物濃度[E+18cm-3]との積として得られた値の合計値である第2の値としてのC換算流量FCは、22.5[E+18μm・cm-3]であり、上記第2の条件を満たしている。
【0053】
《2-2》第2の実施形態の動作
第2の実施形態に係る発光サイリスタの動作は、第1の実施形態のものと同じである。
【0054】
《2-3》第2の実施形態の効果
第2の実施形態では、Znバックグラウンド濃度の増加による正孔バリア層205及びN型ゲート層206のキャリア濃度の低下を抑制することができる。
【0055】
また、活性層をCドープした構造で発光サイリスタを形成してDC通電試験を行うと、発光サイリスタの光量が10%程度変動することがあるのに対して、活性層204をZnドープした構造で同条件の試験を行うと、発光サイリスタの光量変動は、5%以下であった。これは、Cドープした活性層におけるC-H結合の数が、通電により変化すること活性層のキャリア濃度が大きく変化して大きな光量変動が生じたことが理由と考えられる。したがって、第2の実施形態では、第1の実施形態と同様の効果に加えて、発光サイリスタの光量変動を低減し、信頼性を高めることができる。
【0056】
《3》第3の実施形態
《3-1》第3の実施形態の構成
図11は、第3の実施形態に係る発光素子チップ30の構造を概略的に示す平面図である。図12は、発光素子チップ30の構造を概略的に示す断面図である。図12は、図11に示される発光素子チップ30をA1-A2-A3線で切る断面を示している。図11及び図12に示されるように、第3の実施形態に係る発光素子チップ30は、発光サイリスタの主要部である半導体薄膜300を有している。半導体薄膜300は、P型の第1半導体層3001と、第1半導体層3001と隣接して形成されたN型の第2半導体層3002と、第2半導体層3002と隣接して形成されたP型の第3半導体層3003と、第3半導体層3003と隣接して形成されたN型の第4半導体層3004とを有している。
【0057】
P型の第1半導体層3001は、不純物としてCが添加されている1つのC含有層としてアノード導通層301、アノードコンタクト層302、エッチングストップ層309、電子バリア層303、及び活性層304を含む。N型の第2半導体層3002は、正孔バリア層305及びN型ゲート層306を含む。P型の第3半導体層3003は、不純物としてZnが添加されている1つ以上のZn含有層としてP型ゲート層307を含む。N型の第4半導体層3004は、カソード層308を含む。図12には、不純物としてCが添加されている1つのC含有層、すなわち、アノード導通層301が示されているが、C含有層の数は、1以上であれば特に限定されない。
【0058】
アノード導通層301上には、アノード電極310が形成され、アノード電極310は、アノード配線313に接続されている。P型ゲート層307上には、ゲート電極311が形成されている。カソード層308上には、カソード電極312が形成され、カソード電極312上はカソード配線314に接続されている。なお、絶縁層335は、半導体薄膜300の電極以外の領域を覆う。
【0059】
半導体薄膜300として、AlGaAs系半導体材料を用いる場合の各半導体層の例を以下に示す。この場合、アノード導通層301は、P型Al0.25Ga0.75As層であり、アノードコンタクト層302は、P型Al0.25Ga0.75As層であり、電子バリア層303は、P型Al0.4Ga0.6As層であり、活性層304は、P型Al0.15Ga0.85As層である。正孔バリア層305は、N型Al0.4Ga0.6As層であり、N型ゲート層306は、N型Al0.15Ga0.85As層である。P型ゲート層307は、P型Al0.15Ga0.85As層である。カソード層308は、N型Al0.25Ga0.75As層である。また、エッチングストップ層309は、P型In0.49Ga0.51P層である。エッチングストップ層309は、加工プロセスにおいて用いられる。エッチングストップ層309は、他の半導体層のエッチング液と異なるエッチング液で加工できる。アノード電極310、ゲート電極311、及びカソード電極312は、第2の実施形態におけるものと同様の構造を持つ。
【0060】
図13は、図12に示されるP型の半導体層である第1半導体層3001及び第3半導体層3003の構成例を表4として示す図である。図13に示されるように、アノード導通層301は、その厚さT301が0.7μm、Zn不純物濃度DZ301が0、C不純物濃度DC301が25[E+18cm-3]、Zn換算流量FZ301(=T301×DZ301)が0、C換算流量FC301(=T301×DC301)が17.5[E+18μm・cm-3]である。
【0061】
アノードコンタクト層302は、その厚さT302が0.2μm、Zn不純物濃度DZ302が25[E+18cm-3]、C不純物濃度DC302が0、Zn換算流量FZ302(=T302×DZ302)が5[E+18μm・cm-3]、C換算流量FC302(=T302×DC302)が0である。
【0062】
エッチングストップ層309は、その厚さT309が0.015μm、Zn不純物濃度DZ309が4[E+18cm-3]、C不純物濃度DC309が0、Zn換算流量FZ309(=T309×DZ309)が0.06[E+18μm・cm-3]、C換算流量FC309(=T309×DC309)が0である。
【0063】
電子バリア層303は、その厚さT303が0.1μm、Zn不純物濃度DZ303が10[E+18cm-3]、C不純物濃度DC303が0、Zn換算流量FZ303(=T303×DZ303)が1[E+18μm・cm-3]、C換算流量FC303(=T303×DC303)が0である。
【0064】
活性層304は、その厚さT304が0.3μm、Zn不純物濃度DZ304が10[E+18cm-3]、C不純物濃度DC304が0、Zn換算流量FZ304(=T304×DZ304)が3[E+18μm・cm-3]、C換算流量FC304(=T304×DC304)が0である。
【0065】
P型ゲート層307は、その厚さT307が0.15μm、Zn不純物濃度DZ307が1[E+18cm-3]、C不純物濃度DC307が0、Zn換算流量FZ307(=T307×DZ307)が0.15[E+18μm・cm-3]、C換算流量(=T307×DC307)が0である。
【0066】
図13に示されるように、第2の実施形態に係る発光サイリスタでは、アノード導通層301のみをCドープされた半導体層としている。
【0067】
また、第3の実施形態に係る発光サイリスタでは、P型ゲート層の厚さ[μm]とZn不純物濃度[E+18cm-3]との積の合計値である第1の値としてのZn換算流量は、9.21[E+18μm・cm-3](=5+0.06+1+3+0.15)であり、上記第1の条件を満たしている。第3の実施形態では、Zn換算流量の合計が9.21[E+18μm・cm-3]であり、比較例の構造の値の33%程度である。
【0068】
さらに、第3の実施形態に係る発光サイリスタでは、アノード導通層301の厚さ[μm]とC不純物濃度[E+18cm-3]との積として得られた値の合計値である第2の値としてのC換算流量FCは、17.5[E+18μm・cm-3]であり、上記第2の条件を満たしている。
【0069】
《3-2》第3の実施形態の動作
第3の実施形態に係る発光サイリスタの動作は、第1及び第2の実施形態のものと同じである。
【0070】
《3-3》第3の実施形態の効果
第3の実施形態では、Znバックグラウンド濃度の増加による正孔バリア層205及びN型ゲート層206のキャリア濃度の低下を抑制することができる。具体的には、図7及び図8に示される比較例の構造で10バッチの連続成長を行ったところ、N型ゲート層106におけるZnバックグラウンド濃度が、1バッチ目で3[E+16cm-3]であったが、10バッチ目では1[E+17cm-3]以上に増加した。これに対して、第3の実施形態の構造では、10バッチ目であっても3[E+16cm-3]程度とZnバックグラウンド濃度の増加が抑制された。
【0071】
また、第3の実施形態では、第1の実施形態と同様の効果に加えて、発光サイリスタの光量変動を低減し、信頼性を高めることができる。
【0072】
また、Znは、半導体内を拡散しやすい性質を持ち、Cは、拡散し難く急峻な濃度変化を形成できることが一般に知られている。第2の実施形態のようにアノード層201の全てをCドープした半導体層で形成すると、電子バリア層203に添加したZnがアノード層201との界面近傍でアノード層側へ拡散し、電子バリア層203の一部のキャリア濃度が低下して発光サイリスタの特性に変化を及ぼすことが懸念される。そのため、第3の実施形態では、アノード層をアノード導通層301とアノードコンタクト層302に分割し、アノードコンタクト層302をZnドープとして不純物濃度を電子バリア層303と同等以上とすることで、電子バリア層303からのZn拡散を抑制することができる。
【0073】
さらに、第1及び第2の実施形態では、ウェハ面内のエッチングレートばらつきによって、アノード層を露出させる際のエッチング深さにばらつきが生じるが、第3の実施形態では、アノードコンタクト層302の直上にエッチングストップ層309を設けることで、ウェハ面内のエッチング深さを均一にしてアノードコンタクト層302とアノード電極310とを確実に接触させ、アノード導通層301とアノードコンタクト層302の不純物濃度が異なる場合でも、ウェハ面内で均一な電気特性の発光素子チップを形成することができる。
【0074】
《4》第4の実施形態
図14は、第4の実施形態に係る光プリントヘッドに搭載される基板ユニット410の要部を概略的に示す斜視図である。図14に示されるように、基板ユニット410は、実装基板であるプリント配線板401と、アレイ状に配置された複数の発光素子チップ10とを有する。発光素子チップ10は、プリント配線板401上に熱硬化樹脂等により固定されている。発光素子チップ10の外部接続パッド163とプリント配線板401の接続パッド402の間は、ボンディングワイヤ403により電気的に接続されている。なお、プリント配線板401には、図示しない各種配線パターン、電子部品、コネクタ等が搭載されている。また、発光素子チップ10の代わりに、第2及び第3の実施形態で説明された発光素子チップ20又は30が用いられてもよい。
【0075】
図15は、第4の実施形態に係る光プリントヘッド400の構造を概略的に示す断面図である。光プリントヘッド400は、電子写真プロセスを用いる画像形成装置としての電子写真プリンタの露光装置である。図15に示されるように、光プリントヘッド400は、ベース部材411と、プリント配線板401と、発光素子チップ10と、複数の正立等倍結像レンズを含むレンズアレイ413と、レンズホルダ414と、バネ部材であるクランパ415とを備えている。ベース部材411は、プリント配線板401を固定するための部材である。ベース部材411の側面には、クランパ415を用いて、プリント配線板401及びレンズホルダ414をベース部材411に固定するための開口部412が設けられている。レンズホルダ414は、例えば、有機高分子材料などを射出成形することによって形成される。レンズアレイ413は、発光素子チップ10から出射された光を像担持体としての感光体ドラム上に結像させる光学レンズ群である。レンズホルダ414は、レンズアレイ413をベース部材411の所定の位置に保持する。クランパ415は、ベース部材411の開口部412及びレンズホルダ414の開口部を介して、各構成部品を挟み付けて保持する。
【0076】
光プリントヘッド400では、印刷データに応じて、発光素子チップ10の発光サイリスタが選択的に発光し、発光サイリスタから出射された光はレンズアレイ413により一様帯電している感光体ドラム上で結像される。これにより、感光体ドラムに静電潜像が形成され、その後、現像工程、転写工程、定着工程を経て、記録媒体(例えば、用紙)上に現像剤からなる画像が形成される。
【0077】
第4の実施形態に係る光プリントヘッド400は、信頼性の高い第1から第3の実施形態のいずれかの発光素子チップを備えているので、これを画像形成装置に搭載することで、印字品質を向上させることができる。
【0078】
《5》第5の実施形態
図16は、第5の実施形態に係る画像形成装置500の構造を概略的に示す断面図である。画像形成装置500は、光プリントヘッド400を用いた電子写真式プリンタである。図16に示されるように、画像形成装置500は、記録媒体505の搬送経路に沿って順に配置された、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、及びブラック(K)の各色の画像を電子写真方式を用いて形成する4つのプロセスユニット(「画像形成ユニット」又は「イメージドラムユニット」とも言う)501Y、501M、501C、501Kと、記録媒体505を収納する記録媒体カセット506と、記録媒体505を1枚ずつ分離して搬送するためのホッピングローラ507と、記録媒体505の搬送方向においてホッピングローラ507の下流に配置されるピンチローラ508、509と、ピンチローラ508と共に記録媒体505を挟み込み記録媒体505を搬送する搬送ローラ510と、記録媒体505の斜行を修正してプロセスユニット501Y、501M、501C、501Kに搬送するレジストローラ511とを有している。また、画像形成装置500は、プロセスユニット501Y、501M、501C、501Kに対向して配置され、半導電性のゴム等からなり、感光体ドラム502に形成された画像(「トナー像」又は「現像剤像」とも言う)を記録媒体505に転写する転写手段としての転写ローラ512を有している。また、画像形成装置500は、記録媒体505上のトナー像を加熱・加圧して定着させる定着装置513と、排出ローラ514、515と、排出部のピンチローラ516、517と、用紙スタッカ部518とを有する。
【0079】
プロセスユニット501Y、501M、501C、501Kは、トナーの色以外については、互いに同じ構成を有している。各プロセスユニット501Y、501M、501C、501Kは、静電潜像を担持する像担持体としての感光体ドラム502と、この感光体ドラム502の周囲に配置され、感光体ドラム502の表面を一様帯電させる帯電装置503と、帯電された感光体ドラム502の表面に選択的に光を照射して静電潜像を形成する露光手段としての光プリントヘッド400と、感光体ドラム502の表面に形成された静電潜像にトナー(現像剤)を供給して現像する現像手段としての現像装置520とを有している。また、各プロセスユニット501Y、501M、501C、501Kは、感光体ドラム502上に現像された画像を記録媒体505に転写した後に感光体ドラム502に残留したトナーを除去するクリーニング装置519を有している。なお、画像形成装置500は、記録媒体505の印刷面を反転させる反転経路を含む反転部530を有してもよい。
【0080】
第5の実施形態に係る画像形成装置500は、光プリントヘッド400を用いており、これは信頼性が高い、第1から第3の実施形態に係る発光素子チップを備えているので、印字品質を向上させることができる。
【0081】
《6》変形例
上記第1から第3の実施形態では、P型ゲート層上にゲート電極を設けた場合について説明したが、N型ゲート層上にゲート電極を設けてもよい。
【0082】
また、上記第1から第3の実施形態以外の構造であっても、Znが不純物として添加されて成長するP型の半導体層の成長プロセスの前に、Cが不純物として添加されて成長するP型の他の半導体層の成長プロセスを用いることによって、発光サイリスタの信頼性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0083】
10、20、30 発光素子チップ、 100、200、300 半導体薄膜(発光サイリスタ)、 101 アノード層(第1のC含有層)、 103 電子バリア層(第2のC含有層)、 104 活性層(第3のC含有層)、 107 P型ゲート層、 201 アノード層(第1のC含有層)、 203 電子バリア層(第1のZn含有層)、 204 活性層(第2のZn含有層)、 207 P型ゲート層、 301 アノード導通層(第1のC含有層)、 302 アノードコンタクト層(第1のZn含有層)、 303 電子バリア層(第のZn含有層)、 304 活性層(第のZn含有層)、 307 P型ゲート層、 309 エッチングストップ層(第2のZn含有層)、 1001、2001、3001 第1半導体層、 1002、2002、3002 第2半導体層、 1003、2003、3003 第3半導体層、 1004、2004、3004 第4半導体層。
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