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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】シリコン微粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/02 20060101AFI20231205BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C01B33/02 Z
H01M4/38 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019223082
(22)【出願日】2019-12-10
(65)【公開番号】P2021091574
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】中田 嘉信
(72)【発明者】
【氏名】力田 直樹
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-528893(JP,A)
【文献】特表2014-519135(JP,A)
【文献】特開2012-256543(JP,A)
【文献】特開2011-132105(JP,A)
【文献】特開2000-024541(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105712350(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/46
H01M 4/00- 4/98
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ回折散乱法によって測定される体積基準の平均粒子径が0.8μm以上8.0μm以下の範囲内にあって、レーザ回折散乱法によって測定される個数基準の平均粒子径が、0.100μm以上0.150μm以下の範囲内にあり、
BET法によって測定される比表面積が4.0m/g以上10m/g以下の範囲内にあって、
顕微鏡法により測定される粒子径が1μm以上の粒子を含み、
前記顕微鏡法により測定される粒子径が1μm以上の粒子は、下記の式(1)より求められる円形度の平均が0.93以上であるシリコン微粒子。
円形度=(4×π×粒子の投影面積)1/2/粒子の周囲長・・・(1)
【請求項2】
レーザ回折散乱法によって測定される体積基準の粒度分布において、累積度数が10体積%の粒子径D10が0.160μm以下、累積度数が50体積%の粒子径D50が0.600μm以下、累積度数が90体積%の粒子径D90が20μm以下である請求項1に記載のシリコン微粒子。
【請求項3】
前記顕微鏡法により測定される粒子径が1μm以上の粒子は、平均アスペクト比が1.33以下である請求項1又は2に記載のシリコン微粒子。
【請求項4】
前記顕微鏡法により測定される粒子径が1μm以上の粒子は、下記の式(2)より求められる凹凸度の平均が0.96以上である請求項1~3のいずれか1項に記載のシリコン微粒子。
凹凸度=粒子の包絡周囲長/粒子の周囲長・・・(2)
【請求項5】
残留歪が0.0300%以上である請求項1~4のいずれか1項に記載のシリコン微粒子。
【請求項6】
レーザ回折散乱法によって測定される体積基準の粒度分布において、累積度数が10体積%の粒子径D10が0.160μm以下、累積度数が50体積%の粒子径D50が0.600μm以下、累積度数が90体積%の粒子径D90が20μm以下であり、
BET法によって測定される比表面積が4.0m/g以上10m/g以下の範囲内にあって、
顕微鏡法により測定される粒子径が1μm以上の粒子を含み、
前記顕微鏡法により測定される粒子径が1μm以上の粒子は、下記の式(1)より求められる円形度の平均が0.93以上であるシリコン微粒子。
円形度=(4×π×粒子の投影面積)1/2/粒子の周囲長・・・(1)
【請求項7】
ふるい法により分別される最大粒子径が1000μm以下であるシリコン粗粒子を用意する工程と、
前記シリコン粗粒子と、粒子径が1mm以上10mm以下の範囲内にある硬質ボールとを、前記シリコン粗粒子100質量部に対して前記硬質ボールの量が500質量部以上2500質量部以下の範囲内となる割合にて、非酸化性ガスが充填された容器に、充填率が前記容器の容量に対する前記シリコン粗粒子と前記硬質ボールの合計体積の量として3%以上35%以下の範囲内となるように充填し、三次元ボールミル装置を用いて前記容器を回転させることによって、シリコン粗粒子を30分以上粉砕する粉砕工程とを含むシリコン微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン微粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン微粒子は、例えば、MgSiなどのシリサイド系熱電材料のSi原料として利用されている。また、シリコン微粒子は、リチウムイオン二次電池用の負極活物質、シリサイドターゲット原料、シリコン微粒子に発光性の有機分子を吸着させて増強発光させる発光体材料の材料としても利用されている。シリコン微粒子は、一般に、シリコン粗粒子を粉砕することによって製造されている。
【0003】
特許文献1には、高純度で微細なシリコン微粒子を製造する方法として、塊状シリコンに圧力を加えて微小クラックを生成させた後に粉砕する方法が記載されている。この特許文献1には、塊状シリコンを粉砕するための装置としてボールミルが記載されている。
【0004】
特許文献2には、リチウムイオン二次電池用の負極活物質として、0.5~10.0μmの直径パーセンタイルd50の体積加重粒径分布を有するシリコン粒子が記載されている。この特許文献2には、シリコン粒子の製造方法として、ミリング加工が記載されている。ミリング加工用の装置としては、遊星ボールミル、ジェットミル、対向ジェットミル、インパクトミル、撹拌ボールミルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-16411号公報
【文献】特表2018-530859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
MgSiなどのシリサイド系熱電材料では、熱電効率の向上のために、組成の均一性を向上させることが検討されている。シリサイド系熱電材料は、Siの融点が高く、他の原料の融点が低く、蒸気圧が高いので、Si原料であるシリコン微粒子と他の原料粒子とを混合し、Siの融点以下で得られた粒子混合物を焼成することによって製造する方法がある。この際、組成の均一性が高いシリサイド系熱電材料を得るためには、微細で、かつ粗大な凝集粒子を形成しにくく、他の原料粒子と混合する際の分散性が高いシリコン微粒子が必要となる。しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載されている方法を用いて製造したシリコン微粒子は、比較的角張った形状となりやすい。角張った形状のシリコン微粒子は、粗大な凝集粒子を形成し易く、他の原料粒子と混合したときの分散性が低くなり易い傾向がある。
【0007】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、微細で、かつ粗大な凝集粒子を形成しにくく、他の原料粒子と混合する際の分散性が高いシリコン微粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のシリコン微粒子は、レーザ回折散乱法によって測定される体積基準の平均粒子径が0.8μm以上8.0μm以下の範囲内にあって、レーザ回折散乱法によって測定される個数基準の平均粒子径が、0.100μm以上0.150μm以下の範囲内にあり、BET法によって測定される比表面積が4.0m/g以上10m/g以下の範囲内にあって、顕微鏡法により測定される粒子径が1μm以上の粒子を含み、前記顕微鏡法により測定される粒子径が1μm以上の粒子は、下記の式(1)より求められる円形度の平均が0.93以上であることを特徴としている。
円形度=(4×π×粒子の投影面積)1/2/粒子の周囲長・・・(1)
【0009】
上記のような構成とされた本発明のシリコン微粒子は、レーザ回折散乱法によって測定される体積基準の平均粒子径が0.8μm以上8.0μm以下の範囲内にあって、レーザ回折散乱法によって測定される個数基準の平均粒子径が0.100μm以上0.150μm以下の範囲内にあるので微細である。よって、このシリコン微粒子を他の原料粒子と混合することによって、組成が均一な粒子混合物を得ることができる。
【0010】
また、本発明のシリコン微粒子は、BET法によって測定される比表面積が4.0m/g以上10m/g以下の範囲内にあるので、反応性を維持しつつ、粗大な凝集粒子を形成しにくくなる。よって、このシリコン微粒子は、他の原料粒子との粒子混合物中に一次粒子もしくはそれに近い微細な凝集粒子として均一に分散させることができる。
【0011】
さらに、本発明のシリコン微粒子は、顕微鏡法により測定される粒子径が1μm以上の粒子の円形度の平均が0.93以上であり、粒子形状が球状に近いので流動性が高い。よって、このシリコン微粒子は、他の原料粒子と混合する際の分散性が向上する。
【0012】
ここで、本発明のシリコン微粒子は、レーザ回折散乱法によって測定される体積基準の粒度分布において、累積度数が10体積%の粒子径D10が0.160μm以下、累積度数が50体積%の粒子径D50が0.600μm以下、累積度数が90体積%の粒子径D90が20μm以下であることが好ましい。
この場合、シリコン微粒子は、相対的に微細な粒子の粒子径の分布範囲が狭く、相対的に大きな粒子の粒子径の分布範囲が広い粒度分布をするので、分散性や充填性が向上する。よって、他の原料粒子と混合することによって、組成が均一な粒子混合物を得ることができる。
【0013】
また、本発明のシリコン微粒子において、前記顕微鏡法により測定される粒子径が1μm以上の粒子は、平均アスペクト比が1.33以下であることが好ましい。
この場合、他の原料粒子と混合する際にシリコン微粒子同士が絡み合うことが抑制されるので、シリコン微粒子の分散性がより向上する。
【0014】
さらに、本発明のシリコン微粒子において、前記顕微鏡法により測定される粒子径が1μm以上の粒子は、下記の式(2)より求められる凹凸度の平均が0.96以上であることが好ましい。
凹凸度=粒子の包絡周囲長/粒子の周囲長・・・(2)
この場合、シリコン微粒子同士の接触面積が低減し、粗大な凝集粒子をより形成しにくくなる。よって、このシリコン微粒子は、他の原料粒子との粒子混合物中に一次粒子もしくはそれに近い微細な凝集粒子としてより均一に分散させることができる。
【0015】
またさらに、本発明のシリコン微粒子において、残留歪が0.0300%以上であることが好ましい。
この場合、Si微粒子の歪が大きいので、他の原料と混合して焼成することによって、他の原料がSi微粒子中に拡散しやすくなり、得られる焼成物内の組成の均一性が高くなる。
【0016】
また、本発明の別のシリコン微粒子は、レーザ回折散乱法によって測定される体積基準の粒度分布において、累積度数が10体積%の粒子径D10が0.160μm以下、累積度数が50体積%の粒子径D50が0.600μm以下、累積度数が90体積%の粒子径D90が20μm以下であり、BET法によって測定される比表面積が4.0m/g以上10m/g以下の範囲内にあって、顕微鏡法により測定される粒子径が1μm以上の粒子を含み、前記顕微鏡法により測定される粒子径が1μm以上の粒子は、下記の式(1)より求められる円形度の平均が0.93以上であることを特徴としている。
円形度=(4×π×粒子の投影面積)1/2/粒子の周囲長・・・(1)
【0017】
上記のような構成とされた本発明のシリコン微粒子は、量的に多数を占める相対的に微細な粒子の粒子径の分布範囲が狭く、量的に少数の相対的に大きな粒子の粒子径の分布範囲が広い粒度分布を有するので、分散性や充填性が向上する。よって、他の原料粒子と混合することによって、組成が均一な粒子混合物を得ることができる。
【0018】
本発明のシリコン微粒子の製造方法は、ふるい法により分別される最大粒子径が1000μm以下であるシリコン粗粒子を用意する工程と、前記シリコン粗粒子と、粒子径が1mm以上10mm以下の範囲内にある硬質ボールとを、前記シリコン粗粒子100質量部に対して前記硬質ボールの量が500質量部以上2500質量部以下の範囲内となる割合にて、非酸化性ガスが充填された容器に、充填率が前記容器の容量に対する前記シリコン粗粒子と前記硬質ボールの合計体積の量として3%以上35%以下の範囲内となるように充填し、三次元ボールミル装置を用いて前記容器を回転させることによって、シリコン粗粒子を30分以上粉砕する粉砕工程とを含む。
【0019】
上記のような構成とされた本発明のシリコン微粒子の製造方法は、ふるい法により分別される最大粒子径が1000μm以下であるシリコン粗粒子を用いるので、得られるシリコン微粒子に粗大な粒子が混入しにくい。また、硬質ボールとして、粒子径が1mm以上10mm以下の範囲内にある比較的大粒子径のボールを、上記のシリコン粗粒子100質量部に対して500質量部以上2500質量部以下の範囲内となる割合で使用するので、シリコン粗粒子を確実に粉砕することができる。さらに、非酸化性ガスが充填された容器を用いるので、シリコン微粒子の吸湿による粒子の凝集やシリコン微粒子の酸化を抑制することができる。またさらに、容器へのシリコン粗粒子と硬質ボールの充填率が、容器の容量に対するシリコン粗粒子と硬質ボールの合計体積の量として3%以上35%以下の範囲内とあるので、シリコン粗粒子をより確実に粉砕することができる。さらにまた、三次元ボールミル装置を用いて、0.5時間以上粉砕するので、得られるシリコン微粒子は角張った形状になりにくい。よって、本発明のシリコン微粒子の製造方法によれば、微細で、かつ粗大な凝集粒子を形成しにくく、他の原料粒子と混合する際の分散性が高いシリコン微粒子を工業的に有利に製造することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、微細で、かつ粗大な凝集粒子を形成しにくく、他の原料粒子と混合する際の分散性が高いシリコン微粒子及びその製造方法を提供するが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係るシリコン微粒子の製造方法のフローである。
図2】本発明例4で得られたシリコン微粒子の拡大写真である。
図3】比較例4で得られたシリコン微粒子の拡大写真である。
図4】本発明例1で得られたシリコン微粒子のレーザ回折散乱法によって測定された体積基準の粒度分布である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の一実施形態であるシリコン微粒子及びその製造方法について、添付した図面を参照して説明する。
【0023】
[シリコン微粒子]
本発明の一実施形態に係るシリコン微粒子は、レーザ回折散乱法によって測定される体積基準の平均粒子径が0.8μm以上8.0μm以下の範囲内とされ、レーザ回折散乱法によって測定される個数基準の平均粒子径が、0.100μm以上0.150μm以下の範囲内とされている。また、レーザ回折散乱法によって測定される体積基準の粒度分布において、累積度数が10体積%の粒子径D10が0.160μm以下、累積度数が50体積%の粒子径D50が0.600μm以下、累積度数が90体積%の粒子径D90が20μm以下とされている。さらに、シリコン微粒子は、BET法によって測定される比表面積が4.0m/g以上10m/g以下の範囲内とされている。
【0024】
シリコン微粒子は、顕微鏡法により測定される粒子径が1μm以上の粒子を含む。顕微鏡法とは、顕微鏡を用いてシリコン微粒子の拡大画像を撮影し、得られた拡大画像からシリコン微粒子のサイズを測定する方法である。粒子径が1μm以上の粒子は、シリコン微粒子の拡大画像から計測される粒子の最大長が1μm以上である粒子である。
【0025】
粒子径が1μm以上の粒子は、下記の式(1)より求められる円形度の平均(平均円形度)が0.93以上とされている。なお、式(1)において、粒子の投影面積は、シリコン微粒子の拡大画像から計測される粒子の投影面積である。粒子の周囲長は、シリコン微粒子の拡大画像から計測される粒子の投影輪郭線の長さである。平均円形度は、10000個の粒子の円形度の平均である。
円形度=(4×π×粒子の投影面積)1/2/粒子の周囲長・・・(1)
【0026】
また、粒子径が1μm以上の粒子は、アスペクト比の平均(平均アスペクト比)が1.33以下とされている。アスペクト比は、粒子の長径(最大長)と短径(最大長垂直径)との比(長径/短径)である。粒子の長径は、シリコン微粒子の拡大画像から計測される粒子の投影輪郭線上の2点間での最大距離である。粒子の短径は、長径に対して平行な2本の直線で粒子を挟んだ際の距離である。平均アスペクト比は、10000個の粒子のアスペクト比の平均である。
【0027】
さらに、粒子径が1μm以上の粒子は、下記の式(2)より求められる凹凸度の平均(平均凹凸度)が0.96以上とされている。なお、式(2)において、粒子の包絡周囲長は、シリコン微粒子の拡大画像から計測される粒子の凸部を最短で結んだ図形の周囲の長さである。平均凹凸度は、10000個の粒子の凹凸度の平均である。
凹凸度=粒子の包絡周囲長/粒子の周囲長・・・(2)
【0028】
またさらに、シリコン微粒子は、残留歪が0.0300%以上とされている。
次に、シリコン微粒子の上記の各物性について詳細に説明する。
【0029】
(平均粒子径)
シリコン微粒子の平均粒子径が小さくなりすぎると、シリコン微粒子が凝集して粗大な粒子を形成し易くなるおそれがある。一方、平均粒子径が大きくなりすぎると、他の原料粒子と混合することによって得られる粒子混合物の組成が不均一となり易くなるおそれがある。このため、本実施形態では、レーザ回折散乱法によって測定される体積基準の平均粒子径を0.8μm以上8.0μm以下の範囲内と設定し、レーザ回折散乱法によって測定される個数基準の平均粒子径を0.100μm以上0.150μm以下の範囲内と設定している。体積基準の平均粒子径は、0.9μm以上5.0μm以下の範囲内にあることが好ましく、0.9μm以上3.0μm以下の範囲内にあることが特に好ましい。個数基準の平均粒子径は、0.100μm以上0.145μm以下の範囲内にあることが好ましく、0.100μm以上0.140μm以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0030】
(D10、D50、D90)
シリコン微粒子に含まれている相対的に微細な粒子は、粒子径の分布範囲が狭く、粒子径が揃っている方が、シリコン微粒子の流動性が向上する。また、シリコン微粒子に含まれている相対的に粗大な粒子は、粒子径の分布範囲が広い方が、シリコン微粒子の空間に対する充填率が大きくなる。このため、本実施形態では、レーザ回折散乱法によって測定される体積基準の粒度分布において、累積度数が10体積%の粒子径D10を0.160μm以下、累積度数が50体積%の粒子径D50を0.600μm以下、累積度数が90体積%の粒子径D90を20μm以下と設定している。D10とD50との間隔は狭い方が好ましい。D10とD50との比(D10/D50比)は、0.26以上であることが好ましく、0.30以上であることが特に好ましい。また、D50とD90との間隔は広い方が好ましい。D90とD50との比(D90/D50比)は、10以上であることが好ましく、15以上であることが特に好ましい。
【0031】
(比表面積)
BET法により測定される比表面積が小さくなりすぎるとシリコン微粒子の反応性が低下して、例えば、粒子混合物を焼成することによってシリサイド系熱電材料を生成させる際の反応速度が遅くなったり、得られるシリサイド系熱電材料の組成が不均一となったりするおそれがある。一方、比表面積が大きくなりすぎるとシリコン微粒子同士の接触面積が増加することによってシリコン微粒子が凝集して粗大な粒子を形成し易くなるおそれがある。このため、本実施形態では、比表面積を4.0m/g以上10m/g以下の範囲内と設定している。比表面積は、5.0m/g以上8.0m/g以下の範囲内にあることが好ましく、5.5m/g以上8.0m/g以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0032】
(平均円形度)
平均円形度が小さくなりすぎると、他の原料粒子と混合する際に、シリコン微粒子の流動性が低下して、分散性が低下するおそれがある。このため、本実施形態では、平均円形度を0.93以上と設定している。平均円形度は、0.94以上であることが好ましく、0.95以上であることが特に好ましい。平均円形度は0.99以下であることが好ましい。また、平均円形度は、標準偏差が0.070以下であることが好ましい。標準偏差を0.070と小さくすることによって、シリコン微粒子は、球状に近い均一な形状の粒子の集合体となるので分散性がより向上する。
【0033】
(平均アスペクト比)
平均アスペクト比が大きくなりすぎると、他の原料粒子と混合する際に、シリコン微粒子同士が絡み合うことによって流動性が低下して、分散性が低下するおそれがある。このため、本実施形態では、平均アスペクト比を1.33以下と設定している。平均アスペクト比は、1.28以下であることが好ましく、1.27以下であることが特に好ましい。また、平均アスペクト比は、標準偏差が0.055以下であることが好ましい。標準偏差を0.055以下と小さくすることによって、シリコン微粒子は、粒子形状が揃った粒子の集合体となるので分散性がより向上する。
【0034】
(平均凹凸度)
平均凹凸度が小さくなりすぎると、シリコン微粒子同士の接触面積が増加し、粗大な凝集粒子を形成し易くなるおそれがある。このため、本実施形態では、平均凹凸度を0.96以上と設定している。平均凹凸度は、0.97以上であることが好ましく、0.98以上であることが特に好ましい。また、平均凹凸度は、標準偏差が0.140以下であることが好ましい。標準偏差を0.140と小さくすることによって、シリコン微粒子は、表面が平坦で均一な形状の粒子となるので凝集粒子をより形成しにくくなる。
【0035】
(残留歪)
シリコン微粒子の残留歪が低くなりすぎると、例えば、粒子混合物を焼成することによってシリサイド系熱電材料を生成さる際に、他の原料がSi微粒子中に拡散しにくくなり、組成の均一なシリサイド系熱電材料を得るのが難しくなるおそれがある。このため、本実施形態では、残留歪を0.0300%以上と設定している。残留歪は、0.0400%以上であることが好ましく、0.0500%以上であることが特に好ましい。
【0036】
本実施形態のシリコン微粒子は、純度に制限はなく、低純度シリコンの微粒子であってもよいし、高純度シリコンの微粒子であってもよいし、またドーパントを含む半導体シリコンの微粒子であってもよい。低純度シリコンは、純度が98質量%から99.999質量%未満である。高純度シリコンは、純度が、99.999質量%(5N)以上であることが好ましく、99.9999質量%(6N)以上であることがより好ましく、99.9999999質量%(9N)以上であることがさらに好ましい。半導体シリコンは、ドーパントの固溶体効果により、高純度シリコンと比較して強度が高くなる。半導体シリコンは、P型半導体シリコンとN型半道体とを含む。P型半導体シリコンの例としては、ボロン、アルミニュムをドープした半導体シリコンを挙げることができる。N型半導体シリコンの例としては、窒素、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマスをドープした半導体シリコンを挙げることができる。
【0037】
以上のような構成とされた本実施形態のシリコン微粒子によれば、レーザ回折散乱法によって測定される体積基準及び個数基準の平均粒子径と、BET法によって測定される比表面積と、粒子径が1μm以上の粒子の平均円形度が上述の範囲内に設定されているので、微細で、かつ粗大な凝集粒子を形成しにくく、他の原料粒子と混合する際の分散性が高い。このため、本実施形態のシリコン微粒子は、他の原料粒子と混合することによって、シリコン微粒子が一次粒子もしくはそれに近い微細な凝集粒子として均一に分散されている粒子混合物を得ることが可能となる。
【0038】
また、本実施形態のシリコン微粒子は、D10、D50、D90が上述の範囲内にあることによって、相対的に微細な粒子の粒子径の分布範囲が狭く、相対的に大きな粒子の粒子径の分布範囲が広い粒度分布を有するので、分散性や充填性が向上する。さらに、粒子径が1μm以上の粒子の平均アスペクト比が上述の範囲内にあることによって、シリコン微粒子同士が絡み合うことが抑制されるので、シリコン微粒子は、他の原料粒子と混合する際の分散性がより向上する。またさらに、粒子径が1μm以上の粒子の平均凹凸度が上述の範囲内にあることによって、シリコン微粒子同士の接触面積が低減し、粗大な凝集粒子がより形成しにくくなるので、シリコン微粒子は、他の原料粒子との粒子混合物中に一次粒子もしくはそれに近い微細な凝集粒子としてより均一に分散させることができる。さらにまた、残留歪が上述の範囲内にあることによって、他の原料と混合して焼成することによって、他の原料がSi微粒子中に拡散しやすくなり、得られる焼成物内の組成の均一性が高くなる。
【0039】
[シリコン微粉末の製造方法]
図1は、本発明の一実施形態に係るシリコン微粒子の製造方法のフローである。
本実施形態のシリコン微粉末の製造方法は、図1に示すように、破砕工程S10と、粗粉砕工程S11と、粉砕工程S12と、を含む。
【0040】
(破砕工程)
破砕工程S10は、シリコン塊状物を破砕してシリコン破砕物を得る工程である。
シリコン塊状物のサイズは、特に制限はない。シリコン塊状物の形状は、特に制限はなく、例えば、柱状、板状、粒状であってもよい。シリコン塊状物としては、シリコンチャンク、チャンク以外の多結晶シリコン、単結晶シリコンと柱状晶シリコンインゴットの塊、モニター用シリコンウエハ、ダミー用シリコンウエハ、粒状シリコンを用いることができる。
【0041】
シリコン塊状物を破砕するための破砕装置としては特に制限はなく、例えば、ハンマークラッシャー、ジョークラッシャー、ジャイレクトリークラッシャー、コーンクラッシャー、ロールクラッシャー、インパクトクラッシャーを用いることができる。
シリコン塊状物の破砕によって得られるシリコン破砕物のサイズは、最長径が1mmを超え5mm以下の範囲内にあることが好ましい。
【0042】
(粗粉砕工程)
粗粉砕工程S11は、シリコン破砕物を粗粉砕してシリコン粗粒子を得る工程である。粗粉砕工程S11で得られるシリコン粗粒子は、ふるい法により分別される最大粒子径が1000μm以下であることが好ましい。このため、粗粉砕工程S11は、粗粉砕よって得られた粗粉砕物を目開き1000μmのふるいを用いて分級して、最大粒子径が1000μm以下の粗粒子を回収する工程を含むことが好ましい。シリコン粗粒子のサイズが1000μmを超えると、次の粉砕工程S12でシリコン粗粒子が十分に粉砕されずに、得られるシリコン微粒子にシリコンの粗粒子が混入するおそれがある。シリコン粗粒子の最大粒子径は、500μm以下であることが特に好ましい。
【0043】
粗粉砕は、乾式及び湿式のうちいずれの方式で行ってもよいが、乾式で行うことが好ましい。シリコン破砕物を粗粉砕するための粉砕装置としては特に制限はなく、例えば、ボールミル(遊星ボールミル、振動ボールミル、転動ボールミル、撹拌ボールミル)、ジェットミル、三次元ボールミルを用いることができる。
【0044】
(粉砕工程)
粉砕工程S12は、シリコン粗粒子を粉砕してシリコン微粒子を得る工程である。
粉砕工程S12では、粉砕装置として、三次元ボールミルを用いる。
【0045】
三次元ボールミルは、第1軸芯を中心とする第1軸と、第1の軸芯の回りを回転するように第1軸に取り付けられた第1回転体と、第1回転体に取り付けられ第1軸芯の方向とは異なる方向に延びる第2の軸芯を中心とする第2軸と、第1の軸芯の回りを回転するように第2軸に取り付けられた第2回転体と、第2回転体と一体回転する球状容器と、第1回転体および第2回転体を回転させる駆動装置と、を含む装置である。三次元ボールミルでは、球状容器にシリコン粗粒子と硬質ボールとを充填して、球状容器を第1回転体と第2回転体とを用いて回転させることによって、シリコン粗粒子を粉砕する。三次元ボールミルでは、球状容器が第2軸芯の回りを回転しながら第1軸芯の回りを回転することにより三次元回転する。球状容器が三次元回転するにより、球状容器に充填されたシリコン粗粒子と硬質ボールが複雑な運動を繰り返すのでよりシリコン粗粒子を効率よく粉砕することができる。三次元ボールミルとしては、株式会社ナガオシステムにより販売されているものを用いることができる。
【0046】
硬質ボールとしては、ジルコニア(ZrO)ボールやアルミナ(Al)を用いることができる。硬質ボールの粒子径は、1mm以上10mm以下の範囲内にあることが好ましい。硬質ボールの粒子径がこの範囲内あると、シリコン粗粒子を効率よく粉砕することができる。硬質ボールの使用量は、シリコン粗粒子100質量部に対する量として500質量部以上2500質量部以下の範囲内にあることが好ましい。硬質ボールの使用量がこの範囲内あると、シリコン粗粒子を効率よく粉砕することができる。硬質ボールの使用量は1000質量部以上2000質量部以下の範囲内にあることがより好ましく、1100質量部以上1500質量部以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0047】
球状容器中のシリコン粗粒子と硬質ボールの充填率は、球状容器の容量に対するシリコン粗粒子と硬質ボールの合計体積の量として3%以上35%以下の範囲内にあることが好ましい。充填率が少なくなりすぎると粉砕効率が低下して製造コストが高くなるおそれがある。一方、充填率が多くなりすぎると、粉砕が進行しにくくなり、得られるシリコン微粒子の平均粒子径が大きくなる、もしくはシリコン粗粒子が十分に粉砕されずに、シリコンの粗粒子が残るおそれがある。シリコン粗粒子と硬質ボールの充填率は、15%以上30%以下の範囲内にあることがより好ましく、20%以上30%以下の範囲内にあることが特に好ましい。なお、充填率は、球状容器の内部が原料とボールで隙間なく充填されているときを100%と仮定した体積である。例えば、球状容器の半分まで原料と硬質ボールで隙間なく充填されていれば50%、球状容器の1/2の高さまで原料と硬質ボールで隙間なく充填されていれば15.6%である。
【0048】
球状容器は、非酸化性ガスが充填されていることが好ましい。非酸化性ガスが充填された球状容器を用いることによって、シリコン微粒子の吸湿による粒子の凝集やシリコン微粒子の酸化を抑制することができる。非酸化性ガスとしては、アルゴン、窒素、二酸化炭素を用いることができる。
【0049】
本実施形態のシリコン微粒子の製造方法は、粗粉砕工程S11において、ふるい法により測定される最大粒子径が1000μm以下であるシリコン粗粒子を用意し、次の粉砕工程S12において、三次元ボールミルを用いて、所定の条件でシリコン粗粒子を粉砕する。このため、微細で、かつ粗大な凝集粒子を形成しにくく、他の原料粒子と混合する際の分散性が高いシリコン微粒子を工業的に有利に製造することができる。
【0050】
以上、本発明の一実施形態であるシリコン微粒子及びその製造方法について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
例えば、本実施形態のシリコン微粒子では、体積基準の平均粒子径、個数基準の平均粒子径、D10、D50、D90、比表面積を規定し、顕微鏡法により測定される粒子径が1μm以上の粒子について、平均円形度、平均アスペクト比、平均凹凸度を規定し、さらに残留歪を規定している。ただし、平均アスペクト比、平均凹凸度、残留歪は、上述の範囲から外れていてよい。また、体積基準の平均粒子径と個数基準の平均粒子径が上述の範囲内にあれば、D10、D50、D90は上述の範囲から外れていてよい。さらに、D10、D50、D90が上述の範囲内にあれば、体積基準の平均粒子径と個数基準の平均粒子径が上述の範囲からはずれていてもよい。
【実施例
【0051】
[本発明例1]
(1)シリコン破砕物の製造
鱗片状多結晶シリコンチャンク(純度:99.999999999質量%、縦:5~15mm、横:5~15mm、厚さ:2~10mm)を、ハンマーミルを用いて破砕した。次いで、得られた粉砕物を、目開き5mmのふるいを用いて乾式分級して、ふるい下のシリコン破砕物を得た。
【0052】
(2)シリコン粗粒子の製造
得られたシリコン破砕物と、硬質ボール(ジルコニアボール、直径:10mm)と、球状容器(二つの半球状容器からなる直径80mmの球状容器)とを、それぞれArガスが充填されたグローブボックスに収容した。グローブボックス内にて、半球状容器の一方にシリコン破砕物30質量部と硬質ボール380質量部とを投入した。次いで、球状容器(球状容器)を形成するように、シリコン破砕物と硬質ボールを投入した半球状容器と、他方の半球状容器とを組み合わせ、Arガスが充填されたグローブボックス内で、二つの半球状容器をねじ止めして密封した。球状容器中のシリコン破砕物と硬質ボールの充填率は28%とした。
【0053】
シリコン破砕物と硬質ボールとを充填した球状容器を、グローブボックスから取り出して、三次元ボールミル装置にセットした。そして、第1回転体の回転速度:300rpm、第2回転体の回転速度:300rpm、粉砕時間:0.33時間の条件で粗粉砕した。粗粉砕後のシリコン粗粉砕物と硬質ボールとを、目開き1000μmのふるいを用いて乾式分級して、最大粒子径が1000μm以下のシリコン粗粒子を得た。
【0054】
(3)シリコン微粒子の製造
上記(2)で得られたシリコン粗粒子と、硬質ボール(ジルコニアボール、直径:10mm)と、球状容器(二つの半球状容器からなる直径80mmの球状容器)とを、それぞれArガスが充填されたグローブボックスに収容した。次いで、グローブボックス内にて、半球状容器の一方にシリコン破砕物15質量部と硬質ボール200質量部とを投入した(シリコン粗粒子100質量部に対する硬質ボールの量は1333質量部)。次いで、球状容器(球状容器)を形成するように、シリコン破砕物と硬質ボールを投入した半球状容器と、他方の半球状容器とを組み合わせ、Arガスが充填されたグローブボックス内で、二つの半球状容器をねじ止めして密封した。球状容器中のシリコン破砕物と硬質ボールの充填率は15%であった。
【0055】
シリコン粗粒子と硬質ボールとを充填した球状容器を、グローブボックスから取り出して、三次元ボールミル装置にセットした。そして、第1回転体の回転速度:300rpm、第2回転体の回転速度:300rpm、粉砕時間:1時間の条件で粉砕して、シリコン微粒子を得た。
【0056】
(4)MgSi粒子の製造
上記(3)で得られたシリコン微粒子とマグネシウム粒子(純度:99.5質量%、粒子径:180μm-pass、株式会社高純度化学研究所製)とを、モル比で1:2.05(=Si:Mg)の割合となるように秤量した。なお、Mgの割合を化学量論組成から増加したのは、Mgの蒸気圧が高いため、合金化(MgSi形成)時や焼結時の加熱によるMgの蒸発に伴う化学量論組成からのずれを防ぐためである。さらに、N型半導体とするために、モル比で0.5at%になるように、アンチモン粒子(純度:99.9質量%、粒子径:45μm-pass)秤量した。秤量したシリコン微粒子、マグネシウム粒子、アンチモン粒子を、3Dボールミル又は乳鉢と乳棒を用いて混合して、粒子混合物を得た。得られた粒子混合物を、通電加熱装置を用いて、670℃で1分保持の条件で焼成して、MgSiインゴットを得た。次に、得られたMgSiインゴットを粉砕して、SbをドープしたMgSi粒子を製造した。
【0057】
[本発明例2~11、比較例1~6]
上記(3)シリコン微粒子の製造において、シリコン粗粒子の粒子径と配合量、硬質ボールの粒子径と配合量、粉砕時間を、下記の表1に示す条件に変えたこと以外は、本発明例1と同様にして、シリコン微粒子とMgSi粒子を製造した。
【0058】
[評価]
(1)シリコン微粒子の評価
本発明例1~11及び比較例1~6で得られたシリコン微粒子について、比表面積、粒度分布、形状(円形度、アスペクト比、凹凸度)、残留歪を下記の方法により測定した。これらの測定結果を、下記の表2に示す。また、本発明例4で得られたシリコン微粒子の拡大写真を図2に、比較例4で得られたシリコン微粒子の拡大写真を図3にそれぞれ示す。さらに、本発明例4で得られたシリコン微粒子のレーザ回折散乱法によって測定された体積基準の粒度分布を、図4に示す。
【0059】
(比表面積の測定方法)
試料のシリコン微粒子を測定用セルに入れ、脱気時間:60分、脱気温度:200℃の条件でセル内を脱気した後、全自動ガス吸着量測定装置(AUTOSORB-iQ2、QUANTACHROME社製)を用いて、BET法により比表面積を測定した。測定ガスは、窒素ガスを用いた。
【0060】
(粒度分布の測定方法)
試料のシリコン微粒子を、乳鉢と乳棒を用いて解砕した。解砕したシリコン微粒子を界面活性剤水溶液に投入し、超音波処理によりシリコン微粒子を分散させてシリコン微粒子分散液を調製した。次いで、得られたシリコン微粒子分散液中のシリコン微粒子の粒度分布を、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置(MT3300EX II、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定した。得られた粒度分布から、体積基準の平均粒子径と個数基準の平均粒子径、最小粒子径、最大粒子径、D10、D50、D90をそれぞれ算出して表2に示した。
【0061】
(形状の測定方法)
試料のシリコン微粒子を、粉体分散ユニットを用いてガラス盤上に分散させ、50倍の対物レンズでシリコン微粒子を撮影した。画像解析ソフトで粒子径が1μm以上のシリコン微粒子10000個について、円形度、アスペクト比、凹凸度を測定し、その平均と標準偏差を算出した。用いた装置はMalvern Panalytical製モフォロギG3であった。
【0062】
(残留歪の測定方法)
残留歪の測定は、X線回折パターンを解析することにより行った。X線回折パターンの測定は粉末X線回折法を、解析はWPPF(Whole Powder Pattern Fitting)法を用いた。X線回折パターンの測定に用いた装置はブルカー・エイエックスエス製 D8 ADVANCE、解析に用いたソフトはリガク PDXL2であった。
【0063】
(2)MgSi粒子の評価
本発明例1~11及び比較例1~6で得られたMgSi粒子について、組成の均一性を下記の方法により測定した。またMgSi粒子の熱電特性を下記の方法により評価した。
【0064】
(組成の均一性の測定方法)
組成の均一性の測定は、EPMA(電子プローブマイクロアナライザー:JEOL製、JXA-8800RL)を用いて、MgSi焼結体の任意の粒子を10個選び、個々の粒子の中心部分のMgとSiを定量分析した。試料ごとに定量したMgとSiの比(Mg/Si比)を算出し、その平均値を求めた。測定条件は加速電圧15kV、電流量50nA、ビーム径1μmとした。
Mg/Si比の平均値が2.00±0.03の範囲内である場合を「◎」とし、Mg/Siが1.92以上1.97未満の範囲内あるいは2.03を超え2.08以下の範囲内である場合を「〇」とし、Mg/Siが1.92未満あるいは2.08を超える場合を「×」とした。
【0065】
(熱電特性の評価方法)
MgSi粒子の焼結体を作製し、得られたMgSi焼結体のパワーファクターを評価した。
MgSi焼結体は、次のようにして作製した。
MgSi粒子を、カーボンシートで内側を覆ったカーボンモールドに充填した。次いで、カーボンモールドに充填したMgSi粒子を、通電加熱装置を用いて、焼結温度950℃、加圧圧力30MPa、保持時間1分間の条件で加圧焼成することによって作製した。
【0066】
MgSi焼結体のパワーファクターは次のようにして測定した。
MgSi焼結体のゼーベック係数と電気伝導率を、アドバンス理工株式会社製ZEM-3を用いて、室温から550℃までの温度範囲で測定した。
そして、400℃におけるパワーファクター(PF)を、以下の式より算出した。
PF=Sσ
但し、Sはゼーベック係数(V/K)を表し、σは電気伝導率(S/m)を表す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
シリコン粗粒子の最大粒子径、硬質ボールの粒径、球状容器中のシリコン粗粒子と硬質ボールの充填率、粉砕時間が本発明の範囲にある本発明例1~11で得られたシリコン微粒子は、体積基準及び個数基準の平均粒子径、比表面積、平均円形度が本発明の範囲にあることがわかる。これに対して、シリコン粗粒子の最大粒子径と粉砕時間が本発の範囲から外れる比較例1、2、球状容器中のシリコン粗粒子と硬質ボールの合計充填率が本発明の範囲から外れる比較例3、粉砕時間が本発明の範囲から外れる比較例4、硬質ボールの粒径が本発明の範囲から外れる比較例5、6で得られたシリコン微粒子は、体積基準及び個数基準の平均粒子径、比表面積、平均円形度が本発明の範囲から外れることがわかる。
【0071】
図2のSEM写真と図3のSEM写真とを比較すると、本発明例4で得られたシリコン微粒子は、比較例4で得られたシリコン微粒子と比較して、粒子径が1μm以上の粒子が角張っておらず、球に近い形状であることがわかる。また、図4の粒度分布から、本発明例4で得られたシリコン微粒子は、D10(0.127μm)からD50(0.242μm)までの粒子径の範囲が狭く、相対的に微細な粒子は粒子径が揃っていることがわかる。また、D50(0.242μm)からD90(4.234μm)までの粒子径の範囲が広く、相対的に粗大な粒子は、粒子径の分布範囲が広いことがわかる。
【0072】
体積基準及び個数基準の平均粒子径、比表面積、平均円形度が本発明の範囲にある本発明例1~11のシリコン微粒子を用いて作製したMgSi焼結体は、パワーファクターが高く、熱電特性に優れていることがわかる。これに対して、体積基準及び個数基準の平均粒子径、比表面積、平均円形度が本発明の範囲から外れる比較例1~6のシリコン微粒子を用いて作製したMgSi焼結体は、パワーファクターが低く、熱電特性が劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本実施形態のシリコン微粒子は、微細で、かつ粗大な凝集粒子を形成しにくく、他の原料粒子と混合する際の分散性が高い。このため、本実施形態のシリコン微粒子は、Mg2Siなどのシリサイド系熱電材料のSi原料として有利に利用することができる。また、本実施形態のシリコン微粒子は、リチウムイオン二次電池用の負極活物質、シリサイドターゲット原料、発光体材料の材料としても利用することができる。
図1
図2
図3
図4