(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】医療用吸引器具
(51)【国際特許分類】
A61M 1/00 20060101AFI20231205BHJP
A61M 27/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
A61M1/00 107
A61M1/00 150
A61M27/00
(21)【出願番号】P 2019234745
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 圭司
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-177055(JP,A)
【文献】特開昭61-131751(JP,A)
【文献】特開2013-053868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00
A61M 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰圧により排液を吸引する医療用吸引器具であって、
陰圧容器と、
前記陰圧容器に接続されており、圧搾操作により収縮する際に内部から外部に排気し、弾性復元する際に前記陰圧容器から吸気する排気部と、
前記陰圧容器内に配置されているバルーンと、
を備え、
前記バルーンの内部は、前記陰圧容器に形成されている細孔を介して外気と連通しており、
前記陰圧容器が陰圧になるにつれて前記バルーンが膨張するようになっており、
前記排気部の1回の収縮と弾性復元を1サイクルの排気動作として、前記排気部の弾性復元力と前記陰圧容器内部の圧力とが均衡する均衡点に至るまで複数サイクルの排気動作が行われた場合の、1サイクル毎の前記陰圧容器の吸引圧の推移をプロットしたプロファイルについて、
前記吸引圧は、極大値を呈した後、極小値を呈し、
その後、前記極大値と同じ吸引圧に回復した後、前記極大値を超え、
前記極大値と同じ吸引圧に回復した後は、前記吸引圧が単調増加し、
前記極大値を呈してから前記極小値を呈するまでに要するサイクル数よりも、前記極小値を呈してから前記均衡点に至るまでに要するサイクル数が多
く、
前記プロファイルでは、前記排気動作のサイクル数が0のときの前記プロファイル上の点と前記均衡点とを直線で結んだ仮想的な対比プロファイルと比べて、吸引圧が均一化されている医療用吸引器具。
【請求項2】
前記均衡点に至るときの
、前記排気動作のサイクル数が0のときから数えたサイクル数が、
前記極小値を呈する
ときの、前記排気動作のサイクル数が0のときから数えたサイクル数の略2倍である請求項1に記載の医療用吸引器具。
【請求項3】
前記吸引圧が前記極小値を呈するタイミングで前記バルーンが前記陰圧容器の内面に接触する請求項1又は2に記載の医療用吸引器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用吸引器具に関する。
【背景技術】
【0002】
生体からチューブを介して排液(体液)を吸引する医療用吸引器具としては、陰圧容器と、陰圧容器に接続されており圧搾操作により収縮する際に内部から外部に排気し弾性復元する際に陰圧容器から吸気する排気部と、陰圧容器内に配置されているバルーンと、を備え、バルーンの内部は陰圧容器に形成されている細孔を介して外気と連通しており、陰圧容器が陰圧になるにつれてバルーンが膨張するようになっているタイプのものがある。
そのような医療用吸引器具としては、例えば特許文献1に記載のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、医療用吸引器具を用いた排液の吸引工程では、その全工程に亘り、なるべく均一な吸引圧で排液を吸引できることが望まれる。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、より均一な吸引圧で排液を吸引することが可能な医療用吸引器具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、陰圧により排液を吸引する医療用吸引器具であって、
陰圧容器と、
前記陰圧容器に接続されており、圧搾操作により収縮する際に内部から外部に排気し、弾性復元する際に前記陰圧容器から吸気する排気部と、
前記陰圧容器内に配置されているバルーンと、
を備え、
前記バルーンの内部は、前記陰圧容器に形成されている細孔を介して外気と連通しており、
前記陰圧容器が陰圧になるにつれて前記バルーンが膨張するようになっており、
前記排気部の1回の収縮と弾性復元を1サイクルの排気動作として、前記排気部の弾性復元力と前記陰圧容器内部の圧力とが均衡する均衡点に至るまで複数サイクルの排気動作が行われた場合の、1サイクル毎の前記陰圧容器の吸引圧の推移をプロットしたプロファイルについて、
前記吸引圧は、極大値を呈した後、極小値を呈し、その後、前記極大値と同じ吸引圧に回復した後、前記極大値を超え、
前記極大値と同じ吸引圧に回復した後は、前記吸引圧が単調増加し、
前記極大値を呈してから前記極小値を呈するまでに要するサイクル数よりも、前記極小値を呈してから前記均衡点に至るまでに要するサイクル数が多く、
前記プロファイルでは、前記排気動作のサイクル数が0のときの前記プロファイル上の点と前記均衡点とを直線で結んだ仮想的な対比プロファイルと比べて、吸引圧が均一化されている医療用吸引器具を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、より均一な吸引圧で排液を吸引することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る医療用吸引器具の正面図であり、陰圧容器からの排気を行う前の状態を示す。
【
図2】実施形態に係る医療用吸引器具の正面図であり、陰圧容器からの排気が行われた状態を示す。
【
図3】実施形態に係る医療用吸引器具の正面図であり、一連の排気動作を行う過程でバルーンが陰圧容器の内面に接触した状態を示す。
【
図4】実施形態に係る医療用吸引器具の陰圧容器の吸引圧の推移をプロットしたプロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、以下に説明する部材の形状、寸法、配置等については、本発明の趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれる。
【0010】
図1から
図3に示すように、本実施形態に係る医療用吸引器具100は、陰圧により排液を吸引する医療用吸引器具100であって、陰圧容器10と、陰圧容器10に接続されており圧搾操作により収縮する際に内部から外部に排気し弾性復元する際に陰圧容器10から吸気する排気部30と、陰圧容器10内に配置されているバルーン20と、を備えている。バルーン20の内部は、陰圧容器10に形成されている細孔18aを介して外気と連通しており、陰圧容器10が陰圧になるにつれてバルーン20が膨張するようになっている。
排気部30の1回の収縮と弾性復元を1サイクルの排気動作として、排気部30の弾性復元力と陰圧容器10内部の圧力とが均衡する均衡点(
図4の点P4;以下、点P4を均衡点P4と称する場合がある)に至るまで複数サイクルの排気動作が行われた場合の、1サイクル毎の陰圧容器10の吸引圧の推移をプロットしたプロファイル(
図4)について、吸引圧は、極大値(
図4の点P1における縦軸の値;以下、点P1を極大点P1と称する場合がある)を呈した後、極小値(
図4の点P2における縦軸の値;以下、点P2を極小点P2と称する場合がある)を呈し、極大値を呈してから極小値を呈するまでに要するサイクル数(例えば4)よりも、極小値を呈してから均衡点P4に至るまでに要するサイクル数(例えば10)が多い。
【0011】
均衡点P4に至ると、排気部30に対する圧搾操作(後述するように、圧搾部材31に対する圧搾操作)後に、通常の復元動作(均衡点P4に至るよりも前での圧搾操作後の復元動作)よりも遅延するようになる。均衡点P4では、例えば、一般的な医療従事者が圧搾操作を行った後、0.5秒が経過しても、排気部30(の圧搾部材31)が自然状態の形状に復元しないようになる。
陰圧容器10の吸引圧は、
図4及び表1に示すように、陰圧容器10の内部の圧力と大気圧との圧力差で表される。排気動作によって陰圧容器10の内部が陰圧(負圧)となるため、吸引圧はマイナスの値となる。ただし、本発明において、上記プロファイルにおける極大値及び極小値等は、吸引圧を絶対値で表したときの値として考えるものとする。このため、本明細書では、以下、吸引圧を絶対値で表記する(表中及び図中の記載を除く)。
医療用吸引器具100を用いた排液の吸引工程では、排気動作により徐々に吸引圧(の絶対値)が大きくなるのとは逆に、吸引開始時から徐々に吸引圧(の絶対値)が小さくなる。このとき、排気動作により徐々に吸引圧が大きくなるときと時系列的にまったく逆のプロファイルで吸引圧が小さくなるとは限らないが、相関があるプロファイルで吸引圧が小さくなる。
【0012】
本実施形態によれば、均衡点P4に至るまで排気動作が行われる際に、吸引圧が単調に増加するのではなく、一旦、極大値と極小値と呈するので、吸引圧を均一化することができる。
しかも、極大値を呈してから極小値を呈するまでに要するサイクル数よりも、極小値を呈してから均衡点P4に至るまでに要するサイクル数が多いので、極小値を呈してから均衡点P4に至るまでが長くなるため、吸引開始から極小値となるまでの吸引を、吸引圧の変動を抑制しつつ長期に亘って行うことができる。
すなわち、医療用吸引器具100を用いた排液の吸引工程において、より均一な吸引圧で排液を吸引することが可能となる。
【0013】
以下、より詳細に説明する。
図1から
図3のうち、
図1は陰圧容器10からの排気を行う前の状態を示しており、
図2は均衡点P4に至るまで陰圧容器10から排気を行った状態を示す。また、
図3は、一連の排気動作を行う過程でバルーン20が陰圧容器10の内面11aに接触した瞬間を示している。
なお、以下において、「上下方向」は、
図1から
図3に示す向きで医療用吸引器具100を配置した状態における上下方向をいう。より詳細には、医療用吸引器具100は、
図1から
図3に示す姿勢で水平な載置面に載置されることにより自立可能となっている。
【0014】
図1から
図3に示すように、陰圧容器10は、例えば、容器本体11と、容器本体11の上端部に装着されているキャップ18と、を備えて構成されている。
容器本体11の形状は特に限定されないが、容器本体11は、例えば、直方体形状に形成されている。容器本体11の底板及び天板はそれぞれ水平に配置されている。
容器本体11の天板には、それぞれ上下方向を軸方向とする第1口頸部11bと第2口頸部11cとが形成されている。
第1口頸部11bは、円筒状に形成されており、容器本体11の天板から上方に突出している。第1口頸部11bの内部空間は、第1口頸部11bの基端(下端)側の開口を介して容器本体11の内部空間と連通している。第1口頸部11bは、外周面にねじ山が形成されており、第1口頸部11bは雄ねじ形状となっている。
キャップ18は、スクリューキャップである。キャップ18は、筒状部と、筒状部の軸方向における一端側を閉塞している平板状の閉塞部と、を備えて構成されている。筒状部の内周面には、第1口頸部11bと螺合するねじ山が形成されている。キャップ18は、筒状部が第1口頸部11bと螺合することによって、第1口頸部11bに対して着脱可能に装着されている。これにより、キャップ18によって、第1口頸部11bの先端(上端)の開口が閉塞されている。キャップ18の閉塞部には、当該閉塞部を上下に貫通する細孔18aが形成されている。
キャップ18の閉塞部には、バルーン20を保持する保持筒部18bが形成されている。保持筒部18bは、キャップ18の筒状部よりも小径に形成されているとともに当該筒状部と同軸に配置されており、キャップ18の閉塞部から下方に向けて垂下している。平面視において、保持筒部18bの内側の範囲に細孔18aが配置されている。
第2口頸部11cは、円筒状に形成されており、容器本体11の天板から上方に突出している。第2口頸部11cの内部空間は、第2口頸部11cの基端(下端)側の開口を介して容器本体11の内部空間と連通している。第2口頸部11cには、一方弁32が設けられている。第2口頸部11cは、一方弁32によって塞がれている。
【0015】
更に、陰圧容器10は、例えば、容器本体11の天面に設けられている吸引側チューブ14と、吸引側チューブ14と連通しているコネクタ16と、吸引側チューブ14に装着されているクランプ部材15と、を備えている。
吸引側チューブ14は、可撓性のチューブであり、当該吸引側チューブ14の内部空間は容器本体11の内部空間と連通している。吸引側チューブ14の先端部(上端部)には、筒状のコネクタ16が設けられている。コネクタ16の内部空間は、吸引側チューブ14の内部空間と連通している。コネクタ16の先端(上端)には吸引口16aが形成されている。
クランプ部材15は、一方向に長尺な板状に形成されている。クランプ部材15には、当該クランプ部材15の長手方向に延在するスリットが形成されている。このスリットに吸引側チューブ14が挿通されて、クランプ部材15は吸引側チューブ14によって保持されている。
クランプ部材15のスリットの一部分は、相対的に幅広に形成されている幅広部であり、当該スリットの残部は、相対的に幅狭に形成されている幅狭部である。幅広部と幅狭部とは相互に連続的に配置されている。
吸引側チューブ14がスリットの幅広部を通過するようにクランプ部材15を吸引側チューブ14に対して相対的にスライドさせることによって、吸引側チューブ14の内部の流路が開状態となり、吸引口16aがコネクタ16及び吸引側チューブ14を介して容器本体11の内部空間と連通する。吸引側チューブ14がスリットの幅狭部を通過するようにクランプ部材15を吸引側チューブ14に対して相対的にスライドさせることによって、吸引側チューブ14がクランプ部材15によって締め付けられて吸引側チューブ14の内部の流路が閉状態となり、吸引口16aと容器本体11の内部空間とが相互に遮断されて、陰圧容器10の内部空間が、外部から遮断された閉状態となる。
容器本体11の天面において、吸引側チューブ14、第1口頸部11b及び第2口頸部11cが設けられている位置とは別の位置には、医療用吸引器具100の使用後に排液を排出するための排出口12aが形成されている。
排出口12aには、当該排出口12aを開閉可能な排出口キャップ17が取り付けられている。通常時は、排出口12aは排出口キャップ17によって閉塞されている。
なお、容器本体11には排出口12aが形成されていなくてもよい。この場合、例えば、第1口頸部11bからキャップ18(及びバルーン20)を取り外した状態で、第1口頸部11bの先端の開口から排液を外部に排出するようにしてもよい。
また、容器本体11には、例えば、吸引によって容器本体11に集められた液体の量(集液量)を確認するための目盛が付されていてもよい。
【0016】
容器本体11は、例えば透明な(可視光に対して透明な)樹脂材料によって構成されている。透明な樹脂材料としては、特に限定されないが、例えば、硬質塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、アクリルニトリル-スチレン共重合体樹脂などのスチレン系樹脂、ポリプロピレン(PP)やPEなどのポリオレフィン系樹脂等を挙げることができる。
【0017】
バルーン20は、膨張及び収縮が可能な弾性材料によって構成されている。バルーン20の材料は、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム等のゴム材料、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体等のスチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、アミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー等の熱可塑性エラストマー材料であることが好ましい。
バルーン20の材料の硬度(JIS硬度)は、特に限定されないが、例えば、20度以上50度以下であることが好ましい。本実施形態の場合、バルーン20を構成している材料の硬度は、一例として、30度前後である。ここで、JIS硬度とは、JIS K 6253に規定されているデュロメータを計測器として用いた方法で測定した値である。
バルーン20の肉厚は、特に限定されないが、例えば、0.2mm以上0.6mm以下であることが好ましい。本実施形態の場合、バルーン20の肉厚は、一例として、0.4mm前後である。
バルーン20の長手寸法は、例えば、40mm以上80mm以下であり、長手方向に対して直交する径方向の寸法は、例えば、15mm以上30mm以下である。
【0018】
バルーン20の形状は特に限定されないが、例えば、一端(上端)が開口となっているとともに他端側が閉塞している筒状に形成されており、膨らむ前の形状(
図1参照)は、上下に長尺である。バルーン20の上端側の開口から、キャップ18の保持筒部18bが挿入されて、バルーン20は保持筒部18bに対して気密に装着されている。バルーン20は保持筒部18bによって保持されている。
バルーン20の内部空間は、キャップ18の細孔18aを介して陰圧容器10の外部空間と連通している。
バルーン20が膨らんだ状態では、バルーン20の更なる拡張が容器本体11の内面11aによって規制されるため、バルーン20は容器本体11の内面11aに沿った形状に膨らみ、当該容器本体11の内面11aに対して密着するようになっている(
図2参照)。より詳細には、例えば、均衡点P4では、バルーン20が容器本体11の8つの隅部(角部)を除く部位であって、第1口頸部11bの形成箇所、第2口頸部11cの形成箇所、吸引側チューブ14との接続部、及び、排出口12aの形成箇所を除く部位に対して密着する。
【0019】
排気部30は、例えば、中空形状に形成されていて圧搾操作を受け付ける圧搾部材31と、圧搾部材31と外部空間との境界部に設けられている一方弁33と、を備えて構成されている。圧搾操作は、操作者が手で圧搾部材31を圧搾することによって行われる。
圧搾部材31は、例えば、圧搾操作がなされる前の自然状態の形状(
図1)が略球形のものである。圧搾部材31は、圧搾操作によって、弾性的に変形(収縮)し、圧搾操作が解除されることによって、弾性復元力により元の形状に復元する。
圧搾部材31は、例えば、当該圧搾部材31の下端に形成されている下側口頸部31cと、当該圧搾部材31の上端に形成されている上側口頸部31dと、を有する。下側口頸部31c及び上側口頸部31dは、それぞれ上下方向を軸方向とする円筒状に形成されている。
上側口頸部31dには、一方弁33が設けられており、上側口頸部31dは一方弁33によって塞がれている。一方弁33は、圧搾部材31の内部から外部(医療用吸引器具100の外部)への排気は許容する一方で、圧搾部材31の外部(医療用吸引器具100の外部)から圧搾部材31の内部への外気の流入は規制する。
圧搾部材31の下側口頸部31cに容器本体11の第2口頸部11cが圧入されて、圧搾部材31が容器本体11に対して気密に装着されている。これにより、容器本体11の内部空間と圧搾部材31の内部空間との境界部には一方弁32が配置されている。
一方弁32は、容器本体11の内部から圧搾部材31の内部への吸気は許容する一方で、圧搾部材31の内部から容器本体11の内部への気体の逆流は規制する。
下側口頸部31cの周囲には結束バンドなどの締結具が設けられていることも好ましい。
圧搾部材31の材料は、特に限定されないが、例えば、天然ゴムであってもよいし、イソプレンゴム又はシリコンゴム等の合成ゴムであってもよい。
【0020】
なお、医療用吸引器具100によって吸引した排液は、容器本体11に貯留される。
容器本体11の天面の体液導入口(吸引側チューブ14に連通している箇所)や、排気部30の圧搾部材31への排気口(第2口頸部11cの基端)が、バルーン20で塞がってしまうことを抑制するため、容器本体11の内面において、これら体液導入口や排気口の周囲には、溝(不図示)が形成されていることも好ましい。この溝は、例えば、体液導入口の周囲や、排気口の周囲を、周回状に囲んでいることが好ましい。
また、吸引側チューブ14が容器本体11の角付近に配置されていることも好ましい。バルーン20が縮んだ際にバルーン20と容器本体11の内面との間に最初に間隙が生じる箇所は、容器本体11の角付近であるため、当該角付近(例えば、排出口12aの近傍)に排気チューブ14を設けることにより、容器本体11内に排液が入るスペースを、吸引動作の開始時から容易に確保することができる。
なお、体液導入口や排気口の周囲に溝が形成されているとともに、吸引側チューブ14が容器本体11の角付近に配置されていることが、より好ましい。
【0021】
医療用吸引器具100を用いて生体から排液(体液)を吸引するには、先ず、クランプ部材15によって吸引側チューブ14を閉塞している状態で、一端側が生体内に挿入されている図示しないチューブの他端をコネクタ16に接続する。
次に、排気部30の圧搾部材31に対する圧搾操作を繰り返し行い、陰圧容器10の内部の空気を医療用吸引器具100の外部に排気することによって、陰圧容器10の内部を陰圧にする。
排気部30の圧搾部材31が圧搾操作により収縮する際には、圧搾部材31内の空気は、一方弁33を介して医療用吸引器具100の外部に排気される。圧搾操作が解除されて圧搾部材31が弾性復元する際には、容器本体11の内部の空気が一方弁32を介して圧搾部材31の内部に導入(吸気)される。
陰圧容器10の内部が陰圧になるにつれて、バルーン20は容器本体11の内部で膨らむ(
図2参照)。なお、バルーン20の内部空間は、保持筒部18bの内部空間と細孔18aとを介して医療用吸引器具100の外部空間と連通しているため、バルーン20が膨らむ際には、バルーン20内に外気が導入される。なお、バルーン20が膨らむ過程で、バルーン20は容器本体11の内面11aに接触する(
図3参照)。
圧搾部材31の弾性復元力と陰圧容器10の内部の圧力とが均衡する均衡点P4(
図4)に至るまで、圧搾部材31の圧搾操作とその解除とが繰り返されることによって、一連の排気動作が完了する。
【0022】
ここで、圧搾部材31に対する圧搾操作は、例えば、圧搾部材31の互いに対向する対向面31a、31bどうしが接触する(
図2に二点鎖線で示す状態)まで行うものとする。また、毎回の圧搾操作に続いて、当該圧搾操作を解除する状態は、例えば、圧搾部材31が元の略球形の形状に復元するまで継続させる(つまり、圧搾部材31が元の形状に復元してから、次回の圧搾操作を行う)ものとする。圧搾部材31の弾性復元力と陰圧容器10の内部の圧力とが均衡する均衡点に至ると、例えば、圧搾操作の解除後も圧搾部材31が十分に元の形状に復元せず、例えば、
図2に実線で示されるように、圧搾操作時の状態(二点鎖線で示す状態)と、元の球形の状態との中間の状態となる。
次に、クランプ部材15によって吸引側チューブ14を開状態にすることによって、生体から排液を吸引することができる。すなわち、排液は、図示しないチューブ、コネクタ16及び吸引側チューブ14をこの順に通って、容器本体11に吸引される。吸引された排液は、容器本体11に貯留される。こうして、例えば、人体の創部から血液、滲出液等の排液を行うことができる。
排液を吸引する過程で、陰圧容器10の内部の圧力(容器本体11の内部の圧力)は、徐々に大気圧に近づく。つまり、徐々に吸引圧が弱まる。また、排液を吸引する過程で、バルーン20は徐々に萎む。
なお、排気動作の際には、必ずしも、クランプ部材15によって吸引側チューブ14を閉塞する必要はない。また、排液の吸引の途中で、クランプ部材15によって吸引側チューブ14を閉塞することによって、吸引を中断することもできる。
【0023】
ここで、排気部30の圧搾部材31に対する1回の圧搾操作により圧搾部材31を収縮させて、圧搾操作の解除により圧搾部材31が1回弾性復元するまでが、1サイクルの排気動作である。また、排気動作を行うための、操作者による操作を、ポンピング操作という。均衡点P4に至った回の排気動作では、圧搾部材31が完全には弾性復元しない場合があるが、その回の排気動作(及びポンピング操作)も、1回の排気動作(及びポンピング操作)としてカウントする。ポンピング操作の回数をポンピング回数という。ポンピング回数は、排気動作のサイクル数と同義である。
【0024】
【0025】
表1は、排気部30に対する圧搾操作を繰り返し行ったときの、ポンピング回数の増加に応じた陰圧容器10の吸引圧(単位:kPa)の変化を示す実測値である。この測定は、市販の圧力計を用いて行った。より詳細には、チューブを介してコネクタ16に圧力計を接続した状態で測定した。この測定の際には、各回のポンピング操作において、圧搾部材31の互いに対向する対向面31a、31bどうしが接触するまで圧搾部材31を圧搾した。また、この測定の際には、各回のポンピング操作を行った後、圧力計の測定値が安定するまで待ってから、次回のポンピング操作を行った。
なお、圧搾部材31に対する圧搾操作は、圧搾部材31の内容積が33%以下となるまで行うことが好ましい。
図4は、表1をプロットしたプロファイルを示している。
図4においては、縦軸が吸引圧であり、横軸がポンピング回数である。
【0026】
図4に示すように、均衡点P4に至るときのサイクル数(例えば21)が、極小値を呈するまでに要するサイクル数(例えば11)の略2倍である。
これにより、極小値を呈してから均衡点P4に至るまでがより確実に長くなるため、吸引開始から極小値となるまでの吸引を、吸引圧の変動を抑制しつつ長期に亘って行うことができる。
ここで、均衡点P4に至るときのサイクル数が、極小値を呈するまでに要するサイクル数の略2倍であるとは、均衡点P4に至るときのサイクル数が極小値を呈するまでに要するサイクル数の2倍±2であることとする。
【0027】
図4に示すように、吸引圧は、極大値(極大点P1における縦軸の値)を呈した後、極小値(極小点P2における縦軸の値)を呈し、その後、極大値と同じ吸引圧に回復した後、極大値を超え、均衡点P4に至る。なお、極小値を呈した後で極大値と同じ吸引圧に回復するのは、
図4の点P3である。以下、点P3を回復点P3と称する場合がある。
これにより、均衡点P4に至るまで排気動作が行われる際に、吸引圧が単調に増加するのではなく、一旦、極大値と極小値とを経た後に均衡点P4に至るので、吸引圧を均一化することができる。
よって、医療用吸引器具100を用いた排液の吸引工程では、その全工程に亘り、より均一な吸引圧で排液を吸引することが可能となる。
【0028】
本実施形態の場合、例えば、極大値を呈するときのサイクル数(ポンピング回数)は7(7回)であり、極小値を呈するときのサイクル数(ポンピング回数)は11(11回)であり、回復点P3となるときのサイクル数(ポンピング回数)は15(15回)である。また、均衡点P4に至るときサイクル数(ポンピング回数)は21(21回)である。
表1に示すように、例えば、極大値は15.22kPaであり、極小値は12.10kPaであり、均衡点P4での吸引圧は25.45kPaである。
なお、本発明において、極大値は12kPa以上18kPa以下であることが好ましく、極小値は9kPa以上15kPa以下であることが好ましく、均衡点P4における吸引圧は20kPa以上30kPa以下であることが好ましい。
【0029】
また、極大値を呈するときの吸引圧(極大値)が、均衡点P4における吸引圧の50%を超えている。
これにより、極大値と、均衡点P4における吸引圧と、の格差が抑制されているため、医療用吸引器具100を用いた排液の吸引工程では、吸引開始時(均衡点P4と対応する吸引圧で吸引)から、極大値で吸引するタイミングに亘り、より均一な吸引圧で排液を吸引することが可能となる。
【0030】
また、極小値は極大値の70%以上である。
これにより、極大値と極小値との格差が抑制されているため、医療用吸引器具100を用いた排液の吸引工程では、極小値で吸引するタイミングから極大値で吸引するタイミングに亘り、より均一な吸引圧で排液を吸引することが可能となる。
より詳細には、例えば、極小値は極大値の75%以上であり、約80%である。
【0031】
なお、極小値は11kPa以上13kPa以下である。このため、極小値で吸引する際にも十分な強さで排液を吸引することができる。
【0032】
ここで、極大値と極小値との間には、当然ながら変曲点P5が存在する。変曲点P5では、プロファイルの傾きが減少から増大に転じる。
表1を見ると、極大値(ポンピング回数が7回で、15.22kPa)から極小値(ポンピング回数が11回で、12.10kPa)までのプロット点のうち、隣り合うプロット点間の吸引圧の差分の大きさは、いずれもポンピング回数が増加するにつれて、減少している。このため、変曲点P5となるポンピング回数は、7回と8回との間と考えられる(
図4参照)。
そして、
図4に示すように、極大点P1から変曲点P5までの区間の傾きよりも、変曲点P5から極小点P2までの区間の傾きが小さい。
すなわち、極大値と極小値との間に変曲点P5があり、極大値から変曲点P5までの区間の傾きよりも、変曲点P5から極小値までの区間の傾きが小さい。
これにより、極小値の近傍における吸引圧がより均一となっている。
【0033】
また、変曲点P5が、極小値よりも極大値に近い位置にある。
これにより、極大値と極小値との間の区間において、極小値に近い部分で、より広範囲に亘って吸引圧の変動が抑制されている。
【0034】
また、極小値の後で極大値と同じ吸引圧に回復するときのサイクル数(15)が、極大値を呈するときのサイクル数(7)の2倍である。
これにより、医療用吸引器具100を用いた排液の吸引工程では、回復点P3と対応する吸引圧で吸引するタイミングから、極大値で吸引するタイミングまでの時間の長さを、十分に確保することができる。
ここで、極小値の後で極大値と同じ吸引圧に回復するときのサイクル数が、極大値を呈するときのサイクル数の2倍であるとは、極小値の後で極大値と同じ吸引圧に回復するときのサイクル数が、極大値を呈するときのサイクル数の2倍±2であることとする。
【0035】
なお、極大値と同じ吸引圧に回復した後は、吸引圧が単調増加する。
また、吸引圧が極小値を呈するタイミングでバルーン20が陰圧容器10の内面11aに接触する(
図3参照)。
【0036】
ここで、当然ながら、極大値を呈するタイミングの前には、極小値と同じ吸引圧を呈するタイミング(
図4の点P6参照)が存在する。
そして、極大値の前に極小値と同じ吸引圧となってから極大値を呈するまでに要するサイクル数(約2)よりも、極大値を呈してから極小値を呈するまでに要するサイクル数(4)が多い。
これにより、極大値を呈してから極小値を呈するまでの吸引圧の変動を緩やかにできるため、極小値となってから極大値となるまでの吸引を、吸引圧の変動を抑制しつつ行うことができる。
【0037】
また、極大値を呈するまでに要するサイクル数(7)よりも、極大値を呈してから均衡点P4に至るまでに要するサイクル数(14)が多い。
これにより、極大値を呈してから均衡点P4に至るまでが長くなるため、吸引開始から極大値となるまでの吸引を、吸引圧の変動を抑制しつつ長期に亘って行うことができる。
より詳細には、極大値を呈してから均衡点P4に至るまでに要するサイクル数(14)が、極大値を呈するまでに要するサイクル数(7)の略2倍である。
ここで、極大値を呈してから均衡点P4に至るまでに要するサイクル数が、極大値を呈するまでに要するサイクル数の略2倍であるとは、極大値を呈してから均衡点P4に至るまでに要するサイクル数が、極大値を呈するまでに要するサイクル数の2倍±2であることとする。
【0038】
また、極大値を呈するまでの傾き(
図4に二点鎖線で示す直線S1の傾き)よりも、極大値と同じ吸引圧に回復してから均衡点P4に至るまでの傾き(
図4に二点鎖線で示す直線S2の傾き)が小さい。
これにより、吸引開始から、極大値と同じ吸引圧となるまでの吸引を、吸引圧の変動を抑制しつつ行うことができる。
【0039】
ここで、本実施形態に係る医療用吸引器具100においては、上記プロファイルが上述したような特徴を具備するものとなるよう、医療用吸引器具100の各部の寸法や性状が設定されている。
より詳細には、製品化前に、以下に説明するような処理(ならし処理)をバルーン20に対して行う。その処理では、例えば、バルーン20に空気を導入して、当該バルーン20の長手方向の寸法が、通常時の2~3倍となるようにバルーン20を膨らませる処理を1回以上行う。
また、容器本体11の天面における排気部30の配置、陰圧容器10の容積、容器本体11の容積、バルーン20の外面に対するオイルの塗布の有無、その塗布量、細孔18aの寸法、バルーン20の外面に対するタルクの塗布の有無、その塗布量などについても、適切に設定する。
一例として、バルーン20の外面には、ジメチルシリコーンオイルを塗布することができる。更に、バルーン20の外面には、微粉砕細タルク(含水珪酸マグネシウム、平均粒子径9.0μm)を塗布することができる。一例として、微粉砕細タルクは、例えば、単斜晶系の結晶構造を有し、モース硬度は1である。
【0040】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
例えば、上記の実施形態では、陰圧容器10は単体の容器により構成されている例を説明したが、陰圧容器10が第1容器と第2容器との2つの容器を備えて構成されていてもよい。
陰圧容器10が第1容器と第2容器とを備える場合、例えば、第1容器にキャップ18、バルーン20及び排気部30が設けられており、第2容器に吸引側チューブ14及びコネクタ16が設けられているとともに排出口12aが形成されている構成とすることができる。この場合の医療用吸引器具100は、例えば、第1容器の内部空間と第2容器の内部空間とを相互に連通させる連結チューブを備える。そして、バルーン20は第1容器の内部で膨らみ、排液は、例えば第2容器に貯留される。
また、陰圧容器10は、互いに連通する3つ以上の容器を備えて構成されていてもよい。
【0041】
本実施形態は以下の技術思想を包含する。
(1)陰圧により排液を吸引する医療用吸引器具であって、
陰圧容器と、
前記陰圧容器に接続されており、圧搾操作により収縮する際に内部から外部に排気し、弾性復元する際に前記陰圧容器から吸気する排気部と、
前記陰圧容器内に配置されているバルーンと、
を備え、
前記バルーンの内部は、前記陰圧容器に形成されている細孔を介して外気と連通しており、
前記陰圧容器が陰圧になるにつれて前記バルーンが膨張するようになっており、
前記排気部の1回の収縮と弾性復元を1サイクルの排気動作として、前記排気部の弾性復元力と前記陰圧容器内部の圧力とが均衡する均衡点に至るまで複数サイクルの排気動作が行われた場合の、1サイクル毎の前記陰圧容器の吸引圧の推移をプロットしたプロファイルについて、
前記吸引圧は、極大値を呈した後、極小値を呈し、
前記極大値を呈してから前記極小値を呈するまでに要するサイクル数よりも、前記極小値を呈してから前記均衡点に至るまでに要するサイクル数が多い医療用吸引器具。
(2)前記均衡点に至るときのサイクル数が、前記極小値を呈するまでに要するサイクル数の略2倍である(1)に記載の医療用吸引器具。
(3)前記吸引圧が前記極小値を呈するタイミングで前記バルーンが前記陰圧容器の内面に接触する(1)又は(2)に記載の医療用吸引器具。
【符号の説明】
【0042】
10 陰圧容器
11 容器本体
11a 内面
11b 第1口頸部
11c 第2口頸部
12a 排出口
14 吸引側チューブ
15 クランプ部材
16 コネクタ
16a 吸引口
17 排出口キャップ
18 キャップ
18a 細孔
18b 保持筒部
20 バルーン
30 排気部
31 圧搾部材
31a、31b 対向面
31c 下側口頸部
31d 上側口頸部
32、33 一方弁
100 医療用吸引器具