(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20231205BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
H01L29/78 652C
H01L29/78 652J
H01L29/78 655G
H01L29/78 652B
H01L29/78 655E
H01L29/78 655B
H01L29/78 657D
H01L29/78 655D
H01L29/78 652D
(21)【出願番号】P 2019235273
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 圭一
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-028567(JP,A)
【文献】特開2012-054403(JP,A)
【文献】国際公開第2016/030966(WO,A1)
【文献】特開2015-103697(JP,A)
【文献】特開2013-021240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/739
H01L 29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IGBT領域とダイオード領域に区画された半導体基板と、
前記半導体基板の下面を被覆するように設けられている下部電極と、
前記半導体基板の上面を被覆するように設けられている上部電極と、
前記IGBT領域に位置する前記半導体基板の上面から深部に向けて延びている複数のトレンチゲート部と、を備えており、
前記半導体基板は、第1導電型のドリフト領域と、第2導電型のボディ領域と、第1導電型のエミッタ領域と、第2導電型のアノード領域と、単層又は多段の第1導電型のバリア領域と、を有しており、
前記ドリフト領域は、前記IGBT領域と前記ダイオード領域の双方に設けられており、
前記ボディ領域は、前記IGBT領域に位置する前記ドリフト領域上に設けられており、隣り合う前記トレンチゲート部の間に配置されており、
前記エミッタ領域は、前記ボディ領域上に設けられており、前記上部電極に接しており、
前記アノード領域は、前記ダイオード領域に位置する前記ドリフト領域上に設けられており、
単層又は多段の前記バリア領域は、前記IGBT領域のうちの前記ダイオード領域に隣接した境界部のみに配置されており、前記境界部に位置する前記ボディ領域に埋設しており、前記ボディ領域を厚み方向に分断するように設けられている、半導体装置。
【請求項2】
IGBT領域とダイオード領域に区画された半導体基板と、
前記半導体基板の下面を被覆するように設けられている下部電極と、
前記半導体基板の上面を被覆するように設けられている上部電極と、
前記IGBT領域に位置する前記半導体基板の上面から深部に向けて延びている複数のトレンチゲート部と、を備えており、
前記半導体基板は、第1導電型のドリフト領域と、第2導電型のボディ領域と、第1導電型のエミッタ領域と、第2導電型のアノード領域と、単層又は多段の第1導電型の境界内バリア領域と、単層又は多段の第1導電型の境界外バリア領域と、を有しており、
前記ドリフト領域は、前記IGBT領域と前記ダイオード領域の双方に設けられており、
前記ボディ領域は、前記IGBT領域に位置する前記ドリフト領域上に設けられており、隣り合う前記トレンチゲート部の間に配置されており、
前記エミッタ領域は、前記ボディ領域上に設けられており、前記上部電極に接しており、
前記アノード領域は、前記ダイオード領域に位置する前記ドリフト領域上に設けられており、
単層又は多段の前記境界内バリア領域は、前記IGBT領域のうちの前記ダイオード領域に隣接した境界部に位置する前記ボディ領域に埋設しており、前記ボディ領域を厚み方向に分断するように設けられており、
単層又は多段の前記境界外バリア領域は、前記境界部以外の前記IGBT領域に位置する前記ボディ領域に埋設しており、前記ボディ領域を厚み方向に分断するように設けられており、
前記半導体基板の厚み方向において、前記境界内バリア領域の厚みが、前記境界外バリア領域の厚みよりも厚い、半導体装置。
【請求項3】
IGBT領域とダイオード領域に区画された半導体基板と、
前記半導体基板の下面を被覆するように設けられている下部電極と、
前記半導体基板の上面を被覆するように設けられている上部電極と、
前記IGBT領域に位置する前記半導体基板の上面から深部に向けて延びている複数のトレンチゲート部と、を備えており、
前記半導体基板は、第1導電型のドリフト領域と、第2導電型のボディ領域と、第1導電型のエミッタ領域と、第1導電型のバリア領域と、第2導電型のアノード領域と、を有しており、
前記ドリフト領域は、前記IGBT領域と前記ダイオード領域の双方に設けられており、
前記ボディ領域は、前記IGBT領域のうちの前記ダイオード領域に隣接した境界部以外に位置する前記ドリフト領域上に設けられており、隣り合う前記トレンチゲート部の間に配置されており、
前記エミッタ領域は、前記ボディ領域上に設けられており、前記上部電極に接しており、
前記バリア領域は、前記境界部に位置する前記ドリフト領域上に設けられており、隣り合う前記トレンチゲート部の間に配置されており、
前記アノード領域は、前記ダイオード領域に位置する前記ドリフト領域上に設けられている、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、半導体装置に関する。
【0002】
特許文献1には、IGBT(insulated gate bipolar transistor)領域とダイオード領域に区画された半導体基板を備える半導体装置が開示されている。この半導体装置では、半導体基板の下面を被覆するように下部電極が設けられており、半導体基板の上面を被覆するように上部電極が設けられている。IGBT領域内には、上部電極がエミッタ電極となり、下部電極がコレクタ電極となるように、IGBTが設けられている。ダイオード領域内には、上部電極がアノード電極となり、下部電極がカソード電極となるようにダイオードが設けられている。ダイオードは、IGBTに対して逆並列に接続されており、フリーホイーリングダイオードとして動作することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1でも指摘されているように、この種の半導体装置では、ダイオードが動作するモードにおいて、IGBT領域からダイオード領域へのキャリア流入が問題となっている。このようなIGBT領域からダイオード領域に流入するキャリアによって、ダイオードの逆回復特性が悪化してしまう。本明細書は、IGBT領域とダイオード領域に区画された半導体基板を備える半導体装置において、IGBT領域からダイオード領域へのキャリアの流入を抑える技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する半導体装置の1つの実施形態は、IGBT領域とダイオード領域に区画された半導体基板と、前記半導体基板の下面を被覆するように設けられている下部電極と、前記半導体基板の上面を被覆するように設けられている上部電極と、前記IGBT領域に位置する前記半導体基板の上面から深部に向けて延びている複数のトレンチゲート部と、を備えることができる。前記半導体基板は、第1導電型のドリフト領域と、第2導電型のボディ領域と、第1導電型のエミッタ領域と、第2導電型のアノード領域と、単層又は多段の第1導電型のバリア領域と、を有することができる。前記ドリフト領域は、前記IGBT領域と前記ダイオード領域の双方に設けられている。前記ボディ領域は、前記IGBT領域に位置する前記ドリフト領域上に設けられており、隣り合う前記トレンチゲート部の間に配置されている。前記エミッタ領域は、前記ボディ領域上に設けられており、前記上部電極に接している。前記アノード領域は、前記ダイオード領域に位置する前記ドリフト領域上に設けられている。単層又は多段の前記バリア領域は、前記IGBT領域のうちの前記ダイオード領域に隣接した境界部のみに配置されており、前記境界部に位置する前記ボディ領域に埋設しており、前記ボディ領域を厚み方向に分断するように設けられている。ここで、前記IGBT領域に設けられている前記トレンチゲート部は、アクティブゲートであってもよく、ダミーゲートであってもよい。例えば、前記IGBT領域の全体にアクティブゲートが設けられていてもよく、又は、前記IGBT領域のうちの前記境界部にはダミーゲートが設けられ、前記境界部以外の前記IGBT領域にアクティブゲートが設けられてもよい。
【0006】
上記実施形態の半導体装置では、前記境界部のみに単層又は多段の前記バリア領域が設けられている。これにより、上記半導体装置では、ダイオードが動作するモードにおいて、前記IGBT領域のうちの前記境界部から前記ダイオード領域に流入するキャリアを抑制することができる。この結果、上記半導体装置では、ダイオードの逆回復特性の悪化が抑えられる。また、上記実施形態の半導体装置では、前記境界部以外に位置する前記ボディ領域には前記バリア領域が設けられていない。仮に、前記境界部に設けられているような前記バリア領域が前記IGBT領域の全体に一様に設けられていると、閾値の低下等のIGBTの電気的特性の悪化が問題となる。このように、上記実施形態の半導体装置では、IGBTの電気的特性の悪化を抑えながら、ダイオードの逆回復特性の悪化も抑えることができる。
【0007】
本明細書が開示する半導体装置の他の1つの実施形態は、IGBT領域とダイオード領域に区画された半導体基板と、前記半導体基板の下面を被覆するように設けられている下部電極と、前記半導体基板の上面を被覆するように設けられている上部電極と、前記IGBT領域に位置する前記半導体基板の上面から深部に向けて延びている複数のトレンチゲート部と、を備えることができる。前記半導体基板は、第1導電型のドリフト領域と、第2導電型のボディ領域と、第1導電型のエミッタ領域と、第2導電型のアノード領域と、単層又は多段の第1導電型の境界内バリア領域と、単層又は多段の第1導電型の境界外バリア領域と、を有することができる。前記ドリフト領域は、前記IGBT領域と前記ダイオード領域の双方に設けられている。前記ボディ領域は、前記IGBT領域に位置する前記ドリフト領域上に設けられており、隣り合う前記トレンチゲート部の間に配置されている。前記エミッタ領域は、前記ボディ領域上に設けられており、前記上部電極に接している。前記アノード領域は、前記ダイオード領域に位置する前記ドリフト領域上に設けられている。単層又は多段の前記境界内バリア領域は、前記IGBT領域のうちの前記ダイオード領域に隣接した境界部に配置されており、前記境界部に位置する前記ボディ領域に埋設しており、前記ボディ領域を厚み方向に分断するように設けられている。単層又は多段の前記境界外バリア領域は、前記境界部以外の前記IGBT領域に位置する前記ボディ領域に埋設しており、前記ボディ領域を厚み方向に分断するように設けられている。前記半導体基板の厚み方向において、前記境界内バリア領域の厚みが、前記境界外バリア領域の厚みよりも厚い。前記境界内バリア領域と前記境界外バリア領域の厚みの対比は、これらの領域が多段で構成されている場合、多段の領域の合計の厚みを用いて対比される。ここで、前記IGBT領域に設けられている前記トレンチゲート部は、アクティブゲートであってもよく、ダミーゲートであってもよい。例えば、前記IGBT領域の全体にアクティブゲートが設けられていてもよく、又は、前記IGBT領域のうちの前記境界部にはダミーゲートが設けられ、前記境界部以外の前記IGBT領域にアクティブゲートが設けられてもよい。
【0008】
上記実施形態の半導体装置では、前記境界部に単層又は多段の前記境界内バリア領域が設けられている。これにより、上記半導体装置では、ダイオードが動作するモードにおいて、前記IGBT領域のうちの前記境界部から前記ダイオード領域に流入するキャリアを抑制することができる。この結果、上記半導体装置では、ダイオードの逆回復特性の悪化が抑えられる。また、上記実施形態の半導体装置では、前記境界部以外の前記IGBT領域にも前記境界外バリア領域が設けられている。しかしながら、前記境界外バリア領域の厚みは、前記境界内バリア領域の厚みよりも薄い。仮に、前記境界内バリア領域が前記IGBT領域の全体に一様に設けられていると、閾値の低下等のIGBTの電気的特性の悪化が問題となる。このように、上記実施形態の半導体装置では、IGBTの電気的特性の悪化を抑えながら、ダイオードの逆回復特性の悪化も抑えることができる。
【0009】
本明細書が開示する半導体装置の他の1つの実施形態は、IGBT領域とダイオード領域に区画された半導体基板と、前記半導体基板の下面を被覆するように設けられている下部電極と、前記半導体基板の上面を被覆するように設けられている上部電極と、前記IGBT領域に位置する前記半導体基板の上面から深部に向けて延びている複数のトレンチゲート部と、を備えることができる。前記半導体基板は、第1導電型のドリフト領域と、第2導電型のボディ領域と、第1導電型のエミッタ領域と、第1導電型のバリア領域と、第2導電型のアノード領域と、を有することができる。前記ドリフト領域は、前記IGBT領域と前記ダイオード領域の双方に設けられている。前記ボディ領域は、前記IGBT領域のうちの前記ダイオード領域に隣接した境界部以外に位置する前記ドリフト領域上に設けられており、隣り合う前記トレンチゲート部の間に配置されている。前記エミッタ領域は、前記ボディ領域上に設けられており、前記上部電極に接している。前記バリア領域は、前記境界部に位置する前記ドリフト領域上に設けられており、隣り合う前記トレンチゲート部の間に配置されている。前記アノード領域は、前記ダイオード領域に位置する前記ドリフト領域上に設けられている。ここで、前記IGBT領域に設けられている前記トレンチゲート部は、アクティブゲートであってもよく、ダミーゲートであってもよい。例えば、前記IGBT領域の全体にアクティブゲートが設けられていてもよく、又は、前記IGBT領域のうちの前記境界部にはダミーゲートが設けられ、前記境界部以外の前記IGBT領域にアクティブゲートが設けられてもよい。
【0010】
上記実施形態の半導体装置では、前記境界部に前記ボディ領域に代えて前記バリア領域が設けられている。これにより、上記半導体装置では、ダイオードが動作するモードにおいて、前記IGBT領域の前記境界部から前記ダイオード領域に流入するキャリアを抑制することができる。この結果、上記半導体装置では、ダイオードの逆回復特性の悪化が抑えられる。また、上記実施形態の半導体装置では、前記境界部以外の前記IGBT領域には前記ボディ領域が設けられており、前記バリア領域が設けられていない。仮に、前記境界部以外の前記IGBT領域にも前記バリア領域が設けられていると、閾値の低下等のIGBTの電気的特性の悪化が問題となる。このように、上記実施形態の半導体装置では、IGBTの電気的特性の悪化を抑えながら、ダイオードの逆回復特性の悪化も抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】半導体装置の1つの実施形態の要部断面図であり、
図1のII-II線における要部断面図を模式的に示す。
【
図3】半導体装置の他の1つの実施形態の要部断面図であり、
図1のII-II線における要部断面図を模式的に示す。
【
図4】半導体装置の他の1つの実施形態の要部断面図であり、
図1のII-II線における要部断面図を模式的に示す。
【
図5】半導体装置の他の1つの実施形態の要部断面図であり、
図1のII-II線における要部断面図を模式的に示す。
【
図6】半導体装置の他の1つの実施形態の要部断面図であり、
図1のII-II線における要部断面図を模式的に示す。
【
図7】半導体装置の他の1つの実施形態の要部断面図であり、
図1のII-II線における要部断面図を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示すように、半導体装置10は、半導体基板12を有している。半導体基板12は、シリコン製の基板である。なお、以下では、半導体基板12の厚み方向をz方向といい、半導体基板12の上面に平行な一方向をx方向といい、半導体基板12の上面に平行かつx方向に直交する方向をy方向という。
図1に示すように、半導体基板12は、2つの素子領域18と、素子領域18の周囲に配置されている耐圧領域19を有している。各素子領域18は、IGBT領域20とダイオード領域40に区画されている。各素子領域18内において、IGBT領域20とダイオード領域40が、y方向に交互に設けられている。IGBT領域20内にはIGBTを構成するための構造が設けられており、ダイオード領域40内にはダイオードを構成するための構造が設けられている。
【0013】
図2に示すように、半導体装置10は、上部電極14と下部電極16を有している。上部電極14は、半導体基板12の上面12a(表面)を被覆するように配置されている。下部電極16は、半導体基板12の下面12b(裏面)を被覆するように配置されている。このように、半導体装置10は、縦型デバイスとして構成されている。上部電極14は、IGBTのエミッタ電極とダイオードのアノード電極を兼ねている。下部電極16は、IGBTのコレクタ電極とダイオードのカソード電極を兼ねている。
【0014】
半導体基板12内には、コレクタ領域30とカソード領域48が設けられている。半導体基板12の下面12bに露出する位置に、コレクタ領域30とカソード領域48が設けられている。コレクタ領域30は、p型不純物を含むp型領域であり、下部電極16にオーミック接触している。カソード領域48は、n型不純物を含むn型領域であり、下部電極16にオーミック接触している。半導体基板12の下面12bに露出する位置において、IGBT領域20の全体にコレクタ領域30が設けられており、ダイオード領域40の全体にカソード領域48が設けられている。言い換えると、半導体基板12をz方向(半導体基板12の厚み方向)に沿ってみたときに、IGBT領域20に位置する半導体基板12の下面に露出する位置にコレクタ領域30が設けられており、ダイオード領域40に位置する半導体基板12の下面に露出する位置にカソード領域48が設けられている。このように、半導体基板12は、コレクタ領域30が設けられている範囲がIGBT領域20として区画され、カソード領域48が設けられている範囲がダイオード領域40として区画されている。なお、半導体装置10では、IGBT領域20のうちのダイオード領域40に隣接する範囲を特に、境界部60という。境界部60の幅は、特に限定されるものではないが、半導体基板12の厚みよりも大きくてもよい。
【0015】
半導体基板12は、さらに、バッファ領域28、ドリフト領域26、多段のバリア領域25a,25b、ボディ領域24、ボディコンタクト領域23、エミッタ領域22、アノード領域42、及び、アノードコンタクト領域41を有している。
【0016】
バッファ領域28は、カソード領域48よりもn型不純物が低いn型領域である。バッファ領域28は、IGBT領域20とダイオード領域40に跨って分布している。バッファ領域28は、IGBT領域20内では、コレクタ領域30の上部に配置されており、コレクタ領域30に接している。バッファ領域28は、ダイオード領域40内では、カソード領域48の上部に配置されており、カソード領域48に接している。
【0017】
ドリフト領域26は、バッファ領域28よりもn型不純物濃度が低いn型領域である。ドリフト領域26は、IGBT領域20とダイオード領域40に跨って分布している。ドリフト領域26は、IGBT領域20及びダイオード領域40内において、バッファ領域28の上部に配置されており、バッファ領域28に接している。
【0018】
ボディ領域24は、p型不純物を含むp型領域である。ボディ領域24は、IGBT領域20内に配置されている。ボディ領域24は、IGBT領域20に位置するドリフト領域26の上部に配置されており、ドリフト領域26に接している。
【0019】
ボディコンタクト領域23は、ボディ領域24よりもp型不純物濃度が高いp型領域である。ボディコンタクト領域23は、IGBT領域20内に配置されている。ボディコンタクト領域23は、IGBT領域20に位置するボディ領域24の上部に部分的に配置されており、ボディ領域24に接している。ボディコンタクト領域23は、ボディ領域24によってドリフト領域26から分離されている。ボディコンタクト領域23は、半導体基板12の上面12aに露出する位置に配置されており、上部電極14に対してオーミック接触している。
【0020】
エミッタ領域22は、ドリフト領域26よりもn型不純物濃度が高いn型領域である。エミッタ領域22は、IGBT領域20内に配置されている。エミッタ領域22は、IGBT領域20に位置するボディ領域24の上部に部分的に配置されており、ボディ領域24に接している。エミッタ領域22は、ボディ領域24によってドリフト領域26から分離されている。エミッタ領域22は、ボディコンタクト領域23が存在しない範囲であって、半導体基板12の上面12aに露出する位置に配置されている。エミッタ領域22は、上部電極14に対してオーミック接触している。
【0021】
アノード領域42は、p型不純物を含むp型領域である。アノード領域42は、ダイオード領域40内に配置されている。アノード領域42は、ダイオード領域40に位置するドリフト領域26の上部に配置されており、ドリフト領域26に接している。
【0022】
アノードコンタクト領域41は、アノード領域42よりもp型不純物濃度が高いp型領域である。アノードコンタクト領域41は、ダイオード領域40内に配置されている。アノードコンタクト領域41は、ダイオード領域40に位置するアノード領域42の上部の全体に配置されており、アノード領域42に接している。アノードコンタクト領域41は、アノード領域42によってドリフト領域26から分離されている。アノードコンタクト領域41は、半導体基板12の上面12aを含む範囲に配置されており、上部電極14に対してオーミック接触している。ここで、この例では、アノードコンタクト領域41がアノード領域42の上部の全体に配置されているが、この例に代えて、ホール注入を抑えるために、アノードコンタクト領域41の一部がn型領域に置換されていてもよい。
【0023】
多段のバリア領域25a,25bの各々は、n型不純物を含むn型領域である。多段のバリア領域25a,25bは、IGBT領域20のうちの境界部60内に選択的に配置されており、境界部60のボディ領域24内に埋設して設けられている。多段のバリア領域25a,25bの電位はフローティングである。多段のバリア領域25a,25bは、半導体基板12の浅い側に配置されている上側バリア領域25aと、半導体基板12の深い側に配置されている下側バリア領域25bと、を有している。上側バリア領域25aと下側バリア領域25bの各々は、ボディ領域24を上下に分離するように、半導体基板12の面内方向(xy平面に平行な面内方向)に沿って延びて設けられている。上側バリア領域25aは、ボディ領域24によってエミッタ領域22及び下側バリア領域25bから隔てられている。下側バリア領域25bは、ボディ領域24によってドリフト領域26及び上側バリア領域25aから隔てられている。なお、上側バリア領域25aとエミッタ領域22の間に存在するボディ領域24の厚みが、1μm以上であるのが望ましい。上側バリア領域25aとエミッタ領域22が短絡するのを防止することができる。なお、この例では、バリア領域25a,25bが2段で構成されている形態を例示しているが、バリア領域25a,25bはより多くの段数で構成されていてもよい。
【0024】
半導体装置10は、さらに、複数のアクティブゲート33と、複数のダミーゲート53と、を有している。
【0025】
複数のアクティブゲート33は、IGBT領域20に位置する半導体基板12の上面12aに設けられている。複数のアクティブゲート33の各々は、x方向に長く伸びているとともに、y方向に間隔を開けて配列されている。複数のアクティブゲート33の各々は、半導体基板12の上面12aからボディ領域24を貫通してドリフト領域26に達する深さまで伸びている。複数のアクティブゲート33の各々は、ゲート絶縁膜32によって半導体基板12から絶縁されているゲート電極34を有している。各ゲート電極34の上部には、層間絶縁膜36が配置されている。各ゲート電極34は、層間絶縁膜36によって上部電極14から絶縁されている。
【0026】
IGBT領域20のうちの境界部60以外では、隣り合うアクティブゲート33の間にエミッタ領域22、ボディコンタクト領域23、ボディ領域24及びドリフト領域26が配置されている。アクティブゲート33の側面には、エミッタ領域22、ボディ領域24及びドリフト領域26が接している。このため、アクティブゲート33のゲート電極34に電圧を印加し、ゲート電極34の電位をエミッタ電位よりも高くすると、ボディ領域24にn型チャネルが形成され、エミッタ領域22とドリフト領域26が導通する。
【0027】
IGBT領域20のうちの境界部60では、隣り合うアクティブゲート33の間にエミッタ領域22、ボディコンタクト領域23、ボディ領域24、多段のバリア領域25a,25b及びドリフト領域26が配置されている。アクティブゲート33の側面には、エミッタ領域22、ボディ領域24、多段のバリア領域25a,25b及びドリフト領域26が接している。このため、アクティブゲート33のゲート電極34に電圧を印加し、ゲート電極34の電位をエミッタ電位よりも高くすると、ボディ領域24にn型チャネルが形成され、エミッタ領域22と多段のバリア領域25とドリフト領域26が導通する。なお、IGBT領域20のうちの境界部60では、アクティブゲート33に代えて、後述のダミーゲート53が設けられていてもよい。
【0028】
複数のダミーゲート53は、ダイオード領域40に位置する半導体基板12の上面12aに設けられている。複数のダミーゲート53の各々は、x方向に長く伸びているとともに、y方向に間隔を開けて配列されている。複数のダミーゲート53の各々は、半導体基板12の上面12aからアノード領域42を貫通してドリフト領域26に達する深さまで伸びている。複数のダミーゲート53の各々は、ダミーゲート絶縁膜52によって半導体基板12から絶縁されているダミーゲート電極54を有している。各ダミーゲート電極54は、上部電極14に接触しており、上部電極14に電気的に接続されている。
【0029】
次に、半導体装置1の動作について説明する。IGBTが動作するモードでは、下部電極16が上部電極14よりも高い電位となるように、下部電極16と上部電極14の間に電圧が印加されている。このIGBTが動作するモードでは、アクティブゲート33のゲート電極34がエミッタ電位よりも高い電位となる。なお、ダミーゲート53は上部電極14に短絡しており、エミッタ電位のままである。このIGBTが動作するモードでは、IGBT領域20において、アクティブゲート33の側面に接するボディ領域24にn型チャネルが形成され、そのn型チャネルを介してエミッタ領域22からドリフト領域26に電子が注入され、コレクタ領域30からドリフト領域26にホールが注入され、IGBT領域20のIGBTがオンとなる。このように、IGBTが動作するモードでは、IGBT領域20の下部電極16から上部電極14に向けて電流が流れる。
【0030】
ダイオードが動作するモードは、上部電極14が下部電極16よりも高い電位となるように、下部電極16と上部電極14の間に電圧が印加されている。このダイオードが動作するモードでは、IGBT領域20において、アクティブゲート33の側面のn型チャネルが消失し、IGBT領域20のIGBTがオフとなる。
【0031】
ダイオード領域40の上部電極14と下部電極16の間には、アノードコンタクト領域41、アノード領域42、ドリフト領域26、バッファ領域28及びカソード領域48によってpnダイオードが形成されている。このため、ダイオードが動作するモードでは、上部電極14が下部電極16よりも高い電位となっているので、ダイオード領域40のpnダイオードがオンする。すなわち、下部電極16から、カソード領域48、バッファ領域28、ドリフト領域26、アノード領域42及びアノードコンタクト領域41を介して上部電極14へ向かって電子が流れる。同時に、上部電極14から、アノードコンタクト領域41及びアノード領域42を介してドリフト領域26へホールが流れる。このように、ダイオードが動作するモードでは、ダイオード領域40の上部電極14から下部電極16に向けて還流電流が流れる。
【0032】
また、境界部60にも、ボディコンタクト領域23、ボディ領域24、ドリフト領域26、バッファ領域28及びカソード領域48によって、寄生ダイオードが形成されている。このため、ダイオードが動作するモードにおいて、境界部60の寄生ダイオードもオンし、境界部60からダイオード領域40にホールが流入する。このようなホールの流入量が多いと、ダイオードの逆回復特性が悪化(例えば、スイッチング速度の低下)してしまう。
【0033】
半導体装置10では、境界部60に多段のバリア領域25a,25bが選択的に設けられている。このような多段のバリア領域25a,25bは、ホールに対してエネルギー障壁を形成し、境界部60のボディ領域24からのホール注入を抑えることができる。多段のバリア領域25a,25bの段数が多いほど、境界部60のボディ領域24からのホール注入をより効果的に抑えることができる。また、多段のバリア領域25a,25bの各々の膜厚の合計(上側バリア領域25aの膜厚と下側バリア領域25bの膜厚の合計)が大きいほど、境界部60のボディ領域24からのホール注入をより効果的に抑えることができる。このように、半導体装置10では、IGBT領域20のうちの境界部60からダイオード領域40に流入するホールを抑制することができる。この結果、半導体装置10では、逆回復特性の悪化が抑えられる。
【0034】
また、多段のバリア領域25a,25bは、境界部60に選択的に設けられており、境界部60以外のIGBT領域20及びダイオード領域40には設けられていない。仮に、境界部60以外のIGBT領域20にも多段のバリア領域25a,25bが設けられていると、IGBTの閾値の低下が問題となる。また、ダイオード領域40にも多段のバリア領域25a,25bが設けられていると、ダイオードの順方向電圧の増加が問題となる。このように、半導体装置10では、IGBTの閾値の低下及びダイオードの順方向電圧の増加を抑えながら、ダイオードの逆回復特性の悪化も抑えることができる。
【0035】
また、半導体装置10では、境界部60に設けられているボディコンタクト領域23が、境界部60以外のIGBT領域20に設けられているボディコンタクト領域23と同一の濃度及び深さを有している。この例に代えて、境界部60のボディコンタクト領域23の濃度及び/又は厚みを薄くすると、境界部60のボディ領域24からのホール注入を抑えることができる。しかしながら、このような構成では、IGBTが動作するモードにおいて、境界部60からのホールの排出が抑えられ、ラッチアップ耐量が低下する虞がある。一方、半導体装置10では、境界部60に設けられているボディコンタクト領域23の濃度及び厚みが、境界部60以外のIGBT領域20に設けられているボディコンタクト領域23と同一となるように形成されており、そのようなラッチアップ耐量の低下が抑えられている。
【0036】
以下、図面を参照し、他の実施形態の半導体装置を説明する。なお、上記半導体装置10と共通する構成要素については共通の符号を付し、その説明を省略する。
【0037】
図3に示す半導体装置100は、境界部60に設けられているバリア領域25が単層で構成されている例である。この半導体装置100でも、半導体装置10と同様に、IGBTの閾値の低下及びダイオードの順方向電圧の増加を抑えながら、ダイオードの逆回復特性の悪化も抑えることができる。
【0038】
図4に示す半導体装置200は、IGBT領域20のうちの境界部60以外のボディ領域24及びダイオード領域40のアノード領域42に上側バリア領域25aが設けられている例である。IGBT領域20のうちの境界部60以外のボディ領域24に上側バリア領域25aが設けられていると、IGBTが動作したときのホール蓄積効果によってオン電圧が低下する。また、ダイオード領域40のアノード領域42に上側バリア領域25aが設けられていると、ダイオードが動作するときのホール注入が抑えられる。このように、IGBT領域20のうちの境界部60以外のボディ領域24及びダイオード領域40のアノード領域42に上側バリア領域25aが設けられていると、様々な利点が得られる、さらに、半導体装置200では、半導体基板12の厚み方向において、境界部60のボディ領域24に設けられている境界内バリア領域(この例では、上側バリア領域25aと下側バリア領域25b)の合計の厚みが、境界部60以外のボディ領域24に設けられている境界外バリア領域(この例では、上側バリア領域25a)の厚みよりも厚い。さらに、半導体装置200では、半導体基板12の厚み方向において、境界部60のボディ領域24に設けられている境界内バリア領域(この例では、上側バリア領域25aと下側バリア領域25b)の合計の厚みが、ダイオード領域40に位置するアノード領域42に設けられているn型半導体領域(この例では、上側バリア領域25a)の厚みよりも厚い。これらの関係が成立している半導体装置200では、IGBTの閾値の低下及びダイオードの順方向電圧の増加を抑えながら、ダイオードの逆回復特性の悪化も抑えることができる。
【0039】
図5に示す半導体装置300は、アノード領域42が上部電極14にショットキー接触している例である。ダイオード領域40に構成されるダイオードは、pnダイオードだけでなく、ショットキーダイオードであってもよい。
【0040】
図6に示す半導体装置400は、境界部60にエミッタ領域22が設けられていない例である。境界部60には、IGBTが構成されていなくてもよい。
【0041】
図7に示す半導体装置500は、境界部60にエミッタ領域22及びボディ領域24が設けられておらず、ボディ領域24に代えてn型のバリア領域125が設けられている例である。この半導体装置500でも、半導体装置10と同様に、IGBTの閾値の低下及びダイオードの順方向電圧の増加を抑えながら、ダイオードの逆回復特性の悪化も抑えることができる。
【0042】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0043】
10 :半導体装置
12 :半導体基板
14 :上部電極
16 :下部電極
20 :IGBT領域
22 :エミッタ領域
23 :ボディコンタクト領域
24 :ボディ領域
25a :上側バリア領域
25b :下側バリア領域
26 :ドリフト領域
28 :バッファ領域
30 :コレクタ領域
33 :アクティブゲート
40 :ダイオード領域
41 :アノードコンタクト領域
42 :アノード領域
48 :カソード領域
53 :ダミーゲート
60 :境界部