(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】部分分繊繊維束の製造方法
(51)【国際特許分類】
D02J 1/18 20060101AFI20231205BHJP
D06M 15/59 20060101ALI20231205BHJP
D06M 101/40 20060101ALN20231205BHJP
【FI】
D02J1/18 Z
D06M15/59
D06M101:40
(21)【出願番号】P 2019542235
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2019029748
(87)【国際公開番号】W WO2020066275
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2018184570
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松井 明彦
(72)【発明者】
【氏名】舘山 勝
(72)【発明者】
【氏名】清家 聡
(72)【発明者】
【氏名】布施 充貴
(72)【発明者】
【氏名】平野 宏
(72)【発明者】
【氏名】浦 和麻
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/221657(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/088441(WO,A1)
【文献】特開2016-160534(JP,A)
【文献】国際公開第2019/194090(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単糸で構成された繊維束を長手方向に沿って走行させるとともに該繊維束
を拡幅し、その後、拡幅された繊維束に分繊手段を断続的に挿入することで、前記繊維束に分繊処理部と未分繊維処理部とを形成する部分分繊繊維束の製造方法であって、
繊維束の拡幅工程と分繊処理工程との間で前記繊維束に水溶性ポリアミド樹脂のサイジング剤を付与するとともに、前記分繊手段を、前記繊維束の幅方向の複数箇所に長手方向にずらして挿入し、前記部分分繊繊維束の任意の位置P
n(但し、n=1~100の整数で、かつ、n=100を除く任意の位置P
nと位置P
n+1との間隔が50cm以上である)における幅方向に含まれる繊維束の数(分繊数:N
n[個])を前記部分分繊繊維束の全幅W
n[mm]で割った単位幅あたりの分繊数A
n(個/mm)に関し、
最小値A
min
(個/mm)が0.5個/mm以上、かつ、最大値A
max(個/mm)と最小値A
min(個/mm)との比A
max/A
minが1.1以上3以下となるようにすることを特徴とする部分分繊繊維束の製造方法。
【請求項2】
前記分繊手段を、前記繊維束の幅方向の複数箇所に長手方向にずらして挿入するにあたり、前記幅方向の複数箇所に対応する位置で、かつ、長手方向にずらして配された複数の突出部を有する分繊手段を用い、それら複数の突出部を同時に繊維束に挿入することを特徴とする、請求項
1に記載の部分分繊繊維束の製造方法
【請求項3】
前記繊維束を構成する単糸の本数をFとするとき、繊維束の幅方向に対して、(F/10000-1)個以上(F/50-1)個未満の範囲の箇所で前記分繊手段を挿入することを特徴とする、請求項
1または
2に記載の部分分繊繊維束の製造方法。
【請求項4】
さらに
、乾燥工程
および熱処理工
程を含むことを特徴とする、請求項
1~
3のいずれかに記載の部分分繊繊維束の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分分繊繊維束に関する。さらに詳しくは、分繊することを想定していない、単糸数の多い安価なラージトウからも、糸切れを起こすことなく連続して得ることができる、分繊部を有する部分分繊繊維束に関する。
【背景技術】
【0002】
不連続の強化繊維(例えば、炭素繊維)の束状集合体(以下、繊維束ということもある。)とマトリックス樹脂からなる成形材料を用いて、加熱、加圧成形により、所望形状の成形品を製造する技術が知られている。このような技術において、単糸数が多い繊維束からなる成形材料では、成形の際の流動性には優れるが、成形品の力学特性は劣る傾向がある。これに対し、成形時の流動性と成形品の力学特性の両立を狙い、任意の単糸数に調整した繊維束が使用されている。
【0003】
任意の単糸数に繊維束を分繊する方法として、例えば特許文献1、2には、複数の繊維束を事前に単一のボビンに巻き取った複数繊維束巻取体を用いて、分繊処理を行う方法が開示されている。しかし、これらの方法は、事前処理の繊維束の単糸数の制約を受けるため、調整範囲が限定され、所望の単糸数へ調整しづらいものであった。
【0004】
また、例えば特許文献3~5には、スリッターを用いて繊維束を所望の単糸数に縦スリットする方法が開示されている。これらの方法は、スリットのピッチを変更することで単糸数の調整が可能ではあるものの、長手方向全長にわたって縦スリットされるため、縦スリット後の糸をそれぞれ異なるボビンに巻き取ったり、その後の工程では巻き取った複数のボビンそれぞれから繊維束を巻き出す必要があり、取扱いが困難になりやすい。また、縦スリット後の繊維束を搬送する際には、縦スリットによって発生した毛羽が、ガイドロールや送りロールなどに多量に巻きつき、搬送が容易でなくなる恐れがある。
【0005】
また、特許文献6には、複数の突出部を有する分繊手段を繊維束に部分的に突き入れることで、分繊区間を連続的に設ける方法が開示されている。しかしながら、この文献に記載の方法で得られる部分分繊繊維束では、その後の工程で一定長に切断しチョップド繊維とした場合その幅に大きなバラツキを生じやすく、そのチョップド繊維を用いて製造する繊維強化樹脂成形材料および成形品の力学特性には改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-255448号公報
【文献】特開2004-100132号公報
【文献】特開2013-49208号公報
【文献】特開2014-30913号公報
【文献】特許第5512908号公報
【文献】国際公開第2016/104154号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、力学特性に優れる繊維強化樹脂成形材料を構成し得る、分繊幅がより均一なチョップド繊維とすることが可能な部分分繊繊維束を提供することにある。加えて、撚りが含まれる繊維束や単糸数の多いラージトウからであっても、長時間連続して部分分繊繊維束の提供を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のいずれかの手段を採用するものである。すなわち、
[1] 分繊処理部と未分繊処理部からなる部分分繊繊維束であって、前記部分分繊繊維束の任意の位置Pn(但し、n=1~100の整数で、かつ、n=100を除く任意の位置Pnと位置Pn+1との間隔が50cm以上である)における幅方向に含まれる繊維束の数(分繊数:Nn[個])を前記部分分繊繊維束の全幅Wn[mm]で割った単位幅あたりの分繊数An(個/mm)を算出した場合、最大値Amax(個/mm)と最小値Amin(個/mm)との比Amax/Aminが1.1以上3以下であることを特徴とする部分分繊繊維束。
[2] 前記最大値Amaxが4個/mm以下であることを特徴とする、前記[1]に記載の部分分繊繊維束。
[3] 前記最小値Aminが0.1個/mm以上であることを特徴とする、前記[1]または[2]に記載の部分分繊繊維束。
[4] 前記最大値Amaxの80%以上となる前記位置Pnが、100箇所中50箇所以上存在することを特徴とする、前記[1]~[3]のいずれかに記載の部分分繊繊維束。
[5] 前記最大値Amaxの60%以下となる前記位置Pnが、100箇所中30箇所以下存在することを特徴とする、前記[1]~[4]のいずれかに記載の部分分繊繊維束。
[6] 前記繊維束が炭素繊維からなることを特徴とする、前記[1]~[5]のいずれかに記載の部分分繊繊維束。
[7] 前記繊維束に含まれる、エポキシ樹脂を主成分とするサイジング剤、または、ポリアミド樹脂を主成分とするサイジング剤の付着量が、0.1質量%以上5質量%以下であることを特徴とする、前記[1]~[6]のいずれかに記載の部分分繊繊維束。
[8] 複数の単糸で構成された繊維束を長手方向に沿って走行させるとともに該繊維束に分繊手段を断続的に挿入することで、前記繊維束に分繊処理部と未分繊維処理部とを形成する部分分繊繊維束の製造方法であって、前記分繊手段を、前記繊維束の幅方向の複数箇所に長手方向にずらして挿入し、前記部分分繊繊維束の任意の位置Pn(但し、n=1~100の整数で、かつ、n=100を除く任意の位置Pnと位置Pn+1との間隔が50cm以上である)における幅方向に含まれる繊維束の数(分繊数:Nn[個])を前記部分分繊繊維束の全幅Wn[mm]で割った単位幅あたりの分繊数An(個/mm)に関し、最大値Amax(個/mm)と最小値Amin(個/mm)との比Amax/Aminが1.1以上3以下となるようにすることを特徴とする部分分繊繊維束の製造方法。
[9] 前記分繊手段を、前記繊維束の幅方向の複数箇所に長手方向にずらして挿入するにあたり、前記幅方向の複数箇所に対応する位置で、かつ、長手方向にずらして配された複数の突出部を有する分繊手段を用い、それら複数の突出部を同時に繊維束に挿入することを特徴とする、前記[8]に記載の部分分繊繊維束の製造方法。
[10] 前記繊維束を構成する単糸の本数をFとするとき、繊維束の幅方向に対して、(F/10000-1)個以上(F/50-1)個未満の範囲の箇所で前記分繊手段を挿入することを特徴とする、前記[8]または[9]に記載の部分分繊繊維束の製造方法。
[11] さらに、サイジング付与工程、乾燥工程、熱処理工程、繊維束拡幅工程を含むことを特徴とする、前記[8]~[10]のいずれかに記載の部分分繊繊維束の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、力学特性に優れる繊維強化樹脂成形材料を構成し得る、分繊幅がより均一なチョップド繊維とすることが可能な部分分繊繊維束を提供することができる。また本発明によれば、撚りが含まれる繊維束や単糸数の多いラージトウからであっても、長時間連続して分繊処理された部分分繊繊維束を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る部分分繊繊維束において分繊数を測定する方法を説明する概略図である。
【
図2】繊維束に分繊処理を施して部分分繊繊維束を製造する工程の一例を示す図であって、(A)概略平面図、(B)概略正面図である。
【
図3】分繊手段の突出部形状の例を示す説明図である。
【
図4】千鳥配置された突出部を有する回転式の分繊手段を繊維束に突き入れた状態の模式図であって、(A)概略平面図、(B)概略正面図である。
【
図5】千鳥配置された複数の縦刃からなる分繊手段を繊維束に突き入れた状態の模式図であって、(A)概略平面図、(B)概略正面図である。
【
図6】繊維束の幅方向に複数の縦刃が一列に配された分繊手段を用い、前記複数の縦刃を異なるタイミングで繊維束に突き入れた状態の模式図であって、(A)概略平面図、(B)概略正面図である。
【
図7】斜めに配置された複数の縦刃からなる分繊手段を繊維束に突き入れた状態の模式図であって、(A)概略平面図、(B)概略正面図である。
【
図8】繊維束の幅方向に複数の突出部が一列に配された回転式の分繊手段を用い、前記複数の突出部を同時に繊維束に突き入れた状態の模式図であって、(A)概略平面図、(B)概略正面図である。
【
図9】本発明に係る部分分繊繊維束の製造方法におけるサイジング剤付与工程のタイミング例を示す工程図である。
【
図10】本発明に係る部分分繊繊維束の製造方法における、サイジング剤塗布工程と乾燥工程とを含むサイジング剤付与工程のタイミング例を示す工程図である。
【
図11】本発明に係る部分分繊繊維束の製造方法における、サイジング剤塗布工程と乾燥工程とを含むサイジング剤付与工程の別のタイミング例を示す工程図である。
【
図12】本発明に係る、繊維束拡幅工程を含む部分分繊繊維束の製造方法における、サイジング剤塗布工程と乾燥工程とを含むサイジング剤付与工程のタイミング例を示す工程図である。
【
図13】本発明に係る、繊維束拡幅工程を含む部分分繊繊維束の製造方法における、サイジング剤塗布工程と乾燥工程とを含むサイジング剤付与工程の別のタイミング例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、分繊処理部と未分繊処理部とからなる部分分繊繊維束であって、前記部分分繊繊維束の任意の位置Pn(但し、n=1~100の整数で、かつ、n=100を除く任意の位置Pnと位置Pn+1との間隔が50cm以上である)における幅方向に含まれる繊維束の数(分繊数:Nn[個])を前記部分分繊繊維束の全幅(Wn[mm])で割った単位幅あたりの分繊数An(個/mm)を算出した場合、最大値Amax(個/mm)と最小値Amin(個/mm)との比Amax/Aminが1.1以上3以下であることを特徴とする部分分繊繊維束である。
【0012】
本発明の部分分繊繊維束は、繊維配向方向(長手方向)にスリットが入った分繊処理部とスリットが入っていない未分繊処理部とからなるが、分繊処理が行われている箇所をみた場合に、その分繊処理は繊維束長手方向に連続的ではなく断続的に行われており、そのため、分繊処理部のスリット延長線上には未分繊処理部が存在している。
【0013】
本発明の部分分繊繊維束は、単位幅あたりの分繊数A
n(個/mm)が上記したような関係を有しているが、分繊数A
n等の導出方法は、次のとおりである。すなわち、
図1に示すように、部分分繊繊維束の任意の位置P
nにおける幅方向に含まれる繊維束の数(分繊数:N
n[個])を前記部分分繊繊維束の全幅(W
n[mm])で割った単位幅あたりの分繊数A
n(個/mm)を算出し、次に、前記任意の位置から50cm以上の間隔を設けた位置P
n+1における単位幅あたりの分繊数A
n+1を算出する。この測定をn=1~100まで(但し、nは整数)、すなわち100箇所について繰り返し、単位幅あたりの分繊数(A
1~A
100)をそれぞれ算出する。次に、100箇所について算出した単位幅あたりの分繊数(A
1~A
100)に含まれる最大値
Amax(個/mm)と最小値A
min(個/mm)との比A
max/A
minを計算する。
【0014】
最大値Amax(個/mm)と最小値Amin(個/mm)との比Amax/Aminの下限は、1.1以上であることが重要であり、1.3以上が好ましく、1.5以上がより好ましい。最大値Amax(個/mm)と最小値Amin(個/mm)との比Amax/Aminがこの範囲であれば、刃が常時束に挿入されないため、毛羽発生を抑制し、スリット刃の交換寿命を伸ばすことができる。また、最大値Amax(個/mm)と最小値Amin(個/mm)との比Amax/Aminの上限は、3以下であることが重要であり、2.5以下が好ましく、2以下がより好ましい。最大値Amax(個/mm)と最小値Amin(個/mm)との比Amax/Aminがこの範囲であれば、繊維束の長手方向に分繊処理部をより均等に設けることとなるため、部分分繊繊維束を一定長に切断したチョップド繊維とした場合にはその分繊幅がより均一となり、成形品とした場合には力学特性のバラツキを小さくすることが可能である。
【0015】
部分分繊繊維束で100箇所測定した分繊数(A1~A100)の最大値Amaxは4個/mm以下が好ましく、3.5個/mm以下がより好ましく、3個/mm以下がさらに好ましい。分繊数の最大値Amaxがこの範囲であれば、繊維束に対して分繊手段を挿入しやすく、繊維束により均等に分繊処理部を設けることができる結果、得られた部分分繊繊維束をチョップド繊維にして成形品とした場合、該成形品の力学特性をさらに高めることが可能である。
【0016】
分繊数の最小値Aminは0.1個/mm以上が好ましく、0.3個/mm以上がより好ましく、0.5個/mm以上がさらに好ましい。分繊数の最小値Aminがこの範囲であれば、繊維束をより細かく分繊することができるので、チョップド繊維として分繊幅がより一定となる分繊処理を可能にし、該チョップド繊維を成形品とした場合、その力学特性をさらに高めることが可能である。
【0017】
チョップド繊維にして力学特性の高い成形品を得る観点からは、各分繊数Anは基本的にその値が大きいほうが好ましい。したがって、最大値Amaxの80%以上となる分繊数Anの測定位置が、100箇所中50箇所以上あることが好ましく、60箇所以上あることがより好ましく、70箇所以上あることがさらに好ましい。最大値Amaxの80%以上となる分繊数Anの測定位置の数がこの範囲であれば、チョップド繊維としての分繊繊維束幅がより一定となる分繊処理を可能にし、該チョップド繊維を成形品とした場合、その力学特性をさらに高め、力学特性のバラツキを小さくすることが可能である。
【0018】
同様の観点から、最大値Amaxの60%以下となる分繊数Anの測定位置の数は、100箇所中30箇所以下であることが好ましく、20箇所以下がより好ましく、10箇所以下がさらに好ましい。最大値Amaxの60%以下となる測定位置の数がこの範囲であれば、チョップド繊維としての分繊繊維束幅がより一定となる分繊処理を可能にし、該チョップド繊維を成形品とした場合、その力学特性をさらに高め、力学特性のバラツキを小さくすることが可能である。
【0019】
本発明に用いられる繊維束は、強化繊維として用いられるものであって、複数の単糸からなる繊維束であれば該強化繊維の種類として特に制限はないが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、金属繊維からなる群から選ばれる繊維が好ましい。なかでも炭素繊維を用いることが好ましい。炭素繊維としては、特に限定されないが、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、レーヨン系の炭素繊維が、力学特性の向上、繊維強化樹脂の軽量化効果の観点から好ましく使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。中でも、得られる繊維強化樹脂の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維を用いることが好ましい。
【0020】
強化繊維束中に含まれる強化繊維の単繊維径は0.5μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、4μm以上がさらに好ましい。また、強化繊維の単繊維径は20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。
【0021】
強化繊維束のストランド強度は3.0GPa以上が好ましく、4.0GPa以上がより好ましく、4.5GPa以上がさらに好ましい。強化繊維束のストランド弾性率は200GPa以上が好ましく、220GPa以上がより好ましく、240GPa以上がさらに好ましい。強化繊維束のストランド強度または弾性率がそれぞれ、この範囲であれば、成形品の力学特性を高めることができる。
【0022】
炭素繊維の場合は、通常、連続繊維からなる単糸が3000~60000本程度集束された繊維束が、ボビンに巻き取られて巻糸体(パッケージ)として供給される。繊維束は無撚りが好ましいものの、撚りが入っているストランドでも使用可能であり、搬送中に撚りが入っても、本発明には適用可能である。単糸数にも制約はなく、単糸数が多い、いわゆるラージトウを用いる場合は、繊維束の単位重量あたりの価格が安価であるため、単糸数が多いほど最終製品のコストを低減でき好ましい。また、ラージトウとして、複数の繊維束を1つの束にまとめて巻き取った、いわゆる合糸した形態を使用してもよい。
【0023】
本発明の部分分繊繊維束にはサイジング剤が付与されていることが好ましい。サイジング剤の溶質の種類には特に限定されないが、エポキシ基、ウレタン基、アミノ基、カルボキシル基等の官能基を有する化合物が使用できる。好ましくは、エポキシ樹脂を主成分とするサイジング剤、または、ポリアミド樹脂を主成分とするサイジング剤を用いることである。これらは1種または2種以上を併用してもよい。また、サイジング剤を付与した強化繊維束に更に該サイジング剤とは異種のサイジング剤で処理することも可能である。なお、主成分とは溶質成分の70重量%以上を占める成分のことをいう。
【0024】
エポキシ樹脂の種類としてはビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂の1種または2種以上を併用して用いることができる。
【0025】
また、ポリアミド樹脂には水溶性ポリアミド樹脂を用いることが好ましい。例えば、水溶性ポリアミドは主鎖中に三級アミノ基および/またはオキシエチレン基を有するジアミンとカルボン酸より重縮合して得られるポリアミド樹脂とでき、前記ジアミンとして、ピペラジン環を有するN、N′-ビス(γ―アミノプロピル)ピペラジン、N-(β―アミノエチル)ピペラジン等主鎖中に三級アミノ基を含むモノマ、オキシエチレンアルキルアミン等の主鎖中にオキシエチレン基を含むアルキルジアミンが有用である。又、ジカルボン酸としてはアジピン酸、セバシン酸等を用いることができる。
【0026】
この水溶性ポリアミド樹脂を用いたサイジング剤は、各種マトリックス材との親和性に優れており、コンポジット物性を著しく向上せしめるが、特にポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、及びポリエーテルアミドイミド系樹脂のマトリックス材とにおいて優れた密着性の改善効果がある。
【0027】
前記水溶性ポリアミドは共重合体であってもよい。共重合成分としては、例えばα-ピロリドン、α-ピペリドン、ε-カプロラクタム、α-メチル-ε-カプロラクタム、ε-メチル-ε-カプロラクタム、ε-ラウロラクタムなどのラクタムをあげることができる。二元共重合もしくは多元共重合も可能であるが、共重合比率は水溶性という物性を妨げない範囲において決定される。好ましくは、ラクタム環を持つ共重合成分比率を30重量%以内にしないとポリマーが水に完溶しなくなるので、その範囲内である。
【0028】
しかしながら、前記範囲外の共重合成分比率に難水溶性のポリマーであっても、有機及び無機酸を用いて溶液を酸性にした場合、溶解性が増大し、水可溶性になり使用が可能になる。有機酸としては、酢酸、クロル酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、しゅう酸、フルオロ酢酸等があり、無機酸としては、一般的な鉱酸類である塩酸、硫酸、リン酸等を挙げることができる。
【0029】
サイジング剤の付着量の上限としては、強化繊維束(最終的に得られる部分分繊繊維束)の質量を100質量%としたとき、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。サイジング剤の付着量が5質量%を超えると、繊維束の柔軟性が欠けてきて硬くなりすぎ、ボビンの巻き取り、巻き出しがスムーズにいかなくなる可能性がある。また、分繊処理時に分繊手段が繊維束に入らず未分繊処理部ができる可能性がある。
【0030】
また、サイジング剤の付着量の下限としては0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましい。サイジング剤の付着量をこの範囲にすることで、単糸が交絡する絡合部を抑制するといった効果が得られ、部分分繊繊維束の生産性や品位の向上をはかることができる。さらに、繊維束を切断する際、繊維束が割れたり単糸分散することを抑制でき、所定の束形態への保持性が向上する。すなわち、切断された繊維束を形成する単糸本数の分布が狭くなり、均一かつ最適な形態のチョップド繊維束を得ることが可能である。これにより、成形品の力学特性向上、および、力学特性のバラツキを低減することが可能である。なお、サイジング剤の付着量の導出方法は後述する。
【0031】
次に、本発明に係る部分分繊繊維束の製造方法について例を挙げて具体的に説明する。なお、本発明に係る部分分繊繊維束は、以下に開示する具体的な態様に限定して解釈されるものではない。
【0032】
本発明に係る部分分繊繊維束は、巻き出し装置などから繊維束を巻き出した後、必要に応じて該繊維束を拡幅し、その後分繊処理を行う工程を経て得られる。以下、各工程について詳述する。
【0033】
最初に、繊維束の巻き出しについて説明する。繊維束走行方向上流側に配置した、繊維束を巻き出す巻き出し装置などから、複数の単糸から構成された繊維束を巻き出す。繊維束の巻き出し方向は、ボビンの回転軸と垂直に交わる方向に引き出す横出し方式や、ボビン(紙管)の回転軸と同一方向に引き出す縦出し方式が考えられるが、解除撚りが少ないことを勘案すると横出し方式が好ましい。
【0034】
巻き出し時のボビンの設置姿勢については、任意の方向に設置することができる。中でも、クリールにボビンを突き刺した状態において、クリール回転軸固定面でない側のボビンの端面が水平方向以外の方向を向いた状態で設置する場合は、繊維束に一定の張力がかかった状態で保持されることが好ましい。繊維束に一定の張力が無い場合は、繊維束がパッケージ(ボビンに繊維束が巻き取られた巻体)からズレ落ちパッケージから離れる、もしくは、パッケージから離れた繊維束がクリール回転軸に巻きつくことで、巻き出しが困難になることが考えられる。
【0035】
巻き出しパッケージの回転軸固定方法としては、クリールを使う方法の他に、平行に並べた2本のローラーの上に、ローラーと平行にパッケージを載せ、並べたローラーの上でパッケージを転がすようにして、繊維束を巻き出す、サーフェス巻き出し方式も適用可能である。
【0036】
クリールを使った巻き出しの場合、クリールにベルトをかけ、その一方を固定し、もう一方に錘を吊るす、バネで引っ張るなどして、クリールにブレーキをかけることで、巻き出し繊維束に張力を付与する方法が考えられる。この場合、巻き径に応じて、ブレーキ力を可変することが、張力を安定させる手段として有効である。
【0037】
次に、拡幅および分繊処理の工程を説明する。なお、これらの処理は常に一定の条件で行う必要は無く、一定の周期あるいは所望の箇所で拡幅の幅を変動させても構わない。
【0038】
拡幅工程では、たとえば前述のように巻き出された繊維束を走行させながら、該繊維束に圧縮した空気を吹き付けたり、あるいは、該繊維束を軸方向へ振動する振動拡幅ロールに通すとともにその後に幅規制ロールに通し、任意の幅へ拡幅する。
【0039】
分繊処理工程では、拡幅した繊維束に対して分繊刃を間欠的に挿入して強化繊維束内に部分的な分繊箇所を形成する。
図2は、繊維束に分繊処理を施している工程の一例を示している。(A)は概略平面図、(B)は概略正面図で、複数の単糸で構成されている繊維束100は図の左(上流側)から右(下流側)に走行している。図中の繊維束走行方向X(矢印)が繊維束100の長手方向であり、図示されない繊維束供給装置から連続的に繊維束100が供給されていることを表す。
【0040】
分繊手段200は、繊維束100に突き入れ易い突出形状を有する突出部210(分繊刃)を具備しており、走行する繊維束100に該突出部210を突き入れ、繊維束100の長手方向に略平行な分繊処理部150(分繊処理途中の状態)を生成する。なお、本発明においては、繊維束幅方向に複数箇所で挿入する分繊手段の突出部を、繊維束長手方向に位相をずらして挿入する必要があるが、
図2においては、同位相で挿入される突出部による作用のみを説明するため、位相をずらして挿入する他の突出部は省略している。
【0041】
ここで、分繊手段200は、
図2(B)に示すように、繊維束100の側面に沿う方向に突き入れることが好ましい。繊維束の側面とは、繊維束の断面が、横長の楕円もしくは横長の長方形のような扁平形状であるとした場合の断面端部における垂直方向の面(例えば、
図1に示す繊維束100の側表面に相当する)である。
【0042】
分繊手段200は、繊維束100の幅方向に複数の突出部210を有し、かつ、該突出部210が繊維束走行方向Xに位相をずらして繊維束に挿入されるように稼働する必要であるが、1つの分繊手段200が具備する突出部210の数は特に限定されるものではなく、突出部210は、1つの分繊手段200につき1つでもよく、複数であってもよい。また、1つの突出部210を具備する分繊手段200が複数あってもよい。1つの分繊手段200に突出部210が複数ある場合、各突出部210における単位時間あたりの磨耗量が減ることから、分繊手段の交換頻度を減らすことも可能となる。さらに、分繊する繊維束数に応じて、複数の分繊手段200を同時に用いることも可能である。複数の分繊手段200を、並列、互い違い、位相をずらす等して、複数の突出部210を任意に配置することができる。
【0043】
繊維束100を構成する複数の単糸は、実質的に繊維束100内で、引き揃った状態ではなく、単糸レベルでは交絡(交差・絡合)している部分が多い。そのため、複数の単糸からなる繊維束100を、分繊手段200により本数のより少ない分繊束に分けていく場合、分繊処理中に、繊維束100と分繊手段200との接触部211付近に絡合部160を形成する場合がある。ここで、絡合部160を形成するとは、例えば、分繊処理区間内に予め存在していた単糸同士の交絡を分繊手段200により接触部211に形成(移動)させる場合や、分繊手段200によって新たに単糸が交絡した集合体を形成(製造)させる場合等が挙げられる。
【0044】
任意の範囲に分繊処理部150を生成した後、分繊手段200を繊維束100から抜き取る。この抜き取りによって分繊処理が施された分繊処理部110が生成され、それと同時に上記のように生成された絡合部160が分繊処理部110の端部部位に蓄積される。また、分繊処理中に繊維束から発生した毛羽は毛羽溜まり140となる。
【0045】
その後、所望の長さ繊維束が走行した後に再度分繊手段200を繊維束100に突き入れることで、未分繊処理部130が生成され、繊維束の幅方向におけるある一か所において、分繊処理部110と未分繊処理部130とが繊維束100の長手方向に沿って交互に配置された部分分繊繊維束が形成される。
【0046】
なお、分繊処理を行う際の繊維束100の走行速度は、変動の少ない安定した速度が好ましく、一定の速度がより好ましい。
【0047】
また、
図2には示されていないが、本発明においては、以上のような分繊処理にて、繊維束の幅方向に複数の突出部を挿入するが、その際、それら複数の突出部が繊維束に対して長手方向に位相をずらして挿入されるようにする。
【0048】
分繊手段200は、本発明の目的が達成できる範囲であれば特に制限がなく、金属製の針や薄いプレート等の鋭利な形状の突出部210を備えたものが好ましい。具体的には、
図4に示すような、回転軸方向に異なる位相で設けられた複数の突出部210(刃)を有する回転刃(分繊手段200)や、
図5~
図7に示すような、異なる位相で繊維束に挿入される、複数の縦刃(突出部)からなる分繊手段200が好ましい。
【0049】
繊維束表面から飛び出した突出部の高さhの下限は、5mm以上が好ましく、7mm以上がより好ましく、10mm以上がさらに好ましい。また、繊維束表面から飛び出した突出部の高さhの上限は50mm以下が好ましく、35mm以下がより好ましく、40mm以下がさらに好ましい。突出部の高さhがこの範囲であれば、分繊手段を小型にできて、さらに安定して繊維束を分繊することが可能である。分繊手段の突出部の繊維束へ突き入れ方法は、繊維束に対して斜めであってもよく、繊維束の表裏いずれか異なる方向から突き入れてもよい。
【0050】
突出部210の先端形状は、突き入れが可能であれば特に制限はないが、
図3に示すような形状が好ましい。先端が鋭い突出部(2a1~2a3)は突き入れ性が良好であり、先端にR形状を持つ突出部(2a4~2a6)は単糸の切断を防止できることにより毛羽の発生が少ない。(2a7、2a8)に図示する突出部は回転式の分繊手段に用いた場合、特に突き入れ性が向上する。
【0051】
突出部210は、分繊処理を行う繊維束100の幅方向に対して、複数必要であるが、その数は、分繊処理を行う繊維束100の構成単糸本数F(本)によって任意に選択できる。突出部210の数は、繊維束100の幅方向に対して、(F/10000-1)個以上(F/50-1)個未満とすることが好ましい。(F/10000-1)個未満であると、後工程で強化繊維複合材料にした際に力学特性の向上が発現しにくく、(F/50-1)個を超えると分繊処理時に糸切れや毛羽立ちの恐れがある。
【0052】
分繊間隔を調整するには、繊維束の幅方向に並べて配置した複数の突出部のピッチによって調整が可能である。突出部のピッチを小さくし、繊維束幅方向により多くの突出部を設けることで、より単糸本数の少ない、いわゆる細束に、分繊処理が可能となる。細束にするための突出部と突出部のすきま(以下分繊幅と称す)の下限は、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましい。また、分繊幅の上限は10mm以下が好ましい。分繊幅が0.1mm未満といった狭い幅では、毛羽等により分繊手段の走行方向が蛇行し突出部同士が接触することによる分繊手段の損傷等が懸念される。一方、分繊幅が10mmを超える場合、分繊手段同士が接触する心配はないものの、毛羽や単糸の交絡等により走行方向が蛇行し、一定幅の分繊幅が得にくくなる場合がある。また、成形品とした場合、力学特性の発現率が低下する懸念がある。
【0053】
次に、複数の突出部を有する分繊手段について、
図4~
図7を用いて説明する。
【0054】
図4および
図5は、分繊手段における複数の突出部210の位置を、繊維束100の上流側と下流側でずらしたり、1度の分繊処理時に繊維束の長手方向に並んだ分繊手段の突出部210が2個以上同時に繊維束に突き入れるように配置したりした態様である。
図4は複数の突出部210(刃)からなる回転刃(分繊手段200)、
図5は複数の縦刃(突出部210)からなる分繊手段200を有するものである。このように突出部を互い違いに配置することで、すなわち、突出部を、繊維束の幅方向の複数箇所に対応する位置で、かつ、長手方向にずらして配置することで、それら複数の突出部を同時に繊維束に挿入することができ、その結果、毛羽発生を抑制し、分繊幅が比較的均一なチョップド繊維とすることが可能な部分分繊繊維束を製造することができる。なお、この時、繊維束に挿入される複数の突出部が長手方向にずれていればよく、それら複数の突出部が1つの分繊手段に配されている必要は必ずしもない。
【0055】
各突出部による分繊処理区間長さA(mm)は30mm以上1500mm以下、隣接する上流側と下流側との突出部間の距離B(mm)は20mm以上1500mm以下、各突出部による未分繊処理区間長さC(mm)は1mm以上150mm以下が好ましい。隣接する上流側の突出部による分繊軌跡と下流側の突出部による分繊軌跡の距離Dは0.01mm以上5mm以下が好ましい。この範囲であれば、分繊手段の負荷を低減でき、束幅方向の分繊数が比較的均一な部分分繊繊維束を製造することができる。
【0056】
図4や
図5に示すように、隣接する突出部210の位置を繊維束100の上流側と下流側とでずらす場合、上流側の突出部の配置数と下流側の突出部の配置数との比(突出部の配置数が大きい方を分子、突出部の配置数が小さい方を分母とする。)が1以上2.5以下であることが好ましく、1以上2以下がより好ましく、1以上1.5以下がさらに好ましい。上流側の突出部の配置数と下流側の突出部の配置数との比がこの範囲であれば、分繊幅を均一化でき、成形品とした場合には力学特性のバラツキを小さくすることが可能である。
【0057】
なお、隣接する突出部の位置を繊維束の上流側と下流側とにずらして配置する場合、繊維束の上流側に配置する突出部の繊維束長手直交方向の配置間隔と繊維束の下流側に配置する突出部の繊維束長手直交方向の配置間隔とが同一である箇所が、少なくとも1つ以上存在することが好ましく、さらには、上流側に配置する突出部と下流側に配置する突出部とが、繊維束の幅方向に関しては、交互にかつ同一間隔で存在することが好ましい。
【0058】
図6は、繊維束の幅方向に平行に複数の突出部210を配置し、突出部210を異なるタイミングで抜き差しする態様を図示したものである。隣接する突出部同士の繊維束への突き入れタイミングの差は、0.2周期以上0.8周期以下が好ましく、0.3周期以上0.7周期以下がより好ましく、0.4周期以上0.6周期以下がさらに好ましくい。この範囲で抜き差しすることで、毛羽発生を抑制し、比較的分繊幅が均一なチョップド繊維とすることができる部分分繊繊維束を製造することができる。ここで、1周期とは繊維束へ突出部を突き入れから、一定時間経過後、突出部を抜いて再度突き入れるまでの時間を意味する。1つの突出部による分繊処理区間長さA(mm)は30mm以上1500mm以下、1つの突出部による未分繊処理区間長さC(mm)は1mm以上150mm以下であることが好ましい。この範囲であれば、分繊手段の負荷を低減でき、分繊幅が比較的均一なチョップド繊維とすることができる部分分繊繊維束を製造することができる。
【0059】
また、
図4~
図6に示す場合においては、分繊手段の突出部を抜き差しするタイミングを制御することで、繊維束の全幅にわたり分繊しない区間が生じないようにすることが好ましい。このように制御することで、分繊された繊維束各々の幅が比較的均一な部分分繊繊維束を製造することができる。
【0060】
図7は、繊維束の幅方向に対して順次斜め方向に複数の突出部210を配置し、それら突出部210を同時に抜き差しする態様を図示したものである。
図4や5と同様に、1度の分繊処理時に繊維束の長手方向に斜めに並んだ突出部210が2個以上同時に繊維束に突き入れられる。そのため、
図4、5の態様と同様に、毛羽発生を抑制し、分繊幅が比較的均一なチョップド繊維とすることが可能な部分分繊繊維束を製造することができる。
【0061】
1つの突出部による分繊処理区間長さA(mm)は30mm以上1500mm以下、隣接する上流側と下流側との突出部間の長手方向の距離B(mm)は5mm以上1500mm以下、1つの突出部による未分繊処理区間長さC(mm)は1mm以上150mm以下であることが好ましい。この範囲であれば、分繊手段の負荷を低減でき、分繊幅が比較的均一なチョップド繊維とすることができる部分分繊繊維束を製造することができる。
【0062】
以上のようにして得られる部分分繊繊維束には、サイジング剤が付与されていることが好ましい。次にサイジング剤付与のタイミングについて、
図9~
図13に基づいて説明する。
図9は、強化繊維束の製造工程中におけるサイジング剤付与工程のタイミング例を示している。
図9には、繊維束100が分繊処理工程300を経て部分分繊繊維束180に加工される工程中において、サイジング剤塗布工程401、乾燥工程402、熱処理工程403を含むサイジング剤付与工程400が、分繊処理工程300よりも前に行われるパターンAと、分繊処理工程300よりも後に行われるパターンBとが示されている。パターンA、パターンBのいずれのタイミングも可能である。なお、サイジング剤付与工程において乾燥工程と熱処理工程は必ずしも含む必要はない。
【0063】
図10は、繊維束拡幅工程301を含む強化繊維束の製造工程中におけるサイジング剤付与工程400のタイミング例を示している。
図10には、繊維束100が繊維束拡幅工程301と分繊処理工程300とをこの順に経て部分分繊繊維束180に形成される工程中において、サイジング剤付与工程400が、繊維束拡幅工程301よりも前に行われるパターンCと、繊維束拡幅工程301と分繊処理工程300との間で行われるパターンDと、分繊処理工程300よりも後に行われるパターンEとが示されている。パターンC、パターンD、パターンEのいずれのタイミングも可能であるが、毛羽が出ず細幅でも幅精度よく分繊でき、単位幅あたりの分繊数(A
1~A
100)に含まれる最大値A
max(個/mm)と最小値A
min(個/mm)との比A
max/A
minを制御できる観点から、パターンDのタイミングが最も好ましい。なお、この図に示すパターンにおいても、乾燥工程と熱処理工程は必ずしも含む必要はない。
【0064】
図11は、強化繊維束の製造工程中における、サイジング剤塗布工程、乾燥工程、熱処理工程の別のタイミング例を示している。
図11に示すタイミング例においては、サイジング剤付与工程におけるサイジング剤塗布工程401と、乾燥工程402、熱処理工程403とが分離されてそれぞれ別のタイミングで行われる。サイジング剤塗布工程401は、分繊処理工程300よりも前に行われ、乾燥工程402、熱処理工程403は、分繊処理工程300よりも後に行われる。
【0065】
図12は、繊維束拡幅工程を含む強化繊維束の製造工程における、サイジング剤塗布工程、乾燥工程、熱処理工程を含むサイジング剤付与工程のタイミング例を示しており、繊維束100が繊維束拡幅工程301と分繊処理工程300とをこの順に経て部分分繊繊維束180に形成される工程中において、サイジング剤付与工程のサイジング剤塗布工程401が、繊維束拡幅工程301よりも前に行われ、乾燥工程402と熱処理工程403については、繊維束拡幅工程301と分繊処理工程300との間で行われるパターンFと、分繊処理工程300よりも後に行われるパターンGが示されている。
【0066】
図13は、繊維束拡幅工程を含む強化繊維束の製造工程における、サイジング剤塗布工程、乾燥工程、熱処理工程を含むサイジング剤付与工程の別のタイミング例を示しており、繊維束100が繊維束拡幅工程301と分繊処理工程300とをこの順に経て部分分繊繊維束180に形成される工程中において、サイジング剤付与工程のサイジング剤塗布工程401が、繊維束拡幅工程301と分繊処理工程300との間で行われ、乾燥工程402と熱処理工程403が、分繊処理工程300よりも後に行われる。
【0067】
このように、本発明の部分分繊繊維束の製造方法において、サイジング剤は多様なタイミングで付与することが可能である。
【実施例】
【0068】
以下実施例を用いて本発明の詳細を説明する。各種測定方法、計算方法および評価方法は以下のとおりである。
【0069】
(1)分繊繊維数
図1に示すように、繊維束の任意の位置P
n(n=1~100)において、繊維束の端から端までの全幅W
n(n=1~100)(mm)、および、繊維束幅が0.1mm以上となる繊維束の数N
n(n=1~100)(個)を測定した。これを、部分分繊繊維束の長手方向に50cm以上の間隔で100点繰り返した。繊維束幅が0.1mm以上となる繊維束の数N
nを繊維束の全幅W
nで割ることで単位幅あたりの分繊数N
n/W
n=A
n(個/mm)を導出した。100点の中で最大の単位幅あたりの分繊数をA
max(個/mm)、最小の単位幅あたりの分繊数をA
min(個/mm)とした。
【0070】
(2)サイジング剤の付着量
サイジング剤が付着している炭素繊維束を5gほど採取し、耐熱製の容器に投入した。次にこの容器を80℃、真空条件下で24時間乾燥し、吸湿しないように注意しながら室温まで冷却後、秤量した炭素繊維の質量をm1(g)とし、続いて容器ごと、窒素雰囲気中、500℃、15分間の灰化処理を行った。吸湿しないように注意しながら室温まで冷却し、秤量した炭素繊維の質量をm2(g)とした。以上の処理を経て、炭素繊維へのサイジング剤の付着量を次式により求めた。測定は10本の繊維束について行い、その平均値を算出した。
サイジング剤の付着量(質量%)=100×{(m1-m2)/m1}
(3)分繊処理プロセスの安定性
分繊処理を開始してから、分繊刃やロールに繊維が巻き付き運転ができない状態になるまでの時間を連続運転時間とする。連続運転時間が1時間以上をA、30分以上1時間未満をB、30分未満をCと判定した。
【0071】
(4)分繊数の均一性評価の均一性評価
単位幅あたりの分繊数(A1~A100)に含まれる最大値Amax(個/mm)と最小値Amin(個/mm)との比Amax/Aminが、2未満をA、2以上3以下をB、3を超える場合をCと判定した。
【0072】
(5)力学特性
繊維強化樹脂成形材料を後記する方法により成形し、300×300mmの平板成形品を得た。平板長手方向を0°とし、得られた平板より0°と90°方向から、それぞれ100×25×2mmの試験片16片(合計32片)を切り出し、JIS K7074(1988年)に準拠し測定を実施し、曲げ強度の平均値、標準偏差、変動係数(=標準偏差/平均値×100)を求めた。曲げ強度の平均値が350MPa以上をA、200MPa以上350MPa未満をB、200MPa未満をCと判定した。また曲げ強度の変動係数が10%未満をA、10%以上15%未満をB、15%以上をCと判定した。
【0073】
[使用原料]
・原料繊維1: 炭素繊維束(ZOLTEK社製“PX35”、単糸数50,000本、“13”サイジング剤付き)を用いた。
・原料繊維2: 炭素繊維束(東レ製“T700SC-24K-50C”、単糸数24,000本)を用いた。
・樹脂シート1: ポリアミド6樹脂(東レ(株)社製、“アミラン”(登録商標)CM1001)からなるポリアミドマスターバッチを用いて、シートを作製した。
・樹脂シート2: 未変性ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)社製、“プライムポリプロ”(登録商標)J106MG)90質量%と、酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製、“アドマー”(登録商標)QE800)10質量%とからなるポリプロピレンマスターバッチを用いて、シートを作製した。
・サイジング剤1: 水溶性ポリアミド(東レ(株)社製、“T-70”)を用いた。
・サイジング剤2: 水溶性ポリアミド(東レ(株)社製、“A-90”)を用いた。
【0074】
[拡幅繊維束の製造方法]
原料繊維を、ワインダーを用いて一定速度10m/分で巻出し、10Hzで軸方向へ振動する振動拡幅ロールに通し、拡幅処理を施した後に、幅規制ロールを通すことで任意の幅へ拡幅した拡幅繊維束を得た。
【0075】
その後、拡幅繊維束を、精製水で希釈したサイジング剤に連続的に浸漬させた。次いで250℃のホットローラと250℃の乾燥炉(大気雰囲気下)にサイジング剤を塗布した拡幅繊維束を供し、乾燥して水分を除去し、1.5分熱処理を施した。
【0076】
[繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法]
得られた部分分繊繊維束が、狙いの分繊幅になるように分繊処理区間で繊維束が幅方向に対して分繊されており、また、少なくとも1つの分繊処理区間の少なくとも1つの端部に、単糸が交絡した絡合部が蓄積されてなる絡合蓄積部を有していることを確認した。
【0077】
続いて、得られた部分分繊繊維束を、ロータリーカッターへ連続的に挿入して繊維束を切断、均一分散するように散布することにより、繊維配向が等方的である不連続繊維不織布を得た。
【0078】
樹脂シートを不連続繊維不織布の上下から挟み込み、プレス機で樹脂を不織布中に含浸させることにより、シート状の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。
【0079】
(実施例1)
原料繊維1にサイジング剤2が4%ほど付着した、40mm幅の拡幅繊維束を用いて、
図6に示すように、繊維束の幅方向等間隔に50個の縦刃が一列に配置された分繊手段で分繊処理を行った。この時、分繊手段は、一定速度10m/分で走行する拡幅繊維束に対して、3秒間縦刃を突き刺して分繊処理部を生成し、0.2秒間縦刃を抜き、その後再度突き刺す動作を繰り返し行なった。隣接する縦刃の繊維束への挿入タイミングを0.5周期ずらし、繊維束表面から飛び出した突出部の高さhを17mmとした。得られた部分分繊繊維束を13mm長となるようにカットし、樹脂シート1をマトリックスとする繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を作製した。結果は表1の通りであった。
【0080】
(実施例2)
原料繊維2にサイジング剤1が4%ほど付着した、20mm幅の拡幅繊維束を用いて、
図5に示すように、繊維束幅方向等間隔に50個の縦刃が2列(川上に25個、川下に25個)に千鳥配置された分繊手段で分繊処理を行った。この時、分繊手段は一定速度10m/分で走行する拡幅繊維束に対して、3秒間縦刃を突き刺して分繊処理部を生成し、0.2秒間縦刃を抜き、その後再度突き刺す動作を繰り返し行なった。隣接する縦刃の繊維束長手方向の間隔Bを15mm、全ての刃の繊維束への挿入タイミングを同一、繊維束表面から飛び出した突出部の高さhを17mmとした。得られた部分分繊繊維束を13mm長となるようにカットし、樹脂シート2をマトリックスとする繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を作製した。結果は表1の通りであった。
【0081】
(実施例3)
原料繊維2にサイジング剤1が4%ほど付着した、20mm幅の拡幅繊維束を用いて、
図4に示すように、繊維束幅方向等間隔に配列された25個の突出部(刃)を、合計2列、千鳥配置となるように設けた回転刃(分繊手段)で分繊処理を行った。この時、分繊手段は一定速度10m/分で走行する拡幅繊維束に対して、3秒間突出部を突き刺して分繊処理部を生成し、0.2秒間突出部を抜き、その後再度突き刺す動作を繰り返し行なった。隣接する突出部の繊維束長手方向の間隔Bを15mm、全ての突出部(合計50個の突出部)の繊維束への挿入タイミングを同一、繊維束表面から飛び出した突出部の高さhを4mmとした。得られた部分分繊繊維束を13mm長となるようにカットし、樹脂シート2をマトリックスとする繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を作製した。結果は表1の通りであった。
【0082】
(実施例4)
原料繊維2にサイジング剤2が3.5%ほど付着した、20mm幅の拡幅繊維束を用いて、
図7に示すように、25個の縦刃が繊維束幅方向等間隔、かつ、長手方向間隔Bが5mmとなるように斜めに一列に配置された分繊手段で分繊処理を行った。この時、分繊手段は一定速度10m/分で走行する拡幅繊維束に対して、3秒間縦刃を突き刺して分繊処理部を生成し、0.2秒間縦刃を抜き、その後再度突き刺す動作を繰り返し行なった。全ての刃の繊維束への挿入タイミングを同一、繊維束表面から飛び出した突出部の高さhを8mmとした。得られた部分分繊繊維束を13mm長となるようにカットし、樹脂シート2をマトリックスとする繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を作製した。結果は表1の通りであった。
【0083】
(実施例5)
原料繊維2にサイジング剤2が3.5%ほど付着した、20mm幅の拡幅繊維束を用いて、
図6に示すように、繊維束幅方向等間隔に65個の縦刃が1列に配置された分繊手段で分繊処理を行った。この時、分繊手段は一定速度10m/分で走行する拡幅繊維束に対して、3秒間縦刃を突き刺して分繊処理部を生成し、0.2秒間縦刃を抜き、その後再度突き刺す動作を繰り返し行なった。隣接する刃の繊維束への挿入タイミングを0.5周期ずらし、突出部の高さhを13mmとした。得られた部分分繊繊維束を13mm長となるようにカットし、樹脂シート2をマトリックスとする繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を作製した。結果は表1の通りであった。
【0084】
(比較例1)
原料繊維1にサイジング剤1が3%ほど付着した、40mm幅の拡幅繊維束を用いて、
図5に示すように、繊維束幅方向等間隔に48個の縦刃が2列(川上に40個、川下に8個)に千鳥配置された分繊手段で分繊処理を行った。この時、分繊処理手段は一定速度10m/分で走行する拡幅繊維束に対して、3秒間縦刃を突き刺して分繊処理部を生成し、0.2秒間縦刃を抜き、その後再度突き刺す動作を繰り返し行なった。隣接する縦刃の繊維束長手方向の間隔Bを15mm、全ての刃の繊維束への挿入タイミングを同一、繊維束表面から飛び出した突出部の高さhを12mmとした。得られた部分分繊繊維束を13mm長となるようにカットし、樹脂シート1をマトリックスとする繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を作製した。結果は表2の通りであった。
【0085】
(比較例2)
原料繊維1にサイジング剤2が4%ほど付着した、40mm幅の拡幅繊維束を用いて、
図8に示すように、繊維束幅方向等間隔に50個の突出部(刃)が1列に配置された回転刃(分繊手段)で分繊処理を行った。この時、分繊処理手段は一定速度10m/分で走行する拡幅繊維束に対して、3秒間突出部を突き刺して分繊処理部を生成し、0.2秒間分繊処理手段を抜き、その後再度突き刺す動作を繰り返し行なった。繊維束幅方向等間隔に設けた全ての刃(合計50個の刃)の繊維束への挿入タイミングを同一、繊維束表面から飛び出した突出部の高さhを13mmとした。得られた部分分繊繊維束を13mm長となるようにカットし、樹脂シート1をマトリックスとする繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を作製した。結果は表2の通りであった。
【0086】
(比較例3)
原料繊維2にサイジング剤1が4%ほど付着した、20mm幅の拡幅繊維束を用いて、
図5に示すように、繊維束幅方向等間隔に44個の縦刃が2列(川上に33個、川下に11個)に千鳥配置された分繊手段で分繊処理を行った。この時、分繊処理手段は一定速度10m/分で走行する拡幅繊維束に対して、3秒間縦刃を突き刺して分繊処理部を生成し、0.2秒間縦刃を抜き、その後再度突き刺す動作を繰り返し行なった。隣接する縦刃の繊維束長手方向の間隔Bを15mm、全ての刃の繊維束への挿入タイミングを同一、繊維束表面から飛び出した突出部の高さhを15mmとした。得られた部分分繊繊維束を13mm長となるようにカットし、樹脂シート2をマトリックスとする繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を作製した。結果は表2の通りであった。
【0087】
(比較例4)
原料繊維2にサイジング剤2が3.5%ほど付着した、20mm幅の拡幅繊維束を用いて、
図6に示すように、繊維束幅方向等間隔に50個の縦刃が1列に配置された分繊手段で分繊処理を行った。この時、一定速度10m/分で走行する拡幅繊維束に対して、全ての刃を常時挿入し、繊維束表面から飛び出した突出部の高さhを21mmとした。結果は表2の通りで、刃を常時束に挿入しているため刃に毛羽が蓄積して処理を中断せざるを得ず、物性評価するのに必要な量の部分分繊繊維束が得られなかった。
【0088】
【0089】
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、複数の単糸からなる繊維束を複数の細い束に分繊することが望まれるあらゆる繊維束に適用できる。特に、所定の長さに切断して使用するCF-SMC(Carbon Fiber-Sheet Molding Compound)やスタンパブルシート用の繊維束として使用すると、安価で機械的特性と特性のばらつきが少ないコンポジットが得られる。
【符号の説明】
【0091】
100 繊維束
110 分繊処理部
130 未分繊処理部
140 毛羽溜まり
150 分繊処理部
160 絡合部
200 分繊手段
210 突出部
211 接触部