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特許7396048培養用添加剤拡散機構、培養用容器、培養システム、および細胞の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】培養用添加剤拡散機構、培養用容器、培養システム、および細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20231205BHJP
   C12M 1/36 20060101ALI20231205BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20231205BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12M1/36
C12N1/00 A
C12M1/00 D
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019567048
(86)(22)【出願日】2019-01-18
(86)【国際出願番号】 JP2019001558
(87)【国際公開番号】W WO2019146531
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2018009460
(32)【優先日】2018-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018230328
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100188307
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】茂木 豪介
【審査官】藤山 純
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/109379(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0260743(US,A1)
【文献】特開2013-031408(JP,A)
【文献】Haifei Zhang, Andrew I. Cooper,Adv. Mater,vol.19,2007年,p.2439-2444
【文献】Golnar Dorraj, Hamid R. Moghimi,Iranian Journal of Pharmaceutical Sciences,vol.9, no.4,2013年,p.39-50
【文献】Khulan Sergelen, et al.,Biointer phases,vol.12, no.5,2017年12月06日,051002(p.1-9)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 3/00
C12M 1/36
C12N 1/00
C12M 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養に用いられる添加剤を保持する添加剤保持部と、
前記添加剤保持部の外周の少なくとも一部を囲み、前記添加剤保持部内から前記添加剤保持部外への前記添加剤の拡散速度を調節する拡散調節部と、
を備え、
前記拡散調節部を介して前記添加剤保持部外に前記添加剤を拡散する、培養用添加剤拡散機構であって、
前記拡散調節部は、刺激応答性材料と近赤外線を吸収する近赤外線吸収体とのみからなり、
前記刺激応答性材料は、温度応答性材料であり、
前記温度応答性材料は、前記近赤外線吸収体の温度変化に応じて前記添加剤の拡散速度を変化させる、培養用添加剤拡散機構
【請求項2】
培養に用いられる添加剤を保持する添加剤保持部と、
前記添加剤保持部の外周の少なくとも一部を囲み、前記添加剤保持部内から前記添加剤保持部外への前記添加剤の拡散速度を調節する拡散調節部と、
を備え、
前記拡散調節部を介して前記添加剤保持部外に前記添加剤を拡散する、培養用添加剤拡散機構であって、
前記拡散調節部は、刺激応答性材料と近赤外線を吸収する近赤外線吸収体とを含み、
前記刺激応答性材料は、温度応答性材料であり、
前記温度応答性材料は、前記近赤外線吸収体の温度変化に応じて前記添加剤の拡散速度を変化させ、
前記添加剤保持部が多孔質材料を含む、
培養用添加剤拡散機構。
【請求項3】
前記添加剤保持部が多孔質材料を含む、請求項1に記載の培養用添加剤拡散機構。
【請求項4】
前記添加剤保持部の外周の一部が、上記添加剤を拡散または透過させない不透過部である、請求項1から3のいずれか1項に記載の培養用添加剤拡散機構。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の培養用添加剤拡散機構と、培養対象および培地が導入される培養部とを備え、前記培養部と前記培養用添加剤拡散機構とが、前記拡散調節部を介して接続されている、培養用容器。
【請求項6】
前記培養部を複数備える、請求項5に記載の培養用容器。
【請求項7】
前記培養用添加剤拡散機構を複数備える、請求項5または6に記載の培養用容器。
【請求項8】
複数の前記培養用添加剤拡散機構は、保持する前記添加剤の種類が互いに異なる、請求項7に記載の培養用容器。
【請求項9】
請求項5から8のいずれか1項に記載の培養用容器と、培養管理装置とを備え、
前記培養管理装置は、取得部と、制御部と、発信部とを備え、
前記取得部は、少なくとも前記添加剤の添加手順を規定する培養プロトコルを取得し、
前記制御部は、前記培養プロトコルを参照して発信部制御情報を生成し、
前記発信部は、前記発信部制御情報に基づいて前記添加剤の拡散速度を調節する制御信号を前記拡散調節部に送り、
前記拡散調節部は、前記制御信号に基づいて前記添加剤の拡散速度を調節する、培養システム。
【請求項10】
前記培養プロトコルは、前記添加剤の添加量、添加時間、およびタイミングからなる群から選ばれる少なくとも一つの情報を規定する、請求項9に記載の培養システム。
【請求項11】
前記発信部には、前記制御信号を前記拡散調節部に送るための信号伝達路が接続され
前記信号伝達路の一端が前記発信部に接続され、他端が前記拡散調節部に接続されている、請求項9または10に記載の、培養システム。
【請求項12】
前記培養用容器を複数備え、
複数の前記培養用容器のうち、少なくとも一つを所定の位置に移動させる搬送部をさらに備え、
前記制御部は、前記培養プロトコルを参照して複数の前記培養用容器へ前記添加剤を添加するための発信部制御情報をそれぞれ生成し、
前記発信部は、前記位置に存在する前記培養用容器に対応する前記発信部制御情報に基づいて、前記位置に移動された前記培養用容器の前記拡散調節部に前記制御信号を送る、請求項9から11のいずれか1項に記載の培養システム。
【請求項13】
培地を前記培養部に供給する培地供給部をさらに備え、
前記培地供給部は、培地貯蔵部と、培地保存部と、培地移送部と、培地移送経路とを備え、
前記培養プロトコルは、前記培地の供給手順を規定し、
前記制御部は、前記培養プロトコルを参照して培地供給部制御情報を生成し、
前記培地供給部は、前記培地供給部制御情報に基づいて前記培養部に前記培地を供給する、請求項9から12のいずれか1項に記載の培養システム。
【請求項14】
培地を前記培養部に供給する培地供給部をさらに備え、
前記培地供給部は、培地貯蔵部と、培地保存部と、培地移送部と、培地移送経路とを備え、
前記培養用容器の少なくとも一部が半透膜によって構成される半透膜部であり、
前記半透膜部を介して前記培養用容器と前記培地移送経路とが流体連結され、
前記半透膜部を介して前記培地供給部から供給された培地と、前記培養用容器中の培地の成分とが交換される、請求項9から13のいずれか1項に記載の培養システム。
【請求項15】
前記培養部中の前記培養対象の状態を測定する培養対象状態計測部をさらに備え、
前記制御部は、前記培養対象状態計測部による前記培養対象の計測結果をさらに参照して、前記発信部制御情報を生成する、請求項9から14のいずれか1項に記載の培養システム。
【請求項16】
前記培養部中の前記培地に含まれる前記添加剤の濃度を計測する添加剤計測部をさらに備え、
前記制御部は、前記添加剤計測部による前記添加剤の濃度の計測結果をさらに参照して、前記発信部制御情報を生成する、請求項9から15のいずれか1項に記載の培養システム。
【請求項17】
請求項9から16のいずれか1項に記載の培養システムを用いた、細胞の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2018年1月24日に日本国に特許出願された特願2018-009460号、および2018年12月7日に日本国に特許出願された特願2018-230328号の優先権を主張するものであり、これらの先の出願の開示全体をここに参照のために取り込む。
【技術分野】
【0002】
本開示は、培養用添加剤拡散機構、培養用容器、培養システム、および細胞の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、再生医療技術の発展に伴い、細胞を効率よく培養する技術が求められている。細胞を効率よく培養し、ひいては組織を良好に形成させるためには、各種添加剤を、適切なタイミングおよび量で、培地へ添加する必要がある。よって、培養中に添加剤を効率よく添加する技術の開発が試みられてきた。
【0004】
非特許文献1には、手動にて培地へ添加剤を添加する方法が開示されている。非特許文献2には、ディスペンサを用いて培地へ添加剤を自動で添加する方法が開示されている。特許文献1には、細胞培養容器へ培地を送り出す供給側送液ポンプと、細胞培養容器から排液容器へ培養液を送り出す排出側送液ポンプとを備える培地交換システムが開示されている。特許文献2には、分泌体が分泌したサイトカインを含む培養液を成長誘導対象に供給する成長誘導システムが開示されている。特許文献3には、複数の貫通孔から異なる組成の液体を導入することで、細胞を培養するマイクロ空間部内で、物質の濃度勾配を生じさせる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-113109号公報
【文献】特許第6111510号公報
【文献】特許第5594658号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Kevin A D' Amour et al., 'Nature Biotechnology; 2006 ; Production of pancreatic hormone-expressing endocrine cells from human embryonic stem cells.', nature biotechnology, 2006年10月19日、volume 24 number 11, 1392-1401.
【文献】“サイエンスアゴラ あなたと創るこれからの科学と社会”、[online]、独立行政法人科学技術振興機構ホームページ、[2018年11月2日検索]、インターネット<http://www.jst.go.jp/ips-trend/column/event#report/no04.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1および2に記載の方法においては、添加剤がチップに吸着されることによるロスがある上、コンタミネーションの虞があった。特許文献1および2に記載の技術において添加剤を添加するためには、添加剤を添加した培地を送液するための流路を設ける必要があり、装置構成が複雑になるという欠点があった。特許文献3に記載の方法において用いられるマイクロ流体デバイスは、製造コストが高く、かつ多数の微細な流路を必要とするため、液漏れの虞があった。
【0008】
そこで、本開示は、拡散現象を利用して添加剤を添加することによって、培地への添加剤の添加を効率的かつ簡便に制御することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
幾つかの実施形態に係る培養用添加剤拡散機構は、培養に用いられる添加剤を保持する添加剤保持部と、前記添加剤保持部内から前記添加剤保持部外への前記添加剤の拡散速度を調節する拡散調節部と、を備える。このように、拡散調節部を設け、拡散現象を利用して添加剤を添加することにより、培地への添加剤の添加を効率的かつ簡便に制御することができる。
【0010】
一実施形態において、培養用添加剤拡散機構は、前記拡散調節部は、少なくとも一つの環境パラメータの変化に応じて前記添加剤の拡散速度を変化させてもよい。このように、環境パラメータを用いて添加剤の拡散速度を変化させることにより、複雑な装置構成を採用することなく、簡便な構成で添加剤の添加を制御することができる。
【0011】
一実施形態に係る培養用添加剤拡散機構において、前記拡散調節部は、刺激応答性材料を含み、少なくとも一つの刺激に応じて前記添加剤の拡散速度を変化させてもよい。このように、刺激応答性材料を用いて添加剤の拡散速度を変化させることにより、複雑な装置構成を採用することなく、簡便な構成で添加剤の添加を制御することができる。
【0012】
一実施形態に係る培養用添加剤拡散機構において、前記拡散調節部は、近赤外線を吸収する近赤外線吸収体をさらに含み、前記刺激応答性材料は、温度応答性材料であり、前記温度応答性材料は、前記近赤外線吸収体の温度変化に応じて前記添加剤の拡散速度を変化させてもよい。このように、近赤外線を吸収する近赤外線吸収体と、近赤外線吸収体の温度変化に応じて添加剤の拡散速度を変化させる温度応答性材料とを用いれば、近赤外線の照射による近赤外線吸収体およびその近傍に存在する温度応答性材料への局所的な加熱を利用して添加剤の拡散速度を調節することができるので、培養される細胞等の培養対象への侵襲性が低い形で添加剤の添加を制御することができる。
【0013】
一実施形態において、培養用容器は、本開示に係る培養用添加剤拡散機構と、培養対象および培地が導入される培養部とを備え、前記培養部と前記培養用添加剤拡散機構とが、前記拡散調節部を介して接続されている。このような培養用容器によれば、拡散調節部を介した添加剤の拡散現象を利用して、培地への添加剤の添加を効率的かつ簡便に調節しつつ、細胞等の培養対象を培養することができる。
【0014】
一実施形態において、培養用容器は、前記培養部を複数備えてもよい。このように、培養用容器が、培養部を複数備えていることにより、複数の培養部において同時に細胞を培養することができるため、細胞等の培養対象を効率よく大量に製造することができる。
【0015】
一実施形態において、培養用容器は、前記培養用添加剤拡散機構を複数備えてもよい。このように、培養用容器が培養用添加剤拡散機構を複数備えていることにより、添加する添加剤の量およびタイミングを、より自由に調節することができる。
【0016】
一実施形態において、培養用容器は、複数の前記培養用添加剤拡散機構は、保持する前記添加剤の種類が互いに異なってもよい。このように複数の前記培養用添加剤拡散機構が、互いに異なる種類の添加剤を保持することにより、複数の種類の添加剤の添加を調節しつつ培養することができるため、添加剤を複数種類必要とする培養の際に役立つ。
【0017】
一実施形態において、培養システムは、幾つかの実施形態に係る培養用容器と、培養管理装置とを備え、前記培養管理装置は、取得部と、制御部と、発信部とを備え、前記取得部は、少なくとも前記添加剤の添加手順を規定する培養プロトコルを取得し、前記制御部は、前記培養プロトコルを参照して発信部制御情報を生成し、前記発信部は、前記発信部制御情報に基づいて前記添加剤の拡散速度を調節する制御信号を前記拡散調節部に送り、前記拡散調節部は、前記制御信号に基づいて前記添加剤の拡散速度を調節する。このような培養システムによれば、培地への添加剤の添加を効率的かつ簡便に制御しつつ細胞等の培養対象を培養することができる。
【0018】
一実施形態に係る培養システムにおいて、前記培養プロトコルは、前記添加剤の添加量、添加時間、およびタイミングからなる群から選ばれる少なくとも一つの情報を規定してもよい。このように、培養プロトコルが添加剤の添加量、添加時間、およびタイミングからなる群から選ばれる少なくとも一つの情報を規定することにより、培養システムは、培養プロトコルを取得して、添加剤の添加量、添加時間、およびタイミングからなる群から選ばれる少なくとも一つを調節することができる。
【0019】
一実施形態に係る培養システムにおいて、前記発信部には、前記制御信号を前記拡散調節部に送るための信号伝達路が接続されていてもよい。このように、発信部に、制御信号を拡散調節部に送るための信号伝達路が接続されていることにより、制御信号を正確に拡散調節部に送ることができる。
【0020】
一実施形態において、培養システムは、前記培養用容器を複数備え、複数の前記培養用容器のうち、少なくとも一つを所定の位置に移動させる搬送部をさらに備え、前記制御部は、前記培養プロトコルを参照して複数の前記培養用容器へ前記添加剤を添加するための発信部制御情報をそれぞれ生成し、前記発信部は、前記位置に存在する前記培養用容器に対応する前記発信部制御情報に基づいて、前記位置に移動された前記培養用容器の前記拡散調節部に前記制御信号を送ってもよい。このように、複数の培養用容器についてそれぞれ発信部制御情報を生成し、所定の位置に搬送した各培養用容器に対して制御信号を送ることにより、自動で細胞等の培養対象を効率よく大量に製造することができる。
【0021】
一実施形態において、培養システムは、培地を前記培養部に供給する培地供給部をさらに備え、前記培地供給部は、培地貯蔵部と、培地保存部と、培地移送部と、培地移送経路とを備え、前記培養プロトコルは、前記培地の供給手順を規定し、前記制御部は、前記培養プロトコルを参照して培地供給部制御情報を生成し、前記培地供給部は、前記培地供給部制御情報に基づいて前記培養部に前記培地を供給してもよい。このように、培地供給部が、培地供給部制御情報に基づいて培養部に培地を供給することにより、培地の供給も自動化することができるため、より効率よく細胞等の培養対象を培養することができる。
【0022】
一実施形態において、培養システムは、培地を前記培養部に供給する培地供給部をさらに備え、前記培地供給部は、培地貯蔵部と、培地保存部と、培地移送部と、培地移送経路とを備え、前記培養用容器の少なくとも一部が半透膜によって構成される半透膜部であり、前記半透膜部を介して前記培養用容器と前記培地移送経路とが流体連結され、前記半透膜部を介して前記培地供給部から供給された培地と、前記培養用容器中の培地の成分とが交換されてもよい。このように、半透膜部を介して、培地供給部から供給された培地と、培養用容器中の培地との成分が交換されることにより、コンタミネーションが起るリスクを低減することができ、また培地を効率よく活用することができる。
【0023】
一実施形態において、培養システムは、前記培養部中の前記培養対象の状態を測定する培養対象状態計測部をさらに備え、前記制御部は、前記培養対象状態計測部による前記培養対象の状態の計測結果をさらに参照して、前記発信部制御情報を生成してもよい。このように、培養対象の状態の計測結果を参照して、発信部制御情報を生成することにより、細胞等の培養対象の状態に応じて好適に添加剤を添加することができる。
【0024】
一実施形態において、培養システムは、前記培養部中の前記培地に含まれる前記添加剤の濃度を計測する添加剤計測部をさらに備え、前記制御部は、前記添加剤計測部による前記添加剤の濃度の計測結果をさらに参照して、前記発信部制御情報を生成してもよい。このように、添加剤の濃度の計測結果を参照して発信部制御情報を生成することにより、添加剤の濃度を監視しつつ添加を行うことができるため、確実に適正量の添加剤を添加することができる。
【0025】
一実施形態において、培養システムは、培養部内の物理的パラメータを一定範囲内に維持するための培養環境維持部を備える。このように、培養環境維持部によって培養部内の物理的パラメータを一定範囲内に維持することにより、培養環境を好適に維持しつつ培養することができる。
【0026】
一実施形態において、培養システムは、培養対象および培地が導入される複数の培養部と、該複数の培養部に対して設けられた複数の培養用添加剤拡散機構と、を備える培養用容器と、培養管理装置とを備え、前記培養用添加剤拡散機構は、拡散調節部および添加剤保持部を備え、前記培養管理装置は、取得部と、制御部と、発信部とを備え、前記取得部は、少なくとも前記添加剤の添加手順を規定する培養プロトコルを取得し、前記制御部は、前記培養プロトコルを参照して発信部制御情報を生成し、前記発信部は、前記発信部制御情報に基づいて前記添加剤の拡散速度を調節する制御信号を複数の前記拡散調節部に送り、前記拡散調節部は、前記制御信号に基づいて、複数の前記培養部への前記添加剤の拡散速度を調節してもよい。このような培養システムによれば、複数の培養部への培地への添加剤の添加を効率的かつ簡便に制御することができるため、細胞等の培養対象を効率よく大量に培養することができる。
【0027】
一実施形態において、培養システムは、複数の培養用添加剤拡散機構、および培地が導入される培養部を備える培養用容器と、培養管理装置とを備え、前記培養用添加剤拡散機構は、拡散調節部および添加剤保持部を備え、前記培養管理装置は、取得部と、制御部と、発信部とを備え、前記発信部には、制御信号を複数の前記拡散調節部に送るための信号伝達路がそれぞれ接続されており、前記取得部は、少なくとも前記添加剤の添加手順を規定する培養プロトコルを取得し、前記制御部は、前記培養プロトコルを参照して発信部制御情報を生成し、前記発信部は、前記発信部制御情報に基づいて前記添加剤の拡散速度を調節する制御信号を、複数の前記信号伝達路を介して複数の前記拡散調節部に送り、前記拡散調節部は、前記制御信号に基づいて、複数の前記培養部への前記添加剤の拡散速度を調節する。このような培養システムによれば、複数の拡散調節部が近接している場合でも、制御信号を混線させずに送ることができるため、より正確に添加剤の拡散を制御することができる。
【0028】
一実施形態において、細胞の製造方法は、幾つかの実施形態に係る培養システムを用いた、細胞の製造方法である。このような細胞の製造方法によれば、培地への添加剤の添加を効率的かつ簡便に調節しつつ、細胞を製造することができる。
【0029】
一実施形態において、細胞の製造方法は、本開示に係る培養用容器と、培養管理装置とを備え、前記培養管理装置は、取得部と、制御部と、発信部とを備えた培養システムを用いた細胞の製造方法であって、前記取得部が、少なくとも添加剤の添加手順を規定する培養プロトコルを取得する工程と、前記制御部が、前記培養プロトコルを参照して発信部制御情報を生成する工程と、前記発信部が、前記発信部制御情報に基づいて前記添加剤の拡散速度を調節する制御信号を前記拡散調節部に送る工程と、前記拡散調節部が、前記制御信号に基づいて前記添加剤の拡散速度を調節する工程と、を含んでもよい。このような細胞の製造方法によれば、培地への添加剤の添加を効率的かつ簡便に調節しつつ、細胞を製造することができる。
【0030】
[1]また、幾つかの実施形態に係る培養用添加剤拡散機構は、細胞を培養するための細胞培養用担体であり、該細胞培養用担体は、刺激応答性高分子と制御信号受信材料とを有する細胞培養用刺激応答性基材に、作用物質である添加剤を担持する。
【0031】
[2]一実施形態に係る細胞培養用担体において、前記添加剤が多孔質材料に内包され、前記細胞培養用刺激応答性基材に前記多孔質材料と前記添加剤とを担持させてもよい。
【0032】
[3]一実施形態に係る細胞培養用担体において、前記刺激応答性高分子材料は温度応答性高分子材料温度応答性高分子材料であってもよい。
【0033】
[4]一実施形態に係る細胞培養用担体において、前記制御信号受信材料は、有機化合物、金属構造体、又は炭素材料であってもよい。
【0034】
[5]一実施形態に係る細胞培養用担体において、前記金属構造体が金ナノロッドであってもよい。
【0035】
[6]一実施形態に係る細胞培養用担体において、前記添加剤が、酵素、サイトカイン、分化誘導因子、抗体等のタンパク質、ホルモン等のペプチド、抗生物質、アミノ酸やグルコース、レチノイン酸等の低分子化合物、DNA等の核酸、ナノ粒子又はリポソームであってもよい。
【0036】
[7]一実施形態に係る細胞培養用担体において、前記制御信号受信材料が受信する制御信号は近赤外光であってもよい。
【0037】
[8]幾つかの実施形態に係る培養用容器は、細胞を培養するための細胞培養用容器であって、刺激応答性高分子材料と制御信号受信材料とを有する細胞培養用刺激応答性基材に、添加剤を担持させた細胞培養用担体と、細胞を培養するための培養部である細胞培養部と、を備えてもよい。
【0038】
[9]一実施形態に係る細胞培養用容器において、前記添加剤が多孔質材料に内包され、前記細胞培養用刺激応答性基材に前記多孔質材料と前記添加剤とを担持させてもよい。
【0039】
[10]一実施形態に係る細胞培養用容器において、前記刺激応答性高分子材料は温度応答性高分子材料であってもよい。
【0040】
[11]一実施形態に係る細胞培養用容器において、前記制御信号受信材料は、有機化合物、金属構造体、又は炭素材料であってもよい。
【0041】
[12]一実施形態に係る細胞培養用容器において、前記金属構造体が金ナノロッドであってもよい。
【0042】
[13]一実施形態に係る細胞培養用容器において、前記添加剤が、酵素、サイトカイン、分化誘導因子、抗体等のタンパク質、ホルモン等のペプチド、抗生物質、アミノ酸やグルコース、レチノイン酸等の低分子化合物、DNA等の核酸、ナノ粒子又はリポソームであってもよい。
【0043】
[14]一実施形態に係る細胞培養用容器において、前記制御信号受信材料が受信する制御信号は近赤外光であってもよい。
【0044】
上記[1]~[14]によれば、添加剤の詳細な供給制御が可能であり、細胞を大量に培養でき、低コストで製造できる、細胞培養用担体または細胞培養用容器を提供することができる。
【発明の効果】
【0045】
本開示によれば、添加剤の拡散速度を調節することによって、培地への添加剤の添加を効率的かつ簡便に制御することができる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】添加剤拡散機構の形態の一例を示す断面図であり、(a)は、添加剤保持部が外周を不透過部と、拡散調節部とによって囲まれている形態、(b)は、添加剤保持部が外周全体を拡散調節部によって囲まれている形態、(c)は、刺激応答性材料に、添加剤保持部および拡散調節部の働きを兼ねさせる形態である。
図2】温度応答性材料を含む膜構造物を介した添加剤の拡散速度の変化を説明するための図である。
図3】温度応答性材料と、近赤外線吸収体とを含む膜構造物に近赤外線を送ることにより、膜構造物を介した添加剤の拡散速度が変化することを説明するための図である。
図4】培養用容器の形態の一例を示す模式図である。
図5】培養部を複数備える培養用容器の一例を示す模式図であり、(a)は、複数の培養部が培養用添加剤拡散機構を取り囲むように設けられている形態、(b)は、複数の培養部が、培養用添加剤拡散機構の片面に複数設けられている形態である。
図6】添加剤拡散機構を複数備える培養用容器の一例を示す模式図である。
図7】培養部および添加剤拡散機構を複数備える培養用容器の一例を示す模式図である。
図8】球状の添加剤拡散機構を備える培養用容器の一例を示す模式図である。
図9】培養システムの一例の概略構成を示す図である。
図10】培養システムの基本構成の一例を示す機能ブロック図である。
図11】培養部および添加剤拡散機構を複数備える培養用容器信号伝達路を備える培養システムの一例の概略構成を示す図である。
図12】信号伝達路を備える培養システムの一例の概略構成を示す図である。
図13】培養部を複数備える培養用容器を用いた培養システムの一例の概略構成を示す図である。
図14】添加剤拡散機構を複数備える培養用容器を用いた培養システムの一例の概略構成を示す図である。
図15】搬送部を備える培養システムの一例の概略構成を示す図である。
図16】半透膜によって構成される半透膜部を備える培養システムの一例の概略構成を示す図である。
図17】培養システムによる添加剤の拡散速度の調節方法の一例を示すフローチャートである。
図18】添加剤拡散機構が蓋の内側に設けられている培養用容器の一例を示す模式図である。
図19】温度応答性材料を含む膜構造物を介した添加剤の拡散速度の変化を説明するための図である。
図20】温度応答性材料と、近赤外線吸収体とを含む膜構造物に近赤外線を送ることにより、膜構造物を介した添加剤の拡散速度が変化することを説明するための図である。
図21】細胞培養用担体の一例を示す模式図である。
図22】細胞培養用担体の一例を示す模式図である。
図23】細胞培養用担体の一例を示す模式図である。
図24】細胞培養用担体の一例を示す模式図である。
図25】細胞培養用担体の一例を示す模式図である。
図26】細胞培養用担体の一例を示す模式図である。
図27】細胞培養用容器の一例を用いた細胞培養方法を説明する模式図である。
図28】細胞培養用容器の一例を示す模式図である。
図29】細胞培養用容器の一例を示す模式図である。
図30】細胞培養用容器の一例を示す模式図である。
図31】細胞培養用容器の一例を示す模式図である。
図32】細胞培養用容器の一例を示す模式図である。
図33】細胞培養用容器の一例を示す模式図である。
図34】細胞培養用容器の一例を示す模式図である。
図35】細胞培養用容器の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本開示の実施形態を、図面に基づいて説明する。各図中、同一符号は、同一または同等の構成要素を示している。
【0048】
〔培養用添加剤拡散機構〕
本開示の培養用添加剤拡散機構は、細胞等の培養対象を培養する培地に添加剤を添加する際に用いることができ、培養対象の培養に用いられる添加剤を保持する添加剤保持部と、添加剤保持部内から添加剤保持部外への添加剤の拡散速度を調節する拡散調節部と、を備える。このように、添加剤保持部内から添加剤保持部外への添加剤の拡散速度を調節する拡散調節部を設けることにより、拡散調節部を介して添加剤保持部外へ拡散される添加剤の量および添加のタイミングを適正に調節することができるため、該培養用添加剤拡散機構を後述するように例えば培養用容器に備えることにより、培地への添加剤の添加を制御することができる。
【0049】
上述したように、従来、培地への添加剤の添加は、流体に添加剤を添加し、該液体の対流によって添加剤を添加する方法が主であった。これに対し、本開示の培養用添加剤拡散機構によれば、流体の移動によらず、分子の拡散現象を利用して添加剤を添加することから、従来技術とは異なり、流体を移動させるための流路を設ける必要がない。よって、本開示の培養用添加剤拡散機構によれば、従来よりも簡便な装置構成によって、添加剤の添加を制御することができる。また、手動またはディスペンサによって添加剤を添加する方法とは異なり、添加剤がチップに吸着される虞がない。また、手動またはディスペンサによって添加剤を添加する方法においては、チップが汚染されることによるコンタミネーションのリスクがあったが、本開示の培養用添加剤拡散機構によれば、培養中に培養用添加剤拡散機構を培養用容器等から取り出さずに添加剤の添加を制御することができるため、添加剤の添加に起因するコンタミネーションのリスクが低減される。したがって、本開示の培養用添加剤拡散機構によれば、手動またはディスペンサによって添加剤を添加する方法と比較して、効率よく添加剤の添加を制御することができる。
【0050】
さらに言えば、本開示の培養用添加剤拡散機構によれば、より生体内における細胞への物質の供給状態に近い形で、細胞に対して添加剤を添加することができる。つまり、多くの多細胞生物の生体内において、細胞への物質の供給のためには、(i)全身において必要とされる物質を供給するために、物質を含む体液を心臓等のポンプ機構によって全身に巡らせるシステムと、(ii)局所的に必要とされる物質を供給するために、細胞が分泌する微量な物質を、拡散によって他の細胞へと供給するシステムとが併用されている。従来、前者(i)のシステムのように添加剤を含む流体を対流させることにより、細胞に対して添加剤を添加する技術は存在していたが、後者(ii)のシステムのように拡散現象を利用した添加剤の添加方法を培養に適用する方法は、検討されてこなかった。本発明者は、後者(ii)のシステムに習い、拡散現象を利用して添加剤を添加することにより、生体内において局所的な拡散によって供給される分化誘導因子および細胞増殖因子等の添加剤を、より生体内における細胞への物質の供給状態に近い形で添加することができることを知見し、本開示に係る培養用添加剤拡散機構を完成させるに至った。本開示の培養用添加剤拡散機構によれば、より生体内における細胞への物質の供給状態に近い形で、細胞に対して添加剤を添加することができることにより、より生体内の環境を忠実に模した培養を行うことが可能となる。
【0051】
図1(a)および(b)を用いて、培養用添加剤拡散機構の具体的な形態の一例について説明する。図1は、培養用添加剤拡散機構23の一例の断面を模式的に示した図である。図1(b)に示すように、添加剤保持部20は、外周全体を拡散調節部22によって囲まれていてもよいし、図1(a)に示すように、外周を、添加剤を拡散または透過させない不透過部41と、拡散調節部22とによって囲まれていてもよい。
【0052】
(添加剤保持部)
添加剤保持部20は、拡散調節部22を介さずに添加剤が添加剤保持部20外へと拡散されないよう、添加剤を添加剤保持部20内に保持する。なお、本明細書中において、添加剤が拡散されないとは、添加剤の拡散が実質的にゼロとみなされる状態を指すものとする。添加剤保持部20の具体的な形態は特に限定されないが、拡散調節部22を介して添加剤を徐々に添加剤保持部20外へと拡散させるために、添加剤を内包することができる多孔質材料を少なくとも一部に含むことが好ましい。より好ましくは、添加剤保持部20は、全体が多孔質材料20によって形成される。多孔質材料は、共有結合に基づく化学ゲルまたは非共有結合性の分子間力などに基づく物理ゲル等の高分子ゲルであり得、共有結合および非共有結合性の分子間力がゲル構造の形成に寄与した高分子ゲルであってもよい。具体的には、多孔質材料として、アガロース、デキストリン、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガムなどの糖鎖から形成されるハイドロゲル;コラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチン、ゼラチンなどのタンパク質から形成されるハイドロゲル;ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、シリコーンなどの合成高分子から形成されるハイドロゲル;並びにメソポーラスカーボン、メソポーラスアルミノシリケート、メソポーラスシリカ等の無機材料を用いることができる。各種添加剤と同程度の微細孔を形成させやすいことから、添加剤保持部は、ハイドロゲルを一部に含むことがより好ましい。
【0053】
上述した多孔質材料は、保持させる添加剤との親和性を高めるために、適宜官能基によって修飾されていてもよい。添加剤の不要な拡散を防ぐため、多孔質材料を官能基によって修飾し、該官能基と添加剤とを反応させて、共有結合または非共有結合を形成させ、添加剤を多孔質材料上に固定してもよい。なお、添加剤を好適に拡散させる観点から、官能基と添加剤との結合は、非共有結合であることが好ましい。多孔質材料に付加する官能基としては、ヒドロキシル基、アミノ基、イミノ基、スルホン基、活性エステル基およびカルボキシル基等の親水基;ならびにアルキル基、フェニル基およびフルオロアルキル基等の疎水基が挙げられる。
【0054】
また、上述した多孔質材料には、添加剤を特異的に認識して結合することができる分子が結合されていてもよい。例えば、多孔質材料には、タンパク質等特定の分子を特異的に結合する抗体やアプタマー;特定の塩基配列を有する核酸に特異的に結合する一本鎖DNA;および糖鎖に特異的に結合するレクチン等が結合されていてもよい。また、多孔質材料は、添加剤を特異的に認識する分子インプリント材料を含んでいてもよい。
【0055】
(拡散調節部)
拡散調節部22は、添加剤保持部20内から添加剤保持部20外への添加剤の拡散速度を調節する。拡散速度の調節としては、添加剤保持部20外への添加剤の拡散が促進される状態/添加剤保持部20外への添加剤の拡散が抑制された状態(拡散が実質的にゼロの場合を含む)の2状態を少なくとも切り替えられればよい。拡散調節部22は、例えば、電磁バルブなど物理的な障壁を利用する方法によって拡散速度を制御してもよいし刺激応答性材料など化学物質の状態変化を用いた方法によって拡散速度を制御してもよい。また、拡散調節部22は、添加剤保持部20内の表面と添加剤との親和性を変化させて、拡散速度を調節してもよい。
【0056】
一実施形態において、培養用添加剤拡散機構23は、少なくとも一つの環境パラメータの変化に応じて添加剤の拡散速度を変化させてもよい。該構成によれば、環境パラメータを変化させることにより、例えば拡散調節部22に対する添加剤の透過性、添加剤保持部20内の表面と添加剤との親和性、あるいは、電磁バルブ等のバルブの開閉を変化させて、添加剤の拡散速度を変化させることができるため、複雑な装置構成を採用することなく、簡便な構成で添加剤の添加を制御することができる。
【0057】
好ましくは、拡散調節部22は、少なくとも一部に環境応答性材料を含む膜構造物またはバルブである。環境応答性材料としては、刺激応答性材料、形状記憶ポリマー、形状記憶合金、および弾性体などが挙げられる。環境パラメータを変化させることにより、これらの環境応答性材料が構造変化し、膜構造物に対する添加剤の透過性が変化し、あるいはバルブを構成する部材が伸縮や屈曲などの変形を起こすこと等によりバルブが開閉して、添加剤の拡散速度が変化する。
【0058】
環境応答性材料が応答する環境パラメータは特に限定されないが、例えば環境応答性材料が刺激応答性材料である場合には、温度、光、pH、磁場、電場、音波、酸化還元、および分子濃度等の刺激;環境応答性材料が、形状記憶ポリマーの場合には光および温度;環境応答性材料が、形状記憶合金の場合には温度;または環境応答性材料が、弾性体である場合には、圧力が挙げられる。
【0059】
拡散調節部22は、上述した環境応答性材料の中でも、特に、刺激応答性材料を含むことが好ましい。拡散調節部22が刺激応答性材料を含むことにより、拡散調節部22に対して与える刺激を制御することによって、例えば拡散調節部22に対する添加剤の透過性、添加剤保持部20内の表面と添加剤との親和性を変化させて、添加剤の拡散速度を変化させることができる。よって、添加剤の添加の制御のために複雑な流路を必要とする従来技術と比較して、複雑な装置構成を採用することなく、簡便な構成で添加剤の添加を制御することができる。
【0060】
好ましくは、拡散調節部22は、少なくとも一部に刺激応答性材料を含む膜構造物またはバルブである。刺激応答性材料の種類は特に限定されず、上述したような特定の刺激に対し応答する材料を適宜使用することができる。これらの刺激応答性材料が刺激を受けて構造変化することにより、膜構造物に対する添加剤の透過性が変化し、あるいはバルブを構成する部材が伸縮や屈曲などの変形を起こすこと等によりバルブが開閉する。よって、拡散調節部22を介した添加剤の拡散速度を調節することができる。
【0061】
一例において、刺激応答性材料は、刺激によって、凝集状態から膨潤状態へと変化する刺激応答性材料であり得る。このような刺激応答性材料としては、温度応答性材料、pH応答性材料、分子応答性材料、光応答性材料、酸化還元応答性材料、および音波応答性材料等を用いることができる。
【0062】
刺激応答性材料としては、上述した各種刺激の中でも、刺激応答性材料の局所的な加熱および熱拡散により、細胞等の培養対象の周囲の温度上昇を実質的に培養に悪影響がない範囲に抑制することが可能であることから、細胞への悪影響が少ない温度応答性材料を用いることが好ましい。温度応答性材料としては、例えば、下限臨界溶液温度(LCST;Lower Critical Solution Temperature)型高分子、および上限臨界溶液温度(UCST;Upper Critical Solution Temperature)型高分子を用いることができる。水溶液中において、LCST型高分子は、LCST以下の温度では親水性(コイル状;膨潤状態)であり、LCSTより高い温度となると、疎水性(グロビュール状;凝集状態)へと相転移する。水溶液中において、UCST型高分子は、UCST未満の温度では疎水性(グロビュール状;凝集状態)であり、UCST以上の温度となると、親水性(コイル状;膨潤状態)へと相転移する。
【0063】
上述したLCST型高分子としては、ポリアミド系LCST型高分子、ポリエーテル系LCST型高分子、ホスホエステル系LCST型高分子、およびタンパク質を組み込んだポリマーなどを用いることができる。より具体的には、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポロキサマー、ポリ(N-ビニルカプロラクタム)、ポリメチルビニルエーテル、メチルセルロース、Conradらによって報告されているエラスチン含有ポリマー(Conrad et al., (2009));UCST型高分子としては、ポリ(アリルアミン-コ-アリルウレア)、ポリ(アクリルアミド-コ-アクリロニトリル)、ハイドロキシプロピルセルロース、ポロキサマー407等のポロキサマー、メタクリルアミドポリマー、およびスルホベタイン基を有するポリメタクリレートなどを用いることができる。これらの高分子は、単独で、または複数組み合わせて用いることができる。また、LCST型高分子またはUCST型高分子は、イソプロピルアクリルアミド、カプロラクタム、アリルアミン、アリルウレア、スルホベタイン、エチレングリコール、メタクリレート、スチレン、ノルボルネン、ホスファゼン、メチルビニルエーテル、アクリロニトリル、およびラクチドからなる群から選ばれる2以上のモノマーを用いて形成させたブロックコポリマーであってもよい。これらのブロックコポリマーの相転移温度は、用いるモノマーの種類および量比によって調整することができる。また、LCST型高分子と、UCST型高分子とを組み合わせて、刺激応答性材料として用いることもできる。これらの温度応答性材料の相転移温度は、導入する官能基の量等によって適宜調整することができる。例えば、導入する官能基としては、アルキル基、アミド基、ピペラジン基、ピロリジン基、アセタール基、ケタール基、オキサゾリン基、オキシエチレン基、スルホネート基、アルコール基、スルホベタイン基、ウラシル基、ウレイド基、およびグリシンアミド基などを用いることができる。添加剤の拡散を好適に制御するため、温度応答性材料の相転移温度は培養温度とは異なった温度域にあることが好ましい。また、温度応答性材料の相転移温度は、培養に悪影響を与えない温度とすることが好ましい。一例においては、温度応答性材料の相転移温度は、20℃から60℃の範囲とすることが好ましい。ヒト等の動物細胞を培養対象とする場合には、培養温度である37℃前後とは異なった温度域とするために、相転移温度は38℃以上50℃以下とすることが好ましい。
【0064】
図2を用いて、凝集状態から膨潤状態へと変化する刺激応答性材料を含む膜構造物を介した添加剤の拡散速度の変化について説明する。図2においては、LCST型高分子またはUCST型高分子を含む膜構造物を例に挙げて説明する。図2の例においては、添加剤38を保持する添加剤保持部20と、添加剤保持部20外(図2の例では、後述する培養用容器に備えられた培養部11)との境に、拡散調節部22として、LCST型高分子またはUCST型高分子を含む膜構造物を設けた構成を、拡大して示している。図2に示すように、膜構造物に含まれるLCST型高分子はLCSTより高い温度において、UCST型高分子はUCST未満の温度において、凝集状態(状態X)である。LCST型高分子については、温度をLCST未満とすることにより、またUCST型高分子については、温度をUCST以上とすることにより、膨潤状態(状態Y)へと相転移する。親水性の膨潤状態において、添加剤保持部20内の添加剤38が、添加剤保持部20(膜構造物)を透過することが可能となる。よって、添加剤保持部20内外の添加剤38の濃度差に従って、添加剤38が添加剤保持部20外(培養部11内)へと拡散する。以上より、温度制御によって、添加剤38の拡散速度を変化(図2の例においては、拡散が実質的にゼロとみなされる状態/拡散が起きている状態の2段階)させることができる。
【0065】
なお、理論に束縛されることを望むものではないが、刺激応答性材料の膨潤状態(状態Y)において、添加剤38が、添加剤保持部20(膜構造物)を透過することが可能となる理由として、(i)膨潤状態においては添加剤保持部20(膜構造物)を構成する刺激応答性材料のゲルが低密度化することで、添加剤がゲルの隙間を透過することが可能になること、および(ii)膨潤状態においては刺激応答性材料が親水性になることで、拡散の駆動力となる水分子が添加剤保持部20(膜構造物)を透過することが可能になること、等が想定される。
【0066】
なお、図示しないが、図2に示すような膜構造物を拡散調節部22とする場合には、事前に刺激応答性材料の収縮量を想定して、膨潤状態において余裕をもたせて培養用添加剤拡散機構23を設計することが好ましい。
【0067】
また、図19に示すように、凝集状態から膨潤状態へと可逆的に変化する刺激応答性材料49の末端を添加剤保持部20に結合させて、添加剤保持部20を被覆する膜構造物を形成し、拡散調節部22としてもよい。図19においては、添加剤38を保持する添加剤保持部20に刺激応答性材料49の末端を結合させて、添加剤保持部20外(図19の例では、後述する培養用容器に備えられた11)との境に膜構造物を設けた構成を、拡大して示している。凝集状態(状態X)の刺激応答性材料49は、刺激によって膨潤状態(状態Y)へと相転移する。膨潤状態において、添加剤保持部20内の添加剤38が、添加剤保持部20(膜構造物)を透過して、添加剤保持部20外(図19の例においては培養部11内)へと拡散する。よって、刺激によって、添加剤38の拡散速度を変化させることができる。
【0068】
また、凝集状態から膨潤状態へと変化する刺激応答性材料を含むバルブを介した添加剤の拡散速度の変化について説明する。刺激によって、刺激応答性材料が凝集状態から膨潤状態へと変化することで、刺激応答性材料の体積が変化する。これにより、バルブを構成する部材が伸縮や屈曲などの変形を起こしてバルブが開閉し、添加剤の拡散速度が変化する。
【0069】
また、上述したpH応答性材料としては、例えば、ポリサイアミンを用いることができる。ポリサイアミンを含むゲルは、pHを低下させることによってアミノ基がプロトン化し、主鎖が剛直になることにより、凝集状態から膨潤状態へと変化する。よって、pH応答性材料を含む膜構造物またはバルブを拡散調節部22とし、拡散調節部22外部のpHを調節することによって、拡散調節部22を介した添加剤の拡散速度を調節することができる。
【0070】
上述した分子応答性材料としては、例えばレクチンなどの分子認識能を有する分子を固定化したゲル、または酵素を固定化したゲルを用いることができる。これらの分子応答性材料を含むゲルは、分子の結合の有無によって、凝集状態から膨潤状態へと変化する。よって、分子応答性材料を含む膜構造物またはバルブを拡散調節部22とし、拡散調節部22外部の分子濃度を調節することによって、拡散調節部22を介した添加剤の拡散速度を調節することができる。
【0071】
上述した光応答性材料としては、例えばアゾベンゼン基とシクロデキストリン基を含むポリマー、アゾベンゼン結合ポリアクリル酸、およびニトロ桂皮酸エステル化ポリエチレングリコールを用いることができる。これらの光応答性材料からなるゲルは、さまざまな波長の光の照射によって凝集状態から膨潤状態へと変化する。よって、光応答性材料を含む膜構造物またはバルブを拡散調節部22とし、拡散調節部22に対する光の照射を調節することによって、拡散調節部22を介した添加剤の拡散速度を調節することができる。
【0072】
刺激応答性材料は、酸化還元に対して応答する酸化還元応答性材料であってもよい。酸化還元応答性材料としては、例えばホスト分子シクロデキストリン(CD)および酸化還元応答性ゲスト分子フェロセン(Fc)を側鎖に導入したポリマーや高分子ゲルを用いることができる。これらの酸化還元応答性材料は、酸化還元に応じてゲル内部の架橋密度の変化に伴い、凝集状態から膨潤状態へと変化する。よって、酸化還元応答性材料を含む膜構造物またはバルブを拡散調節部22とし、拡散調節部22外部の酸化剤および/または還元剤の量を調節することにより;あるいは、電位等の刺激を与えることにより、酸化還元応答性材料の酸化還元状態を変化させ、拡散調節部22を介した添加剤の拡散速度を調節することができる。
【0073】
刺激応答性材料は、音波に対して応答する音波応答性材料であってもよい。音波応答性材料は、一例においては超音波応答性材料である。超音波応答性高分
子材料としては、例えば、Isozakiらによって報告されているペンタメチレン鎖を有するアンチ型2核パラジウム錯体anti-1a(Isozaki et al., (2007))を用いることができる。これらの超音波応答性材料は、超音波の照射の有無によって、凝集状態から膨潤状態へと変化する。よって、音波応答性材料を含む膜構造物またはバルブを拡散調節部22とし、拡散調節部22に対する音波の照射を調節することによって、拡散調節部22を介した添加剤の拡散速度を調節することができる。
【0074】
この他、刺激応答性材料は、電場に対して応答する電場応答性高分子材料であってもよい。電場応答性高分子材料としては、例えば、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸-η-ブチルメタクリレート)を用いることができる。ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸-η-ブチルメタクリレート)は負電荷を有し、添加物と静電相互作用し、この静電相互作用は電場によって大きく影響される。よって、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸-η-ブチルメタクリレート)を含む膜構造物を拡散調節部22とすることにより、電場印可によって、膜構造物を介した添加物の透過性、ひいては拡散速度を調節することができる。
【0075】
また、刺激応答性材料は、磁場に対して応答する磁場応答性高分子材料であってもよい。磁場応答性高分子材料としては、例えば、弾性を有する材料に、磁性粒子を混合または固定したものを用いることができる。これらの磁場応答性高分子材料を含むゲルによって拡散調節部22であるバルブの部材を構成することにより、磁場によって内部の弾性材料に固定された磁性粒子が誘引されることでバルブの部材が伸縮や屈曲などの変形を起こすこと等により、バルブが開閉する。よって、磁場印可によって、拡散調節部22を介した添加剤の添加速度を調節することができる。
【0076】
刺激応答性材料が高分子材料である場合、刺激応答性材料は、例えば直鎖状のポリマー、または分岐状のポリマーであり得る。刺激応答性材料は、環状のポリマーであってもよい。刺激応答性材料の分子間は架橋されてもよい。刺激応答性材料はポリマーブラシ構造を形成していてもよい。なお、添加剤の分子サイズが小さい場合は、添加剤の不必要な拡散を防ぐために、架橋やポリマーブラシ構造等により刺激応答性材料を高密度とすることが好ましい。
【0077】
環境応答性材料は、上述したような刺激応答性材料に加えて、特定の制御信号を刺激応答性材料が応答する刺激へと変換する制御信号受信材料を含んでいてもよい。環境応答性材料が制御信号受信材料を含むことにより、特定の制御信号を、刺激応答性材料が応答する刺激へと変換することができるため、特定の制御信号を与えることによって拡散速度を制御することができる。
【0078】
好ましくは、拡散調節部22は、一部に刺激応答性材料と制御信号受信材料とを含む膜構造物またはバルブである。該膜構造物またはバルブ内で、刺激応答性材料と制御信号受信材料とは、制御信号受信材料が発する刺激を、刺激応答性材料が受け取れるように構成されていればよい。一例において、刺激応答性材料と制御信号受信材料とは架橋されている。また、刺激応答性材料と制御信号受信材料とは、刺激応答性材料を硬化させる前に制御信号受信材料を混合して混錬し、その後、刺激応答性材料を硬化させることによって、刺激応答性材料から制御信号受信材料が拡散できない形態としてもよい。
【0079】
制御信号受信材料としては、刺激応答性材料と好適な組み合わせとなるように選択することができ、例えば、近赤外線を吸収して発熱する近赤外線吸収体、交流磁場の印荷により発熱する磁性ナノ粒子、および光を吸収し酸化還元能を示す酸化チタンに代表される光触媒等を用いることができる。
【0080】
刺激応答性材料としては、上述した各種刺激応答性材料を用いることができる。上述した刺激応答性材料の中でも、刺激によって、凝集状態から膨潤状態へと変化する刺激応答性材料が好ましい。
【0081】
刺激応答性材料としては、凝集状態から膨潤状態へと変化する刺激応答性材料の中でも、温度応答性材料が特に好ましい。一例においては、環境応答性材料は、刺激応答性材料として温度応答性材料を、かつ制御信号受信材料として近赤外線を吸収する近赤外線吸収体を含み、温度応答性材料は、近赤外線吸収体の温度変化に応じて添加剤の拡散速度を変化させる。該構成においては、近赤外線を制御信号として用い、制御信号受信材料として近赤外線吸収体を用いる。近赤外線吸収体は、制御信号として照射された近赤外線を吸収して熱を放出する。該熱によって、近赤外線吸収体近傍の温度応答性材料の構造が変化し、例えば拡散調節部22に対する添加剤の透過性やバルブの開閉を変化させて、添加剤の拡散速度を変化させることができる。なお、温度応答性材料は温度に応じて可逆的に構造が変化することから、近赤外線の照射を止め、近赤外線吸収体が熱を放出しなくなると、温度低下によって温度応答性材料の構造が元の状態に戻り、添加剤の拡散速度が元の状態に戻る。近赤外線は細胞等の培養対象へ悪影響を及ぼさず、近赤外線吸収体近傍のみが加熱され培養対象周囲は熱拡散により悪影響を及ぼさない範囲でしか加熱されない。よって、本構成によれば、培養対象への侵襲性が低い形で添加剤の添加を制御することができる。
【0082】
近赤外線としては、水分子が吸収しにくい波長を用いることが好ましく、例えば、650nm以上、1000nm以上、1500nm以上;950nm以下、1350nm以下、1800nm以下の波長を用いることができる。
【0083】
近赤外線吸収体としては、有機化合物、金属構造体、カーボン構造体などを用いることができる。なお、近赤外線吸収体としては、製造時に温度応答性材料と混合しても沈降しづらいものが好ましく、かつ近赤外線を効率よく吸収させるためには表面積が大きいものが好ましいことから、サイズの小さいものを用いることが好ましい。
【0084】
近赤外線吸収体としては、金属構造体の中でも、アスペクト比を調整することにより吸収スペクトルを変化させることができるため、金属ナノロッドが好ましく、安定性の観点から金ナノロッドがより好ましい。金属ナノロッドとしては、短手方向の直径が5~100nm程度のものを用いることができる。
【0085】
有機化合物としては有機色素が好ましく、有機色素としては、シアニン色素、フタロシアニン色素、ナフタロシアニン化合物、ニッケルジチオレン錯体、スクアリウム色素、キノン系化合物、ジインモニウム化合物、アゾ化合物、ポルフィリン化合物、ジチオール金属錯体、ナフトキノン化合物、およびジインモニウム化合物等を好適に用いることができる。
【0086】
また、有機化合物として、有機色素を含有させた樹脂製の粒子を用いてもよい。なお、有機色素を含有させた樹脂の形状は、粒子状に限定されない。有機色素を樹脂に含有させることで、培養液中への有機色素の漏出を抑制することができるため、有機色素が細胞等の培養対象に影響を及ぼすことを避ける上で有効である。
【0087】
カーボン構造体としては、カーボンナノチューブ、フラーレン、およびカーボンナノワイヤー等を好適に用いることができる。カーボンナノチューブとしては、直径が0.4~50nm程度のものを用いることができる。
【0088】
これらの近赤外線吸収体は、単独で、または複数を組み合わせて用いることができる。
【0089】
これらの近赤外線吸収体には、温度応答性材料と架橋するために、修飾によって適宜官能基を付加してもよい。特に、近赤外線吸収体として、金属構造体またはカーボン構造体を用いる場合、温度応答性材料と架橋するために、修飾によって表面に官能基を付加することが好ましい。金属構造体に付加する官能基は、例えば、メチル基、アミノ基、およびカルボキシル基等であり得る。また、カーボン構造体に付加する官能基は、例えば、メチロール基、ニトロ基、カルボキシル基、アシルクロリド基、およびボロン酸基等であり得る。
【0090】
好ましくは、拡散調節部22は、少なくとも一部に温度応答性材料と近赤外線吸収体とを含む膜構造物またはバルブである。一例において、膜構造物またはバルブは、温度応答性材料と近赤外線吸収体とを、架橋剤によって架橋した架橋体を含み、近赤外線の照射による該架橋体の構造変化によって、添加物の拡散速度を変化させる。
【0091】
図3を用いて、凝集状態から膨潤状態へと変化する刺激応答性材料と、制御信号受信材料とを含む膜構造物を介した添加剤の拡散速度の変化について説明する。図3においては、温度応答性材料と、近赤外線吸収体とを含む膜構造物に近赤外線を送ることにより、膜構造物を介した添加剤の拡散速度が変化する構成を例に挙げて説明する。図3の例においては、添加剤38を保持する添加剤保持部20と、添加剤保持部20外(図3では、後述する培養用容器に備えられた培養部11)との境に、拡散調節部22として、UCST型高分子と、近赤外線吸収体39とを含む膜構造物を設けた構成を、拡大して示している。なお、図示しないが、近赤外線吸収体39とUCST型高分子とは架橋されている。図2に示すように、膜構造物に含まれるUCST型高分子はUCST未満の温度において、凝集状態(状態X)である。該膜構造体に、近赤外線(制御信号34)を照射すると、近赤外線吸収体39は、近赤外線を吸収して発熱し、近赤外線吸収体39の周囲が、局所的に温度上昇する。この温度上昇により、温度がUCST以上となることにより、UCST型高分子が膨潤状態(状態Y)へと相転移する。親水性の膨潤状態において、添加剤保持部20内の添加剤38が、添加剤保持部20(膜構造物)を透過することが可能となる。よって、添加剤保持部20内外の添加剤38の濃度差に従って、添加剤38が添加剤保持部20外(培養部11内)へと拡散する。以上より、近赤外線を照射することによって、添加剤38の拡散速度を変化させることができる。
【0092】
図示しないが、膜構造物がLCST型高分子を含む場合、上記とは反対に、近赤外線の照射によって、膜構造物に含まれるLCST型高分子が、膨潤状態(状態Y)から凝集状態(状態X)へと相転移することで、添加剤38の拡散速度を変化させることができる。
【0093】
また、図20に示すように、凝集状態から膨潤状態へと可逆的に変化する刺激応答性材料49の一端を添加剤保持部20に結合させ、かつ他端に制御信号受信材料(図20の例においては、近赤外線吸収体39)を結合させて、添加剤保持部20を被覆する膜構造物を形成し、拡散調節部22としてもよい。図20においては、添加剤38を保持する添加剤保持部20に刺激応答性材料49の一端を結合させ、かつ他端に制御信号受信材料(図20の例においては、近赤外線吸収体39)を結合させて、添加剤保持部20外(図20の例では、後述する培養用容器に備えられた11)との境に膜構造物を設けた構成を、拡大して示している。該膜構造体に、近赤外線等の制御信号34を照射すると、制御信号受信材料(図20の例では近赤外線吸収体39)は、制御信号34を受信して、制御信号34を刺激応答性材料49が応答する刺激へと変換する。凝集状態(状態X)の刺激応答性材料49は、制御信号受信材料によって変換された刺激を受け取って膨潤状態(状態Y)へと相転移する。膨潤状態において、添加剤保持部20内の添加剤38が、添加剤保持部20(膜構造物)を透過して、添加剤保持部20外(図19の例においては培養部11内)へと拡散する。よって、刺激によって、添加剤38の拡散速度を変化させることができる。
【0094】
なお、添加剤保持部20と拡散調節部22とは、同一の材料を含んでいてもよい。一実施形態において、培養用添加剤拡散機構23は、図1(c)に示すように、刺激によって凝集状態から膨潤状態へと変化する刺激応答性材料を含む。該刺激応答性材料に添加剤を直接担持させることによって、該刺激応答性材料に添加剤保持部20および拡散調節部22の働きを兼ねさせることができる。該培養用添加剤拡散機構23に対して刺激を与えることにより、刺激応答性材料が凝集状態から膨潤状態へと変化する。この変化に際して、凝集状態において刺激応答性材料に担持されていた添加剤が、膨潤状態において刺激応答性材料から拡散可能となる。よって、刺激により、添加剤の拡散を制御することができる。このように、添加剤保持部20と拡散調節部22とを同一の材料によって構成することで、培養用添加剤拡散機構23を、より簡便に製造することができる。
【0095】
この他、図1(c)の形態において、培養用添加剤拡散機構23は、刺激応答性材料として、電場に対して応答する電場応答性高分子材料を含み、該電場応答性高分子材料に添加剤を内包させることにより、添加剤保持部20および拡散調節部22の働きを兼ねさせてもよい。電場応答性高分子材料としては、例えば、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸-η-ブチルメタクリレート)を用いることができる。ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸-η-ブチルメタクリレート)は負電荷を有し、添加物と静電相互作用し、この静電相互作用は電場によって大きく影響される。よって、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸-η-ブチルメタクリレート)等の電場応答性高分子材料に添加剤を内包させることにより、電場印可によって添加物と電場応答性高分子材料との静電相互作用を変化させ、添加物の拡散係数拡散抵抗を変化させることができるので、培養用添加剤拡散機構23からの添加物の拡散速度を調節することができる。
【0096】
本形態において、刺激によって凝集状態から膨潤状態へと変化する刺激応答性材料としては、上述した温度応答性材料、pH応答性材料、分子応答性材料、光応答性材料、酸化還元応答性材料、および音波応答性材料等を好適に用いることができる。また、本形態において、培養用添加剤拡散機構23は、刺激応答性材料の他、制御信号受信材料を含んでいてもよい。なお、刺激応答性材料および制御信号受信材料の詳細については上述したため、ここでは記載を省略する。
【0097】
(不透過部)
不透過部41は、添加剤を拡散または透過させない。不透過部41の具体的な形態は特に限定されないが、添加剤に対する親和性を有さない材料によって構成することが好ましい。不透過部41は、例えば、疎水性高分子等の有機材料、または金属薄膜等の無機材料によって構成される。制御信号34によって拡散速度を調節する形態においては、不透過部41は制御信号34を遮断しないことから、非疎水性高分子によって構成することが好ましい。また、添加剤保持部20として用いた多孔質材料の表面を架橋して、不透過部41としてもよい。
【0098】
なお、図示しないが、添加剤保持部20外部側の表面は、添加剤保持部20を構成する材料とは異なる材料によって被覆されていてもよい。添加剤保持部20外部側の表面を添加剤保持部20を構成する材料とは異なる材料によって被覆することにより、例えば不透過部41へ添加剤や培地中の成分が吸着することや添加剤保持部20の成分が培地中に漏出すること等を防ぐことができる。
【0099】
また、図1(a)~(c)においては、培養用添加剤拡散機構23の全体形状を直方体とする例を図示したが、培養用添加剤拡散機構23の全体形状はこれに限定されない。例えば、培養用添加剤拡散機構23の全体形状は球体であり得る。培養用添加剤拡散機構23の全体形状を球体とすることにより、培養用添加剤拡散機構23の製造が特に容易となる。例えば、図1(b)または(c)に示す形態の球体の培養用添加剤拡散機構23は、例えば、型を用いずとも、液中に材料溶液を滴下する方法(液中滴下法)によって、全体形状を球体として製造することができる。
【0100】
(添加剤)
添加剤は、培養対象および培養の目的に応じて選択することができ、例えば、低分子化合物、核酸、脂質、タンパク質、糖、アミノ酸などであり得る。タンパク質としては、生体信号として働くことが知られている、分化誘導因子、細胞増殖因子、抗体、ホルモン、およびケモカインなどを添加剤とすることができる。低分子化合物として、酵素やレセプターなどに結合しその活性を阻害する阻害剤や抗生物質などを添加剤とすることができる添加剤は、人工的に化学合成された物質であってもよいし、天然に得られる物質であってもよい。培養プロトコルによっては、界面活性剤を添加剤としてもよい。また添加剤は、複数の成分を含むエキソソームやリポソームなどの小胞、生体材料抽出物や細胞分泌物でもよい。添加剤は、化学物質に限られず、ウィルスでもよい。
【0101】
なお、添加剤自体を添加剤保持部20に保持させる他、添加剤保持部20に無細胞タンパク質合成系を内包させ、該合成系により合成されたタンパク質を添加剤として添加する形態としてもよい。無細胞タンパク質合成系は、無細胞タンパク質合成系は、リボソーム、tRNA、アミノアシル化tRNA合成酵素、翻訳開始因子、翻訳伸長因子、および翻訳終結因子などの翻訳成分に加えて、アミノ酸、ATPやGTPなどエネルギー分子、マグネシウムイオンなど塩類、およびDNAまたはmRNAなどのテンプレートを含み得る。本形態によれば、タンパク質の安定性が低い場合、またはタンパク質を単離することが難しい場合であっても、添加剤として、好適に用いることができる。
【0102】
また、添加剤保持部20に、微生物または動物細胞を内包させ、微生物または動物細胞による分泌物を添加剤として添加する形態としてもよい。本形態によれば、分泌物の安定性が低い場合、または分泌物を単離することが難しい場合であっても、添加剤として、好適に用いることができる。さらには、添加する成分が未知であっても、該成分を分泌する微生物または動物細胞を添加剤保持部20に内包させることにより、添加剤として、好適に添加することができる。
【0103】
上記の添加剤は、単独で、または複数組み合わせて添加することができる。添加剤を複数組み合わせて添加する場合、1つの添加剤保持部20に複数の添加剤を保持させてもよいし、後述するように、1つの培養用容器に対して、複数の培養用添加剤拡散機構23を設け、該複数の培養用添加剤拡散機構23の細胞保持部に各種類の添加剤を保持させてもよい。
【0104】
(培養対象)
培養用添加剤拡散機構23を用いて培養することができる培養対象は、特に限定されない。好適には、培養対象として細胞を培養することができる。細胞としては、接着性の細胞、および浮遊性の細胞のいずれでも培養することができる。また、細胞としては、単細胞生物、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、腫瘍細胞のいずれでもよい。また、幹細胞や臓器由来の細胞でもよい。幹細胞としては、iPS細胞、ES細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、およびMuse細胞などがあげられる。
【0105】
また、培養用添加剤拡散機構23は、単細胞だけでなく、複数の細胞が集まって形成された組織、および多細胞性の微生物の培養にも用いることができる。
【0106】
<細胞培養用担体>
一実施形態において、培養用添加剤拡散機構は、高分子の刺激応答性材料である刺激応答性高分子材料と、制御信号受信材料を有する細胞培養用刺激応答性基材に、作用物質である添加剤を担持させた、細胞を培養するための細胞培養用担体である。
本実施形態の細胞培養用担体は、細胞培養用刺激応答性基材に添加剤が担持されている。細胞培養用担体は、制御信号を受信する前は細胞培養用刺激応答性基材中の刺激応答性高分子材料が凝集している。この凝集状態においては、ポリマーの密度が高いことや疎水性が高いことから水に対する溶解性が低く、担持している添加剤が担体外の拡散しないため、担体に担持されたままとなる。細胞培養用担体には、添加剤が貯蔵された状態となる。
【0107】
制御信号を受信すると、細胞培養用刺激応答性基材中の刺激応答性高分子材料の凝集がほどける。このため、水に対する溶解性が向上して膨潤し、担持されていた添加剤が担体外に拡散する。さらに、制御信号の入力を停止すると、細胞培養用刺激応答性基材が再び凝集状態となり、添加剤の拡散が停止する。制御信号の入力の制御により、刺激応答性高分子材料の凝集を可逆的に制御できる。つまり、本実施形態の細胞培養用担体は、制御信号の入力を制御することにより、添加剤の拡散を詳細に制御することができる。
以下、本実施形態の細胞培養用担体について詳細に説明する。
【0108】
まず細胞培養用担体の第1実施形態について説明する。
図21に、第1実施形態の細胞培養用担体23aの断面の模式図を示す。図21に示す細胞培養用担体23aは、細胞培養用刺激応答性基材60に、添加剤38を担持させた状態である。細胞培養用刺激応答性基材60に添加剤38を直接担持させることにより、構造が簡便となり、効率よく製造することができる。細胞培養用担体23aに制御信号を入力すると、全体的に膨潤した膨潤状態63となる。
【0109】
図21中の符号(X)は、刺激応答性高分子材料が凝集し、添加剤の拡散が停止している状態である。また、図21中の符号(Y)は、刺激応答性高分子材料が膨潤し、添加剤が拡散可能な状態である。本実施形態においては、制御信号の入力を制御することにより、添加剤の拡散状態(Y)と、拡散停止(X)とを可逆的に制御できる。以降の図面についても(X)及び(Y)は同様の状態を意味するものとする。
一例をあげると、制御信号の入力前に符号(X)に示す凝集状態である場合、制御信号を受信し、細胞培養用刺激応答性基材60中の刺激応答性高分子材料が非凝集状態63(又は膨潤状態)となると、水に対する溶解性が向上する。これにより、担持されていた添加剤38が担体外に拡散する。
他の例を挙げると、制御信号の入力前に符号(Y)に示す非凝集状態である場合、制御信号を受信し、細胞培養用刺激応答性基材60中の刺激応答性高分子材料が凝集状態となると、水に対する溶解性が低下する。これにより、担持されていた添加剤38は担体内に保持されたままとなる。
【0110】
・刺激応答性高分子材料
外部刺激により、刺激応答性高分子材料の構造が変化し、添加剤の透過性が変化する。刺激応答性高分子材料は直鎖状のポリマーでも、分岐しているポリマーでもよい。刺激応答性高分子材料分子間を架橋して用いてもよい。刺激応答性高分子材料を用いたポリマーブラシ構造を形成して用いてもよい。添加剤の分子サイズが小さい場合は、架橋やポリマーブラシ構造等により刺激応答性高分子材料が高密度な方が、封止効率の面から好ましい。
刺激応答性高分子材料は、温度、光、pH、磁場、電場、超音波、酸化還元、分子濃度等の様々な刺激に対し、応答するものを適宜使用できる。本実施形態においては、局所的に加熱しても、熱平衡により培養温度へ収束させることができ、培養環境への影響が少ないことから細胞にも悪影響がないため、温度応答性高分子材料を用いることが好ましい。
【0111】
温度応答性高分子材料としては、下限臨界溶液温度(LCST)型のポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、上限臨界溶液温度(UCST)型のポリ(アリルアミン-コ-アリルウレア)、ポリ(アクリルアミド-コ-アクリロニトリル)などの生理条件で応答を示すポリマーを使用できる。刺激応答温度としては、20℃から60℃の範囲が好ましい。特にヒト等の動物細胞の培養においては、培養温度が37℃であるため、刺激応答温度は38℃以上50℃以下が好ましい。LCST型とUCST型を使い分けることで、制御信号の入力前後の状態(X)と(Y)を可逆的に制御することができる。
【0112】
・制御信号
制御信号は、配線が不要であるといる観点から光又は磁場が好ましい。光としては、細胞に影響が出にくい近赤外光が好ましい。なかでも、水分子が吸収しにくい波長であるため、650nm以上950nm以下が好ましく、1000nm以上1350nm以下がより好ましく、1500nm以上1800nm以下が好ましい。
【0113】
・制御信号受信材料
制御信号受信材料は、制御信号と刺激応答性高分子材料の組み合わせによって適宜決定される。例えば、制御信号に近赤外光、刺激応答性高分子材料に温度応答性高分子材料を用いた場合、制御信号受信材料には、近赤外光を熱に効率よく変換できる有機材料および無機材料が用いられる。このような材料としては、有機化合物、微細な金属構造体、又は微細なカーボン構造体である炭素微細構造体が挙げられる。
このような材料を制御信号受信材料として用いることにより、信号を受信し、制御信号受信材料周辺が局所的に加熱されることで温度応答性高分子材料の構造が変化し、添加剤の拡散と拡散停止を可逆的に制御できる。
【0114】
・・有機化合物
本実施形態において、有機化合物としては有機色素が好ましく、有機色素としては、シアニン色素、フタロシアニン色素、ナフタロシアニン化合物、ニッケルジチオレン錯体、スクアリウム色素、キノン系化合物、ジインモニウム化合物、アゾ化合物、ポルフィリン化合物、ジチオール金属錯体、ナフトキノン化合物、ジインモニウム化合物等が挙げられる。
【0115】
・・金属構造体
本実施形態において、金属構造体としては、アスペクト比で光の吸収波長を制御できることから金属ナノロッドが好ましく、金ナノロッドが特に好ましい。
【0116】
・・炭素材料
炭素材料としては、微細なカーボン構造体である炭素微細構造体が好ましく、炭素微細構造体として、カーボンナノチューブ、フラーレン、カーボンナノワイヤー等を用いることができる。
【0117】
制御信号が磁場を用いる場合、制御信号受信物質は磁性ナノ粒子等の磁性体を使用することが好ましい。交流磁場の負荷により、磁性ナノ粒子が発熱する。
【0118】
刺激応答性高分子材料と制御信号受信材料との接合、刺激応答性高分子材料の分子間の架橋、細胞培養用刺激応答性基材と添加剤との固定には、各種の官能基と、該官能基に反応する架橋剤を用いて行うことができる。
【0119】
本実施形態において、架橋剤は、ホモ二機能性架橋剤であってもよく、ヘテロ二機能性架橋剤であってもよく、三以上の多機能性架橋剤でもよい。
【0120】
官能基が第一級アミンであれば、NHSエステル、カルボジイミド、アルデヒド、イソチオシアネート、イソシアネート、アシルアジド、スルホニルクロリド、グリオキサール、エポキシド、オキシラン、カーボネート、アリールハライド、イミドエステル、無水物、フルオロエステル等を含む架橋剤を用いることができる。
【0121】
官能基がカルボキシル基であれば、カルボジイミド等を用いることができる。
官能基がスルフヒドリル基であれば、マレイミド、ハロ酢酸、ピリジルジスルフィド、チオスルフォン、ビニルスルホン等を含む架橋剤を用いることができる。
官能基がアルデヒド基であれば、ヒドラジド、アルコキシアミン等を含む架橋剤を用いることができる。官能基がアルデヒド基であれば、ヒドラジド、アルコキシアミン等を含む架橋剤を用いることができる。
【0122】
また、ジアジリン、アリールアジド等の光反応性基を活用してもよい。アジド-アルキン間、アジド-ホスフィン間等の化学選択的ライゲーションを用いてもよい。ポリエチレングリコールやDNAなどの分子をスペーサーとして用いてもよい。
また、電子線照射等のエネルギー付与により各種部材を活性化し、接合や架橋に用いてもよい。
【0123】
・添加剤
本実施形態において、添加剤22としては、酵素、サイトカイン、分化誘導因子、抗体等のタンパク質、ホルモン等のペプチド、抗生物質、アミノ酸やグルコース、レチノイン酸等の低分子化合物、DNA等の核酸、ナノ粒子、リポソームなど、特に制限はなく利用できる。
【0124】
次に細胞培養用担体の第2実施形態について説明する。
図22に、第2実施形態の細胞培養用担体23aの断面の模式図を示す。図22に示す細胞培養用担体23aは、細胞培養用刺激応答性基材60と、多孔質材料62と、添加剤38と、不透過部である添加剤不透過層61とを備える。添加剤38は多孔質材料62に内包されている。本実施形態においては、添加剤38を含む多孔質材料62の一部が細胞培養用刺激応答性基材60で被覆され、それ以外の部分が添加剤不透過層61で被覆されている。添加剤不透過層61は疎水性のポリマーが好ましく、添加剤38が細胞培養用刺激応答性基材60で被覆した部分以外から放出されないことが好ましい。添加剤不透過層61は添加剤を不透過かつ非吸着であればよく、疎水性ポリマー以外には金属薄膜等の無機材料を用いてもよく、多孔質材料を架橋剤で架橋してもよい。必要に応じて、親水化等のコーティングをしてもよい。
【0125】
細胞培養用刺激応答性基材60を配置する場所と、被覆面積をそれぞれ調整することにより、添加剤38の拡散量と拡散方向を所望の供給量に制御することができる。
図22(Y)に示すように、細胞培養用担体23aに制御信号を入力すると、細胞培養用刺激応答性基材60を配置した場所のみが膨潤状態60aとなる。膨潤状態60aとなった部分からのみ添加剤38が拡散により放出されるため、添加剤38の拡散量と拡散方向を所望の供給量に制御することができる。
【0126】
・多孔質材料
本実施形態において、添加剤38は基材に内包されている。該基材としては多孔質材料が好ましい。多孔質材料としては、アガロースゲル、ポリアクリルアミドゲル等のハイドロゲル;メソポーラスカーボン、メソポーラスアルミノシリケート、メソポーラスシリカ等の無機材料を用いることができる。
本実施形態において、添加剤38は多孔質材料62に内包されていることが好ましい。
【0127】
次に細胞培養用担体の第3実施形態について説明する。
図23に、第3実施形態の細胞培養用担体23aの断面の模式図を示す。図23に示す細胞培養用担体23aは、細胞培養用刺激応答性基材60と、多孔質材料62と、添加剤38とを備える。添加剤38は多孔質材料62に内包されている。本実形態の細胞培養用担体23aは、添加剤38が細胞培養用刺激応答性基材60に被覆され、貯蔵されている。
【0128】
図23中の符号(X)は、刺激応答性高分子材料が凝集し、添加剤の拡散が停止している状態である。また、図23中の符号(Y)は、刺激応答性高分子材料が膨潤し、添加剤が拡散可能な状態である。本実施形態においては、制御信号の入力を制御することにより、添加剤の拡散状態(Y)と、拡散停止(X)とを可逆的に制御できる。
一例をあげると、制御信号の入力前に符号(X)に示す凝集状態である場合、制御信号を受信し、細胞培養用刺激応答性基材60中の刺激応答性高分子材料が非凝集状態60aとなると、水に対する溶解性が向上する。これにより、担持されていた添加剤38が担体外に拡散する。
他の例を挙げると、制御信号の入力前に符号(Y)に示す非凝集状態である場合、制御信号を受信し、細胞培養用応答性基材60中の刺激応答性高分子材料が凝集状態となると、水に対する溶解性が低下する。これにより、担持されていた添加剤38は担体内に保持されたままとなる。
【0129】
・多孔質材料
本実施形態において、添加剤38は基材に担持されている。該基材としては多孔質材料が好ましい。多孔質材料としては、アガロースゲル、ポリアクリルアミドゲル等のハイドロゲル;メソポーラスカーボン、メソポーラスアルミノシリケート、メソポーラスシリカ等の無機材料を用いることができる。
本実施形態において、添加剤38は多孔質材料62に内包されていることが好ましい。
【0130】
次に細胞培養用担体の第4実施形態について説明する。
図24に、第4実施形態の細胞培養用担体23aの断面の模式図を示す。図24に示す細胞培養用担体23aは、制御信号受信材料を、濃度分布が形成されるように細胞培養用刺激応答性基材60に配合し、添加剤38を含む多孔質材料62を被覆した形態である。符号51aに濃度分布の勾配を示す。濃度分布があることにより、同一の制御信号入力であっても、添加剤38の拡散速度に差をつけることができる。このため、後述する細胞培養用容器内で、空間的に添加剤38の濃度分布を制御できる。
【0131】
次に細胞培養用担体の第5実施形態について説明する。
図25に、第5実施形態の細胞培養用担体23aの断面の模式図を示す。図25に示す細胞培養用担体23aは、添加剤91が細胞培養用刺激応答性基材60で被覆されている。添加剤38は多孔質材料62に内包されている。添加剤38には、複数種類の添加剤38a、添加剤38bが混合した状態で貯蔵されている。
【0132】
次に細胞培養用担体の第6実施形態について説明する。
図26に、第6実施形態の細胞培養用担体23aの断面の模式図を示す。図26に示す細胞培養用担体23aは、添加剤を含む多孔質材料62が細胞培養用刺激応答性基材60で被覆されている。細胞培養用担体23aは、表面に注入口102を備え、所望の添加剤38を注入することができる。注入口102は、添加剤を注入後に、疎水性ポリマー等の添加剤不透過性の材料で形成した封止部105で封止すると、添加剤38の漏れが少なくなる作用効果が得られる。
【0133】
〔培養用容器〕
図4に、培養用容器の一例を、模式的に示す。図4に示すように、培養用容器10は、上述した培養用添加剤拡散機構23と、細胞等の培養対象12および培地13が導入される培養部11とを備える。培養時には、図4に示すように、拡散調節部22が培地13に接する。培地13が液状(培養液)である場合には、培養液が培養部11から拡散調節部22に浸透して添加剤保持部20に接液し、添加剤保持部20から培地13への添加剤の拡散が可能になる。よって、拡散調節部22が添加剤保持部20内から添加剤保持部20外への添加剤の拡散速度を調節することにより、培地13への添加剤の添加を効率的かつ簡便に制御することができる。このような培養用容器10によれば、培地13への添加剤の添加を効率的かつ簡便に調節しつつ、細胞を培養することができる。なお、図示しないが、培養部11には、適宜蓋が設けられている。
【0134】
培養用容器10内における培養用添加剤拡散機構23の位置は特に限定されないが、培養時に拡散調節部22が培地13に接することを必要とする。また、培養用添加剤拡散機構23は、培養用容器10と取り外しができないよう構成されてもよいが、培養用添加剤拡散機構23は培養用容器10から取り外し可能な交換部材であってもよい。このように、培養用添加剤拡散機構23は培養用容器10から取り外し可能な交換部材とすることにより、培養の目的に応じて培養用容器10を構成することが容易となる。
【0135】
培養部11は、培養の目的に応じて、一般的な培養用容器と同様に構成することができる。培養部11の材質は特に限定されず、例えばプラスチックまたはガラスであり得る。培養部11には添加剤の吸着を防ぐためのコーティングがされていてもよい。該構成によれば、添加剤が培養部11に吸着されることによるロスを低減することができる。また、利便性を向上させる観点から、培養部11は、使い捨て可能であってもよい。
【0136】
培養部11に導入される培地13は特に限定されず、細胞の種類や培養の目的に応じて選択可能である。たとえばMEM培地、DMEM培地、およびRPMI-1640培地等、広く知られる培地を用いてもよいし、公知の論文に記載の特定のグループが開発使用している培地を用いてもよい。詳細な添加制御が要求されない添加剤を事前に培地に対し混ぜて用いてもよい。また、培地は、液体状でも、ゲル状でもよい。
【0137】
なお、培地がゲル状である場合には、一例においては、拡散調節部22を事前に培養液、生理食塩水等の生物適合性のある液体に浸す。拡散調節部22を事前に生物適合性のある液体に浸すことにより、該液体が拡散調節部22に浸透して添加剤保持部20に接液し、添加剤が添加剤保持部20から培地13へと好適に拡散される。
【0138】
以上が、培養用容器10の基本的な構成であるが、培養用容器10は、以下で説明するような構成としてもよい。
【0139】
図5(a)に、培養用容器の別の実施形態を、模式的に示す。なお、図5(a)は、本実施形態に係る培養用容器10の一例を上面から見た概要図である。図5(a)に示すように、培養用容器10は、培養部11を複数備えていてもよい。一つの培養用容器10が培養部11を複数備えることにより、複数の培養部11において同時に細胞を培養することができるため、細胞を効率よく大量に製造することができる。
【0140】
図5(a)に示すように、一例においては、複数の培養部11は、培養用添加剤拡散機構23を取り囲むように設けられている。培養用添加剤拡散機構23には、各培養部11に対して添加剤を拡散するために、複数の拡散調節部22が、各培養部11に導入される培地に接するように設けられている。具体的には、図5(a)に示す培養用容器10は、複数(図示例では4つ)の培養部11と、一つの添加剤保持部に対して複数(培養部11と同じ数)の拡散調節部が設けられた培養用添加剤拡散機構とを備えており、各添加剤保持部と各培養部11とが拡散調節部22を介して接している。
【0141】
図5(b)は、培養用容器10の別例の断面を示す模式図である。図5(b)に示すように、複数の培養部11は、培養用添加剤拡散機構23の一方側に複数設けられていてもよい。
【0142】
図6に、培養用容器10の別の実施形態を、模式的に示す。図6に示すように、培養用容器10は、一つの培養部11に対して培養用添加剤拡散機構23を複数備えていてもよい。培養用容器10が培養用添加剤拡散機構23を複数備えていることにより、複数の培養用添加剤拡散機構23からの添加剤の添加を互いに独立して制御することができるため、添加剤の添加を、より自由に制御することができる。
【0143】
図6のように、培養用容器10が、培養用添加剤拡散機構23を複数備える場合、複数の培養用添加剤拡散機構23は、保持する添加剤の種類が互いに異なっていてもよい。このように複数の培養用添加剤拡散機構23が、互いに異なる種類の添加剤を保持することにより、複数種類の添加剤の添加を互いに独立して制御することができ、独立したタイミングで複数種類の添加剤を添加することを必要とする培養の際に役立つ。
【0144】
図7に、培養用容器10の別の実施形態の断面を、模式的に示す。図7に示すように、培養用容器10は、複数の培養部11を備え、各培養部11に対してそれぞれ一つ以上(図示例では一つ)の培養用添加剤拡散機構23が備えられていてもよい。このように、各培養用容器10に対し、一つ以上の培養用添加剤拡散機構23が備えられていることにより、複数種類の培養条件下で、並行して培養を行うことが容易となる。
【0145】
図8に、培養用容器10の別の実施形態の断面を、模式的に示す。図8に示すように、培養用添加剤拡散機構23は、培養用容器10に固定されておらず、培養部11内の所望の位置に配置される構成となっていてもよい。培養用添加剤拡散機構23は、例えば球状であり、培養部11中に載置され、或いは、浮遊させられる。培養用添加剤拡散機構23は、図1(a)~(c)のいずれかに示した形態を、球状に構成した構造であり得る。培養用添加剤拡散機構23の個数、および内部に保持される添加剤の種類は、培養の目的に応じて適宜選択すればよい。このように、培養用添加剤拡散機構23を培養用容器10に固定せず、必要に応じて培養部11内に配置することで、培養の目的に応じて培養用容器10を構成することが容易となる。
【0146】
図18に、培養用容器10の別の実施形態の断面を、模式的に示す。図18に示すように、培養用添加剤拡散機構23は、培養部11に設けられた蓋50の内側(培養部内側)に設けられていてもよい。培地13は、拡散調節部22に接するように導入される。このように、培養用添加剤拡散機構23を蓋50の内側に設けることにより、培養の目的に応じて培養用容器10を構成することが容易となる。また、本実施形態によれば、一般的な培養用容器の蓋を、内側に培養用添加剤拡散機構23を設けた蓋50と交換することによって培養用容器10を構成することができるため、培養用容器10を容易に製造することができる。
【0147】
以下、培養用容器の別の実施形態について説明する。
本実施形態の培養用容器は、細胞を培養するための細胞培養用容器であって、上述した細胞培養用担体と、細胞を培養するための培養部である細胞培養部と、を備える。
図27の(a)に本実施形態の細胞培養用容器10aの一例の断面図の模式図を示す。細胞培養用容器10aは、細胞培養部11aと、細胞培養用担体23a及び23bと、を備える。細胞培養部11aは細胞収容部2を備える。
細胞収容部2には、既存の培養皿、培養プレートのウェル、Lab-on-a-chip等の公知の材料を用いることができる。細胞収容部2の表面は、細胞の接着や脱離、タンパク質の非特異吸着防止等のためのコーティングがなされていてもよい。
【0148】
本実施形態の細胞培養用容器10aを説明しつつ、本実施形態の細胞培養用容器10aを用いた細胞培養方法について説明する。
【0149】
図27(a)に示す細胞培養用容器10aにおいては、符号23aに示す細胞培養用担体に、添加剤として細胞誘因因子38cを担持させ、符号23bに示す細胞培養用担体に添加剤として増殖因子38dを担持させる。
【0150】
次に、図27(b)に示すように、ピペット6を用いて懸濁液6aを細胞収容部2に導入する。その後、図27(c)に示すように、細胞培養部11aを蓋50で覆い、細胞を培養すると、図27(d)に示すように細胞収容部2に細胞が接着し、細胞集団8が形成される。
【0151】
符号23aで示される細胞培養用担体は、780nm付近の波長に吸収ピークを有する金ナノロッドを制御信号受信物質として含む。符号23bで示される細胞培養用担体は、900nm付近の波長に吸収ピークを有する金ナノロッドを制御信号受信物質として含む。
図27(e)に示すように、制御信号として780nmの近赤外光Aを照射すると、符号23aで示される細胞培養用担体から細胞誘因因子38cが拡散し、照射を停止すると、拡散が停止する。
図27(f)に示すように、細胞誘因因子38cの拡散により、細胞集団8は符号23aの方向に移動する。
【0152】
図27(g)に示すように、制御信号として900nmの近赤外光Bを照射すると、符号23bで示される細胞培養用担体から増殖因子38dが拡散し、照射を停止すると、拡散が停止する。
増殖因子38dの拡散により、細胞が増殖する。
【0153】
・細胞
培養対象の細胞としては、間葉系幹細胞、ES細胞、iPS細胞等の幹細胞や前駆細胞、肝臓等の分化細胞、腫瘍由来等の株化された細胞等いずれでもよく、哺乳動物細胞以外の細胞でもよい。細菌や酵母、真菌でもよい。
【0154】
≪細胞培養用容器のその他の実施形態≫
図28に細胞培養用容器の一実施形態を示す。細胞培養用容器10aは、蓋50の容器内側に、細胞培養用刺激応答性基材60と、添加剤を含む多孔質材料62を備える。多孔質材料62は蓋50に接するように配置され、細胞培養用刺激応答性基材60は、細胞培養部11a内の細胞懸濁液6aに接触するように配置される。
多孔質材料62に含まれる添加剤は、多孔質材料62内で濃度勾配をつけてもよい。細胞培養用容器10aの蓋部50側から制御信号を入力することにより、添加剤を供給することができる。
【0155】
図29に細胞培養用容器の一実施形態を示す。細胞培養用容器10aは、細胞培養部11aに、ビーズ状の細胞培養用担体23aが複数設置されている。細胞培養用担体23aには、それぞれ異なる添加剤を担持させることにより、様々な種類の添加剤を供給することができる。
【0156】
図30に細胞培養用容器の一実施形態を示す。細胞培養部11aに細胞培養用担体23aを設置する際、細胞集団8の上部に載置してもよい。
【0157】
図31に細胞培養用容器の一実施形態を示す。細胞集団は細胞培養部11a内に存在する立体的細胞集団8aであってもよい。細胞培養用担体23aは立体的細胞集団8aに接していなくてもよい。図32に示すように、複数の細胞培養用担体23aが立体的細胞集団8aに接していてもよい。
【0158】
図33に細胞培養用容器の一実施形態を示す。細胞培養用容器10aは、細胞培養部11aと、細胞培養用担体23aと、半透膜を備える半透膜部43と、培地13と、細胞懸濁液6aとを備える。培地13は、半透膜部43の上を還流している。本実施形態によれば、栄養素や老廃物といった小分子が半透膜を介して交換可能となる。これにより、細胞培養部11a内の環境を細胞の生存に適した状態に維持できる。また、培地13は、半透膜部43の上を還流しているため培地の交換が不要となる。半透膜を透過できない高分子材料は、細胞培養用担体23aに担持させることにより供給できる。
【0159】
図34に細胞培養用容器の一実施形態を示す。細胞収容部14は、底が凹型形状をしている。細胞収容部14の凹型形状を利用した立体的細胞集団8aの形成と、細胞培養用担体23aからの刺激が連続的に可能となる。
【0160】
図35に細胞培養用容器の一実施形態を示す。細胞培養部11a内に存在する立体的細胞集団8aと細胞培養用担体23aとの間にスペーサー層152を設けることにより、細胞が制御信号の入力時の加熱による影響を受けにくくなる。
【0161】
本実施形態の細胞培養用容器によれば、培養スペース以外の部分が少ないため、培養スペースを広く確保でき、細胞を大量に培養することができる。また、複雑な構造ではないため、低コストで製造できる。これに加えて、制御信号の入力を調整することにより、添加剤の添加量、添加のタイミング、種類等を詳細に制御できる。
【0162】
本実施形態の細胞培養用容器は、長期間にわたって複雑なプロトコルの培養を行い、高効率な大量生産が求められる再生医療製品の細胞製造に適している。
例えば、iPS細胞から肝細胞への分化においては、30日以上の長期的な培養を、日によって3~5種類程度のサイトカインの種類を変えながら行う必要がある。また、肝不全への移植治療を想定した場合、必要な細胞数は約109~1010個とも算定されており、高密度に効率的な細胞生産が望まれる。本実施形態の細胞培養用容器は、配線や流路が必須の構成ではなく、様々な添加剤が要求される複雑なプロトコルに対しても、単純な機構により対応することができ、大量の培養が可能となる。
【0163】
〔培養システム〕
次に、上述した本開示の培養用容器(細胞培養用容器)を用いる培養システムについて説明する。本開示に係る培養システムは、細胞等の培養対象を培養するために用いられ、培地13への添加剤の添加を効率的かつ簡便に制御しつつ細胞を培養することを可能とするシステムである。図9に培養システムの一例の概略構成を示す。図9に示すように、培養システム100は、上述した培養用容器10(細胞培養用容器)と、培養管理装置30とを備える。なお、図9以降の図中、培養用容器10については、断面を模式的に示している。培養用容器10は、上述した培養用添加剤拡散機構23と、培地13を導入して細胞12を培養するための培養部11とを有している。培養用添加剤拡散機構23は、添加剤を保持するための添加剤保持部20と、添加剤保持部20内から添加剤保持部20外への添加剤の拡散速度を調節する拡散調節部22とを備える。培養管理装置30は、制御信号34を発信する発信部33を備える。なお、培養用添加剤拡散機構23は、上述した細胞培養用担体23aであってもよい。
【0164】
〔培養システムの構成〕
以下、培養システムの基本構成について、図10を参照して説明する。図10は、培養システムの基本構成の一例を示す機能ブロック図である。図10に示すように、培養管理装置30は、取得部35、制御部36、および発信部33を有する。
【0165】
図10の概略構成、および図17のフローチャートを参照しつつ、培養システム100の動作の概要について説明する。取得部35は、記憶部37に記憶された培養プロトコルを取得し、該培養プロトコルを制御部36へと供給する(ステップS100)。制御部36は、培養プロトコルを参照して、発信部33からの制御信号34の発信を制御するための発信部制御情報を生成し、該発信部制御情報を発信部33へと供給する(ステップS102)。発信部33は、発信部制御情報に基づいて、添加剤の拡散速度を調節するための制御信号34を、培養用容器10の拡散調節部22に送る(ステップS106)。拡散調節部22は、制御信号34を受け取ることにより駆動(構造変化)し、拡散調節部22を介した添加剤保持部20内から添加剤保持部20外への添加剤の拡散速度を変化させる(ステップS108)。発信部33は、発信部制御情報に基づいて、制御信号34の発信を停止する(ステップS110)。発信部33からの制御信号34の伝達が停止されることにより、拡散調節部22は、駆動を停止(制御信号34を受け取る前の状態へと変化)し、拡散調節部22を介した添加剤保持部20内から添加剤保持部20外への添加剤の拡散速度が元の状態に戻る(ステップS112)。このように、添加剤保持部20内から添加剤保持部20外への添加剤の拡散速度を調節することにより、添加剤保持部20外へ拡散される添加剤の量および添加のタイミングを適正に制御することができる。
【0166】
次に、上述した培養システム100の各構成要素について、具体的に説明する。
【0167】
上記記憶部37は、例えばSSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)、光ディスクなどの随時書き込みおよび読み出しが可能な不揮発性メモリや記憶媒体であり得る。記憶部37は、培養管理装置30内に設けられていてもよい。また、記憶部37は、ネットワークを介して接続されたコンピュータ上に設けられていても構わない。
【0168】
培養管理装置30は、コンピュータを構成するCPU(Central Processing Unit)およびプログラムメモリを有し、本実施形態を実施するために必要な制御を行う部位として、上述したように制御部36、および取得部35を備える。これらの部位はいずれも上記プログラムメモリに格納されたプログラムを上記CPUに実行させることにより実現される。
【0169】
発信部33は、制御信号34として、光信号、電気信号、音響信号、および磁気信号などを発信する。制御信号34としては、無線的、非接触的、または遠隔的に作用させられる信号を用いることが、制御の自由度を高める上で好ましい。一例において、発信部33は、発信部制御情報に基づいて、特定の種類、強度、および発信時間の制御信号34を発信する。制御信号34として近赤外線などの光信号を用いる場合には、一例において発信部33は、発信部制御情報に基づいて、特定の波長の制御信号34を発信する。
【0170】
発信部33は、図9に示すように、添加剤保持部20中を通過させる形で、制御信号34を拡散調節部22に対して送ってもよく、添加剤保持部20中を通過させないように、制御信号34を拡散調節部22に対して送ってもよい。添加剤保持部20内に保持された添加剤に対する影響を極力低減する観点から、発信部33は添加剤保持部20中を通過させない経路にて、制御信号34を拡散調節部22に対して送ることが好ましい。
【0171】
なお、培養管理装置30は、発信部33を培養システム100内で移動するための搬送装置を備えていてもよい。発信部33を培養システム100内で移動させることにより、後述するように拡散調節部22を複数備える場合であっても、発信部33が制御信号34を送るのに適した位置に適宜移動することができるため、好適に制御信号34を送ることができる。
【0172】
本培養システムにおいては、上述した培養用容器10のいずれを用いてもよい。例えば、図6に示すように、一つの培養部11に対して培養用添加剤拡散機構23を複数備えている培養用容器10を用いる形態においては、制御部36は、培養プロトコルを参照して、複数の拡散調節部22のうち所定の拡散調節部22に対して制御信号34を送るための発信部制御情報を生成し、発信部33は、所定の拡散調節部22に対応する発信部制御情報に基づいて添加剤の拡散速度を調節する制御信号34を、該所定の拡散調節部22に送り、所定の拡散調節部22は、制御信号34に基づいて、培養部11への添加剤の拡散速度を調節してもよい。該構成によれば、複数の培養用添加剤拡散機構23からの添加剤の添加を互いに独立して制御することができるため、培養部11に対する添加剤の添加を、より自由に制御することができる。例えば、複数の拡散調節部22の添加剤保持部20に、互いに異なる種類の添加剤を保持させることにより、独立したタイミングで複数種類の添加剤の添加を制御しつつ、培養を行うことができる。また、同じ種類の添加剤を複数の拡散調節部22の添加剤保持部20に保持させる場合でも、複数の拡散調節部22からの添加剤の拡散を制御できることで、培養部11内における添加剤の濃度勾配を好適に調節することができる。なお、複数の拡散調節部22のそれぞれに対する制御信号としては、互いに波長、照射時間、照射強度、照射位置(制御信号34を発信する際の発信部33の位置)、および照射範囲等が異なる制御信号を用いることができる。
【0173】
また、図11に示すように、培養対象および培地13が導入される複数の培養部11と、該複数の培養部11に対して設けられた複数の培養用添加剤拡散機構23とを備える培養用容器10を用いる形態においては、制御部36は、培養プロトコルを参照して、複数の培養用添加剤拡散機構23に備えられた複数の拡散調節部22に対して制御信号34を送るための発信部制御情報を生成し、発信部33は、発信部制御情報に基づいて添加剤の拡散速度を調節する制御信号34を、複数の拡散調節部にそれぞれ伝達し、拡散調節部は、制御信号34に基づいて、複数の培養部11への添加剤の拡散速度を調節してもよい。なお、図11においては、発信部33が一か所から拡散調節部22に対して制御信号34を送っている例を示しているが、発信部33は搬送装置を備え、移動しつつ各拡散調節部22に制御信号34を送ってもよい。このような培養システムによれば、複数の培養部11への培地13への添加剤の添加を並列して効率的かつ簡便に制御することができるため、細胞等の培養対象を効率よく大量に培養することができる。
【0174】
なお、図11に示す培養用容器10を用いる形態において、制御部36は、培養プロトコルを参照して、複数の培養用添加剤拡散機構23に備えられた複数の拡散調節部22のうち、所定の拡散調節部22に対して制御信号34を送るための発信部制御情報を生成し、発信部33は、所定の拡散調節部22に対応する発信部制御情報に基づいて添加剤の拡散速度を調節する制御信号34を、該所定の拡散調節部22にそれぞれ伝達し、拡散調節部22は、制御信号34に基づいて、所定の拡散調節部22からの培養部11への添加剤の拡散速度を調節してもよい。該構成によれば、複数の培養部11への培地13への添加剤の添加を互いに独立して制御することができるため、複数種類の培養条件下で培養対象を並行して効率よく培養することで、好適な培養条件を効率よく検討および選択することができる。
【0175】
図12に示すように、発信部33には、制御信号34を拡散調節部22に送るための信号伝達路42が接続されていてもよい。このように、発信部33に、制御信号34を拡散調節部22に送るための信号伝達路42が接続されていることにより、制御信号34が外因により遮断されたり、乱れたりすることがないため、より正確に制御信号34を拡散調節部22に送ることができる。
【0176】
図12の例においては、信号伝達路42の一端は発信部33に接続され、他端は、拡散調節部22に接続されているが、該他端は、拡散調節部22に接続されていなくてもよい。一例においては、発信部33に接続された信号伝達路42の他端は、拡散調節部22の付近まで敷設されている。このように、信号伝達路42の他端を拡散調節部22に接続せずとも、拡散調節部22の付近まで信号伝達路42が敷設されていることにより、信号伝達路42が存在しない場合と比較して、制御信号34の遮断、乱れ等を防ぐことができる。
【0177】
一例において、信号伝達路42の他端は、拡散調節部22に接続されておらず、培養用容器10の外側まで敷設されている。信号伝達路42の他端を拡散調節部22に接続せず、培養用容器10の外側まで敷設することにより、信号伝達路42によって制御信号34の遮断、乱れ等を防ぎつつ、培養用容器10と信号伝達路42とが分離されていることから、培養用容器10を容易に交換することができる。よって、信号伝達路42を設けつつ培養用容器10を使い捨て可能とする場合には、信号伝達路42の他端を拡散調節部22に接続せず、培養用容器10の外側まで敷設することが好ましい。また、後述するように、培養用容器10を搬送する形態においては、信号伝達路42の他端が拡散調節部22に接続されていると培養用容器10の搬送の妨げになり得る。よって、培養用容器10を搬送する形態において信号伝達路42を設ける場合には、信号伝達路42の他端を拡散調節部22に接続せず、培養用容器10の外側まで敷設する形態とすることが好ましい。
【0178】
信号伝達路42の種類は、制御信号34の種類によって適宜選択することができる。例えば、制御信号34として電気信号を用いる場合、信号伝達路42として導線を用いることができ、制御信号34が光信号である場合、光ファイバ等の光導波路を用いることができる。
【0179】
培養プロトコルは、少なくとも添加剤の添加手順を規定する。一例において、培養プロトコルは、添加剤の添加量、添加時間(添加を行う期間)、タイミング、および添加濃度からなる群から選ばれる少なくとも一つの情報(A)を規定する。なお、ここで添加のタイミングとは、添加剤の添加を開始および終了するタイミングを意味する。取得部35は、上記情報(A)を取得して、制御部36に供給する。制御部36は、情報(A)を参照して、発信部33によって生成される制御信号34の強度、並びに発信部33の駆動時間(駆動を行う期間)、および駆動のタイミングからなる群から選ばれる少なくとも一つの情報(B)を含む発信部制御情報を生成し、発信部33に供給する。発信部33は、前記情報(B)を参照して、拡散調節部22に対し、制御信号34を、所定の強度、時間(期間)、またはタイミングで、拡散調節部22に送る。拡散調節部22は、制御信号34を受け取って、添加剤を、所定の量、時間(期間)、タイミング、および添加濃度で、培地13へと供給する。このように、培養プロトコルが添加剤の添加量、添加時間、およびタイミングからなる群から選ばれる少なくとも一つの情報を規定することにより、培養システムは、培養プロトコルを取得して、添加剤の添加量、添加時間、およびタイミングからなる群から選ばれる少なくとも一つを調節することができる。
【0180】
また、図6のように培養用容器10が培養用添加剤拡散機構23を複数備え、かつ複数の培養用添加剤拡散機構23が保持する添加剤の種類が互いに異なっている場合、培養プロトコルは添加する添加剤の種類を規定し得る(情報(C))。この場合、取得部35は、添加する添加剤の種類についての情報を取得して、制御部36に供給する。また、取得部35は、複数の培養用添加剤拡散機構23の位置と、各培養用添加剤拡散機構23に保持された添加剤の種類を対応づけた情報(情報(D))をさらに取得して、制御部36に供給する。なお、情報(D)は、一例においては、用いる培養用容器10の種類に応じてあらかじめ規定され、記憶部37に保存されている。制御部36は、情報(C)および(D)を参照して、制御信号34を送る培養用添加剤拡散機構23についての情報を含む発信部制御情報を生成し、発信部33に供給する。発信部33は、前記発信部制御情報を参照して、所定の種類の添加剤を保持する培養用添加剤拡散機構23の拡散調節部22に対し、制御信号34を送る。所定の拡散調節部22は、制御信号34を受け取って、所定の添加剤を培地13へと供給する。
【0181】
なお、後述するように培養システムが培養対象状態計測部等によって培養対象の分化の程度(培養対象の分化ステージ、および成長段階等)を取得する場合、培養プロトコルは、添加剤の添加のタイミングを、培養対象の分化ステージ、および成長段階によって規定してもよい。すなわち、培養プロトコルは、培養対象の特定の分化ステージ、および成長段階において、添加を開始および終了することを規定してもよい。一例においては、培養用容器10が培養用添加剤拡散機構23を複数備え、かつ複数の培養用添加剤拡散機構23が保持する添加剤の種類が互いに異なっており、培養プロトコルは、細胞等の分化ステージ、および成長段階に応じて、好ましい添加剤の種類、添加量、および添加時間を、培養対象の各分化ステージ、および成長段階に対応づけて規定する。
【0182】
図13に、培養システムの別の実施形態を、模式的に示す。図13に示すように、培養用容器10は、複数の培養用添加剤拡散機構23を備え、複数の該培養用添加剤拡散機構23の拡散調節部22のそれぞれに対して制御信号34を送るための信号伝達路42が、発信部33に接続されていてもよい。このように制御信号34を信号伝達路42を介して送ることにより、複数の拡散調節部22に対する制御信号34が混線することを防ぐことができる。したがって、拡散調節部22が図13に示すように近接して位置する場合でも、制御信号34が近接した拡散調節部22にまで送られることを防ぐことができるため、各拡散調節部22を互いに独立して制御することができる。なお、図13においては、各信号伝達路42に対し、異なる発信部33がそれぞれ接続されている形態を示しているが、一つの発信部33に対し複数の信号伝達路42を設け、シャッターやマスク等を用いて制御信号34を送らない拡散調節部22に対する信号伝達路42を遮断し、特定の拡散調節部22に対して発信部33が制御信号34を送る構成としてもよい。
【0183】
図14に、培養システムの別の実施形態を、模式的に示す。図14に示すように、培養システムは、培養用容器10を複数備え、複数の培養用容器10のうち、少なくとも一つを、位置Aから所定の位置に移動させる搬送部40をさらに備えていてもよい。図14の例においては、搬送部40は、複数の培養用容器10から一つの培養用容器10Aを搬送し、所定の位置Aへと移動させる。説明のために、位置A'に移動された培養用容器10Aを、培養用容器10A'とする。制御部36は、複数の培養用容器10A、10B、10C、10Dのそれぞれについて、発信部制御情報a、b、c、dを作成する。発信部33は、所定の位置に移動させられた培養用容器10A'に対応する発信部制御情報aに基づき、培養用容器10A'の拡散調節部22に対して制御信号34を送る。このように、培養用容器10を所定の位置に移動し、所定の位置に移動した培養用容器10に対して制御信号34を送ることにより、自動で細胞を効率よく大量に製造することができる。
なお、制御信号34を送られた後、培養用容器10は、搬送部40で元の位置(A)に戻される。
【0184】
搬送部40の具体的な態様は、特に限定されないが、例えば図11に示すような自動式ロボットハンド、およびベルトコンベアなどであり得る。
【0185】
図15に示すように、培養システムは、培地13を培養部11に導入する培地供給部44をさらに備えていてもよい。培地供給部44は、培地13を貯蔵するための培地貯蔵部45と、培地13を好適に貯蔵するための培地保存部47と、培地13を培養部11へと供給するための培地移送経路48と、培地移送経路48を介して培地13を供給するために駆動する培地移送部46と、とを備える。図12の例においては、培地13をさらに備えている。このように、培地供給部44が、培地供給部制御情報に基づいて培養部11に培地13を供給することにより、培地13の供給も自動化することができるため、より効率よく細胞等の培養対象を培養することができる。特に、図5のように培養用容器10が培養部11を複数備える場合や、培養用容器10を複数用いる場合に、手動により培地13を供給すると、時間および手間がかかるが、本実施形態のように培地13の供給を自動化することにより、効率よく培地13を培養部11に導入することができる。
【0186】
培地貯蔵部45の形態は特に限定されず、一般的に培地13を貯蔵するために用いられている容器等を用いることができる。
【0187】
培地保存部47は、培地成分の劣化を防ぐために、冷蔵および冷凍のための機構を備えていてもよい。また、培地保存部47は、培地13を乾燥固形状態で保存し、必要時に該乾燥固形状態の培地13に適切な溶媒を添加してもよい。
【0188】
培地移送部46は、培地13を必要な容量、培養部11に供給することができればよく、例えば、ディスペンサ、インクジェット、およびポンプなどであり得る。
【0189】
培地移送経路48は、一般的なシリコンチューブ、パイプ等であり得る。
【0190】
なお、図示しないが、培養システムは、不要となった培地13を培養部11から廃出する培地廃出部をさらに備えていてもよい。
【0191】
培養システムが培地供給部44を備える形態において、図16に示すように、培養用容器10の少なくとも一部が、半透膜によって構成される半透膜部43であってもよい。なお、図13においては、培地貯蔵部45、培地保存部47、および培地移送部46の図示は省略している。図13に示す例では、半透膜部43の上部に、培地移送経路48が設けられ、培地13aが培地移送経路48の中を矢印の向きに還流している。培養部11中に充填されている培地13bと、培地移送経路48の中を還流する培地13aとは、半透膜部43を介して流体連結されている。培養によって培養対象が培地13b中の栄養素を吸収し、また老廃物を排出することにより、培養部11中の培地13bの各成分の濃度が、培地移送経路48の中を還流する培地13aとは異なったものとなる。この濃度差によって、半透膜部43を介して、培地供給部44から供給された培地と、培養用容器中の培地の成分とが交換される。なお、半透膜部43を透過することのできない高分子は、培養部11内に保持される。成分の交換によって、培地13b中の老廃物は培地13aへと移動され、反対に、培地13aから栄養素が培地13bへと移動される。
【0192】
半透膜部43を構成する半透膜は、新鮮な培地中の交換したい成分や培養している細胞種類に応じて選択できる。半透膜は、例えば、再生セルロース(セロファン)、アセチルセルロース、ポリアクリロニトリル、テフロン(登録商標)、ポリエステル系ポリマーアロイ、およびポリスルホン等の多孔質膜であり得る。
【0193】
培養システムは、培養部11中の細胞等の培養対象の状態を測定する培養対象状態計測部をさらに備えていてもよい。取得部35は、培養対象状態計測部による培養対象の状態の測定結果を取得し、制御部36へと供給する。制御部36は、上述した培養プロトコルに加えて、培養対象の状態の計測結果をさらに参照して、培養対象の状態を判断し、培養対象の状態に応じた添加剤の添加手順を算出して、発信部制御情報を生成する。このように、培養対象の状態の計測結果を参照して、発信部制御情報を生成することにより、培養対象の状態に応じて好適に添加剤を添加することができる。
【0194】
一例においては、培養対象が細胞であり、培養対象状態計測部は、細胞の分化の程度を測定する。制御部36は、細胞の分化の程度の測定結果を参照して、該分化の程度に応じた種類および量の添加剤を添加するために、発信部制御情報を生成する。発信部33は、発信部制御情報を参照して、所定の種類の添加剤が保持された培養用添加剤拡散機構23の拡散調節部22に対し、所定の長さの制御信号34を送る。制御信号34を受け取った拡散調節部22は、制御信号34の長さに応じて所定の時間駆動し、添加剤を拡散させる。このように、細胞の分化の程度に応じて適切に添加剤を添加することにより、細胞の分化をより好適に制御することができる。このような培養システム100によれば、例えば、分化の程度に応じて、添加剤の種類を切り替える操作も容易に行うことができる。
【0195】
培養対象状態計測部としては、培養対象に合わせて適切な計測装置を選択すればよい。培養対象状態計測部としては、細胞等の培養対象への侵襲性が低く、かつ培養および添加剤の拡散制御に悪影響を及ぼさない測定方法を利用するものが好ましい。培養対象状態計測部は、例えば、培養部11中に計測用の試薬を導入することで、培養対象の状態を計測してもよい。また、培養部11から培地13をサンプリングし、該サンプルを分析機器によって分析することで、培養対象の状態を計測してもよい。この他、培養対象状態計測部は、培養対象および培養の目的に合わせて、細胞イメージング、蛍光計測、ラマン分光、赤外分光、超音波検査など、様々な計測方法により、培養対象の状態を計測することができる。なお、これらの計測方法は、単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0196】
なお、制御部36による培養対象の状態の判断のための分類及び学習処理の具体的構成は本実施形態を限定するものではないが、例えば、以下のような機械学習的手法を単独で、または組み合わせて用いることができる。
【0197】
・サポートベクターマシン(SVM: Support Vector Machine)
・クラスタリング(Clustering)
・帰納論理プログラミング(ILP: Inductive Logic Programming)
・遺伝的アルゴリズム(GP: Genetic Programming)
・ベイジアンネットワーク(BN: Baysian Network)
・ニューラルネットワーク(NN: Neural Network)
【0198】
ニューラルネットワークを用いる場合、データをニューラルネットワークへのインプット用に予め加工して用いるとよい。このような加工には、データの1次元的配列化、または多次元的配列化に加え、例えば、データアーギュメンテーション(Data Argumentation)等の手法を用いることができる。
【0199】
また、ニューラルネットワークを用いる場合、畳み込み処理を含む畳み込みニューラルネットワーク(CNN: Convolutional Neural Network)を用いてもよい。より具体的には、ニューラルネットワークに含まれる1または複数の層(レイヤ)として、畳み込み演算を行う畳み込み層を設け、当該層に入力される入力データに対してフィルタ演算(積和演算)を行う構成としてもよい。またフィルタ演算を行う際には、パディング等の処理を併用したり、適宜設定されたストライド幅を採用したりしてもよい。
【0200】
また、ニューラルネットワークとして、数十~数千層に至る多層型又は超多層型のニューラルネットワークを用いてもよい。
【0201】
また、制御部36による、培養対象の状態の判断処理に用いられる機械学習は、教師あり学習であってもよいし、教師なし学習であってもよい。
【0202】
このように、一例において制御部36は機械学習機構を備え、当該機械学習機構による学習結果を参照して、培養対象の状態を判断することができる。該構成によれば、制御部36は培養対象の状態の判断処理を精度よく実行することができる。
【0203】
培養システムは、培養部11中の培地13に含まれる添加剤の濃度を計測する添加剤計測部をさらに備えてもよい。なお、添加剤計測部は、添加剤の濃度として、培養部11中の添加剤の平均濃度の他、培養部11中の局所的な添加剤の濃度、および培養部11内における濃度分布等を計測することができる。取得部35は、培養対象状態計測部による添加剤の濃度の測定結果を取得し、制御部36へと供給する。制御部36は、上述した培養プロトコルに加えて、添加剤の濃度の計測結果をさらに参照して、発信部制御情報を生成する。このように、添加剤の濃度の計測結果を参照して発信部制御情報を生成することにより、添加剤の濃度を監視しつつ添加を行うことができるため、確実に適正量の添加剤を添加することができ、ひいては培養対象12の生産安定性を高めることができる。
【0204】
添加剤計測部の種類は、添加剤の種類に合わせて適切に選択すればよい。例えば、添加剤計測部は、サンプリング装置および高速液体クロマトグラフィーや質量分析などの計測機器を含み、サンプリング装置によってサンプリングした培養部11内の培地13を計測機器によって計測してもよい。また、添加剤計測部は、サンプリングを必要としない分光分析などの方法により、添加剤の濃度を計測してもよい。添加剤として、蛍光分子等の標識を付したものを用いることで、添加剤の計測を容易にしてもよい。また、拡散係数が測定の対象とする添加剤に類似する物質を添加剤と同時に拡散させ、その類似する物質を計測することで、添加剤の濃度を概算するなどしてもよい。
【0205】
培養システムは、培養部11内の物理的パラメータを一定範囲内に維持するための培養環境維持部を備えていてもよい。培養部11内の物理的パラメータを一定範囲内に維持することにより、培養環境を好適に維持することができるため、物理的パラメータの変化に対し敏感な細胞であっても、効率よく培養することができる。また、一般的に、培養環境の相違により、培養後の細胞の性質が異なることが考えられるが、培養システムが培養環境維持部を備えることにより、培養に適した条件を維持しつつ培養することができる。
【0206】
培養環境維持部によって一定範囲内に維持する物理的パラメータとしては、温度、湿度、並びに酸素および二酸化炭素などのガス分圧、気圧が挙げられる。培養環境維持部は、対象とする物理的パラメータによって適宜に選択することができるが、例えば、恒温器、およびマルチガスインキュベータ等であり得る。
【0207】
次に、本開示に係る細胞の製造方法の一例について説明する。細胞の製造方法は、上述した培養システムを用いた、細胞の製造方法である。より具体的には、細胞の製造方法は、本開示に係る培養用容器10と、培養管理装置30とを備え、前記培養管理装置30は、取得部35と、制御部36と、発信部33とを備えた培養システムを用いた細胞の製造方法であって、前記取得部35が、少なくとも前記添加剤の添加手順を規定する培養プロトコルを取得する工程と、前記制御部36が、前記培養プロトコルを参照して発信部制御情報を生成する工程と、前記発信部33が、前記発信部制御情報に基づいて前記添加剤の拡散速度を調節する制御信号34を前記拡散調節部22に送る工程と、前記拡散調節部22が、前記制御信号34に基づいて前記添加剤の拡散速度を調節する工程と、を含む。このような細胞の製造方法によれば、培地13への添加剤の添加を効率的かつ簡便に調節しつつ、細胞を製造することができる。
【0208】
なお、本開示に係る培養システムは、細胞だけでなく、複数の細胞を含む組織の製造にも用いることができる。
【実施例
【0209】
次に、本開示に係る細胞培養用担体および細胞培養用容器を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0210】
≪実施例1≫
実施例1に用いた各材料は以下の通りである。
【0211】
・多孔質材料
多孔質材料として、表面にカルボキシル基が存在する、4%アガロースゲル粒子(CarboxyLink; Thermo Fisher Scientific)を用いた。
【0212】
・刺激応答性高分子材料
刺激応答性高分子材料として、ポリ(アリルアミン-コ-アリルウレア)ゲルを用いた。当該ゲルは、DDSキャリア作成プロトコル集(CMC出版)の182-184ページを参考に、分子量 15,000のポリ(アリルアミン)(日東紡メディカル)に対し、93%のアリルアミンの一級アミンにウレイド基を導入することで作製した。ウレイド基にもアミノ基が含まれているため、グルタルアルデヒドにより、一部のみの分子内・分子間のアミノ基同士を架橋することでゲル化できた。
【0213】
当該ゲルには、アミノ基が豊富に含まれている。このため、それらの水素結合の相手が温度によって、ポリ(アリルアミン-コ-アリルウレア)分子中のアミノ基か、溶媒中の水分子かと切り替わり、凝集と膨潤の相転移を生じさせることができる。
当該ゲルの相転移温度は、NaCl濃度150mM、pH7.5の生理条件下において44℃である。相転移温度以上の温度にすることで膨潤が起こり、物質の透過性が増加し、水に対する溶解性が増加する。
【0214】
・制御信号受信材料
制御信号受信材料として、波長808nmに吸収ピークを有し、表面にアミノ基が修飾された直径10nmの金ナノロッド(Sigma-Aldrich)を用いた。
【0215】
・制御信号
制御信号源として、高出力ファイバ出力LD光源808nm(アズワン)を用いた。
【0216】
・細胞収容部
細胞収容部として、TC処理96ウェルプレート(Corning)を用いた。
【0217】
・添加剤及び培養細胞
添加剤として、血管内皮細胞増殖因子であるVEGF-Aを用いた。
培養細胞には、ヒト臍帯静脈内皮細胞HUVECを用いた。HUVECは血液凝固、血管形成などの生理学および薬理学的試験に用いられる。培地は、VEGFが添加されていないEBMTM 内皮細胞基本培地(LONZA)を用いた。
【0218】
・細胞培養用担体の製造
多孔質材料のアガロースゲル粒子表面のカルボキシル基を、EDCおよびsulfo-NHSで活性化させた。活性化の反応はpH6.0のMESバッファー中で室温において行った。これにより、アガロースゲル粒子上に、共有結合でアミノ基を含む物質を固定可能とした。
【0219】
得られたアガロースゲル粒子をMESバッファーで洗浄後、アミノ基修飾金ナノロッドをpH7.2のリン酸緩衝生理食塩水中で反応させた。
次いで、合成したポリ(アリルアミン-コ-アリルウレア)ゲルを反応させ、ゲル中の一部のアミノ基を介して、アガロースゲル粒子表面に金ナノロッドとポリ(アリルアミン-コ-アリルウレア)ゲルを固定化した。洗浄により未反応の金ナノロッドやゲルを除去した。これにより、細胞培養用刺激応答性基材と多孔質材料との複合体1を形成した。
【0220】
10mMのNaClを加えた、pH7.5、10mMのHEPESバッファーに、得られた複合体1を浸漬した。本条件下では、相転移温度が低下し、刺激応答性高分子材料が室温で膨潤するようになり、添加剤を取り込ませることが可能となる。
粒子が残るように上清を除去し、添加剤としてVEGFを溶解させたHEPESバッファーを加えた。VEGFは、拡散により膨潤状態の刺激応答性高分子材料を透過し、多孔質材料内に取り込ませた。これにより、細胞培養用担体1を製造した。
【0221】
次に、培地へ細胞培養用担体1を移し替えた。これによりNaCl濃度が上昇して、相転移温度が40℃以上になるため、多孔質材料内にVEGFを保持可能とした。VEGF取り込み済みの粒子は使用まで4℃で保存した。
【0222】
・細胞培養
培養プレートに培地に懸濁されたHUVECを播種し、インキュベーター内において、5%CO2、37℃で培養することで細胞を接着させた。
新鮮な培地に交換後、細胞培養用担体1を導入した。近赤外光照射により、刺激応答性高分子材料が局所加熱され、膨潤し、水に対する溶解性が増大した。
【0223】
それに伴い、内包したVEGFが拡散により、培地中に放出されると、HUVECが増殖を加速した。必要量までVEGF拡散量が到達した後、VEGFが細胞代謝に作用することで実験結果に影響を与えるのを防ぐため、近赤外光の照射を停止すると、VEGFの放出を停止できた。
【0224】
<参考文献>
1)Ultrasound-Induced Gelation of Organic Fluids with Metallated Peptides, K. Isozaki, H. Takaya, and T. Naota, Angew. Chem. Int. Ed.,46, 2855-2857 (2007).
2)Tunable, temperature-responsive polynorbornenes with side chains based on an elastin peptide sequence. R. M. Conrad, R. H. Grubbs, Angew. Chem., Int. Ed., 48, 8328(2009).
【産業上の利用可能性】
【0225】
本開示に係る培養用添加剤拡散機構、培養用容器、培養システム、および細胞の製造方法は、再生医療、創薬、および細胞農業の分野で用いることができる。
【符号の説明】
【0226】
10、10A、10A' 培養用容器、100 培養システム、11 培養部、12 培養対象、13 培地、20 添加剤保持部、22 拡散調節部、23 培養用添加剤拡散機構、30 培養管理装置、33 発信部、34 制御信号、35 取得部、36 制御部、37 記憶部、38、38a~d 添加剤、39 近赤外線吸収体、40 搬送部、41 不透過部、42 信号伝達路、43 半透膜部、44 培地供給部、45 培地貯蔵部、46 培地移送部、47 培地保存部、48 培地移送経路、49 刺激応答性材料、50 蓋、10a 細胞培養用容器、11a 細胞培養部、23a、b 細胞培養用担体、60 細胞培養用刺激応答性基材、61 添加剤不透過層、62 多孔質材料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
図10
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