(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】相間絶縁紙および回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 3/34 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
H02K3/34 D
(21)【出願番号】P 2020005457
(22)【出願日】2020-01-16
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【氏名又は名称】森 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】吉田 崇伸
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-034510(JP,A)
【文献】特開昭60-022435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/30- 3/52
H02K 15/00-15/02
H02K 15/04-15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアの周方向に沿って周方向端部がオーバーラップするように複数配置され、回転電機の異相のコイル間を絶縁する相間絶縁紙であって、
ステータコアのスロットに挿入される脚部と、
前記脚部に連結されるともに、前記ステータコアの端面から突出するように配置されて前記コイルのコイルエンド部を相間絶縁する本体部と、を備え、
前記相間絶縁紙は、前記ステータコアの周方向に沿って環状に複数連結され、
前記本体部
における一方側の前記周方向端部に
は、隣り合って配置された他の相間絶縁紙の本体部
における他方側の前記周方向端部を差し込み可能な切れ目が形成され
、
前記切れ目は、一方側の前記周方向端部を基端として周方向に延びるように形成されている
相間絶縁紙。
【請求項2】
前記本体部は、前記ステータコアの両端面からそれぞれ突出するように一対設けられ、
前記脚部は、一対の前記本体部を連結し、
前記切れ目は、各々の前記本体部に形成される
請求項
1に記載の相間絶縁紙。
【請求項3】
ステータコアと、
前記ステータコアの径方向に隣り合って配置される複相のコイルと、
前記ステータコアの周方向に沿って複数連結され、異相のコイル間を絶縁する請求項
2に記載の相間絶縁紙と、
を備える回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相間絶縁紙および回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、三相交流のモータのステータには、ステータコアのティース部にU相、V相、W相のコイルが取り付けられる。分布巻きの場合、U相、V相、W相のコイルはステータコアの径方向に隣り合うように配置され、ステータコアの周方向において各相のコイルの位置が互いにずれる。また、隣り合う異相のコイルとの絶縁を確保するために、ステータの異相のコイルの間にはそれぞれ相間絶縁紙が配置される。
【0003】
また、コイル挿入時の相間絶縁紙のずれを抑制するために、先にステータコアのスロットに挿入された相のコイルの拡張成形後のコイルエンド部が、後にステータコアのスロットに挿入される相のコイルのコイルエンド部に対峙する面の外形に沿った3次元屈曲形状とすることも提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の特許文献1ではコイルエンド部の3次元形状を予測する必要があるが、実際にはこのような3次元形状の予測は困難であるのでその実現が難しい。
また、相間絶縁紙を取り付けるときには、コイルエンドの絶縁を担う本体部がステータコアの径方向内側へ向けて倒れ込むように折れ曲がることもあるので、このような事象も抑止することが望まれる。
【0006】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであって、ステータの組立時における相間絶縁紙のずれや倒れ込みを抑制できる相間絶縁紙を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、ステータコアの周方向に沿って周方向端部がオーバーラップするように複数配置され、回転電機の異相のコイル間を絶縁する相間絶縁紙であって、ステータコアのスロットに挿入される脚部と、脚部に連結されるともに、ステータコアの端面から突出するように配置されてコイルのコイルエンド部を相間絶縁する本体部と、を備える。相間絶縁紙は、ステータコアの周方向に沿って環状に複数連結される。本体部における一方側の周方向端部には、隣り合って配置された他の相間絶縁紙の本体部における他方側の周方向端部を差し込み可能な切れ目が形成される。切れ目は、一方側の周方向端部を基端として周方向に延びるように形成されている。
【0008】
上記の相間絶縁紙において、本体部は、ステータコアの両端面からそれぞれ突出するように一対設けられていてもよく、脚部は、一対の本体部を連結してもよく、切れ目は、各々の本体部に形成されていてもよい。
【0009】
本発明の他の態様に係る回転電機は、ステータコアと、ステータコアの径方向に隣り合って配置される複相のコイルと、ステータコアの周方向に沿って複数連結され、異相のコイル間を絶縁する上記の相間絶縁紙と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様の相間絶縁紙によれば、ステータの組立時における相間絶縁紙のずれや倒れ込みを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の回転電機をコイルエンド側からみた図である。
【
図2】ステータコアにU相のコイルと相間絶縁紙を取り付けた状態を示す図である。
【
図3】本実施形態における相間絶縁紙の構成例を示す図である。
【
図4】本実施形態の相間絶縁紙の連結を説明する図である。
【
図5】本実施形態の相間絶縁紙の変形例を示す図である。
【
図6】比較例の相間絶縁紙の構成例を示す図である。
【
図7】U相のコイルと相間絶縁紙を取り付けたステータコアの部分拡大図である。
【
図8】比較例における相間絶縁紙の倒れ込みを説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
実施形態では説明を分かり易くするため、本発明の主要部以外の構造や要素については、簡略化または省略して説明する。また、図面において、同じ要素には同じ符号を付す。なお、図面に示す各要素の形状、寸法などは模式的に示したもので、実際の形状、寸法などを示すものではない。
【0013】
図1は、本実施形態の回転電機をコイルエンド側からみた図である。
本実施形態の回転電機1は、三相交流のインナーロータ型モータであって、ロータ3と、ステータ2を有する。
図1において、回転電機1の回転軸Axの延長方向(軸方向)は紙面垂直方向である。
【0014】
ロータ3は、図示しない軸受により回転軸Axを中心として回転可能に軸支されている。ロータ3の外周には、エアギャップを隔ててステータ2が配置される。回転電機1においては、後述する各相のコイルの電流制御によりステータ2の磁界を順番に切り替えることで、ロータ3の磁界との吸引力または反発力により、ロータ3が回転軸Axを中心として回転する。
【0015】
ステータ2は、ステータコア21と、ステータコア21に分布巻きされたU相のコイル22u、V相のコイル22v、W相のコイル22wを有する。
【0016】
ステータコア21の内周には、径方向内側に突出する複数のティース部21aが周方向に沿って設けられ、ティース部21aの間にはそれぞれスロット21bが形成される(
図2参照)。そして、ステータコア21の外周側から順に、U相のコイル22u、V相のコイル22v、W相のコイル22wがステータコア21のティース部21aにそれぞれ分布巻きされる。U相、V相、W相のコイル22u、22v、22wはステータコア21の径方向に隣り合うように配置され、ステータコア21の周方向において各相のコイルの位置が互いにずれている。
【0017】
また、隣り合う異相のコイルとの接触を防ぐために、U相のコイル22uとV相のコイル22vの間、V相のコイル22vとW相のコイル22wの間には、それぞれ相間絶縁紙10が配置されている。
【0018】
図2は、ステータコア21にU相のコイル22uと相間絶縁紙10を取り付けた状態を示す図である。
ステータコア21にコイルを取り付ける際には、まず、ステータコア21の周方向において、複数のティース部21aを跨ぐようにしてU相のコイル22uがステータコア21のスロット21bに挿入される。U相のコイル22uは、ステータコア21の周方向に沿って並ぶように、複数(本実施形態では8つ)取り付けられる。
【0019】
ステータコア21にU相のコイル22uが挿入された後に、異相のコイル間を絶縁するために、U相のコイル22uの内周側には、ステータコア21の周方向に沿って複数枚の相間絶縁紙10が環状に配置される。ステータコア21の周方向において、隣り合う相間絶縁紙10はオーバーラップしてステータコア21のティース部21aに挿入されている。本実施形態では、後述のように、隣り合う相間絶縁紙10が支え合うように構成されている。
【0020】
また、U相のコイル22uの内周側に相間絶縁紙10を配置した後、ステータコア21にはV相のコイル22vがU相のコイル22uの内周側に取り付けられる。そして、V相のコイル22vの内周側にも、複数枚の相間絶縁紙10が環状に配置される。その後、ステータコア21にはW相のコイル22wがV相のコイル22vの内周側に取り付けられる。V相のコイル22vとW相のコイル22wの取り付けは、U相のコイル22uと同様であるので重複説明は省略する。以上のようにして、ステータコア21には、U相、V相、W相のコイル22u、22v、22wがそれぞれ取り付けられる。
【0021】
次に、比較例の相間絶縁紙の構成を参照しつつ、ステータ2の組立時に生じる相間絶縁紙の倒れ込みについて説明する。
図6は、比較例の相間絶縁紙10aの構成例を示す図である。比較例の相間絶縁紙10aは、一対の本体部11、11と、一対の脚部12、12を有する。
【0022】
一対の本体部11、11はそれぞれ矩形状であって、図中上下方向に離間して平行に配置されている。一対の本体部11、11は、相間絶縁紙10aがステータコア21に挿入されたときにステータコア21の両端面からそれぞれ突出し、各相のコイルエンド部の絶縁を行う。
【0023】
また、一対の脚部12、12は、本体部11の図中左右端に配置され、図中上下方向に延長されて一対の本体部11、11を連結する。一対の脚部12、12は、相間絶縁紙10aがステータコア21に挿入されたときにステータコア21のスロット21bにいずれも挿入される。
【0024】
図7は、U相のコイル22uと相間絶縁紙10aを取り付けたステータコア21の部分拡大図である。また、
図8は、比較例における相間絶縁紙10aの倒れ込みを説明する模式図である。
【0025】
ステータコア21に挿入された相間絶縁紙10aは、周方向に沿って湾曲した本体部11がスロット21bに挿入された複数の脚部12で支えられている。相間絶縁紙10単体としては、本体部11が径方向外側に向けて凸となるのでステータコア21の径方向外側に本体部11が倒れ込みにくいが、ステータコア21の径方向内側には本体部11が倒れ込みやすい。しかも、隣り合う相間絶縁紙10aはオーバーラップしてステータコア21のティース部21aに挿入されるが、隣り合う相間絶縁紙10aのオーバーラップする部分が相互に干渉する。
【0026】
そのため、このような相間絶縁紙10aの干渉により、
図8に示すように、相間絶縁紙10aの本体部11がステータコア21の径方向内側へ向けて倒れ込むように折れ曲がる事象(相間絶縁紙の倒れ込み)が生じうる。上記の相間絶縁紙10aの倒れ込みが生じると、例えば巻線機でコイルを挿入するときに相間絶縁紙10aの本体部11がコイルのインサータと干渉してコイルの挿入に支障をきたすので好ましくない。また、相間絶縁紙10aが倒れ込んだままコイルが挿入されると、異相間のコイルの絶縁不良につながるおそれもある。
【0027】
図3は、本実施形態における相間絶縁紙10の構成例を示す図である。本実施形態の相間絶縁紙10は、一対の本体部11、11と一対の脚部12、12を有する。本体部11および脚部12の配置や機能は、
図6の比較例と同様である。
【0028】
本実施形態の相間絶縁紙10は、本体部11の図中左右方向(周方向)の各端部に、図中左右方向に延びる切れ目が形成されている。ステータコア21の周方向に相間絶縁紙10を並べて取り付けるときには、
図4(a)、(b)に示すように、切れ目には隣り合う相間絶縁紙10が差し込まれる。
【0029】
例えば、
図4(a)に示すように、一方の相間絶縁紙の右端の切れ目には、他方の相間絶縁紙の左端の切れ目が挿入される。そうすると、
図4(b)に示すように、一方の相間絶縁紙10の右端と他方の相間絶縁紙10の左端とが互いに差し込み合った状態で連結される。これにより、ステータコア21の周方向に相間絶縁紙10をオーバーラップさせて配置したときには、隣り合う相間絶縁紙10が相互に支えあう。
【0030】
したがって、本実施形態では、周方向に隣り合う相間絶縁紙10が相互に支えあうため、相間絶縁紙10の径方向内側への倒れ込みが生じにくくなる。本実施形態によれば、相間絶縁紙10の倒れ込みによってステータコア21へのコイルの挿入が阻害されず、コイルの挿入が容易となるので組立時の作業性が向上する。また、相間絶縁紙10の倒れ込みに起因する異相間の絶縁不良も抑止できる。
【0031】
また、他の端部に関しても、上記と同様にして隣り合う相間絶縁紙10と連結される。ステータ2の組立時には、相間絶縁紙10を互いに順次連結することで、
図1、
図2に示すように、隣り合う相間絶縁紙10が相互に支えあっている状態で、複数の相間絶縁紙10が環状に連結される。
【0032】
相間絶縁紙10が環状に連結されることで、コイルの挿入抵抗に対する相間絶縁紙10の強度が大きくなるので、本実施形態によれば、コイルの挿入抵抗により相間絶縁紙10の位置がずれるおそれも低減する。
【0033】
また、本実施形態では、隣り合う相間絶縁紙10を切れ目に差し込んで連結するので、隣り合う相間絶縁紙10が遊びのある状態でそれぞれ連結されている。例えば、ステータのコイルエンドを結束糸で結束する場合等に、連結部の遊びによって結束時などの変形にも相間絶縁紙10が追従できる。これにより、本実施形態では、相間絶縁紙10を予測の困難なコイルエンド部の3次元形状に比較的容易に対応させることができる。
【0034】
また、本実施形態においてステータ2の組立時にコイルにワニスを含浸させる場合、相間絶縁紙10の端部に切れ目が形成されているため、切れ目の隙間からコイルにワニスを滴下できる。そのため、相間絶縁紙10がワニスの含浸の妨げになることもない。
【0035】
また、本実施形態の相間絶縁紙10の成形は比較的容易であり、しかも隣り合う相間絶縁紙10を支えるために組立時に接着剤や工具などを使う必要もない。したがって、本実施形態によれば、作業性の低下や組み立てコストの上昇を抑制できる。
【0036】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
例えば、上記実施形態では、本体部11の一方の端部に切れ目を1つ形成する構成を説明したが、本体部11の一方の端部に複数の切れ目を形成してもよい。
【0037】
また、相間絶縁紙10における本体部11の連結は、上記実施形態の構成に限定されず、例えば以下の構成を採用することもできる。
例えば、
図5(a)に示すように、一方の本体部11の端部に切れ目13を形成し、これに対向する他方の本体部11の端部には切れ目を形成しないようにしてもよい。この場合も、一方の本体部11の切れ目13に他方の本体部11の端部を差し込むことで、隣り合う相間絶縁紙10を連結させることができる。
【0038】
例えば、
図5(b)に示すように、一方の本体部11には本体部11の高さ方向(図中上下方向)に沿った切れ目からなる穴13aを形成し、これに対向する他方の本体部11の端部には穴13aに挿入可能な寸法の突起部14を形成してもよい。この場合も、一方の本体部11の切れ目の穴13aに他方の本体部11の突起部14を差し込むことで、隣り合う相間絶縁紙10を連結させることができる。
【0039】
例えば、
図5(c)に示すように、一方の本体部11には切れ目からなる穴13bを形成し、これに対向する他方の本体部11の端部には切れ目15を形成してもよい。この場合、穴13bと切れ目15は互いが交差するように傾けて形成し、一方の本体部11の切れ目の穴13bに他方の本体部11の切れ目15を差し込むことで、隣り合う相間絶縁紙10を連結させることができる。
【0040】
また、相間絶縁紙10は、第1の本体部11aおよび第2の本体部11bを脚部12で接続した形状としなくてもよい。例えば、相間絶縁紙を1つの本体部に脚部を設けた形状とし、ステータコア21の両端に上記形状の相間絶縁紙をそれぞれテープ等で取り付けるようにしてもよい。
【0041】
また、上記実施形態では三相交流のモータの構成例を説明したが、本発明の相間絶縁紙10は複相の回転電機のステータにおけるコイルの絶縁に広く適用できる。例えば、本実施形態の相間絶縁紙10を、三相交流の発電機のステータにおけるコイルの絶縁に適用してもよい。また、回転電機は三相交流の場合に限定されず、例えば二相交流や五相交流などの構成であってもよい。
【0042】
加えて、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0043】
1…回転電機、2…ステータ、3…ロータ、10…相間絶縁紙、11…本体部、12…脚部、13…切れ目、21…ステータコア、22u、22v、22w…コイル