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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】塗布具の製造方法及び挿着装置
(51)【国際特許分類】
   B43K 3/00 20060101AFI20231205BHJP
   A45D 34/04 20060101ALN20231205BHJP
【FI】
B43K3/00 X
A45D34/04 515Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020010150
(22)【出願日】2020-01-24
(65)【公開番号】P2021115760
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005511
【氏名又は名称】ぺんてる株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小久保 宗一
【審査官】藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-088492(JP,U)
【文献】特開2009-202321(JP,A)
【文献】特開2019-010672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00- 8/24
A45D 34/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布具の製造方法であって、
環状弾性体を径方向外側から複数個所で押圧して変形させるステップと、
前記環状弾性体を変形させた状態で、前記環状弾性体を軸筒内部に挿入するステップと、
前記軸筒の凹部に前記環状弾性体の一部を嵌合させるステップと、を備え
前記変形させるステップでは、複数の押圧部材で前記環状弾性体を前記径方向外側から押圧し、
前記挿入するステップでは、前記変形させるステップで用いた前記複数の押圧部材を前記環状弾性体とともに前記軸筒の内部に挿入する
塗布具の製造方法。
【請求項2】
前記複数の押圧部材は、3以上の押圧部材であり、
前記変形させるステップでは、前記3以上の押圧部材で前記環状弾性体を前記径方向外側から押圧し、前記3以上の前記押圧部材間において前記環状弾性体が放射状に突出するように前記環状弾性体を変形させる
請求項に記載の塗布具の製造方法。
【請求項3】
前記嵌合させるステップでは、前記軸筒の内部に前記環状弾性体及び前記複数の押圧部材を挿入した状態で、前記押圧部材を径方向外側に移動させて前記環状弾性体を前記軸筒の前記凹部に嵌合させる
請求項又はに記載の塗布具の製造方法。
【請求項4】
前記変形させるステップでは、周方向で均等ピッチとなる3点以上の複数個所で前記環状弾性体を前記径方向外側から径方向内側に向かって実質的な等距離で押圧する
請求項乃至の何れか一項に記載の塗布具の製造方法。
【請求項5】
前記変形させるステップでは、前記複数の押圧部材で前記環状弾性体を径方向外側から径方向内側に向かって実質的な等距離で押圧して前記環状弾性体の押圧状態を保持する
請求項乃至の何れか一項に記載の塗布具の製造方法。
【請求項6】
前記環状弾性体は、複数の環状体凹部及び複数の凸部が周方向に交互に並んだ外形状を有し、
前記変形させるステップでは、前記押圧部材は、前記環状体凹部の位置を径方向内側に押圧する
請求項乃至の何れか一項に記載の塗布具の製造方法。
【請求項7】
前記軸筒の凹部は、周方向に並んだ複数の開口を含み、
前記軸筒の内部に前記環状弾性体及び前記複数の押圧部材を挿入した状態で、隣り合う前記開口の間の周方向位置に複数の前記押圧部材のそれぞれが存在するように、前記環状弾性体に対して前記軸筒の位置合わせを行うステップ、
をさらに備える
請求項に記載の塗布具の製造方法。
【請求項8】
環状弾性体の軸筒への挿着装置であって、
環状弾性体を径方向外側から複数個所で押圧するための複数の押圧部材をそれぞれ含み、径方向に移動可能な複数の可動部を備え、
少なくとも一つの前記可動部は、前記押圧部材で変形した状態の前記環状弾性体の外側に前記軸筒を挿通させたときに前記軸筒を下方から支持する支持面を有する
挿着装置。
【請求項9】
回転運動を前記可動部の前記径方向への移動のための縮拡径運動に変換するためのカム、
をさらに備える
請求項に記載の挿着装置。
【請求項10】
前記環状弾性体の前記軸筒に対する軸方向位置を合わせるための位置決め板、
をさらに備える
請求項又はに記載の挿着装置。
【請求項11】
前記位置決め板は、何れかの前記可動部とともに前記径方向に移動するように構成された
請求項10に記載の挿着装置。
【請求項12】
前記複数の可動部は、周方向に均等ピッチで配置された3以上の可動部である
請求項乃至11の何れか一項に記載の挿着装置。
【請求項13】
前記複数の可動部を前記径方向外側に移動するように付勢する付勢部材、
をさらに備え、
前記付勢部材は、周方向で隣り合う2つの前記可動部の間に配置されている
請求項乃至12の何れか一項に記載の挿着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗布具の製造方法及び挿着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば塗布具などのように、軸筒の内部において環状弾性体を保持した部材が知られている。このような部材において、環状弾性体を軸筒の内部に取り付けるためには、環状弾性体を軸筒の内周面に当接させることで環状弾性体の少なくとも一部を弾性変形させて、環状弾性体を軸筒の内部に強制的に挿入する場合がある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-47524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば特許文献1に記載の塗布具のように、環状弾性体を軸筒の内周面に当接させることで環状弾性体の少なくとも一部を弾性変形させて、環状弾性体を軸筒の内部に強制的に挿入すると、環状弾性体と軸筒の内周面とが過剰に擦れて環状弾性体が損傷するおそれがある。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも一実施形態は、環状弾性体の損傷を抑制しつつ、軸筒の内部に環状弾性体を容易に挿着できる塗布具の製造方法及び挿着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係る塗布具の製造方法は、
塗布具の製造方法であって、
環状弾性体を径方向外側から複数個所で押圧して変形させるステップと、
前記環状弾性体を変形させた状態で、前記環状弾性体を軸筒内部に挿入するステップと、
前記軸筒の凹部に前記環状弾性体の一部を嵌合させるステップと、を備える。
【0007】
上記(1)の方法によれば、環状弾性体を径方向外側から複数個所で押圧して変形させ、環状弾性体を変形させた状態で、環状弾性体を軸筒内部に挿入することで、環状弾性体の軸筒への挿着が容易となる。これにより、塗布具の製造における効率が向上する。また、環状弾性体を径方向外側から複数個所で押圧して変形させ、環状弾性体を変形させた状態で、環状弾性体を軸筒内部に挿入することで、環状弾性体と軸筒の内周面との擦れが抑制されるので、環状弾性体の損傷を抑制できる。
【0008】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、
前記変形させるステップでは、複数の押圧部材で前記環状弾性体を前記径方向外側から押圧し、
前記挿入するステップでは、前記変形させるステップで用いた前記複数の押圧部材を前記環状弾性体とともに前記軸筒の内部に挿入する。
【0009】
上記(2)の方法によれば、変形させるステップで用いた複数の押圧部材を環状弾性体とともに軸筒の内部に挿入することで、変形させた環状弾性体が弾性力で変形前の形状に復元することを抑制して環状弾性体を変形させた状態を維持したまま軸筒の内部に挿入できる。これにより、環状弾性体の軸筒への挿着が容易となるとともに、環状弾性体の損傷を抑制できる。
【0010】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)の方法において、
前記複数の押圧部材は、3以上の押圧部材であり、
前記変形させるステップでは、前記3以上の押圧部材で前記環状弾性体を前記径方向外側から押圧し、前記3以上の前記押圧部材間において前記環状弾性体が放射状に突出するように前記環状弾性体を変形させる。
【0011】
上記(3)の方法によれば、3以上の押圧部材で径方向外側から押圧することで3以上の押圧部材間において環状弾性体が放射状に突出するように環状弾性体を変形させることで、押圧部材間から突出した突出部に対して径方向外側から接する仮想的な外接円の径を変形前の環状弾性体の外径よりも小さくすることができる。したがって、環状弾性体の軸筒への挿着が容易となるとともに、環状弾性体の損傷を抑制できる。
【0012】
(4)幾つかの実施形態では、上記(2)又は(3)の方法において、前記嵌合させるステップでは、前記軸筒の内部に前記環状弾性体及び前記複数の押圧部材を挿入した状態で、前記押圧部材を径方向外側に移動させて前記環状弾性体を前記軸筒の前記凹部に嵌合させる。
【0013】
上記(4)の方法によれば、押圧部材を径方向外側に移動させることで、軸筒と環状弾性体との軸方向の位置関係を所望の位置関係に保ちながら環状弾性体を軸筒の凹部に嵌合させることができる。
【0014】
(5)幾つかの実施形態では、上記(2)乃至(4)の何れかの方法において、前記変形させるステップでは、周方向で均等ピッチとなる3点以上の複数個所で前記環状弾性体を前記径方向外側から径方向内側(中心)に向かって実質的な等距離で押圧(変形)する。
【0015】
上記(5)の方法によれば、周方向で均等ピッチとなる3点以上の複数個所で環状弾性体が径方向内側(中心)に向かって実質的な等距離で押圧(変形)するので、押圧箇所間において環状弾性体が径方向外側に突出する突出部において、突出部毎の径方向外側への突出量のばらつきが少なくなる。これにより、該ばらつきが多い場合と比べて、突出部に対して径方向外側から接する外接円の径を小さくすることができる。したがって、環状弾性体の軸筒への挿着が容易となるとともに、環状弾性体の損傷を抑制できる。
また、上記(5)の方法によれば、周方向で均等ピッチとなる3点以上の複数個所で環状弾性体を径方向外側から径方向内側(中心)に向かって実質的な等距離で押圧(変形)することで、環状弾性体のセンタリングが容易となる。
【0016】
(6)幾つかの実施形態では、上記(2)乃至(5)の何れかの方法において、前記変形させるステップでは、前記複数の押圧部材で前記環状弾性体を径方向外側から径方向内側(中心)に向かって実質的な等距離で押圧(変形)して前記環状弾性体の押圧(変形)状態を保持する。
【0017】
上記(6)の方法によれば、挿入するステップにおいて環状弾性体を軸筒内部に挿入したときに、軸筒と環状弾性体との軸方向の位置関係を所望の位置関係に保ち易くなる。
【0018】
(7)幾つかの実施形態では、上記(2)乃至(6)の何れかの方法において、
前記環状弾性体は、複数の環状体凹部及び複数の凸部が周方向に交互に並んだ外形状を有し、
前記変形させるステップでは、前記押圧部材は、前記環状体凹部の位置を径方向内側に押圧する。
【0019】
上記(7)の方法によれば、押圧部材が環状体凹部の位置を径方向内側に押圧するので、押圧部材が環状弾性体を径方向内側に押圧する過程で押圧部材と環状弾性体との相対位置が変化し難く、安定的に環状弾性体を変形できる。すなわち、多数の塗布具を製造する過程で、変形させるステップを実施する回毎の変形後の環状弾性体の形状のばらつきを抑制できる。これにより、挿入するステップを安定して実施できる。よって、環状弾性体の軸筒への挿着が毎回容易となるとともに、環状弾性体の損傷を抑制できる。
【0020】
(8)幾つかの実施形態では、上記(7)の方法において、
前記軸筒の凹部は、周方向に並んだ複数の開口を含み、
前記軸筒の内部に前記環状弾性体及び前記複数の押圧部材を挿入した状態で、隣り合う前記開口の間の周方向位置に複数の前記押圧部材のそれぞれが存在するように、前記環状弾性体に対して前記軸筒の位置合わせを行うステップ、
をさらに備える。
【0021】
上記(8)の方法によれば、環状弾性体と軸筒との上記位置合わせの後、軸筒の内部に環状弾性体及び複数の押圧部材を挿入した状態で、押圧部材を径方向外側に移動させたときに、環状弾性体の複数の凸部と軸筒の複数の開口との位置が合い易くなる。そのため、環状弾性体の複数の凸部を軸筒の複数の開口に嵌合させる場合には、環状弾性体の複数の凸部を軸筒の複数の開口に嵌合させ易くなる。
【0022】
(9)本開示の少なくとも一実施形態に係る挿着装置は、
環状弾性体の軸筒への挿着装置であって、
環状弾性体を径方向外側から複数個所で押圧するための複数の押圧部材をそれぞれ含み、径方向に移動可能な複数の可動部を備え、
少なくとも一つの前記可動部は、前記押圧部材で変形した状態の前記環状弾性体の外側に前記軸筒を挿通させたときに前記軸筒を下方から支持する支持面を有する。
【0023】
上記(9)の構成によれば、変形した状態の環状弾性体の外側に軸筒を挿通させたときに軸筒を下方から支持面で支持できるので、軸筒と環状弾性体との軸方向の位置関係を所望の位置関係に設定できる。
【0024】
(10)幾つかの実施形態では、上記(9)の構成において、回転運動を前記可動部の前記径方向への移動のための縮拡径運動に変換するためのカムをさらに備える。
【0025】
上記(10)の構成によれば、一つの回転運動で複数の可動部を連動させて縮拡径できる。これにより、複数の可動部同士で径方向への移動を同期させ易くなる。
【0026】
(11)幾つかの実施形態では、上記(9)又は(10)の構成において、環状弾性体の前記軸筒に対する軸方向位置を合わせるための位置決め板、をさらに備える。
【0027】
上記(11)の構成によれば、軸筒と環状弾性体との軸方向の位置関係を所望の位置関係に設定できる。
【0028】
(12)幾つかの実施形態では、上記(11)の構成において、前記位置決め板は、何れかの前記可動部とともに前記径方向に移動するように構成されている。
【0029】
仮に、位置決め板が可動部とともに径方向に移動するように構成されていない場合に、位置決め板が軸筒と干渉して支持面で軸筒を下方から支持できなくなるような不都合が生じる場合には、上記(11)の構成によって、このような不都合が生じることを回避できる。
【0030】
(13)幾つかの実施形態では、上記(9)乃至(12)の何れかの構成において、前記複数の可動部は、周方向に均等ピッチで配置された3以上の可動部である。
【0031】
上記(13)の構成によれば、周方向で均等ピッチとなる3点以上の複数個所で環状弾性体を径方向内側に向かって変形させることができるので、押圧箇所間において環状弾性体が径方向外側に突出する突出部において、突出部毎の径方向外側への突出量のばらつきが少なくなる。これにより、該ばらつきが多い場合と比べて、突出部に対して径方向外側から接する外接円の径を小さくすることができる。したがって、環状弾性体の軸筒への挿着が容易となるとともに、環状弾性体の損傷を抑制できる。
また、上記(13)の構成によれば、周方向で均等ピッチとなる3点以上の複数個所で環状弾性体を径方向外側から押圧できるので、環状弾性体のセンタリングが容易となる。
【0032】
(14)幾つかの実施形態では、上記(9)乃至(13)の何れかの構成において、
前記複数の可動部を前記径方向外側に移動するように付勢する付勢部材、
をさらに備え、
前記付勢部材は、周方向で隣り合う2つの前記可動部の間に配置されている。
【0033】
上記(14)の構成によれば、環状弾性体を径方向外側から押圧部材で押圧した後に、付勢部材の付勢力によって可動部及び押圧部材を径方向外側へ移動できる。
【発明の効果】
【0034】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、軸筒の内部に環状弾性体を容易に挿入できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】一実施形態に係る挿着装置の斜視図である。
図2】一実施形態に係る挿着装置において位置決め板を取り外した状態を示す斜視図である。
図3】一実施形態に係る挿着装置の構成を説明するための模式的な断面図である。
図4】一実施形態に係る挿着装置において位置決め板を取り外した状態を示す平面図である。
図5】一実施形態に係る挿着装置において位置決め板を取り外した状態を示す平面図である。
図6】一実施形態に係る把持部の斜視図である。
図7】一実施形態に係る軸筒の斜視図である。
図8】一実施形態に係る環状弾性体の斜視図である。
図9】一実施形態に係る塗布具の製造方法における処理手順を示したフローチャートである。
図10】第1位置にある3つの押圧部材の間に環状弾性体を配置した状態を示す挿着装置の斜視図である。
図11図1における3つの押圧部材を上方から見た断面図である。
図12図10における3つの押圧部材を上方から見た断面図である。
図13図10における環状弾性体の下端近傍を拡大した図である。
図14】3つの押圧部材で環状弾性体を径方向外側から押圧して変形させた後の第2位置にある挿着装置の斜視図である。
図15図14における3つの押圧部材の近傍を上方から見た断面図である。
図16図14における環状弾性体の下端近傍を拡大した図である。
図17】軸筒配置ステップS5において、環状弾性体を軸筒の内部に挿入させた後の挿着装置の斜視図である。
図18図17における軸筒の近傍を上方から見た断面図である。
図19】軸筒と環状弾性体とについての把持部における軸方向位置について説明するための断面図である。
図20】嵌合ステップS7の実施後の軸筒の近傍を上方から見た断面図である。
図21】把持部取り外しステップS9において、把持部を挿着装置から取り外した後の挿着装置及び把持部の斜視図である。
図22】周方向に沿った凸部の配置数、及び、押圧部材の数のバリエーションについて例示した図である。
図23】周方向に沿った凸部の配置数、及び、押圧部材の数のバリエーションについて例示した図である。
図24】周方向に沿った凸部の配置数、及び、押圧部材の数のバリエーションについて例示した図である。
図25】周方向に沿った凸部の配置数、及び、押圧部材の数のバリエーションについて例示した図である。
図26】周方向に沿った凸部の配置数、及び、押圧部材の数のバリエーションについて例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0037】
(挿着装置1の全体構成)
図1は、一実施形態に係る挿着装置の斜視図である。
図2は、説明の便宜上、一実施形態に係る挿着装置において後述する位置決め板を取り外した状態を示す斜視図である。
図3は、一実施形態に係る挿着装置の構成を説明するための模式的な断面図であり、一実施形態に係る挿着装置の要部を模式的に示している。なお、図3では、挿着装置1の構成を分かりやすく説明するため、細部の形状を略する等、図1及び図2に示した内容とは異なる場合があることに留意されたい。
【0038】
一実施形態に係る挿着装置1は、塗布具における軸筒40の内部に環状弾性体60を挿着するための装置である。
以下の説明では、軸筒40が例えば筆記具における先金であり、環状弾性体60が例えば握りゴムである筆記具の把持部10において、軸筒40の内部に環状弾性体60を挿着する場合を例に挙げて説明する。把持部10については、後で詳述する。
【0039】
一実施形態に係る挿着装置1は、ベースプレート8と、支柱7と、上部プレート6と、回転部5と、可動部3とを備えている。
【0040】
(支柱7)
一実施形態に係る挿着装置1では、支柱7は、上下方向に延在する柱状の部材であり、一実施形態では、断面が円形である軸形状を有する。支柱7は、ベースプレート8に固定されて軸線(中心軸)AXが上下方向に延在するようにベースプレート8上に立設されている。
なお、以下の説明では、軸線AXを中心とする径方向を単に径方向と称することもある。また、以下の説明では、軸線AXを中心とする周方向を単に周方向と称することもある。
【0041】
(ベースプレート8)
一実施形態に係る挿着装置1では、ベースプレート8には、後述する回転部5の回動範囲を規制するための規制部85が取り付けられている。規制部85は、挿着装置1を上方から見たときに、回転部5の時計方向への回動範囲を規制するための第1規制部85aと、回転部5の反時計方向への回動範囲を規制するための第2規制部85bとを含んでいる。ベースプレート8の下面には、滑り止めのためのゴム脚92が取り付けられているとよい。
【0042】
(上部プレート6)
支柱7の上部には、上部プレート6が固定されている。一実施形態に係る挿着装置1では、上部プレート6は、例えば円盤形状を有する板状の部材であり、円盤形状の一方の面である上面が上方を向き、他方の面である下面が下方を向いてベースプレート8の上面と間隔を空けて対向するように配置されている。
【0043】
(回転部5)
一実施形態に係る挿着装置1では、回転部5は、例えば円柱形状を有する部材であり、円柱の中心軸に沿って延在する貫通孔51に支柱7が挿入されていて、該中心軸が支柱7の軸線AXと同軸となるように配置されている。回転部5は、例えば軸受91を介して支柱7に対して軸線AXを中心として図3における矢印aで示すように回転可能に支持されている。
【0044】
一実施形態に係る挿着装置1では、回転部5には、軸線AXを中心として回転部5を回動させるためのハンドル93が取り付けられている。回転部5には、例えば下部に突出部55が形成されている。突出部55は、回転部5を回転させたときに突出部55において周方向を向いた側面が規制部85と当接するように構成されている。回転部5の回転は、突出部55が規制部85と当接することで規制される。
【0045】
(可動部3)
一実施形態に係る挿着装置1では、上部プレート6の上面には、複数の可動部3が設けられている。一実施形態に係る挿着装置1では、軸線AXを中心として放射状に3つの可動部3が配置されている。一実施形態に係る挿着装置1では、3つの可動部3のそれぞれは、可動部本体31と、押圧部材33と、カムフォロア35と、支持面37を有する。一実施形態に係る挿着装置1では、3つの可動部3は、周方向で均等ピッチとなるように120度毎に配置されている。
【0046】
一実施形態に係る挿着装置1では、可動部本体31のそれぞれは、直動ガイド95を介して上部プレート6に対して軸線AXを中心とする径方向に移動可能に取り付けられている。直動ガイド95は、レール部とスライダ部とを有する案内装置であり、レール部とスライダ部とが相対的に直線運動可能に形成されている。これにより、可動部本体31のそれぞれは、図3における矢印bで示すように径方向に移動可能となっている。
可動部本体31(可動部3、押圧部材33)が径方向の最も外側に位置しているときの可動部本体31(可動部3、押圧部材33)の径方向位置を第1位置と称する。また、可動部本体31(可動部3、押圧部材33)が径方向の最も内側に位置しているときの可動部本体31(可動部3、押圧部材33)の径方向位置を第2位置と称する。なお、図1では、3つの可動部本体31(可動部3、押圧部材33)が第1位置にある状態を示している。
【0047】
一実施形態に係る挿着装置1では、押圧部材33のそれぞれは、可動部本体31の径方向内側の先端部38において上下方向に延在するように配置されたピン状の部材である。押圧部材33は、後述するように、環状弾性体60を径方向外側から押圧するための部材である。
一実施形態に係る挿着装置1では、カムフォロア35のそれぞれは、後述する板カム21のそれぞれのカム面22と当接するカムフォロアであり、可動部本体31の径方向外側の基端部39側において可動部本体31に取り付けられている。カムフォロア35のそれぞれは、図3における矢印cで示すように可動部本体31に対して回動可能である。
一実施形態に係る挿着装置1では、支持面37は、後述するように、軸筒40を下方から支持する支持面であり、押圧部材33近傍における可動部本体31の上面の一部である。
【0048】
以下の説明では、3つの可動部3のうち、後述する位置決め板11が取り付けられている可動部3を第1可動部3Aとも称する。また、3つの可動部3のうち、位置決め板11が取り付けられている可動部3を第1可動部3Aから時計回りの順に第2可動部3B、第3可動部3Cとも称する。
同様に、以下の説明では、3つの可動部本体31のうち、第1可動部3Aにおける可動部本体31を第1可動部本体31Aとも称し、第2可動部3Bにおける可動部本体31を第2可動部本体31Bとも称し、第3可動部3Cにおける可動部本体31を第3可動部本体31Cとも称する。
【0049】
図4は、説明の便宜上、一実施形態に係る挿着装置において後述する位置決め板を取り外した状態を示す平面図であり、可動部が第1位置に位置するときの状態を示している。
図5は、説明の便宜上、一実施形態に係る挿着装置において後述する位置決め板を取り外した状態を示す平面図であり、可動部が第2位置に位置するときの状態を示している。
以下、図4及び図5も参照しながら可動部本体31について説明する。
【0050】
一実施形態に係る挿着装置1では、可動部本体31のそれぞれの先端部38は、上方から見たときに径方向内側に向かうにつれて先細るように形成されている。すなわち、先端部38のそれぞれは、周方向を向いた2つの先端部側面310を有する。2つの先端部側面310のうち、上方から見たときに反時計方向を向いた先端部側面310を第1先端部側面311と称し、時計方向を向いた先端部側面310を第2先端部側面312と称する。
【0051】
一実施形態に係る挿着装置1では、可動部本体31のそれぞれにおいて先端部側面310は、周方向で隣り合う可動部本体31の先端部側面310と対向するように構成されている。
具体的には、第1可動部本体31Aの第1先端部側面311は、第3可動部本体31Cの第2先端部側面312と対向し、第1可動部本体31Aの第2先端部側面312は、第2可動部本体31Bの第1先端部側面311と対向する。
同様に、第2可動部本体31Bの第2先端部側面312は、第3可動部本体31Cの第1先端部側面311と対向する。
【0052】
一実施形態に係る挿着装置1では、可動部本体31が第1位置から第2位置に移動するにつれて、可動部本体31のそれぞれにおいて先端部側面310は、周方向で隣り合う可動部本体31の先端部側面310と接近するように構成されている。反対に、一実施形態に係る挿着装置1では、可動部本体31が第2位置から第1位置に移動するにつれて、可動部本体31のそれぞれにおいて先端部側面310は、周方向で隣り合う可動部本体31の先端部側面310と離間するように構成されている。
【0053】
一実施形態に係る挿着装置1では、周方向で隣り合う2つの可動部3の間には、より具体的には、周方向で対向する第1先端部側面311と第2先端部側面312との間には、付勢部材としての戻りバネ81が配置されている。戻りバネ81のそれぞれは、3つの可動部本体31(可動部3)を径方向外側に移動するように付勢する付勢部材であり、例えばコイルバネである。戻りバネ81のそれぞれは、周方向で対向する第1先端部側面311と第2先端部側面312に形成された不図示の座グリ穴の底部に当接するように該座グリ穴に挿置することによって挟持されている。
これにより、後述するように、環状弾性体60を径方向外側から押圧部材33で押圧した後に、戻りバネ81の付勢力によって可動部3及び押圧部材33を径方向外側へ移動できる。
【0054】
なお、図2図4、及び、以下において説明する各図も含め、可動部本体31が第1位置に位置している図では、図の煩雑化を避けるために戻りバネ81の一方側の記載を省略する。但し、上述したように、戻りバネ81のそれぞれは、周方向で対向する第1先端部側面311と第2先端部側面312に形成された不図示の座グリ穴の底部に当接するように該座グリ穴に挿置することによって挟持されているので、可動部本体31が第2位置(図5図14を参照)に位置している状態では、戻りバネ81は、前述の不図示の座グリ穴の中に収納される。又、3つの可動部本体31(可動部3)は、それぞれが同期して径方向に移動するので、戻りバネ81のそれぞれは、周方向で対向する第1先端部側面311と第2先端部側面312とに形成された不図示の座グリ穴によって、常に同心でズレが生じない為、戻りバネ81には縦方向(バネの伸縮方向)にしか力がかからない。
仮に、可動部本体31のそれぞれの移動が同期していないと可動部本体31同士の主に径方向の位置が異なってしまうため、座グリ穴同士の中心軸がズレてしまい、この時、戻りバネ81に対して横方向の力も加わる。そのため、可動部本体31同士の径方向の位置のズレ量が大きくなると、戻りバネ81に対する余計な負荷が増えてしまい、ひいては戻りバネ81が破損する恐れがあるが、環状弾性体60の変形後の形状等、環状弾性体60を軸筒40の内部に挿入するのに支障がない範囲の可動部本体31同士の同期のズレは許容される。
【0055】
一実施形態に係る挿着装置1では、3つの押圧部材33のそれぞれは、後述するように、環状弾性体60を径方向外側から押圧して変形させるための部材である。また、後述する理由により、3つの押圧部材33のそれぞれは、外径をあまり大きくすることができない。そのため、3つの押圧部材33のそれぞれは、曲げ剛性を確保するために金属材料、特に金属材料中でも曲げ剛性が高い超硬合金等で作成されているとよい。
【0056】
また、一実施形態に係る挿着装置1では、3つの押圧部材33のそれぞれは、軸線AXと直交する断面が円形状を有しているが、円形状以外の楕円形状であってもよく、一部に直線状の辺を有する断面形状であってもよい。但し、3つの押圧部材33のそれぞれにおいて、環状弾性体60と接する部分は、環状弾性体60の損傷防止の観点から、軸線AXに沿って見たときに滑らかな面とされているとよい。また、3つの押圧部材33のそれぞれにおいて、環状弾性体60の挿着時に軸方向位置が軸筒40の基端45(図19参照)よりも下方となる部位では、基端45よりも上方の部位と異なる断面形状を有していてもよい。
【0057】
(位置決め板11)
一実施形態に係る挿着装置1では、3つの可動部3のうちの一つの可動部本体31に位置決め板11が取り付けられている。すなわち、位置決め板11は、可動部3とともに径方向に移動するように構成されている。
【0058】
一実施形態に係る挿着装置1では、位置決め板11は、上部プレート6の上面の延在方向と同方向に延在する板状の部材であり、中央に開口12が形成されている。開口12には、押圧部材33が挿通されている。開口12を形成する開口周縁部13は、後述する図13に示すように、環状弾性体60の下端65の一部を下方から支持可能に構成されている。開口周縁部13のうち、環状弾性体60の下端65の一部を下方から支持可能な部位を下端支持部14と称する。位置決め板11については後でさらに詳述する。
【0059】
(板カム21)
一実施形態に係る挿着装置1では、板カム21は、可動部3を径方向内側に移動させるためのカムであり、3つの可動部3のそれぞれに対して1つずつ設けられている。3つの板カム21のそれぞれは、カムブラケット25を介して回転部5に固定されている。一実施形態に係る挿着装置1では、板カム21は、軸線AXと中心とする回転部5の回転運動を可動部3の径方向への移動のための縮拡径運動に変換するためのカムである。
一実施形態に係る挿着装置1では、板カム21のそれぞれは、カムフォロア35のそれぞれを押圧するカム面22を有する。カム面22のそれぞれは、周方向に沿って反時計方向に向かうにつれて径方向内側に位置するように形成されている。
一実施形態に係る挿着装置1では、板カム21のそれぞれは、回転部5の回動位置に関わらず3つの押圧部材33についての軸線AXからのそれぞれの距離が等しくなるように構成されている。すなわち、一実施形態に係る挿着装置1では、第1可動部3Aに配置された押圧部材33と軸線AXとの距離、第2可動部3bに配置された押圧部材33と軸線AXとの距離、及び第3可動部3Cに配置された押圧部材33と軸線AXとの距離は、回転部5の回動位置に関わらず等しくなるように構成されている。
【0060】
(挿着装置1の動作について)
上述するように構成された一実施形態に係る挿着装置1の動作について説明する。
挿着装置1を操作する作業員がハンドル93に力を加えていない状態では、図4に示すように、可動部本体31(可動部3)は、径方向の最も外側の位置である第1位置に位置している。すなわち、ハンドル93に力が加えられていない状態では、戻りバネ81の付勢力によって3つの可動部本体31が径方向外側に移動し、3つのカムフォロア35のそれぞれがカム面22のそれぞれを径方向外側に押圧する。これにより、挿着装置1を上方から見たときに板カム21及び板カム21が固定されている回転部5が軸線AXを中心として反時計方向に回動する。回転部5の反時計方向への回動は、突出部55が第2規制部85bと当接することで規制される。
【0061】
この状態から、作業員がハンドル93を操作して、回転部5を軸線AXを中心として時計方向に回動させると、図5に示すように、可動部本体31(可動部3)は、第1位置から径方向の最も内側の位置である第2位置に向かって移動する。すなわち、作業員がハンドル93を操作して、回転部5を軸線AXを中心として時計方向に回動させると、回転部5に固定された3つの板カム21も時計方向に回動して、カム面22でカムフォロア35を径方向内側に向かってそれぞれ移動させる。これにより、戻りバネ81の付勢力に抗して可動部本体31が径方向内側に向かって移動する。
【0062】
(把持部10について)
図6は、一実施形態に係る把持部の斜視図である。図7は、一実施形態に係る軸筒の斜視図である。図8は、一実施形態に係る環状弾性体の斜視図である。以下、図6乃至図8を参照して一実施形態に係る把持部10について説明する。
一実施形態に係る把持部10は、上述したように筆記具における把持部である。より具体的には、一実施形態に係る把持部10は、シャープペンシルの先端側に取り付けられる口金と軸(本体部分)の一部とが一体となった部材である。一実施形態に係る把持部10は、軸筒40と、軸筒40の内部に挿着された環状弾性体60とを有する。
【0063】
(軸筒40について)
一実施形態に係る軸筒40は、円筒形状を有する筒部41と、筒部41の一方端側(先端側)に形成された口金部43と、口金部43の先端から突出するガイドパイプ44とを有する。筒部41には、複数の開口(軸筒開口)42が形成されている。複数の開口42は、筒部41の軸方向及び周方向に間隔を空けて配置されている。口金部43の内部には、不図示の筆記具の本体に設けられている芯チャックが不図示の芯を開放したときに芯の落下を防止するための不図示の芯戻り止めが挿着されている。
筒部41は、例えば金属や硬質の樹脂などによって形成されている。
【0064】
一実施形態に係る軸筒40では、開口42は、筒部41の軸方向に沿って複数段にわたって形成されている。図6及び図7に示した例では、開口42は、筒部41の軸方向に沿って例えば7段にわたって形成されている。
また、一実施形態に係る軸筒40では、開口42は、周方向に均等ピッチとなるように複数箇所に形成されている。図6及び図7に示した例では、開口42は、周方向に均等ピッチとなるように6箇所に形成されている。すなわち、一実施形態に係る軸筒40では、筒部41には42カ所の開口42が形成されている。
一実施形態に係る軸筒40では、複数の開口42のそれぞれは矩形形状を有しているが、三角形状や五角形状等の他の多角形状であってもよく、円形状や楕円形状等、多角形状以外の他の形状であってもよく、これらを適宜組み合わせた形状であってもよい。
【0065】
(環状弾性体60について)
一実施形態に係る環状弾性体60は、ゴムなどの弾性体によって形成された部材であり、円筒形状を有する環状体である。環状弾性体60は、筆記具の把持部10において、軸筒40の内部に配置されて、軸筒40の内周面40aに環状弾性体60の外周面60aが当接するように形成されている。また、環状弾性体60は、外周面60aから環状弾性体60の径方向外側に突出する複数の凸部(環状体凸部)61を有する。複数の凸部61は、環状弾性体60の軸方向及び周方向に間隔を空けて配置されている。
複数の凸部61のそれぞれは、環状弾性体60が軸筒40の内部に挿着されたときに軸筒40の複数の開口42のそれぞれに挿通されて軸筒40の外周へ突出するように構成されている。一実施形態に係る環状弾性体60では、凸部61は、開口42と同数設けられている。図6及び図8に示した例では、凸部61は、開口42と同じ42カ所に形成されている。なお、環状弾性体60の外周面60aにおいて凸部61が形成されていない領域のことを、凹部(環状体凹部)63とも称する。
一実施形態に係る環状弾性体は、複数の凹部63及び複数の凸部61が周方向に交互に並んだ外形状を有する。
【0066】
上述したように構成された一実施形態に係る把持部10では、ゴムなどの弾性体によって形成された複数の凸部61が軸筒40の開口42から径方向外側に突出しているので、筆記具の使用者が筆記のために把持部10を把持すると、複数の凸部61が使用者の指に接触して、適度な摩擦力を発生させる。
【0067】
(環状弾性体60を軸筒40へ挿着する従来の作業について)
まず、軸筒40へ環状弾性体60を挿着する工程における従来の作業内容について説明する。
一実施形態に係る把持部10において軸筒40へ環状弾性体60を挿着する場合、従来は、例えば作業員が木製や竹製、樹脂製等の細長い棒状の部材を用いて、手作業で環状弾性体60を軸筒40の内部に挿着していた。具体的には、作業員は、例えば先端部が二股に分かれている二股部を有する棒状の部材を用い、環状弾性体60の内周面と外周面とを二股部で挟み込むようにして環状弾性体60を棒状の部材に装着する。そして作業員は、棒状の部材の外周を環状弾性体60で包み込むようにして棒状の部材の外周に環状弾性体60を巻き付ける。そして作業員は、棒状の部材の外周に巻き付けた環状弾性体60を棒状の部材とともに軸筒40の内部に挿入させる。
【0068】
その際、環状弾性体60と軸筒40の内周面40aとの間で摩擦力が発生するため、作業員は、棒状の部材ごと環状弾性体60を捩じりながら軸筒40の内部に挿入させている。また、環状弾性体60を捩じりながら軸筒40の内部に挿入させているが、軸筒40の開口42に環状弾性体60が引っかかってしまうと、環状弾性体60を損傷させるおそれがある。そのため、環状弾性体60を捩じりながら軸筒40の内部に挿入させる作業には熟練を要し、熟練した作業者であっても比較的多くの作業時間を要していた。
【0069】
そして、環状弾性体60を軸筒40の内部に所定の深さまで挿入させた後、複数の凸部61が軸筒40の開口42から径方向外側に突出するように、作業員は、環状弾性体60と軸筒40とを馴染ませるための作業を行う。具体的には、作業員は、棒状の部材のうち二股に分かれていない基端部側を環状弾性体60の内部に挿入して該部材で環状弾性体60を径方向外側に押圧しながら環状弾性体60と軸筒40とを馴染ませつつ、複数の凸部61を軸筒40の開口42から径方向外側に突出させる。熟練した作業者であっても、この作業にも比較的多くの作業時間を要していた。そのため、軸筒40へ環状弾性体60を挿着する工程の作業時間が長くなってしまうため、該工程における作業時間の短縮が望まれていた。
【0070】
(挿着装置1による環状弾性体60の軸筒40へ挿着作業について)
以下、上述した一実施形態に係る挿着装置1を用いた、環状弾性体60の軸筒40へ挿着作業について説明する。
図9は、一実施形態に係る塗布具の製造方法、より具体的には、上述した一実施形態に係る挿着装置を用いた把持部の製造方法における処理手順を示したフローチャートである。
一実施形態に係る挿着装置1を用いた把持部10の製造方法は、環状弾性体配置ステップS1と、環状弾性体変形ステップS3と、軸筒配置ステップS5と、嵌合ステップS7と、把持部取り外しステップS9とを有する。
【0071】
(環状弾性体配置ステップS1)
環状弾性体配置ステップS1は、環状弾性体60を挿着装置1に配置するステップである。環状弾性体配置ステップS1では、挿着装置1における3つの押圧部材33の間に環状弾性体60を配置する。具体的には、図1に示すように、3つの可動部3(押圧部材33)が第1位置にある状態で、作業員は、3つの押圧部材33の間に環状弾性体60を上方から挿入する。
図10は、第1位置にある3つの押圧部材の間に環状弾性体を配置した状態を示す挿着装置の斜視図である。
図11は、図1における3つの押圧部材を上方から見た図であり、環状弾性体の配置前の状態を示している。
図12は、図10における3つの押圧部材を上方から見た図であり、環状弾性体の配置後の状態を示している。
なお、図11及び図12では、上下方向に延在する押圧部材33を途中で切断するような高さ位置から3つの押圧部材33の近傍を見た状態を示している。
【0072】
図11に示すように、3つの押圧部材33が第1位置に位置している状態では、3つの押圧部材33は、3つの押圧部材33の間に環状弾性体60を上方から挿入できるように、軸線AXから間隔を空けて配置されている。図10及び図12に示すように、環状弾性体60は、周方向で隣り合う2つの凸部61の間に3つの押圧部材33のそれぞれが位置するような角度位相で3つの押圧部材33の間に配置される。
【0073】
より具体的には、例えば、3つの押圧部材33が第1位置に位置している状態では、上方から見たときに、軸線AXを中心として、3つの押圧部材33のそれぞれの側面に径方向内側から接する仮想的な内接円Dvaの径Da(図11参照)は、凹部63における環状弾性体60の外径D1(図12参照)と略等しいか、外径D1よりも僅かに大きいとよい。なお、環状弾性体60が比較的容易に変形可能であることから、該内接円Dvaの径Daは、上記外径D1よりもわずかに小さくなることも許容される。
また、3つの押圧部材33が第1位置に位置している状態では、該内接円Dvaの径Daは、凸部61の径方向外側の面における環状弾性体60の外径D2(図12参照)よりも小さいとよい。該内接円Dvaの径Daが上記外径D2よりも小さければ、3つの押圧部材33の間に環状弾性体60を上方から挿入する際に、3つの押圧部材33のそれぞれが周方向で隣り合う2つの凸部61の間に位置するように環状弾性体60を配置することが容易となる。
【0074】
図13は、図10における環状弾性体の下端近傍を拡大した図である。なお、説明の便宜上、図13では、可動部本体31等の記載を省略している。
図13に示すように、第1位置にある3つの押圧部材33の間に環状弾性体60を配置すると、環状弾性体60の下端65の一部は、位置決め板11における下端支持部14と当接する。これにより、挿着装置1における環状弾性体60の上下方向位置が規定される。
【0075】
(環状弾性体変形ステップS3)
環状弾性体変形ステップS3は、環状弾性体60を径方向外側から複数個所で押圧して変形させるステップである。具体的には、環状弾性体変形ステップS3では、挿着装置1における3つの押圧部材33で環状弾性体60を径方向外側から押圧して変形させる。
図14は、3つの押圧部材で環状弾性体を径方向外側から押圧して変形させた後の挿着装置の斜視図である。図14では、3つの押圧部材33は、第2位置に位置している。
図15は、図14における3つの押圧部材の近傍を上方から見た図である。なお、図15では、凸部61及び上下方向に延在する押圧部材33を途中で切断するような高さ位置から3つの押圧部材33の近傍を見た状態を示している。
図16は、図14における環状弾性体の下端近傍を拡大した図である。なお、説明の便宜上、図16では、手前側の板カム21等の記載を省略している。
【0076】
環状弾性体変形ステップS3では、環状弾性体配置ステップS1において3つの押圧部材33の間に環状弾性体60を配置した後、作業員は、ハンドル93を操作して、回転部5を軸線AXを中心として時計方向に回動させる。これにより、上述したように、3つの押圧部材33は、3つの可動部本体31とともに、第1位置から第2位置に向かって移動しながら環状弾性体60を径方向外側から押圧して変形させる。
【0077】
環状弾性体変形ステップS3では、3つの押圧部材33は、環状弾性体60の凹部63の位置を径方向内側に押圧する。
このように、押圧部材33が凹部63の位置を径方向内側に押圧することで、押圧部材33が環状弾性体60を径方向内側に押圧する過程で押圧部材33と環状弾性体60との相対位置が変化し難く、安定的に環状弾性体60を変形できる。すなわち、多数の塗布具を製造する過程で、環状弾性体変形ステップS3を実施する回毎の変形後の環状弾性体60の形状のばらつきを抑制できる。これにより、後述する軸筒配置ステップS5を安定して実施できる。よって、環状弾性体60の軸筒40への挿着が毎回容易となるとともに、環状弾性体60の損傷を抑制できる。
【0078】
環状弾性体変形ステップS3では、3つの押圧部材33は、3つの押圧部材33間において環状弾性体60が放射状に突出するように環状弾性体60を変形させる。
一実施形態に係る挿着装置1では、周方向に間隔を空けて配置された6つの凸部61の間に存在する6つの凹部63を、周方向に一つおきに径方向内側に向かって3つの押圧部材33によって押圧する。そのため、3つの押圧部材33によって押圧されていない3か所の凹部63のそれぞれが周方向で隣り合う2つの押圧部材33の間から径方向外側に向かって突出する。以下の説明では、周方向で隣り合う2つの押圧部材33の間から径方向外側に向かって突出している凹部63のことを膨出部67と称する。
【0079】
上述したように環状弾性体60を変形させることで、押圧部材33間から突出した突出部(膨出部67)に対して径方向外側から接する仮想的な外接円Dvbの径Db(図15参照)を変形前の環状弾性体60の外径、すなわち、上記外径D2よりも小さくすることができる。したがって、環状弾性体60の軸筒40への挿着が容易となるとともに、環状弾性体60の損傷を抑制できる。
【0080】
環状弾性体変形ステップS3では、周方向で均等ピッチとなる3個所で環状弾性体60を径方向外側から押圧する。すなわち、一実施形態に係る挿着装置1では、3つの可動部3は、周方向に均等ピッチで配置されている。
したがって、一実施形態に係る挿着装置1によって押圧部材33のそれぞれで環状弾性体60を径方向外側から押圧すると、環状弾性体60は、周方向で均等ピッチとなる3個所で径方向外側から押圧されることとなる。
これにより、周方向で均等ピッチとなる3個所で環状弾性体60が径方向内側に向かって変形するので、押圧箇所間において環状弾性体60が径方向外側に突出する突出部(膨出部67)において、膨出部67毎の径方向外側への突出量のばらつきが少なくなる。これにより、該ばらつきが多い場合と比べて、上述した仮想的な外接円Dvbの径Dbを小さくすることができる。したがって、環状弾性体60の軸筒40への挿着が容易となるとともに、環状弾性体60の損傷を抑制できる。
また、環状弾性体変形ステップS3において、周方向で均等ピッチとなる3個所で環状弾性体60を径方向外側から押圧することで、環状弾性体60のセンタリングが容易となる。
さらに、環状弾性体変形ステップS3において、周方向で均等ピッチとなる3個所で環状弾性体60を径方向外側から押圧することで、変形後の環状弾性体60の外径(例えば上記外接円Dvbの径Db)を上記外径D2よりも小さくすることができる。
【0081】
環状弾性体変形ステップS3では、3つの押圧部材33で環状弾性体60を径方向外側から押圧して環状弾性体60を保持する。すなわち、環状弾性体変形ステップS3では、3つの押圧部材33で環状弾性体60を径方向外側から押圧することで、3つの押圧部材33の側面と環状弾性体60の外周面60aとの摩擦力によって、重力に抗して環状弾性体60を押圧前の軸方向の位置を保ったまま保持する。
【0082】
一実施形態に係る挿着装置1では、環状弾性体変形ステップS3において、第1可動部本体31Aは、第1位置から第2位置に向かって移動する際に、図15における図示上方に移動する。そのため、一実施形態に係る挿着装置1では、環状弾性体変形ステップS3において、位置決め板11の下端支持部14は、図15における矢印dで示すように、軸線AXから離間する方向に移動する。
したがって、環状弾性体変形ステップS3において3つの押圧部材33で環状弾性体60を径方向外側から押圧して変形させる過程で、環状弾性体60の下端65と位置決め板11の下端支持部14とが径方向に沿って離間する。そのため、環状弾性体60は、位置決め板11によって支持されなくなるが、上述したように、3つの押圧部材33で環状弾性体60を押圧前の軸方向の位置を保ったまま保持されるので、落下することはない。すなわち、環状弾性体変形ステップS3では、環状弾性体60は、位置決め板11によって支持されなくなるが、挿着装置1における環状弾性体60の上下方向位置は変わらない。
そのため、後述する軸筒配置ステップS5において環状弾性体60を軸筒40内部に挿入したときに、軸筒40と環状弾性体60との軸方向の位置関係を所望の位置関係に保ち易くなる。
【0083】
また、一実施形態に係る挿着装置1では、上述したように、環状弾性体変形ステップS3において、位置決め板11は、図15における矢印dで示すように、軸線AXから離間する方向に移動する。そのため、下端支持部14の近傍における開口周縁部13aが図15において図示上方を向いた膨出部67と離間する。これにより、後述する軸筒配置ステップS5において、位置決め板11における下端支持部14と軸筒40の基端45とが干渉しなくなり、軸筒40の基端45を可動部本体31における支持面37に当接させることが可能となる。
仮に、位置決め板11が第1可動部本体31Aとともに径方向に移動するように構成されていない場合、後述する軸筒配置ステップS5において、位置決め板11における下端支持部14と軸筒40の基端45とが干渉するおそれがあり、軸筒40の基端45を可動部本体31における支持面37に当接できなくなるおそれがある。
【0084】
(軸筒配置ステップS5)
軸筒配置ステップS5は、環状弾性体を変形させた状態で、前記環状弾性体を軸筒内部に挿入するステップである。
図17は、軸筒配置ステップS5において、環状弾性体を軸筒の内部に挿入させた後の挿着装置の斜視図である。
図18は、図17における軸筒の近傍を上方から見た図である。なお、図18では、凸部61及び上下方向に延在する押圧部材33を途中で切断するような高さ位置から軸筒40の近傍を見た状態を示している。
【0085】
軸筒配置ステップS5では、環状弾性体変形ステップS3において3つの押圧部材33で環状弾性体60を径方向内側に押圧して変形させた状態で、作業員は、軸筒40を環状弾性体60の上方から被せるようにして環状弾性体60を軸筒40の内部に挿入させる。
軸筒配置ステップS5では、環状弾性体変形ステップS3で用いた3つの押圧部材33を環状弾性体60とともに軸筒40の内部に挿入する。
これにより、変形させた環状弾性体60が弾性力で変形前の形状に復元することを抑制して環状弾性体60を変形させた状態を維持したまま軸筒40の内部に挿入できる。これにより、環状弾性体60の軸筒40への挿着が容易となるとともに、環状弾性体60の損傷を抑制できる。
【0086】
軸筒配置ステップS5では、作業員は、環状弾性体60及び3つの押圧部材33が軸筒40に挿入された状態で、隣り合う開口42の間の周方向位置に3つの押圧部材33のそれぞれが存在するように、環状弾性体60に対して軸筒40の位置合わせを行う。
すなわち、軸筒配置ステップS5は、環状弾性体60が軸筒40に挿入された状態で、隣り合う開口42の間の周方向位置に3つの押圧部材33のそれぞれが存在するように、環状弾性体60に対して軸筒40の位置合わせを行うステップである、位置合わせステップS51を含んでいる。
これにより、環状弾性体60と軸筒40との上記位置合わせの後、軸筒40の内部に環状弾性体60及び3つの押圧部材33を挿入した状態で、押圧部材33を径方向外側に移動させたときに、環状弾性体60の複数の凸部61と軸筒40の複数の開口42との位置が合い易くなる。そのため、環状弾性体60の複数の凸部61を軸筒40の複数の開口42に嵌合させる場合には、環状弾性体60の複数の凸部61を軸筒40の複数の開口42に嵌合させ易くなる。
【0087】
位置合わせステップS51では、筒部41のうち、周方向で隣り合う開口42の間の周壁部41aに3つの押圧部材33のそれぞれが存在するように、環状弾性体60に対して軸筒40の位置合わせを行う。なお、位置合わせステップS51における位置合わせとは、環状弾性体60と軸筒40との相対的な周方向の位置合わせのことである。
一実施形態に係る挿着装置1及び把持部10では、上述したように、周方向に間隔を空けて配置された6つの凸部61の間に存在する6つの凹部63を、周方向に一つおきに径方向内側に向かって3つの押圧部材33によって押圧する。そのため、周壁部41aに3つの押圧部材33のそれぞれが存在するように、環状弾性体60に対して軸筒40の位置合わせを行うことで、3つの押圧部材33によって押圧されていない3か所の凹部63に対応する膨出部67も周壁部41aに存在することとなる。逆に言えば、周壁部41aと3つの膨出部67のそれぞれとが径方向で対向するように、環状弾性体60に対して軸筒40の位置合わせを行うことで、周壁部41aと3つの押圧部材33のそれぞれとが径方向で対向することとなる。したがって、位置合わせステップS51では、筒部41のうち、周方向で隣り合う開口42の間の周壁部41aに3つの膨出部67のそれぞれが存在するように、環状弾性体60に対して軸筒40の位置合わせを行うようにしてもよい。
なお、位置合わせステップS51は、軸筒40内に環状弾性体60を挿入させる際に(すなわち軸筒40内に環状弾性体60を挿入させながら)実施してもよく、軸筒40内に環状弾性体60を挿入した後に実施してもよい。
【0088】
軸筒配置ステップS5では、作業員は、可動部本体31の上面の一部である支持面37に軸筒40の基端45が当接するまで軸筒40を下方に移動させる。これにより、支持面37によって軸筒40を支持させる。
一実施形態に係る挿着装置1では、位置決め板11は、軸筒配置ステップS5における軸筒40の挿着時に軸筒40が開口12を貫通するように構成されている。位置決め板11は、例えば上述したように、第1可動部本体31Aとともに径方向に移動することで、軸筒配置ステップS5における軸筒40の挿着時には、軸筒40と干渉しないように構成されている。
【0089】
図19は、軸筒と環状弾性体とについての把持部における軸方向位置について説明するための断面図である。なお、図19では、図19において不図示の口金部43が上方を向き、軸筒40の基端45が下方を向くように把持部10を図示している。
一実施形態に係る挿着装置1及び把持部10では、以下で詳述するように、支持面37に軸筒40の基端45が当接する高さ位置まで軸筒40を下方に移動させると、複数の開口42の高さ位置と、環状弾性体60の高さ位置とが一致するように構成されている。
【0090】
図19に示すように、軸筒40に環状弾性体60を挿着した後の、軸筒40の基端45と環状弾性体60の下端65との把持部10における軸方向の位置の差を△Lとする。なお、軸筒40の基端45は、環状弾性体60の下端65よりも把持部10における軸方向に沿って突出している。
一実施形態に係る挿着装置1では、位置決め板11における下端支持部14の高さ位置と、可動部本体31における支持面37の高さ位置との△Hは、上述した位置の差△Lと等しくなるように構成されている。そのため、位置決め板11における下端支持部14によって環状弾性体60における下端65の高さ位置を規定し、可動部本体31における支持面37によって軸筒40における基端45の高さ位置を規定することによって、複数の開口42の高さ位置と、環状弾性体60の高さ位置とを一致させることができる。
【0091】
(嵌合ステップS7)
嵌合ステップS7は、軸筒40の凹部である開口42に環状弾性体60の一部である凸部61を嵌合させるステップである。
図20は、嵌合ステップS7の実施後の軸筒の近傍を上方から見た図である。なお、図20では、凸部61及び上下方向に延在する押圧部材33を途中で切断するような高さ位置から軸筒40の近傍を見た状態を示している。
【0092】
嵌合ステップS7では、軸筒40の内部に環状弾性体60及び3つの押圧部材33を挿入した状態で、押圧部材を径方向外側に移動させて環状弾性体60の一部である凸部61を軸筒40の凹部である開口42に嵌合させる。
これにより、押圧部材33を径方向外側に移動させることで、軸筒40と環状弾性体60との軸方向の位置関係を所望の位置関係に保ちながら環状弾性体60を軸筒40の開口42に嵌合させることができる。
【0093】
具体的には、嵌合ステップS7では、作業者が、ハンドル93を操作する力を緩めるか、又は完全に開放することで、戻りバネ81の付勢力によって3つの押圧部材33(可動部本体31)が径方向外側に移動し、それに伴い、回転部5が軸線AXを中心として反時計方向に回動する。又、作業者は、ハンドル93を積極的に反時計方向に操作することで、回転部5を回動させても良い。なお、上述したように、3つの押圧部材33は、環状弾性体60とともに軸筒40の内部に挿入されている。そのため、3つの押圧部材33が軸筒40の内周面40aに当接するまでは、3つの押圧部材33は、径方向外側に移動可能である。
【0094】
嵌合ステップS7において、3つの押圧部材33が軸筒40の内周面40aに当接するまで径方向外側に移動する過程で、環状弾性体60の弾性力によって環状弾性体60の形状が復元されて、凸部61の一部が開口42に侵入する。その際、凸部61の側面のうち、周方向に隣り合っている膨出部67の方を向いた凸部側面61aは、押圧部材33が径方向外側に移動するにつれて、開口42を形成する壁部のうち、凸部61が開口42に嵌合されると凸部側面61aと周方向において対向することとなる開口壁部46と接近する(図18及び図20参照)。
そのため、上記位置合わせステップS51において軸線AXを中心とする軸筒40の角度位置が多少ずれていても、凸部側面61aが移動しながら開口壁部46を周方向に押圧して軸筒40の角度位置を修正する。これにより、位置合わせステップS51における軸筒40の角度位置のずれが許容されるので、位置合わせステップS51における軸筒40の角度位置の合わせ込みの精度を緩和でき、作業性が向上する。
このように、嵌合ステップS7では、軸筒40の内部に環状弾性体60及び3つの押圧部材33を挿入した状態で、押圧部材を径方向外側に移動させて環状弾性体60の一部である凸部61を軸筒40の凹部である開口42に嵌合させる際に、凸部61の一部で開口42を形成する開口壁部46を押圧することで軸筒40の角度位置を修正することができる。
【0095】
(把持部取り外しステップS9)
把持部取り外しステップS9は、嵌合ステップS7において環状弾性体60の一部である凸部61を軸筒40の凹部である開口42に嵌合させた後、把持部10を挿着装置1から取り外すステップである。
図21は、把持部取り外しステップS9において、把持部を挿着装置から取り外した後の挿着装置及び把持部の斜視図である。
【0096】
嵌合ステップS7において環状弾性体60の一部である凸部61を軸筒40の凹部である開口42に嵌合させた後、把持部取り外しステップS9において、作業員は、把持部10を上方に移動させる。なお、戻りバネ81の付勢力によって3つの押圧部材33が軸筒40の内周面40aに当接することで押圧部材33と軸筒40との摩擦力を抑制するために、作業員は、ハンドル93に対して時計方向へ僅かに力を与えることで、戻りバネ81の付勢力を相殺させてもよい。
把持部10が挿着装置1から取り外されると、環状弾性体60の弾性力によって環状弾性体60の形状が復元されて、複数の凸部61のそれぞれが開口42から径方向外側に突出する。そのため、環状弾性体60を軸筒40へ挿着する従来の作業のように、環状弾性体60を軸筒40へ挿入した後に、環状弾性体60と軸筒40とを馴染ませつつ、複数の凸部61を軸筒40の開口42から径方向外側に突出させるための作業は、簡素化され、突出状態の確実性のために当該作業を行う時間が大幅に短縮されることとなる。
【0097】
上述したように、一実施形態に係る塗布具の製造方法は、塗布具の製造方法であって、環状弾性体変形ステップS3と、軸筒配置ステップS5と、嵌合ステップS7と、を備える。
これにより、環状弾性体60を径方向外側から複数個所で押圧して変形させ、環状弾性体60を変形させた状態で、環状弾性体60を軸筒40内部に挿入することで、環状弾性体60の軸筒40への挿着が容易となる。これにより、塗布具の製造における効率が向上する。また、環状弾性体60を径方向外側から複数個所で押圧して変形させ、環状弾性体60を変形させた状態で、環状弾性体60を軸筒40内部に挿入することで、環状弾性体60と軸筒40の内周面40aとの擦れが抑制されるので、環状弾性体60の損傷を抑制できる。
【0098】
また、上述したように、一実施形態に係る挿着装置1は、環状弾性体60の軸筒40への挿着装置1である。一実施形態に係る挿着装置1は、環状弾性体60を径方向外側から複数個所で押圧するための複数の押圧部材33をそれぞれ含み、径方向に移動可能な複数の可動部3を備える。少なくとも一つの可動部3は、押圧部材33で変形した状態の環状弾性体60の外側に軸筒40を挿通させたときに軸筒40を下方から支持する支持面37を有する。
これにより、変形した状態の環状弾性体60の外側に軸筒40を挿通させたときに軸筒40を下方から支持面37で支持できるので、軸筒40と環状弾性体60との軸方向の位置関係を所望の位置関係に設定できる。
【0099】
上述したように、一実施形態に係る挿着装置1は、回転運動を可動部3の径方向への移動のための縮拡径運動に変換するためのカムである板カム21を備える。
これにより、一つの回転運動で複数の可動部3を連動させて縮拡径できる。したがって、複数の可動部3同士で径方向への移動を同期させ易くなる。
【0100】
上述したように、一実施形態に係る挿着装置1は、環状弾性体60の軸筒40に対する軸方向位置を合わせるための位置決め板11を備える。
これにより、軸筒40と環状弾性体60との軸方向の位置関係を所望の位置関係に設定できる。
【0101】
上述したように、一実施形態に係る挿着装置1では、位置決め板11は、何れかの可動部3とともに径方向に移動するように構成されている。
仮に、位置決め板11が可動部3とともに径方向に移動するように構成されていない場合、上述したように、軸筒配置ステップS5において、位置決め板11における下端支持部14と軸筒40の基端45とが干渉するおそれがあり、軸筒40の基端45を可動部本体31における支持面37に当接できなくなるおそれがある。
一実施形態に係る挿着装置1によれば、位置決め板11は、何れかの可動部3とともに径方向に移動するように構成されているので、位置決め板11が軸筒40と干渉して支持面37で軸筒40を下方から支持できなくなるような不都合が生じることを回避できる。
【0102】
環状弾性体60を軸筒40へ挿着する従来の作業では、熟練した作業員であっても作業に時間が掛かり、また、作業中に環状弾性体60を破損させてしまうこともあり、不良率も高かった。これに対して、一実施形態に係る挿着装置1を用いて軸筒40に環状弾性体60を挿着する場合、未熟な作業員であっても従来の作業時間を大幅に短縮することが可能となり、また、環状弾性体60を破損させることなく挿着できるので、不良率も大幅に低減させることができた。
【0103】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
例えば、上述した一実施形態では、環状弾性体60において凸部61は、周方向に均等ピッチとなるように6箇所に形成されている。また、上述した一実施形態では、周方向に間隔を空けて配置された6つの凸部61の間に存在する6つの凹部63を、周方向に一つおきに径方向内側に向かって3つの押圧部材33によって押圧する。しかし、本発明はこれに限定されない。
【0104】
図22乃至図26は、周方向に沿った凸部の配置数、及び、押圧部材の数のうち少なくとも何れか一方が上述した一実施形態とは異なる場合について例示した図である。図22乃至図26では、図15と同様の視点から見た環状弾性体60と押圧部材33との関係を表している。図22乃至図26では、環状弾性体60の変形前の形状を破線で示し、環状弾性体60の変形後の形状を実線で示す。
【0105】
図22では、環状弾性体60において凸部61が周方向に均等ピッチとなるように2箇所に形成されている。また、図22では、周方向に間隔を空けて配置された2つの凸部61の間に存在する2つの凹部63のそれぞれを、径方向内側に向かって2つの押圧部材33によって押圧する。
【0106】
図23では、環状弾性体60において凸部61が周方向に均等ピッチとなるように3箇所に形成されている。また、図23では、周方向に間隔を空けて配置された3つの凸部61の間に存在する3つの凹部63のそれぞれを、径方向内側に向かって3つの押圧部材33によって押圧する。
【0107】
図24では、環状弾性体60において凸部61は、周方向に均等ピッチとなるように4箇所に形成されている。また、図24では、周方向に間隔を空けて配置された4つの凸部61の間に存在する4つの凹部63を、周方向に一つおきに径方向内側に向かって2つの押圧部材33によって押圧する。
【0108】
図25では、環状弾性体60において凸部61が周方向に均等ピッチとなるように4箇所に形成されている。また、図25では、周方向に間隔を空けて配置された4つの凸部61の間に存在する4つの凹部63のそれぞれを、径方向内側に向かって4つの押圧部材33によって押圧する。
【0109】
図26では、環状弾性体60において凸部61が周方向に均等ピッチとなるように5箇所に形成されている。また、図26では、周方向に間隔を空けて配置された5つの凸部61の間に存在する5つの凹部63のそれぞれを、径方向内側に向かって5つの押圧部材33によって押圧する。
【0110】
上述した一実施形態に係る図15や、図24に示すように、環状弾性体60において凸部61が周方向に均等ピッチとなるように偶数箇所に形成されている場合、周方向に間隔を空けて配置された偶数箇所の凸部61の間に存在する偶数箇所の凹部63を、周方向に一つおきに径方向内側に向かって凹部63の数の半数の押圧部材33によって押圧するようにしてもよい。
また、例えば図22及び図25に示すように、環状弾性体60において凸部61が周方向に均等ピッチとなるように偶数箇所に形成されている場合、周方向に間隔を空けて配置された偶数箇所の凸部61の間に存在する偶数箇所の凹部63のそれぞれを、径方向内側に向かって凹部63の数と同数の押圧部材33によって押圧するようにしてもよい。
【0111】
なお、図23及び図26に示すように、環状弾性体60において凸部61が周方向に均等ピッチとなるように奇数箇所に形成されている場合、周方向に間隔を空けて配置された奇数箇所の凸部61の間に存在する奇数箇の凹部63のそれぞれを、径方向内側に向かって凹部63の数と同数の押圧部材33によって押圧する方がよい。
【0112】
例えば、上述した一実施形態において、軸筒40において環状弾性体60の複数の凸部61が嵌合する相手側の部位は複数の開口42であるが、複数の開口42に代えて、軸筒40において径方向内側から外側に向かって凹んでいる凹部(軸筒凹部)でもよい。すなわち、環状弾性体60の複数の凸部61が嵌合する相手側の部位は、必ずしも軸筒40において開口していなくてもよい。
【0113】
例えば、上述した一実施形態において、凸部61及び開口42(又は軸筒凹部)は、それぞれ複数設けられているが、それぞれ少なくとも1つであってもよい。
【0114】
幾つかの実施形態では、戻りバネ81は、例えばコイルばねであるが、板ばね等の他の種類のばねであってもよく、エラストマ等の弾性材料による塊状の部材であってもよい。
【0115】
上述した一実施形態では、筆記具の把持部10において、筆記具における先金である軸筒40の内部に、握りゴムである環状弾性体60を挿着する場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、シャープペンシルにおける芯チャックが芯を開放したときに芯の落下を防止するための芯戻り止めを口金部43の内部に挿着する場合に本発明を適用してもよい。或いは化粧品のマスカラ容器のブラシをしごくゴム部品に本発明を適用してもよい。また、軸筒40のように、内周面を有する部材に対し、該内周面において液体等の漏れを防止するためのOリングを挿着する場合に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0116】
1 挿着装置
3 可動部
5 回転部
10 把持部
11 位置決め板
12 開口
14 下端支持部
21 板カム
31 可動部本体
33 押圧部材
37 支持面
40 軸筒
41 筒部
42 開口(軸筒開口)
60 環状弾性体
61 凸部(環状体凸部)
63 凹部(環状体凹部)
81 戻りバネ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
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図22
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