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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】空気調和装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20231205BHJP
   F24F 11/41 20180101ALI20231205BHJP
【FI】
F25B1/00 331E
F24F11/41 240
F25B1/00 304H
F25B1/00 304P
F25B1/00 371B
F25B1/00 371C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020037378
(22)【出願日】2020-03-05
(65)【公開番号】P2021139544
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(72)【発明者】
【氏名】兼井 一樹
(72)【発明者】
【氏名】穀田 薫
(72)【発明者】
【氏名】土畠 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 宏明
(72)【発明者】
【氏名】桶田 純平
【審査官】笹木 俊男
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-186121(JP,A)
【文献】特開2006-200890(JP,A)
【文献】特開2013-170717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00 ~ 49/04
F24F 11/00 ~ 11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮室に冷媒を導くインジェクションポートを有する圧縮機と、熱源側熱交換器と、第1膨張弁と、利用側熱交換器とが順次冷媒配管で接続されて形成される冷媒回路と、
一端が前記インジェクションポートに接続され他端が前記第1膨張弁と前記利用側熱交換器の間に接続されるインジェクション管と、同インジェクション管に設けられる第2膨張弁とで形成されるインジェクション回路と、前記インジェクション管を流れる冷媒と前記熱源側熱交換器へと流れる冷媒とを熱交換させる過冷却熱交換器と、
前記第1膨張弁と前記第2膨張弁と前記圧縮機を制御する制御手段と、
を有し、
前記制御手段は、暖房運転中に、前記インジェクション回路により前記圧縮機に冷媒を導いている状態から、前記インジェクション回路により前記圧縮機に冷媒を導かない状態としたとき、前記圧縮機から吐出される冷媒の温度である吐出温度が上昇することを抑制する保護制御を実行し、前記圧縮機から吐出された冷媒の温度であると吐出温度が所定の目標吐出温度となるように前記第1膨張弁の開度を調整する、
ことを特徴とする空気調和装置。
【請求項2】
前記保護制御では、
前記圧縮機の回転数を所定回転数低くする圧縮機回転数制御と、前記第1膨張弁の開度を所定量大きくする第1膨張弁開度制御と、前記第1膨張弁の開度を第1所定時間の間変化させない第2膨張弁開度制御と、前記第2膨張弁の開度を前記第1所定時間より長い第2所定時間をかけて閉じる第3膨張弁開度制御のうち、少なくともいずれか1つを実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載の空気調和装置。
【請求項3】
前記保護制御では、
前記圧縮機の回転数を所定回転数低くする圧縮機回転数制御と、前記第1膨張弁の開度を所定量大きくする第1膨張弁開度制御と、前記第1膨張弁の開度を第1所定時間の間変化させない第2膨張弁開度制御と、前記第2膨張弁の開度を前記第1所定時間より長い第2所定時間をかけて閉じる第3膨張弁開度制御のうち、少なくともいずれか2つを組み合わせて実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載の空気調和装置。
【請求項4】
前記第2膨張弁開度制御では、前記第1膨張弁の開度を前記第1所定時間の間変化させないことに代えて、前記第1膨張弁の開度を小さくすることを禁止する、
ことを特徴とする請求項2または請求項3のいずれかに記載の空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機の圧縮室に冷媒をインジェクションできる空気調和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低外気温度下で暖房能力を向上させるために、圧縮機の圧縮室に凝縮器として機能する熱交換器から流出した冷媒の一部を抽入できる、所謂インジェクションが行える空気調和装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の空気調和装置は、室外機に、圧縮室に冷媒を抽入可能なインジェクションポートを有する圧縮機と、室外熱交換器と、室外膨張弁と、過冷却熱交換器と、インジェクション膨張弁を備え一端が圧縮機のインジェクションポートに接続され他端が暖房運転時の過冷却熱交換器の冷媒入り口側に接続されるインジェクション管とを有する。
【0003】
上述した空気調和装置で、低外気温度下(例えば、2℃)で暖房運転を行うときは、インジェクション膨張弁を開いて室内機から室外機に流入した冷媒の一部をインジェクション管に分流させる。インジェクション管に分流した冷媒は、過冷却熱交換器において室外膨張弁を通過して室外熱交換器へと流れる冷媒と熱交換を行って加熱されて、インジェクションポートを介して圧縮機の圧縮室に抽入される。なお、過冷却熱交換器において室外膨張弁を通過して室外熱交換器へと流れる冷媒は、インジェクション管に分流した冷媒によって冷却される。
【0004】
ところで、暖房運転時の室外膨張弁の開度制御は、インジェクションを行わない場合(以降、非INJ時と記載する場合がある)とインジェクションを行う場合(以降、INJ時と記載する場合がある)とでその制御態様が異なる。
【0005】
まず、非INJ時では、圧縮機に吸入される冷媒の過熱度である吸入冷媒過熱度が0deg以上の所定の値(例えば、2deg)以上となるような吐出温度を、凝縮圧力と蒸発圧力とを用いて算出してこれを目標吐出温度とし、定期的(例えば、2分毎)に検出した吐出温度が目標吐出温度となるように、吐出温度を検出する度に室外膨張弁の開度が調整される。具体的には、検出した吐出温度が目標吐出温度より大きな値である場合は室外膨張弁の開度を現在の開度より大きくし、検出した吐出温度が目標吐出温度より小さな値である場合は室外膨張弁の開度を現在の開度より小さくする。このとき、検出した吐出温度と目標吐出温度との差分が大きいほど、室外膨張弁の開度を大きく変化させる。
【0006】
一方、INJ時では、圧縮機の圧縮室に冷媒が抽入されることで冷凍サイクルにおける圧縮行程で冷媒の状態が変化し、かつ、冷媒の状態の変化度合いは圧縮機に抽入される冷媒の量や、抽入される冷媒におけるガス冷媒と液冷媒との比率によって異なるため、上述した非INJ時のように吸入冷媒過熱度が所定の値以上となるような目標吐出温度を算出できない。そこで、INJ時では、蒸発温度と吸入温度とを定期的(例えば、2分毎)に検出しこれらを用いて実際の吸入冷媒過熱度を算出し、算出した実際の吸入冷媒過熱度が予め定められた目標吸入冷媒過熱度(例えば、4deg)となるように室外膨張弁の開度が調整される。具体的には、実際の吸入冷媒過熱度が目標吸入冷媒過熱度より大きな値である場合は室外膨張弁の開度を現在の開度より大きくし、実際の吸入冷媒過熱度が目標吸入冷媒過熱度より小さな値である場合は室外膨張弁の開度を現在の開度より小さくする。そして、実際の吸入冷媒過熱度と目標吸入冷媒過熱度との差分が大きいほど、室外膨張弁の開度の変化量を大きくする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-263440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した空気調和装置で、INJ時から非INJ時に切り替わったとき、室外膨張弁を通過して室外熱交換器へと流れる冷媒が過冷却熱交換器で冷却されなくなる。このため、室外熱交換器へと流れた冷媒は乾き度が大きくなり、これに伴って圧縮機に吸入される冷媒の過熱度である吸入過熱度が大きくなる。また、圧縮機への冷媒の抽入が行われなくなるため、圧縮機への冷媒の抽入による圧縮機の冷却効果が失われる。このように、INJ時から非INJ時に切り替わったときは、吸入過熱度が大きくなること、および、圧縮機への冷媒の抽入による圧縮機の冷却効果が失われることによって、圧縮機の吐出温度が急激に上昇する恐れがある。
【0009】
前述したように、非INJ時は、定期的に検出した吐出温度が目標吐出温度となるように室外膨張弁の開度が調整される。従って、INJ時から非INJ時に切り替わったときに吐出温度が急激に上昇した場合は、室外膨張弁の開度調整が追い付かずに吐出温度が保護停止温度に到達してしまい、圧縮機が保護停止する恐れがあった。
【0010】
本発明は以上述べた問題点を解決するものであって、暖房運転にINJ時から非INJ時に切り替えた際の吐出温度の急激な上昇を抑制できる空気調和装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の空気調和装置は、圧縮室に冷媒を導くインジェクションポートを有する圧縮機と熱源側熱交換器と第1膨張弁と利用側熱交換器とが順次冷媒配管で接続されて形成される冷媒回路と、一端がインジェクションポートに接続され他端が膨張弁と利用側熱交換器の間に接続されるインジェクション管とこのインジェクション管に設けられる第2膨張弁とで形成されるインジェクション回路と、第1膨張弁と第2膨張弁と圧縮機を制御する制御手段とを有する。そして、制御手段は、暖房運転中に、インジェクション回路により圧縮機に冷媒を導いている状態から、インジェクション回路から圧縮機に冷媒を導かない状態としたとき、圧縮機から吐出される冷媒の温度である吐出温度が上昇することを抑制する保護制御を実行する。
【発明の効果】
【0012】
上記のように構成した本発明の空気調和装置によれば、暖房運転にINJ時から非INJ時に切り替えた際の吐出温度の急激な上昇を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態における、空気調和装置の説明図であり、(A)は冷媒回路図、(B)は室外機制御手段のブロック図である。
図2】本発明の実施形態における、保護制御テーブルである。
図3】本発明の実施形態における、室外機制御手段が実行する保護制御に関わる処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に基づいて詳細に説明する。実施形態としては、1台の室外機に3台の室内機が並列に接続され、全ての室内機で同時に冷房運転あるいは暖房運転が行える空気調和装置を例に挙げて説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されることはなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
【実施例
【0015】
図1(A)に示すように、本実施形態における空気調和装置1は、1台の室外機2と、室外機2に液管8およびガス管9で並列に接続された3台の室内機5a~5cを備えている。詳細には、液管8は、一端が室外機2の閉鎖弁25に、他端が分岐して室内機5a~5cの各液管接続部53a~53cに、それぞれ接続されている。また、ガス管9は、一端が室外機2の閉鎖弁26に、他端が分岐して室内機5a~5cの各ガス管接続部54a~54cに、それぞれ接続されている。以上により、空気調和装置1の冷媒回路100が形成されている。
【0016】
<室外機の構成>
まずは、室外機2について説明する。室外機2は、圧縮機20と、四方弁21と、室外熱交換器22と、過冷却熱交換器23と、室外膨張弁24と、液管8の一端が接続された閉鎖弁25と、ガス管9の一端が接続された閉鎖弁26と、アキュムレータ27と、室外ファン28と、インジェクション膨張弁29と、レシーバ30を備えている。そして、室外ファン28を除くこれら各装置が以下で詳述する各冷媒配管で相互に接続されて、冷媒回路100の一部をなす室外機冷媒回路20を形成している。
【0017】
圧縮機20は、インバータにより回転数が制御される図示しないモータによって駆動されることで、運転容量を可変できる能力可変型圧縮機である。圧縮機20の冷媒吐出側は、後述する四方弁21のポートaと吐出管41で接続されており、また、圧縮機20の冷媒吸入側は、アキュムレータ27の冷媒流出側と吸入管42で接続されている。圧縮機20には、後述するインジェクション管47から圧縮機20の内部の図示しない圧縮室に冷媒を抽入するためのインジェクションポート20aが設けられている。
【0018】
四方弁21は、冷媒の流れる方向を切り換えるための弁であり、a、b、c、dの4つのポートを備えている。ポートaは、上述したように圧縮機20の冷媒吐出側と吐出管41で接続されている。ポートbは、室外熱交換器22の一方の冷媒出入口と冷媒配管43で接続されている。ポートcは、アキュムレータ27の冷媒流入側と冷媒配管46で接続されている。そして、ポートdは、閉鎖弁26と室外機ガス管45で接続されている。
【0019】
室外熱交換器22は、例えばフィンアンドチューブ式の熱交換器であり、冷媒と、後述する室外ファン28の回転により室外機2の内部に取り込まれた外気を熱交換させるものである。室外熱交換器22の一方の冷媒出入口は、上述したように四方弁21のポートbと冷媒配管43で接続され、他方の冷媒出入口は後述するレシーバ30と第1室外機液管44aで接続されている。なお、室外熱交換器22が、本発明の熱源側熱交換器に相当する。
【0020】
室外膨張弁24は、第1室外機液管44aに設けられている。室外膨張弁24は電子膨張弁であり、冷房運転時は後述する過冷却熱交換器23の冷媒出口側における冷媒の過冷却度が所定の目標値となるようにその開度が調整される。また、暖房運転時は後述するように、圧縮機20にインジェクションを行わない場合は、圧縮機20から吐出される冷媒の温度である吐出温度が所定の目標吐出温度となるようにその開度が調整され、圧縮機20にインジェクションを行う場合は、圧縮機20に吐出される冷媒の過熱度である吸入冷媒過熱度が所定の目標吸入冷媒過熱度となるようにその開度が調整される。なお、この室外膨張弁24が本発明の第1膨張弁に相当する。
【0021】
過冷却熱交換器23は、室外膨張弁24と閉鎖弁25の間に配置される。過冷却熱交換器23は例えば二重管熱交換器であり、二重管熱交換器の図示しない内管が後述するインジェクション管47の一部となるように配置され、図示しない外管が第1室外機液管44aの一部となるように配置される。過冷却熱交換器23では、後述するインジェクション膨張弁29で減圧されて内管を流れる冷媒と、第1室外機液管44aから外管へと流れる冷媒が熱交換を行う。
【0022】
レシーバ30は、過冷却熱交換器23と閉鎖弁25の間に配置され、前述したように第1室外機液管44aで室外熱交換器22と接続されるとともに、第2室外機液管44bで閉鎖弁25と接続される。レシーバ30は、室外熱交換器22の内部における冷媒量を調整するバッファとしての役割を果たす。また、レシーバ30は、流入した冷媒の気液分離を行う。
【0023】
インジェクション管47は、一端が第1室外機液管44aにおける過冷却熱交換器23とレシーバ30の間に接続され、他端が圧縮機20のインジェクションポート20aに接続されている。上述したように、過冷却熱交換器23の図示しない内管はインジェクション管47の一部とされており、インジェクション管47の第1室外機液管44aにおける接続点と過冷却熱交換器23の内管の間にインジェクション膨張弁29が設けられている。インジェクション膨張弁29は電子膨張弁であり、その開度が調整されることで第1室外機液管44aから分流した冷媒の一部を減圧し過冷却熱交換器23を介して圧縮機20にインジェクションポート20aを介して抽入される冷媒量を調整する。なお、インジェクション膨張弁29が本発明の第2膨張弁に相当する。また、インジェクション管47とインジェクション膨張弁29とで本発明のインジェクション回路が形成される。
【0024】
アキュムレータ27は、前述したように、冷媒流入側が四方弁21のポートcと冷媒配管46で接続されるとともに、冷媒流出側が圧縮機20の冷媒吸入側と吸入管42で接続されている。アキュムレータ27は、冷媒配管46からアキュムレータ27の内部に流入した冷媒をガス冷媒と液冷媒に分離してガス冷媒のみを圧縮機20に吸入させる。
【0025】
室外ファン28は樹脂材で形成されており、室外熱交換器22の近傍に配置されている。室外ファン28は、図示しないファンモータによって回転することで図示しない吸込口から室外機2の内部へ外気を取り込み、室外熱交換器22において冷媒と熱交換した外気を図示しない吹出口から室外機2の外部へ放出する。
【0026】
以上説明した構成の他に、室外機2には各種のセンサが設けられている。図1(A)に示すように、吐出管41には、圧縮機20から吐出される冷媒の圧力である吐出圧力を検出する吐出圧力センサ31と、圧縮機20から吐出される冷媒の温度である吐出温度を検出する吐出温度センサ33が設けられている。冷媒配管46におけるアキュムレータ27の冷媒流入口の近傍には、圧縮機20に吸入される冷媒の圧力である吸入圧力を検出する吸入圧力センサ32と、圧縮機20に吸入される冷媒の温度である吸入温度を検出する吸入温度センサ34が設けられている。
【0027】
第1室外機液管44aにおける室外熱交換器22と室外膨張弁24の間には、第1室外機液管44aを流れる冷媒の温度を検出するための液温度センサ35が設けられている。室外熱交換器22の図示しない熱交パスの中間部には、室外熱交換器22の温度を検出する室外熱交中間温度センサ36が設けられている。そして、室外機2の図示しない吸込口付近には、室外機2の内部に流入する外気の温度、すなわち外気温度を検出する外気温度センサ37が備えられている。
【0028】
また、室外機2には、室外機制御手段200が備えられている。室外機制御手段200は、室外機2の図示しない電装品箱に格納されている制御基板に搭載されている。図1(B)に示すように、室外機制御手段200は、CPU210と、記憶部220と、通信部230と、センサ入力部240を備えている。
【0029】
記憶部220は、例えばフラッシュメモリで構成されており、室外機2の制御プログラムや各種センサからの検出信号に対応した検出値、圧縮機20や室外ファン28の制御状態などを記憶している。通信部230は、室内機5a~5cとの通信を行うインターフェイスである。センサ入力部240は、室外機2の各種センサでの検出結果を取り込んでCPU210に出力する。
【0030】
CPU210は、前述した室外機2の各センサでの検出結果を、センサ入力部240を介して取り込む。また、CPU210は、室内機5a~5cから送信される制御信号を、通信部230を介して取り込む。CPU210は、取り込んだ検出結果や制御信号に基づいて、圧縮機20や室外ファン28の駆動制御を行う。また、CPU210は、取り込んだ検出結果や制御信号に基づいて、四方弁21の切り換え制御を行う。さらには、CPU210は、取り込んだ検出結果や制御信号に基づいて、室外膨張弁24やインジェクション膨張弁29の開度調整を行う。
【0031】
なお、室外膨張弁24やインジェクション膨張弁29の開度調整については、後に詳細に説明する。
【0032】
<室内機の構成>
次に、3台の室内機5a~5cについて説明する。3台の室内機5a~5cは、室内熱交換器51a~51cと、室内膨張弁52a~52cと、分岐した液管8の他端が接続された液管接続部53a~53cと、分岐したガス管9の他端が接続されたガス管接続部54a~54cと、室内ファン55a~55cを備えている。そして、室内ファン55a~55cを除くこれら各装置が以下で詳述する各冷媒配管で相互に接続されて、冷媒回路100の一部をなす室内機冷媒回路50a~50cを形成している。
【0033】
なお、室内機5a~5cの構成は全て同じであるため、以下の説明では、室内機5aの構成についてのみ説明を行い、その他の室内機5b、5cについては説明を省略する。また、図1では、室内機5a中の各構成に付与した番号の末尾をaからbまたはcにそれぞれ変更したものが、室内機5a中の各構成と対応する室内機5b、5cの各構成となる。
【0034】
室内熱交換器51aは、冷媒と後述する室内ファン55aの回転により図示しない吸込口から室内機5aの内部に取り込まれた室内空気を熱交換させるものであり、一方の冷媒出入口が液管接続部53aと室内機液管71aで接続され、他方の冷媒出入口がガス管接続部54aと室内機ガス管72aで接続されている。室内熱交換器51aは、室内機5aが冷房運転を行う場合は蒸発器として機能し、室内機5aが暖房運転を行う場合は凝縮器として機能する。なお、液管接続部53aには液管8が溶接やフレアナット等により接続され、また、ガス管接続部54aにはガス管9が溶接やフレアナット等により接続されている。また、室内熱交換器51aが、本発明の利用側熱交換器に相当する。
【0035】
室内膨張弁52aは、室内機液管71aに設けられている。室内膨張弁52aは電子膨張弁であり、室内熱交換器51aが蒸発器として機能する場合すなわち室内機5aが冷房運転を行う場合は、その開度は、室内熱交換器51aの冷媒出口(ガス管接続部54a側)での冷媒過熱度が目標冷媒過熱度となるように調整される。また、室内膨張弁52aは、室内熱交換器51aが凝縮器として機能する場合すなわち室内機5aが暖房運転を行う場合は、その開度は、室内熱交換器51aの冷媒出口(液管接続部53a側)での冷媒過冷却度が目標冷媒過冷却度となるように調整される。ここで、目標冷媒過熱度や目標冷媒過冷却度は、室内機5aで十分な暖房能力あるいは冷房能力が発揮されるための値である。
【0036】
室内ファン55aは樹脂材で形成されており、室内熱交換器51aの近傍に配置されている。室内ファン55aは、図示しないファンモータによって回転することで、図示しない吸込口から室内機5aの内に室内空気を取り込み、室内熱交換器51aにおいて冷媒と熱交換した室内空気を図示しない吹出口から室内へ供給する。
【0037】
以上説明した構成の他に、室内機5aには各種のセンサが設けられている。室内機液管71aにおける室内熱交換器51aと室内膨張弁52aの間には、室内熱交換器51aに流入あるいは室内熱交換器51aから流出する冷媒の温度を検出する液側温度センサ61aが設けられている。室内機ガス管72aには、室内熱交換器51aから流出あるいは室内熱交換器51aに流入する冷媒の温度を検出するガス側温度センサ62aが設けられている。室内機5aの図示しない吸込口付近には、室内機5aの内部に流入する室内空気の温度、すなわち室内温度を検出する室内温度センサ63aが備えられている。
【0038】
また、図示と詳細な説明は省略するが、室内機5aには、室内機制御手段が備えられている。室内機制御手段は、室外機制御手段200と同様に、CPUと、記憶部と、室外機2と通信を行う通信部と、上述した各温度センサの検出値を取り込むセンサ入力部を備えている。
【0039】
<空気調和装置の動作>
次に、本実施形態における空気調和装置1の空調運転時の冷媒回路100における冷媒の流れや各部の動作について、図1(A)を用いて説明する。なお、以下の説明では、室内機5a~5cが暖房運転を行う場合について説明し、冷房運転を行う場合については詳細な説明を省略する。なお、以下の説明では、圧縮機20に冷媒をインジェクションしない非INJ時と、圧縮機20に冷媒をインジェクションするINJ時とに分けて説明する。図1(A)において、実線矢印は非INJ時およびINJ時におけるインジェクション管47以外の冷媒回路100における冷媒の流れを示しており、破線矢印はINJ時におけるインジェクション管47での冷媒の流れを示している。
【0040】
<非INJ時の動作>
まず、図1(A)を用いて、暖房運転における非INJ時の冷媒回路100の動作を説明する。空気調和装置1が暖房運転を行っているときに後述するインジェクション開始条件が成立していない場合は、インジェクション膨張弁29が閉じられてインジェクション管47に冷媒が流れないようにする。また、四方弁21が実線で示す状態、すなわち、四方弁21のポートaとポートdが連通するように、また、ポートbとポートcが連通するように切り換えられる。これにより、冷媒回路100は、室外熱交換器22が蒸発器として機能するとともに室内熱交換器51a~51cのそれぞれが凝縮器として機能する暖房サイクルとなる。
【0041】
冷媒回路100が上記の状態となって圧縮機20が駆動すると、圧縮機20から吐出された冷媒は、吐出管41を流れて四方弁21に流入し、四方弁21から室外機ガス管45を流れ閉鎖弁26を介してガス管9に流出する。ガス管9に流出した冷媒は分流しガス管接続部54a~54cを介して室内機5a~5cに流入する。
【0042】
室内機5a~5cに流入した冷媒は、室内機ガス管72a~72cを流れて室内熱交換器51a~51cに流入し、室内ファン55a~55cの回転により室内機5a~5cの内部に取り込まれた室内空気と熱交換を行って凝縮する。このように、室内熱交換器51a~51cが凝縮器として機能し、室内熱交換器51a~51cで冷媒と熱交換を行って加熱された室内空気が図示しない吹出口から室内に吹き出されることによって、室内機5a~5cが設置された室内の暖房が行われる。
【0043】
室内熱交換器51a~51cから室内機液管71a~71cへと流出した冷媒は、室内膨張弁52a~52cを通過する際に減圧される。室内膨張弁52a~52cを通過した冷媒は、室内機液管71a~71cを流れて液管接続部53a~53cを介して室内機5a~5cから液管8へと流出する。
【0044】
室内機5a~5cから液管8へと流出した冷媒は液管8で合流し、閉鎖弁25を介して室外機2に流入する。室外機2に流入した冷媒は、第2室外機液管44bを流れてレシーバ30に流入する。レシーバ30から第1室外機液管44aに流出した冷媒は過冷却熱交換器23を経て室外膨張弁24へと流れ、室外膨張弁24を通過する際に減圧される。
【0045】
このとき、室外膨張弁24の開度は、定期的(例えば、30秒毎)に吐出温度センサ33で検出した吐出温度が、凝縮圧力と蒸発圧力とを用いて算出した目標吐出温度となるように調整される。室外機制御手段200の記憶部220には、目標吐出温度を求めるための凝縮圧力と蒸発圧力を含む演算式が予め記憶されており、この関数に、吐出圧力センサ31で検出する凝縮圧力相当の圧力である吐出圧力と、吸入圧力センサ32で検出する蒸発圧力相当の圧力である吸入圧力とが代入されることで、目標吐出温度が求められる。なお、この関数を用いて求められる目標吐出温度は、実際の吐出温度が目標吐出温度となれば、圧縮機20に吸入される冷媒の過熱度である吸入冷媒過熱度が0deg以上の所定の値(例えば、2deg)以上となる吐出温度であることが予め確認できているものである。
【0046】
吐出温度センサ33で検出した吐出温度は定期的(例えば、2分毎)に取り込まれ、吐出温度が取り込まれる度に目標吐出温度との差分を求めこの差分に応じて室外膨張弁24の開度が調整される。具体的には、吐出温度センサ33で検出した吐出温度が目標吐出温度より大きな値である場合は、室外膨張弁24の開度は現在の開度より大きくされ、吐出温度センサ33で検出した吐出温度が目標吐出温度より小さな値である場合は、室外膨張弁24の開度は現在の開度より小さくされる。このとき、吐出温度センサ33で検出した吐出温度と目標吐出温度との差分が大きいほど、室外膨張弁24の開度の変化量は大きくなる。
【0047】
室外膨張弁24で減圧された冷媒は室外熱交換器22に流入し、室外ファン28の回転により室外機2の内部に取り込まれた外気と熱交換を行って蒸発する。室外熱交換器22から冷媒配管43に流出した冷媒は、四方弁21、冷媒配管46、アキュムレータ27、吸入管42の順に流れ、圧縮機20に吸入されて再び圧縮される。
【0048】
<INJ時の動作>
次に、図1(A)を用いて、暖房運転でINJ時の冷媒回路100の動作を説明する。なお、非INJ時とINJ時とで異なるのは、インジェクション膨張弁29が開かれてインジェクション管47に冷媒が分流しインジェクションポート20aを介して圧縮機20に冷媒がインジェクションされること、および、室外膨張弁24の開度制御の方法のみであり、これら以外の冷媒回路100の動作は前述した非INJ時と同じであるため、詳細な説明を省略する。
【0049】
空気調和装置1が暖房運転を行っているときにインジェクション開始条件が成立している場合は、インジェクション膨張弁29が開かれて、図1(A)に破線矢印で示すように、第1室外機液管44aを流れる冷媒の一部がインジェクション管47に分流し、過冷却熱交換器23において第1液分管44aを流れる冷媒と熱交換を行って加熱される。そして、過冷却熱交換器23で加熱された冷媒は、インジェクションポート20aを介して圧縮機20に抽入される。
【0050】
ここで、インジェクション開始条件は、予め試験などを行って求められて室外機制御手段200の記憶部220に記憶されているものである。インジェクション開始条件が成立しているときは、使用者が要求する暖房能力を発揮できない場合があるが、このときに圧縮機20にインジェクションを行えば暖房能力が大きくなって使用者が要求する暖房能力を発揮できるようになる。本実施形態では、インジェクション開始条件は次の通りである。
【0051】
インジェクション開始条件:以下1)~3)をすべて満たせば成立
1)圧縮機20の回転数が50rps以上
2)外気温度が2℃以下
3)圧縮機20から吐出される冷媒の過熱度である吐出冷媒過熱度が30deg以上
※吐出冷媒過熱度=吐出温度-高圧飽和温度
吐出温度:吐出温度センサ33で検出
高圧飽和温度:吐出圧力センサ31で検出した吐出圧力から換算
また、室外膨張弁24の開度は、圧縮機20に吸入される冷媒の過熱度である吸入冷媒過熱度が目標吸入冷媒過熱度となるように調整される。ここで、吸入冷媒過熱度は、吸入温度センサ34で検出される吸入温度から室外中間熱交温度センサ36で検出される室外中間熱交温度を減じて求めることができる。また、目標吸入冷媒過熱度は、予め試験などを行って求められて室外機制御手段200の記憶部220に記憶されている値であり、圧縮機20に吸入される冷媒を確実にガス冷媒とできる値である。本実施形態では、目標吸入冷媒過熱度は4degである。
【0052】
吸入温度センサ34で検出される吸入温度および室外中間熱交温度センサ36で検出される室外中間熱交温度は、それぞれ定期的(例えば、2分毎)に取り込まれ、これら各温度が取り込まれる度に吸入冷媒過熱度が算出される。そして、吸入冷媒過熱度が算出される度に目標吸入冷媒過熱度との差分を求めこの差分に応じて室外膨張弁24の開度が調整される。具体的には、算出した吸入冷媒過熱度が目標吸入冷媒過熱度より大きな値である場合は、室外膨張弁24の開度は現在の開度より大きくされ、算出した吸入冷媒過熱度が目標吸入冷媒過熱度より小さな値である場合は、室外膨張弁24の開度は現在の開度より小さくされる。このとき、算出した吸入冷媒過熱度と目標吸入冷媒過熱度との差分が大きいほど、室外膨張弁24の開度の変化量は大きくなる。
【0053】
なお、INJ時に、前述したインジェクション開始条件の1)あるいは2)のいずれかが成立しなくなった場合、あるいは、吐出冷媒過熱度が10deg以下となった場合は、インジェクション膨張弁29を閉じて圧縮機20への冷媒のインジェクションを停止する、すなわち、非INJ時の暖房運転制御とする。ここで、吐出冷媒過熱度のみ開始条件と異なる値としているのは、非INJ時とINJ時の切り替わりが頻繁に発生する所謂ハンチングを防ぐためであり、本実施形態では10degとしているが、開始条件3)の30degより小さな値、例えば、15degや20degであってもよい。また、以上に説明したインジェクションを停止する条件を、以降の説明でインジェクション終了条件と記載する場合がある。
【0054】
また、インジェクション膨張弁29の開度は、前述した方法で算出した吐出冷媒過熱度が目標吐出冷媒過熱度となるように調整される。ここで、目標吐出冷媒過熱度は、予め試験などを行って求められて室外機制御手段200の記憶部220に記憶されている値であり、圧縮機20に冷媒をインジェクションしている場合に吐出冷媒過熱度を目標吐出冷媒過熱度とすれば、室内機5a~5cのそれぞれで要求される暖房能力を発揮できることが判明している値である。本実施形態では、目標吐出冷媒過熱度は30degである。
【0055】
吐出温度センサ33で検出される吐出温度および吐出圧力センサ31で検出される吐出圧力は、それぞれ定期的(例えば、2分毎)に取り込まれ、吐出温度および吐出圧力が取り込まれる度に吐出冷媒過熱度が算出される。そして、吐出冷媒過熱度が算出される度に目標吐出冷媒過熱度との差分を求めこの差分に応じて室外膨張弁24の開度が調整される。具体的には、算出した吐出冷媒過熱度が目標吐出冷媒過熱度より大きな値である場合は、インジェクション膨張弁29の開度は現在の開度より大きくされ、算出した吐出冷媒過熱度が目標吐出冷媒過熱度より小さな値である場合は、インジェクション膨張弁29の開度は現在の開度より小さくされる。このとき、算出した吐出冷媒過熱度と目標吐出冷媒過熱度との差分が大きいほど、インジェクション膨張弁29の開度の変化量は大きくなる。
【0056】
インジェクション膨張弁29が開かれると、室内機5a~5cから室外機2に流入し、閉鎖弁25、第2室外機液管44b、および、レシーバ30を介して第1室外機液管44aに流入した冷媒の一部がインジェクション管47に分流する。一方で、第1室外機液管44aを流れる冷媒は、過冷却熱交換器23および室外膨張弁24を介して室外熱交換器22に流入する。
【0057】
過冷却熱交換器23において、第1室外機液管44aから図示しない外管に流入した冷媒と、インジェクション膨張弁29で減圧されてインジェクション管47から図示しない内管に流入した冷媒が熱交換する。過冷却熱交換器23からインジェクション管47に流出した冷媒は、インジェクションポート20aを介して圧縮機20の図示しない圧縮室に抽入される。過冷却熱交換器23から第1室外機液管44aに流出した冷媒は、前述したように過冷却熱交換器23および室外膨張弁24を介して室外熱交換器22に流入して蒸発する。
【0058】
<保護制御について>
前述した暖房運転におけるINJ時に、前述したインジェクション開始条件の1)あるいは2)のいずれかが成立しなくなった場合、あるいは、吐出冷媒過熱度が10deg以下となった場合は、インジェクション膨張弁29を閉じて圧縮機20への冷媒のインジェクションを停止する、すなわち、非INJ時の暖房運転制御とする。
【0059】
INJ時から非INJ時に切り替わると、インジェクション膨張弁29が閉じられてインジェクション管47に冷媒が流れなくなる。このため、第1液分管44aを流れる冷媒が過冷却熱交換器23で冷却されなくなり、第1液分管44aから室外熱交換器22へと流れた冷媒は乾き度が大きくなる。そして、乾き度が大きい状態で室外熱交換器22に流入した冷媒が室外熱交換器22で加熱されて室外熱交換器22から流出し、冷媒配管46、アキュムレータ27、および、吸入管42を介して圧縮機20に吸入される。このため、INJ時と比べて圧縮機20に吸入される冷媒の過熱度である吸入過熱度が大きくなる。また、INJ時から非INJ時に切り替わると、圧縮機20への冷媒の抽入が行われなくなるため、圧縮機20への冷媒の抽入による圧縮機20の冷却効果が失われる。
【0060】
このように、INJ時から非INJ時に切り替わったときは、吸入過熱度が大きくなること、および、圧縮機20への冷媒の抽入による圧縮機20の冷却効果が失われることによって、圧縮機20の吐出温度が急激に上昇する恐れがある。前述したように、非INJ時は、定期的に検出した吐出温度が目標吐出温度となるように室外膨張弁24の開度が調整される。従って、INJ時から非INJ時に切り替わったときに吐出温度が急激に上昇した場合は、室外膨張弁24の開度調整が追い付かずに吐出温度が保護停止温度に到達してしまい、圧縮機20が保護停止する恐れがあった。
【0061】
以上に説明した、INJ時から非INJ時に切り替わったときの吐出温度の急激な上昇を抑制するために、本実施形態では、図2を用いて以下に説明する保護制御をINJ時から非INJ時に切り替えるタイミングで後述する制御開始条件が成立すれば、実行する。本実施形態では、保護制御として図2に示す保護制御テーブル300に掲載した4種類の制御が用意されており、いずれも圧縮機20の吐出温度の急激な上昇を抑制するのに効果的な制御である。
【0062】
図2に示す保護制御テーブル300には、圧縮機回転数制御、第1室外膨張弁開度制御(本発明の第1膨張弁開度制御に相当)、第2室外膨張弁開度制御(本発明の第2膨張弁開度制御に相当)、インジェクション膨張弁開度制御(本発明の第3膨張弁開度制御に相当)の4種類の制御が掲載されており、各制御についての制御態様、制御タイミング、制御開始条件がそれぞれの制御毎に記憶されている。
【0063】
以下、4種類の保護制御について順に詳細に説明する。
【0064】
<圧縮機回転数制御>
圧縮機回転数制御は、保護制御テーブル300における「制御タイミング」であるインジェクション終了時に、保護制御テーブル300における「制御開始条件」である吐出温度が60℃以上もしくは蒸発圧力が0.3MPa以下のいずれかが成立していれば、非INJ時の制御の開始と同時に実行される。ここで、蒸発圧力は、暖房運転時に蒸発器として機能する室外熱交換器22における冷媒の圧力に相当し、吸入圧力センサ32で検出することができる。
【0065】
圧縮機回転数制御では、圧縮機20の回転数が、現在の回転数より当該回転数の10%に相当する回転数だけ低い回転数とされる。このように、圧縮機20の回転数を低下させることで吐出圧力が低下し、ひいては吐出温度が低下するので、圧縮機20への冷媒の抽入を終了した後の吐出温度の急激な上昇を抑制できる。
【0066】
<第1室外膨張弁開度制御>
第1室外膨張弁開度制御は、保護制御テーブル300における「制御タイミング」であるインジェクション終了時に、保護制御テーブル300における「制御開始条件」である吐出温度が60℃以上もしくは蒸発圧力が0.3MPa以下のいずれかが成立していれば、非INJ時の制御の開始と同時に実行される。つまり、第1室外膨張弁開度制御は、前述した圧縮機回転数制御と、「制御タイミング」および「制御開始条件」が同じである。
【0067】
第1室外膨張弁開度制御では、室外熱交換器22における冷媒流量が現在の室外膨張弁24の開度における冷媒流量より20%増えるように、室外膨張弁24の開度が大きくされる。このように、室外膨張弁24の開度を大きくすることで、室外熱交換器22に流入する冷媒量が増加して当該流入する冷媒の乾き度が小さくなる。そして、乾き度が小さくなった状態で室外熱交換器22に流入した冷媒が冷媒配管46、アキュムレータ27、および、吸入管42を介して圧縮機20に吸入されるため、圧縮機20に吸入される冷媒の過熱度である吸入過熱度が小さくなる。このように、第1室外膨張弁開度制御では、室外膨張弁24の開度を大きくして圧縮機20に吸入される冷媒の吸入過熱度を小さくすることで吐出温度が低下するため、圧縮機20への冷媒の抽入を終了した後の吐出温度の急激な上昇を抑制できる。
【0068】
<第2室外膨張弁開度制御>
第2室外膨張弁開度制御は、保護制御テーブル300における「制御タイミング」であるインジェクション終了時に、保護制御テーブル300における「制御開始条件」である吐出温度が60℃以上もしくは蒸発圧力が0.3MPa以下のいずれかが成立していれば、非INJ時の制御の開始と同時に実行される。つまり、第2室外膨張弁開度制御は、前述した圧縮機回転数制御や第2室外膨張弁開度制御と、「制御タイミング」および「制御開始条件」が同じである。
【0069】
第2室外膨張弁開度制御では、圧縮機20への冷媒の抽入を終了した時点から2分間(本発明の第1所定時間に相当)は室外膨張弁24の開度を変化させない。前述したように、非INJ時の室外膨張弁24の開度は、現在の吐出温度が目標吐出温度となるように制御される。このとき、現在の吐出温度が目標吐出温度より低い温度であれば、室外膨張弁24の開度は小さくされる。しかし、INJ時から非INJ時への切り替え時は前述した理由で吐出温度が急激に上昇しやすい状態となっている恐れがあるため、このような状態で室外膨張弁24の開度が小さくされると、さらに室外熱交換器22に流入する冷媒量が減少して吸入過熱度が大きくなって吐出温度が上昇してしまう恐れがある。
【0070】
以上のような問題の発生を防ぐため、第2室外膨張弁開度制御では、現在の吐出温度と目標吐出温度との差分に関わらず、圧縮機20への冷媒の抽入を終了した時点から2分間は室外膨張弁24の開度を変化させない。これにより、圧縮機20への冷媒の抽入を終了した後の吐出温度の急激な上昇を抑制できる。
【0071】
<インジェクション膨張弁開度制御>
インジェクション膨張弁開度制御は、保護制御テーブル300における「制御タイミング」であるインジェクション終了時に、保護制御テーブル300における「制御開始条件」である吐出温度が60℃以上もしくは蒸発圧力が0.3MPa以下のいずれかが成立していれば、非INJ時の制御の開始と同時に実行される。つまり、インジェクション膨張弁開度制御は、前述した3種類の保護制御と、「制御タイミング」および「制御開始条件」が同じである。
【0072】
インジェクション膨張弁開度制御では、前述したインジェクション終了条件が成立した時点からインジェクション膨張弁29の開度を小さくし始め、圧縮機20への冷媒の抽入を終了した時点から5分経過した時点でインジェクション膨張弁29の開度を全閉とする。前述したように、非INJ時はインジェクション管47から圧縮機20への冷媒の抽入がなくなるため、圧縮機20への冷媒の抽入による圧縮機20の冷却効果が失われて圧縮機20の吐出温度が急激に上昇する恐れがある。
【0073】
以上のような問題の発生を防ぐため、インジェクション膨張弁開度制御では、圧縮機20への冷媒の抽入を終了した時点からインジェクション膨張弁29の開度を小さくし始め、圧縮機20への冷媒の抽入を終了した時点から5分(本発明の第2所定時間に相当)経過した時点でインジェクション膨張弁29の開度を全閉とする。これにより、インジェクション管47を流れる冷媒の量は、圧縮機20への冷媒の抽入を終了した時点から5分間でゆっくりと減少するが、この5分間は、抽入量は徐々に減少するものの圧縮機20に冷媒が抽入し続けられるため、圧縮機20の冷却効果も急激に失われることがない。
【0074】
INJ時から非INJ時に切り替わると室外膨張弁24の開度は、前述したように検出した吐出温度が目標吐出温度となるように調整される。従って、インジェクション終了条件が成立した時点から5分の間は室外膨張弁24の開度が吐出温度に基づいて制御されることになるが、圧縮機20への冷媒の抽入をインジェクション終了条件が成立した時点ですぐに止めると、圧縮機20の吐出温度が急激に上昇して室外膨張弁24の開度調整が間に合わずに保護停止温度に到達する恐れがある。このとき、インジェクション膨張弁開度制御を行えば、上述したように圧縮機20の冷却効果も急激に失われることがなく、吐出温度の急激な上昇を抑えることができる、つまり、室外膨張弁24の開度制御で吐出温度の調整ができるまでは圧縮機20への冷媒の抽入による冷却効果を急激になくさないようにすることで、非INJ時に切り替えた後の吐出温度の急激な上昇を抑制できる。
【0075】
<保護制御に関わる処理の流れ>
次に、図3を用いて暖房運転時にINJ時から非INJ時に切り替えた際に、室外機制御手段200のCPU210が実行する保護制御に関わる処理について説明する。図3において、STは処理のステップを示しこれに続く番号はステップの番号を示している。
【0076】
空気調和装置1が暖房運転を行っており、圧縮機20に冷媒を抽入するINJ時であるとき、室外機制御手段200のCPU210は、インジェクション終了条件が成立しているか否かを判断する(ST1)。前述したように、インジェクション終了条件は、前述したインジェクション開始条件の1)あるいは2)のいずれかが成立しなくなった場合、あるいは、吐出冷媒過熱度が10deg以下となった場合である。
【0077】
インジェクション終了条件が成立していない場合は(ST1-No)、CPU210は、ST1に処理を戻してINJ時の制御を継続する。インジェクション終了条件が成立している場合は(ST1-Yes)、CPU210は、保護制御開始条件が成立しているか否かを判断する(ST2)。前述したように、保護制御開始要件は、図2に示す保護制御テーブル300における「制御開始条件」に掲載の内容、つまり、吐出温度が60℃以上あるいは蒸発圧力が0.3MPa以下、である。
【0078】
保護制御開始条件が成立していなければ(ST2-No)、CPU210は、保護制御に関わる処理を終了する。保護制御開始条件が成立していれば(ST2-Yes)、CPU210は、保護制御を実行する(ST3)、つまり、図2に示す保護制御テーブル300に掲載の4種類の制御のうちのいずれかを実行し、保護制御に関わる処理を終了する。
【0079】
なお、ST2あるいはST3の処理を終了したCPU210は、INJ時から非INJ時に切り替え、インジェクション膨張弁29を閉じるとともに、室外膨張弁24の開度を現在の吐出温度と目標吐出温度の温度差に応じて制御して、暖房運転を継続する。
【0080】
なお、図2に示す保護制御テーブル300に掲載の4種類の制御のうちのいずれを選択しても吐出温度の上昇を抑制することができるが、各制御は以下に説明するそれぞれ異なる特性を有するのでこれら各特性を考慮していずれの制御を選択するのかを決めてもよい。
【0081】
圧縮機回転数制御は、圧縮機20の吐出温度の上昇の抑制に対し即効性がある制御であり、圧縮機回転数制御を行うことで圧縮機20の吐出温度の急激な上昇を素早く抑制できる。この圧縮機回転数制御は、INJ時から非INJ時に切り替えた時点で検出した吐出温度が、図2に示す保護制御テーブル300の制御開始条件の中の吐出温度条件を定めている温度である60℃より大きく高い場合、例えば吐出温度が90℃以上となっている場合に選択される。
【0082】
第1室外膨張弁開度制御は、圧縮機20の吸入圧力の低下の抑制に対して有効な制御である。前述したように、INJ時から非INJ時に切り替えたときは、室外熱交換器22に流入する冷媒の乾き度が大きくなる、つまりは、ガス冷媒の比率が高くなるので、圧縮機20に吸入される冷媒の密度が小さくなって吸入圧力が性能下限値より小さくなる恐れがある。このような場合に、第1室外膨張弁開度制御を行えば、室外熱交換器22に流入する冷媒の乾き度が小さくなって圧縮機20に吸入される冷媒の密度が大きくなるため、吸入圧力の低下を効果的に抑制できる。この第1室外膨張弁開度制御は、INJ時から非INJ時に切り替えた時点で検出した蒸発圧力が、図2に示す保護制御テーブル300の制御開始条件の中の蒸発圧力条件を定めている圧力である0.3MPaより大きく低い場合、例えば蒸発圧力が0.MPa以下となっている場合に選択される。
【0083】
第2室外膨張弁開度制御は、INJ時に室外膨張弁24の開度が大きくされている状態で非INJ時に切り替える際に有効な制御である。この場合に非INJ時に切り替えられたときに上述した第1室外膨張弁開度制御が実行されたことによって室外膨張弁24の開度がINJ時の開度よりさらに大きくされると、室外熱交換器22に流入する冷媒が増えることに起因して室外熱交換器22で蒸発しきらない液冷媒が圧縮機20に吸入される所謂液バックが発生する恐れがある。このような液バックが発生しやすい状況下では、第2室外膨張弁開度制御を行って室外膨張弁24の開度を一定時間(本実施形態では2分間)変化させないつまりは開度を大きくしないことで、圧縮機20への液バック量を減少できる。この第2室外膨張弁開度制御は、INJ時から非INJ時に切り換える直前の室外膨張弁24の開度が大きくされている場合、例えば、室外膨張弁24の開度が最大開度の80%以上の開度とされていることで圧縮機20への液バックが発生する可能性が高い場合に選択される。
【0084】
インジェクション膨張弁開度制御は、INJ時にインジェクション膨張弁29の開度が大きくされている状態で非INJ時に切り替える際に有効な制御である、この場合に非INJ時に切り替えると、圧縮機20に抽入される冷媒量が急激に減少して圧縮機20の内部の温度が急激に上昇して吐出温度が急激に上昇する。上記のような場合に、非INJ時に切り替える際にインジェクション膨張弁29の開度を時間をかけて(本実施形態では5分間で)閉じれば、圧縮機20の内部の温度変化が緩やかになって吐出温度の急激な上昇を抑制できる。このインジェクション膨張弁開度制御は、INJ時から非INJ時に切り換える直前のインジェクション膨張弁29の開度が大きくされている場合、例えば、インジェクション膨張弁29の開度が最大開度の80%以上の開度とされていることで非INJ時に切り換えたときの圧縮機20の内部の温度が急激に変化する場合に選択される。
【0085】
以上説明したように、本実施形態の空気調和装置1では、暖房運転においてINJ時から非INJ時に切り替える際に、図2に示す保護制御テーブル300に掲載した保護制御のうち、INJ時から非INJ時に切り替える際の冷媒回路10の状態に応じていずれかを実行する。これにより、圧縮機20の吐出温度の急激な上昇を抑制して圧縮機20が保護停止することを防止する。
【0086】
なお、以上説明した実施形態では、INJ時から非INJ時に切り替えたときに制御開始条件が成立していれば、一度だけ保護制御テーブル300に掲載した保護制御を実行する場合を説明した。しかし、本発明はこれに限られるものではなく、INJ時から非INJ時に切り替えた時点から所定の期間は、定期的に制御開始条件の成立/不成立を判断し制御開始条件が成立している場合は繰り返し保護制御を実行してもよい。
【0087】
例えば、INJ時から非INJ時に切り替えた時点から5分間は、1分ごとに制御開始条件の成立/不成立を判断して、制御開始条件が成立している場合は保護制御テーブル300に掲載した保護制御を実行する。このように、一定期間の間に複数回保護制御を実行することにより、実際の冷媒回路100の状態の変化に追随した保護制御となるため、より効果的に圧縮機20の吐出温度の急激な上昇を抑制できる。なお、定期的に制御開始条件の成立/不成立を判断して保護制御を実行する場合は、図2の保護制御テーブル300に記載の制御開始条件のそれぞれについて、より上限値に近い値としてもよい。例えば、吐出温度を60℃から90℃とし、蒸発圧力を0.3MPaから0.1MPaとする、というようにしてもよい。
【0088】
また、以上説明した実施形態では、4種類の保護制御のうちのいずれか1つを選択して実行する場合を例に挙げて説明したが、2つ以上の保護制御を組み合わせて実行してもよい。例えば、圧縮機回転数制御と第1室外膨張弁開度制御とを実行する、圧縮機回転数制御と第1室外膨張弁開度制御に加えてインジェクション膨張弁開度制御を全て実行するようにしてもよい。このように複数の保護制御を組み合わせることによって、より効果的に圧縮機20の吐出温度の急激な上昇を抑制できる。
【0089】
さらには、本実施形態では、保護制御の1種である第2室外膨張弁開度制御で「2分間開度を変化させない」としたが、これに代えて、「2分間開度を小さくすることを禁止する」としてもよい。前述したように、INJ時から非INJ時に切り替えた際に第1室外膨張弁開度制御を行って室外膨張弁24の開度を大きくすれば、圧縮機20に吸入される冷媒量が増加して圧縮機20の吐出温度の急激な上昇を抑制できる反面、室外熱交換器22で蒸発しきらない液冷媒が圧縮機20に吸入されて液バックを起こす可能性もある。
【0090】
第2室外膨張弁開度制御を「2分間開度を小さくすることを禁止する」ということは、言い換えれば「室外膨張弁24の開度が大きくなることは許容する」ということである。つまり、圧縮機20への液バックが発生する可能性が低い場合、例えば、INJ時から非INJ時に切り換える直前の室外膨張弁24の開度が小さくされている場合であって、かつ、圧縮機20の吐出温度の上昇が急激な場合は、第2室外膨張弁開度制御を「2分間開度を小さくすることを禁止する」とする方が「2分間開度を変化させない」とする場合と比べて、より効果的に圧縮機20の吐出温度の急激な上昇を抑制できる。一方で、圧縮機20への液バックが発生する可能性が高い場合であって、かつ、圧縮機20の吐出温度の上昇がさほど急激ではない場合は、第2室外膨張弁開度制御を「2分間開度を変化させない」とする方が「2分間開度を小さくすることを禁止する」とする場合と比べて、より効果的に圧縮機20への液バックを抑制できる。
【符号の説明】
【0091】
1 空気調和装置
2 室外機
5a~5c 室内機
20 圧縮機
20a インジェクションポート
22 室外熱交換器
23 過冷却熱交換器
24 室外膨張弁
29 インジェクション膨張弁
30 レシーバ
31 吐出圧力センサ
32 吸入圧力センサ
33 吐出温度センサ
34 吸入温度センサ
36 室外熱交中間温度センサ
37 外気温度センサ
47 インジェクション管
51a~51c 室内熱交換器
52a~52c 室内膨張弁
100 冷媒回路
200 室外機制御手段
210 CPU
220 記憶部
図1
図2
図3