(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】R-T-B系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20231205BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20231205BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20231205BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20231205BHJP
C22C 28/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
B22F3/00 F
B22F3/24 K
C22C28/00 A
(21)【出願番号】P 2020050468
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】古澤 大介
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/133071(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/065481(WO,A1)
【文献】特開2017-188661(JP,A)
【文献】特開2012-207274(JP,A)
【文献】国際公開第2007/102391(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/057
B22F 3/00
B22F 3/24
C22C 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-T-B系焼結磁石(RはNd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも一種、Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種でありFeを必ず含む、Bの一部をCで置換することができる)の製造方法であって、
R-T-B系合金を準備する工程と、
前記R-T-B系合金の微粉末を得る工程と、
前記微粉末の焼結体素材を得る工程と、
R
1(R
1は希土類元素のうち少なくとも一種)を含む拡散源を準備する工程と、
前記拡散源に含まれるR
1を前記焼結体素材の表面から内部に拡散する拡散工程を含み、
前記焼結体素材の密度をd
1、前記R-T-B系焼結磁石の密度をd
2としたときに、d
2が7.3g/cm
3以上、7.8g/cm
3以下であり、d
1/d
2が0.975以上、0.995以下である、R-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記拡散源はさらにM(MはAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Ag、In、Snからなる群から選択される少なくとも1種)を含み、前記拡散工程は、前記拡散源に含まれるR
1およびMを前記焼結体素材の表面から内部に拡散する、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記拡散源における前記Mは、CuおよびGaの少なくとも一方を必ず含み、前記拡散源全体に占めるCuおよびGaの重量割合が合計で2%以上、39%以下である、請求項2に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記拡散源における前記R
1は、PrおよびNdの少なくとも一方を必ず含み、前記拡散源全体に占めるPrおよびNdの重量割合が合計で30%以上、97%以下である、請求項1から3のいずれかに記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記拡散源における前記R
1は、TbおよびDyの少なくとも一方を必ず含み、前記拡散源全体に占めるTbおよびDyの重量割合が合計で1%、50%以下である、請求項1から4のいずれかに記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
気流分散法によるレーザー回折法で得られる前記微粉末の体積基準メジアン径D
50が3.5μm以上、6μm以下である、請求項1から5のいずれかに記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はR-T-B系焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素のうち少なくとも一種であり、Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種でありFeを必ず含み、Bは硼素である)は永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、電気自動車用(EV、HV、PHVなど)モータ、産業機器用モータ、家電製品用モータなどの各種モータに使用されている。
【0003】
R-T-B系焼結磁石は、主としてR2T14B化合物からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。主相であるR2T14B化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性材料であり、R-T-B系焼結磁石の特性の根幹をなしている。
【0004】
R-T-B系焼結磁石は、高温で保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」という場合がある)が低下するため、不可逆熱減磁が起こる。そのため、特に電気自動車用モータに使用されるR-T-B系焼結磁石では、高いHcJを有することが要求されている。
【0005】
R-T-B系焼結磁石において、R2T14B化合物中のRに含まれる軽希土類元素RL(例えば、NdやPr)の一部を重希土類元素RH(例えば、DyやTb)で置換すると、HcJが向上することが知られている。RHの置換量の増加に伴い、HcJは向上する。しかし、特にTbやDyなどのRHは、資源存在量が少ないうえ、産出地が限定されているなどの理由から、供給が安定しておらず、価格が大きく変動するなどの問題を有している。そのため、近年、RHをできるだけ使用することなく、HcJを向上させることが求められている。
【0006】
特許文献1には、TbやDyなどのRHを用いずに高い保磁力を有するR-T-B系希土類焼結磁石の製造方法が開示されている。この焼結磁石の製造方法では、R-T-B系合金焼結体にR、Ga、Cuを含む合金を450℃以上600℃以下の温度で拡散させることにより、主相粒間に厚い二粒子粒界を形成し、高い保磁力を有する焼結磁石が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の方法によれば、RHをできるだけ使用することなくHcJを向上させることが出来る。しかし、近年特に電気自動車用モータなどにおいてRHを出来るだけ使用することなく更に高い残留磁束密度Br(以下、単に「Br」という場合がある)と高いHcJを得ることが求められている。
【0009】
本開示の様々な実施形態は、RHの含有量を低減しつつ、高いBrと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法は、R-T-B系焼結磁石(RはNd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも一種、Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種でありFeを必ず含む、Bの一部をCで置換することができる)の製造方法であって、R-T-B系合金を準備する工程と、R-T-B系合金の微粉末を得る工程と、微粉末の焼結体素材を得る工程と、R1(R1は希土類元素のうち少なくとも一種)を含む拡散源を準備する工程と、拡散源に含まれるR1を焼結体素材の表面から内部に拡散する拡散工程を含み、焼結体素材の密度をd1、R-T-B系焼結磁石の密度をd2としたときに、d2が7.3g/cm3以上、7.8g/cm3以下であり、d1/d2が0.975以上、0.995以下である。
【0011】
ある実施形態において、拡散源はさらにM(MはAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Ag、In、Snからなる群から選択される少なくとも1種)を含み、拡散工程は、拡散源に含まれるR1およびMを焼結体素材の表面から内部に拡散する。
【0012】
ある実施形態において、拡散源におけるMは、CuおよびGaの少なくとも一方を必ず含み、拡散源全体に占めるCuおよびGaの重量割合が合計で2%以上、39%以下である。
【0013】
ある実施形態において、拡散源におけるR1は、PrおよびNdの少なくとも一方を必ず含み、拡散源全体に占めるPrおよびNdの重量割合が合計で30%以上、97%以下である。
【0014】
ある実施形態において、拡散源におけるR1は、TbおよびDyの少なくとも一方を必ず含み、拡散源全体に占めるTbおよびDyの重量割合が合計で1%、50%以下である。
【0015】
ある実施形態において、気流分散法によるレーザー回折法で得られる微粉末の体積基準メジアン径D50が3.5μm以上、6μm以下である。
【発明の効果】
【0016】
本開示の様々な実施形態は、RHの含有量を低減しつつ、高いBrと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは検討の結果、完全に緻密化していないR-T-B系合金焼結体素材(以降、焼結体素材という。RはNd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも一種であり、Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種でありFeを必ず含み、Bは硼素であり一部をCで置換することができる)の密度と、焼結体素材にR1(R1は希土類元素の少なくとも一種)を含む拡散源を拡散させたR-T-B系焼結磁石の密度との比を特定の範囲に調整することで、焼結体素材の密度が低くなることによるBrの低下を抑制しつつ、拡散源が効率的に焼結体素材に拡散しやすくなることによるHcJ向上の効果を見出した。より詳しくは、焼結体素材の密度をd1、拡散させたR-T-B系焼結磁石の密度をd2としたとき、d2が7.3g/cm3以上、7.8g/cm3以下であり、d1/d2が0.975以上0.995以下となるようにすることで、高いBrと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石が得られることを見出した。特にHcJの向上では、焼結体素材に空隙が存在することで主相粒の表面エネルギーが高い状態となるため、熱処理中に拡散源の少なくとも一部が液相になって焼結体素材表面に付着し、主相粒の表面エネルギーを低下させるように液相が主相粒表面を濡らしながら深部まで移動したことによると考えられる。その結果、保磁力向上に有効なR1が多量に、あるいは深部まで拡散することができたと考えられる。
【0018】
また別の効果として、短時間の拡散処理でHcJ向上に有効なR1を十分量拡散できることを見出した。拡散させたR-T-B系焼結磁石の密度と同程度の密度の焼結体素材では、拡散源中のR1は単純に液相や固相を拡散していくが、拡散させたR-T-B系焼結磁石の密度より特定の範囲で低い密度の焼結体素材ではそれに加えて液相自体が空隙を埋めるように移動する。その液相の移動が短時間で起こるため、短時間の拡散処理でもHcJ向上に有効なR1を十分量拡散できると考えられる。
【0019】
[製造方法の限定理由について]
【0020】
<工程A>R-T-B系合金を準備する工程
本開示のR-T-B系合金は、原料を溶解後鋳型に流し込むなどでインゴットを作製する方法や、ストリップキャスト法などでフレークを作製する方法、超急冷法などでリボンを作製する方法、アトマイズ法などで粉末を作製する方法などといった公知の方法を採用できる。結晶粒粗大化や異相の低減などを目的として、作製した合金を熱処理してもよい。また、作製した、あるいは熱処理した合金を、脆化を目的として水素処理を行ってもよい。
【0021】
<工程B>R-T-B系合金の微粉末を得る工程
工程Aで得られた合金を粉砕して微粉末を得る。微粉末は、1種類の合金から得られた微粉末(単合金粉末)を用いてもよいし、2種類以上の合金から得られた微粉末を混合することにより得られる微粉末(混合合金粉末)を得る、いわゆる2合金法を用いてもよい。微粉砕をおこなう前に予備粉砕をおこなってもよい。予備粉砕方法としては、ジョークラッシャーやハンマーミル、ローラーミルなどの公知の方法を採用できる。微粉砕の方法としては、ジェットミルやスタンプミル、ボールミルなどの公知の方法を採用できる。微粉砕時に、微粉砕の効率化のために粉砕助剤を添加してもよい。粉砕助剤には、ステアリン酸亜鉛などの公知の助剤を使用できる。粉末の酸化の抑制、および発火や爆発の危険性の低減のために、窒素やアルゴン、ヘリウムといった不活性ガス中で粉砕をおこなう。粉砕後の微粉末のハンドリング性の向上のために不活性ガスに少量の空気や水、酸素を混合してもよい。なお、アトマイズ法などで直接微粉末が得られる場合には粉砕工程を省略することができる。微粉末の粒度は気流分散法によるレーザー回折法で得られたD50(頻度の累積が50%になるときの粒子の体積基準メジアン径)が1μm以上、20μm以下が好ましい。D50が1μm未満であると、発火の危険性が高くなったり、成形時に金型を傷めたりするため好ましくない。また、D50が20μmより大きいとHcJが低くなるため好ましくない。また、合金の微粉末のD50は3.5μm以上、6μm以下がより好ましい。D50が3.5μm以上、6μm以下であると、密度の低い焼結体を作製する際に、焼結温度や焼結時間が調整しやすくなり、焼結処理前に存在する組織の均一性が得られるため、Brの低下を抑制しつつ、より高いHcJの焼結体素材が得られる。
【0022】
<工程C>R-T-B系合金の微粉末から焼結体素材を得る工程
得られた微粉末を焼結し、焼結体素材を得る。焼結工程の前に、成形をおこなってもよい。成形の際、微粉末を配向させるために成形時に磁界を印加しながら成形することが好ましい。また成形は、金型のキャビティー内に乾燥した微粉末を挿入し成形する乾式成形法、金型のキャビティー内にスラリー(分散媒中に合金粉末が分散している)を注入しスラリーの分散媒を排出しながら成形する湿式成形法を含む公知の方法を採用することができる。焼結方法は、真空や不活性ガス雰囲気で高温に保持して固相焼結や液相焼結を進行させる方法や、微粉末の成形体や集合体に圧力を付与しながら高温に保持する方法などが採用できる。操業コストなどの面から、真空や不活性ガス雰囲気で固相焼結や液相焼結をおこなうことがましい。なお、焼結時の雰囲気による酸化を防止するために、焼結は真空雰囲気中やアルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス中でおこなうことが好ましい。
【0023】
<工程D>拡散源を準備する工程
拡散源はR1(R1は希土類元素のうち少なくとも一種)を含む。R1は焼結体素材に拡散して主相の希土類元素と置換して異方性磁界を向上させたり、二粒子粒界に入り込んで主相粒間を磁気的に分断させたりする役割がある。拡散源は好ましくはR1とM(MはAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Ag、In、Snからなる群からなる群から選択される少なくとも1種)を必ず含む。R1とMの合金を拡散源にした場合、多くの場合で液相が生成する温度が低下する。これにより、拡散する際の処理温度をより低温にすることができたり、液相の濡れ性が向上することでより焼結体素材へと拡散源を拡散しやすくしたりすることができる。なお、拡散源はフッ化物や水素化物、酸化物の状態で拡散してもよい。
【0024】
拡散源におけるR1は、好ましくはPrおよびNdの少なくとも一方を必ず含み、拡散源全体に占めるPrおよびNdの少なくとも一方の重量割合が合計で30%以上、97%以下である。PrやNdは希土類元素の中でも比較的深部まで拡散しやすい元素であり、また、二粒子粒界を厚くするために必要な元素である。また、多くの場合焼結体素材の主相を構成する希土類元素はNdやPrであり、主相の希土類元素と置換することによる異方性磁界の低下の懸念が少ない。拡散源全体に占めるPrおよびNdの少なくとも一方の重量割合が合計で30%未満であると、HcJの向上効果が低くなるため好ましくない。また、拡散源全体に占めるPrおよびNdの少なくとも一方の重量割合の合計が97%より大きいと、液相生成温度が高くなって液相ができにくいことや、液相の濡れ性が悪くなるため好ましくない。なお、拡散源のR1は、PrおよびNdの少なくとも一方を必ず含み、他の希土類元素を含んでもよい。
【0025】
また、拡散源におけるR1は、好ましくはTbおよびDyの少なくとも一方を必ず含み、拡散源全体に占めるR1の重量割合が合計で1%以上、50%以下である。TbやDyは重希土類元素RHであり、拡散させて焼結体素材の主相の希土類元素と置換することで主相の異方性磁界を大幅に向上させることができる。拡散源全体に占めるTbおよびDyの少なくとも一方の重量割合の合計が1%未満であると、HcJ向上の十分な効果が得られないため好ましくない。また、拡散源全体に占めるTbおよびDyの少なくとも一方の重量割合の合計が50%より大きいと、RHを低減する効果が得られにくくなり好ましくない。なお、拡散源のR1は、TbおよびDyの少なくとも一方を必ず含み、他の希土類元素を含んでもよい。
【0026】
また、拡散源におけるMは、CuおよびGaの少なくとも一方を必ず含み、拡散源全体に占めるMの重量割合が合計で2%以上、39%以下である。CuやGaと希土類元素の合金は比較的融点が低く、液相の濡れ性も良好である。また、CuやGaは希土類元素と鉄族遷移金属元素と反応してLa6Co11Ga3型結晶構造の化合物を作ることが知られている。この化合物は比較的磁化が低く、この化合物が形成される際に二粒子粒界などに存在するFeが使われるため、二粒子粒界の磁性を弱くすることで焼結体素材の主相間を磁気的に分断することができ、高保磁力化の役割も担っている。拡散源全体に占めるCuおよびGaの少なくとも一方の重量割合の合計が2%未満であると、液相生成温度が高くなって液相ができにくいことや、濡れ性が悪くなるため好ましくない。また、拡散源全体に占めるCuおよびGaの少なくとも一方の重量割合の合計が39%より大きいと、希土類元素や他の元素によるHcJ向上効果が低くなるため好ましくない。
【0027】
拡散源の作製方法としては、原料を溶解後鋳型に流し込むなどでインゴットを作製する方法や、ストリップキャスト法などでフレークを作製する方法、超急冷法などでリボンを作製する方法、アトマイズ法などで粉末を作製する方法、拡散元素を含有する溶液を作製する方法などといった公知の方法を採用できる。また、作製した拡散源を脆化などの目的で水素処理してもよい。また、作製した、あるいは水素処理した拡散源を扱いやすくするために粉砕してもよい。粉砕方法としては、ジョークラッシャーやハンマーミル、ローラーミル、ジェットミル、スタンプミル、ボールミルといった公知の方法を採用できる。
【0028】
<工程E>拡散工程
拡散源の少なくとも一部を焼結体素材の表面から内部に拡散する拡散処理をおこなう。拡散源と焼結体素材は完全に接触させた状態で拡散してもよいし、バレル処理のように間欠的に接触させて拡散してもよいし、スパッタ法や蒸着法のように拡散源を焼結体素材から離した状態で拡散処理をおこなってもよい。拡散処理後の焼結磁石に、HcJ向上などを目的とした熱処理をおこなってもよい。熱処理時は雰囲気による酸化を防止するために、真空雰囲気中やアルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス中でおこなうことが好ましい。得られた焼結磁石は、切断や切削など公知の機械加工や、耐食性を付与するためのめっきなど、公知の表面処理をおこなうことができる。
【0029】
(密度の限定理由)
焼結体素材の密度をd1、焼結磁石の密度をd2とすると、d2は7.3g/cm3以上、7.8g/cm3以下であり、d1/d2は0.975以上、0.995以下となるようにする。焼結磁石の密度d2は焼結磁石の構成相比率や相中の元素などにもよるが、ほぼ緻密である場合、一般的には7.3g/cm3以上、7.8g/cm3以下の範囲である。焼結体素材としては、完全に緻密化しておらず焼結磁石よりも密度の低いものを用意する。具体的には、d1/d2が0.975以上、0.995以下である。d1/d2が0.995よりも大きい場合、HcJ向上に有用な元素を十分導入することができないため好ましくない。また、d1/d2が0.975未満であると、焼結磁石の主相比率が低下し十分なBrを確保できないため好ましくない。
【実施例】
【0030】
本開示の実施形態を実施例によりさらに詳細に説明するが、実施例に限定されるものではない。
【0031】
表1に示す拡散源の試料No.A1を作製した。純度が99%以上のPr、Tb、Ga、Cuの原料を、溶解時の希土類元素の蒸発を加味し、試料No.A1の合金組成がねらい値になるように秤量した。その後、液体超急冷装置(メルトスピニング装置)の石英出湯管内で十分に溶解して合金の溶湯を形成した後、20m/sのロール周速度で回転するCu製のロール上に溶湯を出湯した。このようにして作製したリボン状の合金を窒素流気チャンバー中で粉砕した。粉砕して得られた合金粉末を425μmメッシュおよび75μmメッシュを用いて分級した。得られた粒径75~425μmの合金粉末を拡散源A1とした。試料No.A1をICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法にてPr、Tb、Ga、Cuの成分分析をおこなった。試料No.A1の組成を表1に示す。
【0032】
【0033】
表2に示す焼結体素材の試料No.b1~b5がねらい組成となるように、R-T-B系合金の微粉末を作製した。各元素を秤量してストリップキャスト法により鋳造し、厚み0.2~0.4mmのフレーク状の合金を得た。得られたフレーク状の合金を水素粉砕した後、550℃まで真空中で加熱後冷却する脱水素処理を施して粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100mass%に対して0.04mass%添加、混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素気流中で乾式粉砕し、合金微粉末を得た。得られた微粉末の粒径D50(体積基準メジアン径)を気流分散法によるレーザー回折法で測定した。
【0034】
合金微粉末を有機系分散媒および離型剤と混合しスラリーを作製した。作製したスラリーを磁界中で成形して成形体を得た、成形時の磁界は1.3MA/mで、加圧力は5MPaとした。なお、成形装置には、磁界印加方向と加圧方向とが直交する、いわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。得られた成形体を、200Paに制御した減圧アルゴン中で、所定の温度で4時間焼結し、焼結体素材である試料No.b1~b5を得た。得られた試料No.b1~b5の密度を、イオン交換水を用いたアルキメデス法により求めた。また、得られた試料No.b1~b5の一部を乳鉢で粉砕し、425μmメッシュおよび75μmメッシュを用いて分級した。粒径75~425μmの粉砕粉を用いて、ICP発光分光分析法にてNd、Fe、Pr、B、Al、Cu、Ga、Tb、Mn、Si、Crの成分分析を、燃焼・赤外線吸収法にて炭素量の分析をおこなった。また、粒径425μm以上の粉砕粉を用いて、不活性ガス溶融・熱伝導法にて酸素量・窒素量の分析をおこなった。焼結体素材の試料No.b1~b5の合金微粉末におけるD50、焼結処理温度、焼結体素材密度、焼結体素材組成を表2に示す。
【0035】
【0036】
試料No.b1~b5焼結体素材を切断、切削加工し、4.4mm×10mm×11mmの直方体とした。成形時の磁界印加方向の長さが4.4mm、成形時の圧力印加方向の長さが10mmとなるように切削加工した。表3の試料No.B1~B5で用いた焼結体素材には拡散源を付着させず、No.B6~B12で用いた焼結体素材には切削加工後の焼結体素材の10mm×11mmの面(2面)に粘着剤として5%PVA(ポリビニルアルコール)水溶液を塗布したのち、焼結体素材100mass%に対して1面につき2.5mass%(2面で計5mass%)の拡散源を付着させた。そして、真空熱処理炉を用いて200Paに制御した減圧アルゴン中で、試料No.B1~B9、B11は900℃×10hの熱処理をおこない、試料No.B10、B12は900℃×5hの熱処理を行った。試料No.B6~B8は追加で500℃×3hの熱処理をおこない、R-T-B系焼結磁石を得た。その後、試料No.B6~B12はR-T-B系焼結磁石の拡散源が付着している2面を研削して4mm×10mm×11mmの直方体に加工したのち、それぞれ切断加工して4mm×4mm×4mmの立方体試料を2個作製した。この立方体試料のうち1個はイオン交換水を用いたアルキメデス法により密度測定したのち、B-HトレーサによってBrおよびHcJの測定をおこなった。また、残りの1個はICP発光分光分析法にてNd、Fe、Pr、B、Al、Cu、Ga、Tb、Mn、Si、Crの成分を、試料を全量溶解することで分析した。また、この成分分析結果と拡散源の塗布量をもとに、拡散源に含まれる各元素の導入率を計算した。表3に、用いた焼結体素材、合金微粉末におけるD50、焼結体素材密度d1、焼結磁石密度d2、d1とd2の比(d1/d2)、拡散源の有無、熱処理条件、4mm角のICP分析結果、導入率、磁気特性(Br、HcJ)の結果を示す。
【0037】
【0038】
試料No.B1~B12の試料はいずれもBrが1.4Tを超える高い値となった。拡散源を塗布していない試料No.B1~B5はいずれもHcJが200kA/mを下回るような非常に低い値となった。それに対して、拡散源を塗布した試料No.B6~B12の試料はHcJが1000kA/mを超える値となった。また、拡散源を塗布した試料No.B6~B12のHcJは、同じ合金微粉末D50で比較した際に、焼結体素材密度d1と焼結磁石密度d2の比d1/d2が0.975以上0.995以下である場合に高いHcJが得られた。例えば、合金微粉末のD50が4.6μmの試料No.B6~B8の試料を比較した際にd1/d2が0.995を超える試料No.B6やB7の試料よりもd1/d2が0.975以上0.995以下の範囲にある試料No.B8の試料の方がHcJが高い結果となった。試料No.B6~B8の試料に関して、4mm角のICP分析結果に着目すると、拡散源の構成元素であるPr、Cu、Ga、Tbはいずれも試料No.B8の試料が一番高い含有量を示しており、拡散源の導入率に換算しても一番導入率が高いのは試料No.B8の試料であった。また、合金微粉末のD50が6.9μmの試料No.B9~B12の試料を比較しても、同様にd1/d2が0.975以上0.995以下の範囲にある試料No.B11とB12の方が拡散源の導入率が高く、HcJが高い結果となった。次に、熱処理時間の異なる試料No.B9とB10、および試料No.B11とB12の試料を比較する。熱処理時間が試料No.B9より短い試料No.B10の試料は、試料No.B9の試料と比べて各元素の導入率が低く、HcJも100kA/m以上低い結果となった。それに対して、熱処理時間が試料No.B11より短い試料No.B12の試料は各元素の導入率が試料No.B11と大差なく、HcJの低下も50kA/m以内に収まる結果となった。試料No.B9とB12を比較すると、試料No.B12の方が熱処理時間が短時間であるにも関わらず、各元素の導入率が高くHcJも高い結果となった。