(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】パターン膜の形成方法、パターン膜及び物品
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20231205BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20231205BHJP
B05D 3/06 20060101ALI20231205BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
G03F7/20 501
B05D7/24 301E
B05D7/24 301T
B05D3/06 Z
B05D3/00 D
(21)【出願番号】P 2020054432
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 喜己
【審査官】菅原 拓路
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-140193(JP,A)
【文献】国際公開第2015/030198(WO,A1)
【文献】特開昭60-010243(JP,A)
【文献】特許第7211180(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/00
H01L 21/027
B05D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、活性エネルギー線の照射により硬化する第1液体を含む分散粒子と、前記活性エネルギー線の照射により硬化しない第2液体を含む分散媒とを含むエマルジョンからなる膜を形成することと、
前記膜に前記活性エネルギー線を、前記活性エネルギー線の照射領域と非照射領域におけるパターンの高低差が最大となる積算光量を超える積算光量でパターン状に照射して、前記活性エネルギー線を照射した領域に存在する前記第1液体を硬化させることと、
前記活性エネルギー線の照射後に、前記膜から前記第2液体の少なくとも一部を除去することと、
前記第2液体の少なくとも一部を除去した前記膜が含んでいる未硬化の前記第1液体を硬化させることと
を含むパターン膜の形成方法。
【請求項2】
基材上に、活性エネルギー線の照射により硬化する第1液体を含む分散粒子と、前記活性エネルギー線の照射により硬化しない第2液体を含む分散媒とを含むエマルジョンからなる膜を形成することと、
前記膜に前記活性エネルギー線を、前記活性エネルギー線の照射領域と非照射領域におけるパターンの高低差が最大となる積算光量を超える積算光量でパターン状に照射して、前記活性エネルギー線を照射した領域に存在する前記分散粒子を硬化させ、前記分散粒子の硬化物からなる粒状層を形成することと、
前記活性エネルギー線の照射後に、前記膜から前記第2液体の少なくとも一部を除去して、未硬化の前記第1液体の少なくとも一部を、前記活性エネルギー線を照射していない領域から前記粒状層へと移動させることと、
前記第2液体の少なくとも一部を除去した前記膜が含んでいる未硬化の前記第1液体を硬化させることと
を含むパターン膜の形成方法。
【請求項3】
前記パターン膜が、前記活性エネルギー線の非照射領域に、前記分散粒子の硬化物が堆積することにより形成された傾斜を有する側壁を備える、請求項2に記載のパターン膜の形成方法。
【請求項4】
前記活性エネルギー線の非照射領域に堆積し、前記側壁の傾きを形成する前記分散粒子の硬化物が、前記活性エネルギー線の照射領域から非照射領域に移動した前記分散粒子の硬化物である、請求項3に記載のパターン膜の形成方法。
【請求項5】
前記膜への活性エネルギー線の照射が、前記活性エネルギー線の照射領域と非照射領域におけるパターンの高低差が最大となる積算光量をE
Mとし、前記活性エネルギー線の積算光量をE
Mから増大したときに前記高低差の変化が飽和に達するときの積算光量をE
Sとした場合に、E
Mより大きく、且つ、E
Sより小さい積算光量で活性エネルギー線を照射することを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のパターン膜の形成方法。
【請求項6】
前記膜への活性エネルギー線の照射が、[(E
S-E
M)×5%+E
M]乃至[(E
S-E
M)×95%+E
M]の範囲にある積算光量で活性エネルギー線を照射することを含む、請求項5に記載のパターン膜の形成方法。
【請求項7】
前記膜への活性エネルギー線の照射が、前記膜の1つ又は複数の第1領域に対して第1積算光量で活性エネルギー線を照射すること、及び、1つ又は複数の第2領域に対して前記第1積算光量とは異なる第2積算光量で活性エネルギー線を照射することを含み、前記第1積算光量及び前記第2積算光量は前記高低差が最大となる積算光量より大きい、請求項1~6のいずれか1項に記載のパターン膜の形成方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法で得られるパターン膜。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法で得られるパターン膜と、前記パターン膜を支持した基材を備えた物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターン膜の形成方法、パターン膜及び物品に関する。
【背景技術】
【0002】
パターン膜の形成方法として、紫外線や電子線などの活性エネルギー線の照射を利用する方法やブロック共重合体などの自己組織化材料を用いる方法など様々な方法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-260330号公報
【文献】特開2016-197176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
未開拓の技術領域を切り開くためには、特殊な構造を有する新規なパターン膜の開発や、任意の形状、構造又はサイズを有するパターン膜を、高い自由度をもって簡便に提供することが可能な新規なパターン膜の形成方法を開発することが望まれる。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑み、特殊な構造を有しているパターン膜を簡便に製造することができるパターン膜の形成方法、並びに、特殊な構造を有しているパターン膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1側面によると、基材上に、活性エネルギー線の照射により硬化する第1液体を含む分散粒子と、上記活性エネルギー線の照射により硬化しない第2液体を含む分散媒とを含むエマルジョンからなる膜を形成することと、
上記膜に上記活性エネルギー線を、上記活性エネルギー線の照射領域と非照射領域におけるパターンの高低差が最大となる積算光量を超える積算光量でパターン状に照射して、上記活性エネルギー線を照射した領域に存在する上記第1液体を硬化させることと、
上記活性エネルギー線の照射後に、上記膜から上記第2液体の少なくとも一部を除去することと、
上記第2液体の少なくとも一部を除去した上記膜が含んでいる未硬化の上記第1液体を硬化させることと
を含むパターン膜の形成方法が提供される。
【0007】
本発明の第2側面によると、基材上に、活性エネルギー線の照射により硬化する第1液体を含む分散粒子と、上記活性エネルギー線の照射により硬化しない第2液体を含む分散媒とを含むエマルジョンからなる膜を形成することと、
上記膜に上記活性エネルギー線を、上記活性エネルギー線の照射領域と非照射領域におけるパターンの高低差が最大となる積算光量を超える積算光量でパターン状に照射して、上記活性エネルギー線を照射した領域に存在する上記分散粒子を硬化させ、上記分散粒子の硬化物からなる粒状層を形成することと、
上記活性エネルギー線の照射後に、上記膜から上記第2液体の少なくとも一部を除去して、未硬化の上記第1液体の少なくとも一部を、上記活性エネルギー線を照射していない領域から上記粒状層へと移動させることと、
上記第2液体の少なくとも一部を除去した上記膜が含んでいる未硬化の上記第1液体を硬化させることと
を含むパターン膜の形成方法が提供される。
【0008】
本発明の第3側面によると、第1側面又は第2側面に係るパターン膜の形成方法により形成されたパターン膜が提供される。
【0009】
本発明の第4側面によると、第1側面又は第2側面に係るパターン膜の形成方法により形成されたパターン膜と、上記パターン膜を支持する基材を備えた物品が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特殊な構造を有しているパターン膜を簡便に製造することができるパターン膜の形成方法、並びに、特殊な構造を有しているパターン膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係るパターン膜の形成方法により形成された、パターン膜を備えた物品の一例を概略的に示す断面図。
【
図2】第1実施形態に係るパターン膜の形成方法により形成された、パターン膜を備えた物品の他の例を概略的に示す断面図。
【
図3】エマルジョンからなる膜が基材上に形成された状態の一例を概略的に示す断面図。
【
図4】紫外線のパターン照射により、紫外線の照射領域に存在する分散粒子が硬化し、分散粒子の硬化物からなる粒状層が形成された状態の一例を概略的に示す断面図。
【
図5】膜から第2液体の除去を開始することにより、紫外線の非照射領域において分散粒子の合一が起こった状態の一例を概略的に示す断面図。
【
図6】紫外線の非照射領域において分散粒子の合一が更に進行し、分散粒子の合一体が、分散粒子の硬化物からなる粒状層に浸透し、拡散していく状態の一例を概略的に示す断面図。
【
図7】第2液体の除去が完了し、分散粒子の合一体が粒状層に完全に移動した状態の一例を概略的に示す断面図。
【
図8】紫外線の全面照射により、未硬化の第1液体を硬化させた状態の一例を概略的に示す断面図。
【
図9】活性エネルギー線の積算光量と、活性エネルギー線の照射領域と非照射領域におけるパターン高低差との関係を模式的に示すグラフ。
【
図10】活性エネルギー線の積算光量と、パターン側壁部の傾きとの関係を模式的に示すグラフ。
【
図11】実施例で調製した第1乃至第3エマルジョンの粒度分布を示すグラフ。
【
図12】ラインアンドスペースパターン膜の厚さ方向の断面プロファイル(a)と、断面プロファイル(a)を微分処理して得られる微分波形ピーク(b)。
【
図13】活性エネルギー線の積算光量と、活性エネルギー線の照射領域と非照射領域におけるパターン高低差との関係を示すグラフ。
【
図14】活性エネルギー線の積算光量と、パターン側壁部の傾きとの関係を示すグラフ。
【
図15】実施例で調製した第1乃至第3エマルジョンを使用し、積算光量(露光量)を変更して形成されたラインアンドスペースパターン膜の光学顕微鏡写真。
【
図16】第1液体を含む分散粒子(エマルジョン液滴)の重合熱による液膜内対流の発生を時系列で示す写真。
【
図17】第1液体を含む分散粒子(エマルジョン液滴)の重合熱による液膜内対流の発生のメカニズムを説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は、上記側面の何れかをより具体化したものである。なお、同様又は類似した機能を有する要素については、同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
[第1実施形態]
図1は、本発明の実施形態に係る物品の一例を概略的に示す断面図である。
図2は、本発明の実施形態に係る物品の他の例を概略的に示す断面図である。
【0014】
図1及び
図2に示す物品は、基材1とパターン膜2とを含んでいる。
基材1の材質及び形状は任意である。基材1は、滑らかな表面を有していることが望ましい。基材1としては、例えばフィルムやシートを使用することができる。
【0015】
パターン膜2は、基材1によって支持されている。
図1及び
図2に示す例では、パターン膜2は、ラインアンドスペースパターンを形成している。パターン膜2は、ラインアンドスペースパターン以外のパターンを形成していてもよい。
【0016】
パターン膜2は、例えば、後述する本発明の実施形態に係るパターン膜の形成方法(以下において、「本実施形態に係るパターン形成方法」又は単に「本実施形態」ともいう。)により形成することができる。この方法は、パターン膜形成用組成物としてエマルジョンを使用し、エマルジョンの自己組織化による相分離構造を利用してパターン膜を形成する技術(以下において、エマルジョン形質変化型パターニング技術(Emulsion Transforming Method for Patterning)又はET法と称する。)を利用したものである。
【0017】
ET法では、エマルジョンとして、活性エネルギー線の照射により硬化する第1液体を含む分散粒子と、活性エネルギー線の照射により硬化しない第2液体を含む分散媒とを含むエマルジョンが用いられる。
【0018】
詳細は後述するが、ET法は、基本工程として、このエマルジョンからなる膜を形成すること、上記膜に活性エネルギー線をパターン状に照射して、活性エネルギー線を照射した領域に存在する第1液体を硬化させることと、活性エネルギー線の照射後に、上記膜から第2液体の少なくとも一部を除去することと、第2液体の少なくとも一部を除去した上記膜が含んでいる未硬化の第1液体を硬化させることとを含む。
【0019】
また、ET法は換言すると、基本工程として、上記エマルジョンからなる膜を形成すること、上記膜に活性エネルギー線をパターン状に照射して、活性エネルギー線を照射した領域に存在する上記分散粒子を硬化させ、上記分散粒子の硬化物からなる粒状層を形成すること、活性エネルギー線の照射後に、上記膜から第2液体の少なくとも一部を除去して、未硬化の第1液体の少なくとも一部を、活性エネルギー線を照射していない領域から上記粒状層へと移動させること、第2液体の少なくとも一部を除去した上記膜が含んでいる未硬化の第1液体を硬化させることを含む。
【0020】
図1及び
図2のパターン膜2は、上記ET法において、活性エネルギー線の積算光量を調整することにより形成することができる。パターン膜2は、後述する分散粒子の硬化物21b1と重合相21b2とを含み、硬化物21b1は、粒状層21bを形成している。
【0021】
また、パターン膜2は、活性エネルギー線の非照射領域RSに、傾斜を有する側壁2cを備えている。側壁2cの傾きを構成している分散粒子の硬化物21b1は、活性エネルギー線の照射領域RLから非照射領域RSに移動してきた分散粒子の硬化物である。この硬化物21b1の移動は、活性エネルギー線の照射により生じる重合発熱に起因する、上記エマルジョンからなる膜内の流れ(液膜内対流)によるものであり、詳細は詳述する。
【0022】
このように、パターン膜2の側壁2cは、照射領域RLから非照射領域RSに移動してきた分散粒子の硬化物21b1が堆積することにより形成され、硬化物21b1の堆積厚みが連続的に変化してなる傾斜を有している。このような側壁2cを備えるパターン膜は、上記の通り、活性エネルギー線の積算光量を調整することにより形成することができる。すなわち、活性エネルギー線の積算光量(以下において、「露光量」ともいう。)が、所定の積算光量を超えるように、活性エネルギー線を上記エマルジョンからなる膜にパターン照射することにより形成することができる。ここで、所定の積算光量とは、活性エネルギー線の照射領域と非照射領域におけるパターンの高低差が最大となる積算光量を超える積算光量(以下において、“EM”とも表記する。)であり、詳細は後述する。
【0023】
図1及び
図2のパターン膜2は、いずれも、非照射領域R
Sに、分散粒子の硬化物21b1の堆積厚みが連続的に変化してなる側壁2cを有するが、その傾きは、
図2のパターン膜2の方が、
図1のパターン膜2よりなだらかである。これは、上記ET法における活性エネルギー線の積算光量の相違に起因するものである。すなわち、
図1のパターン膜2において使用した積算光量をE
1、
図2のパターン膜2において使用した積算光量をE
2としたとき、E
1とE
2は上記積算光量E
Mより大きく(E
1>E
M、E
2>E
M)、且つ、第2積算光量E
2は第1積算光量E
1より大きい(E
1<E
2)関係にある。
【0024】
このように、後述する本実施形態に係るパターン形成方法によれば、活性エネルギー線の積算光量を変化させるだけで、硬化物21b1の堆積により形成される側壁2cの傾きが異なるパターン膜を得ることができる。
【0025】
パターン膜2は、例えば、以下に説明する本実施形態に係るパターン形成方法により形成することができる。まず、ET法に含まれる基本的な工程について、
図3~
図8を参照しながら、エマルジョンの調製、膜の形成、活性エネルギー線の照射、第2液体の除去、及び、パターンの定着の順に説明する。
【0026】
<エマルジョンの調製>
先ず、活性エネルギー線の照射により硬化する第1液体を含む分散粒子と、活性エネルギー線の照射により硬化しない第2液体を含む分散媒とを含むエマルジョンを調製する。
エマルジョンは、水中油型(O/W型)エマルジョンであってもよいし、油中水型(W/O型)エマルジョンであってもよい。
【0027】
分散粒子は、活性エネルギー線の照射により硬化する第1液体を含む。活性エネルギー線としては、例えば、可視光、紫外線、電子線、及びX線が挙げられる。第1液体としては、例えば、アクリル系モノマー若しくはオリゴマー、メタクリル系モノマー若しくはオリゴマー、エポキシ系モノマー若しくはオリゴマー、又はそれらの1以上を含んだ混合物を用いることができる。第1液体としては、選択肢が広いことや物性調整の自由度が大きいことなどの利点から、アクリル系モノマー若しくはオリゴマー、又は、メタクリル系モノマー若しくはオリゴマーを用いることが好適である。第1液体としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレートなどを用いることができる。第1液体中にモノマー及びオリゴマーが占める割合は、例えば30乃至100質量%である。
【0028】
なお、活性エネルギー線の照射により硬化する液体は、親油性であるもののほうが、親水性であるものよりも種類が多い。従って、O/W型エマルジョンのほうが、W/O型エマルジョンよりも材料選択の自由度が高い。
【0029】
分散媒は、活性エネルギー線の照射により硬化しない第2液体を含む。第1液体が親油性である場合、第2液体は、親水性液体、例えば水、メタノールやエタノールなどの低級アルコール、又はそれらの混合物とすることができる。他方、第1液体が親水性液体である場合、第2液体は、親油性液体、例えばイソパラフィン系溶剤やミネラルスピリットなどとすることができる。
【0030】
分散粒子のサイズは、形成すべきパターンサイズにも依存するが、0.5μm乃至0.5mmの平均粒径を有することが好ましい。ここで、「平均粒径」は、レーザー回折・散乱法に従った粒度分布測定によって得られる重量平均径である。分散粒子が上記サイズを有すると、後の工程で、未硬化の第1液体を粒子間の隙間へ効率良く浸透させることができる。
【0031】
また、エマルジョン中に分散粒子が占める割合は、好ましくは25質量%以上である。分散粒子がエマルジョン中で上記割合を占めると、活性エネルギー線を照射した領域の温度を、重合熱を有効に利用して上昇させることによって、第1液体を含む分散粒子の分散状態を不安定化させると同時に凝集層を形成させることができる。また、エマルジョン中に分散粒子が占める割合の上限は、エマルジョンの転相が生じない範囲であればよく、特に限定するものではない。一例によれば、この割合は70~80質量%以下である。
【0032】
第1液体は、光重合開始剤を更に含んでいてもよい。光重合開始剤としては、公知の光重合開始剤、例えば、アルキルフェノン系光重合開始剤を用いることができる。アルキルフェノン系光重合開始剤としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが挙げられる。第1液体は、光重合開始剤を、モノマー及びオリゴマーの合計量100質量部に対して、例えば0.1乃至10質量部の量で含むことができる。
【0033】
エマルジョンが例えばO/W型である場合、分散粒子は、第1液体に加えて、ハイドロホーブを含んでいてもよい。ハイドロホーブとしては、例えば、セチルアルコールなど水への溶解性が低い高級アルコール、ヘキサデカン、炭化水素鎖の分子量が比較的大きいラウリルメタクリレートやステアリルメタクリレートなどの重合性モノマー、疎水性色素、ポリメチルメタクリレートやポリスチレンなどの高分子等が挙げられる。ハイドロホーブは、エマルジョンを安定化する役割を果たす。ハイドロホーブは、100質量部の第1液体に対して、例えば0.1乃至10質量部の量で含むことができる。
【0034】
分散媒は、界面活性剤を更に含んでいてもよい。界面活性剤としては、例えば、乳化重合の用途で市販されているものを使用することができる。界面活性剤としては、例えば、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムなどのスルホサクシネート型界面活性剤を使用することができる。エマルジョンは、界面活性剤を、エマルジョンの総質量に対して、例えば0.1乃至5.0質量%の量で含むことができる。
【0035】
O/W型エマルジョンの場合、エマルジョン化と分散粒子の安定性とを確保するために、分散媒は、界面活性剤を含むことが一般的である。また、O/W型エマルジョンは、エマルジョンの長期保存安定性を改善するために、分散媒中に水溶性の高分子やセルロースナノファイバ等を含むこともできる。更に必要に応じて、O/W型エマルジョンは、分散媒中に粘度調整剤や消泡剤を含むこともできる。
【0036】
一方、W/O型エマルジョンの場合、安定なエマルジョンを調製するために、分散媒は、適した親水親油バランス(HLB)価を有するノニオン系界面活性剤や高分子系の分散安定剤を含むことができる。必要に応じて、W/O型エマルジョンは、分散媒中にイオン性の界面活性剤を含むことも有効である。
【0037】
エマルジョンは、公知の乳化・分散技術、例えば、ペイントシェイカ、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ホモジナイザー、及び膜乳化法などを利用することで調製することができる。
【0038】
<膜の形成>
次に、上記エマルジョンからなる膜を基材上に形成する。以下、「エマルジョンからなる膜」を液膜ともいう。具体的には、上記エマルジョンを基材上に塗布することにより液膜を基材上に形成することができる。基材としては、任意の基材を使用することができ、例えばフィルムやシートなどを使用することができる。
【0039】
塗布方法は、特に限定されないが、液膜の厚みに応じて適切な塗布方法、例えば、ダイコート、コンマコート、又はカーテンコートなどを選択することができる。液膜の厚みは、例えば10乃至3000μmとすることができる。また、少量のエマルジョンを塗布して小さい面積の液膜を形成する場合には、必要に応じてディスペンサなどを利用することもできる。
【0040】
図3は、エマルジョンからなる膜が基材上に形成された状態の一例を概略的に示している。
図3において、基材1の上に、分散粒子21aと分散媒22とから構成されるエマルジョンからなる膜2aが形成されている。
【0041】
<活性エネルギー線の照射>
次に、形成された膜に活性エネルギー線をパターン状に照射する。
活性エネルギー線としては、上記の通り、例えば、紫外線、電子線、X線などが挙げられる。パターン照射は、例えば、マスクなどを介して活性エネルギー線を場所選択的に照射することや、レーザー光を位置選択的に照射することにより実施することができる。
【0042】
活性エネルギー線のパターン照射により、活性エネルギー線が照射された領域(以下において、単に「照射領域」ともいう。)では、分散粒子に含まれる第1液体が重合により硬化する。これにより、分散粒子の硬化物からなる粒状層を形成することができる。
【0043】
図4は、紫外線のパターン照射により、紫外線を照射した領域に存在する分散粒子が硬化し、分散粒子の硬化物からなる粒状層が形成された状態の一例を概略的に示している。
【0044】
図4に示すように、紫外線が照射された領域では、分散粒子21aに含まれる第1液体が重合により硬化して、分散粒子21aは、分散粒子の硬化物21b1になる。分散粒子の硬化物21b1は凝集して積層し、結果として、分散粒子の硬化物21b1からなる粒状層21bが形成される。
【0045】
紫外線が照射された領域において、分散媒22に含まれる第2液体は硬化しないため、分散媒22は粒状層21b内に、具体的には、硬化物21b1間の隙間に存在する。一方、
図4において、紫外線が照射されなかった非照射領域(以下において、単に「非照射領域」ともいう。)において、分散粒子21aに含まれる第1液体は未硬化のままである。
【0046】
照射領域における硬化物21b1の凝集メカニズムについて、本発明者は、この理由を以下のように考えている。
【0047】
活性エネルギー線の照射により、分散粒子21aは重合発熱し、これにより照射領域の温度が上昇する。この温度上昇により、分散粒子21a表面に吸着して分散粒子21aを分散安定化させていた界面活性剤が脱着する。これにより、重合が進行した分散粒子21aの表面電位が低下する。その結果、分散粒子21a又はその硬化物21b1の分散が不安定となり、粒子の凝集が促進される。また、粒子が凝集し、粒子同士が接触する過程において、粒子間で重合架橋を生じる可能性もある。
【0048】
また、この凝集は、重合発熱による温度上昇によって脱離した界面活性剤が粒子に再吸着する前に完了する。これにより、凝集した粒子は、再分散されずにその凝集状態を維持する。
【0049】
照射領域における硬化物21b1の凝集は、予め分散媒中に架橋剤を配合しておくことで促進してもよい。こうすると、活性エネルギー線照射時に、粒子間での架橋形成を生じ易くなり、その結果、粒子の凝集が促進される。
【0050】
<第2液体の除去>
活性エネルギー線の照射後に、膜から第2液体の少なくとも一部を除去する。この工程では、第2液体の少なくとも一部を除去すればよいが、第2液体の全てを除去してもよい。第2液体の除去は、例えば、膜を乾燥させることにより実施することができる。乾燥は、第2液体が、液膜を形成した直後の第2液体の量の30質量%以下の量になるまで行うことが好ましく、5質量%以下の量になるまで行うことがより好ましい。第2液体の除去は、膜を室温に放置することにより実施してもよいが、膜を加熱乾燥させることにより実施することが好ましい。加熱乾燥は、例えば、膜を40乃至100℃の範囲内の温度で0.1乃至1時間に亘って加熱することにより行うことができる。第2液体の除去により、未硬化の第1液体の少なくとも一部を、活性エネルギー線を照射していない領域から、分散粒子の硬化物からなる粒状層へと移動させることができる。
【0051】
この工程では、第2液体の除去により、未硬化の第1液体の少なくとも一部を、非照射領域から分散粒子の硬化物からなる粒状層へと移動させる。非照射領域から粒状層への未硬化の第1液体の移動は、その全てが粒状層へと移動するように行ってもよく、その一部のみが粒状層へ移動するように行ってもよい。
【0052】
なお、この方法では、活性エネルギー線の照射後に現像工程、即ち、未硬化の第1液体の現像液を用いた除去は行う必要はない。
【0053】
図5乃至
図7は、第2液体の除去により起こる膜の状態変化の一例を概略的に示している。
図5は、膜からの第2液体の除去を開始することにより、非照射領域において分散粒子の合一が起こった状態の一例を概略的に示している。
図6は、非照射領域において分散粒子の合一が更に進行し、分散粒子の合一体が、分散粒子の硬化物からなる粒状層に浸透し、拡散していく状態の一例を概略的に示している。
図7は、第2液体の除去が完了し、分散粒子の合一体が粒状層に完全に移動した状態の一例を概略的に示している。
【0054】
分散媒22に含まれる第2液体の一部を膜2aから除去すると、
図5に示すように、照射領域では、粒状層21b内の粒子間の隙間を満たしていた第2液体が減少し、非照射領域では、第2液体が減少するとともに、分散粒子21aの合一が起こり、それらの合一体21a’が形成される。そして、
図6に示すように、これら合一体21a’を形成している未硬化の第1液体は、粒状層21b内の隙間へ浸透し、粒状層21b内へ拡散する。この浸透及び拡散は、毛細管力により進行すると考えられる。
【0055】
第2液体の除去が完了すると、非照射領域から粒状層21bへの未硬化の第1液体の移動は完了する。その結果、例えば、
図7に示す構造が得られる。なお、膜から第2液体を完全に除去すると、膜中に残留している液体は、例えば、分散粒子21a又はそれらの合一体21a’を構成している液体のみになる。
【0056】
上記の通り、粒状層21bからなるパターンは、最終的に得られるパターン膜2と同様に、パターン密度が異なる複数の部分を含んでいる。以下に説明するように、粒状層21b内の隙間へ浸透する第1液体の量は、パターン密度がより低い部分と、パターン密度がより高い部分とで異なる。
【0057】
即ち、パターン密度がより低い部分の周囲には、より広い非照射領域が存在し、それ故、より多量の第1液体が存在する。他方、パターン密度がより高い部分の周囲には、より狭い非照射領域が存在し、それ故、より少量の第1液体が存在する。
【0058】
その結果、パターン密度がより低い部分では、粒状層21b内の隙間に、より多量の第1液体が浸透する。例えば、隙間の全体が第1液体で満たされる。
【0059】
他方、パターン密度がより高い部分では、粒状層21b内の隙間に、より少量の第1液体が浸透する。例えば、隙間の一部のみが第1液体で満たされる。
【0060】
<パターンの定着>
最後に、第2液体を除去した膜が含んでいる未硬化の第1液体を硬化させる。未硬化の第1液体の硬化は、例えば、活性エネルギー線を膜全体に照射することにより行うことができる。これにより、パターン膜が形成される。
【0061】
図8は、紫外線の全面照射により、未硬化の第1液体を硬化させた状態の一例を概略的に示している。
図8に示すように、紫外線を膜全体に照射すると、未硬化の第1液体は、重合により硬化する。その結果、重合相21b2が形成される。また、粒状層21bを構成している硬化物21b1では、紫外線照射により更なる重合が進行する。これにより、分散粒子の硬化物21b1と重合相21b2とからなるパターン膜2が形成される。
【0062】
上記の通り、紫外線の全面照射前において、粒状層21bのうち、パターン密度がより低い部分は、その隙間の全体が第1液体で満たされており、パターン密度がより高い部分では、その隙間の一部のみが第1液体で満たされている。従って、紫外線の全面照射を行うことによって得られるパターン膜2では、パターン密度がより高い部分は、パターン密度がより低い部分と比較して、より高い多孔度を有している。
【0063】
なお、未硬化の第1液体の硬化は、上述の通り、非照射領域に存在している未硬化の第1液体の全てが、この領域から粒状層へと移動した後に行うことができる。或いは、未硬化の第1液体の硬化は、非照射領域に存在している未硬化の第1液体の一部のみが、この領域から粒状層へと移動したときに行うこともできる。例えば、活性エネルギー線の膜全体への照射を、膜から第2液体を完全に除去する前(即ち、非照射領域の第1液体が粒状層に浸透し、粒状層内へと拡散していく途中の段階)、例えば
図6の段階で行ってもよい。こうすると、非照射領域に厚さを有し、照射領域が非照射領域よりも厚いパターン膜を得ることができる。
【0064】
次いで、
図1および
図2に示される側壁2cを備えたパターン膜2を形成するための活性エネルギー線の積算光量について、
図9、
図10及び
図17を参照しながら以下に説明する。
<活性エネルギー線の積算光量>
本実施形態に係るパターン膜の形成方法は、上述したET法が含む活性エネルギー線の照射工程において、積算光量を調整することにより、
図1及び
図2に示す非照射領域R
Sに側壁2cを有するパターン膜2を形成するものである。側壁2cは、上記の通り、分散粒子の硬化物21b1の堆積厚みが連続的に変化してなる傾斜を有する。このような側壁を備えたパターン膜は、活性エネルギー線を、照射領域と非照射領域におけるパターンの高低差が最大となる積算光量E
Mを超える積算光量でパターン照射することにより形成することができる。
【0065】
図9は、エマルジョンからなる膜(液膜)に対する活性エネルギー線の積算光量と、照射領域と非照射領域におけるパターンの高低差との関係を模式的に示すグラフである。ここで、照射領域と非照射領域におけるパターンの高低差とは、活性エネルギー線の照射領域におけるパターン凸部と、非照射領域におけるパターン凹部との高低差であり、以下において単に「パターン高低差」というときがある。
【0066】
図9に示されるように、活性エネルギー線の積算光量を増大させていくと、パターン高低差が最大となる積算光量E
Mが存在する。これは照射領域における分散粒子の硬化物の凝集(後述する“1次凝集”)による堆積(固定化)が終了したことを示すと推測される。
【0067】
積算光量がEMを超えた領域では、積算光量の増大に伴いパターン高低差は減少する。このパターン高低差の減少は、積算光量の増大に伴い、照射領域から移動して非照射領域に堆積する分散粒子の硬化物の量が増大することによるものである。
【0068】
更に積算光量を増大させると、パターンの高低差の変化がなくなり飽和に達する。このパターン高低差の変化がなくなり飽和に達するときの積算光量を、以下において“ES”(EM<ES)と表記する。
【0069】
活性エネルギー線の積算光量とパターン高低差との上記関係は、エマルジョンに含まれる分散粒子のサイズに関わらず、共通してみられる傾向であり、少なくとも分散粒子の平均粒径が0.5μm乃至0.5mmの範囲にあるエマルジョンについては上記関係がみられる。
【0070】
なお、
図9に示される模式的なグラフでは、積算光量がE
Sを超えて更に増大されるときに生じ得る、分散粒子の硬化物の“2次凝集”(後述)による影響は示されていない。2次凝集により、積算光量E
Sを超えた領域においてパターン高低差が増大する現象がみられる場合がある。
【0071】
図10は、エマルジョンからなる膜(液膜)に対する活性エネルギー線の積算光量と、パターン側壁の傾きとの関係を模式的に示すグラフである。ここで、パターン側壁の傾きとは、パターン膜を支持する基材に対する凸部の側壁の傾きであり、側壁角度(基材と凸部の側壁とがなす角度)が鋭角側の傾きを意味する。ここでは、パターン側壁の傾きの最大値(以下において、「最大傾き」という。)の平均を、パターン側壁の傾きとする。
【0072】
図10に示されるように、活性エネルギー線の積算光量とパターン側壁の傾きとの関係は、
図9に示される活性エネルギー線の積算光量とパターン高低差との関係と同様の傾向を有する。
【0073】
すなわち、活性エネルギー線の積算光量を増大させていくと、パターン側壁の傾きは、パターン高低差が最大となる積算光量EMで最も大きくなり、シャープなパターンとなる。
【0074】
積算光量がEMを超えた領域では、積算光量の増大に伴いパターン側壁の傾きは減少する。このパターン側壁の傾きの減少は、積算光量の増大に伴い、照射領域から移動して非照射領域に堆積する分散粒子の硬化物の量が増大することによるものである。積算光量の増大に伴い、パターン側壁の傾きが連続的に小さくなる傾向を示す。
【0075】
更に積算光量を増大させると、パターン側壁の傾きの変化は、パターン高低差の変化が飽和するESで飽和に達する。
【0076】
なお、
図10に示される模式的なグラフでは、
図9と同様、分散粒子の硬化物の“2次凝集”(後述)による影響は示されていない。2次凝集により、積算光量E
Sを超えた領域においてパターン側壁の傾きが増大する現象が見られる場合がある。
【0077】
ここで、照射領域と非照射領域のパターン高低差は、例えば、後述する3D形状測定機を使用して得られるパターン膜の断面プロファイル(
図12(a)参照)から計測することができる。また、パターン側壁の最大傾きは、例えば、上記断面プロファイルを微分処理して得られる微分波形(
図12(b)参照)のピークから計測することができる。
【0078】
本実施形態に係るパターン膜の形成方法において、活性エネルギー線の積算光量(露光量)は、パターンの高低差が最大となる積算光量EMを超えるものであればよく、特に限定されるものではない。EMを超える積算光量を選択することで、分散粒子の硬化物が堆積してなる傾斜を有する側壁を備えたパターン膜を得ることができる。
【0079】
活性エネルギー線の積算光量Eは、一例において、EMより大きく、且つ、ESより小さい積算光量(EM<E<ES)であってよい。
また、活性エネルギー線の積算光量Eは、他の例において、[(ES-EM)×5%+EM]乃至[(ES-EM)×95%+EM]の範囲にある積算光量であってよい。
【0080】
また、活性エネルギー線の積算光量は、他の例において、[(ES-EM)×10%+EM]乃至[(ES-EM)×80%+EM]の範囲にある積算光量であってよい。
また、活性エネルギー線の積算光量は、他の例において、[(ES-EM)×20%+EM]乃至[(ES-EM)×70%+EM]の範囲にある積算光量であってよい。
【0081】
ここで、積算光量(mJ/cm2)は、照射強度(mW/cm2)を一定にして照射時間を変化させたときの積算光量であってもよいし、照射時間を一定にして照射強度を変化させたときの積算光量であってもよいし、双方を変化させたときの積算光量であってもよい。
【0082】
図9及び
図10に示される上記現象のメカニズムは、活性エネルギー線の照射時におけるエマルジョンからなる液膜内の動的挙動(液膜内対流)により説明することができる。
図17((A)から(D))を参照しながら以下に説明する。
【0083】
エマルジョンからなる液膜表面(SUR)へ活性エネルギー線の照射を開始すると、
図17(A)に示すように、活性エネルギー線の照射領域R
Lにおいて、エマルジョンの重合発熱に起因する浮力による上昇流aと、表面張力流bが発生する。
【0084】
活性エネルギー線の照射を継続すると、
図17(B)に示すように、照射領域R
Lにおいて上昇流aに乗って第1液体を含む分散粒子(エマルジョン液滴)の重合による硬化と凝集が進行すると同時に、表面張力bが液面を伝うように非照射領域方向に発生する。
【0085】
活性エネルギー線の照射を更に継続すると、照射領域R
Lのエマルジョン重合粒子の凝集(1次凝集)が完了し、
図17(C)に示す“1次重合凝集固定域”dの上昇が止まり、温度は下がっていく。しかし重合熱は照射領域R
Lの周辺部(非照射領域)へ伝達しているため、1次重合凝集固定域dの周辺部に上昇流(自然対流e)が発生する。
【0086】
活性エネルギー線の照射を更に継続すると、1次重合凝集固定域dの周辺部に発生する上昇流(自然対流e)に乗った未硬化エマルジョン液滴が、液膜表面(SUR)付近に達し、一部が照射領域RLに被ることで分散粒子の硬化物(硬化エマルジョン液滴)となる。
【0087】
液膜表面(SUR)付近で硬化した上記分散粒子の一部は、1次重合凝集固定域dの上部に積み上がり、
図17(D)に示すように、新たに“2次重合凝集固定域”fを形成すると考えられる。
【0088】
一方、非照射領域への流れ(表面張力流b)も発生し続け、
図17(D)に示すように、自然対流eと表面張力bの複合による対流gが発生する。液膜表面(SUR)付近で硬化した上記分散粒子の他の一部は、この対流gによって非照射領域へ移動し堆積する。この硬化エマルジョン液滴の堆積により側壁の傾斜が形成され、照射領域と非照射領域におけるパターンの高低差を小さくしていると推測される。
【0089】
[第2実施形態]
本実施形態に係るパターン形成方法において、エマルジョンからなる膜(液膜)に照射する活性エネルギー線の積算光量は、1種に限定されるものではない。すなわち、EMより大きく、且つ、互いに異なる2種以上の積算光量を、同一面内に場所選択的に照射してもよい。
【0090】
一例として、活性エネルギー線として2種の積算光量を用いる場合を説明する。2種の積算光量として、第1積算光量及び第2積算光量を選択する。これら2種の積算光量は、EMより大きく、且つ、互いに異なる関係を満たす。そして、エマルジョンからなる膜(液膜)への活性エネルギー線の照射工程は、液膜の1つ又は複数の第1領域に対して第1積算光量で活性エネルギー線を照射すること、及び、1つ又は複数の第2領域に対して第2積算光量で活性エネルギー線を照射することを含む。
【0091】
このように活性エネルギー線の積算光量として、EMを超え、且つ、互いに異なる2種以上の積算光量を選択し、同一面内で場所選択的に異なる積算光量で活性エネルギー線を照射することにより、パターン側壁の傾きが異なる複数種のパターンを同一面内に簡便に形成することができる。
【0092】
2種以上の積算光量を用いる場合、2種以上の積算光量は、上記の通り、いずれもEMより大きく、且つ、互いに異なるものであればよいが、一例において、少なくとも1種の積算光量は、EMを超え、且つ、ES未満であってよく、また、すべての積算光量がEMを超え、且つ、ES未満であってよい。
【0093】
また、2種以上の積算光量を用いる場合、他の例において、少なくとも1種の積算光量が[(ES-EM)×5%+EM]乃至[(ES-EM)×95%+EM]の範囲にあればよく、又は、[(ES-EM)×10%+EM]乃至[(ES-EM)×80%+EM]の範囲にあればよく、又は、[(ES-EM)×20%+EM]乃至[(ES-EM)×70%+EM]の範囲にあればよい。あるいは、これらの組み合わせからなる2種以上の積算光量を用いてもよい。
【0094】
また、2種以上の積算光量を用いる場合、他の例において、すべての積算光量が[(ES-EM)×5%+EM]乃至[(ES-EM)×95%+EM]の範囲にあってよく、又は、[(ES-EM)×10%+EM]乃至[(ES-EM)×80%+EM]の範囲にあってよく、又は、[(ES-EM)×20%+EM]乃至[(ES-EM)×70%+EM]の範囲にあってよい。
【0095】
<効果>
上記の通り、本実施形態によれば、活性エネルギー線を、EMを超える積算光量で照射することで、分散粒子の硬化物が堆積してなる傾斜を有する側壁を、非照射領域に備えたパターン膜を得ることができる。更に、本実施形態によれば、積算光量を変化させることで、パターン側壁の傾き(硬化物の堆積厚み)を変化させることができる。このため、EMを超える2種以上の積算光量を、同一面内で場所選択的に照射するだけで、パターン側壁の傾きが異なる複数種のパターンを同一面内で場所選択的に形成することができる。これは、“にじみ”、“ぼかし”、“すかし”などの特殊な表現を要するパターン膜を、版などを用いずに非接触で場所選択的に形成することができることを意味する。
【0096】
また、本実施形態に係るパターン膜の形成方法は、エマルジョンの膜に対して、活性エネルギー線をパターン照射し、その後、第2液体を除去するだけで、自己組織化的に形成することができる。この方法では、ガイドパターンを予め基材上に設ける必要はないし、現像工程も必要としない。従って、このパターン膜2は、簡便な方法で製造することができる。
【0097】
また、従来技術により実現できるパターンサイズは、例えば、数nm乃至数百μmの線幅や数nm乃至数百μmの高低差であったところ、本実施形態に係るパターン膜の形成方法はによれば、幅広い範囲のパターンサイズを実現可能である。例えば、本実施形態に係るパターン膜の形成方法によると、線幅や高低差が大きいパターン膜、例えば、マイクロオーダーからミリオーダーまでの線幅やマイクロオーダーからミリオーダーまでの高低差を有するパターン膜を形成することが可能である。一例によれば、上記方法によると、線幅が10μm乃至5mmの範囲内にあるパターン膜や高低差が10μm乃至2mmの範囲内にあるパターン膜を形成することができる。
【0098】
更に、本実施形態に係るパターン膜の形成方法は、パターンの形やサイズの制御性に優れており、種々の形やサイズのパターン膜を形成することが可能である。
【実施例】
【0099】
[例1]
<第1エマルジョンの調製>
以下の材料を用いてO/W型エマルジョンを調製した。
モノマー又はオリゴマー:トリメチロールプロパントリアクリレート(共栄社化学社製ライトアクリレート(登録商標)TMP-A)
光重合開始剤:1-ベンゾイルシクロヘキサノール(DKSHジャパン社から市販されているLunacure(登録商標)200)
界面活性剤:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(三洋化成工業社製サンモリン(登録商標)OT-70<86.7%水溶液>)
第2液体:蒸留水
先ず、容量が50mLの褐色バイアル瓶に、0.375gのLunacure(登録商標)200、0.259gのサンモリン(登録商標)OT-70、及び7.5gのライトアクリレート(登録商標)TMP-Aをこの順に投入し、これをボールミルロール上での回転混合処理に供した。次に、このバイアル瓶に9gの蒸留水を更に投入し、これを乳化分散処理に供した。乳化分散処理は、ホモジナイザー(HSIANGTAI MODEL HG200 シャフトジェネレーターK-12S(AS ONE))を用いて行った。シャフトの回転数は4000rpmとし、撹拌時間は1分間とした。乳化分散処理時の室温は24.8℃であった。その後、バイアル瓶を30分の回転混合に供した。以上のようにして、第1エマルジョンを調製した。
【0100】
<第2エマルジョンの調製>
乳化分散処理におけるシャフト回転数を5000rpmに変更したこと以外は、第1エマルジョンについて上述したのと同様の方法により、第2エマルジョンを調製した。
【0101】
<第3エマルジョンの調製>
乳化分散処理におけるシャフト回転数を7000rpmに変更したこと以外は、第1エマルジョンについて上述したのと同様の方法により、第3エマルジョンを調製した。
【0102】
<粒度分布の測定>
第1乃至第3エマルジョンの各々について、粒度分布及び平均粒径を測定した。この測定には、日機装社製の粒度分布計測装置Microtrac MT3300EXIIに、日機装社製の液循環ポンプMicrotrac USVRを装着した計測システムを使用し、平均粒径としては質量平均径を求めた。なお、得られたエマルジョンは、第1液体を含む分散粒子(以下、エマルジョン液滴ともいう)と、第2液体を含む分散媒とから構成される。第1乃至第3エマルジョンの平均粒径を、以下の表1に纏める。また、第1乃至第3エマルジョンの粒度分布を
図11に示す。
【0103】
【0104】
<膜の形成>
第1乃至第3エマルジョンの各々を用いて、以下の方法により複数の膜を形成した。 先ず、顕微鏡用スライドグラスの表面に、幅が20mmであり、厚みが80μmのスリーエム社製マスキングテープを5層貼り付けた。この5層の積層体の中心部を長方形状に切り抜き、これにより、深さが400μmであり、開口部の寸法が10mm×30mmである液溜めを有するセル(以下、液溜めセルという)を作製した。
【0105】
次に、マイクロピペットによって112μLのエマルジョンを採取し、これを液溜めセルに展開、充填することで、比重を考慮した計算値としての厚みが約375μmのエマルジョンからなる膜(即ち液膜)を形成した。
【0106】
<紫外線の照射>
上記液膜上に、ストライプ状開口を有する厚みが0.25mmの銅製マスクを、厚みが1mmのアルミ製スペーサを介して液面と接触しないように設置した。ここでは、銅製マスクとして、ラインアンドスペースパターン(ライン/スペース=2mm/2mm)に対応したストライプ状の開口部を有するマスクを使用した。
【0107】
次に、UV平行光露光機(SAN-EI ELECTRONIC社製 UVC-2502S)を使用して、照射強度(以下において、「照度」という。)4.6mW/cm2の紫外線をマスク上から所定時間照射した。照度一定で紫外線の照射時間を液膜毎に変更することにより、液膜毎に異なる任意の積算光量を照射した。これにより、紫外線を照射した領域に存在する第1液体を重合させて、分散粒子の硬化物からなる粒状層を形成した。
【0108】
<膜の乾燥>
次いで、紫外線露光後の膜に対して、室温下で90分間の自然乾燥(21℃、51%RH)を行った。これにより、膜から水を除去した。
【0109】
<パターンの定着>
最後に、乾燥後の膜に対して、積算光量414mJ/cm2(=4.6mW/cm2×90秒)の紫外線を全面露光した。これによりパターンを定着させた。以上のようにして、パターン膜を形成した。
【0110】
<凹凸パターンの形状計測>
得られたパターン膜について、紫外線の照射領域と非照射領域におけるパターンの高低差と、パターン側壁の最大傾きを、凹凸パターン(ラインアンドスペースパターン)の厚み方向の断面プロファイルから計測した。
【0111】
断面プロファイルを得るために、試料であるパターン膜表面に、真空蒸着機(日本電子株式会社製VC-500P)を用いて厚み約80nmのアルミ蒸着を施した。次いで、3D形状測定機(キーエンス社製ワンショット3D形状測定機 VR3100)を使用して、試料の凹凸形状の断面プロファイルを取得した(
図12(a)参照)。この凹凸パターンの断面プロファイルから得られる形状データから、(i)パターン高低差と,(ii)パターン側壁の最大傾きを計測した。
【0112】
(i)パターン高低差
凹凸パターンの断面プロファイル(
図12(a)参照)から、照射領域と非照射領域におけるパターンの高低差を計測した。計測値のn=5平均値を
図13に示す。
図13に示されるデータには、バラツキがみられるものの(その理由については後掲を参照)、エマルジョンの平均粒径に関わらず、おおよそ同様の傾向がみられることがわかる。すなわち、積算光量を増やしていくと、積算光量が約30mJ/cm
2~40mJ/cm
2付近でパターンの高低差が最大となる。さらに積算光量を増やしていくと、高低差が徐々に小さくなり、やがて高低差の変化がほとんど見られなくなる。
パターン高低差が最大となる積算光量を超える領域では、上述した液膜内対流の効果が大きくなり、紫外線照射領域から非照射領域へ分散粒子の硬化物が移動していく。この移動した硬化分散粒子の非照射部における堆積が高低差を小さくしている。
【0113】
なお、平均粒径28.1μmのグラフでは、積算光量が約200mJ/cm2以上になると、パターン高低差が若干大きくなる傾向を示す試料があるが、これは上述した2次重合凝集固定域が形成されたことによる影響と推測される。
【0114】
(ii)パターン側壁の最大傾き
凹凸パターンの断面プロファイル(
図12(a)参照)から得られるデータを微分することにより、微分波形を得た(
図12(b)参照)。この微分波形のピーク値をパターン側壁の最大傾きとして計測した。最大傾きの計測値の平均値をパターン側壁の傾きとし、結果を
図14に示す。
パターン側壁の傾き=パターン側壁の最大傾きの平均
=(Σf’(x)max-|Σf’(x)min)|/(Nmax+Nmin)
N;測定データ数
【0115】
図14に示されるデータには、バラツキがみられるものの(その理由については後掲を参照)、
図14より、紫外線の積算光量とパターン側壁の傾きとの関係は、
図13の紫外線の積算光量とパターン高低差との関係と、おおよそ同様の傾向を示すことがわかる。
すなわち、積算光量を増やしていくと、パターン高低差が最大となる積算光量が約30mJ/cm
2~40mJ/cm
2付近で、パターン側壁の傾きが最大となる。さらに積算光量を増やしていくとパターン側壁の傾きが徐々に小さくなり、やがて変化がほとんど見られなくなる。そのメカニズムについては
図17で説明した通りである。
【0116】
尚、
図13及び
図14に示したデータのバラツキが比較的大きい。これは、ひとつの試料について積算光量を変化させながらパターンの形成過程を連続的に追跡・計測できないため、データポイント毎に別の試料を用意してパターンを作製・評価せざるを得なかった為である。但し、バラツキがあっても本質的な傾向は上記の通り抽出できている。
【0117】
<パターン膜表面の撮像>
USBカメラ(HOZAN社製L-835)を装着したマイクロスコープ(HOZAN社製L-815ズームレンズ)を用いて、各パターン膜の表面を撮影した。このようにして得られた画像の中からいくつかを
図15に示す。
図15から、平均粒径が異なる第1乃至第3エマルジョンを用いた場合における積算光量とパターン外観との関係がわかる。
【0118】
図15に示されたパターン膜の外観から、エマルジョンの平均粒径に関わらず、積算光量を約30mJ/cm
2~40mJ/cm
2付近から増大させるにしたがい、非照射領域に堆積する分散粒子の硬化物の量が増える傾向がわかる。そのため、
図13に示したように、照射部と非照射部におけるパターン高低差が小さくなっていくことが外観からも確認することができた。
【0119】
尚、
図13乃至
図15において共通してみられる本質的な傾向は、上記の通り、エマルジョンの平均粒径に関わらず同様であったが、エマルジョンの平均粒径の相違に起因する傾向として、以下の傾向が見られる。すなわち、エマルジョンの平均粒径が異なること以外は同様の条件下で、本実施形態に係るパターン膜の形成方法によりパターン膜を形成した場合、小粒径になるほどパターン側壁の傾きが小さくなり、パターンのシャープさが低下する傾向が見られる。その理由としては、例えば、小粒径ほど、光散乱などの影響で同一光源下での重合が進みにくく、それが凝集層の形成を難しくしていることなどが推測される。また、小粒径の場合、単位液膜厚あたりの照射光透過率が小さく、液膜深部が硬化不足の状態となる傾向がある。この場合、露光パターン部が基材と固着せず、液膜内で浮遊し、動き易くなることがあり、これも一因と考えられる。そのため、粒径に応じた適切な照度設定が必要と推察される。
【0120】
[例2]
エマルジョン液滴の重合熱による液膜内対流の発生について、
図16及び
図17を参照しながら以下に説明する。露光時における液膜内でのエマルジョンの動きを以下の方法により観察した。
<第4エマルジョンの調製>
例1の第1乃至第3エマルジョンの調製に対し、青の着色剤(日本化薬社製 Kayaset Blue A-2R)を添加してエマルジョンを着色したこと、乳化分散処理条件を下記表2に記載の条件(間欠ハンドシェイク10回)に変更したこと、乳化分散処理後は2時間撹拌したこと以外は、同様の条件・方法により、第4のエマルジョンを調製した。
【0121】
【0122】
<膜の形成>
以下の方法により、露光時における液膜内でのエマルジョンの動きを観察した。
液溜セルと、マイクロスコープによる観察系を以下のように作製し、これらを用いて、エマルジョン液に紫外線(UV)の部分照射を施すことで生じる液膜内の動的な過程を直接観察した。
【0123】
・液溜めセルの作製
スライドグラスの片面に、厚み0.8mmのスリーエム社製多用途強力両面テープを貼り付けた。離型フィルムを付けた状態で、長辺のエッジから中心部へ約5mm、液溜めセル底辺として8mm程度にカッターで切れ込みを入れた後、この部分を剥離除去した。尚、スライドグラスからはみ出た部分の両面テープはカットし、除去した。このようにして作製した両面テープ付きのスライドグラスから、残った離型フィルムを剥離し、もう一枚のスライドグラスを、長辺を揃えた状態で貼り合わせることで、観察用の液溜めセルを作製した。
【0124】
この2枚のスライドグラスを、上記切込みを入れた両面テープを介して貼り合わせてなる液溜めセルは、両面テープの厚み0.8mmをギャップとし、中央部に長さ約8mm、深さ約5mm、隙間の厚みが0.8mmの構造となっている。
【0125】
・マイクロスコープによる観察系の作製
上記の液溜めセルを、光学実験台の角型素子ホルダーに固定した。このとき、水平に設置した光学実験台に対して垂直となるよう液溜めセルを固定した。次いで、幅1mmのスリットを設けた銅板(厚み0.25mm)をマスクとして、その直上からUV照射を行えるように、UV-LED照射器(後掲)を配置した。光学実験台に対して垂直に置いた液溜めセルの側面から撮影するために、マイクロスコープを、その光軸が光学実験台と平行になるように設置した。このようにしてマイクロスコープによる観察系を作製した。
【0126】
この液溜めセルに、マイクロピペットを用いて第4エマルジョンを展開、充填し、7分間放置することにより、エマルジョンからなる膜(即ち液膜)を形成した。この7分間の静置時間は、エマルジョンを少し沈降させ、上澄み層を設けることにより液の動きを観察しやすくするためである。
【0127】
<紫外線の照射>
上記液膜上に、幅1mmのスリットを設けた厚みが0.25mmの銅製マスクの直上からUV-LED照射器(HOYA CANDED OPTRONICS社製 EXECURE-H-1VC II)を使用して、照度9.8mW/cm2の紫外線(λ=365nm)を、57秒間照射した。このときの積算光量は558.6mJ/cm2である。
【0128】
紫外線の照射開始からの過程を、セルの側面(光学台と並行の方向)より、USBカメラ(HOZAN社製L-835)を装着したマイクロスコープ(HOZAN社製L-816ズームレンズ)を用いて動画撮影した。液の動きを動画から切り取った写真が
図16である。
図16に基づき、エマルジョン液滴の重合熱による液膜内流動現象およびエマルジョン液滴の凝集挙動を
図17にイラストとしてまとめた。以下、
図17を基に、本発明者が推測するエマルジョン液滴の重合熱による液膜内対流の発生メカニズムを説明する。
【0129】
[
図17(A):紫外線(UV)照射開始から3秒経過]
エマルジョンからなる液膜表面(SUR)への紫外線の照射開始から3秒後には、紫外線の照射領域R
Lにおいて、エマルジョンの重合発熱に起因する浮力による上昇流aと、表面張力流bが発生する。
【0130】
[
図17(B):紫外線(UV)照射開始から4~6秒経過]
紫外線の照射を継続すると、エマルジョンの重合発熱で浮力による上昇流aが継続する。この上昇流aに乗ったエマルジョン沈降境界面cの盛り上がりが液面に到達するタイミングで、照射領域R
Lと非照射領域の温度差起因による大きい表面張力流bが液面を伝うように非照射領域方向に発生する。この過程で照射領域R
L(重合凝集進行域)のエマルジョン液滴の凝集も同時に進行する。
【0131】
[
図17(C):紫外線(UV)照射開始から7秒経過]
紫外線の照射を継続すると、照射領域R
Lのエマルジョン重合粒子の凝集が完了し、“1次重合凝集固定域”dの上昇が止まる。このように照射領域R
Lの動きは凝集固定化することで止まり、温度は下がっていく。しかし重合熱は周辺部(非照射領域)へ伝達しているため、1次重合凝集固定域dの周辺部に存在する未硬化のエマルジョン液滴には、液膜表面SURに向かう自然対流eが発生する。
【0132】
[
図17(D):紫外線(UV)照射開始から8秒~57秒経過]
1次重合凝集固定域dの周辺部に発生する上昇流(自然対流e)に乗った未硬化エマルジョン液滴が液膜表面SUR付近に達し、その一部が紫外線照射領域R
Lに被ることで、1次重合凝集固定域dの外周の上部において、新たに“2次重合凝集固定域”fが積み上がる。
【0133】
一方、非照射領域への流れである表面張力流bも発生し続ける。この段階では上昇流(自然対流e)と表面張力流bの複合による対流gによって、非照射領域へエマルジョン液滴が移動する。この流れによって非照射領域へ移動するエマルジョン液滴は、表面付近でUV硬化したものと未硬化の状態のまま運ばれるものとの混合となっているものと考えられる。この流れに含まれる硬化エマルジョン液滴(分散粒子の硬化物)が非照射領域で堆積し、これが上述したパターン側壁の傾斜となる堆積層を形成するものと推察する。
【0134】
[
図17(E):紫外線(UV)照射停止]
紫外線の照射を止めると追加の重合発熱が発生しなくなるので、重合熱による浮力で持ち上がっていた重合凝集固定域が冷えて沈み込む(h)。これと並行して重合発熱凝集部の外周部で上昇を続けていた未硬化エマルジョン液滴も沈降していく動きiが観察された。
【符号の説明】
【0135】
1…基材、2…パターン膜、2a…エマルジョンからなる膜、21a…分散粒子、21a’…合一体、21b…粒状層、21b1…分散粒子の硬化物、21b2…重合相、2c…側壁、22…分散媒。