IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JSR株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20231205BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020070620
(22)【出願日】2020-04-09
(65)【公開番号】P2021167876
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】安池 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】西村 達哉
(72)【発明者】
【氏名】岡田 敬
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107573950(CN,A)
【文献】特開平05-216047(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159284(WO,A1)
【文献】特開2018-200439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される部分構造を主鎖に有する重合体[P]を含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、A及びAは、それぞれ独立して、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環又はピラジン環の環を構成する原子に結合する任意の水素原子を2個取り除いた2価の窒素含有芳香族複素環基であり、B及びBは、それぞれ独立して単結合又は2価の芳香環基である。X及びXは、それぞれ独立して、-O-又は-NR-(CH-である。Rは水素原子又は1価の有機基であり、nは1~3の整数である。Yは、1個以上の芳香環を有し、かつ同一の又は異なる芳香環でX及びXのそれぞれに結合する2価の基である。「*」は結合手を示す。)
【請求項2】
前記Yは、下記式(2)で表される2価の基である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【化2】
(式(2)中、B及びBは、それぞれ独立して2価の芳香環基であり、Xは単結合、-O-又は-NR-(CH-である。R及びnは上記式(1)と同義である。mは0~3の整数である。mが2又は3の場合、式中の複数のBは同一の基又は異なる基であり、複数のXは同一の基又は異なる基である。「*」は結合手を示す。)
【請求項3】
前記重合体[P]は、下記式(3)で表されるジアミン化合物に由来する構造単位を有する、請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【化3】
(式(3)中、B及びBは、それぞれ独立して単結合又は2価の芳香環基である。ただし、Bが2価の芳香環基である場合、Bは単結合であり、Bが2価の芳香環基である場合、Bは単結合である。A、A、B、B、X、X及びYは上記式(1)と同義である。)
【請求項4】
前記重合体[P]は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
前記重合体[P]は、テトラカルボン酸誘導体に由来する構造単位と、ジアミン化合物に由来する構造単位とを有する重合体であり、
前記テトラカルボン酸誘導体は、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて塗膜を形成する工程と、前記塗膜に光照射して液晶配向能を付与する工程と、を含む液晶配向膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて塗膜を形成する工程と、前記塗膜にラビング処理して液晶配向能を付与する工程と、を含む液晶配向膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の液晶配向剤により形成された液晶配向膜。
【請求項9】
請求項8に記載の液晶配向膜を具備する液晶素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶素子の液晶材料としては、VA駆動方式やMVA駆動方式等の液晶素子ではネガ型液晶が使用され、TN型やIPS(In-Plane Switching)駆動方式、FFS(Fringe Field Switching)駆動方式等の液晶素子ではポジ型液晶が使用されている。また近年では、液晶素子の更なる高精細化を図るべく、IPS駆動方式やFFS駆動方式の液晶素子においてネガ型液晶を使用することが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
液晶素子は、大型の液晶テレビから、スマートフォン等の小型の表示装置まで幅広い範囲のデバイスや用途に適用されている。こうした液晶素子の多用途化に伴い、液晶素子の更なる高品質化が求められている。例えば、視野角特性の需要から、ラビング配向膜において従来よりも低いプレチルト角(例えば1度以下のプレチルト角)であることが要求されることがある。この要求を満たすべく、特定構造を有するポリイミドを用いた液晶配向膜が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/152928号
【文献】国際公開第2019/082975号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが検討したところ、ネガ型液晶を用いた液晶表示素子を長期に亘って使用した場合、焼き付きが生じやすいことが分かった。また、液晶素子としては、長期に亘って使用した場合にも電圧保持率が高く、信頼性に優れていることが求められる。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、ネガ型液晶を用いた場合にも低いプレチルト角を示し、残像が生じにくく、電圧保持率が高く、かつ信頼性に優れた液晶素子を得ることができる液晶配向剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討し、特定構造を主鎖中に有する重合体を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明により以下の手段が提供される。
【0008】
<1>下記式(1)で表される部分構造を主鎖に有する重合体[P]を含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、A及びAは、それぞれ独立して2価の窒素含有芳香族複素環基であり、B及びBは、それぞれ独立して単結合又は2価の芳香環基である。X及びXは、それぞれ独立して、-O-又は-NR-(CH-である。Rは水素原子又は1価の有機基であり、nは1~3の整数である。Yは、1個以上の芳香環を有し、かつ同一の又は異なる芳香環でX及びXのそれぞれに結合する2価の基である。「*」は結合手を示す。)
<2>上記<1>の液晶配向剤を用いて塗膜を形成する工程と、前記塗膜に光照射して液晶配向能を付与する工程と、を含む液晶配向膜の製造方法。
<3>上記<1>の液晶配向剤を用いて塗膜を形成する工程と、前記塗膜にラビング処理して液晶配向能を付与する工程と、を含む液晶配向膜の製造方法。
<4>上記<1>の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
<5>上記<4>の液晶配向膜を具備する液晶素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液晶配向剤によれば、ネガ型液晶を用いた場合にも低いプレチルト角を示し、残像が生じにくく、電圧保持率が高く、かつ信頼性に優れた液晶素子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示の液晶配向剤に含まれる各成分、及び必要に応じて任意に配合されるその他の成分について説明する。
【0011】
なお、本明細書において、「炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、主鎖に環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。
「芳香環」とは、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環を含む意味である。
「構造単位」とは、主鎖構造を主として構成する単位であって、少なくとも主鎖構造中に2個以上含まれる単位をいう。
【0012】
<重合体[P]>
本開示の液晶配向剤は、下記式(1)で表される部分構造(以下「特定構造」ともいう)を主鎖に有する重合体[P]を含有する。
【化2】
(式(1)中、A及びAは、それぞれ独立して2価の窒素含有芳香族複素環基であり、B及びBは、それぞれ独立して単結合又は2価の芳香環基である。X及びXは、それぞれ独立して、-O-又は-NR-(CH-である。Rは水素原子又は1価の有機基であり、nは1~3の整数である。Yは、1個以上の芳香環を有し、かつ同一の又は異なる芳香環でX及びXのそれぞれに結合する2価の基である。「*」は結合手を示す。)
【0013】
上記式(1)において、A及びAの2価の窒素含有芳香族複素環基は、窒素含有芳香族複素環の環を構成する原子に結合する任意の水素原子を2個取り除いた残基である。A及びAを構成する窒素含有芳香族複素環としては、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環及びピラジン環、並びにこれらの環に置換基(例えばメチル基、エチル基等)を有する複素環等が挙げられる。これらのうち、A及びAは、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環又はピラジン環の環を構成する炭素原子に結合する任意の水素原子を2個取り除いてなる2価の基が好ましい。
【0014】
及びBの2価の芳香環基としては、2価の芳香族炭化水素基及び2価の芳香族複素環基が挙げられ、好ましくは2価の芳香族炭化水素基又は2価の窒素含有芳香族複素環基である。B及びBは、芳香環部分に置換基を有していてもよい。当該置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、ハロゲン原子等が挙げられる。
、Bの具体例としては、2価の芳香族炭化水素基として、ベンゼン環、ナフタレン環又はアントラセン環の環を構成する炭素原子に結合する任意の水素原子を取り除いてなる基を;2価の窒素含有芳香族複素環基として、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環又はピラジン環の環を構成する炭素原子に結合する任意の水素原子を2個取り除いてなる基を、それぞれ挙げることができる。液晶配向膜の高密度化を図る観点から、B及びBの2価の芳香環基は、2価の芳香族炭化水素基が好ましく、フェニレン基がより好ましい。
液晶配向膜の高密度化をより高め、イオン密度増加の抑制や残像の低減、低プレチルト角化を図る観点から、B及びBは、少なくとも一方が単結合であることが好ましく、共に単結合であることがより好ましい。
【0015】
及びXについて、「-NR-(CH-」中のRの1価の有機基は、炭素数1~10の1価の炭化水素基又は保護基が好ましい。Rが1価の炭化水素基である場合、当該1価の炭化水素基は、炭素数1~3のアルキル基又はフェニル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
が保護基である場合、当該保護基は、熱により脱離する1価の基であることが好ましく、例えばカルバメート系保護基、アミド系保護基、イミド系保護基、スルホンアミド系保護基等が挙げられる。これらのうち、熱による脱離性が高い点で、カルバメート系保護基が好ましく、その具体例としては、tert-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、1,1-ジメチル-2-ハロエチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル基等が挙げられる。これらのうち、熱による脱離性に優れ、かつ脱保護した部分の膜中の残存量を少なくできる点で、tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)が特に好ましい。
【0016】
は、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又は保護基が好ましく、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又はtert-ブトキシカルボニル基が特に好ましい。
液晶配向膜の配向規制力の向上と低残像性とを両立させる観点から、nは1又は2が好ましい。
、Xが「-NR-(CH-」である場合、液晶配向膜の高密度化を図ることができる点、及び光反応性がより高い重合体を得ることができる点で、X、Xは、窒素原子(すなわち「-NR-」)がB、Bに結合していることが好ましく、B、Bが単結合であってA、Aに直接結合していることがより好ましい。
光反応性がより高い重合体を得ることができる点で、X及びXのうち少なくとも1個が「-NR-(CH-」であることが好ましく、X及びXが共に「-NR-(CH-」であることがより好ましい。
【0017】
は、1個以上の芳香環を有し、かつ同一の又は異なる芳香環でX及びXのそれぞれに結合する2価の基である。Yが有する芳香環は、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環のいずれでもよい。当該芳香環は、好ましくは芳香族炭化水素環又は窒素含有芳香族複素環であり、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環又はピラジン環であることが好ましい。なお、Yが芳香環を2個以上有する場合、それらの芳香環は、互いに同一の環又は異なる環である。Yが有する芳香環は、環部分に置換基を有していてもよい。当該置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0018】
は、好ましくは下記式(2)で表される2価の基である。
【化3】
(式(2)中、B及びBは、それぞれ独立して2価の芳香環基であり、Xは単結合、-O-又は-NR-(CH-である。R及びnは上記式(1)と同義である。mは0~3の整数である。mが2又は3の場合、式中の複数のBは同一の基又は異なる基であり、複数のXは同一の基又は異なる基である。「*」は結合手を示す。)
【0019】
上記式(2)において、B及びBの2価の芳香環基の例示としては、上記B及びBの2価の芳香環基の説明が適用される。Xが「-NR-(CH-」である場合のR及びnについては、上記X及びXのR及びnの説明が適用される。
重合体[P]の溶剤に対する溶解性を高くする観点から、mは、好ましくは0~2であり、より好ましくは0又は1である。
【0020】
の好ましい具体例としては、下記式(Y-1)~式(Y-15)のそれぞれで表される基が挙げられる。
【化4】
(式(Y-1)~式(Y-15)中、「Boc」はtert-ブトキシカルボニル基である。「*」は結合手を表す。)
【0021】
特定構造の好ましい具体例としては、下記式(1-1)~式(1-21)のそれぞれで表される構造が挙げられる。
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
(式(1-14)~式(1-19)中、R11は、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又はtert-ブトキシカルボニル基である。「*」は結合手を表す。)
【0022】
特定構造は、上記式(1-1)~式(1-21)のうち、上記式(1-1)~式(1-11)及び式(1-14)~式(1-18)のそれぞれで表される構造が特に好ましい。
【0023】
重合体[P]の主鎖は、特定構造を主鎖に導入可能である限り特に限定されない。重合体[P]を主鎖に導入しやすい点で、重合体[P]は、特定構造を有する単量体に由来する構造単位を含む重合体であることが好ましく、特定構造を有するジアミン化合物(以下「特定ジアミン」ともいう)に由来する構造単位を含む重合体であることがより好ましい。これらの中でも、液晶との親和性及び機械的強度が高く、かつ信頼性の高い液晶配向膜を形成できる点で、重合体[P]は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0024】
ここで、「主鎖」とは、重合体のうち最も長い原子の連鎖からなる「幹」の部分をいう。なお、この「幹」の部分が環構造を含むことは許容される。つまり、「特定構造を主鎖に有する」とは、特定構造が主鎖の一部分を構成することをいう。「側鎖」とは、重合体の「幹」から分岐した部分をいう。
【0025】
重合体[P]において、特定構造を有する単量体に由来する構造単位の含有割合は、重合体[P]が有する単量体単位の全量に対して、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることが更に好ましく、30モル%以上であることがより更に好ましい。
【0026】
重合体[P]の合成に使用する特定ジアミンは、下記式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【化9】
(式(3)中、B及びBは、それぞれ独立して単結合又は2価の芳香環基である。ただし、Bが2価の芳香環基である場合、Bは単結合であり、Bが2価の芳香環基である場合、Bは単結合である。A、A、B、B、X、X及びYは上記式(1)と同義である。)
【0027】
上記式(3)において、B及びBの2価の芳香環基の例示及び好ましい例については、上記B及びBの2価の芳香環基の説明が適用される。液晶配向膜の高密度化を図る観点から、B及びBは、単結合又は2価の芳香族炭化水素基が好ましく、単結合又はフェニレン基がより好ましく、単結合であることが特に好ましい。
、A、B、B、X、X及びYの例示及び好ましい例については、上記式(1)の説明が適用される。
【0028】
特定ジアミンの好ましい例としては、下記式(3-1)~式(3-25)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
(式(3-14)~式(3-19)中、R11は、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又はtert-ブトキシカルボニル基である。)
【0029】
特定ジアミンは、上記の中でも、上記式(3-1)~式(3-11)及び式(3-14)~式(3-18)のそれぞれで表される化合物が好ましい。なお、特定ジアミンとしては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
(ポリアミック酸)
重合体[P]がポリアミック酸である場合、当該ポリアミック酸(以下「ポリアミック酸[P]」ともいう)は、テトラカルボン酸二無水物と、特定ジアミンを含むジアミン化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0031】
(テトラカルボン酸二無水物)
ポリアミック酸[P]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。これらの具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物等を;脂環式テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等を;芳香族テトラカルボン酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメート、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、4,4’-カルボニルジフタル酸無水物等を;それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。テトラカルボン酸二無水物としては、1種を単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0032】
ポリアミック酸[P]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物は、溶剤に対する溶解性が高く、良好な電気特性及び低残像特性を示す液晶配向膜を得ることができる点で、脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物よりなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含むことが好ましく、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことがより好ましい。脂環式テトラカルボン酸二無水物の使用割合は、ポリアミック酸[P]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、20モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがより好ましく、50モル%以上であることが更に好ましい。
【0033】
(ジアミン化合物)
ポリアミック酸[P]の合成に使用されるジアミン化合物は、特定ジアミンのみであってもよいが、特定ジアミンとともに、特定ジアミンとは異なるジアミン(以下「その他のジアミン」ともいう)を使用してもよい。その他のジアミンとしては、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサン等が挙げられる。
【0034】
その他のジアミンの具体例としては、脂肪族ジアミンとして、メタキシリレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等を;脂環式ジアミンとして、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等を;芳香族ジアミンとして、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘキサン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-(フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、2,6-ジアミノピリジン、2,4-ジアミノピリミジン、3,6-ジアミノカルバゾール、N-メチル-3,6-ジアミノカルバゾール、3,6-ジアミノアクリジン等の主鎖型ジアミン;ヘキサデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレステリルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、コレステリルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5-ジアミノ安息香酸コレステリル、3,5-ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン、4-(4’-トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル-3,5-ジアミノベンゾエート、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ブチルシクロヘキサン、3,5-ジアミノ安息香酸=5ξ-コレスタン-3-イル、下記式(E-1)
【化14】
(式(E-1)中、XI及びXIIは、それぞれ独立して、単結合、-O-、*-COO-又は*-OCO-(ただし、「*」はXとの結合手を示す。)であり、Rは炭素数1~3のアルカンジイル基であり、RIIは単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基であり、aは0又は1であり、bは0~2の整数であり、cは1~20の整数であり、dは0又は1である。ただし、a及びbが同時に0になることはない。)
で表される化合物等の側鎖型ジアミン等を、
ジアミノオルガノシロキサンとして、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン等を、それぞれ挙げることができる。上記式(E-1)で表される化合物としては、例えば下記式(E-1-1)~式(E-1-4)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化15】
【0035】
ポリアミック酸[P]の合成に際し、特定ジアミンの使用割合は、低プレチルト角を発現し、残像が生じにくく、かつ高VHR及び高信頼性を示す液晶素子を得る観点から、ポリアミック酸[P]の合成に使用するジアミン化合物の全量に対して、20モル%以上であることが好ましく、30モル%以上であることがより好ましく、50モル%以上であることが更に好ましい。なお、その他のジアミンとしては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
(ポリアミック酸の合成)
ポリアミック酸[P]は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることにより得ることができる。ポリアミック酸[P]の合成反応において、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2~2当量となる割合が好ましい。分子量調整剤としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸などの酸一無水物、アニリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミンなどのモノアミン化合物、フェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどのモノイソシアネート化合物等を挙げることができる。分子量調整剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましい。
【0037】
ポリアミック酸[P]の合成反応は、好ましくは有機溶媒中で行われる。このときの反応温度は-20℃~150℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間が好ましい。反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等を挙げることができる。これらの具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m-クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を反応溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と、他の有機溶媒(例えばブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテルなど)との混合物を使用することが好ましい。有機溶媒の使用量(a)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して、0.1~50質量%になる量とすることが好ましい。
【0038】
以上のようにして、ポリアミック酸[P]を溶解してなる重合体溶液が得られる。この重合体溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、重合体溶液中に含まれるポリアミック酸[P]を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0039】
<ポリアミック酸エステル>
重合体[P]がポリアミック酸エステルである場合、当該ポリアミック酸エステル(以下「ポリアミック酸エステル[P]」ともいう)は、例えば、[I]ポリアミック酸[P]とエステル化剤とを反応させる方法、[II]テトラカルボン酸ジエステルと、特定ジアミンを含むジアミン化合物とを反応させる方法、[III]テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物と、特定ジアミンを含むジアミン化合物とを反応させる方法、等によって得ることができる。ポリアミック酸エステル[P]は、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。ポリアミック酸エステル[P]を溶解してなる反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸エステル[P]を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0040】
<ポリイミド>
重合体[P]がポリイミドである場合、当該ポリイミド(以下「ポリイミド[P]」ともいう)は、例えば上記の如くして合成されたポリアミック酸[P]を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。ポリイミド[P]は、その前駆体であるポリアミック酸[P]が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存する部分イミド化物であってもよい。ポリイミド[P]は、イミド化率が20~99%であることが好ましく、30~90%であることがより好ましい。なお、イミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ここで、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0041】
ポリアミック酸[P]の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸[P]を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。この方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸[P]のアミック酸構造の1モルに対して0.01~20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01~10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸[P]の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0~180℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間である。なお、ポリイミド[P]を含有する反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミド[P]を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0042】
液晶配向剤の調製に使用する重合体[P]の溶液粘度は、濃度10質量%の溶液としたときに10~800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、15~500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、溶液粘度(mPa・s)は、重合体[P]の良溶媒(例えばγ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン等)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0043】
重合体[P]のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000である。また、Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは7以下であり、より好ましくは5以下である。なお、液晶配向剤の調製に際し、重合体[P]は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
<その他の成分>
液晶配向剤は、重合体[P]のほか、必要に応じて、重合体[P]とは異なる成分(以下「その他の成分」ともいう)を含有していてもよい。
【0045】
(その他の重合体)
本開示の液晶配向剤は、重合体成分として、特定構造を有さない重合体(以下「その他の重合体」ともいう)を含有していてもよい。その他の重合体の主骨格は特に限定されない。その他の重合体としては、例えば、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリエナミン、ポリウレア、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾオキサゾール前駆体、ポリベンゾオキサゾール、セルロース誘導体、ポリアセタール、(メタ)アクリル系重合体、スチレン系重合体、マレイミド系重合体、又はスチレン-マレイミド系重合体が挙げられる。重合体[P]と併用した場合の液晶との親和性が高く、また液晶素子の信頼性を高くする観点から、その他の重合体は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0046】
その他の重合体を液晶配向剤に含有させる場合、重合体[P]の含有割合は、重合体[P]とその他の重合体との合計量に対して、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましく、30質量%以上がより更に好ましい。その他の重合体としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0047】
(溶剤)
本開示の液晶配向剤は、重合体[P]及び必要に応じて使用されるその他の成分が、好ましくは適当な溶媒中に分散又は溶解してなる液状の組成物として調製される。
【0048】
溶剤としては有機溶媒が好ましく使用される。その具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,2-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、フェノール、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、ジアセトンアルコール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、プロパン-1,2-ジオール、3-メトキシ-1-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、プロピオン酸エチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、ジエチレングリコールジエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールジアセテート、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等を挙げることができる。これらは、1種が単独で又は2種以上を混合して使用される。
【0049】
液晶配向剤に含有されるその他の成分としては、上記のほか、例えば酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤等が挙げられる。その他の成分の配合割合は、本発明の効果を損なわない範囲で各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0050】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性等を考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1~10質量%の範囲である。固形分濃度が1質量%以上であると、塗膜の膜厚を十分に確保でき、良好な液晶配向性を示す液晶配向膜が得られやすい。一方、固形分濃度が10質量%以下であると、塗膜を適度な厚みとすることができ、良好な液晶配向性を示す液晶配向膜が得られやすく、また、液晶配向剤の粘性が適度となり塗布性を良好にできる傾向がある。
【0051】
≪液晶配向膜及び液晶素子≫
本開示の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により製造される。また、本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。液晶素子における液晶の駆動方式は特に限定されず、例えばTN型、STN型、VA型(VA-MVA型、VA-PVA型などを含む。)、IPS型、FFS型、OCB(Optically Compensated Bend)型、PSA型(Polymer Sustained Alignment)等の種々のモードに適用することができる。液晶素子は、例えば以下の工程1~工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は、各動作モード共通である。
【0052】
<工程1:塗膜の形成>
まず、基板上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)などのプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム-酸化スズ(In-SnO)からなるITO膜などを用いることができる。TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板二枚を用いる。一方、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。
【0053】
基板への液晶配向剤の塗布方法は特に限定されず、例えばスピンコート方式、印刷方式(例えば、オフセット印刷方式、フレキソ印刷方式等)、インクジェット方式、スリットコート方式、バーコーター方式、エクストリューションダイ方式、ダイレクトグラビアコーター方式、チャンバードクターコーター方式、オフセットグラビアコーター方式、含浸コーター方式、MBコーター方式法等により行うことができる。
【0054】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、プレベーク時間は、好ましくは0.25~10分である。その後、溶剤を完全に除去し、必要に応じて、重合体に存在するアミック酸構造を熱イミド化することを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80~280℃であり、より好ましくは80~250℃である。ポストベーク時間は、好ましくは5~200分である。形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001~1μmである。
【0055】
<工程2:配向処理>
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合、上記工程1で形成した塗膜に対し、液晶配向能を付与する処理(配向処理)を実施する。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。配向処理としては、基板上に形成した塗膜の表面をコットン等で擦るラビング処理、又は塗膜に光照射を行って液晶配向能を付与する光配向処理を用いることが好ましい。垂直配向型の液晶素子を製造する場合には、上記工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用してもよく、液晶配向能をさらに高めるために該塗膜に対し配向処理を施してもよい。
【0056】
光配向のための光照射は、ポストベーク工程後の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程後であってポストベーク工程前の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程及びポストベーク工程の少なくともいずれかにおいて塗膜の加熱中に塗膜に対して照射する方法、等により行うことができる。塗膜に照射する放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。好ましくは、200~400nmの波長の光を含む紫外線である。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線の場合の照射方向は斜め方向とする。
【0057】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマーレーザー等が挙げられる。放射線の照射量は、好ましくは200~30,000J/mであり、より好ましくは500~10,000J/mである。配向能付与のための光照射後において、基板表面を例えば水、有機溶媒(例えば、メタノール、イソプロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル等)又はこれらの混合物を用いて洗浄する処理や、基板を加熱する処理を行ってもよい。
【0058】
<工程3:液晶セルの構築>
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、液晶配向膜が対向するように間隙を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤により貼り合わせ、基板表面とシール剤で囲まれたセルギャップ内に液晶を注入充填し注入孔を封止する方法、ODF方式による方法等が挙げられる。シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂等を用いることができる。液晶としては、ポジ型及びネガ型のいずれを用いてもよいが、好ましくはネガ型である。ネガ型液晶としては、例えばメルク社製「MLC-6608」、「MLC-6609」、「MLC-6610」、「MLC-7026-100」等が挙げられる。特に、IPS型及びFFS型の液晶素子においてネガ型液晶を用いた場合、電極上部での透過損失を小さくでき、コントラスト向上を図ることができる点で好ましい。また、液晶としては、ネマチック液晶、スメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましい。
【0059】
液晶表示装置を製造する場合、続いて、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせ、液晶表示素子を得る。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。
【0060】
なお、重合体[P]を用いて液晶配向膜を形成することにより、ネガ型液晶を用いた場合にも低いプレチルト角を示し、残像が生じにくく、電圧保持率が高く、かつ信頼性に優れた液晶素子を得ることができる理由は定かではないが、以下のようなことが考えられる。重合体[P]は、主鎖中に窒素含有芳香族複素環構造を有し、かつ-O-又は-NR-(CH-に結合する芳香環を特定の位置に有している(上記式(1)参照)。これにより、重合体同士の分子間での相互作用によって液晶配向膜が高密度化し、長期の使用によって生じるイオン性不純物が膜に固定化されてイオン密度の増加が抑制されるとともに、良好な低プレチルト角特性及び低残像特性を示したことが考えられる。
【0061】
本発明の液晶素子は、種々の用途に有効に適用することができる。具体的には、例えば、時計、携帯型ゲーム機、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイ等の各種表示装置や、調光装置、位相差フィルム等として用いることができる。
【実施例
【0062】
以下、実施例に基づき実施形態をより詳しく説明するが、以下の実施例によって本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0063】
以下の例において、重合体の重量平均分子量Mw、重合体溶液中のポリイミドのイミド化率、重合体溶液の溶液粘度、及びエポキシ当量は以下の方法により測定した。以下の実施例で用いた原料化合物及び重合体の必要量は、下記の合成例に示す合成スケールでの合成を必要に応じて繰り返すことにより確保した。
[重合体の重量平均分子量Mw]
重量平均分子量Mwは、以下の条件におけるGPCにより測定したポリスチレン換算値である。
カラム:東ソー(株)製、TSKgelGRCXLII
溶剤:リチウムブロミド及びリン酸含有のN,N-ジメチルホルムアミド溶液
温度:40℃
圧力:68kgf/cm
[ポリイミドのイミド化率]
ポリイミドの溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温でH-NMRを測定した。得られたH-NMRスペクトルから、下記数式(1)によりイミド化率[%]を求めた。
イミド化率[%]=(1-(A/(A×α)))×100 …(1)
(数式(1)中、Aは化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、Aはその他のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
【0064】
化合物の略号は以下の通りである。なお、以下では、式(X)で表される化合物を単に「化合物(X)」と示すことがある。
【化16】
【化17】
【化18】
【0065】
<重合体の合成>
1.ポリアミック酸の合成
[合成例1]
テトラカルボン酸二無水物として1,3-ジメチルシクロブタン-1,2:3,4-テトラカルボン酸二無水物100モル部、ジアミン化合物として化合物(DA-1)100モル部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解し、室温で6時間反応を行い、ポリアミック酸(これを「重合体(PA-1)」とする)を15質量%含有する溶液を得た。
[合成例2~12]
使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類及び量を下記表1に記載のとおり変更した以外は合成例1と同様の操作を行い、ポリアミック酸(重合体(PA-2)~(PA-7)、(PB-1)~(PB-5))を得た。
【0066】
2.ポリイミドの合成
[合成例13]
テトラカルボン酸二無水物として1,3-ジメチルシクロブタン-1,2:3,4-テトラカルボン酸二無水物100モル部、ジアミン化合物として化合物(DA-1)100モル部をNMPに溶解し、室温で6時間反応を行い、ポリアミック酸を15質量%含有する溶液を得た。次いで、得られたポリアミック酸溶液に、NMPを追加してポリアミック酸濃度10質量%の溶液とし、ピリジン及び無水酢酸を添加して60℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換することにより、イミド化率約70%のポリイミド(これを「重合体(PI-1)」とする)を15質量%含有する溶液を得た。
[合成例14~16]
使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類及び量を下記表1に記載のとおり変更した以外は合成例13と同様の操作を行い、ポリイミド(重合体(PI-2)~(PI-4))を得た。
【0067】
【表1】
【0068】
[実施例1]
1.液晶配向剤の調製
合成例1で得た重合体(PA-1)の溶液を用いて、NMP及びブチルセロソルブ(BC)により希釈して、溶媒組成がNMP/BC=80/20(質量比)、固形分濃度が3.5質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-1)を調製した。
【0069】
2.ラビング法を用いたFFS型液晶セルの製造
平板電極(ボトム電極)、絶縁層及び櫛歯状電極(トップ電極)がこの順で片面に積層されたガラス基板(第1基板とする)、並びに電極が設けられていないガラス基板(第2基板とする)を準備した。次いで、第1基板の電極形成面及び第2基板の片面のそれぞれに、液晶配向剤(AL-1)を、スピンナーを用いて塗布し、110℃のホットプレートで3分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.08μmの塗膜を形成した。次いで、塗膜表面に対し、レーヨン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数1000rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押し込み長さ0.3mmでラビング処理を行った。その後、超純水中で1分間超音波洗浄を行い、次いで100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する一対の基板を得た。
次いで、液晶配向膜を有する一対の基板につき、液晶配向膜を形成した面の縁に液晶注入口を残して、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷塗布した。その後、基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より、一対の基板間の間隙にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃で加熱してから室温まで徐冷し、液晶セルを製造した。なお、一対の基板を重ね合わせる際には、それぞれの基板のラビング方法が反平行となるようにした。トップ電極としては、互いに平行な複数の線状電極が中央部で「く」の字状に屈曲した形状を有し、かつ電極の線幅が3μm、電極間の距離が6μmである櫛歯電極を用いた(特開2014-77845号公報の図3参照)。得られた液晶セルは、線状電極の屈曲部を境界として、液晶の配向方位が異なる2つの画素領域(第1領域、第2領域)を有しており、マルチドメイン駆動が可能である。
【0070】
3.低プレチルト角特性の評価
上記2.で製造した液晶セルにつき、非特許文献「T. J. Scheffer et. al. J. Appl. Phys. vo. 19, p. 2013(1980)」に記載の方法に準拠して、He-Neレーザー光を用いる結晶回転法により液晶分子の基板面からの傾き角の値を測定し、これをプレチルト角とした。プレチルト角の測定値が0.7度未満の場合に「優良(◎)」、0.7度以上0.9度未満の場合に「良好(○)」、0.9度以上1.1度未満の場合に「可(△)」、1.1度以上の場合に「不可(×)」とした。その結果、この実施例の低プレチルト角特性の評価は「優良」であった。
【0071】
4.低残像特性の評価
上記2.で製造したFFS型液晶セルの電極間に、60℃の恒温環境下、交流電圧10Vを72時間印加した。その後、液晶セルのトップ電極とボトム電極との間を短絡させた状態にし、そのまま室温で1日放置した。1日放置した後、偏光軸が直交するように配置された2枚の偏光板の間に液晶セルを配置し、電圧無印加の状態でバックライトを点灯しておき、透過光の輝度が最も小さくなるように液晶セルの配置角度を調整した。FFS型液晶セルの2つの画素領域のうち一方の領域が最も暗くなる角度から他方の領域が最も暗くなる角度まで液晶セルを回転させたときの回転角度を角度Δθとした。角度Δθが小さいほど残像が生じにくく、低残像特性が良好であるといえる。角度Δθが0.10度未満の場合に「優良(◎)」、0.10度以上0.15度未満の場合に「良好(○)」、0.15度以上0.20度未満の場合に「可(△)」、0.20度以上の場合に「不可(×)」と評価した。その結果、この実施例の低残像特性は「優良」の評価であった。
【0072】
5.電気特性の評価
上記2.で製造した液晶セルを60℃のオーブンに静置した後、東洋テクニカ製VHR測定装置を用いて、1V、1670msecの条件で電圧保持率(これを「初期VHR」ともいう)を測定した。評価基準としては、初期VHRが80%以上の場合に「優良(◎)」、80%未満70%以上の場合に「良好(○)」、70%未満60%以上の場合に「可(△)」、60%未満の場合に「不可(×)」とした。その結果、この実施例の初期VHRの評価は「良好」であった。
【0073】
6.光照射後の信頼性の評価
上記2.で製造した液晶セルの信頼性を評価した。評価は以下のようにして行った。まず、液晶セルに1Vの電圧を60マイクロ秒印加した後、印加解除から1670ミリ秒後の電圧保持率(VHR1)を測定した。次いで、液晶セルにCCFL(バックライト)を60℃で1週間照射した後、室温中に静置して室温まで自然冷却した。冷却後、液晶セルに1Vの電圧を60マイクロ秒印加した後、印加解除から1670ミリ秒後の電圧保持率(VHR2)を測定した。なお、測定装置は(株)東陽テクニカ製「VHR-1」を使用した。このときのVHRの変化率(ΔVHR)をVHR1とVHR2との差分(ΔVHR=VHR1-VHR2)により算出し、ΔVHRによって信頼性を評価した。ΔVHRが10%未満であった場合を「優良(◎)」、10%以上15%未満であった場合を「良好(○)」、15%以上20%未満であった場合を「可(△)」、20%以上であった場合を「不可(×)」と判定した。その結果、この実施例では信頼性「良好」であった。
【0074】
[実施例2~11及び比較例1~4]
液晶配向剤の組成を下記表2のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして液晶配向剤を調製した。また、得られた液晶配向剤を用いて、実施例1と同様にしてラビング法によりFFS型液晶セルを製造し、各種評価を行った。それらの結果を下記表2に示した。なお、実施例10、11では、重合体成分として2種類の重合体を使用した。表2中、重合体成分欄の括弧内の数値は、液晶配向剤の調製に使用した重合体成分の全量に対する、各重合体の固形分での配合割合(質量部)を表す。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示すように、実施例1~11は、比較例1~4に比べて、低プレチルト角特性、低残像特性、初期VHR、及び信頼性の各種特性のバランスが取れていた。特に、実施例1~5、7~11では、いずれの特性も「◎」又は「○」の評価であり優れていた。これらの中でも特に、実施例1、4、5は、低プレチルト角特性が「◎」であり、低残像特性も良好であった。
【0077】
[実施例12]
1.液晶配向剤の調製
合成例4で得た重合体(PA-4)の溶液を用いて、NMP及びBCにより希釈して、溶媒組成がNMP/BC=80/20(質量比)、固形分濃度が3.5質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-12)を調製した。
【0078】
2.光配向法を用いたFFS型液晶表示素子の製造
実施例1と同様の第1基板及び第2基板を準備した。次いで、第1基板の電極形成面及び第2基板の一方の基板面のそれぞれに、液晶配向剤(AL-12)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。得られた塗膜に対し、Hg-Xeランプを用いて、直線偏光された254nmの輝線を含む紫外線1,000J/mを基板法線方向から照射して光配向処理を施した。なお、この照射量は、波長254nm基準で計測される光量計を用いて計測した値である。次いで、光配向処理が施された塗膜を、230℃のクリーンオーブンで30分加熱して熱処理を行い、液晶配向膜を形成した。
次に、液晶配向膜を形成した一対の基板のうちの一方の基板につき、液晶配向膜を有する面の外縁に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した。その後、光照射時の偏光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より一対の基板間にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止し、液晶セルを得た。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃で加熱してから室温まで徐冷した。その後、液晶セルにおける基板の外側両面に偏光板を貼り合わせ、液晶表示素子を得た。また、上記の一連の操作を、ポストベーク後の紫外線照射量を100~10,000J/mの範囲でそれぞれ変更して実施することにより、紫外線照射量が異なる3個以上の液晶表示素子を製造し、最も良好な配向特性を示した露光量(最適露光量)の液晶表示素子を、以下の液晶配向性、低残像特性、電気特性及び信頼性の評価に用いた。
【0079】
3.光反応性の評価
石英基板上に、上記1.で調製した液晶配向剤(AL-12)をスピンナーにより塗布し、80℃のホットプレートで1分間加熱した後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥を行い、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。この塗膜表面に、Hg-Xeランプを用いて、直線偏光された254nmの輝線を含む紫外線1,000J/mを基板法線方向から照射した。その後、光分解によって生じる置換マレイミド化合物に由来する吸収から光反応性を評価した。具体的には、220~250nmの領域での極大吸収波長における光照射後の塗膜の吸光度を測定し、該波長における光照射前の塗膜の吸光度に対する増加率を計算した。吸光度の増加率が20%以上であった場合を「優良(◎)」、吸光度の増加率が10%以上20%未満であった場合を「良好(○)」、吸光度の増加率が10%未満であった場合を「不可(×)」とした。その結果、この実施例の評価は「優良」であった。
【0080】
4.液晶配向性の評価
上記2.で製造した液晶表示素子につき、電圧をオン・オフ(印加・解除)したときの明暗の変化により異常ドメインの有無を顕微鏡(倍率50倍)で観察し、液晶配向性を評価した。このとき、異常ドメインが観察されない場合を「良好(○)」、異常ドメインが観察される場合を「不可(×)」とした。その結果、この実施例では、液晶配向性「良好」と判断された。
【0081】
5.低残像特性の評価
基板の外側両面に偏光板を貼り合わせなかった点以外は上記2.と同様の操作を行ってFFS型液晶セルを作製し、実施例1と同様の方法により低残像特性を評価した。その結果、この実施例では、低残像特性「優良」と判断された。
6.電気特性の評価
上記2.で製造した液晶表示素子につき、実施例1と同様の方法により電気特性を評価した。その結果、この実施例では、電気特性「優良」と判断された。
7.信頼性の評価
上記2.で製造した液晶表示素子につき、実施例1と同様の方法により信頼性を評価した。その結果、この実施例では、信頼性「良好」と判断された。
【0082】
[実施例13~16及び比較例5、6]
液晶配向剤の組成を下記表3のとおりに変更した以外は実施例12と同様にして液晶配向剤を調製した。また、得られた液晶配向剤を用いて、実施例12と同様にして光配向法によりFFS型液晶表示素子を製造し、各種評価を行った。それらの結果を下記表3に示した。なお、実施例15、16では、重合体成分として2種類の重合体を使用した。表3中、重合体成分欄の括弧内の数値は、液晶配向剤の調製に使用した重合体成分の全量に対する、各重合体の固形分での配合割合(質量部)を表す。実施例15、16については光反応性の評価を行わなかったため、光反応性の欄には「-」と表記した。
【0083】
【表3】
【0084】
表3に示すように、実施例12~16は、比較例5、6に比べて、液晶配向性、低残像特性、初期VHR、及び信頼性の各種特性のバランスが取れていた。また、実施例12~14の液晶配向剤は光反応性にも優れていた。