(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】歯車装置およびロボット
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20231205BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20231205BHJP
B25J 17/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16H57/04 L
B25J17/00 E
(21)【出願番号】P 2020071540
(22)【出願日】2020-04-13
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】正井 智
(72)【発明者】
【氏名】片岡 祐哉
(72)【発明者】
【氏名】竹花 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】征矢 佳之
【審査官】木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-194094(JP,A)
【文献】特開2018-25291(JP,A)
【文献】特開2004-19878(JP,A)
【文献】実開昭49-109074(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 57/04
B25J 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯歯車と、
前記内歯歯車に部分的に噛み合って前記内歯歯車に対して回転軸まわりに相対的に回転し、可撓性を有する外歯歯車と、
前記外歯歯車の内側に設けられ、前記内歯歯車と前記外歯歯車との噛み合い位置を前記回転軸まわりの周方向に移動させる波動発生器と、
を有し、
前記外歯歯車は、外歯歯面を有する外歯を備え、
前記外歯歯面は、前記外歯の歯すじの方向と交差する方向に延在し、かつ、前記歯すじの方向に隣り合って並ぶ第1凸部および第2凸部を含む外歯凸パターンを備え、
前記第1凸部と前記第2凸部との距離は、80μm以上520μm以下であることを特徴とする歯車装置。
【請求項2】
前記第1凸部と前記第2凸部との距離は、160μm以上510μm以下である請求項1に記載の歯車装置。
【請求項3】
前記第1凸部と前記第2凸部との距離は、300μm以上450μm以下である請求項1に記載の歯車装置。
【請求項4】
前記外歯は、前記外歯歯面と、前記外歯歯面に接続する歯底面および歯先面と、を備え、
前記第1凸部および前記第2凸部は、前記外歯歯面から前記歯底面および前記歯先面まで延在している請求項1ないし3のいずれか1項に記載の歯車装置。
【請求項5】
前記外歯凸パターンは、前記回転軸まわりの螺旋状に延在している請求項4に記載の歯車装置。
【請求項6】
前記内歯歯車は、内歯歯面を有する内歯を備え、
前記内歯歯面は、前記外歯凸パターンと同じ内歯凸パターンを備える請求項1ないし5のいずれか1項に記載の歯車装置。
【請求項7】
前記内歯歯車は、内歯歯面を有する内歯を備え、
前記内歯歯面は、前記外歯凸パターンと異なる内歯凸パターンを備える請求項1ないし5のいずれか1項に記載の歯車装置。
【請求項8】
第1部材と、
前記第1部材に対して回動する第2部材と、
前記第1部材に対して前記第2部材を相対的に回動させる駆動力を伝達する請求項1ないし7のいずれか1項に記載の歯車装置と、
前記歯車装置に向けて前記駆動力を出力する駆動源と、
を備えることを特徴とするロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車装置およびロボットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
少なくとも1つのアームを含むロボットアームを備えるロボットでは、例えば、ロボットアームの関節部をモーター駆動により回動させる。モーターの回転は、減速機により減速され、ロボットアームに伝達される。
【0003】
このような減速機として、特許文献1に記載されている波動歯車装置が知られている。特許文献1に記載の波動歯車装置は、円環状をした剛性内歯歯車と、この内側に配置されているコップ状の可撓性外歯歯車と、この外歯歯車の内側に嵌め込まれた楕円形輪郭を有する波動発生器と、により構成されている。
【0004】
剛性内歯歯車は、内歯を備え、可撓性外歯歯車は、外歯を備えている。内歯および外歯は、互いに噛み合い可能になっている。また、両歯車の歯面の摩擦接触部分には、基油粘度が高くせん断安定性のあるグリースが充填されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、歯車の歯面の表面状態によっては、摩擦接触部分にグリースを留めることができず、波動歯車装置の短寿命化を招くおそれがある。そこで、摩擦接触部分を改善することで、波動歯車装置の長寿命化を図ることが課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の適用例に係る歯車装置は、
内歯歯車と、
前記内歯歯車に部分的に噛み合って前記内歯歯車に対して回転軸まわりに相対的に回転し、可撓性を有する外歯歯車と、
前記外歯歯車の内側に設けられ、前記内歯歯車と前記外歯歯車との噛み合い位置を前記回転軸まわりの周方向に移動させる波動発生器と、
を有し、
前記外歯歯車は、外歯歯面を有する外歯を備え、
前記外歯歯面は、前記外歯の歯すじの方向と交差する方向に延在し、かつ、前記歯すじの方向に隣り合って並ぶ第1凸部および第2凸部を含む外歯凸パターンを備え、
前記第1凸部と前記第2凸部との距離は、80μm以上520μm以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明の適用例に係るロボットは、
第1部材と、
前記第1部材に対して回動する第2部材と、
前記第1部材に対して前記第2部材を相対的に回動させる駆動力を伝達する請求項1ないし7のいずれか1項に記載の歯車装置と、
前記歯車装置に向けて前記駆動力を出力する駆動源と、
を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係るロボットの概略構成を示す側面図である。
【
図2】第1実施形態に係る歯車装置を示す縦断面図である。
【
図3】
図2に示す歯車装置本体の分解斜視図である。
【
図4】
図2に示す歯車装置本体の正面図であって軸線a方向から見た図である。
【
図5】
図3に示す可撓性歯車が備える外歯近傍の部分拡大図である。
【
図6】
図3に示す剛性歯車が備える内歯近傍の部分拡大図である。
【
図7】
図3に示す剛性歯車が備える内歯と可撓性歯車が備える外歯とが噛み合った状態を部分的に拡大して示す斜視図である。
【
図8】
図7の噛み合い位置の部分拡大断面図である。
【
図9】距離Sと歯車装置の寿命との関係を示すグラフである。
【
図10】距離Sとトルク伝達効率との関係を示すグラフである。
【
図11】距離Sと起動トルクとの関係を示すグラフである。
【
図13】第2実施形態に係る歯車装置を示す部分断面斜視図である。
【
図14】第3実施形態に係る歯車装置を示す部分断面斜視図である。
【
図15】第4実施形態に係る歯車装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の歯車装置およびロボットを添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0011】
1.ロボット
まず、本実施形態に係るロボットについて簡単に説明する。
【0012】
図1は、実施形態に係るロボットの概略構成を示す側面図である。なお、以下では、説明の便宜上、
図1中の上側を「上」、下側を「下」と言う。また、
図1中の基台側を「基端側」、その反対側、すなわちエンドエフェクター側を「先端側」と言う。なお、本明細書における「方向」は、軸に沿う一方側の方向とその反対方向の双方を含む。
【0013】
図1に示すロボット100は、例えば、精密機器やこれを構成する部品の給材、除材、搬送および組立等の作業に用いられるロボットである。このロボット100は、
図1に示すように、基台110と、第1アーム120と、第2アーム130と、作業ヘッド140と、エンドエフェクター150と、配管160と、を有している。以下、ロボット100の各部を順次簡単に説明する。
【0014】
基台110は、例えば、図示しない床面にボルト等によって固定されている。基台110の内部には、ロボット100を統括制御する制御装置190が設置されている。また、基台110には、基台110に対して鉛直方向に沿う第1軸J1まわりに回動可能に第1アーム120が連結している。すなわち、基台110に対して第1アーム120が相対的に回動している。
【0015】
ここで、基台110内には、第1アーム120を回動させる駆動力を発生させる第1モーターであるモーター170(駆動源)と、モーター170の駆動力の回転を減速する第1減速機である歯車装置10と、が設置されている。歯車装置10の入力軸は、モーター170の回転軸に連結され、歯車装置10の出力軸は、第1アーム120に連結されている。そのため、モーター170が駆動し、その駆動力が歯車装置10を介して第1アーム120に伝達されると、第1アーム120が基台110に対して第1軸J1まわりに水平面内で相対的に回動する。すなわち、モーター170は、歯車装置10に向けて駆動力を出力する駆動源である。
【0016】
第1アーム120の先端部には、第1アーム120に対して第2軸J2まわりに回動可能な第2アーム130が連結している。第2アーム130内には、図示しないが、第2アーム130を回動させる駆動力を発生させる第2モーターと、第2モーターの駆動力の回転を減速する第2減速機と、が設置されている。そして、第2モーターの駆動力が第2減速機を介して第2アーム130に伝達されることにより、第2アーム130が第1アーム120に対して第2軸J2まわりに水平面内で回動する。
【0017】
第2アーム130の先端部には、作業ヘッド140が配置されている。作業ヘッド140は、第2アーム130の先端部に同軸的に配置された図示しないスプラインナットおよびボールネジナットに挿通されたスプラインシャフト141を有している。スプラインシャフト141は、第2アーム130に対して、
図1に示す第3軸J3まわりに回転可能であり、かつ、上下方向に移動可能となっている。
【0018】
第2アーム130内には、図示しないが、回転モーターおよび昇降モーターが配置されている。回転モーターの駆動力は、図示しない駆動力伝達機構によってスプラインナットに伝達され、スプラインナットが正逆回転すると、スプラインシャフト141が鉛直方向に沿う第3軸J3まわりに正逆回転する。
【0019】
一方、昇降モーターの駆動力は、図示しない駆動力伝達機構によってボールネジナットに伝達され、ボールネジナットが正逆回転すると、スプラインシャフト141が上下に移動する。
【0020】
スプラインシャフト141の先端部には、エンドエフェクター150が連結されている。エンドエフェクター150としては、特に限定されず、例えば、被搬送物を把持するもの、被加工物を加工するもの等が挙げられる。
【0021】
第2アーム130内に配置された各電子部品、例えば第2モーター、回転モーター、昇降モーター等に接続される複数の配線は、第2アーム130と基台110とを連結する管状の配管160内を通って基台110内まで引き回されている。さらに、かかる複数の配線は、基台110内でまとめられることによって、モーター170および図示しないエンコーダーに接続される配線とともに、基台110内に設置された制御装置190まで引き回される。
【0022】
以上のように、ロボット100は、第1部材である基台110と、基台110に対して回動可能に設けられている第2部材である第1アーム120と、基台110および第1アーム120の一方側から他方側へ駆動力を伝達する歯車装置10と、歯車装置10に向けて駆動力を出力する駆動源であるモーター170と、を備える。
【0023】
なお、第1アーム120および第2アーム130をまとめて「第2部材」と捉えてもよい。また、「第2部材」が、第1アーム120および第2アーム130に加え、さらに、作業ヘッド140およびエンドエフェクター150を含んでいてもよい。
【0024】
また、本実施形態では、第1減速機が歯車装置10で構成されているが、第2減速機が歯車装置10で構成されていてもよく、また、第1減速機および第2減速機の双方が歯車装置10で構成されていてもよい。第2減速機が歯車装置10で構成されている場合、第1アーム120を「第1部材」と捉え、第2アーム130を「第2部材」と捉えればよい。
【0025】
また、本実施形態では、モーター170および歯車装置10は基台110に設けられているが、モーター170および歯車装置10を第1アーム120に設けるようにしてもよい。この場合、歯車装置10の出力軸を基台110に連結すればよい。
【0026】
2.第1実施形態に係る歯車装置
次に、第1実施形態に係る歯車装置について説明する。
【0027】
図2は、第1実施形態に係る歯車装置を示す縦断面図である。
図3は、
図2に示す歯車装置本体の分解斜視図である。
図4は、
図2に示す歯車装置本体の正面図であって軸線a方向から見た図である。
図5は、
図3に示す可撓性歯車3が備える外歯33近傍の部分拡大図である。
図6は、
図3に示す剛性歯車2が備える内歯23近傍の部分拡大図である。
図7は、
図3に示す剛性歯車2が備える内歯23と可撓性歯車3が備える外歯33とが噛み合った状態を部分的に拡大して示す斜視図である。
図8は、
図7の噛み合い位置の部分拡大断面図である。なお、各図では、説明の便宜上、必要に応じて各部の寸法を適宜誇張して図示しており、また、各部間の寸法比は実際の寸法比とは必ずしも一致しない。
【0028】
図2に示す歯車装置10は、波動歯車装置であり、例えば減速機として用いられる。この歯車装置10は、歯車装置本体1と、歯車装置本体1を収納しているケース5と、を有し、これらが一体化されている。ここで、歯車装置10のケース5内には、潤滑剤Gが配置されている。以下、歯車装置10の各部を説明する。なお、ケース5は、必要に応じて設ければよく、省略してもよい。
【0029】
2.1.歯車装置本体
歯車装置本体1は、内歯歯車である剛性歯車2と、剛性歯車2の内側に配置されているカップ型の外歯歯車である可撓性歯車3と、可撓性歯車3の内側に配置されている波動発生器4と、を有している。
【0030】
本実施形態では、剛性歯車2が前述したロボット100の基台110(第1部材)にケース5を介して接続され、可撓性歯車3が前述したロボット100の第1アーム120(第2部材)に接続され、波動発生器4が前述したロボット100の基台110に配置されているモーター170の回転軸に接続されている。
【0031】
モーター170の回転軸が回転すると、波動発生器4はモーター170の回転軸と同じ回転速度で回転する。そして、剛性歯車2および可撓性歯車3は、互いに歯数が異なるため、互いの噛み合い位置が周方向に移動しながら軸線aまわりに相対的に回転する。本実施形態では剛性歯車2の歯数の方が可撓性歯車3の歯数より多いため、モーター170の回転軸の回転速度よりも低い回転速度で可撓性歯車3を回転させることができる。すなわち、波動発生器4を入力軸側、可撓性歯車3を出力軸側とする減速機を実現することができる。
【0032】
なお、ケース5の形態によっては、可撓性歯車3を基台110に接続し、剛性歯車2を第1アーム120に接続しても、歯車装置10を減速機として用いることができる。また、可撓性歯車3にモーター170の回転軸を接続しても、歯車装置10を減速機として用いることができ、この場合、波動発生器4を基台110に接続し、剛性歯車2を第1アーム120に接続すればよい。また、歯車装置10を増速機として用いる場合、すなわちモーター170の回転軸の回転速度よりも高い回転速度で可撓性歯車3を回転させる場合、前述した入力側と出力側との関係を反対にすればよい。
【0033】
図2、
図3および
図6に示すように、剛性歯車2は、径方向に実質的に撓まない剛体で構成された歯車であって、内歯23を有するリング状の内歯歯車である。本実施形態では、剛性歯車2は平歯車である。すなわち、内歯23は、軸線a(軸方向A)に対して平行な歯すじを有する。なお、内歯23の歯すじは、軸線aに対して傾斜していてもよい。すなわち、剛性歯車2は、はすば歯車またはやまば歯車であってもよい。
【0034】
図2、
図3および
図7に示すように、可撓性歯車3は、剛性歯車2の内側に挿通されている。この可撓性歯車3は、径方向に撓み変形可能な可撓性を有する歯車であって、剛性歯車2の内歯23の一部に噛み合う外歯33を有する外歯歯車である。外歯33は、
図5に示すように、軸線a(軸方向A)に対して平行な歯すじ330を有する。また、可撓性歯車3の歯数は、剛性歯車2の歯数よりも少ない。このように可撓性歯車3および剛性歯車2の歯数が互いに異なることにより、減速機を実現することができる。
【0035】
本実施形態では、可撓性歯車3は、軸線a方向での一端、すなわち
図2中右側の端部が開口した開口部36を有するカップ状をなし、その開口部36から他端に向かって外歯33が形成されている。ここで、可撓性歯車3は、軸線aまわりの筒状をなす胴部31と、胴部31の軸線a方向での他端部に接続されている底部32と、を有する。これにより、底部32に比べ、外歯33が設けられた開口部36が径方向に撓み易くなるので、剛性歯車2に対する可撓性歯車3の良好な撓み噛み合いを実現することができる。さらに、例えば出力軸となる軸62が接続されている底部32の剛性を高めることができる。このようなことから歯車装置10は、バックラッシュが非常に小さく、反転を繰り返す用途に適していて、また同時噛み合い歯数の比率が大きく、1枚の歯にかかる力が小さくなるため、高トルク容量を得ることもできる。
【0036】
図2および
図3に示すように、波動発生器4は、可撓性歯車3の内側に配置され、軸線aまわりに回転可能である。そして、波動発生器4は、可撓性歯車3の開口部36の横断面を楕円形または長円形に変形させることにより、可撓性歯車3の外歯33を剛性歯車2の内歯23に噛み合わせる。この楕円形または長円形の長軸をLaとし、短軸をLbとする。可撓性歯車3および剛性歯車2は、同一の軸線aまわりに回転可能なように、互いに内外で噛み合わされている。
【0037】
本実施形態では、波動発生器4は、カム41と、カム41の外周に装着されている軸受42と、を有している。カム41は、軸線aまわりに回転する軸部411と、軸部411の一端部から外側に突出しているカム部412と、を有している。
【0038】
軸部411には、例えば入力軸となる軸61が接続されている。カム部412の外周面は、軸線aに沿った方向から見たときに、楕円形または長円形をなしている。軸受42は、可撓性の内輪421および外輪423と、これらの間に配置されている複数のボール422と、を有している。ここで、内輪421は、カム41のカム部412の外周面に嵌め込まれ、カム部412の外周面に沿って楕円形または長円形に弾性変形している。それに伴って、外輪423も楕円形または長円形に弾性変形している。また、内輪421の外周面および外輪423の内周面は、それぞれ、複数のボール422を周方向に沿って案内しつつ転動させる軌道面を有している。また、複数のボール422は、互いの周方向での間隔を一定に保つように図示しない保持器により保持されている。なお、軸受42内には、図示しないグリースが配置されている。このグリースは、後述する潤滑剤Gと同じであっても異なっていてもよい。
【0039】
このような波動発生器4は、カム41の軸線aまわりの回転に伴って、カム部412の向きが変わり、それに伴って、外輪423の外周面も変形し、剛性歯車2および可撓性歯車3の互いの噛み合い位置を周方向に移動させる。
【0040】
剛性歯車2、可撓性歯車3および波動発生器4は、それぞれ、例えば、鋳鉄、ニッケルクロムモリブデン鋼、クロムモリブデン鋼(SCM)、マルエージング鋼、析出硬化型ステンレス鋼等の鉄系材料等の金属材料で構成されている。
【0041】
特に、可撓性歯車3は、好ましくはニッケルクロムモリブデン鋼を主材料として構成されている。ニッケルクロムモリブデン鋼は、適切な熱処理によって強靭な鋼となり、疲労強度等の機械的特性が優れているため、繰返し応力が作用する可撓性歯車3の構成材料として適している。
【0042】
ニッケルクロムモリブデン鋼としては、例えば、JIS G 4053:2016に規定されている種類の鋼材が挙げられる。具体的には、JIS規格に規定されている記号として、SNCM220、SNCM240、SNCM415、SNCM420、SNCM431、SNCM439、SNCM447、SNCM616、SNCM625、SNCM630、SNCM815等の鋼材が挙げられる。このうち、可撓性歯車3の構成材料として用いるニッケルクロムモリブデン鋼としては、機械的特性に優れるという観点から、特にSNCM439を用いることが好ましい。
【0043】
なお、可撓性歯車3の構成材料は、ニッケルクロムモリブデン鋼以外の材料を含んでいてもよい。すなわち、可撓性歯車3は、ニッケルクロムモリブデン鋼とそれ以外の材料とが複合してなる複合材料で構成されていてもよい。
【0044】
一方、内歯歯車である剛性歯車2は、好ましくは球状黒鉛鋳鉄で構成される。球状黒鉛鋳鉄は、含まれる黒鉛粒子が潤滑剤の働きをするため、剛性歯車2の内歯23が凝着しにくくなる。このため、剛性歯車2の低摩耗化を図ることができ、剛性歯車2の長寿命化を図ることができる。
【0045】
球状黒鉛鋳鉄としては、例えば、JIS G 5502:2001に規定されている種類の材料が挙げられる。具体的には、JIS規格に規定されている記号として、FCD350-22、FCD350-22L、FCD400-18、FCD400-18L、FCD400-15、FCD400-10、FCD450-10、FCD500-7、FCD600-3、FCD700-2、FCD800-2、FCD900等が挙げられる。
【0046】
2.2.ケース
図2に示すケース5は、軸受13を介して軸61を支持している略板状の蓋体11と、軸受14を介して軸62を支持しているカップ状の本体12と、を有する。ここで、蓋体11と本体12とは連結されて空間を構成しており、その空間には、前述した歯車装置本体1が収納されている。また、蓋体11および本体12の少なくとも一方には、前述した歯車装置本体1の剛性歯車2が例えばネジ止め等により固定されている。
【0047】
蓋体11の内壁面111は、可撓性歯車3の開口部36を覆うように軸線aに垂直な方向に拡がる形状をなしている。また、本体12の内壁面121は、可撓性歯車3の外周面および底面に沿った形状をなしている。このようなケース5は、前述したロボット100の基台110に固定されている。ここで、蓋体11は、基台110と別体であって、例えばネジ止め等により基台110に固定されていてもよいし、基台110と一体であってもよい。また、蓋体11と本体12とを備えるケース5の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、金属材料、セラミックス材料等が挙げられる。
【0048】
2.3.潤滑剤
潤滑剤Gは、例えばグリース、すなわち半固体状潤滑剤であり、噛み合い部である剛性歯車2と可撓性歯車3との間、および、接触部・摺動部である可撓性歯車3と波動発生器4との間、のうちの少なくとも一方に配置されている。以下、これら噛み合い部や接触部・摺動部のことを「潤滑対象部」という。このような潤滑対象部に潤滑剤Gを供給することにより、当該潤滑対象部の摩擦を低減することができる。
【0049】
潤滑剤Gは、例えば、基油と、増ちょう剤と、有機モリブデン化合物と、を含む。
基油としては、例えば、パラフィン系、ナフテン系等の鉱油、ポリオレフィン、エステル、シリコーン等の合成油が挙げられ、これらのうちの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、増ちょう剤としては、例えば、カルシウム石けん、カルシウム複合石けん、ナトリウム石けん、アルミニウム石けん、リチウム石けん、リチウム複合石けん等の石けん系、また、ポリウレア、ナトリウムテレフタラメート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、有機ベントナイト、シリカゲル等の非石けん系等が挙げられ、これらのうちの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。このように、基油および増ちょう剤を組成として含んでいる潤滑剤Gは、増ちょう剤が形成する3次元構造体が複雑に絡み合って基油を保持しており、その保持した基油を少しずつしみ出させることで潤滑作用を発揮する。
【0050】
2.4.可撓性歯車の凸パターン
可撓性歯車3は、
図3および
図4に示すように、多数の外歯33を有するカップ状の歯車である。各外歯33は、
図5に示すように、外歯歯面331と、外歯歯面331に接続する歯底面332および歯先面333と、を有している。このうち、少なくとも外歯歯面331は、
図5に示すように、複数の凸部71を有している。各凸部71は、外歯33の歯すじ330に交差する方向であって、例えば径方向Rの成分を有する方向に延在している。また、各凸部71は、互いにほぼ平行に延在しており、かつ、外歯歯面331内において、軸方向Aに並んでいる。このような複数の凸部71により、
図5に示す外歯凸パターン7が構成されている。
【0051】
なお、凸部71同士は、完全に平行でなくてもよい。また、凸部71同士が互いに交差していたり、凸部71が途中で分岐していたりしてもよい。また、凸部71が延在する方向は、歯すじ330に交差する方向であればよく、図示した方向に限定されない。さらに、凸部71は、途中で曲がったり、途切れたりしていてもよい。
【0052】
凸部71とは、その周囲よりも突出した部分のことをいう。
図5では、歯すじ330に交差するように線状に延びる凸部71の先端部を線で示している。このような凸部71は、凸条とも呼ばれる。なお、凸部71の突出高さは、外歯33の大きさに比べて非常に低いので、
図5および
図7では凸部71の高さを表現していない。
【0053】
一方、剛性歯車2は、
図3および
図4に示すように、多数の内歯23を有するリング状の歯車である。この内歯23は、
図6に示すように、それぞれ、内歯歯面231と、内歯歯面231に接続する歯底面232および歯先面233と、を有している。剛性歯車2が備える内歯23の内歯歯面231は、特に限定されず、
図8に示すような平坦面であってもよいし、後述するように、複数の凸部を含む内歯凸パターンを有していてもよい。
【0054】
ここで、可撓性歯車3が備える多数の外歯33のうち、一部は、
図7に示すように、剛性歯車2が備える内歯23と噛み合っている。噛み合い位置では、
図8に示すように、外歯歯面331と内歯歯面231とが近接して対向し、一部が接触する。この接触点8を介してトルクが伝達される。
【0055】
外歯歯面331と内歯歯面231との接触点8では、大きな摩擦力が発生する。この摩擦力は、外歯歯面331や内歯歯面231の劣化を生じさせる原因となる。このため、接触点8やその近傍に対して、
図8に示すように、潤滑剤Gを供給して潤滑性を付与することにより、摩擦力を低減させる必要がある。
【0056】
そこで、噛み合い位置には、例えば可撓性歯車3の内側に配置しておいた潤滑剤Gが徐々に供給されるようになっている。これにより、外歯歯面331と内歯歯面231との接触点8の潤滑性が高められ、円滑なトルク伝達が実現されるととも、長寿命化が図られる。
【0057】
具体的には、
図2に示すように、可撓性歯車3の内側には空間があり、その空間に潤滑剤Gが配置されている。この潤滑剤Gは、
図2に矢印A1で示すように、軸受42を介して可撓性歯車3の開口部36から外側に流れ出す。また、可撓性歯車3の外部に流れ出した潤滑剤Gは、
図7および
図8に矢印A2で示すように、外歯歯面331と内歯歯面231との間に流れ込む。したがって、外歯歯面331と内歯歯面231との間に潤滑剤Gが留まっていれば、接触点8の潤滑性が良好に保たれることになる。
【0058】
外歯歯面331には、前述したように、複数の凸部71が設けられている。この凸部71は、外歯歯面331における潤滑剤Gの保持性を左右する。つまり、凸部71は、歯すじ330に交差する方向に延在しているため、その密度を調整することによって、矢印A2の方向での潤滑剤Gの流れを最適化することができる。
【0059】
具体的には、
図8は、
図7に示す接触点8近傍の断面図であるが、
図8に示す複数の凸部71のうち、互いに隣り合う2つを、第1凸部711および第2凸部712とする。このとき、凸部71が並ぶ方向において、第1凸部711と第2凸部712との距離をS[μm]とする。距離Sは、第1凸部711の先端部と第2凸部712の先端部との距離として求められる。本実施形態では、この距離Sを、80μm以上520μm以下に設定している。
【0060】
すなわち、本実施形態に係る歯車装置10は、剛性歯車2(内歯歯車)と、外歯歯面331を有する外歯33を備える可撓性歯車3(外歯歯車)と、可撓性歯車3の内側に設けられている波動発生器4と、を有する。可撓性歯車3は、剛性歯車2に部分的に噛み合って、剛性歯車2に対して軸線a(回転軸)まわりに相対的に回転し、可撓性を有する歯車である。波動発生器4は、剛性歯車2と可撓性歯車3との噛み合い位置を軸線aまわりの周方向に移動させる。
【0061】
外歯歯面331は、外歯33の歯すじ330の方向と交差する方向に延在し、かつ、歯すじ330の方向に隣り合って並ぶ第1凸部711および第2凸部712を含む外歯凸パターン7を備えている。そして、第1凸部711と第2凸部712との距離Sは、80μm以上520μm以下である。
【0062】
このような構成によれば、凸部71の密度が最適化されるため、
図7および
図8に矢印A2で示す潤滑剤Gの流れを適度に規制することができる。つまり、凸部71は、潤滑剤Gの流れに対して交差する方向に延在しているため、その凸部71の密度を最適化することにより、潤滑剤Gの流れに対する抵抗を制御することができる。距離Sが前記範囲内であれば、外歯歯面331と内歯歯面231との間に存在していた潤滑剤Gがすぐに流れ出してしまったり、矢印A2で示すように流れる潤滑剤Gが外歯歯面331と内歯歯面231との間に流れ込みにくくなったりするのを抑制することができる。これにより、外歯歯面331と内歯歯面231との間に潤滑剤Gが留まりやすくなり、潤滑性を長期にわたって維持することができる。その結果、歯車装置10の長寿命化を図ることができる。
【0063】
なお、外歯歯面331では、その少なくとも一部、具体的には、凸部71の延在方向の長さ500μm以上の領域において、第1凸部711と第2凸部712との距離Sが前記範囲内にあればよいが、外歯歯面331の全面積のうち、30%以上の領域において距離Sが前記範囲内にあることが好ましく、50%以上の領域において距離Sが前記範囲内にあることがより好ましく、65%以上の領域において距離Sが前記範囲内にあることがさらに好ましい。これにより、上記の効果がより確実に得られる。
【0064】
また、距離Sは、軸方向Aにおける、第1凸部711の先端部と第2凸部712の先端部との距離を測定することで求められる。なお、距離Sは、第1凸部711の全長にわたって分布する10点以上における測定値の平均値であってもよい。
【0065】
また、第1凸部711と第2凸部712との距離Sは、160μm以上510μm以下であることが好ましい。これにより、歯車装置10の寿命をより長くすることができる。
【0066】
さらに、第1凸部711と第2凸部712との距離Sは、300μm以上450μm以下であることが好ましい。これにより、歯車装置10の寿命を特に長くすることができる。
【0067】
なお、距離Sが前記下限値未満である場合、潤滑剤Gが外歯歯面331と内歯歯面231との間に留まりやすい反面、外部から入り込みにくくなる。このため、新たな潤滑剤Gの供給が不足して、潤滑性が低下しやすくなり、歯車装置10の耐久性、およびトルク伝達効率のような駆動性が低下する。一方、距離Sが前記上限値を超えた場合、潤滑剤Gが流出しやすくなるため、長期にわたる潤滑剤Gの保持性に劣る。
【0068】
ここで、
図9は、距離Sと歯車装置10の寿命との関係を示すグラフである。
図9の横軸は、距離Sである。
図9の縦軸は、歯車装置10の寿命を示す対数軸である。
【0069】
図9に示すように、距離Sが80μm未満の範囲、および、距離Sが520μm超の範囲では、歯車装置10において、約1千万回という寿命を確保することが難しい。これに対し、前述したように、距離Sが80μm以上520μm以下の範囲では、約1千万回の寿命を確保することができる。この寿命は、歯車装置10を備えるロボット100の稼働パターン例に基づいて連続稼働時間に換算した場合、1年程度に相当する。つまり、歯車装置10における約1千万回という寿命は、ロボット100を、1日24時間を連続稼働させ、それを1年間続けられることが可能な寿命である。この寿命は、ロボット100の寿命として必要最低限の寿命であるため、約1千万回という歯車装置10の寿命も、歯車装置10が最低限満たすべき寿命として十分であるといえる。
【0070】
なお、歯車装置10の寿命は、例えば、次のようにして求められる。
まず、歯車装置10の入力軸に回転数3000rpm、平均負荷トルク50Nm、ピークトルク60Nmでトルクを入力し、連続運転を行う。次に、歯車装置10が破損するまでの入力軸の回転数を計数する。このようにして求めた回転数を、歯車装置10の寿命とする。
【0071】
また、
図9に示すように、距離Sが前述した160μm以上510μm以下の範囲では、歯車装置10において、約1億回の寿命を確保することができる。この寿命は、歯車装置10を備えるロボット100の寿命としてより十分な寿命である。
【0072】
さらに、
図9に示すように、距離Sが前述した300μm以上450μm以下の範囲では、歯車装置10において、約10億回の寿命を確保することができる。この寿命は、歯車装置10を備えるロボット100の寿命として特に十分な寿命である。
【0073】
図10は、距離Sとトルク伝達効率との関係を示すグラフである。
図11は、距離Sと起動トルクとの関係を示すグラフである。
図10の横軸および
図11の横軸は、それぞれ距離Sであり、
図10の縦軸はトルク伝達効率であり、
図11の縦軸は起動トルクである。
【0074】
図10に示すように、距離Sが100μm以上500μm以下の範囲では、歯車装置10において、トルク伝達効率が約67%以上であり、十分に高いトルク伝達効率が得られている。特に、距離Sが300μm以上450μm以下の範囲では、約71%以上というさらに良好なトルク伝達効率が得られる。
【0075】
なお、トルク伝達効率は、歯車装置10の入力軸に回転数2000rpmで入力したトルクに対する、出力軸から出力されたトルクの割合である。
【0076】
また、
図11に示すように、距離Sが100μm以上500μm以下の範囲では、歯車装置10において、起動トルクが約0.032Nm以下であり、十分に低い起動トルクが得られている。特に、距離Sが300μm以上450μm以下の範囲では、約0.025Nm以下というさらに良好な起動トルクが得られる。
なお、起動トルクは、停止している入力軸が1°動くのに要したトルクである。
【0077】
前述した外歯凸パターン7は、いかなる方法で形成されたものであってもよい。外歯凸パターン7の形成方法としては、例えば、切削、研削のような機械加工、ローレット加工のような転造加工、サンドブラスト、ショットブラストのような研磨加工、鋳造のような成型加工等が挙げられる。このうち、機械加工によれば、精度の高い外歯凸パターン7を形成することができる。
【0078】
また、
図8に示す凸部71の突出高さhは、特に限定されないが、0.01μm以上30μm以下であるのが好ましく、0.10μm以上10μm以下であるのがより好ましい。これにより、内歯23と外歯33との接触面積を最適化することができる。その結果、剛性歯車2と可撓性歯車3との間の潤滑性を高めつつ、凸部71に著しい欠損等の変形が生じるのを抑制して、トルク伝達特性の大きな変化が生じるのを抑制することができる。なお、凸部71の突出高さhとは、
図8に示すように、凸部71の頂部と、凸部71同士に形成される凹形状の底部と、の距離のことをいう。
【0079】
また、凸部71の延在方向は、歯すじ330に交差する方向であればよいが、好ましくは凸部71の延在方向と歯すじ330との交差角が60°以上90°以下とされ、より好ましくは前記交差角が75°以上90°以下とされる。これにより、潤滑剤Gの保持性をより最適化することができる。
【0080】
また、外歯33は、前述したように、外歯歯面331と、外歯歯面331に接続する歯底面332および歯先面333と、を備えている。そして、第1凸部711および第2凸部712は、外歯歯面331だけに設けられていてもよいが、
図8に示す第1凸部711および第2凸部712は、外歯歯面331だけでなく、
図5に示すように、外歯歯面331から歯底面332および歯先面333まで延在していてもよい。
【0081】
このような構成によれば、1つの外歯歯面331とそれに対向する1つの内歯歯面231との接触点8やその近傍に位置する潤滑剤Gが、歯底面332を介して周方向Cに隣り合う接触点8に移動しやすくなる。同様に、1つの外歯歯面331とそれに対向する1つの内歯歯面231との接触点8に位置する潤滑剤Gが、歯先面333を介して周方向Cに隣り合う接触点8に移動しやすくなる。これにより、潤滑剤Gを可撓性歯車3全体にわたってより均一に行き渡らせることができる。その結果、局所的に潤滑剤Gが不足するという事態を避けることができ、歯車装置10の寿命をより延ばすことができる。なお、このような潤滑剤Gの移動は、可撓性歯車3の回転に伴う遠心力が駆動力となるため、特に起こりやすい。
【0082】
図12は、
図5に示す可撓性歯車3の平面図である。
図12に示す可撓性歯車3では、凸部71が螺旋を描くように連続している。つまり、1つの外歯33に設けられる複数の凸部71は、他の外歯33を介して互いにつながっている。したがって、
図12に示す外歯凸パターン7は、軸線a(回転軸)まわりの螺旋状に延在している。
【0083】
このような構成によれば、凸部71同士の間に形成される凹部についても、螺旋状に連続した溝となる。このため、凹部をたどるように潤滑剤Gが移動しやすくなる。これにより、潤滑剤Gを可撓性歯車3全体にわたってさらに均一に行き渡らせることができる。その結果、歯車装置10の寿命をさらに延ばすことができる。
【0084】
また、本実施形態に係るロボット100は、第1部材である基台110と、基台110に対して回動する第2部材である第1アーム120と、基台110に対して第1アーム120を相対的に回動させる駆動力を伝達する歯車装置10と、歯車装置10に向けて駆動力を出力する駆動源であるモーター170と、を有している。
【0085】
このような構成によれば、歯車装置10において長寿命化が図られるため、メンテナンスの手間がかからず、取り扱い性が良好なロボット100を実現することができる。
【0086】
可撓性歯車3の外径は、特に限定されないが、75mm以下である場合には、上述した効果がより有効になる。具体的には、可撓性歯車3の外径が75mm超である場合、可撓性歯車3の内側の空間が十分に大きいため、あらかじめ多量の潤滑剤Gを配置しておくことができる。そうすると、潤滑剤Gが流れ出して接触点8やその近傍に供給される期間は、潤滑剤Gの量に依存するため、十分に長く確保することができる。一方、可撓性歯車3の外径が75mm以下である場合、あらかじめ配置しておける潤滑剤Gの量は、より少なくなる。特にこの外径の範囲では、従来の歯車装置を使用した場合、ロボット100の寿命よりも潤滑剤Gが枯渇する確率が高くなる。
【0087】
これに対し、本実施形態に係る歯車装置10を使用した場合、接触点8やその近傍における潤滑剤Gの保持性を最適化することができるので、潤滑剤Gが枯渇するまでの期間を十分に長く確保することができる。これにより、外径が75mm以下という比較的小径の可撓性歯車3を用いた場合でも、歯車装置10の長寿命化を図ることができる。また、このような小径の可撓性歯車3を用いることができれば、歯車装置10の小型化が図られる。これにより、ロボット100の小型化にも寄与することができる。なお、可撓性歯車3の外径は、好ましくは30mm以上75mm以下である。
【0088】
3.第2実施形態に係る歯車装置
次に、第2実施形態に係る歯車装置について説明する。
図13は、第2実施形態に係る歯車装置を示す部分断面斜視図である。
【0089】
本実施形態は、剛性歯車の構成が異なる以外は、前述した第1実施形態と同様である。なお、以下の説明では、本実施形態に関し、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。また、
図13において、前述した実施形態と同様の構成については、同一符号を付している。
【0090】
本実施形態に係る歯車装置10aの剛性歯車2a(内歯歯車)は、
図13に示すように、内歯歯面231を有する内歯23を備えている。この内歯歯面231は、前述した外歯凸パターン7と同じ内歯凸パターン7aを備えている。この内歯凸パターン7aは、内歯23の歯すじ230に交差する方向であって、例えば径方向Rの成分を有する方向に沿って延在する複数の凸部71aを有している。各凸部71aは、互いにほぼ平行に延在しており、かつ、内歯歯面231内において、軸方向Aに並んでいる。したがって、凸部71aは、内歯歯面231に設けられているということ以外、凸部71と同様である。そして、外歯凸パターン7と同じ内歯凸パターン7aとは、このような凸部71aを複数備えていることをいう。
【0091】
なお、前述した凸部71同士の距離Sは、80μm以上520μm以下とされているが、凸部71a同士の距離Saも、同様に、80μm以上520μm以下であることが好ましい。これにより、内歯歯面231においても、潤滑剤Gの保持性が高まり、外歯歯面331と内歯歯面231との間に、より潤滑剤Gを留めやすくなる。その結果、歯車装置10aのさらなる長寿命化を図ることができる。
【0092】
以上のような第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
なお、第1実施形態に係る外歯凸パターン7についての説明は、本実施形態に係る内歯凸パターン7aにも適用可能である。また、剛性歯車2aの凸部71a同士の距離は、必ずしも上記範囲に限定されず、上記範囲外であってもよい。
【0093】
4.第3実施形態に係る歯車装置
次に、第3実施形態に係る歯車装置について説明する。
図14は、第3実施形態に係る歯車装置を示す部分断面斜視図である。
【0094】
本実施形態は、剛性歯車の構成が異なる以外は、前述した第1実施形態と同様である。なお、以下の説明では、本実施形態に関し、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。また、
図14において、前述した実施形態と同様の構成については、同一符号を付している。
【0095】
本実施形態に係る歯車装置10bの剛性歯車2b(内歯歯車)は、
図14に示すように、内歯歯面231を有する内歯23を備えている。この内歯歯面231は、前述した外歯凸パターン7と異なる内歯凸パターン7bを備えている。この内歯凸パターン7bは、内歯23の歯すじ230に平行な成分を有する方向に延在する複数の凸部71bを有している。各凸部71bは、互いにほぼ平行に延在している。外歯凸パターン7と異なる内歯凸パターン7bとは、このような複数の凸部71bを備えていることをいう。
【0096】
このような構成によれば、外歯凸パターン7における凸部71の延在方向と、内歯凸パターン7bにおける凸部71bの延在方向と、が交差する。つまり、凸部71bの延在方向は、
図7および
図8に矢印A2で示す潤滑剤Gの流れに対して交差することになる。このため、可撓性歯車3の回転に伴う遠心力によって、外歯歯面331と内歯歯面231との間から潤滑剤Gが、接触点8から流れ出してしまうのを抑制することができる。これにより、外歯歯面331と内歯歯面231との間に潤滑剤Gが留まりやすくなり、歯車装置10のさらなる長寿命化を図ることができる。
【0097】
なお、凸部71b同士の距離Sbは、特に限定されないが、10μm以上100μm以下であるのが好ましく、20μm以上80μm以下であるのがより好ましい。このような範囲であれば、潤滑剤Gが凸部71bに沿って流れるのを最小限に抑えつつ、外歯歯面331に対する内歯歯面231の接触面積を確保して、トルク伝達効率の低下を抑えることができる。
以上のような第3実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0098】
5.第4実施形態に係る歯車装置
次に、第4実施形態に係る歯車装置について説明する。
図15は、第4実施形態に係る歯車装置を示す縦断面図である。
【0099】
本実施形態は、可撓性歯車の構成およびそれに伴うケースの構成が異なる以外は、前述した第1実施形態と同様である。なお、以下の説明では、本実施形態に関し、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。また、
図15において、前述した実施形態と同様の構成については、同一符号を付している。
【0100】
図15に示す歯車装置10Bは、歯車装置本体1Bと、歯車装置本体1Bを収納しているケース5Bと、を有する。なお、ケース5Bは、省略してもよい。
【0101】
歯車装置10Bは、剛性歯車2の内側に配置されているハット型、すなわち縁つき帽子型の外歯歯車である可撓性歯車3Bを有している。この可撓性歯車3Bは、筒状の胴部31の一端部に接続され軸線aとは反対側に突出しているフランジ部32Bを有する。フランジ部32Bには、図示しない出力軸が取り付けられている。そして、可撓性歯車3Bの外歯33の構成は、第1実施形態に係る可撓性歯車3の外歯33の構成と同様である。
【0102】
ケース5Bは、軸受13を介して、例えば入力軸となる軸61を支持している略板状の蓋体11Bと、前述した可撓性歯車3Bのフランジ部32Bに取り付けられているクロスローラーベアリング18と、を有する。
【0103】
蓋体11Bは、剛性歯車2の一方、すなわち
図15中右側の側面に対して例えばネジ止め等により固定されている。クロスローラーベアリング18は、内輪15と、外輪16と、これらの間に配置されている複数のコロ17と、を有する。内輪15は、可撓性歯車3の胴部31の外周に沿って設けられ、剛性歯車2の他方、すなわち
図15中左側の側面に対して例えばネジ止め等により固定されている。外輪16は、前述した可撓性歯車3Bのフランジ部32Bに例えばネジ止め等により固定されている。
【0104】
また、蓋体11Bの内壁面111Bは、可撓性歯車3Bの開口部36を覆うように軸線aに垂直な方向に拡がる形状をなしている。また、クロスローラーベアリング18の内輪15の内壁面151は、可撓性歯車3Bの胴部31の外周面に沿った形状をなしている。
以上のような第4実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0105】
以上、本発明の歯車装置およびロボットを、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、前記実施形態の各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、前記実施形態に、他の任意の構成物が付加されていてもよい。
【0106】
また、前述した実施形態では、ロボットが備える基台が「第1部材」、第1アームが「第2部材」であり、第1部材から第2部材へ駆動力を伝達する歯車装置について説明したが、本発明は、これに限定されず、第nアームが「第1部材」、第(n+1)アームが「第2部材」であり、第nアームおよび第(n+1)アームの一方から他方へ駆動力を伝達する歯車装置についても適用可能である。なお、nは1以上の整数である。また、第2部材から第1部材へ駆動力を伝達する歯車装置についても適用可能である。
【0107】
また、前述した実施形態では、水平多関節ロボットについて説明したが、本発明のロボットは、これに限定されず、例えば、ロボットの関節数は任意であり、さらに、垂直多関節ロボットにも適用可能である。
【0108】
また、前述した実施形態では、歯車装置をロボットに組み込む場合を例に説明したが、本発明の歯車装置は、互いに回動する第1部材および第2部材の一方側から他方側へ駆動力を伝達する構成を有する各種機器に組み込んで用いることもできる。
【符号の説明】
【0109】
1…歯車装置本体、1B…歯車装置本体、2…剛性歯車、2a…剛性歯車、2b…剛性歯車、3…可撓性歯車、3B…可撓性歯車、4…波動発生器、5…ケース、5B…ケース、7…外歯凸パターン、7a…内歯凸パターン、7b…内歯凸パターン、8…接触点、10…歯車装置、10B…歯車装置、10a…歯車装置、10b…歯車装置、11…蓋体、11B…蓋体、12…本体、13…軸受、14…軸受、15…内輪、16…外輪、17…コロ、18…クロスローラーベアリング、23…内歯、31…胴部、32…底部、32B…フランジ部、33…外歯、36…開口部、41…カム、42…軸受、61…軸、62…軸、71…凸部、71a…凸部、71b…凸部、100…ロボット、110…基台、111…内壁面、111B…内壁面、120…第1アーム、121…内壁面、130…第2アーム、140…作業ヘッド、141…スプラインシャフト、150…エンドエフェクター、151…内壁面、160…配管、170…モーター、190…制御装置、230…歯すじ、231…内歯歯面、232…歯底面、233…歯先面、330…歯すじ、331…外歯歯面、332…歯底面、333…歯先面、411…軸部、412…カム部、421…内輪、422…ボール、423…外輪、711…第1凸部、712…第2凸部、A…軸方向、A1…矢印、A2…矢印、C…周方向、G…潤滑剤、J1…第1軸、J2…第2軸、J3…第3軸、R…径方向、S…距離、Sa…距離、Sb…距離、a…軸線、h…突出高さ