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  • 特許-膜電極接合体及び固体高分子型燃料電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】膜電極接合体及び固体高分子型燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1004 20160101AFI20231205BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20231205BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20231205BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M8/10 101
H01M4/86 B
H01M4/88 K
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020091926
(22)【出願日】2020-05-27
(65)【公開番号】P2021190207
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 淳二
(72)【発明者】
【氏名】西田 恒政
(72)【発明者】
【氏名】堀 幹裕
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/163322(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/108193(WO,A1)
【文献】特開2014-053142(JP,A)
【文献】特開2009-054292(JP,A)
【文献】特開2008-117600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/1004
H01M 8/10
H01M 4/86
H01M 4/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方の面に接合されたアノード触媒層と、前記固体高分子電解質膜の他方の面に接合されたカソード触媒層と、を有し、中心部における前記固体高分子電解質膜の両面に触媒層を備える発電領域と、外周部における前記固体高分子電解質膜の少なくとも一方の面に触媒層がない非発電領域とを有する燃料電池用の膜電極接合体を製造する方法であって、
触媒インクにセリウムイオンを含む溶液及び/又はセリウムを含む化合物を添加して、セリウムイオンを含む触媒インクを調製するステップ、及び
前記セリウムイオンを含む触媒インクを前記固体高分子電解質膜の少なくとも一方の面における前記発電領域のみに塗布して触媒層を形成するステップ、ここで、
前記膜電極接合体に含まれるスルホン酸の含有量は、前記膜電極接合体の面積当たり、0.001meq/cm 0.005meq/cm あり、
前記膜電極接合体に含まれる全セリウムイオンの含有量(μg)は、前記膜電極接合体に含まれる全セリウムイオンの含有量A(mmol)を前記膜電極接合体に含まれる全スルホン酸の含有量B(meq)で除した値(A/B)が0.01(mol/eq)~0.02(mol/eq)になるように調整され、
前記非発電領域のセリウムイオンの含有量と前記発電領域及び前記非発電領域のセリウムイオンの含有量の比は、下記式(II)
非発電領域のセリウムイオンの含有量/(発電領域のセリウムイオンの含有量+非発電領域のセリウムイオンの含有量) ≦ 0.25 式(II)
(式(II)中、非発電領域の全セリウムイオンの含有量は、非発電領域の面積、及び成分分析により測定された非発電領域の面積当たりのセリウムイオンの含有量によって算出され、発電領域の全セリウムイオンの含有量は、発電領域の面積、及び成分分析により測定された発電領域の面積当たりのセリウムイオンの含有量によって算出される。)
を満たすように調整される、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極接合体及び固体高分子型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応によって発電する燃料電池として固体高分子型燃料電池がエネルギー源として注目されている。固体高分子型燃料電池は、室温作動が可能であり、出力密度も高いため、自動車用途などに適した形態として、活発に研究されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池では、一般に、電解質膜である固体高分子電解質膜の両面に、それぞれ、触媒層からなる電極(燃料極(アノード触媒層)及び空気極(カソード触媒層))を接合してなる膜電極接合体(「燃料極-固体高分子電解質膜-空気極」)(以下、「MEA」ともいう)が使用される。また、MEAの両面には、さらにガス拡散層が接合されることもあり、これは、膜電極ガス拡散層接合体(「ガス拡散層-MEA-ガス拡散層」)(以下、「MEGA」ともいう)と呼ばれる。
【0004】
各電極は、触媒層から形成され、触媒層は、触媒層中に含まれる電極触媒によって電極反応をおこなわせるための層である。電極反応を進行させるためには、電解質、触媒及び反応ガスの三相が共存する三相界面が必要であることから、触媒層は、一般に、触媒と、電解質とを含む層からなっている。また、ガス拡散層は、触媒層への反応ガスの供給及び電子の授受をおこなうための層であり、多孔質かつ電子伝導性を有する材料が用いられる。
【0005】
このような固体高分子型燃料電池として、例えば、特許文献1には、陽イオン交換基を備えたパーフルオロ系電解質と、前記陽イオン交換基のプロトンの一部を置換する金属イオンとを備え、前記金属イオンは、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、セリウム(Ce)、ネオジウム(Nd)、プラセオジウム(Pr)、サマリウム(Sm)、コバルト(Co)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、及び、エルビウム(Er)のイオンから選ばれる少なくとも1つである固体高分子電解質を備えた固体高分子型燃料電池が開示されている。
【0006】
特許文献2には、固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜の両面に接合された、触媒層を含む電極とを備え、前記固体高分子電解質膜は、その外周部であって、少なくとも一方の面に前記触媒層が形成されていない非発電領域に含まれるプロトンの全部又は一部が一種又は2種以上のカチオンによりイオン交換され、並びに/又は、前記固体高分子電解質膜は、前記非発電領域に、その末端にアンモニウムカチオン若しくは4級アンモニウムカチオンを有するオルガノメタロキサンモノマを含む溶液を含浸させ、加水分解・縮重合させることにより得られるオルガノメタロキサンポリマを含む膜電極接合体を備えた固体高分子型燃料電池が記載されている。特許文献2では、プロトンを交換するカチオンとして、錯体カチオン、4級アルキルアンモニウムカチオン、及び、複数の価数を取りうる金属イオンであって、最低価数より大きい価数を持つ高価数側カチオンから選ばれる1以上が挙げられており、さらに、高価数側カチオンとして、Ce4+、Pr4+、Sm3+、Eu3+、Tb4+、又は、Yb3+が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-338912号公報
【文献】特開2007-194121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
固体高分子型燃料電池には、固体高分子電解質膜などに含まれる電解質材料が、燃料電池の発電などで発生した過酸化水素ラジカルによって劣化しやすいという問題がある。
【0009】
特許文献1には、パーフルオロ系電解質に含まれる陽イオン交換基のプロトンの一部を、ある特定の金属イオンで置換することにより、過酸化物ラジカルによる電解質の劣化を防止することができると記載されている。
【0010】
また、特許文献2には、固体高分子電解質膜のプロトンの全部又は一部をある特定のカチオンでイオン交換することによって、ラジカルなどの化学種による高分子の分解(化学的要因)及び応力による膜の損傷(機械的要因)による膜の劣化を同時に抑制することができると記載されている。
【0011】
しかしながら、カチオンを過剰に添加した場合、カチオンは、スルホン酸とイオン結合して、プロトン伝導を阻害し、したがって、プロトン抵抗を上昇させ、その結果、発電性能の低下を引き起こす可能性がある。
【0012】
したがって、本発明は、発電性能を維持しつつ、耐久性を向上させた膜電極接合体及びそれを備えた固体高分子型燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記したように、カチオンの含有量が過剰である場合、余剰のカチオンは、発電性能の低下を引き起こす可能性がある。一方で、カチオンの量が少ない場合、カチオンは燃料電池の発電中に系外に徐々に拡散又は排出されるため、カチオン濃度の低下による耐久性向上効果の低下が引き起こされる可能性がある。つまり、カチオンの量は、多すぎても少なすぎても問題となる。
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、固体高分子電解質膜の分解を引き起こす過酸化水素(ラジカル発生源)が、発電初期の被毒した触媒上で特に発生することを見出し、したがって、ラジカルクエンチャーとしてのカチオンは、発電初期に多く必要であり、その後は一定程度減少させることで、燃料電池の発電性能と耐久性とを両立させることが可能であることを見出した。
【0015】
そこで、本発明者らは、固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方の面に接合されたアノード触媒層と、前記固体高分子電解質膜の他方の面に接合されたカソード触媒層と、を有する燃料電池用の膜電極接合体において、ラジカルクエンチャーとしてセリウムイオンを導入し、固体高分子電解質膜の外周部の少なくとも一方の面に触媒層が形成されていない非発電領域を形成させ、固体高分子電解質膜とアノード触媒層とカソード触媒層とが接合されている中心部の発電領域における面積当たりのセリウムイオンの含有量を非発電領域における面積当たりのセリウムイオンの含有量よりも多くすることによって、ラジカルクエンチャーとしてのセリウムイオンが、発電初期には発電領域に多く存在するものの、発電と共に、発電領域から非発電領域に拡散し、濃度を一定程度減少させ、結果として、発電初期に発生したラジカルを捕捉して耐久性を確保するとともに、プロトン伝導性、すなわち発電性能を確保することができることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方の面に接合されたアノード触媒層と、前記固体高分子電解質膜の他方の面に接合されたカソード触媒層と、を有する燃料電池用の膜電極接合体であって、
セリウムイオンを含み、
中心部における前記固体高分子電解質膜の両面に触媒層を備える発電領域と、外周部における前記固体高分子電解質膜の少なくとも一方の面に触媒層がない非発電領域とを有し、
前記発電領域の面積当たりのセリウムイオンの含有量(μg-Ce/cm)が、前記非発電領域の面積当たりのセリウムイオンの含有量(μg-Ce/cm)よりも多い、
前記膜電極接合体。
(2)前記非発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)と前記発電領域及び前記非発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)の比が、下記式(I)
非発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)/(発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)+非発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)) ≦ 0.28 式(I)
を満たす、(1)に記載の膜電極接合体。
(3)前記非発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)と前記発電領域及び前記非発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)の比が、下記式(II)
非発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)/(発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)+非発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)) ≦ 0.25 式(II)
を満たす、(1)に記載の膜電極接合体。
(4)(1)~(3)のいずれか1つに記載の膜電極接合体を備えた固体高分子型燃料電池。
(5)固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方の面に接合されたアノード触媒層と、前記固体高分子電解質膜の他方の面に接合されたカソード触媒層と、を有し、中心部における前記固体高分子電解質膜の両面に触媒層を備える発電領域と、外周部における前記固体高分子電解質膜の少なくとも一方の面に触媒層がない非発電領域とを有する燃料電池用の膜電極接合体を製造する方法であって、
触媒インクにセリウムイオンを含む溶液及び/又はセリウムを含む化合物を添加して、セリウムイオンを含む触媒インクを調製するステップ、及び
前記セリウムイオンを含む触媒インクを前記固体高分子電解質膜の少なくとも一方の面における前記発電領域のみに塗布して触媒層を形成するステップ
を含む、方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、発電性能を維持しつつ、耐久性を向上させた膜電極接合体及びそれを備えた固体高分子型燃料電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る膜電極接合体を模式的に示す図である。
図2】実施例において製造した膜電極接合体における、非発電領域セリウムイオン量比と規格化耐久指標の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本明細書では、適宜図面を参照して本発明の特徴を説明する。図面では、明確化のために各部の寸法及び形状を誇張しており、実際の寸法及び形状を正確に描写してはいない。それ故、本発明の技術的範囲は、これら図面に表された各部の寸法及び形状に限定されるものではない。なお、本発明の膜電極接合体及び固体高分子型燃料電池は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者がおこない得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0020】
本発明は、固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方の面に接合されたアノード触媒層と、前記固体高分子電解質膜の他方の面に接合されたカソード触媒層と、を有する燃料電池用の膜電極接合体であって、セリウムイオンを含み、中心部における前記固体高分子電解質膜の両面に触媒層を備える発電領域と、外周部における前記固体高分子電解質膜の少なくとも一方の面に触媒層がない非発電領域とを有し、発電領域の面積当たりのセリウムイオンの含有量が、非発電領域の面積当たりのセリウムイオンの含有量よりも多い、前記膜電極接合体に関する。
【0021】
ここで、固体高分子電解質膜は、プロトン伝導性を有する電解質膜が好ましい。プロトン伝導性を有する電解質膜としては、当該技術分野で公知のプロトン伝導性を有する電解質膜を使用することができ、限定されないが、例えば、電解質であるスルホン酸基を有するフッ素樹脂(ナフィオン(デュポン社製)、フレミオン(AGC社製)、及びアシプレックス(旭化成社製)など)から形成される膜などを使用することができる。
【0022】
固体高分子電解質膜の厚さは、限定されないが、プロトン伝導性の機能を向上させるために、通常5μm~50μmである。
【0023】
アノード触媒層は、燃料極、すなわち水素極になるものであり、カソード触媒層は、空気極(酸素極)になるものであり、各触媒層は、電極触媒(単に「触媒」ともいう)及び電解質を含む。
【0024】
触媒としては、金属担持触媒が好ましい。金属担持触媒では、金属触媒が担体に担持されている。担体としては、当該技術分野で公知の担体を使用することができ、限定されないが、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料、炭化ケイ素などの炭素化合物、又はそれらの2種以上の混合物などを使用することができる。
【0025】
担体に担持されている金属触媒は、MEAの電極での反応
空気極(カソード):O+4H+4e→2H
水素極(アノード):2H→4H+4e
において触媒作用を示すものであれば限定されるものではなく、当該技術分野で公知の金属触媒を使用することができる。金属触媒としては、限定されないが、例えば、白金や白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウムなど、又はそれらの2種以上の混合物を使用することができる。また、白金合金としては、限定されないが、例えば、白金と、アルミニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、バナジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、チタン及び鉛のうちの少なくとも一種との合金などを使用することができる。
【0026】
各触媒層における触媒の含有量は、限定されないが、触媒層の全重量に対して、通常5重量%~40重量%である。
【0027】
電解質としては、アイオノマーが好ましい。アイオノマーは、陽イオン交換樹脂とも称され、アイオノマー分子から形成されるクラスターとして存在する。アイオノマーとしては、当該技術分野で公知のアイオノマーを使用することができ、限定されないが、例えば、パーフルオロスルホン酸樹脂材料などのフッ素樹脂系電解質、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレンなどのスルホン化プラスチック系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレンなどのスルホアルキル化プラスチック系電解質、又はそれらの2種以上の混合物などを使用することができる。
【0028】
各触媒層の厚さは、限定されないが、発電に必要な触媒の量を確保し、かつプロトン抵抗を低く保つために、通常1μm~20μmである。
【0029】
本発明の膜電極接合体は、セリウムイオンを含む。ここで、セリウムイオンは、3価のセリウムイオン(Ce3+)又は4価のセリウムイオン(Ce4+)で存在する。
【0030】
セリウムイオンは、固体高分子電解質膜とアノード触媒層とカソード触媒層の少なくとも1つに含まれる。言い換えると、固体高分子電解質膜とアノード触媒層とカソード触媒層の少なくとも1つは、セリウムイオンを含む。
【0031】
本発明の膜電極接合体は、中心部における固体高分子電解質膜の両面に触媒層、すなわちアノード触媒層及びカソード触媒層を備える発電領域(アノード触媒層、固体高分子電解質膜及びカソード触媒層が存在することで発電する領域)と、外周部における固体高分子電解質膜の少なくとも一方の面に触媒層、すなわちアノード触媒層又はカソード触媒層がない非発電領域(アノード触媒層、カソード触媒層、又はアノード触媒層及びカソード触媒層の両方が存在しないために、発電しない領域)とを有する。言い換えると、本発明の膜電極接合体の中心部には、固体高分子電解質膜の両面に触媒層が形成されている発電領域が存在し、本発明の膜電極接合体の外周部には、固体高分子電解質膜の少なくとも一方の面に触媒層が形成されていない非発電領域が存在する。
【0032】
図1に、本発明の一実施形態に係る膜電極接合体を平面図及び断面図により模式的に示す。図1に記載の膜電極接合体では、中心部において、固体高分子電解質膜1と、固体高分子電解質膜1の上面及び下面に備えられた触媒層からなる電極2、3とを有する発電領域4が形成されており、外周部において、固体高分子電解質膜1と、固体高分子電解質膜1の下面のみに備えられた触媒層からなる電極3とを有する非発電領域5が形成されている。
【0033】
本発明の膜電極接合体では、発電領域における面積当たりのセリウムイオンの含有量(μg-Ce/cm)は、非発電領域における面積当たりのセリウムイオンの含有量(μg-Ce/cm)よりも多い。発電領域又は非発電領域における面積当たりのセリウムイオンの含有量は、各領域の成分分析、例えばICPなどによって測定することができる。
【0034】
本発明の膜電極接合体における発電領域で、発電中に4電子反応ではなく、2電子反応が起こると、過酸化水素が発生し、その後フェントン反応により、
→ OHラジカル
となり、発生したOHラジカルが固体高分子電解質膜を分解劣化させてしまう。この2電子反応は、製造直後の様々なコンタミ成分(有機物を含む)を含む白金触媒上で進みやすいため、製造直後の発電初期において特に進みやすい。その後、発電を継続すると生成水によってコンタミ成分は発電系外に洗い流されるため、2電子反応により発生したOHラジカルの影響は軽微となる。
【0035】
したがって、本発明の膜電極接合体において、発電領域における面積当たりのセリウムイオンの含有量を非発電領域における面積当たりのセリウムイオンの含有量よりも多くすることで、セリウムイオンは、発電初期に、発電領域において最大量存在し、その後、発電に伴い、経時的に発電領域から非発電領域に拡散されることで発電領域において減少し、膜電極接合体全体に均一化され、その結果、過剰なセリウムイオンによって起こり得るプロトン抵抗上昇、すなわち燃料電池の発電性能に対する背反を抑制することができる。
【0036】
本発明の膜電極接合体では、非発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)とMEAに含まれる全セリウムイオンの含有量(μg-Ce)(発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)+非発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce))の比(非発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)/(発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)+非発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce))=非発電領域セリウムイオン量比)は、下記式(I)
非発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)/(発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)+非発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)) ≦ 0.28 式(I)
好ましくは、下記式(II)
非発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)/(発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)+非発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)) ≦ 0.25 式(II)
を満たすように調整される。非発電領域セリウムイオン量比は、発電領域及び非発電領域の面積、及び成分分析、例えばICPなどにより測定された発電領域及び非発電領域の面積当たりのセリウムイオンの含有量によって算出することができる。
【0037】
前記の通り、発電領域から非発電領域にセリウムイオンが拡散することによって、燃料電池の性能低下を抑制することができるが、セリウムイオンの拡散が進みすぎると、発電領域のセリウムイオン含有量が減少しすぎて耐久性が低下する可能性がある。
【0038】
したがって、発電領域のセリウムイオン含有量の減少が進みすぎないように、非発電領域セリウムイオン量比を前記範囲にすることで、耐久性低下を抑制することができる。
【0039】
本発明の膜電極接合体では、MEAに含まれるスルホン酸の含有量(meq/cm-MEA)は、限定されないが、通常0.0005meq/cm-MEA~0.01meq/cm-MEA、好ましくは0.001meq/cm-MEA~0.005meq/cm-MEAである。MEAに含まれるスルホン酸の含有量(meq/cm-MEA)は、固体高分子電解質膜、アノード触媒層、及びカソード触媒層に使用した材料に含まれるスルホン酸の量から計算することができる。あるいは、MEAの成分分析によって測定することができる。
【0040】
本発明の膜電極接合体では、MEAに含まれる全セリウムイオンの含有量(μg-Ce)は、ラジカルから保護すべき電解質に含まれるスルホン酸の量に依存して変更し得る。例えば、MEAに含まれる全セリウムイオンの含有量(μg-Ce)は、MEAに含まれる全セリウムイオンの含有量A(mmol)をMEAに含まれる全スルホン酸の含有量B(meq)で除した値(A/B)が、通常0.001(mol/eq)~0.1(mol/eq)、好ましくは0.005(mol/eq)~0.05(mol/eq)、より好ましくは0.01(mol/eq)~0.02(mol/eq)になるように調整される。
【0041】
本発明の膜電極接合体は、膜電極接合体における発電領域にのみ存在するアノード触媒層及び/又はカソード触媒層を作製する際の触媒インクにセリウムイオンを含む溶液、例えば硝酸セリウムを添加し、発電領域のセリウムイオンの含有量と非発電領域のセリウムイオンの含有量の関係を前記の通り調整する、すなわち、発電領域における面積当たりのセリウムイオンの含有量を非発電領域における面積当たりのセリウムイオンの含有量よりも多くし、好ましくは非発電領域セリウムイオン量比を前記範囲にすること以外は、当該技術分野で公知の膜電極接合体の製造に従って、製造することができる。なお、セリウムイオンは、セリウムを含む化合物、例えば酸化セリウムを添加し、溶解させることで導入してもよい。
【0042】
例えば、膜電極接合体における発電領域にのみ存在する触媒層がアノード触媒層である場合、アノード触媒層を作製する際の触媒インクにセリウムイオンを含む溶液及び/又はセリウムを含む化合物を添加し、当該触媒インクを固体高分子電解質膜に塗布してアノード触媒層を形成させて膜電極接合体を製造することによって、発電に伴い、セリウムイオンが、アノード触媒層から、隣接する固体高分子電解質膜を経由して、固体高分子電解質膜のアノード触媒層の反対側に隣接するカソード触媒層、固体高分子電解質膜における非発電領域、カソード触媒層における非発電領域へと拡散していき、発電領域における面積当たりのセリウムイオンの含有量が非発電領域における面積当たりのセリウムイオンの含有量よりも多く、好ましくは非発電領域セリウムイオン量比が前記範囲である、本発明の膜電極接合体を製造することができる。
【0043】
例えば、膜電極接合体における発電領域にのみ存在する触媒層がカソード触媒層である場合、カソード触媒層を作製する際の触媒インクにセリウムイオンを含む溶液及び/又はセリウムを含む化合物を添加し、当該触媒インクを固体高分子電解質膜に塗布してカソード触媒層を形成させて膜電極接合体を製造することによって、発電に伴い、セリウムイオンが、カソード触媒層から、隣接する固体高分子電解質膜を経由して、固体高分子電解質膜のカソード触媒層の反対側に隣接するアノード触媒層、固体高分子電解質膜における非発電領域、アノード触媒層における非発電領域へと拡散していき、発電領域における面積当たりのセリウムイオンの含有量が非発電領域における面積当たりのセリウムイオンの含有量よりも多く、好ましくは非発電領域セリウムイオン量比が前記範囲である、本発明の膜電極接合体を製造することができる。
【0044】
例えば、膜電極接合体における発電領域にのみ存在する触媒層がアノード触媒層及びカソード触媒層である場合、アノード触媒層及び/又はカソード触媒層を作製する際の触媒インクにセリウムイオンを含む溶液及び/又はセリウムを含む化合物を添加し、当該触媒インクを固体高分子電解質膜に塗布してアノード触媒層及び/又はカソード触媒層を形成させて膜電極接合体を製造することによって、発電に伴い、セリウムイオンが、アノード触媒層及び/又はカソード触媒層から、隣接する固体高分子電解質膜を経由して、固体高分子電解質膜における非発電領域へと拡散していき、発電領域における面積当たりのセリウムイオンの含有量が非発電領域における面積当たりのセリウムイオンの含有量よりも多く、好ましくは非発電領域セリウムイオン量比が前記範囲である、本発明の膜電極接合体を製造することができる。
【0045】
本発明の膜電極接合体では、各触媒層の電解質膜と接合されている面と反対の面、すなわちMEAの両面には、ガス拡散層が接合されていてもよい。ガス拡散層としては、導電性多孔質シートが好ましい。導電性多孔質シートとしては、当該技術分野で公知の導電性多孔質シートを使用することができ、限定されないが、カーボンクロス、カーボンペーパーなどの通気性、あるいは通液性を有する材料から形成されたシートなどを使用することができる。
【0046】
さらに、本発明の膜電極接合体又はMEGAの両面に、ガスを流通させるセパレータが配置されることによって、単セルが形成される。また、単セルが複数積層されることで本発明の固体高分子型燃料電池が形成される。
【0047】
本発明の固体高分子型燃料電池は、向上した耐久性及び発電性能を有する。
【実施例
【0048】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0049】
膜電極接合体(MEA)を、図1に示すような、中心部において固体高分子電解質膜の両面に触媒層を備える発電領域と、外周部において固体高分子電解質膜の一方の面に触媒層がない非発電領域とを備えるように調製し、発電領域における面積当たりのセリウムイオンの含有量(μg-Ce/cm)が非発電領域における面積当たりのセリウムイオンの含有量(μg-Ce/cm)よりも多くなり、非発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)とMEAに含まれる全セリウムイオンの含有量(μg-Ce)の比{非発電領域セリウムイオン量比=非発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)/(発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce)+非発電領域のセリウムイオンの含有量(μg-Ce))}が様々な値を有するように製造した。
【0050】
得られた各MEAについて、耐久試験を実施し、非発電領域セリウムイオン量比=0、すなわち非発電領域のセリウムイオンの含有量が0μg-CeであるMEAの耐久値を1としたときの規格化耐久指標を求めた。なお、耐久試験は、発電に伴う、周波数応答解析により測定されるアノード触媒層及びカソード触媒層のプロトン抵抗及びMEA分解物の成分分析により測定されるスルホン酸分解量を測定することで実施した。
【0051】
図2に、非発電領域セリウムイオン量比と規格化耐久指標の関係を示す。図2より、非発電領域セリウムイオン量比が0.28以下、好ましくは0.25以下であるときに、規格化耐久指標が高い水準を維持することができることがわかった。
【符号の説明】
【0052】
1:固体高分子電解質膜
2:電極
3:電極
4:発電領域
5:非発電領域
図1
図2