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特許7396244劣化判定装置、劣化判定システム、劣化判定方法及びそのプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】劣化判定装置、劣化判定システム、劣化判定方法及びそのプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20231205BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20231205BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20231205BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20231205BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20231205BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/389
G01R31/367
H02J7/00 Y
H01M10/48 P
H01M10/42 P
H01M10/48 301
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020172559
(22)【出願日】2020-10-13
(65)【公開番号】P2022064054
(43)【公開日】2022-04-25
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】間 広文
(72)【発明者】
【氏名】近藤 広規
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-205253(JP,A)
【文献】特開2014-224706(JP,A)
【文献】特開2020-24153(JP,A)
【文献】特開2016-90346(JP,A)
【文献】特開2014-134467(JP,A)
【文献】特開2012-220199(JP,A)
【文献】森匠;山口秀一郎;小山昇,“[1MH26] 電気化学インピーダンスを用いた統計的機械学習による劣化診断の能力検討”,第60回電池討論会講演要旨集,2019年11月13日
【文献】ZHANG, Yunwei; TANG, Qiaochu; ZHANG, Yao; WANG, Jiabin; STIMMING, Ulrich; LEE, Alpha A.,“Identifying degradation patterns of lithium ion batteries from impedance spectroscopy using machine learning”,Nature Communications,2020年04月06日,Vol. 11, Article number: 1706,pp. 1-6,DOI: https://doi.org/10.1038/s41467-020-15235-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/396
H01M 10/42-10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスの劣化度を判定する劣化判定装置であって、
劣化度が既知である蓄電デバイスのインピーダンスの実部及び/又は虚部と該蓄電デバイスの開放電圧とに少なくとも基づいて構築された推定モデルを記憶する記憶部と、
判定対象である蓄電デバイスのインピーダンスの実部及び/又は虚部と開放電圧とを取得し、取得した前記インピーダンスと開放電圧とを説明変数として用いて前記推定モデルから該蓄電デバイスの劣化度を判定する制御部と、を備え、
前記推定モデルは、10-2Hz以上104Hz未満の範囲のインピーダンスに基づいて構築されており、
前記制御部は、10-2Hz以上104Hz未満の範囲で3点以上8点以下の測定点での前記判定対象である蓄電デバイスのインピーダンスを取得する、劣化判定装置。
【請求項2】
前記推定モデルは、更に、劣化度が既知である蓄電デバイスのインピーダンスの測定温度にも基づいて構築されており、
前記制御部は、更に、判定対象である蓄電デバイスのインピーダンスの測定温度をも取得し、取得した前記インピーダンスの実部及び/又は虚部と測定温度と開放電圧とを説明変数として用いて前記推定モデルから該蓄電デバイスの劣化度を判定する、請求項1に記載の劣化判定装置。
【請求項3】
前記制御部は、下端範囲として10-2Hz以上100Hz以下の範囲で1点、上端範囲として102Hzを超え104Hz未満の範囲で1点、中間範囲として100Hz以上102Hz以下の範囲で1点を少なくとも含む測定点での前記判定対象である蓄電デバイスのインピーダンスを取得する、請求項1又は2に記載の劣化判定装置。
【請求項4】
前記下端範囲が10-1Hz以上100Hz未満の範囲である、請求項に記載の劣化判
定装置。
【請求項5】
前記制御部は、劣化度が既知である複数の蓄電デバイスのインピーダンスの実部及び/又は虚部と該蓄電デバイスの開放電圧とを少なくとも取得し、機械学習によって前記推定モデルを構築し、前記記憶部に記憶させる、請求項1~のいずれか1項に記載の劣化判定装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記機械学習の手法としてランダムフォレストを用いる、請求項に記載の劣化判定装置。
【請求項7】
前記推定モデルは、劣化度が既知である蓄電デバイスのインピーダンスの実部及び虚部に基づいて構築されており、
前記制御部は、判定対象である蓄電デバイスのインピーダンスの実部と虚部とを取得し、取得した前記インピーダンスの実部と虚部と開放電圧とを説明変数として用いて前記推定モデルから該蓄電デバイスの劣化度を判定する、請求項1~6のいずれか1項に記載の劣化判定装置。
【請求項8】
前記推定モデルは、劣化度が既知である蓄電デバイスのインピーダンスの実部及び虚部と該蓄電デバイスの開放電圧とに少なくとも基づいて構築されており、
前記測定点が3点以上8点以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の劣化判定装置。
【請求項9】
前記蓄電デバイスは、リチウムイオン二次電池である、請求項1~8のいずれか1項に記載の劣化判定装置。
【請求項10】
蓄電デバイスのインピーダンスの実部及び/又は虚部と該蓄電デバイスの開放電圧とを求める測定装置と、
請求項1~9のいずれか1項に記載の劣化判定装置と、を備えた劣化判定システム。
【請求項11】
蓄電デバイスの劣化度を判定する劣化判定方法であって、
判定対象である蓄電デバイスのインピーダンスの実部及び/又は虚部と開放電圧とを取得し、取得した前記インピーダンスの実部及び/又は虚部と開放電圧とを説明変数として用い、
劣化度が既知である蓄電デバイスのインピーダンスの実部及び/又は虚部と該蓄電デバイスの開放電圧とに少なくとも基づいて構築された推定モデルから前記判定対象の蓄電デバイスの劣化度を判定するステップ、を含み、
前記推定モデルは、10-2Hz以上104Hz未満の範囲のインピーダンスに基づいて
構築されており、
前記ステップでは、10-2Hz以上104Hz未満の範囲で3点以上8点以下の測定点
での前記判定対象である蓄電デバイスのインピーダンスを取得する、劣化判定方法。
【請求項12】
前記蓄電デバイスは、リチウムイオン二次電池である、請求項11に記載の劣化判定方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の劣化判定方法のステップを1又は複数のコンピュータに実現させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では劣化判定装置、劣化判定システム、劣化判定方法及びそのプログラムを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電デバイスの劣化判定方法としては、例えば、交流インピーダンス法とパターン分類アルゴリズムを用いた機械学習によるリチウムイオン二次電池の劣化診断方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この劣化判定方法では、リチウムイオン電池等の劣化判定を高速に行うことができるとしている。また、蓄電デバイスの推定方法としては、開放電圧から電池の充電率と残容量を推定する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この推定方法では、電池の使用環境の変化あるいは劣化にもかかわらず、二次電池の充放電容量を正確に把握可能とすることができるとしている。
また、蓄電デバイスの劣化判定方法としては、交流インピーダンス法により,高周波数側反応抵抗と低周波数側反応抵抗と高周波数側キャパシタと低周波数側キャパシタとを有する等価回路モデルにフィッティングし、二次電池の劣化を判定するものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。この劣化判定方法では、抵抗増加として現れる劣化だけでなく,より精密に二次電池の劣化の状態を判定することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-90346号公報
【文献】特開2001-231179号公報
【文献】特許第5549634号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1では、どのようなデータを劣化診断に使うかは言及されておらず、また、インピーダンスを説明変数に使用しているが、まだ十分でなく、更なる改良が望まれていた。また、特許文献2では、開放電圧から電池の充電率と残容量を推定するのであるが、蓄電デバイスの劣化度を求めるにはその精度が十分でなく、更なる改良が望まれていた。また、特許文献3では、交流インピーダンス法による測定結果を等価回路モデルでフィッティングして電池の劣化診断を行っているが、まだ十分ではなく、更なる改良が望まれていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、精度をより高めつつ、より効率的に蓄電デバイスの劣化度を評価することができる新規な劣化判定装置、劣化判定システム、劣化判定方法及びそのプログラムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、より多くの因子を用いた機械学習により蓄電デバイスの劣化度の推定モデルを構築し、この推定モデルから劣化度を判定するものとすれば、精度をより高めつつより効率的に蓄電デバイスの劣化度を評価することができることを見いだし、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示する劣化判定装置は、
蓄電デバイスの劣化度を判定する劣化判定装置であって、
劣化度が既知である蓄電デバイスのインピーダンスの実部及び/又は虚部と該蓄電デバイスの開放電圧とに少なくとも基づいて構築された推定モデルを記憶する記憶部と、
判定対象である蓄電デバイスのインピーダンスと開放電圧とを取得し、取得した前記インピーダンスと開放電圧とを説明変数として用いて前記推定モデルから該蓄電デバイスの劣化度を判定する制御部と、
を備えたものである。
【0008】
本明細書で開示する劣化判定システムは、
蓄電デバイスのインピーダンスの実部及び/又は虚部と該蓄電デバイスの開放電圧とを求める測定装置と、
上述した劣化判定装置と、を備え、
前記制御部は、前記測定装置から前記蓄電デバイスのインピーダンスの実部と該蓄電デバイスの開放電圧とを取得するものである。
【0009】
本明細書で開示する劣化判定方法は、
蓄電デバイスの劣化度を判定する劣化判定方法であって、
判定対象である蓄電デバイスのインピーダンスの実部及び/又は虚部と開放電圧とを取得し、取得した前記インピーダンスの実部及び/又は虚部と開放電圧とを説明変数として用い、
劣化度が既知である蓄電デバイスのインピーダンスの実部及び/又は虚部と該蓄電デバイスの開放電圧とに少なくとも基づいて構築された推定モデルから前記判定対象の蓄電デバイスの劣化度を判定するステップ、
を含むものである。
【0010】
本明細書で開示するプログラムは、上述した劣化判定方法の各ステップを1又は複数のコンピュータに実現させるものである。このプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(例えばハードディスク、ROM、FD、CD、DVDなど)に記録されていてもよいし、伝送媒体(インターネットやLANなどの通信網)を介してあるコンピュータから別のコンピュータへ配信されてもよいし、その他どのような形で授受されてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示の劣化判定装置、劣化判定システム、劣化判定方法及びそのプログラムでは、精度をより高めつつ、より効率的に蓄電デバイスの劣化度を評価することができる。本開示がこのような効果を奏する理由は、以下のように推察される。例えば、リチウムイオン二次電池などのセルの劣化度は、インピーダンスに現れることから、時間のかかる放電容量を測定しなくてもインピーダンスを用いて、より短時間で推定することは可能である。しかしながら、インピーダンスは、蓄電デバイスの残容量SOC(%)や測定温度(℃)などに依存して変化し、その変化量はセルの劣化に対する変化量に比べ大きいため、残容量SOCがわからないと劣化度の判定精度が低下する。ここで、残容量SOCは、容量がわからないと定義できないが、開放電圧は残容量SOCと強い相関があることがわかり、インピーダンスに加えて開放電圧を用いることで劣化度を判定する精度をより向上することができるものと推察される。このため、本開示では、精度をより高めつつ、より効率的に蓄電デバイスの劣化度を評価することができる。ここで、推定モデルがインピーダンスの実部と開放電圧とに基づいて構築されている場合は、制御部は、判定対象のインピーダンスの実部と開放電圧とを取得するものとする。また、推定モデルがインピーダンスの虚部と開放電圧とに基づいて構築されている場合は、制御部は、判定対象のインピーダンスの虚部と開放電圧とを取得するものとする。また、推定モデルがインピーダンスの実部と虚部と開放電圧とに基づいて構築されている場合は、制御部は、判定対象のインピーダンスの実部と虚部と開放電圧とを取得するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】劣化判定システム10の一例を示す説明図。
図2】推定モデル構築処理ルーチンの一例を示すフローチャート。
図3】劣化判定処理ルーチンの一例を示すフローチャート。
図4】新品電池と劣化電池のインピーダンス実部の周波数依存性を示す測定結果。
図5】新品電池と劣化電池のインピーダンス虚部の周波数依存性を示す測定結果。
図6】容量実験値と容量予測値との関係図。
図7】周波数(Hz)と測定時間(s)との関係図。
図8】測定点数とRMSE(mAh)との関係図。
図9】インピーダンスの直接測定と電流ステップ法による間接測定との関係図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(劣化判定装置)
本明細書で開示する劣化判定装置の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1は、劣化判定システム10の一例を示す概略説明図である。劣化判定システム10は、例えば、使用済みの蓄電デバイス13を回収する回収施設などに備えられており、蓄電デバイス13の劣化度を判定するシステムである。この劣化判定システム10は、回収した蓄電デバイス13の劣化度を推定して、リユース可能かリサイクルすべきかについての判定を行う。リユース可能な蓄電デバイス13は、再調整されて出荷され、リサイクルすべき蓄電デバイス13はリサイクルされる。この劣化判定システム10は、測定装置15と、劣化判定装置20とを備えている。劣化判定システム10は、LANやインターネットなどを含むネットワーク12を介して測定装置15と劣化判定装置20との間で情報をやりとりする。
【0014】
蓄電デバイス13は、例えば、ハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタ、リチウムやナトリウムのアルカリ金属二次電池、アルカリ金属イオン電池、空気電池などが挙げられる。このうち、蓄電デバイス13としては、リチウム二次電池、特にリチウムイオン二次電池が好ましい。ここでは、蓄電デバイス13がリチウムイオン二次電池であるものとして主として説明する。蓄電デバイス13は、例えば、正極と、負極と、正極及び負極の間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えるものとしてもよい。正極は、正極活物質として、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを含むものとしてもよい。正極活物質は、例えば、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn24などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMnc2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物などを用いることができる。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。負極は、負極活物質として炭素材料やリチウムを含む複合酸化物などを含むものとしてもよい。負極活物質は、例えば、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素材料としては、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。イオン伝導媒体は、例えば、支持塩を溶解した電解液とすることができる。支持塩としては、例えば、LiPF6やLiBF4、などのリチウム塩が挙がられる。電解液の溶媒は、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類等が挙げられる。また、イオン伝導媒体は、固体のイオン伝導性ポリマーや、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。固体電解質やこの蓄電デバイス13は、正極と負極との間にセパレータを配置してもよい。
【0015】
測定装置15は、蓄電デバイス13の交流インピーダンスを直接又は間接的に測定し、インピーダンスの実部Z’と虚部Z”とを求めることが可能である。また、測定装置15は、蓄電デバイス13の開放電圧V(V)を測定可能である。この測定装置15は、判定対象14としての蓄電デバイス13を測定温度Tに調節して収容する恒温槽16と、判定対象14に電気的に接続し交流電流を印加する交流インピーダンスアナライザ17とを備える。また、測定装置15は、交流インピーダンスを直接求めるものとしてもよいが、例えば、電流ステップ法や電圧ステップ法、電流パルス法などによって交流インピーダンスを間接的に求めるものとしてもよい。電流ステップ法では、所定の電流(例えば、0.1Cなど)を所定時間(例えば0.01sなど)を印加したときの電圧の振る舞いを測定し、このときの電流と電圧を用いて、ラプラス変換により所定の周波数(例えば、100Hz)における実部Z’や虚部Z”を求めることができる。測定装置15は、測定結果をネットワーク12を介して劣化判定装置20へ出力する。
【0016】
劣化判定装置20は、劣化度が既知である蓄電デバイスを測定した結果から得られた推定モデルを利用し、劣化度が不明の判定対象14を測定した結果からこの判定対象14の劣化度を推定する処理を行う装置である。劣化判定装置20は、記憶部21と、制御部22と、入力装置27と、表示装置28と、を備える。入力装置27は、各種入力を行うマウスやキーボードなどを含む。表示装置28は、画面を表示するものであり、例えば液晶ディスプレイである。
【0017】
記憶部21は、例えば、HDDなど、大容量の記憶装置として構成されており既知劣化試験結果30や、機械学習プログラム34、推定モデル35、劣化判定プログラム36などが記憶されている。既知劣化試験結果30は、劣化度が既知である蓄電デバイス13の測定結果である。この既知劣化試験結果30は、推定モデル35を構築するために用いられるものであり、測定結果としてインピーダンス31、開放電圧32、劣化度33などが含まれる。劣化度33は、例えば、初期の最大放電容量を100%とした場合において、連続又は断続的に使用されたあと、劣化により低減した最大放電容量の割合として定義することができる。
【0018】
機械学習プログラム34は、制御部22により実行され、既知劣化試験結果30から機械学習を利用して推定モデル35を構築するプログラムである。例えば、機械学習には、統計分析ソフトRやPython(登録商標)、SQL、Excel(登録商標)などを用いることができ、手法として、線形回帰、カーネルリッジ、サポートベクター、XGBoost、ニューラルネットワーク(nnet)及びランダムフォレスト(RF)のうち1以上を用いることができる。機械学習の手法としては、ランダムフォレストが、劣化判定の精度がより高く、好ましい。推定モデル35は、既知劣化試験結果30のインピーダンス31の実部Z’とこの蓄電デバイス13の開放電圧Vとに少なくとも基づいて構築されている。この推定モデル35は、更に、劣化度が既知である蓄電デバイス13のインピーダンスの虚部Z”に基づいて構築されることがより好ましい。また、推定モデル35は、更に、劣化度が既知である蓄電デバイス13のインピーダンスの測定温度Tに基づいて構築されることがより好ましい。特に、推定モデル35は、インピーダンス31の実部Z’と虚部Z”と、インピーダンス31の測定温度Tと、蓄電デバイス13の開放電圧Vとに基づいて構築されていることが最も好ましい。また、この推定モデル35は、10-2Hz以上104Hz未満の範囲のインピーダンスに基づいて構築されることが好ましく、10-1Hz以上103Hz以下の範囲のインピーダンスに基づいて構築されることがより好ましい。また、測定温度Tは、例えば、-30℃以上としてもよいし、-20℃以上としてもよいし、-10℃以上としてもよい。また、測定温度Tは、例えば、60℃以下としてもよいし、50℃以下としてもよいし、40℃以下としてもよい。この測定温度Tは、-20℃以上50℃以下の範囲が好ましい。インピーダンスの測定温度Tは、蓄電デバイス13の使用環境などに基づいて適宜設定すればよい。
【0019】
劣化判定プログラム36は、制御部22により実行され、判定対象14の測定結果と推定モデル35とにより判定対象14の劣化度を推定し、そのリユースが可能かを判定するプログラムである。この劣化判定プログラム36は、例えば、測定装置15から取得した少なくとも、判定対象である蓄電デバイス13のインピーダンスの実部Z’と開放電圧Vとを説明変数として用いて、推定モデル35から蓄電デバイスの劣化度を判定する。劣化判定プログラム36は、更に、インピーダンスの虚部Z”や測定温度Tをも取得し、取得したものを説明変数として用いて判定対象14の劣化度を判定するものとしてもよい。また、劣化判定プログラム36は、10-2Hz以上104Hz未満の範囲、より好ましくは、10-1Hz以上103Hz未満の範囲の判定対象14のインピーダンスを取得するものとしてもよい。劣化判定プログラム36は、例えば、判定対象14の劣化判定を行うインピーダンスの測定点が10以下の範囲としてもよい。このインピーダンスの測定点は、3点以上がより好ましく、4点以上であることがより好ましい。また、この測定点は、8点以下であることがより好ましく、6点以下としてもよい。この測定点は、3点以上10以下の範囲では、劣化度の推定の精度をより高めることができ好ましい。また、劣化判定プログラム36は、下端範囲として10-2Hz以上100Hz以下の範囲で1点、上端範囲として102Hzを超え104Hz未満の範囲で1点、中間範囲として100Hz以上102Hz以下の範囲で1点を少なくとも含む測定点でのインピーダンスを取得することが好ましい。下端範囲と上端範囲で少なくとも1点の測定点を含むことが、劣化度の推定精度をより高めることができ好ましい。また、この下端範囲は、10-1Hz以上100Hz未満の範囲であることがより好ましい。低周波数帯では、測定時間がより長くなるため、劣化判定プログラム36では、低周波数帯の中でもより高い周波数での測定点を用いることがより好ましい。
【0020】
制御部22は、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、装置全体を制御する。また、制御部22には、機能ブロックとして、測定装置15から測定結果を取得する取得部と、取得した測定結果と推定モデル35とから劣化度を推定する推定部と、推定した劣化度から判定対象14である蓄電デバイス13のリユースの可否を判定する判定部と、を有する。この機能ブロックは、制御部22が劣化判定プログラム36を実行することによって実現される。
【0021】
(劣化判定方法)
次に、こうして構成された本実施形態の劣化判定装置20の動作、特に、劣化判定装置20が実行する劣化判定方法について説明する。この劣化判定方法は、例えば、機械学習によって推定モデル35を構築する構築ステップと、推定モデル35から判定対象の蓄電デバイスの劣化度を判定する判定ステップと、を含むものとしてもよい。なお、この劣化判定方法において、既に構築した推定モデル35を用いて、上記構築ステップを省略してもよい。
【0022】
(構築ステップ)
ここでは、まず、推定モデル35を構築する処理について説明する。この構築処理では、使用者が既知劣化度の複数の蓄電デバイス13を用意し、劣化判定システム10がインピーダンス31や開放電圧32を測定し、推定モデル35を構築する。図2は、制御部22により実行される推定モデル構築処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、記憶部21に記憶され、使用者の指示に応じて実行される。制御部22は、このルーチンを実行すると、まず、劣化度が既知の蓄電デバイス13の開放電圧Vの測定結果を測定装置15から取得し(S100)、そのインピーダンス測定結果を取得する(S110)。制御部22は、判定対象14を取り替えながら、測定装置15が測定した開放電圧Vやインピーダンスの測定結果をリアルタイムで取得してもよいし、測定済の開放電圧Vやインピーダンスの測定結果をまとめて取得してもよい。また、インピーダンスの測定結果には、実部Z’のほか、虚部Z”や測定温度Tなどを含むものとしてもよい。S110のあと、制御部22は、全ての既知蓄電デバイス13の測定結果を取得したか否かを判定し(S120)、全ての測定結果を取得していないときには、S100以降の処理を繰り返し実行する。一方、全ての測定結果を取得したときには、機械学習により推定モデル35を構築して記憶部21に記憶し(S130)、このルーチンを終了する。劣化した蓄電デバイス13のインピーダンスと劣化度とは、その劣化の態様によってリニアな関係性を有さず、周波数帯域ごとに初期セルに対して劣化セルのインピーダンス値が高く出る場合もあれば、低く出る場合もある(後述図4参照)。ここでは、機械学習を利用して、インピーダンスから劣化度を推定することが可能な推定モデル35を構築するのである。また、制御部22は、例えば、推定モデル35の構築には統計分析ソフトRやPython(登録商標)、SQL、Excel(登録商標)などを用いることができ、手法として、線形回帰、カーネルリッジ、サポートベクター、XGBoost、ニューラルネットワーク(nnet)及びランダムフォレスト(RF)のうち1以上、好ましくは、ランダムフォレストを用いることができる。
【0023】
(判定ステップ)
この判定ステップでは、判定対象である蓄電デバイスのインピーダンスの実部Z’及び/又は虚部Z”と開放電圧Vとを取得し、取得したインピーダンスと開放電圧とを説明変数として用い、推定モデル35から判定対象14の劣化度を判定する処理を行う。推定モデルは、劣化度が既知である蓄電デバイス13のインピーダンスの実部Z’及び/又は虚部Z”とその蓄電デバイス13の開放電圧Vとに少なくとも基づいて構築されているものとする。図3は、制御部22により実行される劣化判定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、記憶部21に記憶され、使用者の指示に応じて実行される。使用者は、推定モデル35を構築後、判定対象14を交流インピーダンスアナライザ17へ接続したのち、このルーチンを実行させる。
【0024】
このルーチンを実行すると、制御部22は、判定対象14の開放電圧Vを取得し(S200)、インピーダンスの測定温度T、インピーダンスの測定点(周波数)を設定する(S210)。測定点は、例えば、特定の周波数帯において3点以上10点以下の範囲、より好ましくは、4点以上8点以下の範囲に設定されている。また、測定点は、上述したように、下端範囲として10-2Hz以上100Hz以下の範囲で1点、上端範囲として102Hzを超え104Hz未満の範囲で1点、中間範囲として100Hz以上102Hz以下の範囲で1点を少なくとも含むものとすることが好ましい。この範囲に測定点が少なくとも3点含まれるものとすれば、判定対象14の劣化度をより精度よく推定することができる。この測定点は、例えば、0.01Hz以上100000Hz以下の周波数範囲に含まれるものとしてもよい。具体的には、測定点は、0.01Hz、0.1Hz、1Hz、10Hz、100Hz、1000Hz、10000Hz、100000Hzなどを含むものとしてもよい。また、測定点は、0.05Hz、0.5Hz、5Hz、50Hz、500Hz、5000Hz、50000Hzや、0.02Hz、0.2Hz、2Hz、20Hz、200Hz、2000Hz、20000Hzなどを含むものとしてもよい。測定点は、例えば、0.1Hz、1Hz、10Hz、100Hz、1000Hzを含むことが好ましい。測定温度Tは、例えば、上述したように、-30℃~60℃の範囲で適宜定めるものとしてもよい。測定装置15は、設定された測定温度Tに恒温槽16を制御し、設定された測定点で交流インピーダンスアナライザ17によってインピーダンスを測定する。
【0025】
次に、制御部22は、判定対象14のインピーダンスを取得する(S220)。制御部22は、推定モデル35で構築されたインピーダンスの実部Z’及び/又は虚部Z”を測定装置15から取得する。次に、制御部22は、全ての測定点を取得したか否かを判定し(S230)、全ての測定点のデータを取得していないときには、S210以降の処理を実行する。制御部22は、S210では、取得していない次の測定点を設定する。一方、S230で全ての測定点を取得したときには、制御部22は、インピーダンスの実部Z’及び/又は虚部Z”と開放電圧Vと、更には測定温度Tを用い、推定モデル35から判定対象14の劣化度を推定する(S240)。制御部22は、全測定点の説明変数の測定値に最も適合する劣化度を推定モデル35を用いて導出する。続いて、制御部22は、推定された劣化度が所定の許容範囲内であるか否かを判定する(S250)。この許容範囲は、例えば、判定対象14の蓄電デバイス13が再調整によってリユース可能である下限値に基づいて経験的に設定されているものとする。
【0026】
判定対象14の劣化度が所定の許容範囲内であるときには、制御部22は、リユース可能である旨の表示を出力する(S260)。一方、判定対象14の劣化度が所定の許容範囲外であるときには、制御部22は、リサイクルすべき旨の表示を出力する(S270)。S260のあと、またはS270のあと、制御部22は、S250の判定結果を記憶すると共に、次の判定対象14の蓄電デバイス13があるか否かを判定する(S280)。次の判定対象14があるときには、制御部22は、S200以降の処理を繰り返し実行する一方、280で次の判定対象14がないときには、制御部22は、このルーチンを終了する。このように、劣化判定装置20では、蓄電デバイス13の交流インピーダンスの実部Z’及び/又は虚部Z”と開放電圧Vと、更には測定温度Tを用い、推定モデル35から判定対象14の劣化度を推定することにより、蓄電デバイス13のリユースの可否を判定する。
【0027】
以上説明した本実施形態の劣化判定システム10では、精度をより高めつつ、より効率的に蓄電デバイスの劣化度を評価することができる。劣化判定システム10がこのような効果を奏する理由は、以下のように推察される。例えば、リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイス13の劣化度は、インピーダンスに現れることから、時間のかかる放電容量を測定しなくてもインピーダンスを用いて、より短時間で推定することは可能である。しかしながら、インピーダンスは、蓄電デバイスの残容量SOCや測定温度などに依存して変化し、その変化量はセルの劣化に対する変化量に比べ大きいため、残容量SOCがわからないと劣化度の判定精度が低下する。ここで、残容量SOCは、容量がわからないと定義できないが、開放電圧は残容量SOCと強い相関があることがわかり、インピーダンスに加えて開放電圧を用いることで劣化度を判定する精度をより向上することができるものと推察される。このため、劣化判定システム10では、精度をより高めつつ、より効率的に蓄電デバイスの劣化度を評価することができる。
【0028】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0029】
例えば、上述した実施形態では、劣化判定システム10は、測定装置15と劣化判定装置20とを備えるものとしたが、特にこれに限定されず、交流インピーダンスや開放電圧を外部から取得するものとして測定装置15を省略してもよい。この劣化判定装置20においても、実部Z’及び/又は虚部Z”と開放電圧Vを用い、推定モデル35から判定対象14の劣化度を推定するため、精度をより高めつつ、より効率的に蓄電デバイスの劣化度を評価することができる。
【0030】
上述した実施形態では、本開示を劣化判定システム10や劣化判定装置20、劣化判定方法として説明したが、例えば、劣化判定方法を実行するためのプログラムとしてもよい。このプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(例えばハードディスク、ROM、FD、CD、DVDなど)に記録されていてもよいし、伝送媒体(インターネットやLANなどの通信網)を介してあるコンピューターから別のコンピュータへ配信されてもよいし、その他どのような形で授受されてもよい。このプログラムを1つのコンピュータに実行させるか又は複数のコンピュータに各ステップを分担して実行させれば、上述した劣化判定方法の各ステップが実行されるため、この劣化判定方法と同様の作用効果が得られる。
【実施例
【0031】
以下には、本開示の劣化判定方法及び劣化判定装置を具体的に検討した例を実験例として説明する。なお、実験例1、4、7が本開示の比較例であり、実験例2、3、5、6、8~20が実施例に相当する。
【0032】
中古電池の劣化診断の検討として、パナソニック製リチウムイオン電池NCR18650を用い、診断にはインピーダンス、開放電圧、測定温度の結果を用いた。インピーダンス、開放電圧、測定温度の測定には、ソーラートロン社製CELLTEST-8T(7ch:1A仕様、1ch:25A仕様)を用いて、測定時の電流は5mAとし、測定温度Tは測定セルの入っている恒温槽の温度を用いた。新品電池7本、劣化電池35本の測定を行った。劣化電池としては、2.5Vから4.2Vの間を20℃で2C充電し0.1C放電を繰り返したものや、60℃で0.5C充電し0.1C放電を繰り返したもの、60℃で保管し続けたもの、など、劣化モードの異なるものを用意した。インピーダンスおよび開放電圧は、電池の残容量SOCや測定温度で変化するので、SOCは10%刻みで0~100%、測定温度は10℃刻みで-20~50℃の範囲で測定した。また、劣化度の指標として、電池容量を用い、各電池に対してアスカ電池社製5V/10A-80CHを用いて、電池容量を0.1CのCV放電の放電容量とした。測定条件は、42本の電池容量と各電池88条件(SOC11条件×測定温度8条件)とした。表1~4に各実験例の測定条件をまとめて示した。
【0033】
図4は、SOC50%、測定温度20℃における新品電池と劣化電池のインピーダンス実部Z’の周波数依存性を示す測定結果である。図5は、SOC50%、測定温度20℃における新品電池と劣化電池のインピーダンス虚部Z”の周波数依存性を示す測定結果である。図4、5に示すように、新品電池では、インピーダンスはほぼ同じ形状、値を示した。一方、劣化電池は、新品電池と異なるインピーダンスの形状及び値を示した。また、劣化電池では、その劣化モードの違いにより、例えば、101Hz以下の周波数帯では、新品電池の上下に劣化電池のZ’があり、102Hz~104Hzの周波数帯では新品電池よりも上に劣化電池のZ’があり、105Hzではいずれの電池も同じZ’を示すなど、一様の傾向は得られなかった。このため、容量の劣化度に対するインピーダンスの変化量は、単純なモデルでは説明できないことがわかった。そこで、得られたデータセットを用いて機械学習から電池容量を予測した。
【0034】
機械学習には統計分析ソフトRを用い、パッケージとしてcaretを使用し、手法としてランダムフォレスト(RF)、ニューラルネットワーク(nnet)を検討した。予測精度を、実験値と予測値との平均平方二乗誤差RMSEにより評価した。このRMSEは、その値が低いほど予測精度が高いことを表す。今回は、予測モデルの汎用性を評価するため、10分割交差検証を行い、10回予測モデルを構築しており、その10回の平均のRMSEで比較評価した。表1に各モデルで電池容量を予測した結果を示す。表1において、インピーダンスの実部Z’は、0.01、0.1、1、10、100、1000、10000、100000Hzの各周波数の値を用いた。また表1には、開放電圧V、測定温度Tも検討した結果をまとめた。表1に示すように、機械学習の手法にかかわらず、説明変数に開放電圧Vを入れると、予測精度が向上することがわかった。また、開放電圧Vに加えて、測定温度Tを入れると、さらに予測精度が増すことがわかった。また機械学習の手法としては、nnetよりRFの方が予測精度が高いことがわかった。
【0035】
表2にRFで電池容量を予測した結果の使用周波数帯依存性をまとめた。表2に示すように、全ての周波数のデータを用いればよいというわけではなく、予測精度を向上させるための最適な周波数帯が存在することが推察された。例えば、10000Hz近傍の周波数帯では容量変化によるインピーダンスの変化量がノイズや電池の個体差と同程度になるため、予測精度を上げるために周波数帯を制限する必要がある。電池容量を判定するためのインピーダンスの測定周波数帯の上限範囲は、好ましくは100Hzより大きく10000Hz未満、さらに好ましくは100Hzより大きく1000Hz以下である。下限範囲に関しては、0.01Hzから0.1Hzに変更しても予測精度がほとんど同じであり、0.1Hzより低い周波数帯では周波数を低下させるにつれ測定時間が急激に増大することから、好ましくは0.1Hz以上となる。表3にインピーダンスの虚部Z”を加えて説明変数の組合せを変更しRFで電池容量を予測したRMSEを示す。表3に示すように、Vを考慮し、更にTを考慮することが好ましく、更にZ”を考慮することがより好ましく、Z’,Z”,V,Tの全て考慮するほうが予測精度が向上することがわかった。また、虚部Z”,V,Tを説明変数とした場合も(実験例14)、実部Z’,V,Tを説明変数とした場合(実験例11)と同等の結果が得られることから、虚部Z”と開放電圧Vとを説明変数としても、実部Z’のみや虚部Z”のみを説明変数とするものに比して、より高い精度で劣化度を推定できるものと推察された。
【0036】
図6は、説明変数としてインピーダンスの実部Z’,虚部Z”,開放電圧V,測定温度Tを用い(実験例12)複数の劣化モードで劣化した電池の容量実験値と容量予測値との関係図である。図中には、全体の90%のデータが含まれる誤差ラインを示した。また、図6に示すように、どの劣化モードの電池においても高い精度で容量予測ができていることがわかった。特に、3000mAh程度の電池容量に対して±25mAhの誤差で90%以上のデータが予測できていることがわかった。
【0037】
図7は、各周波数(Hz)と測定時間(s)との関係図である。電池診断は、短時間で行うことが望まれる。この点において、近い周波数のインピーダンス同士は強い相関があることから、ある程度測定するデータ点を間引いても劣化診断には影響しないことが予想される。このため、測定するデータ点を少なくすることが考えられる。例えば、0.01~100000Hzのインピーダンスを周波数のログスケールで均等に85点取った場合、測定時間が1170sであったが、8点(0.01、0.1、1、10、100、1000、10000、100000Hz)にすると、202sと1/5程度の測定時間で済むことがわかった。直接的に電池容量を0.1Cで測定した場合、測定時間は最低でも10時間かかることから、インピーダンスの測定時間は電池容量測定時間に比べて圧倒的に短く、劣化診断向きであった。
【0038】
次に、表4にインピーダンスの虚部Z”を加えてRFで電池容量を予測した結果の使用周波数帯依存性を示す。図8は、測定点数とRMSE(mAh)との関係図である。表4、図8に示すように、データの測定点数に関しては、使用周波数に対応する測定点数は、3点以上が好ましく、4点以上で高い予測精度を示すことがわかった。また、測定点数が6点の場合と3点の場合とで予測精度がほぼ同じことから、測定点数をこれ以上増やしても予測精度は向上しないと推測された。データの測定点数が増えると、診断時間がかかることから、望ましくは測定点数は8点以下、さらに望ましくは6点以下であると推察された。
【0039】
劣化診断時の測定は直接インピーダンスを測定するものとしてもよいが、間接的に測定する場合についても検討した。その一例として、電流ステップ法を検討した。図9は、測定温度20℃ でのZ’の周波数依存性と、電流ステップ法により求めた各周波数におけるZ’の対応関係を示した説明図である。図9には、電流ステップ法で0.1Cの電流を0.01s印加した時の電圧の振る舞いを付記した。この電流と電圧を用いて、ラプラス変換により図中の劣化電池(残容量SOC50%、測定温度20℃)の100HzにおけるZ’を求めた。図9に示すように、電流ステップ法で求めたインピーダンスZ’は、直接インピーダンスを求めた測定結果に非常によい精度で対応することがわかった。この結果から、劣化診断の手法としては、電流ステップ法以外に電圧ステップ法や、電流パルス法でも良好な結果が得られるものと推察された。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
なお、本明細書で開示した劣化判定装置、劣化判定システム、劣化判定方法及びそのプログラムは、上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本明細書で開示した劣化判定装置、劣化判定システム、劣化判定方法及びそのプログラムは、蓄電デバイスの劣化を判定する技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0046】
10 劣化判定システム、12 ネットワーク、13 蓄電デバイス、14 判定対象、15 測定装置、16 恒温槽、17 交流インピーダンスアナライザ、20 劣化判定装置、21 記憶部、22 制御部、27 入力装置、28 表示装置、30 既知劣化試験結果、31 インピーダンス、32 開放電圧、33 劣化度、34 機械学習プログラム、35 推定モデル、36 劣化判定プログラム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9