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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】電池監視装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 19/00 20060101AFI20231205BHJP
   G01R 31/3835 20190101ALI20231205BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20231205BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20231205BHJP
   H02J 7/02 20160101ALI20231205BHJP
【FI】
G01R19/00 B
G01R31/3835
H01M10/48 P
H02J7/00 X
H02J7/02 H
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020209289
(22)【出願日】2020-12-17
(65)【公開番号】P2022096272
(43)【公開日】2022-06-29
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】本多 一隆
(72)【発明者】
【氏名】朝長 幸拓
(72)【発明者】
【氏名】久保 俊一
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-32175(JP,A)
【文献】特開2017-96723(JP,A)
【文献】特開2017-32311(JP,A)
【文献】特開2015-62006(JP,A)
【文献】特開2010-228523(JP,A)
【文献】特表平10-508460(JP,A)
【文献】特開2009-271706(JP,A)
【文献】中国実用新案第212158819(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/36-31/44、
19/00-19/32、
H02J 7/00-7/12、
7/34-7/36、
H01M 10/42-10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セル(Cb)が直列接続された構成の組電池(4)を監視する電池監視装置(2、42)であって、
前記電池セルの電圧を検出する範囲である検出範囲を指定する範囲指定部(25、46)と、
前記検出範囲において前記電池セルの電圧を検出するものであり、前記電池セルの電圧に対応した電圧を入力するA/D変換器(13、16)および前記A/D変換器から出力されるデジタル信号を入力するとともに低域通過フィルタとして機能するデジタルフィルタ(14、17)を含み、前記デジタルフィルタの出力信号を前記電池セルの電圧の検出結果を表す検出信号として出力する電圧検出部(10、11)と、
前記デジタルフィルタの特性を設定する特性設定部(26、47)と、
を備え
前記範囲指定部は、
前記電池セルの種類毎に予め定まっているセル電圧範囲に基づいて前記検出範囲を指定するようになっており、
前記検出範囲として前記セル電圧範囲の全電圧範囲に及ぶ広範囲から全電圧範囲のうち限定した狭範囲まで選択的に指定することができるようになっている電池監視装置。
【請求項2】
前記範囲指定部(25)は、外部の制御装置(3)から与えられる範囲指定指令を受けて動作し、
前記特性設定部(26)は、前記制御装置から与えられる特性設定指令を受けて動作する請求項1に記載の電池監視装置。
【請求項3】
さらに、前記電圧検出部による電圧の検出結果に基づいて範囲指定指令および特性設定指令を生成する指令生成部(45)を備え、
前記範囲指定部(46)は、前記範囲指定指令を受けて動作し、
前記特性設定部(47)は、前記特性設定指令を受けて動作する請求項1に記載の電池監視装置。
【請求項4】
前記範囲指定部が前記検出範囲として相対的に広い範囲である広範囲を指定する場合には、前記特性設定部が前記デジタルフィルタの特性であるカットオフ周波数を相対的に高い周波数である高周波数に設定し、
前記範囲指定部が前記検出範囲として相対的に狭い範囲である狭範囲を指定する場合には、前記特性設定部が前記デジタルフィルタの特性であるカットオフ周波数を相対的に低い周波数である低周波数に設定するようになっている請求項1からのいずれか一項に記載の電池監視装置。
【請求項5】
前記電圧検出部を第1電圧検出部としたとき、前記第1電圧検出部と同一の構成を有する第2電圧検出部を備え、
前記範囲指定部は、前記第1電圧検出部における前記検出範囲および前記第2電圧検出部における前記検出範囲が互いに同一の範囲となるように各検出範囲を指定し、
前記特性設定部は、前記第1電圧検出部が備える前記デジタルフィルタの特性および前記第2電圧検出部が備える前記デジタルフィルタの特性が互いに同一となるように各特性を設定するようになっている請求項1からのいずれか一項に記載の電池監視装置。
【請求項6】
前記電圧検出部を第1電圧検出部としたとき、前記第1電圧検出部と同一の構成を有する第2電圧検出部を備え、
前記範囲指定部は、前記第1電圧検出部における前記検出範囲として相対的に広い範囲である広範囲を指定するとともに、前記第2電圧検出部における前記検出範囲として相対的に狭い範囲である狭範囲を指定するようになっている請求項1からのいずれか一項に記載の電池監視装置。
【請求項7】
前記範囲指定部は、前記電池セル毎に独立して前記検出範囲を指定することができるように構成されている請求項1からのいずれか一項に記載の電池監視装置。
【請求項8】
前記電圧検出部は、
サンプリング容量(C11、C12)およびフィードバック容量(C13~C16)を備え、前記サンプリング容量により前記電池セルの電圧をサンプリングし、前記フィードバック容量を介して前記サンプリングされた電荷を転送することにより前記電池セルの電圧に対応した電圧を出力するものであり、増幅率およびオフセットを切り替え可能な構成のスイッチトキャパシタ増幅回路(12、15)を備え、
前記スイッチトキャパシタ増幅回路の増幅率およびオフセットの一方または双方を切り替えることにより、前記範囲指定部により指定された前記検出範囲において前記電池セルの電圧を検出するようになっている請求項1からのいずれか一項に記載の電池監視装置。
【請求項9】
前記スイッチトキャパシタ増幅回路は、前記サンプリング容量の容量値および前記フィードバック容量の容量値の一方または双方を切り替える容量値切替部(33、36)を備え、
前記電圧検出部は、前記容量値切替部による容量値の切り替えにより、前記増幅率の切り替えを行う構成である請求項に記載の電池監視装置。
【請求項10】
前記スイッチトキャパシタ増幅回路は、前記電荷の転送回数を切り替える転送回数切替部(32)を備え、
前記電圧検出部は、前記転送回数切替部による転送回数の切り替えにより、前記増幅率の切り替えを行う構成である請求項またはに記載の電池監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電池セルが直列接続された組電池を監視する電池監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているように、電池監視装置は、各電池セルのSOCを推定し、その推定結果に基づいて均等化処理など電池に関する各種の制御を行っている。なお、SOCは、電池の充電状態を表す指標であり、State Of Chargeの略称である。電池監視装置には、各電池セルの電圧を検出する電圧検出部が設けられており、その電圧検出部により検出された電圧値に基づいてSOCの推定が行われる。SOCの推定のための電圧検出としては、SOCが0%であると考えられるときの電圧からSOCが100%であると考えられるときの電圧にわたる広い領域で実施されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5866001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の電池監視装置では、上述したように広い領域で電池セルの電圧検出を実施していることから電圧の検出精度の高精度化には限界があり、そのため、SOCの推定精度を十分に高めることが困難であった。特に、LFP電池などのようにSOCとOCVとの関係がフラットになる領域が多くなるような電池を対象とした場合には、SOCの推定精度が実用上不十分となる程度まで低下することが懸念される。なお、LFPは、リン酸鉄リチウムの略称であり、OCVは、Open Circuit Voltageの略称である。
【0005】
SOCの推定精度が低くなるということは、次のような問題の発生に繋がる。すなわち、電池監視装置では、推定されたSOCに基づいて均等化が行われることから、SOCの推定精度が低ければ均等化を正常に実施できなくなるおそれがある。また、SOCの推定精度が低くなればなるほど、過放電および過充電の発生防止のために設定される電池の安全使用領域にマージンを多く確保しなければならなくなり、使用可能領域が少なくなったり、車両に搭載される電池の量を増やさなければならない、といった問題が生じる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電池セルの電圧検出の精度を向上することができることができる電池監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の電池監視装置(2、42)は、複数の電池セル(Cb)が直列接続された構成の組電池(4)を監視する電池監視装置であって、範囲指定部(25、46)、電圧検出部(10、11)および特性設定部(26、47)を備える。範囲指定部は、電池セルの電圧を検出する範囲である検出範囲を指定する。電圧検出部は、検出範囲において電池セルの電圧を検出するものであり、電池セルの電圧に対応した電圧を入力するA/D変換器(13、16)およびA/D変換器から出力されるデジタル信号を入力するとともに低域通過フィルタとして機能するデジタルフィルタ(14、17)を含む。電圧検出部は、デジタルフィルタの出力信号を電池セルの電圧の検出結果を表す検出信号として出力する。特性設定部は、デジタルフィルタの特性を設定する。範囲指定部は、電池セルの種類毎に予め定まっているセル電圧範囲に基づいて検出範囲を指定するようになっており、検出範囲としてセル電圧範囲の全電圧範囲に及ぶ広範囲から全電圧範囲のうち限定した狭範囲まで選択的に指定することができるようになっている。
【0008】
上記構成によれば、電池セルの電圧の検出範囲として、電池セルの電圧の全電圧範囲に及ぶような広い範囲である広範囲から、全電圧範囲のうち限定した狭い範囲である狭範囲まで、所望する検出範囲を選択的に指定することができる。また、上記構成によれば、デジタルフィルタの特性として、所望する特性を選択的に設定することができる。このようにすれば、様々な条件に応じた適切な検出範囲および適切なデジタルフィルタの特性を設定したうえで、電池セルの電圧を検出することができる。そのため、上記構成によれば、電池セルの電圧検出の精度を向上することができるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る電池監視システムの構成を模式的に示す図
図2】第1実施形態に係るスイッチトキャパシタ増幅回路の具体的な第1構成例を示す図
図3】第1実施形態に係るスイッチトキャパシタ増幅回路の具体的な第2構成例を示す図
図4】第1実施形態に係る電圧の検出精度を説明するためのものであり、入力電圧と検出誤差との関係の一例を示す図
図5】第1実施形態に係る電池監視装置による動作の流れの一例を示す図
図6】第1実施形態の第1具体例に係る各電池セルCbのZOOM動作における検出範囲を示す図
図7】第1実施形態の第1具体例に係る各電池セルCbのZOOM動作における検出範囲を説明するためのものであり、電池電圧とSOCとの関係の一例を示す図
図8】第1実施形態の第2具体例に係る検出範囲の指定方法を説明するためのものであり、OCVとSOCとの関係の一例を示す図
図9】第1実施形態の第3具体例に係るデジタルフィルタのノイズ除去性能の一例を示す図
図10】第1実施形態の第3具体例に係る車両において発生する各種のノイズと高Fcフィルタおよび低Fcフィルタの各ノイズ除去性能との一例を示す図
図11】第1実施形態の第4具体例に係る互いに電圧範囲が異なる3種類の電池セルの入出力特性の一例を示すものであり、SC増幅回路の入出力電圧の関係を示す図
図12】第1実施形態の第5具体例に係る各電圧検出部による電池セルの電圧の検出タイミングの一例を示す図
図13】第1実施形態の第6具体例に係る各電圧検出部による電池セルの電圧の検出タイミングの一例を示す図
図14】第2実施形態に係る電池監視システムの構成を模式的に示す図
図15】第2実施形態に係る電池監視装置による動作の流れの一例を示す図
図16】第2実施形態に係るデジタルフィルタの具体的な構成例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、複数の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について図1図13を参照して説明する。
【0011】
<全体構成>
図1に示すように、本実施形態の電池監視システム1は、例えば自動車などの車両に搭載されるものであり、電池監視装置2および電子制御装置3などを備えている。なお、本明細書では、電子制御装置のことをECUと省略することがある。ECU3は、外部の制御装置の一例である。電池監視装置2は、組電池4の電圧などの各種状態を検出して組電池4の状態を監視する装置である。
【0012】
電池監視装置2は、電池監視のための各種の動作を行う回路が集積化された集積回路である電池監視IC5と、電池監視IC5の外部に設けられる複数の外付けの素子と、を備えている。なお、ICは、Integrated Circuitの略称である。組電池4は、例えば自動車などの車両に搭載されるものであり、一対の直流電源線L1、L2間に、複数個、例えば24個の電池セルCbが多段に直列接続された構成となっている。この場合、電池セルCbは、例えばリチウムイオン電池などの二次電池、燃料電池などである。
【0013】
なお、図1では、24個の電池セルCbのうち4個の電池セルCbが示されており、それら4個の電池セルCbを区別するために、符号の末尾に数字を付している。この数字は、組電池4における電池セルCbの配置に対応するものであり、最も低電位側に配置される電池セルCbには1が付与され、高電位側に進むにつれて2、3、4、…と付与される数字が大きくなってゆき、最も高電位側に配置される電池セルCbには24が付与される。したがって、図1には、最も低電位側に配置される電池セルCb1と、二番目に低電位側に配置される電池セルCb2と、二番目に高電位側に配置される電池セルCb23と、最も高電位側に配置される電池セルCb24とが示されている。
【0014】
これら4個の電池セルCb1、Cb2、Cb23、Cb24のそれぞれに対応して電池監視装置2に設けられる各構成についても、符号の末尾に同様の数字を付して区別することがある。ただし、これら各構成について、区別する必要がない場合には、末尾の符号を省略して総称することとする。上記構成では、電池セルCbには、コモンモード電圧が重畳されている。このコモンモード電圧は、組電池4の上段側、つまり高電位側に接続される電池セルCbほど高くなり、その最大値は例えば数百ボルト程度の比較的高い電圧となる。
<外付け素子の構成>
【0015】
まず、電池監視IC5の外部に設けられる外付けの素子の構成について説明する。電池セルCb24の高電位側端子は、抵抗RBを介して接続端子PB25に接続されているとともに、抵抗RSを介して接続端子PS24に接続されている。電池セルCb24の低電位側端子および電池セルCb23の高電位側端子は、抵抗RBを介して接続端子PB24に接続されているとともに、抵抗RSを介して接続端子PS23に接続されている。
【0016】
接続端子PB25と接続端子PB24との間にはキャパシタCBが接続されている。接続端子PS24と接続端子PS23との間にはキャパシタCSが接続されている。電池セルCb23の低電位側端子および図示しない電池セルCb22の高電位側端子は、抵抗RBを介して接続端子PB23に接続されている。接続端子PS23と図示しない接続端子PS22の間とにはキャパシタCSが接続されている。
【0017】
電池セルCb2の高電位側端子は、抵抗RBを介して接続端子PB3に接続されているとともに、抵抗RSを介して接続端子PS3に接続されている。電池セルCb2の低電位側端子および電池セルCb1の高電位側端子は、抵抗RBを介して接続端子PB2に接続されているとともに、抵抗RSを介して接続端子PS2に接続されている。接続端子PB3と接続端子PB2との間にはキャパシタCBが接続されている。接続端子PS3と接続端子PS2との間にはキャパシタCSが接続されている。電池セルCb1の低電位側端子は、抵抗RBを介して接続端子PB1に接続されているとともに、抵抗RSを介して接続端子PS1に接続されている。
【0018】
接続端子PB2と接続端子PB1との間にはキャパシタCBが接続されている。接続端子PS2と接続端子PS1との間にはキャパシタCSが接続されている。上記構成では、各電池セルCbのそれぞれに対応する2つの抵抗RBおよびキャパシタCBにより、いわゆるパイ型の低域通過フィルタであるフィルタ6が構成されている。なお、本明細書では、低域通過フィルタのことをLPFと省略することがある。また、上記構成では、各電池セルCbのそれぞれに対応する2つの抵抗RSおよびキャパシタCSにより、いわゆるパイ型のLPFであるフィルタ7が構成されている。つまり、上記構成では、各電池セルCbのそれぞれに対応するようにフィルタ6、7が設けられている。
【0019】
<電池監視ICの内部の構成>
続いて、電池監視IC5の内部の構成について説明する。複数の電池セルCbのそれぞれに対応して均等化スイッチSWが設けられている。均等化スイッチSWは、例えばMOSトランジスタにより構成されており、抵抗RBとともに放電回路を構成する。均等化スイッチのオンオフは、制御部8により制御される。制御部8は、電池監視IC5の動作全般を制御するものである。電池均等化の処理では、各電池セルCbの電圧が、最も低い電池セルCbの電圧と同程度の電圧となるように各放電回路の動作が制御される。
【0020】
均等化スイッチSWの具体的な接続形態は、次のようになっている。すなわち、電池セルCb24に対応する均等化スイッチSW24は、接続端子PB25および接続端子PB24の間に接続されている。電池セルCb23に対応する均等化スイッチSW23は、接続端子PB24および接続端子PB23の間に接続されている。電池セルCb2に対応する均等化スイッチSW2は、接続端子PB3および接続端子PB2の間に接続されている。電池セルCb1に対応する均等化スイッチSW1は、接続端子PB2および接続端子PB1の間に接続されている。
【0021】
マルチプレクサ9は、接続端子PB1~PB25の各電圧を入力し、それら入力された電圧のうち検出対象の電池セルCbの電圧を検出するために必要となる2つの電圧を選択的に電圧検出部10へと出力する。なお、本明細書では、マルチプレクサのことをMUXと省略することがある。また、MUX9は、接続端子PS1~PS24の各電圧を入力し、それら入力された電圧のうち検出対象の電池セルCbの電圧を検出するために必要となる2つの電圧を選択的に電圧検出部11へと出力する。
【0022】
電圧検出部10は、主に通常の電圧検出を行う通常系の電圧検出部であり、第1電圧検出部に相当する。電圧検出部10は、制御部8により指定される検出範囲において電池セルCbの電圧を検出するものであり、いずれも制御部8により動作が制御されるスイッチトキャパシタ増幅回路12、A/D変換器13およびデジタルフィルタ14を備えている。なお、本明細書では、スイッチトキャパシタのことをSCと省略するとともに、A/D変換器のことをADCと省略することがある。
【0023】
SC増幅回路12は、フィルタ7およびMUX9などを介して与えられる電池セルCbの電圧を入力し、その入力電圧を増幅した電圧を出力する。この場合、SC増幅回路12は、高いコモンモード電圧を、低いコモンモード基準電圧まで降圧させるレベルシフトも行っている。なお、SC増幅回路12の出力電圧は、電池セルCbの電圧に対応した電圧に相当する。ADC13は、SC増幅回路12の出力電圧を入力してA/D変換し、その変換結果として得られるデジタル信号を出力する。
【0024】
デジタルフィルタ14は、ADC13から出力されるデジタル信号を入力するとともに、その高周波成分を除去するLPFとして機能する。デジタルフィルタ14のカットオフ周波数、次数などの特性は、可変となっており、それらの値についての設定は制御部8により行われる。上記構成の電圧検出部10は、デジタルフィルタ14の出力信号を、電池セルCbの電圧の検出結果を表す検出信号として制御部8に出力するようになっている。
【0025】
電圧検出部11は、主に診断用の電圧検出を行う診断系の電圧検出部であり、第2電圧検出部に相当する。電圧検出部11は、制御部8により指定される検出範囲において電池セルCbの電圧を検出するものであり、SC増幅回路12、ADC13およびデジタルフィルタ14のそれぞれと同一の構成のSC増幅回路15、ADC16およびデジタルフィルタ17を備えている。すなわち、電圧検出部11は、電圧検出部10と同一の構成を有する。この場合、SC増幅回路15は、フィルタ6およびMUX9などを介して与えられる電池セルCbの電圧を入力し、その入力電圧を増幅した電圧を出力する。上記構成の電圧検出部11は、デジタルフィルタ17の出力信号を、電池セルCbの電圧の検出結果を表す検出信号として制御部8に出力するようになっている。
【0026】
制御部8は、例えばロジック回路として構成されたものであり、その機能ブロックとして、検出制御部21、均等化制御部22、故障診断部23、通信制御部24、範囲指定部25および特性設定部26などを備えている。制御部8は、ECU3との間で通信を行うようになっており、その通信を介してECU3から与えられるコマンドなどに応じて各種の制御を実行する。ECU3は、マイクロコンピュータ27を備えており、そのマイクロコンピュータ27が制御部8による各種の制御の内容を指令するコマンドを生成する。なお、本明細書では、マイクロコンピュータのことをマイコンと省略することがある。
【0027】
検出制御部21は、電圧検出部10の動作を制御するとともに、電圧検出部10のデジタルフィルタ14から出力される検出信号に基づいて電池セルCbの電圧を検出する。このような電圧検出の結果は、SOCの推定などに用いられる。検出制御部21は、電圧検出の結果を表すデータをレジスタ28に格納するようになっているが、その際、検出結果が、どのような検出範囲で検出されたものであるのか、言い換えると、どのような検出精度で検出されたものであるのか、を識別できるような形でデータの格納が行われるようになっている。
【0028】
このようなデータの格納の具体的な手法としては、検出結果を表すデータに検出範囲、検出精度などを示すフラグを付与する手法、互いに異なる検出範囲毎にまたは検出精度毎に検出結果を表すデータの格納場所を分ける手法などを挙げることができる。均等化制御部22は、均等化スイッチSWの動作を制御し、前述した電池均等化の処理を実行する。故障診断部23は、電圧検出部11の動作を制御するとともに、電圧検出部11から出力される検出信号に基づいて電池セルCbの電圧を検出する。
【0029】
故障診断部23は、検出制御部21と同様、電圧検出の結果を表すデータをレジスタ28に格納する。故障診断部23は、自身による電圧検出の結果と、検出制御部21による電圧検出の結果とに基づいて、電圧検出に関連する各種の経路、構成などの故障を診断する。通信制御部24は、図示しない通信インターフェースを介してECU3が備えるマイコン27との間で行われる通信を制御する。
【0030】
範囲指定部25は、ECU3から与えられる範囲指定指令を受けて動作するものであり、電池セルCbの電圧を検出する範囲である検出範囲を、電圧検出部10、11のそれぞれに対して指定する。つまり、範囲指定部25は、ECU3から与えられるコマンドに基づいて電圧検出部10、11における検出範囲を指定する。範囲指定部25は、検出範囲を指定するための信号を電圧検出部10、11に対して出力する。
【0031】
特性設定部26は、ECU3から通信を介して与えられる特性設定指令を受けて動作するものであり、デジタルフィルタ14、17の特性を設定する。つまり、特性設定部26は、ECU3から与えられるコマンドに基づいてデジタルフィルタ14、17の特性を設定する。特性設定部26は、デジタルフィルタ14、17の特性を設定するための信号を電圧検出部10、11に対して出力する。
【0032】
上記構成において、SC増幅回路12、15は、サンプリング容量およびフィードバック容量を備え、サンプリング容量により電池セルCbの電圧をサンプリングし、フィードバック容量を介してサンプリングされた電荷を転送することにより電池セルCbの電圧に対応した電圧を出力するものであり、増幅率およびオフセットを切り替え可能な構成となっている。電圧検出部10、11は、SC増幅回路12、15の増幅率およびオフセットの一方または双方を切り替えることにより、範囲指定部25により指定された検出範囲において電池セルCbの電圧を検出するようになっている。言い換えると、電圧検出部10、11は、SC増幅回路12、15の増幅率およびオフセットの一方または双方を切り替えることにより、その検出範囲を切り替えることができる構成となっている。
【0033】
<SC増幅回路の具体的な回路構成>
SC増幅回路12の具体的な構成としては、特開2019-32175号公報の図1に示されているSC増幅回路の構成、特開2019-32175号公報の図14に示されているSC増幅回路の構成などを採用することができる。以下、これら各構成のうち前者を第1構成例とし、後者を第2構成例として説明する。なお、ここでは、SC増幅回路12の構成を例示しているが、SC増幅回路15も同様の構成を採用することができる。
【0034】
[1]SC増幅回路の第1構成例
図2に示すように、第1構成例のSC増幅回路12は、差動出力形式のOPアンプ31、キャパシタC11~C18およびスイッチS11~S25を備えている。SC増幅回路12には、MUX9から第1出力線Lo1を通じて出力される電圧および第2出力線Lo2を通じて出力される電圧が入力されている。以下、これら2つの電圧のことを入力電圧Vip、Vimと称することとする。
【0035】
SC増幅回路12は、サンプリング容量として機能するキャパシタC11、C12により入力電圧Vip、Vimをサンプリングし、そのサンプリングされた電荷を、フィードバック容量として機能するキャパシタC13~C16を介して転送することにより、入力電圧Vip、Vimに対応した検出電圧を出力する差動構成のサンプルホールド回路である。なお、SC増幅回路12は、高いコモンモード電圧を、低いコモンモード基準電圧Vcmまで降圧させるレベルシフトも行っている。
【0036】
OPアンプ31のコモン電圧は、電圧検出の基準となる基準電圧Vcmに等しく設定されている。基準電圧Vcmは、電池監視IC5が備える各回路の電源電圧の中間電圧になっている。本実施形態では、上記電源電圧は、例えば+5Vであり、上記中間電圧は、例えば+2.5Vである。OPアンプ31は、その反転出力端子、非反転出力端子からそれぞれ出力電圧Vop、Vomを出力する。OPアンプ31の反転出力端子と非反転出力端子との間には、スイッチS25が接続されている。
【0037】
出力電圧Vop、Vomは、入力電圧Vip、Vimに対応した検出電圧、つまり電池セルCbの電圧に対応した電圧に相当するものであり、後段の差動入力形式のADC13によりデジタルデータに変換される。SC増幅回路12は、出力電圧Vop、VomがADC13の入力電圧範囲に収まるようにオフセットを付与することが可能な構成となっている。本実施形態では、ADC13の入力電圧範囲は、例えば+2.5V~-2.5Vである。
【0038】
差動構成において対をなすキャパシタC11、C12は、互いに同じ容量値Csになっている。なお、本明細書における「同じ容量値」とは、容量値が完全に一致するものだけでなく、目的とする効果を奏するものであれば、互いの容量値に若干の差があり、厳密には一致していないようなものも含む。キャパシタC11の一方の端子は、スイッチS11を介して第1出力線Lo1に接続されるとともに、スイッチS12を介して第2出力線Lo2に接続されている。キャパシタC12の一方の端子は、スイッチS13を介して第2出力線Lo2に接続されるとともに、スイッチS14を介して第1出力線Lo1に接続されている。
【0039】
この場合、スイッチS11~S14により、電荷の転送回数を切り替える転送回数切替部32が構成されている。SC増幅回路12の増幅率は、電荷の転送回数に応じて変化する。したがって、本実施形態では、SC増幅回路12は、転送回数切替部32による転送回数の切り替えにより、その増幅率の切り替えが行われる構成となっている。すなわち、この場合、電圧検出部10は、転送回数切替部32による転送回数の切り替えにより、SC増幅回路12の増幅率の切り替えを行う構成であると言える。
【0040】
キャパシタC11の他方の端子は、OPアンプ31の非反転入力端子に接続されるとともに、スイッチS15を介して回路の基準電位が与えられるグランド線Lgに接続されている。キャパシタC12の他方の端子は、OPアンプ31の反転入力端子に接続されるとともに、スイッチS16を介してグランド線Lgに接続されている。差動構成において対をなすキャパシタC13、C14は、互いに同じ容量値Cfになっている。また、差動構成において対をなすキャパシタC15、C16は、互いに同じ容量値Cf2になっている。
【0041】
キャパシタC13は、OPアンプ31の非反転入力端子と反転出力端子との間に接続されている。キャパシタC14は、OPアンプ31の反転入力端子と非反転出力端子との間に接続されている。キャパシタC15の一方の端子は、スイッチS17を介してOPアンプ31の非反転入力端子に接続されるとともに、スイッチS18を介してグランド線Lgに接続されている。キャパシタC15の他方の端子は、スイッチS19を介してOPアンプ31の反転出力端子に接続されるとともに、スイッチS20を介してグランド線Lgに接続されている。
【0042】
キャパシタC16の一方の端子は、スイッチS21を介してOPアンプ31の反転入力端子に接続されるとともに、スイッチS22を介してグランド線Lgに接続されている。キャパシタC16の他方の端子は、スイッチS23を介してOPアンプ31の非反転出力端子に接続されるとともに、スイッチS24を介してグランド線Lgに接続されている。このような構成によれば、スイッチS17、S19、S21、S23がオフのとき、OPアンプ31の非反転入力端子と反転出力端子との間にキャパシタC13が接続されるとともに、OPアンプ31の反転入力端子と非反転出力端子との間にキャパシタC14が接続された状態となる。この場合、フィードバック容量の容量値は、キャパシタC13、C14の容量値である「Cf」となる。
【0043】
これに対し、スイッチS17、S19、S21、S23がオンのとき、OPアンプ31の非反転入力端子と反転出力端子との間にキャパシタC13、C15が並列接続されるとともに、OPアンプ31の反転入力端子と非反転出力端子との間にキャパシタC14、C16が並列接続された状態となる。この場合、フィードバック容量の容量値は、キャパシタC13、C14の容量値Cfに、キャパシタC15、C16の容量値Cf2を加えた容量値である「Cf+Cf2」となる。
【0044】
このように、本実施形態では、スイッチS17、S19、S21、S23によりフィードバック容量の容量値を切り替える容量値切替部33が構成されている。この場合、容量値切替部33は、スイッチS17、S19、S21、S23がオフからオンに切り替わることにより、フィードバック容量の容量値が大きくなるようになっている。SC増幅回路12の増幅率は、フィードバック容量の容量値に応じて変化する。したがって、本実施形態では、SC増幅回路12は、容量値切替部33による容量値の切り替えにより、その増幅率の切り替えが行われる構成となっている。すなわち、この場合、電圧検出部10は、容量値切替部33による容量値の切り替えにより、SC増幅回路12の増幅率の切り替えを行う構成であると言える。
【0045】
差動構成において対をなすキャパシタC17、C18と、スイッチS25~S30とは、前述したオフセットを付与するための構成である。キャパシタC17の一方の端子は、キャパシタC15の一方の端子に接続されているとともにOPアンプ31の非反転入力端子に接続されている。キャパシタC17の他方の端子には、D/A変換器34が接続されている。なお、本明細書では、D/A変換器のことをDACと省略することがある。キャパシタC18の一方の端子は、キャパシタC16の一方の端子に接続されているとともにOPアンプ31の反転入力端子に接続されている。キャパシタC18の他方の端子には、DAC35が接続されている。
【0046】
DAC34、35は、入力される基準電圧Vrを分圧して出力する容量型または抵抗型のDACであり、それらの内部出力は、電圧Vdp、電圧Vdmとなっている。このように、上記構成では、DAC34、35によりSC増幅回路12のオフセットの切り替え、つまり、オフセット値Vdp、Vdmの変更が行われるようになっている。
【0047】
上記構成では、SC増幅回路12の増幅率は、キャパシタC11~C18の容量値Cs、Cf、Cf2、Crの組み合わせ、つまり容量比により、任意の値に設定することが可能である。本実施形態では、例えば、容量値Cs、Cf、Cf2、Crの容量比が下記(1)式に示すような比となるように、キャパシタC11~C18の容量値が設定されている。
Cf:Cf2:Cs:Cr=1:1:2:1 …(1)
【0048】
また、上記した第1構成例のSC増幅回路12は、1回の電圧の検出毎に、サンプリングを2回実行することができる。この場合、2回のサンプリングのうちの一方では、キャパシタC11を用いて入力電圧VipがサンプリングされるとともにキャパシタC12を用いて入力電圧Vimがサンプリングされる。また、2回のサンプリングのうちの他方では、キャパシタC12を用いて入力電圧VipがサンプリングされるとともにキャパシタC11を用いて入力電圧Vimがサンプリングされる。このような入力反転2回サンプリングの検出手法によれば、OPアンプ31のオフセットに起因する検出誤差が低減されるといった効果などが得られる。
【0049】
上記した第1構成例のSC増幅回路12を適用した場合の電圧検出部10の動作は、第1サンプリング→第1電荷転送→第2サンプリング→第2電荷転送という順で行われる。そして、制御部8が、電圧検出部10から出力される出力電圧Vop、VomをA/D変換して得られるデジタルデータを用いた処理であるデジタル処理を実行することにより、電池セルCbの電圧が検出される。
【0050】
第1サンプリングが行われる期間、スイッチS11~S30のON/OFFの状態は、次の通りとなる。
S11:ON、S12:OFF、S13:ON、S14:OFF、S15:ON、S16:ON
S17:OFF、S18:ON、S19:OFF、S20:ON
S21:OFF、S22:ON、S23:OFF、S24:ON、S25:ON
【0051】
これにより、キャパシタC11が入力電圧Vipにより充電されるとともに、キャパシタC12が入力電圧Vimにより充電される。つまり、キャパシタC11により入力電圧Vipがサンプリングされるとともに、キャパシタC12により入力電圧Vimがサンプリングされる。また、キャパシタC13~C16は、それらの端子間が短絡されることにより、蓄積された電荷が全て放電される。さらに、キャパシタC17、C18は、基準電圧Vcmにより充電される。
【0052】
第1電荷転送が行われる期間、スイッチS11~S30のON/OFFは、次のような状態となる。
S11:OFF、S12:ON、S13:OFF、S14:ON、S15:OFF、S16:OFF
S17:OFF、S18:ON、S19:OFF、S20:ON
S21:OFF、S22:ON、S23:OFF、S24:ON、S25:OFF
【0053】
これにより、キャパシタC11に蓄積された電荷がキャパシタC13を介して転送される。また、キャパシタC12に蓄積された電荷がキャパシタC14を介して転送される。このような第1電荷転送により、SC増幅回路12から出力される出力電圧Vop、Vomの差電圧である電圧Vo[1]は、下記(2)式により表される。ただし、入力電圧Vip、Vimの差電圧である「Vip-Vim」をVinとし、DAC34の電圧VdpとDAC35の電圧Vdmとの差電圧である「Vdp-Vdm」をVdとする。電圧Vdは、任意のオフセット変更ができるように調整される。
Vo[1]=(2・Cs・Vin-Cr・Vd)/Cf …(2)
【0054】
(1)式に示したキャパシタC11~C18の容量比を考慮すると、上記(2)式から下記(3)式を導出することができる。
Vo[1]=4・Vin-Vd …(3)
上記(3)式に示すように、この場合、電圧Vo[1]として、入力された電圧の4倍の電圧が得られることになる。したがって、1回のサンプリング、つまり第1サンプリングおよび第1電荷転送における増幅率は「4」となる。
【0055】
ADC13は、第1電荷転送により得られる出力電圧Vop、Vomを入力してA/D変換を行い、それらの差電圧である電圧Vo[1]に対応したデジタルデータを制御部8へと出力する。
【0056】
第2サンプリングが行われる期間、スイッチS11~S30のON/OFFの状態は、次の通りとなる。
S11:OFF、S12:ON、S13:OFF、S14:ON、S15:ON、S16:ON
S17:OFF、S18:ON、S19:OFF、S20:ON
S21:OFF、S22:ON、S23:OFF、S24:ON、S25:ON
【0057】
これにより、キャパシタC11が入力電圧Vimにより充電されるとともに、キャパシタC12が入力電圧Vipにより充電される。つまり、キャパシタC11により入力電圧Vimがサンプリングされるとともに、キャパシタC12により入力電圧Vipがサンプリングされる。このように、第2サンプリングでは、第1サンプリングに対し、SC増幅回路12への入力が反転されるようになっている。また、キャパシタC13~C16は、それらの端子間が短絡されることにより、蓄積された電荷が全て放電される。さらに、キャパシタC17、C18は、基準電圧Vcmにより充電される。
【0058】
第2電荷転送が行われる期間、スイッチS11~S30のON/OFFは、次のような状態となる。
S11:ON、S12:OFF、S13:ON、S14:OFF、S15:OFF、S16:OFF
S17:OFF、S18:ON、S19:OFF、S20:ON
S21:OFF、S22:ON、S23:OFF、S24:ON、S25:OFF
【0059】
これにより、キャパシタC11に蓄積された電荷がキャパシタC13を介して転送される。また、キャパシタC12に蓄積された電荷がキャパシタC14を介して転送される。このような第2電荷転送により、SC増幅回路12から出力される出力電圧Vop、Vomの差電圧である電圧Vo[2]は、下記(4)式により表される。
Vo[2]=-((2・Cs・Vin-Cr・Vd)/Cf) …(4)
【0060】
(1)式に示したキャパシタC11~C18の容量比を考慮すると、上記(4)式から下記(5)式を導出することができる。
Vo[2]=-4・Vin-Vd …(5)
上記(5)式に示すように、この場合、電圧Vo[2]として、入力された電圧の4倍の電圧が得られることになる。つまり、1回のサンプリング、つまり第2サンプリングおよび第2電荷転送における増幅率は「4」となる。
【0061】
ADC13は、第2電荷転送により得られる出力電圧Vop、Vomを入力してA/D変換を行い、それらの差電圧である電圧Vo[2]に対応したデジタルデータを制御部8へと出力する。
【0062】
制御部8は、電圧Vo[1]および電圧Vo[2]のそれぞれに対応したデジタルデータを用いて、電池セルCbの電圧の検出値Vadを求めるための処理、つまり演算を実行する。このような処理により得られる検出値Vadは、下記(6)式により表される。
Vad=(Vo[1]-Vo[2])=8・Vin …(6)
上記(6)式に示すように、この場合、電池セルCbの電圧の検出値Vadとして、入力された電圧の8倍の電圧が得られることになる。つまり、この場合の総合的な増幅率は「8」となる。
【0063】
[2]SC増幅回路の第2構成例
図3に示すように、第2構成例のSC増幅回路12は、図2に示した第1構成例のSC増幅回路12に対し、キャパシタC31、C32およびスイッチS31~S36が追加されている点などが異なる。キャパシタC31、C32は、差動構成において対をなしており、互いに同じ容量値Csiになっている。キャパシタC31の一方の端子はスイッチS31を介してキャパシタC11の一方の端子に接続され、その他方の端子はスイッチS32を介してキャパシタC11の他方の端子に接続されている。また、キャパシタC31の他方の端子は、スイッチS33を介してグランド線Lgに接続されている。
【0064】
キャパシタC32の一方の端子はスイッチS34を介してキャパシタC12の一方の端子に接続され、その他方の端子はスイッチS35を介してキャパシタC12の他方の端子に接続されている。また、キャパシタC32の他方の端子は、スイッチS36を介してグランド線Lgに接続されている。上記構成において、スイッチS33、S36は、スイッチS15、S16と同様にON/OFFされる。一方、スイッチS31、S32、S34、S35は、後述するようにサンプリング容量の容量値の切り替えに応じてON/OFFされる。
【0065】
上記した第2構成例のSC増幅回路12では、スイッチS31、S32、S34、S35のON/OFFに応じて、キャパシタC11、C12がサンプリング容量として機能する状態と、キャパシタC11、C31の並列合成容量とキャパシタC12、C32の並列合成容量とがサンプリング容量として機能する状態とが切り替えられる。このように、第2項構成例では、スイッチS31、S32、S34、S35によりサンプリング容量の容量値を切り替える容量値切替部36が構成されている。この場合、容量値切替部36は、スイッチS31、S32、S34、S35をオフからオンに切り替えることにより、サンプリング容量を大きくするようになっている。
【0066】
SC増幅回路12の増幅率は、フィードバック容量の容量値だけでなく、サンプリング容量の容量値にも依存して変化する。したがって、本実施形態では、SC増幅回路12の増幅率は、容量値切替部33による容量値の切り替えだけでなく、容量値切替部36による容量値の切り替えによっても、その増幅率の切り替えが行われる構成となっている。つまり、第2構成例のSC増幅回路12は、サンプリング容量の容量値およびフィードバック容量の容量値の双方を切り替える容量値切替部33、36を備え、それら容量値切替部33、36による各容量値の切り替えにより、増幅率の切り替えを行う構成となっている。
【0067】
<電圧の検出誤差について>
上記構成の電圧検出部10、11によれば、SC増幅回路12、15の増幅率を切り替えることにより、その検出範囲を切り替えることができる。電圧検出部10、11の検出範囲は、SC増幅回路12、15の増幅率を「1」とした場合は従来の電池監視装置と同等の比較的広い検出範囲となり、増幅率を「1を超える値」とした場合は従来の電池監視装置の検出範囲のうち限定した狭い検出範囲となる。以下、増幅率が「1」とされた状態での動作を通常動作と称するとともに、増幅率が「1を超える値」とされた状態での動作をZOOM動作と称することとする。また、通常動作における検出範囲を広範囲と称するとともに、ZOOM動作における検出範囲を狭範囲と称することとする。
【0068】
通常動作による電圧の検出値Vadは、下記(7)式により表される。ただし、DAC34、35の基準電圧Vrの誤差をΔVrとし、ADCの誤差である量子化誤差をVqとする。また、ZOOM動作によりオフセットVr/2を減算することで「Vr/2」付近の電圧値を検出する場合の電圧の検出値Vad/Gaindは、下記(8)式により表される。ただし、アナログ回路における増幅率をGainaとし、デジタル回路における増幅率をGaindとする。
【0069】
【数1】
【0070】
上記(7)式および(8)式に示すように、電圧検出に関する誤差には、量子化誤差Vqによる誤差および基準電圧Vrの誤差ΔVrによる誤差が含まれる。これら誤差のうち、基準電圧Vrの誤差ΔVrによる誤差は、増幅率に関係なく一定の値となることから、通常動作の場合とZOOM動作の場合とで大差は生じない。しかし、量子化誤差Vqによる誤差は、ZOOM動作の場合に増幅率Gaindを大きくするほどゼロに近づく。したがって、ZOOM動作では、増幅率を大きくして検出範囲を狭くするほど量子化誤差Vqに起因する誤差を低減することが可能となり、その結果、高精度化を実現することができる。このように、ZOOM動作によれば、線形誤差、熱ノイズ、フリッカなどのADCの誤差、基準電圧Vrの誤差ΔVrなどについての温度特性および耐久変動を軽減することが可能となり、高精度化を実現することができる。
【0071】
なお、ZOOM動作の場合、「Gaina/Gaind」というゲイン誤差が含まれている。このゲイン誤差は、GainaとGaindが同じ値であればゼロにすることができるため、これらが同じ値になるように回路設計が行われるが、実際にこれらを完全に一致させることは困難である。そこで、本実施形態では、「Gaina/Gaind」の項が「1」になるように補正を行うようになっており、これによりゲイン誤差をゼロとしている。
【0072】
図4は、基準電圧Vrの誤差ΔVrが1mVであり、ADCの誤差が0.5mVであり、増幅率が「8」である場合における入力電圧Vinと検出誤差との関係の一例を示している。この場合、通常動作における検出範囲は0~5Vとなっており、ZOOM動作における検出範囲は2.25~2.75Vとなっている。なお、図4では、通常動作におけるマイナス側の誤差に黒塗りの丸印を付し、通常動作におけるプラス側の誤差にX印を付し、ZOOM動作におけるマイナス側の誤差に白抜きの丸印を付し、ZOOM動作におけるプラス側の誤差に黒塗りの三角印を付している。
【0073】
図4に示すように、通常動作の場合、検出誤差がゼロとなる理想値に対し、±0.5mV程度の比較的大きい検出誤差がある。一方、ZOOM動作の場合、理想値に対する検出誤差は、通常動作の場合と比べて非常に小さい値となっている。このように、ZOOM動作における電圧の検出精度は、通常動作における電圧の検出精度と比較して、大きく向上する。また、前述したとおり、ZOOM動作における電圧の検出精度は、増幅率を大きくするほど高まることになる。したがって、本実施形態の構成では、電圧検出部10、11における検出範囲が広くなるほど電圧の検出精度が低くなるとともに、上記検出範囲が狭くなるほど検出精度が高くなるようになっている。
【0074】
<電池監視装置による動作の流れ>
上記構成の電池監視装置2は、ECU3から与えられるコマンドに基づいて各種の動作を実行する。以下、このような動作の流れの一例について図5を参照して説明する。まず、ECU3から「セル検出コマンド」が送信される。「セル検出コマンド」は、通常動作での電圧検出を指令するコマンドであり、広範囲の検出範囲を指定する範囲指定指令およびデジタルフィルタ14、17の特性を所定の特性に設定する特性設定指令を含む。なお、特性設定指令は、「セル検出コマンド」に含まれていなくともよく、「セル検出コマンド」とは別のコマンドとして事前に送信されていてもよい。
【0075】
電池監視装置2は、「セル検出コマンド」を受信すると、「セル検出」を実行する。「セル検出」では、「セル検出コマンド」に基づいて検出範囲およびデジタルフィルタ14、17の特性が設定され、電池セルCbの電圧を検出するための動作が行われる。続いて、ECU3から「読出しコマンド」が送信される。「読出しコマンド」は、広範囲での電圧検出の結果の読み出しを指令するコマンドである。電池監視装置2は、「読出しコマンド」を受信すると、「読出し」を実行する。「読出し」では、広範囲での電圧検出の結果を表すデータをレジスタ28から読み出すとともに、そのデータをECU3に送信するための動作が行われる。
【0076】
その後、ECU3から「ZOOMコマンド」が送信される。「ZOOMコマンド」は、ZOOM動作での電圧検出を指令するコマンドであり、狭範囲の検出範囲を指定する範囲指定指令およびデジタルフィルタ14、17の特性を所定の特性に設定する特性設定指令を含む。なお、特性設定指令は、「ZOOMコマンド」に含まれていなくともよく、「ZOOMコマンド」とは別のコマンドとして事前に送信されていてもよい。
【0077】
電池監視装置2は、「ZOOMコマンド」を受信すると、「ZOOM検出」を実行する。「ZOOM検出」では、「ZOOMコマンド」に基づいて検出範囲およびデジタルフィルタ14、17の特性が設定され、電池セルCbの電圧を検出するための動作が行われる。続いて、ECU3から「ZOOM読出しコマンド」が送信される。「ZOOM読出しコマンド」は、狭範囲での電圧検出の結果の読み出しを指令するコマンドである。電池監視装置2は、「ZOOM読出しコマンド」を受信すると、「ZOOM読出し」を実行する。「ZOOM読出し」では、狭範囲での電圧検出の結果を表すデータをレジスタ28から読み出すとともに、そのデータをECU3に送信するための動作が行われる。
【0078】
<検出範囲の切り替えの具体例>
上記したように、本実施形態の電池監視装置2は、電池セルCbの電圧を検出する範囲である検出範囲、ひいては電池セルCbの電圧の検出精度を切り替えることが可能であるが、その切り替えは様々な考え方に基づいて行うことができる。以下、このような切り替えの複数の具体例について説明する。
【0079】
[1]第1具体例
第1具体例では、電池監視装置2は、電池セルCb毎にZOOM動作における検出範囲を個別に指定するようになっている。つまり、この場合、範囲指定部25は、電池セルCb毎に独立して検出範囲を指定することができるように構成されている。この場合、まず、各電池セルCbの電圧レベルがサーチされる。このようなサーチは、例えば通常動作での電圧検出を行うことにより実施することができる。
【0080】
このようなサーチの結果に基づいて、各電池セルCbのZOOM動作における検出範囲が個別に指定される。なお、この場合、図6に示すように、ZOOM動作における検出範囲は、0~0.5V、0.5~1.0V、…、4.0~4.5V、4.5~5.0Vといった具合に0~5.0Vの範囲を0.5V毎に切り分けた範囲となっている。このような検出範囲の選択は、SC増幅回路12、15のオフセットを切り替えることにより実施することができる。
【0081】
上記したサーチの結果、図7に示すように、電池セルCb1の電圧値が3.0~3.5Vの範囲であったとともに、電池セルCb2~Cb24の各電圧値が3.5~4.0Vの範囲であったとする。この場合、図6および図7に示すように、電池セルCb1のZOOM動作における検出範囲が3.0~3.5Vの範囲に設定されるとともに、電池セルCb2~Cb24のZOOM動作における検出範囲が3.5~4.0Vの範囲に設定される。その後、このように設定された検出範囲に基づいてZOOM動作での電圧検出が実施される。
【0082】
[2]第2具体例
第2具体例では、電池監視装置2は、電池セルCbの種類毎に予め定まっているセル電圧範囲に基づいて検出範囲を指定するようになっている。つまり、この場合、範囲指定部25は、セル電圧範囲に基づいて検出範囲を指定するようになっている。このような検出範囲の指定は、次のような点を考慮して行うことができる。すなわち、電池監視装置2では、SOCが0%に近い領域および100%に近い領域では、SOCの推定精度を高める必要がある。なぜなら、これらの領域においてSOCの推定精度が低下すると、過放電または過充電が生じるおそれがあるからである。
【0083】
一方、他の領域では、SOCの推定精度としては、それほどの精度が要求されない。そこで、第2具体例では、図8に示すように、SOCが0%に近い領域およびSOCが100%に近い領域では、検出範囲として狭範囲を指定するとともに、その他の領域では、検出範囲として広範囲を指定するようになっている。このようにすれば、SOCが0%に近い領域およびSOCが100%に近い領域では、電圧検出の精度が比較的高い精度である高精度となり過放電および過充電の発生が防止され、その他の領域では、電圧検出の精度が比較的低い精度である粗精度となり電圧検出に要する時間、ひいてはSOCの推定に要する時間が短縮される。
【0084】
[3]第3具体例
図9に示すように、デジタルフィルタ14、17は、そのカットオフ周波数Fcに応じてノイズ除去性能が異なっている。なお、図9では、カットオフ周波数が26Hzの特性をFc1、カットオフ周波数が422Hzの特性をFc2、カットオフ周波数が1kHzの特性をFc3、カットオフ周波数が2kHzの特性をFc4、カットオフ周波数が3kHzの特性をFc5、カットオフ周波数が7kHzの特性をFc6、カットオフ周波数が14kHzの特性をFc7、カットオフ周波数が27kHzの特性をFc8としている。
【0085】
車両においては、各種のリップルノイズ、DC/DCコンバータ、インバータなどの動作に伴い発生するノイズ、各種の高調波ノイズが存在する。図10に示すように、車両において発生するノイズには、様々な周波数成分が含まれている。カットオフ周波数Fcが相対的に高いフィルタである高Fcフィルタでは、これらのノイズのうちより周波数が低いノイズについて除去しきれない可能性がある。一方、カットオフ周波数Fcが相対的に低いフィルタである低Fcフィルタでは、周波数が低いノイズについても概ね確実に除去することが可能となる。
【0086】
すなわち、デジタルフィルタ14、17は、カットオフ周波数Fcを低くするほど、つまり重いフィルタとするほど、より低い周波数のノイズを除去することができるが、その分だけフィルタでの遅延時間が長くなる、つまり変換時間が長くなる。一方、デジタルフィルタ14、17は、カットオフ周波数Fcを高くするほど、つまり軽いフィルタとするほど、より低い周波数のノイズを除去することは難しくなるものの、フィルタでの遅延時間が短くなる、つまり変換時間が短くなる。
【0087】
このような点を踏まえ、第3具体例では、電池監視装置2は、検出範囲として相対的に広い範囲である広範囲を指定する場合にはデジタルフィルタ14、17のカットオフ周波数を相対的に高い周波数である高周波数に設定し、検出範囲として相対的に狭い範囲である狭範囲を指定する場合にはデジタルフィルタ14、17のカットオフ周波数を相対的に低い周波数である低周波数に設定するようになっている。
【0088】
つまり、この場合、範囲指定部25が検出範囲として広範囲を指定する場合には、特性設定部26がデジタルフィルタ14、17の特性であるカットオフ周波数を高周波数に設定するようになっている。また、この場合、範囲指定部25が検出範囲として狭範囲を指定する場合には、特性設定部26がデジタルフィルタ14、17の特性であるカットオフ周波数を低周波数に設定するようになっている。このようにすれば、広範囲での電圧検出の際に変換時間が短くなることから検出時間を一層短くすることができるとともに、狭範囲での電圧検出の際にノイズ除去性能が向上することから高精度化をさらに図ることができる。
【0089】
[4]第4具体例
第4具体例では、電池監視装置2は、電池セルCbの種類に応じて検出範囲を切り替えるようになっている。つまり、この場合、範囲指定部は、電池セルCbの種類に基づいて検出範囲を指定するようになっている。電池セルCbは、例えばリチウムイオン電池、燃料電池などの種類に応じて、その電圧範囲が異なっている。そこで、第4具体例では、電池監視装置2は、検出対象となる電池セルCbの全電圧範囲において電圧検出ができるように検出範囲の切り替えを行うようになっている。このような検出範囲の切り替えは、次のように行うことができる。
【0090】
すなわち、SC増幅回路12、15の入力電圧Vinと出力電圧Voとの関係は、下記(9)式により表される。
Vo=(Cs・Vin)/Cf-(Cr・Vr)/Cf …(9)
上記(9)式に示すように、上記構成では、容量比、基準電圧Vrの値などを変更することにより、言い換えるとSC増幅回路12、15における増幅率およびオフセットを変更することにより、検出範囲が所望する範囲となるように調整すること、つまり検出範囲を適切な範囲へと切り替えることができる。
【0091】
図11には、互いに電圧範囲が異なる3種類の電池セルCbの入出力特性が示されている。なお、図11では、3つの電池セルCbを区別するため、それぞれの末尾にA、B、Cが付与されている。図11に示すように、本実施形態では、このような3種類の電池セルCbのそれぞれについてSC増幅回路12、15の出力電圧VoがADC13、16の入力電圧範囲に収まるように検出範囲が切り替えられており、それにより3種類の電池セルCbのそれぞれについて全電圧範囲において電圧検出が可能となっている。
【0092】
[5]第5具体例
第5具体例では、電池監視装置2は、電圧検出部10、11における各検出範囲が互いに同一の範囲となるように指定するとともに、電圧検出部10、11が備えるデジタルフィルタ14、17の各特性が互いに同一となるように設定するようになっている。つまり、この場合、範囲指定部25は、電圧検出部10における検出範囲および電圧検出部11における検出範囲が互いに同一の範囲となるように各検出範囲を指定するようになっている。具体的には、範囲指定部25は、電圧検出部10、11における各検出範囲として広範囲または狭範囲を指定する。
【0093】
また、この場合、特性設定部26は、電圧検出部10が備えるデジタルフィルタ14の特性および電圧検出部11が備えるデジタルフィルタ17の特性が互いに同一となるように各特性を設定するようになっている。具体的には、特性設定部26は、デジタルフィルタ14、17の各カットオフ周波数として高周波数または低周波数を設定する。なお、本明細書などにおける「同一のタイミング」とは、タイミングが完全に一致するものだけでなく、目的とする効果を奏するものであれば、互いのタイミングに若干の差があり厳密には一致していないようなものも含む。このような第5具体例によれば、各電圧検出部10、11による検出タイミングは、例えば図12に示すようなものとなる。
【0094】
図12に示すように、この場合、電圧検出部10が電池セルCb1の電圧を検出する期間、電圧検出部11も電池セルCb1の電圧を検出している。電池セルCb2以降も電池セルCb1と同様に、電圧検出部10と電圧検出部11とが、同一の電池セルCbの電圧を同一の期間に検出するようになっている。このようにすれば、電圧検出部10、11による各電池セルCbの電圧の検出タイミングを揃えることができる、ひいては電圧検出部10を用いた各電池セルCbの電圧の取得タイミングと電圧検出部11を用いた各電池セルCbの電圧の取得タイミングとの一致性が向上する。
【0095】
また、この場合、電圧検出部10のデジタルフィルタ14の時定数と電圧検出部11のデジタルフィルタ17の時定数との一致性が向上する。そのため、第5具体例によれば、各電池セルCbの端子間電圧が大きく変動するような場合であっても、電圧検出部10による所定の電池セルCbの電圧の検出値と、電圧検出部11による所定の電池セルCbの電圧の検出値とを概ね一致させることが可能となり、その結果、故障診断の精度が向上する。なお、図12では、電圧検出部10による電池セルCb1~Cb6の電圧の検出値をV1~V6とし、電圧検出部10による電池セルCb1~Cb6の電圧の検出値をV1’~V6’としている。
【0096】
[6]第6具体例
第6具体例では、電池監視装置2は、電圧検出部10における検出範囲を広範囲に指定する、つまり電圧検出部10の電圧の検出精度を粗精度にするとともに、電圧検出部11における検出範囲を狭範囲に指定する、つまり電圧検出部11の電圧の検出精度を高精度にするようになっている。つまり、この場合、範囲指定部25は、電圧検出部10における検出範囲として相対的に広い範囲である広範囲を指定するとともに、電圧検出部11における検出範囲として相対的に狭い範囲である狭範囲を指定するようになっている。
【0097】
このような第6具体例によれば、各電圧検出部10、11による検出タイミングは、例えば図13に示すようなものとなる。図13に示すように、この場合、電圧検出部10は、検出範囲が広範囲になっていることから、比較的短い周期、例えば20ms毎に電圧検出の動作を実行する。そのため、電圧検出部10により検出された粗精度の電圧の検出値は、検出と同様に比較的短い周期毎にレジスタ28から読み出される。これに対し、電圧検出部11は、検出範囲が狭範囲になっていることから、電圧検出部10の周期に対して長い周期、例えば100ms毎に電圧検出の動作を実行する。そのため、電圧検出部11により検出された高精度の電圧の検出値は、検出と同様に比較的長い周期毎にレジスタ28から読み出される。電圧検出部10、11による電圧検出の動作は並行して行われる。
【0098】
このような第6具体例によれば、電圧検出部10によって従来と同程度の粗精度且つ従来と同程度のタイミングで各電池セルCbの電圧の検出値を取得するとともに、電圧検出部11によって例えば100ms毎といった比較的長い周期毎に従来よりも高い精度で検出された各電池セルCbの電圧の検出値を取得することができる。つまり、この場合、従来の電池監視に関するスケジュールを維持したまま、高精度な電圧検出をも行うことができる。
【0099】
以上説明した本実施形態によれば、次のような効果が得られる。
電池監視装置2は、電池セルCbの電圧を検出する範囲である検出範囲を指定する範囲指定部25および電圧検出部10、11が備えるデジタルフィルタ14、17の特性を設定する特性設定部26を備えている。上記構成によれば、電池セルCbの電圧の検出範囲として、電池セルCbの電圧の全電圧範囲に及ぶような広い範囲である広範囲から、全電圧範囲のうち限定した狭い範囲である狭範囲まで、所望する検出範囲を選択的に指定することができる。
【0100】
また、上記構成によれば、デジタルフィルタ14、17であるフィルタ特性として、所望する特性を選択的に設定することができる。このようにすれば、様々な条件に応じた適切な検出範囲および適切なフィルタ特性を設定したうえで、電池セルCbの電圧を検出することができる。そのため、本実施形態によれば、電池セルCbの電圧検出の精度を向上することができる。
【0101】
このように、電圧の検出精度の更なる高精度化を図ることができる本実施形態によれば、SOCの推定精度を一層高めることができ、例えばLFP電池などのようにSOCとOCVとの関係がフラットになるような領域が多くなるような電池を対象とした場合でも、実用上十分な精度でSOCの推定を行うことができる。そのため、本実施形態によれば、均等化の処理をより確実に正常に実施することが可能になる。また、本実施形態によれば、過放電および過充電の発生防止のために設定される電池の安全使用領域に確保するマージンを削減し、その分だけ使用可能領域を拡大すること、ひいては電池の使い切りが可能となり、その結果、車両の走行可能距離の拡大または車両への電池搭載量の削減といった効果が得られる。
【0102】
範囲指定部25は、外部のECU3から与えられる範囲指定指令を受けて動作し、特性設定部26は、ECU3から与えられる特性設定指令を受けて動作するようになっている。つまり、範囲指定部25および特性設定部26は、いずれもECU3から与えられるコマンドに基づいて検出範囲の指定およびフィルタ特性の設定を行うようになっている。このように、本実施形態では、電池監視装置2とECU3との組み合わせにより検出範囲の指定およびフィルタ特性の設定が行われるため、例えば車両の走行中、車両の停止中、車両の充電中などの様々な走行シーンのそれぞれに応じて、適切な検出範囲および適切なフィルタ特性を設定したうえで電池セルCbの電圧を検出することが可能となり、より高精度な電池制御を実現することができる。
【0103】
範囲指定部25は、電池セルCbの種類毎に予め定まっているセル電圧範囲に基づいて検出範囲を指定することができる。例えば、範囲指定部25は、SOCが0%に近い領域およびSOCが100%に近い領域では、検出範囲として狭範囲を指定するとともに、その他の領域では、検出範囲として広範囲を指定することができる。このようにすれば、SOCが0%に近い領域およびSOCが100%に近い領域では、電圧検出の精度が比較的高い精度である高精度となり過放電および過充電の発生を防止することができるとともに、その他の領域では、電圧検出の精度が比較的低い精度である粗精度となり電圧検出に要する時間、ひいてはSOCの推定に要する時間を短縮することができる。
【0104】
範囲指定部25が検出範囲として相対的に広い範囲である広範囲を指定する場合には、特性設定部26がフィルタ特性であるカットオフ周波数を相対的に高い周波数である高周波数に設定し、範囲指定部25が検出範囲として相対的に狭い範囲である狭範囲を指定する場合には、特性設定部26がフィルタの特性であるカットオフ周波数を相対的に低い周波数である低周波数に設定することができる。
【0105】
このようにすれば、広範囲での電圧検出の際に変換時間が短くなることから検出時間を一層短くすることができるとともに、狭範囲での電圧検出の際にノイズ除去性能が向上することから高精度化をさらに図ることができる。上記構成によれば、例えば車両の充電時など車両において大きなノイズが発生するようなとき、狭範囲での電圧検出を行いノイズ除去性能を向上させることにより、ノイズによるS/N比の悪化を抑制することが可能となり、その結果、電圧検出精度の向上を図ることができる。
【0106】
範囲指定部25は、通常系の電圧検出部10における検出範囲および診断系の電圧検出部11における検出範囲が互いに同一の範囲となるように各検出範囲を指定することができる。また、特性設定部26は、通常系の電圧検出部10が備えるデジタルフィルタ14の特性および診断系の電圧検出部11が備えるデジタルフィルタ17の特性が互いに同一となるように各特性を設定することができる。このようにすれば、電圧検出部10、11のそれぞれを用いた各電池セルCbの電圧の取得タイミングの一致性が向上するとともに、電圧検出部10、11のデジタルフィルタ14、17の時定数の一致性が向上する。
【0107】
そのため、上記構成によれば、各電池セルCbの端子間電圧が大きく変動するような場合であっても、電圧検出部10による所定の電池セルCbの電圧の検出値と、電圧検出部11による所定の電池セルCbの電圧の検出値とを概ね一致させることが可能となり、その結果、故障診断の精度が向上する。さらに、上記構成によれば、車両において大きなノイズが発生するようなとき、電圧検出部10、11の両方について検出範囲として狭範囲を指定すれば、通常系および診断系の両方のノイズ除去性能を向上させることができ、その結果、故障診断の精度を良好に維持することができる。
【0108】
範囲指定部25は、通常系の電圧検出部10における検出範囲として相対的に広い範囲である広範囲を指定するとともに、電圧検出部11における検出範囲として相対的に狭い範囲である狭範囲を指定することができる。このようにすれば、電圧検出部10によって従来と同程度の粗精度且つ従来と同程度のタイミングで各電池セルCbの電圧の検出値を取得するとともに、電圧検出部11によって例えば100ms毎といった比較的長い周期毎に従来よりも高い精度で検出された各電池セルCbの電圧の検出値を取得することができる。つまり、上記構成によれば、従来の電池監視に関するスケジュールを維持したまま、高精度な電圧検出をも行うことができる。
【0109】
組電池2を構成する複数の電池セルCbの電圧は、完全に一致しておらず、それぞれ異なる電圧値になっていることが多い。そのため、各電池セルCbについての適切な検出範囲は、同じとは限らず異なっている可能性がある。そこで、範囲指定部25は、電池セルCb毎に独立して検出範囲を指定することができる。このようにすれば、各電池セルCbのそれぞれについて適切な検出範囲を設定したうえで、電圧検出を行うことが可能となり、各電池セルCbの電圧検出の精度を一層向上することができる。
【0110】
範囲指定部25は、電池セルCbの種類に基づいて検出範囲を指定することができる。例えば、範囲指定部25は、互いに電圧範囲が異なる複数の電池セルCbのそれぞれについてSC増幅回路12、15の出力電圧がADC13、16の入力電圧範囲に収まるように検出範囲を切り替えることが可能であり、これによれば、複数種類の電池セルCbのそれぞれについて全電圧範囲において電圧検出が可能となる。
【0111】
電圧検出部10、11は、キャパシタC11、C12により電池セルCbの電圧をサンプリングし、キャパシタC13~C16を介してサンプリングされた電荷を転送することにより電池セルCbの電圧に対応した電圧を出力するものであり、増幅率およびオフセットを切り替え可能な構成のSC増幅回路12、15を備え、SC増幅回路12、15の増幅率およびオフセットの一方または双方を切り替えることにより、範囲指定部25により指定された検出範囲において電池セルCbの電圧を検出するようになっている。このような構成によれば、電圧検出部10、11における検出範囲を狭くするほど電圧の検出精度を高めることができる。
【0112】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について図14図16を参照して説明する。
<全体構成>
図14に示すように、本実施形態の電池監視システム41が備える電池監視装置42は、第1実施形態の電池監視装置2に対し、電池監視IC5に代えて電池監視IC43を備えている点などが異なっている。電池監視IC43は、電池監視IC5に対し、制御部8に代えて制御部44を備えている点などが異なっている。制御部44は、制御部8に対し、指令生成部45が追加されている点、範囲指定部25および特性設定部26に代えて範囲指定部46および特性設定部47を備えている点などが異なっている。
【0113】
指令生成部45は、電圧検出部10および電圧検出部11の一方または双方による電圧の検出結果に基づいて範囲指定指令および特性設定指令を生成する。指令生成部45により生成される各指令は、第1実施形態においてECU3により生成される各指令と同様のものとなっている。そのため、範囲指定部46は、指令生成部45により生成される範囲指定指令を受けて動作し、特性設定部47は、指令生成部45により生成される特性設定指令を受けて動作する。このように、電池監視IC43の制御部44は、ECU3からのコマンドではなく、自身の判断に基づいて検出範囲の指定およびフィルタ特性の設定を行うようになっている。
【0114】
この場合、制御部44は、検出範囲を広範囲とする通常動作による電圧検出を実施した後、その広範囲且つ粗精度での電圧検出の結果をレジスタ28から読み出す。そして、制御部44は、その読み出した電圧検出の結果に基づいて必要となるレンジを判断し、検出範囲を狭範囲とするZOOM動作について適切な検出範囲およびフィルタ特性を設定する。その後、制御部44は、上記したように設定した検出範囲およびフィルタ特性でZOOM動作による電圧検出を実施する。以下、このような一連の動作のことを自走動作と称することとする。なお、ZOOM動作におけるフィルタの特性については、ECU3からのコマンドに基づいて設定するようにしてもよい。
【0115】
<電池監視装置による動作の流れ>
続いて、上記構成の電池監視装置42により実行される動作の流れの一例について、図15を参照して説明する。まず、ECU3から「自走動作コマンド」が送信される。「自走動作コマンド」は、自走動作の実行を指令するコマンドである。電池監視装置42は、「自走動作コマンド」を受信すると、前述した自走動作を開始する。この場合、自走動作が繰り返し実行される。すなわち、この場合、電池監視装置42は、ECU3からのコマンドの送信を必要とすることなく、検出範囲を広範囲とする通常動作による電圧検出、つまり「セル検出」と、検出範囲を狭範囲とするZOOM動作による電圧検出、つまり「ZOOM検出」と、を交互に且つ周期的に実行する。
【0116】
電池監視装置42は、このような自走動作により通常動作による電圧検出およびZOOM動作による電圧検出を所定回数実行した後、ECU3から「読出しコマンド」が与えられると、それらの所定回数の電圧の検出結果をレジスタ28から読み出す。この場合、上記した所定回数の電圧の検出結果は、所定回数の電圧の検出値がデジタルフィルタ14、17を介して平均化された値としてレジスタ28に格納されるようになっている。
【0117】
上述したような値の出力を実現するため、デジタルフィルタ14、17の具体的な構成としては、例えば図16に示すような1次IIRフィルタ回路51を採用することができる。なお、IIRは、Infinite Impulse Responseの略称である。1次IIRフィルタ回路51は、入力Xと出力Yとの間に設けられた加算器52、乗算器53、54および遅延器55を備えている。このような構成を採用したデジタルフィルタ14、17によれば、所定回数の電圧の検出結果の移動平均を取ったような値を表す信号を出力することができる。
【0118】
以上説明した本実施形態の電池監視装置42によっても、第1実施形態の電池監視装置42と同様の動作を行うことができる。したがって、本実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果が得られる。また、本実施形態によれば、電池監視装置42は、ECU3からのコマンドを必要とすることなく、自身の判断に基づいて、ZOOM動作における検出範囲およびフィルタ特性を様々な状況に応じて適切な値に設定することができる。
【0119】
(その他の実施形態)
なお、本発明は上記し且つ図面に記載した各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で任意に変形、組み合わせ、あるいは拡張することができる。
上記各実施形態で示した数値などは例示であり、それに限定されるものではない。
【0120】
SC増幅回路12、15の具体的な構成としては、上記各実施形態において説明した者に限らずともよく、同様の機能を実現することができるような構成であれば適宜変更することができる。
電池監視装置としては、通常系の電圧検出部10と診断系の電圧検出部11とを備えたものに限らずともよく、1つの電圧検出部だけを備えた構成であってもよい。
【0121】
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0122】
2、42…電池監視装置、3…電子制御装置、4…組電池、12、15…スイッチトキャパシタ増幅回路、13、16…A/D変換器、14、17…デジタルフィルタ、25…範囲指定部、26…特性設定部、32…転送回数切替部、33…容量値切替部、36…容量値切替部、45…指令生成部、46…範囲指定部、47…特性設定部、C11、C12…キャパシタ、C13~C16…キャパシタ、Cb…電池セル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16