(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】神経再生誘導チューブ
(51)【国際特許分類】
A61F 2/02 20060101AFI20231205BHJP
A61F 2/04 20130101ALI20231205BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20231205BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20231205BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20231205BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20231205BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
A61F2/02
A61F2/04
A61L27/58
A61L27/18
A61L27/24
A61L27/20
A61L27/22
(21)【出願番号】P 2020511407
(86)(22)【出願日】2020-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2020005783
(87)【国際公開番号】W WO2020170961
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2019030990
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張本 乾一
(72)【発明者】
【氏名】坂口 博一
(72)【発明者】
【氏名】山田 論
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-237476(JP,A)
【文献】特開2012-161508(JP,A)
【文献】特開2012-250069(JP,A)
【文献】特表2009-524507(JP,A)
【文献】国際公開第2017/188110(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/02
A61L 27/58
A61L 27/18
A61L 27/24
A61L 27/20
A61L 27/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状をなす本体部と、
前記本体部に収容され、該本体部の長手方向に延びる複数の繊維と、
を備え、
前記複数の繊維の少なくとも一部の繊維は、
当該繊維の長手方向に延びる軸部と、
当該繊維の長手方向に連続し、前記軸部から突出する凸条部であって、前記軸部からの高さが0.5μm以上である、少なくとも三本の凸条部と、
を有する異形断面繊維である
ことを特徴とする神経再生誘導チューブ。
【請求項2】
前記異形断面繊維の断面において、当該断面に内接する円の直径に対する、当該断面に外接する円の直径の比である異型度が1.5~12.0である
ことを特徴とする請求項1に記載の神経再生誘導チューブ。
【請求項3】
前記凸条部の高さが1.0μm以上である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の神経再生誘導チューブ。
【請求項4】
前記異形断面繊維は、10本以下の前記凸条部を有する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の神経再生誘導チューブ。
【請求項5】
前記異形断面繊維は、前記凸条部を3本有するY断面繊維、または前記凸条部を4本有するX断面繊維である、
ことを特徴とする請求項4に記載の神経再生誘導チューブ。
【請求項6】
前記複数の繊維は、互いに異なる断面形状をなす繊維を含む
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の神経再生誘導チューブ。
【請求項7】
前記本体部および前記複数の繊維の少なくとも一方が生体吸収性高分子からなる
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一つに記載の神経再生誘導チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経再生誘導チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、神経組織の中枢側と末梢側との間に欠損部位が生じた場合において神経再生を誘導して治療する医療機器として、神経再生誘導チューブが知られている。神経再生誘導チューブを用いることによって、神経再生の障害となる結合組織が損傷部位に侵入することが抑制される。
【0003】
図15は、従来の神経再生誘導チューブの使用例を説明する図である。
図15に示す神経再生誘導チューブ300には、一端側に神経細胞200およびシュワン細胞210が配置される。神経再生誘導チューブ300では、内部においてシュワン細胞211が増殖する。この増殖したシュワン細胞211の内部を、軸索201が延びていく。この間、神経再生誘導チューブ300により結合組織の進入が抑制されることにより、軸索201が伸長しようとする経路が阻害されることが抑制される。このようにして、神経再生誘導チューブ300を用いた神経再生が進んでいく。
【0004】
ところで、神経再生では、軸索201とシュワン細胞211が神経再生誘導チューブ300内に効率的に進入することが、神経再生を促進するのに重要である。特に、神経再生誘導チューブ300の長さが長いほど、チューブ内にシュワン細胞211が接着しやすく、軸索201がチューブ内をまっすぐ早く延びることが重要となる。神経再生を促進させる技術として、神経再生誘導チューブの長手方向に沿って延びる繊維の束を、神経再生誘導チューブ内に配置したものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1では、繊維の束が、シュワン細胞が接着するための足場となり、またチューブ内における軸索の伸長をガイドしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
神経再生のさらなる効率化のため、軸索の伸長速度をさらに向上させる技術が求められている。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、軸索の伸長速度を向上することができる神経再生誘導チューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明にかかる神経再生誘導チューブは、管状をなす本体部と、前記本体部に収容され、該本体部の長手方向に延びる複数の繊維と、を備え、前記複数の繊維の少なくとも一部の繊維は、当該繊維の長手方向に延びる軸部と、当該繊維の長手方向に連続し、前記軸部から突出する凸条部であって、前記軸部からの高さが0.5μm以上である、少なくとも三本の凸条部と、を有する異形断面繊維であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる神経再生誘導チューブは、上記の発明において、前記異形断面繊維の断面において、当該断面に内接する円の直径に対する、当該断面に外接する円の直径の比である異型度が1.5~12.0であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる神経再生誘導チューブは、上記の発明において、前記凸条部の高さが1.0μm以上であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかる神経再生誘導チューブは、上記の発明において、前記異形断面繊維は、10本以下の前記凸条部を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかる神経再生誘導チューブは、上記の発明において、前記異形断面繊維は、前記凸条部を3本有するY断面繊維、または前記凸条部を4本有するX断面繊維である、ことを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる神経再生誘導チューブは、上記の発明において、前記複数の繊維は、互いに異なる断面形状をなす繊維を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかる神経再生誘導チューブは、上記の発明において、前記本体部および前記複数の繊維の少なくとも一方が生体吸収性高分子からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の神経再生誘導チューブによれば、シュワン細胞の遊走性および軸索伸長速度を向上させ、軸索伸長方向を直進させることによって効率的な神経再生を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態にかかる神経再生誘導チューブを模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施の形態にかかる神経再生誘導チューブに収容される異形断面繊維の一例を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す異形断面繊維の断面を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施の形態にかかる神経再生誘導チューブに収容される異形断面繊維の他の例を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、
図4に示す異形断面繊維の断面を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施の形態にかかる神経再生誘導チューブの使用例を説明する図である。
【
図7】
図7は、実験例で採用した織組織の組織図を示す図である。
【
図8】
図8は、実験例1の異形断面繊維の断面を示す図である。
【
図9】
図9は、実験例2の異形断面繊維の断面を示す図である。
【
図10】
図10は、比較実験例2の異形断面繊維の断面を示す図である。
【
図13】
図13は、軸索成長速度評価の結果(神経突起成長速度)を示す図である。
【
図14】
図14は、軸索成長直進性評価の結果(アスペクト比)を示す図である。
【
図15】
図15は、従来の神経再生誘導チューブの使用例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を図面とともに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではないが、当業者には容易に理解されるように、本実施の形態の記載中の定義や、好ましい態様、バリエーションについての記載は、同時に上位概念としての本発明の神経再生チューブの説明と解釈し得るものである。また、以下の説明において参照する各図は、本発明の内容を理解でき得る程度に形状、大きさ、および位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。すなわち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、および位置関係のみに限定されるものではない。さらに、図面の記載において、同一の部分には同一の符号を付している。
【0018】
(実施の形態)
本発明の実施の形態にかかる神経再生誘導チューブについて、
図1~
図3を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施の形態にかかる神経再生誘導チューブを模式的に示す斜視図である。
図1に示す神経再生誘導チューブ1は、筒状をなす本体部10と、本体部10の内部に設けられ、本体部10の中心軸方向に延びる異形断面繊維11(又は11A)とを有する。
【0019】
本体部10は、生体吸収性材料を用いて形成される。本体部10は、例えば、外周の直径が0.5mm以上4.0mm以下の円筒をなす。本体部10の肉厚は、使用態様によって適宜調整可能である。生体吸収性材料とは酸、アルカリ、または酵素によって分解される生分解性材料であり、体内においてその分解物が代謝や排出などによって消失する材料である。生体吸収性高分子とは、生体吸収性材料のうち、生物由来もしくは人工的に合成された高分子体である。例えば、コラーゲンやゼラチンなどのタンパク質またはそれらの誘導体、キトサンなどの多糖類またはそれらの誘導体、乳酸、グリコール酸、カプロラクトンから選ばれる1種類以上のモノマーの共重合体、またはラクチド重合体などの脂肪族ポリエステルが挙げられる。また、本体部は体液が浸潤し内外で物質交換ができるよう多孔質である事が好ましい。
【0020】
異形断面繊維11(又は11A)は、本体部10の長手方向に沿って延びる繊維状をなす。異形断面繊維11の断面であって、長手方向と直交する平面を切断面とする断面は、円や楕円とは異なる異形をなす。異形断面繊維11(又は11A)は、生体吸収性材料を用いて形成される。
【0021】
図2は、本発明の一実施の形態にかかる神経再生誘導チューブに収容される異形断面繊維の一例を示す斜視図である。
図3は、
図2に示す異形断面繊維の断面を示す図である。
図2に示す異形断面繊維11は、円柱状の軸部110と、軸部から突出する三本の凸条部111とを有する。三本の凸条部111は、軸部110に対して互いに異なる方向に突出している。異形断面繊維11は、長手方向と直交する平面を切断面とする断面が、略Y字状をなすY断面繊維である。ここでいうY字状とは、隣り合う凸条部111同士のなす角度が、互いに同じである、120°(および240°、360°)の回転対称性を有する形状であってもよいし、角度が互いに同じではない、360°以外の回転対称性を有しない形状であってもよい。
凸条部を有することで繊維の表面積が増加し、また凸条部同士が障害となり繊維間に空間が形成され、シュワン細胞や軸索が繊維上に接着できる領域を増加させることができる。繊維を束ねて充填する際に繊維同士が接着して細胞や軸索の接着領域が減少することを抑制するためには、凸条部が三本以上あることが好ましく、凸条部が異なる2種類以上の繊維を混合することがより好ましく、その際は円形繊維と凸条部を有する繊維と混合することがさらに好ましい。
【0022】
各凸条部111は、軸部110に対する高さが、0.5μm以上、好ましくは1.0μm以上である。ここで、凸条部111の高さとは、繊維断面に内接する内接円の接線に対して直交する方向の、該接線から、繊維断面の外縁までの距離のうちの最大の距離(例えば
図3の高さh
1)である。本実施の形態では、繊維の断面において、軸部110の外形が、繊維断面の内接円に相当する。
【0023】
また、異形断面繊維11において、長手方向と直交する平面を切断面とする断面に外接する円S1の直径d1と、断面に内接する円S2の直径d2の比(d1/d2)として求められる異型度が1.5以上12.0以下である。異型度は、繊維断面を電子顕微鏡で撮像した画像からランダムに抽出した20本の繊維の直径d1と直径d2とを計測し、その平均値から算出することができる。
【0024】
図4は、本発明の一実施の形態にかかる神経再生誘導チューブに収容される異形断面繊維の他の例を示す斜視図である。
図5は、
図4に示す異形断面繊維の断面を示す図である。
図4に示す異形断面繊維11Aは、円柱状の軸部120と、軸部から突出する四本の凸条部121とを有する。四本の凸条部121は、軸部120に対して互いに異なる方向に突出している。異形断面繊維11Aは、断面が、略X字状をなすX断面繊維である。ここでいうX字状とは、隣り合う凸条部121同士のなす角度が、互いに同じである、90°(および180°、270°、360°)の回転対称性を有する形状であってもよいし、角度が互いに同じではない、360°以外の回転対称性を有しない形状であってもよい。
【0025】
各凸条部121は、軸部120に対する高さが、0.5μm以上、好ましくは1.0μm以上である。ここで、凸条部121の高さとは、断面に内接する内接円の接線に対して直交する方向の、該接線から、繊維断面の外縁までの距離のうちの最大の距離(例えば
図5の高さh
2)である。本実施の形態では、繊維の断面において、軸部120の外形が、繊維断面の内接円に相当する。
【0026】
また、異形断面繊維11Aにおいて、長手方向と直交する平面を切断面とする断面に外接する円S3の直径d3と、断面に内接する円S4の直径d4の比(d3/d4)として求められる異型度が1.5以上12.0以下である。
異形度が大きいほど繊維表面積が大きく、繊維を束ねた際に形成される空間も大きくなり、シュワン細胞や軸索がチューブ内部に侵入しやすくなることから、異形度は1.5以上が好ましく、異形度が大きすぎると凸条部が折れたりすることで潰れ安くなるため12.0以下が好ましい。
【0027】
このほか、断面において10本以下の凸条部を有する異形断面繊維を配設することができる。
本体部10には、異形断面繊維11、11A、または10本以下の凸条部を有する異形断面繊維が、単独、もしくは断面の形状が異なる二種以上の繊維の組み合わせで5本以上500000本以下の範囲で設けられる。
また、異形断面繊維と、従来の円形又は楕円形の繊維とを組み合わせて、本体部10に収容した構成としてもよい。すなわち、本実施の形態にかかる神経再生誘導チューブ1には、少なくとも一部の繊維において、上述した異形断面繊維が採用される。
【0028】
図6は、本発明の一実施の形態にかかる神経再生誘導チューブの使用例を説明する図である。神経再生誘導チューブ1の一端側に神経細胞200およびシュワン細胞210を配置すると、内部においてシュワン細胞211が深部に向かって移動しつつ増殖する。その後、チューブ内に配置されたシュワン細胞211の内部を、軸索201が延びていく。この際、異形断面繊維とすることによって、軸索201の伸張性が向上される。このようにして、神経再生誘導チューブ1を用いた神経再生が進んでいく。
【0029】
上述した実施の形態では、神経再生誘導チューブ1が、筒状の本体部10と、本体部10の内部に設けられ、軸部110(又は120)に対する高さが、0.5μm以上の凸条部111(又は121)とを有する構成とした。本実施の形態によれば、異形断面繊維を採用することによって、シュワン細胞が遊走するための表面積を大きくすることができる。本実施の形態にかかる神経再生誘導チューブ1を用いて神経再生を行うことによって、軸索の伸張性を向上し、効率的な神経再生を実現することができる。
【0030】
(実験例)
以下、シュワン細胞の接着性、軸索の伸張性を評価するための実験例について説明する。なお、本実験例により本発明が限定して解釈されるわけではない。
【0031】
[サンプル準備]
経糸として単糸径14.7μmの丸断面繊維を用い、全ての実験例、比較実験例で同じ経糸密度になるように準備した。緯糸として表1に記載の糸を用い、織条件は、共通の織組織として8枚朱子組織、緯糸密度として、表1の各緯糸の緯糸カバーファクター(以下緯糸CFと記載)が1300になるように緯糸密度を調整して織物サンプルを作製した。
図7は、実験例で採用した織組織の組織図を示す図である。本実験例では、
図7の組織図に示す8枚朱子組織を採用した。
ここで、緯糸CFは以下の式により算出する。
緯糸CF=√A×N
A:緯糸の繊度(デシテックス)、
N:緯糸の本数(本/2.54cm)
作製した織物サンプルをφ15mmのポンチで打ち抜き円形の織片を作成した。99.5%エタノール(富士フィルム和光純薬株式会社製)に作成した織片を10分ほど浸して滅菌し、その後、安全キャビネット内で風乾させた。織片はさらに100μg/mlに調製したアテロコラーゲン溶液(KOKEN社製)に30分浸し、その後、安全キャビネット内で風乾させた。軸索成長速度および直進性評価の場合にはさらに、50μg/mlに調製したラット由来のラミニン(シグマ社製)水溶液に2時間浸漬し、その後、安全キャビネット内で風乾させた。その後、24穴ウェルプレート(Thermofisher社製)の1ウェル内に織片をセットし、さらにオートクレーブで滅菌した外径φ14mm、内径φ12mm、高さ10mmの筒型金属器具を重しとしてのせた。各サンプルにつき3つウェルを準備し、n=3で下記の項目について評価した。
【表1】
【0032】
<実験例1>
図8は、実験例1の異形断面繊維の断面を示す図である。実験例1では、
図8に示すような、凸条部が3本ある略Y字形の断面を有する異形断面繊維を緯糸として用いて各評価を行った。
【0033】
<実験例2>
図9は、実験例2の異形断面繊維の断面を示す図である。実験例2では、
図9に示すような、凸条部が4本ある略X字形の断面を有する異形断面繊維を緯糸として用いて各評価を行った。
【0034】
<比較実験例1>
比較実験例1では、断面が真円形の繊維を緯糸として用いて各評価を行った。
【0035】
<比較実験例2>
図10は、比較実験例2の異形断面繊維の断面を示す図である。比較実験例2では、
図10に示すような、0.5μm以上の凸条部が2本と0.5μm未満の凸状部が2本程度を有する略楕円形の異形断面繊維を緯糸として用いて各評価を行った。
【0036】
[細胞接着評価]
シュワン細胞であるIMS32(コスモ・バイオ株式会社製)をIMS32専用培地(コスモ・バイオ株式会社製)に懸濁し、125000個/1ml/ウェルとなるように播種し、37℃、飽和蒸気圧、5%CO
2雰囲気下で24時間培養した。その後、Cell Counting Kit(株式会社同仁化学研究所製)を用いて細胞数を測定した。具体的には、IMS専用培地に10%のWST-8を添加した溶液を調製し、培養上清を除去したウェルに1ml添加した。37℃、飽和蒸気圧、5%CO
2雰囲気下で1時間培養した後、培地上清を100μl、96穴ウェルプレートのウェルにそれぞれ回収し、マイクロプレートリーダー(SpectraMax M5、モルキュラーデバイス社製)で480nmの吸光度を測定した。各実験例について測定した結果を
図11に示す。
図11は、細胞接着評価の結果を示す図である。
図11からも分かるように、略Y字形または略X字形の異形断面繊維は、円形断面の繊維と同等の、しかし略楕円形断面の繊維よりも多くのシュワン細胞が接着しているといえる。
【0037】
[神経突起成長評価]
PC12(DSファーマバイオメディカル株式会社製)の細胞を1%馬血清(フナコシ株式会社製)、100ng/mlのNGF(コスモ・バイオ株式会社製)入りのRPMI培地(Gibco社製)で懸濁し、1000個/1ml/ウェルとなるように播種した。37℃、飽和蒸気圧、5%CO
2雰囲気下で培養し、3日または4日置きに培地を交換した。
14日目に上清を除去した後、まず4%パラフォルムアルデヒドリン酸緩衝液(富士フイルム和光純薬株式会社製)を1mlずつ加えて、10分間静置後に上清を除去し、PBS(-)(富士フイルム和光純薬株式会社製)1mlの注入と除去とを3回繰り返して洗浄した。次に2%に調製したギムザ染色液(富士フイルム和光純薬株式会社製)を1ml添加して10分静置し、上清を除去したのち、純水1mlの注入と除去とを3回繰り返して洗浄し、風乾させた。
顕微鏡(Hirox社製、KH-1300)で染色した織片サンプルを撮影し、付属の画像処理ソフト(2DMesure)を用いて、細胞本体から伸びる細長い突起の長さについて、細胞の核から突起の先端が到達した点との直線距離を測定した。各実験例について測定した結果を
図12に示す。
図12は、神経突起成長評価の結果を示す図である。
図12からも分かるように、略Y字形または略X字形の異形断面繊維は、略楕円形状断面の繊維よりも神経突起長が長いといえる。
【0038】
[軸索成長速度および直進性評価]
生後14日目のラット胎児の脊髄から採取した後根神経節(DRG)を100ng/mlのNGF(コスモ・バイオ株式会社製)入りのNeuro Medium-A培地(Gibco社製)で懸濁し、ウェルプレートの各ウェルに一つずつ播種した。37℃、飽和蒸気圧、5%CO2雰囲気下で4日間培養した。
培養開始から4日後に上清を除去した後、まず4%パラフォルムアルデヒドリン酸緩衝液(富士フイルム和光純薬社)を1mlずつ加えて、10分間静置後に、上清を除去し、PBS(-)(富士フイルム和光純薬株式会社製)1mlの注入と除去とを3回繰り返して洗浄した。その後、ブロッキング溶液(ブロッキング ワン:ナカライテスク株式会社製)に一晩浸漬させた後、PBS(-)(富士フイルム和光純薬株式会社製)1mlを注入と除去を3回繰り返して洗浄した。その後、抗β-チューブリンのマウス抗体(プロメガ株式会社製)で標識し、ALKALINE PHOSPHATASE染色キット(Vector Laboratory社製)で染色を行った。染色後、蛍光顕微鏡(オリンパス株式会社製)を用いて、染色された領域を写真撮影した。画像解析ソフト(ImageJ)を用いて、DRGを中心から軸索が到達した点の直進距離(μm)を計測した。軸索成長速度は、直進距離を培養日数で除して求めた。また、軸索が伸長したエリアの長軸と短軸を計測し、長軸を短軸で除したアスペクト比を直進性評価の指標とした。
【0039】
図13は、軸索成長速度評価の結果(神経突起成長速度)を示す図である。
図14は、軸索成長直進性評価の結果(アスペクト比)を示す図である。
図13から分かるように、略Y字形または略X字形の異形断面繊維は、略楕円形状断面の繊維よりも神経突起成長速度が速いといえる。また、
図14から分かるように、略Y字形または略X字形の異形断面繊維は、略楕円形状断面の繊維よりもアスペクト比が高く、軸索成長直進性が高いといえる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の神経再生誘導チューブは、軸索の伸張性を向上することが可能である。従って、本発明は、効率的な神経再生を実現できることから、産業上非常に有用である。
【符号の説明】
【0041】
1 神経再生誘導チューブ
10 本体部
11、11A 異形断面繊維
110、120 軸部
111、121 凸条部