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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】気体還元材の吹込み方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20231205BHJP
   C21B 7/16 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C21B5/00 321
C21B7/16 305
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021048715
(22)【出願日】2021-03-23
(65)【公開番号】P2022147465
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】守田 祐哉
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼沢 隆太
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 功一
(72)【発明者】
【氏名】小澤 純仁
(72)【発明者】
【氏名】野内 泰平
(72)【発明者】
【氏名】川尻 雄基
(72)【発明者】
【氏名】柏原 佑介
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101790589(CN,A)
【文献】特開2014-084470(JP,A)
【文献】特開2020-117761(JP,A)
【文献】特開2014-088602(JP,A)
【文献】特開2013-040402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 5/00
C21B 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉用羽口を用いて高炉内に気体還元材を吹込む気体還元材の吹込み方法であって、
前記高炉用羽口は主流通孔と、前記主流通孔の周囲に設けられる副流通孔とを有し、
前記主流通孔から酸素含有ガスを、前記副流通孔から気体還元材を別々に高炉内に吹込み、
前記主流通孔から酸素含有ガスを前記高炉用羽口前に形成されるレースウェイに吹込み、
前記酸素含有ガスの吹込み方向と、前記気体還元材の吹込み方向とがなす角度θ(°)が下記(1)式を満足する、気体還元材の吹込み方法。
θ≧tan -1 (L/(0.75×D ))・・・(1)
上記(1)式で、Lは前記主流通孔の排出口と前記副流通孔の排出口との中心間距離(m)であり、D は前記レースウェイの深度(m)である。
【請求項2】
前記主流通孔の排出口と前記副流通孔の排出口との中心間距離Lが下記(2)式を満足する、請求項1に記載の気体還元材の吹込み方法。
L≦0.48×{(ρf×V)/(ρp×d)}1/4-1/2D・・・(2)
上記(2)式で、Lは前記主流通孔の排出口と前記副流通孔の排出口との中心間距離(m)であり、ρfはボッシュガス密度(kg/m)であり、Vは羽口あたりのボッシュガス流量{m/(s×羽口)}であり、ρpは前記主流通孔の排出口前のコークスの見かけ密度(kg/m)であり、dは前記コークスの粒径(m)であり、Dは前記主流通孔の内径(m)である。
【請求項3】
前記酸素含有ガスは酸素を50体積%以上含む気体である、請求項1または請求項2に記載の気体還元材の吹込み方法。
【請求項4】
前記気体還元材は、Bガス、Cガス、一酸化炭素、水素、メタン、メタノールおよびジ
メチルエーテルの少なくとも1つを含むガスである、請求項1から請求項3の何れか一項
に記載の気体還元材の吹込み方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体還元材を高炉に吹込む気体還元材の吹込み方法および高炉用羽口に関する。
【背景技術】
【0002】
COの増加による地球温暖化が、国際的な問題として大きく取り上げられており、その排出量を削減することが全世界的な課題となっている。鉄鋼生産では種々のプロセスでCOが発生するが、最大の発生源は高炉プロセスである。高炉プロセスでは、羽口から微粉炭と1200℃程度の熱風を吹き込み、コークスおよび微粉炭と熱風中の酸素が反応し、COおよびHガスといった還元ガスを生成させ、これら還元ガスによって高炉内の鉄鉱石を還元し酸素を除去している。このため、鉄鋼生産においてはCOの発生は不可避であるものの、その発生量を削減する技術が求められている。
【0003】
COの発生量を削減する技術として、特許文献1には、高炉排ガスを有効に利用することで高炉から排出されるCOガスを削減する技術が開示されている。特許文献1によれば、高炉排ガス中のCOやCOから再生メタンを合成し、これを気体還元材として再び羽口から高炉に吹込むことで炭素を高炉プロセス内で循環させ、これにより、高炉から排出されるCO原単位を削減できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-225969号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】大野陽太郎、外2名、「高炉レースウェイ空間における微粉炭の燃焼挙動と多量吹込み技術」、鉄と鋼、第78年(1992)、第1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
羽口から気体還元材とともに酸素を含有する熱風を吹込むと、羽口前に形成されたレースウェイ空間内で生じる燃焼火炎が羽口内に戻ってくる、いわゆる羽口内燃焼が発生する場合がある。羽口内燃焼が発生すると、羽口の熱損失が増加するとともにバーナーと羽口との接続部分からのガス漏れリスクも高くなるといった課題があった。本発明はこのような従来技術の課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、羽口内燃焼を抑制できる気体還元材の吹込み方法および高炉用羽口を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するための本発明の特徴は、以下の通りである。
[1]高炉用羽口を用いて高炉内に気体還元材を吹込む気体還元材の吹込み方法であって、前記高炉用羽口は主流通孔と、前記主流通孔の周囲に設けられる副流通孔とを有し、前記主流通孔から酸素含有ガスを前記高炉内に吹込み、前記副流通孔から気体還元材を高炉内に吹込む、気体還元材の吹込み方法。
[2]前記主流通孔から酸素含有ガスを前記高炉用羽口前に形成されるレースウェイに吹込み、前記酸素含有ガスの吹込み方向と、前記気体還元材の吹込み方向とがなす角度θ(°)が下記(1)式を満足する、[1]に記載の気体還元材の吹込み方法。
θ≧tan-1(L/(0.75×D))・・・(1)
上記(1)式で、Lは前記主流通孔の排出口と前記副流通孔の排出口との中心間距離(m)であり、Dは前記レースウェイの深度(m)である。
[3]前記主流通孔の排出口と前記副流通孔の排出口との中心間距離Lが下記(2)式を満足する、[1]または[2]に記載の気体還元材の吹込み方法。
L≦0.48×{(ρf×V)/(ρp×d)}1/4-1/2D・・・(2)
上記(2)式で、Lは前記主流通孔の排出口と前記副流通孔の排出口との中心間距離(m)であり、ρfはボッシュガス密度(kg/m)であり、Vは羽口あたりのボッシュガス流量{m/(s×羽口)}であり、ρpはコークスの見かけ密度(kg/m)であり、dはコークスの粒径(m)であり、Dは前記主流通孔の内径(m)である。
[4]前記酸素含有ガスは酸素を50体積%以上含む気体である、[1]から[3]の何れか1つに記載の気体還元材の吹込み方法。
[5]前記気体還元材は、Bガス、Cガス、一酸化炭素、水素、メタン、メタノールおよびジメチルエーテルの少なくとも1つを含むガスである、[1]から[4]の何れか1つに記載の気体還元材の吹込み方法。
[6]高炉に酸素含有ガスを吹き込む主流通孔と、高炉に気体還元材を吹込む副流通孔と、
を有し、前記主流通孔の中心軸と、前記副流通孔の中心軸とがなす角度θ(°)が下記(1)式を満足する、高炉用羽口。
θ≧tan-1(L/(0.75×D))・・・(1)
上記(1)式で、Lは前記主流通孔の排出口と前記副流通孔の排出口との中心間距離(m)であり、Dはレースウェイの深度(m)である。
[7]前記主流通孔の排出口と前記副流通孔の排出口との中心間距離Lが下記(2)式を満足する、[6]に記載の高炉用羽口。
L≦0.48×{(ρf×V)/(ρp×d)}1/4-1/2D・・・(2)
上記(2)式で、Lは前記主流通孔の排出口と前記副流通孔の排出口との中心間距離(m)であり、ρfはボッシュガス密度(kg/m)であり、Vは羽口あたりのボッシュガス流量{m/(s×羽口)}であり、ρpはコークスの見かけ密度(kg/m)であり、dはコークスの粒径(m)であり、Dは前記主流通孔の内径(m)である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る気体還元材の吹込み方法では、主流通孔から酸素を含む気体が高炉に吹き込まれ、副流通孔から気体還元材が吹き込まれる。したがって、気体還元材と酸素を含む気体とが羽口内で混合されず、これにより、羽口内燃焼の抑制が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る高炉用羽口10の断面模式図である。
図2】羽口からの距離とガス濃度との関係を示すグラフである。
図3】フルード数(Fr)と、レースウェイ20の高さ(H)および主流通孔12の内径(D)の比(H/D)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を通じて本発明を詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る高炉用羽口10の断面模式図である。高炉用羽口10は、酸素含有ガス(通常の高炉においては、酸素富化した熱風)を吹込む主流通孔12と、主流通孔12の周囲に設けられ、気体還元材を吹込む副流通孔14とを有する。
【0011】
主流通孔12は、酸素含有ガスを高炉内に吹込む流通孔である。副流通孔14は、主流通孔12とは異なる流通孔であって、気体還元材を高炉内に吹込む流通孔である。主流通孔12から吹込まれる酸素含有ガスとコークスとの燃焼・ガス化反応と、副流通孔14から吹込まれる気体還元材の燃焼・ガス化反応と、によりボッシュガスが生成され、当該ボッシュガスにより高炉用羽口10の前にレースウェイ20が形成される。
【0012】
副流通孔14から吹込まれる気体還元材は、主流通孔12から吹込まれる酸素含有ガスと燃焼反応を起こす。吹き込まれた気体還元材が燃焼する量が多いほどコークスの使用量を削減できるので、気体還元材の燃焼率向上は高炉操業において重要である。気体還元材を高い燃焼率で燃焼させるには、レースウェイに吹込まれた酸素含有ガスに酸素が多く残存する領域に気体還元材を吹込むことが好ましい。
【0013】
そこで、主流通孔12から吹込まれた酸素含有ガスの酸素が残存する位置を確認するために、羽口を有するコークス充填層試験炉を用いてコークスの燃焼試験を実施し、当該試験炉内に形成されたレースウェイ空間に羽口の対面からサンプラーを挿入してガスを採取し、採取したガスの成分濃度を測定した。
【0014】
図2は、羽口からの距離とガス濃度との関係を示すグラフである。図2の横軸は羽口からの距離(m)を計算レースウェイの深度(m)で除した値(-)であり、縦軸はガス濃度(体積%)である。なお、(-)は無次元であることを意味する。
【0015】
図2に示すように、レースウェイ内に吹込まれた酸素含有ガスに酸素が多く残存するのは、主流通孔12の排出口13の位置からレースウェイ深度の0.75となる位置までであり、それより離れると酸素は急激に減少する。したがって、主流通孔12から吹込まれる酸素含有ガスの吹込み方向と副流通孔14から吹込まれる気体還元材の吹込み方向とがなす角度θが下記(1)式を満足することが好ましい。これにより、酸素が多く残存する主流通孔12の排出口13の位置からレースウェイ深度の0.75となる位置までの領域に副流通孔14から気体還元材を吹込むことができ、気体還元材を高い燃焼率で燃焼させることができる。なお、酸素含有ガスや気体還元材が噴流の場合、それぞれの流通孔からの吹込み方向はそれぞれの流通孔の中心軸方向とみなせるので、主流通孔12から吹込まれる酸素含有ガスの吹込み方向と副流通孔14から吹込まれる気体還元材の吹込み方向とがなす角度に代えて、主流通孔12の中心軸と副流通孔14の中心軸とがなす角度を用いてもよい。
【0016】
θ≧tan-1(L/(0.75×D))・・・(1)
上記(1)式で、θは酸素を含む気体の吹方向と気体還元材の吹込み方向とがなす角度(°)であり、Lは主流通孔12の排出口13と、副流通孔14の排出口15との中心間距離(m)であり、Dはレースウェイ20の深度D(m)である。
【0017】
レースウェイ20の深度Dは、非特許文献1に記載されている通り、下記(3)式で算出できる。
【0018】
/D=0.521×(Fr)0.8・・・(3)
上記(3)式で、Dはレースウェイ20の深度D(m)であり、Dは主流通孔の羽口径(m)であり、Frはフルード数(-)である。
【0019】
また、フルード数Frは下記(4)式で算出できる。
【0020】
Fr=(ρf/ρP)1/2×U/(g×d)1/2・・・(4)
上記(3)式で、ρfはボッシュガス密度(kg/m)であり、ρPはコークス粒子の見かけ密度(kg/m)であり、Uはボッシュガス流速(m/sec)であり、dはコークス粒子の調和平均粒径(m)であり、gは重力加速度(=9.81m/sec)である。
【0021】
ボッシュガス流速U(m/sec)は、下記(5)式で算出できる。
【0022】
U=V/(π×D /4)・・・(5)
上記(5)式で、Vは1羽口あたりのボッシュガス流量(m/sec)であり、主流通孔12および副流通孔14からレースウェイ20内に吹込まれた酸素含有ガスおよび気体還元材と、気体還元材および羽口前のコークスがレースウェイ20において燃焼・ガス化反応を起こし、CO、H、Nのみで構成される高温ガスになったとして換算した場合の体積流量である。また、ボッシュガス密度ρfは、上記高温ガスにおけるガス密度である。ボッシュガス流量Vおよびボッシュガス密度ρfは、主流通孔12および副流通孔14から吹込まれる酸素含有ガスと気体還元材の温度、組成、流量およびボッシュガスに変化する際の発熱量、レースウェイ20内の圧力がわかれば算出できる。なお、レースウェイ20内の圧力は、高炉用羽口10を設置した高さに炉内圧力計を設置して得た測定値で代替できる。あるいは、主流通孔12へ吹込む酸素含有ガスの元圧を基準として、高炉用羽口10への流通経路の圧力損失を計算して減じた数値をレースウェイ20内の圧力としてもよい。
【0023】
コークス粒子の見かけ密度ρPは、ルシャテリエ比重瓶法、液中ひょう量法または簡易アルキメデス法を用いて測定できる。また、πは円周率であり、Dは主流通孔12の内径(m)である。
【0024】
このように、本実施形態に係る気体還元材の吹込み方法では、主流通孔12と、主流通孔12の周囲に設けられた副流通孔14とから別々に酸素含有ガスと気体還元材を高炉内に吹込むので、高炉用羽口10内で酸素含有ガスと気体還元材とが混合されず、これにより、羽口内燃焼の発生を抑制できる。そして、羽口内燃焼の発生を抑制することで、羽口の熱損失の増加を抑制できるとともにバーナーと羽口との接続部分からのガス漏れリスクが高くなることも抑制できる。
【0025】
さらに、酸素含有ガスの吹込み方向と気体還元材の吹込み方向とがなす角度θが、上記(1)式を満足するように吹き込むことで、主流通孔12から吹込まれた酸素含有ガスに酸素が残存している領域に気体還元材を吹込むことができる。これにより、気体還元材を高い燃焼率で燃焼させることができ、高炉操業におけるコークス使用量を削減できる。
【0026】
次に、主流通孔12と副流通孔14との距離について説明する。様々な条件におけるレースウェイ20の高さを測定するため、実機の高炉と力学的に相似となる実炉の7.79分の1スケールの小型相似模型を用いて、様々な条件でレースウェイ20の高さを測定した。小型相似模型では、コークスの代わりに直径344mm、密度900kg/mのプラスチック粒子を充填し、酸素含有ガスの代わりに圧縮空気を用いた。主流通孔12の内径を2.8mm~18.0mmの範囲で変化させ、主流通孔12から吹込む圧縮空気量200~3000L/minの範囲で変化させ、それぞれの条件でレースウェイ20の高さを測定した。
【0027】
図3は、フルード数(Fr)と、レースウェイ20の高さ(H)および主流通孔12の内径(D)の比(H/D)との関係を示すグラフである。上述した条件でレースウェイ20の高さHを測定したところ、図3に示すように、フルード数は、レースウェイ20の高さおよび主流通孔12の内径の比と強い相関関係を示すことがわかった。図3から、レースウェイ20の高さおよび主流通孔12の内径の比(H/D)は、フルード数を用いて下記(5)式で表せる。
【0028】
H/D=0.75×Fr0.5・・・(6)
上記(6)式で、Hは主流通孔12の内周端面からのレースウェイ20の高さ(m)である。また、Dは主流通孔12の内径(m)である。
【0029】
上記(4)、(5)、(6)式から、下記(7)式が算出できる。
【0030】
H=0.48×{(ρf×V)/(ρp×d)}1/4・・・(7)
【0031】
副流通孔14から吹込まれる気体還元材をレースウェイ20に速やかに供給するには、主流通孔12の排出口13と副流通孔14の排出口15との中心間距離に、主流通孔12の内径Dの半分を加えた距離が、レースウェイ20の高さH以下になることが好ましい。したがって、下記(8)式を満足することが好ましい。
【0032】
L+1/2D≦0.48×{(ρf×V)/(ρp×d)}1/4・・・(8)
ここで、Lは、主流通孔12の排出口13と副流通孔14の排出口15との中心間距離(m)である。
【0033】
この(8)式から、下記(2)式が導かれる。
【0034】
L≦0.48×{(ρf×V)/(ρp×d)}1/4-1/2D・・・(2)
【0035】
この(2)式を満たすように主流通孔12および副流通孔14を設けることで、副流通孔14から気体還元材をレースウェイ20に速やかに供給できる。一方、上記(2)式を満足しない場合には、副流通孔14の前方にレースウェイ20が形成されていないので、吹込んだ気体還元材はレースウェイ20に供給されづらくなるので好ましくない。
【0036】
なお、主流通孔12から吹込む酸素含有ガスは酸素を50体積%以上含む気体であることが好ましい。酸素を50体積%以上含み気体を吹込むことで気体還元材の燃焼が促進され、高炉操業におけるコークス使用量をさらに削減できる。
【0037】
さらに、副流通孔14から吹込む気体還元材として、Bガス(高炉ガス)、Cガス(コークス炉ガス)、一酸化炭素、水素、メタン、メタノール、ジメチルエーテルおよび天然ガスを用いてよいが、この中でもBガス(高炉ガス)、Cガス(コークス炉ガス)、一酸化炭素、水素、メタン、メタノールおよびジメチルエーテルの少なくとも1つを含むガスを用いることが好ましい。これらのガスは鉄鋼製造過程で副生されるガス、または、副生されるガスから製造されるガスであるので、炭素を鉄鋼製造プロセス内で循環させ、これにより、鉄鋼製造プロセスにより排出されるCOを削減できる。
【実施例
【0038】
次に、本実施形態に係る高炉用羽口が設けられたコークス充填層試験炉を用いて気体還元材として用いたメタンの燃焼性を確認した実施例を説明する。発明例および比較例の操業諸元と、ボッシュガス、コークス、羽口・レースウェイ条件、試験結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
副流通孔からメタンを吹込むと、メタン中の炭素が酸素含有ガス中の酸素と燃焼反応を起こすことで、酸素燃焼によるコークスの消費が抑制される。したがって、コークスの消費量速度を測定することで、コークス充填層試験炉内のメタンの燃焼率を推定できる。すなわち、メタン中のカーボンのCO化率(-)は下記(9)式で算出できる。
【0041】
【数1】
上記(9)式で、ηCH4はメタン中のカーボンのCO化率(-)であり、VCO CH4はボッシュガス内のCOのうちCH由来の流量(Nm/h)であり、VCH4はメタンの吹込み流量(Nm/h)であり、VO2は酸素吹込み流量(Nm/h)であり、VCO cokeはボッシュガス内のCOのうちコークス由来の流量(Nm/h)であり、ycokeはコークス消費速度(kg/h)であり、xcokecはコークス中の炭素の比率(-)であり、xcokeoはコークス中の酸素の比率(-)であり、Mは炭素原子量、Mは酸素原子量である。
【0042】
また、αは下記(10)式に示す標準ガス換算用係数(Nm/mol)である。
【0043】
【数2】
【0044】
コークスの消費速度は炉1羽口熱間模型の炉頂サウンジング設備により、コークスの装入表面の高さの時間変化を測定した。上記(9)式および(10)式を用いて表1の試験結果に示したメタン中炭素のCOガス化率を算出した。
【0045】
また、羽口内燃焼を評価するため、吐出ガス流量の条件を実機スケールに合わせた。その上で粒子とガスの相互作用状態を示す無次元数であるフルード数もおおよそ合致するようにラボ実験諸元を設定した。レースウェイ深度はラボのコークス充填層試験炉で約0.2m、実機約0.8m相当である。羽口内燃焼は羽口内を計測する熱電対と圧力計の表示値の上昇と羽口から生じる音の変化で検出した。
【0046】
発明例1は、主流通孔から酸素を吹込み、主流通孔の上側に設けた副流通孔からメタンを吹込んだ発明例である。このように、酸素とメタンを別の流通孔から吹込んでいるので、羽口内燃焼は発生しなかった。
【0047】
また、発明例1では、上記(1)式の右辺の値は19°である所、主流通孔の中心軸と副流通孔の中心軸とがなす角度θ(°)は20°であり、発明例1は(1)式を満足する。さらに、上記(2)式の右辺の値が0.236mである所、主流通孔の排出口と副流通孔の排出口との中心間距離は0.220mであり、発明例1は(2)式も満足する。このため、発明例1ではメタンを高い燃焼率で燃焼させることができ、メタン中の炭素のCOガス化率は88%と高くなった。
【0048】
発明例2は、発明例1から送風条件を変更した操業例である。発明例2においても主流通孔から酸素を吹込み、主流通孔の上側に設けた副流通孔からメタンを吹込んでいるので、羽口内燃焼は発生しなかった。
【0049】
また、発明例2では、上記(1)式の右辺の値は20°である所、主流通孔の中心軸と副流通孔の中心軸とがなす角度θ(°)は20°であり、発明例2は(1)式を満足する。さらに、上記(2)式の右辺の値が0.263mである所、主流通孔の排出口と副流通孔の排出口との中心間距離は0.220mであり、発明例2は(2)式も満足する。このため、発明例2ではメタンを高い燃焼率で燃焼させることができ、メタン中の炭素のCOガス化率は77%と高くなった。
【0050】
発明例3は、発明例1から主流通孔と副流通孔との中心間距離を変えた操業例である。発明例3においても主流通孔から酸素を吹込み、主流通孔の上側に設けた副流通孔からメタンを吹込んでいるので、羽口内燃焼は発生しなかった。
【0051】
一方、発明例3では、上記(1)式の右辺の値は32°である所、主流通孔の中心軸と副流通孔の中心軸とがなす角度θ(°)は20°であり、発明例3は(1)式を満足しない。さらに、上記(2)式の右辺の値が0.236mである所、主流通孔の排出口と副流通孔の排出口との中心間距離は0.400mであり、発明例2は(2)式も満足しない。このため、発明例3ではメタンを高い燃焼率で燃焼させることができず、メタン中の炭素のCOガス化率は30%と低くなった。
【0052】
発明例4は、発明例1から主流通孔の中心軸と副流通孔の中心軸とがなす角度θを変更した操業例である。発明例4においても主流通孔から酸素を吹込み、主流通孔の上側に設けた副流通孔からメタンを吹込んでいるので、羽口内燃焼は発生しなかった。
【0053】
また、発明例4では、上記(1)式の右辺の値は19°である所、主流通孔の中心軸と副流通孔の中心軸とがなす角度θ(°)は5°であり、発明例2は(1)式を満足しない。さらに、上記(2)式の右辺の値が0.236mである所、主流通孔の排出口と副流通孔の排出口との中心間距離は0.220mであり、発明例4は(2)式を満足する。このため、発明例4ではメタンを高い燃焼率で燃焼させることができず、メタン中の炭素のCOガス化率は32%と低くなった。
【0054】
発明例5は、発明例3から送風条件を変更した操業例である。発明例5においても主流通孔から酸素を吹込み、主流通孔の上側に設けた副流通孔からメタンを吹込んでいるので、羽口内燃焼は発生しなかった。
【0055】
また、発明例5では、上記(1)式の右辺の値は33°である所、主流通孔の中心軸と副流通孔の中心軸とがなす角度θ(°)は20°であり、発明例5は(1)式を満足しない。さらに、上記(2)式の右辺の値が0.263mである所、主流通孔の排出口と副流通孔の排出口との中心間距離は0.400mであり、発明例5は(2)式を満足しない。このため、発明例5ではメタンを高い燃焼率で燃焼させることができず、メタン中の炭素のCOガス化率は10%と低くなった。
【0056】
発明例6は、発明例4から送風条件を変更した操業例である。発明例6においても主流通孔から酸素を吹込み、主流通孔の上側に設けた副流通孔からメタンを吹込んでいるので、羽口内燃焼は発生しなかった。
【0057】
また、発明例6では、上記(1)式の右辺の値は20°である所、主流通孔の中心軸と副流通孔の中心軸とがなす角度θ(°)は5°であり、発明例6は(1)式を満足しない。さらに、上記(2)式の右辺の値が0.263mである所、主流通孔の排出口と副流通孔の排出口との中心間距離は0.220mであり、発明例6は(2)式を満足する。このため、発明例6ではメタンを高い燃焼率で燃焼させることができず、メタン中の炭素のCOガス化率は12%と低くなった。
【0058】
一方、比較例1は、同じ羽口から酸素含有ガスとメタンを吹込んだ操業例である。比較例1では、同じ羽口から酸素含有ガスとメタンとを吹込んでいるので、羽口内で酸素含有ガスとメタンとが予混合され、これにより、羽口内燃焼が発生した。
【0059】
これらの結果から、主流通孔と、主流通孔の周囲に設けられた副流通孔とから別々に酸素含有ガスと気体還元材を高炉内に吹込むことで羽口内燃焼の発生を抑制できることが確認された。また、酸素含有ガスの吹込み方向と気体還元材の吹込み方向とがなす角度θが、上記(1)式を満足するように吹き込むことで、主流通孔12から吹込まれた酸素含有ガスに酸素が残存している領域に気体還元材を吹込むことができ、気体還元材を高い燃焼率で燃焼できることも確認された。
【0060】
さらに、発明例3、5と、発明例4、6との比較から、上記(2)式を満たすように主流通孔および副流通孔を設けることで、気体還元材をレースウェイに速やかに供給でき、気体還元材を高い燃焼率で燃焼できることが確認された。
【符号の説明】
【0061】
10 高炉用羽口
12 主流通孔
13 排出口
14 副流通孔
15 排出口
20 レースウェイ
図1
図2
図3