(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定方法、温度測定装置、及び製造方法
(51)【国際特許分類】
G01J 5/00 20220101AFI20231205BHJP
G01J 5/48 20220101ALI20231205BHJP
C23C 2/28 20060101ALI20231205BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20231205BHJP
C23C 2/40 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
G01J5/00 B
G01J5/00 101B
G01J5/48 E
C23C2/28
C23C2/06
C23C2/40
(21)【出願番号】P 2021082146
(22)【出願日】2021-05-14
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久嶋 希望
(72)【発明者】
【氏名】大野 紘明
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-138163(JP,A)
【文献】特開昭61-079123(JP,A)
【文献】特開2005-233731(JP,A)
【文献】特開昭62-291526(JP,A)
【文献】特開2008-255431(JP,A)
【文献】特開昭63-006428(JP,A)
【文献】特開平06-026935(JP,A)
【文献】特開2011-231397(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2003-0053845(KR,A)
【文献】福高善己 他,放射率自動補正型放射温度計の開発,川崎製鉄技報,1992年,Vol.24, No.1, pp.63-67
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00 - C23C 2/40
G01J 5/00 - G01J 5/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛系溶融めっき鋼板の表面に正反射条件で光を照射したときの正反射光量と前記亜鉛系溶融めっき鋼板の表面に拡散反射条件で光を照射したときの拡散反射光量とに基づいて前記亜鉛系溶融めっき鋼板の表面の放射率を算出する放射率算出ステップと、
前記亜鉛系溶融めっき鋼板の表面の赤外線画像を撮影する撮像ステップと、
前記放射率算出ステップにおいて算出された放射率と前記撮像ステップにおいて撮影された赤外線画像とを用いて、前記亜鉛系溶融めっき鋼板の表面温度を測定する温度測定ステップと、を含
み、
前記放射率算出ステップは、正反射率が閾値以上である場合、放射率を固定値とし、正反射率が閾値以下である場合には、放射率と拡散反射率及び正反射率との関係を示すモデルと拡散反射光量を用いて放射率を推定する、ことを特徴とする亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定方法。
【請求項2】
前記温度測定ステップは、前記亜鉛系溶融めっき鋼板の幅方向の表面温度分布を測定するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定方法。
【請求項3】
前記放射率算出ステップは、前記亜鉛系溶融めっき鋼板の幅方向の複数個所の放射率を算出するステップを含むことを特徴とする請求項2に記載の亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定方法。
【請求項4】
前記放射率算出ステップは、前記亜鉛系溶融めっき鋼板の幅方向に沿って測定装置を走査させることにより前記亜鉛系溶融めっき鋼板の幅方向の複数個所の放射率を算出するステップを含むことを特徴とする請求項3に記載の亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定方法。
【請求項5】
前記温度測定ステップは、前記亜鉛系溶融めっき鋼板の搬送速度を用いて前記亜鉛系溶融めっき鋼板の表面温度を測定するステップを含むことを特徴とする請求項1~4のうち、いずれか1項に記載の亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定方法。
【請求項6】
前記亜鉛系溶融めっき鋼板は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板であることを特徴とする請求項1~5のうち、いずれか1項に記載の亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定方法。
【請求項7】
亜鉛系溶融めっき鋼板の表面に正反射条件で光を照射したときの正反射光量と前記亜鉛系溶融めっき鋼板の表面に拡散反射条件で光を照射したときの拡散反射光量とに基づいて前記亜鉛系溶融めっき鋼板の表面の放射率を算出する放射率測定手段と、
前記亜鉛系溶融めっき鋼板の表面の赤外線画像を撮影する撮像手段と、
前記放射率測定手段によって算出された放射率と前記撮像手段によって撮影された赤外線画像とを用いて、前記亜鉛系溶融めっき鋼板の表面温度を測定する温度測定手段と、
を備え
、
前記放射率測定手段は、正反射率が閾値以上である場合、放射率を固定値とし、正反射率が閾値以下である場合には、放射率と拡散反射率及び正反射率との関係を示すモデルと拡散反射光量を用いて放射率を推定する、ことを特徴とする亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定装置。
【請求項8】
請求項1~6のうち、いずれか1項に記載の亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定方法を用いて亜鉛系溶融めっき鋼板の表面温度を測定しながら亜鉛系溶融めっき鋼板を製造する製造ステップを含むことを特徴とする亜鉛系溶融めっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記製造ステップは、亜鉛系溶融めっき鋼板の表面温度に基づき該亜鉛系溶融めっき鋼板を加熱する電磁誘導加熱装置の出力を制御するステップを含むことを特徴とする請求項8に記載の亜鉛系溶融めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定方法、温度測定装置、及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼プロセスにおける亜鉛系溶融めっきラインでは、材質の作り込み及びめっきの品質管理において鋼板温度の管理が非常に重要な作業である。特に亜鉛系溶融めっき付着後に鋼板を加熱する合金化過程では、鋼板温度が高すぎるとパウダリングが発生し、鋼板温度が低すぎると合金化が不十分になる。このため、亜鉛系溶融めっきラインでは、非常に厳格な鋼板温度管理が求められている。
【0003】
ここで、鋼板の加熱方法としては、電磁誘導加熱(以下、IHと表記)がある。また、その温度管理の方法としては、IHの出力と鋼板の搬送速度とを用いた電熱計算やシミュレーションにより加熱直後の鋼板温度を計算する方法がある。ところが、この方法では、鋼板の厚みやパスラインのわずかなばらつきによって鋼板温度の計算結果がばらつくことがある。このため、やはり重要なのが鋼板温度を直接測定することである。
【0004】
しかしながら、合金化過程の亜鉛系溶融めっき鋼板の表面には溶融した亜鉛系めっきが付着していることがあり、搬送中の鋼板に接触して鋼板温度を測定することは困難であるために、非接触で鋼板温度を測定することが求められる。そこで、一般に、鋼板温度の測定には放射測温法が用いられている。放射測温法とは、測定対象物が放射する赤外線を用いて測定対象物の温度を測定する方法である。
【0005】
但し、放射測温法を用いて温度を測定する場合、測定対象物の放射率の設定が重要となる。ここで、放射率とは、測定対象物が赤外線を放射する割合である。測定対象物毎に正しい放射率を設定しないと測定対象物の温度を精度よく測定することができない。このような背景から、放射率の補正方法が提案されている。
【0006】
具体的には、特許文献1には、環境放射温度をステップ状に変化させながら撮影した画像を用いて、各画素の放射率及び放射率補正された表面温度を算出する方法が記載されている。また、特許文献2には、試料を異なる2つの温度に加熱し温度が安定したときの過去温度データを使用して放射率を測定して表面温度に反映させる方法が記載されている。また、特許文献3には、測定した温度に応じて予め設定した複数の指定温度範囲に区切って放射率を補正する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平5-296846号公報
【文献】特許第2895587号公報
【文献】特開平1-314930号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】鉄と鋼 79(7),772-778,1993
【文献】鉄と鋼 86(3),160-165,2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図7を参照して、合金化過程における鋼板の表面形状の変化について説明する(詳しくは非特許文献1,2参照)。
図7(a)に示すように、加熱前の鋼板は地鉄100と亜鉛系めっき101との2層から構成されている。この状態で鋼板の表面が加熱されると、
図7(b)に示すように、亜鉛系めっき101の最表面が溶融する。これにより、鋼板表面の正反射率は増加するのに対して、鋼板表面の拡散反射率は低下する。次に、
図7(c)に示すように、地鉄100と亜鉛系めっき101の界面付近に合金化結晶102が生成されることによって鋼板表面が押し上げられて微細化する。これにより、鋼板表面の正反射率は低下するのに対して、鋼板表面の拡散反射率が増加する。そして最後に、
図7(d)に示すように、合金化結晶がさらに形成され、表面を含む亜鉛系めっき全体が合金化される。これにより、鋼板表面の拡散反射率は低下する。このように鋼板表面に合金化結晶102が生成されるまでの間は、表面に微細凹凸が形成されることによって放射率が変化する。従って、鋼板温度を精度よく測定するためには放射率をリアルタイムで補正する必要がある。
【0010】
しかしながら、特許文献1~3に記載の方法では、放射率をリアルタイムで補正することは困難である。すなわち、特許文献1に記載の方法では、環境放射温度をステップ状に変化させる必要がある。ところが、亜鉛系溶融めっき鋼板の合金化過程では、鋼板温度はIHの熱量及び搬送速度に依存する。従って、単一の項目を変化させるだけで放射率を測定することは困難であり、変化させる項目を多くする必要がある。そのため、合金化過程の温度測定の補正には不向きである。一方、特許文献2に記載の方法では、同視野で2種類以上の異なる温度で試料を測定する必要がある。しかしながら、搬送されている鋼板を測定する視野内に同じ試料を設置することは困難である。さらに、搬送速度を再現して測定対象物と温度のみが異なる条件を作成することは困難である。また、特許文献3に記載の方法では、測定範囲内の放射率ムラや測定対象の放射率が既知であることを前提としている。ところが、合金過程における鋼板の放射率は、前述の通り合金化の進捗によって時々刻々と変化しており、予め放射率を決め打ちして補正することは困難である。
【0011】
なお、鉄鋼プロセスで用いられる放射温度計の多くは、スポット式であり、鋼板上の一点の温度を測定する仕様である。ところが、鋼板温度は幅方向に一様ではなく、加熱状況によって幅方向に温度ムラが発生する。このため、広範囲の鋼板温度を測定したい需要もある。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、放射率をリアルタイムで補正しながら合金化過程の鋼板の表面温度を広範囲で測定可能な亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定方法及び温度測定装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、鋼板の表面温度を精度よく管理しながら歩留まりよく亜鉛系溶融めっき鋼板を製造可能な亜鉛系溶融めっき鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定方法は、亜鉛系溶融めっき鋼板の表面に正反射条件で光を照射したときの正反射光量と前記亜鉛系溶融めっき鋼板の表面に拡散反射条件で光を照射したときの拡散反射光量とに基づいて前記亜鉛系溶融めっき鋼板の表面の放射率を算出する放射率算出ステップと、前記亜鉛系溶融めっき鋼板の表面の赤外線画像を撮影する撮像ステップと、前記放射率算出ステップにおいて算出された放射率と前記撮像ステップにおいて撮影された赤外線画像とを用いて、前記亜鉛系溶融めっき鋼板の表面温度を測定する温度測定ステップと、を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定方法は、上記発明において、前記温度測定ステップは、前記亜鉛系溶融めっき鋼板の幅方向の表面温度分布を測定するステップを含むことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定方法は、上記発明において、前記放射率算出ステップは、前記亜鉛系溶融めっき鋼板の幅方向の複数個所の放射率を算出するステップを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明に係る亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定方法は、上記発明において、前記放射率算出ステップは、前記亜鉛系溶融めっき鋼板の幅方向に沿って測定装置を走査させることにより前記亜鉛系溶融めっき鋼板の幅方向の複数個所の放射率を算出するステップを含むことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定方法は、上記発明において、前記温度測定ステップは、前記亜鉛系溶融めっき鋼板の搬送速度を用いて前記亜鉛系溶融めっき鋼板の表面温度を測定するステップを含むことを特徴とする。
【0018】
本発明に係る亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定方法は、上記発明において、前記亜鉛系溶融めっき鋼板は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板であることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定装置は、亜鉛系溶融めっき鋼板の表面に正反射条件で光を照射したときの正反射光量と前記亜鉛系溶融めっき鋼板の表面に拡散反射条件で光を照射したときの拡散反射光量とに基づいて前記亜鉛系溶融めっき鋼板の表面の放射率を算出する放射率測定手段と、前記亜鉛系溶融めっき鋼板の表面の赤外線画像を撮影する撮像手段と、前記放射率測定手段によって算出された放射率と前記撮像手段によって撮影された赤外線画像とを用いて、前記亜鉛系溶融めっき鋼板の表面温度を測定する温度測定手段と、を備えることを特徴とする。
【0020】
本発明に係る亜鉛系溶融めっき鋼板の製造方法は、本発明に係る亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定方法を用いて亜鉛系溶融めっき鋼板の表面温度を測定しながら亜鉛系溶融めっき鋼板を製造する製造ステップを含むことを特徴とする。
【0021】
本発明に係る亜鉛系溶融めっき鋼板の製造方法は、上記発明において、前記製造ステップは、亜鉛系溶融めっき鋼板の表面温度に基づき該亜鉛系溶融めっき鋼板を加熱する電磁誘導加熱装置の出力を制御するステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定方法及び温度測定装置によれば、放射率をリアルタイムで補正しながら合金化過程の鋼板の表面温度を広範囲で測定することができる。また、本発明に係る亜鉛系溶融めっき鋼板の製造方法によれば、鋼板の表面温度を精度よく管理しながら歩留まりよく亜鉛系溶融めっき鋼板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態である亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定装置の構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、放射率を用いた表面温度の測定方法を説明するための図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す放射率測定装置の構成を示す模式図である。
【
図4】
図4は、鋼板の放射率と正反射率及び拡散反射率との関係を求めるための実験装置の構成を示す模式図である。
【
図5】
図5は、鋼板の放射率と正反射率及び拡散反射率との関係の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施例を示す模式図である。
【
図7】
図7は、合金化過程における鋼板の表面形状の変化を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定方法、温度測定装置、及び製造方法について説明する。
【0025】
〔温度測定装置の構成〕
まず、
図1及び
図2を参照して、本発明の一実施形態である亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定装置の構成について説明する。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態である亜鉛系鍍金鋼板の温度測定装置の構成を示す模式図である。
図1に示すように、本発明の一実施形態である亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定装置1は、合金化過程における亜鉛系溶融めっき鋼板(以下、鋼板と略記)Sの表面温度を測定する装置であり、放射率測定装置2、サーモグラフィ3、演算装置4、及び表示装置5を主な構成要素として備えている。放射率測定装置2、サーモグラフィ3、及び演算装置4はそれぞれ、本発明に係る放射率測定手段、撮像手段、及び温度測定手段として機能する。
【0027】
放射率測定装置2は、合金化過程における鋼板Sの放射率をリアルタイムで測定し、測定された放射率を示す電気信号を演算装置4に出力する。本実施形態では、
図2(a)に示すように、放射率測定装置2は、搬送されてくる鋼板Sの幅方向1点の放射率を測定し、測定された放射率を示す電気信号を演算装置4に出力する。放射率測定装置2の詳細については後述する。
【0028】
サーモグラフィ3は、鋼板Sの赤外線画像を撮影し、画像信号をデジタル変換した後に演算装置4に出力する。合金化過程における鋼板Sの温度は450~550℃程度であるため、サーモグラフィ3としては高波長の信号を検出可能な素子を有するものが望ましい。サーモグラフィ3によれば、鋼板表面の広範囲の赤外線画像を撮影することができる。
【0029】
演算装置4は、放射率測定装置2から出力された鋼板Sの放射率及びサーモグラフィ3によって撮影された鋼板Sの赤外線画像を用いて鋼板Sの表面温度を算出する。例えば鋼板Sの搬送速度が60mpmである場合、演算装置4は、鋼板Sが1m進む毎に鋼板Sの表面温度を算出する。また、
図2(a)に示すように放射率測定装置2が鋼板Sの幅方向1点の放射率を測定する場合、演算装置4は、放射率を測定した点Anについては測定された放射率を用いて表面温度を算出し、放射率を測定していない点An’については同じ幅方向位置の点Anの放射率を用いて表面温度を算出する。これにより、リアルタイムに測定した放射率を用いて鋼板Sの幅方向の表面温度分布を測定できる。そして、演算装置4は、算出された鋼板Sの表面温度に関する情報を液晶ディスプレイ等の表示装置5に可視表示する。
【0030】
なお、表面温度の測定箇所によっては、放射率測定装置2とサーモグラフィ3との間に距離があるため、即時の出力を用いて表面温度を計算した距離の違いによる温度差が発生することがある。そこで、鋼板Sの搬送速度に応じて表面温度の計算位置を補正することが望ましい。具体的には、予め放射率測定装置2とサーモグラフィ3との間の距離Lを設定しておき、演算装置4は、以下に示す数式(1)を用いて距離Lと鋼板Sの搬送速度LSから補正時間tを計算する。そして、演算装置4は、補正時間tに応じた放射率を用いて赤外線画像から鋼板Sの表面温度を計算する。但し、鋼板Sの搬送速度と装置間の距離を用いた補正方法は他にも多数提案されているので、正しく計算位置が決まる方法であればどのような方法でも構わない。
【0031】
【0032】
また、
図1に示す構成では、放射率測定装置2の鋼板Sの搬送方向下流側にサーモグラフィ3が設置されているが。放射率測定装置2の鋼板Sの搬送方向上流側にサーモグラフィ3を設置する場合も同様の方法で鋼板Sの表面温度を測定できる。また、放射率測定装置2の台数を増やしても構わない。
図2(b)に示すように鋼板Sの幅方向に放射率測定装置2を2台(放射率測定装置A,B)設置する場合、2点の放射率を測定する。この際、予めサーモグラフィ3の測定幅内でどちらの放射率測定装置2の測定結果を使用するか定めておく。例として、鋼板中心から右手側は右側に設置した放射率測定装置2によって測定された放射率を用い、左手側は左側に設置した放射率測定装置2によって測定された放射率を用いるようにする。さらに必要に応じて、放射率測定装置を幅方向に走査させてもよい。その場合は放射率測定装置の測定位置に応じて、放射率を変更する。例として、
図2(c)に示すように放射率測定装置2は幅方向の5点のデータを測定し、測定点以外の放射率は同じ幅方向位置の放射率を用いる。
【0033】
〔放射率測定装置の構成〕
次に、
図3及び
図4を参照して、放射率測定装置2の構成について詳しく説明する。
【0034】
図3は、
図1に示す放射率測定装置2の構成を示す模式図である。
図3に示すように、放射率測定装置2は、正反射用光源21、拡散反射用光源22、放射温度計23、及び演算装置24を備えている。
【0035】
正反射用光源21は、鋼板Sの表面に正反射条件で照明光L1を照射する。拡散反射用光源22は、鋼板Sの表面に拡散反射条件で照明光L2を照射する。なお、拡散反射条件は正反射条件から45°以上異なる角度にすることが望ましい。また、正反射用光源21及び拡散反射用光源22の点灯/消灯を電源又はシャッター25等で切り替えできるようにするとよい。
【0036】
放射温度計23は、鋼板Sの表面画像を撮影し、画像信号を演算装置24に出力する。なお、放射温度計23は、正反射用光源21の投光角と放射温度計23の受光角とを一致させるために鋼板Sの表面に対して垂直になるように設置することはできないが、設置できる範囲内でなるべく鋼板Sの表面に対して垂直になるように設置することが望ましい。
【0037】
演算装置24は、放射温度計23から出力された鋼板の表面画像を用いて鋼板Sの放射率を算出し、算出された放射率を示す電気信号を演算装置4に出力する。具体的には、放射率の算出にあたっては、まず、鋼板Sの放射率と正反射率及び拡散反射率との関係を予めモデル化しておく。鋼板Sの放射率と正反射率及び拡散反射率との関係は、例えば
図4に示すような実験装置により実際に鋼板Sを加熱した時の正反射光量及び拡散反射光量を計測することによってモデル化できる。以下、
図4に示す実験装置の構成とモデル化の手順について述べる。
【0038】
図4に示す実験装置を用いて鋼板Sの放射率と正反射率及び拡散反射率との関係をモデル化する際は、まず、合金化前の鋼板Sの表面に熱電対31を溶接し、さらに鋼板Sの表面の一部に黒体スプレー32を塗布する。次に、鋼板S全体を均一に加熱可能なヒーター33の上に鋼板Sを載置する。鋼板Sの加熱方法は鋼板Sを均一に加熱できれば伝熱、IH加熱、及び通電加熱のいずれでもよいが、熱電対31を溶接している場合にはIH加熱時や通電加熱時に温度計測に影響が出ないように工夫する必要がある。
【0039】
次に、鋼板Sの放射率と拡散反射率及び正反射率との関係を示すモデルを生成する。具体的には、鋼板Sを徐々に加熱しながら以下の過程(a)~(e)を繰り返し実行する。取得したデータはロガー34に記録する。
【0040】
(a)正反射用光源21及び拡散反射用光源22を消灯又はシャッターを閉じて鋼板Sの表面画像を撮像することにより鋼板Sの放射光量を算出する。
(b)正反射用光源21のみ点灯又はシャッターを開けて鋼板Sの表面画像を撮像することにより鋼板Sの正反射光量と放射光量との和を取得する。
(c)拡散反射用光源22のみ点灯又はシャッターを開けて鋼板Sの表面画像を撮像することにより鋼板Sの拡散反射光量と放射光量との和を取得する。
(d)過程(b),(c)で取得したそれぞれの光量から過程(a)で取得した光量を減算することにより鋼板Sの正反射光量及び拡散反射光量を算出する。この時、表面画像の撮像毎で露光時間が異なる場合には、露光時間の違いによる光量の差を加味して補正を実施する。
(e)熱電対31によって計測された表面温度と校正された放射温度計23によって計測された表面温度とを比較する、もしくは、放射温度計23がラインセンサ又はエリアセンサであれば放射率成分を黒体スプレー32を塗布した箇所の放射率と比較することにより、鋼板Sの放射率を算出する。そして、過程(d)において算出された鋼板Sの正反射光量及び拡散反射光量と過程(e)において算出された鋼板Sの放射率とを関連付けする。
【0041】
なお、露光時間と計測時間を加味して、過程(a)~(c)において概同一の鋼板Sの表面状態を撮像できるように加熱速度を設定することが好ましい。これにより、例えば
図5(a),(b)に示すような、鋼板Sの加熱温度の範囲内において、鋼板Sの表面の放射率と正反射率及び拡散反射率との関係を示すモデルを作成することができる。
【0042】
図5(a),(b)はそれぞれ、上記のモデル化の手順によって得られた鋼板Sの放射率と正反射率(正反射輝度値)及び拡散反射率(拡散反射輝度値)との関係の一例を示す。
図5(a),(b)に示すように、鋼板Sの表面状態は、加熱に応じて徐々に鏡面性が低下しほぼ完全拡散面まで拡散性が高くなるステップS1と、完全拡散面になった状態から徐々に拡散反射率が低下していくステップS2との2つの過程で構成されていることがわかる。このモデルによれば、鋼板Sの表面の正反射率と拡散反射率を計測することによって鋼板Sの放射率を精度よく推定できることがわかる。
【0043】
鋼板Sの放射率の推定方法の具体例としては、次のような方法がある。まず、鋼板Sの表面状態がステップS1とステップS2のどちらの過程に分類されるかを決定し、その後各過程内でモデル(
図5(a),(b)に示す特性曲線)上の座標位置を算出する。例えば最も簡単な方法としては、正反射率に閾値を設け、正反射率が閾値以上であればステップS1の過程、閾値以下であればステップS2の過程に分類する。そして、ステップS1の過程であれば、放射率はほとんど変動しないので放射率を固定値(およそ0.2)とし、ステップS2の過程であれば、拡散反射光量の値からモデル上の座標位置及び放射率を推定する。その他、モデル上の最適な座標位置を決定する手法は数多く提案されているので、正しく合金化過程の座標位置が求まるのであればどのような手法でもよい。実際の製造ラインでも同様に正反射率(正反射輝度値)及び拡散反射率(拡散反射輝度値)を連続的に計測することにより、リアルタイムに放射率を推定することができる。
【0044】
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態である亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定装置によれば、亜鉛系溶融めっき鋼板の表面に正反射条件で光を照射したときの正反射光量と亜鉛系溶融めっき鋼板の表面に拡散反射条件で光を照射したときの拡散反射光量とに基づいて亜鉛系溶融めっき鋼板の表面の放射率を算出し、亜鉛系溶融めっき鋼板の表面の赤外線画像を撮影し、放射率と撮赤外線画像とを用いて、亜鉛系溶融めっき鋼板の表面温度を測定する。これにより、放射率をリアルタイムで補正しながら合金化過程の亜鉛系溶融めっき鋼板の表面温度を広範囲で測定することができる。また、この温度測定方法を用いて亜鉛系溶融めっき鋼板の表面温度を測定しながら亜鉛系溶融めっき鋼板を製造することにより、鋼板温度を精度よく管理しながら歩留まりよく亜鉛系溶融めっき鋼板を製造することができる。なお、亜鉛系溶融めっき鋼板の表面温度に基づき亜鉛系溶融めっき鋼板を加熱する電磁誘導加熱装置の出力(IH出力)を制御することが望ましい。具体的には、亜鉛系溶融めっき鋼板の合金化温度とIH出力との関係を示すモデルを予め作成、設定しておき、測定された合金化温度に対応するモデルのIH出力に従って電磁誘導加熱装置を制御するとよい。これにより、さらに歩留まりよく亜鉛系溶融めっき鋼板を製造することができる。
【実施例】
【0045】
図6に本発明の実施例を示す。本実施例では、亜鉛系溶融めっきラインの合金化炉の出側に放射率測定装置2とサーモグラフィ3を設置した。放射率測定装置2は鋼板Sの幅方向中央部1点の放射率を測定するように設置した。サーモグラフィ3は放射率測定装置2より鋼板Sの搬送方向下流側約3mの場所に設置した。測定対象の鋼板温度は約400~600℃程度である。そこで、サーモグラフィ3の測定波長は1~1.5μmの範囲とした。また、測定範囲は横幅約1000mm×長手約1500mmとした。放射率測定装置2は、
図3の構成に基づいた装置を使用した。放射率を固定値として鋼板Sの表面温度を測定した場合、搬送中に鋼板Sの放射率が変化することによって鋼板Sの表面温度を精度よく測定できなかった。これに対して、本発明のように放射率をリアルタイムで補正しながら鋼板Sの表面温度を測定することにより、鋼板Sの表面温度を精度よく測定できた。
【0046】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0047】
1 亜鉛系溶融めっき鋼板の温度測定装置
2 放射率測定装置
3 サーモグラフィ
4 演算装置
5 表示装置
21 正反射用光源
22 拡散反射用光源
23 放射温度計
24 演算装置
25 シャッター
31 熱電対
32 黒体スプレー
33 ヒーター
34 ロガー
100 地鉄
101 亜鉛系めっき
102 合金化結晶
L1,L2 照明光
S 鋼板