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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/10 20120101AFI20231205BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20231205BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20231205BHJP
   B60K 6/52 20071001ALI20231205BHJP
   B60W 20/40 20160101ALI20231205BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20231205BHJP
   B60W 10/26 20060101ALI20231205BHJP
   B60W 20/10 20160101ALI20231205BHJP
   B60K 6/365 20071001ALI20231205BHJP
   B60K 6/50 20071001ALI20231205BHJP
   B60K 17/35 20060101ALI20231205BHJP
   B60K 17/356 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
B60W10/10 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/547
B60K6/52
B60W20/40
B60W10/06 900
B60W10/26 900
B60W20/10
B60K6/365
B60K6/50
B60K17/35 B
B60K17/356 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021094771
(22)【出願日】2021-06-04
(65)【公開番号】P2022186506
(43)【公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】田端 淳
(72)【発明者】
【氏名】奥田 弘一
(72)【発明者】
【氏名】高以良 幸司
(72)【発明者】
【氏名】牧野 有記
(72)【発明者】
【氏名】宝満 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】秋山 陽祐
(72)【発明者】
【氏名】伊地知 彬
(72)【発明者】
【氏名】臼井 公二彦
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-246056(JP,A)
【文献】特開2006-117084(JP,A)
【文献】特開2004-350362(JP,A)
【文献】特開平09-327103(JP,A)
【文献】米国特許第05547433(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-20/50
B60K 6/20- 6/547
B60K 17/35
B60K 17/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン及び第1回転電機を有する動力源と、前記動力源からの動力が入力されるとともに前輪及び後輪の一方に動力を出力する第1出力軸と、前記前輪及び前記後輪の他方に動力を出力する第2出力軸と、前記第1出力軸に入力された前記動力源からの動力の一部を前記第2出力軸に分配する動力分配装置と、制御装置と、を有する車両用駆動装置において、
前記動力分配装置は、第2回転電機と、前記第2回転電機が接続された第1回転要素、前記第1出力軸が接続された第2回転要素、及び前記第2出力軸が接続された第3回転要素を有する差動装置と、を備えており、前記第2回転電機の発電トルクによって前記第1回転要素に反力が加えられることにより、前記動力源から前記第1出力軸に入力された動力の一部が前記第2出力軸に分配されるように構成されており、
前記制御装置は、前記第1出力軸及び前記第2出力軸に対する動力分配比が目標分配比となるように前記第2回転電機の前記発電トルクを制御する発電制御を行なうとともに、前記発電トルクに拘らず要求駆動トルクが得られるように前記エンジン及び前記第1回転電機を含む前記動力源の総トルクを制御するトルクスプリット制御部を備えており、
前記トルクスプリット制御部は、前記エンジンの運転状態が燃費最適状態に近付くように、前記発電制御によって得られた発電電力の一部又は全部を、蓄電装置を介することなく前記第1回転電機に供給して該第1回転電機を駆動する電力消費制御部を有する
ことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
前記トルクスプリット制御部は、前記発電電力の全部を前記蓄電装置に充電する充電制御部を備えており、該充電制御部による制御を行なうか前記電力消費制御部による制御を行なうかを前記エンジンの運転状態に基づいて選択する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記トルクスプリット制御部は、前記発電電力の一部又は全部を前記第1回転電機に供給して該第1回転電機を駆動することにより、前記エンジンの運転状態を燃費最適状態に近付けることができるか否かを判断し、該燃費最適状態に近付けることができる場合には前記電力消費制御部による制御を選択し、該燃費最適状態に近付けることができない場合には前記充電制御部による制御を選択する
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記トルクスプリット制御部は、前記蓄電装置の充電状態値が予め定められた判定値を超えているか否かを判断し、該判定値を超えている場合には、前記エンジンの運転状態に基づく選択を行なうことなく、前記発電電力の全部を前記蓄電装置を介することなく前記第1回転電機に供給して該第1回転電機を駆動する
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記電力消費制御部は、前記発電電力を前記第1回転電機に供給して該第1回転電機を駆動することにより、前記エンジンの運転状態を燃費最適状態に近付けることができる場合に、前記発電電力の一部が残る場合は、その余剰電力を前記蓄電装置に充電する
ことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用駆動装置に係り、特に、動力源から第1出力軸に入力された動力の一部を第2出力軸に分配する動力分配装置を有する車両用駆動装置のエネルギー効率を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) エンジン及び第1回転電機を有する動力源と、(b) 前記動力源からの動力が入力されるとともに前輪及び後輪の一方に動力を出力する第1出力軸と、(c) 前記前輪及び前記後輪の他方に動力を出力する第2出力軸と、(d) 前記第1出力軸に入力された前記動力源からの動力の一部を前記第2出力軸に分配する動力分配装置と、(e) 制御装置と、を有する車両用駆動装置が知られている。特許文献1に記載の装置はその一例であり、上記動力分配装置として、(d-1) 第2回転電機と、(d-2) 前記第2回転電機が接続された第1回転要素、前記第1出力軸が接続された第2回転要素、及び前記第2出力軸が接続された第3回転要素を有する差動装置と、を備えており、(d-3) 前記第2回転電機のトルクによって前記第1回転要素に反力が加えられることにより、前記動力源から前記第1出力軸に入力された動力の一部が前記第2出力軸に分配されるものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-246056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記動力分配装置の第2回転電機に発電トルク(回生トルクとも言われる)を発生させて第1回転要素の反力を制御する場合、第2回転電機の発電制御によって得られた発電電力は蓄電装置に充電され、走行状況に応じて蓄電装置から取り出されて第1回転電機のトルク制御等に用いられるのが普通である。しかしながら、このように蓄電装置を介して電力の授受が行なわれると、充放電の際に電力損失が生じるため、装置全体のエネルギー効率を向上させる上で改善の余地があった。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、第2回転電機の発電トルクで差動装置に反力を加えて動力分配する場合に、車両用駆動装置全体としてのエネルギー効率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、エンジン及び第1回転電機を有する動力源と、前記動力源からの動力が入力されるとともに前輪及び後輪の一方に動力を出力する第1出力軸と、前記前輪及び前記後輪の他方に動力を出力する第2出力軸と、前記第1出力軸に入力された前記動力源からの動力の一部を前記第2出力軸に分配する動力分配装置と、制御装置と、を有する車両用駆動装置において、(a) 前記動力分配装置は、(a-1) 第2回転電機と、(a-2) 前記第2回転電機が接続された第1回転要素、前記第1出力軸が接続された第2回転要素、及び前記第2出力軸が接続された第3回転要素を有する差動装置と、を備えており、(a-3) 前記第2回転電機の発電トルクによって前記第1回転要素に反力が加えられることにより、前記動力源から前記第1出力軸に入力された動力の一部が前記第2出力軸に分配されるように構成されており、(b) 前記制御装置は、前記第1出力軸及び前記第2出力軸に対する動力分配比が目標分配比となるように前記第2回転電機の前記発電トルクを制御する発電制御を行なうとともに、前記発電トルクに拘らず要求駆動トルクが得られるように前記エンジン及び前記第1回転電機を含む前記動力源の総トルクを制御するトルクスプリット制御部を備えており、(c) 前記トルクスプリット制御部は、前記エンジンの運転状態が燃費最適状態に近付くように、前記発電制御によって得られた発電電力の一部又は全部を、蓄電装置を介することなく前記第1回転電機に供給してその第1回転電機を駆動する電力消費制御部を有することを特徴とする。
【0007】
第2発明は、第1発明の車両用駆動装置において、前記トルクスプリット制御部は、前記発電電力の全部を前記蓄電装置に充電する充電制御部を備えており、その充電制御部による制御を行なうか前記電力消費制御部による制御を行なうかを前記エンジンの運転状態に基づいて選択することを特徴とする。
【0008】
第3発明は、第2発明の車両用駆動装置において、前記トルクスプリット制御部は、前記発電電力の一部又は全部を前記第1回転電機に供給してその第1回転電機を駆動することにより、前記エンジンの運転状態を燃費最適状態に近付けることができるか否かを判断し、その燃費最適状態に近付けることができる場合には前記電力消費制御部による制御を選択し、その燃費最適状態に近付けることができない場合には前記充電制御部による制御を選択することを特徴とする。
【0009】
第4発明は、第2発明又は第3発明の車両用駆動装置において、前記トルクスプリット制御部は、前記蓄電装置の充電状態値が予め定められた判定値を超えているか否かを判断し、その判定値を超えている場合には、前記エンジンの運転状態に基づく選択を行なうことなく、前記発電電力の全部を前記蓄電装置を介することなく前記第1回転電機に供給してその第1回転電機を駆動することを特徴とする。
【0010】
第5発明は、第1発明~第4発明の何れかの車両用駆動装置において、前記電力消費制御部は、前記発電電力を前記第1回転電機に供給してその第1回転電機を駆動することにより、前記エンジンの運転状態を燃費最適状態に近付けることができる場合に、前記発電電力の一部が残る場合は、その余剰電力を前記蓄電装置に充電することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このような車両用駆動装置においては、動力分配比が目標分配比になるように第2回転電機の発電トルクを制御する発電制御を行なうとともに、発電トルクに拘らず要求駆動トルクが得られるように動力源の総トルクを制御するトルクスプリット制御部が、エンジンの運転状態が燃費最適状態に近付くように、発電制御によって得られた発電電力の一部又は全部を、蓄電装置を介することなく第1回転電機に供給してその第1回転電機を駆動する電力消費制御部を有する。このため、発電制御によって得られた発電電力を常に蓄電装置に充電する場合に比較して、蓄電装置の充放電に起因する電力損失が低減され、装置全体のエネルギー効率が向上する。また、エンジンの運転状態が燃費最適状態に近付くように、発電電力を用いて第1回転電機が駆動されるため、エンジンの燃費が向上し、この点も装置全体のエネルギー効率の向上に寄与する。
【0012】
第2発明は、発電制御によって得られた発電電力の全部を蓄電装置に充電する充電制御部を備えている場合で、その充電制御部による制御を行なうか電力消費制御部による制御を行なうかをエンジンの運転状態に基づいて選択するため、エンジンの運転状態に応じて電力消費制御部による制御が適切に実行されるようになり、その電力消費制御部による制御の実行で装置全体のエネルギー効率を向上させることができる。
【0013】
第3発明では、発電制御によって得られた発電電力の一部又は全部を第1回転電機に供給して第1回転電機を駆動することによりエンジンの運転状態を燃費最適状態に近付けることができるか否かを判断し、燃費最適状態に近付けることができる場合には電力消費制御部による制御を選択するため、エンジンの運転状態に応じて電力消費制御部による制御が適切に実行されるようになり、その電力消費制御部による制御の実行で装置全体のエネルギー効率を向上させることができる。
【0014】
第4発明は、蓄電装置の充電状態値が予め定められた判定値を超えている場合には、エンジンの運転状態に基づく選択を行なうことなく、発電制御によって得られた発電電力の全部を蓄電装置を介することなく第1回転電機に供給して第1回転電機を駆動するため、蓄電装置の充放電や満充電に起因する電力損失が抑制される。
【0015】
第5発明は、発電制御によって得られた発電電力を第1回転電機に供給して第1回転電機を駆動することによりエンジンの運転状態を燃費最適状態に近付けることができる場合に、発電電力の一部が残る場合は、その余剰電力を蓄電装置に充電するため、エンジンの運転状態を確実に燃費最適状態に近付けて装置全体のエネルギー効率を適切に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明が適用される車両用駆動装置の概略構成を説明する図であると共に、車両用駆動装置における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図2図1のハイブリッド用トランスミッション(HV用T/M)の概略構成を説明する図である。
図3図2の自動変速機の複数のATギヤ段とそれに用いられる係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動係合表である。
図4図1のトランスファ(T/F)の概略構成を説明する図である。
図5図4のトランスファにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。
図6図4のトランスファにおいて成立させられる各走行モードとトランスファにおける各係合装置の制御状態との関係を説明する作動係合表である。
図7図6の「H4_トルクスプリット」モード時の共線図で、トランスファの各部に加えられるトルクを説明する図である。
図8】自動変速機の変速制御に用いるATギヤ段変速マップ、及び走行モードの切替制御に用いる走行モード切替マップの一例を示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
図9図1の電子制御装置のトルクスプリット制御部によって実行される作動を説明するフローチャートである。
図10図9のステップS5でエンジンの運転点に基づいてMGMトルクによりTM用回転機MGMを駆動できるか否かを判断する際の手法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、動力源として少なくともエンジン及び第1回転電機を有するとともに、第2回転電機及び差動装置を備えている動力分配装置を有する、ハイブリッド型の前後輪駆動車両が対象である。エンジンは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。第1回転電機及び第2回転電機は、電動モータ及び発電機として選択的に用いることができるモータジェネレータが好適に用いられるが、トルクスプリットモードのみで走行する場合には、第1回転電機は電動モータでも良く、第2回転電機は発電機でも良い。
【0018】
エンジンの運転状態は、例えばエンジン回転速度及びエンジントルクによって定まる運転点で評価できる。その場合、エンジン回転速度及びエンジントルクを変数として、燃費が最良となる燃費最適線を予め求めておくことにより、その燃費最適線上に前記運転点が位置する状態を燃費最適状態と判断できる。エンジン回転速度は、車速及び動力伝達経路の変速比で定まるため、そのエンジン回転速度及び要求駆動トルクが得られるエンジントルクの運転点が、燃費最適線よりも高トルクである場合には、前記発電制御によって得られた発電電力で第1回転電機を駆動することにより、その第1回転電機のトルク分だけエンジントルクを低下させて燃費最適線に近付けることが可能で、電力消費制御部による制御を実行することができる。エンジンの運転点が燃費最適線と同じか低トルクの場合は、発電制御によって得られた発電電力で第1回転電機を駆動すると、その第1回転電機のトルク分だけエンジントルクが低下して燃費最適線から離間するため、電力消費制御部による制御を行なうことはできない。エンジンのスロットル弁開度や吸入空気量、燃料噴射量等を用いてエンジンの運転状態を評価することも可能である。
【0019】
動力分配装置は、例えば前記第2出力軸が前記動力源から遮断された状態で、前記第2回転電機の発電トルクによって前記第1回転要素に反力が加えられることにより、前記動力源から前記第1出力軸に入力された動力の一部が前記第2出力軸に分配され、その分配された動力のみで第2出力軸が回転駆動されるように構成される。動力分配装置はまた、前記特許文献1に記載のように、動力分配装置(特許文献1のモータトルク付加機構20)の前段に設けられたセンターディファレンシャル(特許文献1のセンターディファレンシャル10)により動力源からの動力が予め第1出力軸及び第2出力軸の双方に分配されており、その動力分配比が目標分配比になるように調整するものでも良い。
【0020】
動力分配装置を構成している差動装置は、例えばシングルピニオン型の遊星歯車装置で、その遊星歯車装置のキャリアが前記第1出力軸に接続された前記第2回転要素として用いられ、遊星歯車装置のサンギヤ及びリングギヤの一方及び他方が前記第1回転要素及び前記第3回転要素として用いられる。差動装置としてダブルピニオン型の遊星歯車装置を用いることも可能で、その場合は、リングギヤが前記第1出力軸に接続された前記第2回転要素として用いられ、サンギヤ及びキャリアの一方及び他方が前記第1回転要素及び前記第3回転要素として用いられる。複数の遊星歯車装置を用いて動力分配装置を構成することも可能である。
【0021】
動力分配装置は、例えば(a) 前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素の何れか2つを接続して前記差動装置を一体回転させるTF用クラッチと、(b) 前記第3回転要素の回転を阻止するTF用ブレーキと、(c) 前記動力源の動力が伝達されるTF入力軸と前記第1出力軸と前記第1回転要素との間に配設され、前記第1回転要素との間の動力伝達を遮断して前記TF入力軸と前記第1出力軸とを接続する第1断接状態と、前記第1出力軸との間の動力伝達を遮断して前記TF入力軸と前記第1回転要素とを接続する第2断接状態と、に切り替え可能な第1断接装置と、(d) 前記第3回転要素と前記第1出力軸と前記第2出力軸との間に配設され、前記第3回転要素、前記第1出力軸、及び前記第2出力軸の相互間の動力伝達を総て遮断する第1断接状態と、前記第1出力軸との間の動力伝達を遮断して前記第3回転要素と前記第2出力軸とを接続する第2断接状態と、前記第3回転要素との間の動力伝達を遮断して前記第1出力軸と前記第2出力軸とを接続する第3断接状態と、に切り替え可能な第2断接装置と、を有し、(e) 前記TF用クラッチ及び前記TF用ブレーキが何れも非作動状態(解放状態)とされ、前記第1断接装置が前記第1断接状態とされ、前記第2断接装置が前記第2断接状態とされることにより、前記第2回転電機の発電トルクによって前記第1回転要素に反力が加えられることにより、前記動力源から前記第1出力軸に入力された動力の一部が前記第3回転要素を介して前記第2出力軸に分配され、前記前輪及び前記後輪の両方で走行するトルクスプリットモードが形成される、ように構成される。動力分配装置は、前記第2回転電機及び前記差動装置のみでトルクスプリットモードを形成することが可能で、上記TF用クラッチ、TF用ブレーキ、第1断接装置、及び第2断接装置の一部又は全部を省略することができるとともに、クラッチ等の断接装置を追加して設けることもできるなど、種々の態様が可能である。
【実施例
【0022】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0023】
図1は、本発明が適用される、車両8が備える車両用駆動装置10の概略構成を説明する図であると共に、車両用駆動装置10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両用駆動装置10は、動力源として機能する、エンジン12(図中の「ENG」参照)、TM用回転機MGM、及びTF用回転機MGFを備えている。車両8は、ハイブリッド車両である。又、車両用駆動装置10は、左右一対の前輪14と、左右一対の後輪16と、動力伝達装置18と、を備えている。動力伝達装置18は、エンジン12等からの動力を前輪14及び後輪16へそれぞれ伝達する車両用動力伝達装置である。エンジン12、TM用回転機MGM、及びTF用回転機MGFは、車両8の走行用の動力源として用いられる。特に、後述するトルクコンバータ48や自動変速機50へ動力を出力する、エンジン12及びTM用回転機MGMは、第1動力源PU1である。第1動力源PU1が備えるTM用回転機MGMは、第1回転電機である。又、後述するトランスファ28に備えられたTF用回転機MGFは、第2回転電機であって、第1動力源PU1に替えて或いは加えて動力源として用いられる第2動力源PU2である。
【0024】
車両8は、車両用駆動装置10によって後輪16へ伝達されるトルクの一部を前輪14に分配することが可能な全輪駆動車両、すなわち前後輪駆動車両である。車両用駆動装置10は、後輪16のみにトルクを伝達する後輪駆動も可能である。車両8は、前輪14と後輪16とを各々二輪備え、車輪を四輪備えた車両であるので、四輪駆動車両でもある。本実施例では、全輪駆動(=AWD)と四輪駆動(=4WD)とは同意である。又、後輪駆動は、二輪駆動(=2WD)である。
【0025】
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置130によって、車両用駆動装置10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置20が制御されることにより、エンジン12の出力トルクであるエンジントルクTe が制御される。
【0026】
TM用回転機MGM及びTF用回転機MGFは、各々、電力から機械的な動力を発生させる発動機、すなわち電動モータとしての機能、及び機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。TM用回転機MGM及びTF用回転機MGFは、各々、車両用駆動装置10に備えられたインバータ22を介して、車両用駆動装置10に備えられたバッテリ24に接続されている。TM用回転機MGM及びTF用回転機MGFは、各々、後述する電子制御装置130によってインバータ22が制御されることにより、TM用回転機MGMのトルクであるMGMトルクTmgm 及びTF用回転機MGFのトルクであるMGFトルクTmgf が制御される。MGMトルクTmgm 、MGFトルクTmgf は、電動モータとして機能する力行トルクの他に発電機として機能する発電トルク(回生トルクとも言われる)の場合を含む。バッテリ24は、TM用回転機MGM及びTF用回転機MGFの各々に対して電力を授受する蓄電装置である。前記電力は、特に区別しない場合には電気エネルギーと同意である。前記動力は、特に区別しない場合には駆動力、トルク、或いはパワー等に置き替えることができる。
【0027】
動力伝達装置18は、ハイブリッド用トランスミッション26(図中の「HV用T/M」参照)と、動力分配装置としてのトランスファ28(図中の「T/F」参照)と、フロントプロペラシャフト30と、リヤプロペラシャフト32と、フロントディファレンシャル(図中の「FDiff」参照)34と、リヤディファレンシャル(図中の「RDiff」参照)36と、左右一対のフロントドライブシャフト38と、左右一対のリヤドライブシャフト40と、を備えている。動力伝達装置18において、第1動力源PU1からハイブリッド用トランスミッション26を介してトランスファ28に伝達された動力は、そのトランスファ28から更にリヤプロペラシャフト32、リヤディファレンシャル36、リヤドライブシャフト40等を順次介して後輪16へ伝達される。又、動力伝達装置18において、第1動力源PU1からトランスファ28に伝達された動力の一部は、そのトランスファ28によって前輪14側へ分配され、その分配された動力がフロントプロペラシャフト30、フロントディファレンシャル34、フロントドライブシャフト38等を順次介して前輪14へ伝達される。
【0028】
ハイブリッド用トランスミッション26は、非回転部材であるトランスミッションケース42を備えている。トランスファ28は、トランスミッションケース42に連結された非回転部材であるトランスファケース44を備えている。TM用回転機MGMは、トランスミッションケース42内に設けられている。TF用回転機MGFは、トランスファケース44内に設けられている。
【0029】
図2は、ハイブリッド用トランスミッション26の概略構成を説明する図である。図2において、ハイブリッド用トランスミッション26は、トランスミッションケース42内において共通の回転軸線CL1上に配設された、回転機連結軸46、トルクコンバータ48、及び自動変速機50などを備えている。トルクコンバータ48及び自動変速機50は、回転軸線CL1に対して略対称的に構成されており、図2では回転軸線CL1に対して下半分が省略されている。回転軸線CL1は、エンジン12のクランク軸、そのクランク軸に連結された回転機連結軸46、自動変速機50の入力回転部材である変速機入力軸52、自動変速機50の出力回転部材である変速機出力軸54などの軸心である。
【0030】
回転機連結軸46は、エンジン12とトルクコンバータ48とを連結する回転軸で、エンジン12と回転機連結軸46との間にはエンジン断接クラッチK0が設けられている。エンジン断接クラッチK0は、エンジン12と回転機連結軸46との連結を遮断するクラッチである。TM用回転機MGMは、回転軸線CL1と同心にトランスミッションケース42内に配設されており、回転機断接クラッチK2を介して回転機連結軸46に動力伝達可能に連結されている。回転機断接クラッチK2は、回転機連結軸46とTM用回転機MGMとの連結を遮断するクラッチである。トルクコンバータ48は、回転機連結軸46と連結されたポンプ翼車48a、及び変速機入力軸52と連結されたタービン翼車48bを備えている。ポンプ翼車48aはトルクコンバータ48の入力部材であり、タービン翼車48bはトルクコンバータ48の出力部材である。回転機連結軸46は、トルクコンバータ48の入力回転部材でもある。変速機入力軸52は、タービン翼車48bによって回転駆動されるタービン軸と一体的に形成されたトルクコンバータ48の出力回転部材でもある。トルクコンバータ48は、第1動力源PU1からの動力を流体を介して変速機入力軸52へ伝達する流体式伝動装置である。トルクコンバータ48は、ポンプ翼車48aとタービン翼車48bとを連結するロックアップクラッチLUを備えている。ロックアップクラッチLUは、トルクコンバータ48の入出力回転部材を連結する直結クラッチである。
【0031】
自動変速機50は、トルクコンバータ48とトランスファ28との間の動力伝達経路に介在させられている。変速機出力軸54は、トランスファ28と連結されている。自動変速機50は、第1動力源PU1からの動力をトランスファ28へ伝達する機械式伝動装置である。このように、トルクコンバータ48及び自動変速機50は、第1動力源PU1からの動力をトランスファ28へ伝達する。
【0032】
自動変速機50は、例えば第1遊星歯車装置56及び第2遊星歯車装置58の複数組の遊星歯車装置と、ワンウェイクラッチF1を含む、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置とを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。以下、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、及びブレーキB2については、特に区別しない場合は単に係合装置CBという。
【0033】
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、公知の油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、各々、車両用駆動装置10に備えられた油圧制御回路60(図1参照)から供給される調圧された係合装置CBの各油圧であるCB油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量であるCBトルクTcbが変化させられることで、係合状態や解放状態などの作動状態つまり制御状態が切り替えられる。油圧制御回路60は、複数の係合装置CBのCB油圧PRcbをそれぞれ制御するために、複数の油圧制御用ソレノイドバルブや油路切換用ソレノイドバルブ等を備えており、後述する電子制御装置130により制御される。
【0034】
自動変速機50は、第1遊星歯車装置56及び第2遊星歯車装置58の各回転要素が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的に、一部が互いに連結されたり、変速機入力軸52、トランスミッションケース42、或いは変速機出力軸54に連結されている。第1遊星歯車装置56の各回転要素は、サンギヤS1、キャリアCA1、リングギヤR1であり、第2遊星歯車装置58の各回転要素は、サンギヤS2、キャリアCA2、リングギヤR2である。
【0035】
自動変速機50は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置が係合されることによって、変速比γat(=AT入力回転速度Ni /AT出力回転速度No )が異なる複数のギヤ段(変速段とも言われる)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。自動変速機50は、後述する電子制御装置130によって、ドライバー(=運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて形成されるギヤ段が切り替えられる。本実施例では、自動変速機50にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称す。AT入力回転速度Ni は、変速機入力軸52の回転速度であって、自動変速機50の入力回転速度であり、タービン翼車48bによって回転駆動されるタービン軸の回転速度であるタービン回転速度Nt と同値である。AT出力回転速度No は、変速機出力軸54の回転速度であって、自動変速機50の出力回転速度である。
【0036】
自動変速機50は、例えば図3の作動係合表に示すように、変速比γatが異なる複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図中の「1st」)-AT4速ギヤ段(図中の「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、高速走行が可能なAT4速ギヤ段側であるハイ側のATギヤ段程、変速比γatが小さくなる。図3の作動係合表は、各ATギヤ段と係合装置CBの各制御状態との関係をまとめたものである。図3において、「○」は係合を、「△」はエンジンブレーキ時や自動変速機50のコーストダウンシフト時に係合を、空欄は解放を、それぞれ表している。自動変速機50のニュートラル状態(図中の「N」)は、自動変速機50が動力を伝達不能な状態であり、係合装置CBが何れも解放状態とされて自動変速機50における動力伝達が遮断されることで実現される。又、自動変速機50は、車両8の後進走行時には、ニュートラル状態とされる(図中の「Rev」)。車両8の後進走行時には、第2動力源PU2であるTF用回転機MGFから動力が出力される。
【0037】
図4は、トランスファ28の概略構成を説明する図である。図4において、トランスファ28は、トランスファケース44内において共通の回転軸線CL1上に配設された、TF入力軸62、TF用回転機MGF、差動装置64、TF用クラッチCF1、TF用ブレーキBF1、第1出力軸66、中間軸68、第1噛合クラッチD1、第2噛合クラッチD2、及びドライブギヤ70などを備えている。差動装置64、TF用クラッチCF1、TF用ブレーキBF1、中間軸68、第1噛合クラッチD1、第2噛合クラッチD2、及びドライブギヤ70は、回転軸線CL1に対して略対称的に構成されており、図4では回転軸線CL1に対して下半分が省略されている。このトランスファ28の回転軸線CL1は、前記ハイブリッド用トランスミッション26の回転軸線CL1と同じである。
【0038】
又、トランスファ28は、トランスファケース44内において共通の回転軸線CL2上に配設された、第2出力軸72及びドリブンギヤ74などを備えている。ドリブンギヤ74は、回転軸線CL2に対して略対称的に構成されており、図4では回転軸線CL2に対して上半分が省略されている。回転軸線CL2は、第2出力軸72などの軸心である。
【0039】
又、トランスファ28は、トランスファケース44内において、TF用回転機MGF、回転機連結ギヤ機構76、及びチェーン78などを備えている。回転機連結ギヤ機構76は、TF用回転機MGFのロータ軸80と一体的に回転するTF用回転機連結ギヤ76aと、TF用回転機連結ギヤ76aと常時噛み合うアイドルギヤ76bと、アイドルギヤ76bと常時噛み合うTF用反力入力ギヤ76cと、から構成されている。チェーン78は、ドライブギヤ70とドリブンギヤ74との間を連結する部材である。
【0040】
トランスファ28は、更に、トランスファケース44に固定された切替用アクチュエータ82を備えている(図1参照)。切替用アクチュエータ82は、第1噛合クラッチD1と第2噛合クラッチD2とを各々作動させる為のアクチュエータである。
【0041】
TF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1は、各々、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式の係合装置により構成される、公知の湿式の油圧式の摩擦係合装置である。TF用クラッチCF1は、油圧制御回路60から供給される調圧されたTF用クラッチCF1の油圧であるCF1油圧PRcf1 によりTF用クラッチCF1のトルク容量であるCF1トルクTcf1 が変化させられることで、係合解放状態である制御状態が切り替えられる。TF用ブレーキBF1もTF用クラッチCF1と同様に、油圧制御回路60から供給されるBF1油圧PRbf1 によりBF1トルクTbf1 が変化させられることで、係合解放状態である制御状態が切り替えられる。第1噛合クラッチD1及び第2噛合クラッチD2は、各々、公知の噛合式クラッチつまりドグクラッチである。第1噛合クラッチD1及び第2噛合クラッチD2は、各々、後述する電子制御装置130によって切替用アクチュエータ82が制御されることにより制御状態が切り替えられる。
【0042】
TF入力軸62は、変速機出力軸54と動力伝達可能に連結されている。第1出力軸66は、リヤプロペラシャフト32と動力伝達可能に連結されている。第2出力軸72は、フロントプロペラシャフト30と動力伝達可能に連結されている。ドリブンギヤ74は、第2出力軸72に相対回転不能に固定されている。TF用反力入力ギヤ76cは、中間軸68に相対回転不能に固定されている。
【0043】
差動装置64は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS、キャリアCA、及びリングギヤRを備えている。サンギヤSは、中間軸68に相対回転不能に固定されている。従って、サンギヤSには、回転機連結ギヤ機構76を介してTF用回転機MGFが接続されている。キャリアCAは、第1出力軸66に相対回転不能に固定されている。リングギヤRは、TF用ブレーキBF1を介して選択的にトランスファケース44に連結される。キャリアCAとリングギヤRとは、TF用クラッチCF1を介して選択的に連結される。TF用クラッチCF1は、差動装置64を一体回転させる差動制限クラッチとして機能するもので、サンギヤS、キャリアCA、及びリングギヤRの何れか2つを接続するように設けられれば良い。
【0044】
第1噛合クラッチD1は、第1噛合歯a1、第2噛合歯a2、第3噛合歯a3、及び第1スリーブd1sを備えており、第1動力源PU1の動力が伝達されるTF入力軸62と、第1出力軸66と、サンギヤSに連結された中間軸68との間に配設されている。第1噛合歯a1は、TF入力軸62に相対回転不能に固定されている。第2噛合歯a2は、第1出力軸66に相対回転不能に固定されている。第3噛合歯a3は、中間軸68に相対回転不能に固定されている。第1スリーブd1sは、第1噛合歯a1、第2噛合歯a2、及び第3噛合歯a3の各々に対して回転軸線CL1方向(回転軸線CL1と平行な方向)に相対移動可能に設けられている。第1スリーブd1sは、第1噛合歯a1、第2噛合歯a2、及び第3噛合歯a3の各々に対して相対回転不能に噛み合うことが可能な内周歯を備えている。第1スリーブd1sは、切替用アクチュエータ82によって回転軸線CL1方向に移動させられることによって、第1噛合歯a1、第2噛合歯a2、及び第3噛合歯a3の各々に対する噛合い状態が変化させられる。本実施例では、第1スリーブd1sが第1噛合歯a1と第2噛合歯a2とに噛み合わされ、中間軸68との間の動力伝達を遮断してTF入力軸62と第1出力軸66とを接続する第1断接状態[1]と、第1スリーブd1sが第1噛合歯a1と第3噛合歯a3とに噛み合わされ、第1出力軸66との間の動力伝達を遮断してTF入力軸62と中間軸68とを接続する第2断接状態[2]と、に切り替えられる。この第1噛合クラッチD1は、第1断接装置に相当する。尚、図4では、便宜上、第1断接状態[1]及び第2断接状態[2]の各々に合わせて第1スリーブd1sを複数図示している。
【0045】
第2噛合クラッチD2は、第4噛合歯a4、第5噛合歯a5、第6噛合歯a6、及び第2スリーブd2sを備えており、差動装置64のリングギヤRと、第1出力軸66と、第2出力軸72に連結されたドライブギヤ70との間に配設されている。第4噛合歯a4は、リングギヤRに連結されている。第5噛合歯a5は、第1出力軸66に相対回転不能に固定されている。第6噛合歯a6は、ドライブギヤ70に連結されている。第2スリーブd2sは、第4噛合歯a4、第5噛合歯a5、及び第6噛合歯a6の各々に対して回転軸線CL1方向に相対移動可能に設けられている。第2スリーブd2sは、第4噛合歯a4、第5噛合歯a5、及び第6噛合歯a6の各々に対して相対回転不能に噛み合うことが可能な内周歯を備えている。第2スリーブd2sは、切替用アクチュエータ82によって回転軸線CL1方向に移動させられることによって、第4噛合歯a4、第5噛合歯a5、及び第6噛合歯a6の各々に対する噛合い状態が変化させられる。本実施例では、第2スリーブd2sが第4噛合歯a4、第5噛合歯a5、及び第6噛合歯a6の何れとも噛み合わされず、リングギヤR、第1出力軸66、及びドライブギヤ70の相互間の動力伝達を総て遮断する第1断接状態[1]と、第2スリーブd2sが第4噛合歯a4と第6噛合歯a6とに噛み合わされ、第1出力軸66との間の動力伝達を遮断してリングギヤRとドライブギヤ70とを接続する第2断接状態[2]と、第2スリーブd2sが第5噛合歯a5と第6噛合歯a6とに噛み合わされ、リングギヤRとの間の動力伝達を遮断して第1出力軸66とドライブギヤ70とを接続する第3断接状態[3]と、に切り替えられる。この第2噛合クラッチD2は、第2断接装置に相当する。尚、図4では、便宜上、第1断接状態[1]、第2断接状態[2]、及び第3断接状態[3]の各々に合わせて第2スリーブd2sを複数図示している。
【0046】
図5は、トランスファ28における各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。図5において、トランスファ28を構成する差動装置64の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第1回転要素RE1に対応するサンギヤSの回転速度、第2回転要素RE2に対応するキャリアCAの回転速度、第3回転要素RE3に対応するリングギヤRの回転速度、をそれぞれ表す軸である。縦線Y1~Y3の間隔は、差動装置64のギヤ比γg (=サンギヤSの歯数/リングギヤRの歯数)に応じて定められる。具体的には、縦線Y1と縦線Y2との間の間隔を1とすると、縦線Y2と縦線Y3の間の間隔はギヤ比γg である。縦線Y1よりも左側に示した縦線Y0は、入出力回転要素REIOに対応する第1出力軸66を表す軸で、その回転速度は差動装置64の第2回転要素RE2に対応するキャリアCAの回転速度と一致する。
【0047】
図5の共線図を用いて表現すれば、トランスファ28において、入出力回転要素REIOは、第1噛合クラッチD1(第1断接状態[1]参照)を介してTF入力軸62に選択的に連結されると共にリヤプロペラシャフト32に連結されている。TF入力軸62は、ハイブリッド用トランスミッション26を介してエンジン12を含む第1動力源PU1に動力伝達可能に連結されている。又、差動装置64において、第1回転要素RE1はTF用回転機MGFに動力伝達可能に連結されていると共に第1噛合クラッチD1(第2断接状態[2]参照)を介してTF入力軸62に選択的に連結され、第2回転要素RE2は第1出力軸66に連結されていると共に第2噛合クラッチD2(第3断接状態[3]参照)を介して第2出力軸72つまりフロントプロペラシャフト30に選択的に連結され、第3回転要素RE3は第2噛合クラッチD2(第2断接状態[2]参照)を介して第2出力軸72に選択的に連結されると共にTF用ブレーキBF1を介してトランスファケース44に選択的に連結される。又、第2回転要素RE2と第3回転要素RE3とは、TF用クラッチCF1を介して選択的に連結される。差動装置64では、直線Lcdにより、第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3の相互の回転速度の関係が示される。第1出力軸66は、第1動力源PU1からの動力がハイブリッド用トランスミッション26を介して入力され、且つ、後輪16に動力を出力する出力軸である。第2出力軸72は、前輪14に動力を出力する出力軸である。
【0048】
差動装置64において、TF用クラッチCF1の係合状態且つTF用ブレーキBF1の解放状態では、第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3が一体的に回転させられる。一方で、差動装置64において、TF用クラッチCF1の解放状態且つTF用ブレーキBF1の係合状態では、第1回転要素RE1を入力部材、第2回転要素RE2を出力部材として用いた場合、第2回転要素RE2の回転速度が第1回転要素RE1の回転速度に対して減速させられる。従って、差動装置64は、TF用クラッチCF1が係合状態とされることによるハイギヤ段と、TF用ブレーキBF1が係合状態とされることによるローギヤ段と、が選択的に形成される変速機として機能する。
【0049】
又、差動装置64は、TF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1が何れも解放状態とされると、差動作用を働かせることが可能である。従って、差動装置64は、センターディファレンシャルとして機能する。この際、トランスファ28において、第1噛合クラッチD1が第1断接状態[1]であり且つ第2噛合クラッチD2が第2断接状態[2]であると、差動装置64は、第2回転要素RE2に入力された第1動力源PU1からのトルクを、第1回転要素RE1に連結されたTF用回転機MGFの反力トルクにより第3回転要素RE3に分配することが可能である。又、差動装置64は、TF用回転機MGFの反力トルクを作用させることに替えて、TF用クラッチCF1をスリップ状態として差動装置64の差動作用を制限することにより、第2回転要素RE2に入力された第1動力源PU1からのトルクを第3回転要素RE3に分配することが可能である。このように、トランスファ28は、第1出力軸66に入力された第1動力源PU1からのトルクの一部を第2出力軸72に分配する動力分配装置である。これにより、トランスファ28では、前輪14と後輪16とにトルクを分配することが可能となる。尚、トランスファ28において第2噛合クラッチD2が第3断接状態[3]とされる場合には、差動装置64は、センターディファレンシャルとしての機能が働かないデフロック状態とされる。
【0050】
図6は、トランスファ28において成立させられる複数の走行モードとトランスファ28における各係合装置の制御状態との関係を説明する作動係合表である。図6において、TF用ブレーキBF1、TF用クラッチCF1の欄の「○」は係合を、空欄は解放を表している。また、第1噛合クラッチD1、第2噛合クラッチD2の欄の「○」は、各噛合クラッチの断接状態、および結合される噛合歯を表している。
【0051】
番号m1の「EV(FR)ハイ」モード、及び、番号m2の「EV(FR)ロー」モードは、TF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1のうちの何れか一方のみが係合状態とされると共に第1噛合クラッチD1が第1断接状態[1]とされ且つ第2噛合クラッチD2が第1断接状態[1]とされることで実現させられる。「EV(FR)ハイ」モード及び「EV(FR)ロー」モードは、各々、例えば第1動力源PU1の運転を停止した状態でTF用回転機MGFのみを動力源として走行するモータ走行(=EV走行)が可能なEV走行モードである。第2噛合クラッチD2が第1断接状態[1]とされることによって、第4噛合歯a4、第5噛合歯a5、及び第6噛合歯a6の相互間の結合はニュートラル状態(図中「N」参照)とされるので、差動装置64は前輪14との間の動力伝達経路が遮断される。この状態で、TF用クラッチCF1の係合状態によるハイギヤ段又はTF用ブレーキBF1の係合状態によるローギヤ段が形成された差動装置64において、TF用回転機MGFからの動力が後輪16側へ伝達される。従って、本実施例のEV走行は、後輪駆動走行にて実現させられる。EV走行モードでは、例えば第1噛合クラッチD1が第1断接状態[1]の場合、エンジン断接クラッチK0が解放され、或いは自動変速機50がニュートラル状態とされることで、エンジン12の引き摺りをなくすことができる。或いは、第1噛合クラッチD1を解放状態とすることが可能であるなら、EV走行モードでは、例えば第1噛合クラッチD1が解放状態とされることによって、エンジン断接クラッチK0や自動変速機50の状態に拘わらず、自動変速機50やエンジン12の引き摺りをなくすことができる。図6の「(○)」は、第1噛合クラッチD1を解放状態(ニュートラル状態)とすることが可能な場合、その解放状態でも良いことを意味する。なお、第1噛合クラッチD1は第2断接状態[2]であっても良いが、「H4_トルクスプリット」モードや「H4_LSD」モードなどとのモード切替を考慮して第1断接状態[1]とされる。
【0052】
番号m3の「H4_トルクスプリット」モードは、TF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1が何れも解放状態とされると共に第1噛合クラッチD1が第1断接状態[1]とされ且つ第2噛合クラッチD2が第2断接状態[2]とされることで実現させられる。「H4_トルクスプリット」モードは、差動装置64がハイギヤ段と同等の状態、すなわち第1回転要素RE1~第3回転要素RE3が略同じ回転速度で回転させられる状態で、TF用回転機MGFにより第1回転要素RE1に反力トルク(負トルク)が加えられることにより、第1出力軸66から第2回転要素RE2に伝達される第1動力源PU1からのトルクが、TF用回転機MGFの反力トルクに応じた所望する任意の比率で第3回転要素RE3に伝達されるようになり、前輪14と後輪16とにトルクを分配するモードである。トランスファ28における「H4_トルクスプリット」モードでは、TF用回転機MGFが発電制御(回生制御とも言われる)されることにより反力トルクを発生する。
【0053】
図7は、上記「H4_トルクスプリット」モードの場合の共線図であり、このモードの動力源である第1動力源PU1から、第1噛合クラッチD1を介して第1出力軸66にTF入力トルクTtfinが伝達されるとともに、差動装置64の第1回転要素RE1にはTF用回転機MGFの発電トルクであるMGFトルクTmgf が加えられる。差動装置64は差動回転可能であるとともに、第2回転要素RE2にはTF入力トルクTtfinが正回転方向に作用しているため、負トルクであるMGFトルクTmgf が第1回転要素RE1に反力として加えられると、第2回転要素RE2には回転抵抗として負のRE2トルクTre2 が発生し、第3回転要素RE3には駆動トルクとして正のRE3トルクTre3 が発生する。RE2トルクTre2 及びRE3トルクTre3 は、それぞれ差動装置64のギヤ比γg を用いて次式(1) 、(2) で表すことができる。そして、(3) 式に示すように、TF入力トルクTtfinにRE2トルクTre2 を加えたトルクが、後輪側トルクTr として第1出力軸66から後輪16側へ出力される。また、(4) 式に示すように、RE3トルクTre3 が、前輪側トルクTf として第2出力軸72から前輪14側へ出力される。すなわち、第1動力源PU1から第1出力軸66に伝達されたTF入力トルクTtfinの一部が、トランスファ28により第2出力軸72に分配されて前輪14側へ伝達される。MGFトルクTmgf が大きい程、前輪側トルクTf が大きくなるとともに、後輪側トルクTr が小さくなる。なお、第2噛合クラッチD2を介して第3回転要素RE3に連結されるドライブギヤ70の回転軸を、前輪14側へ動力伝達する第2出力軸と見做すこともできる。また、(4) 式は、ドライブギヤ70およびドリブンギヤ74の歯数が等しい場合である。
Tre2 =-(1+1/γg )Tmgf ・・・(1)
Tre3 =(1/γg )Tmgf ・・・(2)
Tr =Ttfin+Tre2 =Ttfin-(1+1/γg )Tmgf ・・・(3)
Tf =Tre3 =(1/γg )Tmgf ・・・(4)
【0054】
図6の番号m4の「H4_LSD」モードは、TF用ブレーキBF1が解放状態とされると共に第1噛合クラッチD1が第1断接状態[1]とされ且つ第2噛合クラッチD2が第2断接状態[2]とされた状態で、TF用クラッチCF1がスリップ状態に制御されることで実現させられる。「H4_LSD」モードは、「H4_トルクスプリット」モードにおけるTF用回転機MGFの反力トルクの作用に替えて、TF用クラッチCF1のスリップ状態による差動装置64の差動作用の制限により、第1出力軸66に伝達されたTF入力トルクTtfinの一部が第3回転要素RE3から第2出力軸72へ伝達されるようになり、TF用クラッチCF1のトルク容量に応じた所望する任意の比率で前輪14と後輪16とにトルクを分配するモードである。
【0055】
番号m5の「H4_Lock」モードは、TF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1が何れも解放状態とされると共に第1噛合クラッチD1が第1断接状態[1]とされ且つ第2噛合クラッチD2が第3断接状態[3]とされることで実現させられる。「H4_Lock」モードは、第1出力軸66及び第2出力軸72が直結され、差動装置64が実質的にデフロック状態とされた状態で、第1動力源PU1から第1噛合クラッチD1を介して第1出力軸66へ伝達されたTF入力トルクTtfinが、前輪14及び後輪16に分配されるモードである。
【0056】
番号m6の「L4_Lock」モードは、TF用クラッチCF1が解放状態とされ且つTF用ブレーキBF1が係合状態とされると共に第1噛合クラッチD1が第2断接状態[2]とされ且つ第2噛合クラッチD2が第3断接状態[3]とされることで実現させられる。「L4_Lock」モードは、第1出力軸66及び第2出力軸72が直結され、差動装置64が実質的にデフロック状態とされ且つローギヤ段とされた状態で、第1動力源PU1から差動装置64のサンギヤSへ伝達されたTF入力トルクTtfinが、第2回転要素RE2であるキャリアCAから前輪14及び後輪16に分配されるモードである。
【0057】
図1に戻り、車両用駆動装置10は、機械式のオイルポンプであるMOP84、電動式のオイルポンプであるEOP86、ポンプ用モータ88等を備えている。MOP84は、回転機連結軸46に連結されており(図2参照)、第1動力源PU1により回転駆動させられて動力伝達装置18にて用いられる作動油OIL を吐出する。ポンプ用モータ88は、EOP86を回転駆動する為のEOP86専用のモータである。EOP86は、ポンプ用モータ88により回転駆動させられて作動油OIL を吐出する。MOP84やEOP86から吐出された作動油OIL は、油圧制御回路60へ供給される。油圧制御回路60は、MOP84及び/又はEOP86が吐出した作動油OIL を元にして各々調圧した、CB油圧PRcb、CF1油圧PRcf1 、BF1油圧PRbf1 などを供給する。
【0058】
車両用駆動装置10は、第1動力源PU1、第2動力源PU2、及びトランスファ28などを制御する制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置130を備えている。図1は、電子制御装置130の入出力系統を示す図であり、又、電子制御装置130による制御機能の要部を説明する機能ブロック図である。電子制御装置130は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両用駆動装置10の各種制御を実行する。電子制御装置130は、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0059】
電子制御装置130には、車両用駆動装置10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ90、MGM回転速度センサ92、タービン回転速度センサ94、AT出力回転速度センサ96、車速センサ98、MGF回転速度センサ100、アクセル開度センサ102、スロットル弁開度センサ104、ブレーキペダルセンサ106、シフトポジションセンサ108、加速度センサ110、ヨーレートセンサ112、ステアリングセンサ114、バッテリセンサ116、油温センサ118、デフロック選択スイッチ120、ローギヤ選択スイッチ122など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne 、TM用回転機MGMの回転速度であるMGM回転速度Nmgm 、AT入力回転速度Ni と同値であるタービン回転速度Nt 、AT出力回転速度No 、車速Vに対応する第1出力軸66の回転速度であるTF出力回転速度Nof、TF用回転機MGFの回転速度であるMGF回転速度Nmgf 、運転者の加速要求量或いは駆動要求量を表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc 、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、車両8に備えられたシフトレバーの操作位置を示すシフト操作ポジションPOSsh 、車両8の前後加速度Gx 及び左右加速度Gy 、車両8の鉛直軸まわりの回転角速度であるヨーレートRyaw 、車両8に備えられたステアリングホイールの操舵角度θsw及び操舵方向Dsw、バッテリ24のバッテリ温度THbat やバッテリ充放電電流Ibat やバッテリ電圧Vbat 、作動油OIL の温度である作動油温THoil 、運転者によって「H4_Lock」モード又は「L4_Lock」モードが選択されたことを示す信号であるロックモードオン信号LOCKon、運転者によって差動装置64のローギヤ段が選択されたことを示す信号であるローギヤオン信号LOWon など)が、それぞれ供給される。
【0060】
デフロック選択スイッチ120、ローギヤ選択スイッチ122は、例えば運転席の近傍に設けられている。デフロック選択スイッチ120は、トランスファ28において差動装置64をデフロック状態とするときに運転者によりオン状態へ操作されるスイッチである。ローギヤ選択スイッチ122は、トランスファ28において「H4_Lock」モードが成立させられているときに差動装置64をローギヤ段とするときに運転者によりオン状態へ操作されるスイッチである。
【0061】
電子制御装置130からは、車両8に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置20、インバータ22、油圧制御回路60、切替用アクチュエータ82、ポンプ用モータ88、ホイールブレーキ装置124、情報報知装置126など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se 、TM用回転機MGMを制御する為のMGM制御指令信号Smgm 、TF用回転機MGFを制御する為のMGF制御指令信号Smgf 、自動変速機50の制御に関わる係合装置CBの制御状態を制御する為の油圧制御指令信号Sat、トランスファ28の制御に関わるTF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1の各々の制御状態を制御する為の油圧制御指令信号Scbf 、トランスファ28の制御に関わる第1噛合クラッチD1及び第2噛合クラッチD2を各々作動させる為のトランスファ制御指令信号Stf、EOP86を制御する為のEOP制御指令信号Seop 、ホイールブレーキによる制動力を制御する為のブレーキ制御指令信号Sb 、運転者に各種情報の報知を行う為の情報報知制御指令信号Sinf など)が、それぞれ出力される。情報報知装置126は、各種の情報を画像や音で知らせる表示装置や発音装置などである。
【0062】
電子制御装置130は、車両用駆動装置10における各種制御を実現する為に、AT変速制御手段すなわちAT変速制御部132、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部134、及び駆動状態制御手段すなわち駆動状態制御部140を備えている。
【0063】
AT変速制御部132は、例えば図8に示すようなATギヤ段変速マップを用いて自動変速機50の変速判断を行い、必要に応じて自動変速機50の変速制御を実行する為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路60へ出力する。前記ATギヤ段変速マップは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である。前記ATギヤ段変速マップは、例えば車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、自動変速機50の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。前記ATギヤ段変速マップでは、車速Vに替えてAT出力回転速度No などを用いても良いし、又、要求駆動トルクTrdemに替えて要求駆動力Frdemやアクセル開度θacc やスロットル弁開度θthなどを用いても良い。前記ATギヤ段変速マップにおける各変速線は、実線に示すようなアップシフトが判断される為のアップシフト線、及び破線に示すようなダウンシフトが判断される為のダウンシフト線である。
【0064】
ハイブリッド制御部134は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部136と、インバータ22を介してTM用回転機MGM及びTF用回転機MGFの作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部138と、を機能的に備えており、それらの制御機能によりエンジン12、TM用回転機MGM、及びTF用回転機MGFによるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0065】
ハイブリッド制御部134は、予め定められた関係である例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc 及び車速Vを適用することで、運転者による車両8に対する駆動要求量を算出する。駆動要求量は、例えば駆動輪(前輪14、後輪16)における要求駆動トルクTrdem[Nm]である。駆動要求量として、駆動輪における要求駆動力Frdem[N]、駆動輪における要求駆動パワーPrdem[W]、変速機出力軸54における要求AT出力トルク等を用いることもできる。要求駆動トルクTrdemは、見方を換えれば指令出力時の車速Vにおける要求駆動パワーPrdemである。前記駆動要求量の算出では、車速Vに替えてTF出力回転速度Nofなどを用いても良い。
【0066】
ハイブリッド制御部134は、伝達損失、補機負荷、自動変速機50の変速比γat、バッテリ24の充電可能電力Winや放電可能電力Wout 等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン制御指令信号Se 、MGM制御指令信号Smgm 、及びMGF制御指令信号Smgf を出力する。エンジン制御指令信号Se は、例えば指令出力時のエンジン回転速度Ne におけるエンジントルクTe を出力するエンジンパワーPe の要求値である要求エンジンパワーPedemを実現する為の指令値である。エンジンパワーPe は、エンジン12の出力[W]すなわちパワーである。MGM制御指令信号Smgm は、例えば指令出力時のMGM回転速度Nmgm におけるMGMトルクTmgm を出力するTM用回転機MGMの消費電力Wcmgm又は発電電力Wgmgmの指令値である。MGF制御指令信号Smgf は、例えば指令出力時のMGF回転速度Nmgf におけるMGFトルクTmgf を出力するTF用回転機MGFの消費電力Wcmgf又は発電電力Wgmgfの指令値である。
【0067】
バッテリ24の充電可能電力Winは、バッテリ24の入力電力の制限を規定する入力可能な最大電力であり、バッテリ24の入力制限を示している。バッテリ24の放電可能電力Wout は、バッテリ24の出力電力の制限を規定する出力可能な最大電力であり、バッテリ24の出力制限を示している。バッテリ24の充電可能電力Winや放電可能電力Wout は、例えばバッテリ温度THbat 及びバッテリ24の充電状態値SOC[%]に基づいて電子制御装置130により算出される。バッテリ24の充電状態値SOCは、バッテリ24の充電量に相当する充電状態を示す値で蓄電残量を表しており、例えばバッテリ充放電電流Ibat 及びバッテリ電圧Vbat などに基づいて電子制御装置130により算出される。
【0068】
ハイブリッド制御部134は、要求駆動パワーPrdemが予め定められた閾値よりも小さなモータ走行領域にある場合には、EV走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPrdemが予め定められた閾値以上となるエンジン走行領域にある場合には、エンジン走行が可能なHV走行モードを成立させる。図8の一点鎖線LAは、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線、すなわち走行モード切替線である。この図8の一点鎖線LAに示すような境界線を有する予め定められた関係は、車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標で構成された走行モード切替マップの一例である。前記図6の番号m1およびm2はEV走行モードで、番号m3~m6はHV走行モードである。尚、図8では、便宜上、この走行モード切替マップをATギヤ段変速マップと共に示している。
【0069】
ハイブリッド制御部134は、要求駆動パワーPrdemがモータ走行領域にあるときであっても、バッテリ24の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12の暖機が必要な場合などには、HV走行モードを成立させる。見方を換えれば、バッテリ24の充電状態値SOCが前記エンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12の暖機が必要な場合は、前記走行領域切替マップにおけるモータ走行領域が無くなる。前記エンジン始動閾値は、エンジン12を自動的に始動してバッテリ24を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判断する為の予め定められた閾値である。
【0070】
駆動状態制御部140は、例えば車速V、アクセル開度θacc 、ブレーキオン信号Bon、シフト操作ポジションPOSsh 、前後加速度Gx 及び左右加速度Gy 、ヨーレートRyaw 、操舵角度θsw及び操舵方向Dsw、ロックモードオン信号LOCKon、ローギヤオン信号LOWon などに基づいて、トランスファ28における各走行モード(図6参照)のうちの何れの走行モードを成立させるかを判断し、その判断した走行モードを成立させる為の各種制御指令信号を出力する。この場合の各種制御指令信号は、例えばTF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1に対する油圧制御指令信号Scbf 、第1噛合クラッチD1及び第2噛合クラッチD2に対するトランスファ制御指令信号Stfである。
【0071】
駆動状態制御部140は、EV走行モードでは、例えば比較的低車速領域においてTF用ブレーキBF1を係合状態とすると共にTF用クラッチCF1を解放状態として差動装置64においてローギヤ段を形成し、前記「EV(FR)ロー」モードとする一方で、比較的高車速領域においてTF用ブレーキBF1を解放状態とすると共にTF用クラッチCF1を係合状態として差動装置64においてハイギヤ段を形成し、前記「EV(FR)ハイ」モードとする。つまり、駆動状態制御部140は、EV走行モードでは、例えば比較的低車速領域において「EV(FR)ロー」モードを成立させる一方で、比較的高車速領域において「EV(FR)ハイ」モードを成立させる。
【0072】
駆動状態制御部140は、「H4_トルクスプリット」モードでは、例えば車速センサ98、加速度センサ110、ヨーレートセンサ112などの各種センサによる各種信号に基づいて車両8の走行状態を判断し、その判断した走行状態に応じたトルク分配比Rx の目標値である目標分配比Rdis を設定する。トルク分配比Rx は、第1出力軸66と第2出力軸72とに分配するトルクの割合、すなわち後輪側トルクTr と前輪側トルクTf との割合である。トルク分配比Rx は、例えば後輪側トルクTr 及び前輪側トルクTf の合計トルクTrf(=Tr +Tf )に対する後輪側トルクTr の割合、すなわち後輪側分配率Xr で表すことができる。又は、トルク分配比Rx は、例えば後輪側トルクTr 及び前輪側トルクTf の合計トルクTrf(=Tr +Tf )に対する前輪側トルクTf の割合、すなわち前輪側分配率Xf (=1-Xr )で表すことができる。トルク分配比Rx は動力分配比に対応する。
【0073】
駆動状態制御部140は、「H4_トルクスプリット」モードで走行する際に各種制御を実行するトルクスプリット制御部142を備えている。トルクスプリット制御部142は、トルク分配比Rx が目標値である目標分配比Rdis となるようにTF用回転機MGFの発電トルクであるMGFトルクTmgf を制御する発電制御を行なうとともに、そのMGFトルクTmgf に拘らず前記要求駆動トルクTrdemが得られるように前記第1動力源PU1を構成しているエンジン12及びTM用回転機MGMの総トルクTpu1 を制御する。すなわち、前記(3) 式で表される後輪側トルクTr と前記(4) 式で表される前輪側トルクTf との比が目標分配比Rdis になるとともに、後輪側トルクTr と前輪側トルクTf とを合わせた合計トルクTrfによって要求駆動トルクTrdemが得られるように、MGFトルクTmgf 及びTF入力トルクTtfinが求められ、そのTF入力トルクTtfinが得られるように自動変速機50のATギヤ段等に応じて第1動力源PU1の総トルクTpu1 が決定される。トルクスプリット制御部142は、TF用回転機MGFをMGFトルクTmgf で発電させる為のMGF制御指令信号Smgf をインバータ22に出力するとともに、第1動力源PU1であるエンジン12及びTM用回転機MGMを上記総トルクTpu1 で作動させるためのエンジン制御指令信号Se 及びMGM制御指令信号Smgm をエンジン制御装置20及びインバータ22に出力する。エンジン12やTM用回転機MGMの制御は、ハイブリッド制御部134を介して行なうができるが、ハイブリッド制御部134に優先してトルクスプリット制御部142が直接行なっても良い。MGF制御指令信号Smgf は、具体的にはMGFトルクTmgf を出力するのに必要なTF用回転機MGFの発電電力Wgmgfの指令値である。このTF用回転機MGFのMGFトルクTmgf が大きくされる程、前輪側分配率Xf が大きくされて後輪側分配率Xr が小さくなる。
【0074】
以下、上記目標分配比Rdis となるMGFトルクTmgf を分配時MGFトルクTDmgf と言い、発電電力Wgmgfを分配時発電電力WDgmgfと言う。また、分配時発電電力WDgmgfを用いて駆動されるTM用回転機MGMのMGMトルクTmgm を分配時MGMトルクTDmgm 、消費電力Wcmgmを分配時消費電力WDcmgmと言う。
【0075】
駆動状態制御部140は、「H4_LSD」モードでは、トルク分配比Rx が目標分配比Rdis となるように、TF用クラッチCF1のスリップ状態すなわちトルク容量を制御する為の油圧制御指令信号Scbf を油圧制御回路60に出力する。TF用クラッチCF1のトルク容量が大きくされる程、前輪側分配率Xf が大きくされて後輪側分配率Xr が小さくなる。
【0076】
駆動状態制御部140は、「H4_トルクスプリット」モードや「H4_LSD」モードにおいて、運転者によりデフロック選択スイッチ120がオン状態へ操作された場合に、第2噛合クラッチD2を第2断接状態[2]から第3断接状態[3]に切り替えて「H4_Lock」モードを成立させる。駆動状態制御部140は、「H4_Lock」モードにおいて、車両8の停止時であって、運転者によりローギヤ選択スイッチ122がオン状態へ操作された場合に、第1噛合クラッチD1を第1断接状態[1]から第2断接状態[2]に切り替えて「L4_Lock」モードを成立させる。
【0077】
ここで、前記「H4_トルクスプリット」モードで走行する際にTF用回転機MGFの発電制御によって得られる分配時発電電力WDgmgfは、通常はバッテリ24に充電され、走行状況に応じてバッテリ24から取り出されて、TM用回転機MGMやTF用回転機MGFを電動モータとして使用する力行制御に用いられるが、バッテリ24を介して電力の授受が行なわれると充放電の際に電力損失が生じる。これに対し、本実施例では、「H4_トルクスプリット」モードで走行する際に各種制御を実行するトルクスプリット制御部142は、TF用回転機MGFの発電制御の際に得られる分配時発電電力WDgmgfの処理に関して電力消費制御部144及び充電制御部146を機能的に備えており、図9のフローチャートに従って信号処理を実行する。図9のステップS3、S4、S5、S6、S7は電力消費制御部144に相当し、ステップS9は充電制御部146に相当する。
【0078】
図6のステップS1では、トルクスプリットモードで走行中か否か、本実施例では「H4_トルクスプリット」モードで走行中か否かを判断する。「H4_トルクスプリット」モードでない場合はそのまま終了し、「H4_トルクスプリット」モードで走行中の場合はステップS2以下を実行する。ステップS2では、バッテリ24の充電状態値SOCが予め定められた判定値αよりも大きいか否かを判断し、SOC>αの場合にはステップS6以下を実行する。判定値αは、例えばそれ以上の充電が適当でない満充電の時のバッテリ24の充電状態値SOCであるが、エネルギー効率の観点からは、バッテリ24に一旦充電するよりもTM用回転機MGMによって使用した方が総合的な効率が良くなるため、満充電よりも小さい所定の充電状態値SOCを判定値αに設定しても良い。
【0079】
ステップS6では、TF用回転機MGFの発電制御で得られる分配時発電電力WDgmgfを、バッテリ24を介することなくTM用回転機MGMに供給して、そのTM用回転機MGMを駆動する。すなわち、TF用回転機MGFによって得られた分配時発電電力WDgmgfを、そのままTM用回転機MGMの分配時消費電力WDcmgmとして使うことで、その分配時消費電力WDcmgmによる分配時MGMトルクTDmgm だけMGMトルクTmgm を増大させる。例えば、「H4_トルクスプリット」モードを含むHV走行モードでは、基本的に要求駆動トルクTrdemを得るのに必要な第1動力源PU1の総トルクTpu1 を総てエンジントルクTe で発生させる場合、上記分配時消費電力WDcmgmでTM用回転機MGMを回転駆動する。HV走行モードにおいて、モータアシスト等によりエンジン12及びTM用回転機MGMの両方を用いて総トルクTpu1 を発生させる場合には、TF用回転機MGFの発電制御で得られる分配時発電電力WDgmgfに相当する分配時消費電力WDcmgmだけTM用回転機MGMの消費電力Wcmgmを増大させれば良い。或いは、モータアシストによるTM用回転機MGMの消費電力Wcmgmが、分配時発電電力WDgmgfから供給されるようにして、その分だけバッテリ24からの持ち出しを少なくしても良い。
【0080】
次のステップS7では、TF用回転機MGFの発電制御で得られる分配時発電電力WDgmgfの一部が残る場合に、その余剰電力Wsur をバッテリ24に充電する。充電状態値SOCが判定値αよりも大きい場合にステップS6を実行した場合には、分配時発電電力WDgmgfを可能な限り使ってTM用回転機MGMを作動させるため、基本的には余剰電力Wsur =0であり、バッテリ24の充電制御を行なうことなく次のステップS8を実行する。ステップS8では、分配時発電電力WDgmgfによるMGMトルクTmgm の増大に拘らず第1動力源PU1の総トルクTpu1 が変動しないように、エンジン12の運転点を変更する。エンジン12の運転点はエンジン12の運転状態を表すもので、本実施例ではエンジン回転速度Ne 及びエンジントルクTe によって規定され、エンジン回転速度Ne は車速Vや自動変速機50のATギヤ段等に応じて定まるため、分配時発電電力WDgmgfによるMGMトルクTmgm の増大分(分配時MGMトルクTDmgm )だけエンジントルクTe を低下させる。
【0081】
前記ステップS2の判断がNo(否定)の場合、すなわちバッテリ24の充電状態値SOCが判定値α以下の場合は、バッテリ24に充電する余裕があるため、ステップS3以下を実行する。ステップS3では、トルク分配比Rx が目標分配比Rdis になる分配時MGFトルクTDmgf でTF用回転機MGFを発電制御する際の発電量すなわち分配時発電電力WDgmgfを算出する。ステップS4では、その分配時発電電力WDgmgfをそのまま総てTM用回転機MGMの消費電力Wcmgmとして使った場合のMGMトルクTmgm を、分配時MGMトルクTDmgm として算出する。そして、ステップS5では、その分配時MGMトルクTDmgm に基づいて、エンジン12の運転点が図10の燃費最適線Lflに近付くように、MGMトルクTmgm を増大させることができるか否かを判断する。
【0082】
図10において、実線で示す燃費最適線Lflは、エンジン12の燃費が最も良くなる、エンジン回転速度Ne とエンジントルクTe との関係を表す予め定められたエンジン12の動作曲線であって、燃費最適運転点の連なりであり、燃費最適状態を表している。図10の複数の楕円状の破線は等燃費線で、楕円が小さい部分程燃費が良い部分である。一方、二点鎖線は、アクセル開度θacc 等に応じて算出された要求駆動パワーPrdemを実現できる要求エンジンパワーPedemの等パワー線の一例である。この場合に、車速Vや自動変速機50のATギヤ段等に応じて定まるエンジン回転速度Ne がNe1の場合、要求エンジンパワーPedemの等パワー線との交点Aがエンジン12の運転点である。図10の場合、運転点AのエンジントルクTeaは、燃費最適線Lfl上の運転点BのエンジントルクTebよりも大きいため、TM用回転機MGMによる分配時MGMトルクTDmgm によりエンジントルクTe を低下させて運転点を燃費最適線Lflに近付けることが可能であり、ステップS5の判断はYes(肯定)になる。
【0083】
ステップS5の判断がYesの場合、前記ステップS6~S8を実行して分配時発電電力WDgmgfによりTM用回転機MGMを回転駆動するとともに、エンジン12の運転点を燃費最適線Lflに近付ける。例えば、運転点AのエンジントルクTeaと運転点BのエンジントルクTebとの差トルクΔTe(=Tea-Teb)が、ステップS4で求めた分配時MGMトルクTDmgm と一致する場合には、ステップS6で分配時発電電力WDgmgfを総てTM用回転機MGMに供給し、TM用回転機MGMを分配時MGMトルクTDmgm で回転駆動するとともに、ステップS8では、エンジン12を燃費最適線Lfl上の運転点Bで作動させる。差トルクΔTe が分配時MGMトルクTDmgm よりも大きい場合は、ステップS6で分配時発電電力WDgmgfを総てTM用回転機MGMに供給し、TM用回転機MGMを分配時MGMトルクTDmgm で回転駆動するとともに、ステップS8では、エンジントルクTeaから分配時MGMトルクTDmgm を差し引いたエンジントルクTe(=Tea-TDmgm)の運転点、すなわち図10における点Aと点Bとの間の運転点で、エンジン12を作動させる。また、差トルクΔTe が分配時MGMトルクTDmgm よりも小さい場合は、ステップS6で差トルクΔTe と一致するMGMトルクTmgm でTM用回転機MGMを回転駆動するのに必要な消費電力Wcmgm分だけ分配時発電電力WDgmgfをTM用回転機MGMに供給し、その消費電力WcmgmでTM用回転機MGMを回転駆動するとともに、ステップS8では、燃費最適線Lfl上の運転点Bでエンジン12を作動させる。この場合は、分配時発電電力WDgmgfの一部がTM用回転機MGMの消費電力Wcmgmとして消費されるだけであるため、残りの余剰電力Wsur(=WDgmgf-Wcmgm)がステップS7でバッテリ24に充電される。
【0084】
一方、図10の二点鎖線よりも要求エンジンパワーPedemが小さく、エンジン12の運転点が図10のB点やC点の場合、すなわちエンジントルクTe が燃費最適線Lfl上かそれよりも小さい場合には、分配時発電電力WDgmgfをTM用回転機MGMに供給して回転駆動しても、エンジン12の運転点を燃費最適線Lflに近付けることはできない。このため、ステップS5の判断はNo(否定)となり、ステップS9を実行して分配時発電電力WDgmgfを総てバッテリ24に充電する。なお、エンジン12の運転点がB点やC点の場合でも、TM用回転機MGMによるモータアシストが行なわれている場合には、そのTM用回転機MGMの消費電力Wcmgmが分配時発電電力WDgmgfから供給されるようにして、余剰電力Wsur(=WDgmgf-Wcmgm)がステップS9でバッテリ24に充電されるようにしても良い。
【0085】
このような車両用駆動装置10においては、トルク分配比Rx が目標分配比Rdis になるように分配時MGFトルクTDmgf を制御する発電制御を行なうとともに、分配時MGFトルクTDmgf に拘らず要求駆動トルクTrdemが得られるように第1動力源PU1の総トルクTpu1 を制御するトルクスプリット制御部142が、発電制御によって得られた分配時発電電力WDgmgfの一部又は全部を用いてTM用回転機MGMを駆動することによりエンジン12の運転点を燃費最適線Lflに近付けることができる場合(ステップS5の判断がYes)には、分配時発電電力WDgmgfの一部又は全部をバッテリ24を介することなくTM用回転機MGMに供給してそのTM用回転機MGMを駆動する電力消費制御部144を有する。このため、発電制御によって得られた分配時発電電力WDgmgfを常にバッテリ24に充電する場合に比較して、バッテリ24の充放電に起因する電力損失が低減され、車両用駆動装置10全体のエネルギー効率が向上する。また、エンジン12の運転点が燃費最適線Lflに近付くように、発電制御によって得られた分配時発電電力WDgmgfを用いてTM用回転機MGMが駆動されるため、エンジン12の燃費が向上し、この点も車両用駆動装置10全体のエネルギー効率の向上に寄与する。
【0086】
また、トルクスプリット制御部142は、発電制御によって得られた分配時発電電力WDgmgfの全部をバッテリ24に充電する充電制御部146を備えており、前記電力消費制御部144による制御を行なうか充電制御部146による制御を行なうかをエンジン12の運転点に基づいて選択するため、エンジン12の運転点に応じて電力消費制御部144による制御が適切に実行されるようになり、その電力消費制御部144による制御の実行で車両用駆動装置10全体のエネルギー効率を向上させることができる。
【0087】
また、発電制御によって得られた分配時発電電力WDgmgfの一部又は全部を用いてTM用回転機MGMを駆動することによりエンジン12の運転点を燃費最適線Lflに近付けることができるか否かを判断し、燃費最適線Lflに近付けることができる場合には電力消費制御部144による制御を選択するため、エンジン12の運転点に応じて電力消費制御部144による制御が適切に実行されるようになり、その電力消費制御部144による制御の実行で車両用駆動装置10全体のエネルギー効率を向上させることができる。
【0088】
また、バッテリ24の充電状態値SOCが予め定められた判定値αを超えている場合には、エンジン12の運転点に基づく選択を行なうことなく、発電制御によって得られた分配時発電電力WDgmgfの全部をバッテリ24を介することなくTM用回転機MGMに供給してTM用回転機MGMを駆動するため、バッテリ24の充放電や満充電に起因する電力損失が抑制される。
【0089】
また、発電制御によって得られた分配時発電電力WDgmgfをTM用回転機MGMに供給してTM用回転機MGMを駆動することによりエンジン12の運転点を燃費最適線Lflに近付けることができる場合に、分配時発電電力WDgmgfの一部が残る場合は、その余剰電力Wsur をバッテリ24に充電するため、エンジン12の運転点を確実に燃費最適線Lflに近付けて車両用駆動装置10全体のエネルギー効率を適切に向上させることができる。
【0090】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明はその他の態様においても適用される。
【0091】
例えば、前記実施例の差動装置64は、3段以上の変速機として機能するものであっても良いし、無段変速機として機能するものであっても良い。差動装置64を、複数の遊星歯車装置を用いて構成することもできる。
【0092】
また、前記実施例のトランスファ28にはTF用クラッチCF1、TF用ブレーキBF1、第1噛合クラッチD1、第2噛合クラッチD2が設けられていたが、トルクスプリットモードを成立させるだけであれば、それ等のTF用クラッチCF1、TF用ブレーキBF1、第1噛合クラッチD1、第2噛合クラッチD2を総て省略して、第1出力軸66をTF入力軸62に連結するとともにドライブギヤ70をリングギヤRに連結しても良いなど、トランスファ28の構成は走行モードの種類等に応じて適宜変更できる。第1出力軸66とキャリアCAとの間にクラッチを設けて断接可能にすれば、TF用回転機MGFからの動力を、第2噛合クラッチD2を介して第2出力軸72から前輪14側へ伝達して走行する前輪駆動(FF)型のEV走行も可能になるなど、必要に応じてクラッチやブレーキを追加しても良い。
【0093】
また、前記実施例の第1出力軸66が、第1動力源PU1からの動力を前輪14に出力する出力軸とされ、第2出力軸72が、後輪16に動力を出力する出力軸とされるように構成しても良い。
【0094】
また、前記実施例では、エンジン断接クラッチK0及び回転機断接クラッチK2を備えた動力伝達装置18を例示したが、この態様に限らない。例えば、エンジン断接クラッチK0及び回転機断接クラッチK2の何れか一方、或いは両方を省略することも可能である。
【0095】
また、前記実施例において、自動変速機50は、公知のDCT(Dual Clutch Transmission)を含む同期噛合型平行2軸式自動変速機、或いは公知のベルト式無段変速機などであっても良い。電気式無段変速機を採用することもできる。
【0096】
また、前記実施例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ48が用いられていたが、この態様に限らない。例えば、流体式伝動装置として、トルクコンバータ48に替えて、トルク増幅作用のないフルードカップリングなどの他の流体式伝動装置が用いられても良い。発進クラッチや電気式無段変速機を用いることにより、トルクコンバータ48等の流体式伝動装置を省略することも可能である。
【0097】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0098】
10:車両用駆動装置 12:エンジン 14:前輪 16:後輪 24:バッテリ(蓄電装置) 28:トランスファ(動力分配装置) 64:差動装置 66:第1出力軸 72:第2出力軸 130:電子制御装置(制御装置) 142:トルクスプリット制御部 144:電力消費制御部 146:充電制御部 S:サンギヤ(第1回転要素) CA:キャリア(第2回転要素) R:リングギヤ(第3回転要素) MGM:TM用回転機(第1回転電機) MGF:TF用回転機(第2回転電機) PU1:第1動力源(動力源) Tmgf :MGFトルク(発電トルク) SOC:充電状態値 α:判定値 A:運転点(運転状態) Lfl:燃費最適線(燃費最適状態)
図1
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