(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】亜鉛の分離方法、亜鉛材料の製造方法および鉄材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 19/02 20060101AFI20231205BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20231205BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20231205BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20231205BHJP
C22B 7/02 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C22B19/02
C22B3/06
C22B3/44 101A
C22B3/22
C22B7/02 B
(21)【出願番号】P 2021176982
(22)【出願日】2021-10-28
【審査請求日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2021000533
(32)【優先日】2021-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】篠田 万里子
(72)【発明者】
【氏名】山口 東洋司
(72)【発明者】
【氏名】青木 圭太
(72)【発明者】
【氏名】村井 亮太
(72)【発明者】
【氏名】奥山 悟郎
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-097638(JP,A)
【文献】特開昭52-082616(JP,A)
【文献】特開2017-137578(JP,A)
【文献】特開2019-060018(JP,A)
【文献】特開昭52-066805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00 - 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鉄ダストを粗粒ダストと細粒ダストとに分離する湿式分級工程と、分離した前記細粒ダストに酸を添加して前記細粒ダストを含む前記酸のpHを1.0以上に調整し、前記細粒ダストに含まれる亜鉛を前記酸に浸出させる亜鉛浸出工程と、該亜鉛浸出工程で得られた第1処理液に第1アルカリを添加して鉄を沈殿させる鉄沈殿工程と、該鉄沈殿工程で得られた第2処理液を固液分離する第1固液分離工程と、該第1固液分離工程で得られた第3処理液に第2アルカリ
(但し、前記湿式分級工程において生じたアルカリ性の廃水を除く。)を添加して亜鉛を沈殿させる亜鉛沈殿工程と、該亜鉛沈殿工程で得られた第4処理液を固液分離する第2固液分離工程とを含むことを特徴とする亜鉛の分離方法。
【請求項2】
前記湿式分級工程は、湿式サイクロンを用いて行うことを特徴とする、請求項1に記載の亜鉛の分離方法。
【請求項3】
前記亜鉛浸出工程は、前記細粒ダストを含む前記酸のpHを2.0以上3.0以下に調整して行う、請求項1または2に記載の亜鉛の分離方法。
【請求項4】
前記亜鉛浸出工程における、前記細粒ダストに含まれる亜鉛を前記酸に浸出させる時間を15分以上120分以下とする、請求項1~3に記載の亜鉛の分離方法。
【請求項5】
前記鉄沈殿工程は、前記第1アルカリが添加された前記第1処理液のpHを4.0以上6.0以下に調整して行う、請求項1~4のいずれか一項に記載の亜鉛の分離方法。
【請求項6】
前記鉄沈殿工程は、前記第1アルカリが添加された前記第1処理液のpHに応じて、酸化還元電位を制御して行う、請求項1~5のいずれか一項に記載の亜鉛の分離方法。
【請求項7】
前記亜鉛沈殿工程は、前記第2アルカリが添加された前記第3処理液のpHを8.0以上12.0以下に調整して行う、請求項1~6のいずれか一項に記載の亜鉛の分離方法。
【請求項8】
前記亜鉛沈殿工程で用いる第2アルカリは、アルカリ金属の水酸化物もしくは炭酸塩である、請求項1~7のいずれか一項に記載の亜鉛の分離方法。
【請求項9】
前記第1固液分離工程で得られた鉄を回収する第1鉄回収工程、または/および前記第2固液分離工程で分離された亜鉛を回収する亜鉛回収工程をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の亜鉛の分離方法。
【請求項10】
前記亜鉛浸出工程と前記第1固液分離工程との間に、前記第1処理液を固液分離する第3固液分離工程をさらに含み、前記鉄沈殿工程は、前記第3固液分離工程で得られた第5処理液に含まれる鉄を沈殿させる、
請求項1~9のいずれか一項に記載の亜鉛の分離方法。
【請求項11】
前記第3固液分離工程で得られた鉄を回収する第2鉄回収工程をさらに含む、請求項10に記載の亜鉛の分離方法。
【請求項12】
前記製鉄ダストとして高炉ダストを用いる、請求項1~11のいずれか一項に記載の亜鉛の分離方法。
【請求項13】
製鉄ダストから、請求項1~12のいずれか一項に記載の亜鉛の分離方法により亜鉛を分離して回収することを特徴とする亜鉛材料の製造方法。
【請求項14】
製鉄ダストから、請求項1~12のいずれか一項に記載の亜鉛の分離方法により鉄を分離して回収することを特徴とする鉄材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛の分離方法、亜鉛材料の製造方法および鉄材料の製造方法に関し、特に分級操作および化学処理から成る亜鉛の分離方法、亜鉛材料の製造方法および鉄材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的なベースメタルである鉄は、多様な産業分野で用いられている。鉄は、レアメタルと呼ばれる希少金属と比べると資源量は潤沢なものの、新興国の台頭に伴い、需給バランスが急激に変化している。その結果、良質な鉄鉱石資源が減少し、品位の劣る鉱石を使わざるを得ない状況になりつつある。
【0003】
このような状況を鑑み、鉄鉱石の代わりに鉄を含む他成分の金属で構成される産業廃棄物や製鉄所副生成物を鉄源として利用する試みがなされている。例えば、高炉ダスト、転炉ダスト、電炉ダスト等の製鉄ダストには鉄、亜鉛、炭素等が含まれているため、鉄源として再利用・再資源化されている。しかし、製鉄ダスト中の亜鉛は高炉内で付着物を形成し、高炉操業に悪影響を及ぼすため、製鉄ダストの再資源化量は制限されてきた。
【0004】
上記問題を解決するために、製鉄ダストから亜鉛を分離回収する技術が求められており、このような技術は乾式法と湿式法に大別される。ここで、乾式法は、製鉄ダストを高温で還元し、亜鉛を揮発させて分離回収する技術である(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
これに対して、湿式法による亜鉛の分離回収方法では、製鉄ダストを酸で処理した後、マグネシウム系アルカリで中和して亜鉛を回収する方法が行われている(例えば、特許文献2参照)。また、特許文献3では、酸で処理した製鉄ダストを磁力により磁着物および非磁着物に分離した後、非磁着物に含まれる亜鉛をアルカリで回収する方法が記載されている。
【0006】
本発明者らは、特許文献4において、上記課題に対する亜鉛の分離回収法を提案した。しかしながら、高炉ダスト中に亜鉛は重量で高々数%しか含まれていないため、高炉ダストに含まれる亜鉛を本手法で処理を行おうとすると処理効率が悪く、また設備費も高額になることが明らかとなった。
【0007】
ところで、製鉄ダスト中の亜鉛は主として微細粒子であることが知られている。それ故に製鉄ダストの粗大粒子と微細粒子をふるい分ける(分級する)ことにより、亜鉛を分離回収する方法も提案されている。
【0008】
例えば、特許文献5では、高炉湿ダストを超音波処理の後に湿式サイクロンに通し、上側回収物を亜鉛主体回収物、下側回収物を再度湿式サイクロン処理ならびに磁選処理を行うことにより、亜鉛主体回収物、鉄主体回収物、カーボン主体回収物に分別する方法が記載されている。
【0009】
また、特許文献6においては、製鉄ダストを分別採集または湿式分級することにより粗粒ダストと細粒ダストとに分離し、細粒ダストに酸を接触させて亜鉛を浸出させた後、浸出残渣と浸出液に固液分離し、浸出液を上記分別採集または湿式分級した際に発生したアルカリ性の廃水を用いて中和させて水酸化亜鉛を析出させ、回収する手法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開昭52-61108号公報
【文献】特開平7-216470号公報
【文献】特開2010-001524号公報
【文献】特開2017-137578号公報
【文献】特開2013-023720号公報
【文献】特開平7-97638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1をはじめとする乾式法による亜鉛の分離回収では、大規模な高温還元装置が必要であり、亜鉛の含有量が数%程度の高炉ダストや転炉ダストでは、経済的に成立しないという課題があった。
【0012】
特許文献2の亜鉛回収方法は、浸出した亜鉛を回収する際に、水酸化ナトリウムや水酸化カルシウム等に比べ高価であるマグネシウム系アルカリを使用する必要があり、コストの面で問題がある。
【0013】
特許文献3の亜鉛回収方法は、磁力による選別が必要で処理工程が煩雑であることや、水硫化ナトリウムの薬剤費用が高価なことから、この方法でもコストの面で問題がある。また、水硫化ナトリウムは使用に際して硫化水素が発生するおそれがあり、安全性の確保にも課題がある。
【0014】
特許文献5の亜鉛回収方法は、亜鉛主体回収物の亜鉛濃度は6%と低く、亜鉛源としての利用価値は小さいと考えられる。亜鉛主体回収物の外部処分費を考慮すれば、むしろ経済的なメリットが小さい点が課題である。
【0015】
特許文献6の実施例によれば本方法で得られた水酸化亜鉛には酸化カルシウムが16.8%含有されている。実際には酸化カルシウムではなく、高アルカリ廃水に含まれるカルシウムイオンと硫酸イオンとが反応して生成した硫酸カルシウム(石膏)として析出していると考えられる。高アルカリ廃水中のカルシウム等のアルカリ成分は製鉄原料や製鉄所の操業条件によって一定ではないため、廃水中カルシウム濃度が上昇した場合、不純物である石膏の析出量も増大、結果として亜鉛濃度の低い低品質な水酸化亜鉛しか得られないことが課題である。
【0016】
そこで、本発明の目的は、簡便かつ低コストで製鉄ダストから亜鉛を分離することができる亜鉛の分離方法、亜鉛の製造方法および鉄材料の製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決する方途について鋭意検討した。その結果、まず製鉄ダストを湿式分級することにより細粒ダストと粗粒ダストに分級し、次いで細粒ダストを酸に浸出させる亜鉛浸出工程を実施、前記亜鉛浸出工程においては酸のpHを1.0以上に調整し、上記亜鉛浸出工程と、酸に浸出した亜鉛を沈殿させる亜鉛沈殿工程との間に、鉄を沈殿させる鉄沈殿工程を行うことが極めて有効であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0018】
粗粒ダストならびに鉄沈殿工程の後に固液分離をして得られる沈殿物は、鉄源として再利用し、亜鉛沈殿の後に固液分離をして得られる沈殿物は亜鉛源として再利用することとした。
【0019】
また、鉄沈殿工程においては酸化還元電位を制御しながら行うこととした。
【0020】
さらに、亜鉛沈殿工程においてはアルカリとしてアルカリ金属の水酸化物もしくは炭酸塩を用いることとした。
【0021】
本発明の要旨構成は以下の通りである。
(1)製鉄ダストを粗粒ダストと細粒ダストとに分離する湿式分級工程と、分離した前記細粒ダストに酸を添加して前記細粒ダストを含む前記酸のpHを1.0以上に調整し、前記細粒ダストに含まれる亜鉛を前記酸に浸出させる亜鉛浸出工程と、該亜鉛浸出工程で得られた第1処理液に第1アルカリを添加して鉄を沈殿させる鉄沈殿工程と、該鉄沈殿工程で得られた第2処理液を固液分離する第1固液分離工程と、該第1固液分離工程で得られた第3処理液に第2アルカリを添加して亜鉛を沈殿させる亜鉛沈殿工程と、該亜鉛沈殿工程で得られた第4処理液を固液分離する第2固液分離工程とを含むことを特徴とする亜鉛の分離方法。
【0022】
(2)前記湿式分級工程は、湿式サイクロンを用いて行うことを特徴とする前記(1)に記載の亜鉛の分離方法。
【0023】
(3)前記亜鉛浸出工程は、前記細粒ダストを含む前記酸のpHを2.0以上3.0以下に調整して行う。前記(1)または(2)に記載の亜鉛の分離方法。
【0024】
(4)前記亜鉛浸出工程における、前記細粒ダストに含まれる亜鉛を前記酸に浸出させる時間を15分以上120分以下とする、前記(1)~(3)に記載の亜鉛の分離方法。
【0025】
(5)前記鉄沈殿工程は、前記第1アルカリが添加された前記第1処理液のpHを4.0以上6.0以下に調整して行う、前記(1)~(4)のいずれか一項に記載の亜鉛の分離方法。
【0026】
(6)前記鉄沈殿工程は、前記第1アルカリが添加された前記第1処理液のpHに応じて、酸化還元電位を制御して行う、前記(1)~(5)のいずれか一項に記載の亜鉛の分離方法。
【0027】
(7)前記亜鉛沈殿工程は、前記第2アルカリが添加された前記第3処理液のpHを8.0以上12.0以下に調整して行う、前記(1)~(6)のいずれか一項に記載の亜鉛の分離方法。
【0028】
(8)前記亜鉛沈殿工程で用いる第2アルカリは、アルカリ金属の水酸化物もしくは炭酸塩である、前記(1)~(7)のいずれか一項に記載の亜鉛の分離方法。
【0029】
(9)前記第1固液分離工程で得られた鉄を回収する第1鉄回収工程、または/および前記第2固液分離工程で分離された亜鉛を回収する亜鉛回収工程をさらに含む、前記(1)~(8)のいずれか一項に記載の亜鉛の分離方法。
【0030】
(10)前記亜鉛浸出工程と前記第1固液分離工程との間に、前記第1処理液を固液分離する第3固液分離工程をさらに含み、前記鉄沈殿工程は、前記第3固液分離工程で得られた第5処理液に含まれる鉄を沈殿させる、前記(1)~(9)のいずれか一項に記載の亜鉛の分離方法。
【0031】
(11)前記第3固液分離工程で得られた鉄を回収する第2鉄回収工程をさらに含む、前記(10)に記載の亜鉛の分離方法。
【0032】
(12)前記製鉄ダストとして高炉ダストを用いる、前記(1)~(11)のいずれか一項に記載の亜鉛の分離方法。
【0033】
(13)製鉄ダストから、前記(1)~(12)のいずれか一項に記載の亜鉛の分離方法により亜鉛を分離して回収することを特徴とする亜鉛材料の製造方法。
【0034】
(14)製鉄ダストから、前記(1)~(12)のいずれか一項に記載の亜鉛の分離方法により鉄を分離して回収することを特徴とする鉄材料の製造方法。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、簡便かつ低コストで製鉄ダストから亜鉛を分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の一実施形態による亜鉛の分離方法のフローチャートを示す図である。
【
図2】25℃の水溶液中における鉄の酸化還元電位とpHの状態図である。
【
図3】25℃の水溶液中における亜鉛の酸化還元電位とpHの状態図である。
【
図4】本発明の別の実施形態による亜鉛の分離方法のフローチャートを示す図である。
【
図5】湿式サイクロンの下部出口径と細粒側Zn分配率および細粒側Zn as ZnO分配率との関係を示す図である。
【
図6】高炉ダストスラリーの固形分濃度と細粒側Zn分配率および細粒側Zn as ZnO分配率との関係を示す図である。
【
図7】硫酸のpHと鉄および亜鉛の浸出率との関係を示す図である。
【
図8】硫酸浸出前後の亜鉛化合物の割合を示す図である。
【
図9】比較例1の亜鉛の分離方法のフローチャートを示す図である。
【
図10】比較例2の亜鉛の分離方法のフローチャートを示す図である。
【
図11】鉄沈殿工程における鉄および亜鉛の沈殿率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(亜鉛の分離方法)
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態による亜鉛の分離方法のフローチャートを示している。本発明による亜鉛の分離方法は、製鉄ダストを粗粒ダストと細粒ダストとに分離する湿式分級工程(ステップS1)と、分離した前記細粒ダストに酸を添加して前記細粒ダストを含む前記酸のpHを1.0以上に調整し、前記細粒ダストに含まれる亜鉛を前記酸に浸出させる亜鉛浸出工程(ステップS2)と、該亜鉛浸出工程で得られた第1処理液に第1アルカリを添加して鉄を沈殿させる鉄沈殿工程(ステップS3)と、該鉄沈殿工程で得られた第2処理液を固液分離する第1固液分離工程(ステップS4)と、該第1固液分離工程で得られた第3処理液に第2アルカリを添加して亜鉛を沈殿させる亜鉛沈殿工程(ステップS5)と、該亜鉛沈殿工程で得られた第4処理液を固液分離する第2固液分離工程(ステップS6)とを含むことを特徴とする。
【0038】
本発明者らは、製鉄ダストに含まれる亜鉛を簡便かつ低コストで分離できる方途について鋭意検討した。そのためにまず、高炉ダストに含まれる亜鉛について詳細に調査した。具体的には、特開平10-267910号公報に記載された方法に基づき、ダストを塩化鉄(III)溶液とクエン酸の混合溶液中で攪拌し、溶解した亜鉛を定量することによりZnOの割合を求めた。その結果、高炉ダスト中の亜鉛の70%程度がZnO態の酸化亜鉛として存在することが判明した。転炉ダスト、電気炉ダストについても同様であった。
【0039】
さらに湿式分級における酸化亜鉛の分級挙動を調査した結果、高炉ダストに含まれる酸化亜鉛のうち約70~80%が細粒ダストへと移行することが分かった。また、細粒ダストを酸で浸出した時の亜鉛の浸出率は、酸のpHの低下とともに上昇し、pH=2で70%に達し、ZnO態の酸化亜鉛のほぼ全ての亜鉛が浸出することが分かった。さらに、pHが1の場合にも浸出率は増加せず、亜鉛の浸出率はpH=2で飽和することが明らかとなった。
【0040】
また、上述のように、特許文献2に記載された技術においては、酸に浸出した亜鉛を沈殿させる際に、高価なマグネシウム系のアルカリを添加することにより、酸を効率よく中和して亜鉛を沈殿させている。本発明者らは、上述のような高価なアルカリを用いることなく、効率よく亜鉛を沈殿させる方途について鋭意検討した。その結果、亜鉛浸出工程の後に、処理液に含まれる鉄を沈殿させる鉄沈殿工程を行うことにより、その後の亜鉛沈殿工程において水酸化ナトリウム等の安価なアルカリを使用でき、しかも亜鉛を資源として再利用するのに十分な濃度に高めて分離できることを見出した。
【0041】
すなわち、亜鉛浸出工程においては、亜鉛を酸に浸出させることを目的としているが、鉄の浸出を完全に防ぐことは困難であり、細粒ダストに酸を添加して得られた第1処理液には、亜鉛イオンのみならず鉄イオンも含まれる。そこで、亜鉛浸出工程に続いて、第1処理液に含まれる鉄イオンを沈殿させることにより、第1固液分離工程で得られた第3処理液に含まれる鉄イオン濃度を低下させることができる。その結果、その後の亜鉛沈殿工程で沈殿した亜鉛中に鉄が混入することを抑制できるため、水酸化ナトリウム等の安価なアルカリを使用することができるようになるのである。
【0042】
このように、本発明者らは、高炉ダストを湿式で分級し、分離した細粒ダストに酸を添加してpHを1.0以上に調整し、亜鉛浸出工程と亜鉛沈殿工程との間に鉄を沈殿させる鉄沈殿工程を行うことにより、簡便かつ低コストに亜鉛を分離できることを見出し、本発明を完成させたのである。以下、各工程について説明する。
【0043】
製鉄ダストは通常スクラバー等でスラリーとして回収される。ステップS1においては、これを粗粒ダスト(低亜鉛ダスト)と細粒ダスト(高亜鉛ダスト)とに分別(粒度分級)する。なお、本発明において、粗粒ダストは、粒径が20μm以上のダスト、細粒ダストは、粒径が20μm未満のダストを意味している。
【0044】
製鉄ダストとしては、高炉ダスト、転炉ダスト、電気炉ダストなどを用いることができ、中でも高炉ダストを好適に用いることができる。
【0045】
粒度分級は、篩を用いたり流体中の粒子の沈降速度や移動速度の差を利用したりして(流体分級)行うことができる。流体分級は、重力を用いる方式と遠心力を用いる方式とに大別される。分級の手法は特に限定されないが、流体分級、中でも遠心力を利用する湿式サイクロンを用いることが望ましい。
【0046】
後述の通り、亜鉛は数μm程度の微細粒子として存在する。篩を用いて分級する場合、篩目を数μmとすれば、亜鉛を選択的に回収できるが、篩目が非常に細かいため目詰まりを起こしやすく、安定的な処理が難しいことが課題である。
【0047】
また、重力を用いる方式は、沈降速度の差を利用して分級を行う。しかし、高炉ダストの全量を重力沈降で分級しようとすると、巨大な沈降槽が必要となること、分級精度が不十分であることが課題である。
【0048】
それに対し、湿式サイクロンは、小規模な設備で多量のスラリーを分級可能な点で優れている。また、例えばPlitt, L. R.: A mathematical model of the hydrocyclone classifier, CIM Bulletin (1976), pp.114-123.に記載された式を用いることにより、分級粒径を推算可能である。すなわち、上記文献に記載された式を参考に、サイクロンの下部出口径や入口流量、スラリー濃度等を適切に設定すれば、分級性能を容易に制御可能である利点をも有している。以上の理由から、湿式サイクロンを用いることが望ましい。
【0049】
湿式サイクロンの下部出口径は、小さすぎると閉塞の原因となる一方、大きすぎると遠心力が十分に作用せず、粗粒と細粒の分級精度が低下する。そのため、湿式サイクロンの下部出口径は、好ましくはサイクロン円筒部の直径の3%~20%、より好ましくは5~15%の範囲で設定することが好ましい。
【0050】
湿式サイクロンに供給する高炉ダストスラリー濃度は特に限定されないが、濃度が薄すぎると必要なサイクロンの台数が増加し設備効率が低下すること、反対に濃すぎると閉塞等の設備トラブルの要因になることから、スラリー濃度を5%~40%に調整してから湿式サイクロンに供給することが好ましい。5%~40%の範囲におけるどの濃度に調整するかについては、非特許文献1の式等を参考に規定することが望ましい。
【0051】
スラリー状の製鉄ダストを湿式サイクロンに流通すると、比重および粒子径が大きいものほどサイクロンの壁面側に、比重および粒子径の小さいものほどサイクロンの中心部に存在する。そして、中心部にある微細で比重の小さな粒子は、サイクロン内の上昇流に乗り、サイクロン上部より細粒ダストとして回収される。それに対して、サイクロン壁面側に存在する粗大で比重の大きな粒子は、サイクロン内の下降流に乗り、粗粒ダストとして回収される。
【0052】
製鉄工程中に揮発した亜鉛は、一般に数μm程度の微細粒子として存在し、かつ比重も鉄に比べ小さい傾向がある。そのため、粗粒ダストに比べ細粒ダストに亜鉛がより多く含まれることとなる。細粒ダストは、サイクロン流通前のダストスラリーに比べて粒度のばらつきが小さく、かつ平均粒径が小さい。その結果、後段のステップS2における酸との反応性がサイクロン流通前に比べ良くなり、処理効率が高まる利点がある。
【0053】
それに対して、鉄、特に金属鉄は、亜鉛に比べ比重が大きいことから、粗粒ダスト側に多く移行する傾向がある。すなわち、粗粒ダストは、サイクロン流通前のダストスラリーに比べて亜鉛濃度が低減していることから、製鉄原料として再利用が可能となる。さらに、スラリー中の水に着目すると、サイクロンの運転条件によるものの、50%以上の水が微細粒子とともに細粒側へと移行する。すなわち、粗粒側はサイクロン流通前に比べ亜鉛だけでなく水分量も減っているため、製鉄原料としてリサイクルする際の脱水工程の負荷を下げることができ、よりリサイクルしやすい性状で回収が可能である。
【0054】
次に、ステップS2において、ステップS1において分離した細粒ダストに酸を添加して細粒ダストを含む酸のpHを1.0以上に調整し、亜鉛を上記酸に浸出させる亜鉛浸出工程を行う。本工程は、鉄および亜鉛を含有する原料物質である細粒ダストから酸により亜鉛のみを選択的に浸出する工程である。この際、鉄の浸出をできる限り抑制しつつ、亜鉛のみを選択的に浸出させることが肝要である。
【0055】
本発明で対象とする製鉄ダストは、亜鉛の含有率が数質量%と低いが、鉄の表面に分散した亜鉛のうち、約70%程度がZnO態として存在する。また、湿式サイクロンで分級することにより得られる細粒ダストには、高炉ダストに含まれるZnOのうち70~80%が含まれる。その結果、pHが2以上の弱い酸で亜鉛を浸出させることができ、しかも亜鉛含有率が低いにもかかわらず、亜鉛沈殿工程において得られた亜鉛の含有率は、原料として再利用可能な程度の高純度なものとすることができる。
【0056】
また、亜鉛の浸出のために使用する酸は、亜鉛を浸出させることができれば特に限定されない。例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の一般的な酸を用いることができる。
【0057】
浸出時の酸のpHは1.0以上に調整する。pHが1.0を下回る場合には、鉄の浸出が増加してしまい、また薬剤の消費量が増加して処理コストが増加するためである。また、後述する実施例の
図7に示すように、亜鉛の浸出率は、pHが2.0で飽和して2.0を下回っても増加せず、薬剤の消費量のみが増加する。そこで、pHは2.0以上とすることが好ましい。一方、pHが5.0を上回ると、亜鉛が浸出しにくくなるため、5.0以下とすることが好ましい。また、3.0以下であれば、浸出率は70%程度となり、原料として再利用するのに十分な濃度の亜鉛を浸出させることができる。そこで、亜鉛の浸出率と処理コストの点で、酸のpHを2.0以上3.0以下に調整することが特に好ましい。また、細粒ダストと水分の固液比は、均一な混合ができれば任意の比率とすることができるため、湿式サイクロンで分級した後に必要があれば希釈あるいは濃縮を行ってから酸を添加しても良い。
【0058】
また、浸出時間は、15分以上120分以下とすることが好ましい。ここで、浸出時間が、15分以上とすることにより、亜鉛を十分に浸出させることができる。一方、浸出時間を120分以下とすることにより、鉄の浸出量を抑制しつつ亜鉛の浸出を効果的に行うことができる。なお、反応温度については、水が凝固あるいは蒸発しない温度域で任意に設定することができる。
【0059】
次いで、ステップS3において、上記亜鉛浸出工程で得られた第1処理液にアルカリ(第1アルカリ)を添加して鉄を沈殿させる鉄沈殿工程を行う。ステップS2での亜鉛浸出工程は、酸に亜鉛を浸出させることを目的としているが、一部の鉄が浸出するのを防止することは困難である。そのため、第1処理液には、亜鉛イオン以外に鉄イオンも含まれ、酸に亜鉛を浸出させた残渣に含まれる鉄の含有率が低下し、製鉄原料としての再資源化率も低下する。また、上記第1処理液に第1アルカリを添加し亜鉛を回収すると、亜鉛だけでなく鉄も同時に沈殿するため、鉄の混入により亜鉛原料としての価値が下がり、非経済的である点も課題である。
【0060】
そこで、本発明においては、亜鉛浸出工程の後に、第1処理液に含まれる鉄を沈殿させる鉄沈殿工程を行う。この工程により、第1処理液から鉄を分離できるのみでなく、上述のように、後の亜鉛沈殿工程において、水酸化ナトリウム等の安価なアルカリを用いて亜鉛を沈殿させることができ、しかも資源として再利用するのに十分な純度の亜鉛を分離することができる。
【0061】
本発明者らは、上記第1処理液から鉄のみを沈殿して分離させる条件について鋭意検討した結果、pHが4.0以上6.0以下かつ酸化的条件とすることにより、第1処理液に浸出した鉄のみを沈殿させることができることを見出した。以下、上記知見を得るに至った詳細について説明する。
【0062】
図2は、25℃の水溶液中における鉄の酸化還元電位(ORP)とpHの状態図を示している。また、
図3は、亜鉛に関する状態図を示している。また、
図3における網掛け部分は、鉄が沈殿する領域を示しており、
図3における網掛け部分は亜鉛が沈殿する領域を示している。
【0063】
図2および
図3から、鉄が沈殿する領域と亜鉛が沈殿する領域はある程度重複しており、
図2の太線で囲った領域以外では、鉄以外に亜鉛も沈殿してしまうことが分かる。しかしながら、本発明者らは、pHが低く、ORPが酸化的条件下にある、
図2の太線で囲った領域に、主に鉄が沈殿する領域が存在することに着目した。そして、鉄および亜鉛を含有する上記第1処理液のpHとORPを、
図2の太線で囲った領域のpHとORPに調整することにより、鉄のみを沈殿させることができることに想到した。
【0064】
本発明者らはさらに検討を進め、鉄沈殿工程における第1処理液の好適なpHは4.0以上6.0以下であることを見出した。ここで、pHを4.0以上とすることにより、鉄を効率的に沈殿させることができる。また、pHを6.0以下とすることにより、亜鉛を沈殿させることなく鉄のみを効率的に沈殿させることができる。
【0065】
また、
図2から明らかなように、鉄沈殿工程は、第1アルカリが添加された前記第1処理液のpHに応じて、酸化還元電位を制御して行うことが好ましい。第1処理液中の鉄は、一般に2価の鉄イオンで存在するのに対し、pH調整により鉄イオンを沈殿させるためには、浸出液のORPを上昇させ(酸化的雰囲気にさせ)、鉄イオンを3価にする必要があるためである。
【0066】
第1処理液を酸化的雰囲気にする方法は、空気酸化あるいは酸化剤の添加等、処理コストを鑑みて任意の方法を選択することができる。空気酸化における空気の吹き込み量や酸化剤の最適添加量は、第1処理液のpHにより変動することから、第1処理液のpHに応じた適切な量を実験的に調べて規定することが好ましい。
【0067】
また、第1処理液に添加する第1アルカリについては、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム等の一般的なアルカリを使用することができる。こうしたアルカリは安価に入手できるため、処理コストを低減することができる。
【0068】
反応温度については、第1処理液が凝固あるいは蒸発しない温度域で任意に設定することができる。反応時間については、鉄の沈殿形成時間と処理効率とを鑑み、15分以上120分以下とすることが好ましい。
【0069】
続いて、ステップS4において、鉄沈殿工程で得られた第2処理液を固液分離する第1固液分離工程を行う。本工程は、主に亜鉛イオンを含むろ液と、亜鉛浸出工程における亜鉛浸出残渣および鉄沈殿工程において沈殿した固形分(鉄沈殿物)とを固液分離する工程である。
【0070】
亜鉛浸出工程において生じた亜鉛浸出残渣の主な成分は鉄であり、第1処理液中に亜鉛が浸出したことから、焼結工程を経て製鉄原料として資源として再利用することができる。また、鉄沈殿工程において生じた固形分についても、高純度の鉄を含んでおり、亜鉛浸出残渣と同様に、焼結工程を経て製鉄原料として資源として再利用することができる。そこで、上記第1固液分離工程で分離した鉄(鉄沈殿物)を回収する第1鉄回収工程を行うことにより、分離した鉄を資源として再利用することができる。
【0071】
固液分離手法については特に限定されず、例えば重力沈降分離、ろ過、遠心分離、フィルタプレス等の任意の手法を選択できる。
【0072】
次に、ステップS5において、上記第1固液分離工程で得られた第3処理液に第2アルカリを添加して亜鉛を沈殿させる亜鉛沈殿工程を行う。本工程は、第1固液分離工程において得られたろ液である第3処理液にアルカリ(第2アルカリ)を添加し、亜鉛を水酸化物として沈殿させる工程である。
【0073】
第2アルカリは、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムといったアルカリ金属の水酸化物もしくは炭酸塩であることが好ましい。これは、ステップS5において水酸化亜鉛以外に塩が生成するが、アルカリ金属の塩は一般に水に易溶のため、後段の第2固液分離工程を行う際に析出しにくく、亜鉛品位への影響が抑えられるためである。
【0074】
第3処理液のpHについては、8.0以上12.0以下とすることが好ましい。ここで、pHを8.0以上とすることにより、亜鉛を効率的に沈殿させることができる。また、pHを12.0以下とすることにより、一度沈殿した亜鉛を再度第3処理液に溶解させることなく、亜鉛を沈殿させることができる。
【0075】
また、反応温度については、第3処理液が凝固あるいは蒸発しない温度域で任意に設定することができる。さらに、反応時間については、亜鉛の沈殿形成時間と処理効率を鑑み、15分以上120分以下とすることが好ましい。
【0076】
最後に、ステップS6において、亜鉛沈殿工程で得られた第4処理液を固液分離する第2固液分離工程を行う。本工程は、亜鉛沈殿工程で得られた第4処理液と固形分(亜鉛沈殿物)を固液分離する工程である。第1固液分離工程と同様に、固液分離手法については特に限定されず、例えば重力沈降分離、ろ過、遠心分離、フィルタプレス等の任意の手法を選択できる。
【0077】
こうして製鉄ダストから簡便かつ低コストで亜鉛を分離することができる。分離された亜鉛沈殿物は、亜鉛を40%以上の高濃度で含有しており、亜鉛原料として価値が高い。そこで、上記第2固液分離工程で分離された亜鉛を回収する亜鉛回収工程を行うことにより、亜鉛製錬等を経て亜鉛原料として再資源化可能である。
【0078】
なお、上記第1固液分離工程においては、亜鉛浸出工程で生じた亜鉛浸出残渣および鉄沈殿工程で生じた固形物を同時に固液分離しているが、
図4に示すように、亜鉛浸出工程後に、亜鉛浸出残渣を固液分離する第3固液分離工程(ステップS21)を行い、第1固液分離工程においては、鉄沈殿工程において生じた固形分のみを固液分離するように構成してもよい。その際の固液分離方法は、第1固液分離工程の場合と同様に、特に限定されず、重力沈降分離、ろ過、遠心分離、フィルタプレス等の任意の手法を選択できる。
【0079】
第3固液分離工程を行う場合、第3固液分離工程で得られた鉄(亜鉛浸出残渣)を回収する第2鉄回収工程を行うことにより、亜鉛浸出残渣に対して焼結工程を行い、製鉄原料として資源として再利用することができる。
【0080】
(亜鉛材料の製造方法)
本発明による亜鉛材料の製造方法は、製鉄ダストから、上記亜鉛の分離方法により亜鉛を分離して回収することを特徴とする。これにより、製鉄ダストに含まれる亜鉛を濃縮して、亜鉛含有率40%以上の亜鉛材料を製造することができる。
【0081】
(鉄材料の製造方法)
本発明による鉄材料の製造方法は、製鉄ダストから、上記亜鉛の分離方法により鉄を分離して回収することを特徴とする。これにより、製鉄ダストに含まれる鉄の全てを回収して再資源化することができる。
【実施例】
【0082】
<湿式サイクロン下部出口径の検討>
円筒部直径が125mmの湿式サイクロンを用い、高炉ダストスラリー(固形分濃度30%)を湿式サイクロンに流通させ、粗粒ダストと細粒ダストとに分級した。その際、サイクロンの下部出口径を4mm~20mmの範囲で変動させ、分級挙動を調査した。なお、以下において、「Zn as ZnO」とは、ダスト中の全ZnのうちZnO態として存在するZnの割合を示すものである。成分組成は、各スラリーを一部分取し、105℃、大気圧下で24時間程度乾燥を行った後に、融合結合プラズマ(ICP)発光分光分析法にて分析した。
【0083】
図5は、サイクロンの下部出口径と細粒側Zn分配率および細粒側Zn as ZnO分配率との関係を示した図である。細粒側Zn分配率および細粒側Zn as ZnO分配率は、それぞれ下記の式で定義した。
(細粒側Zn分配率)[%]=(細粒側ダスト乾燥重量)×(細粒側ダスト中Zn濃度)×100/(サイクロン流通前ダスト乾燥重量)×(サイクロン流通前ダスト中Zn濃度)
(細粒側Zn as ZnO分配率)[%]=(細粒側ダスト乾燥重量)×(細粒側ダスト中Zn as ZnO濃度)×100/(サイクロン流通前ダスト乾燥重量)×(サイクロン流通前ダスト中Zn as ZnO濃度)
【0084】
図5より、サイクロン下部出口径4mm~16mmの範囲で、細粒側Zn分配率50%以上を達成した。特に、出口径4mm~12mmの範囲においては、細粒側Zn as ZnO分配率も80%以上を満たしている。ZnO態のZnは後段の酸処理工程において溶解しやすいため、処理効率が向上することが期待される。サイクロン下部での閉塞リスクを考慮し、以降の検討では下部出口径を12mmとした。
【0085】
下部出口径12mmにおける分級前後の成分組成を表1に示す。なお、各成分組成は乾燥重量ベースの値である。また、固形分分配比は次の式で定義した。
(細粒ダスト固形分分配比)[%]=(細粒側ダスト乾燥重量)×100/(サイクロン流通前ダスト乾燥重量)
(粗粒ダスト固形分分配比)[%]=100-(細粒ダスト固形分分配比)
表1より、粗粒ダストは、分級前に比べ固形分濃度が約2倍に上昇している。固形分濃度の上昇はダストの水分量の低下を示していることから、分級前よりも簡易な脱水でリサイクル原料として使用することが可能である。さらに、Zn濃度も分級前に比べ半分以下になっており、このことからもリサイクル原料として好適である。
【0086】
【0087】
<サイクロンに流通するスラリー濃度の検討>
次に、上記<湿式サイクロン下部出口径の検討>で用いたものと同機種のサイクロンを用い、サイクロンに流通するスラリー中の固形分濃度を検討した。その際、サイクロン下部出口径は、<湿式サイクロン下部出口径の検討>の結果に基づき、12mmとした。そして、5~50%の高炉ダストスラリーを用意し、<湿式サイクロン下部出口径の検討>と同様にサイクロンに流通させた。
図6に、高炉ダストスラリーの固形分濃度と細粒側分配率との関係を示す。
図6から明らかなように、ダストスラリー中の固形分濃度が高いほど、細粒側分配比が向上した。閉塞リスクと細粒側Zn分配比を考慮し、以降の検討におけるスラリー濃度は30%とした。
【0088】
<亜鉛浸出>
表1に示す組成を有する分級後の細粒ダストスラリー(固形分濃度15%)に3mol/Lの硫酸をpH=1、2、3、4、5になるように添加し、60分間撹拌した後、鉄および亜鉛の浸出率を調査した。なお、実験中の反応pHは、pHコントローラにより一定になるように制御した。
【0089】
図7に、硫酸のpHと鉄および亜鉛の浸出率との関係を示す。
図7から、鉄および亜鉛の浸出率は、硫酸のpHの低下とともに上昇し、pH=2でそれぞれ7%、80%に達することが分かる。
図8に、硫酸浸出前後の亜鉛化合物の割合を示す(全Znを100とした時の割合)。一般に、亜鉛、酸化亜鉛、硫化亜鉛、亜鉛-鉄複合酸化物(ZnFe
2O
4)のうち、酸に可溶な物質は、亜鉛および酸化亜鉛であるが、酸浸出後に細粒ダスト中の酸化亜鉛の割合が大きく減少し、ほぼ全量溶解した。したがって、特に好適なpHは2.0以上3.0以下であることが分かる。
【0090】
(発明例)
図1に示したフローに従って高炉ダストから亜鉛を分離した。すなわち、まず、表1に示した組成を有する高炉ダストスラリーを湿式サイクロンで分級した(ステップS1)後、細粒ダストスラリーに3mol/Lの硫酸を添加し、pH=2.0に調整し、細粒ダストに含まれる亜鉛を浸出させた(ステップS2)。次に、鉄沈殿工程を行い、2.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液をpH=5.0になるように添加し、その後、過酸化水素水を添加して、亜鉛浸出工程で溶解した鉄を再度沈殿させた(ステップS3)。なお、過酸化水素水の添加量は、酸化還元電位が550mV(標準水素電極基準)以上になるだけの量を添加し、60分間撹拌した。その後、第1固液分離工程を行った(ステップS4)。次にステップS4で得られたろ液に水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pH9.0に調整し、ろ液中の亜鉛を水酸化亜鉛として沈殿させた(ステップS5)。最後にステップS5の処理液を固液分離した(ステップS6)。
【0091】
(比較例1)
発明例と同様に高炉ダストから亜鉛を分離した。ただし、
図9に示すフローで処理を行い、湿式分級工程を行わなかった。なお、
図9において、亜鉛浸出工程S32、鉄沈殿工程S33、第1固液分離工程S34、亜鉛沈殿工程S35、第2固液分離工程S36は、
図1における亜鉛浸出工程S2、鉄沈殿工程S3、第1固液分離工程S4、亜鉛沈殿工程S5、第2固液分離工程S6にそれぞれ対応している。その他の処理は発明例と全て同じである。
【0092】
(比較例2)
発明例と同様に高炉ダストから亜鉛を分離した。ただし、
図10に示すフローで処理を行い、鉄沈殿工程を行わなかった。なお、
図10において、湿式分級工程S41、亜鉛浸出工程S42、第1固液分離工程S43、亜鉛沈殿工程S44、第2固液分離工程S45は、
図1における湿式分級工程S1、亜鉛浸出工程S2、第1固液分離工程S4、亜鉛沈殿工程S5、第2固液分離工程S6にそれぞれ対応している。その他の処理は発明例と全て同じである。
【0093】
(比較例3)
発明例と同様に高炉ダストから亜鉛を分離した。ただし、
図1の亜鉛沈殿工程(ステップS5)において、アルカリとして水酸化ナトリウム水溶液ではなく、製鋼ダスト脱水ろ液を使用した。その他の処理は発明例と全て同じである。
【0094】
<鉄および亜鉛の沈殿率>
鉄沈殿工程における鉄および亜鉛の沈殿率を
図11に示す。
図11に示すように、亜鉛をほとんど沈殿させることなく、鉄を完全に沈殿させて除去できることが分かる。
【0095】
さらに、発明例および比較例1~3について、亜鉛浸出工程における亜鉛浸出率、鉄再資源化率(処理前の高炉ダスト中の鉄に対する、粗粒ダストならびに鉄沈殿工程での沈殿物中の鉄の割合)、亜鉛沈殿工程での沈殿物中の亜鉛の含有率、総処理費用の観点で比較した。得られた結果を表2に示す。
【0096】
<発明例と比較例1~3との比較>
亜鉛の浸出率については、比較例1を除き、いずれも80%と同じであった。これは湿式サイクロンにより酸に易溶なZnO態を細粒ダストに濃化できるためである。しかし、比較例2については、亜鉛浸出工程で浸出した鉄を回収することができないため、鉄の再資源化率が発明例に比べ低下した。また、比較例2については、亜鉛沈殿工程で得られる沈殿物中の亜鉛含有率は、亜鉛原料として回収価値が高いとされる40%を大きく下回っており、亜鉛原料としての価値は低いことが分かった。この場合、亜鉛沈殿工程で得られた沈殿物は、産業廃棄物としての処理を余儀なくされるため、発明例に比して処理費用が1.5倍程度必要であり、比較例2のような処理フローは経済的でない。また、比較例3は製鋼ダスト脱水ろ液を用いることにより、アルカリのコストを削減することが可能であるが、表2に示すようにZn品位が31%と発明例に比べ低い。これは脱水ろ液中のカルシウムと硫酸イオンが反応し、石膏が同時に沈殿したためと考えられる。比較例2と同様に、この沈殿物は産業廃棄物としての処理が余儀なくされるため、アルカリコストの削減効果よりもむしろ産業廃棄物処理コストが大きくなり、結果として発明例よりも不経済な処理プロセスとなる。
このように、本発明により、高炉ダストから簡便かつ低コストで亜鉛を分離することが可能となった。
【0097】
【0098】
本発明によれば、簡便かつ低コストで製鉄ダストから亜鉛を分離することができるため、製鉄業において有用である。