(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】シームレス缶及びシームレス缶成形用樹脂被覆金属板
(51)【国際特許分類】
B65D 1/16 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
B65D1/16 111
(21)【出願番号】P 2021504913
(86)(22)【出願日】2020-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2020008087
(87)【国際公開番号】W WO2020184200
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2019046658
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019109480
(32)【優先日】2019-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】小路 勇人
(72)【発明者】
【氏名】永井 信彦
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-025131(JP,A)
【文献】特開昭55-163138(JP,A)
【文献】特開2009-208799(JP,A)
【文献】国際公開第2016/186138(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 1/12-20
B65D 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部及び胴部を有する
飲料用シームレス缶において、缶外面側にはポリエステル系塗膜を介して熱可塑性樹脂被覆が形成されており、前記ポリエステル系塗膜が、全樹脂固形分100質量部に対して着色剤を20質量部以下及びポリエステル樹脂100質量部に対して硬化剤を5~43質量部の量で含有するポリエステル系塗料組成物から成り、底部を含む缶外面の全体が着色されて
おり、
前記ポリエステル系塗膜の厚みが、7μm以下であり、
前記底部が、シームレス缶の正立状態における上部となるように印刷画像が形成されていることを特徴とする
飲料用シームレス缶。
【請求項2】
前記底部が、中央部に位置する上方に膨らんだボトム部と、該ボトム部周縁から降下した接地部と、該接地部から外方かつ上方に傾斜して延びて前記胴部下端に連なるチャイム部とから成る請求項
1記載の
飲料用シームレス缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シームレス缶及びシームレス缶成形用樹脂被覆金属板に関するものであり、より詳細には、缶底部を含む缶外面全体が着色された樹脂被覆シームレス缶及びこの樹脂シームレス缶を生産性良く成形可能な樹脂被覆金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム板やスチール板から絞りしごき加工により成形されたシームレス缶は、飲料等の分野で広く流通している。かかるシームレス缶は、成形後、内外面に化成処理被膜を形成した後、内面には保護被覆塗装を施すと共に、缶外面に印刷を施すことにより完成される(特許文献1等)。しかしながら、缶外面に施される印刷は缶胴部にのみ施されるため、缶全体としての装飾性に乏しいという問題がある。すなわち、一般にシームレス缶の底部は、中央部に位置するボトム部と、このボトム部周縁から降下した接地部(リム)と、この接地部から外方かつ上方に傾斜して延びて前記胴部下端に連なるチャイム部とから成っており、缶の正立状態においてチャイム部は胴部と共に視認される箇所であるにもかかわらず、胴部のみが印刷され、チャイム部を含む缶底部は金属板の地色のままで提供されている。
【0003】
このような問題を解決するために、缶外面の底部にも印刷することが考えられるが、胴部とチャイム部を同時に印刷することは困難であり、生産性や経済性の点から実用的でない。
また、一般に絞りしごき缶(DI缶)においては、缶体の成形直後に缶体の搬送性を向上するための塗料を接地部に塗装する必要があり、チャイム部及びボトム部も塗装する場合には、内面塗装及び胴部の印刷を行った後、チャイム部及びボトム部をそれぞれ接地部とは異なる塗装方法・装置で異なる塗料を用いて塗工する必要があることから、工程数が多く、やはり生産性や経済性の点で劣っている。
【0004】
近年、缶内面の耐食性確保のための内面塗装が不要で、しかも内容物の風味の維持(フレーバー性)に優れている等の理由で、金属板の表面にポリエステルフィルム等の熱可塑性樹脂フィルムをラミネートした樹脂被覆金属板を絞りしごき加工等を施して成る、樹脂被覆シームレス缶が提案されている(特許文献2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5007482号公報
【文献】特開2001-353812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる樹脂被覆シームレス缶においても、成形後に缶外面胴部に印刷を施すのみであり、缶底部に塗装・印刷することは行われておらず、缶全体の加飾性の点では未だ十分満足するものではなかった。また樹脂被覆シームレス缶において、樹脂被覆金属板における樹脂被覆に白色顔料等を含有させることにより缶全体に加飾性を付与することも提案されているが、樹脂被覆には過酷な加工に耐え得る加工性及び密着性が要求されていることから、加工性及び密着性を維持しながら樹脂被覆に顔料等を添加することは容易でない。
【0007】
従って本発明の目的は、樹脂被覆の加工性及び密着性を損なうことなく、缶底部を含めた缶全体が印刷工程を経ることなく着色された樹脂被覆シームレス缶及びこの樹脂被覆シームレス缶を成形するための樹脂被覆金属板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、底部及び胴部を有するシームレス缶において、缶外面側にはポリエステル系塗膜を介して熱可塑性樹脂被覆が形成されており、前記ポリエステル系塗膜が、全樹脂固形分100質量部に対して着色剤を20質量部以下及びポリエステル樹脂100質量部に対して硬化剤を5~43質量部の量で含有するポリエステル系塗料組成物から成り、底部を含む缶外面の全体が着色されていることを特徴とするシームレス缶が提供される。
本発明のシームレス缶においては、
1.前記ポリエステル系塗膜の厚みが、7μm以下であること、
2.前記底部が、中央部に位置する上方に膨らんだボトム部と、該ボトム部周縁から降下した接地部と、該接地部から外方かつ上方に傾斜して延びて前記胴部下端に連なるチャイム部とから成ること、
3.前記底部が、シームレス缶の正立状態における上部となるように印刷画像が形成されていること、
が好適である。
【0009】
本発明によればまた、シームレス缶成形用の樹脂被覆金属板において、金属板の缶外面となる面に、ポリエステル系塗膜を介して熱可塑性樹脂被覆が施されて成り、前記ポリエステル系塗膜が、全樹脂固形分100質量部に対して着色剤を20質量部以下及びポリエステル樹脂100質量部に対して硬化剤を5~43質量部の量で含有するポリエステル系塗料組成物から成ると共に、その厚みが7μm以下であることを特徴とするシームレス缶成形用の樹脂被覆金属板が提供される。
本発明のシームレス缶成形用の樹脂被覆金属板においては、
1.前記ポリエステル系塗料組成物が、ポリエステル樹脂をベース樹脂とし、フェノール樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート化合物の何れかを硬化剤とするポリエステル系塗料組成物から成ること、
2.前記金属板が、純アルミニウム板又はアルミニウム合金板であること、
が好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のシームレス缶においては、缶底部を含むシームレス缶の全体が、着色されていることから、装飾性に優れている。
また本発明のシームレス缶では、塗装工程や印刷工程を経ることなく、缶底部を含むシームレス缶の全体が着色されており、胴部はもちろん、缶底部を構成するチャイム部、接地部、ボトム部のそれぞれについて、異なる塗装方法・装置で異なる塗料を用いて別工程で塗装する必要があったDI缶に比して顕著に生産性及び経済性が向上している。
更に金属板表面に形成される塗膜は、金属板とポリエステル樹脂被覆との密着性を向上することから、絞りしごき加工等の過酷な加工に付された場合にも、ポリエステル樹脂被覆の密着性が確保されている。
更にまた、着色された缶底部が、シームレス缶の正立状態における上部となるように、印刷画像を形成することにより、正立状態における上部が装飾性に優れた缶底部となり、より人目を惹きつけることが可能になる。そのため、商品販売のための陳列時にかかる缶底部が上部となるようにシームレス缶(商品)を配置することにより、プルタブを備えた開口予定部が形成された、装飾性に乏しい缶蓋が上部となるように配置されているシームレス缶(商品)よりも目立たせることが可能になり、商品価値を高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のシームレス缶の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明のシームレス缶の一例を示す図であり、全体を1で示すシームレス缶は、外面がストレートな直胴形状となっている胴部2と、胴部2の下部を閉じている底部3とを有している。胴部2の上部は、絞られたネックイン部4に連なっており、ネックイン部4の上端には、フランジ部5が形成されている。また底部3は、中央部分が、上方に膨らんだドーム部3aとなっており、このドーム部3aの周縁部分から降下した接地部3bが形成されており、さらに、接地部3bからは外方且つ上方に向かって傾斜して延びているチャイム部3cが形成されており、このチャイム部3cの上端が胴部2に連なっている。
またこのシームレス缶は、シームレス缶胴部のX部分を拡大して示す断面図から明らかなように、金属板10の缶外面側に、着色剤を含有するポリエステル系塗膜11を介して熱可塑性樹脂被覆12が形成され、金属板10の缶内面側にプライマー13を介して熱可塑性樹脂被覆14が形成された樹脂被覆金属板から形成されている。
以下、本発明の樹脂被覆金属板及びシームレス缶について説明する。
【0013】
(樹脂被覆金属板)
本発明のシームレス缶成形用の樹脂被覆金属板は、金属板の缶外面となる面に、ポリエステル系塗膜を介して熱可塑性樹脂被覆が施されて成り、前記ポリエステル系塗膜が、全樹脂固形分(ポリエステル樹脂と硬化剤の合計)100質量部対して20質量部以下の着色剤を含有するポリエステル系塗料組成物から成ることが重要な特徴であり、上記塗膜を介して熱可塑性樹脂被覆が形成されていることにより、前述したとおり、シームレス缶に成形されたときに缶底部を含めた缶全体が着色された外観を付与できると共に、熱可塑性樹脂被覆と金属板との密着性を向上させ、過酷な製缶加工にも耐え得る加工密着性を付与することが可能になる。
【0014】
[金属板]
本発明では、金属板として従来シームレス缶の成形に使用されていた各種表面処理鋼板やアルミニウム等の軽金属板を使用することができる。
表面処理鋼板としては、冷間圧延鋼板を焼鈍後調質圧延あるいは二次冷間圧延し、亜鉛メッキ、錫メッキ、ニッケルメッキ、電解クロム酸処理、クロム酸処理、ジルコニウム化合物処理等の表面処理の一種または二種以上を行ったものを用いることができる。本発明においては、塗膜密着性と耐腐食性の点から電解クロム酸処理鋼板{ティンフリースチール(以下、「TFS」という)}を特に好適に用いることができ、このTFSは10~200mg/m2の金属クロム層と1~50mg/m2(クロムとして)のクロム水和酸化物層とを備えていることが好適である。表面処理鋼板の他の例としては、0.5~11.2g/m2の錫メッキ量を有するブリキ板を挙げることができる。このブリキ板には、クロムとして1~30mg/m2となるようなクロム酸処理、重クロム酸ソーダ処理、或いはリン酸クロム酸処理が行われていることが望ましい。更に他の例としては、アルミニウムメッキ、アルミニウム圧接等を施したアルミニウム被覆鋼板が用いられる。
【0015】
軽金属板としては、所謂アルミニウム板の他に、アルミニウム合金板が使用される。耐腐食性と加工性の点で優れたアルミニウム合金板は、Mn:0.2~1.5重量%、Mg:0.8~5重量%、Zn:0.25~0.3重量%、及びCu:0.15~0.25重量%、残部がAlの組成を有するものである。これらの軽金属板も、金属クロム換算でクロム量が20~300mg/m2となるようなクロム酸処理或いはリン酸クロム酸処理、ジルコニウム化合物処理等が行われていることが望ましい。
本発明においては特に、アルミニウム板を好適に使用することができる。アルミニウム板の光沢を積極的に利用することにより、地色の隠ぺいが不要になり、着色剤の使用量を低減できることから、製缶性を向上できる。しかもアルミニウム板の光沢と着色剤による発色が相俟って、特に外観特性に優れたシームレス缶を得ることが可能になる。
【0016】
金属板の素板厚は、金属の種類、容器の用途或いはサイズによっても相違するが、一般に0.10~0.50mmの厚みを有するのがよい。この内、表面処理鋼板の場合には、得られるシームレス缶の強度、成形性の観点から、0.10~0.30mmの厚みが好ましく、また軽金属板の場合には0.15~0.40mmの厚みを有するのがよい。
【0017】
[ポリエステル系塗料組成物]
本発明においては、金属板の缶外面側となる面に、全樹脂固形分100質量部対して20質量部以下の着色剤を含有するポリエステル系塗料組成物から成る塗膜が形成されていることが重要な特徴である。これにより、シームレス缶としたときに、缶底部を含めた缶全体が着色された状態となり、従来のシームレス缶のように、シームレス缶の成形後に缶胴部とは別に缶底部を塗装する必要がなくなり、生産性及び経済性が向上する。
【0018】
塗料組成物のベース樹脂となるポリエステルとしては、後述する多価カルボン酸成分と多価アルコール成分から成る公知のポリエステル樹脂を使用することができる。
多価カルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、などの脂肪族ジカルボン酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、テルペン-マレイン酸付加体、などの不飽和ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,2-シクロヘキセンジカルボン酸、などの脂環族ジカルボン酸、(無水)トリメリト酸、(無水)ピロメリト酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、などの3価以上のカルボン酸、4,4-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-ペンタン酸、4-モノ(4’-ヒドロキシフェニル)-ペンタン酸、p-ヒドロキシ安息香酸、などのモノカルボン酸を挙げることができ、これらの中から一種又は二種以上を選択し使用できる。
【0019】
また多価アルコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1-メチル-1,8-オクタンジオール、3-メチル-1,6-ヘキサンジオール、4-メチル-1,7-ヘプタンジオール、4-メチル-1,8-オクタンジオール、4-プロピル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、などの脂肪族グリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のエーテルグリコール類、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカングリコール類、水添加ビスフェノール類、などの脂環族ポリアルコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、などの3価以上のポリアルコール等を挙げることができ、これらの中から一種又は二種以上を選択し使用できる。
ポリエステル樹脂は、数平均分子量が3000~100000、酸価が0~50mgKOH/g、ガラス転移温度が-20~100℃の範囲にあることが好ましい。
【0020】
[硬化剤]
本発明に用いるポリエステル系塗料組成物に用いる硬化剤としては、ポリエステル樹脂の官能基、例えばカルボキシル基や、更には水酸基と反応し得る官能基を有する硬化性樹脂が使用され、例えば、フェノール樹脂、イソシアネート化合物、アミノ樹脂等から成る硬化剤を挙げることができる。これらの樹脂は単独でも2種以上の組合せでも使用される。
上記硬化剤の内でも、レゾール型フェノール樹脂、アミノ樹脂を好適に使用することができるが、フェノール樹脂を用いた場合には形成される塗膜が黄色くなることから、着色剤本来の色味を発現するためには、アミノ樹脂を用いることが望ましい。
【0021】
レゾール型フェノール樹脂は、フェノールモノマーとホルムアルデヒドとをアルカリ触媒の存在下で反応させたものであり、用いるフェノールモノマーとしては、o-クレゾール、p-クレゾール、p-tert-ブチルフェノール、p-エチルフェノール、2,3-キシレノール、2,5-キシレノール、フェノール、m-クレゾール、m-エチルフェノール、3,5-キシレノール、m-メトキシフェノール等を挙げることができ、これらの中から一種又は二種以上を選択し使用できる。
アミノ樹脂としては、例えば、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等を用いることができ、より具体的には、メチル化尿素樹脂、メチルエーテル化尿素樹脂、ブチルエーテル化尿素樹脂、メチルエーテルとブチルエーテルの混合エーテル化尿素樹脂;メチロール化メラミン樹脂、メチルエーテル化メラミン樹脂、ブチルエーテル化メラミン樹脂、メチルエーテルとブチルエーテルの混合エーテル化メラミン樹脂等のメラミン樹脂;メチロール化ベンゾグアナミン樹脂、メチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂、ブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂、メチルエーテルとブチルエーテルの混合エーテル化ベンゾグアナミン樹脂等を挙げることができる。
【0022】
[着色剤]
本発明において、塗膜を着色するために使用される着色剤としては、これに限定されないが、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、縮合多環系顔料、及び染色レーキ系顔料等の有機顔料、酸化物、ケイ酸塩、フェロシアン系化合物等の無機顔料、偏光パール顔料等のアルミ系光輝顔料、マイカ系光輝顔料、ガラス系光輝顔料等の光輝顔料等、目的とするシームレス缶の外観のデザインに応じて、適宜の顔料を1種又は2種以上を使用することができる。色味や物性調整などのために、酸化チタン、酸化亜鉛等の白色顔料や、炭酸カルシウム等の体質顔料を配合することもできる。
着色剤は、塗料組成物の全樹脂固形分(ポリエステル樹脂と硬化剤の合計)100質量部に対して、20質量部以下、特に1~10質量部の量で添加されていることが好ましい。上記範囲よりも着色剤の量が多い場合には、金属板と熱可塑性樹脂被覆との加工密着性が低下すると共に、胴部と、胴部に比して加工の程度が低い缶底部との色の違いが明確になってしまうおそれがある。また塗料組成物の安定性が低下し、長期保存する際に、沈殿物や分離、粘度変化を生じ、塗工性が低下するおそれがある。
【0023】
[塗料組成物の調製]
本発明に用いるポリエステル系塗料組成物は、ポリエステル樹脂100質量部当り、硬化剤を5~43質量部、特に8~18質量部の量で有機溶媒中に溶解させて配合させることにより調製することができる。
この際、硬化触媒として酸触媒を全樹脂固形分(ポリエステル樹脂と硬化剤の合計)100質量部に対して0.01質量部~3質量部を含有することが好ましい。酸触媒としては、例えば、硫酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、樟脳スルホン酸、リン酸、及びこれらをアミンブロック(アミン化合物で一部あるいは全部を中和すること)したもの、等が挙げられ、これらの中から一種又は二種以上を併用することができる。これらの酸触媒の中では、樹脂との相溶性、衛生性の面からドデシルベンゼンスルホン酸、及びドデシルベンゼンスルホン酸をアミンブロックしたものが特に好ましい。
【0024】
有機溶剤としては、ポリエステル樹脂の可塑効果があり、かつ両親媒性を有するものが好ましく、例えば、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、イソアミルアルコール、sec-アミルアルコール、tert-アミルアルコール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール、などのアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3-ジオキソラン、などの環状エーテル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、3-メトキシ-3-メチルブタノール、3-メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル、等を挙げることができる。
また、この後、必要に応じ、ポリエステル樹脂を溶解する際に使用した有機溶剤を加熱留去、あるいは減圧留去することができる。有機溶剤を留去する方法としては、フェノール樹脂が有機溶剤留去中の熱での縮合を抑えるためにも100℃以下での減圧留去が望ましく、80℃以下の減圧留去がさらに好ましい。この場合、有機溶剤を全量留去すれば完全に水系の樹脂組成物を得られるが、分散体の安定性、成膜性などから有機溶剤を3質量%~20質量%含有させることが望ましい。
【0025】
塗料組成物は、ロールコート法、スプレー法、浸漬法、刷毛塗り法等の従来公知の方法により金属板表面に適用することができ、塗膜の焼付条件は100~300℃、5秒~30分であり、更には、150~270℃、15秒~15分が好ましい。
また塗膜の膜厚は、乾燥膜厚で7μm以下、特に0.4~3.0μmの範囲にあることが好ましい。上記範囲にあることにより、発色の良いポリエステル系塗膜を密着性良くシームレス缶に形成できる。
【0026】
(熱可塑性樹脂被覆)
本発明の樹脂被覆金属板において、金属板に上述した塗膜を介して施される熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、例えば、結晶性ポリプロピレン、結晶性プロピレン-エチレン共重合体、結晶性ポリブテン-1、結晶性ポリ4-メチルペンテン-1、低-、中-、或いは高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、イオン架橋オレフィン共重合体(アイオノマー)等のポリオレフィン類;ポリスチレン、スチレン-ブタジエン共重合体等の芳香族ビニル共重合体;ポリ塩化ビニル、塩化ビニリデン樹脂等のハロゲン化ビニル重合体;アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体の如きニトリル重合体;ナイロン6、ナイロン66、パラまたはメタキシリレンアジパミドの如きポリアミド類;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラメチレンテレフタレート等のポリエステル類;各種ポリカーボネート;ポリオキシメチレン等のポリアセタール類等の熱可塑性樹脂から構成されたプラスチックフイルムを挙げることができる。
【0027】
本発明においては、上記熱可塑性樹脂の中でも、透明性に優れ、有色塗膜の色が外部から容易に視認できることから、特にポリエステル樹脂を好適に使用できる。
好適に使用し得るポリエステル樹脂としては、ホモポリエチレンテレフタレートであってもよいが、テレフタル酸以外の酸成分を酸成分基準で30モル%以下の量で、またエチレングリコール以外のアルコール成分をアルコール成分基準で30モル%以下の量で含有する共重合ポリエステル単体またはそれらのブレンド物であってもよい。
テレフタル酸以外の酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、P-β-オキシエトキシ安息香酸、ジフェノキシエタン-4,4’-ジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等を挙げることができる。
またエチレングリコール以外のアルコール成分としては、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどのグリコール成分を挙げることができる。
特に、ポリエチレンテレフタレート、イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート、ナフタレンジカルボン酸共重合ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ポリブチレンテレフタレートのブレンド物の何れかであることが好ましい。
【0028】
ポリエステル樹脂は、フィルム形成範囲の分子量を有するべきであり、溶媒として、フェノール/テトラクロロエタン混合溶媒を用いて測定した固有粘度〔η〕が0.5以上、特に0.52~0.70の範囲にあることが腐食成分に対するバリヤー性や機械的性質の点から好ましく、またガラス転移点が50℃以上、特に60℃~80℃の範囲にあることが好ましい。
ポリエステルフィルムには、それ自体公知のフィルム用配合剤、滑剤、アンチブロッキング剤、顔料、各種帯電防止剤、酸化防止剤等を公知の処方によって配合することができる。
【0029】
熱可塑性樹脂は、フィルムを形成した後、塗装金属板に熱接着法で被覆するものであっても、加熱溶融した熱可塑性樹脂を押出機を用いてフィルム状に押出し、直接金属板上に被覆する押出ラミネート法によるものであってもよい。
また熱可塑性樹脂フィルムを形成した後で被覆する場合、フィルムは延伸されていてもよいが、未延伸フィルムであることが成形加工性及び耐デント性の点から好ましい。
ポリエステルフィルムの厚みは、一般に5~40μmの範囲にあることが好ましい。
【0030】
本発明の樹脂被覆金属板において、缶内面側となる面については特に限定されないが、外面被覆について上述した熱可塑性樹脂被覆を形成することが生産性の点から好ましい。
また金属板の缶内面側となる面に施す熱可塑性樹脂被覆においても、缶外面側について上述したように、熱可塑性樹脂フィルムの熱接着法或いは溶融熱可塑性樹脂の押出ラミネート法により形成することができる。またこの際、熱可塑性樹脂被覆は、金属板表面に直接形成してもよいし、従来公知の接着樹脂層を介して被覆することもできる。
【0031】
(シームレス缶)
本発明のシームレス缶は、上述した本発明の樹脂被覆金属板を用い、これを打抜き、絞り加工、絞り-しごき加工、絞り・再絞り加工、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし加工(薄肉化絞り加工或いはストレッチ加工)、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし・しごき加工等の従来公知の加工に付すことによって成形される。
好ましくは再絞りによる曲げ伸ばし加工及び/又はしごき加工を行って側壁部の薄肉化を行う。その薄肉化は、缶底部に比して缶胴部は曲げ伸ばし加工及び/又はしごき加工により、樹脂被覆金属板の元板厚の20~95%、特に30~90%の厚みになるように薄肉化されているのが好ましい。
成形されたシームレス缶は、缶底部のドーミング加工を行った後、洗浄乾燥、外面印刷、ネックイン加工及びフランジ加工等の後加工を行うことにより得られる。
【0032】
前述したとおり、本発明のシームレス缶は、底部においても、着色剤により着色されたポリエステル系塗膜の存在により、胴部とほぼ同様の色を有しており、胴部にのみ塗装及び/又は印刷され、底部は金属の地金の色であった従来のシームレス缶に比して外観特性が優れている。また胴部に比して加工の程度が少ない底部においては、胴部よりも若干濃く発色されるため、印刷が施される胴部においては印刷画像を損なうことがない着色がされる一方、底部においては高い装飾性を備えることも可能になる。更に金属板としてアルミニウム板を使用することにより、更に金属光沢をも具備することが可能であり、優れた装飾性を備えることができる。
また胴部に形成される印刷画像を、シームレス缶の正立状態において底部が上部となるように、上下逆さまに印刷することによって、人目につきやすいシームレス缶の上部に装飾性を持たせることが可能になり、プルタブを備えた開口予定部を有する缶蓋が上部に来る一般的なシームレス缶に比して、より装飾性を高めることも可能になる。
【0033】
前述した
図1においては、底部3は、中央部分が、上方に膨らんだドーム部3aとなっていたが、底部形状はこれに限定されない。例えば、
図2に示すように、缶外方に凸となっている接地部(リム部)3bと、接地部3bから外方且つ上方に向かって傾斜して延び、胴部に連なるチャイム部3c、接地部3bの内側壁の上端に連続して隣接し、缶内方に窪んだ環状凹部6、更に環状凹部6の内壁側にコーナー部(中央パネル縁)7を介して連続する平坦な中央パネル8によって構成される底形状のように、中央部がフラット状であってもよい。
【0034】
(缶蓋)
本発明のシームレス缶は、従来公知のステイ・オン・タブ型式のイージーオープン蓋やフルオープンタイプのイージーオープン蓋等の缶蓋を巻締して、缶詰とすることができる。
シームレス缶と同様の樹脂被覆金属板から成形した着色された缶蓋を使用して、缶詰全体が着色されるようにしてもよいし、もちろん着色されていない缶蓋を使用することもできる。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
[プライマーの調製]
以下に本発明のポリエステル系プライマー及び比較用プライマーの調製例を示す。文中及び表中の「部」とあるのは「質量部」を示す。
・ポリエステル樹脂の調製
テレフタル酸50部、イソフタル酸282部、シクロヘキサンジメタノール403部、チタンテトラブトキシド0.14部を2lのセパラブルフラスコに仕込み、4時間かけて220℃まで徐々に昇温し、水を留去しながらエステル化反応を行った。所定量の水を留去した後、30分かけて10mmHgまで減圧初期重合を行うと共に、温度を250℃まで昇温し、さらにこのまま1mmHg以下で50分間後期重合を行い、減圧重合を止め、樹脂を取り出してポリエステルを得た。得られたポリエステル樹脂成分のモル比を表1に示す。
・硬化剤の調製
m-クレゾール100部、37質量%ホルマリン水溶液180部、及び水酸化ナトリウム1部を加え、60℃で3時間反応させた後、減圧下50℃で1時間脱水した。次いでn-ブタノール100部を加え、110℃で4時間反応を行った。反応終了後、得られた溶液を濾過して、m-クレゾールから誘導されたレゾール型フェノール樹脂を調製した。
・カラープライマーの調製
得られたポリエステル樹脂100部と着色剤としてフードイエローNo.4を2部、溶剤をフラスコに仕込み、ガラスビーズを入れて、卓上型バッチ式サンドミルを用いて120分間分散した後、ガラスビーズを取り除いて、塗料液を得た。この塗料液を加温し、100℃以下で良く攪拌しながら溶解した。完全に溶解した後室温まで冷却し、良く攪拌しながら所定のレゾール型フェノール樹脂10部と硬化触媒2部を添加し、ポリエステル系カラープライマーを調製した。硬化触媒は(日本サイテックインダストリーズ(株)製サイキャット602)を使用した。
着色剤の添加方法については従来公知の手法を用いても可能である。
【0036】
[熱可塑性樹脂被覆金属板の製造]
アルミ合金JIS3104の厚み0.27mm板の両面に日本パーカライジング社製「アルクロムK702」を使用して化成処理を行い、リン酸クロメートから成る表面処理皮膜を形成し、表面処理金属板を作製した。この表面処理板の缶外面側となる面に、上記ポリエステル系カラープライマーをロールコートし、250℃で焼き付け、2.0μmの厚みのプライマーを形成して巻き取った。
このプライマー被覆表面処理金属板を巻き戻しながら、両面に押出コートで熱可塑性樹脂を熱ラミネートした。尚、缶外面側の熱可塑性樹脂として、下層として7μm厚のイソフタル酸15モル%含有ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET/IA15」のように表記する)及び上層として3μm厚のPET/IA7.5から成る二層構造の熱可塑性樹脂被覆を用いた。缶内面側の熱可塑性樹脂被覆は、下層が6μm厚のPET/IA15及び上層が6μm厚のPET/IA2の二層構造の熱可塑樹脂被覆とした。その後、内外面にグラマワックスを塗布して巻き取り、熱可塑性樹脂被覆金属板を製造した。
【0037】
[シームレス缶の成形]
この熱可塑性樹脂被覆金属板をブランキングし、絞りしごき加工し、開口端を所定寸法にトリミングし、200℃30秒でヒートセットし、印刷し、仕上げニス塗布し、200℃40秒で焼き付け、開口端をネッキングし、フランジングして、缶胴211径でネック部206径の容量350mlのシームレス缶を作製した。
【0038】
(実施例2~28、比較例1~5)
プライマーの組成、プライマーの膜厚、着色剤種、及び着色剤添加量を表に示すように変えた以外は実施例1と同様にして熱可塑性樹脂被覆金属板及びシームレス缶を作製した。
実施例2~28、比較例1~5のプライマーについては前記した合成例と同様にて、ポリエステル樹脂成分のモノマー量を変更することにより、表に示す各種ポリエステル樹脂を調製した。また表に示す各種ポリエステル樹脂と硬化剤比になるようにしてプライマーを調製した。実施例9の硬化剤はブロックイソシアネート化合物(エポックデクサジャパン社製VESTANAT B1370)を使用し、実施例10の硬化剤はアミノ系樹脂(日本サイテックインダストリーズ社製マイコート506)を使用した。
【0039】
(評価方法)
[塗液安定性]
ポリエステル系カラープライマー組成物の調液後37℃1ヶ月後の塗液の状態を確認し、沈殿物や分離、粘度変化等の有無の確認を行った。いずれの問題も無い場合を〇、いずれかに問題がある場合を×と評価した。
【0040】
[成形性(耐破胴性)]
上記絞りしごき加工で500缶を成形し、破胴が1缶以上発生した場合を×、破胴がなかった場合を〇とした。
【0041】
[フランジ相当部剥離性(加工密着性)]
上記のヒートセット後シームレス缶の外面について開口端(トリミング部)を調べ、開口端からの金属露出長さ(剥離部長さ)をマイクロスコープで測定した。20缶調査し、20缶中の最大剥離長さにつき、次の基準で評点を付けた。なお、破胴を生じた場合には、以下のフランジ相当部剥離性の評価は行わなかった。
◎:最大剥離長さゼロ。
〇:最大剥離長さ0.1mm未満。
△:最大剥離長さ0.1mm~0.5mm未満。
×:最大剥離長さ0.5mm以上。
【0042】
【0043】
【符号の説明】
【0044】
1 シームレス缶、2 胴部、3 底部、3a ドーム部、3b 接地部、3c チャイム部、4 ネックイン部、5 フランジ部、6 環状凹部、7 コーナー部、8 中央パネル、10 金属板、11 着色剤を含有するポリエステル系塗膜、12 熱可塑性樹脂被覆、13 プライマー、14 熱可塑性樹脂被覆。