(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】次亜塩素酸生成電極
(51)【国際特許分類】
C25B 11/093 20210101AFI20231205BHJP
C02F 1/461 20230101ALI20231205BHJP
C25B 1/26 20060101ALI20231205BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20231205BHJP
E03D 9/02 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C25B11/093
C02F1/461 A
C25B1/26 C
C25B11/052
E03D9/02
(21)【出願番号】P 2022059482
(22)【出願日】2022-03-31
【審査請求日】2023-05-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【氏名又は名称】芳野 理之
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】酒井 聖那
(72)【発明者】
【氏名】田代 啓介
(72)【発明者】
【氏名】松本 勘
(72)【発明者】
【氏名】雨森 博彰
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-290168(JP,A)
【文献】特開平02-263989(JP,A)
【文献】特表2006-515389(JP,A)
【文献】特開2008-050675(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106521404(CN,A)
【文献】国際公開第83/003265(WO,A1)
【文献】特開2023-095833(JP,A)
【文献】特開昭59-150091(JP,A)
【文献】特開平01-301876(JP,A)
【文献】特開平07-299465(JP,A)
【文献】特開2006-322026(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105967281(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111663168(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B
C02F 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化物イオンを含む水を電解して、次亜塩素酸の生成に用いられる電極であって、
チタン又はチタン合金からなる電極基体と、
前記電極基体と電気的に接合された複合層とを有し、
前記複合層が、イリジウムまたはその化合物と、タンタルまたはその化合物と、ルテニウムまたはその化合物および/または白金とを含んでなり、かつ、酸化ロジウムを含ま
ず、
前記複合層が、金属換算で、イリジウム32~43mol%と、タンタル25~36mol%と、ルテニウム8~22mol%と、そして白金10~23mol%とを含んでなることを特徴とする、電極。
【請求項2】
前記複合層が、酸化イリジウムと、酸化タンタルと、酸化ルテニウムと、白金とからなる、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記ルテニウムが11~19mol%であり、前記白金が13~20mol%である、請求項
1又は2に記載の電極。
【請求項4】
前記ルテニウムと白金との合計が、金属換算で24mol%~39mol%である、請求項
3に記載の電極。
【請求項5】
前記塩化物イオンを含む水が水道水または井戸水である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の電極。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の電極を備える、次亜塩素酸水生成装置。
【請求項7】
次亜塩素酸水を生成する装置を備え、当該装置が、請求項1~
5のいずれか一項に記載の電極を備えるものであることを特徴とするトイレ装置。
【請求項8】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の電極を用意し、
前記電極と、塩化物イオンを含む水とを接触させること
を含んでなる、次亜塩素酸水を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化物イオンを含む水を電解し次亜塩素酸を生成するための電極に関し、詳しくは、殺菌等に利用可能な次亜塩素酸水を生成するための電極に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化物イオンを含む水(例えば、水道水や井戸水)を電解すると、陽極に塩素が発生し、この塩素と水とから次亜塩素酸水が生成する。この次亜塩素酸の殺菌性から、生成された次亜塩素酸水は、身体、食品、物品等の殺菌に広く利用されている。
【0003】
次亜塩素酸水を生成する電極として、水道水などのような塩化物イオン濃度が比較的低い水であっても効率よく次亜塩素酸を生成できるよう、種々の組成のものが提案されている。
【0004】
例えば、特開2009-052069号公報(特許文献1)は、チタン又はチタン合金よりなる導電性基体上に白金、酸化イリジウム、酸化ロジウム及び酸化タンタルの複合体からなる電極触媒層を形成させた電極が提案されている。また、特開2013-142166号公報(特許文献2)は、特許文献1とは異なる組成の白金、酸化イリジウム、酸化ロジウム及び酸化タンタルの複合体からなる電極触媒層を形成させた電極を提案する。これら電極によれば、比較的塩化物イオン濃度が低い水からも効率よく、次亜塩素酸水を生成できるとされている。
【0005】
特許文献1及び2が開示する電極が含むロジウムは、いわゆるレアメタルであり、その産出量は少なく、そのため価格においても比較的高価な金属元素である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-052069号公報
【文献】特開2013-142166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、今般、レアメタルであり、比較的高価なロジウムを用いずとも次亜塩素酸生成が可能な用電極の組成を見出し、さらに好ましい組成によれば、その性能においてロジウム含有電極に劣らず、さらに耐久性にあってはそれを上回る次亜塩素酸生成用電極が提供できることを見出した。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0008】
したがって、本発明は、酸化ロジウムを実質的に含まない、次亜塩素酸生成用電極の提供をその目的としている。さらに本発明による電極を備えた次亜塩素酸水の製造装置および本発明による電極を用いた次亜塩素酸水の調製方法の提供をその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明による電極は塩化物イオンを含む水を電解して、次亜塩素酸の生成に用いられる電極であって、
チタン又はチタン合金からなる電極基体と、
前記電極基体と電気的に接合された複合層とを有し、
前記複合層が、イリジウムまたはその化合物と、タンタルまたはその化合物と、ルテニウムまたはその化合物および/または白金とを含んでなり、かつ、酸化ロジウムを含まないことを特徴とするものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
電極の基本構造
本発明による電極は、チタン又はチタン合金からなる電極基体と、この基体と電気的に接合された複合層とを少なくとも備える基本構造を有する。そして、基体に接合された複合層が、イリジウムまたはその化合物と、タンタルまたはその化合物と、ルテニウムまたはその化合物および/または白金とを含んでなり、かつ、酸化ロジウムを含まないことを特徴とする。
【0011】
本発明において「酸化ロジウムを含まない」とは、痕跡または不可避成分としての酸化ロジウムの存在は許容するが、電極の性質、特性に影響を与える量の酸化ロジウム又はその化合物は含まない意味である。本発明にあっては、例えば、1mol%以上の酸化ロジウムの存在は許容されない。本発明によれば、複合層がイリジウムまたはその化合物と、タンタルまたはその化合物と、ルテニウムまたはその化合物と、白金とを含み、酸化ロジウムを含まない組成とされることで、酸化ロジウムを含む従来の電極(例えば、特許文献1または2に記載の電極)に劣らない次亜塩素酸の生成能を備える。また、ロジウムはその価格が高いことから、ロジウム比し価格が低いルテニウムまたは白金と置き換えることは、電極の製造コストの面で極めて有利となる。
【0012】
本発明の好ましい態様によれば、イリジウム化合物、タンタル化合物、ルテニウム化合物の好ましい具体例はそれらの酸化物であり、その結果、複合層は好ましくは酸化イリジウムと、酸化タンタルと、酸化ルテニウムと、白金とからなり、他の元素または化合物をその痕跡または不可避的な量を超えて含まない組成とされる。
【0013】
電極基体
本発明において、電極基体として、チタンまたはチタン合金を用いる。チタン合金としては、チタンを主体とする耐食性のある導電性の合金を使用することができ、例えば、Ti-Ta-Nb、Ti-Pd、Ti-Zr、Ti-Al等の組み合わせからなる、通常電極材料として使用されているチタン基合金が挙げられる。これらの電極材料は板状、有孔板状、棒状、網板状等の所望形状に加工して電極基材として用いることができる。なお、本発明にあって、電極基体の表面に酸化チタン膜が形成されることは排除されない。
【0014】
複合層
本発明による電極は、上記した電極基体と電気的に接合された複合層を備え、この複合層は、上記したように、イリジウムまたはその化合物と、タンタルまたはその化合物と、ルテニウムまたはその化合物および/または白金とを含んでなり、かつ、酸化ロジウムを含まないことを特徴とする。本発明による電極の複合層は、酸化ロジウムを含まないことを特徴とするが、本発明が提案する複合層の組成は、従来公知のロジウム含有電極のロジウムを、ルテニウムおよび/または白金と置き換えた組成と理解することもできる。したがって、本発明による電極の複合層の組成は、従来公知の、あるいはこれから提案されるロジウムを含む次亜塩素酸生成用電極の組成において、ロジウムをルテニウムおよび/または白金と置き換えたものとして決定されてよい。
【0015】
本発明の好ましい態様によれば、複合層の一つの組成として、金属換算で、イリジウムは好ましくは30~80mol%の範囲で含むことができ、より好ましい下限は32mol%であり、また、より好ましい上限は60mol%、さらに好ましい上限は43mol%である。
【0016】
また、タンタルは、金属換算で、好ましくは6~53mol%の範囲で含むことができ、より好ましい下限は22mol%であり、さらに好ましい下限は25mol%であり、また、より好ましい上限は60mol%、さらに好ましい上限は43mol%である。
【0017】
また、ルテニウムは、金属換算で、好ましくは0~97mol%の範囲で含むことができ、より好ましい下限は7mol%であり、さらに好ましい下限は8mol%であり、また、より好ましい上限は22mol%である。
【0018】
白金は好ましくは0~97mol%の範囲で含むことができ、より好ましい下限は7mol%であり、さらに好ましい下限は10mol%であり、また、より好ましい上限は23mol%である。
【0019】
本発明のより好ましい態様によれば、複合層の一つの組成として、金属換算で、イリジウム32~43mol%と、タンタル25~36mol%と、ルテニウム8~22mol%と、そして白金10~23mol%とを含むものとする。
【0020】
さらに本発明の一つの態様によれば、ルテニウムを11~19mol%、白金を13~20mol%の量で含むことが好ましい。さらに、本発明の別の態様によれば、ルテニウムと白金との合計が、金属換算で24mol%~39mol%とされることが好ましい。また別の態様によれば、ルテニウムと白金とは、金属換算で略同一の比率で含むものとされることが好ましい。
【0021】
電極の用途
本発明による電極は、次亜塩素酸の生成能および電極の耐久性に優れる。具体的には、本発明による電極は次亜塩素酸を0.2ppm以上の濃度で生成できる性能を備え、さらにこの性能は、好ましくは通電時間500時間を経過しても維持される。
【0022】
また、本発明による電極によれば、水道水のような塩化物イオンの濃度が比較的低い水を対象としても次亜塩素酸水を効率よく生成することができる。しかし、必要であれば、水に食塩を添加してもよく、そのような態様は本発明から除外されるものではない。
【0023】
また、水を電解して次亜塩素酸を生成する際に、電極表面への付着物の発生を抑制するために、電極の極性を切り替える操作が一般的には行なわれる。この操作は電極を劣化させる原因となるが、本発明による電極は、高い頻度の極性切り替えの条件下にあっても、その性能を長期間維持できるとの利点が得られる。
【0024】
また、本発明による電極は、通常、6~20A/dm2の範囲の程度の電流密度で利用可能である。一般に、高電流密度下では生成効率は向上するが、触媒の消耗が激しくなるため耐久性が低下する。しかしながら、本発明による電極は、上記のとおり20A/dm2の高電流密度の条件下でも利用可能である。
【0025】
本発明による電極の具体的な用途としては、殺菌用途の家庭用または業務用の次亜塩素酸製造装置の電極として用いることが挙げられる。また、便座洗浄ノズルに供給される次亜塩素酸水の生成装置の電極として用いることができる。さらに、キッチンや洗面化粧台における除菌水生成に好ましく用いられる。
【0026】
電極の製造方法
本発明による電極は、上記したように、従来公知のロジウムを含む電極において、ロジウムを、ルテニウムおよび/または白金と置き換えた組成の複合層を備えるものと理解できるから、その製造も、ロジウムをルテニウムおよび/または白金と置き換えた以外は、従来の電極と同様の方法により、好ましく製造することができる。具体的には、特許文献1または2の記載に準じて、製造することができる。
【0027】
複合層の好ましい製造法を具体的に示せば、次のとおりである。すなわち、複合層を構成するイリジウムまたはその化合物、タンタルまたはその化合物、ルテニウムまたはその化合物、および白金の前駆体を電極基体に塗布し、これら前駆体を適切な条件下で分解する(例えば熱分解する)ことより、それぞれイリジウムまたはその化合物、タンタルまたはその化合物、ルテニウムまたはその化合物、および白金とすることで製造することができる。
【0028】
前駆体の具体例としては、イリジウムまたはその化合物の前駆体として、例えば、塩化イリジウム酸、塩化イリジウム、硝酸イリジウム等が挙げられ、特に塩化イリジウム酸が好ましく用いられる。
【0029】
また、タンタルまたはその化合物の前駆体としては、塩化タンタル、タンタルエトキシド等が挙げられ、特にタンタルエトキシドが好ましく用いられる。
【0030】
白金の前駆体としては、塩化白金酸、塩化白金等が挙げられ、特に塩化白金酸が好ましく用いられる。
【0031】
以上の前駆体を適切な溶媒に溶解または分散させ、それを電極基体に塗布し、その後、乾燥し、さらに前記前駆体をイリジウムまたはその化合物、タンタルまたはその化合物、ルテニウムまたはその化合物、および白金とする条件下に置く。
【0032】
上記前駆体を、好ましくは低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等又はこれらの混合物)に分散または溶解する。その後、例えば、約20~約150℃の範囲内の温度で乾燥させた後、酸素含有ガス雰囲気中、例えば空気中で焼成される。焼成は、例えば、電気炉、ガス炉、赤外線炉等の適当な加熱炉中で、一般に約450℃~約600℃、好ましくは約500~約550℃の範囲内の温度に加熱することによって行うことができる。以上の塗布および焼成工程は、複数回繰り返してもよい。
【実施例】
【0033】
本発明をさらに以下の実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0034】
電極の製造
基材の用意
JIS1種相当のチタン板素材(t0.5mm×w100mm×l100mm)をアルコール洗浄後、20℃の8重量%フッ化水素酸水溶液中で2分間、そして120℃の60重量%硫酸水溶液中で3分間処理した。次いで、チタン基体を硫酸水溶液から取り出し、冷水を噴霧し急冷した。さらに、20℃の0.3重量%フッ化水素酸水溶液中に2分間浸漬した後水洗した。水洗後、400℃の大気中で1時間加熱処理して、チタン基体表面に薄い酸化チタンの中間層を形成させた。
【0035】
複合層の形成
複合層の形成のための前駆体を含む溶液を次のように用意した。すなわち、ルテニウム濃度100g/Lに調整した塩化ルテニウムのブタノール溶液とイリジウム濃度200g/Lに調整した塩化イリジウム酸のブタノール溶液とタンタル濃度200g/Lに調整したタンタルエトキシドのブタノール溶液と白金濃度200g/Lに調整した塩化白金酸のブタノール溶液をPt-Ir-Ru-Taの組成比が下記表-1に示すモル%となるようにそれぞれ秤量し、次いでIrの金属換算濃度が50g/Lとなるようにブタノールにて希釈し、下記表に示す実施例1~8を調製した。また、上記塩化ルテニウムを、塩化ロジウムとし、白金およびルテニウム前駆体を含まない溶液を比較例として調製した。
【0036】
得られた溶液をピペットで0.27ml秤量し、それを該酸化チタンの中間層に塗布した後、室温で20分間乾燥し、さらに550℃の大気中で10分間焼成した。この塗布-乾燥-焼成工程を6回繰返し、酸化チタンの中間層上に白金-酸化イリジウム-酸化ルテニウム-酸化タンタル複合層が下記表1に記載の組成である電極を作製した。
実施例1~8および比較例の電極を、室温、水道水中にて9.7A/dm2で電解した後、極性を切替えて-9.7A/dm2で電解する操作を繰返す電解を行い、一定時間経過後の電解時の次亜塩素酸濃度をDPD法にて測定していき、電解によって生成した次亜塩素酸濃度が0.2ppm未満となった時の電解時間を記録した。その結果は、下記表1に示されるとおりであった。
【0037】