(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】化粧シート及び化粧板
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20231205BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20231205BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20231205BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B27/00 D
B32B27/20 A
C09D5/00 D
C09D201/00
(21)【出願番号】P 2022122834
(22)【出願日】2022-08-01
(62)【分割の表示】P 2018027774の分割
【原出願日】2018-02-20
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】村山 朝彦
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-272057(JP,A)
【文献】特開平10-180966(JP,A)
【文献】特開2006-347089(JP,A)
【文献】特開平2-128843(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0244877(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隠蔽層、絵柄模様層、透明基材シート及び表面保護層がこの順に積層されてなる化粧シートであって、
前記隠蔽層は、屈折率が2.0以上の隠蔽性顔料を含有するプライマー剤を含み、基板との接着性を高めるためのプライマー層として機能
し、
前記隠蔽性顔料の粒径が0.1μm以上1μm以下であることを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
木質系材料、金属系材料または合成樹脂からなる基板と、
前記基板に貼り付けられた、請求項
1に記載の化粧シートと、を備えることを特徴とする化粧板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シート及び化粧板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化粧シートとしては、例えば、下台樹脂層の表面側に、絵柄模様層、透明樹脂層及び表面保護層がこの順に積層され、下台樹脂層の裏面側に、プライマー層が設けられたものがある(例えば特許文献1参照。)。特許文献1に記載の化粧シートでは、下台樹脂層の裏面側のプライマー層により、化粧シートと基板との接着性を向上可能となっている。
しかしながら、特許文献1に記載の化粧シートでは、接着性を向上できるものの、化粧シートの厚さが増大してしまい、化粧シートの可撓性が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたもので、基板との接着性に優れ、且つ、薄型化可能な化粧シート及び化粧板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の化粧シートは、(a)隠蔽層、絵柄模様層、透明基材シート及び表面保護層がこの順に積層されてなる化粧シートであって、(b)隠蔽層は、屈折率が2.0以上の隠蔽性顔料を含有するプライマー剤を含み、基板との接着性を高めるためのプライマー層として機能することを要旨とする。
本発明の他の態様の化粧板は、(a)木質系材料、金属系材料または合成樹脂からなる基板と、(b)基板に貼り付けられた上記化粧シートと、を備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、隠蔽層がプライマー剤を含むため、基板との接着性を向上できる。また、隠蔽層がプライマー層として機能するため、隠蔽層と別にプライマー層を設ける必要がなく、化粧シートを薄くすることができる。それゆえ、基板との接着性に優れ、且つ、薄型化可能な化粧シート及び化粧板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係る化粧シート及び化粧板を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態に係る化粧シート及び化粧板について、図面を参照しつつ説明する。図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付し、化粧シート及び化粧板の説明において、実質的に同様な構成等についての重複する説明を省略する。また、本発明は、以下の実施形態に限定されず、当業者の知識を基に設計の変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も、本発明の範囲に含まれる。また、各図面は、理解を容易にするため適宜誇張して表現している。
【0009】
(構成)
本発明の実施形態に係る化粧板1は、基板2と、図示しない接着剤を介して、基板2に貼り付けられた化粧シート3と、を備えている。接着剤としては、例えば、ウレタン系や酢酸ビニル系等の基板2と化粧シート3との接着に好適な接着剤を用いることができる。
(基板)
基板2は、化粧シート3の隠蔽層4の裏面4b側に、接着剤を介して貼り付けられた板状部材である。基板2としては、例えば、木質系材料、金属系材料または合成樹脂材料からなる基板を用いることができる。木質系材料からなる基板としては、例えば、木材単板、木材合板、集成材、パーティクルボード、中密度繊維板、硬質繊維板を採用することができる。また、金属系材料からなる基板としては、例えば、鋼板、真鍮板、アルミニウム板、ジュラルミン板、ステンレス板を採用することができる。さらに、合成樹脂材料からなる基板としては、例えば、塩化ビニル樹脂板、アクリル樹脂板、ポリオレフィン系の樹脂板(ポリプロピレン樹脂板、ポリエチレン樹脂板等)を採用することができる。
【0010】
(化粧シート)
化粧シート3は、隠蔽層4、絵柄模様層5、透明基材シート6及び表面保護層7がこの順に積層されて形成されている。
(隠蔽層)
隠蔽層4は、化粧シート3の最裏面に設けられ、化粧シート3の貼付対象物である基板2の表面の好ましくない色彩や傷等の欠陥を隠蔽するために必要とされる隠蔽性を付与するための層である。隠蔽層4の材料としては、例えば、隠蔽性の印刷インキまたはコーティング剤を用いることができる。隠蔽性の印刷インキまたはコーティング剤としては、例えば、隠蔽性顔料を分散媒である結着剤樹脂と混合し、印刷または塗工の方式に応じた粘度に調整してなる流動性組成物を採用できる。流動性組成物は、隠蔽性の印刷インキまたはコーティング剤の印刷または塗工の結果得られる結着剤樹脂中に隠蔽性顔料が分散されてなる被膜が、目的とする化粧シート3に要求される隠蔽性を具備すべく設計されている。流動性組成物には、必要に応じて、溶媒または分散媒として溶剤を添加してもよい。
【0011】
隠蔽性顔料としては、例えば、結着剤樹脂と比較して高い屈折率を有する微細粉末状顔料を用いることができる。隠蔽性顔料と結着剤樹脂との屈折率差による界面での光の反射や屈折による光散乱効果により、化粧シート3の表裏面間での光の直接透過を妨げることができ、隠蔽性を発現することができる。隠蔽性顔料の屈折率は、一般的な結着剤樹脂の屈折率が1.5前後であるため、2.0以上が好ましい。また、隠蔽顔料の粒径は、光(可視光線)に対する散乱能の観点から、0.1μm以上1μm以下の範囲が好ましい。
微細粉末状顔料としては、例えば、有機顔料、無機顔料を用いることができる。特に、屈折率の高さや隠蔽性の点から、無機顔料が好ましい。無機顔料によれば、化粧シート3の用途により要求される非常に高度な隠蔽性を比較的に薄い印刷またはコーティング被膜によって十分に達成できる。無機顔料は、上述した隠蔽性に加えて、耐光性(耐褪色性)や耐薬品性にも優れているので、耐久性や堅牢性の面から見ても非常に好適である。
【0012】
無機顔料の着色顔料としては、例えば、黄鉛、黄色酸化鉄、カドミウムイエロー、チタンイエロー、バリウムイエロー、オーレオリン、モリブデートオレンジ、カドミウムレッド、弁柄、鉛丹、辰砂、マルスバイオレット、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、コバルトブルー、セルリアンブルー、群青、紺青、エメラルドグリーン、クロムバーミリオン、酸化クロム、ビリジアン、鉄黒、カーボンブラック等を用いることができる。また、無機顔料の白色顔料としては、例えば、酸化チタン(チタン白、チタニウムホワイト)、酸化亜鉛(亜鉛華)、塩基性炭酸鉛(鉛白)、塩基性硫酸鉛、硫化亜鉛、リトポン、チタノックス等を用いることができる。特に、隠蔽性や耐光性に優れ、意匠面でも色調的に化粧シート3用に好適な点から、無機顔料の着色顔料としては弁柄、黄色酸化鉄、鉄黒等の酸化鉄系顔料、無機顔料の白色顔料としては酸化チタン系顔料が好ましい。すなわち、酸化鉄系顔料及び酸化チタン系顔料の少なくともいずれかを含むのが好ましい。
【0013】
弁柄としては、例えば、酸化第二鉄Fe2 O3 (別名、赤鉄鉱)からなる赤色顔料であって、平均粒径0.2~0.6μm程度のものを採用でき、例えば、東邦顔料社製Anchor FR-110G、日本弁柄社製EP-20D、日本フェロー社製Ferro Color NF-150-P、鐵原社製 NAT、利根産業社製SR-580、戸田工業社製Toda Color 120ED、森下弁柄社製モリシタレッド七宝等の市販品を採用できる。また、黄色酸化鉄としては、例えば、酸化水酸化鉄γ-FeO(OH)(別名、鱗鉄鉱)またはその水和物からなる黄色顔料であって、平均粒径0.3~0.8μm程度のものを採用でき、例えば、東邦顔料社製Anchor FY-766 、森下弁柄社製Morishita Yellow MTY-10 、日本弁柄社製NYB-40、戸田工業社製Toda Color Y-1、利根産業社製YP-100SB、東洋色素社製東色合成鉄黄、BASF社製Sicotrans Yellow L 1916 等の市販品を採用できる。さらに、鉄黒としては、例えば、四酸化三鉄Fe3O4(別名、磁鉄鉱)からなる黒色顔料であって、平均粒径0.5μm前後のものを採用でき、例えば、森下弁柄社製Morishita BlackMTB-10、利根産業社製TB-50SB 、戸田工業社製Toda Color KN-320 、東洋色素社製東色合成鉄黒等の市販を採用できる。弁柄、黄色酸化鉄、鉄黒の酸化鉄系顔料を適宜組み合わせて配合して使用することにより、黄色から黄土色、茶色、黒色にかけての広い範囲の色調を得ることができる。
【0014】
酸化チタン系顔料としては、例えば、二酸化チタンTiO2 からなる白色顔料であって、平均粒径0.1~0.5μm程度のものを採用でき、例えば、チタン工業社製KR-310、帝国化工社製JR、古河鉱業社製FR-41 、石原産業社製CR-50 等の市販品を採用できる。酸化チタン系顔料には、アナターゼ型(別名、鋭錐石)とルチル型(別名、金紅石)とがあり、屈折率はそれぞれ2.45~2.55及び2.61~2.90であり、ルチル型の方が屈折率が高いため隠蔽性に優れ、化学的安定性や耐光性にも優れるので好ましい。
また、これらの無機顔料(酸化鉄系顔料、酸化チタン系顔料)は、上述した隠蔽性の付与や着色の効果に加え、投錨効果による絵柄模様層5との密着性向上の効果も得られる。
【0015】
なお、隠蔽層4には、以上に詳述した酸化鉄系顔料及び酸化チタン系顔料に加えて、色調の調整の目的で他の顔料(例えば、隠蔽性または非隠蔽性の無機顔料または有機顔料)を少量併用してもよい。ただし、飽くまでも酸化鉄系顔料及び酸化チタン系顔料を主体とすることが肝要であって、他の顔料の使用量は、顔料全体に対して20質量%以下とすることが好ましい。また、併用する顔料としては、耐光性の高いものを選択することが好ましく、無機顔料の中では、コバルトブルーやカーボンブラック等、有機顔料の中では、フタロシアニンブルー等のフタロシアニン系顔料等がより好ましい。また、必要に応じて、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の体質顔料を併用することもできる。
【0016】
隠蔽性の無機顔料の添加量は、隠蔽性の点からは多いほど有利であるが、凝集力が低下して化粧シート3の表面強度の低下の原因となるので、隠蔽性と表面強度とのバランスを取るためには、結着剤樹脂100質量部に対して300質量部以上600質量部以下の範囲が好ましい。また同様に、隠蔽層4の厚さは、隠蔽性の点からは厚いほど有利であるが、凝集力が低下して化粧シート3の表面強度の低下の原因となるので、隠蔽性と表面強度とのバランスを取るためには3μm以上20μm以下の範囲とすることが好ましい。
【0017】
また、結着剤樹脂としては、例えば、化粧シート3と基板2との接着に用いられる接着剤との接着性に優れた樹脂であるプライマー剤を用いることができる。プライマー剤としては、例えば、ウレタン系、アクリル系、エチレン-酢酸ビニル共重合体系、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体系等の各種のプライマー剤を採用できる。これらの中から接着剤に合わせたものを選択して使用する。プライマー剤を用いることにより、隠蔽層4と基板2との接着性を向上でき、隠蔽層4を、基板2との接着性を高めるためのプライマー層として機能させることができる。なお、プライマー剤には、例えば、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の粉末を添加してもよい。これらの粉末を添加することにより、隠蔽層4の表面を粗面化することができ、化粧シート3の巻取保存時のブロッキングを防止でき、また、投錨効果による接着剤との接着性の向上を図ることもできる。
【0018】
また、隠蔽性顔料や結着剤樹脂を溶解または分散するための溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の石油系有機溶剤や、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸-2-メトキシエチル、酢酸-2-エトキシエチル等のエステル系有機溶剤、メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系有機溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系有機溶剤、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤、ジクロロメタン、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の塩素系有機溶剤等の各種有機溶剤、水等の無機溶剤、またはそれらの混合溶剤等を使用できる。
【0019】
隠蔽層4には、必要に応じて、分散剤、可塑剤、界面活性剤、粘着付与剤、接着助剤、乾燥剤、硬化剤、硬化促進剤又は硬化遅延剤等の各種添加剤を適宜添加してもよい。
隠蔽層4の形成方法としては、既知の印刷方法やコーティング方法を用いることができ、例えば、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、フレキソ印刷法、静電印刷法、インクジェット印刷法、電子写真法等等の各種印刷法や、グラビアコート法、ロールコート法、ディップコート法、エアーナイフコート法、ナイフコート法、コンマコート法、ダイコート法、リップコート法、キスコート法、ロッドコート法、スプレーコート法、フローコート法等の各種コーティング法等を採用することができる。
【0020】
(絵柄模様層)
絵柄模様層5は、隠蔽層4の表面4a側に設けられ、化粧シート3に意匠性を付与するための絵柄が印刷や塗工等されてなる層である。絵柄模様層5の構成材料や形成方法は、特に限定されるものではなく、既知の化粧シート3の絵柄模様層5に適用されてきた種々の絵柄形成材料や絵柄形成方法を用いることができる。例えば、上述した隠蔽層4の場合と同様の各種の印刷インキや印刷方法を適用することができる。ただし、隠蔽層4によって十分な隠蔽性が確保されている場合には、絵柄模様層5を構成する印刷インキには特に格段の隠蔽性は要求されず、例えば、印刷インキは着色透明な印刷インキとしてもよい。
【0021】
したがって、使用する顔料も、特に無機顔料に限定されることはなく、化粧シート3用として十分な耐光性や耐久性等の要件さえ備えていれば、有機顔料を用いてもよい。例えば、アゾ顔料、レーキ顔料、アントラキノン顔料、フタロシアニン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料等の有機顔料を採用できる。また、これらの有機顔料と上述した各種無機顔料とから選ばれる2種以上を組み合わせた顔料を使用することもできる。
また、絵柄模様層5の形成方法は、隠蔽層4の場合と同様の印刷方法による他、例えば、手描き法、墨流し法、写真法、レーザービームまたは電子ビーム描画法、金属等の部分蒸着法やエッチング法等、またはこれらの方法を複数組み合わせたものも採用できる。
絵柄模様層5の絵柄の種類は、特に限定されるものではなく、化粧シート3の用途に応じた任意の絵柄を用いることができる。例えば、従来の化粧シート3の分野において広く採用されている木目柄、コルク柄、石目柄、抽象柄等を採用することができる。また、例えば、単なる着色や色彩調整を目的とする場合には、単色無地を採用することもできる。
【0022】
(透明基材シート)
透明基材シート6は、絵柄模様層5の表面5a側に設けられ、絵柄模様層5を保護して耐磨耗性や耐溶剤性等の良好な表面物性を付与するための層である。透明基材シート6の材料としては、例えば、高い透明性を有する樹脂が好ましいが、少なくとも絵柄模様層5を透視可能な程度の透明性を備える樹脂であればよく、その限りにおいて半透明または着色透明の樹脂であってもよい。例えば、従来の複層構成の化粧シート3においても表面側の透明樹脂層として使用されていた樹脂と同様の種類の樹脂が適宜使用可能であり、熱可塑性樹脂であってもよいし、熱硬化性樹脂または電離放射線硬化性樹脂等の硬化性樹脂であってもよい。透明基材シート6は、複数種の樹脂の層からなる多層積層体としてもよい。ただし、環境問題等を考慮すると、非ハロゲン系樹脂を使用することが好ましい。
【0023】
熱硬化性樹脂としては、例えば、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、尿素系樹脂、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、ウレタン系樹脂、アミノアルキド系樹脂を採用できる。また、電離放射線硬化性樹脂としては、例えば、アクリレート系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、エステルアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂等の紫外線や電子線等の照射により硬化する樹脂を採用できる。
【0024】
透明基材シート6の厚さは、磨耗性や耐溶剤性等の表面物性や耐候性、塗装感や深み感、エンボス深さ等の意匠性の点からは厚いほど有利であるが、化粧シート3の柔軟性や可撓性、Vカット等の折り曲げ加工性等の低下の原因となるので、これらのバランスが取れる数値範囲が選ばれる。例えば、硬化性樹脂を使用する場合には、可撓性の面から20μm以下に制限され、好ましくは3μm以上10μm以下の範囲とする。また、例えば、熱可塑性樹脂を使用する場合には、これより厚く設けることが可能であり、20μm以上120μm以下の範囲とする。したがって、耐磨耗性や意匠性等の面からは、熱可塑性樹脂が有利であり、硬化処理が不要で品質が安定し易い等の製造工程面からも有利である。
【0025】
透明基材シート6の形成方法は、特に限定されるものではなく、既知の透明基材シートに適用されてきたシート形成方法を用いることができる。例えば、透明基材シート6の構成用樹脂を適当な溶媒に溶解または分散した塗工剤を塗布して乾燥固化させる方法、硬化後に透明基材シート6の構成用樹脂となる未硬化樹脂組成物を塗工後架橋硬化させる方法、予めフィルム状またはシート状に成形された透明基材シート6をドライラミネート接着剤、感熱接着剤、感圧接着剤または電離放射線硬化型接着剤等の接着剤を介して接着する方法、接着剤を介さずに熱圧着または超音波溶着等の手段によって直接接着する方法を採用できる。これらの中から、構成用樹脂の特性に合致した方法を選択して使用する。
【0026】
(凹凸模様)
透明基材シート6の表面6aには、必要に応じて、所望の凹凸模様8を設けてもよい。凹凸模様8の模様の種類は、特に限定されるものではなく、化粧シート3の用途に応じた任意の絵柄を用いることができる。例えば、従来の化粧シート3の分野において広く採用されている木目調(特に、導管模様状)、石目調、和紙調、布目調、幾何学模様状等の各種模様状を採用することができる。また、例えば、単なる艶消状や砂目状、ヘアライン状、スウェード調等を使用することもできる。これらの凹凸模様8の模様を絵柄模様層5の絵柄と同調させることによって更なる意匠性の向上を図ることもできる。ただし、更なる意匠の向上の必要がなければ、絵柄模様層5の絵柄と非同調であってもよい。また、絵柄模様層5の絵柄と同調した模様と、同調しない模様との両者を含むようにしてもよい。
【0027】
また、凹凸模様8の形成方法は、特に限定されるものではなく、既知の化粧シート3の凹凸模様8の形成方法を用いることができる。例えば、金属製のエンボス版を使用した機械エンボス法を採用できる。また、凹凸模様8の形成時期も、特に限定されるものではなく、表面保護層7との積層前、積層と同時又は積層後の中から任意の時期を選択することができ、またこれらの中から選ばれる複数の時期に同一又は異なる模様の凹凸模様8を複数回に亘って施すこともできる。なお、凹凸模様8の凹陥部には、必要に応じて、ワイピング法等の手法により着色剤を充填してもよい。着色剤を充填することにより、表面の凹凸模様8と同調した色彩模様を有する意匠性に優れた化粧シート3を得ることができる。
【0028】
(表面保護層)
表面保護層7は、透明基材シート6の表面6a側に設けられ、化粧シート3の表面に更に優れた表面物性を付与するための層である。表面保護層7の材料は、特に限定されるものではなく、既知の化粧シート3の表面保護層7に適用されてきたトップコート剤を用いることができる。トップコート剤としては、少なくとも表面保護層7の下地(絵柄模様層5の絵柄、隠蔽層4の色彩)を透視可能な透明性を有する必要がある。また、化粧シート3の用途により要求される耐磨耗性や耐擦傷性、耐溶剤性、耐汚染性等の表面物性を具備させるべく、硬化性樹脂を主成分とする材料から構成することが好ましい。特に、透明基材シート6が熱可塑性樹脂からなる場合には、硬化性樹脂からなる表面保護層7を施すことが好ましい。トップコート剤としては、例えば、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、尿素系樹脂、エポキシ系樹脂、アミノアルキド系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコーン系樹脂等の熱硬化性樹脂や、アクリル系樹脂等の電離放射線硬化性樹脂等を用いることができる。また、トップコート剤には、必要に応じて、艶調整剤、滑剤、帯電防止剤、結露防止剤、抗菌剤、防黴剤等の各種添加剤を添加するようにしてもよい。
【0029】
表面保護層7の形成方法も、特に限定されるものではなく、既知のコーティング法を用いることができる。例えば、グラビアコート法、ロールコート法、ディップコート法、エアーナイフコート法、ナイフコート法、コンマコート法、ダイコート法、リップコート法、キスコート法、ロッドコート法、スプレーコート法、フローコート法等を採用できる。
なお、透明基材シート6と表面保護層7との密着性が不十分である場合には、表面保護層7の塗工形成に先立ち、透明基材シート6の表面に、例えば、コロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理、電離放射線処理、重クロム酸処理、アンカー又はプライマー処理等の表面処理を施すことで、透明基材シート6と表面保護層7との間の密着性を向上できる。
【0030】
(本実施形態の効果)
本実施形態に係る発明は、以下の効果を奏する。
(1)本実施形態に係る化粧シート3は、隠蔽層4、絵柄模様層5、透明基材シート6、及び表面保護層7を、この順に積層する化粧シート3とした。そして、隠蔽層4は、隠蔽性顔料を含有するプライマー剤を含み、基板2との接着性を高めるためのプライマー層として機能するようにした。それゆえ、隠蔽層4がプライマー剤を含むため、基板2との接着性を向上できる。また、隠蔽層4がプライマー層として機能するため、隠蔽層4と別にプライマー層を設ける必要がなく、化粧シート3を薄くすることができる。それゆえ、基板2との接着性に優れ、且つ、薄型化可能な化粧シート3を提供することができる。
また、隠蔽層4を、隠蔽性顔料を含有するプライマー剤からなる印刷インキの印刷や、コーティング剤のコーティングによって形成することにより、印刷インキやコーティング剤の隠蔽性顔料を変更するだけで、隠蔽層4の色を変更することができる。それゆえ、例えば、隠蔽層4を、隠蔽層4の構成用減反で形成する方法と異なり、さまざまな色の隠蔽層4を実現するために、さまざまな色の隠蔽層4の構成用減反を用意しなくて済む。
【0031】
(2)本実施形態に係る化粧シート3では、隠蔽性顔料は、無機顔料を含むようにした。それゆえ、隠蔽性や耐候性、耐薬品性に優れた化粧シート3を提供できる。
(3)本実施形態に係る化粧シート3では、無機顔料は、酸化鉄系顔料及び酸化チタン系顔料の少なくともいずれかを含むようにした。それゆえ、隠蔽性や耐候性に優れるとともに、色調的に化粧シート3用として好適な意匠を付与することができる。
(4)本実施形態に係る化粧シート3では、透明基材シート6の厚さを、20μm以上120μm以下とし、隠蔽層4の厚さを、3μm以上20μm以下とした。それゆえ、表面物性や耐候性に加え、柔軟性や可撓性に優れた化粧シート3を提供できる。
【0032】
(5)本実施形態に係る化粧シート3では、透明基材シート6は、着色透明の樹脂とした。それゆえ、意匠性に優れた化粧シート3を提供することができる。
(6)本実施形態に係る化粧シート3では、透明基材シート6の表面6aに、凹凸模様8を有するようにした。それゆえ、意匠性に優れた化粧シート3を提供できる。
(7)本実施形態に係る化粧板1は、木質系材料、金属系材料または合成樹脂からなる基板2と、基板2に貼り付けられた化粧シート3と、を備えるようにした。それゆえ、化粧シート3との接着性に優れ、且つ、薄型化可能な化粧板1を提供できる。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明の実施形態に係る実施例及び比較例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1では、
図1に示すように、隠蔽層4、絵柄模様層5、透明基材シート6及び表面保護層7をこの順に積層して形成された化粧シート3を作成した。まず、透明基材シート6として、厚さ60μmの無延伸ポリプロピレン樹脂フィルムを用意した。続いて、透明基材シート6にコロナ処理を施して、透明基材シート6の表面6aの濡れ指数を38dyn/cm以上とした。続いて、透明基材シート6の表面6a側に、抗菌剤を配合した2液硬化型ウレタン系トップコート剤を塗工して、表面保護層7を形成した。塗工方法としては、グラビアコート法を用いた。また、2液硬化型ウレタン系トップコート剤の塗布量は、乾燥後の塗布量で5g/m
2以上7g/m
2以下とした。
【0034】
続いて、透明基材シート6の裏面6b側に、通常の建材用ウレタン系グラビア印刷インキによって木目の絵柄を印刷して、絵柄模様層5を形成した。印刷方法としては、グラビア印刷法を用いた。続いて、絵柄模様層5の裏面5b側に、隠蔽性の無機顔料(酸化鉄系茶、酸化鉄系黄土及び酸化チタン系白)を主体に少量のカーボンブラック、コバルトブルー及びフタロシアニンブルーを混合した顔料組成物を合計2g/m2含有しプライマー効果のあるウレタン樹脂系インキによって、隠蔽層4を印刷で形成した。印刷方法としては、グラビア印刷法を用いた。
【0035】
(実施例2)
実施例2では、隠蔽性の無機顔料に代えて、隠蔽性の有機顔料(アゾ系及び縮合多環系)を使用した。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で化粧シート3を作製した。
(実施例3)
実施例3では、透明基材シート6の厚さは15μmとした。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で化粧シート3を作製した。
(実施例4)
実施例4では、透明基材シート6の厚さは25μmとした。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で化粧シート3を作製した。
【0036】
(実施例5)
実施例5では、透明基材シート6の厚さは115μmとした。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で化粧シート3を作製した。
(実施例6)
実施例6では、透明基材シート6の厚さは125μmとした。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で化粧シート3を作製した。
(実施例7)
実施例7では、隠蔽層4の厚さは2μmとした。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で化粧シート3を作製した。
【0037】
(実施例8)
実施例8では、隠蔽層4の厚さは4μmとした。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で化粧シート3を作製した。
(実施例9)
実施例9では、隠蔽層4の厚さは18μmとした。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で化粧シート3を作製した。
(実施例10)
実施例10では、隠蔽層4の厚さは22μmとした。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で化粧シート3を作製した。
【0038】
(比較例1)
比較例1では、隠蔽層4を省略した。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で化粧シート3を作製した。
(比較例2)
比較例2では、
図2に示すように、易接着層12、着色基材シート11、絵柄模様層10及び表面保護層9をこの順に積層して形成された化粧シート3を作成した。まず、着色基材シート11として、厚さ60μmmの無延伸ポリプロピレン樹脂フィルムを用意した。無延伸ポリプロピレン樹脂フィルムとしては、無機顔料(酸化鉄系茶、酸化鉄系黄土及び酸化チタン系白)を主体に少量のカーボンブラック、コバルトブルー及びフタロシアニンブルーを混合した顔料組成物を合計2g/m
2含有するものを用いた。続いて、着色基材シート11にコロナ処理を施して、着色基材シート11の表面11aの濡れ指数を38dyn/cm以上とした。続いて、着色基材シート11の表面11a側に、通常の建材用ウレタン系グラビア印刷インキによって木目の絵柄を印刷して、絵柄模様層10を形成した。印刷方法としては、グラビア印刷法を用いた。
【0039】
続いて、絵柄模様層10の表面10a側に、抗菌剤を配合した2液硬化型ウレタン系トップコート剤を塗工して、表面保護層9を形成した。塗工方法としては、グラビアコート法を用いた。また、2液硬化型ウレタン系トップコート剤の塗布量は、乾燥後の塗布量で5g/m2以上7g/m2以下とした。続いて、着色基材シート11の裏面11b側に、ウレタン系樹脂と塩酢ビ樹脂とセルロース樹脂の混合体の塗布によって、易接着層12を印刷で形成した。印刷方法としては、グラビア印刷法を用いた。
(性能評価)
実施例1~10、比較例1~2の化粧シート3に対して、以下の性能評価の試験を行った。
(1)隠蔽性
隠蔽性の試験では、化粧シート3の裏面に隠蔽性用グレースケールを密着させて、透過して見える程度を評価した。隠蔽性の等級の判定基準は、表1に示すものを用いた。
【0040】
【0041】
(2)密着性
密着性の試験では、水性接着剤を介して、化粧シート3をMDF基材に接着させた。そして、60[℃]の雰囲気下で、化粧板を25[mm]幅にカットした後、片端部を基材から剥がし、先端部分の化粧シート3を剥離させて、500[g]の重りを載せた。さらに、剥離された化粧シート3を90[°]方向に500[g]荷重をかけて引っ張った状態で1時間放置し、MDF基材と化粧シート3との剥離長さ(剥離距離)を測定した。
(3)柔軟性(可とう性)
柔軟性の試験では、Vカット加工を施し、化粧板1を90度に折り曲げたときの表面のクラック等の状態を評価した。柔軟性の等級の判定基準は、表2に示すものを用いた。
【0042】
【0043】
(4)エンボス意匠
エンボス意匠の試験では、化粧シート3の断面をマイクロスコープで観察してシボ深さを測定した。
(試験結果)
性能評価の試験結果(数値)を表3に示す。
【0044】
【0045】
表3に示すように、実施例1~10の化粧シート3では、隠蔽性、柔軟性及びエンボス意匠の等級は「3級」以上となった。また、密着性の測定値は「1ミリ」以下となった。
これに対し、比較例1~2の化粧シート3では、隠蔽性、柔軟性及びエンボス意匠の等級は「2級」以下となった。また、密着性の測定値は、「4ミリ」以上となった。
以上の結果から、実施例1~10の化粧シート3は、隠蔽性、柔軟性、エンボス意匠及び密着性(接着性)に優れ且つ薄型化可能な化粧シート3であることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0046】
1…化粧板、2…基板、3…化粧シート、4…隠蔽層、4a…表面、4b…裏面、5…絵柄模様層、5a…表面、5b…裏面、6…透明基材シート、6a…表面、6b…裏面、7…表面保護層、8…凹凸模様